説明

内燃機関の制御装置

【課題】吸気弁を遅角制御する内燃機関において排気ガス中の粒子状物質の低減を図り、低燃費と低エミッションを両立させ得る内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】吸気弁の遅角制御を実行するとともに、吸気ポート内に吸気非同期噴射と吸気同期噴射とを実行可能なポート噴射弁に対し吸気非同期噴射割合を変化させるよう噴射条件を制御する内燃機関の制御装置であって、ポート噴射弁の非同期噴射を吸気弁開弁時期tp3より排気上死点TDC側で終了する吸気非同期噴射期間Taup1中に実行させるとともに、要求噴射量のうちポート噴射弁による吸気非同期噴射期間Taup1中の噴射量を超える未噴射残量の噴射を吸気弁開弁時期tp3から始まる吸気同期噴射期間Taup2中に実行させる噴き分け制御手段と、吸気非同期噴射期間Taup1中の噴射量および未噴射残量をそれぞれ内燃機関の温度に応じて設定する噴き分け噴射量設定手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特にポート噴射用の燃料噴射弁を有する内燃機関において吸気弁を遅角制御するとともに気筒内渦流を生じさせる場合に好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の内燃機関においては、高度な低燃費要求に対して、吸気弁の遅閉じ制御(閉弁タイミングを遅角させる遅角制御)によりポンピングロスを低減するとともに、ピストンの排気上死点通過後に吸気弁を開弁させる遅開き制御(開弁タイミングを遅角させる遅角制御)を実行することにより、タンブル気流等の気筒内渦流発生手段(吸気流制御弁、吸気ポートの特定の傾きや形状、バルブリフト量の制御等)の作用を高めて燃焼改善を図るような制御を実行するものがある。
【0003】
吸気弁の遅角制御や気筒内渦流の制御を実行する従来の内燃機関の制御装置としては、例えばバルブリフト可変(2段切替え)機構を備えたポート噴射式のエンジンにおいて、吸気弁の開弁時期を排気上死点より遅角させるとともに吸気弁のバルブリフト量を小さくして吸気の流速を高めるようにし、さらに、燃料が蒸発し難い燃料であるときに、要求噴射量のうちポート噴射弁から吸気非同期噴射される燃料割合を減少させることで吸気ポート内壁面への燃料の付着量を抑えるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、タンブル制御弁の開閉切替えのための閾値を、内燃機関の暖機中には相対的に低負荷・低回転側に、内燃機関の暖機後には相対的に高負荷・高回転側にそれぞれ設定することで、暖機中には、タンブル制御弁の開弁領域(タンブルが抑えられる運転領域)を拡大するようにし、タンブル制御弁の開閉による出力変動の抑制を図ったものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、エンジン回転数および負荷に応じて成層燃焼と均一燃焼とのうち任意の燃焼方式を選択するとともに、成層燃焼を実行する低中負荷運転領域ではタンブル制御弁を開いてタンブル気流の生成を中止し、プラグ周辺の点火し易い濃混合気がタンブル気流により拡散されてしまうのを防止するようにしたものも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−332936号公報
【特許文献2】特開平08−165929号公報
【特許文献3】特開平07−293304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、吸気弁の開弁時期を遅角させるとともにそのバルブリフトを小さくするようにした従来の内燃機関の制御装置にあっては、吸気ポートや気筒内の壁面温度が低い内燃機関の冷間時に、吸気弁の開弁中に吸気弁周りに付着し液滴化した燃料が吸気弁の開弁時に吸気流と共に一気に気筒内に入ることがあり、気筒内に入った燃料が燃焼し切れずに排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒内壁面のオイルが希釈されてしまったりするという問題の発生が懸念される。
【0008】
すなわち、吸気弁の開弁までに吸気ポート内の空気と燃料が所要の混合状態となるようにポート噴射が実行される場合、冷間始動時等のように吸気ポート壁面温度が低いときには、吸気ポート内に噴射された燃料の霧化が進行し難いため、吸気弁が遅角制御される場合には、吸気ポートから吸気行程の気筒内に十分に霧化されない燃料の液滴が流入してしまう。また、吸気弁が遅角制御される場合、気筒内の圧縮端温度も低くなり、ボアの壁面に付着した液状燃料を蒸発させ難くなるが、その状態で強い気筒内渦流にのった燃料が例えばその排気口側のシリンダボアの壁面まで飛ばされてそこに付着し、ボア壁面上のオイルが希釈されたり、さらに不燃物となって排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったりする可能性がある。
【0009】
特に、冷間時に燃料噴射量が増量補正されたり、吸気ポートが高タンブル気流を生じ得るような傾斜姿勢を有しているような場合、液滴状の燃料が気筒内壁面に付着し易く、かつ、蒸発し難いために、排気ガス中の粒子状物質(粒子状物質の質量(PM)や粒子個数濃度(PN))の増加と潤滑・冷却用のオイルの希釈という問題が生じる可能性が高くなっていた。
【0010】
また、暖機中や低中負荷時にタンブル気流を抑えるようにした従来の内燃機関の制御装置にあっても、吸気弁の開弁時期を遅角させることから、吸気弁の開弁に先立って吸気ポート内に噴射される燃料量が多くなると、その燃料が吸気ポートの内壁面に付着して液滴化し易くなり、上述と同様な問題が生じ得るものとなっていた。
【0011】
そこで、本発明は、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁を遅角制御する内燃機関において、排気ガス中の粒子状物質の低減および潤滑・冷却用オイルの希釈防止を図り、低燃費および低エミッションを両立させることのできる内燃機関の制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、上記課題の解決のため、(1)内燃機関の吸気弁を排気上死点以降に設定された開弁期間中に開弁させる遅角制御を実行するとともに、前記吸気弁の開弁期間外に前記内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する吸気非同期噴射と前記吸気弁の開弁期間中に前記吸気通路内に燃料を噴射する吸気同期噴射とを実行可能なポート噴射弁に対して、要求燃料量のうち前記吸気非同期噴射による燃料量の割合を変化させるよう噴射条件を制御する内燃機関の制御装置であって、前記ポート噴射弁の前記非同期噴射を前記吸気弁の開弁時期より前記排気上死点側で終了する吸気非同期噴射期間中に実行させるとともに、前記要求噴射量のうち前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量を超える未噴射残量の燃料噴射を前記吸気弁の開弁時期から始まる吸気同期噴射期間中に実行させる噴き分け制御手段と、前記吸気非同期噴射期間中の噴射量および前記未噴射残量をそれぞれ前記内燃機関の温度に応じて設定する噴き分け噴射量設定手段と、を具備することを特徴とする。
【0013】
この構成により、ポート噴射弁による吸気通路内への燃料噴射を、吸気非同期噴射と吸気同期噴射とに噴き分け制御することで、吸気通路内に噴射された燃料が吸気通路の内壁面に付着して液化しないように吸気非同期の燃料噴射量を減量できることになり、吸気弁が遅角制御されても、吸気通路内に噴射された燃料が吸気弁の周りに付着し難くなり、壁面付着した燃料が液滴化して気筒内に入るような現象が有効に抑制されることになる。したがって、気筒内に入った液状の燃料により排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒内壁面のオイルが希釈されたりすることが防止されることになり、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁を遅角制御する内燃機関において、排気ガス中の粒子状物質の低減と潤滑・冷却用オイルの希釈防止とを図ることができる。なお、ここにいう内燃機関の温度は、例えば内燃機関の冷却水温度で把握できるが、吸気ポートや気筒内の壁温度に応じて変化する他の温度検出情報でもよいのは勿論である。
