説明

入力電圧の周波数に共振空胴の共振周波数を一致させる

シンクロサイクロトロンは、共振空胴を画定する磁気構造と、共振空胴に粒子を供給するイオン源と、共振空胴に高周波(RF)電圧を供給する電圧源と、RF電圧と時間とともに変化する共振空胴の共振周波数との間の位相差を検出する位相検出器と、この位相差に応答して、RF電圧の周波数が共振空胴の共振周波数と実質的に一致するように電圧源を制御する制御回路とを含む。電圧源が電圧制御発振器VCOを備え、フィードバック回路が、入力電圧の周波数と共振周波数との間の位相差を検出する位相検出器を備え、VCOが、位相差が所定値を逸脱したとき入力電圧の周波数を変化させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、共振空胴の共振周波数を、共振空胴への電圧入力の周波数に一致させることを説明する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を高エネルギーへ加速するために、多くのタイプの粒子加速器が開発されている。粒子加速器のタイプの1つに、サイクロトロンがある。サイクロトロンは、真空チャンバ内の1つまたは複数のディーに交流電圧を印加することにより、磁界内の荷電粒子を軸方向に加速する。ディーという名称は、初期のサイクロトロン内の電極の形状を表しているが、いくつかのサイクロトロンでは文字Dに似ていないことがある。粒子を加速することによって生成される螺旋状の経路は、磁界に対して直角である。粒子が螺旋状に飛び出すとき、ディー間の間隙に加速電界が印加される。高周波(RF)電圧が、ディー間の間隙を横切って交流電界を生成する。RF電圧、したがってRF電界は、磁界中の荷電粒子の周回運動の周期と同期され、その結果、粒子は、繰り返し間隙を横断するとき高周波波形によって加速される。粒子のエネルギーは、印加されるRF電圧のピーク電圧を上回るエネルギーレベルへ上昇する。荷電粒子が加速するのにつれて、荷電粒子の質量は、相対論的効果によって増加する。したがって、粒子の加速が不均一になり、粒子が印加電圧のピークに対して非同期で間隙に到着する。
【0003】
現在使用されている、アイソクロナスサイクロトロンおよびシンクロサイクロトロンの2つのタイプのサイクロトロンは、加速粒子の相対論的質量増加の問題を異なるやり方で克服する。アイソクロナスサイクロトロンは、適切な加速を維持するために、半径とともに磁界が増加する一定周波数の電圧を用いる。シンクロサイクロトロンは、半径の増加につれて減少する磁界を用い、荷電粒子の相対論的速度によって引き起こされる質量増加に対応するように、加速電圧の周波数を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第11/948,662号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、共振空胴を画定する磁性ヨーク、共振空胴に入力電圧を供給する電圧源、および入力電圧の周波数が共振空胴の共振周波数と実質的に一致するように電圧源を制御するフィードバック回路を備えるシンクロサイクロトロンが説明される。シンクロサイクロトロンは、以下の機能の1つまたは複数も、単独で、あるいは組合せで含んでよい。
【0006】
電圧源は、電圧制御発振器(VCO)を備えてよい。フィードバック回路は、入力電圧の周波数と共振周波数との間の位相差を検出する位相検出器を備えてよい。VCOは、位相差が所定値から逸脱したとき、入力電圧の周波数を変化させるように構成されてよい。位相検出器は、入力電圧の周波数を共振空胴内の電流または電圧の共振周波数と比較することによって位相差を検出するように構成されてよい。
【0007】
シンクロサイクロトロンは、掃引される周波数範囲にわたって実質的に一定の周波数を位相検出器に与える回路を備えてよい。実質的に一定の周波数が、入力電圧の周波数および共振周波数から導出されてよい。共振周波数は、例えば約1ミリ秒(ms)の時間にわたって、約30メガヘルツ(MHz)と300MHzとの間(VHF)を掃引してよい。一実施例では、周波数は、約1ミリ秒で95MHzと約135MHzとの間を掃引してよい。
【0008】
シンクロサイクロトロンは、位相検出器の出力を受け取る積分器、および位相検出器の出力に基づいてVCO向けの制御信号を生成するフィルタを備えてよい。制御信号は、位相差が所定値から逸脱したとき、VCOによって入力電圧の周波数を変化させるためのものでよい。フィルタは、共振周波数の掃引時間に反比例する遮断周波数を有する低域通過フィルタを備えてよい。
【0009】
