説明

光測距装置

【課題】人間の眼の保護を図りながら、測距動作を継続できる光測距装置を提供する。
【解決手段】測距モードとして、安全モードと高精度モードとを備える。前記安全モードは、被曝放出レベルが最大許容露光レベルMPEよりも小さくなる「レーザ製品の安全基準」(JIS C 6802)のクラス1に相当するモードである。一方、高精度モードは、安全モードに比べてレーザ投光頻度を上げたり、走査振幅を絞ったりするなどの設定により、被曝放出レベルが最大許容露光レベルより高い、安全基準のクラス3Rに相当するモードである。ここで、測距動作で得た距離のデータと反射光量のデータとから、至近距離に人間の眼が存在することが検出された場合、高精度モードによるレーザ放射を停止させ、安全モードでレーザ放射を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光で測定対象物の2次元走査を行い、前記測定対象物からの反射光に基づいて前記測定対象物までの距離を測定する光測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光測距装置において、人間の眼にレーザ光が入ることを防止する技術として、特許文献1に開示されるものがあった。前記特許文献1に開示される光測距装置では、測定対象物が近傍にあるときに、レーザ光の発光を停止させることで、人間の眼にレーザ光が入ることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−198816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、測定対象物が近傍にあるときにレーザ光の発光を停止させる構成では、人間が装置に近づいた場合にレーザ光の発光が停止されることになるものの、人間以外の物体が至近距離に存在する場合や、人間が至近距離に存在しているものの眼にレーザ光が入らない条件に対してもレーザ光の発光が停止され、測距不能になってしまう。
例えば、光測距装置を、列車のドアやプラットホームドアでの荷物等の挟み込みの検出に用いる場合、光測距装置の近傍に荷物などが存在することで、レーザ光の発光が無用に停止されてしまい、これによって挟み込みの検出(測距)が不能になり、列車の出発許可が行えなくなってしまうという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記問題点に着目してなされたものであり、人間の眼の保護を図りながら、測距動作を継続できる光測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、請求項1に係る発明は、レーザ光で測定対象物の2次元走査を行い、前記測定対象物からの反射光に基づいて前記測定対象物までの距離を測定する光測距装置において、前記測定された距離及び前記測定対象物からの反射光量に基づいて、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在するか否かを判別する眼判別手段と、前記眼判別手段によって、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別された場合に、測距動作における被曝放出レベルを所定レベルよりも低く制限する被曝放出レベル制限手段と、を備える構成とした。
【0007】
かかる構成では、測定された距離及び測定対象物からの反射光量に基づいて、人間の眼が光測距装置の近傍に位置するか否かを判別することで、人間の眼をレーザ光から保護するための処理を、より限定的に実行させることができ、また、人間の眼が光測距装置の近傍に位置する場合に、測距動作における被曝放出レベルを所定レベルよりも低く制限することで、人間の眼をレーザ光から保護しつつ測距を継続して行わせることができる。
【0008】
請求項1の構成において、請求項2のように、前記眼判別手段が、閾値よりも近い距離に存在する物体の一部に、他の領域よりも反射光量が強い領域がある場合に、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別するとよい。
この場合、閾値よりも近い距離に存在する物体を人間の頭部であると仮定すると、頭部に含まれる眼、詳細には網膜の後ろの輝板と呼ばれる組織が、他の皮膚や頭髪の部分よりもレーザ光の反射率が高いことから、瞼が開きかつ瞳孔が開いている状態であれば、眼の部分での反射光量は他に比べて強くなるので、他の領域よりも反射光量が強い領域が存在する場合は、その領域が眼に相当するものと推定できる。
【0009】
また、請求項1の構成において、請求項3のように、前記眼判別手段が、閾値よりも近い距離に存在する物体の測距視野に占める割合が所定割合よりも大きく、かつ、当該物体の一部に、他の領域よりも反射光量が強い領域がある場合に、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別するとよい。
この場合、頭に見合う大きさの物体が至近距離に存在していることを判断し、この頭部であると推定される物体に、眼に相当する反射光量が強い領域が存在する場合に、人間の眼が至近距離に存在すると判断することで、眼が至近距離に存在することをより的確に判別できる。
【0010】
また、請求項1〜3の構成において、請求項4のように、前記被曝放出レベル制限手段が、前記眼判別手段によって人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別されている状態が所定時間よりも長く継続しているときに、測距動作における被曝放出レベルを前記所定レベルよりも低く制限するとよい。
この場合、人間の眼が至近距離に存在しているとしても、短時間であれば、眼の被曝量を小さく抑制できるので、人間の眼が至近距離に存在している状態の継続時間が所定時間よりも長くなってから、測距動作における被曝放出レベルを所定レベルよりも低く制限し、前記継続時間が前記所定時間よりも短い場合には、前記被曝放出レベルの制限を実施しない。
【0011】
請求項1〜4の構成において、請求項5のように、前記光測距装置が、測距動作モードとして、前記所定レベルよりも低い被曝放出レベルで測距動作を行う安全モードと、前記所定レベルよりも高い被曝放出レベルで測距動作を行う高精度モードとを切り替え可能に備え、前記被曝放出レベル制限手段が、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別された場合に、前記高精度モードでの測距動作を禁止し、前記安全モードで測距を行わせるとよい。
この場合、人間の眼が近距離に存在すると判別された場合、高精度モードでの測距動作(レーザ光放射)を禁止し、安全モードでの測距(レーザ光放射)を行わせることで、所定レベルよりも低い被曝放出レベルで測距動作を行わせ、人間の眼を保護する。
【0012】
請求項5の構成において、請求項6のように、前記安全モードでの測距動作が、被曝放出レベルが前記所定レベルよりも低くなるパターンで実際に行われるか否かを検証する検証手段と、該検証手段によって、前記安全モードでの測距動作が、被曝放出レベルが前記所定レベルよりも低くなるパターンで実際に行われることが確かめられていることを条件に、前記安全モードでの測距動作及び高精度モードでの測距動作を許可する測距動作許可手段と、を備えるとよい。
【0013】
この場合、安全モードでの測距動作における実際の被曝放出レベルが、前記所定レベルよりも高い場合には、たとえ人間の眼が至近距離に存在していることを検知して、高精度モードから安全モードに切り替えたとしても、被曝放出レベルを低く抑えることができず、眼を保護することができないので、安全モードでの測距動作が、被曝放出レベルが所定レベルよりも低くなるパターンで実際に行われることが確かめられてから、安全モードでの測距動作及び高精度モードでの測距動作を許可する。
【0014】
請求項1〜6の構成において、請求項7のように、前記被曝放出レベル制限手段における前記所定レベルを、最大許容露光レベルとするとよい。
この場合、最大許容露光レベルは、人体に照射しても有害な影響を与えることがないレーザ放射レベルの最大値であり、この最大許容露光レベルよりも低い被曝放出レベルであれば、人間の眼が近傍に位置する状態で測距動作を継続させても、人間の眼を保護できる。
【発明の効果】
【0015】
