説明

内燃機関の制御装置

【課題】「HCによるリーンずれ」に関して空燃比センサの検出結果を精度良く補正し、補正された検出結果に基づいて排ガスの空燃比を適切にフィードバック制御すること。
【解決手段】通常時、圧縮上死点近傍にてメイン噴射がなされる。メイン噴射燃料量は要求トルクにより決定される。触媒再生制御中では、メイン噴射に加えてメイン噴射後の膨張行程中にてアフタ噴射がなされる。触媒再生制御中では、筒内圧力センサから得られる燃焼室の圧力の推移に基づいて燃焼室で燃焼した燃料の量(qcomb)が算出され、総噴射燃料量qtotからqcombを減じることで燃焼室にて燃焼しなかった燃料の量(qunb)が正確に算出される。このqunbに基づいて空燃比センサの検出結果が補正される。この補正された空燃比センサの検出結果に基づいて、アフタ噴射燃料量が、排ガスの空燃比が目標空燃比(14程度)となるようにフィードバック制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(特に、ディーゼル機関)の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼル機関では、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を効果的に浄化するため、排気通路に介装される触媒として吸蔵還元型のNOx触媒(以下、「NOx触媒」と呼ぶ。)が広く使用されている。NOx触媒は、流入する排ガスが酸化雰囲気のとき(酸素濃度が大きいとき)に排ガス中のNOxを吸蔵し、流入する排ガスが還元雰囲気のとき(酸素濃度が小さく且つ還元剤が存在するとき)に吸蔵していたNOxを還元する機能を有する。
【0003】
通常、ディーゼル機関では、出力調整部材(アクセルペダル等)の操作量に基づく要求トルクに応じた量(メイン噴射燃料量)の燃料が圧縮上死点近傍(メイン噴射時期)にて噴射される。この場合、排ガスは酸化雰囲気となり、NOx触媒は排ガス中のNOxを吸蔵する。そして、時間経過に応じてNOx触媒に吸蔵されるNOxの量(吸蔵NOx量)が増大するにつれてNOxの吸蔵能力が低下していく。また、排ガス中の硫黄(S)がNOx触媒に堆積していく現象が発生する。そして、時間経過に応じてNOx触媒に堆積される硫黄の量(堆積S量)が増大するにつれてNOxの吸蔵能力が低下していく。
【0004】
このように、吸蔵NOx量の増大及び堆積S量の増大に起因してNOx触媒のNOx吸蔵能力が低下する。NOx触媒のNOx吸蔵能力を回復させる(NOx触媒を再生する)ためには、吸蔵NOx量及び堆積S量を減少させる必要がある。吸蔵NOx量及び堆積S量を減少させるためには、NOx触媒に流入する排ガスの空燃比を還元雰囲気に相当する所定の値(例えば、14程度)に維持することが有効である。以下、NOx触媒の再生のためにNOx触媒に流入する排ガスの空燃比を14程度に維持する制御を「触媒再生制御」と呼ぶ。
【0005】
通常において排ガスが酸化雰囲気となるディーゼル機関において、触媒再生制御を行う一手法として、「圧縮上死点近傍でのメイン噴射の後の膨張行程中においてアフタ噴射を更に行い、アフタ噴射の噴射量(アフタ噴射燃料量)をNOx触媒の上流の排気通路に介装された空燃比センサの検出結果に基づいてフィードバック制御することで排ガスの空燃比を14程度に維持する」手法が考えられる。以下、この場合について考察する。
【0006】
アフタ噴射は、燃焼室の圧力・温度が比較的低いタイミングで行われる。このため、アフタ噴射された燃料のうちで燃焼しない燃料(未燃燃料、未燃HC)が発生し易い。従って、アフタ噴射が行われると、排ガス中に未燃HCが含まれる。
【0007】
未燃HCは酸素分子に比して分子量が大きいので、未燃HCは酸素分子に比して空燃比センサ(酸素濃度センサ)の検出部内部における拡散速度が小さい。このことに起因して、排ガス中の未燃HCの濃度が大きいほど空燃比センサの検出結果が真値に対してリーン側にずれる現象が発生する。以下、この現象を「HCによるリーンずれ」と呼ぶ。
【0008】
この「HCによるリーンずれ」が発生すると、上記手法による触媒再生制御中において、アフタ噴射燃料量が大きめに調整される。この結果、排ガスの実際の空燃比が14程度よりもリッチ側に調整されて燃費が悪化する事態が発生し得る。
【0009】
この問題に対処するためには、排ガス中の未燃HCの量(濃度)を正確に推定し、この推定結果を利用して補正された空燃比センサの検出結果に基づいて排ガスの空燃比(アフタ噴射燃料量)をフィードバック制御すればよい。ここで、排ガス中の未燃HCの量(濃度)を推定してこの推定結果を利用して空燃比センサの検出結果を補正する手法として種々のものが提案されている(特許文献1〜4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−146900号公報
【特許文献2】特開平10−205384号公報
【特許文献3】特開2002−21616号公報
【特許文献4】特開2008−69662号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明は、新規な手法で「HCによるリーンずれ」に関して空燃比センサの検出結果を精度良く補正し、補正された検出結果に基づいて排ガスの空燃比を適切にフィードバック制御し得る内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0012】