シンクロサイクロトロンは、共振空胴の共振周波数を変化させる同調回路を備えてよい。同調回路は、回転可能な可変容量回路および/または可変誘導回路を備えてよい。シンクロサイクロトロンは、共振空胴に粒子を供給するイオン源を備えてよい。入力電圧は、共振空胴から粒子を引き出すための高周波(RF)電圧を含んでよい。RF電圧と磁性ヨークによってもたらされた磁界との組合せが、共振空胴から引き出された粒子を加速することができる。
【0010】
本明細書では、共振空胴を画定する磁気構造体、共振空胴に粒子を供給するイオン源、共振空胴に高周波(RF)電圧を供給する電圧源、RF電圧と時間とともに変化する共振空胴の共振周波数との間の位相差を検出する位相検出器、および、この位相差に応答して、RF電圧の周波数を共振空胴の共振周波数と実質的に一致させるように電圧源を制御する制御回路を備える装置も説明される。この装置は、以下の機能の1つまたは複数も、単独で、あるいは組合せで含んでよい。
【0011】
制御回路は、位相差に応答して電流制御信号を生成する積分器、および電流信号に応答して電圧源向けの電圧制御信号を生成する低域通過フィルタを備えてよい。
【0012】
共振空胴は、RF電圧を受け取る第1のディーおよび電気的に接地された第2のディーを備えてよい。第1のディーと第2のディーとの間の空間が間隙を形成する。第1のディーおよび第2のディーは、RF電圧に応答して間隙を横切って振動する電界を生成するように構成された同調可能な共振回路を画定する。共振空胴に電圧/電流ピックアップ要素が関連づけられてよく、これは、共振空胴の瞬時周波数を得て位相検出器へ電圧/電流サンプルを供給するのに用いられてよい。
【0013】
本明細書では、共振空胴の共振周波数を、共振空胴への入力電圧の周波数に実質的に一致させる回路も説明される。共振周波数は、時間とともに変化する。この回路は、共振周波数と入力電圧との間の位相差を検出する位相検出器を備える。位相検出器は、上記位相差に相当する第1の信号を出力するためのものである。積分器およびフィルタの回路は、この第1の信号に応答して制御信号を生成するように構成される。電圧制御発振器は、制御信号に応答して入力電圧を調整するように構成される。この回路は、以下の機能の1つまたは複数も、単独で、あるいは組合せで含んでよい。
【0014】
位相検出器は、共振空胴の電圧または共振空胴の電流から共振周波数を得るように構成されてよい。共振周波数は、約30MHzと300MHzとの周波数範囲にわたって所定の時間で掃引してよい。一実施例では、掃引は、約95MHzと約135MHzとの間でよい。積分器およびフィルタの回路は、上記所定の時間に反比例する遮断周波数を有する低域通過フィルタを備えてよい。共振空胴は、共振空胴からの陽子を加速するように構成されたシンクロサイクロトロンの一部分でよい。
【0015】
回路は、共振空胴に関連したピックアップ要素を備えてよい。ピックアップ要素は、共振周波数に相当する信号を得るためのものでよい。位相検出器は、ピックアップ要素から信号を受け取るためのものでよい。ピックアップ要素は容量性でよく、信号は電圧信号を含んでよい。ピックアップ要素は誘導性でよく、信号は電流信号を含んでよい。
【0016】
本明細書では、時間とともに変化する共振空胴の共振周波数を、共振空胴への入力電圧の周波数と一致させる方法も説明される。この方法は、共振周波数と入力電圧との間の位相差を検出するステップであって第1の信号がこの位相差に相当するステップと、第1の信号に応答して制御信号を生成するステップと、制御信号に応答して入力電圧を調整するステップとを含む。この方法は、以下の機能の1つまたは複数も、単独で、あるいは組合せで含んでよい。
【0017】
位相差の検出は、共振空胴の電圧および共振空胴の電流のうちの1つから共振周波数を得るステップを含んでよい。共振周波数は、約30MHzと約300MHzとの周波数範囲にわたって、ほぼ所定の時間で掃引してよい。制御信号は、上記所定の時間に反比例する遮断周波数を有する低域通過フィルタ回路でよい。共振空胴は、共振空胴からの陽子を加速するように構成されたシンクロサイクロトロンの一部分でよい。
【0018】
この方法は、共振周波数に相当する信号を得るステップを含んでよい。共振周波数と入力電圧との間の位相差は、共振周波数に相当する信号に基づいて求められてよい。
【0019】
前述のことは、シンクロサイクロトロンとともに用いるのに限定されず、あらゆるタイプのサイクロトロンとともに用いられてよい。
【0020】
前述の特徴のうちの任意の1つまたは複数が組み合わせられてよい。
【0021】
1つまたは複数の実施例の詳細が、以下の添付図面および記述で説明される。さらなる特徴、態様、および利点が、説明、図、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】シンクロサイクロトロンの断面図である。
