説明

内接ギアポンプユニット

【課題】よりシンプルな構成にて、誘起電圧検出手段からの検出信号に基づいて、より低い回転数までより効率良く電動モータを回転駆動することができる内接ギアポンプユニットを提供する。
【解決手段】インナギア31とアウタギア32と電動モータとモータ制御手段60とを備え、電動モータは1組または複数組のN極とS極の磁極を有するロータ33と磁極と同数組のコイル34U、34Wとにて構成された2相モータである。モータ制御手段は、通電手段64U、64Wと誘起電圧検出手段65U、65Wとをそれぞれのコイルに対して備えており、一方の誘起電圧検出手段の検出信号を反転させる信号反転手段66Wと、信号反転手段の出力信号と他方の誘起電圧検出手段の検出信号とを重畳する信号重畳手段67とを備え、コイルへの非通電時における信号重畳手段からの出力信号に基づいて検出したコイルに対するロータの回転角度に基づいてコイルへの通電を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタギアの内歯にインナギアの外歯を内接させた構造を有して流体の吸入と吐出を行う内接ギアポンプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンの作動時において、各種機構の潤滑、作動、制御等を行うオイルを供給するために、自動変速機にメカニカルポンプが組み込まれることが知られている。
また近年では、走行していた車両が一時停止した際、エンジンを一時停止させるアイドリングストップシステムを搭載した車両が増加傾向にある。
アイドリングストップシステムを搭載した車両では、エンジンの一時停止(アイドルストップ)に伴ってメカニカルポンプの動作が停止するため、自動変速機内のクラッチ機構等にオイルを供給することができなくなる。そこで、アイドリングストップシステムが搭載された車両の中には、メカニカルポンプに加えて、エンジン停止時においても自動変速機内のクラッチ機構等にオイルを供給できる電動ポンプを設けている車両がある。
例えば特許文献1に記載された従来技術では、ワンウェイクラッチを介して自動変速機のシャフトの回転動力を機械的にインナギアに伝達するメカニカルポンプと、インナギアの内周面に配置した磁極とシャフトの外周面に配置したコイルとで構成された電動ポンプと、が一体的に構成されているオイルポンプ駆動構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−71394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている従来技術では、シャフトの外周面から外に向かう径方向にコイルが突出しないようにする必要があるので、コイルの巻数が制限され、小さなコイルを配置することしかできない。また、インナギアの内周面に磁石を配置し、さらに磁石の外周側にはワンウェイクラッチを配置しており、磁石の大きさも制限されてしまう。
なお、電動ポンプを電気的に回転駆動する際は、ポンプ負荷等に対して効率良く回転させるために、ロータの回転角度を検出しながら各コイルへの通電タイミング等を適切に制御している。
ロータの回転角度を検出する方法には、以下の2通りの方法がある。
(方法1)通電していないコイルに発生する正弦波状の誘起電圧を検出し、誘起電圧が0[V]を横切るタイミング(いわゆるゼロクロス点)を検出することで、該当するコイルの位置に対するロータの磁極の位置(すなわちロータの回転角度)を検出する方法。
(方法2)磁界の方向を検出可能な磁界検出手段(例えばホールセンサ)をロータに対して所定角度間隔で配置しておき、当該磁界検出手段の検出信号に基づいて、磁界検出手段の位置に対するロータの磁極の位置(すなわちロータの回転角度)を検出する方法。
上記の(方法1)では、通電していないコイルに発生する誘起電圧を利用しているため、ロータの回転が低速の場合、正弦波状の誘起電圧の振幅が小さくなり、正しいゼロクロス点を検出できない場合がある。
また上記(方法2)では、ロータの回転が低速であっても利用できるが、新たに磁界検出手段(ホールセンサ等)を所定の位置に配置する必要がある。
【0005】
なお、アイドリングストップにてエンジンの回転が停止した場合に所望されるオイルの要求量は、エンジン停止時であるため、エンジンの回転時と比較すると少量である。従って、エンジン停止時に要求されるオイルを電動ポンプの回転にて供給する場合、比較的低回転で電動ポンプを回転させることになる。