【0014】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、(2)前記噴き分け噴射量設定手段は、前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量を、前記内燃機関の温度が高いときには多量に、前記内燃機関の温度が低いときには少量に、それぞれ設定することが望ましい。これにより、内燃機関の温度が高く燃料が蒸発し易いか、内燃機関の温度が低く燃料が蒸発し難いかによって、吸気非同期噴射期間中の燃料噴射量が増・減調節されることになり、吸気通路内に噴射された燃料が吸気弁の周り等の壁面に付着し難くなる。
【0015】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、好ましくは、(3)前記内燃機関の温度が予め設定された設定温度より低温であるとき、該温度が前記設定温度以上に高温であるときよりも、前記ポート噴射弁に供給される燃料の供給圧を高圧に変化させるフィード圧可変手段をさらに備えるものである。この場合、吸気非同期噴射期間中の燃料噴射量が減量されることに加えて燃料噴射圧力が高めることになり、燃料貫通力の上昇によって燃料の霧化が助長されることになる。
【0016】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、(4)前記噴き分け噴射量設定手段は、前記吸気非同期噴射期間を、前記内燃機関の排気上死点より進角側で非同期噴射開始時期を変化させて可変設定するとともに、前記吸気同期噴射期間を、前記排気上死点より遅角側で同期噴射終了時期を変化させて可変設定することが好ましい。これにより、吸気非同期噴射期間中にポート噴射される燃料のすべてについて所要の霧化時間が確保されることになる。なお、この場合、前記吸気非同期噴射期間の終了時期は、前記内燃機関(ピストン)が前記排気上死点となるタイミングであるのが好ましい。
【0017】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、より好ましくは、(5)前記吸気弁の開弁時に前記内燃機関に気筒内渦流を発生させる気筒内渦流発生機構と、前記内燃機関の温度が予め設定された温度より低温であるとき、前記気筒内渦流発生機構による前記気筒内渦流の発生を制限する渦流制限手段と、をさらに備えたものである。この構成により、タンブル気流等の気筒内渦流の生成によって燃焼改善を図るとともに、気筒内渦流が好ましくない冷間時には気筒内渦流の生成を制限することができ、吸気弁の遅閉じによりポンピングロスの低減を図るとともに、適時の吸気弁の遅開き制御によりタンブル気流等の気筒内渦流の作用を高めて燃焼改善を図ることができる。なお、ここにいう気筒内渦流発生機構は、タンブル制御弁等の吸気流制御弁であってもよいし、タンブル気流等の気筒内渦流の生成に有効な吸気通路形状や遅開吸気弁、バルブタイミングの可変機構等であってもよい。また、冷間時とは、内燃機関の温度、例えば冷却水温度が所定値以下であるときであり、内燃機関の始動時でも運転時でもよい。
【0018】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、(6)前記噴き分け噴射量設定手段は、前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量と前記ポート噴射弁による前記吸気同期噴射期間中の噴射量との比率を固定値に保持するものであってもよい。この場合、噴き分け噴射量の設定が容易になる。
【0019】
また、(7)前記噴き分け噴射量設定手段は、前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量と前記ポート噴射弁による前記吸気同期噴射期間中の噴射量との比率を可変設定するものであってもよい。この場合、きめ細かな噴き分け噴射量の設定が可能になる。なお、内燃機関の温度が高くなるほどポート噴射限界量が増加する一方、必要な燃料噴射量は、内燃機関の温度が低くなるほど燃料が蒸発し難くなるため、要求噴射量は内燃機関の温度が低温になるほど増加する。したがって、両者の差分として同期噴射することが要求される噴き分け噴射量は、内燃機関の温度が高くなるほど減少する。
【0020】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、(8)前記噴き分け噴射量設定手段は、前記未噴射残量分の燃料噴射量を、前記ポート噴射弁による前記吸気同期噴射期間中の噴射量と、前記内燃機関の気筒内に燃料を噴射することができる筒内噴射弁による噴射量とに分けて設定するものであってもよい。この場合、ポート噴射が好ましい運転状態であって未噴射残量が多くなる場合に、ポート噴射弁による燃料噴射を主にしながら、燃料付着が懸念される運転状態では筒内噴射弁を活用して、所要の燃料噴射量を担保できる。なお、この場合の筒内噴射弁による噴射量は、内燃機関の冷間運転に悪影響の無い少量の筒内噴射量の範囲内に設定される。
【0021】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、(9)前記噴き分け噴射量設定手段は、前記内燃機関に装備される過給機の過給圧が予め設定された閾値過給圧より低いときに作動するものであってもよい。このようにすると、例えば過給機の過給圧が高くなって内燃機関の圧縮端温度が上昇し、冷却水温度と気筒内壁面温度との関係が通常範囲内から外れてしまうようなときには、吸気非同期噴射量と吸気同期噴射量との比率を変更したり、吸気非同期噴射および吸気同期噴射への噴き分けを一時中止したりすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ポート噴射弁による吸気通路内への燃料噴射を、吸気非同期噴射と吸気同期噴射とに噴き分ける制御を実行して、吸気通路内に噴射された燃料が壁面に付着し液化しない程度に吸気非同期噴射の燃料量を制限し、吸気弁が遅角制御されても吸気通路内に噴射された燃料が吸気弁周りに付着し難く、燃料が液滴化して気筒内に一気に入るような現象が有効に抑制されるようにしているので、気筒内に入った液状の燃料により排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒内壁面のオイルが希釈されたりすることを防止することができる。その結果、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁を遅角制御する内燃機関において、排気ガス中の粒子状物質の低減および潤滑・冷却用オイルの希釈防止を図り、低燃費および低エミッションを両立させることのできる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る内燃機関とその制御装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の制御装置においてエンジンの冷却水温度に応じた噴き分け噴射量を設定するためのマップを示すグラフで、縦軸が燃料噴射量を、横軸が冷却水温度を示している。
【図4】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の制御装置においてポート噴射の噴き分けが要求される場合の吸気非同期噴射および吸気同期噴射のタイミングの説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の制御装置における概略制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の制御装置においてポート噴射の噴き分けが要求される場合の吸気非同期噴射および吸気同期噴射のタイミングの説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の制御装置における概略制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1〜図5は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関とその制御装置を示している。
