説明

内燃機関の排気浄化方法およびその装置

【課題】従来の排気浄化装置は、効率よくNOXの浄化がなされていない場合があり、未反応の還元剤が大気中に排出されてしまう可能性もあった。
【解決手段】内燃機関の排気通路11に組み込まれたNOX触媒14と、排気中のNOXを還元するための還元剤をNOX触媒14よりも上流側の排気通路11内に供給する還元剤供給手段とを具えた本発明による内燃機関の排気浄化装置は、この排気浄化装置の状態に応じて目標NOX浄化率を設定する目標NOX浄化率設定部29と、NOX触媒14を通過した排気中のNOX浄化率を求める実NOX浄化率算出部30と、これら目標NOX浄化率と実NOX浄化率との差に基づいて排気通路11の断面積を変更したり、NOX触媒14に対する排気の流入角度を変更させたりするための排気制御手段とをさらに具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤をNOX触媒よりも上流側の排気通路内に供給するようにした内燃機関の排気浄化方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気に対する環境への影響をできるだけ少なくするため、排気中に含まれる有害成分を捕捉または吸着したり、あるいは無害化する触媒装置を組み込んだ排気浄化装置が知られている。例えば、排気中のNOX、つまり窒素酸化物を無害化するための選択還元触媒、すなわちSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を用いた排気浄化装置においては、SCR触媒よりも上流側の排気通路内に尿素を含む還元剤を連続的に供給している。これにより、SCR触媒を通過する排気中に含まれるNOXを還元処理してこれを無害な状態に分解し、大気中に排出させることができる。
【0003】
このようなSCR触媒(以下、これをNOX触媒と記述する)を用いた排気浄化装置において、NOX触媒によるNOX浄化率の向上を図るため、内燃機関の運転状態に応じてNOX触媒に流入する排気を制御するようにした技術が特許文献1にて提案されている。この特許文献1においては、NOX触媒よりも上流側かつ排気通路に対する還元剤の供給箇所よりも下流側の排気通路を二股に分岐させ、一方に低速用フィンを設けると共に他方に高速用フィンを設けている。そして、内燃機関が低速運転状態にある場合、排気を低速用フィンが配された排気通路に導く一方、内燃機関が高速運転状態にある場合、排気を高速用フィンが配された排気通路に導くようにしている。これにより、内燃機関が低速運転であっても高速運転状態であっても、還元剤をNOX触媒の入口側の全域に均一に分散させた状態で供給することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−127998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているように、NOX触媒に対して還元剤を適切に拡散することができれば、NOX浄化率の向上を見込むことが可能である。しかしながら、NOX浄化率はNOX触媒に対する拡散性のみならず、NOX触媒の温度など、他の要因によっても影響を受ける。また、特許文献1においては、所望のNOX浄化率に対して過剰な拡散性が与えられてしまった場合、背圧が必要以上に掛かってしまったり、逆に背圧は要求を満たすものの、NOX触媒に対する拡散性が不充分で所望のNOX浄化率を得ることが困難となる。この結果、排気管の出口から未反応の還元剤が大気中に排出されてしまう可能性もあった。
【0006】
本発明は、排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤をNOX触媒よりも上流側の排気通路内に供給するに際し、上述した課題を解決することを目的とする。つまり、本発明の目的は、排気浄化装置の状態に応じてNOXの浄化を常に効率のよく行うことができ、しかも大気中に未反応の還元剤を排出するおそれのない内燃機関の排気浄化方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤を内燃機関の排気通路の途中に組み込まれたNOX触媒よりも上流側の排気通路内に供給する内燃機関の排気浄化方法において、前記NOX触媒に流入する排気中のNOXの量を求めるステップと、前記NOX触媒を通過した排気中のNOXの量を求めるステップと、前記NOX触媒に流入する排気中のNOXの量と前記NOX触媒を通過した排気中のNOXの量とに基づいてNOX浄化率を求めるステップと、求められるNOX浄化率に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御するステップとを具えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の第1の形態による内燃機関の排気浄化方法において、NOX触媒を含む排気浄化装置の状態を把握するステップと、この排気浄化装置の状態を把握するステップに基づいて目標NOX浄化率を設定するステップと、設定された目標NOX浄化率と求められるNOX浄化率との差を算出するステップとをさらに具えることができる。