しかし、特許文献1に記載された従来技術では、コイルも磁石も小さいので、発生する誘起電圧の振幅も小さく、ゼロクロス点を検出可能な下限回転数が高くなり、この下限回転数未満では正しいゼロクロス点の検出が困難となり、ロータの回転角度が検出できず、モータが脱調してしまう可能性がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、よりシンプルな構成にて、誘起電圧検出手段からの検出信号に基づいて、より低い回転数までより効率良く電動モータを回転駆動することができる内接ギアポンプユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る内接ギアポンプユニットは次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、外周面に外歯を有してシャフトの外周面に外嵌されるインナギアと、前記インナギアの前記外歯と噛合する内歯を内周面に有するアウタギアと、前記インナギアまたは前記アウタギアの一方を駆動可能な電動モータと、前記電動モータを制御するモータ制御手段と、を備え、前記電動モータは、1組または複数組のN極とS極の磁極を有するロータと、前記磁極と同数組のコイルと、にて構成された2相モータである。
そして、前記モータ制御手段は、前記コイルに通電する通電手段と、前記コイルに非通電の場合に前記コイルに発生する誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出手段と、をそれぞれのコイルに対して備えており、更に、一方の前記誘起電圧検出手段にて検出された検出信号を反転させる信号反転手段と、前記信号反転手段の出力信号と他方の前記誘起電圧検出手段にて検出された検出信号とを重畳する信号重畳手段と、を備えており、前記コイルへの通電と非通電とを繰り返して前記ロータを回転駆動し、前記コイルへの非通電時における前記信号重畳手段からの出力信号に基づいて前記コイルに対する前記ロータの回転角度を検出し、検出した回転角度に基づいて前記コイルへの通電を制御する。
【0007】
この第1の発明によれば、コイルと磁極を同数組有する2相モータであるので、コイルへ非通電時、ある組の一方のコイルに発生する誘起電圧と、他方のコイルに発生する誘起電圧は、ちょうど反転した波形の電圧となる。従って、各組の一方のコイルの誘起電圧を反転して他方のコイルの誘起電圧と重畳することで、他方のコイルの誘起電圧の振幅を2倍にすることができる。
これにより、シンプルな構成にて、誘起電圧検出手段からの検出信号の振幅を2倍にして、より低い回転数までロータの回転角度を検出することが可能であり、より低い回転数までより効率良く電動モータを回転駆動することができる。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内接ギアポンプユニットであって、前記インナギアまたは前記アウタギアには、前記シャフトの回転動力がワンウェイクラッチを介して伝達されている。
【0009】
この第2の発明によれば、2相モータの起動開始時にロータが逆転することを適切に防止することができる。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る内接ギアポンプユニットであって、前記シャフトはエンジンの出力軸である。
【0011】
この第3の発明によれば、アイドルストップシステムを搭載した車両において、内接ギアポンプユニットを適切な位置に搭載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ポンプハウジング10に対する内接ギアポンプユニット30(メカニカルポンプと電動ポンプを一体化したポンプ)の配置位置、及び内接ギアポンプユニット30の構造の一実施の形態を説明する断面図である。
【図2】出力軸20の外周面にワンウェイクラッチK1を介してインナギア31が外嵌されている状態の例を説明する図である。
【図3】電動モータを構成する磁極、コイル(34U、34W)、モータ制御手段60の構成及び接続等を説明する図である。
【図4】ロータの回転角度と誘起電圧の関係、及びそれぞれのコイルにおける回転角度と電圧の関係を説明する図である。
【図5】非通電の角度区間As1、As2において、一方のコイルの反転信号と他方のコイルの信号とを重畳した誘起電圧Vuw1、Vuw2を説明する図である。
【図6】メカニカルポンプと電動ポンプを別々のポンプとして構成した例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
まず図1〜図5を用いて、エンジンの出力軸20からワンウェイクラッチK1を介してインナギア31を機械的に回転駆動するメカニカルポンプと、モータ制御手段60からコイル34U、34Wの通電を制御してアウタギア32を電動モータにて電気的に回転駆動する電動ポンプとが一体的に構成された内接ギアポンプユニット30の例を説明する。
【0014】
●[内接ギアポンプユニット30の全体構造(図1)とワンウェイクラッチK1の構造(図2)]
