説明

内燃機関の制御装置

【課題】弁体のデポジット付着に起因する燃焼状態悪化を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関10は、吸気バルブ14と排気バルブ16とを駆動する可変動弁機構12が備えられている。排気通路30におけるDPF32の下流には、NOxセンサ34が備えられている。内燃機関10の運転中におけるDPF32の再生後のNOxセンサ34の出力値に基づいて、内燃機関10の吸気バルブ14と排気バルブ16を駆動する可変動弁機構12の制御内容を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2001−90563号公報に開示されているように、排気通路に設けられたNOxセンサの出力値に基づいて、バルブタイミングを制御する内燃機関の制御装置が知られている。
【0003】
具体的には、上記従来の技術にかかるシステムは、機関排気通路に配置したNOxセンサ、内燃機関に吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な可変動弁機構、電子制御ユニット(ECU)を備えている。この電子制御ユニットは、機関排気通路に配置したNOxセンサで排気NOx濃度を検出し、このNOx濃度が所定の上限値以下になるように、可変動弁機構を制御して吸気バルブ開閉タイミングをフィードバック制御する。
【0004】
また、上記従来の技術によれば、吸気バルブ開閉タイミングを変更することにより、吸気絞りの場合のようなポンピングロスを生じることなく筒内に既燃ガスを残留させることができる。これにより、上記従来の技術は、燃料消費量の増大を抑制しつつ排気中のNOx低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−90563号公報
【特許文献2】特開2001−115822号公報
【特許文献3】特開2007−071115号公報
【特許文献4】特開2004−211650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関の運転に伴い、吸気バルブや排気バルブ(以下、これらをまとめて「弁体」と称すことがある)の傘部にデポジットが付着する。
【0007】
デポジット付着量が多くなると、吸気バルブに関しては実際の吸入空気量が少なくなったり、排気バルブに関しては掃気ロスが大きくなったりする。これらの影響により、内燃機関の燃焼性が悪化してしまう。燃焼状態悪化によってエミッション特性の悪化や、ドライバビリティ悪化、燃費悪化といった弊害が懸念されるため、何らかの措置を施すことが好ましい。
【0008】
一方、内燃機関の排気通路に、排気ガス中のパティキュレートマターを捕集するためのパティキュレートフィルタを搭載する構成が公知である。この種の構成では、内燃機関の運転時間の経過に伴って、パティキュレートフィルタ内にパティキュレートマター(Particulate matter:PM)が蓄積(堆積)していく。PMの蓄積量増大に伴って、背圧が上昇し、気筒内の残留排気ガス量すなわち内部EGR量が増大する。この内部EGR量増大は、NOx量を低下させるように働く。
【0009】
パティキュレートフィルタを備える内燃機関においても、弁体のデポジット付着による燃焼状態悪化を抑制することが好ましい。ここで、前述したように、パティキュレートフィルタを搭載している場合には、PM蓄積に伴う内部EGR量増大によってNOx量低下現象も生じる。この点を考慮せずに上記従来の技術のようなNOxセンサ出力値に従ったバルブタイミング制御を適用したとしても、弁体のデポジット付着への対処を的確に行うことは難しい。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、弁体のデポジット付着に起因する燃焼状態悪化を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタの下流に設けられたNOxセンサの出力値を取得するセンサ出力取得手段と、
前記パティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートを除去して前記パティキュレートを再生する再生手段と、
前記内燃機関の運転中における、前記再生手段による前記再生後の前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の吸気バルブと排気バルブを駆動する動弁機構の制御内容を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記補正手段は、前記再生手段による前記再生後の前記NOxセンサの出力値における、当該再生後に前記内燃機関の排気ガス中のNOx量が増大するように変化したときの値に基づいて、前記内燃機関の吸気バルブと排気バルブを駆動する動弁機構の制御内容を補正することを特徴とする。
