説明

内燃機関のオイル劣化抑制装置

【課題】オイル劣化の原因となる酸性物質と、これを中和するアルカリ性物質との接触面積を増大すると共に、製造コストを抑制する。
【解決手段】互いに隣接する気筒間の隔壁20に連通孔26を設け、この連通孔に、アルカリ性物質を含む多孔性のフィルム30を設ける。フィルムが多孔性なのでその内部でも酸性物質とアルカリ性物質とを接触させられ、接触面積を増大して中和反応を促進できる。また別部品としてフィルムを設けるので、製造コストを抑制できる。特に、隣接気筒間の圧力差を利用して、酸性物質を含むガスをフィルムに透過させられ、この透過の際に酸性物質を中和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイル劣化抑制装置に係り、特に、新規なフィルムを用いて内燃機関のオイルの劣化を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の内燃機関において、潤滑油たるオイルの劣化を抑制し、オイルのライフを長期化すると共にオイル交換の頻度を少なくする要請が常に存在する。オイルは使用につれスラッジが徐々に混入し、このスラッジが混入したオイルは粘度増加や添加剤消費により、潤滑剤として十分に機能しにくくなる。このため、オイル中へのスラッジ混入を可能な限り抑制する必要がある。
【0003】
スラッジは、オイル中に含まれるオレフィンと、ブローバイガス若しくは燃焼ガスに含まれるNOxやSOxと、水とを主成分とし、これら主成分が熱や酸の力で反応し、スラッジプリカーサやスラッジバインダといった前駆物質を経て生成される。スラッジは視覚的には泥或いはヘドロ状の物質である。
【0004】
特に、内燃機関内部で結露等によって生じる水と、ブローバイガス中に含まれるNOxやSOxとの反応によってできる酸性物質が、スラッジを生成する際の触媒となる。かかる酸性物質のオイルへの混入は、スラッジの生成を促進し、オイルの劣化を加速すると共に、潤滑油の各機能を低下させる。
【0005】
従来、この酸性物質への対策として、特許文献1においては、アルカリ性物質を含むスラッジ抑制層を、液体としてのオイルが常時行き渡らず且つ気体としてのオイルミストが接触される部位の表面に形成している。これによると、前記酸性物質をアルカリ性物質により中和させることができ、これを以て当該部位の表面にスラッジが生成又は付着されるのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−121474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の技術では、スラッジ抑制層の露出表面におけるアルカリ性物質しか酸性物質と接触、反応しないため、アルカリ性物質と酸性物質との接触面積ないし反応面積の増加という点で、課題が依然残されている。
【0008】
また、特許文献1に記載の技術では、アルカリ性物質を分散させた溶液を対象面(例えばヘッドカバー内面)に塗布してスラッジ抑制層を形成しているが、この塗布による方法はマスキングが面倒で、製造コストを増大させる原因となる。しかも、対象面が複雑形状をしていることが多く、前記接触面積の不十分さから広範囲の塗布を実施せざるを得ないことから、かかる問題が一層顕著となる。
【0009】
そこで本発明は、上述の課題に鑑みて創案され、その目的は、酸性物質に対するアルカリ性物質の接触面積を増大し得ると共に、製造コストをも抑制し得る内燃機関のオイル劣化抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の形態によれば、互いに隣接する気筒間の隔壁に、これら気筒同士を連通する連通孔を設け、該連通孔に、アルカリ性物質を含む多孔性のフィルムを設けたことを特徴とする内燃機関のオイル劣化抑制装置が提供される。
【0011】
これによれば、フィルムが多孔性であることから、フィルムの露出表面のみならずその内部でも酸性物質とアルカリ性物質とを接触、反応させることができる。よって酸性物質に対するアルカリ性物質の接触面積を大幅に増大して中和反応を大幅に促進することが可能となる。また、対象面に直接塗布するのではなく、別部品としてフィルムを設けるので、塗布時のマスキングが不要であり、製造コストを抑制できる。しかもフィルムは高効率の中和作用をもたらすので設置面積を低減でき、従って製造コスト抑制に非常に有利である。
