説明

内燃機関の制御方法

【課題】降坂時の白煙の発生を防止すると共に加速性能の向上を図る。
【解決手段】エンジンブレーキを作動させた車両の降坂時に燃料無噴射の状態が所定時間継続しているか否かを判定する判定工程と、前記燃料無噴射の状態が所定時間継続していると判定した時に吸気通路5に設けられた過給機10又は圧縮機を電動又は内燃機関の動力により強制的に所定時間駆動させてシリンダ3内の温度を上昇させる昇温工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降坂時の白煙の発生を防止する内燃機関の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
標高の高い山などにおいては、断続的に続く長距離(1〜10km)の下り坂がある。このような下り坂を車両で降坂する場合、車両は道路の傾斜によって加速されるため、アクセルを踏まなくてもエンジンブレーキの作動だけで制限速度内で運転することが可能である(なお、クラッチを切ったアイドル運転状態での運転は除く。)。この時のアクセル開度は0%、燃料噴射量は0mm3/stroke(噴射1回当たりの燃料噴射量)、車速は制限速度例えば100km/時である。この状態が数十秒以上続くことになる。
【0003】
この場合、前記車両の内燃機関(エンジン)は、燃料をシリンダ内に噴射しておらず、外部の空気のみをシリンダ内に取り込み、吸気(給気)−圧縮−膨張−排気といった工程を経て吸い込んだ空気のみを排気として車外に放出する。
【0004】
燃料が使用される通常の膨張行程では、燃焼により発生した熱エネルギの一部によりシリンダ内の壁面温度が上昇するが、空気のみを取り込む場合の膨張行程では、発生する熱量がないため、シリンダ内の壁面温度の上昇はほとんど見られない。
【0005】
特に、標高が高いと外気温度が平地と比べて低くなるため、内燃機関のシリンダ内に取り込まれる空気の温度も低くなり、シリンダ内の壁面温度の低下は顕著となる。
【0006】
ところで、このような降坂時に、下り坂の傾斜が緩やかになり、車両の速度が少し(10〜20km/時程度)落ちる(例えば100km/時から80km/時になる)場合がある。このような場合、運転者は一定車速を維持しようとアクセルペダルを少しだけ踏み込む(例えばアクセル開度5%、燃料噴射量5mm3/stroke)ことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−197706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記内燃機関においては、前述したように吸入空気によってシリンダ内の壁面が通常時よりも冷やされているため、アクセルペダルの踏み込みによりシリンダ内に噴射された燃料は燃焼(着火)しにくく、失火し易い。したがって、失火した燃料が白煙となって排気通路より大気中に放出されるという問題がある。また、失火により、運転者の意図した加速性能が得られないという問題もある。なお、関連する技術としては、冷間始動時に白煙の排出低減を図る技術がある(特許文献1参照)。
【0009】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、降坂時の白煙の発生を防止できると共に加速性能の向上が図れる内燃機関の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る内燃機関の制御方法は、エンジンブレーキを作動させた車両の降坂時に燃料無噴射の状態が所定時間継続しているか否かを判定する判定工程と、前記燃料無噴射の状態が所定時間継続していると判定した時に吸気通路に設けられた過給機又は圧縮機を電動又は内燃機関の動力により強制的に所定時間駆動させてシリンダ内の温度を上昇させる昇温工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この場合、前記シリンダ内の温度を上昇させてから、加速のため燃料を噴射する際の燃料噴射圧力を通常時の燃料噴射圧力よりも下げる減圧工程を更に備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、降坂時における白煙の発生を防止できる共に加速性能の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関を示す図である。
【図2】図1の内燃機関の制御装置による制御内容を示すフローチャートである。
【図3】エンジン回転速度と燃料噴射量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0015】