また、NOX触媒に流入する排気を制御するステップがこの差に基づいてNOX触媒に流入する排気を制御するものであってよい。この場合、排気浄化装置の状態を把握するステップは、NOX触媒の温度を求めるステップと、排気通路を流れる排気の流量を求めるステップと、NOX触媒の劣化度合いを求めるステップと、NOX触媒に流入する排気中に含まれるNO2の割合を求めるステップとのうちの少なくとも1つのステップを含むことができる。
【0009】
NOX触媒に流入する排気を制御するステップが排気通路の断面積を変更するステップを含むことができる。求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、排気通路の断面積を小さくするのに対し、求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、排気通路の断面積を大きくするものであってよい。
【0010】
あるいは、NOX触媒に流入する排気を制御するステップがNOX触媒に対する排気の流入角度を変更するステップを含むものであってよい。検出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、NOX触媒に対する排気の流入角度を大きくするのに対し、検出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、NOX触媒に対する排気の流入角度を小さくするものであってよい。
【0011】
本発明の第2の形態は、内燃機関の排気通路の途中に組み込まれたNOX触媒と、排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤を前記NOX触媒よりも上流側の前記排気通路内に供給する還元剤供給手段とを具えた内燃機関の排気浄化装置において、NOX触媒を通過した排気中のNOX浄化率を求める浄化率算出手段と、この浄化率算出手段により求められたNOX浄化率に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御するための排気制御手段とをさらに具えたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明においては、浄化率算出手段がNOX触媒を通過した排気中のNOX浄化率を求め、この浄化率算出手段によって求められたNOX浄化率に基づき、排気制御手段がNOX触媒に流入する排気を制御する。
【0013】
本発明の第2の形態による内燃機関の排気浄化装置において、排気浄化装置の状態に応じて目標NOX浄化率を設定するNOX浄化率設定手段をさらに具えることができる。この場合、排気制御手段は、この目標NOX浄化率と浄化率算出手段により算出されたNOX浄化率との差に基づいてNOX触媒に流入する排気を制御するものであってよい。また、排気浄化装置の状態が、NOX触媒の温度と、排気通路を流れる排気の流量と、NOX触媒の劣化度合いと、NOX触媒に流入する排気中に含まれるNO2の割合との少なくとも1つを含むことができる。
【0014】
排気制御手段は、還元剤供給手段による排気通路に対する還元剤の供給位置よりも下流かつNOX触媒よりも上流の排気通路に配されて排気通路の断面積を変更し得る通路絞り部材と、排気通路を横切るようにこの通路絞り部材を駆動するための駆動手段とを有することができる。ここで、浄化率算出手段により算出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、排気制御手段は排気通路の断面積が小さくなるように駆動手段を介して通路絞り部材を駆動する。逆に、浄化率算出手段により算出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、排気制御手段は排気通路の断面積が大きくなるように駆動手段を介して通路絞り部材を駆動するものであってよい。
【0015】
