説明

内燃機関の制御装置

【課題】本発明は、内燃機関の制御装置に関し、燃料中のアルコール濃度が高く、且つ内燃機関が低温の場合における始動性やドライバビリティを十分に改善することを目的とする。
【解決手段】本発明の内燃機関の制御装置は、ガソリンとアルコールとの混合燃料によって運転可能な内燃機関の筒内に燃料を噴射する筒内インジェクタと、燃料中のアルコール濃度を取得するアルコール濃度取得手段と、内燃機関の代表温度を検出する温度検出手段と、取得されたアルコール濃度が所定濃度より高く、且つ、検出された代表温度が所定温度より低い場合には、圧縮行程または吸気上死点付近において筒内インジェクタから燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006−214415号公報には、気筒内に直接に燃料を噴射する筒内インジェクタと、吸気ポート内に燃料を噴射するポートインジェクタとの双方を備え、且つ、ガソリンとアルコールとの混合燃料で運転可能なエンジンの制御装置が開示されている。アルコールは、ガソリンと比べて、低温下で気化しにくい。このため、アルコール濃度の高い燃料が使用されている場合には、冷間始動時やその後の暖機過程において、燃料の気化が不十分となり易い。その結果、始動性やドライバビリティが悪化し易い。
【0003】
上述したような問題を解決するため、上記公報には、アルコール濃度が所定濃度以上で、且つエンジン温度または空気温度が所定温度以下の場合には、ポートインジェクタを停止し、筒内インジェクタによって燃料噴射を実行させる技術が開示されている。筒内インジェクタによれば、噴射された燃料が必ず筒内に取り込まれるので、ポートインジェクタから燃料を噴射する場合と比べて、始動性やドライバビリティを改善することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−214415号公報
【特許文献2】特開2005−220820号公報
【特許文献3】特開平5−33708号公報
【特許文献4】特開平3−121227号公報
【特許文献5】特開2002−138869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料のアルコールが更に高い場合や、エンジン温度がより低い場合には、筒内インジェクタから燃料を噴射しても、始動性やドライバビリティを必ずしも十分に改善することができなかった。この点で、上記従来の技術は未だ改善の余地を残すものであった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、燃料中のアルコール濃度が高く、且つ内燃機関が低温の場合における始動性やドライバビリティを十分に改善することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、
ガソリンとアルコールとの混合燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
前記内燃機関の筒内に燃料を噴射する筒内インジェクタと、
燃料中のアルコール濃度を取得するアルコール濃度取得手段と、
前記内燃機関の代表温度を検出する温度検出手段と、
前記取得されたアルコール濃度が所定濃度より高く、且つ、前記検出された代表温度が所定温度より低い場合には、圧縮行程または吸気上死点付近において前記筒内インジェクタから燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記筒内インジェクタからの燃料噴射時期を圧縮行程または吸気上死点付近に設定する場合に、前記取得されたアルコール濃度が高いほど、前記燃料噴射時期を圧縮上死点または吸気上死点に近づけることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記筒内インジェクタからの燃料噴射時期を圧縮行程または吸気上死点付近に設定する場合に、前記検出された代表温度が低いほど、前記燃料噴射時期を圧縮上死点または吸気上死点に近づけることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記燃料噴射時期制御手段は、前記取得されたアルコール濃度が所定濃度より低い場合、あるいは、前記検出された代表温度が所定温度より高い場合には、吸気行程の途中において前記筒内インジェクタから燃料を噴射させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、燃料中のアルコール濃度が所定濃度より高く、且つ、内燃機関の代表温度が所定温度より低い場合には、圧縮行程または吸気上死点付近において筒内インジェクタから燃料を噴射させることができる。燃料中のアルコール濃度が所定濃度より高く、且つ、内燃機関の代表温度が所定温度より低い場合には、燃料が十分に気化しにくい。このような場合に、圧縮行程または吸気上死点付近において燃料を噴射することにより、燃料の気化を促進することができる。すなわち、圧縮行程において燃料を噴射する場合には、筒内での圧縮によって高温高圧となった雰囲気中に燃料が噴射されるので、燃料の気化が促進される。また、吸気上死点付近において燃料を噴射する場合には、圧縮上死点付近で行われる点火までの期間を長くすることができるので、その間に燃料を十分に気化させることができる。このようなことから、第1の発明によれば、燃料が気化しにくい条件であっても良好な混合気の形成が促進されるので、安定した燃焼が得られる。このため、始動性やドライバビリティを十分に改善することができる。また、燃料のアルコール濃度が高い場合には、排気ガス中にPMが生成しにくいので、燃料噴射時期を圧縮行程または吸気上死点とした場合であっても、PMの増大を確実に抑制することができる。更に、第1の発明によれば、燃料が気化しにくいためにオイル希釈が生じ易い条件であっても、噴射された燃料が気筒の内壁に衝突することを抑制することができる。このため、オイル希釈を確実に抑制することができる。