かかる光測距装置によると、人間の眼が至近距離に存在していることを、測定された距離及び反射光量に基づいて判別するので、人間以外の物体が至近距離に存在している場合や、眼に光が入らない条件で、測距動作が制限されてしまうことを抑制でき、かつ、測距動作における被曝放出レベルを所定レベルよりも低く制限することで、人間の眼の保護を図りながら、測距動作を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態における光測距装置の光学系を示す斜視図
【図2】実施形態における光測距装置のシステムブロック図
【図3】実施形態における安全モード・高精度モードの切り替え制御を示すフローチャート
【図4】実施形態における安全モード・高精度モードの切り替え制御を示すフローチャート
【図5】実施形態における走査振幅を検出するための手段を備えた光学系を示す斜視図
【図6】実施形態における走査振幅を検出するため基準ターゲットと走査振幅との相関を示す図
【図7】実施形態における眼の検出処理を示すフローチャート
【図8】実施形態における安全モード・高精度モードの切り替え制御の別のパターンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る光測距装置における光学系を示す斜視図である。
図1に示す光測距装置1は、2次元走査ミラー(スキャナ)2、レーザ投光部3、レーザ受光部4、投光/受光分離器5b、ガラス板などの透明板からなるレーザ光を透過させる投受光窓6を含んで構成され、測定対象物7に向けたレーザ光(パルスレーザ)の投光、及び、測定対象物7からの反射光の受光は、前記投受光窓6を介してなされるようになっている。
【0018】
そして、前記レーザ投光部3からの測定対象物7に向けたレーザ光の放射タイミングと、前記測定対象物7からの反射光を前記レーザ受光部4が受光した受光タイミングとの時間差及びレーザ光の伝播速度に基づいて前記測定対象物7までの距離が測定され、光測距装置1は、光パルス飛行時間計測法によって測定対象物7までの距離を測定する装置である。
【0019】
図2は、前記光測距装置1のシステム構成の詳細を示すブロック図である。
前記レーザ投光部3は、図2に示すように、レーザドライバ31、レーザ素子(半導体レーザ)32、投光光学系(レンズなど)33を含んで構成され、前記レーザドライバ31は、レーザ放射タイミング制御信号に基づいて前記レーザ素子32を駆動制御して、レーザ素子32からレーザ光(パルス光)を発光させる。
【0020】
前記レーザ素子32から発光されたレーザ光(投光光束)は、投光光学系33を介して放射され、反射ミラー5aで投光/受光分離器5bに向けて反射し、投光/受光分離器5bを透過して、2次元走査ミラー2で反射する。
ここで、前記2次元走査ミラー2が2次元的に振動することで、2次元走査ミラー2での反射光は2次元領域に走査され、これにより、レーザ光で測定対象物7が2次元走査される。
【0021】
前記2次元走査ミラー2は、枠状のミラーサポート22の開口部に対してミラー21を一対の縦梁23a,23bによって支え、更に、枠状のスキャナ基板24の開口部に対して前記ミラーサポート22を一対の横梁25a,25bによって支えてなり、図示省略した縦振動駆動手段及び横振動駆動手段によって、前記縦梁23a,23bを軸とした縦振動と、前記横梁25a,25bを軸とした横振動とをミラー21に生じさせることで、ミラー21で反射するレーザ光が2次元に走査されるようになっている。
【0022】
前記縦振動駆動手段及び横振動駆動手段として、例えば、スキャナ基板24の外側に配置した永久磁石と、前記ミラー21及びミラーサポート22に配置したコイルとによって、前記ミラー21とミラーサポート22とにそれぞれローレンツ力を発生させる手段を用いることができる。
前記投受光窓6を透過して測定対象物7に向けて放射されたレーザ光は、測定対象物7で反射し、この反射レーザ光は、投受光窓6を透過して2次元走査ミラー2で反射し、更に、投光/受光分離器5bで反射して、レーザ受光部4に受光される。
【0023】
前記レーザ受光部4は、受光光学系41、受光素子(フォトダイオード)42、プリアンプ43、A/D変換器44を含んで構成される。
そして、投光/受光分離器5bで反射したレーザ光は、受光光学系41で集光されて受光素子42に受光され、受光素子42は、受光したレーザ光の強度が高いほど大きな電流を発生する。
【0024】
前記受光素子42の出力信号(アナログ信号)はプリアンプ43で増幅され、増幅後の出力信号は測距計測部9に出力され、また、増幅後の出力信号は、A/D変換器44でデジタル信号に変換されて、制御部10(距離値算出部101)に出力される。
尚、前記レーザドライバ31及びプリアンプ43には、高電圧電源(HV電源)11の高電圧が供給される。
【0025】
また、前記レーザ投光部3の投光光学系33から放射されるレーザ光を受光する発光モニタ部12が設けられている。
前記発光モニタ部12は、受光素子(フォトダイオード)を含んで構成され、この受光素子(フォトダイオード)でレーザ素子32から発光されたレーザ光(パルス光)を検出して、測定対象物7に向けたレーザ光の放射タイミングにおいて計時スタートパルスを生成し、この計時スタートパルスを前記測距計測部9(時間計測部95,96)に出力する。
【0026】
前記測距計測部9は、前記受光素子42の出力信号を増幅した信号を入力する共振回路91及び立上がり回路92、前記共振回路91の出力を入力し計時ストップパルスを生成するストップタイミング生成部93、前記立上がり回路92の出力を入力し計時ストップパルスを生成するストップタイミング生成部94、前記計時スタートパルス及びストップタイミング生成部93から出力される計時ストップパルスを入力し、前記計時スタートパルスから計時ストップパルスまでの時間差を計測する時間計測部95、前記計時スタートパルス及びストップタイミング生成部94から出力される計時ストップパルスを入力し、前記計時スタートパルスから計時ストップパルスまでの時間差を計測する時間計測部96、前記時間計測部95の出力をA/D変換するA/D変換器97、前記時間計測部96の出力をA/D変換するA/D変換器98を含んで構成される。
【0027】
前記共振回路91,ストップタイミング生成部93,時間計測部95及びA/D変換器97からなる系は、所謂ゼロクロス検出方式で受光タイミングを検出する系であり、受光素子42の出力信号に含まれる特定周波数成分で共振する共振回路91を用いて前記特定周波数成分を抽出し、抽出した信号波形のゼロクロス点を受光タイミングとして検出し、計時ストップパルスを生成する。
【0028】
一方、立上がり回路92,ストップタイミング生成部94,時間計測部96及びA/D変換器98からなる系は、所謂立上がりエッジ検出方式で受光タイミングを検出する系であり、受光素子42の出力信号が予め設定した閾値を超えた時点(エッジ点)を、受光タイミングとして検出し、計時ストップパルスを生成する。
前記ゼロクロス検出方式及び立上がりエッジ検出方式でそれぞれに計測した、レーザ光の放射タイミングと測定対象物7からの反射光を受光した受光タイミングとの時間差は、制御部10の距離値算出部101に入力される。
【0029】
前記距離値算出部101には、更に、前記A/D変換器44の出力である受光強度データ(反射光量データ)が入力され、受光強度データ(反射光量データ)と閾値とを比較し、測定対象物7からの反射レーザ光の強度(光量)が低い場合には、ゼロクロス検出方式で計測した時間差によって求めた距離を出力し、逆に、測定対象物7からの反射光の強度(光量)が高い場合には、立上がりエッジ検出方式で計測した時間によって求めた距離を出力する。
前記立上がりエッジ検出方式は、受光素子42の出力信号の波高値が高い場合には、比較的精度の良い測距が可能であるが、波高値が低くなるほど測距精度が低下する。
【0030】
一方、ゼロクロス検出方式では、受光素子42の出力信号の波高値が高いとプリアンプ43が飽和し、共振回路91の入力波形が変形することで、ゼロクロス点にずれが生じて測距誤差を生じるので、波高値が低くければ精度の良い測距が可能である。
そこで、受光強度データ(反射光量データ)と閾値とを比較することで、受光素子42の出力信号の波高値を判断し、測定対象物7からの反射光の強度(光量)が低い場合(波高値が低い場合)には、ゼロクロス検出方式で計測した時間差によって求めた距離を出力し、測定対象物7からの反射光の強度(光量)が高い場合(波高値が高い場合)には、立上がりエッジ検出方式で計測した時間差によって求めた距離を出力することで、反射光の強度(反射光量)が低い場合と高い場合との双方で、精度の良い測距を行えるようにしてある。
