説明

光透過型金属電極、電子装置及び光学素子

【課題】低い電気抵抗を維持しながら、広い波長範囲で十分な透明性を得ることができる金属電極、半導体発光素子及び光学素子を提供する。
【解決手段】実施形態に係る金属電極は、部材の主面上に設けられ、金属細線と、前記金属細線により形成される複数の開口部と、を有する金属層である。金属細線は、前記主面に対して平行な第1方向に沿う複数の第1直線部と、前記主面に対して平行で前記第1方向と交差する前記第1方向とは異なる方向に沿う複数の直線部と、を有する。前記複数の第1直線部の前記第1方向に沿う長さの最大値及び前記複数の第2直線部の前記第1方向とは異なる方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下である。前記主面の法線方向にみた前記金属層の面積に対する前記法線方向にみた前記金属細線の面積の比は、20パーセントを超え80パーセント以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光透過型金属電極、電子装置及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに代表される表示デバイスや、半導体発光素子や有機エレクトロルミネッセンス素子などの発光デバイス、太陽電池やフォトディテクタなどの光電変換デバイスなどにおいて、光を透過する電極として、酸化物導電材料の一つであるITO(Indium Tin Oxide)が多く用いられている。ガラス基板上にITO膜を形成したときの可視光領域の透過率は80パーセント(%)程度となる。一方で、ITOの抵抗率は10−4オームセンチメートル(Ω・cm)程度であり、一般的な金属材料に比べて2桁程度高い。
【0003】
金属薄膜に、利用光の波長よりも短い周囲長さを有する開口を設けた光透過型金属電極も考えられている。この光透過型金属電極では、金属部位の占める割合を20%以下、好ましくは10%以下とし、金属部位における反射損失を低減している。このような光透過型金属電極において、低い電気抵抗を維持しながら、広い波長範囲で十分な透明性を得るには改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3207182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、低い電気抵抗を維持しながら、広い波長範囲で十分な透明性を得ることができる光透過型金属電極、電子装置及び光学素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る光透過型金属電極は、部材の主面上に設けられる金属層である。
前記金属層は、金属細線と、前記金属細線により形成される複数の開口部と、を有する。
前記金属細線は、前記主面に対して平行な第1方向に沿う複数の第1直線部と、前記主面に対して平行で前記第1方向と交差する前記第1方向とは異なる方向に沿う複数の直線部と、を有する。
前記複数の第1直線部の前記第1方向に沿う長さの最大値及び前記複数の第2直線部の前記第2方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下である。
前記主面の法線方向にみた前記金属層の面積に対する前記法線方向にみた前記金属細線の面積の比は、20パーセントを超え80パーセント以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る光透過型金属電極の構造を例示する模式的斜視図である。
【図2】(a)〜(b)は、金属層の一部を拡大した模式的平面図である。
【図3】(a)〜(b)は、他の金属層の例を示す模式的平面図である。
【図4】他の金属層を例示する模式的平面図である。
【図5】他の金属層を例示する模式的平面図である。
【図6】他の金属層を例示する模式的平面図である。
【図7】直線部の透過スペクトルの一例を示した図である。
【図8】実施形態に係る光透過型金属電極の透過スペクトルの一例を示す図である。
【図9】(a)〜(d)は、光透過型金属電極の製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図10】(a)〜(b)は、電子顕微鏡による観察像を例示する模式図である。
【図11】(a)〜(b)は、電子顕微鏡による別の観察像を例示する模式図である。
【図12】有機エレクトロルミネッセンス素子の構成を例示する模式的断面図である。
【図13】液晶表示装置の構成を例示する模式的断面図である。
【図14】太陽電池の構成を例示する模式的断面図である。
【図15】半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
【図16】タッチパネルの構成を例示する模式的斜視図である。
【図17】カラーフィルタの構成を例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図に基づき説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
従来の酸化物導電体に比べて、低抵抗率化が可能な光透過性導電体として、金属薄膜にナノメートルオーダーの円形開口部を周期的に形成した金属ナノ構造体がある。この金属ナノ構造体に光が入射すると、光の異常透過現象が生じることがある。この現象は、光がナノ開口を形成した金属薄膜に入射すると、ナノ開口のエッジ部に表面電荷に由来した局在電場が生じ、この局在電場が入射電場と同様に振動するため、光が再放射されることに由来している。それぞれのナノ開口から再放射した光は、隣接ナノ開口からの光と干渉することによって、特定波長の光の透過が強められる。そのため、この金属ナノ構造体の透過スペクトルは、金属薄膜の材質、円形ナノ開口部の周期や開口径、周囲媒質の誘電率に応じた特定波長でピークを持つスペクトルを示し、金属膜厚などの条件によっては、開口率以上の透過率を得ることができる。この金属ナノ構造体の材質は、一般的な金属材料を用いることができるため、従来の酸化物導電体に比べてキャリア密度が高く、低抵抗率の透明電極として用いることができる。しかしながら、この金属ナノ構造体の透過スペクトルは、特定波長でピークとなった後、ピーク波長より長波長側になると著しく反射率が増大する。そのため、この金属ナノ構造体を光透過性電極として用いると、使用波長範囲全域で高い透明性を得ることはできない。そのため、可視光範囲全域での高い透明性が求められるディスプレイや照明装置といったデバイスに応用すると、発光色に波長依存性が現れるため視認性が低下するという課題が生じる。
一方、背景技術で述べたように、金属薄膜に利用光の波長よりも短い周囲長さを有する開口を設けた光透過性電極が公知である。この光透過性電極は、金属部位の占める割合を20%以下、好ましくは10%以下とし、金属部位における反射損失を低減することによって、広い波長範囲で高い透明性を得ることができる。しかしながら、広い波長範囲で透明性を得るためには、金属部位の占める割合を20%以下とする必要があるため、電極の抵抗率がバルクの金属材料の抵抗率に比べて著しく増大することとなる。その結果、従来の酸化物導電体と同程度、あるいはそれ以上の抵抗率となってしまう。すなわち、この光透過性電極は、従来の酸化物導電体に比べて低抵抗率であり、かつ広い波長範囲で高い透明性を有する、という二つの特性を満足するには課題がある。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る光透過型金属電極の構造を例示する模式的斜視図である。
図2(a)〜(b)は、金属層の一部を拡大した模式的平面図である。
図2(b)は、図2(a)の部分拡大図である。
【0010】
図1に表したように、実施形態に係る光透過型金属電極は、部材1の主面1a上に設けられる金属層2である。金属層2は、金属細線22と、金属細線22により形成される複数の開口部21と、を有する。すなわち、光透過型金属電極は、複数の開口部21と、複数の開口部21のあいだに設けられた金属細線22と、で構成される。
【0011】
図2(a)に表したように、金属細線22は、部材1の主面1aに対して平行な方向に沿う複数の直線部220を有する。複数の直線部220は、主面1aに対して平行な方向D1aに沿う複数の直線部221aと、主面1aに対して平行で方向D1aと交差する方向D2aに沿う複数の直線部222aと、を少なくとも有する。
【0012】
実施形態では、複数の直線部を総称して直線部220ということにする。
また、実施形態では、方向D1aを第1方向、方向D2aを第2方向とする。第1方向に沿う直線部220は第1直線部である。第2方向に沿う直線部220は第2直線部である。なお、方向D2aを第1方向、方向D1aを第2方向としてもよい。複数の直線部220の延びる方向が3方向以上ある場合には、これらの方向のうちいずれか一つを第1方向とし、第1方向以外のいずれか一つを第2方向とする。