【0026】
なお、本実施形態の内燃機関は、自動車(車両)に搭載されるもので、燃費や出力の向上、排気浄化性能等に対する高度な要求に応え得るよう、ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁とを併用するデュアル噴射方式で、かつ、吸気用および排気用の可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing;以下、VVTという)を装備したデュアルVVT方式としたものである。
【0027】
まず、その構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の内燃機関は、火花点火式のV型6気筒(多気筒)の内燃機関であるエンジン10に装備されている。
【0029】
このエンジン10は、詳細を図示しないが、左右一対のバンク11の各気筒11cにピストン12が収納され、燃焼室11dが画成されるとともに、吸気弁13および排気弁14が装着されたものである。また、燃焼室11d内に露出する点火プラグ15aおよびこれを点火させる点火コイル(図示せず)を有するダイレクトイグニッション方式の点火装置15が装備されている。さらに、左右一対のバンク11内の複数のピストン12は、それぞれコンロッド16を介してクランク軸17(詳細図示せず)に連結されており、左右一対のバンク11の各気筒11cの周りにはウォータージャケット11wが形成されている。
【0030】
このエンジン10においては、複数の気筒11cの吸気弁13および排気弁14のバルブタイミングが、公知の吸気側VVT18および排気側VVT19によって、それぞれエンジン10の運転状態に応じた吸気タイミングおよび排気タイミングに可変制御されるようになっており、吸気側VVT18は、後述する制御手段としてのECC(エンジンコントロールコンピュータ)100からの制御信号に基づき、エンジン10の運転状態に応じて、各気筒11cの吸気弁13をその気筒11c内のピストン12の排気上死点(排気行程後期から吸気行程初期に移行する際の上死点)以降に設定された開弁期間中に開弁させる遅開き制御(遅角制御)と、各気筒11cの吸気弁13をその気筒11c内のピストン12の排気上死点前から開弁させる通常制御とを実行できるようになっている。排気側VVT19は、後述するECC100からの制御信号に基づき、例えば冷間時には排気上死点位置で排気弁14を閉弁させ、通常運転時には排気弁14の閉弁タイミングを排気上死点位置より遅角側に設定するようになっている。
【0031】
詳細を図示しないが、一対のバンク11の互いに近接する一方の壁面側には、複数の吸気ポート11aが、一対のバンク11の互いに離間する他方の壁面側には、複数の排気ポート11bがそれぞれ形成されており、一方の壁面側となる一対のバンク11の上端部の間には、一対のバンク11の複数の吸気ポート11aに吸入空気を分配可能な吸気マニホールド25が設けられており、一対のバンク11の他方の壁面側には、複数の排気ポート11bから排出される排気ガスを集合させる排気マニホールド31A,31Bが装着されている。
【0032】
吸気マニホールド25は、エアクリーナ21、吸気管22、電子制御式のスロットル弁23およびサージタンク24等と共に公知の吸気装置20を構成しており、排気マニホールド31A,31Bは、3元触媒等の排気浄化用の第1の触媒コンバータ32A,32B、中間の排気管33A,33B、これら排気管33A,33Bを通過した排気ガスからの排気ガスを集合させる下流側の排気管34、この下流側の排気管34と排気管33A,33Bの間に設けられた第2の触媒コンバータ35A,35B、および、この下流側の排気管34の途中に装着された図示しない排気マフラと共に、公知の排気装置30を構成している。
【0033】
また、複数の吸気ポート11aには、複数の気筒11cに対応するポート噴射用の複数の第1インジェクタ41(ポート噴射弁、低圧燃料噴射弁)が設けられており、これら複数の第1インジェクタ41は、一対の低圧デリバリーパイプ43を介して燃料供給用のフィードポンプ45に接続されている。また、フィードポンプ45は、詳細を図示しないが、燃料タンク46内の燃料、例えばガソリンを汲み上げて第1の燃料圧力レベルで吐出し、吐出チェック弁42a、燃料フィルタ42bおよび燃料通路47を通して一対の低圧デリバリーパイプ43のそれぞれに給送するようになっている。このフィードポンプ45は、後述するECC100からのポンプ制御信号に基づきポンプ駆動回路44を介してON/OFF駆動および回転速度制御されるようになっており、例えばモータ駆動されるそのポンプロータの回転速度を変化させることで吐出流量およびフィード燃料圧力を変化させることができる低圧側の吐出圧可変の燃料ポンプである。なお、このフィードポンプ45を可変ポンプとするのでなく、燃料通路47に接続する可変のプレッシャレギュレータ48の背圧等を電磁弁49(図1中ではフィードポンプ45の吐出ポートおよび可変のプレッシャレギュレータ48の余剰燃料排出ポートに接続する3方弁)によって少なくとも高圧・低圧の2段切替え可能なものにしてフィード圧を制御するようにしてもよい。
【0034】
一方、エンジン10の複数の気筒11cには、それぞれの燃焼室11d内に直接に高圧燃料を噴射する複数の筒内噴射用の第2インジェクタ51(筒内噴射弁、高圧燃料噴射弁)が設けられており、これら第2インジェクタ51は、一対の高圧デリバリーパイプ53および高圧燃料配管54を介して、一方側のバンク11の上部に装着されたプランジャ型の高圧燃料ポンプ55に接続されている。この高圧燃料ポンプ55は、詳細を図示しないが、フィードポンプ45から給送される燃料を導入する加圧室と、その加圧室内の燃料をフィード圧レベルである第1の燃料圧力レベルよりも高圧の第2の燃料圧力レベルに加圧可能なプランジャとを有しており、高圧燃料ポンプ55には、加圧室をフィードポンプ45側の燃料通路47に開放する開弁動作および加圧室をフィードポンプ45側の燃料通路47から遮断する閉弁動作が可能な電磁スピル弁56が装着されている。この電磁スピル弁56は、駆動信号入力時に閉弁して、フィードポンプ45側の燃料通路47に接続する高圧燃料ポンプ55の加圧室の燃料導入口部において高圧の逆流を阻止する逆止弁機能を発揮する一方、駆動信号入力が停止されて開弁するときには、加圧室内の高圧燃料を低圧側に漏出させることができるようになっている。したがって、電磁スピル弁56の閉弁時にプランジャを燃料加圧方向に駆動することで、高圧燃料ポンプ55から一対の高圧デリバリーパイプ53側に第2の燃料圧力レベルに加圧した高圧の燃料を吐出でき、電磁スピル弁56の閉弁時間を制御することで、高圧燃料ポンプ55の吐出流量を制御できるようになっている。
【0035】
上述した第1インジェクタ41、第2インジェクタ51および電磁スピル弁56は、それぞれインジェクタドライバ回路50に接続されており、このインジェクタドライバ回路50を介してECC100により制御されるようになっている。ここで、インジェクタドライバ回路50は、ECC100からの制御信号(インジェクタ駆動信号、燃料噴射要求信号、高圧燃料噴射量信号等)を入力するとき、その制御信号を高電圧・高電流の駆動信号に変換する信号変換回路を有し、第1インジェクタ41、第2インジェクタ51および電磁スピル弁56のうちECC100からの制御信号に対応する制御対象をそれぞれに駆動制御するようになっている。
【0036】
吸気装置20には、吸気温度センサ26、エアフローメータ27、スロットル開度センサ28等のセンサ類が装着されるとともに、レゾネータ29が装着されている。また、排気装置30には、第1の触媒コンバータ32A,32Bより上流側で排気ガス中の空燃比の状態を検出する空燃比センサ36と、第1の触媒コンバータ32A,32Bと第2の触媒コンバータ35A,35Bの間で排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ37とが装着されている。さらに、エンジン10には、ウォータージャケット11wを通る冷却水の温度(エンジンの温度)を検出する水温センサ71と、吸気用および排気用のカム角センサ72,73と、高圧燃料ポンプ55から一対の高圧デリバリーパイプ53に供給される燃料圧力を検出する高圧燃圧センサ74と、クランク軸17の所定回転角度毎の角度位置および回転速度を検出するクランク角センサ(回転数センサ)75と、ノックコントロールセンサ(符号なし)等が装着されている。そして、これらセンサ群からのセンサ情報がECC100に取り込まれるようになっている。また、ECC100には、インジェクタドライバ回路50の他に、点火駆動回路や燃料ポンプ駆動回路、吸気側VVT18および排気側VVT19を制御するオイルコントロールバルブ81,82(オイルの給排制御により作動するVVTを制御する電磁制御弁;以下および図中においてOCVという)に対する駆動回路等が接続されているが、これらの構成は従来と同様であるので、ここでは詳述しない。