【図1B】図1Aに示されたシンクロサイクロトロンの側断面図である。
【図2】図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロン内の荷電粒子を加速するのに用いることができる理想化された波形の図である。
【図3】図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロンで用いられ得る制御回路のブロック図である。
【図4】シンクロサイクロトロンの共振空胴内の共振周波数の周波数掃引を示すグラフである。
【図5】図3の制御回路に使用された位相検出器の、2つの入力に応答した出力を示すタイミング図を含む図である。
【図6】図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロンで用いられ得る代替制御回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書では、シンクロサイクロトロンをベースとするシステムが説明される。しかし、本明細書で説明される回路および方法は、任意のタイプのサイクロトロンとともに用いられてよい。
【0024】
図1Aおよび図1Bを参照すると、シンクロサイクロトロンは、離隔された2つの金属磁極4aおよび4bのまわりの電気的コイル2aおよび2bを含み、両金属磁極は磁界を発生するように構成されている。磁極4aおよび4bは、ヨーク6aおよび6b(断面で示されている)の対向した2つの部分によって画定される。極4aと4bとの間の空間が真空チャンバ8を画定し、あるいは、極4aと4bとの間に、分離した真空チャンバを設置することができる。磁界強度は、一般に、真空チャンバ8の中心からの距離の関数であり、主としてコイル2aおよび2bの寸法形状ならびに磁極4aおよび4bの形状および材料の選択によって決定される。
【0025】
加速電極はディー10およびディー12として画定され、それらの間に間隙13がある。ディー10は交流電圧の電位に接続され、その周波数は、荷電粒子の相対論的質量の増加ならびにコイル2aおよび2bと磁極部分4aおよび4bとによって生成された放射状に低下する磁界(真空チャンバ8の中心から測定されたもの)を補償するために、加速サイクルを通じて高周波数から低周波数へ変更される。ディー10および12の交流電圧の特有のプロファイルが図2に示されており、以下で詳細に論じられる。この実施例では、ディー10は半円筒構造体であり、その内側は中空である。ディー12は、「ダミーディー」と称され、真空チャンバ壁14において接地されるので、中空の円筒状構造である必要性はない。ディー12は、図1Aおよび図1Bに示されるように、例えば銅の細長い金属を含み、ディー10の実質的に類似のスロットと一致するよう成形されたスロットを有する。ディー12は、ディー10の表面16のミラーイメージを形成するように成形することができる。
【0026】
イオン源電極20を含むイオン源18は、真空チャンバ8の中心に配置され、荷電粒子を供給するように作動する。抽出電極22は、抽出チャンネル24の中に荷電粒子を導き、それによって荷電粒子のビーム26を形成する。イオン源を外部に取り付けて、イオンを加速領域の中へ実質的に軸方向に供給してもよい。イオン源は、「Interrupted Particle Source」という名称の米国特許出願第11/948,662号(整理番号17970-010001)に説明されたタイプでよく、その内容は、参照によって、あたかも十分に説明されたかのように本明細書に組み込まれる。
【0027】
ディー10および12ならびにシンクロサイクロトロンに含まれたハードウェアの他の部片が、間隙13を横切って振動する電界を生成する振動電圧の入力のもとで調整可能な共振回路を画定する。結果は、真空チャンバ8内の共振空胴である。共振空胴のこの共振周波数は、同調機構を用いることにより、周波数掃引の間中そのQ係数を高く保つように調整することができる。一実施例では、共振空胴の共振周波数は、約30メガヘルツ(MHz)と約300MHzとの間(従来のVHF)を、約1ミリ秒(ms)で移動すなわち「掃引」する。別の実施例では、共振空胴の共振周波数は、約95メガヘルツ(MHz)と約135MHzとの間を、約1ミリ秒(ms)で移動すなわち「掃引」する。
【0028】
Q係数は、共振システムの、共振周波数に近い周波数に対する応答の「特性」の目安である。この実施例では、Q係数は次式で定義され、
Q=1/R×√(L/C)
ここで、Rは共振回路の能動抵抗であり、Lはインダクタンスであり、Cは共振回路のキャパシタンスである。
【0029】