【0012】
特に、隣接する気筒内で互いに異なる方向のピストンの昇降動作が生じた場合、ピストンの下方の空間において気筒間に圧力差が生じ、圧力の高い気筒から圧力の低い気筒への連通孔を通じたガスの流れが生じる。このガスには、ブローバイガスに含まれるNOxおよびSOxと、水との反応によって生成された酸性物質が含まれる。
【0013】
本発明の一の形態によれば、ガスが連通孔を通過するとき、ガスがフィルムを透過し、この透過の際、ガス中の酸性物質がアルカリ性物質により中和させられる。特にフィルムの露出表面のみならず、その内部でも中和反応が生じるので、フィルムの単位面積当たりの接触面積及び反応面積を増加し、中和反応を大幅に促進することができる。
【0014】
好ましくは、前記フィルムにより、前記連通孔を塞ぐ蓋板が形成される。これにより連通孔を通過するガスの全量がフィルムを透過するようになり、高い中和効率を確保できる。
【0015】
好ましくは、前記フィルムにより複数の弁板が形成され、これら弁板は、隣接気筒のピストン下方空間の圧力差に応じて開閉する。
【0016】
これによれば、例えばピストン下降気筒においてピストン下方空間の圧力が過剰に上昇し、隣接気筒のピストン下方空間の圧力差が過剰に大きくなったとき、弁板を開いて、圧力の高い空間から圧力の低い空間へと圧力を逃がすことができる。これにより圧力過剰上昇による回転抵抗増大、エンジン出力低下及びフィルム損傷などの不具合を未然に防止することができる。
【0017】
好ましくは、前記複数の弁板が、前記連通孔の内壁に固定される固定端部と、自由端部とを有し、前記自由端部同士が向かい合うよう重ね合わされ、且つ、協働して前記連通孔を閉じるよう配置される。
【0018】
好ましくは、前記隣接気筒内に、位相差を持って昇降移動するピストンがそれぞれ設けられる。
【0019】
好ましくは、前記フィルムが、前記連通孔の内部に設けられる。
【0020】
好ましくは、前記フィルムが可撓性を有する。
【0021】
好ましくは、前記フィルムが樹脂をさらに含む。これによりフィルム自体の強度を確実に向上できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸性物質に対するアルカリ性物質の接触面積を増大し得ると共に、製造コストをも抑制し得る内燃機関のオイル劣化抑制装置を提供できるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の全体構成を示す概略図である。
【図2】内燃機関内部の構成を示す断面図である。
【図3】シリンダブロック及び上部クランクケースの構成を示す、図2のIII−III線断面図である。
【図4】フィルムの斜視図である。
【図5】走査型電子顕微鏡(SEM)によるフィルムの拡大表面図である。
【図6】走査型電子顕微鏡(SEM)によるフィルムの拡大断面図であり、図5より高倍率のものである。
【図7】弁板の設置状態を示す正面図である。
【図8】設置前の各弁板を示す正面図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】弁板の開状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1には、本実施形態に係る内燃機関の全体構成が概略的に示されている。図示されるように、エンジン1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2の上方に取り付けられたシリンダヘッド3と、シリンダヘッド3の上方に取り付けられてこれを覆うヘッドカバー4とを有する。シリンダブロック2の下部には、クランクケースの上半部をなす上部クランクケース5が一体的に形成され、上部クランクケース5の下方には、クランクケースの下半部をなす下部クランクケース6が取り付けられている。下部クランクケース6の下方にはオイルパン7が取り付けられている。
【0026】
本実施形態のエンジン1は車両用直列多気筒エンジンである。シリンダヘッド3には枝管8を介してサージタンク9が接続され、サージタンク9に貯留された吸気を枝管8により各気筒に分配するようになっている。サージタンク9の上流側にはスロットルバルブ10とエアフィルタ11が設けられる。またシリンダヘッド3には排気通路12も接続されている。
