説明

内燃機関の制御装置

【課題】内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間を精度良く把握することが可能な内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明の内燃機関の制御装置は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を行い、該複数の機関運転のそれぞれの機関運転状態における吸入空気量を計測する吸入空気量計測手段と、吸入空気量計測手段により計測された各吸入空気量データに基づいて、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、残留する内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習するバルブオーバーラップ期間学習手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機付き内燃機関において、加速または高出力要求時に吸気弁と排気弁との両方を同時に開弁状態にする、いわゆるバルブオーバーラップを行うようにしたものが公知である。これはすなわち、バルブオーバーラップを行うことによって、過給圧を利用する等して吸入空気を排気側に吹き抜かせ、燃焼室内の残留既燃ガスを掃気して燃焼性及び出力の向上を図ると共に過給タービンへ供給される排気ガス量を増加して過給効果を増加して、出力の向上を図ろうとするものである。
【0003】
また、掃気効果を利用した充填効率向上手法と、過給機による充填効率向上手法とを状況に応じて適切に組み合わせることにより、燃費の向上とトルク増大との両立を図る内燃機関の制御装置の提案もなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−103084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上記のようなバルブオーバーラップ期間を設けることで燃焼室に残留する既燃ガスいわゆる内部EGRの掃気を行う内燃機関においては、バルブオーバーラップ期間が短すぎる場合、多量の内部EGRが残留しトルクの低下をもたらしてしまう場合がある。一方で、バルブオーバーラップ期間が長すぎる場合においては、バルブオーバーラップ期間中の空気の吹き抜け量が過度に多くなり、排気ガス中に酸素が多く含まれることになるために排気系に設けられた排気浄化触媒の劣化や過昇温が生じ易くなり、また、三元触媒を用いている場合には浄化率が低下するためにエミッションの悪化が生じてしまう場合がある。
【0006】
よって、バルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を行う内燃機関においては、バルブオーバーラップ期間と内部EGR量との関係を精度よく把握することが必要となる。そして、内部EGRの掃気効率および新気の充填効率の向上という観点からは、特に、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間を精度よく把握することが重要となる。また、バルブオーバーラップ期間と内部EGR量との関係は、内燃機関を構成する部品のバラツキや経年劣化などによるバラツキにより、各内燃機関ごとに個体差があることが考えられる。
【0007】
本発明は上記のような課題に鑑み、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、吸気弁と排気弁とがともに開いているバルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を行う内燃機関の制御装置において、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間であって上記のような各内燃機関ごとの個体差をも考慮した最小バルブオーバーラップ期間を精度良く把握することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、吸気弁と排気弁とがともに開いているバルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を行う内燃機関の制御装置において、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を行い、該複数の機関運転のそれぞれの機関運転状態における吸入空気量を計測する吸入空気量計測手段と、前記吸入空気量計測手段により計測された各吸入空気量データに基づいて、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習するバルブオーバーラップ期間学習手段とを具備する、内燃機関の制御装置が提供される。
【0009】
バルブオーバーラップ期間が十分にあり、内部EGRを残留させことなく全てを掃気できるバルブオーバーラップ期間領域においては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向は、バルブオーバーラップ期間中における新気の吹き抜け量に影響を受けることになる。一方で、バルブオーバーラップ期間が不十分であり、内部EGRの一部が掃気されずに残留してしまうようなバブルオーバーラップ期間領域においては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向は、バルブオーバーラップ期間中における内部EGRの掃気量に影響を受けるとともに、掃気されずに残留する内部EGRの収縮の影響をも受けることになる。すなわち、内部EGRを残留させことなく全てを掃気できるバルブオーバーラップ期間領域と、内部EGRの一部が掃気されずに残留してしまうようなバルブオーバーラップ期間領域とにおいては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向が異なるものとなる。
【0010】
このことに基づいて、請求項1に記載の本発明では、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習し、内部EGRの掃気効率および新気の充填効率の向上を図ることを可能とする。また、本発明によれば、実際に使用されている内燃機関の機関運転中に最小バルブオーバーラップ期間の学習ができ、内燃機関を構成する部品のバラツキや経年劣化などによるバラツキによって生じうる各内燃機関ごとの個体差をも考慮した最小バルブオーバーラップ期間を精度良く把握することを可能とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、前記内燃機関は、上死点での燃焼室容積を変化させて機械圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を有し、前記吸入空気量計測手段による各吸入空気量の計測は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態であって前記可変圧縮比機構により所定の高機械圧縮比化された低負荷側機関運転状態にて行われる、請求項1に記載の内燃機関の制御装置が提供される。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、前記内燃機関は、上死点での燃焼室容積を変化させて機械圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を有し、前記吸入空気量計測手段は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を異なる2つの機械圧縮比にて行い、各機関運転状態における吸入空気量を計測し、前記バルブオーバーラップ期間学習手段は、前記吸入空気量計測手段により計測された各吸入空気量データに基づいて、バルブオーバーラップ期間が同一である場合の前記異なる2つの機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分を各バルブオーバーラップ期間に対して算出し、バルブオーバーラップ期間の変化に対する該吸入空気量差分の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