同調機構は、例えば可変インダクタンスのコイルまたは可変キャパシタンスであり得る。可変キャパシタンスのデバイスは、振動リードまたは回転コンデンサであり得る。図1Aおよび図1Bで示された実施例では、同調機構は、回転コンデンサ28を含む。回転コンデンサ28は、モータ31によって駆動される回転ブレード30を含む。モータ31の各4分の1サイクルの間中、ブレード30がブレード32と噛み合うので、ディー10および12ならびに回転コンデンサ28を含む共振回路のキャパシタンスが増加して、共振周波数が低下する。このプロセスは、両ブレードの噛み合わせが外れるとき逆になる。したがって、共振回路のキャパシタンスを変化させることにより、共振周波数が変化する。これは、ディーに印加される高電圧の発生および粒子ビームの加速に必要な電力を大幅に低減する目的に役立つ。ブレード30および32の形状は、必要な、共振周波数の時間依存性をもたらすように機械加工することができる。
【0030】
ブレードの回転は、RF周波数の発生と同期させることができ、その結果、共振空胴のQ係数を変化させることによって、シンクロサイクロトロンによって画定された共振回路の共振周波数は、共振空胴に印加される交流電圧の電位の周波数の近くに保たれる。
【0031】
加速ビームが散乱しないように、真空ポンプシステム40が、真空チャンバ8を極めて低圧に維持する。
【0032】
シンクロサイクロトロン内の均一な加速を達成するために、相対論的質量増加および磁界の放射状の変化を補償するように、また、粒子ビームの焦点を維持するように、ディー間隙を横切る電界の周波数および振幅が変更される。磁界の放射状の変化は、荷電粒子の螺旋状の経路の中心からの距離として測定される。
【0033】
図2は、シンクロサイクロトロン内の荷電粒子を加速するのに必要とされ得る理想化された波形の図である。この図は、波形のほんの数サイクルだけを示しており、必ずしも理想的な周波数および振幅変調のプロファイルを示すわけではない。図2は、シンクロサイクロトロンに用いられる波形の、時変の振幅および周波数の特性を示す。粒子の速度が光速のかなりの部分に近づき、同時に粒子の相対論的質量が増加するのにつれて、周波数が高周波数から低周波数へ変化する。
【0034】
シンクロサイクロトロンの粒子加速器では、粒子がエネルギーを得るとき、粒子の周波数は、時間に対して比較的迅速に変化する。それに応じてシンクロサイクロトロンの共振周波数を変化させるために、シンクロサイクロトロンの容量性および/または誘導性の特性が、前述のように、機械的に(例えば回転コンデンサ31を使用して)変更される。共振周波数が変化するとき、粒子が最高速度へ加速するのに十分なエネルギーを得ることを保証する電圧をディー間隙の両端間に発生するために、粒子ビームの加速期間の全体にわたって共振空胴に電力を送るべきである。必要な電圧を低電力で達成するために、入力される(すなわち印加される)RF電圧の周波数は、共振空胴の共振周波数と一致するべきである。
【0035】
共振空胴の共振周波数に、入力RF電圧の周波数を実質的に一致させるために、シンクロサイクロトロンでは、デジタル位相ロックループのトポロジが用いられてよい。この文脈では、実質的な一致は、完全な一致、または完全な一致と同様の利益を得るのに十分に近い一致を含む。
【0036】
上記で説明されたように、共振空胴の共振周波数は、広範囲にわたって比較的高い速度で変化し得て、一実施例では、共振周波数は、1ミリ秒で40MHzを掃引してよい。この実施例の位相ロックループのトポロジで用いられる制御システムは、共振を維持するために、入力RF電圧の周波数と共振空胴の共振周波数との間の位相差を検出し、位相差に比例した誤差信号を生成して、広帯域の電圧制御発振器(VCO)を駆動するように入力RF電圧の周波数を調整する、閉ループのフィードバック回路を含む。この目的のために、本明細書で説明される位相ロックループを用いることの利点の1つに、その実施に用いられる回路が、シンクロサイクロトロンのビームチャンバから放射電磁界の範囲外の十分遠くに配置され得ることがある。
【0037】
図3は、図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロンの共振空胴38(真空チャンバ8内にある)の共振周波数に、入力RF電圧の周波数を一致させるのに使用することができる制御システム40の一実施例を示す。制御システム40は、位相検出器41、電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42、およびVCO 44を含む。
【0038】
