説明

内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置

【課題】内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置において、弁開閉時間の相変位を、弁遊びの変化なしに、かつ弾性的又は液圧式の弁遊び補償を必要とせずに、無段階で回転数および負荷に無関係にできるようにする。
【解決手段】可調整揺動レバ(17)を非調整揺動レバ(27)を介してプッシュロッド(13)に、その非調整揺動レバ(27)をカムの基礎円(19)の方向に可調整揺動レバのローラ(34)の円弧状表面(18)を介して移動できるように各々結合し、非調整揺動レバの片側端(28)に設けた可調整揺動レバの側の面に、円弧状滑り軌道(20)を少なくとも部分的にカムの基礎円に対して同心的ないし同軸的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載の、内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、請求項1の前文に記載の特徴を有する内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置が開示されている。即ちこの弁駆動装置はロッカアームを有し、該アームはその片側端で弁に作用し、反対側端でプッシュロッドにヒンジ結合している。プッシュロッドは調整装置に連動接続されている。特許文献1の調整装置は、各弁の偏心輪上で揺動する揺動レバを有し、該レバは、カム軸のカム上を回転するローラと偏心輪軸とを、偏心輪軸の回転によりカム基礎円上でのローラの位置が変化するように結合している。ローラの位置変化は弁開閉時間を変え、もって、例えばディーゼルエンジンの種々の負荷状態において、有害物質発生量を少なくしかつ燃費を改善すべく、吸排気過程を最適化する。
【0003】
しかし、特許文献1の弁駆動装置は、そこに開示された調整装置による弁開閉時間の変化時に、弁の遊びの変化を十分に補償できないという欠点がある。そのため、特許文献1の弁駆動装置は、偏心輪軸の回転両端位置でしか作動しない。特許文献1の弁駆動装置の場合、その偏心輪の両端位置間では、弁の残留開口或いは拡大した弁遊びが生ずる。このため、エンジンの運転中、ピストンを損傷する恐れなしに、偏心輪をその少なくとも回転片側端位置から回転反対側端位置に変位調整することは簡単にできない。
【0004】
エンジン運転中に全調整範囲にわたり弁遊びの変化なしに、弁開閉時間の相変位が無段階で回転数および負荷に無関係に可能な弁駆動装置を用意すべく、既に特許文献2で、弁遊びを最小に補償するため弾性的ないし液圧式の長さ補償要素を利用することが提案されている。特許文献2に開示の弁駆動装置により、エンジン運転中の、弁開閉時間の無段階で回転数および負荷に無関係な相変位ない調整が可能とされている。
【特許文献1】独国特許出願公開第4330913号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10041466号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、弾性的ないし液圧式の弁遊びの補償を必要とせず、弁遊びの変化なしに、弁開閉時間の相変位が無段階で回転数および負荷に無関係に可能な内燃機関の吸排気弁の新たな弁駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、冒頭に述べた形式の内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置を、請求項1に記載の特徴に従い改善することによって解決される。
【0007】
本発明に従い、可調整揺動レバがその片側端にカムの基礎円上を転がるローラを備え、非調整揺動レバを介してプッシュロッドに、非調整揺動レバがそこに存在する円弧状滑り面でカムの基礎円の方向に可調整揺動レバの円弧状表面を介して変位するように作用し、前記非調整揺動レバがその片側端に可調整揺動レバの側の面に前記円弧状滑り面を有し、該滑り面が少なくとも部分的にカムの基礎円に対し同心的ないし同軸的に円筒セグメント面の形に形成される。
【発明の効果】
【0008】
即ち本発明は、エンジン運転中の弁開閉時間の無段で回転数と負荷に無関係な調整ないし相変位および弁行程調整を、弁遊びの変化なしに可能とし、しかも、弾性的ないし液圧式の長さ補償要素なしで済ませ得る弁駆動装置を提案する。これに伴い、本発明の弁駆動装置は、構造的に単純であり、この結果安価に製造できる。
【0009】