【0027】
クランクケースの内部とサージタンク13の内部とがブローバイガス通路13により連通され、ブローバイガス通路13の入口部には、吸気負圧に応じて開度が調節されてブローバイガス流量を調節するPCVバルブ14が設けられている。なおPCVとはPositive Crankcase Ventilationの略称である。エアフィルタ11直後の吸気通路とヘッドカバー4内とが新気通路15により連通されている。
【0028】
エンジンの軽負荷運転時、PCVバルブ14は開かれ、クランクケース内のブローバイガスはPCVバルブ14、ブローバイガス通路13を順に通じてサージタンク9内に導入される。そして吸気と共に燃焼室内に流入され、燃焼される。このとき同時に新気通路15からヘッドカバー4内に新気が導入され、この導入された新気は、シリンダヘッド3及びシリンダブロック2を縦貫通する通路を通じてクランクケース内に導入される。これによりクランクケース内が換気される。他方、エンジンの高負荷運転時には、PCVバルブ14が閉じられ、ブローバイガスはヘッドカバー4内から新気通路15を通じてエアフィルタ11直後の吸気通路に戻される。
【0029】
図2に示すように、エンジン内部には複数の気筒が直列に設けられている。本実施形態では#1〜#4の計四つの気筒が設けられ、図2にはそのうちの#1気筒と#2気筒のみを示す。各気筒には、シリンダブロック2の内部に形成されたシリンダ16と、シリンダ16内に昇降可能に収容されたピストン17とが設けられている。各ピストン17とクランクシャフト18がコンロッド19により連結される。互いに隣接する#1気筒と#2気筒の間には、隔壁20が設けられている。隔壁20は、シリンダ16間の隔壁20Aと、当該隔壁20Aから下方に延びる上部クランクケース5内の隔壁20Bとを有する。なお図示しない気筒間にも同様の隔壁が設けられる。
【0030】
図3にも示すように、隔壁20Bの下端面には、クランクシャフト18のジャーナル21の上半部を支持するための半円状の軸受部22が設けられている。また隔壁20Bの下端面にはクランクキャップ23が下方からボルト24により取り付けられる。クランクキャップ23の上端面には、クランクシャフト18のジャーナル21の下半部を支持するための半円状の軸受部25が設けられている。こうしてクランクシャフト18の複数のジャーナル21は、各気筒間の位置で上下から挟まれて回転自在に支持されることとなる。なおクランクキャップ23も前記隔壁20の一部をなしている。
【0031】
隔壁20には、隣接する気筒同士を連通する連通孔26が設けられている。本実施形態の場合、連通孔26は上部クランクケース内隔壁20Bに設けられており、その位置は図3に示すようにシリンダ軸Cと同軸の位置であるが、シリンダ軸Cからオフセットしても良い。連通孔26は好ましくは、クランクシャフト18によって覆われぬよう、クランクシャフト18の回転軌跡からできるだけ離れて位置される。そしてこの連通孔26に、アルカリ性物質を含む多孔性のフィルム30が設けられている。本実施形態の場合、フィルム30は連通孔26の内部に設けられている。そしてこのフィルム30により、連通孔26を塞ぐ蓋板31が形成されている。連通孔26及び蓋板31の形状は、本実施形態では円形であるが、他の形状としても良い。
【0032】
蓋板31は、連通孔26の長手方向中間位置に配置され、その周縁部が連通孔26の内壁に接着剤で固定されている。但し、蓋板31の設置位置や固定方法は任意である。例えば、蓋板31を連通孔26の長手方向片側寄りに設置してもよいし、蓋板31の周縁部を一対のリング状ブラケットで挟持し、これらブラケットを連通孔26の内壁に固定してもよい。
【0033】
ここでフィルムの詳細を述べる。図4に示すようにフィルム30は、平らな薄板状ないし薄膜状の基本形状を有し、その厚さは調節可能であるが例えば0.1〜1mm程度である。フィルム30は図5,図6に示される如く多孔性であり、可撓性ないし柔軟性を有する。フィルム30は少なくともアルカリ性物質を含み、アルカリ性物質は例えば炭酸カルシウムが例示できるが、他の物質も使用可能である。またフィルム30は、アルカリ性物質同士を結合したりフィルム自体の強度を増すなどの目的で、樹脂が含まれている。樹脂は例えばポリウレタンが例示できるが、他の樹脂も使用可能である。樹脂とアルカリ性物質とは分子間力により物理的に付着しており、化学的な結合はしていない。このフィルム30は、可撓性を有するため比較的自由に曲げることができ、また自由な大きさ、形状に切断可能である。