本発明に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関としては、火花点火式内燃機関、ディーゼル機関等が採用され得る。この制御装置では、排気通路の触媒が備えられている。「触媒」としては、三元触媒、窒素酸化物を浄化する吸蔵還元型の触媒等が採用され得る。この触媒よりも上流の排気通路には、触媒に流入するガスの空燃比を検出する空燃比センサが配設されている。「空燃比センサ」としては、限界電流式の酸素濃度センサ、起電力式の酸素濃度センサ等が採用され得る。
【0013】
この制御装置では、空燃比センサの検出結果に基づいて触媒に流入するガスの空燃比(排ガスの空燃比)を目標空燃比とするために必要な噴射燃料量が算出される。そして、算出された噴射燃料量の燃料が噴射される。これにより、排ガスの空燃比が目標空燃比となるようにフィードバック制御される。「目標空燃比」は、火花点火式内燃機関の場合では、例えば、理論空燃比(14.6程度)、ディーゼル機関における上記触媒再生制御中では、例えば、14程度である。
【0014】
この制御装置の特徴は以下の点にある。即ち、燃焼室内の圧力の推移が取得される。圧力の推移は、例えば、燃焼室内の圧力を検出する圧力センサの検出結果から取得され得る。この圧力の推移は、例えば、燃焼なしの場合に比して燃料の燃焼に起因して燃焼室の圧力が大きくなる期間(例えば、燃料噴射時期から膨張行程の終了近傍の時期までの期間)に亘って取得される。圧力の推移は、一燃焼サイクル毎に順次取得・記憶されていくことが好ましい。
【0015】
そして、この圧力の推移と、(この圧力の推移に対応する燃焼サイクルについての)上記算出された噴射燃料量と、に基づいて空燃比センサの検出結果が補正される。この補正では、過去の(例えば、現在の直前の(前回の)燃焼サイクルに対応する)圧力の推移と噴射燃料量とが使用される。この補正された空燃比センサの検出結果に基づいて(今回の)噴射燃料量が算出される。即ち、補正された空燃比センサの検出結果に基づいて噴射燃料量(従って、排ガスの空燃比)がフィードバック制御される。
【0016】
前記空燃比センサの検出結果の補正では、具体的には、先ず、(過去の)圧力の推移に基づいて、この圧力の推移に対応する燃焼サイクルにおいて燃焼室内にて燃焼した燃料の量である燃焼燃料量が算出される。この圧力の推移に対応する(過去の)噴射燃料量から前記算出された燃焼燃料量を減じることにより、その燃焼サイクルにおいて燃焼室内にて燃焼しなかった燃料の量である未燃燃料量が算出される。この未燃燃料量と「HCによるリーンずれ」の程度とは相関があり、未燃燃料量が大きいほど「HCによるリーンずれ」の程度が大きい。この関係に基づき、前記算出された未燃燃料量に基づいて空燃比センサの検出結果が補正される。
【0017】
このように、本発明に係る制御装置では、圧力センサ等により直接的に検出され得る圧力の推移に基づいて正確に取得され得る燃焼燃料量を利用して未燃燃料量が正確に算出され得、この正確に算出された未燃燃料量に基づいて空燃比センサの検出結果が正確に補正され得る。従って、「HCによるリーンずれ」が精度良く補償され得、排ガスの空燃比が目標空燃比に精度良く一致し得るようにフィードバック制御され得る。
【0018】
以下、内燃機関がディーゼル機関の場合であって、上述した触媒再生制御が実行される場合について説明する。この場合、触媒再生制御の実行条件が成立しているか否かが判定される。触媒再生制御の実行条件は、例えば、周知の手法の一つにより推定される吸蔵NOx量、及び/又は堆積S量が所定値を超えた場合に成立する。
【0019】
触媒再生制御の実行条件が成立していない場合、(アフタ噴射が実行されず)メイン噴射が実行される。メイン噴射に先立ってパイロット噴射がなされてもよい。メイン噴射燃料量は、出力調整部材(アクセルペダル等)の操作量に基づく要求トルクに基づいて算出される。一方、触媒再生制御の実行条件が成立している場合、同実行条件が成立していない場合と同様にメイン噴射が実行されるとともに、メイン噴射の後にアフタ噴射が実行される。メイン噴射に先立ってパイロット噴射がなされてもよい。アフタ噴射燃料量は、空燃比センサの検出結果に基づいて、排ガスの空燃比が目標空燃比(例えば、14程度)となるようにフィードバック制御される。
【0020】
触媒再生制御の実行条件が成立している場合、上記と同じ原理を利用して、圧力の推移と、(この圧力の推移に対応する燃焼サイクルについての)総噴射燃料量と、に基づいて空燃比センサの検出結果が補正される。具体的には、(過去の)総噴射燃料量から、(過去の)圧力の推移から取得される(過去の)燃焼燃料量を減じることで得られる未燃燃料量に基づいて、空燃比センサの検出結果が精度良く補正される。ここで、総噴射燃料量とは、パイロット噴射がなされない場合にはメイン噴射燃料量とアフタ噴射燃料量との和であり、パイロット噴射がなされる場合にはパイロット噴射燃料量とメイン噴射燃料量とアフタ噴射燃料量との和である。
【0021】
そして、補正された空燃比センサの検出結果に基づいて(今回の)アフタ噴射燃料量が算出される。即ち、補正された空燃比センサの検出結果に基づいてアフタ噴射燃料量(従って、排ガスの空燃比)がフィードバック制御される。これにより、上述と同様、「HCによるリーンずれ」が精度良く補償され得、排ガスの空燃比が目標空燃比に精度良く一致し得るようにフィードバック制御され得る。