【0012】
第2の発明によれば、燃料中のアルコール濃度が高いほど、つまり燃料が気化しにくい場合ほど、燃料噴射時期を圧縮上死点または吸気上死点に近づけることができる。このため、燃料の気化をより確実に促進することができ、始動性やドライバビリティをより確実に改善することができる。
【0013】
第3の発明によれば、内燃機関の代表温度が低いほど、つまり燃料が気化しにくい場合ほど、燃料噴射時期を圧縮上死点または吸気上死点に近づけることができる。このため、燃料の気化をより確実に促進することができ、始動性やドライバビリティをより確実に改善することができる。
【0014】
第4の発明によれば、燃料中のアルコール濃度が所定濃度より低い場合、あるいは、内燃機関の代表温度が所定温度より高い場合には、吸気行程の途中において筒内インジェクタから燃料を噴射させることができる。これにより、排気ガス中のPMを十分に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、内燃機関10を備えている。この内燃機関10は、ガソリンとアルコール(例えばエタノール、メタノール等)とが任意の割合で混合された混合燃料(以下、単に「燃料」とも言う)によって運転可能になっている。
【0016】
内燃機関10には、吸気通路12および排気通路14が接続されている。内燃機関10の各気筒には、ピストン16と、吸気弁18と、排気弁20と、点火プラグ22と、筒内インジェクタ24とが設けられている。筒内インジェクタ24は、気筒内(燃焼室内)に燃料を直接に噴射することができる。
【0017】
吸気通路12には、吸気温度を検出する吸気温センサ26と、スロットル弁28とが設けられている。排気通路14には、排気ガスを浄化する触媒コンバータ30が設けられている。
【0018】
本システムは、更に、内燃機関10のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角センサ32と、内燃機関10の冷却水温を検出する冷却水温センサ34と、燃料性状センサ36と、ECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。燃料性状センサ36は、筒内インジェクタ24に供給される燃料中のアルコール濃度を検出可能なセンサである。この燃料性状センサ36は、図示しない燃料タンクあるいは燃料配管に設置されている。ECU50には、上述した各種のセンサおよびアクチュエータが電気的に接続されている。
【0019】
ガソリンは、様々な炭化水素成分の混合物である。このため、低温時においても、低沸点成分により十分な気化が確保される。これに対し、アルコールは、単一成分であるとともに、その沸点が比較的高い(エタノールの場合には、約78℃)。このため、ガソリンとアルコールとの混合燃料を使用する内燃機関において、燃料中のアルコール濃度が高い場合には、冷間始動時やその後の暖機過程などの低温時において、燃料の気化が不十分となり易い。その結果、始動性やドライバビリティが悪化する場合がある。
【0020】
本実施形態では、上述のような問題を解決するため、燃料中のアルコール濃度が高く、且つ内燃機関10が低温である場合には、筒内インジェクタ24からの燃料噴射時期を圧縮行程に変更することとした。圧縮行程では、筒内の空気が圧縮され、高温高圧となる。この高温高圧の雰囲気中に筒内インジェクタ24から燃料を噴射することにより、燃料の気化が促進されるので、混合気が良好に形成される。よって、良好な燃焼を確保することができ、始動性やドライバビリティを十分に改善することができる。
【0021】
ところで、ガソリン100%あるいはそれに近い燃料(以下、単に「ガソリン100%」と言う)を使用する場合には、圧縮行程において燃料を噴射すると、排気ガス中に粒子状物質(PM:Particulate Matter)が生成し易くなる。このため、ガソリン100%の燃料を使用する場合には、PMの制約により、圧縮行程での燃料噴射を行うことができない。
【0022】
一方、ガソリンとアルコールとの混合燃料が使用される場合には、次のようになる。図2は、燃料噴射時期を一定とした場合の、燃料中のアルコール濃度と、排気ガス中のPM濃度との関係を示す図である。この図に示すように、燃料中のアルコール濃度が高いほど、PMは少なくなる。これは、アルコール濃度が高いほど、燃料中のアロマ(芳香族)成分の割合が低下するので、PMが生成しにくくなるからである。
【0023】
本実施形態では、上述したように、燃料中のアルコール濃度が高く、PMが生成しにくい場合に、燃料噴射時期を圧縮行程とする。このため、PMを制約値以下に抑制しつつ、圧縮行程噴射を行うことができる。
【0024】