図1の断面図に示すように、ポンプハウジング10は、ハウジング体11、12が結合されることで構成され、エンジンのケーシング(図示省略)にボルト等にて固定される。
ハウジング体11、12が対向する位置には、内接ギアポンプユニット30を収容可能なポンプ収容空間が形成されている。そしてハウジング体11には、内接ギアポンプユニット30がオイルを吸入するための吸入ポート、内接ギアポンプユニット30がオイルを吐出するための吐出ポートが形成されている。
【0015】
また内接ギアポンプユニット30は、インナギア31、アウタギア32、ロータ33、ステータ34等を有している。
インナギア31は、図2に示すように外周面に外歯31Tを有してワンウェイクラッチK1を介してエンジンの出力軸20の外周面に外嵌されている。なお本実施の形態の例では、出力軸20には出力軸20と一体となって回転するスリーブ21が嵌め込まれており、スリーブ21の外周面にインナギア31が外嵌されている。また、ワンウェイクラッチK1の構造については後述する。また本実施の形態の説明では、外歯が7歯の例を説明する。またインナギア31は、図3に示すように回転軸Zi回りに回転し、回転軸Ziは出力軸20の回転軸ZCと同じである。
アウタギア32は、図3に示すように、インナギア31の外歯31Tに噛合する内歯32Tを内周面に有している。また本実施の形態の説明では、内歯が8歯の例を説明する。またアウタギア32は、図3に示すようにインナギア31の回転軸Ziに対して偏心した位置となる回転軸Zo回りに回転する。
ロータ33は、図3に示すように、アウタギア32の外周面に複数の磁極が交互に配置されて構成されており、アウタギア32と一体となって回転する。また本実施の形態では、磁極数(N極とS極の合計)は1組(1個のN極と1個のS極)である。この場合、各N極及びS極は、180°(360°/2)の間隔で配置されている。
ステータ34は、図3に示すように鉄心部34Zと、一対のコイル34U、34Wにて構成され、ロータ33の外周面に対向するように180°間隔で配置され、ポンプハウジング10に固定される。
【0016】
次に図2を用いてワンウェイクラッチK1の構造について説明する。
エンジンの出力軸20には、一体となって回転するスリーブ21が嵌め込まれている。
スリーブ21の外周面において、インナギア31の内周面と対向する位置には、所定角度間隔でクラッチ溝21Aが形成されている。本実施の形態では、90°間隔でクラッチ溝21Aが円周方向に形成されている。
クラッチ溝21Aは、一方の回転方向(図2の例では時計回りの方向)の面には、クラッチ溝21Aの底面からスリーブ21の外周面に向かって傾斜面21Cが形成されている。また他方の回転方向(図2の例では反時計回りの方向)の面には、クラッチ溝21Aの底面からスリーブ21の外周面に向かって垂直面21Bが形成されている。
【0017】
インナギア31の内周面において、スリーブ21の外周面と対向する位置には、所定間隔でピン収容空間31Cが形成されている。本実施の形態の例では、90°間隔でピン収容空間31Cが形成されている。各ピン収容空間31Cには、弾性部材31Bとクラッチピン31Aが収容されている。そしてクラッチピン31Aは、出力軸20の回転軸ZC(すなわちインナギア31の回転軸Zi)の方向に向けて弾性部材31Bにて付勢されており、クラッチピン31Aは、ピン収容空間31Cから回転軸ZCの方向に突出可能であるとともに、ピン収容空間31C内に収容可能である。
上記の構成にて、図2(B)に示すように、インナギア31に対して出力軸20(すなわちスリーブ21)が、相対的に時計回り方向(図2(B)におけるRR方向)に回転した場合は、クラッチピン31Aがクラッチ溝21Aの垂直面21Bに係合し、出力軸20(スリーブ21)とインナギア31とが一体となって回転する。
また、図2(C)に示すように、インナギア31に対して出力軸20(すなわちスリーブ21)が、相対的に反時計回り方向(図2(C)におけるRL方向)に回転した場合は、クラッチピン31Aがクラッチ溝21Aの傾斜面21Cから外周面へと移動可能であり、出力軸20(スリーブ21)に対してインナギア31が空回りすることができる。
【0018】
以上の構成にて、エンジンの出力軸20が回転している場合は、電動モータを動作させなくても、出力軸20がインナギア31に対して相対的に時計回り方向(図2(B)のRR方向)に回転することにより、ワンウェイクラッチK1が係合されてインナギア31が機械的に回転駆動され、インナギア31の回転に伴ってアウタギア32が回転駆動される。従ってエンジンの出力軸20が回転している場合、内接ギアポンプユニット30は、出力軸20(スリーブ21)にて機械的に回転駆動されるメカニカルポンプとして動作する。