【0013】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記補正手段が補正する前記制御内容は、前記動弁機構における吸気バルブまたは排気バルブの、リフト量、開弁時期および閉弁時期の少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、第1乃至3の発明のいずれか1つにおいて、
前記補正手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中のNOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定量以上である場合に、前記内燃機関の吸入空気量を増加させるように前記制御内容を補正する吸気量増大補正手段と、
を含むことを特徴とする。
【0015】
また、第5の発明は、第1乃至4の発明のいずれか1つにおいて、
前記補正手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中のNOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定量以上である場合に、前記内燃機関の掃気ロスを低減するように、前記制御内容を補正する掃気ロス低減補正手段と、
を含むことを特徴とする。
【0016】
また、第6の発明は、第1乃至5の発明のいずれか1つにおいて、
前記補正手段は、
前記再生手段による前記再生後に、前記内燃機関の運転条件が所定条件に該当するか否かを判定する運転条件判定手段と、
前記運転条件判定手段で前記内燃機関の運転条件が前記所定条件に該当すると判定されない場合には、前記制御内容の補正を行わない補正可否決定手段と、
を含むことを特徴とする。
【0017】
また、第7の発明は、第1乃至6の発明のいずれか1つにおいて、
前記補正手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記再生手段で前記再生がなされた時から、当該再生によって前記パティキュレートフィルタ内部のパティキュレートマターが取り除かれたことにより前記内燃機関の背圧が低下し前記内燃機関の内部EGR量が当該再生前に比して減少する程度の期間が経過した後の、排気ガス中のNOx量を取得する特定時期NOx量取得手段を含み、
前記特定時期NOx量取得手段で取得した前記NOx量に基づいて、前記制御内容を補正することを特徴とする。
【0018】
また、第8の発明は、第1乃至7の発明のいずれか1つにおいて、
前記内燃機関の運転中における、前記再生手段による前記再生後の前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生しているか否かを判定する異常判定手段をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
また、第9の発明は、第8の発明において、
前記異常判定手段は、
前記補正手段が前記制御内容の補正を行った回数を計数する補正回数計数手段と、
前記補正回数計数手段で計数した前記回数と、所定数との比較に基づいて、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生しているか否かを判定する計数判定手段と、
を含むことを特徴とする。
【0020】
また、第10の発明は、第8の発明において、
前記異常判定手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中の前記NOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定の判定値以上の量を示した回数を計数する計数手段と、
前記計数手段で計数した前記回数と、所定数との比較に基づいて、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生しているか否かを判定する計数判定手段と、
を含むことを特徴とする。
【0021】
また、第11の発明は、第8の発明において、
前記異常判定手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中のNOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定の下限判定値以下である場合に、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生していると判定するNOx量下限値判定手段と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、弁体(吸気バルブ、排気バルブ)のデポジット付着がパティキュレートフィルタ再生後のNOx量を変化させる点に着目することにより、このNOx量に基づいて、動弁機構の制御内容を補正することができる。これにより、弁体のデポジット付着に応じた燃焼状態悪化を抑制することができる。
