説明

内燃機関における動力伝達構造

【課題】内燃機関のクランク軸からの回転動力を、衝撃音等騒音を低減しつつ、入力ギアからクラッチに伝達できる動力伝達構造。
【解決手段】内燃機関1の回転動力が伝達され、外周にクラッチアウタ37Bとの凹凸係合部87A、87Bを備えた結合円板80が同芯に取り付けられた入力ギア20と、椀状で周縁部39に結合円板の凹凸係合部と係合する凹凸状係合部38が設けられたクラッチアウタと、クラッチインナ40Bとの間の、断接を行うクラッチ21とを備える内燃機関における動力伝達構造において、結合円板は、同芯で軸方向に並ぶ本体部80Aとプレート部80Bとから構成され、プレート部の凹凸係合部87Bは、本体部の凹凸係合部87Aと同径で共にクラッチアウタの凹凸状係合部に係合されるとともに、本体部の凹凸係合部と互いに逆方向に回動付勢されることを特徴とする内燃機関における動力伝達構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転動力が伝達される入力ギアと、多板クラッチ装置のクラッチアウタとの動力伝達構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のクランク軸に嵌装されたプライマリドライブギアからの回転動力を、変速機のメイン軸上に設けられたプライマリドリブンギアを介して、クラッチに伝達する構造が、例えば下記特許文献1に示されるように、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−43562号公報(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示される動力伝達構造では、プライマリドリブンギアとクラッチのクラッチアウタが別体に形成され、互いにスプライン係合されている。
通常、鍛造成形されるクラッチアウタは、抜き勾配等も考慮し、多少外側に向けて径が広がるように形成されるため、上記スプライン係合部にガタが生じてしまい、クラッチの断接時等に衝撃音が発生してしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、メイン軸等の回転部材にプライマリドリブンギアおよびクラッチを設けた内燃機関において、クランク軸からの回転動力を、衝撃音等騒音を低減しながら、プライマリドリブンギアからクラッチに伝達できる動力伝達構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内燃機関の回転動力が伝達され、外周にクラッチアウタとの凹凸係合部を備えた結合円板が同芯に取り付けられた入力ギアと、椀状で周縁部に前記結合円板の凹凸係合部と係合する凹凸状係合部が設けられた前記クラッチアウタと、クラッチインナとの間の、断接を行うクラッチとを備える内燃機関における動力伝達構造において、前記結合円板は、同芯で軸方向に並ぶ本体部とプレート部とから構成され、同プレート部の凹凸係合部は、前記本体部の凹凸係合部と同径で共に前記クラッチアウタの凹凸状係合部に係合されるとともに、前記本体部の凹凸係合部と互いに逆方向に回動付勢されることを特徴とする内燃機関における動力伝達構造である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記結合円板は、前記クラッチアウタの周縁部内側で同クラッチアウタと係合されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記結合円板は、径方向において前記入力ギアの内方に配置されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記結合円板は、径方向で前記クラッチインナの一部と重なるように配置されたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記結合円板の一部が、前記入力ギアの内側に入り込んで配置されたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記結合円板の前記本体部は前記入力ギアに取り付けられ、前記プレート部は前記本体部に遊転可能に嵌装され、前記クラッチアウタと前記本体部との係合幅は、前記クラッチアウタと前記プレート部との係合幅よりより大きいことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記プレート部は、前記本体部より外径が小さく、軸方向で前記クラッチインナの被動摩擦板と重なって配置されたことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記本体部と前記プレート部との間にダンパー部材が設けられ、同ダンパー部材は、前記入力ギアと前記本体部との間のダンパー部の径方向幅内に収まるように形成されたことを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記ダンパー部材は、前記プレート部の凹凸係合部と、前記本体部の凹凸係合部とを、互いに逆方向に回動付勢するばねであることを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の内燃機関の動力伝達構造において、前記クラッチは、同芯に2つのクラッチアウタの、端板部が接合され、前記周縁部を逆方向に向けたツインクラッチであり、前記2つのクラッチアウタの一方の周縁部に前記結合円板の凹凸係合部と係合する前記凹凸状係合部が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明の内燃機関の動力伝達構造によれば、内燃機関のクランク軸からの回転動力を入力ギア(プライマリドリブンギア)を介してクラッチに伝達する際に、結合円板とクラッチアウタとの係合部のガタを無くすことができる。