【0034】
次にフィルムの製造方法を説明する。まずポリウレタン等の樹脂を、N,N−ジメチルホルムアミド等の水溶性有機溶剤で希釈する。このとき、フィルムの細孔の大きさを調整するため、界面活性剤を加えても良い。次に、この希釈された樹脂に、炭酸カルシウム等のアルカリ性物質を混ぜて混合物を生成し、当該混合物をよく攪拌する。
【0035】
こうしてできた混合物を型の表面に塗布し、塗膜を形成する。図4に示したような平板状フィルムを作製する場合、型は単なる平板、例えば平らなガラス板とすればよい。塗膜の厚さは調節可能である。
【0036】
次いで、塗膜を水洗して、塗膜から有機溶剤を除去する。具体的には、塗膜を型ごと(型から外した状態でも良い)水中に浸漬し、塗膜から有機溶剤を脱離させる。この脱離の際、有機溶剤が通る通り道が発泡形状となるので、当該発泡部分が最終製品における細孔となる。なお有機溶剤は水溶性なので容易に脱離可能である。加熱は基本的に不要である。次いで、塗膜を型から外して再度湯又は水で洗い流し、型に接していた面の有機溶剤をも完全に除去する。そしてこの後、塗膜を乾燥させる。これにより最終製品としてのフィルムが完成する。
【0037】
かかる製造方法から明らかなように、型の形状に応じた任意の形状のフィルムを作製することが可能である。
【0038】
なお、最終製品としてのフィルムにおけるアルカリ性物質の濃度が高いほど、高い中和作用(詳しくは後述)が得られる。しかし、アルカリ性物質の濃度が高過ぎると、フィルムが自己形状を保持できなくなるほど脆くなり、崩壊することすらある。この中和作用と形状保持性のバランスについて、本発明者らの試験によれば、炭酸カルシウムとポリウレタンの組み合わせの場合、約70wt%以下の炭酸カルシウム濃度であれば形状保持性を確保できることが判明している。よって中和作用と形状保持性の最良バランスを得るためには、フィルムにおけるアルカリ性物質の濃度が約70wt%であるのが好ましい。
【0039】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0040】
上記エンジンの内部においては、ブローバイガス中に含まれるNOx及びSOxと、結露等によって発生したりブローバイガス中に含まれたりする水との反応によって、硝酸HNO3及び硫酸H2SO4といった酸性物質が発生し、この酸性物質がスラッジを誘発すると共に、オイルを酸化させて劣化させる。しかしながら、本実施形態によれば、かかる酸性物質を、フィルム30に含まれるアルカリ性物質と反応させて中和させることができ、これによりスラッジの生成及びオイルの劣化を大幅に抑制できる。
【0041】
具体的に述べると、図2に示すように、相隣接する気筒内で互いに異なる方向のピストン17の昇降動作が生じた場合、ピストン17の下方の空間において気筒間に圧力差が生じ、圧力の高い気筒から圧力の低い気筒への連通孔26を通じたガスの流れが生じる。図示例の場合、#1気筒のピストン17と#2気筒のピストン17とは所定の位相差(具体的には180°CAの位相差)を持って昇降移動する。そして矢示の如く、#1気筒のピストン17が上昇するとその下方の空間の圧力は低くなり、#2気筒のピストン17が下降するとその下方の空間の圧力は高くなり、結果的に連通孔26を通じた#2気筒から#1気筒へのガスの流れが生じる。ここでいうガスには、ブローバイガスに含まれるNOxおよびSOxと、水(特に水蒸気)との反応によって生成された酸性物質が含まれている。
【0042】
ところで、連通孔26にアルカリ性物質を含む多孔性のフィルム30ないし蓋板31が設けられていることから、ガスが連通孔26を通過するとき、ガスの全量がフィルム30ないし蓋板31を透過し、この透過の際、ガス中の酸性物質がアルカリ性物質により中和される。特に、フィルム30の露出表面のみならず、その内部でも酸性物質とアルカリ性物質との接触及び反応を生じさせることができる。よって、フィルムの単位面積当たりの接触面積及び反応面積を増加することができ、中和反応を大幅に促進することが可能となる。