あるいは、排気制御手段は、還元剤供給手段による排気通路に対する還元剤の供給位置よりも下流かつNOX触媒よりも上流の排気通路に配されて排気通路の軸線に対して傾斜し得るフィンと、このフィンの傾斜角を変更してNOX触媒に対する排気の流入角度を変更させるための駆動手段とを有することができる。ここで、浄化率算出手段により算出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、排気制御手段はフィンの傾斜角が小さくなるように駆動手段を介してフィンを駆動する。逆に、浄化率算出手段により算出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、排気制御手段はフィンの傾斜角が大きくなるように駆動手段を介してフィンを駆動するものであってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の内燃機関の排気浄化方法によると、NOX触媒に流入する排気中のNOXの量とNOX触媒を通過した排気中のNOXの量とに基づいてNOX浄化率を求め、これに基づいてNOX触媒に流入する排気を制御するようにしたので、NOX触媒の能力を最大限に発揮させた状態で排気中に含まれるNOXを効率よく還元することができる。しかも、NOX触媒を通過した後の排気中に還元剤が残留してしまうような不具合も未然に防止することができる。
【0017】
NOX触媒を含む排気浄化装置の状態を把握して目標NOX浄化率を設定し、この目標NOX浄化率と実際のNOX浄化率との差に基づいてNOX触媒に流入する排気を制御するようにした場合、排気中に含まれるNOXをさらに効率よく還元することができる。
【0018】
排気浄化装置の状態を把握するステップが、NOX触媒の温度を求めるステップと、排気通路を流れる排気の流量を求めるステップと、NOX触媒の劣化度合いを求めるステップと、NOX触媒に流入する排気中に含まれるNO2の割合を求めるステップとのうちの少なくとも1つのステップを含む場合、信頼性の高い目標NOX浄化率を設定することができる。
【0019】
NOX触媒に流入する排気を制御するステップが排気通路の断面積を変更するステップを含み、求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、排気通路の断面積を小さくするのに対し、求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、排気通路の断面積を大きくすることにより、排気中に含まれるNOXをより一層効率よく還元することができる。
【0020】
NOX触媒に流入する排気を制御するステップがNOX触媒に対する排気の流入角度を変更するステップを含み、検出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、NOX触媒に対する排気の流入角度を大きくするのに対し、検出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、NOX触媒に対する排気の流入角度を小さくすることにより、排気中に含まれるNOXをより一層効率よく還元することができる。
【0021】
本発明の内燃機関の排気浄化装置によると、NOX触媒を通過した排気中のNOX浄化率を求める浄化率算出手段と、この浄化率算出手段により求められたNOX浄化率に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御するための排気制御手段とを具えているので、NOX触媒の能力を最大限に発揮させた状態で排気中に含まれるNOXを効率よく還元することができる。しかも、NOX触媒を通過した後の排気中に還元剤が残留してしまうような不具合も未然に防止することができる。
【0022】
排気浄化装置の状態に応じて目標NOX浄化率を設定するNOX浄化率設定手段をさらに具え、排気制御手段がこの目標NOX浄化率と浄化率算出手段により算出されたNOX浄化率との差に基づいてNOX触媒に流入する排気を制御する場合、排気中に含まれるNOXをさらに効率よく還元することができる。特に、排気浄化装置の状態がNOX触媒の温度と、排気通路を流れる排気の流量と、NOX触媒の劣化度合いと、NOX触媒に流入する排気中に含まれるNO2の割合との少なくとも1つを含む場合、信頼性の高い目標NOX浄化率を設定することができる。
【0023】
還元剤供給手段による排気通路に対する還元剤の供給位置よりも下流かつNOX触媒よりも上流の排気通路に配されて排気通路の断面積を変更し得る通路絞り部材と、排気通路を横切るようにこの通路絞り部材を駆動するための駆動手段とを排気制御手段が有する場合、排気中に含まれるNOXをより一層効率よく還元することができる。
【0024】
還元剤供給手段による排気通路に対する還元剤の供給位置よりも下流かつNOX触媒よりも上流の排気通路に配されて排気通路の軸線に対して傾斜し得るフィンと、このフィンの傾斜角を変更してNOX触媒に対する排気の流入角度を変更させるための駆動手段とを排気制御手段が有する場合、排気中に含まれるNOXをより一層効率よく還元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による内燃機関の排気浄化装置の一実施形態を模式的に表す概念図である。