【0031】
前記距離値算出部101から測点毎に出力される測定対象物までの距離は、制御部10のマイクロコンピュータを含んで構成されるレーザ・スキャナ・コントローラ103に出力されると共に、外部インターフェース(I/F)102を介して外部機器に出力される。
前記レーザ・スキャナ・コントローラ103には、前記距離の測定結果と共に、前記A/D変換器44の出力である受光強度データ(受光光量データ)が入力される。
【0032】
前記レーザ・スキャナ・コントローラ103は、前記レーザドライバ31に対してレーザ放射タイミング制御信号を出力し、また、前記2次元走査ミラー2(スキャナ)の駆動手段(縦振動駆動手段及び横振動駆動手段)に対して、駆動信号(内軸駆動パルス、外軸駆動パルス)を出力する。
前記縦振動駆動手段及び横振動駆動手段の駆動信号は、スキャナドライバ(駆動回路)104に出力され、このスキャナドライバ104によって縦振動駆動手段及び横振動駆動手段(コイル)への通電が制御される。
【0033】
また、前記2次元走査ミラー2には、ミラー21の振動を検出するセンサ(検出コイル、歪ゲージ、ピエゾ抵抗素子など)が設けられており、前記センサの出力(スキャナ同期信号)が、フィルタ回路105を介して前記レーザ・スキャナ・コントローラ103にフィードバック信号として入力され、前記レーザ・スキャナ・コントローラ103は、前記フィードバック信号に基づいて前記駆動信号を出力する。
前記スキャナドライバ(駆動回路)104、及び、前記レーザ・スキャナ・コントローラ103などは、DC12V電源106によって動作する。
【0034】
前記レーザ・スキャナ・コントローラ103は、前述のように、前記レーザドライバ31及び2次元走査ミラー2の駆動制御を通じて測距動作を制御するが、測距モードとして、安全モード(通常モード)と高精度モードとの2つのモードが予め設定され、レーザ・スキャナ・コントローラ103は、前記2つの測距モードのいずれか一方を選択し、選択したモードに応じて前記レーザドライバ31及び2次元走査ミラー2を駆動制御する。
【0035】
前記安全モードとは、被曝放出レベルが最大許容露光レベルMPEよりも小さくなるように、測距動作パターン(レーザ投光頻度、走査振幅など)が設定されたモードであり、「レーザ製品の安全基準」(JIS C 6802)におけるクラス1に相当するように設定される。換言すれば、前記安全モードにおける被曝放出レベルは、クラス1の被曝放出限界AEL以下に設定される。
尚、前記最大許容露光レベルとは、「通常の環境の下で、人体に照射しても有害な影響を与えることがないレーザ放射レベルの最大値」であり、単位は、パワー密度[W/m2]、又は、エネルギー密度[J/m2]で示される。
【0036】
また、被曝放出限界AELは、「各クラスで許される、最大の被曝放出レベル」であり、前記最大許容露光レベルMPEを元に設定されており、単位は、パワー[W]、エネルギー[J]、パワー密度[W/m2]、エネルギー密度[J/m2]のいずれかで示される。
前記安全モードでは、測定対象物7が細く小さいものであったり、光測距装置1と測定対象物7との相対速度が速くなったりすると、充分な測距精度を維持することが難しく、測距精度を維持するには、レーザ投光頻度を上げたり、レーザ光の走査振幅を絞って角度分解能を上げたりする必要があり、前記安全モードよりも、レーザ投光頻度を上げたり、走査振幅を絞る設定など動作パターンの変更を行って、より高い測距精度が得られるようにしたのが、前記高精度モードである。
【0037】
前記高精度モードでは、安全モードに比べて、レーザ投光頻度を上げたり、走査振幅を絞ったりするなどの設定がなされて、レーザ光の時間的・空間的密度がより高くなる結果、被曝放出レベルが最大許容露光レベルより高くなり、「レーザ製品の安全基準」(JIS C 6802)のクラス分けでクラス3Rに相当する。換言すれば、前記高精度モードにおける被曝放出レベルは、クラス3Rの被曝放出限界AEL以下に設定される。
【0038】
以下では、前記レーザ・スキャナ・コントローラ103による測距モードの切り替え制御を、図3及び図4のフローチャートに示すルーチンに従って詳細に説明する。
ステップS201で、測定対象物7までの距離の計測動作(測距動作)が開始されると(光測距装置1が起動されると)、次のステップS202では、安全モードにおけるレーザ光走査のパラメータ、換言すれば、安全モードでの動作パターンを示すパラメータ(レーザ条件)の設定を行う。
【0039】
前記パラメータとは、システムクロック周波数、レーザ光放射タイミング、レーザ光走査振幅などである。
前記システムクロック周波数とは、測距制御ロジックの周波数であり、レーザ光放射タイミングとは、2次元走査(例えばリサージュ走査)されるレーザ光の走査軌跡に応じて画像フレーム単位毎のレーザ光放射タイミングスケジュール(走査ポイント)を規定するデータであり、レーザ光走査振幅とは、2次元走査ミラー(スキャナ)2の往復振動振幅に対応するレーザ光の走査広がり角である。
【0040】
ステップS203では、設定されたシステムクロック周波数に従って、レーザドライバ31及び2次元走査ミラー2の駆動制御を行うようにする。
また、ステップS204では、光測距装置1に実装した補助記憶装置に予め記憶されている安全モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsを、光測距装置1に実装したマイクロコンピュータの主記憶領域(メインメモリ)に読み込む、タイミングテーブルのロードを行う。
【0041】
更に、ステップS205では、設定されたレーザ光走査振幅に基づいて前記2次元走査ミラー(スキャナ)2を起動させる。
ステップS206では、後述する2重診断系(検証手段)の一致確認ゲートを有効にする。
ステップS207以降は、同一の診断・補正処理を、2系統で個別に並行して行う。
【0042】
ステップS207a,ステップS207bでは、現在のシステムクロック周波数が、基準周波数fCLKの所定倍X以下であるか否かを判断する。
尚、前記所定倍Xは、X≧1.0であり、例えば、所定倍X=1.1とする。但し、前記所定倍Xは、各モードにおける被曝放出限界AEL、最大許容露光レベルMPEなどに基づいて、被曝放出レベルが少なくとも最大許容露光レベルを超えることがない値として適宜設定される値であり、1.1倍に限定されるものではない。
【0043】
また、前記システムクロック周波数の判断は、システムクロックとは相関性がない別のクロックを用いて行われる。
システムクロック周波数の若干の低下は測距動作に大きな影響を与えないが、システムクロック周波数が基準よりも高くなると、レーザ光放射の時間間隔が狭まって、被曝放出レベルが増大してしまう。そこで、基準周波数fCLKの所定倍X(例えば1.1倍)を、クロック周波数の最大許容レベルに設定して、所定倍X以下であればシステムクロック周波数は正常であると判断する。
【0044】
ステップS207a,ステップS207bで、そのときのシステムクロック周波数が安全モード用の基準周波数fCLKの所定倍Xを超えていると判断されると、ステップS208a,208bへ進み、安全モード又は高精度モードによるレーザ光の放射中であれば、レーザ光の放射を停止させる。
この放射停止処理により、システムクロック周波数が基準よりも高く、レーザ光放射の時間間隔が狭まって、被曝放出レベルが標準よりも増大する条件下で、レーザ光が放射されてしまうことを回避する。
【0045】
尚、前記レーザ光放射の停止処理は、後述するステップS219において、レーザ放射の許可判定がなされるまで継続されるものであり、前記レーザ光放射の停止処理は、安全モード及び高精度モードでのレーザ放射許可判定をキャンセルすることになる。
ステップS208a,208bでレーザ光の放射を停止させる処理を行うと、次に、ステップS209a,209bへ進み、システムクロック周波数を1ステップ(所定値)だけ下げる処理を実行させ、実際のシステムクロック周波数が、基準周波数fCLKの所定倍X以下にまで低下するようにする。
【0046】