【0043】
さらに、特許文献1記載の技術のように対象面に直接塗布するのではなく、別部品としてのフィルム30ないし蓋板31を設置することから、塗布時の面倒なマスキングが不要であり、製造コストを抑制することができる。しかもフィルムは高効率の中和作用をもたらすので設置面積を低減でき、従って製造コスト抑制に非常に有利である。
【0044】
そして、相隣接する気筒間の圧力差が交互に逆転することから、フィルム30ないし蓋板31を透過するガスの流れの向きも交互に逆転する。従ってこれにより、ガス中の煤などによるフィルム30ないし蓋板31の目詰まりを抑制することができる。
【0045】
本実施形態では、シリンダ16の直下の隔壁20Bに連通孔26及びフィルム30を設けたので、ピストン17の下降によるガスの運動エネルギを有効利用し、ガスを即座に連通孔26に導入してフィルム30を透過させることができる。これにより中和作用を促進することが可能である。
【0046】
なお、フィルムに含まれるアルカリ性物質は時間の経過と共に酸性物質との反応で徐々に消費され、消失していくが、前述したように樹脂とアルカリ性物質とが物理的に付着しており、化学的な結合をしていないことから、アルカリ性物質の消費時及び消費後に樹脂に影響を及ぼすことがない。よって、アルカリ性物質の消費後においても、フィルムの強度を依然として維持することが可能である。
【0047】
次に、他の実施形態を説明する。なお前記実施形態と同様の部分については説明を省略し、以下相違点を中心に説明を行う。
【0048】
図7〜図9は、前記蓋板31と置き換わる複数(本実施形態では2枚)の弁板41A,41Bを示す。これら弁板41A,41Bはそれぞれ同一形状のフィルム30により形成され、一方に対し他方を180°回転し、重ねて用いるようになっている。弁板41A,41Bは、連通孔26側に固定される固定端部42と、自由端部43とを有する。図8(A)(B)において、42aで示す部分が、連通孔26の内壁への固定部分となる固定端部42の周縁部である。当該周縁部42aは、連通孔26の内壁形状に沿った略半円形とされている。他方、43aで示す部分が、連通孔26の内壁に固定されない自由端部43の周縁部である。当該周縁部43aは、連通孔26の半径より大きな半径を有する略円弧状ないしアーチ状に形成されている。各弁板41A,41Bは、連通孔26より小さい面積を有する。
【0049】
これら弁板41A,41Bは、図7及び図9に示すように、自由端部43同士が向かい合うよう互いに重ね合わされ、全体として連通孔26と同一形状の円形をなし、固定端部42の周縁部42aにおいてのみ、連通孔26の内壁に接着剤等で固定される。その結果、2枚の弁板41A,41Bは協働して連通孔26を閉じるよう配置され、自由端部43の周縁部43aは連通孔26の内壁に接触せず離間されている。
【0050】
本実施形態によると、前記実施形態の作用効果に加え、次のような作用効果をもたらすことができる。即ち、前記実施形態の場合だと、連通孔26が蓋板31により閉塞されているため、ピストン下降気筒においてピストン下方空間の圧力が上昇し、これが回転抵抗となり、エンジン高回転域で出力低下を招く可能性がある。また、過度に圧力が上昇した場合、フィルム30ないし蓋板31が破れるなどの損傷を受ける可能性もある。
【0051】
この対策として、連通孔26を蓋板31で完全に閉塞しない(例えば孔を設ける等)構造も考えられるが、こうすると必然的にガスが、通過抵抗の少ない未閉塞部を多く流れてしまい、結果、蓋板31におけるガス透過量が減少し、中和作用も減少してしまう。
【0052】
しかしながら、本実施形態の構成によると、圧力の過剰上昇時のみ弁板41A,41Bを開いて圧力を逃がすことができる。即ち、相隣接する気筒のピストン下方空間の圧力の差が所定値以下の場合、図9に示すように、弁板41A,41B同士が互いに重なって閉じており、ガスは、前記実施形態の如く弁板41A,41B自体を透過して流れる。他方、圧力差が所定値を超えると、図10に示すように、弁板41A,41Bが変形して弁板41A,41Bの間に隙間ができ、即ち弁板41A,41Bが開き、ガスはその弁板41A,41B同士の隙間を通過して流れる。これにより圧力過剰上昇時に弁板41A,41B同士の隙間を通じて圧力を逃がし、前述の回転抵抗増大、エンジン出力低下及びフィルム損傷などの不具合を未然に防止することが可能となる。