【0037】
ECC100は、その詳細なハードウェア構成を図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および不揮発性のバックアップメモリを備えており、さらに、A/D変換器等を含む入力インターフェース回路と、ドライバやリレースイッチを含む出力インターフェース回路と、定電圧回路と、他の車載ECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)との通信インターフェース回路とを含んで構成されている。このECC100は、ROM内に予め格納された複数の制御プログラムに従って、センサ情報あるいは予め設定されROMやバックアップメモリに格納されている設定値情報等に基づき、さらには他の車載ECUと通信を行いながら、例えばエンジン10の運転状態や加速要求等に応じた燃料噴射量を算出し、ポート噴射用の第1インジェクタ41および筒内噴射用の第2インジェクタ51への噴射指令信号や電磁スピル弁56を駆動するためのインジェクタドライバ回路50への指令信号等となる制御信号を適時に出力するようになっており、後述するポート噴射の噴き分け制御を行うための複数の機能を発揮できるように複数のマップ等を含んでいる。
【0038】
図2に示すように、ECC100の入力インターフェース回路には、吸気温度センサ26、エアフローメータ27、スロットル開度センサ28、空燃比センサ36、酸素センサ37、水温センサ71と、吸気用および排気用のカム角センサ72,73、高圧燃圧センサ74、および、クランク角センサ75に加えて、アクセル開度センサ76、イグニッションリレースイッチ77、ECTセレクトスイッチ78等が接続され、ECC100の通信ポート101には、トランスミッションコントロールコンピュータ(TCC)等の他のECU105が接続されている。また、ECC100の出力インターフェース回路には、エンジン10の気筒数(例えば、6)に対応する点火装置15の複数のイグニッションコイル(第1〜第6気筒に)15cと、電子制御式のスロットル弁23の電子制御スロットルモータ23mと、インジェクタドライバ回路50と、各一対の吸気側VVT用OCV81および排気側VVT用OCV82と、ポンプ駆動回路44とが接続されている。
【0039】
このECC100は、電磁スピル弁56による加圧室からの燃料漏出量を調節することで(あるいはさらに高圧燃料ポンプ55の駆動回転数を調節することで)、高圧燃料ポンプ55から高圧デリバリーパイプ53に供給される燃料の圧力をエンジン10の運転状態および筒内噴射用の第2インジェクタ51(図2中の筒内噴射用インジェクタ#1〜6)の噴射特性に応じて最適な燃圧に制御できるようになっている。例えば、ECC100は、所定の信号周期内において電磁スピル弁56の電磁駆動コイルを励磁状態にするON時間とその励磁状態を解くOFF時間とを設定することができ、その信号周期内におけるON時間の比(0%〜100%;以下、デューティ比という)を変化させることにより、電磁スピル弁56による加圧室からの燃料の漏出量を調節することができるようになっている。
【0040】
また、ECC100は、吸気弁13の閉弁タイミングを遅角させる遅閉じ制御によりエンジン10のポンピングロスを低減させ、さらに、ピストン12の排気上死点通過後に吸気弁13を開弁させる遅開き制御を実行することで、タンブル気流(気筒内渦流)を発生させ易い傾斜に設定された特定形状の吸気ポート11aおよび吸気弁13を有する気筒内渦流発生機構60(閉弁時に吸気ポート11aを絞って吸気流速を高めつつ気筒内渦流を発生させる吸気流制御弁、例えばタンブル気流を発生させるタンブルコントロールバルブ(以下、TCVという)でもよい)による気筒内渦流発生作用を高め、エンジン10における燃焼改善を図るようになっている。さらに、ECC100は、冷間時にいわゆるバルブオーバーラップをなくすことで、排気ガスが吸気ポート11aや燃焼室11d内に吹き返す量を抑制したり、吸気弁13の閉弁タイミングをエンジン回転数に応じて遅角させることで、吸入空気の慣性に応じた吸気弁13の閉弁タイミングとして体積効率を向上させたりできるようになっている。ECC100は、このようなバルブタイミング制御を実行するためのマップM1を内蔵している。
【0041】
加えて、ECC100は、ROM内に格納された制御プログラムに従って、エンジン10の始動時に、例えばポート噴射用の第1インジェクタ41(図2中のポート噴射用インジェクタ#1〜6)による燃料噴射を実施させ、高圧燃圧センサ74により検出される高圧デリバリーパイプ53内の燃料圧力が所定の圧力値を超えたときに筒内噴射用の第2インジェクタ51への噴射指令信号の出力を開始するようになっている。
【0042】
また、ECC100は、エンジン10の運転領域を、ポート噴射のみを実行するポート噴射運転領域と、ポート噴射および筒内噴射を併用するミックス噴射運転領域と、筒内噴射のみを実行する筒内噴射運転領域とに区画するマップM2を内蔵しており、例えばエンジン10の始動暖機時や低回転高負荷時にはポート噴射かミックス噴射を実行させるようになっている。
【0043】
さらに、ECC100は、水温センサ71によって検知される冷却水温度(エンジンの温度;吸気ポート11aの内壁温度を表す他の検知情報でもよい)に基づいて、エンジン10の冷間時、すなわちエンジン10の始動時のように冷却水温度が所定温度より低いとき、あるいは定常走行中でも冷却水温度が所定温度より低いときには、ポート噴射用の第1インジェクタ41による吸気ポート11a内への燃料噴射(ポート噴射)を吸気弁13の開弁に先行する吸気非同期噴射期間と吸気弁13の開弁中の吸気同期噴射期間とに分けて、複数回、例えば前後2回のポート噴射として実行させるようになっている。
【0044】
すなわち、ECC100は、吸気弁13の開弁期間外にエンジン10の吸気ポート11a内に燃料を噴射する吸気非同期噴射と吸気弁13の開弁期間中に吸気ポート11a内に燃料を噴射する吸気同期噴射とを実行可能な第1インジェクタ41に対して、要求燃料量のうち吸気非同期噴射による燃料量の割合を変化させるよう噴射条件を制御する制御装置となっており、このECC100は、第1インジェクタ41の非同期噴射を吸気弁13の開弁時期より排気上死点側で終了する吸気非同期噴射期間中に実行させるとともに、要求噴射量のうち第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中に噴射可能な噴射量を超えてしまう未噴射残量の燃料噴射を吸気弁13の開弁時期から始まる吸気同期噴射期間中に実行させる噴き分け制御手段として機能するとともに、吸気非同期噴射期間中の噴射量および未噴射残量をそれぞれエンジン10の温度に応じて設定する噴き分け噴射量設定手段としても機能するようになっている。
【0045】
また、ECC100は、噴き分け噴射量設定手段としての機能により、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中の噴射量を、エンジン10の温度が高いときには多量に、エンジン10の温度が低いときには少量に、それぞれ設定するようになっている。なお、エンジン10の温度が低いときとは、例えばエンジン10の暖機時であり、エンジン10の温度が高いときとは、例えばエンジン10の暖機後の運転中である。
【0046】