具体的には、水晶発振子によって発生させた基本クロックの周波数を下げ、タイミング信号として各部に供給する構成において、前記基本クロックからの周波数の下げ幅を修正して、実際のクロック周波数を、基準周波数fCLKの所定倍X以下にまで低下させる。
そして、ステップS203へ戻り、周波数を低下させたシステムクロック周波数で制御動作を行うようにする。
【0047】
一方、ステップS207a,ステップS207bで、そのときのシステムクロック周波数が基準周波数fCLKの所定倍X以下であると判断されると、ステップS210a,210bへ進み、光測距装置1に実装したマイクロコンピュータの主記憶領域(メインメモリ)にロードしたレーザ光放射タイミングテーブルが、光測距装置1に実装した補助記憶装置に記憶されている安全モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsに一致しているか否か、換言すれば、安全モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsが正しくロードされたか否かを判別する。
【0048】
そして、ロードされたテーブルと、光測距装置1に実装した補助記憶装置に格納されているテーブルとの間に不一致がある場合には、ステップS211a,211bへ進み、安全モード又は高精度モードによるレーザ光の放射中であれば、レーザ光の放射を停止させる。
この放射停止処理によって、安全モードによるレーザ放射中であれば、誤ったタイミングでレーザ光が放射されることを回避でき、また、高精度モードから安全モードへの切り替えによって被曝放出レベルの確実な低下を図ることができない状態での高精度モードによるレーザ放射が回避される。
【0049】
レーザ光の放射タイミングに誤りがあると、測距結果と測点との相関がずれ、正しい距離画像が得られないと共に、レーザ光放射の時間的・空間的間隔に密の部分(被曝放出レベルが高くなる部分)が発生し、レーザ安全性が損なわれることになるため、安全モード用のレーザ光放射タイミングテーブルが正しくロードされてからレーザ光放射が許可されるようにしている。
尚、レーザ光放射タイミングテーブルが正しくロードされたことを確認するために、伝送データにチェックサムを付加して伝送ミスによるデータ中のエラーを検出したり、CRC(サイクリック・リダンダンシ・チェック)によってデータ伝送エラーのチェックを行ったりする。
【0050】
ステップS211a,211bでレーザ光の放射を停止させる処理を行うと、次に、ステップS212a,212bへ進み、主記憶領域(メインメモリ)上へのレーザ光放射タイミングテーブルの再設定を決定し、ステップS204に戻って、安全モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsのロードを再度行わせる。
一方、ステップS210a,210bで、レーザ光放射タイミングテーブルが正しくロードされていると判断されると、ステップS213a,213bへ進み、レーザ光の走査振幅(走査広がり角)が、基準振幅θsの所定倍Y(例えば、所定倍Y=0.5)以上であるか否かを判断する。
【0051】
レーザ光の走査振幅(走査広がり角)が狭いと、レーザ光放射の時間的・空間的間隔に密の部分(被曝放出レベルが高くなる部分)が発生し、レーザ安全性が損なわれることになる。
そこで、レーザ光の走査振幅(走査広がり角)が基準に比べて狭い場合には、ステップS214a,214bへ進み、安全モード又は高精度モードによるレーザ光の放射中であればレーザ光の放射を停止させることで、被曝放出レベルが部分的に高くなる状態でレーザ光が測定対象物に向けて放射されることを回避する。
【0052】
ステップS214a,214bでレーザ光の放射を停止させる処理を行うと、次に、ステップS215a,215bへ進み、レーザ光の走査振幅(走査広がり角)を1ステップ(所定値)だけ上げる処理(2次元走査ミラー2の駆動信号の補正)を実行させ、実際の走査振幅(走査広がり角)が基準値に近づくようにする。
以下では、前記レーザ光の走査振幅の検出方法を説明する。
【0053】
前述のように、前記2次元走査ミラー2の縦振動駆動手段及び横振動駆動手段として、永久磁石と前記ミラー21及びミラーサポート22に配置したコイルとの組み合わせによって、前記ミラー21とミラーサポート22とにそれぞれローレンツ力を発生させる手段を用いる場合、ミラー21の揺動に伴って、前記コイルに電磁誘導による起電力が発生し、この起電力はミラー21の揺動に応じて変化する。
【0054】
即ち、ミラー21が梁を中心にして往復振動すると、コイルに発生する起電力が正弦波状に変化し、ミラー21の往復振動の振幅が大きくなれば、コイルに発生する起電力の振幅も大きくなる。
従って、コイルに発生する起電力の振幅を検出すれば、2次元走査ミラー2(ミラー21)の往復振動振幅、換言すれば、レーザ光の走査振幅(走査広がり角)を検出できることになる。
【0055】
尚、前記コイルに発生する起電力は、静磁界中を導体(コイル)が移動し、コイルの鎖交磁束が変化することで発生するため、静磁界が変化することによっても起電力が変化し、静磁界を発生させる永久磁石の磁束密度が温度によって変化すると、起電力も変化してしまう。
そこで、永久磁石における磁束密度の温度特性に基づいて、コイルに発生した起電力の検出結果を補正することで、温度変化があっても、2次元走査ミラー2(ミラー21)の往復振動振幅、換言すれば、レーザ光の走査振幅(走査広がり角)を高精度に検出することができる。
【0056】
また、レーザ光の走査振幅の検出方法としては、レーザ受光部4で検出される反射光量が走査振幅に応じて変化するようにし、前記反射光量の違いによって走査振幅を検出する方法がある。
具体的には、例えば図5に示すように、投受光窓6の走査範囲ABCDの外側に、走査振幅の広狭方向に沿って明暗(ブラック濃度、レーザ光の反射率)が段階的に変化する黒白ストライプパターン(グレイスケール)を基準ターゲット(基準反射部)61として配置し、基準ターゲット61のどの部分にレーザ光が照射されたかによる反射光量の違いによって、走査振幅を検出することができる。
【0057】
図5に示す例において、基準ターゲット61は、走査振幅の狭い方から広い方に向けて順に、黒・白・灰(反射率:低→高→中)の3種類に明暗(反射率)が設定された黒白ストライプパターンであり、矩形状の走査範囲ABCDの各辺の中央付近にそれぞれ配置される。
そして、前記走査範囲ABCD内で放射される測定用のレーザ光(プローブ光)とは別に、前記基準ターゲットが配置されている位置にレーザ光を反射させる向きに、2次元走査ミラー2(ミラー21)が向いているタイミングで、走査振幅を検出するためのレーザ光の放射を行わせる。
【0058】
ここで、走査振幅を検出するためのレーザ光の放射を行わせると、このレーザ光が基準ターゲット61のどの部分で反射したかによって反射光量が変化するから、図6に示すように最大走査振幅を3段階に判別できる。
例えば、走査振幅の不足状態であって、基準ターゲット61の最内側の黒色(低反射率)の部分にレーザ光が照射された場合、基準ターゲットからの反射光量が最低レベルであることで、黒色(低反射率)の部分にレーザ光が照射されたことを検知でき、図6(c)のように、黒色(低反射率)の部分にレーザ光が照射された場合には、走査振幅の不足状態であると判断できる。
【0059】
一方、基準ターゲットの最外側の灰色(中反射率)の部分にレーザ光が照射された場合、基準ターゲットからの反射光量が中間レベルであることで、灰色(中反射率)の部分にレーザ光が照射されたことを検知でき、図6(a)のように、灰色(中反射率)の部分にレーザ光が照射された場合には、走査振幅の過大状態であると判断できる。
更に、基準ターゲットの中間の白色(高反射率)の部分にレーザ光が照射された場合、基準ターゲットからの反射光量が最高レベルであることで、白色(高反射率)の部分にレーザ光が照射されたことを検知でき、図6(b)のように、白色(高反射率)の部分にレーザ光が照射された場合には、走査振幅が適切であると判断できる。
【0060】
換言すれば、規定の放射タイミングで放射したレーザ光が、走査振幅が基準値に略一致していれば、基準ターゲットの白色(高反射率)の部分に照射され、走査振幅が基準値よりも大きいと、基準ターゲットの白色(高反射率)の部分よりも外側の灰色(中反射率)の部分にレーザ光が照射され、逆に、走査振幅が基準値よりも小さいと、基準ターゲットの白色(高反射率)の部分よりも内側の黒色(低反射率)の部分にレーザ光が照射されるように、基準ターゲットの配置及び放射タイミングを予め設定する。