また出力軸20の回転が停止している場合、モータ制御手段60は、コイル34U、34Wの各々を適切なタイミングで通電し、ロータ33(すなわちアウタギア32)を電気的に回転駆動する。そしてアウタギア32の回転に伴ってインナギア31が回転駆動される。このとき、出力軸20はインナギア31に対して相対的に反時計回り方向(図2(C)のRL方向)に回転するので、ワンウェイクラッチK1にて、インナギア31は出力軸20(スリーブ21)に対して空回りする。従って出力軸20の回転が停止している場合、内接ギアポンプユニット30は、モータ制御手段60にて電気的に回転駆動される電動ポンプとして動作する。
なお、出力軸20が回転している場合であっても、出力軸20による機械的な回転よりもより高速にロータ33を電気的に回転駆動することも可能であり、この場合、電動ポンプとして動作する。
【0019】
●[電動ポンプの制御システムの構成(図3)]
次に図3を用いて、内接ギアポンプユニット30を電動ポンプとして機能させる際の制御システム(ロータ33を電気的に回転駆動するための入出力)の構成及び接続等について説明する。なお図3では、ワンウェイクラッチK1の記載を省略している。
ロータ33には、ステータ34の一対のコイル34U、34Wに対向するように、1組のN極とS極が配置されている。N極とS極のそれぞれは、円周方向に180°の角度幅のサイズを有している。またコイル34Uとコイル34Wは、ロータ33の回転軸に対して対称(点対称)となる位置に配置されており、180°間隔で配置されている。
またロータ33とステータ34にて構成された電動モータ(この場合、2相モータ)を制御するモータ制御手段60は、CPU61、通電手段64U、64W、誘起電圧検出手段65U、65W、信号反転手段66W、信号重畳手段67等を有している。
【0020】
コイル34Uには、通電手段64Uの出力端子と誘起電圧検出手段65Uの入力端子が接続されている。またコイル34Wには、同様に、通電手段64Wの出力端子と誘起電圧検出手段65Wの入力端子が接続されている。
そして誘起電圧検出手段65W(一方の誘起電圧検出手段に相当)の出力端子は、検出信号を反転させる信号反転手段66Wを経由して信号重畳手段67の一方の入力端子に接続されている。また誘起電圧検出手段65U(他方の誘起電圧検出手段に相当)の出力端子は、信号重畳手段67の他方の入力端子に接続されている。
そして信号重畳手段67の出力端子は、CPU61の入力端子に接続されている。
また、通電手段64U、64Wのそれぞれの入力端子は、CPU61のそれぞれの出力端子に接続されている。
【0021】
CPU61は、コイル34U、34Wに通電していない場合にコイル34U、34Wに発生した誘起電圧に基づいた信号を、誘起電圧検出手段65U、65W、信号反転手段66W、信号重畳手段67を経由して取り込み、ロータ33の磁極の位置(すなわち回転角度)を検出することができる。
そしてCPU61は、検出したロータ33の回転角度に基づいて適切なタイミングにて通電手段64U、64Wのそれぞれに制御信号を出力し、コイル34U、34Wに電流を供給する。
【0022】
内接ギアポンプユニット30をモータ制御手段60にて電気的に回転駆動する場合、適切なタイミング及び適切な通電時間にて、各コイルを制御してロータ33を回転駆動する。なお、効率良くロータ33を回転駆動するには、ポンプの負荷等によるロータ33の回転の遅れ(あるいは回転の進み)を適切に検出し、ロータ33の現在の回転角度に応じて、各コイルへの通電タイミング及び通電時間等を制御している。
ここで、ロータ33の回転角度を検出する一般的な方法としては、通電していないコイルに対応する誘起電圧検出手段からの検出信号に基づいたゼロクロス点を検出する(方法1)と、磁界検出手段からの検出信号に基づいて検出する(方法2)の2通りがある。
(方法1)では、モータのトルク定数や逆起電圧定数によって異なるが、例えばロータ33の回転が300rpm以下等の低回転では、誘起電圧の振幅が小さく、正しいゼロクロス点を検出できないという欠点がある。
また(方法2)では、磁界検出手段を所定の位置に配置する必要があり、システムが複雑化してコストも増加するという欠点がある。
本願では、磁界検出手段を用いることなく、誘起電圧検出手段を用いてより低い回転数まで正しいゼロクロス点を検出可能とし、より低い回転数まで電動モータを効率良く回転駆動させるものであり、その方法について以下に説明する。
【0023】
●[電動モータの非動作時であってロータ33が回転している場合にコイル34U、34Wに発生する誘起電圧と、電動モータの動作時におけるコイル34U、34Wの電圧(図4)]
図4(A)は、ワンウェイクラッチK1を介して出力軸20の回転動力にて機械的にインナギア31が回転駆動され、コイル34U、34Wには通電手段64U、64Wから電流が供給されていない場合において、ロータ33の回転角度と、コイル34U、34Wに発生する誘起電圧V(34U)、V(34W)の関係を表す回転角度・誘起電圧特性グラフである。なお、図4の例では、ロータ33の回転方向を時計回り方向に設定している。
