説明

内燃機関における可変バルブタイミングの制御システム

【課題】エンジンや構成部品の個体差や経年劣化などにより気筒間及び燃焼サイクル間で燃焼状態にばらつきが生じると、各気筒にとって最適なEGR量を供給し、燃費を向上させることができない。
【解決手段】排気カムシャフトに備えられた排気側可変バルブタイミング機構は気筒毎に排気バルブの開閉時間又は/及びリフト量を制御し、気筒毎に吸気行程時にシリンダ内へ供給されるEGR量を制御する。また、各気筒はシリンダに備えられた点火プラグに発生するイオン電流又は/及びシリンダ内の圧力によって燃焼状態を検出する検出装置を気筒毎に備え、検出装置は各気筒の燃焼サイクル毎に燃焼状態を検出し、排気側可変バルブタイミング機構は次項の燃焼サイクル時に各気筒の燃焼状態を改善又は維持するようにEGR量の補正を行う。さらに、排気側可変バルブタイミング機構は電磁クラッチ又は電動モータから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における排気側可変バルブタイミング機構の制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関において、排気ガスの一部をシリンダ内に再循環させて高負荷運転時のポンピングロスを低減し、内燃機関の効率を向上させることで省燃費を実現している。しかし、排気ガス再循環(以下「EGR」)量が多くなり過ぎると燃焼状態が悪化するため、燃費低減を実現させるためには内燃機関の運転状況に応じてEGR量を調整する必要がある。このような内燃機関の運転状態に基づいてEGR量を制御することを目的としていくつかの構成が提案されているが、この中でも特に電磁式可変バルブタイミング機構を用いてバルブオーバーラップ期間を変動しEGR量の制御を行うものがあり、この代表的な例として、例えば特開2005−090241号公報(以下「特許文献1」)が知られている。
【0003】
上記特許文献1において、機関弁のリフト量を機関運転状態に応じて大小制御する可変リフト機構と、機関弁のリフト作動角の中心位相を、機関運転状態に応じて進角側あるいは遅角側へ可変にする可変バルブタイミング機構と、機関始動時のクランキングを行うスタータモータと機関の温度を検出する温度検出手段と、を備えた内燃機関の動弁装置において、機関の始動直前に、可変リフト機構によって機関弁のリフト量を混合気を吸入できる程度の小リフトに制御すると共に、可変バルブタイミング機構によって機関弁のリフト作動角中心位相を進角側へ制御してバルブオーバーラップ量を増加させ、スタータモータによってクランキングを開始した直後に、前記可変バルブタイミング機構によって機関弁のリフト作動角中心位相を遅角側に制御してバルブオーバーラップ量を減少させ、完爆後に、前記可変バルブリフト機構によって機関弁のリフト量を大リフトに制御し、温度検出手段により機関温度が所定以上になったことを検出した時点で、前記両機構によって通常の制御を開始する。
【0004】
また、機関始動直前、つまりイグニッションキーを僅かに回転させてスタータモータを回転させようとした時点では、可変リフト機構によって機関弁を小リフトに制御され、かつ可変バルブタイミング機構によってリフト作動角中心位相が進角側に制御されて、バルブオーバーラップが大きくなる。このため、ポンプ損失が低減して動弁系のフリクションが最小になると共に、デコンプ作用も得られてピストンに慣性力が付与される。したがって、スタータモータの回転負荷が小さくなり機関の回転性が良好になる。
【0005】
また、クランキングが開始された時点で、リフト作動角中心位相が遅角側に制御され、バルブオーバーラップが小さく制御されるようにしたことから、ピストンの圧縮行程時における燃焼室内の圧縮比が高められる。このため、爆発工程時における混合気の着火性が良好になる。特に、この時点では、バルブリフトが小さいため、吸気ポートから燃焼室内へのスワール流が大きくなることから、前記着火性がさらに良好になる。
【0006】