【0061】
そして、基準ターゲットからの反射レーザ光量を3段階に判別することで、実際の走査振幅(走査広がり角)を、垂直(縦)方向・水平(横)方向のそれぞれについて、過小・適切・過大の3段階に判別することができる。
ステップS213aとステップS213bとの少なくとも一方で、レーザ光の走査振幅(走査広がり角)が正常であると判断された場合、即ち、2系統の診断の少なくとも一方で、クロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅が全て正常に設定されていると判断された場合には、ステップS216へ進む。
【0062】
ステップS216では、2系統それぞれでの判断結果を照合し、次のステップS217では、クロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅が全て正常であるという診断結果で一致しているか否かを判断する。
ここで、2系統の診断結果が異なっている場合には、ステップS218へ進んで、レーザ光の放射中であればレーザ光の放射を停止させた後、ステップS202に戻って、安全モードにおけるレーザ光走査のパラメータの設定を行い、改めてクロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅を調整させる。
【0063】
一方、クロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅が全て正常であるという診断結果で、2系統の診断結果が一致している場合には、ステップS219(測距動作許可手段)へ進んで、安全モード(クラス1)でのレーザ放射を許可し、安全モードでの動作パターンでレーザ光が放射され、距離測定が行われるようにする。
即ち、安全モードにおけるクロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅が全て正常であって、安全モードでのレーザ光の被曝放出レベルが基準(最大許容露光レベルMPE)よりも小さい状態で動作することを確認してから、安全モード(クラス1)でのレーザ放射を許可し、更に、後述するように、安全モード(クラス1)でのレーザ放射が許可されていることを条件に、高精度モードへの切り替え許可を行うものであり、安全モードでのレーザ光の被曝放出レベルが基準(最大許容露光レベルMPE)よりも大きい場合は、安全モード及び高精度モードでのレーザ放射が禁止される。
【0064】
上記では、安全モード(クラス1)でのレーザ放射を許可する条件として、クロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅が正常であることを判断させたが、この他、投光パワー,投光パルス幅が正常であるか否かを判断させることができる。
前記投光パワーが正常であるか否かの判断は、発光モニタ12によってレーザ光の放射を検出したときの検出信号の波高値に基づいて判断できる他、前記走査振幅の検出に用いたような基準ターゲットを走査範囲の端に配置し、この基準ターゲットでの反射光量に基づいて判断させることができ、投光パワー(波高値)が最大許容値以下になるように、レーザ素子32の駆動信号を補正する。
【0065】
また、投光パルス幅は、発光モニタ12によってレーザ光の放射を検出したときの検出信号の半値幅に基づいて判断でき、この投光パルス幅(半値幅)が最大許容値以下になるように、レーザ素子32の駆動信号を補正する。
尚、前記クロック周波数,レーザ放射タイミング,走査振幅,投光パワー,投光パルス幅のうちの1つについて、又は、これらパラメータのうちの複数について、実際値が基準範囲に含まれるように調整させることができ、また、2重診断系を省略し、1系統のみで診断を行わせてもよい。
【0066】
次のステップS220では、安全モード(クラス1)でのレーザ放射の許可から所定時間(例えば10秒)が経過したか否かを判断する。
そして、所定時間が経過している場合には、ステップS207a,207bに戻って、安全モードでの動作パターン(クロック周波数・レーザ放射タイミング・走査振幅など)が正常に設定されているか否かを判断させるようにする。
【0067】
即ち、一定時間毎に安全モードでの動作パターンを確認し、実際の動作パターンが所期値からずれていればレーザ光の放射を停止させ、動作パターンが補正されてから、安全モード(クラス1)でのレーザ放射を再度許可する。
ステップS220で、安全モード(クラス1)でのレーザ放射の許可を行った直近のタイミングから所定時間(例えば10秒)が経過していないと判断された場合には、ステップS220に戻って経過時間を再度判定する処理と、ステップS221に進む処理との双方を実行する。
【0068】
従って、ステップS220で所定時間が経過していないと判断された場合には、所定時間が経過したと判断されるまで、ステップS220での判定処理が繰り返され、所定時間が経過すると、ステップS207a,207bに戻って、安全モードでの動作パターンを所期値に設定する処理がなされ、また、安全モード(クラス1)でのレーザ放射の許可がなされていることを条件に、ステップS221以降に進んで、高精度モードでのレーザ放射を許可できるか否かが判定される。
【0069】
このため、ステップS221以降に進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射が許可されるようになっても、安全モードでの動作パターンの確認は、一定時間毎に繰り返される。
ステップS221では、高精度モード(クラス3R)におけるレーザ光走査のパラメータ、換言すれば、高精度モードでの動作パターンを示すパラメータ(システムクロック周波数、レーザ光放射タイミング、レーザ光走査振幅など)の設定を行う。
【0070】
次のステップS222において、光測距装置1に実装した補助記憶装置に予め記憶されている高精度モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbs(3R)を、光測距装置1に実装したマイクロコンピュータの主記憶領域(メインメモリ)に読み込むロードを行う。
ステップS223では、2重診断系の一致確認ゲートを有効にし、2重診断系を構成するステップS224a,224bでは、それぞれに、光測距装置1に実装したマイクロコンピュータの主記憶領域(メインメモリ)にロードしたレーザ光放射タイミングテーブルが、光測距装置1に実装した補助記憶装置に記憶されている高精度モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsに一致しているか否か、換言すれば、高精度モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsが正しくロードされたか否かを判別する。
【0071】
そして、不一致がある場合には、ステップS225a,225bへ進み、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光の放射中であれば、レーザ光の放射を停止させる(高精度モードでのレーザ放射許可判定をキャンセルする)。
上記処理により、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光の放射が、誤ったタイミングで行われることを回避する。
【0072】
前記高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射を停止させる処理は、その後に後述のステップS232で、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射が許可されるようになるまで継続されるものとし、また、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射の停止状態で、安全モード(クラス1)によるレーザ放射が許可されていれば、安全モード(クラス1)でレーザ放射がなされるようになっている。
【0073】
レーザ光の放射タイミングに誤りがあると、測距結果と測点との相関がずれ、正しい距離画像が得られないと共に、レーザ光放射の時間的・空間的間隔に密の部分(被曝放出レベルが高くなる部分)が発生し、レーザ安全性が損なわれることになるため、高精度モード用のレーザ光放射タイミングテーブルが正しくロードされてから、高精度モードでのレーザ光放射が許可されるようにしている。