【0024】
図4(A)に示す回転角度・誘起電圧特性グラフでは、回転しているロータ33のS極がコイル34Uに対向し、N極がコイル34Wに対向している状態を回転角度0°に設定している。この時点では、コイル34Uの誘起電圧V(34U)とコイル34Wの誘起電圧V(34W)はどちらも基準電圧であり、いわゆるゼロクロス点P1に相当する位置となる。
ロータ33の回転角度が0°から90°に向けて大きくなっていくと、コイル34Uの誘起電圧V(34U)は徐々に高くなり、コイル34Wの誘起電圧V(34W)は徐々に低くなる。
そして回転角度が90°に達すると、ロータ33のN極とS極の境界がコイル34U、34Wに対向する位置となり、コイル34Uの誘起電圧V(34U)は最も高い電圧となり、コイル34Wの誘起電圧V(34W)は最も低い電圧となる。
ロータ33の回転角度が90°から180°に向けて大きくなっていくと、コイル34Uの誘起電圧V(34U)は徐々に低くなり、コイル34Wの誘起電圧V(34W)は徐々に高くなる。
そして回転角度が180°に達すると、ロータ33のN極がコイル34Uに対向し、S極がコイル34Wに対向する位置となる。この時点では、コイル34Uの誘起電圧V(34U)とコイル34Wの誘起電圧V(34W)はどちらも基準電圧であり、いわゆるゼロクロス点P2に相当する位置となる。
【0025】
ロータ33の回転角度が180°から270°に向けて大きくなっていくと、コイル34Uの誘起電圧V(34U)は徐々に低くなり、コイル34Wの誘起電圧V(34W)は徐々に高くなる。
そして回転角度が270°に達すると、ロータ33のN極とS極の境界がコイル34U、34Wに対向する位置となり、コイル34Uの誘起電圧V(34U)は最も低い電圧となり、コイル34Wの誘起電圧V(34W)は最も高い電圧となる。
ロータ33の回転角度が270°から360°(0°)に向けて大きくなっていくと、コイル34Uの誘起電圧V(34U)は徐々に高くなり、コイル34Wの誘起電圧V(34W)は徐々に低くなる。
そして回転角度が360°(0°)に達すると、ロータ33のS極がコイル34Uに対向し、N極がコイル34Wに対向する位置となる。この時点では、コイル34Uの誘起電圧V(34U)とコイル34Wの誘起電圧V(34W)はどちらも基準電圧であり、いわゆるゼロクロス点P1に相当する位置となる。
【0026】
図4(B)は電動モータ動作時(コイルの制御を実行中)におけるロータ33の回転角度とコイル34Uの電圧の関係を表す回転角度・コイル電圧特性グラフである。
図4(B)に示す回転角度・コイル電圧特性グラフにおいて、回転角度0°の周囲における角度区間As1では、コイル34Uは非通電状態であり、誘起電圧V(34U)が現われている。なお、図4(B)における角度区間As1の電圧をVu1とする。
また回転角度90°の周囲における角度区間At1では、コイル34Uは通電状態であり、この場合、コイル34UがS極、コイル34WがN極となるように通電され、通電電圧が現われている。
また回転角度180°の周囲における角度区間As2では、コイル34Uは非通電状態であり、誘起電圧V(34U)が現われている。なお、角度区間At1と角度区間As2の境界では、通電状態のコイル34Uが非通電状態となったことで発生する逆起電圧Vdが発生している。なお、図4(B)における角度区間As2の電圧をVu2とする。
【0027】
また回転角度270°の周囲における角度区間At2では、コイル34Uは通電状態であり、この場合、コイル34UがN極、コイル34WがS極となるように通電され、通電電圧が現われている。
また回転角度360°(0°)の周囲における角度区間As1では、コイル34Uは非通電状態であり、誘起電圧V(34U)が現われている。なお、角度区間At2と角度区間As1の境界では、通電状態のコイル34Uが非通電状態となったことで発生する逆起電圧Vpが発生している。
なお、図4(C)は電動モータ動作時(コイルの制御を実行中)におけるロータ33の回転角度とコイル34Wの電圧の関係を表す回転角度・コイル電圧特性グラフである。
コイル34Wの回転角度・コイル電圧特性は、図4(B)に示すコイル34Uの回転角度・コイル電圧特性が180°ずれた特性であるので説明を省略する。なお、図4(C)における角度区間As1の電圧をVw1とし、図4(C)における角度区間As2の電圧をVw2とする。
【0028】
●[より低回転まで誘起電圧を検出可能とする方法(図5)]
次に図5(A)及び(B)を用いて、より低回転までコイル34U、34Wに発生する誘起電圧のゼロクロス点を検出可能とする方法について説明する。ロータ33の回転速度が低くなると、誘起電圧の振幅が小さくなり、正しいゼロクロス点の検出が困難となるので、より低回転まで検出可能とするには、発生した誘起電圧の振幅を大きくすればよい。