【0053】
なお、弁板単体の強度(弾力性)、弁板同士のオーバーラップ量、枚数等は、エンジンの出力、排気量、連通孔26の孔径等に応じて最適化するのがよい。ここで弁板の枚数は本実施形態の如き2枚に限らず、3枚以上とすることも可能である。
【0054】
以上、本発明の好適実施形態を述べたが、本発明は上記以外の実施形態を採ることも可能である。例えばフィルムは、連通孔の一端に設けてもよい。例えば、連通孔の一端の外周側の隔壁表面にフィルムを貼り付け、連通孔を塞ぐ如きである。また、連通孔、蓋板及び弁板の形状は、上記以外にも様々な形状が可能である。フィルムは、ブラケット等を介して固定されてもよい。特にフィルムを着脱可能に固定することも可能で、こうするとフィルムが劣化したときに交換可能となる。連通孔及びフィルムの設置位置は、ピストンと干渉しない位置のシリンダ間隔壁20Aや、クランクキャップ23などとすることもできる。上記実施形態では複数気筒のうち#1気筒と#2気筒の間にのみ連通孔及びフィルムを設けたが、他の隣接気筒間に連通孔及びフィルムを設けてもよい。この場合、気筒間に圧力差が生じる、ピストン位相差のある隣接気筒間とするのが好ましい。なお、中和作用の減少が容認できるのであれば、連通孔をフィルムで完全に閉塞しない構造も可能である。エンジンの用途、形式等は任意である。
【0055】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ヘッドカバー
5 上部クランクケース
6 下部クランクケース
7 オイルパン
16 シリンダ
17 ピストン
18 クランクシャフト
20 隔壁
26 連通孔
30 フィルム
31 蓋板
41A,41B 弁板
42 固定端部
43 自由端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接する気筒間の隔壁に、これら気筒同士を連通する連通孔を設け、該連通孔に、アルカリ性物質を含む多孔性のフィルムを設けたことを特徴とする内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項2】
前記フィルムにより、前記連通孔を塞ぐ蓋板が形成されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項3】
前記フィルムにより複数の弁板が形成され、これら弁板は、隣接気筒のピストン下方空間の圧力差に応じて開閉することを特徴とする請求項1記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項4】
前記複数の弁板が、前記連通孔の内壁に固定される固定端部と、自由端部とを有し、前記自由端部同士が向かい合うよう重ね合わされ、且つ、協働して前記連通孔を閉じるよう配置されることを特徴とする請求項3記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項5】
前記隣接気筒内に、位相差を持って昇降移動するピストンがそれぞれ設けられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項6】
前記フィルムが、前記連通孔の内部に設けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項7】
前記フィルムが可撓性を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。
【請求項8】
前記フィルムが樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の内燃機関のオイル劣化抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−196654(P2010−196654A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44700(P2009−44700)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】