【0074】
前記ステップS224a,224bは、高精度モード(クラス3R)におけるレーザ光放射タイミングが不適切であるか否かを判定するステップであり、ステップS224a,224bでロードの失敗が判定されたとしても、安全モード(クラス1)でのレーザ光放射が不適切に行われることを示すものではないので、ステップS225a,225bでは、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射を中止させ、安全モードでのレーザ光の放射中であれば、レーザ光放射はそのまま継続させる。
【0075】
一方、前述のステップS208a,208b,211a,211b,214a,214bでのレーザ放射の停止は、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射と安全モード(クラス1)でのレーザ光放射とのいずれに対しても実行される。
これは、安全モード(クラス1)での動作が適切に行われない場合、安全モードでのレーザ放射を許可できないばかりでなく、高精度モードから安全モードに切り替えても被曝放出レベルを眼に対する安全レベルにまで確実に低下させることができないことを意味するので、安全モード(クラス1)での動作が適切に行われることを条件に高精度モードでのレーザ放射がなされるように、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射と安全モード(クラス1)でのレーザ光放射とのいずれについても停止させるようにしている。
【0076】
尚、高精度モード(クラス3R)用のレーザ光放射タイミングテーブルが正しくロードされたことを確認するために、安全モード用のタイミングテーブルのチェックと同様に、伝送データにチェックサムを付加して伝送ミスによるデータ中のエラーを検出したり、CRC(サイクリック・リダンダンシ・チェック)によってデータ伝送エラーのチェックを行ったりする。
【0077】
ステップS225a,225bで高精度モード(クラス3R)によるレーザ光の放射を停止させる処理を行うと、次に、ステップS226a,226bへ進み、主記憶領域(メインメモリ)上のレーザ光放射タイミングテーブルの再設定を決定し、ステップS222に戻って、高精度モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsのロードを再度行わせる。
一方、ステップS224a,224bの少なくとも一方で、高精度モード用のレーザ光放射タイミングテーブルTbsが正しくロードされたと判断されると、ステップS227へ進む。
【0078】
ステップS227では、2系統それぞれでのレーザ光放射タイミングの判断結果を照合し、次のステップS228では、高精度モード用のレーザ放射タイミングが正常にロードされたという診断結果で一致しているか否かを判断する。
ここで、2系統の診断結果が異なっている場合には、ステップS229へ進んで、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光の放射中であればレーザ光の放射を停止させ、その後、ステップS221に戻って、高精度モードにおけるレーザ光走査のパラメータの設定を行い、高精度モードでの動作パターンで動作するように、改めてレーザ放射タイミングを調整させる。
【0079】
一方、レーザ放射タイミングが正常にロードされたという診断結果で、2系統の診断結果が一致している場合には、ステップS230へ進む。
ステップS230では、光測距装置1の至近距離に人間の眼が存在しているか否かを判断し、至近距離に人間の眼が存在していなければ、安全モードから高精度モードに切り替えても、人間の眼に有害となることはないので、ステップS232へ進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可し、実際に高精度モードに従ったレーザ放射によって距離を測定させる。
【0080】
一方、至近距離に人間の眼が存在している場合、被曝放出レベルが最大許容露光レベルよりも高い高精度モードでレーザ放射を行わせると、眼の保護を図ることができないので、ステップS231(被曝放出レベル制限手段)に進んで、高精度モードでのレーザ放射を停止させ、被曝放出レベルが最大許容露光レベルよりも低い安全モードでのレーザ放射に切り替えることで、被曝放出レベルを最大許容露光レベルよりも小さい値に制限しつつ、測距動作を継続させる。
【0081】
このステップS230(眼判別手段)における判断は、詳細には、図7のフローチャートに示すサブルーチンに従って行われる。
まず、ステップS301では、レーザ光を2次元に走査させて得た各測点での測定対象物までの距離に基づいて、光測距装置1から所定距離DSL(閾値)以下の範囲内に物体が存在するか否かを判断する。
【0082】
前記所定距離DSLは、高精度モードでの被曝放出レベルであっても、眼を保護できる最小距離であり、この所定距離DSLよりも離れた位置に人間の眼が存在する場合には、高精度モードを許可することが可能である。
例えば、測定距離10cmでのクラス1の被曝放射限界AELの1.3倍の投光エネルギで高精度モードによるレーザ放射が行われるとすると、10cm×1.32≒17cmが、レーザ放射レベルが最大許容露光レベルMPEを下回る最小距離となり、17cmよりも離れていれば、高精度モードであっても人間の眼の安全を確保できるので、前記所定距離DSLを17cm以上に設定する。
【0083】
所定距離DSL以下の範囲内に物体が存在しない場合には、眼を保護するために高精度モードを禁止する必要はないので、ステップS232へ進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可する。
一方、所定距離DSL以下の範囲内に物体が存在する場合であっても、それが人間の頭部ではなく人間の頭部以外の物(荷物など)が至近距離に存在する場合や、頭部であっても眼が測距視野に入っていない場合には、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可することが可能であるので、所定距離DSL以下の範囲内に物体が存在すると判断された場合には、続いてステップS302へ進み、距離画面(走査範囲)の所定割合RSL以上が、所定距離DSL以下の測点で占められているか否かを判断する。
【0084】
所定距離DSL以下の範囲内に存在する物体が人間の頭部であって、眼が測距視野に入る場合には、頭部画像が、距離画面(走査範囲)の所定割合RSL以上を占めることになるので、所定距離DSL以下の範囲に物体が存在する場合であっても、当該物体が占める割合が所定割合RSLを下回る場合には、物体が頭部でない、又は、頭部であってもその眼が測距視野に入っていないものと推定でき、この場合、人間の眼を保護するための高精度モードの禁止は不要である。
【0085】
そこで、所定距離DSL以下の距離が測定された測点の全体に占める割合が所定割合RSLよりも小さい場合、換言すれば、所定距離DSL以下の至近距離で測距視野に入っている物体の大きさが所定よりも小さい場合には、至近距離に存在する物体は、人間の頭部ではない、又は、頭部であってもその眼が測距視野に入っていないものと判断し、ステップS232へ進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可する。
【0086】
前記所定割合RSLは、前記所定距離DSL以下の範囲に人間の頭部が存在し、かつ、測距視野内に眼が入る場合の最小割合(最小面積)を基準に設定され、具体的には、大人に比べて小さい乳児の頭部が、測距視野内に片目が入るように存在する場合を基準に設定される。
例えば、前記所定距離DSLを17cmとし、17cm先での測距視野を約9cm×18cmとし、乳児の頭部が直径10cmの球体であると仮定し、更に、測距視野内に片目が入る場合、最低でも頭部の投影面積の1/4が測距視野内に入るとすると、所定距離DSLよりも近い至近距離に眼が存在する場合に、測距視野内で頭部が占める割合は、12%≒(頭部の投影面積/4)/(9×18)となる。
【0087】