【0022】
上述したように、内燃機関がディーゼル機関の場合、「触媒」は、排ガス中の窒素酸化物を浄化する吸蔵還元型の触媒(NOx触媒)であることが好ましい。この場合、上述のように、触媒再生制御とは、触媒に吸蔵された窒素酸化物を還元する制御(従って、吸蔵NOx量を小さくする制御)、又は、触媒に堆積した硫黄の堆積量(堆積S量)を小さくする制御である。
【0023】
ところで、燃焼室内での燃焼により発生した排ガスが燃焼室から空燃比センサの検出部に移動するのには所定の期間を要する。以下、この期間を「輸送遅れ期間」と呼ぶ。空燃比センサの検出部に現在到達している排ガスは、実際には、現在よりも輸送遅れ期間だけ前における燃焼室内での燃焼により発生したものである。従って、現在の空燃比センサの検出結果を補正するために使用される圧力の推移と噴射燃料量(又は総噴射燃料量)としては、現在よりも輸送遅れ期間だけ前のものを使用することが好適である。
【0024】
これにより、空燃比センサにおける現在の「HCによるリーンずれ」の程度を決定している排ガスが燃焼室内で発生した燃焼サイクルについての圧力の推移と噴射燃料量(又は総噴射燃料量)とが使用されて、空燃比センサの検出結果が補正され得る。従って、定常運転状態のみならず過渡運転状態においても、排ガスの空燃比を目標空燃比に安定して精度良く一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置を多気筒ディーゼル機関に適用したシステム全体の概略構成図である。
【図2】空燃比と空燃比センサの出力との関係を示すグラフである。
【図3】図1に示す制御装置が空燃比センサの検出結果を補正する際における処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】触媒再生制御中においてメイン噴射とアフタ噴射とがなされる場合における燃焼室内での熱発生率の推移の一例を示したグラフである。
【図5】排ガス中の排出HC濃度と「HCによるリーンずれ」に起因する空燃比誤差との関係を示したグラフである。
【図6】本発明の実施形態の変形例に係る内燃機関の制御装置が空燃比センサの検出結果を補正する際における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用される、内燃機関(4気筒ディーゼル機関)10を含むシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
【0027】
エンジン本体20の各気筒の上部には燃料噴射弁21が配設されている。各燃料噴射弁21は、図示しない燃料タンクと接続された燃料噴射用ポンプ22に燃料配管23を介して接続されている。燃料噴射用ポンプ22は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の圧力(レール圧)を調整できるようになっている。また、各燃料噴射弁21は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の量(燃料噴射量)を調整できるようになっている。
【0028】
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され同吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、電気制御装置60からの駆動信号に応答してスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34と過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36とを含んでいる。
【0029】
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装された吸蔵還元型のNOx触媒(以下、「NOx触媒」と呼ぶ。)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。タービン35b内には、タービン35bの容量を調整するためのバリアブルノズル35b1が備えられている。バリアブルノズル35b1は、電気制御装置60からの駆動信号に応答し、タービン35bの容量を変更し得るようになっている。
【0030】
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR制御弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR制御弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量、EGR率)を変更し得るようになっている。なお、EGR率とは、本例では、燃焼室に流入する全ガス流量(新気流量+EGRガス流量)に対するEGRガス流量の割合をいう。
【0031】
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するプログラム、テーブル(マップ)、及び定数等を予め記憶したROM62、RAM63、バックアップRAM64、並びにADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。
【0032】