図3は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。なお、本ルーチンは、クランク角に同期してサイクル毎に実行されるものとする。図3に示すルーチンによれば、まず、冷却水温センサ34で検出される冷却水温と、吸気温センサ26で検出される吸気温とが読み込まれ、その冷却水温が所定温度αより低いか否か、および、吸気温が所定温度βより低いか否かが判別される(ステップ100)。
【0025】
上記ステップ100において、冷却水温が所定温度α以上であるか、あるいは吸気温が所定温度β以上であると判別された場合には、燃料中のアルコール濃度にかかわらず、始動性やドライバビリティが悪化するおそれはないと判断できる。この場合には、以下の処理を実行する必要はないので、本ルーチンがそのまま終了される。なお、この場合には、吸気行程の途中において筒内インジェクタ24から燃料を噴射する、通常の燃料噴射制御が実行される。
【0026】
一方、上記ステップ100において、冷却水温が所定温度αより低く、且つ、吸気温が所定温度βより低いと判別された場合には、燃料中のアルコール濃度によっては、燃料の気化が不十分となり、始動性やドライバビリティが悪化するおそれがあると判断できる。そこで、この場合には、次に、燃料性状センサ36で検出される、燃料中のアルコール濃度Caが読み込まれる(ステップ102)。
【0027】
続いて、上記ステップ102で読み込まれたアルコール濃度Caが所定濃度γより高いか否かが判別される(ステップ104)。このステップ104において、アルコール濃度Caが所定濃度γ以下であると判別された場合には、筒内インジェクタ24から噴射された燃料は十分に気化し、始動性やドライバビリティが悪化するおそれはないと判断できる。この場合には、以下の処理を実行する必要はないので、本ルーチンがそのまま終了され、吸気行程の途中において筒内インジェクタ24から燃料を噴射する、通常の燃料噴射制御が実行される。
【0028】
一方、上記ステップ104において、アルコール濃度Caが所定濃度γより高いと判別された場合には、燃料の気化が不十分となり、始動性やドライバビリティが悪化するおそれがあると判断できる。そこで、この場合には、燃料噴射時期を圧縮行程とするべく、圧縮行程噴射時期Ainjが設定される(ステップ106)。このステップ106においては、図4の下段に示すマップに従って、圧縮行程噴射時期Ainjが設定される。このマップの縦軸は、圧縮行程を示しており、上端が圧縮前の下死点(BDC)、下端が圧縮後の上死点(TDC)である。このマップに示すように、本実施形態では、アルコール濃度Caが所定濃度γを超えて高いほど、圧縮行程噴射時期Ainjが、圧縮上死点に近くなるように設定される。
【0029】
上記のようにして圧縮行程噴射時期Ainjが設定された場合には、次に、その圧縮行程噴射時期Ainjに合わせて、筒内インジェクタ24からの燃料噴射が実行される(ステップ108)。
【0030】
以上説明したように、図3に示すルーチンの処理によれば、燃料の気化が不十分となり易い場合、すなわち、燃料中のアルコール濃度が高く、且つ内燃機関10が低温である場合に、圧縮行程において燃料を噴射することができる。このため、圧縮により高温高圧となった雰囲気中に燃料が噴射されるので、燃料の気化を促進することができる。その結果、混合気が良好に形成され、燃焼を促進することができ、始動性やドライバビリティの悪化を確実に防止することができる。
【0031】
特に、本実施形態では、アルコール濃度Caが高いほど、圧縮行程噴射時期Ainjが圧縮上死点に近くなるように設定している(上記ステップ106)。これにより、燃料中のアルコール濃度が高く、燃料が気化しにくい場合ほど、より高温高圧の雰囲気中に燃料を噴射することができる。よって、燃料の気化や燃焼をより確実に促進することができるので、始動性やドライバビリティの悪化をより確実に防止することができる。
【0032】
ここで、図4の上段は、本実施形態における、燃料中のアルコール濃度Caと、排気ガス中のPM濃度との関係を示す図である。燃料が同一である場合には、燃料噴射時期を圧縮上死点に近づけるほど、PMが生成し易くなる。その一方で、前述したように、燃料中のアルコール濃度が高いほど、PMは生成しにくくなる。よって、本実施形態では、上記の双方の作用が相殺し合う。このため、図4の上段に示すように、燃料噴射時期を圧縮上死点に近づけた場合であっても、PMの増大を回避することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、エンジンオイルの希釈を抑制することもできる。筒内インジェクタ24から噴射された燃料が十分に気化しないと、この燃料が気筒の内壁に衝突し易くなる。その結果、燃料が、気筒の内壁にある油膜に混合することにより、エンジンオイルが燃料で希釈されていく。これに対し、本実施形態では、燃料が気化しにくい条件であっても、上述したように、燃料の気化を促進することができる。また、圧縮行程中の高温高圧の雰囲気中に燃料が噴射されるので、噴射された燃料の貫徹力が弱められ、燃料が気筒の内壁まで到達することを抑制することができる。このようなことから、エンジンオイルの希釈を確実に抑制することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、燃料中のアルコール濃度Caが高いほど圧縮行程噴射時期Ainjを圧縮上死点に近づけるようにしているが、本発明では、冷却水温または吸気温が低いほど圧縮行程噴射時期Ainjを圧縮上死点に近づけるようにしてもよく、更に、双方を組み合わせるようにしてもよい。