【0023】
第2の発明によれば、デポジット付着に伴うパティキュレートフィルタ再生後のNOx量変化を、より高精度に、制御内容補正の基礎として用いることができる。
【0024】
第3の発明によれば、弁体のデポジット付着による燃焼状態悪化を抑制するように、吸気バルブや排気バルブのリフト量、開弁特性を補正することができる。
【0025】
第4の発明によれば、弁体のデポジット付着による実筒内吸入空気量の低下を補うように、動弁機構の制御内容を補正することができる。
【0026】
第5の発明によれば、弁体のデポジット付着による掃気ロス増大を抑制するように、動弁機構の制御内容を補正することができる。
【0027】
第6の発明によれば、予め定めた条件下において、パティキュレートフィルタ再生後のNOx量変化に着目したうえでの、弁体の制御内容補正を行うことができる。これにより、補正の精度を高めることができる。
【0028】
第7の発明によれば、パティキュレートフィルタの再生後における、排気ガス中のNOx変化が確実に現れる程度の期間を経過した後のNOx量を、取得する事ができる。これにより、パティキュレートフィルタ再生後のNOx量変化に着目したうえでの弁体の制御内容補正を、確実且つ正確に行うことができる。
【0029】
第8の発明によれば、弁体(吸気バルブ、排気バルブ)のデポジット付着がパティキュレートフィルタ再生後のNOx量に影響を与える点に着目することにより、このNOx量に基づいて弁体の異常有無を判定することができる。
【0030】
第9の発明によれば、補正手段による動弁機構の制御内容の補正が必要と認められるような状況が何回発生したのかを計数し、その回数を基礎として弁体の異常有無を判定することができる。
【0031】
第10の発明によれば、パティキュレートフィルタ再生後のNOx量が所定量を超える程度に大きい値を示した回数を数えることにより、弁体の異常有無を判定することができる。
【0032】
第11の発明によれば、パティキュレートフィルタ再生後のNOx量が少なすぎると認められる場合に、弁体に異常があるという判定結果を下すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成とともに示す図である。
【図2】吸気バルブや排気バルブの傘部表面におけるデポジット付着現象を説明するための図である。
【図3】同一条件下(具体的には、例えば、アイドル時)における、NOx排出量の時間経過に伴う変化を模式的に示したものである。
【図4】本発明の実施の形態1においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図5】バルブ摺動部渋りが発生した場合における、ある同一条件下(具体的にはアイドル)でのNOx排出量の時間経過を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の構成を、これが適用される内燃機関10の構成とともに示す図である。内燃機関10は、ディーゼルエンジンである。本実施形態は、車両等の移動体に好適である。
【0035】
実施の形態1における内燃機関10は、その燃焼室が、吸気通路20および排気通路30と連通している。吸気通路20にはエアクリーナ22およびスロットルバルブ24が設けられている。
【0036】
内燃機関10のシリンダヘッドには、吸気バルブ14と排気バルブ16とを駆動する可変動弁機構12が備えられている。可変動弁機構12は、吸気バルブ14と排気バルブ16の開弁特性の調節(可変バルブタイミング)およびリフト量の調節(可変バルブリフト)が可能な機構である。可変バルブタイミング技術や可変バルブリフト技術によれば、バルブタイミングやバルブリフト量をコントロールし、最適な燃焼状態を作り出すことができる。これにより、NOxやsootを低減させることができる。
【0037】
内燃機関10の排気通路30には、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、簡略に「DPF」とも称す)32が設けられている。DPF32は、いわゆるディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)である。
【0038】