【0013】
光透過型金属電極において、複数の第1直線部の第1方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下である。例えば、複数の直線部221aの方向D1に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下である。
また、複数の第2直線部の第2方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下である。例えば、複数の直線部222aの方向D2に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下である。
また、光透過型金属電極において、主面1aの法線方向Vにみた金属層2の面積に対する法線方向Vにみた金属細線22の面積の比は、20パーセント(%)を超え80%以下である。
【0014】
このような光透過型金属電極では、低い電気抵抗を維持しながら、広い波長範囲で十分な透明性が得られる。
【0015】
部材1は、光透過型金属電極である金属層2を保持する。部材1の材料は、金属層2を支持することができれば特に限定されない。例えば、部材1には、石英基板やガラス基板などの透明基板、シリコン基板やガリウム砒素基板などの半導体基板、ポリエチレンテレフタラートなどのプラスチック基板が用いられる。部材1は、半導体材料等を積層した構造体でもよい。
【0016】
部材1の厚さは、金属層2を支持することができれば特に限定されない。部材1の厚さは、十分な強度を得るために、例えば、5マイクロメートル(μm)以上であることが好ましい。
【0017】
金属層2は、電極として機能する。金属層2の材料としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉛、亜鉛、白金、コバルト、マグネシウム、クロム、タングステン、パラジウム、インジウム、アンチモン、スズ、または、これらのうち少なくとも1つ以上を含有する合金材料を用いることが好ましい。このような材料は、酸化物透明電極(例えば、ITO)の材料に比べて十分に低い抵抗率をもつ。また、このような材料は、可視光領域において負の誘電率を持ち、いわゆる金属的な光学特性を示す。
【0018】
金属層2の厚さ(法線方向Vに沿った厚さ)としては、10ナノメートル(nm)以上400nm以下であることが望ましい。金属層2の厚さが10nm未満であると、金属電極層の抵抗率が大きくなるため好ましくない。一方、金属層2の厚さが400nmを越えると、金属層2の透明性が低下するため好ましくない。
【0019】
法線方向Vにみた複数の開口部21の形状は、複数の直線部220によって多角形になる。
ここで、本明細書における多角形の角CP(図2(b)参照)とは、互いに方向の異なる2つの直線部(例えば、直線部221a及び222a)のそれぞれの側壁220wが交わる部分のことをいう。多角形の角CPには、製造上形成される多少の丸みを持ったものも含まれる。
複数の開口部21の形状としては、例えば、四角形、六角形及び八角形のうちの少なくとも1つである。
【0020】
図2(a)に例示した金属層2は、六角形の開口部21を含む。図2(a)〜(b)に表した金属層2の例では、主面1aに沿って互いに異なる3つの方向(方向D1a、D2a及びD3a)に沿う直線部221a、222a及び223aが設けられる。
【0021】
金属細線22は、直線部221a、222a及び223aを連結した構造である。図2(b)に表したように、各直線部220の長さLは、各直線部220の中心線の交わる点をつなぐ直線の長さである。すなわち、各直線部220の長さLは、各直線部220の延びる方向に平行な平面に投影して得られる構造の最大の長さを指す。直線部221a、222a及び223aのそれぞれの長さLの最大値は、可視光の波長以下である。
実施形態において、可視光の波長は、例えば780nmである。
複数の直線部220のそれぞれ長さLは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0022】
また、複数の開口部21のうちの隣り合う2つの開口部(例えば、図2(a)に示す開口部21a及び21b)の重心を結ぶ直線CL上の金属細線22の長さ(幅)は、20nm以上200nm以下である。
【0023】
図3(a)〜(b)は、他の金属層の例を示す模式的平面図である。
図3(b)は、図3(a)の部分拡大図である。
図3(b)に表した直線部220(直線部221b、222b及び223b)の幅W2は、図2(b)に表した直線部220(直線部221a、222a及び223a)の幅W1よりも広い。ここで、幅とは、主面1aと平行で各直線部220の延びる方向と直交する方向に沿った長さである。各開口部21のピッチが同じである場合、各直線部220の幅が広くなると金属細線22の占有率が高くなる。ここで、金属細線22の占有率とは、金属層2を法線方向Vにみたとき、金属層2の面積(法線方向Vにみた、金属細線22の面積と、複数の開口部21の面積と、の合計の面積)に対して金属細線22の占める面積の割合のことを指す。
【0024】
実施形態に係る光透過型金属電極では、直線部220の最大の長さLは、20nm以上780nm以下であることが好ましい。直線部220の最大の長さLが20nm未満であると、金属層2の加工が困難になり、製造歩留まりの観点から好ましくない。また、直線部220の最大の長さLが780nmを超えると、可視光領域での透明性が低下するため好ましくない。
【0025】
開口部21の形状は、多角形であれば特に限定されない。ひとつの金属層2に異なる多角形形状の開口部21が含まれていてもよい。代表的な多角形形状として四角形、六角形、八角形などがあげられる。開口部21の形状は正多角形である必要はなく、各辺の長さが異なっていてもよい。また、凹型多角形、凸型多角形のいずれであってもよい。
【0026】
図4は、他の金属層を例示する模式的平面図である。
図4に表した金属層2では、異なる4方向に沿う複数の直線部220によって、八角形の開口部211と、四角形(正方形)の開口部212とが組み合わされている。複数の直線部220は、方向D1bに沿う直線部221c、方向D2bに沿う直線部222c、方向D3bに沿う直線部223c及び方向D4bに沿う直線部224cを含む。
【0027】
八角形の複数の開口部211は、主面1aに沿って千鳥状に配置される。四角形の複数の開口部212のそれぞれは、複数の開口部211の間に配置される。したがって、複数の開口部212も主面1aに沿って千鳥状に配置される。
【0028】
図4に表した金属層2において、直線部221c、222c、223c及び224cのそれぞれの長さは、可視光の波長以下である。例えば、直線部221c、222c、223c及び224cのそれぞれの長さは等しい。
【0029】
図5は、他の金属層を例示する模式的平面図である。
図5に表した金属層2では、異なる2方向に沿う複数の直線部220によって、十二角形の開口部213と、四角形(正方形)の開口部214とが組み合わされている。複数の直線部220は、方向D1cに沿う直線部221d及び223d、方向D2bに沿う直線部222d及び224dとを含む。
【0030】
十二角形の複数の開口部213は、主面1aに沿ってマトリクス状に配置される。四角形の複数の開口部214のそれぞれは、複数の開口部213の間に配置される。したがって、複数の開口部212も主面1aに沿ってマトリクス状に配置される。
【0031】
図5に表した金属層2において、直線部221d、222d、223d及び224dのそれぞれの長さは、可視光の波長以下である。例えば、直線部221d、222d、223d及び224dのそれぞれの長さは等しい。
【0032】
図6は、他の金属層を例示する模式的平面図である。
図6に表した金属層2では、異なる2方向に沿う複数の直線部220によって、十二角形の開口部215と、四角形(長方形)の開口部216及び217と、四角形(正方形)の開口部218とが組み合わされている。複数の直線部220は、方向D1cに沿う直線部221e及び223e、方向D2bに沿う直線部222e及び224eとを含む。
【0033】
十二角形の複数の開口部215は、主面1aに沿ってマトリクス状に配置される。複数の開口部216のそれぞれは、方向D2cに隣り合う複数の開口部215の間に配置される。開口部216の形状は、方向D1cに長い長方形である。複数の開口部216も主面1aに沿ってマトリクス状に配置される。
【0034】
複数の開口部217のそれぞれは、方向D1cに隣り合う複数の開口部215の間に配置される。開口部217の形状は、方向D2cに長い長方形である。複数の開口部217も主面1aに沿ってマトリクス状に配置される。
【0035】