【図2】図1に示した実施形態におけるNOX触媒の部分の概略構造を模式的に表す断面図である。
【図3】図1に示した実施形態における制御ブロック図である。
【図4】吸入空気量と通路絞り開口面積との関係を表すマップである。
【図5】排気温と通路絞り開口面積との関係を表すマップである。
【図6】吸入空気量と目標NOX浄化率との関係を表すマップである。
【図7】NOX触媒の温度と目標NOX浄化率との関係を表すマップである。
【図8】NOX触媒に流入する排気中のNO2濃度と目標NOX浄化率との関係を表すマップである。
【図9】NOX触媒劣化割合と目標NOX浄化率との関係を表すマップとである。
【図10】排気温と吸入空気量とNO2濃度との関係を表すマップである。
【図11】図1に示した実施形態において、通路絞りを駆動制御するための手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による内燃機関の排気浄化装置の一実施形態について、図1〜図11を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤をNOX触媒よりも上流側の排気通路内に供給するようにした排気浄化装置を含むものでありさえすれば、必要に応じて任意に変更し得るものである。
【0027】
本実施形態における排気系の概念を図1に示し、その主要部を図2に抽出拡大して模式的に示し、この排気系における制御ブロックを図3に示す。火花点火方式の内燃機関または圧縮点火方式の内燃機関の図示しない排気ポートに連通する排気管10は、この排気ポートと共に排気通路11を画成して内燃機関にて発生する排気をその末端から大気中に放出する。この排気管10には、酸化触媒12と、DPF(Diesel Particulate Filter)13と、NOX触媒14と、消音器15とが排気通路11の上流側、つまり排気管10の基端側から順に間隔をあけて設けられている。酸化触媒12は、主として排気中に含まれる未燃ガスを酸化、つまり燃焼させるためのものであり、DPF13は、排気中に含まれる粒子を捕捉するためのものである。また、NOX触媒14は本発明における還元剤としての尿素水を用いて排気中のNOX成分を還元させ、これを無害化させるためのものである。なお、このNOX触媒14にてNOXと反応せずにNOX触媒14を通過した尿素水中のNH3を酸化させるためのNH3酸化触媒16をNOX触媒14の直後に組み込むことも可能である。
【0028】
DPF13とNOX触媒14との間の排気管10の途中には、排気通路11内を流れる排気中に尿素水を添加するための尿素添加弁17が本発明における還元剤供給手段の一部として設けられている。つまり、この尿素添加弁17から排気通路11内に供給される尿素水は、NOX触媒14にて排気中のNOX成分と反応してこれを窒素ガスと水とに還元する。
【0029】
この尿素添加弁17からの尿素の添加量や添加時期などはECU18に組み込まれた添加弁駆動部19を介して制御される。このため、NOX触媒14には、このNOX触媒14の温度TCを検出してこれをECU18に出力する触媒温度センサー20が付設されている。ECU18の添加弁駆動部19は、このNOX触媒14の温度TCに基づき、触媒温度センサー20によって検出される温度が例えば200℃以上の場合、内燃機関に対する燃料供給量に応じた量の尿素水が排気通路11内に供給されるように、尿素添加弁17の作動を制御する。
【0030】
尿素添加弁17とNOX触媒14との間の排気管10の途中には、排気通路11の断面積を変更し得る通路絞り21が本発明における排気制御手段の通路絞り部材として組み込まれている。つまり、通路絞り21は、尿素添加弁17による排気通路11に対する尿素水の供給位置よりも下流かつNOX触媒14よりも上流の排気通路11の途中に配されている。この通路絞り21には、排気通路11を横切るようにこの通路絞り21を駆動するための通路絞り駆動モーター22が本発明の排気制御手段の駆動手段として熱伝導率の小さな連結機構23を介して連結されている。この通路絞り21は、排気通路11を横切るように移動して排気通路11の断面積(以下、これを通路断面積と記述する)を変更することにより、NOX触媒14に流入する尿素水の排気通路11の長手方向軸線(図1中、左右方向に延在する)に対して直交する面における分布を変更することが可能となる。通路断面積、つまり排気通路11に対する通路絞り21の開度は、ECU18に組み込まれた通路絞り駆動部24を介して通路絞り駆動モーター22により制御される。一般的な傾向として、排気通路11の通路断面積が小さくなるほど、つまり絞り通路21の開度が小さくなるほど、排気と尿素水との混合が促進される結果、後述するNOX浄化率を高めることができる。
【0031】