各請求項に記載の発明によれば、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、吸気弁と排気弁とがともに開いているバルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を行う内燃機関の制御装置において、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間であって部品間のバラツキや経年劣化によるバラツキなどによる各内燃機関ごとの個体差をも考慮した最小バルブオーバーラップ期間を精度良く把握することを可能とする、という共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】内燃機関の全体図である。
【図2】可変圧縮比機構の分解斜視図である。
【図3】図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
【図4】可変バルブタイミング機構を示す図である。
【図5】吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
【図6】機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
【図7】理論熱効率と膨張比との関係を示す図である。
【図8】通常のサイクルおよび超高膨張比サイクルを説明するための図である。
【図9】吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際における、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向の一実施形態を示す図である。
【図10】内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間を特定する制御の一実施形態を示すフローチャートである。
【図11】バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向の別の一実施形態を示す図である。
【図12】内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間を特定する制御の別の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
【0016】
サージタンク12は吸気ダクト14を介して排気ターボチャージャ15のコンプレッサ15aの出口に連結され、コンプレッサ15aの入口は例えば熱線を用いた吸入空気量検出器16を介してエアクリーナ17に連結される。吸気ダクト14内にはアクチュエータ18によって駆動されるスロットル弁19が配置される。
【0017】
一方、排気ポート10は排気マニホルド20を介して排気ターボチャージャ15の排気タービン15bの入口に連結され、排気タービン15bの出口は排気管21を介して排気浄化触媒を内蔵した触媒コンバータ22に連結される。排気管21内には空燃比センサ23が配置される。
【0018】
一方、図1に示した実施形態では、クランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、また実際の圧縮作用の開始時期を変更するために吸気弁7の閉弁時期を制御可能であり且つ吸気弁7の開弁時期も個別に制御可能な吸気可変バルブタイミング機構Bが設けられており、更に排気弁9の開弁時期及び閉弁時期を個別に制御化能な排気可変バルブタイミング機構Cが設けられている。
【0019】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器16の出力信号および空燃比センサ23の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火プラグ6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ18、可変圧縮比機構A、吸気可変バルブタイミング機構B及び排気可変バルブタイミング機構Cに接続される。
【0020】
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
【0021】
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示されるようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
【0022】
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
【0023】
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)には夫々の状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
【0024】
図3(A)から図3(C)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
【0025】
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられており、これらウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
【0026】
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた吸気可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この吸気可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
【0027】
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
【0028】
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
【0029】
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
【0030】
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って吸気可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
【0031】
図5において実線は吸気可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
【0032】
図1および図4に示される吸気可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
【0033】
また、排気可変バルブタイミング機構Cも、基本的に吸気可変バルブタイミング機構Bと同様の構成を有し、排気弁9の開弁時期と開弁期間とを、即ち排気弁9の開弁時期と閉弁時期とを任意に変更することができる。