複数の開口部218のそれぞれは、方向D1cに隣り合う2つの開口部215と、方向D2cに隣り合う2つの開口部215の合計4つの開口部215の間に配置される。複数の開口部218も主面1aに沿ってマトリクス状に配置される。
【0036】
図6に表した金属層2において、直線部221e、222e、223e及び224eのそれぞれの長さは、可視光の波長以下である。
【0037】
上記のように、金属層2には各種の形態が挙げられる。
実施形態に係る光透過型金属電極において、金属細線22の占有率は、20%を超え80%以下である。金属細線22の占有率が20%以下になると、酸化物透明電極材料と同程度の抵抗率となるため好ましくない。一方、金属細線22の占有率が80%を超えると、金属反射が増加して透明性が低下するため好ましくない。
【0038】
光透過型金属電極では、複数の直線部220によって多角形形状の開口部21が複数形成される。これにより、光透過型金属電極では、広い波長範囲で高い透明性を得られる。さらに、光透過型金属電極では、金属細線22の占有率が20%を超えて80%以下であるため、酸化物透明電極材料に比べて低抵抗な透明電極となる。
【0039】
図7は、直線部の透過スペクトルの一例を示した図である。
図7において、横軸は光の波長、縦軸は光の透過率を示している。
図7には、直線部220の延びる方向に対して垂直な偏光を入射させた場合(垂直偏光)の透過スペクトルTM1と、水平な偏光を入射させた場合(水平偏光)の透過スペクトルTM2とが示されている。
【0040】
直線部220の延びる方向に対して垂直な偏光方向の光が入射すると、直線部220中の自由電子が入射光の振動電場に応答して振動する。直線部220の長さが波長よりも十分大きいときには、この自由電子の振動によって反射光が生じる。そのため直線部220は不透明となる。
【0041】
一方、直線部220の長さが波長と同程度の大きさになると、振動電場による自由電子の振動は、金属と空気との界面のポテンシャル障壁によって妨げられる。その結果、金属と空気との界面には表面電荷が形成される。この表面電荷によって、振動電場と逆方向の電場(反電場)が生じ、特定波長において反電場と入射電場の共鳴(局在表面プラズモン共鳴)が起こる。
【0042】
局在表面プラズモン共鳴が生じる波長は、直線部220の表面に現れる表面電荷量と、直線部220内を移動する自由電子の距離とに依存する。したがって、局在表面プラズモン共鳴が生じる波長は、入射光の偏光方向に沿った直線部220の長さ、直線部220の誘電率(材質)、直線部220の周囲媒質の誘電率(材質)によって変化する。
【0043】
図7に表したように、特定波長において直線部220の透過スペクトルTM1、YM2に大きなディップが観測される。局在表面プラズモン共鳴が生じることによって、直線部220で光の反射及び吸収が生じるためである。一方、このディップが生じる波長よりも長波長側になると高い透過率を示していることがわかる。これは、入射光の波長が長くなると(入射電場の周波数が遅くなると)、自由電子の振動が直線部220の側壁によって構造的に阻害されて反射が抑制され、かつ直線部220中の自由電子が光の入射電場に追従できるようになり、局在表面プラズモン共鳴も生じないためである。
【0044】
その結果、直線部220の延びる方向と垂直な偏光方向の光を入射した場合の透過スペクトルは、図7に示すように短波長側で局在表面プラズモン共鳴により大きなディップが生じ、それよりも長波長側の広い波長範囲で高い透過率を示す透明体として振舞うこととなる。
【0045】
一方、直線部220の延びる方向と水平な偏光方向の光が入射した場合、入射電場によって自由電子は水平方向に振動することとなる。その結果、直線部220の端部には表面電荷が形成され、垂直偏光の場合と同様に局在表面プラズモン共鳴が起こる。
【0046】
水平偏光では、垂直偏光の場合よりも偏光方向に沿った直線部220の長さが長いため、局在表面プラズモン共鳴が生じる波長は垂直偏光の場合に比べて長波長側となる。局在表面プラズモン共鳴が生じる波長よりも長波長側では、垂直偏光のときと同様に高い透過率を示す。その結果、水平偏光の透過スペクトルも、垂直偏光の場合と同様に短波長側で局在プラズモン共鳴によるディップを生じ、それよりも長波長側では透明体として振舞うこととなる。
【0047】
発明者らは、このような光学特性を持つ複数の直線部220を二次元方向(少なくとも2方向)に連結させて多角形形状の開口部21を有する光透過型金属電極を構成することにより、低抵抗でかつ広い波長範囲で高い透明性を示すことを見出した。
【0048】
光透過型金属電極の光学特性は、直線部220の光学特性から説明される。光透過型金属電極は、複数の直線部220を連結して構成された多角形の開口部21を有する。このため、任意の偏光方向の光に対して、入射電場による直線部220中の自由電子の振動が構造的に阻害される。その結果、光透過型金属電極の透過スペクトルは、直線部220に対して垂直偏光による局在プラズモン共鳴による損失、及び水平偏光による局在プラズモン共鳴による損失が生じ、これらの局所プラズモン共鳴が起こる波長よりも長波長側の波長領域では高い透過率を示す。
これにより、実施形態に係る光透過型金属電極では、広い波長範囲で高い透明性を示すことになる。
【0049】
図8は、実施形態に係る光透過型金属電極の透過スペクトルの一例を示す図である。
図8に表した透過スペクトルTM3のように、光透過型金属電極では、直線部220に由来する局在表面プラズモン共鳴が起こる波長よりも長波長側で高い透明性が得られる。一方、局在表面プラズモン共鳴が起こる波長付近では金属細線22での反射及び吸収による損失が生じ、透過率は減少する。
【0050】
直線部220に関して局在表面プラズモン共鳴が起こる波長は、直線部220の長さに依存する。すなわち、直線部220の長さが長くなると、局在プラズモン共鳴が起こる波長は長波長側にシフトする。可視光領域の広い波長範囲で高い透明性を得るためには、局在プラズモン共鳴が起こる波長を、より短波長側にすることが好ましい。
【0051】
そのため、光透過型金属電極における直線部220の最大長さは可視光の波長以下にする。これにより、光透過型金属電極では、可視光の広い範囲で高い透過率が得られる。
【0052】
波長よりも十分大きな開口を有する金属電極の場合、金属細線部の占有率を大きくすると、それに比例して透過率が減少する。これは、金属部位で光の反射が生じるためである。一方、実施形態に係る光透過型金属電極の光透過原理は、可視光波長より短い長さの直線部220を連結させた多角形形状の開口部21を有する構造である。これにより、金属細線部の自由電子の振動を構造的に阻害する。そのため、金属細線22の占有率が高くなっても透過率の減少が抑制される。
【0053】
ここで、金属細線22の占有率が20%以下となっても高い透明性を得ることはできるが、金属細線22の占有率が低下すると抵抗率が増加する。一方、金属細線22の占有率が80%以上となると金属細線22による反射が大きくなり、透明性が低下する。そのため、金属部位の占有率は20%を超え80%以下とすることが好ましい。
【0054】
光透過型金属電極の製造方法は、本発明が要求する構造を満足するものであれば特に限定されない。本発明の金属層2における直線部220の最大の長さLは可視光の波長以下であり、開口部21も波長と同程度のサイズとなる。
【0055】
図9(a)〜(d)は、光透過型金属電極の製造方法の一例を示す模式的断面図である。
まず、図9(a)に表したように、部材1の上に金属材料層2Aを形成する。金属材料層2Aの形成は、広く一般的な薄膜形成方法を用いればよい。例えば、抵抗過熱方式の真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザ蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法があげられる。
【0056】
次に、図9(b)に表したように、金属材料層2Aに、金属細線22の形状に対応したパターン層5を形成する。パターン層5は、光リソグラフィ法、電子線リソグラフィ法、ナノインプリント法、ソフトインプリント法、ブロックポリマーリソグラフィ法、コロイダルリソグラフィ法、走査プローブ法などによって形成される。
【0057】
次に、図9(c)に表したように、パターン層5をマスクとして金属材料層2Aにパターンを形成する。パターンの形成には、例えば、ドライエッチング法、イオンミリング法、フォーカスイオンビーム法が用いられる。パターン層5の開口から金属材料層2Aをエッチングすることで、金属層2に開口部21が形成される。パターン層5によってマスクされた部分には、金属細線22が残る。
【0058】
その後、図9(d)に表したように、パターン層5を除去することによって、金属層(光透過型金属電極)2が完成する。