位相検出器41は、2つの入力信号の周波数間の位相差を識別することができる任意のタイプの位相検出回路でよい。位相検出器41は、この実施例ではハードウェアで実施されているが、他の実施例では、位相検出器はソフトウェアを用いて実施されてよい。入力信号は、2つの電圧信号または電圧信号および電流信号など、信号の任意の組合せを含んでよい。位相検出器41の出力は、検出された位相差に相当する信号である。この実施例では、位相検出器41の出力は、検出された位相差に相当する期間を有する電流パルスである。
【0039】
電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42は、位相検出器41からの電流パルスを時間にわたって合計する積分器、および積分された電流パルスからVCO 44向け電圧制御信号を生成するループフィルタを含む。電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42が、位相検出器のスイッチングされた電流をVCO向け電圧へ変換するので、ループフィルタの伝達関数はインピーダンスである。一実施例では、伝達関数は次式で表され得て、
【0040】
【数1】

【0041】
ここで、R1およびC1は、ループフィルタの抵抗値および静電容量値である。
【0042】
ループフィルタの帯域幅は、R1とC1との組合せによって設定され、VCOの変調限界の約1/3の値を有してよい。ループの安定性を維持するために、この値は、VCO 44に対して入力制御信号に応答するのに十分な時間を与えるように設定されてよい。さらに、電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42の出力は、例えば高周波ノイズを除去するために低域通過フィルタをかけられてよい。低域通過フィルタは、抵抗-容量(RC)回路でよく、電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42の一部分またはそれから分離されたものである。低域通過フィルタの遮断周波数は、共振空胴の共振周波数の掃引時間(τsweep)に基づくものでよい。掃引時間は、共振周波数が、あらゆる可能な周波数を通って(例えば95MHzと135MHzとの間を)移動すなわち「掃引」するのに要する時間を意味する。低域通過フィルタの遮断周波数は、次式によって定義されてよい。
【0043】
【数2】

【0044】
前述の構成により、制御回路40は、図4の特定の掃引時間τsweep 43にわたってほぼ線形である周波数掃引を追跡し、同時に定常応答における望ましくない振動を低減することができる。
【0045】
VCO 44は、特定の周波数で発振するように入力電圧信号で制御される電子発振器である。この場合、入力電圧信号は、電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42の出力電圧である。図3に示されるように、VCO 44の出力電圧は、共振空胴に(例えばディー10に)印加される。VCO 44の出力電圧は、位相検出器41の入力にも印加される。
【0046】
制御システム40の動作の間中、共振空胴内のピックアップ要素は、共振空胴の共振周波数に相当する信号を得る。共振しているとき、電圧と電流とが同相であるため、信号は、電圧信号または電流信号のどちらでもよい。共振空胴内の容量性回路を使用し、電圧信号を得ることができる。共振空胴内の誘導性回路を使用し、電流信号を得ることができる。この実装形態では、共振空胴にはほとんど電流がなく、したがって容量性回路(例えば1つまたは複数のコンデンサ)は電圧信号を得る。
【0047】
位相検出器41の入力45に電圧信号が印加される。位相検出器41の他方の入力46が、VCO 44の出力(すなわち共振空胴への入力RF電圧)を受け取る。VCO出力の周波数が共振空胴の(時変)共振周波数と一致すると、両信号の位相差が0°になり、したがって同相になる。2つが一致しない、あるいは例えば位相検出器41によって定義された所定の許容範囲に入らないと、位相検出器41が電流パルスを出力する。電流パルスは、位相検出器によって検出される位相差に比例した幅を有し、その符号は、VCO出力(入力46)が、共振周波数(入力45)に対して進んでいるのか遅れているのかを示すように設定される。入力49および50に応答した、位相検出器41の例示的出力47が図5に示されている。
【0048】
電流から電圧へ変換する積分型ループフィルタ42は、位相検出器41の出力電流パルスを受け取って、出力電流パルスを時間にわたって合計する積分器を含む。結果として得られる合計が内部ループフィルタに印加され、内部ループフィルタは、VCO 44向けの電圧制御信号を生成する。電圧制御信号は、例えば高周波ノイズ成分を除去するために、低域通過フィルタをかけられてVCO 44に印加される。VCO 44は、前の入力電圧の周波数と前の共振空胴の周波数との間の差を実質的に補償するように出力RF電圧を発生する。例えば、位相差が大きいほど、VCO 44の出力RF電圧が大きくてよい。VCO 44の出力は、共振空胴に(例えばディー10に)供給され、また位相検出器41の入力45に供給される。新規の入力電圧および共振空胴周波数に対して、前述のプロセスを繰り返す。