インターフェース65は、熱線式エアフローメータ71、スロットル弁開度センサ72、吸気酸素濃度センサ73、クランクポジションセンサ74、アクセル開度センサ75、EGR制御弁開度センサ76、水温センサ77、空燃比センサ78、及び筒内圧力センサ79と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU61に供給するようになっている。
【0033】
また、インターフェース65は、燃料噴射弁21、燃料噴射用ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、バリアブルノズル35b1、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPU61の指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
【0034】
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気(新気)量)を計測するようになっている。スロットル弁開度センサ72は、スロットル弁33の開度を検出するようになっている。吸気酸素濃度センサ73は、吸気マニホールド31と排気還流管51との合流地点よりも下流の吸気通路内のガス(従って、エンジン10の燃焼室に吸入されるガス)に含まれる酸素の濃度を検出するようになっている。
【0035】
クランクポジションセンサ74は、実クランク角度とともにエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度を検出するようになっている。アクセル開度センサ75は、アクセルペダルAPの操作量を検出するようになっている。EGR制御弁開度センサ76は、EGR制御弁52の開度を検出するようになっている。水温センサ77は、冷却水の温度を検出するようになっている。
【0036】
空燃比センサ78は、NOx触媒43の上流の排気通路に配設されている。空燃比センサ78は、所謂「限界電流式酸素濃度センサ」であって、図2に実線で示したように、NOx触媒43に流入する排ガスの空燃比に応じた出力Vabyfを発生するようになっている。この出力Vabyfと図2に実線で示した関係とに基づいて空燃比が検出される。この空燃比を検出空燃比AFsenと呼ぶ。筒内圧力センサ79は、各気筒にそれぞれ配設されていて、燃焼室内の圧力を検出するようになっている。
【0037】
(燃料噴射制御)
次に、上記のように構成される本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置(以下、「本装置」と呼ぶ。)による燃料噴射制御について説明する。
【0038】
<通常時での燃料噴射制御>
本装置では、通常時(後述する触媒再生制御の実行条件が成立していないとき)、圧縮上死点近傍でのメイン噴射時期にてメイン噴射が実行される。メイン噴射時期は、上述した各種センサの検出結果から得られる内燃機関10の運転状態(例えば、エンジン回転速度、アクセルペダル操作量)に基づいて、燃焼効率が最適となる時期に決定される。
【0039】
メイン噴射による噴射量(メイン噴射燃料量)は、アクセル開度センサ75から得られるアクセルペダル操作量に基づいて算出される要求トルクと、要求トルク及びメイン噴射燃料量の関係を規定する予め作製されたテーブル(マップ)と、に基づいて決定される。このメイン噴射により、通常時にて排ガスは酸化雰囲気(空燃比が理論空燃比よりもリーン)に維持される。なお、メイン噴射に先立ってパイロット噴射がなされてもよい。
【0040】
一方、本システムでは、排気通路にNOx触媒43が介装されている。NOx触媒43は、排ガスが酸化雰囲気(空燃比が理論空燃比よりもリーン)のときに排ガス中のNOxを吸蔵し、排ガスが還元雰囲気のとき(空燃比が理論空燃比よりもリッチで排ガス中に還元剤が存在するとき)に吸蔵していたNOxを還元する機能を有する。上述したように、本装置では、通常時(触媒再生制御の実行条件非成立時)、排ガスが酸化雰囲気に維持されるので、NOx触媒43は排ガス中のNOxを吸蔵する。従って、時間経過に応じてNOx触媒43に吸蔵されるNOxの量(吸蔵NOx量)が増大する。そして、吸蔵NOx量が増大するにつれてNOx触媒43のNOx吸蔵能力が低下していく。
【0041】
加えて、排ガス中の硫黄(S)がNOx触媒43に堆積していく現象が発生する。従って、時間経過に応じてNOx触媒43に堆積される硫黄の量(堆積S量)が増大する。そして、堆積S量が増大するにつれてNOx触媒43のNOx吸蔵能力が低下していく。
【0042】
吸蔵NOx量を減少させるためには、触媒雰囲気温度が250℃以上の状態において、流入する排ガスの空燃比を14程度に維持することが有効である。堆積S量を減少させるためには、触媒雰囲気温度が600℃以上の状態において、流入する排ガスの空燃比を14程度に維持することが有効である。
【0043】
そこで、本装置では、触媒雰囲気温度が250℃以上の状態において吸蔵NOx量が所定量を超えたとき、或いは、触媒雰囲気温度が600℃以上の状態において堆積S量が所定量を超えたとき、触媒再生制御の実行条件が成立するようになっている。なお、吸蔵NOx量及び堆積S量は、周知の手法の1つにより推定され得る。触媒再生制御の実行条件が成立している間、NOx触媒43のNOx吸蔵能力を回復させる(NOx触媒43を再生する)ため、排ガスの空燃比を14程度に維持する触媒再生制御が実行される。