具体的には、ECC100は、図3にグラフで示すような噴き分け噴射量の設定マップM3を内蔵しており、エンジン10の冷却水温度あるいは吸気ポート11aの内壁温度が所定温度以下である状態であって、予め設定された各気筒11c内にタンブル(気筒内渦流)が生じ易い状態または/および吸気弁13の遅閉じにより気筒11c内の圧縮端温度が低下してしまう状態であるときに、排気ガス中の粒子状物質の増加および潤滑・冷却用のオイルの希釈といった問題の発生を回避すべく、噴き分け噴射量の設定マップM3を用いて、エンジン10の運転状態に応じた要求噴射量のうち第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中にポート噴射し切れない未噴射残量の少なくとも一部を、吸気弁13の開弁時期から始まる吸気同期噴射期間中に実行される噴き分け噴射量として設定するようになっている。
【0047】
この噴き分け噴射量の設定マップM3は、エンジン10の温度を代表する冷却水温度(水温センサ71の検出温度)に応じ、いわゆるポートウェットを吸収できる限界のポート噴射量(それ以上にポート噴射量を増加すると吸気ポート11a内での燃料の壁面付着および液化が急に進行する状態となるポート噴射量;以下、ポート噴射限界量という)が変化するのに対して、そのポート噴射限界量とそれを上回る要求噴射量との差分を、吸気非同期のポート噴射とは別の燃料噴射、例えば吸気同期のポート噴射に噴き分けるべき未噴射残量(噴き分け噴射量)として設定するもので、ポート噴射限界量が少量となる冷却水温度の低温側ほどその噴き分け噴射量を増加させる設定条件となっている。なお、ここにいう噴き分け噴射量は、図3中に白抜きの双方向矢印で示しており、冷却水温度と他の運転条件に応じた要求噴射量の推移(増減)によっても変化する。また、ポート噴射の噴き分けを実行する場合における吸気非同期噴射期間中の噴射量は、ポート噴射限界量以下の任意の噴射量に設定され得る。
【0048】
噴き分け噴射量の設定マップM3について付言すれば、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中のポート噴射は、吸気弁13の開弁までに吸気ポート11a内の空気と燃料が所要の混合状態となるように、ピストン12が排気上死点に達する時点より一定期間前に実行されるため、冷間始動時等のように吸気ポート11aの壁面温度が低いときには、吸気ポート11a内に噴射された燃料の霧化が進み難くなる。しがたって、図3に点線で示すように、ポート噴射限界量は、一般に、冷却水温度が低いほど少量となり、冷却水温度が暖機後の比較的高い温度になるまでは、冷却水温度が低いほどその低下率が大きく、冷却水温度が暖機後の比較的高い温度になった後は、冷却水温度が上昇してもその上昇率は低下するものとなる。しかし、吸気装置内にターボ過給機が設けられる場合等のような特定の条件下では、図3に示すような条件がくずれ得るので、そのような特定の条件下では、図3に示すマップ以外の噴き分け噴射量の設定マップを用いるか、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中の噴射量と第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間中の噴射量との比率を、予め設定した固定値に保持することができる。
【0049】
噴き分け噴射量設定手段としてのECC100は、また、図4に示すように、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間Taup1の終了時期tp2を、その非同期噴射の対象気筒11c中のピストン12が排気上死点に達する時点(図4中のTDCの位置)に設定する一方で、その吸気非同期噴射期間Taup1の開始時期tp1をその排気上死点より進角側(図4中のTDCより左側)で変化させて、吸気非同期噴射期間Taup1を可変設定するようになっている。さらに、ECC100は、第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2の開始時期tp3を、その同期噴射の対象気筒11cにおける吸気弁13の開弁時期に一致させる一方で、排気上死点より遅角側のその吸気弁13の開弁時期(tp3)よりさらに遅角側となるその吸気同期噴射期間Taup2の終了時期tp4を変化させて、吸気同期噴射期間Taup2を可変設定するようになっている。
【0050】
ここで、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間Taup1の開始時期tp1は、例えば対象気筒11c中のピストン12が圧縮上死点(圧縮行程後期から膨張行程初期に移行する際の上死点)に達する時点を基準としてそれよりクランク角度で400°程度前(B400°CA程度)の時点以降で、かつ、排気上死点(B360°CA)より前の時点に設定される。また、第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2の終了時期tp4は、例えば対象気筒11cの吸気弁13の開弁時期tp3(例えば、遅開き時に排気上死点からクランク角度20°程度だけ遅角した時期(B340°CA程度))より後で、かつ、対象気筒11c中のピストン12が圧縮上死点に達する時点からクランク角度で290°程度前(B290°CA程度)の時点に設定される。この同期噴射期間Taup2の終了時期tp4の遅角側の制限は、未燃炭化水素(HC)の排出量を抑えるものである。
【0051】
なお、本実施形態においては、噴き分け噴射量設定手段としてのECC100は、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間Taup1中の燃料噴射量と第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2中の燃料噴射量との比率を、図3に示したような噴き分け噴射量の設定マップに基づいて可変設定するが、その燃料噴射量との比率を固定値(例えば、吸気非同期噴射量7に対し吸気同期噴射量を3とする7:3の比率、あるいは吸気非同期噴射量5に対し吸気同期噴射量を5とするような1:1の比率)にしてもよい。
【0052】
また、第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2が吸気弁13の遅開きにより短くなり、要求噴射量のうち吸気非同期噴射期間Taup1内で噴射できない未噴射残量の燃料を、吸気同期噴射期間Taup2中に全てポート噴射し切れない場合、その未噴射残量の燃料を、第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2中の噴射量である吸気同期のポート噴射量と、エンジン10の気筒11c内に燃料を噴射することができる第2インジェクタ51による噴射量とに分けて設定するようにしてもよい。ただし、冷却水温度が低い冷間時において、ここにいう未噴射残量の一部の第2インジェクタ51による噴射量以外には、第2インジェクタ51による燃料噴射はほとんどなく、エンジン10の冷間時における気筒内噴射は、噴き分け要求時に少量だけ実行されるものである。
【0053】
ECC100は、また、ポンプ駆動回路44およびフィードポンプ45と共に、エンジン10の温度が予め設定された設定温度より低温であるときには、エンジン10の温度が設定温度以上に高温であるときよりも第1インジェクタ41に供給される燃料の供給圧を高圧に変化させるフィード圧可変手段を構成している。
【0054】
ECC100は、さらに、吸気弁13の開弁時にエンジン10に気筒内渦流を発生させる気筒内渦流発生機構60に対して、エンジン10の温度が予め設定された温度より低温であるとき、その気筒内渦流発生機構60による気筒内渦流の発生を制限する渦流制限手段としても機能するようになっており、そのために冷却時か否かの判定閾値となる冷却水温度とその判定処理プログラムを記憶している。
【0055】
なお、燃料タンク46と吸気管22の間には、燃料タンク46内で発生する蒸発燃料をキャニスタ91に吸着・保持させて、エンジン10の吸気時にキャニスタ91から吸気管22内に放出させることができる公知の蒸発燃料処理装置90が介装されている。この蒸発燃料処理装置90は、キャニスタ91と吸気管22の間のパージ通路92をECC100によりバキュームソレノイド弁93を介して開度調節し、キャニスタ91から吸気管22内に吸引される蒸発燃料のパージ量を調節できるようになっている。
【0056】