また、完爆後には、機関弁のリフト量を大リフトに制御したことから、混合気の吸入吸気量が増加して、燃焼性が良好になると共に、大きな出力トルクが得られる。したがって、急発進加速性が良好になると共に、アイドリングの安定性が得られる内燃機関の動弁装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−090241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の内燃機関の動弁装置では次のような問題が生じている。即ち、機関の始動直前に、可変リフト機構によって機関弁のリフト量を混合気を吸入できる程度の小リフトに制御すると共に、可変バルブタイミング機構によって機関弁のリフト作動角中心位相を進角側へ制御してバルブオーバーラップ量を増加させ、スタータモータによってクランキングを開始した直後に、可変バルブタイミング機構によって機関弁のリフト作動角中心位相を遅角側に制御してバルブオーバーラップ量を減少させ、完爆後に、可変バルブリフト機構によって機関弁のリフト量を大リフトに制御し、かつ温度検出手段により機関温度が所定以上になったことを検出した時点で、両機構によって通常の制御を開始するようにしているが、上記従来例ではエンジン全体の温度からバルブオーバーラップ量の増減を行っているため、エンジンや構成部品の個体差や経年劣化などにより気筒間及び燃焼サイクル間で燃焼状態にばらつきがあると、燃焼状態の良い気筒は燃焼状態の悪い気筒に合わせて余力を残したEGR量となり、各気筒にとって最適なEGR量を供給できていない問題が生じる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、エンジンや構成部品の個体差や経年劣化などにより気筒間及び燃焼サイクル間で燃焼状態にばらつきが生じても、各気筒にとって最適なEGR量を供給し、燃費を向上させることができる可変バルブタイミング機構の制御システムを提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は次のような構成とする。即ち、請求項1の発明において、複数の気筒を有したエンジンと、当該複数の気筒に形成されたシリンダへ供給する空気と燃料の混合気の量を調整する吸気バルブと、当該シリンダからの排気ガスの量を調整する排気バルブを備え、前記多気筒エンジンは前記吸気及び排気バルブに対してそれぞれ独立した吸気及び排気カムシャフトを備え、前記吸気及び排気カムシャフトによって前記吸気及び排気バルブを動作される気筒数を4気筒以下とし、前記排気カムシャフト又は前記吸気及び排気カムシャフトに前記吸気及び排気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構を備え、吸気行程時の前記シリンダ内へ排気再循環を行う内燃機関における可変バルブタイミングの制御システムにおいて、前記排気カムシャフトに備えられた排気側可変バルブタイミング機構は前記気筒毎に前記排気バルブの開閉時間又は/及びリフト量を制御し、前記気筒毎に吸気行程時に前記シリンダ内へ供給される排気再循環量を制御することを特徴とする可変バルブタイミングの制御システム。とする。
【0011】
上記構成においては、前記エンジンは前記吸気及び排気カムシャフトを2組備え、前記1組の吸気及び排気カムシャフトによって前記吸気及び排気バルブを動作させる気筒数を4気筒以下とし、前記2組の排気カムシャフトをそれぞれ個別に備えた前記排気側可変バルブタイミング機構を用いて制御してもよい。また、前記排気側可変バルブタイミング機構は圧縮行程及び燃焼行程中の前記気筒内の前記排気バルブを動作させない範囲内で駆動してもよいし、前記排気側可変バルブタイミング機構は前記気筒毎の前記排気バルブ閉弁時の前記排気カムシャフトを初期位相に戻してもよい。さらに、前記各気筒は前記シリンダに備えられた点火プラグに発生するイオン電流又は/及び前記シリンダ内の圧力によって燃焼状態を検出する検出装置を前記気筒毎に備え、前記排気側可変バルブタイミング機構は前記検出装置の検出結果に応じて、前記気筒毎に最良の燃焼状態となるように排気再循環量を制御してもよいし、前記検出装置は前記各気筒の燃焼サイクル毎に燃焼状態を検出し、前記排気側可変バルブタイミング機構は次項の燃焼サイクル時に前記各気筒の燃焼状態を改善又は維持するように排気再循環量の補正を行ってもよい。