排気通路30におけるDPF32の下流には、NOxセンサ34が備えられている。NOxセンサ34は、DPF32の下流のガスのNOx濃度に応じて、その出力値を変化させることができる。
【0039】
さらに、実施の形態1では、NOxセンサ34の下流には、SCR触媒36が設けられている。すなわち、実施の形態1にかかる排気システムは、尿素SCRシステムを備えている。これは、SCR触媒にNOx量(内燃機関10から排出されたNOx量)に応じて尿素を排気中に添加し、NOxをアンモニアと反応させて還元することで、窒素酸化物の排出を抑制するものである。
【0040】
実施の形態1では、図1に示すように、内燃機関10に、HPL−EGR(High Pressure Loop - Exhaust Gas Recirculation)システム40が設けられている。HPL−EGRシステム40は、吸気通路20と排気通路30とを連通させるEGR通路と、そのEGR通路の開閉を制御するためのEGRバルブとを含む。HPL−EGRシステム40を介して、排気ガスをEGRガスとして吸気通路20へと還流させることができる。HPL−EGRシステム40の具体的構成は既に公知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0041】
実施の形態1にかかる内燃機関10を制御する制御装置として、ECU(Electronic Control Unit)50が備えられている。ECU50は、前述したスロットルバルブ24、可変動弁機構12、および燃料噴射弁やEGRバルブなどに対して制御信号を発することにより、それらを制御することができる。
【0042】
また、ECU50には、NOxセンサ34や、図示しない各種センサと接続し、内燃機関10の状態を検知することができる。ECU50は、NOxセンサ34の出力値に基づいて、内燃機関10の排気ガス中のNOx量を検出する。NOxセンサ34は、SCR触媒に入るNOxの量を測定し、出力値に基づいて尿素添加量の算出をするためにも用いられる。
【0043】
ECU50は、DPF32を再生させるための再生処理を実行できるように構成されている。DPF32の再生とは、排気温度を強制的に上昇させてパティキュレートマターを酸化させることによって、DPFに捕集されたパティキュレートマターを除去して(フィルタの詰まりを取り除く)、パティキュレートマターの捕集能力を回復させることである。この種の技術は既に各種技術が公知であるため詳述しない。
【0044】
[実施の形態1の動作]
近年の厳しい排気規制に対し、NOx、sootの低減のための各種技術の開発が進められている。ディーゼルエンジンでは、smokeの発生は不可避である。これにより、吸気バルブや排気バルブの傘部表面にその成分が堆積、固着することが種々の問題を引き起こす。
【0045】
すなわち、吸気バルブや排気バルブの傘部表面にデポジットが堆積すると、実際のリフト量(実リフト量)の減少による吸入空気量不足や、掃気ロスが発生してしまう。吸入空気量不足の結果としてsoot増加やドライバビリティ悪化、掃気ロスによって燃費悪化が発生しうる。
【0046】
図2は、吸気バルブや排気バルブの傘部表面におけるデポジット付着現象を説明するための図である。初期状態ではデポジットが付着していないが、経年により傘部表面にデポジットが付着している。その結果、吸気通路あるいは排気通路との関係で見た場合に、弁体の実際のリフト量が小さくなってしまい、吸入空気量不足や掃気ロスを招来する。
【0047】
そこで、実施の形態1では、下記に述べるようにして、内燃機関10の運転中におけるDPF32の再生後のNOxセンサ34の出力値に基づいて、内燃機関10の吸気バルブ14と排気バルブ16を駆動する可変動弁機構12の制御内容を補正することとした。
【0048】
実施の形態1では、バルブリフト量を補正するタイミングを、内部EGRによるNOx排出量変化に着目して、下記のように決定する。以下、図3も用いて説明する。図3は、同一条件下(具体的には、例えば、アイドル時)における、NOx排出量の時間経過に伴う変化を模式的に示したものである。図3における符号(1)〜(6)が指し示す内容は、下記に述べる(1)〜(6)の事象説明と対応している。
【0049】
(1)DPF32にパティキュレートマターが堆積すると、背圧が上昇し、内部EGRが増加する。その結果、NOxが減少する。
【0050】
(2)DPF32へのパティキュレート堆積量が過多となった場合には、DPF32の再生が行われる。具体的には、DPF堆積量が所定のしきい値を超えた場合に、DPF再生処理(DPFへ堆積したパティキュレートマターの焼きだし)制御が入る。
【0051】
(3)DPF再生処理実施後は、背圧が初期状態に戻り、NOx排出量も増加する。以下、DPF再生処理実施直後に増加したときのNOx排出量(図3の符号P)を、「DPF再生直後のNOx排出量」とも称す。