図1に示すように、車両の内燃機関(例えばディーゼルエンジン)1は、クランク軸2に取付けられた図示しないピストンを収容する複数のシリンダ3と、これらシリンダ3内に吸気マニホールド4を介して吸気を行う吸気通路5と、前記シリンダ3内から排気マニホールド6を介して排気を行う排気通路7とを備えている。前記吸気通路5には先端側からエアフィルタ8、低圧段過給機9の吸気コンプレッサ9a、可変容量型の高圧段過給機10の吸気コンプレッサ10a、吸気を冷却する吸気クーラ11、インテークスロットル12が順に設けられている。
【0016】
前記排気通路7には、先端側から図示しないマフラ、排気浄化装置13、低圧段過給機9の排気タービン9b、高圧段過給機10の排気タービン10bが順に設けられている。低圧段過給機9は、吸気コンプレッサ9aの出口圧力が設定圧力を超えると排気通路7における排気タービン9bの入口側と出口側をバイパスする通路14を開放するウエストゲート弁15を備えている。なお、高圧段過給機10を選択的に使用可能とするために、吸気通路5にはバイパス管16及び吸気切換弁17が設けられると共に、排気通路7にも高圧段過給機10の流量制御弁18を有するバイパス管19及び排気切換弁20が設けられている。吸気切換弁17、流量制御弁18及び排気切換弁20は後述の制御装置35により制御される。
【0017】
また、吸気マニホールド4と排気マニホールド6との間には排気の一部を吸気側に供給することにより燃焼を緩慢にさせて排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の発生を抑制するための排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)通路(EGR通路)21が設けられ、このEGR通路21には排気を冷却するEGRクーラ22及びEGR通路21を開閉するEGR弁23が設けられている。
【0018】
前記吸気通路5の先端側には外気温度を検出可能な温度センサを有する吸気流量センサ24が設けられ、吸気通路5の基端側には吸気圧センサ25が設けられている。また、内燃機関1には、大気圧力を検出する大気圧力センサ26、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ27、内燃機関1のクランク軸2の回転速度を検出する回転速度センサ28が設けられている。更に、前記高圧段過給機10にはこれを強制的に駆動可能な電動機29が取付けられている。この電動機29は、同一軸上の排気タービン10aと吸気コンプレッサ10bを回転させることができ、排気ガスの流速によらず任意の回転が得られるものである。これにより、前記高圧段過給機10は電動ターボとされている。
【0019】
そして、降坂時の白煙の発生を防止するために、前記内燃機関1の制御方法は、エンジンブレーキを作動させた車両の降坂時に燃料無噴射の状態が所定時間継続しているか否かを判定する判定工程と、前記燃料無噴射の状態が所定時間継続していると判定した時に吸気通路5に設けられた低圧段過給機10を電動(電動機29)により強制的に所定時間駆動させてシリンダ3内の温度を上昇させる昇温工程とを備えている。そして、この制御方法は制御装置35によって実施されるようになっている。
【0020】
この場合、前記シリンダ3内の温度を上昇させてから、加速のため燃料を噴射する際の燃料噴射圧力を、通常時の燃料噴射圧力よりも下げる減圧工程を更に備えていることが好ましい。
【0021】
前記制御方法を更に具体的に説明すると、図2に示すように先ず降坂・無噴射の判定(S1)を行う。これは、シリンダ3内の壁面温度が低下していることの判定であり、車両が下り坂を降坂中であり、燃料が無噴射の状態であることで判定される。この判定は、燃料噴射量が設定値(例えば0mm3/stroke)以下、アクセル開度が設定値(例えば0%)以下、車両速度が設定値(例えば80km/時)以上、外気温度が設定値(例えば20℃)以下、エンジン回転速度(回転数)が設定値(例えば1000rpm)以上であるか否かにより行われる。
【0022】
前記降坂・無噴射の判定(S1)がYESであれば次の継続時間の判定(S2)を行い、NOであれば通常制御(S7)へ移行する。前記継続時間の判定(S2)は、降坂・無噴射の継続時間が設定値(例えば10秒)以上であるか否かにより行われる。
【0023】
前記継続時間の判定(S2)がYESであれば、すなわちS1及びS2の条件成立でシリンダ内壁面温度が冷却されたと判断し、内燃機関1の制御すなわち降坂白煙防止制御を開始する(S3)。この降坂白煙防止制御は、電動機29で過給機10を強制的に駆動することにより吸気の圧縮熱でシリンダ3内の温度を上昇させるものである。この制御は、制御マップにより予め定められた電動機29の回転数又はブースト圧に基いて制御される。