【0012】
また、前記燃焼状態最良気筒の最大遅進量は、前記燃焼状態最不良気筒の遅進量を基準に前記排気側可変バルブタイミング機構が可動可能な範囲内としてもよいし、前記燃焼状態最良気筒の最大遅進量は、前記燃焼状態最不良気筒の遅進量を基準に前記排気側可変バルブタイミング機構が所望の位相以下としてもよい。さらに、前記燃焼状態最良気筒の最大遅進量と前記燃焼状態最不良気筒の遅進量との差が前記排気側可変バルブタイミング機構の可動範囲外又は所望の位相以上となる場合、前記排気カムシャフトを初期位相に戻してもよい。
【0013】
また、前記排気側可変バルブタイミング機構は電磁クラッチを用いて前記排気カムシャフトの位相を変化させる電磁可変バルブタイミング機構としてもよいし、前記排気側可変バルブタイミング機構は電動モータを用いて前記排気カムシャフトの位相を変化させる電動可変バルブタイミング機構としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記の通り、排気カムシャフトに備えられた排気側可変バルブタイミング機構は気筒毎に排気バルブの開閉時間又は/及びリフト量を制御し、気筒毎に吸気行程時にシリンダ内へ供給される排気再循環量を制御する。また、各気筒はシリンダに備えられた点火プラグに発生するイオン電流又は/及びシリンダ内の圧力によって燃焼状態を検出する検出装置を気筒毎に備え、検出装置は各気筒の燃焼サイクル毎に燃焼状態を検出し、排気側可変バルブタイミング機構は次項の燃焼サイクル時に各気筒の燃焼状態を改善又は維持するように排気再循環量の補正を行うことで、エンジンや構成部品の個体差や経年劣化などにより気筒間及び燃焼サイクル間で燃焼状態にばらつきが生じても、気筒毎の燃焼状態に応じて排気バルブの開閉を可変し、吸気及び排気バルブのオーバーラップ期間とオーバーラップ期間内の排気バルブの開弁率をすることで気筒毎にEGR量の供給を行い、燃費を向上させることができる可変バルブタイミング機構の制御システムが実現できる。
【0015】
また、本発明は低速回転時及び中速回転時のエンジンにおいては特にEGRによる燃費向上が有効であるが、排気側可変バルブタイミング機構を電磁クラッチ又は電動モータを用いて排気カムシャフトの位相を変化させる電磁可変バルブタイミング機構又は電動可変バルブタイミング機構とすることで高速回転時のエンジンにおいても気筒毎にEGR量の供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施例とする内燃機関の斜視図である。
【図2】第1の実施例とする内燃機関の気筒の断面図である。
【図3】第1の実施例とする排気側電磁可変バルブタイミング機構の動作を表すフローチャートである。
【図4】第1の実施例とする燃焼良好時における排気カムの(A)乃至(C)の位相での遅進状態を示す図である。
【図5】第1の実施例とする燃焼不良時における排気カムの(D)乃至(F)の位相での遅進状態を示す図である。
【図6】第1の実施例とする吸気カム及び排気カムの開弁率を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を示す実施例を図1乃至図6に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の第1の実施例とする内燃機関の斜視図を図1に、内燃機関の気筒の断面図を図2に、排気側電磁可変バルブタイミング機構の制御を表すフローチャートを図3に、燃焼良好時における排気カムの(A)乃至(C)の位相での遅進状態を示す図を図4に、燃焼不良時における排気カムの(D)乃至(F)の位相での遅進状態を示す図を図5に、吸気カム及び排気カムの開弁率を示すタイムチャートを図6にそれぞれ示す。
【0019】
図1及び2において、内燃機関の多気筒エンジン60は図示しないエンジンブロックに直列に形成された4つのシリンダ42に4本のピストン44を配置した直列4気筒エンジンとしている。また、当該エンジン60の1気筒40に対して当該シリンダ42内に燃料と空気の混合気を供給する吸気管34と、当該シリンダ42内からの排気ガスを排出する排気管24を備えている。さらに、当該吸気管34内に燃料を噴射するための燃料噴射装置56を備えている。