次に、その作用について説明する。
【0057】
図5は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の制御装置においてエンジン10の運転中に所定時間毎に実行される噴き分け制御プログラムの概略の処理手順を示している。
【0058】
まず、水温センサ71で検出される冷却水温度thwを含む各種センサ情報と、ECC100によりエンジン10および車両の運転状態に応じて所定時間毎に算出される要求噴射量とが、噴き分け制御手段としてのECC100に取込まれる。
【0059】
次いで、エンジン10の温度を代表する冷却水温度thwが予め設定された冷間時か否かの判定閾値温度T1と比較され、冷却水温度thwが判定閾値温度T1以上であると判定された場合(ステップS12でNO場合)、今回の処理を終了する。
【0060】
一方、冷却水温度thwが判定閾値温度T1未満であると判定された場合(ステップS12でYESの場合)、次いで、吸気側VVT18により吸気弁13の遅閉じ制御(遅角制御)がなされる運転状態か否かが判別される(ステップS13)。
【0061】
本実施形態では、気筒内渦流発生機構60がタンブル気流を生じ易い特定形状の吸気ポート11aを有しており、吸気側VVT18による吸気弁13の遅閉じ制御がなされるときには、吸気弁13が遅開きされることで吸気弁13の開弁時に気筒11c内に流入する吸気の流速が増し、強いタンブル気流が生じ得る。また、吸気弁13の遅閉じによって気筒11c内の圧縮端温度も低下し、気筒11cの内壁温度が低くなり得る。したがって、ポート噴射される燃料が霧化し難く噴射量の増量補正等も実行されるエンジン10の冷間時に吸気側VVT18による吸気弁13の遅閉じ制御がなされると、特に排気ガス中の粒子状物質の増加や潤滑・冷却用のオイルの希釈という問題が生じ易くなる。
【0062】
そこで、このような問題が生じ易い状態であるか否かを上述の2つの判別ステップにより判別して、排気ガス中の粒子状物質の増加や潤滑・冷却用のオイルの希釈が懸念される運転状態であると判別されると(ステップS13でYESの場合)、以下の処理を実行する。
【0063】
まず、ポンプ駆動回路44を介してフィードポンプ45の回転速度を増加させるか、プレッシャレギュレータ48の調圧レベルを高圧側に切り替えるかによって、低圧デリバリーパイプ43へのフィード燃料圧力を高圧化し、第1インジェクタ41によるポート噴射の燃料圧力(ポート噴射燃圧)を高圧化する(ステップS14)。なお、気筒内渦流発生機構60がTCV等を有する場合には、ポート噴射燃圧の高圧化ステップと併せて、気筒内渦流発生機構60により気筒内渦流の発生を抑えるような処理をさらに実行するのが好ましい。
【0064】
次いで、エンジン10の運転状態に応じた要求噴射量と、冷却水温度に応じたポート噴射限界量等に基づいて、ポート噴射の噴き分けが必要であるか否かを判定する(ステップS15)。
【0065】
いま、要求噴射量が比較的少なく、ポート噴射の噴き分けが必要でないと判定されたとすると(ステップS15でNOの場合)、次いで、吸気非同期噴射期間の開始時期および吸気非同期噴射期間が決定される(ステップS17)。
【0066】
一方、要求噴射量が比較的多く、ポート噴射の噴き分けが必要であると判定された場合(ステップS15でYESの場合)には、次いで、噴き分け噴射量の設定マップM3を用いて、エンジン10の運転状態に応じた要求噴射量のうち吸気非同期のポート噴射量と吸気同期のポート噴射量との比率が決定され(ステップS16)、次いで、その吸気非同期噴射期間の開始時期および吸気非同期噴射期間の終了時期がそれぞれ決定される(ステップS18)。
【0067】
ECC100は、このようにして設定された吸気非同期噴射期間の開始時期および吸気非同期噴射期間の終了時期に応じて、各気筒11cの第1インジェクタ41の噴射期間中に燃料噴射を実行できるように、その電磁駆動部またはピエゾ素子(図示せず)に通電し、各気筒11cの第1インジェクタ41からのポート噴射を吸気非同期噴射期間および吸気非同期噴射期間中に実行させる。
【0068】
上述のような噴き分け制御を実行する本実施形態では、ポート噴射弁である第1インジェクタ41による吸気管22内(吸気通路内)への燃料噴射を、吸気非同期噴射と吸気同期噴射とに噴き分け制御することで、吸気管22内に噴射された燃料が吸気管22の内壁面に付着して液化しないように吸気非同期の燃料噴射量を減量できることになり、吸気弁13が遅角制御されても、吸気管22内に噴射された燃料が吸気弁13の周りに付着し難くなり、壁面付着した燃料が液滴化して気筒11c内に入るような現象が有効に抑制されることになる。したがって、気筒11c内に入った液状の燃料により排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒11cの内壁面のオイルが希釈されたりすることが防止されることになり、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁13を遅角制御するエンジン10において、その排気ガス中の粒子状物質の低減と潤滑・冷却用オイルの希釈防止とを図ることができる。
【0069】
また、噴き分け噴射量設定手段としてのECC100が、ポート噴射弁である第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中の噴射量を、エンジン10の温度が高いときには多量に、エンジン10の温度が低いときには少量に、それぞれ設定するので、エンジン10の温度が高く燃料が蒸発し易いか、逆にエンジン10の温度が低く燃料が蒸発し難いかによって、吸気非同期噴射期間Taup1中の燃料噴射量が増・減調節されることになり、吸気管22内に噴射された燃料が吸気弁13の周り等の壁面に付着し難くなる。
【0070】
さらに、フィード圧可変手段としてのECC100およびポンプ駆動回路44が、エンジン10の温度が予め設定された設定温度より低温であるとき、その温度が設定温度以上に高温であるときよりも、第1インジェクタ41に供給される燃料の供給圧、すなわちフィード燃料圧力を高圧に変化させるようにしているので、吸気非同期噴射期間中の燃料噴射量が減量されることに加えて燃料噴射圧力が高めることになり、燃料の霧化が助長されることになる。
【0071】
また、噴き分け噴射量設定手段としてのECC100は、吸気非同期噴射期間Taup1をエンジン10の排気上死点より進角側で非同期噴射開始時期を変化させて可変設定するとともに、吸気同期噴射期間Taup2を排気上死点より遅角側で同期噴射終了時期を変化させて可変設定するので、吸気非同期噴射期間Taup1中にポート噴射される燃料のすべてについて所要の霧化時間が確保されることになる。
【0072】
加えて、本実施形態では、渦流制限手段としてのECC100によって、吸気弁13の開弁時にエンジン10に気筒内渦流を発生させる気筒内渦流発生機構60と、エンジン10の冷却水温度が予め設定された温度より低温であるとき、気筒内渦流発生機構60による気筒内渦流の発生が制限されるので、タンブル気流等の気筒内渦流の生成によって燃焼改善を図るとともに、気筒内渦流が好ましくない冷間時には気筒内渦流の生成を中止することができ、吸気弁13の遅閉じ制御によりポンピングロスの低減を図るとともに、適時の吸気弁13の遅開き制御によりタンブル気流等の気筒内渦流の作用を高めて燃焼改善を図ることができる。
【0073】
また、噴き分け噴射量の設定マップM3を用いて第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間Taup1中の噴射量と第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2中の噴射量との比率を可変設定するので、きめ細かな噴き分け噴射量の設定が可能になる。勿論、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間Taup1中の噴射量と第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2中の噴射量との比率を固定値に保持するようにして、噴き分け噴射量の設定を容易にすることもできる。
【0074】