本実施形態においては、図示しないイグニッションキースイッチをオフ状態に切り換えて内燃機関を停止させる際に、通路絞り21が全開状態となるように通路絞り駆動モーター22を予め駆動し、この全開状態を原点作動位置として通路断面積を制御するようにしている。しかしながら、ステッピングモーターを駆動手段として用いた場合には、このような原点位置の設定を行う必要がなくなることは言うまでもない。また、この通路絞り21の駆動手段として吸気負圧を利用したり、他のアクチュエーターを採用することも可能である。
【0032】
なお、排気通路11内は高温の排気が流れるため、この排気熱に対して通路絞り駆動モーター22を保護する上で、本実施形態のように連結機構23を熱伝導率の小さな材料にて構成することは極めて有効である。また、上述した通路絞り21に代え、排気管10を横切る軸線回りに揺動可能な1枚またはルーバー状をなす複数枚のフィンを尿素添加弁17とNOX触媒14との間の排気通路11に組み込むようにしてもよい。この場合、モーターやアクチュエーターなどの何らかの駆動手段をフィンに連結し、排気通路11の長手方向に沿った軸線に対するフィンの傾斜角を変えるようにすればよい。これにより、NOX触媒14に対する排気の流入角度を変え、NOX触媒14に流入する尿素水の排気通路11の長手方向軸線に対して直交する面における分布を変更することが可能となる。この場合、一般的な傾向として、フィンの傾斜角を大きく設定するほど、つまりNOX触媒14に対する排気の流入角度を傾けるほど、還元剤の分布の均一性が高められて排気と尿素水との混合が促進される結果、後述するNOX浄化率を高めることができる。
【0033】
ECU18は、図示しないCPU,ROM,RAM,A/D変換器および入出力インタフェースなどを含むマイクロコンピュータを含む。このECU18は、排気を最適に制御するため、先の触媒温度センサー20に加え、後述する各種センサー,積算走行距離計25,エアフローメーター26などからの検出信号に基づいて所定の演算処理を行う。そして、予め設定されたプログラムに従って尿素添加弁17および通路絞り駆動モーター22の作動を制御する。より具体的には、本実施形態におけるECU18は、先の添加弁駆動部19と通路絞り駆動部24に加え、運転状態判定部27と、絞り開度設定部28と、目標NOX浄化率設定部29と、実NOX浄化率算出部30と、絞り開度補正部31とをさらに具えている。
【0034】
エアフローメーター26は、吸気通路を画成する図示しない吸気管の途中に取り付けられ、このエアフローメーター26は、吸気通路内を流れる吸気の単位時間あたりの流量を検出してこれをECU18に出力するようになっている。
【0035】
運転状態判定部27は、先の触媒温度センサー20,積算走行距離計25,エアフローメーター26に加え、第1および第2排気温センサー32,33と第1および第2NOXセンサー34,35とからの検出信号に基づいて内燃機関の運転状態を判定する。この判定結果は、添加弁駆動部19と、通路絞り駆動部24と、目標NOX浄化率設定部29と、実NOX浄化率算出部30とに出力される。
【0036】
第1排気温センサー32は、NOX触媒14に流入する直前の排気の温度(以下、これを排気温と記述する)を検出し、第2排気温センサー33は、NOX触媒14を通過した排気温を検出する。ECU18の運転状態判定部27は、これら第1および第2排気温センサー32,33からの検出信号に基づき、制御に用いられる単一の排気温を決定する。より具体的には、第1排気温センサー32によって検出される排気温が通路絞り21の作動に伴って影響を受ける可能性があるため、第2排気温センサー33を併用して第1排気温センサー32による検出排気温を補正するようにしている。従って、第1排気温センサー32を省略し、第2排気温センサー33のみを用いて排気温を検出することも可能である。第1NOXセンサー34は、NOX触媒14に流入する直前の排気中に占めるNOXの割合を検出し、第2NOXセンサー35は、NOX触媒14を通過した排気中に占めるNOXの割合を検出する。これら第1排気温センサー32および第1NOXセンサー34は、DPF13と尿素添加弁17との間の排気管10の途中にそれぞれ取り付けられ、これらからの検出信号がECU18に出力されるようになっている。また、第2排気温センサー33および第2NOXセンサー35は、NOX触媒26と消音器15との間の排気管10の途中にそれぞれ取り付けられ、これらからの検出信号がECU18に出力されるようになっている。
【0037】