【0024】
また、この制御中にシリンダ3内への燃料の噴射が行われるが、この場合、燃料噴射圧力を通常時よりも下げることが、更に失火を抑制ないし防止する上で好ましい。すなわち、燃料噴射圧力が通常時のように高いと、ピストン上部の燃焼室やシリンダの内壁面に付着する燃料量が増加して失火し易くなるからである。この場合、制御マップにより定められた補正量で燃料噴射圧力を減量補正する。
【0025】
次に、前記降坂白煙防止制御の停止の判定である第1の判定(経過時間)(S4)及び第2の判定(加速大)(S5)を行う。第1の判定(S4)は、降坂白煙防止制御の継続時間(経過時間)が設定値(例えば20秒)以上であるか否かにより行われる。第2の判定(S5)は、燃料噴射量が設定値(例えば15mm3/stroke)以上であるか否かにより又はアクセル開度が設定値(例えば15%)以上であるか否かにより行われる。
【0026】
前記第1の判定がYESであれば前記降坂白煙防止制御を停止する(S6)が、第1の判定がNOであっても第2の判定がYESであれば前記降坂白煙防止制御を停止する(S6)。このように降坂白煙防止制御の停止は、再加速判断(アクセル開度及び燃料噴射量)(S5)と本ロジックの作動時間(S4)で判断され、降坂白煙防止制御の停止により内燃機関の制御は通常制御へ移行する(S7)。
【0027】
図3はエンジン回転速度と燃料噴射量の関係を示す図で、30は全負荷燃料ラインであり、その左側がアイドル運転領域31であり、このアイドル運転領域31よりも右側の領域の下方が降坂白煙防止制御領域32であり、その上方が通常制御領域33である。前記降坂白煙防止制御領域32内で、電動機29による過給運転及び燃料噴射圧力の低圧化が実施される。
【0028】
以上の構成からなる内燃機関1の制御方法によれば、エンジンブレーキを作動させた車両の降坂時に燃料無噴射の状態が所定時間継続しているか否かを判定する判定工程と、前記燃料無噴射の状態が所定時間継続していると判定した時に吸気通路5に設けられた過給機10の吸気コンプレッサ10bを電動(電動機29)により強制的に所定時間駆動させてシリンダ3内の温度を上昇させる昇温工程とを備えているため、降坂時の白煙の発生を防止することができると共に加速性能を向上させることができる。
【0029】
また、前記シリンダ3内の温度を上昇させてから、加速のため燃料を噴射する際の燃料噴射圧力を通常時の燃料噴射圧力よりも下げる減圧工程を更に備えているため、燃料噴霧の速度が低下してシリンダ3の内壁面に付着する燃料量を低下させることができ、燃料の失火を抑制することができる。
【0030】
また、過給機10に電動機29を設けているため、排気タービン10aにより電動機29を駆動して発電させ、回生エネルギとしてバッテリの充電等に利用することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。前記実施の形態では、電動機により過給機を強制的に駆動させてシリンダ内の温度を上昇させるようにしたが、内燃機関の動力(例えばクランク軸の回転)により過給機を強制的に駆動させてシリンダ内の温度を上昇させるようにしてもよい。また、過給機に電動機を設けるのではなく、吸気通路に電動コンプレッサ(圧縮機)を設けてもよく、或いは吸気通路に内燃機関により駆動されるコンプレッサを設けてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 内燃機関
3 シリンダ
5 吸気通路
10 過給機
29 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンブレーキを作動させた車両の降坂時に燃料無噴射の状態が所定時間継続しているか否かを判定する判定工程と、前記燃料無噴射の状態が所定時間継続していると判定した時に吸気通路に設けられた過給機又は圧縮機を電動又は内燃機関の動力により強制的に所定時間駆動させてシリンダ内の温度を上昇させる昇温工程とを備えたことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
前記シリンダ内の温度を上昇させてから、加速のため燃料を噴射する際の燃料噴射圧力を通常時の燃料噴射圧力よりも下げる減圧工程を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153546(P2011−153546A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14589(P2010−14589)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】