【0052】
(4)そのとき、バルブ傘部へのデポジット付着により内部EGRの量が初期よりも減少している。このため、NOxは図3において符号aで示す量だけ増加する。
【0053】
(5)内燃機関10の運転時間増加につれて、DPF再生直後のNOx排出量が増加する。
【0054】
(6)そこで、DPF再生直後のアイドル時のNOx値がしきい値Xを超えた段階で、可変動弁機構12の制御内容の補正(具体的には、バルブリフト量増大措置、バルブ閉じタイミングを遅くする措置または/およびバルブ開きタイミングを早くする措置)を行うことによって、実バルブリフト量を補正する。
【0055】
すなわち、DPF再生直後のアイドル時に、NOxセンサ34によって目標NOx量からのずれを検出し、NOx量がしきい値Xを超えている場合(つまり目標NOx量からのずれが所定量を超えて大きい場合)には、吸気、排気バルブリフト量や位相の補正を行う。
【0056】
補正量は、例えば、あらかじめ実験的に決定しておくこととすればよい。また、上記の制御量の補正は、吸気バルブ14と排気バルブ16の両方について行うことが好ましい。
【0057】
図3の実線Aは、上記の(6)で述べた措置を取ることによって、実バルブリフト量補正を行った場合におけるNOx量の経時的変化を示す。すなわち、実施の形態1を適用した場合の特性を示す。一方、図3の点線Bは、上記の(6)で述べた措置を取らなかった場合におけるNOx量の経時的変化を示す。
【0058】
以上説明したように、実施の形態1によれば、吸気バルブ14、排気バルブ16のデポジット付着がDPF再生直後のNOx量を変化させる点に着目することにより、DPF再生直後のNOx量に基づいて可変動弁機構12の制御内容を補正することができる。これにより、弁体のデポジット付着に応じた燃焼状態悪化を抑制することができる。実施の形態1により、基準となるバルブリフト量の精度の良い補正が可能となり、バルブ傘部に堆積するデポジットによるsoot増大やドライバビリティの悪化、燃費悪化を抑制することができる。
【0059】
[実施の形態1の具体的処理]
以下、図4を用いて、本発明の実施の形態1において実行される具体的処理を説明する。図4は、実施の形態1においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0060】
図4に示すルーチンでは、先ず、DPF再生処理が実行されたかどうかが判定される(ステップS100)。このステップでは、ECU50がDPF32の再生をするための処理を実行したかどうかが例えばフラグ成立の有無などによって判定される。このステップでの条件の成立が認められない場合には、DPF再生処理が実行されるまで判定が継続される。
【0061】
ステップS100の条件成立が認められた場合には、次に、内燃機関10が現在アイドル状態にあるか否かが判定される(ステップS102)。このステップにより、次のステップにおけるNOx量判定の精度つまり可変動弁機構12の制御内容補正の必要性有無の判定を、高めることができる。
【0062】
ステップS102の条件成立が認められた場合には、NOxセンサ34の出力値が、所定のしきい値Xを超えているか否かが判定される(ステップS104)。このステップの条件が不成立の場合には、今回のルーチンが終了する。
【0063】
図3を用いて述べたように、DPF再生直後のNOx量が初期状態に比してある程度増大していることが認められた場合には、デポジット付着によって、内部EGR量の初期状態からの低下が推認される(既に述べた図3(4)の説明を参照)。この場合には、記述したように実施の形態1にかかる可変動弁機構12の制御内容補正の必要性が認められる。
【0064】
そこで、ステップS104の条件成立時には、バルブリフト量増大、バルブ閉じタイミング遅角、バルブ開きタイミング進角の少なくとも1つの措置を取るように、可変動弁機構12の制御内容が補正される(ステップS106)。実施の形態1では、吸気バルブ14と排気バルブ16の両方を対象として、補正を行うこととする。補正量は、例えば、あらかじめ実験などにより決定しておくものとする。その後、今回のルーチンが終了する。
【0065】
以上の処理によれば、DPF再生直後のアイドル時に、DPF再生直後のNOx量に基づいて、可変動弁機構12の制御内容を補正することができる。
【0066】
また、上記の処理によれば、弁体のデポジット付着による燃焼状態悪化を抑制するように、吸気バルブ14や排気バルブ16のリフト量、バルブタイミングのうち少なくとも1つを補正することができる。補正後の特性を基準バルブリフト量として用いることにより、デポジット付着の影響を解消するように、実リフト量を初期状態に近づけることが可能となる。