従って、クラッチアウタの凹凸状係合部(係合溝と凸条部)との間で発生する衝撃音等の騒音を低減しつつ、クランク軸からの回転動力をプライマリドリブンギアを介してクラッチに伝達できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、結合円板とクラッチアウタとの係合部がクラッチアウタの外周よりも突出することがないので、係合部がクラッチアウタの周縁部外側に形成される場合と比べて、結合円板がコンパクトになる。
【0018】
請求項3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、結合円板が入力ギアの径方向に突出することがなく、結合円板の凹凸係合部がコンパクトに設けられる。
【0019】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、結合円板とクラッチインナを軸方向に大型化することなく設けることができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明の効果に加え、結合円板と入力ギアを軸方向においてコンパクトに設けることができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明の効果に加え、主に結合円板とクラッチアウタとの係合部のガタを無くすプレート部よりも、入力ギアに取り付けられ主な回転動力伝達を担う本体部の係合幅を大きくすることにより、より大きなトルクが係る本体部の耐久性が向上する。
【0022】
請求項7の発明によれば、請求項1ないし請求項6のいずれかの発明の効果に加え、プレート部は結合円板とクラッチアウタとの係合部のガタを無くす機構を有しながら、径方向に広がることなくクラッチアウタの内側にコンパクトに設けられる。
【0023】
請求項8の発明によれば、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明の効果に加え、大きなスペースをとることなく、結合円板のダンパー効果を奏し、ガタを無くすことができる。
【0024】
請求項9の発明によれば、請求項8の発明の効果に加え、コンパクトな配置のダンパー部材により、プレート部の回動付勢を行ない、結合円板とクラッチアウタとの係合部のガタを無くすことができる。
【0025】
請求項10の発明によれば、請求項1ないし請求項9のいずれかの発明の効果に加え、ツインクラッチを備えた内燃機関の動力伝達構造がコンパクトに構成される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の右側面図である。
【図2】本実施形態の内燃機関の変速機とその周辺を切り出して示す断面図である。
【図3】図2中、クラッチとその周辺の拡大断面図である。
【図4】クラッチアウタ組立体の縦断面図である。
【図5】図4中V−V矢視による、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関1の右側面図である。この内燃機関1は、並列2気筒4ストロークサイクル内燃機関である。図中の矢印FRはこの内燃機関1が図示しない車両、例えば自動二輪車に搭載されたときの、車両の前方に対応して前方を指している。同様に矢印UPは上方を指している。
また、他の図において、同様に、矢印LH、RHは、車両の方向に対応して左方、右方を指しており、本明細書中においても、左右、前後、上下は、他に断りがない限り同様に車両搭載時の車両の方向による。
【0028】
内燃機関1の主な外殻は、上部クランクケース2Aと下部クランクケース2Bとからなるクランクケース2、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、シリンダヘッドカバー5、及びオイルパン6からなっている。
【0029】
クランクケース2には、変速機7が一体的に組み込まれている。上下に2分割されているクランクケース2の合わせ面の軸受にクランク軸8、変速機7のメイン軸9およびカウンタ軸10が回転可能に支持されている。下部クランクケース2Bの下端に接続されているオイルパン6にストレーナ11を備えたオイル吸入管12が設けられ、その上部に制御用オイルポンプ13と、制御用オイルポンプ13に連なる制御用オイルフィルタ14が接続されている。
【0030】
内燃機関1には潤滑用オイルポンプも設けられているが、制御用オイルポンプ13の向こう側に設けてあるので、図では見えていない。潤滑用オイルフィルタ15はエンジンの前部に設けてある。制御用オイルポンプ13の吐出圧は、クラッチアクチュエータ用に高くなっており、潤滑用オイルポンプの吐出圧は、制御用オイルポンプ13の吐出圧に比して低い。
【0031】
内燃機関1のクランクケース2の後部に収容されている変速機7は、常時噛合い式ツインクラッチ変速機である。また、クランクケース2の後部には、変速機7の変速段を変化させるシフトドラム16等のチェンジ機構が収容されている。クランクケース2の右側部は右クランクケースカバー17で覆われている。右クランクケースカバー17の外面には各種油路の外側部が襞状に膨出している。なお、カウンタ軸10から動力を得て車両を駆動する出力軸18がクランク軸8の下方に設けてある。
【0032】
図2は、変速機7の断面図である。変速機7は、メイン軸9と、カウンタ軸10と、プライマリドリブンギア(本発明の「入力ギア」)20と、第1クラッチ21Aと第2クラッチ21Bとからなる一対のクラッチ(本発明の「クラッチ」)21を備えている。