このように、本実施形態の内燃機関の制御装置によれば、第1インジェクタ41による吸気通路内への燃料噴射を、吸気非同期噴射と吸気同期噴射とに噴き分ける制御を実行して、吸気通路内に噴射された燃料が壁面に付着し液化しない程度に吸気非同期噴射の燃料量を制限し、吸気弁が遅角制御されても吸気通路内に噴射された燃料が吸気弁13の周りに付着し難く、燃料が液滴化して気筒11c内に一気に入るような現象が有効に抑制されるようにしているので、気筒11c内に入った液状の燃料により排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒11cの内壁面のオイルが希釈されたりすることを防止することができる。その結果、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁13を遅角制御する内燃機関において、排気ガス中の粒子状物質の低減および潤滑・冷却用オイルの希釈防止を図り、低燃費および低エミッションを両立させることのできる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【0075】
(第2実施形態)
図6および図7は、本発明の第2実施形態に係る内燃機関の制御装置を示す図である。
【0076】
なお、本実施形態は、上述の第1実施形態と略同様の全体構成を有しており、制御手段であるECC100の制御プログラムの一部が第1実施形態と相違するものである。したがって、ここでは、第1実施形態と同様の構成については図1〜図5中の対応する構成要素の符号を用い、第1実施形態との相違点について説明する。
【0077】
図6に示すように、本実施形態における内燃機関の制御装置においては、噴き分け噴射量設定手段としてのECC100が、吸気非同期噴射期間Taup1のポート噴射により噴射し切れない未噴射残量分の燃料噴射量を、第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2中の噴射量と、エンジン10の気筒11c内に燃料を噴射することができる筒内噴射用の第2インジェクタ51による噴射期間Taup3中の噴射量と、に分けて設定するようになっている。なお、この場合、第2インジェクタ51による筒内噴射の噴射期間Taup3は、吸気同期または吸気非同期のいずれであってもよいが、第2インジェクタ51による噴射量は、エンジン10の冷間運転に悪影響の無い少量の筒内噴射量の範囲内に設定される。
【0078】
また、噴き分け噴射量設定手段としてのECC100は、エンジン10に過給機(例えば、ターボ過給機)が装備される場合において、その過給機の過給圧が予め設定された閾値過給圧より低いときに、噴き分け制御を実行するようになっている。
【0079】
また、特定の高壁温状態下で、図3に示すマップ以外の噴き分け噴射量の設定マップを用いることができるように、予めの試験により、特定の高壁温状態下での冷却水温度と吸気ポート11aの内壁温度の関係を明らかにし、エンジン10の冷却水温度に応じポート噴射限界量が変化するのに対し、そのポート噴射限界量とそれを上回る要求噴射量との差分について、吸気非同期のポート噴射とは別の燃料噴射、例えば吸気同期のポート噴射に分けるべき未噴射残量(噴き分け噴射量)として設定することのできる他のマップを準備する。この場合、第1インジェクタ41による吸気非同期噴射期間中の噴射量と第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間中の噴射量との比率を、予め設定した固定値に保持するようにしてもよい。
【0080】
なお、ここにいう特定の高壁温状態とは、吸気装置20内にターボ過給機が設けられる場合、その過給圧が所定の過給圧よりも高い高過給圧運転時に、エンジン10の冷却水温度が比較的低温であっても吸気ポート11aの内壁温度が比較的高くなる状態が発生することがあるが、そのような状態をいう。勿論、エンジン10の他の装備によって冷却水温度と吸気ポート11aの内壁温度の関係が通常とは相違し、かつ、吸気ポート11aの内壁温度が比較的高くなるような運転状態が生じる場合において、その運転状態を特定の高壁温状態としてもよい。
【0081】
本実施形態での噴き分け制御においては、図7に示すように、第1実施形態と同様なステップS11〜S18の処理を実行することに加えて、ステップS21〜S24の処理をさらに実行する。
【0082】
すなわち、ステップS15で、要求噴射量が比較的多く、ポート噴射の噴き分けが必要であると判定された場合(ステップS15でYESの場合)に、次いで、特定の高壁温状態か否かが判別される(ステップS21)。
【0083】
そして、特定の高壁温状態であると判別された場合(ステップS21でYESの場合)、噴き分け噴射量の設定マップM3とは異なる他の噴き分け噴射量の設定マップを用い、エンジン10の運転状態に応じた要求噴射量のうち吸気非同期のポート噴射量と吸気同期のポート噴射量との比率が、特定の高壁温状態に応じて決定される(ステップS22)。なお、このとき、併せて、ポンプ駆動回路44を介してフィードポンプ45の回転速度を低下させるか、プレッシャレギュレータ48の調圧レベルを低圧側に切り替えるかによって、低圧デリバリーパイプ43へのフィード燃料圧力を通常圧力に戻し、第1インジェクタ41によるポート噴射の燃料圧力(ポート噴射燃圧)を低圧化してもよい。
【0084】
次いで、前ステップで得られた比率とエンジン10の運転状態に応じた要求噴射量とに基づいて、吸気非同期噴射期間Taup1のポート噴射により噴射し切れない未噴射残量分の燃料噴射量が生じるか否かが判別される(ステップS23)。
【0085】
吸気非同期噴射期間Taup1のポート噴射により噴射し切れない未噴射残量分の燃料噴射量が生じると判別された場合(ステップS23で不足判定の場合)、第1インジェクタ41による吸気同期噴射期間Taup2中の噴射量と、エンジン10の気筒11c内に燃料を噴射することができる筒内噴射用の第2インジェクタ51による噴射期間Taup3中の噴射量とに分けて、それぞれの噴射量が設定される(ステップS24、S18)。
【0086】
そして、ECC100は、設定された吸気非同期噴射期間Taup1の開始時期tp1および吸気同期噴射期間Taup2の終了時期tp4、並びに筒内噴射の実施期間Taup3に応じて、各気筒11cの第1インジェクタ41および第2インジェクタ51により噴射期間Taup1〜3中においてそれぞれ燃料噴射を実行できるように、その電磁駆動部またはピエゾ素子(図示せず)に通電し、各気筒11cの第1インジェクタ41からのポート噴射および第2インジェクタ51からの気筒内噴射を実行させる。
【0087】
本実施形態においても、ポート噴射弁である第1インジェクタ41による吸気管22内(吸気通路内)への燃料噴射を、吸気非同期噴射と吸気同期噴射とに噴き分け制御することで、吸気管22内に噴射された燃料が吸気管22の内壁面に付着して液化しないように吸気非同期の燃料噴射量を減量できることになり、吸気弁13が遅角制御されても、吸気管22内に噴射された燃料が吸気弁13の周りに付着し難くなり、壁面付着した燃料が液滴化して気筒11c内に入るような現象が有効に抑制されることになる。したがって、気筒11c内に入った液状の燃料により排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒11cの内壁面のオイルが希釈されたりすることが防止されることになり、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁13を遅角制御するエンジン10において、その排気ガス中の粒子状物質の低減と潤滑・冷却用オイルの希釈防止とを図ることができる。
【0088】
また、本実施形態では、ポート噴射が好ましい運転状態であって未噴射残量が多くなる場合に、ポート噴射弁による燃料噴射を主に実行しながら、燃料付着が懸念される運転状態では筒内噴射用の第2インジェクタ51を活用して、所要の燃料噴射量を確保することができる。
【0089】
さらに、本実施形態では、過給機の過給圧が予め設定された閾値過給圧より低いときに噴き分け制御を実行するので、例えば、過給機の過給圧が高くなってエンジン10の温度を示す冷却水温度と吸気ポート11aもしくは気筒11cの内壁面温度との関係が通常範囲内から外れてしまうようなときには、吸気非同期噴射量と吸気同期噴射量との比率を通常とは変更するようにマップを切り替えたり、吸気非同期噴射および吸気同期噴射への噴き分けを一時中止したりすることができる。