本発明の有利な実施態様を、従属請求項および以下の説明から明らかにする。
【0010】
即ち、弁の閉鎖時、可調整揺動レバの円弧状表面と非調整揺動レバの円弧状滑り面との接触面を、所望通りに変化する弁行程に関係して、偏心輪軸上における偏心輪の調整範囲にわたって配置し、その際弁行程を可調整揺動レバと非調整揺動レバとの相互作用によって変化させる。この関係で、関連する部品の総遊びも、万一の摩耗が最小になるように最適にする。特に上述した接触面の配置の選択により、調整装置による相変位のプッシュロッドの行程運動への影響を調整する。
【0011】
また特に有利な実施態様では、円弧状滑り軌道が配置されている非調整揺動レバの片側端を爪状延長部とし、梃の延長部が可調整揺動レバにおけるローラの円弧状表面を部分的に同心的に包囲するように形成し、もって円弧状表面と円弧状滑り面の接触面を、弁の閉鎖時、カムの基礎円の円周にわたり比較的広く非調整揺動レバにおけるプッシュロッドの支持点から離し、非調整揺動レバの他端を偏心輪軸に直接ヒンジ結合する。この結果、各梃比が、爪状延長部を介しておよびプッシュロッドの支持点からの接触面の押し離しによって、調整装置の相変位がプッシュロッドの行程運動に全く又はほんの僅かしか影響を与えないように調整できるので、偏心輪軸上の偏心輪の調整範囲にわたり弁行程変化は全く変化しないか、或いは最悪の場合でも最小の変化しか生じないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図示の実施例を参照し本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0013】
図1は、内燃機関、特にディーゼルエンジンのシリンダヘッド11と共に本発明に基づく弁駆動装置10を示している。
【0014】
図1の弁駆動装置10はロッカアーム12を備える。該アーム12は片側端で吸排気弁に作用し、反対側端でプッシュロッド13にヒンジ結合している。該ロッド13は、弁開閉時間の相変位調整装置に接続している。弁開閉時間の相変位調整装置は、カム軸と、該軸上に置かれたカム14と、偏心輪軸16と、可調整揺動レバ17とを備える。可調整揺動レバ17は、カム14上を回転する可調整揺動レバ17のローラ34と偏心輪軸16とを、偏心輪軸16の回転によってカム14の基礎円19上におけるローラ34の円弧状表面18の位置が変化し、かくして、変化した開閉時間を得るように結合している。
【0015】
本発明に従い、可調整揺動レバ17はその片側端22にカム14の基礎円19上を転がるローラ34を備え、非調整揺動レバ27を経てプッシュロッド13に作用する。該レバ27は可調整揺動レバ17の側の面に円弧状滑り面20を有し、この面20は少なくとも部分的に、カム14の基礎円19に対し同心又は同軸的に円筒セグメント面の形に形成されている。可調整揺動レバ17はプッシュロッド13に、非調整揺動レバ27がその滑り面20を経てカム14の基礎円19の方向に、可調整揺動レバ17の円弧状表面18を介して変位するよう作用している。また、図1〜3から解るように、可調整揺動レバ17の反対側端23は偏心輪軸16の偏心輪にヒンジ結合している。
【0016】
従って、本発明による弁駆動装置10の場合、カム軸のカム14上を回転するローラ34と偏心輪軸16との結合は可調整揺動レバ17だけで行われている。これは有利な実施例であるが、ローラ34の円弧状表面18と非調整揺動レバ27の円弧状滑り面20との接触面33は、必ずしも非調整揺動レバ27の先端28に形成する必要はなく、上述のように、非調整揺動レバ27の別の個所で接しても勿論かまわない。
【0017】
弁開閉時間の相変位調整装置は、カム軸、偏心輪軸16、可調整揺動レバ17の他に、上述の如く、追加的に非調整揺動レバ27を備える。該レバ27の片側端28は可調整揺動レバ17の片側端22に連動接続され、他端29は偏心輪軸16に固定されている。可調整揺動レバ17と非調整揺動レバ27の結合点は相対移動できる。即ち可調整揺動レバ17は、ローラ34にカム14の基礎円19に対し同軸的な円弧状滑り面18を有する。この面18は円筒セグメント面の形をなしている。非調整揺動レバ27の先端28は滑り軌道18上でカム14の基礎円の方向に、カム軸の基礎円19の中心と非調整揺動レバ27の先端28におけるプッシュロッド13の支持点との間隔が所定の弁行程に関して相変位調整装置の調整範囲にわたり常にほぼ一定に維持すべく移動する。
【0018】