【0049】
一実装形態では、制御システム40の開ループ伝達関数は次式で表され、
【0050】
【数3】

【0051】
ここで、kdは、位相検出器を実施するのに使用した位相ロックループ(PLL)チップの電流ゲインであり、kvはVCOのゲインであり、ωvはVCOの変調周波数限界であり、R1およびC1は積分器の抵抗性素子および容量性素子であり、R2およびC2は低域通過フィルタの抵抗性素子および容量性素子である。
【0052】
本明細書で説明された制御システムは、図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロンとともに使用するのに限定されず、あるいは一般的なシンクロサイクロトロンにさえ限定されず、むしろ、共振空胴の共振周波数が、比較的高いスルーレート(例えば約1ミリ秒または数ミリ秒で数十メガヘルツ程度を掃引する周波数)を有する任意のタイプのサイクロトロンで使用されてよい。
【0053】
さらに、本明細書で説明された制御システムは、図3に示された特定の構成に限定されない。むしろ、同じ機能または類似の機能を実施する任意の回路が、制御システムを実施するのに使用されてよい。
【0054】
図6は、図1Aおよび図1Bのシンクロサイクロトロンなどのサイクロトロンで実施され得る制御システム55の別の実施例を示す。図6の実施例は、共振空胴56の掃引される周波数範囲(一実施例では約1ミリ秒(ms)で約95メガヘルツ(MHz)と約135MHzとの間を掃引される)の実質的に全体にわたって実質的に一定の周波数を有する位相検出器を示す混合回路(本明細書では「混合器」と称される)を使用する。
【0055】
図6では、共振空胴56に印加される電圧制御発振器(VCO)59の出力57(f2)も、信号生成回路61によって印加され得る実質的に一定の周波数60(f1)と混合される。この実施例では、混合器62は、正弦波乗算器として作用する。次のような2つの正弦波f1とf2とを掛けると、
f1=Asin(ω1t+θ1)およびf2=Bsin(ω2t+θ2)
次式のように、2つの元の信号の周波数f1とf2との和および差から成る信号64(f3)を生成し、
【0056】
【数4】

【0057】
ここで、φ112およびφ212である。信号f3は、低域通過フィルタ65を通してフィルタリングされ、次式のように、フィルタリングされた信号f4を生成する。
【0058】
【数5】

【0059】
VCO 59の出力が時間に対して変化する周波数であるので、共振空胴56の共振周波数(ω2)は時間に対して変化し、混合器62の出力も時間に対して変化する。共振空胴(f5)の出力は次式となる。
f5=Csin(ω2t+θ3)
フィルタリングされた信号f4 66は、混合器70および71によって、それぞれ空洞入力f2 57および共振空胴の出力f5 69と混合されて、次式のように2つの信号f6、f7を生成する。
【0060】
【数6】

【0061】
および
【0062】
【数7】

【0063】
帯域通過フィルタ74および72は、それぞれフィルタ信号f6およびf7を中心周波数ω1で帯域通過させ、次式のように信号f8 76、およびf9 77を生成する。
【0064】
【数8】

【0065】
および
【0066】
【数9】

【0067】
この実施例では、周波数追跡を実行するために、位相検出器80は、共振空胴の入力57と共振空胴の出力69との間の位相差を求めて、この差をほぼゼロに追い込む。信号f5とf6との位相成分における差Θは、次式となる。
Θ=(θ21+90)-(θ31+90)=θ23
これは、共振空胴56の入力57と出力69との間の位相差である。この場合、位相検出器80への入力信号の周波数は、任意の時間tに対して、出力周波数ω2にかかわらず周波数ω1で実質的に一定である。位相検出器80の出力は、ループフィルタ81の中に通され、図3に関して説明されたのと同様に処理される。
【0068】
本明細書で説明された様々な実装形態の構成要素は、上記で具体的には説明されていない他の実施形態を形成するように組み合わせられてよい。本明細書で具体的には説明されていない他の実装形態も、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【符号の説明】
【0069】
2a 電気的コイル
2b 電気的コイル
4a 金属磁極
4b 金属磁極
6a ヨーク
6b ヨーク
8 真空チャンバ
10 ディー
12 ディー