【0033】
メイン軸9の左端はボールベアリング22を介してクランクケース2に、中央部はボールベアリング23を介してクランクケース2に、それぞれ回転可能に支持されている。メイン軸9の右端は、ボールベアリング24を介して右クランクケースカバー17に回転可能に支持されている。カウンタ軸10の左端はボールベアリング25を介してクランクケース2に、右端はニードルベアリング26を介してクランクケース2に、それぞれ回転可能に支持されている。
【0034】
メイン軸9は長いメイン内軸9Aと、メイン外軸9Bとからなっている。メイン外軸9Bは、メイン内軸9Aの一部をニードルベアリング27A、27Bを介して相対回転可能に覆っている。メイン外軸9Bの左端は、C形止め輪28によって左方移動が規制されている。メイン外軸9Bの右端は、クラッチアウタ共通ボス部37Cに環状スペーサ29を介して当接し、右方移動が規制されている。
【0035】
メイン軸9にはM1〜M6の6個の歯車が設けてあり、カウンタ軸10には上記歯車M1〜M6に対応して、これらと常時噛み合うC1〜C6の6個の歯車が設けてある。Mはメイン軸付属歯車、Cはカウンタ軸付属歯車、添数字1〜6は1速〜6速の変速比を決める歯車であることを示している。奇数変速段の歯車M1、M5、M3はメイン内軸9Aに、偶数変速段の歯車M4、M6、M2はメイン外軸9Bに設けてある。
【0036】
図2において、上記歯車符号に付した添字xは、軸と一体形成された固定歯車、添字wは、軸に保持され、軸上の所定の位置で軸に対して相対回転可能の空転歯車、添字sは軸方向摺動可能の摺動歯車を表す。摺動歯車は、スプライン30によって軸に保持され軸に対して周方向に相対回転しないが軸方向には摺動が可能な歯車である。固定歯車(添字x)及び摺動歯車(添字s)が噛み合う相手側の歯車は、必ず空転歯車(添字w)である。空転歯車(添字w)は単独では歯車としての機能を果たせず、歯車としての機能を果たすには、隣に設けられている摺動歯車(添字s)によって軸に固定されることが必要である。摺動歯車には、図示しないチェンジ機構のシフトフォークが係合する係合溝Gが設けてあり、これに係合するシフトフォークによって、摺動歯車(添字s)は必要に応じて軸方向に移動し、隣り合う空転歯車(添字w)と断接する。
【0037】
プライマリドリブンギア20は、クランク軸8に嵌合されたプライマリドライブギア75と噛み合って、内燃機関1の回転動力が伝達される。
本実施形態において、プライマリドライブギア75は、図2に示されるように、セラシ機構を備えている。
【0038】
すなわち、プライマリドライブギア75は互いに軸方向に重ね合わされるメインギア75Aと幅の狭いサブギア75Bとからなり、メインギア75Aは、クランク軸8に固定支持され、一方、サブギア75Bは、メインギア75Aのボス76上へ遊転可能に嵌装されている。
メインギア75Aとサブギア75Bは、同径、同ピッチのギアであり、共にプライマリドリブンギア20の同じ歯間に噛み合うが、両ギアの間にはコイルばね77が介装され、両ギアは互いに逆向き方向に回動付勢される。
【0039】
プライマリドライブギア75がプライマリドリブンギア20を回転駆動する時、プライマリプライマリドリブンギア20の歯面を押接するプライマリドライブギア75のメインギア75Aの歯の裏面にはバックラッシュが発生する恐れがあるが、サブギア75Bはメインギア75Aの回転駆動方向と逆方向に回動付勢されているので、裏面側の、プライマリドリブンギア20の次位の歯の正面側を押接し、バックラッシュを解消している。
【0040】
従って、プライマリドライブギア75は、プライマリドリブンギア20との噛み合い部において、ガタ無しに噛み合うことができるので、起動、停止、トルク変動等において、衝撃音等のギア鳴りが発生することが防止されている。
【0041】
図3は、図2の一対のクラッチ21及びその周辺の拡大図である。メイン内軸9Aの右半部には、クラッチアウタ共通ボス部37Cが設けてある。クラッチアウタ共通ボス部37Cは、ニードルベアリング31A、31Bを介して、メイン内軸9Aの軸端部の回りを回転可能に覆っている。クラッチアウタ共通ボス部37Cの右端は、他の部材に環状スペーサ32を介して当接し、その部材と共にメイン内軸9Aの軸端のワッシャ33及びナット34によって移動規制されている。クラッチアウタ共通ボス部37Cの左端は、メイン外軸9Bの右端に環状スペーサ29を介して当接している。
【0042】
クラッチアウタ共通ボス部37Cに、第1クラッチ21Aのクラッチアウタ37Aと、第2クラッチ21Bのクラッチアウタ(本発明のクラッチアウタ」)37Bとが溶接部35で溶接接合されている。クラッチアウタ37A、37Bの外周部も互いに溶接部36で溶接されている。即ち、クラッチアウタ共通ボス部37Cと、第1クラッチ21Aのクラッチアウタ37Aと、第2クラッチ21Bのクラッチアウタ37Bとが、一体化されてクラッチアウタ組立体37(図4参照)を形成している。
一対のクラッチ21は、同芯にクラッチアウタ37A、37Bの端板部37bが接合され、椀状の周縁部39を逆方向に向けたツインクラッチとなっている。
【0043】
第1クラッチ21Aのクラッチインナ40Aはメイン内軸9Aの右端においてスプライン41に嵌合し、ワッシャ33とナット34によってメイン内軸9Aに固定されている。第2クラッチ21Bのクラッチインナ40Bはメイン外軸9Bの右端にスプライン42に嵌合して固定されている。
【0044】
ツインクラッチをなす一対のクラッチ21(21A、21B)は、共に多板クラッチである。