【0067】
また、上記の処理によれば、吸気バルブ14および排気バルブ16の両方を補正対象にすることよって、弁体のデポジット付着による実筒内吸入空気量の低下を補うように、かつ、弁体のデポジット付着による掃気ロス増大を抑制するように、動弁機構の制御内容を補正することができる。
【0068】
また、上記の処理によれば、DPF再生後に、内燃機関10がアイドル時に該当するか否かを判定することができる。そして、内燃機関10がアイドル時に該当すると判定されない場合には、可変動弁機構12の制御内容の補正を行わない。これにより、毎回同じ条件において判定処理や補正処理を実行することができる。その結果、実施の形態1にかかる補正の精度を高めることができる。
【0069】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU50がNOxセンサ34の出力を取得することにより、前記第1の発明における「センサ出力取得手段」が、ECU50がDPF32の再生を行うための処理を実行することにより、前記第1の発明における「再生手段」が、ECU50が、図4のルーチンにおけるステップS100、S104およびS106の処理を実行することにより、前記第1の発明における「補正手段」が、それぞれ実現されている。
【0070】
[実施の形態1の変形例]
実施の形態1では、内燃機関10が、吸気バルブ14と排気バルブ16の両方について、バルブリフト量およびバルブタイミング(バルブ閉じタイミング、バルブ開きタイミング)を変更可能な可変動弁機構12を備えるものとした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。吸気バルブ14と排気バルブ16の片方のみを対象とした可変動弁機構でも良い。また、必ずしもバルブリフト量およびバルブタイミング(バルブ閉じタイミング、バルブ開きタイミング)の全てが変更可能な可変動弁機構でなくともよい。本発明にかかる制御内容の補正を行う対象は、個々のハードウェア構成との関係から可能な範囲で、吸気バルブ、排気バルブに関する制御内容から適宜に選択すればよい。
【0071】
実施の形態1の構成は、SCR触媒を含む尿素SCRシステムを有している。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。SCR触媒を備えない場合であっても、DPFとその下流のNOxセンサを有するシステムに対して、本発明を用いることができる。
【0072】
なお、近年の厳しい排気規制に対し、尿素SCRシステムを採用する場合には、DPF下流のNOxセンサという構成は、必須の構成である。このため、本発明を尿素SCRシステムに対して用いる場合には、尿素SCRシステムの構成の一部を利用することが可能となり、コスト面で利益がある。
【0073】
また、実施の形態1にかかる具体的処理においては、ステップS102において、DPF再生後に、内燃機関10がアイドル時に該当するか否かを判定している。そして、内燃機関10がアイドル時に該当すると判定されない場合には、可変動弁機構12の制御内容の補正を行っていない。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。
【0074】
アイドル時ではなく、あらかじめ決定しておいた同一運転条件(同一負荷)に該当するかどうかを判定しても良い。これにより、毎回同じ条件において判定処理や補正処理を実行することができる。なお、ここでいう同一負荷とは、図3に示したNOx排出量傾向に基づく実施の形態1の比較判定を行う上で実質的に差異が無い範囲であれば、ある程度の幅を持っていてもよい。
【0075】
なお、図3を用いて述べたように、DPF再生前後における背圧変化および内部EGR量変化の影響を考えた場合に、NOx量は、DPF再生が成された後、減少から増大に転じて、増大のピークを示し再び減少傾向を示す。そこで、例えばこのピーク値を抽出し「DPF再生直後のNOx排出量」として扱うなどして、ステップS104の比較判定を行っても良い。
【0076】
また、「DPF再生がなされた時から、当該再生によってDPF32内部のパティキュレートマターが取り除かれたことにより背圧が低下し、内燃機関10の内部EGR量が当該DPF再生処理実施前に比して減少する程度の期間」が経過した後におけるNOxセンサ34の出力値を用いて、ステップS104の比較判定を行っても良い。これにより、DPF再生後における、排気ガス中のNOx変化が確実に現れる程度の期間を経過した後のNOx量を、ステップS104の比較判定に利用することができる。パティキュレートフィルタ再生後のNOx量変化に着目したうえでの弁体の制御内容補正を、確実且つ正確に行うことができる。
【0077】
実施の形態2.