ロータの回転数を変えずに振幅を大きくするには、増幅器を用いて振幅を増幅する方法も考えられるが、ノイズ等も増幅してしまうので、あまり好ましくない。
そこで発明者は、2相モータにすることで、一方のコイル34Wに発生する誘起電圧と、他方のコイル34Uに発生する誘起電圧とが、同一タイミングで反転した信号となっていることに着目した。しかも、ゼロクロス点の近傍ではちょうど非通電状態である。
また、一方の信号を反転して他方の信号と重畳しているので、双方に発生しているノイズの相殺も期待できる。
【0029】
つまり、図5(A)に示すように、角度区間As1において一方のコイル34Wに発生している誘起電圧Vw1を信号反転手段66Wにて反転した信号と、他方のコイル34Uに発生している誘起電圧Vu1の信号とを信号重畳手段67にて重畳する。これにより、角度区間As1において、コイル34Uに発生している誘起電圧Vu1の2倍の振幅の誘起電圧Vuw1を得ることができる。これにより、図4(A)におけるゼロクロス点P1をより低回転まで正しく検出することが可能となる。
同様に図5(B)に示すように、角度区間As2において一方のコイル34Wに発生している誘起電圧Vw2を信号反転手段66Wにて反転した信号と、他方のコイル34Uに発生している誘起電圧Vu2の信号とを信号重畳手段67にて重畳する。これにより、角度区間As2において、コイル34Uに発生している誘起電圧Vu2の2倍の振幅の誘起電圧Vuw2を得ることができる。これにより、図4(A)におけるゼロクロス点P2をより低回転まで正しく検出することが可能となる。
モータ制御手段60のCPU61は、信号重畳手段67からの信号に基づいて、振幅が2倍となった誘起電圧Vuw1、Vuw2を用いて、ゼロクロス点P1、P2をより低回転まで検出することが可能となる。
これにより、より低回転までロータ33の回転角度を正しく検出することができるので、より低い回転数までより効率良く電動モータを回転駆動することができる。
【0030】
●[メカニカルポンプと電動ポンプとを別々のポンプとして構成した内接ギアポンプユニット330の例(図6)]
以上の説明では、メカニカルポンプと電動ポンプとが一体的に構成された内接ギアポンプユニット30の例を説明した。
次に図6を用いて、エンジンの出力軸20の回転軸ZC方向に、メカニカルポンプ230と電動ポンプ130とが並列に配置された内接ギアポンプユニット330について説明する。なお図6は、回転軸ZCを通る平面にて切断した断面図を示している。
【0031】
電動ポンプ130は、電動側インナギア131と、電動側アウタギア132と、ロータ133と、ステータ134等にて構成されている。
電動側インナギア131は、スリーブ21に対して回転可能(空回り可能)となるようにに嵌め込まれて図3に示すインナギア31と同様に、外周面に外歯を有しており、回転軸ZC回りに回転可能である。
電動側アウタギア132は、図3に示すアウタギア32と同様に、電動側インナギア131の外歯に噛合する内歯を内周面に有しており、電動側インナギア131の回転軸ZCに対して偏心した位置の回転軸回りに回転可能である。
ロータ133は、図3に示すロータ33と同様に、電動側アウタギア132の外周面に取り付けられて電動側アウタギア132と一体となって回転し、1組の磁極(N極、S極)が配置されている。
ステータ134は、図3に示すステータ34と同様に、ポンプハウジング10(ハウジング体13、14にて構成)に固定され、鉄心部134Zと一対のコイル134U、134Wとを有している。
なお、図3に示すモータ制御手段60と同等の構成のモータ制御手段を備えているが、図示は省略する。
【0032】
メカニカルポンプ230は、メカ側インナギア231と、メカ側アウタギア232と、にて構成されている。
メカ側インナギア231は、スリーブ21と一体となって回転するように嵌め込まれ、外周面に外歯を有しており、回転軸ZC回りに回転する。
メカ側アウタギア232は、メカ側インナギア231の外歯に噛合する内歯を内周面に有しており、メカ側インナギア231の回転軸ZCに対して偏心した位置の回転軸回りに回転する。
【0033】
またメカ側アウタギア232と電動側アウタギア132はワンウェイクラッチK2を介して接続されている。
図6(B)及び(C)に示すように、ワンウェイクラッチK2は、メカ側アウタギア232における電動側アウタギア132と対向する面に形成されたピン収容空間232Cと、ピン収容空間232C内に収容されている弾性部材232Bとクラッチピン232Aと、電動側アウタギア132におけるメカ側アウタギア232と対向する面に形成されたクラッチ溝132Aにて構成されている。