複数の駆動摩擦板43が、一対のクラッチ21の各クラッチアウタ37A、37Bの外周部の内側に軸方向に配向して複数設けられた係合溝37aに係合されて、クラッチアウタ37A、37Bに対して相対回転不能且つ軸方向移動可能に設けてある。
また、複数の被動摩擦板44が、一対のクラッチ21の各クラッチインナ40A、40Bの外側に軸方向に配向して複数設けられた係合溝40aに係合されて、クラッチインナ40A、40Bに対して相対回転不能且つ軸方向移動可能に設けてある。駆動摩擦板43と被動摩擦板44は交互に配置されて摩擦板群45を構成している。
【0045】
各クラッチ21A、21Bのクラッチアウタ37A、37Bの端板部37bと摩擦板群45との間に、加圧プレート46が設けてあり、加圧プレート46の外周部の端部は、摩擦板群45の一端の駆動摩擦板43に当接している。摩擦板群45の他端の駆動摩擦板43は、クラッチアウタ37に嵌められたC形止め輪47を介して移動規制されている。加圧プレート46とクラッチインナ40との間にバネ受け部材48が設けてある。バネ受け部材48の内周端はクラッチアウタ共通ボス部37Cに設けられたC形止め輪49よって移動規制されている。バネ受け部材48の外周端はシール部材50を介して加圧プレート46の外周部の内側に摺動可能に接している。バネ受け部材48に一端を接するコイルばね51を介して、加圧プレート46はクラッチアウタ37A、37Bの端板部37bの方へ押されている。
【0046】
それぞれのクラッチ21A、21Bにおいて、クラッチアウタの端板部37bと加圧プレート46との間に加圧室52A、52Bが形成されている。バネ受け部材48と加圧プレート46との間に圧力調整室53A、53Bが形成されている。
【0047】
第2クラッチ21Bのクラッチインナ40Bは、係合溝40aを形成した部分からプライマリドリブンギア20方向に延在する筒状部40Baと、延在した端縁から軸芯方向に延在する環板状部40Bbと、延在した内周端からプライマリドリブンギア20と軸方向において重なるように延在し、メイン外軸9Bにスプライン42嵌合するボス状部40Bcを備えている。
【0048】
クラッチインナ40Bのボス状部40Bcの外周に、プライマリドリブンギア20が、ニードルベアリング19を介して相対回転可能に設けてある。プライマリドリブンギア20は、クランク軸8に設けられたプライマリドライブギア75(図2参照)に常時噛合う歯車であり、プライマリドライブギア75から回転動力の伝達を受ける。
【0049】
プライマリドリブンギア20とボールベアリング23との間にはスリーブ状スペーサ54が設けられ、プライマリドリブンギア20とクラッチインナ40Bとの間には環状スペーサ55が設けられ、これらによって、プライマリドリブンギア20は軸方向移動が規制されている。
【0050】
プライマリドリブンギア20には、この歯車20を第2クラッチ21Bのクラッチアウタ37Bに係合させるための結合円板80の本体部80Aが、リベット81を介して取付けてある。
結合円板80は、同芯で軸方向に並ぶ本体部80Aとプレート部80Bとから構成される。
本体部80Aは、径方向においてプライマリドリブンギア20より内方に配置される。すなわち、プライマリドリブンギア20より小径である。また、本体部80Aの左側面側の一部が、プライマリドリブンギア20の右側面から内側に入り込んで配置されている。
このため、本体部80Aのプライマリドリブンギア20への取り付けがコンパクトになされている。
【0051】
結合円板80の本体部80Aは、リベット81を挿通する孔を備えた3個の係合凸部82を有し、リベット81とともにプライマリドリブンギア20の3箇所の係合凸部挿通孔20aに挿入され、コイルばねカバー部材83と共にリベット81で一体化される。本体部80Aとコイルばねカバー部材83とは、リベット頭部81aとリベット81の端部のかしめによって、固く一体化されているが、係合凸部挿通孔20aは係合凸部82の断面に比して大きい孔であり、さらに、コイルばねカバー部材83とプライマリドリブンギア20との間には皿ばね84が設けてあるので、一体化された本体部80Aとコイルばねカバー部材83との、プライマリドリブンギア20に対する結合は緩やかであり、回転方向に若干の相対移動が可能である。
【0052】
プライマリドリブンギア20には、コイルばね収容部20bが周方向に6箇所設けてあり、それぞれにダンパー材としてのコイルばね85(本発明の「ダンパー部」)が装着されている。コイルばねカバー部材83は環状の平板部83aの一部を湾曲膨出させて湾曲部83bを形成したもので、この湾曲部83bによって、コイルばね85の一方の側が覆われる。
本体部80Aのコイルばね85に対向する位置にコイルばね収容凹部86が設けてあり、コイルばね収容凹部86によって、コイルばね85の他方の側が覆われる。
【0053】
クランク軸8からプライマリドライブギア75を介して、プライマリドリブンギア20に衝撃的な回転力が加わったときには、コイルばね85を介して、結合円板80の本体部80Aに回転力が伝達されるので、衝撃的な回転力の伝達は防止される。
【0054】
上述のように、結合円板80は、同芯で軸方向に並ぶ本体部80Aとプレート部80Bとから構成されており、本体部80Aとプレート部80Bの周囲部にはそれぞれ、第2クラッチ21Bのクラッチアウタ37Bの係合溝37aに係合する凸部とその間の凹部からなる本体部側凹凸係合部87A、プレート部側凹凸係合部87Bが設けてある。
クラッチアウタ37Bには、外周部の内側に駆動摩擦板43を係合させるための、軸方向に配向した複数列の係合溝37aが設けてあるが、係合溝37aは、椀状のクラッチアウタ37Bの開放端側、すなわち周縁部39へ延長してある。そのため、周縁部39の内側は、周方向に複数の係合溝37aによる凹部とその間の凸条部37cが交互に並び、結合円板80の本体部側凹凸係合部87Aおよびプレート部側凹凸係合部87Bと係合する凹凸状係合部38を構成している(図5参照)。