絞り開度設定部28には、内燃機関に連通する図示しない吸気通路内を流れる吸気の単位時間あたりの流量(以下、これを吸入空気量と記述する)と通路絞り開口面積とを関係付けた図4に示すようなマップが記憶されている。また、排気温と通路絞り開口面積とを関係付けた図5に示すようなマップも記憶されている。この通路絞り駆動部24は、吸入空気量および排気温に基づいてこれら2つのマップから導かれる単一の通路絞り開口面積を基準通路絞り開口面積として読み出す。そして、後述する絞り開度補正部31からの補正信号を加味し、この基準通路絞り開口面積を必要に応じて補正した後、最終的に決定された通路絞り開口面積に関する情報を通路絞り駆動部24に出力する。通路絞り駆動部24は、絞り開度設定部28からの指令に基づき、通路絞り21が設定された開口面積となるように通路絞り駆動モーター22を駆動する。
【0038】
本実施形態における目標NOX浄化率設定部29は、この排気浄化装置の状態を把握してNOX触媒14により浄化されるべき排気中のNOXの浄化割合を設定する。より具体的には、先の吸入空気量(本明細書においては、排気通路11内を流れる排気の単位時間当たりの流量と同じ意味で吸入空気量を用いている)と、NOX触媒14の温度TCと、NOX触媒14に流入する排気に占める二酸化窒素(NO2)の割合(以下、これをNO2濃度と記述する)と、NOX触媒14の劣化度合いとから目標NOX浄化率ARを設定する。すなわち、目標NOX浄化率設定部29には、吸入空気量と目標NOX浄化率ARとを関係付けた図6に示すようなマップと、NOX触媒14の温度TCと目標NOX浄化率ARとを関係付けた図7に示すようなマップと、NO2濃度と目標NOX浄化率ARとを関係付けた図8に示すようなマップと、積算走行距離と目標NOX浄化率ARとを関係付けた図9に示すようなマップとが記憶されている。目標NOX浄化率設定部29は、これら吸入空気量と、NOX触媒14温度TCと、NO2濃度と、積算走行距離とに基づいてこれら4つのマップから導かれる単一の目標NOX浄化率ARを読み出し、これを絞り開度補正部31に出力する。
【0039】
なお、NO2濃度は、吸入空気量と排気温とに依存し、図10に示すような関係を有しており、図中の破線は低吸入空気量の場合を示し、実線は高吸入空気量の場合を示している。本実施形態における目標NOX浄化率設定部29は、この図10に示すようなマップも記憶しており、このマップからNO2濃度を読み出すようにしている。また、NOX触媒14の劣化度合いは、車両の積算走行距離にほぼ比例するため、本実施形態では積算走行距離計25からの検出信号に基づいてNOX触媒14の劣化度合いを判定しているが、他の周知の判定方法を採用することも当然可能である。また、NO2濃度は、第1および第2NOXセンサー34,35からの検出信号に基づいて先の運転状態判定部27にて算出される。
【0040】
実NOX浄化率算出部30は、NOX触媒14によって実際に浄化される排気中のNOXの浄化割合を算出する。これは第1NOXセンサー34,35によって検出される排気中のNOXの割合と、第2NOXセンサー34,35によって検出される排気中のNOXの割合とから求めることができる。この実NOX浄化率算出部30にて算出された実NOX浄化率Anの情報は、絞り開度補正部31に出力される。
【0041】
なお、吸気系に配される上述したエアフローメーター26に代えて排気通路11内を流れる排気の単位時間あたりの流量を検出するエアフローメーター26を排気系に配し、このエアフローメーター26からの検出信号を利用することも可能である。つまり、本明細書においては、吸入空気量を排気流量と同義語で用いている。また、目標NOX浄化率ARをさらに高精度に設定するため、NOX触媒14に吸着する尿素水の量を検出し、この尿素水の吸着量に基づいて先の目標NOX浄化率ARを補正することも可能である。
【0042】
絞り開度補正部31は、目標NOX浄化率設定部29にて設定された目標NOX浄化率ARと、実NOX浄化率算出部30にて算出された実NOX浄化率Anとを比較する。そして、これが予め設定した閾値、例えばこれらの浄化率が±5%を越えている場合、通路絞り21の開口面積を±5%だけ変更する信号を絞り開度設定部28に出力する。より具体的には、実NOX浄化率Anが目標NOX浄化率ARよりも5%を越えて少ない場合、通路断面積が5%小さくなるように先の基準通路絞り開口面積を補正するための信号を絞り開度設定部28に出力する。逆に、実NOX浄化率Anが目標NOX浄化率ARよりも5%を越えて高い場合、通路断面積が5%大きくなるように先の基準通路絞り開口面積を補正するための信号を絞り開度設定部28に出力する。
【0043】
なお、上述した通路絞り21に代えて前述したフィンを採用した場合、実NOX浄化率Anが目標NOX浄化率ARに満たない場合、フィンの傾斜角が大きくなる、つまりフィンが排気通路11の長手方向軸線に対してより傾斜が強まるようにフィンを駆動する。逆に、実NOX浄化率Anが目標NOX浄化率ARを越えている場合、フィンの傾斜角が小さくなるようにフィンを駆動すればよい。
【0044】