本実施形態においては、金属細線22を構成要素としているために、電子ビーム描画により製造する場合には、描画時間を短くできるという効果がある。
【0059】
ここでは、はじめに部材1の上に金属材料層2Aを形成したが、部材1の上にパターン層5を形成した後、金属材料層2Aを形成し、パターン層5及びパターン層5上の金属材料層2Aを除去するリフトオフ法やめっき法を用いることで光透過型金属電極を製造してもよい。
【0060】
このような方法で得られた光透過型金属電極の構造は、一般的な走査型電子顕微鏡を用いて確認することができる。例えば、走査エリア内に1個〜10個程度の開口部21を含む電子顕微鏡像を観察する。得られた画像から直線部220の最大長さを測定することができる。直線部220の側壁220wの直線のばらつきや、直線部220の交点のばらつきについてもこの画像から測定することができる。続いて、50個程度の開口部21を含む電子顕微鏡像を観察する。得られた画像を画像解析して金属細線22と開口部21とに二値化処理し、金属細線22の占有率を求めることができる。
【0061】
図10(a)〜(b)は、電子顕微鏡による観察像を例示する模式図である。
図10(b)は、図10(a)に示すA部の拡大図である。直線部220の側壁220wは、完全な直線となっていないことがわかる。これは、微細加工時の設計値からのばらつきのためである。
【0062】
例えば、光リソグラフィを用いてパターン層5を形成する場合、パターン層5を形成する材料は、一般的な半導体工程で用いられるレジスト等の有機高分子が用いられる。光リソグラフィにおいて、フォトマスクを用いてパターン層5にパターン形成すると、パターン層5の側壁に、有機高分子の大きさに由来するばらつきが生じる。このパターン層の直線ばらつきによって、金属材料層2Aに同様のばらつきが生じる。しかしながら、発明者らが検討した結果、このようなばらつきがあっても、設計値からのばらつきが例えば±30%以内であれば、実施形態の作用効果を損なうことはない。このばらつきは、局在表面プラズモン共鳴が起こる波長において、透過スペクトルのディップの半値幅を広げることになるが、この波長領域よりも長波長側の透明性には影響を与えないためである。
【0063】
図11(a)〜(b)は、電子顕微鏡による別の観察像を例示する模式図である。
図11(b)は、図11(a)に示すB部の拡大図である。すなわち、図11(b)では、3つの直線部220が重なった交点部分(図11(a)のB部)の観察像を表している。
【0064】
図11に表した交点部分において、側壁220wの交わる角CPは完全な角になっておらず、丸みを帯びていることがわかる。この場合も前記と同様に、微細加工時の設計値からのばらつきに由来している。光リソグラフィを用いた場合、フォトマスクのパターンエッジで光が回折によって広がるためである。しかしながら、設計値からのばらつきが例えば±30%以内であれば、実施形態の作用効果を損なうことはない。
【0065】
光透過型金属電極は、酸化物透明電極材料を用いた透明電極に比べて低抵抗であり、かつ広い波長範囲で高い透明性を有する。そのため、タッチパネルなどの光学部品や、半導体発光素子、太陽電池やフォトディテクタなどの光電変換素子、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスなどの表示素子、その他各種の機器へ応用される。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る電子装置について説明する。
上記説明した光透過型金属電極は、種々の電子装置に適用される。
電子装置は、主面を有する構造体を備える。光透過型金属電極は、構造体の主面上に設けられる。構造体には、光透過型金属電極である金属層2を介して電荷が供給される。
以下、具体的な電子装置への適用例を説明する。
【0067】
図12は、有機エレクトロルミネッセンス素子の構成を例示する模式的断面図である。
図12には、ボトムアップ型の素子構造が示されている。図12に表したように、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、単に「有機EL素子」という。)210は、基板9と、基板9の上に設けられた電極層10と、電極層10の上に設けられた発光層11と、発光層11の上に設けられた対向電極12と、を備える。構造体は、例えば、基板9、電極層10及び発光層11の積層構造を含む。有機EL素子210では、例えば、電極層10として、実施形態に係る光透過型金属電極が適用される。
【0068】
基板9は、例えば透明性を有する。発光層11は光学層の一例であり、有機発光材料を少なくとも1層以上含む。発光層11は、電極層10である光透過型金属電極の金属層2から供給される電荷に基づいて光を放出する。すなわち、有機EL素子210においては、電極層10及び対向電極12より注入された電子及び正孔が発光層11にて再結合して発光する。発光光は、光透過型金属電極である電極層10を透過して外部に放出される。
【0069】
図12には、ボトムアップ型の素子構造を示したが、トップエミッション型の素子構造でもよい。光透過型金属電極は、有機EL素子210の発光層11に対して発光光を放出する側に設けられる。有機EL素子210では、対向電極120に光透過型金属電極を用いてもよい。
【0070】
有機EL素子210は、図12に表した素子構造を基本素子として、複数の基本素子をアレイ化したディスプレイ装置や、大面積化した照明装置などにも適用される。一般的に用いられている酸化物導電材料を電極層10に用いた場合、電極層10の抵抗によって電圧降下が起こり、発光強度のばらつきが発生することもある。特に、照明装置のような大面積デバイスでは、この問題が顕著となる。酸化物導電材料に比べて低抵抗な光透過型金属電極を用いることによって、透明性を失うことなく、発光強度のばらつきが改善される。
【0071】
図13は、液晶表示装置の構成を例示する模式的断面図である。
図13に表したように、液晶表示装置310は、駆動基板31、対向基板32、シール部33、液晶層34、画素電極35及び対向電極36を備える。構造体は、例えば、駆動基板31、シール部33、液晶層34及び画素電極35を含む。図13に表した液晶表示装置310では、対向電極36として、実施形態に係る光透過型金属電極が適用される。
【0072】
駆動基板31には、画素ごとに画素電極35が設けられる。画素電極35にはTFT(Thin Film Transistor)等の駆動素子(図示せず)が接続される。画素電極35は、駆動素子によって制御される。この構造体の画素電極35には、対向電極36と駆動素子とを介して電荷が供給される。画素電極35には、この電荷に基づく電圧が生じる。画素電極35と対向電極36との間の電圧がよって液晶層34に印加され、液晶層34の光学特性が制御される。
【0073】
駆動基板31はシール部33を介して対向基板32と貼り合わせられる。対向基板32には、対向電極36が設けられる。駆動基板31と対向基板32との間には液晶層34が設けられる。
液晶層34は、電荷に基づく電圧によって電流複屈折性、旋光性、散乱性、回折性及び吸収性の少なくともいずれかを含む光学特性が変化する光学層の一例である。液晶層34の光学特性が変化することで、画素ごとに液晶層34の光の透過率が変化する。
【0074】
図14は、太陽電池の構成を例示する模式的断面図である。
図14に表したように、太陽電池410は、少なくとも1つ以上のpn接合を形成したシリコン基板13と、シリコン基板13の一方側(光照射面側)に設けられた電極層14と、シリコン基板13の他方側(光照射面と反対側)に設けられた対向電極15と、を備える。この電極層14として、実施形態に係る光透過型金属電極が適用される。
【0075】
図14に表した太陽電池410の例では、シリコン基板13にn層13n及びp層13pが設けられる。シリコン基板13は構造体の一例であり、入射する光を電気信号に変換する光電変換層(例えばpn接合を含む層)を含む。この太陽電池410では、シリコン基板13のn層13nの側が光照射面となっている。
【0076】
シリコン基板13には、光透過型金属電極である電極層14を透過した太陽光が到達する。シリコン基板13中に透過した太陽光によって、シリコン基板13のn層13n、p層13pではそれぞれ励起されたキャリアが内部電界によって分離され、電極層14、対向電極15によって捕集される。電極層14である光透過型金属電極において、金属層2には、シリコン基板13の光電変換層で変換された電気信号を含む電流が流れる。
【0077】
結晶シリコンを用いた太陽電池のようにキャリア拡散長が長い場合には、光照射面側電極(電極層14)として、櫛形電極が用いられる。このとき、櫛形電極に照射された光は遮光されて反射損失となる。実施形態に係る光透過型金属電極を用いることによって、このような反射損失の低減が達成される。
【0078】