図2と3は、本発明に基づく弁駆動装置10、特に弁駆動装置の弁開閉時間の相変位調整装置を、制御すべき弁が閉じているが正に開き始める位置で示す。それに伴い、偏心輪軸16の回転調整により生ずる種々の位相角により、可調整揺動レバ17と非調整揺動レバ27との接触面33の位置が、揺動レバ17の円弧状表面18に沿って変化する。その際に通常生ずる弁遊びの変化は、本発明で提案した構造(ローラ34がカム基礎円19上を転がるとき、非調整揺動レバ27におけるカム14の基礎円19に対して同軸的な滑り軌道20を転がる)により完全に補償され、この結果エンジン運転中に弁遊びの変化なしに、全調整範囲にわたる弁開閉時間の無段で回転数と負荷に無関係な調整ないし相変位および弁行程調整が可能となる。これは、カム軸への可調整揺動レバ17の接触支持により達成される。即ちこの構造では、偏心輪軸16に対する相対位置の変化が可能となる。非調整揺動レバ27は固定に使われ、偏心輪軸16をプッシュロッド13に結合する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】内燃機関の吸排気弁の本発明に基づく弁駆動装置の斜視図。
【図2】図1における弁開閉時間の相変位調整装置の斜視図。
【図3】弁が閉じられているが正に開放を始める本発明に基づく弁駆動装置の位置における図2の配置構造の部分側面図。
【符号の説明】
【0020】
10 弁駆動装置、11 シリンダヘッド、12 ロッカアーム、13 プッシュロッド、14 カム、16 偏心輪軸、17 可調整揺動レバ、18 円弧状表面、19 カムの基礎円、20 円弧状滑り面、27 非調整揺動レバ、28 片側端、29 反対側端、31 支持点、32 爪状延長部、33 接触面、34 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのロッカアーム(12)を備え、該ロッカアームないし各ロッカアーム(12)の片側端が各々少なくとも1つの吸排気弁に作用し、反対側端が各々プッシュロッド(13)にヒンジ結合され、該プッシュロッドないし各プッシュロッド(13)が弁開閉時間の相変位調整装置に連動接続され、この調整装置がプッシュロッド(13)毎に可調整揺動レバ(17)を有し、該レバ(17)が一方では偏心輪軸(16)と共働し、他方ではカム軸のカム(14)と共働する内燃機関における吸排気弁の弁駆動装置において、
可調整揺動レバ(17)がその片側端(22)にカム(14)の基礎円(19)上を転がるローラ(34)を備え、非調整揺動レバ(27)を介してプッシュロッド(13)に、非調整揺動レバ(27)がそこに存在する円弧状滑り面(20)でカム(14)の基礎円(19)の方向に可調整揺動レバ(17)の円弧状表面(18)を介して変位するように作用し、前記非調整揺動レバ(27)がその片側端(28)に可調整揺動レバ(17)の側の面に前記円弧状滑り面(20)を有し、該滑り面(20)が少なくとも部分的にカム(14)の基礎円(19)に対して同心的ないし同軸的に円筒セグメント面の形に形成されたことを特徴とする弁駆動装置。
【請求項2】
非調整揺動レバ(27)の片側端(28)が爪状延長部としてこの延長部(32)が可調整揺動レバ(17)のローラ(34)の円弧状表面(18)を部分的に同心的に包囲するように形成され、この結果ローラ(34)の滑り面(18)と非調整揺動レバ(27)の滑り軌道(20)との接触面(33)が、弁の閉鎖時、カム(14)の基礎円(19)の円周にわたり比較的広く非調整揺動レバ(27)のプッシュロッド(13)の支持点(31)から押し離され、非調整揺動レバ(27)の他端(29)が偏心輪軸(16)に直接ヒンジ結合されたことを特徴とする請求項1記載の弁駆動装置。
【請求項3】
弁の閉鎖時、可調整揺動レバ(17)の円弧状表面(18)と非調整揺動レバ(27)の円弧状滑り面(20)との接触面(33)が、所望通りに変化する弁行程に関係して、可調整揺動レバ(17)と非調整揺動レバ(27)との相互作用によって変化される偏心輪軸(16)上の偏心輪の調整範囲にわたり配置されたことを特徴とする請求項1又は2記載の弁駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−153008(P2006−153008A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330562(P2005−330562)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(390041520)エムアーエヌ、ベーウントヴエー、デイーゼル、アクチエンゲゼルシヤフト (59)
【氏名又は名称原語表記】MAN B&W DIESEL AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】