【0055】
結合円板80の本体部側凹凸係合部87Aおよびプレート部側凹凸係合部87Bと、クラッチ21Bの周縁部39の内側の凹凸状係合部38との噛み合い係合によって、クラッチアウタ37Bはプライマリドリブンギア20の回転に連動して回転し、クラッチアウタ37Bと一体のクラッチアウタ37A及びクラッチアウタ共通ボス部37Cも共に回転する。
【0056】
クラッチアウタ37Bは、上述のように、結合円板80からプライマリドリブンギア20の回転動力が伝達されるが、結合円板80は、上述のプライマリドライブギア75と同様の、セラシ機構を備えている。
すなわち、結合円板80は、図3に示されるように、互いに軸方向に重ね合わされる本体部80Aと幅の狭いプレート部80Bとからなり、本体部80Aは、プライマリドリブンギア20に取り付けられる。一方、プレート部80Bは、本体部80Aから軸方向でプライマリドリブンギア20側と反対側に、クラッチインナ40Bの筒状部40Baを囲むように突出するボス状部88上へ、遊転可能に嵌装されている。
【0057】
本体部側凹凸係合部87Aとプレート部側凹凸係合部87Bは、同径、同ピッチの凹凸係合部に形成されており、共にクラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38の同じ係合溝37aと凸条部37cに噛み合い係合するが、本体部80Aとプレート部80Bとの間にはダンパー部材としてのコイルばね89が介装され、本体部側凹凸係合部87Aとプレート部側凹凸係合部87Bとは互いに逆向き方向に回動付勢される。
【0058】
結合円板80がクラッチアウタ37Bを回転駆動する時、クラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38の凸条部37cを押接する本体部側凹凸係合部87Aの凸部の裏面には、バックラッシュが発生する恐れがあるが、プレート部側凹凸係合部87Bは、コイルばね89により本体部側凹凸係合部87Aの回転駆動方向と逆方向に回動付勢されているので、裏面側の、クラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38の次位の凸条部37cの正面側を押接し、バックラッシュを解消している。
【0059】
従って、結合円板80は、クラッチアウタ37Bとの係合部、すなわち結合円板80の凹凸係合部87A、87Bとクラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38とが噛み合う係合部において、ガタ無しに噛み合うことができるので、起動、停止、トルク変動等において、衝撃音等の騒音が発生することが防止される。
【0060】
また、結合円板80の本体部80Aはプライマリドリブンギア20に取り付けられ、プレート部80Bは本体部80Aのボス状部88に遊転可能に嵌装されるので、主たる回転動力の伝達は本体部側凹凸係合部87Aにより行われる。
そこで、主に結合円板80とクラッチアウタ37Aとの係合部のガタを無くすためのプレート部側凹凸係合部87Bよりも、本体部側凹凸係合部87Aのクラッチアウタ37Bとの係合幅を大きくすることにより、より大きなトルクが掛る本体部80Aの耐久性が向上するように構成されている。
【0061】
また、本実施形態においては、図3に示されるように、結合円板80は、径方向でクラッチインナ40Bの一部と重なるように配置されており、結合円板80とクラッチインナ40Bを、軸方向に大型化することなく設けている。
プレート部80Bは、本体部80Aの全体の外径(特に、プライマリドリブンギア20への取付け部の外径)より外径が小さく、軸方向でクラッチインナ40Bの被動摩擦板44と重なって位置するので、プレート部80Bは、結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部のガタを無くす機構を有しながら、径方向に広がることなくクラッチアウタ37Bの内側にコンパクトに設けられている。
【0062】
また、結合円板80の本体部80Aとプレート部80Bとの間にダンパー部材としてのコイルばね89が設けられ、コイルばね89は、プライマリドリブンギア20と本体部80Aとの間のダンパー部となるコイルばね85のクラッチ21における径方向幅内に収まるように形成されているので、大きなスペースをとることなく、結合円板80のダンパー効果を奏し、ガタを無くすことができる。特に、ダンパー部材がコイルばね89であるので、プレート部側凹凸係合部87Bと、本体部側凹凸係合部87Aとを、互いに逆方向に回動付勢する機能を併せ奏して、コンパクトな配置のダンパー部材により、バックラッシュを解消し、結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部のガタを無くすことができる。
【0063】
メイン内軸9Aには、左側に開口する左側中心孔56と、右側に開口する右側中心孔57が設けてある。右側中心孔57は複数段の内径を有する段付き孔となっている。右側中心孔57には、同軸芯の2本のパイプ、即ち内側パイプ58と外側パイプ59が挿入されている。内側パイプ58の左端部はシール部材60Aを介して右側中心孔57の細径部に嵌装され、その右端部はシール部材60Bを介して右クランクケースカバー17に支持され、これらのシール部材60A、60Bを介して内側パイプ58の内外は仕切られている。外側パイプ59の左端部はシール部材61Aを介して右側中心孔57の大径部に嵌装され、その右端部はシール部材61Bを介して右クランクケースカバー17に支持され、これらのシール部材61A、61Bを介して外側パイプ59の内外は仕切られている。