一方、薄膜シリコン太陽電池では、アモルファス状のシリコン薄膜が発電層に用いられる。アモルファスシリコンは結晶シリコンに比べて、キャリア拡散長が短いため、櫛形電極は使用することができない。そのため、照射面全面に光透過性を有する電極(例えば、酸化物透明電極)が用いられる。
【0079】
酸化物透明電極の抵抗率は金属材料の抵抗率に比べて高いため、酸化物透明電極での抵抗損失によって効率が低下する。太陽電池の基板が大型化すると、このような効率の低下は顕著となる。本実施形態の光透過型金属電極を用いることで、抵抗損失の低減及び変換効率の改善が達成される。
【0080】
図15は、半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図15では、フェイスアップ型の半導体発光素子の構造を例示している。
図15に表したように、半導体発光素子510は、基板16と、基板16の上に設けられた半導体層17と、半導体層17の上に設けられたn側電極18と、半導体層17の上に設けられたp側電極19と、n側電極18の上に設けられた第一のパッド電極20nと、p側電極19の上に設けられた第二のパッド電極20pと、を備える。構造体は、例えば基板16と、半導体層17と、を含む。このn側電極18として、実施形態に係る光透過型金属電極が適用される。
【0081】
半導体層17は、例えばp形半導体層17p、n形半導体層17n及び発光層17aを含む。発光層17aは、p形半導体層17pとn形半導体層17nとの間に設けられる。発光層17aは、n側電極18である光透過型金属電極の電極層2から供給される電荷に基づいて光を放出する。すなわち、n側電極18及びp側電極19より半導体層17に注入された電子及び正孔は、半導体層17の発光層17aで再結合して発光し、光透過型金属電極であるn側電極18を透過して素子外部に放出される。
【0082】
半導体発光素子510の発光強度を上げるため、注入電流を増加させることが有効である。しかしながら、n側電極18として酸化物透明電極が適用された半導体発光素子の電流−輝度特性は、ある電流値でピークを持ち、それ以上半導体発光素子に電流を流しても輝度は低下していく。これは、酸化物透明電極の抵抗率が高いため、均一に電流注入することができず、均一な発光が困難になるためである。酸化物透明電極に比べて抵抗率の低い光透過型金属電極をn側電極18に用いることによって、電流集中による輝度低下が抑制され、高輝度の半導体発光素子510が提供される。また、大面積の半導体発光素子510であっても、均一な発光特性を得られる。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る光学素子について説明する。
上記説明した光透過型金属電極は、種々の光学素子に適用される。
光学素子は、光を透過する部分を有し主面を有する光学部材を備える。光透過型金属電極は、光学部材の主面上に設けられる。
以下、光学素子への適用例を説明する。
【0084】
図16は、タッチパネルの構成を例示する模式的斜視図である。
図16に表したように、タッチパネル610は、光学部材の一例である基板6と、基板6の上に設けられた電極層7と、を備える。この電極層7として、実施形態に係る光透過型金属電極が適用される。タッチパネル610において、基板6は光学部材の一例である。基板6には駆動回路8が形成されている。タッチパネル610は、電極層7と対向しつつ電極層7と離間する対向電極(図示せず)を備えていてもよい。タッチパネル610の方式は抵抗変化型及び静電容量型のどちらであってもよい。電極層7に光透過型金属電極を用いることで、電極層7に酸化物導電材料を用いる場合に比べて透明性を損なうことなく、接触感度の向上が達成される。
【0085】
図17は、カラーフィルタの構成を例示する模式的断面図である。
カラーフィルタ710は、特定の波長帯の光を透過率が他の波長帯の光の透過率よりも高い色層72を備える。色層72は、光学部材の一例である。色相72は、例えば基板71の主面71a上に形成される。色層72には、電極層73が設けられる。この電極層73として、実施形態に係る光透過型金属電極が適用される。
【0086】
色層72は、例えば、第1波長帯の光を透過する第1領域721と、主面71aに対して平行な面内において第1領域721と並置され第1波長帯とは異なる第2波長帯の光を透過する第2領域722と、主面71aに対して平行な面内において第1領域721及び第2領域722と並置され第1波長帯とは異なり第2波長帯と異なる第3波長帯の光を透過する第3領域723と、を含む。
【0087】
カラーフィルタ710は、例えば液晶表示装置の対向側部材として用いられる。例えば、カラーフィルタ710の基板71は、図13に表した対向基板32として用いられ、電極層73は、図13に表した対向電極36として用いられる。
【0088】
カラーフィルタ710において、電極層73である光透過型金属電極の金属層2の上には、金属層2とは異なる材料の被覆層74が設けられていてもよい。カラーフィルタ710を対向側部材として用いる場合、被覆層74は、例えば液晶層34の液晶の配向を揃える配向膜である。
【0089】
(第1実施例)
第1実施例は、六角形の開口部21を有する銀(Ag)を用いた光透過型金属電極の具体例である。
洗浄した石英基板(旭硝子社製、AQ)上に、真空蒸着法によりAgCu(Ag73%、Cu27%)を30nmの厚さに蒸着した。窒素雰囲気中300℃で熱処理した後、SiOを30nmの厚さに蒸着した。この基板にレジスト(東京応化工業社製、THMR−ip3250)を塗布し、120℃にて熱ナノインプリントを行った。
【0090】
ナノインプリントに用いるモールド(版)は、直線部220を形成するための凹部と、開口部21を形成するための正六角形の凸部と、を備える。支持基板上に複数の凸部が周期的に形成される。凹部の最大長さは200nmである。凸部の占有率は60%である。このモールドのパターンをレジストに転写した。
【0091】
モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、反応性リアクティブエッチング装置により、レジスト残膜を除去した後、レジストをマスクにしてSiOをエッチングした。残ったレジストはアセトンで溶解した。
【0092】
続いて、イオンミリング装置によりSiOをマスクにしてAgCuをエッチングした。残ったSiOをフッ酸で溶解した。得られた構造の表面を、走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直線部220の最大長さは200nmであった。直線部220によって形成される六角形の開口部21の配置は周期的であった。金属細線22の面積率はおおよそ40%であった。
【0093】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200nm〜1000nmの範囲で測定した。その結果、波長400nmで大きなディップが生じ、それよりも長波長側では85%〜75%の高い透過率を示した。また、シート抵抗を測定した結果、0.8Ω/□であった。
【0094】
(第2実施例)
第2実施例は、六角形の開口部21を有する金(Au)を用いた光透過型金属電極の具体例である。
洗浄した石英基板(旭硝子社製、AQ)上に、真空蒸着法によりAuを30nmの厚さに蒸着した。窒素雰囲気中300℃で熱処理した後、SiOを30nmの厚さに蒸着した。この基板にレジスト(東京応化工業社製、THMR−ip3250)を塗布し、120℃にて熱ナノインプリントを行った。
【0095】
ナノインプリントに用いるモールドは、第1実施例と同じである。このモールドのパターンをレジストに転写した。モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、反応性リアクティブエッチング装置により、レジスト残膜を除去した後、レジストをマスクにしてSiOをエッチングした。残ったレジストはアセトンで溶解した。
【0096】
続いて、イオンミリング装置によりSiOをマスクにしてAuをエッチングした。残ったSiOをフッ酸で溶解した。得られた構造の表面を、走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直線部220の最大長さは200nmであった。直線部220によって形成される六角形の開口部21の配置は周期的であった。金属細線22の面積率はおおよそ40%であった。
【0097】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200nm〜1500nmの範囲で測定した。その結果、波長650nmに大きなディップが生じ、それよりも長波長側では85%〜75%の高い透過率を示した。また、シート抵抗を測定した結果、0.9Ω/□であった。
【0098】
(第3実施例)