【0034】
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
【0035】
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
【0036】
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
【0037】
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
【0038】
次に図7および図8を参照しつつ本実施形態において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本実施形態において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
【0039】
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
【0040】
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
【0041】
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
【0042】
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
【0043】
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
【0044】
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
【0045】
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本実施形態では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
【0046】
次に、本実施形態の火花点火式内燃機関における運転制御全般の一実施形態について概略的に説明する。前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って、機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
【0047】
一方、機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、従って機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
【0048】
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。即ち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。従ってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。
【0049】
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比(上限機械圧縮比)に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時には即ち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると、機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
【0050】
一方、機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
【0051】
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。このとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
【0052】
一方、機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、本実施形態による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。
【0053】
前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
【0054】
ところで、上述したように、過給機付き内燃機関において、加速または高出力要求時に吸気弁と排気弁との両方を同時に開弁状態にする所謂バルブオーバーラップを行うようにしたものがある。これはすなわち、バルブオーバーラップを行うことによって、過給圧を利用する等して吸入空気を排気側に吹き抜かせ、燃焼室内の残留既燃ガスを掃気して燃焼性及び出力の向上を図ると共に過給タービンへ供給される排気ガス量を増加して過給効果を増加して、出力の向上を図ろうとするものである。
【0055】
ところが、バルブオーバーラップ期間を設けることで燃焼室内に残留する既燃ガスいわゆる内部EGRの掃気を行う内燃機関においては、バルブオーバーラップ期間が短すぎる場合、多量の内部EGRが残留しトルクの低下をもたらしてしまう場合がある。一方で、バルブオーバーラップ期間が長すぎる場合においては、バルブオーバーラップ期間中の空気の吹き抜け量が過度に多くなり、排気ガス中に酸素が多く含まれることになるために排気系に設けられた排気浄化触媒の劣化や過昇温が生じ易くなり、また、三元触媒を用いている場合には浄化率が低下するためにエミッションの悪化が生じてしまう場合がある。
【0056】
よって、バルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を行う内燃機関においては、バルブオーバーラップ期間と内部EGR量との関係を精度よく把握することが必要となる。そして、内部EGRの掃気効率および新気の充填効率の向上という観点からは、特に、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間を精度よく把握することが重要となる。また、バルブオーバーラップ期間と内部EGR量との関係は、内燃機関を構成する部品のバラツキや経年劣化によるバラツキにより、内燃機関ごとに個体差があることが考えられる。
【0057】
そこで、本発明の内燃機関の制御装置においては、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に吸気弁と排気弁とがともに開いているバルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を有効に実行することを可能とすべく、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間であって上記のような各内燃機関ごとの個体差をも考慮した最小バルブオーバーラップ期間を精度良く把握しうるように構成された手段を有して構成される。
【0058】
そして、本発明の内燃機関の制御装置においては、吸入空気量がバルブオーバーラップ期間及び内部EGR量に依存し、また、内部EGRが燃焼室内へ供給された吸気と混合する際の温度低下によって収縮することに着眼して、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間を学習するものとする。
【0059】