【0020】
また、前記吸気管34には前記シリンダ42内への混合気の量を調整する吸気バルブ32を前記気筒40毎に2本ずつ備え、前記エンジン60は当該吸気バルブ32を動作する吸気カム30を有した吸気カムシャフト50bを備え、当該吸気カム30が回転することで当該吸気バルブ32に形成された吸気バルブヘッド32aが押され当該吸気バルブ32が開かれる。さらに、当該吸気カムシャフト50bは4つの前記気筒40に備えられた全ての当該吸気バルブ32を動作する構成とする。
【0021】
また、前記排気管24には前記シリンダ42内からの排気ガスの量を調整する排気バルブ22を前記気筒40毎に2本ずつ備え、前記エンジン60は当該排気バルブ22を動作する排気カム20を有した排気カムシャフト50aを備え、当該排気カム20が回転することで当該排気バルブ22に形成された排気バルブヘッド22aが押され当該排気バルブ22が開かれる。さらに、当該排気カムシャフト50aは4つの前記気筒40に備えられた全ての当該排気バルブ22を動作する構成とする。
【0022】
また、前記エンジン60には前記ピストン44の上下運動を回転運動に変換するクランク46とクランクシャフト48を備え、当該クランクシャフト48はタイミングベルト52を介して前記吸気カムシャフト50b及び前記排気カムシャフト50aを駆動させている。さらに、前記吸気カムシャフト50b及び前記排気カムシャフト50aにはそれぞれ吸気側電磁可変バルブタイミング機構10b(以下「吸気側電磁VVT」)及び排気側電磁可変バルブタイミング機構10a(以下「排気側電磁VVT」)を備え、当該吸気側電磁VVT10b及び当該排気側電磁VVT10aは当該タイミングベルト52と接続されている。
【0023】
また、前記吸気側電磁VVT10b及び前記排気側電磁VVT10aは前記吸気カムシャフト50b及び前記排気カムシャフト50aの位相を変更することで運転状況に応じて前記吸気バルブ32及び前記排気バルブ22の開閉時期を最適化し、出力性能又は燃費性能、排気性能を向上させるものである。さらに、前記吸気側電磁VVT10b及び前記排気側電磁VVT10aは電磁クラッチとコイルスプリングを組み合わせたものから構成されている。
【0024】
また、エンジンルームには前記排気カム20の位相を検出するカム角センサ16と、前記エンジン60における電気的な制御を行うECU12と、前記シリンダ42に備えられた点火プラグ54からのイオン電流を検出する検出装置14を前記気筒40毎に備えている。さらに、当該ECU12は当該検出装置14からのイオン電流に基づいて前記気筒40毎に前記排気管24から前記シリンダ42内への排気ガス再循環(以下「EGR」)量を算出し、前記カム角センサ16の検出した位相に基づいて前記排気側電磁VVT10aに制御信号を供給している。
【0025】
次に、排気側電磁VVTの動作を図3に基づいて説明する。図3において、内燃機関の燃焼行程が1サイクル経過しているかの判定を行い(S1)、前記内燃機関の燃焼行程が終了していると、前記検出装置14は前記内燃機関の前回の燃焼によって前記点火プラグ54に発生するイオン電流を検出し(S2)、前記ECU12はステップ2で検出したイオン電流から前回の燃焼状態を判定し(S3)、ステップ3で判定された前回の燃焼状態が良好であったかを識別する(S4)。
【0026】
前回の燃焼状態が良好であった場合、燃焼状態良好時の次回の吸気行程におけるEGR量を算出し(S5)、ステップ5で算出された次回吸気行程時のEGR量に基づいて前記排気バルブ22の開閉のタイミング及びリフト量を算出し(S6)、ステップ6で算出された前記排気バルブ22の開閉のタイミング及びリフト量に基づいて前記排気側電磁VVT10aは前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aに接触すると進角し(S7)、前記排気側電磁VVT10aは前記排気バルブ22が下死点に到達すると前記排気カム20を遅角して前記排気バルブ22を下死点の位置で維持し前記排気バルブ22のリフト量が全開の時間を拡大させ(S8)、前記排気側電磁VVT10aは前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aから離れるまで進角する(S9)。