【0044】
<触媒再生制御中での燃料噴射制御>
触媒再生制御中では、通常時において行われるメイン噴射の後の膨張行程中のアフタ噴射時期において、アフタ噴射が更に行われる。なお、メイン噴射に先立ってパイロット噴射がなされてもよい。
【0045】
アフタ噴射時期は、上述した各種センサの検出結果から得られる内燃機関10の運転状態(例えば、エンジン回転速度、アクセルペダル操作量)に基づいて決定される。アフタ噴射時期は、アフタ噴射された燃料のうちなるべく多くが燃焼し、且つアフタ噴射された燃料の燃焼により発生するトルクがなるべく小さくなる時期(例えば、ATDC40°近傍)に設定される。ここで、アフタ噴射された燃料のうちなるべく多くが燃焼するようにアフタ噴射時期が設定されるのは、アフタ噴射された燃料の燃焼により発生し得るCOがNOx触媒43に吸蔵されているNOxを還元する作用(従って、吸蔵NOx量を減少させる作用)を有していることに基づく。即ち、このCOの作用により、吸蔵NOx量を効果的に減少させることができる。
【0046】
アフタ噴射による噴射量(アフタ噴射燃料量)は、空燃比センサ78の検出結果に基づいて、排ガスの空燃比が目標空燃比AFr(=14程度)となるようにフィードバック制御される。具体的には、例えば、アフタ噴射燃料量FIafterは、下記(1)式に従って決定される。(1)式において、FFはフィードフォワード量であり、下記(2)式で表わされる。FBはフィードバック量であり、空燃比センサ78の検出結果(具体的には、後述する補正された検出結果である検出空燃比AFreal)と目標空燃比AFrとの偏差をPID処理等することで得られる。(2)式において、Mcは、吸気行程にて燃焼室に吸入された空気(新気)の量であり、例えば、エアフローメータ71から得られる単位時間当たりの吸入空気(新気)量とエンジン回転速度とに基づいて周知の手法の一つにより算出され得る。FImainは、メイン噴射燃料量である。
【0047】
FIafter=FF+FB …(1)
FF=Mc/AFr−FImain …(2)
【0048】
なお、アフタ噴射された燃料の燃焼により発生するトルク分だけメイン噴射燃料量を減量してもよい。この場合、この減量分だけアフタ噴射燃料量を増量することで排ガスの空燃比が目標空燃比に一致させられる。
【0049】
以上、説明したように、触媒再生制御の実行条件が成立した時点以降、同実行条件が成立している間に亘って、触媒再生制御が実行される。具体的には、通常時に行われるメイン噴射に加えて、アフタ噴射燃料量が空燃比センサ78の検出結果によりフィードバック制御されるアフタ噴射がなされることにより、排ガスの空燃比が14程度に維持される。触媒再生制御実行中において周知の1つの触媒再生制御の終了条件が成立すると、触媒再生制御の実行条件が不成立となり、触媒再生制御が終了する。
【0050】
(空燃比センサの検出結果の補正)
ところで、上述のように、アフタ噴射は、ATDC40°程度の燃焼室の圧力・温度が比較的低いタイミングで行われる。このため、アフタ噴射された燃料のうちで燃焼しない燃料(未燃燃料、未燃HC)が発生し得る。即ち、アフタ噴射が行われると、排ガス中に未燃HCが含まれる。なお、本例では、メイン噴射された燃料は全て完全燃焼することが前提とされている。
【0051】
未燃HCは酸素分子に比して分子量が大きい。従って、未燃HCは酸素分子に比して空燃比センサ78の検出部内部における拡散速度が小さい。これにより、排ガス中の未燃HCの濃度が大きいほど未燃HCに対して酸素分子が相対的に反応し易くなる。即ち、排ガス中の未燃HCの濃度が大きいほど空燃比センサ78の検出結果(検出空燃比AFsen)が真値に対してリーン側にずれる現象が発生する。以下、この現象を「HCによるリーンずれ」と呼ぶ。具体的には、図2に破線で示すように、「HCによるリーンずれ」が発生している場合、空燃比に対する空燃比センサ78の出力Vabyfが大きめに発生する。
【0052】
「HCによるリーンずれ」が発生すると、触媒再生制御中において、アフタ噴射燃料量が大きめに調整されて、排ガスの空燃比が、「HCによるリーンずれ」に相当する分だけ目標空燃比(14程度)よりもリッチ側の空燃比にフィードバック制御される。この結果、燃費が悪化する事態が発生し得る。
【0053】
この問題に対処するためには、排ガス中の未燃HCの量(濃度)を正確に推定し、この推定結果を利用して空燃比センサ78の検出結果を正確に補正すればよい。そして、補正された空燃比センサ78の検出結果に基づいて排ガスの空燃比(アフタ噴射燃料量)をフィードバック制御することで、排ガスの空燃比が目標空燃比(14程度)に正確に維持され得る。
【0054】
以下、本装置による排ガス中の未燃HCの濃度の推定、並びに、この推定結果を利用した空燃比センサ78の検出結果の補正に関する処理について図3に示したフローチャートを参照しながら説明する。このフローチャートに対応するプログラム(ルーチン)は、ROM62に格納されていて、CPU61は、触媒再生制御中において、各燃焼サイクルに対応する所定のタイミングが到来する毎(例えば、膨張行程が終了する毎)にこのプログラムの処理を繰り返し実行する。
【0055】