このような本実施形態における通路絞り21の制御手順について図11を参照しつつ説明すると、まずS10のステップにて内燃機関の運転状態が検出され、次いでS11のステップにてNOX触媒14の温度TCが200℃以上であるか否かを判定する。ここで、NOX触媒14の温度TCが200℃未満である、つまり排気通路11内に尿素水が供給されていないと判断した場合には、S10のステップに戻り、NOX触媒14の温度TCが200℃以上となるまでこの処理が繰り返される。S11のステップにてNOX触媒14の温度TCが200℃以上である、つまりNOX触媒14が活性化状態となって排気通路11内に尿素水が供給されていると判断した場合には、S12およびS13のステップに移行する。
【0045】
S12のステップにおいては、基準通路絞り開口面積を絞り開度設定部28にて設定し、S14のステップに移行する。
【0046】
一方、S13のステップにおいては、目標NOX浄化率ARが目標NOX浄化率設定部29にて設定され、実NOX浄化率Anが実NOX浄化率算出部30にて算出される。そして、S15のステップにて目標NOX浄化率ARと実NOX浄化率Anとの差の絶対値が5(%)を越えるか否かを判定する。ここで、目標NOX浄化率ARと実NOX浄化率Anとの差の絶対値が5(%)を越えている、すなわち通路絞り21の開口面積を補正することが好ましいと判断した場合には、S16のステップに移行して開口面積補正量を設定した後、S14のステップに移行する。また、S15のステップにて目標NOX浄化率ARと実NOX浄化率Anとの差の絶対値が5(%)以下である、すなわち通路絞り21の開口面積を補正する必要がないと判断した場合には、そのままS14のステップに移行する。
【0047】
S14のステップでは、S12,S15,S16の各ステップからの情報に基づき、基準通路絞り開口面積の情報と開口面積補正量に関する情報とに基づき、通路絞り駆動モーター22を駆動する。これにより、目標NOX浄化率に対して実NOX浄化率を近づけることができ、NOX触媒14を効率よく作動させることが可能となる。
【0048】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0049】
10 排気管
11 排気通路
12 酸化触媒
13 DPF
14 NOX触媒
15 消音器
16 NH3酸化触媒
17 尿素添加弁
18 ECU
19 添加弁駆動部
20 触媒温度センサー
21 通路絞り
22 通路絞り駆動モーター
23 連結機構
24 通路絞り駆動部
25 積算走行距離計
26 エアフローメーター
27 運転状態判定部
28 絞り開度設定部
29 目標NOX浄化率設定部
30 実NOX浄化率算出部
31 絞り開度補正部
32,33 第1,第2排気温センサー
34,35 第1,第2NOXセンサー
C NOX触媒の温度
R 目標NOX浄化率
n 実NOX浄化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤を内燃機関の排気通路の途中に組み込まれたNOX触媒よりも上流側の排気通路内に供給する内燃機関の排気浄化方法において、
前記NOX触媒に流入する排気中のNOXの量を求めるステップと、
前記NOX触媒を通過した排気中のNOXの量を求めるステップと、
前記NOX触媒に流入する排気中のNOXの量と前記NOX触媒を通過した排気中のNOXの量とに基づいてNOX浄化率を求めるステップと、
求められるNOX浄化率に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御するステップと
を具えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項2】
前記NOX触媒を含む排気浄化装置の状態を把握するステップと、
この排気浄化装置の状態を把握するステップに基づいて目標NOX浄化率を設定するステップと、
設定された目標NOX浄化率と求められるNOX浄化率との差を算出するステップと
をさらに具え、前記NOX触媒に流入する排気を制御するステップは、この差に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項3】
前記排気浄化装置の状態を把握するステップは、前記NOX触媒の温度を求めるステップと、前記排気通路を流れる排気の流量を求めるステップと、前記NOX触媒の劣化度合いを求めるステップと、前記NOX触媒に流入する排気中に含まれるNO2の割合を求めるステップとのうちの少なくとも1つのステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項4】