以下の説明では、実施の形態2にかかるハードウェア構成は、実施の形態1と同じであるものとする。
【0078】
バルブ傘部へのデポジット付着量が多くなり、実施の形態1にかかる補正回数がある程度以上多くなると、吸気バルブ14や排気バルブ16のリフト量やバルブタイミングを更に補正することができない状況が発生する。これは、リフト量やバルブタイミングの変更範囲が、ハードウェア的な制限や現実的な運転条件範囲内に限られることに起因している。
【0079】
可変動弁機構12は、負荷やエンジン運転状態に応じて吸気バルブ、排気バルブのリフト量やバルブタイミングを最適なものに変更すべく搭載される。しかしながら、上記のように実施の形態1にかかる制御内容の補正が行われた結果、可変動弁機構12のバルブ可変動範囲に制限が課せられると、リフト量やバルブタイミングの最適化を行うことが困難になってしまう。
【0080】
上記のような事態は、もはや実施の形態1にかかる制御内容補正によっては解消できないほどにデポジット付着量が過多である状態、すなわち吸気バルブや排気バルブに異常が生じている状態であると考えることができる。そこで、実施の形態2では、内燃機関10の運転中におけるDPF再生後のNOxセンサ34出力値に基づいて、吸気バルブ14や排気バルブ16に関する異常が発生しているか否かを判定することとした。
【0081】
すなわち、実施の形態2では、ECU50が、実施の形態1にかかる可変動弁機構12の制御内容補正を行った回数を計数する処理を実行する。そして、計数によって求めた回数が所定の基準回数を超えた場合には(或いは所定の異常判定回数に一致した場合には)、デポジット付着量が過多であるものとして吸気バルブ14または/および排気バルブ16に異常が発生していると判定する。
【0082】
具体的には、図4のルーチンにおいてステップS104の判定結果が肯定的であった場合に、1ずつカウンタ値をインクリメントすればよい。或いは、実際に補正が行われた回数として、ステップS106で制御内容の補正を行った回数を、計数しても良い。計数して求めた回数が所定値を超えるなどした場合には、ECU50において各種の処理(例えば警告ランプの点灯など)が実行される。
【0083】
以上説明したように、実施の形態2によれば、可変動弁機構12の能力を最大限に引き出すように実施の形態1によって基本となるバルブリフト量およびバルブタイミングの補正を行いつつ、実施の形態1のメリットが発揮し得なくなった場合には、速やかに異常判定を下しシステムの修復を促すことができる。
【0084】
実施の形態3.
以下の説明では、実施の形態3にかかるハードウェア構成は、実施の形態1と同じであるものとする。
【0085】
何らかのトラブルで、バルブ摺動部にしぶりが生じた場合、バルブ閉じタイミングが遅くなる。或いは、完全にバルブが閉じなくなる可能性もある。ここでいうトラブルとは、例えば、コールドスタートなど着火性の悪い条件での運転が長期間継続されると、未燃燃焼成分や煤がバルブ摺動部に固着してバルブの動きが悪くなることなどが挙げられる。
【0086】
例えば、カム駆動式の動弁機構においては、バルブを開く際にはカムにより強制的に押し下げられるが、「スプリングの力<固着による粘着力」という関係になると、バルブ閉じが遅れたり完全には閉じなくなったりするおそれがある。また何らかの原因でクランクケース内圧が上昇し、オイル下がりが生ずると、オイル分によるバルブ固着が生じうる。
【0087】
このような状態は、コンプレッション抜けによる出力低下、ドライバビリティの悪化、排気エミッション悪化、ひいてはバルブスタンプを招くおれがあり、好ましくない。
【0088】
そこで、実施の形態3では、DPF再生直後のアイドル時におけるNOx量が所定のしきい値Y以下になった場合には、バルブ摺動異常と判定することとした。
【0089】
図5は、前述したバルブ摺動部渋りが発生した場合における、ある同一条件下(具体的にはアイドル)でのNOx排出量の時間経過を模式的に示す図である。バルブ摺動部渋りが発生した場合、図5に示すように、NOx量が通常時に比して顕著に低下する。実施の形態3では、このような現象に着目し、しきい値との比較判定によって異常検出を行う。
【0090】
以下、図6を用いて、本発明の実施の形態3において実行される具体的処理を説明する。図6は、実施の形態3においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0091】
図6に示すルーチンでは、先ず、実施の形態1にかかる図4のルーチンと同様に、DPF再生処理の実行の有無の判定(ステップS100)、内燃機関10が現在アイドル状態にあるか否かの判定(ステップS102)が行われる。
【0092】
ステップS102の条件成立が認められた場合には、NOxセンサ34の出力値が、所定のしきい値Yを下回っているか否かが判定される(ステップS204)。このステップの条件が不成立の場合には、今回のルーチンが終了する。
【0093】
ステップS204の条件成立が認められた場合には、バルブ摺動部渋りが発生しているものとして、バルブ異常警告が行われる(ステップS206)。このステップでは、具体的には、警告ランプの点灯などにより運転者への報知がなされる。或いは、異常が発生したことを、ECU50の制御内容(内燃機関10の運転条件)に反映させてもよい。
【0094】
以上の処理によれば、定期的に、NOx量の変化からバルブ摺動部異常の有無を判定することができる。これにより、異常を早期かつ正確に検知でき、出力低下を始めとした各種のトラブルを未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0095】
10 内燃機関
12 可変動弁機構
14 吸気バルブ
16 排気バルブ
20 吸気通路
22 エアクリーナ
24 スロットルバルブ
30 排気通路
32 DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)