ステップ305では、膨張行程が終了した直後の気筒(以下、「直前気筒」と呼ぶ。)の燃焼サイクルに対して燃焼室に吸入された全ガス量(筒内ガス量Gcyl)が周知の手法の1つに従って算出される。ステップ310では、直前気筒の燃焼サイクルに対して噴射された総噴射燃料量(噴射燃料量qtot)が取得される。qtotは、メイン噴射燃料量とアフタ噴射燃料量の和である。なお、パイロット噴射がなされる場合、パイロット噴射された燃料の量もqtotに加算される。
【0056】
ステップ315では、直前気筒の燃焼サイクルに対して燃焼室内にて燃料の燃焼により発生した熱の総量(熱発生量Qtot)が、下記(3)式に従って算出される。(3)式では、燃焼室内におけるクランク角度に対する熱発生率が所定のクランク角度範囲内において積分されることでQtotが計算される。
【0057】
Qtot=∫((1/(κ-1))・(κ・P・dV+V・dP)) …(3)
【0058】
(3)式において、κは燃焼室内のガスの比熱比である。κは一定であってもよいし、周知の手法の1つに従って推定されてもよい。Pは燃焼室内の圧力である。クランク角度に対するPの推移は、直前気筒の筒内圧力センサ79の検出結果から取得される。dPはPの変化分である。クランク角度に対するdPの推移は、前記取得されたPの推移から算出される。Vは燃焼室の容積である。dVはVの変化分である。クランク角度に対するV,dVの推移は、燃焼室の容積を決定する部材(シリンダ、シリンダヘッド、ピストン、コンロッド等)の寸法等に基づいて予め作製されたテーブルにより取得される。(3)式における積分範囲(クランク角度範囲)は、例えば、燃焼なしの場合に比して燃料の燃焼に起因して燃焼室の圧力が大きくなる範囲(例えば、メイン噴射時期から膨張行程の終了時期まで)に設定される。
【0059】
図4は、触媒再生制御中においてメイン噴射とアフタ噴射とがなされる場合における燃焼室内でのクランク角度に対する熱発生率の推移の一例を示す。図4において、aを頂点とする山はメイン噴射された燃料の燃焼により形成され、bを頂点とする山はアフタ噴射された燃料の燃焼により形成される。(3)式にて算出される熱発生量Qtotは、図4において微細なドットで示した領域の面積に相当する。
【0060】
ステップ320では、直前気筒の燃焼サイクルにおいて燃焼室内にて燃焼した燃料の量(燃焼燃料量qcomb)が、下記(4)式に従って算出される。(4)式において、Qfuelは単位燃料量当たりに発生する燃料の熱量である。Qfuelとして、本例では、例えば、標準的な軽油の物性値(一定)が使用される。このように、燃焼室内の圧力の推移(から得られる熱発生量Qtot)に基づいて燃焼燃料量qcombが算出される。
【0061】
qcomb=Qtot/Qfuel …(4)
【0062】
本例では、メイン噴射された燃料は全て完全燃焼することが前提とされている。従って、燃焼燃料量qcombは、メイン噴射された燃料の全量と、アフタ噴射された燃料のうちで燃焼した燃料の量の和である。なお、メイン噴射された燃料の全てが燃焼しない場合、燃焼燃料量qcombは、メイン噴射された燃料のうちで燃焼した燃料の量と、アフタ噴射された燃料のうちで燃焼した燃料の量の和となる。
【0063】
ステップ325では、直前気筒の燃焼サイクルにおいて燃焼室内にて燃焼しなかった燃料の量(未燃燃料量qunb)が、下記(5)式に従って算出される。メイン噴射された燃料が全て完全燃焼する場合、未燃燃料量qunbは、アフタ噴射された燃料のうちで燃焼しなかった燃料の量と等しい。一方、メイン噴射された燃料の全てが燃焼しない場合、未燃燃料量qunbは、メイン噴射された燃料のうちで燃焼しなかった燃料の量と、アフタ噴射された燃料のうちで燃焼しなかった燃料の量の和となる。
【0064】
qunb=qtot−qcomb …(5)
【0065】
ステップ330では、直前気筒の燃焼サイクルにおいて燃焼室内にて発生した排ガスの未燃HCの濃度(排出HC濃度HCunb)が、下記(6)式に従って算出される。Gcylはステップ305にて計算された筒内ガス量である。
【0066】
HCunb=qunb/Gcyl …(6)
【0067】
ステップ335では、「HCによるリーンずれ」に起因する空燃比センサ78の検出結果(検出空燃比AFsen)の真値からのリーン側の誤差(空燃比誤差ΔAF)が、ステップ330にて算出された排出HC濃度HCunbと、図5に示したテーブルとに基づいて決定される。図5に示したように、排出HC濃度HCunbと、空燃比誤差ΔAFとは相関があり、HCunbが大きいほどΔAFが大きい。この相関関係は、実験等を通して予め取得され得る。
【0068】
ステップ340では、下記(7)式に従って、現在の空燃比センサ78の検出結果(検出空燃比AFsen)が、検出空燃比AFrealに補正される。
【0069】
AFreal=AFsen−ΔAF …(7)
【0070】
この補正された空燃比センサ78の検出結果(検出空燃比AFreal)は、「HCによるリーンずれ」が精度良く補償された真値に極めて近い値となり得る。本装置では、触媒再生制御中において、現在の検出空燃比AFrealに基づいて、排ガスの空燃比(アフタ噴射燃料量)がフィードバック制御されることで(上記(1)式を参照)、排ガスの空燃比が目標空燃比(14程度)に正確に維持され得る。