図9は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際における、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向の一実施形態を示す図である。バルブオーバーラップ期間が十分にあり、内部EGRを残留させことなく全てを掃気できるバルブオーバーラップ期間領域においては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向は、バルブオーバーラップ期間中における新気の吹き抜け量に影響を受けることになる。一方で、バルブオーバーラップ期間が不十分であり、内部EGRの一部が掃気されずに残留してしまうようなバブルオーバーラップ期間領域においては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向は、バルブオーバーラップ期間中における内部EGRの掃気量に影響を受けるとともに、掃気されずに残留する内部EGRの収縮の影響をも受けることになる。すなわち、図9に示されるように、内部EGRを残留させことなく全てを掃気できるバルブオーバーラップ期間領域と、内部EGRの一部が掃気されずに残留してしまうようなバルブオーバーラップ期間領域とにおいては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向が異なるものとなる。
【0060】
このことに基づいて、本発明の制御装置の一実施形態においては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習するバルブオーバーラップ期間学習手段を有して構成される。また、本実施形態においては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定すべく、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を行い、該複数の機関運転のそれぞれの機関運転状態における吸入空気量を計測する吸入空気量計測手段を有して構成される。
【0061】
このような吸入空気量計測手段およびバルブオーバーラップ期間学習手段を有する本発明によれば、実際に使用されている内燃機関の機関運転中に最小バルブオーバーラップ期間の学習ができ、内燃機関を構成する部品のバラツキや経年劣化などによるバラツキによって生じうる各内燃機関ごとの個体差をも考慮した最小バルブオーバーラップ期間を精度良く把握することを可能とし、よって、内部EGRの掃気効率および新気の充填効率の向上を図ることを可能とする。
【0062】
図10は、上記吸入空気量計測手段とバルブオーバーラップ学習手段とを使用して、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間を特定する制御の一実施形態を示すフローチャートである。
【0063】
図10に示される実施形態においては、まず、ステップ101において、内部EGRの掃気を実行すべく、ターボチャージャー(過給機)などを使用して吸気圧が背圧よりも高いような機関運転状態とされる。そして、続くステップ102及びステップ103において、内部EGRが全て掃気され新気が吹き抜けるような大バルブオーバーラップ期間領域と内部EGRの一部が残留してしまうような小バルブオーバーラップ期間領域との各領域において、バルブオーバーラップ(VOL)期間がそれぞれ異なる2状態の機関運転を行い、該2状態の機関運転のそれぞれの機関運転状態における吸入空気量(図9中のa1, a2, b1, b2 を参照)を計測する。そして、続くステップ104及びステップ105において、ステップ102及びステップ103にて計測された各吸入空気量に基づいて、上記各領域におけるバルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向を直線近似し、該直線が交わる交点Dにおけるバルブオーバーラップ期間を、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間として特定する。そして、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習する。
【0064】
尚、上記吸入空気量計測手段による吸入空気量の計測と、上記バルブオーバーラップ期間学習手段による境界バルブオーバーラップ期間の特定とを行う際における機械圧縮比については特に制限はなく、低圧縮比側あるいは高圧縮比側のどちらで行われもよい。しかしながら、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間を、より精度良く学習するためには、バルブオーバーラップ期間が大きく異なる複数の機関運転状態おける吸入空気量計測を行うことが有利となるが、低圧縮比化された高負荷側機関運転状態にて上記吸入空気量計測手段による各吸入空気量計測を行う場合においてバルブオーバーラップ期間を大きく振ると、出力トルクが大きく変化することとなり、ドラビリ上の問題などが生じる虞がある。
【0065】
そこで、本発明の一実施形態においては、ドラビリ上の問題などを考慮して、上記吸入空気量計測手段による各吸入空気量の計測を、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態であって可変圧縮比機構により所定の高機械圧縮比化された低負荷側機関運転状態にて行うものとする。可変圧縮比機構により所定の高機械圧縮比化された低負荷側機関運転状態においては、燃焼限界が高く、バルブオーバーラップ期間を大きく振ることができ、出力トルク変化もスロットルなどで吸入することが可能であるため、ドラビリの悪化を抑制しつつ、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間を、より精度良く学習することを可能とする。
【0066】
また、本発明の制御装置における別の実施形態においては、吸入空気量計測手段が、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を異なる2つの機械圧縮比にて行い、各機関運転状態における吸入空気量を計測する。また、バルブオーバーラップ期間学習手段が、吸入空気量計測手段により計測された各吸入空気量データに基づいて、バルブオーバーラップ期間が同一である場合の上記異なる2つの機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分を各バルブオーバーラップ期間に対して算出し、バルブオーバーラップ期間の変化に対する該吸入空気量差分の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定する。そして、この境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習する。
【0067】
この実施形態においては、吸入空気量がバルブオーバーラップ期間及び内部EGR量に依存し、また、内部EGRが燃焼室内へ供給された吸気と混合する際の温度低下によって収縮することに着眼するとともに、さらに、このような内部EGRの収縮量は機械圧縮比が異なると違いが生じるということに着眼して、内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間を学習するものとする。本実施形態による最小バルブオーバーラップ期間の学習によれば、内部EGRが全て掃気され新気が吹き抜けるようなバルブオーバーラップ期間領域と内部EGRの一部が残留してしまうようなバルブオーバーラップ期間領域との各領域バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向を、脈動影響などで直線近似することに困難があるような場合においても、より精度よく内部EGRの残留率が0%となる最小バルブオーバーラップ期間を学習することを可能とする。