【0064】
内側パイプ58の外側と外側パイプ59の内側と右側中心孔57の中径部の内側との間に形成された油路をメイン軸端第1油路62A、内側パイプ58の内孔と右側中心孔57の細径部をつなぐ油路をメイン軸端第2油路62B、外側パイプ59の外側と右側中心孔57の大径部の内側との間に形成された油路をメイン軸端第3油路62Cと名付ける。
【0065】
メイン軸端第1油路62Aには、右クランクケースカバー17に設けられた第1制御油路71Aが連通している。メイン軸端第2油路62Bには、右クランクケースカバー17に設けられた第2制御油路71Bが連通している。メイン軸端第3油路62Cには、右クランクケースカバー17に設けられた潤滑油路71Cが連通している。
【0066】
内燃機関1は、制御用オイルポンプ13と潤滑用オイルポンプ(図示なし)を備えている。また、一対のクラッチに制御用オイルを送るために、第1アクチュエータと第2アクチュエータ(図示なし)を備えている。制御用オイルポンプ13は、第1アクチュエータを介して、第1制御油路71A、メイン軸端第1油路62A、径方向油路63を経由して第1クラッチ21Aの加圧室52Aに連なると共に、第2アクチュエータを介して、第2制御油路71B、メイン軸端第2油路62B、径方向油路64を経由して第2クラッチ21Bの加圧室52Bへ連なっている。
【0067】
第1クラッチ21Aの加圧室52Aに高圧オイルが供給された時、加圧プレート46はコイルばね51の付勢力に抗して摩擦板群45の方へ動き、摩擦板が圧接され、クラッチアウタ37Aの回転がクラッチインナ40Aに伝達され、メイン内軸9Aが回転駆動される。
【0068】
第2クラッチ21Bの加圧室52Bに高圧オイルが供給された時、加圧プレート46はコイルばね51の付勢力に抗して摩擦板群45の方へ動き、摩擦板が圧接され、クラッチアウタ37Bの回転がクラッチインナ40Bに伝達され、メイン外軸9Bが回転駆動される。
【0069】
上記一対のクラッチアクチュエータは、一方がONのときには、他方はOFFとされる。一対のクラッチアクチュエータのいずれをONとするかは、電子コントロールユニット(図示なし)によって自動的に判断される。
【0070】
潤滑用オイルポンプから吐出されるオイルの一部は、潤滑油路71C、メイン軸端第3油路62C、径方向油路65を介して、第1クラッチ21Aの圧力調整室53Aに供給される。また、他の一部は、メイン軸左側中心孔56、径方向油路66を介して、第2クラッチ21Bの圧力調整室53Bに供給される。圧力調整室53A、53Bへ供給されたオイルは、遠心力による加圧室52A、52Bの圧力増加分を圧力調整室53A、53Bのオイルにかかる遠心力による圧力増加分によって相殺し、クラッチOFFを確実にするためのものである。なお、圧力調整室53A、53Bへ供給されるオイルによって、ニードルベアリング31A、31Bが潤滑される。
【0071】
潤滑用オイルポンプから吐出され左側中心孔56を経由するオイルの一部は、径方向油路68を経由して、メイン軸外軸9Bを支えるニードルベアリング27Bと、プライマリドリブンギア20を支えるニードルベアリング19を潤滑する。
【0072】
図4は、クラッチアウタ37A、クラッチアウタ37B、及びクラッチアウタ共通ボス部37Cを、溶接によって一体化したクラッチアウタ組立体37の縦断面図である。上記3部材は、溶接部35、36によって結合されている。図5は図4中、V−V矢視断面図であり、第2クラッチ21Bのクラッチアウタ37Bの断面を示している。
【0073】
図4、図5に示されるように、クラッチアウタ共通ボス部37Cには、第1クラッチ21Aの加圧室52Aに連通する径方向油路63、第2クラッチの加圧室52Bに連通する径方向油路64、第1クラッチの圧力調整室53Aに連通する径方向油路65、及び、第2クラッチの圧力調整室53Bに連通する径方向油路66、が設けてある。
【0074】
クラッチアウタ37A、37Bの内側には、駆動摩擦板43が、回転不能且つ軸方向摺動可能に係合する多数の係合溝37aが設けてある。クラッチアウタ37A、37Bは、椀状の周縁部39を逆方向に向けて、円筒の端板部37b側が同芯に溶接接合されている。駆動摩擦板43はそれぞれのクラッチアウタの開放端側、すなわち周縁部39から装着される。
このため係合溝37aはクラッチアウタ37A、37Bの開放端から奥部まで連続している。クラッチアウタ37A、37Bの内側には、摩擦板群45が開放端から脱落しないように、C形止め輪47が装着される(図3)。隣り合う各係合溝37aの間の凸条部37cには、C形止め輪47の係合溝37dが設けてある。
【0075】
クラッチアウタ37Bの係合溝37aの本来の目的は、駆動摩擦板43を係合させることであって、この目的のために、係合溝37aはクラッチアウタの開放端、すなわち終端部39から奥部まで連続して設けられている。
本実施形態では、プライマリドリブンギア20に結合円板80を取り付け、結合円板80には、第2クラッチ21Bのクラッチアウタ37Bの係合溝37aと凸条部37cからなる凹凸状係合部38に係合可能な、本体部側凹凸係合部87Aとプレート部側凹凸係合部87Bが設けられ、クラッチアウタ37Bの周縁部内側の凹凸状係合部38に係合させることによって、プライマリドリブンギア20とクラッチアウタ37Bの回転方向の結合を図っている。クラッチアウタの係合溝37aを利用して、プライマリドリブンギア20とクラッチアウタ37Bとを一体回転可能にしたので、クラッチアウタ37B側に結合円板80と係合させるための特別な係合部の形成が不要となり、大型化を抑制できる。