【0071】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る内燃機関(ディーゼル機関)の制御装置によれば、通常時、圧縮上死点近傍にてメイン噴射がなされる。メイン噴射燃料量は要求トルクに基づいて決定される。触媒再生制御中では、通常時に行われるメイン噴射に加えてメイン噴射後の膨張行程中にてアフタ噴射がなされる。触媒再生制御中では、筒内圧力センサから得られる燃焼室の圧力の推移に基づいて燃焼室で燃焼した燃料の量(燃焼燃料量qcomb)が算出され、噴射燃料量qtotから燃焼燃料量qcombを減じることで燃焼室にて燃焼しなかった燃料の量(未燃燃料量qunb)が正確に算出される。この未燃燃料量qunbに基づいて空燃比センサの検出結果が正確に補正される。この正確に補正された空燃比センサの検出結果に基づいて、排ガスの空燃比が目標空燃比(例えば、14程度)となるようにアフタ噴射燃料量がフィードバック制御される。
【0072】
このように、筒内圧力センサ79により直接的に検出される圧力の推移と、噴射燃料量qtotとに基づいて空燃比センサ78の検出結果が正確に補正され得る。従って、「HCによるリーンずれ」が精度良く補償され得、触媒再生制御中において、排ガスの空燃比が目標空燃比に精度良く一致し得るように、アフタ噴射燃料量が精度良くフィードバック制御され得る。
【0073】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、NOx触媒43を備えたディーゼル機関が採用されているが、三元触媒を備えた火花点火式内燃機関が採用されてもよい。この場合、触媒再生制御が実行されず、常時メイン噴射のみが実行される。メイン噴射燃料量は、補正された空燃比センサの検出結果に基づいて、排ガスの空燃比が目標空燃比(例えば、理論空燃比)となるようにフィードバック制御される。この場合、ステップ310にて噴射燃料量qtotとして、メイン噴射燃料量が取得され、ステップ325にて未燃燃料量qunbとして、メイン噴射された燃料のうちで燃焼しなかった燃料の量が算出される。
【0074】
また、上記実施形態では、膨張行程が終了した直後の気筒(直前気筒)についての燃焼室内の圧力の推移(従って、燃焼燃料量qcomb)、及び噴射燃料量qtotに基づいて現在の空燃比センサ78の検出結果(AFsen)が補正されている。以下、現在の空燃比センサ78の検出結果を補正するために使用される燃焼室内の圧力の推移(従って、燃焼燃料量qcomb)と噴射燃料量qtotとして、過去におけるどのタイミングのものを使用することが最も好ましいかについて検討する。
【0075】
一般に、燃焼室内での燃焼により発生した排ガスが燃焼室から空燃比センサの検出部に移動するのには所定の期間を要する。以下、この期間を「輸送遅れ期間」と呼ぶ。空燃比センサの検出部に現在到達している排ガスは、実際には、現在よりも輸送遅れ期間だけ前における燃焼室内での燃焼により発生している。即ち、空燃比センサにおける現在の「HCによるリーンずれ」の程度を決定している排ガスは、現在よりも輸送遅れ期間だけ前における燃焼室内での燃焼により発生している。
【0076】
係る観点からみれば、現在の空燃比センサの検出結果を補正するために使用される圧力の推移(従って、燃焼燃料量qcomb)と噴射燃料量qtotとしては、現在よりも輸送遅れ期間だけ前のものを使用することが好ましいと考えられる。これにより、空燃比センサにおける現在の「HCによるリーンずれ」の程度を決定している排ガスが燃焼室内で発生した燃焼サイクルについての圧力の推移(従って、燃焼燃料量qcomb)と噴射燃料量qtotとが使用されて、空燃比センサの検出結果が補正され得る。従って、内燃機関10が定常運転状態にある場合のみならず過渡運転状態にある場合においても、排ガスの空燃比を目標空燃比に安定して精度良く一致させることができる。
【0077】
図6は、現在の空燃比センサの検出結果を補正するために使用される圧力の推移(従って、燃焼燃料量qcomb)と噴射燃料量qtotとして現在よりも輸送遅れ期間だけ前のものが使用される場合における図3に対応するフローチャートである。図6において図3と相違するステップ605,610,615が太枠で示されている。図6におけるその他のステップは図3のものと同じである。
【0078】
ステップ605では、図3のステップ335と同じ処理により算出された空燃比誤差ΔAFがΔAF(k)としてRAM63の所定の記憶領域に記憶される。ここで()内はサイクル数を示し、kは現在の燃焼サイクルを表す。k−mはm回前の燃焼サイクルを表す。即ち、現在において、今回のプログラムの実行により算出されたΔAFはΔAF(k)として、1回前のプログラムの実行により算出されたΔAFはΔAF(k−1)として、m回前のプログラムの実行により算出されたΔAFはΔAF(k−m)として、それぞれ所定の記憶領域に記憶されている。
【0079】
ステップ610では、輸送遅れ期間に相当する燃焼サイクル数(輸送遅れ相当サイクル数)nが算出される。輸送遅れ相当サイクル数nは、例えば、下記(8)式に従って算出され得る。ここで、Vexは排気弁から空燃比センサ78までの間の排気通路の容積である。Vcylは1気筒当たりのシリンダ容積である。
【0080】
n=Vex/Vcyl …(8)
【0081】
ステップ615では、n回前のプログラムの実行により算出されたΔAF(k−n)に基づいて空燃比センサ78の検出結果(AFsen)が補正される。ここで、ΔAF(k−n)は、n回前の燃焼サイクルについての圧力の推移(燃焼燃料量qcomb)と噴射燃料量qtotとに基づいて算出されている。即ち、このステップ615の処理により、現在よりも輸送遅れ期間だけ前の燃焼サイクルについての圧力の推移(従って、燃焼燃料量qcomb)と噴射燃料量qtotとに基づいて現在の空燃比センサ78の検出結果が補正される。