【0090】
なお、上述の各実施形態では、エンジン10の温度を冷却水温度で代表させたが、吸気ポート11aや気筒11cの内壁温度等のような他の温度検出情報としてもよいし、さらに、直接温度で噴き分け制御の要否を判定するのでなく、暖機運転中か暖機運転後の運転中かといった判別処理を行うものであってもよい。また、気筒内渦流発生機構60は、タンブル気流を発生させ易い傾斜に設定された特定形状の吸気ポート11aおよび吸気弁13を有するものであり、閉弁時に吸気ポート11aを絞って吸気流速を高めつつ気筒内渦流を発生させる吸気流制御弁でもよいとしたが、気筒内渦流を生じさせるための公知の任意の手段であってよいことはいうまでもない。さらに、ポート噴射の噴き分けを前後2回に分けるものとしたが、3回以上にすることも考えられる。ただし、例えば必要な噴射時間を確保しつつ吸気同期噴射を複数回に分けることは、第1インジェクタ41に高度な応答性が要求されることになる。また、特定の高壁温状態は、ターボ過給機を装備する場合に限らず、装備する機器の組合せによって冷却水温度との相関性がくずれて高壁温となる状態があれば、そのような状態であってもよい。
【0091】
以上説明したように、本発明は、ポート噴射弁による吸気通路内への燃料噴射を、吸気非同期噴射と吸気同期噴射に噴き分ける制御を実行し、吸気通路内に噴射された燃料が壁面に付着し液化しない程度に吸気非同期噴射の燃料量を制限して、吸気弁が遅角制御されても吸気通路内に噴射された燃料が吸気弁周りに付着し難く、燃料が液滴化して気筒内に一気に入るような現象が有効に抑制されるようにしているので、気筒内に入った液状の燃料により排気ガス中の粒子状物質を発生させてしまったり気筒内壁面のオイルが希釈されたりすることを防止することができ、その結果、高タンブル気流等の気筒内渦流を生じさせるとともに吸気弁を遅角制御する内燃機関において、排気ガス中の粒子状物質の低減および潤滑・冷却用オイルの希釈防止を図り、低燃費および低エミッションを両立させることのできる内燃機関の制御装置を提供することができるという効果を奏するものであり、ポート噴射用の燃料噴射弁を有する内燃機関において吸気弁を排気上死点以降に開弁させる遅角制御を実行するとともに気筒内渦流を生じさせる内燃機関の制御装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0092】
10 エンジン(内燃機関)
11a 吸気ポート(吸気通路)
11b 排気ポート
11c 気筒
13 吸気弁
18 吸気側VVT(吸気側可変バルブタイミング機構)
22 吸気管(吸気通路)
31A,31B 排気マニホールド
41 第1インジェクタ(ポート噴射弁、低圧燃料噴射弁)
43 低圧デリバリーパイプ
44 ポンプ駆動回路(フィード圧可変手段)
45 フィードポンプ(低圧燃料ポンプ、フィード圧可変手段)
50 インジェクタドライバ回路
51 第2インジェクタ(筒内噴射弁、高圧燃料噴射弁)
53 高圧デリバリーパイプ
55 高圧燃料ポンプ
60 気筒内渦流発生機構
71 水温センサ
74 高圧燃圧センサ
75 クランク角センサ(回転数センサ)
81 吸気側VVT用オイルコントロールバルブ(吸気側VVT用OCV)
82 排気側VVT用オイルコントロールバルブ(排気側VVT用OCV)
100 ECC(エンジンコントロールコンピュータ、噴き分け制御手段、噴き分け噴射量設定手段、フィード圧可変手段、渦流制限手段)
M3 噴き分け噴射量設定用のマップ
Taup1 吸気非同期噴射期間
Taup2 吸気同期噴射期間
Taup3 噴射期間(筒内噴射の実施期間)
tp1 開始時期
tp2 終了時期
tp3 開始時期(吸気弁の開弁時期)
tp4 終了時期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気弁を排気上死点以降に設定された開弁期間中に開弁させる遅角制御を実行するとともに、前記吸気弁の開弁期間外に前記内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する吸気非同期噴射と前記吸気弁の開弁期間中に前記吸気通路内に燃料を噴射する吸気同期噴射とを実行可能なポート噴射弁に対して、要求燃料量のうち前記吸気非同期噴射による燃料量の割合を変化させるよう噴射条件を制御する内燃機関の制御装置であって、
前記ポート噴射弁の前記非同期噴射を前記吸気弁の開弁時期より前記排気上死点側で終了する吸気非同期噴射期間中に実行させるとともに、前記要求噴射量のうち前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量を超える未噴射残量の燃料噴射を前記吸気弁の開弁時期から始まる吸気同期噴射期間中に実行させる噴き分け制御手段と、
前記吸気非同期噴射期間中の噴射量および前記未噴射残量をそれぞれ前記内燃機関の温度に応じて設定する噴き分け噴射量設定手段と、を具備することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記噴き分け噴射量設定手段は、前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量を、前記内燃機関の温度が高いときには多量に、前記内燃機関の温度が低いときには少量に、それぞれ設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の温度が予め設定された設定温度より低温であるとき、該温度が前記設定温度以上に高温であるときよりも、前記ポート噴射弁に供給される燃料の供給圧を高圧に変化させるフィード圧可変手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記噴き分け噴射量設定手段は、前記吸気非同期噴射期間を、前記内燃機関の排気上死点より進角側で非同期噴射開始時期を変化させて可変設定するとともに、前記吸気同期噴射期間を、前記排気上死点より遅角側で同期噴射終了時期を変化させて可変設定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記吸気弁の開弁時に前記内燃機関に気筒内渦流を発生させる気筒内渦流発生機構と、
前記内燃機関の温度が予め設定された温度より低温であるとき、前記気筒内渦流発生機構による前記気筒内渦流の発生を制限する渦流制限手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記噴き分け噴射量設定手段は、前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量と前記ポート噴射弁による前記吸気同期噴射期間中の噴射量との比率を固定値に保持することを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記噴き分け噴射量設定手段は、前記ポート噴射弁による前記吸気非同期噴射期間中の噴射量と前記ポート噴射弁による前記吸気同期噴射期間中の噴射量との比率を可変設定することを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記噴き分け噴射量設定手段は、前記未噴射残量分の燃料噴射量を、前記ポート噴射弁による前記吸気同期噴射期間中の噴射量と、前記内燃機関の気筒内に燃料を噴射することができる筒内噴射弁による噴射量とに分けて設定することを特徴とする請求項1ないし請求項7のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記噴き分け噴射量設定手段は、前記内燃機関に装備される過給機の過給圧が予め設定された閾値過給圧より低いときに作動することを特徴とする請求項1ないし請求項8のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136959(P2012−136959A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288231(P2010−288231)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】