【0035】
また、本発明では、図3に示すルーチンのステップ100において、冷却水温と吸気温との何れか一方のみに基づいて判断するようにしてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、燃料中のアルコール濃度を燃料性状センサ36によって直接に検出するようにしているが、本発明では、他の検出値あるいは制御パラメータ等に基づく推定(例えば、空燃比フィードバック制御における学習値からの推定)によって、燃料中のアルコール濃度を求めるようにしてもよい。
【0037】
上述した実施の形態1においては、燃料性状センサ36が前記第1の発明における「アルコール濃度取得手段」に、冷却水温および吸気温度が前記第1の発明における「代表温度」に、冷却水温センサ34および吸気温センサ26が前記第1の発明における「温度検出手段」に、それぞれ相当している。また、ECU50が図3に示すルーチンの処理を実行することにより前記第1および第2の発明における「燃料噴射時期制御手段」が実現されている。
【0038】
実施の形態2.
次に、図5および図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明するが、上述した実施の形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU50に、後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0039】
本実施形態では、燃料中のアルコール濃度が高く、且つ内燃機関10が低温である場合に、吸気上死点付近において筒内インジェクタ24から燃料を噴射する。吸気上死点付近で燃料を噴射すると、吸気行程の途中において燃料を噴射する場合と比べて、圧縮上死点付近で行われる点火までの期間を長くすることができる。このため、この間に、燃料を十分に気化させて、混合気を良好に形成することができる。よって、良好な燃焼を確保することができ、始動性やドライバビリティを十分に改善することができる。
【0040】
なお、ガソリン100%の燃料を使用する場合には、吸気上死点付近において燃料を噴射すると、PMが生成し易くなる。このため、ガソリン100%の燃料を使用する場合には、PMの制約により、吸気上死点付近での燃料噴射を行うことができない。これに対し、本実施形態では、燃料中のアルコール濃度が高く、PMが生成しにくい場合に、燃料噴射時期を吸気上死点付近とする。このため、PMを確実に制約値以下に抑制することができる。
【0041】
図5は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。以下、図5において、図3に示すステップと同様のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
【0042】
図5に示すルーチンのステップ100〜104は、図3と同様である。このステップ100〜104の処理において、冷却水温が所定温度αより低く、吸気温が所定温度βより低く、且つ、アルコール濃度Caが所定濃度γより高いと判別された場合には、燃料の気化が不十分となり、始動性やドライバビリティが悪化するおそれがあると判断できる。そこで、この場合には、燃料噴射時期を吸気上死点付近とするべく、吸気行程噴射時期Ainjが設定される(ステップ110)。
【0043】
このステップ110においては、図6の下段に示すマップに従って、吸気行程噴射時期Ainjが設定される。このマップの縦軸は、吸気行程を示しており、上端が吸気上死点(TDC)、下端が吸気下死点(BDC)である。このマップにおいてはアルコール濃度Caが所定濃度γを超える範囲において、吸気行程噴射時期Ainjが吸気上死点付近に定められている。よって、上記ステップ110においては、吸気行程噴射時期Ainjが吸気上死点付近に設定される。また、上記マップにおいては、アルコール濃度Caが所定濃度γを超えて高いほど、吸気行程噴射時期Ainjが、吸気上死点に近くなるように設定される。
【0044】
なお、本実施形態では、上記マップに示すように、アルコール濃度Caが所定濃度γより低い場合(つまり、燃料の気化が不十分となるおそれがない場合)には、吸気行程噴射時期Ainjは、吸気行程の途中(中頃)に設定される。
【0045】
上記ステップ110において吸気行程噴射時期Ainjが設定された場合には、次に、その吸気行程噴射時期Ainjに合わせて、筒内インジェクタ24からの燃料噴射が実行される(ステップ112)。
【0046】
以上説明したように、図5に示すルーチンの処理によれば、燃料の気化が不十分となり易い場合、すなわち、燃料中のアルコール濃度が高く、且つ内燃機関10が低温である場合に、吸気上死点付近において燃料を噴射することができる。このため、燃料噴射から点火までの期間を長くすることができる。よって、この間に、燃料の気化を促進することができる。その結果、混合気が良好に形成され、燃焼を促進することができ、始動性やドライバビリティの悪化を確実に防止することができる。
【0047】