第3実施例は、六角形の開口部21を有するアルミニウム(Al)を用いた光透過型金属電極の具体例である。
洗浄した石英基板(旭硝子社製、AQ)上に、真空蒸着法によりAlを30nmの厚さに蒸着した。窒素雰囲気中300℃で熱処理した。この基板にレジスト(東京応化工業社製、THMR−ip3250)を塗布し、120℃にて熱ナノインプリントを行った。
【0099】
ナノインプリントに用いるモールドは、第1実施例と同じである。このモールドのパターンをレジストに転写した。モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、反応性リアクティブエッチング装置により、レジスト残膜を除去した後、レジストをマスクにしてAlをエッチングした。残ったレジストはアセトンに溶解した。
【0100】
得られた構造の表面を、走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直線部220の最大長さは200nmであった。直線部220によって形成される六角形の開口部21の配置は周期的であった。金属部位の面積率はおおよそ40%であった。
【0101】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200nm〜1000nmの範囲で測定した。その結果、波長280nmに大きなディップが生じ、それよりも長波長側では80%〜70%の高い透過率を示した。また、シート抵抗を測定した結果、1.1Ω/□であった。
【0102】
(第4実施例)
第4実施例は、四角形の開口部212と八角形の開口部211とを有するAgを用いた光透過型金属電極の具体例である。
第1実施例と同様に、AgCu、SiOを真空蒸着した基板を用意した。この基板にレジスト(東京応化工業社製、THMR−ip3250)を塗布して、120℃にて熱インプリントを行った。
【0103】
ナノインプリントに用いたモールド(版)は、直線部220を形成するための凹部と、開口部211を形成するための正八角形の凸部と、開口部212を形成するための正四角形の凸部と、を備える。支持基板上に正四角形の複数の凸部と、正八角形の複数の凸部とが周期的に形成される。凹部の最大長さは200nmである。凸部の占有率は70%である。このモールドのパターンをレジストに転写した。
【0104】
モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、第1実施例と同様の方法によりAgCuのエッチングを行った。得られた構造の表面を、走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直線部220の最大長さは200nmであった。直線部220によって形成される四角形の開口部212と八角形の開口部211との配列は周期的であった。金属細線22の面積率はおおよそ30%であった。
【0105】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200〜1000nmの範囲で測定した。その結果、波長390nmに大きなディップが生じ、それよりも長波長側では85%〜80%の高い透過率を示した。またシート抵抗を測定した結果、0.9Ω/□であった。
【0106】
(第5実施例)
第5実施例は、四角形の開口部と十二角形の開口部と有するAgを用いた光透過型金属電極の具体例である。
第1実施例と同様に、AgCu、SiOを真空蒸着した基板を用意した。この基板にレジスト(東京応化工業社製、THMR−ip3250)を塗布して、120度にて熱インプリントを行った。
【0107】
ナノインプリントに用いたモールド(版)は、直線部220を形成するための凹部と、開口部211を形成するための十二角形の凸部と、開口部212を形成するための正四角形の凸部と、を備える。支持基板上に十二角形の複数の凸部と、正四角形の複数の凸部とが周期的に形成される。凹部の最大長さは200nmである。凸部の占有率は60%である。このモールドのパターンをレジストに転写した。
【0108】
モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、第1実施例と同様の方法によりAgCuのエッチングを行った。得られた構造の表面を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直線部220の最大長さは200nmであった。直線部220によって形成される十二角形の開口部213と正四角形の開口部212との配列は周期的であった。金属細線22の面積率はおおよそ40%であった。
【0109】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200〜1000nmの範囲で測定した結果、波長430nmに大きなディップが生じ、それより長波長側では、85%〜75%の高い透過率を示した。またシート抵抗を測定した結果、0.8Ω/□であった。
【0110】
(第6実施例)
第6実施例は、長方形の開口部と十二角形の開口部とを有するAgを用いた光透過型金属電極の具体例である。
第1実施例と同様に、AgCu、SiOを真空蒸着した基板を用意した。この基板にレジストを塗布して、120度にて熱インプリントを行った。
【0111】
ナノインプリントに用いたモールド(版)は、直線部220を形成するための凹部と、開口部211を形成するための十二角形の凸部と、開口部212を形成するための長方形の凸部と、を備える。支持基板上に十二角形の複数の凸部と、長方形の複数の凸部とが周期的に形成される。一方向に延びる凹部の最大長さは200nmである。他方向に延びる凹部の最大長さは150nmである。凸部の占有率は55%である。このモールドのパターンをレジストに転写した。
【0112】
モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、第1実施例と同様の方法によりAgCuのエッチングを行った。得られた構造の表面を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、一方向に延びる直線部220の最大長さは200nm、他方向に延びる直線部220の最大長さは150nmであった。直線部220によって形成される十二角形の開口部と長方形の開口部との配列は周期的であった。金属細線22の面積率はおおよそ45%であった。
【0113】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200nm〜1000nmの範囲で測定した。その結果、波長450nmに大きなディップが生じ、それより長波長側では、80%〜70%の高い透過率を示した。また、シート抵抗を測定した結果、0.8Ω/□であった。
【0114】
(第1参考例)
第1参考例は、第1実施例と同様に正六角形状の開口を有する構造で、開口部21の開口率が90%の具体例である。
第1実施例と同様に、AgCu、SiOを真空蒸着した基板を用意した。この基板にレジストを塗布して、120℃にて熱インプリントを行った。
【0115】
ナノインプリントに用いたモールド(版)は、直線部220を形成するための凹部と、開口部211を形成するための正六角形の凸部と、を備える。支持基板上に正六角形の複数の凸部が周期的に形成される。凹部の最大長さは200nmである。凸部の占有率は90%である。このモールドのパターンをレジストに転写した。
【0116】
モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、反応性リアクティブエッチング装置により、レジスト残膜を除去した後、レジストをマスクにしてSiOをエッチングした。残ったレジストはアセトンで溶解した。
【0117】
続いて、イオンミリング装置によりSiOをマスクにしてAgCuをエッチングした。残ったSiOをフッ酸で溶解した。得られた構造の表面を、走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直線部220の最大長さは200nmであった。直線部220によって形成される六角形の開口部21の配置は周期的であった。金属細線22の面積率はおおよそ10%であった。
【0118】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200nm〜1000nmの範囲で測定した。その結果、波長380nmに大きなディップが生じ、それよりも長波長側では85%〜75%の高い透過率を示した。また、シート抵抗を測定した結果、2.5Ω/□であった。第1参考例に係る光透過型金属電極では、第1実施例に係る光透過型金属電極に比べて高い抵抗を示した。
【0119】
(第2参考例)
第2参考例は、円形の開口部を有する光透過型金属電極の具体例である。
第1実施例と同様に、AgCu、SiOを真空蒸着した基板を用意した。この基板にレジストを塗布して、120度で熱インプリントを行った。