【0068】
図11は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を異なる2つの機械圧縮比にて行い、各機関運転状態における吸入空気量を計測する実施形態における、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向の一実施形態を示す図である。
【0069】
バーラップ期間が同一である場合の異なる2つの機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分は、バルブオーバーラップ期間が十分にあり、内部EGRを残留させことなく全てを掃気できるバルブオーバーラップ期間領域においては、異なる2つの機械圧縮比における燃料室容積の差分に該当することになり、よって、図11に示されるように一定に維持されることになる。一方で、バルブオーバーラップ期間が不十分であり、内部EGRの一部が掃気されずに残留してしまうようなバブルオーバーラップ期間領域においては、上述したように、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向は、バルブオーバーラップ期間中における内部EGRの掃気量に影響を受けるとともに、掃気されずに残留する内部EGRの収縮の影響をも受けることになる。また、掃気されずに残留する内部EGRの収縮量は、機械圧縮比が異なると違いが生じるため、バルブオーバーラップ期間が同一である場合の異なる2つの機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分は一定には維持されないことになる。すなわち、図11に示されるように、内部EGRを残留させことなく全てを掃気できるバルブオーバーラップ期間領域と、内部EGRの一部が掃気されずに残留してしまうようなバルブオーバーラップ期間領域とにおいては、バルブオーバーラップ期間の変化に対する上記吸入空気量差分の変化傾向が異なるものとなる。
【0070】
図12は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を異なる2つの機械圧縮比にて行い、各機関運転状態における吸入空気量を計測する実施形態おいて、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間を特定する制御の一実施形態を示すフローチャートである。
【0071】
図12に示される実施形態においては、まず、ステップ201において、内部EGRの掃気を実行すべく、ターボチャージャ(過給機)などを使用して吸気圧が背圧よりも高いような機関運転状態とする。そして、続くステップ202及びステップ203において、バルブオーバーラップ(VOL)期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を異なる2つの機械圧縮比すなわち第1機械圧縮比(低機械圧縮比側)及び第2機械圧縮比(高機械圧縮比側)にて行い、各機関運転状態における吸入空気量を計測する。そして、続くステップ204及びステップ205において、ステップ202及びステップ203にて計測された各吸入空気量に基づいて、バルブオーバーラップ期間が同一である場合の第1機械圧縮比及び第2機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分E(図11参照)を各バルブオーバーラップ期間に対して算出し、バルブオーバーラップ期間の変化に対する該吸入空気量差分の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定する。より具体的には、バルブオーバーラップ期間を有しない機関運転から所定値づつバルブオーバーラップ期間を大きくするような複数の機関運転を実行し、バルブオーバーラップ期間が同一である場合の第1機械圧縮比及び第2機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分Eが一定に維持されるようになるバルブオーバーラップ期間を、境界バルブオーバーラップ期間を特定する。そして、この境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習する。
【符号の説明】
【0072】
1 クランクケース
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 燃焼室
7 吸気弁
70 吸気弁駆動用カムシャフト
A 可変圧縮比機構
B 吸気可変バルブタイミング機構
C 排気可変バルブタイミング機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、吸気弁と排気弁とがともに開いているバルブオーバーラップ期間を設けることで内部EGRの掃気を行う内燃機関の制御装置において、
吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を行い、該複数の機関運転のそれぞれの機関運転状態における吸入空気量を計測する吸入空気量計測手段と、
前記吸入空気量計測手段により計測された各吸入空気量データに基づいて、バルブオーバーラップ期間の変化に対する吸入空気量の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習するバルブオーバーラップ期間学習手段とを具備する、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、上死点での燃焼室容積を変化させて機械圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を有し、
前記吸入空気量計測手段による各吸入空気量の計測は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態であって前記可変圧縮比機構により所定の高機械圧縮比化された低負荷側機関運転状態にて行われる、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、上死点での燃焼室容積を変化させて機械圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を有し、
前記吸入空気量計測手段は、吸気圧が背圧よりも高い機関運転状態の際に、バルブオーバーラップ期間がそれぞれ異なる複数の機関運転を異なる2つの機械圧縮比にて行い、各機関運転状態における吸入空気量を計測し、
前記バルブオーバーラップ期間学習手段は、前記吸入空気量計測手段により計測された各吸入空気量データに基づいて、バルブオーバーラップ期間が同一である場合の前記異なる2つの機械圧縮比にての機関運転間における吸入空気量差分を各バルブオーバーラップ期間に対して算出し、バルブオーバーラップ期間の変化に対する該吸入空気量差分の変化傾向を導き、該変化傾向が異なる傾向に移行する境界バルブオーバーラップ期間を特定し、該境界バルブオーバーラップ期間を、内部EGRを0%とすることが可能な最小バルブオーバーラップ期間として学習する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−2316(P2013−2316A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132032(P2011−132032)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】