特に、本実施形態では、アルコール濃度Caが高いほど、吸気行程噴射時期Ainjが吸気上死点に近くなるように設定している(上記ステップ110)。これにより、燃料中のアルコール濃度が高く、燃料が気化しにくい場合ほど、燃料噴射から点火までの期間をより長くすることができる。よって、燃料の気化や燃焼をより確実に促進することができるので、始動性やドライバビリティの悪化をより確実に防止することができる。
【0048】
ここで、図6の上段は、本実施形態における、燃料中のアルコール濃度Caと、排気ガス中のPM濃度との関係を示す図である。燃料が同一である場合には、燃料噴射時期を吸気上死点に近づけるほど、PMが生成し易くなる。その一方で、前述したように、燃料中のアルコール濃度が高いほど、PMは生成しにくくなる。よって、本実施形態では、上記の双方の作用が相殺し合う。このため、図6の上段に示すように、燃料噴射時期を吸気上死点に近づけた場合であっても、PMの増大を回避することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、エンジンオイルの希釈を抑制することもできる。すなわち、本実施形態では、筒内インジェクタ24から噴射された燃料が気化にくく、エンジンオイルが希釈され易い場合であっても、上述したように、燃料の気化を促進することができる。また、ピストン16が最も上昇した吸気上死点付近において筒内インジェクタ24から燃料が噴射されるので、噴射された燃料は、ピストン16に衝突する。このため、噴射された燃料が気筒の内壁に衝突することを防止することができる。このようなことから、エンジンオイルの希釈を確実に抑制することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、燃料中のアルコール濃度Caが高いほど吸気行程噴射時期Ainjを圧縮上死点に近づけるようにしているが、本発明では、冷却水温または吸気温が低いほど吸気行程噴射時期Ainjを圧縮上死点に近づけるようにしてもよく、更に、双方を組み合わせるようにしてもよい。
【0051】
なお、上述した実施の形態2においては、ECU50が図5に示すルーチンの処理を実行することにより前記第1および第2の発明における「燃料噴射時期制御手段」が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】燃料噴射時期を一定とした場合の、燃料中のアルコール濃度と、排気ガス中のPM濃度との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1における、燃料中のアルコール濃度Caと、圧縮行程噴射時期Ainjおよび排気ガス中のPM濃度との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2における、燃料中のアルコール濃度Caと、吸気行程噴射時期Ainjおよび排気ガス中のPM濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 内燃機関
12 吸気通路
14 排気通路
16 ピストン
18 吸気弁
20 排気弁
22 点火プラグ
24 筒内インジェクタ
26 吸気温センサ
28 スロットル弁
30 触媒コンバータ
34 冷却水温センサ
50 ECU(Electronic Control Unit)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンとアルコールとの混合燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
前記内燃機関の筒内に燃料を噴射する筒内インジェクタと、
燃料中のアルコール濃度を取得するアルコール濃度取得手段と、
前記内燃機関の代表温度を検出する温度検出手段と、
前記取得されたアルコール濃度が所定濃度より高く、且つ、前記検出された代表温度が所定温度より低い場合には、圧縮行程または吸気上死点付近において前記筒内インジェクタから燃料を噴射させる燃料噴射時期制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射時期制御手段は、前記筒内インジェクタからの燃料噴射時期を圧縮行程または吸気上死点付近に設定する場合に、前記取得されたアルコール濃度が高いほど、前記燃料噴射時期を圧縮上死点または吸気上死点に近づけることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射時期制御手段は、前記筒内インジェクタからの燃料噴射時期を圧縮行程または吸気上死点付近に設定する場合に、前記検出された代表温度が低いほど、前記燃料噴射時期を圧縮上死点または吸気上死点に近づけることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射時期制御手段は、前記取得されたアルコール濃度が所定濃度より低い場合、あるいは、前記検出された代表温度が所定温度より高い場合には、吸気行程の途中において前記筒内インジェクタから燃料を噴射させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−221963(P2009−221963A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67600(P2008−67600)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】