【0120】
ナノインプリントに用いたモールド(版)は、直径180nmの円形の凸部が三角格子状に配列されたものである。凸部の占有率は45%である。このモールドのパターンをレジストに転写した。
【0121】
モールドを除去した後、モールドと逆パターンの構造がレジストに形成されていることを確認した。その後、第1実施例と同様の方法によりAgCuのエッチングを行った。得られた構造の表面を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、直径180nmの円形の開口部が三角格子状に形成されていた。金属細線22の面積率は55%であった。
【0122】
この光透過型金属電極に光を垂直入射して、入射した光の波長に対する透過率を測定した。具体的には、垂直入射における透過スペクトルを波長200〜1000nmの範囲で測定した。その結果、波長490nmでディップが生じ、波長560nmで透過率82%のピークが生じた。それより長波長側では透過率は減少し、波長1000nmでは32%となった。参考例2に係る光透過型金属電極では、第1実施例に係る光透過型金属電極のような広い波長範囲での透明性は得られなかった。また、シート抵抗を測定した結果、0.7Ω/□であった。
【0123】
(第7実施例)
第7実施例は、実施形態に係る光透過型金属電極を有機EL素子の照明に適用した具体例である。
ガラス基板上に第3実施例に係る光透過型金属電極を形成した。光透過型金属電極上へ、PSS:PEDOT水溶液を塗布し、正孔注入層を形成した。その上にα−NPDを真空蒸着法により堆積させて、正孔輸送層を形成した。次に、その上に、青色発光材料であるFIrpicがCBPにドープされた青色発光層を共蒸着法により形成した。次に、その上に、赤色発光材料であるBtp2Ir(acac)がCBPにドープされた赤色発光層を共蒸着法により形成した。次に、その上に、黄色発光材料であるBt2Ir(acac)がCBPにドープされた黄色発光層を共蒸着法により形成した。そして、その上に、BCPを蒸着法により堆積させて電子輸送層を形成させた。最後にLiF(1nm厚)/Al(150nm厚)を蒸着法により堆積させて陰極を形成し、白色有機EL照明装置を得た。
【0124】
得られた有機EL照明装置について輝度のムラの評価を行ったところ、中心部と端との輝度の差は10%以下であった。陽極とした適用した光透過型金属電極のシート抵抗が、ITOのシート抵抗の1/3以下になったことから均一発光していることが確認された。
【0125】
(第8実施例)
第8実施例は、実施形態に係る光透過型金属電極をアモルファスシリコン太陽電池に適用した具体例である。
ガラス基板上に第3実施例に係る光透過型金属電極を形成した。次にプラズマCVD装置を用いて、PHとSiHとの混合ガスによりp形Si層を形成した。SiHガスによりi形Si層を、BとSiHと混合ガスによりn形Si層を形成し、pin光電変換層を形成した。続いてスパッタ法を用いて、n形Si層上にアルミニウムを含有する銀合金からなる裏面側電極層を形成した。
【0126】
以上の手順によって作製したアモルファスシリコン太陽電池の電流電圧特性を評価した。参考例として、光透過型金属電極の代わりにITOを100nm厚で形成する以外は第8実施例と同様に作製した太陽電池を用いた。ITOのシート抵抗に比べて光透過型金属電極のシート抵抗が低下したことにより、抵抗損失が減少した。その結果、変換効率は4.6%から4.8%に改善した。
【0127】
(第9実施例)
第9実施例は、実施形態に係る光透過型金属電極を結晶シリコン太陽電池に適用した具体例である。
pn接合を形成した結晶シリコン太陽電池基板の表面の酸化膜をフッ酸で除去した後、n面側(光照射面側)に第1実施例に係る光透過型金属電極を形成した。続いてp面側(裏面側)の全面にアルミニウムペーストを塗布して加熱することにより、対向電極を形成した。
【0128】
以上の手順によって作製した結晶シリコン太陽電池の変換効率を評価した。参考例として、光透過型金属電極の代わりに櫛形の表面電極を形成した以外は第9実施例と同様に作製した太陽電池を用いた。参考例の太陽電池の変換効率が6.5%であったのに対して、第9実施例に係る結晶シリコン太陽電池の変換効率は6.8%であった。
【0129】
(第10実施例)
第10実施例は、実施形態に係る光透過型金属電極を半導体発光素子に適用した具体例である。
サファイア基板上に、バッファ層としてのn−GaN層を形成し、n−GaN、InGaN/GaNからなるMQW(multi quantum well)層、p−AlGaN層、p−GaN層を順に形成した半導体発光素子基板(発光波長440nm)を用意した。p面側にNiを1nm成膜した後、パラジウムを添加した銀合金によりp電極を形成した。その後、ナノインプリント法を用いて、実施例1の光透過型金属電極を形成した。続いて、反射防止膜及び保護膜としてSiNを膜厚35nmでスパッタ成膜した。その後、光リソグラフィによりn−GaN層の面出しのためパターニングを行った後、SiNをドライエッチング、Agをイオンミリングでパターニングした後、塩素ドライエッチングでp−GaN層をエッチングして、n−GaN層の面出しを行った。その後、エッチングしたn−GaN面にTi/Al/Tiをそれぞれ10nm/100nm/50nmの厚さでスパッタして、n電極を形成した。ウェーハを窒素雰囲気下で650℃で10分間アニールして、電極層と素子との間にオーミック接触を形成した。さらに、p電極、n電極表面にAuパッド電極を形成し、第10実施例に係る半導体発光素子を作製した。
【0130】
第3参考例として、光透過型金属電極の代わりに第1参考例の円形の開口部を形成した光透過型金属電極を適用した半導体発光素子を作製した。
また、第4参考例として、光透過型金属電極の代わりに、膜厚100nmのITOを用いた以外は第10実施例と同様に作製した半導体発光素子を作製した。
【0131】
第10実施例に係る半導体発光素子と、第3参考例及び第4参考例に係る半導体発光素子とで、電流−輝度特性を評価した。その結果、第10実施例に係る半導体発光素子の輝度は、第3参考例及び第4参考例に係る半導体発光素子の輝度に比べて1.2倍であった。
【0132】
(第11実施例)
第11実施例は、実施形態に係る光透過型金属電極を半導体発光素子に適用した具体例である。
GaAs基板上クラッド層としてのn−InGaAlP層、活性層としてのInGaAlP層、クラッド層としてのp−InGaAlP層および電流拡散層としてのp−GaP層を順次成膜した半導体発光素子基板(発光波長630nm)を用意した。次いで、電流拡散層上に金属電極層としてAu膜10nm、Au−Zn合金膜30nmからなる金属電極膜を真空蒸着法により形成した。さらに、GaAs基板の裏面にAu−Ge合金を150nmの厚さで真空蒸着により成膜して裏面電極を形成した。その後、窒素雰囲気下で450℃、30分間シンタリングすることにより、基板と裏面電極層間、電流拡散層と金属電極層間にオーミック接触を形成した。金属薄膜上にナノインプリント法を用いて、実施例1の光透過型金属電極と同等の構造を作製した。続いて、金属電極層の一部にAuからなる丸型電極を形成することで、第11実施例に係る半導体発光素子を作製した。
【0133】
参考例として、第11実施例と同様の半導体発光素子であるが、電流拡散層とオーミック接触を持つ膜厚250nmのITOを金属電極層の代わりに用いた半導体発光素子を用意した。チップサイズ1mm×1mmにダイシング加工し、ベアチップでチップテスタにて輝度測定を行った。最大輝度で比較した結果、参考例の素子の最大輝度を1とした場合、第11実施例は1.2倍であった。
【0134】
(第12実施例)
第12実施例は、実施形態に係る光透過型金属電極を半導体発光素子に適用した具体例である。
n−GaN基板上に、MOCVD法によりバッファ層としてn−GaN、クラッド層としてn−GaN、InGaN/GaNからなるMQW層、クラッド層としてp−AlGaN、およびコンタクト層としてp−GaNを順次形成した半導体発光素子基板(発光波長440nm厚)を用意した。続いて、真空蒸着法によりp型コンタクト層上にNi(1nm厚)/Au(30nm厚)からなるp側電極層を形成した。また、基板の裏面にはTi(10nm厚)/Au(100nm厚)からなるn側電極層を形成させ、所望の形状に加工した。最後に熱処理によって、各電極層と素子との接触面にオーミック接触を形成した。次に、ナノインプリント法を用いて、実施例1と同等の光透過型電極構造を形成した。さらにp側電極層の一部にTi/Auからなる丸型電極を形成することで、第12実施例に係る半導体発光素子を作製した。
【0135】
参考例として、第12実施例と同様の半導体発光素子であるが、p型電極として膜厚200nmのITOを金属電極層の変わりに形成した半導体発光素子を製造した。半導体発光素子をチップサイズ300μm角にダイシング加工し、ベアチップでチップテスタにて輝度測定を行った。最大輝度で比較した結果、参考例の素子の最大輝度を1とした場合、第12実施例は1.3倍であった。