しかも、本実施形態においてはさらに、上述したとおり、結合円板80にセラシ機構が備えられている。
そのため、結合円板80は、クラッチアウタ37Bとの噛み合い係合部において、ガタ無しに噛み合うことができるので、起動、停止、トルク変動等において、衝撃音等の騒音が発生することが防止された。
【0076】
以上詳述したように、本実施形態においては、内燃機関1の回転動力が伝達され、外周にクラッチアウタ37Bとの凹凸係合部87A、87Bを備えた結合円板80が同芯に取り付けられたプライマリドリブンギア20と、椀状で周縁部39に結合円板80の凹凸係合部87A、87Bと係合する凹凸状係合部38が設けられたクラッチアウタ37Bと、クラッチインナ40Bとの間の、断接を行うクラッチ21とを備える内燃機関における動力伝達構造において、結合円板80は、同芯で軸方向に並ぶ本体部80Aとプレート部80Bとから構成され、プレート部80Bの凹凸係合部87Bは、本体部80Aの凹凸係合部87Aと同径で共にクラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38に係合されるとともに、本体部80Aの凹凸係合部87Aと互いに逆方向に回動付勢されるので、内燃機関1のクランク軸8からの回転動力をプライマリドリブンギア20を介して第2クラッチ21Bに伝達する際に、結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部のガタを無くすことができる。
従って、クラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38との間で発生する衝撃音等の騒音を低減しつつ、クランク軸8からの回転動力をプライマリドリブンギア20を介して第2クラッチ21Bに伝達でき、すなわち、一対のクラッチ21に回転動力が伝達できる。
【0077】
また、結合円板80は、クラッチアウタ37Bの周縁部39の内側でクラッチアウタ37Bと係合するので、結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部がクラッチアウタ37Bの外周よりも突出することがないため、係合部がクラッチアウタ37Bの周縁部39の外側に形成される場合と比べて、結合円板80がコンパクトになる。
【0078】
また、結合円板80は、径方向においてプライマリドリブンギア20の内方に配置されたので、結合円板80がプライマリドリブンギア20の径方向に突出することがなく、結合円板80の凹凸係合部87A、87Bがコンパクトに設けられる。
結合円板80は、径方向でクラッチインナ37Bの一部と重なるように配置されたので、結合円板80とクラッチインナ37Bを軸方向に大型化することなく設けることができる。
結合円板の80一部が、プライマリドリブンギア20の内側に入り込んで配置されたので、結合円板80とプライマリドリブンギア20を軸方向においてコンパクトに設けることができる。
【0079】
結合円板80の本体部80Aはプライマリドリブンギア20に取り付けられ、プレート部80Bは本体部80Bに遊転可能に嵌装され、クラッチアウタ37Bと本体部80Aの係合幅は、クラッチアウタ37Bとプレート部80Bとの係合幅よりより大きいので、主に結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部のガタを無くすためのプレート部80Bよりも、入力ギアに取り付けられ主な回転動力伝達を担う本体部80Aの係合幅を大きくすることにより、より大きなトルクが掛る本体部80Aの耐久性が向上する。
【0080】
プレート部80Bは、本体部80Aより外径が小さく、軸方向でクラッチインナ37Bの被動摩擦板44と重なって配置されたので、プレート部80Bは結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部のガタを無くす機構を有しながら、径方向に広がることなくクラッチアウタ37Bの内側にコンパクトに設けられる。
【0081】
本体部80Aとプレート部80Bとの間にダンパー部材としてのコイルばね89が設けられ、コイルばね89は、プライマリドリブンギア20と本体部80Aとの間のダンパー部としてのコイルばね85の径方向幅内に収まるように形成されたので、大きなスペースをとることなく、結合円板80のダンパー効果を奏し、ガタを無くすことができる。
【0082】
コイルばね89は、プレート部80Bの凹凸係合部87Bと、本体部80Aの凹凸係合部87Bとを互いに逆方向に回動付勢するばねであるので、コンパクトな配置のコイルばね89により、プレート部80Bの回動付勢を行ない、結合円板80とクラッチアウタ37Bとの係合部のガタを無くすことができる。
【0083】
また、一対のクラッチ21は、同軸に2つのクラッチアウタ37A、37Bの、端板部37bが接合され、周縁部39を逆方向に向けたツインクラッチであり、2つのクラッチアウタ37A、37Bの一方の周縁部39に、結合円板80の凹凸係合部87A、87Bと係合する凹凸状係合部38が設けられたので、ツインクラッチ21を備えた内燃機関1の動力伝達構造がコンパクトに構成される。
【0084】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲で、種々の態様、変更が可能である。
例えば、上記実施形態は、内燃機関1のクランク軸8から変速機7へ、クラッチを介して回転動力を伝達する動力伝達構造を、一対のクラッチ21、すなわちツインクラッチを用いたものを示して説明したが、本発明の内燃機関の動力伝達構造は、クラッチが一つのものであって、そのクラッチアウタにプライマリドリブンギア(入力ギア)からの回転動力を伝達する動力伝達構造として適用できることは勿論である。