前記NOX触媒に流入する排気を制御するステップは、前記排気通路の断面積を変更するステップを含み、求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、前記排気通路の断面積を小さくするのに対し、求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、前記排気通路の断面積を大きくすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項5】
前記NOX触媒に流入する排気を制御するステップは、NOX触媒に対する排気の流入角度を変更するステップを含み、検出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、NOX触媒に対する排気の流入角度を大きくするのに対し、検出されたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、NOX触媒に対する排気の流入角度を小さくすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項6】
内燃機関の排気通路の途中に組み込まれたNOX触媒と、排気中に含まれるNOXを還元するための還元剤を前記NOX触媒よりも上流側の前記排気通路内に供給する還元剤供給手段とを具えた内燃機関の排気浄化装置において、
NOX触媒を通過した排気中のNOX浄化率を求める浄化率算出手段と、
この浄化率算出手段により求められたNOX浄化率に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御するための排気制御手段と
をさらに具えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
排気浄化装置の状態に応じて目標NOX浄化率を設定するNOX浄化率設定手段をさらに具え、前記排気制御手段は、この目標NOX浄化率と前記浄化率算出手段により求められたNOX浄化率との差に基づいて前記NOX触媒に流入する排気を制御することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記排気浄化装置の状態が、前記NOX触媒の温度と、前記排気通路を流れる排気の流量と、前記NOX触媒の劣化度合いと、前記NOX触媒に流入する排気中に含まれるNO2の割合との少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
前記排気制御手段は、前記還元剤供給手段による前記排気通路に対する還元剤の供給位置よりも下流かつ前記NOX触媒よりも上流の前記排気通路に配されて前記排気通路の断面積を変更し得る通路絞り部材と、前記排気通路を横切るようにこの通路絞り部材を駆動するための駆動手段とを有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項10】
前記排気制御手段は、前記浄化率算出手段により求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、前記排気通路の断面積が小さくなるように前記駆動手段を介して通路絞り部材を駆動するのに対し、前記浄化率算出手段により求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、前記排気通路の断面積が大きくなるように前記駆動手段を介して通路絞り部材を駆動することを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項11】
排気制御手段は、前記還元剤供給手段による前記排気通路に対する還元剤の供給位置よりも下流かつ前記NOX触媒よりも上流の前記排気通路に配されて排気通路の軸線に対して傾斜し得るフィンと、このフィンの傾斜角を変更してNOX触媒に対する排気の流入角度を変更させるための駆動手段とを有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項12】
排気制御手段は、前記浄化率算出手段により求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率に満たない場合、前記フィンの傾斜角が小さくなるように前記駆動手段を介して前記フィンを駆動するのに対し、前記浄化率算出手段により求められたNOX浄化率が目標NOX浄化率を越えている場合、前記フィンの傾斜角が大きくなるように前記駆動手段を介して前記フィンを駆動することを特徴とする請求項11に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−185372(P2010−185372A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30199(P2009−30199)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】