【0136】
実施形態に係る光透過型金属電極によれば、直線部220の最大長さを可視光の波長以下にして、複数の直線部220によって多角形の開口部21を複数設けることで、全偏向方向の光に対して、金属層2の内部で生じる自由電子の振動を構造的に阻害し、反射損失を抑制することができる。これにより、金属細線22の占有率が20%を超え80%以下であっても高い透明性を失うことなく、従来の酸化物導電体に比べて低抵抗であり、かつ波長依存性の少ない光透過性金属電極を提供することができる。
また、実施形態に係る光透過型金属電極を電子装置及び光学素子に適用することで、高効率なデバイスを提供することができる。
【0137】
以上説明したように、実施形態によれば、低い電気抵抗を維持しながら、広い波長範囲で十分な透明性を得ることができる光透過型金属電極、電子装置及び光学素子を提供できる。
【0138】
なお、上記に本実施の形態およびその変形例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、前述の各実施の形態またはその変形例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施の形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【0139】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0140】
1…部材、1a…主面、2…金属層(光透過型金属電極)、2A…金属材料層、5…パターン層、6…基板、7…電極層、8…駆動回路、9…基板、10…電極層、11…発光層、12…対向電極、13…シリコン基板、13n…n層、13p…p層、14…電極層、15…対向電極、16…基板、17…半導体層、17a…発光層、17n…n形半導体層、17p…p形半導体層、18…n側電極、19…p側電極、20n…第一のパッド電極、20p…第二のパッド電極、21…開口部、22…金属細線、31…駆動基板、32…対向基板、33…シール部、34…液晶層、35…画素電極、36…対向電極、71…基板、71a…主面、72…色層、72…色相、73…電極層、74…被覆層、210…有機エレクトロルミネッセンス素子、211…開口部、212〜218…開口部、220…各直線部、220w…側壁、221a〜221e…直線部、222a〜222e…直線部、223a〜223c…直線部、224c〜224e…直線部、310…液晶表示装置
410…太陽電池、510…半導体発光素子、610…タッチパネル、710…カラーフィルタ、721…第1領域、722…第2領域、723…第3領域、CP…角、D1…方向、D1a…方向、D1b…方向、D1c…方向、D2…方向、D2a…方向、D2b…方向、D2c…方向、D3b…方向、D4b…方向、L…長さ、TM1…透過スペクトル、TM2…透過スペクトル、TM3…透過スペクトル、V…法線方向、W1…幅、W2…幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の主面上に設けられ、金属細線と、前記金属細線により形成される複数の開口部と、を有する金属層であり、
前記金属細線は、前記主面に対して平行な第1方向に沿う複数の第1直線部と、前記主面に対して平行で前記第1方向と交差する前記第1方向とは異なる方向に沿う複数の直線部と、を有し、
前記複数の第1直線部の前記第1方向に沿う長さの最大値及び前記複数の第2直線部の前記第1方向とは異なる方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下であり、
前記主面の法線方向にみた前記金属層の面積に対する前記法線方向にみた前記金属細線の面積の比は、20パーセントを超え80パーセント以下であることを特徴とする光透過型金属電極。
【請求項2】
前記法線方向にみた前記開口部の形状は、多角形であることを特徴とする請求項1記載の光透過型金属電極。
【請求項3】
前記法線方向にみた前記複数の開口部の形状は、四角形、六角形及び八角形のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の光透過型金属電極。
【請求項4】
前記複数の開口部のうちの隣り合う2つの開口部の重心を結ぶ直線上の前記金属細線の長さは、20ナノメートル以上200ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光透過型金属電極。
【請求項5】
前記金属細線の厚さは、10ナノメートル以上400ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の光透過型金属電極。
【請求項6】
前記金属細線は、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉛、亜鉛、白金、コバルト、マグネシウム、クロム、タングステン、パラジウム、インジウム、アンチモン及びスズよりなる群から選択された少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の光透過型金属電極。
【請求項7】
前記複数の第1直線部の前記第1方向に沿う前記長さの前記最大値及び前記複数の第2直線部の前記第1方向とは異なる方向に沿う前記長さの前記最大値さは、780nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の光透過型金属電極。
【請求項8】
前記金属層の上に設けられ、前記金属層とは異なる材料の被覆層をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の光透過型金属電極。
【請求項9】
主面を有する構造体と、
前記主面上に設けられ、金属細線と、前記金属細線により形成される複数の開口部と、を有する金属層と、
を備え、
前記金属細線は、前記主面に対して平行な第1方向に沿う複数の第1直線部と、前記主面に対して平行で前記第1方向と交差する第1方向とは異なる方向に沿う複数の直線部と、を有し、
前記第1直線部の前記第1方向に層長さの最大値及び前記第2直線部の前記第1方向とは異なる方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下であり、
前記主面に垂直な法線方向にみた前記金属層の面積に対する前記法線方向にみた前記金属細線の面積の比は、20パーセントを超え80パーセント以下であり、
前記構造体には、前記金属層を電極として用いることを特徴とすることを特徴とする電子装置。
【請求項10】
前記構造体は、前記電荷が供給される積層体を有し、
前記積層体は、
第1導電形の第1半導体層と、
前記第1半導体層と前記法線方向に沿って積層された第2導電形の第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられ、前記電荷に基づいて光を放出する発光部と、
を含むことを特徴とする請求項9記載の電子装置。
【請求項11】
前記構造体は、入射する光を電気信号に変換する光電変換層を含み、
前記金属層には、前記電気信号を含む電流が流れることを特徴とする請求項9記載の電子装置。
【請求項12】
前記構造体は、
前記電荷に基づいて光を放出する、及び、前記電荷に基づいて、複屈折性、旋光性、散乱性、回折性及び吸収性の少なくともいずれかを含む光学特性が変化するのいずれかの光学層を含むことを特徴とする請求項9記載の電子装置。
【請求項13】
光を透過する部分を有し主面を有する光学部材と、
前記主面上に設けられ、金属細線と、前記金属細線により形成される複数の開口部と、前記複数の開口部と、を有する金属層と、
を備え、
前記金属細線は、前記主面に対して平行な第1方向に沿う複数の第1直線部と、前記主面に対して平行で前記第1方向と交差する第1方向とは異なる方向に沿う複数の直線部と、を有し、
前記第1直線部の前記第1方向に層長さの最大値及び前記第2直線部の前記第1方向とは異なる方向に沿う長さの最大値は、可視光の波長以下であり、
前記主面に垂直な法線方向にみた前記金属層の面積に対する前記法線方向にみた前記金属細線の面積の比は、20パーセントを超え80パーセント以下であることを特徴とする光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2013−68883(P2013−68883A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208746(P2011−208746)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】