13 間隙
14 真空チャンバ壁
16 ディー10の表面
18 イオン源
20 イオン源電極
22 抽出電極
24 抽出チャンネル
26 荷電粒子のビーム
28 回転コンデンサ
30 回転ブレード
31 モータ
32 ブレード
38 共振空胴
40 制御システム
41 位相検出器
42 積分型ループフィルタ
43 掃引時間
44 電圧制御発振器
45 入力
46 入力
47 出力
49 入力
50 入力
55 制御システム
56 共振空胴
57 出力
59 電圧制御発振器
60 周波数
61 信号生成回路
62 混合器
64 信号
65 低域通過フィルタ
66 フィルタリングされた信号
69 出力
70 混合器
71 混合器
72 帯域通過フィルタ
74 帯域通過フィルタ
76 信号
77 信号
80 位相検出器
81 ループフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振空胴を画定する磁性ヨークと、
前記共振空胴に入力電圧を供給する電圧源と、
前記入力電圧の周波数が前記共振空胴の共振周波数と実質的に一致するように前記電圧源を制御するフィードバック回路とを備えるシンクロサイクロトロン。
【請求項2】
前記電圧源が電圧制御発振器VCOを備え、
前記フィードバック回路が、前記入力電圧の前記周波数と前記共振周波数との間の位相差を検出する位相検出器を備え、
前記VCOが、前記位相差が所定値を逸脱したとき前記入力電圧の前記周波数を変化させるように構成される請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項3】
掃引される周波数範囲にわたって実質的に一定の周波数を前記位相検出器に与える回路をさらに備え、前記実質的に一定の周波数が、前記入力電圧の周波数および前記共振周波数から導出される請求項2に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項4】
前記位相検出器の出力を受け取る積分器と、
前記位相検出器の出力に基づいて前記VCO向けの制御信号を生成するフィルタであって、前記制御信号が、前記位相差が前記所定値を逸脱したとき、前記VCOに、前記入力電圧の前記周波数を変化させるためのものである、フィルタとをさらに備える請求項2に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項5】
前記フィルタが、前記共振周波数の掃引時間に反比例する遮断周波数を有する低域通過フィルタを備える請求項4に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項6】
前記位相検出器が、前記入力電圧の前記周波数を前記共振空胴内の電圧の共振周波数と比較することによって前記位相差を検出するように構成される請求項2に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項7】
前記位相検出器が、前記入力電圧の前記周波数を前記共振空胴内の電流の共振周波数と比較することによって前記位相差を検出するように構成される請求項2に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項8】
前記共振周波数が、約30MHzと約300MHzとの間を約1ミリ秒で掃引する請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項9】
前記共振空胴の前記共振周波数を変化させる同調回路をさらに備え、
前記同調回路が、回転可能な可変容量性回路または可変誘導性回路を備える請求項8に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項10】
前記共振空胴に粒子を供給するイオン源をさらに備え、
前記入力電圧が、前記共振空胴から粒子を引き出すための高周波(RF)電圧を含み、
前記RF電圧と、前記磁性ヨークによってもたらされた磁界との組合せが、前記共振空胴から引き出された粒子を加速する請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項11】
共振空胴を画定する磁気構造体と、
前記共振空胴に粒子を供給するイオン源と、
前記共振空胴に高周波(RF)電圧を供給する電圧源と、
前記RF電圧と時間とともに変化する前記共振空胴の共振周波数との間の位相差を検出する位相検出器と、
前記位相差に応答して、前記RF電圧の周波数が前記共振空胴の前記共振周波数と実質的に一致するように前記電圧源を制御する制御回路とを備える装置。
【請求項12】
前記制御回路が、
前記位相差に応答して電流制御信号を生成する積分器と、