【0027】
また、ステップ3で判定された燃焼状態が不良であった場合、ステップ4で燃焼状態が良好ではないと識別され、燃焼状態不良時の次回の吸気行程におけるEGR量を算出し(S11)、ステップ11で算出された次回吸気行程時のEGR量に基づいて前記排気バルブ22の開閉のタイミング及びリフト量を算出し(S12)、ステップ12で算出された前記排気バルブ22の開閉のタイミング及びリフト量に基づいて前記排気側電磁VVT10aは前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aに接触すると前記排気カム20を遅角し(S13)、前記排気側電磁VVT10aは前記排気バルブ22が下死点となる位置を速く通過するように進角して前記排気バルブ22のリフト量が全開の時間を減少させる(S14)、前記排気側電磁VVT10aは前記カム20が前記排気バルブヘッド22aから離れるまで前記排気カム20を遅角する(S15)。
【0028】
また、ステップ9及びステップ15を終了後に、前記排気カムシャフト50aを初期の位相に戻し、次に排気行程を行う前記気筒40の前記排気カム20の位相に影響を与えないようにする(S21)。
【0029】
次に、燃焼良好時における排気カムの(A)乃至(C)の位相での遅進状態を図4に基づいて説明する。図4において、(A)は前記排気カムシャフト50aを回転方向に対して前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aに接触すると矢印(ア)方向に進角させる。これにより前記排気バルブ22のリフト量が全開状態となるタイミングが通常時よりも速くなる。また、(B)は前記排気カムシャフト50aを回転方向に対して矢印(イ)方向に遅角させ、前記排気カム20を前記排気バルブ22が下死点となる位置で維持させる。これにより前記排気バルブ22のリフト量が全開状態で維持される時間が拡大される。さらに、(C)は前記排気カムシャフト50aを回転方向に対して前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aから離れるまで矢印(ウ)方向に進角させる。これにより前記排気バルブ22のリフト量を閉弁寸前まで開弁率を高く保つことができるので前記排気バブル22と前記吸気バルブ32が同時に開弁状態となるオーバーラップ期間での前記排気バルブ22の開弁率が上昇し、EGR量が増加する。
【0030】
また、前記排気カムシャフト50aの進角量(ア)及び(ウ)の合計を、前記排気カムシャフト50aの遅角量(イ)と同じ位相とすることで前記排気バブル22が閉弁すると同時に前記排気カムシャフト50a初期位相に戻る構成となる。さらに、(A)乃至(C)の位相で矢印(ア)乃至(ウ)の遅進角量を調節することで前記排気バルブ22の開弁率を微細に制御している。
【0031】
次に、燃焼不良時における排気カムの(D)乃至(F)の位相での遅進状態を図5に基づいて説明する。図5において、(D)は前記排気カムシャフト50aを回転方向に対して前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aに接触すると矢印(エ)方向に遅角させる。これにより前記排気バルブ22のリフト量が全開状態となるタイミングが通常時よりも遅くなる。また、(E)は前記排気カムシャフト50aを回転方向に対して矢印(オ)方向に進角させ、前記排気カム20を前記排気バルブ22が下死点となる位置を速く通過させる。これにより前記排気バルブ22のリフト量が全開状態の位置となる時間が短縮される。さらに、(F)は前記排気カムシャフト50aを回転方向に対して前記排気カム20が前記排気バルブヘッド22aから離れるまで矢印(カ)方向に遅角させる。これにより前記排気バルブ22のリフト量を閉弁寸前まで開弁率を低く保つことができるので前記排気バブル22と前記吸気バルブ32が同時に開弁状態となるオーバーラップ期間での前記排気バルブ22の開弁率が低下し、EGR量が減少する。