【符号の説明】
【0082】
21…燃料噴射弁、43…NOx触媒、60…電気制御装置、61…CPU、71…エアフローメータ、75…アクセル開度センサ、78…空燃比センサ、79…筒内圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に介装された触媒と、
前記触媒よりも上流の前記排気通路に配設され前記触媒に流入するガスの空燃比を検出する空燃比センサと、
前記空燃比センサの検出結果に基づいて前記触媒に流入するガスの空燃比を目標空燃比とするために必要な噴射燃料量を算出し、前記算出された噴射燃料量の燃料を噴射する噴射手段と、
を備えた内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の燃焼室内の圧力の推移を取得する筒内圧力取得手段と、
前記取得された圧力の推移と前記算出された噴射燃料量とに基づいて、前記空燃比センサの検出結果を補正する補正手段と、
を備え、
前記噴射手段は、
前記補正された前記空燃比センサの検出結果に基づいて前記噴射燃料量を算出するように構成された内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記補正手段は、
前記取得された圧力の推移に基づいて前記燃焼室内にて燃焼した燃料の量である燃焼燃料量を算出し、前記算出された噴射燃料量から前記算出された燃焼燃料量を減じることにより前記燃焼室内にて燃焼しなかった燃料の量である未燃燃料量を算出し、前記算出された未燃燃料量に基づいて前記空燃比センサの検出結果を補正するように構成された内燃機関の制御装置。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に介装された触媒と、
前記触媒よりも上流の前記排気通路に配設され前記触媒に流入するガスの空燃比を検出する空燃比センサと、
前記触媒の再生を行う触媒再生制御の実行条件が成立しているか否かを判定する判定手段と、
前記触媒再生制御の実行条件が成立していない場合、前記内燃機関の出力を調整するために操作される出力調整部材の操作量に基づく要求トルクに基づいてメイン噴射燃料量を算出し、前記算出されたメイン噴射燃料量の燃料をメイン噴射時期にて噴射し、前記触媒再生制御の実行条件が成立している場合、前記要求トルクに基づいて前記メイン噴射燃料量を算出するとともに前記空燃比センサの検出結果に基づいて前記触媒に流入するガスの空燃比を目標空燃比とするために必要なアフタ噴射燃料量を算出し、前記算出されたメイン噴射燃料量の燃料を前記メイン噴射時期にて噴射するとともに前記算出されたアフタ噴射燃料量の燃料を前記メイン噴射時期よりも後のアフタ噴射時期にて噴射する噴射手段と、
を備えた内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の燃焼室内の圧力の推移を取得する筒内圧力取得手段と、
前記触媒再生制御の実行条件が成立している場合、前記取得された圧力の推移と、前記算出されたメイン噴射燃料量及びアフタ噴射燃料量を含む総噴射燃料量と、に基づいて、前記空燃比センサの検出結果を補正する補正手段と、
を備え、
前記噴射手段は、
前記触媒再生制御の実行条件が成立している場合、前記補正された前記空燃比センサの検出結果に基づいて前記アフタ噴射燃料量を算出するように構成された内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、
前記補正手段は、
前記触媒再生制御の実行条件が成立している場合、前記取得された圧力の推移に基づいて前記燃焼室内にて燃焼した燃料の量である燃焼燃料量を算出し、前記総噴射燃料量から前記算出された燃焼燃料量を減じることにより前記燃焼室内にて燃焼しなかった燃料の量である未燃燃料量を算出し、前記算出された未燃燃料量に基づいて前記空燃比センサの検出結果を補正するように構成された内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の内燃機関の制御装置において、
前記触媒は、排ガス中の窒素酸化物を浄化する吸蔵還元型の触媒であり、前記触媒再生制御は、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物を還元する制御、又は、前記触媒に堆積した硫黄の堆積量を小さくする制御である、内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記補正手段は、
前記空燃比センサの検出結果を補正するために使用する前記圧力の推移と、前記噴射燃料量又は前記総噴射燃料量として、前記燃焼室内での燃焼により発生した排ガスが前記燃焼室から前記空燃比センサに移動するのに要する期間だけ前のものを使用するように構成された内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58440(P2011−58440A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209937(P2009−209937)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】