なお、当該ワンウェイクラッチK2は、図2に示した構造のピン収容空間31C、弾性部材31B、クラッチピン31A、クラッチ溝21Aと同様であるので説明を省略する。
当該ワンウェイクラッチK2は、メカ側アウタギア232がエンジンの回転方向に回転している場合はワンウェイクラッチK2が係合して電動側アウタギア132を同方向に機械的に回転駆動する。また、例えばメカ側アウタギア232が停止している場合、電動側アウタギアを電動モータ(ロータ133とステータ134にて構成)にてエンジンの回転方向と同方向に回転駆動すると、ワンウェイクラッチK2は空回り状態となる。
【0034】
上記のワンウェイクラッチK2を有することで、エンジンの出力軸20及びスリーブ21が回転すると、メカ側インナギア231が機械的に回転駆動され、メカ側インナギア231の回転に伴ってメカ側アウタギア232が回転してメカニカルポンプ230が動作する。また、ワンウェイクラッチK2にてメカ側アウタギア232の動力が電動側アウタギア132に伝達され、電動側アウタギア132が機械的に回転駆動される。そして電動側アウタギア132の回転に伴って電動側インナギア131が回転して電動ポンプ130が動作する。
また、エンジンの出力軸20及びスリーブ21の回転が停止した場合、モータ制御手段60からコイルへの通電を制御してロータ133を回転駆動することで電動側アウタギア132を電気的に回転駆動することができる。そして電動側アウタギア132の回転に伴って電動側インナギア131が回転して電動ポンプ130が動作する。
【0035】
また電動ポンプ130の吸入口の近傍には電動側吸入ポート117が形成されており、メカニカルポンプ230の吸入口の近傍にはメカ側吸入ポート115が形成されている。
また電動ポンプ130の吐出口の近傍には電動側吐出ポート118が形成されており、メカニカルポンプ230の吐出口の近傍にはメカ側吐出ポート116が形成されている。
そして、電動ポンプ130とメカニカルポンプ230との間には、メカニカルポンプ230を介して電動側吸入ポート117と電動側吐出ポート118が連通しないように、及び電動ポンプ130を介してメカ側吸入ポート115とメカ側吐出ポート116が連通しないように、遮蔽板140が設けられている。
なお遮蔽板140には、電動側吸入ポート117とメカ側吸入ポート115とを連通する連通孔144が形成されており、電動側吐出ポート118とメカ側吐出ポート116とを連通する連通孔145が形成されている。
なお、モータ制御手段(図示省略)のCPUの処理は、図4及び図5を用いて説明した内容と同じであるので、説明を省略する。
なお、出力軸20(スリーブ21)が回転している場合であっても、電動モータを回転駆動してメカ側アウタギア232の回転よりも高速で電動側アウタギア132を回転させることもできる。
また、図6の例では、メカ側アウタギア232からワンウェイクラッチK2を介して電動側アウタギア132を機械的に回転駆動する例を説明したが、図2に示すように、出力軸20と電動側インナギア131との間にワンウェイクラッチK1を備え、出力軸20から電動側インナギア131を機械的に回転駆動するように構成してもよい。
【0036】
以上、図1〜図5を用いて説明したメカニカルポンプと電動ポンプとを一体化した(一体型の)内接ギアポンプユニット30では、エンジンの出力軸20の回転動力が、ワンウェイクラッチK1を介してインナギア31に伝達される例を説明した。またロータ33とアウタギア32とを連結した例を説明したが、ロータ33とインナギア31とを連結するようにしても良い。
また、図6を用いて説明したメカニカルポンプ230と電動ポンプ130とを別体で構成して軸方向に並列配置した(並列型の)内接ギアポンプユニット330では、エンジンの出力軸20の回転動力が、メカ側アウタギア232とワンウェイクラッチK2を介して電動側アウタギア132に伝達される例を説明した。またロータ133と電動側アウタギア132とを連結した例を説明したが、ロータ133と電動側インナギア131とを連結するようにしても良い。
そして一体型の内接ギアポンプユニット30と並列型の内接ギアポンプユニット330のどちらも、一方のコイルの誘起電圧を反転した信号と、他方のコイルの誘起電圧と、を重畳した信号に基づいてロータの回転角度を検出し、検出した回転角度に基づいてコイルの通電を制御することで、より低回転まで、より効率良く電動モータを電気的に回転駆動することができる。