【0032】
また、前記排気カムシャフト50aの遅角量(エ)及び(カ)の合計を、前記排気カムシャフト50aの進角量(オ)と同じ位相とすることで前記排気バブル22が閉弁すると同時に前記排気カムシャフト50a初期位相に戻る構成となる。さらに、(D)乃至(F)の位相で矢印(エ)乃至(カ)の遅進角量を調節することで前記排気バルブ22の開弁率を微細に制御している。
【0033】
次に、吸気カム及び排気カムの開弁率を示すタイムチャートを図6に基づいて説明する。図6において、通常時の前記排気バルブ22の開弁量は実線で示されるような波形となり、通常時の前記吸気バルブ32の開弁量は実線で示されるような波形となる。また、燃焼状態が最良時の前記排気バルブ22の開弁量は点線で示されるような波形となり、燃焼状態が最不良時の前記排気バルブ22の開弁量は1点鎖線で示されるような波形となる。さらに、前記排気側電磁VVT10aによって前記排気カムシャフト50aの位相を変更することで燃焼状態が最不良の前記排気バルブ22の開弁量から燃焼状態が最良の前記排気バルブ22の開弁量まで細かく制御することができ、前記排気バルブ22の開弁時間及び閉弁時間を進角又は遅角させることができる。
【0034】
また、吸気行程内で前記排気バブル22と前記吸気バルブ32が同時に開弁状態となるオーバーラップ期間とオーバーラップ期間での前記排気バルブ22の開弁率を変動させることでのEGR量を調整することができる。
【0035】
上記の制御により、前記気筒40毎に燃焼状態が良い気筒は前回の燃焼時よりもEGR量を増加させて燃焼状態の良い気筒は燃焼効率を向上させ、燃焼状態が悪い気筒は前回の燃焼時よりもEGR量を減少させて燃焼状態の悪い気筒の燃焼状態を改善させている。
【0036】
また、前記ECU12は前記排気側電磁VVT10aで動作される前記排気カム20の遅進角の範囲は圧縮行程及び燃焼行程中の前記気筒40において前記排気バルブ22の開弁動作を行わない範囲内で動作させている。さらに、4つの前記気筒40のうち、最も燃焼状態が良いと判定された気筒の前記排気カム20の最大遅進角量は最も燃焼状態が悪いと判定された気筒の前記排気カム20の遅進角量を基準に1.2倍以内の遅進角量として前記排気側電磁VVT10aを可動させている。
【0037】
また、前記ECU12は4つの前記気筒40のうち、最も燃焼状態が良いと判定された気筒の前記排気カム20の遅進角量が最も燃焼状態が悪いと判定された気筒の前記排気カム20の遅進角量から1.2倍以上の遅進角量となる場合には前記排気側電磁VVT10aによる位相制御を初期状態に戻し、再び前記気筒40毎に判定した燃焼状態から前記排気側電磁VVT10aによる位相制御を開始している。
【0038】
なお上記実施例1の変形例として、前記エンジン60は前記排気カムシャフト50aに前記排気側電磁VVT10aを備え、排気側のみバルブタイミング制御を行う構成としてもよい。また、前記気筒40毎に前記ECU12等のマイクロコントローラを備え、前記気筒40毎に燃焼状態の判定及びEGR量の算出を行う構成としてもよい。さらに、燃焼状態の判定はイオン電流以外にも例えば、前記シリンダ42内又は前記排気管24内の圧力又は温度に基づいて判定してもよいし、これらを組み合わせて総合的に判断してもよい。
【0039】
また、前記ECU12は前記気筒40毎の燃焼サイクルが複数回行われた後に、複数回の燃焼サイクルの燃焼状態に基づいて前記排気側電磁VVT10aを制御してもよいし、複数回の燃焼サイクル毎に燃焼状態を判定してもよい。さらに、前記ECU12で判定する燃焼状態を微細に区分し、それに伴い上記図4の(A)乃至(C)の位相で矢印(ア)乃至(ウ)の遅進角及び上記図5の(D)乃至(F)の位相で矢印(エ)乃至(カ)の遅進角に基づいて前記排気側電磁VVT10aも微細に区分し制御してもよい。
【0040】