【0085】
また、本発明の一実施形態に係る内燃機関として、車両、特に自動二輪車に搭載される2気筒4ストロークサイクル内燃機関を例示したが、そのような適用において特に有効に本発明の特徴を発揮できるとしても、本発明は、そのような適用に限定されるものではない。
本発明は、内燃機関の回転動力を、変速装置の入力ギア(プライマリドリブンギア)からクラッチアウタに伝達する動力伝達構造であれば、内燃機関の態様、気筒数等は異なるものでも適用されてよい。さらには、内燃機関は、車載のものに限られないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0086】
1…内燃機関、2…クランクケース、7…変速機、8…クランク軸、9…メイン軸、10…カウンタ軸、17…右クランクケースカバー、20…プライマリドリブンギア(入力ギア)、20b…コイルばね収容部、21…一対のクラッチ(クラッチ)、21A…第1クラッチ、21B…第2クラッチ、37…クラッチアウタ組立体、37B…クラッチアウタ、37C…クラッチアウタ共通ボス部、37a…係合溝、37b…端板部、37c…凸条部、38…凹凸状係合部、39…周縁部、40B…クラッチインナ、43…駆動摩擦板、44…被動摩擦板、80…結合円板、80A…本体部、80B…プレート部、85…コイルばね(ダンパー部)、87A…本体部側凹凸係合部、87B…プレート部側凹凸係合部、88…ボス状部、89…コイルばね(ダンパー部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関1の回転動力が伝達され、外周にクラッチアウタ37Bとの凹凸係合部87A、87Bを備えた結合円板80が同芯に取り付けられた入力ギア20と、
椀状で周縁部39に前記結合円板80の凹凸係合部87A、87Bと係合する凹凸状係合部38が設けられた前記クラッチアウタ37Bと、クラッチインナ40Bとの間の、断接を行うクラッチ21とを備える内燃機関における動力伝達構造において、
前記結合円板80は、同芯で軸方向に並ぶ本体部80Aとプレート部80Bとから構成され、
同プレート部80Bの凹凸係合部87Bは、前記本体部80Aの凹凸係合部87Aと同径で共に前記クラッチアウタ37Bの凹凸状係合部38に係合されるとともに、前記本体部80Aの凹凸係合部87Aと互いに逆方向に回動付勢されることを特徴とする内燃機関における動力伝達構造。
【請求項2】
前記結合円板80は、前記クラッチアウタ37Bの周縁部39内側で同クラッチアウタ37Bと係合されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項3】
前記結合円板80は、径方向において前記入力ギア20の内方に配置されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項4】
前記結合円板80は、径方向で前記クラッチインナ40Bの一部と重なるように配置されたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項5】
前記結合円板80の一部が、前記入力ギア20の内側に入り込んで配置されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項6】
前記結合円板80の前記本体部80Aは前記入力ギア20に取り付けられ、前記プレート部80Bは前記本体部80Bに遊転可能に嵌装され、
前記クラッチアウタ37Bと前記本体部80Aとの係合幅は、前記クラッチアウタ37Bと前記プレート部80Bとの係合幅よりより大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項7】
前記プレート部80Bは、前記本体部80Aより外径が小さく、軸方向で前記クラッチインナ40Bの被動摩擦板44と重なって配置されたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項8】
前記本体部80Aと前記プレート部80Bとの間にダンパー部材89が設けられ、同ダンパー部材89は、前記入力ギア20と前記本体部80Aとの間のダンパー部85の径方向幅内に収まるように形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項9】
前記ダンパー部材89は、前記プレート部80Bの凹凸係合部87Bと、前記本体部80Aの凹凸係合部87Aとを、互いに逆方向に回動付勢するばねであることを特徴とする請求項8記載の内燃機関の動力伝達構造。
【請求項10】
前記クラッチ21は、同芯に2つのクラッチアウタ37A、37Bの、端板部37bが接合され、前記周縁部39を逆方向に向けたツインクラッチであり、前記2つのクラッチアウタ37A、37Bの一方の周縁部39に前記結合円板80の凹凸係合部87A、87Bと係合する前記凹凸状係合部38が設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか記載の内燃機関の動力伝達構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256894(P2011−256894A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129690(P2010−129690)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】