また、本実施の形態の説明では、一体型の内接ギアポンプユニット30も並列型の内接ギアポンプユニット330も、ワンウェイクラッチK1、K2を介して出力軸20の回転動力を伝達する構成の例を説明した。なお一体型の内接ギアポンプユニット30も並列型の内接ギアポンプユニット330もどちらもワンウェイクラッチK1、K2を省略することができるが、ワンウェイクラッチK1、K2を有することで、ホールセンサを用いることなく、2相モータの起動時における逆転(この場合、出力軸20の回転方向とは逆の方向への回転)を適切に防止することができるので、ワンウェイクラッチK1、K2を有するほうが、より好ましい。(ワンウェイクラッチK1、K2を省略した場合、起動時の逆転防止のために磁極の位置を検出する必要があるため)
【0037】
本発明の内接ギアポンプユニット30、330は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また本発明の内接ギアポンプユニット30、330において、アウタギア及びインナギアの歯数は、本実施の形態にて説明した歯数に限定されず、種々の歯数を設定することができる。
本発明の内接ギアポンプユニット30、330は、例えば車両に用いる種々のオイルポンプとして利用することができる他にも、種々の流体の吸入と吐出を行う種々の機械のポンプとして利用することができる。
本実施の形態の説明では、1組の磁極を有するロータと、1組のコイルを有するステータと、にて2相モータを構成した例を説明したが、1組または複数組の磁極を有するロータと、磁極と同数組のコイルを有するステータと、にて2相モータを構成しても良い。この場合、通電手段と誘起電圧検出手段を各コイルに対応させて設ける。そして信号反転手段と信号重畳手段を各コイルの組に対応させて設ける。そして、各組のコイルにおいて、一方のコイルの誘起電圧検出手段からの検出信号を対応する信号反転手段にて反転し、対応する信号重畳手段を用いて、反転信号と他方のコイルの誘起電圧検出手段からの検出信号とを重畳する。
【符号の説明】
【0038】
10 ポンプハウジング
20 出力軸
21 スリーブ
30 内接ギアポンプユニット
31 インナギア
32 アウタギア
33 ロータ
34 ステータ
34U、34W コイル
34Z 鉄心部
60 モータ制御手段
61 CPU
64U、64W 通電手段
65U、65W 誘起電圧検出手段
66W 信号反転手段
67 信号重畳手段
130 電動ポンプ
131 電動側インナギア
132 電動側アウタギア
133 ロータ
134 ステータ
140 遮蔽板
230 メカニカルポンプ
231 メカ側インナギア
232 メカ側アウタギア
330 内接ギアポンプユニット
K1、K2 ワンウェイクラッチ
Zi インナギアの回転軸
Zo アウタギアの回転軸
ZC 出力軸の回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に外歯を有してシャフトの外周面に外嵌されるインナギアと、
前記インナギアの前記外歯と噛合する内歯を内周面に有するアウタギアと、
前記インナギアまたは前記アウタギアの一方を駆動可能な電動モータと、
前記電動モータを制御するモータ制御手段と、を備え、
前記電動モータは、1組または複数組のN極とS極の磁極を有するロータと、前記磁極と同数組のコイルと、にて構成された2相モータであり、
前記モータ制御手段は、
前記コイルに通電する通電手段と、前記コイルに非通電の場合に前記コイルに発生する誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出手段と、をそれぞれのコイルに対して備えており、
更に、一方の前記誘起電圧検出手段にて検出された検出信号を反転させる信号反転手段と、前記信号反転手段の出力信号と他方の前記誘起電圧検出手段にて検出された検出信号とを重畳する信号重畳手段と、を備えており、
前記コイルへの通電と非通電とを繰り返して前記ロータを回転駆動し、
前記コイルへの非通電時における前記信号重畳手段からの出力信号に基づいて前記コイルに対する前記ロータの回転角度を検出し、検出した回転角度に基づいて前記コイルへの通電を制御する、
内接ギアポンプユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の内接ギアポンプユニットであって、
前記インナギアまたは前記アウタギアには、前記シャフトの回転動力がワンウェイクラッチを介して伝達されている、
内接ギアポンプユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内接ギアポンプユニットであって、
前記シャフトはエンジンの出力軸である、
内接ギアポンプユニット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−74732(P2013−74732A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212248(P2011−212248)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】