また、前記排気側電磁VVT10aは前記排気バルブ22が閉弁してから初期の位相に戻す構成としてもよい。さらに、前記エンジン60は1本の前記排気カムシャフト50aによって前記排気バルブ22を動作させる気筒数を4気筒以下としてもよいし、前記エンジン60は1本の前記排気カムシャフト50aによって前記排気バルブ22を動作させる気筒数が4気筒以下であれば、複数の前記排気カムシャフト50aを備えてバンク角を持つエンジンとしてもよいし、前記エンジン60はディーゼルエンジンとしてもよい。
【0041】
また、前記排気側電磁VVT10aで動作される前記排気カム20の遅進角の範囲は圧縮行程及び燃焼行程中の前記気筒40において前記排気バルブ22の開弁動作を行わない範囲内であれば遅進角の範囲を任意に変更してもよい。さらに、前記排気側電磁VVT10aは前記エンジン60の低速回転時又は/及び中速回転時でのみ前記気筒40毎にEGR量を補正する構成としてもよい。
【0042】
また、4つの前記気筒40のうち、最も燃焼状態が良いと判定された気筒の前記排気カム20の最大遅進角量は最も燃焼状態が悪いと判定された気筒の前記排気カム20の遅進角量を基準に前記排気側電磁VVT10aの可動可能な範囲内を遅進角量として前記排気側電磁VVT10aを可動させてもよい。さらに、前記ECU12は4つの前記気筒40のうち、最も燃焼状態が良いと判定された気筒の前記排気カム20の最大遅進角量が最も燃焼状態が悪いと判定された気筒の前記排気カム20の遅進角量から前記排気側電磁VVT10aの可動不可能な範囲の遅進角量となる場合には前記排気側電磁VVT10aによる位相制御を初期状態に戻し、再び前記気筒40毎に判定した燃焼状態から前記排気側電磁VVT10aによる位相制御を開始してもよい。
【0043】
また、燃焼状態が最も良い気筒と燃焼行程が隣り合う気筒の燃焼状態が最も悪い気筒でなければ、最も燃焼状態が良いと判定された気筒の前記排気カム20の最大遅進角量が最も燃焼状態が悪いと判定された気筒の前記排気カム20の遅進角量から1.2倍以上の遅進角量となった場合でも継続して前記排気側電磁VVT10aによる位相制御を行ってもよい。さらに、前記気筒40毎の前記シリンダ42内に供給するEGR量は前記エンジン60の運転状態又は前記排気管24に排出する排気ガスの量等の条件に応じて前記排気側電磁VVT10aを動作し前記排気カム20を遅進角させる又は/及び前記排気バルブ22のリフト量を変動させる制御を同時に行って供給してもよい。
【0044】
また、前記排気側電磁VVT10aはコイルスプリングの代わりに2つの電磁クラッチから構成してもよい。さらに、前記排気側電磁VVT10aは電動モータを用いて前記排気カムシャフト50aの位相を変化させる電動可変バルブタイミング機構としてもよいし、油圧を駆動源とする油圧式可変バルブタイミング機構としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10a:排気側電磁VVT
10b:吸気側電磁VVT
12:ECU
14:検出装置
16:カム角センサ
20:排気カム
22:排気バルブ
22a:排気バルブヘッド
24:排気管
30:吸気カム
32:吸気バルブ
32a:吸気バルブヘッド
34:吸気管
40:気筒
42:シリンダ
44:ピストン
46:クランク
48:クランクシャフト
50a:排気カムシャフト
50b:吸気カムシャフト
52:タイミングベルト
54:点火プラグ
56:燃料噴射装置
60:エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有したエンジンと、当該複数の気筒に形成されたシリンダへ供給する空気と燃料の混合気の量を調整する吸気バルブと、当該シリンダからの排気ガスの量を調整する排気バルブを備え、
前記多気筒エンジンは前記吸気及び排気バルブに対してそれぞれ独立した吸気及び排気カムシャフトを備え、
前記吸気及び排気カムシャフトによって前記吸気及び排気バルブを動作される気筒数を4気筒以下とし、
前記排気カムシャフト又は前記吸気及び排気カムシャフトに前記吸気及び排気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構を備え、
吸気行程時の前記シリンダ内へ排気再循環を行う内燃機関における可変バルブタイミングの制御システムにおいて、