前記電流信号に応答して前記電圧源向けの電圧制御信号を生成する低域通過フィルタとを備える請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記共振空胴が、
前記RF電圧を受け取る第1のディーと、
電気的に接地された第2のディーとを備え、
前記第1のディーと前記第2のディーとの間の空間が間隙を形成し、
前記第1のディーおよび前記第2のディーが、前記RF電圧に応答して前記間隙を横切って振動する電界を生成するように構成された同調可能な共振回路を画定する請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記共振空胴に関連した電圧ピックアップ要素をさらに備え、前記電圧ピックアップ要素が、前記共振空胴の電圧を得て前記位相検出器へ前記電圧を供給するためのものであり、前記電圧が前記共振周波数に相当する請求項11に記載の装置。
【請求項15】
時間とともに変化する共振空胴の共振周波数を、前記共振空胴への入力電圧の周波数に実質的に一致させる回路であって、
前記共振周波数と前記入力電圧との間の位相差を検出して、前記位相差に相当する第1の信号を出力する位相検出器と、
前記第1の信号に応答して制御信号を生成する積分器およびフィルタの回路と、
前記制御信号に応答して前記入力電圧を調整する電圧制御発振器とを備える回路。
【請求項16】
前記位相検出器が、前記共振空胴の電圧および前記共振空胴の電流のうちの1つから前記共振周波数を得るように構成される請求項15に記載の回路。
【請求項17】
前記共振周波数が、約30MHzと約300MHzとの周波数範囲にわたって、ほぼ所定の時間で掃引し、
前記積分器およびフィルタの回路が、前記所定の時間に反比例する遮断周波数を有する低域通過フィルタを備える請求項15に記載の回路。
【請求項18】
前記共振空胴が、前記共振空胴からの陽子を加速するように構成されたシンクロサイクロトロンの一部分である請求項15に記載の回路。
【請求項19】
前記共振空胴に関連するピックアップ要素をさらに備え、前記ピックアップ要素が、前記共振周波数に相当する信号を得るためのものであり、前記位相検出器が、前記ピックアップ要素から前記信号を受け取るためのものである請求項15に記載の回路。
【請求項20】
前記ピックアップ要素が容量性であり前記信号が電圧信号を含む、あるいは
前記ピックアップ要素が誘導性であり前記信号が電流信号を含む請求項15に記載の回路。
【請求項21】
時間とともに変化する共振空胴の共振周波数を、前記共振空胴への入力電圧の周波数に一致させる方法であって、
前記共振周波数と前記入力電圧との間の位相差を検出して、前記位相差に相当する第1の信号を出力するステップと、
前記第1の信号に応答して制御信号を生成するステップと、
前記制御信号に応答して前記入力電圧を調整するステップとを含む方法。
【請求項22】
前記位相差を検出するステップが、前記共振空胴の電圧および前記共振空胴の電流のうちの1つから前記共振周波数を得るステップを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記共振周波数が、約30MHzと約300MHzとの周波数範囲にわたって、ほぼ所定の時間で掃引し、
前記制御信号が、前記所定の時間に反比例する遮断周波数を有する低域通過フィルタ回路である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記共振空胴が、前記共振空胴からの陽子を加速するように構成されたシンクロサイクロトロンの一部分である請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記共振周波数に相当する信号を得るステップであって、前記共振周波数と前記入力電圧との間の前記位相差が、前記共振周波数に相当する前記信号に基づいて求められるステップをさらに含む請求項21に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−507151(P2011−507151A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536131(P2010−536131)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/084699
【国際公開番号】WO2009/073480
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(508147706)スティル・リバー・システムズ・インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】