そして、距離画面(走査範囲)のうち所定距離DSL以下の測点で占められている割合が、所定割合RSL未満であれば、所定距離DSL以下に存在する物体が人間の頭部でない、又は、頭部であっても眼が測距視野に入っていないものと見なすことができる。
逆に、距離画面(走査範囲)のうち所定距離DSL以下の測点で占められている割合が、所定割合RSL以上であれば、所定距離DSL以下に存在する物体が人間の頭部であって、かつ、眼が測距視野に入っている可能性があると判断して、ステップS303へ進む。
【0088】
ステップS303では、距離画面(走査範囲)のうち所定距離DSL以下の測点で占められている割合が所定割合RSL以上である状態が、所定時間TSL以上継続しているか否かを判断する。
前記所定時間TSLは、高精度モード(クラス3R)の被曝放出レベルで最大許容露光レベルMPEを超えない最大時間として設定され、仮に至近距離に人間の眼が存在していても、前記所定時間TSL以内であれば、眼の安全を確保できる。
【0089】
そこで、継続時間が所定時間TSL未満であれば、ステップS232へ進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可する。
一方、継続時間が所定時間TSL以上である場合、それ以上に高精度モードでのレーザ放射を継続させると、人間の眼における最大許容露光レベルMPEを超える照射線量(被曝量)になってしまうので、ステップS304へ進み、至近距離で所定割合RSL以上を占める物体に、人間の眼に相当すると推定される測点が含まれているか否かを判断する。
【0090】
人間の網膜の後ろの輝板と呼ばれる組織は、他の皮膚や頭髪の部分よりもレーザ光の反射率が高いことから、瞼が開きかつ瞳孔が開いている状態であれば、眼の部分での反射光量は頭の他の領域に比べて強くなる。
従って、測距視野において所定割合RSL以上を占める物体に、他よりも反射光量が高い測点が部分的に存在する場合には、その反射光量が強い部分は、人間の眼であると推定することができる。
【0091】
具体的には、所定割合RSL以上を占める物体の平均反射光量に対して所定値(所定割合)以上に反射光量が高い測点を、眼に相当する測点として検出し、又は、予め設定した閾値を超える反射光量の測点を、眼に相当する測点として検出することができる。
ここで、測距視野内の至近距離に眼が存在する場合、被曝放出レベルの高い高精度モードでのレーザ走査を、前記所定時間を越えて継続させると、眼の保護を充分に図ることができない。
【0092】
一方、反射光量が強い部分としての眼が検出されなかった場合には、所定距離DSL以下に存在する物体が人間の頭部ではない、又は、頭部であっても眼が測距視野に入っていない、又は、瞼が閉じられているものと判断でき、この場合、被曝放出レベルの高い高精度モードでのレーザ走査を継続させても、眼の被曝量が過大になって有害な影響を与えることはない。
【0093】
そこで、ステップS304で測距視野内の至近距離に眼が存在しないと判断された場合には、ステップS232へ進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可し、ステップS304で測距視野内の至近距離に眼が存在すると判断された場合には、ステップS231で、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射を停止させた後、ステップS224a,224bに戻るようにする。
【0094】
高精度モード(クラス3R)で実際にレーザ放射を行われている状態で、ステップS230で至近距離に眼が存在すると判断されて、ステップS231に進んだ場合には、高精度モード(クラス3R)によるレーザ放射を中止し、安全モード(クラス1)でのレーザ放射が許可されていれば、眼に安全な安全モード(クラス1)によってレーザ放射を行わせ、測距動作を継続させる。
【0095】
そして、至近距離に眼が存在しなくなると、ステップS232に進んで高精度モード(クラス3R)によるレーザ放射が許可されることで、再び、高精度モードによるレーザ放射が開始され、高精度な測距が行えるようにある。
一方、安全モード(クラス1)によってレーザ放射を行わせている状態で、ステップS230で至近距離に眼が存在すると判断された場合には、高精度モードに移行させることなく、そのまま安全モードでのレーザ放射を継続させ、至近距離に眼が存在しなくなると、ステップS232に進んで高精度モード(クラス3R)によるレーザ放射が許可されることで、高精度モードへの切り替えが実行される。
【0096】
尚、図7のフローチャートにおけるステップS302及びステップS303を省略し、至近距離に物体が存在し、かつ、人間の眼に相当する反射光量を示す測点が含まれる場合に、ステップS231で、高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射を停止させた後、ステップS224a,224bに戻るようにすることができる。
また、継続時間を判定するステップS303を最後に実行させ、人間の眼が至近距離に存在していると判断されている時間が、所定時間TSLを越えていなければ、高精度モードを許可させることができる。
上記実施形態によると、基本的には、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射によって測距を行わせるが、至近距離に人間の眼が存在するようになると、安全モード(クラス1)でのレーザ放射による測距に切り替えるので、高い測距精度を極力維持しつつ、また、測距動作を停止させることなく、人間の眼の保護を図ることができる。
【0097】
また、測距のためにレーザ放射・反射レーザ光の受光を行った結果から、人間の眼が至近距離の測距視野内に含まれているか否かを判断するので、ハードウエア構成を変更することなく、ソフトウエアの変更で上記の作用・効果を得ることができる。
更に、安全モード・高精度モードそれぞれでの動作パターンが正規であることを検証した上でレーザ放射を許可するので、予定される被曝放出レベルを超えたレーザ放射がなされてしまうことを回避でき、特に、人間の眼が至近距離に存在することを検知したときに、安全モードでのレーザ放射に切り替えた場合に、人間の眼を確実に保護しつつ、測距動作を継続させることができる。
【0098】
ところで、図3及び図4のフローチャートに示した実施形態では、基本的に高精度モードで測距を行わせ、至近距離に人間の眼があるときに限定して、安全モードでの測距を行わせるようにしたが、至近距離に人間の眼がない場合であっても、測距要求に応じて安全モードと高精度モードとを使い分けるようにし、高精度モードが要求される条件であっても、至近距離に人間の眼が存在する場合に、安全モードでの測距を行わせるようにできる。
【0099】
図8のフローチャートは、図4のフローチャートに代えて、図3のフローチャートと組み合わせて実行されるルーチンを示し、図4のフローチャートに対して、高精度モード要求状態であるか否かを判断するステップを付加した点のみが異なる。
図8のフローチャートに示すルーチンでは、高精度モード用のレーザ放射タイミングが正常にロードされたという結果で2系統の診断結果が一致していると、ステップS228で判定されると、ステップS230Aに進んで、高精度モードでの測距が要求される条件が成立している否かを判断する。
【0100】
例えば、光測距装置1と測定対象物との相対速度が基準速度よりも速い場合、測距によって検出した物体が細いか又は小さく分解能を上げることが望まれる場合、測定対象物が基準距離よりも遠い場合、測定対象物でのレーザ反射率が基準反射率よりも小さい場合などにおいて、高精度モードでの測距要求が成立していると判断させることができる。
ステップS230Aで、高精度モードでの測距が要求される条件ではないと判断された場合には、安全モード(通常モード)で測距を行わせるべく、ステップS231Aで高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射を停止させた後(高精度モードでのレーザ放射許可判定をキャンセルした後)、ステップS224a,224bに戻るようにする。
【0101】
一方、ステップS230Aで、高精度モードでの測距が要求される条件であると判断された場合には、ステップS230Bに進んで、図7のフローチャートに示したようにして、至近距離に人間の眼が存在しているか否かを判断する。