前記排気カムシャフトに備えられた排気側可変バルブタイミング機構は前記気筒毎に前記排気バルブの開閉時間又は/及びリフト量を制御し、前記気筒毎に吸気行程時に前記シリンダ内へ供給される排気再循環量を制御することを特徴とする可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項2】
前記エンジンは前記吸気及び排気カムシャフトを2組備え、
前記1組の吸気及び排気カムシャフトによって前記吸気及び排気バルブを動作させる気筒数を4気筒以下とし、
前記2組の排気カムシャフトをそれぞれ個別に備えた前記排気側可変バルブタイミング機構を用いて制御することを特徴とする請求項1に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項3】
前記排気側可変バルブタイミング機構は圧縮行程及び燃焼行程中の前記気筒内の前記排気バルブを動作させない範囲内で駆動することを特徴とする請求項1又は2に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項4】
前記排気側可変バルブタイミング機構は前記気筒毎の前記排気バルブ閉弁時の前記排気カムシャフトを初期位相に戻すことを特徴とする請求項1乃至3に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項5】
前記各気筒は前記シリンダに備えられた点火プラグに発生するイオン電流又は/及び前記シリンダ内の圧力によって燃焼状態を検出する検出装置を前記気筒毎に備え、
前記排気側可変バルブタイミング機構は前記検出装置の検出結果に応じて、前記気筒毎に最良の燃焼状態となるように排気再循環量を制御することを特徴とする請求項1乃至4に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項6】
前記検出装置は前記各気筒の燃焼サイクル毎に燃焼状態を検出し、
前記排気側可変バルブタイミング機構は次項の燃焼サイクル時に前記各気筒の燃焼状態を改善又は維持するように排気再循環量の補正を行うことを特徴とする請求項5に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項7】
前記燃焼状態最良気筒の最大遅進量は、前記燃焼状態最不良気筒の遅進量を基準に前記排気側可変バルブタイミング機構が可動可能な範囲内とすることを特徴とする請求項5又は6に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項8】
前記燃焼状態最良気筒の最大遅進量は、前記燃焼状態最不良気筒の遅進量を基準に前記排気側可変バルブタイミング機構が所望の位相以下とすることを特徴とする請求項5又は6に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項9】
前記燃焼状態最良気筒の最大遅進量と前記燃焼状態最不良気筒の遅進量との差が前記排気側可変バルブタイミング機構の可動範囲外又は所望の位相以上となる場合、前記排気カムシャフトを初期位相に戻すことを特徴とする請求項7又は8に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項10】
前記排気側可変バルブタイミング機構は電磁クラッチを用いて前記排気カムシャフトの位相を変化させる電磁可変バルブタイミング機構であることを特徴とする請求項1乃至9に記載の可変バルブタイミングの制御システム。
【請求項11】
前記排気側可変バルブタイミング機構は電動モータを用いて前記排気カムシャフトの位相を変化させる電動可変バルブタイミング機構であることを特徴とする請求項1乃至9に記載の可変バルブタイミングの制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−193645(P2012−193645A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57348(P2011−57348)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】