34 NOxセンサ
36 SCR触媒
40 HPL−EGRシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタの下流に設けられたNOxセンサの出力値を取得するセンサ出力取得手段と、
前記パティキュレートフィルタに捕集されたパティキュレートを除去して前記パティキュレートを再生する再生手段と、
前記内燃機関の運転中における、前記再生手段による前記再生後の前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の吸気バルブと排気バルブを駆動する動弁機構の制御内容を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記再生手段による前記再生後の前記NOxセンサの出力値における、当該再生後に前記内燃機関の排気ガス中のNOx量が増大するように変化したときの値に基づいて、前記内燃機関の吸気バルブと排気バルブを駆動する動弁機構の制御内容を補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記補正手段が補正する前記制御内容は、前記動弁機構における吸気バルブまたは排気バルブの、リフト量、開弁時期および閉弁時期の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記補正手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中のNOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定量以上である場合に、前記内燃機関の吸入空気量を増加させるように前記制御内容を補正する吸気量増大補正手段と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記補正手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中のNOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定量以上である場合に、前記内燃機関の掃気ロスを低減するように、前記制御内容を補正する掃気ロス低減補正手段と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記補正手段は、
前記再生手段による前記再生後に、前記内燃機関の運転条件が所定条件に該当するか否かを判定する運転条件判定手段と、
前記運転条件判定手段で前記内燃機関の運転条件が前記所定条件に該当すると判定されない場合には、前記制御内容の補正を行わない補正可否決定手段と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記補正手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記再生手段で前記再生がなされた時から、当該再生によって前記パティキュレートフィルタ内部のパティキュレートマターが取り除かれたことにより前記内燃機関の背圧が低下し前記内燃機関の内部EGR量が当該再生前に比して減少する程度の期間が経過した後の、排気ガス中のNOx量を取得する特定時期NOx量取得手段を含み、
前記特定時期NOx量取得手段で取得した前記NOx量に基づいて、前記制御内容を補正することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関の運転中における、前記再生手段による前記再生後の前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生しているか否かを判定する異常判定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記異常判定手段は、
前記補正手段が前記制御内容の補正を行った回数を計数する補正回数計数手段と、
前記補正回数計数手段で計数した前記回数と、所定数との比較に基づいて、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生しているか否かを判定する計数判定手段と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記異常判定手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中の前記NOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定の判定値以上の量を示した回数を計数する計数手段と、
前記計数手段で計数した前記回数と、所定数との比較に基づいて、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生しているか否かを判定する計数判定手段と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記異常判定手段は、
前記NOxセンサの出力値に基づいて、前記内燃機関の運転中における前記再生手段による前記再生後の排気ガス中のNOx量を検出するNOx量検出手段と、
前記NOx量検出手段で検出したNOx量が所定の下限判定値以下である場合に、前記吸気バルブまたは/および前記排気バルブに関する異常が発生していると判定するNOx量下限値判定手段と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179470(P2011−179470A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46960(P2010−46960)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】