そして、至近距離に人間の眼が存在している場合には、高精度モードでの測距が要求されている条件ではあっても、安全モードで測距を行わせるべく、ステップS231Bで高精度モード(クラス3R)によるレーザ光放射を停止させた後(高精度モードでのレーザ放射許可判定をキャンセルした後)、ステップS224a,224bに戻るようにする。
【0102】
また、ステップS230Bにおいて至近距離に人間の眼が存在していないと判断された場合、即ち、高精度モードでの測距が要求されている条件であって、かつ、至近距離に人間の眼が存在していない場合には、ステップS232へ進んで、高精度モード(クラス3R)でのレーザ放射を許可し、高精度モードでのレーザ放射を実行させる。
上記実施形態によると、高精度な測距が要求される場合に高精度モードで測距させ、精度要求が低い場合には安全モードで測距させるので、過剰に高い分解能やレーザパワーで測距動作されることを回避でき、また、高精度モードが要求される条件であっても、至近距離に人間の眼が存在する場合には、安全モードで測距を行わせて人間の眼を保護することができる。
【0103】
次に、上記実施形態に示した光測距装置1の具体的な適用例を示す。
例えば、駅プラットホームドアを自動開閉するシステムにおいて、列車とプラットホームドアやプラットホームに挟まれる空間に、乗降客や荷物の居残り・残存が発生したり、或いは、列車ドアやプラットホームドアでの荷物等の挟み込みが発生しないように運用する必要があり、かかるシステムにおいて、乗降客や荷物の居残り・残存、荷物等の挟み込みの検出に、前記光測距装置1が用いられる。
【0104】
前記システムでは、列車の到着・停車情報を元に、プラットホームドア及び列車ドアが開口され、人間の乗降が開始されるので、光測距装置1は安全モード(通常モード)で動作して、人間などを検知する。
このとき、測距対象物としての人間の大きさ・レーザ反射率は、安全モードで検知するに充分な大きな値であり、安全モード(通常モード)で必要充分な検出精度を得ることができる。
【0105】
しかし、人間の乗降が完了し、列車ドアが閉口された後に、傘や紐や鞄などの比較的細く薄手の荷物が列車ドアに挟み込まれた状態(戸挟み状態)となることがある。
このような戸挟み状態では、人間或いは人間の眼が測距視野内に存在しないので、光測距装置1における高精度モードを許可して、前記戸挟みを精度よく検知できるようにする。
【0106】
黒い傘や鞄などレーザ反射率が低い物体がドアに挟み込まれた場合、安全モード(通常モード)では、挟み込まれた物体を検知することが難しいことがある。しかし、高精度モードへの切り替えによって投光レーザパワーを上げることで検知性能を向上させることができ、また、傘や紐など細く薄いものは、角度分解能を上げないと検知が難しくなることがあるが、高精度モードへの切り替えによってレーザ放射頻度を時間的・空間的に高くすることで、傘や紐など細く薄いものの検知性能を向上させることができる。
【0107】
尚、戸挟み状態が発生する空間は、プラットホームドアなどの開口部の略中央部付近であるから、その空間に検知領域を絞り込む、即ち、レーザ走査振幅を狭くして、角度分解能を高くすることもできる。
以上のようにして戸挟み状態を監視し、戸挟みがないことを確認した後、プラットホームドアを閉口し、列車出発許可とする。或いは、プラットホームドアの閉口は、列車ドアの閉口と同時としてもよく、その場合は、戸挟み状態がないことを確認した後、列車出発許可とする。
【0108】
列車が出発した後は、光測距装置1の検知空間に、人間或いは人間の眼は存在しないので、高精度モードを許可し続けることが可能であり、プラットホームドアやホーム柵を乗り越えての列車軌道部(線路側)への支障物の落下、人間の転落等を精度よく検知できる。
但し、至近距離に人間の眼が存在することを確認した場合は、高精度モードから安全モード(通常モード)に直ちに切り替えると共に、人間を検知したことを上位システムに伝達し、危険回避の手段(列車運行停止など)を起動させるトリガ信号とする。
尚、以上のドア開閉運用における光測距装置1の投光制御は、エレベータなどのドア開閉の運用にも適用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 光測距装置
2 2次元走査ミラー(スキャナ)
3 レーザ投光部
4 レーザ受光部
5b 投光/受光分離器
6 投受光窓
7 測定対象物
9 測距計測部
10 制御部
12 発光モニタ部
32 レーザ素子
42 受光素子
91 共振回路
92 立上がり回路
93,94 ストップタイミング生成部
95,96 時間計測部
97,98 A/D変換器
101 距離値算出部
103 レーザ・スキャナ・コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光で測定対象物の2次元走査を行い、前記測定対象物からの反射光に基づいて前記測定対象物までの距離を測定する光測距装置において、
前記測定された距離及び前記測定対象物からの反射光量に基づいて、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在するか否かを判別する眼判別手段と、
前記眼判別手段によって、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別された場合に、測距動作における被曝放出レベルを所定レベルよりも低く制限する被曝放出レベル制限手段と、
を備えたことを特徴とする光測距装置。
【請求項2】
前記眼判別手段が、閾値よりも近い距離に存在する物体の一部に、他の領域よりも反射光量が強い領域がある場合に、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別することを特徴とする請求項1記載の光測距装置。
【請求項3】
前記眼判別手段が、閾値よりも近い距離に存在する物体の測距視野に占める割合が所定割合よりも大きく、かつ、当該物体の一部に、他の領域よりも反射光量が強い領域がある場合に、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別することを特徴とする請求項1記載の光測距装置。
【請求項4】
前記被曝放出レベル制限手段が、前記眼判別手段によって人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別されている状態が所定時間よりも長く継続しているときに、測距動作における被曝放出レベルを前記所定レベルよりも低く制限することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光測距装置。
【請求項5】
前記光測距装置が、測距動作モードとして、前記所定レベルよりも低い被曝放出レベルで測距動作を行う安全モードと、前記所定レベルよりも高い被曝放出レベルで測距動作を行う高精度モードとを切り替え可能に備え、
前記被曝放出レベル制限手段が、人間の眼が閾値よりも近い距離に存在すると判別された場合に、前記高精度モードでの測距動作を禁止し、前記安全モードで測距を行わせることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の光測距装置。
【請求項6】
前記安全モードでの測距動作が、被曝放出レベルが前記所定レベルよりも低くなるパターンで実際に行われるか否かを検証する検証手段と、
該検証手段によって、前記安全モードでの測距動作が、被曝放出レベルが前記所定レベルよりも低くなるパターンで実際に行われることが確かめられていることを条件に、前記安全モードでの測距動作及び高精度モードでの測距動作を許可する測距動作許可手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5記載の光測距装置。
【請求項7】
前記被曝放出レベル制限手段における前記所定レベルが、最大許容露光レベルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の光測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−17666(P2011−17666A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163699(P2009−163699)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】