説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】 排気浄化手段の昇温制御が中断された際の排気浄化手段の温度低下を抑制して再度昇温する際に短時間で昇温できる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】 ディーゼルエンジン1の排気通路11に設けられるDPF17と、ディーゼルエンジン1への吸入空気量を調整するスロットルバルブ25と、DPF17を昇温させるべく吸気絞りやポストあるいは排気行程噴射を行う昇温制御手段と、ディーゼルエンジン1の運転状態に応じてスロットルバルブ25を制御するECU30とを備え、該ECU30は、DPF17の昇温中に昇温制御を中断する際に、吸気絞りによりDPF17を保温すべくスロットルバルブ25を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下単にエンジンと称す)の排気浄化装置に係り、一層詳細には排気系にディーゼルパティキュレートフィルタやNOx吸蔵触媒等を備えた排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質(PM:Particulate Matter:以下単にパティキュレートと称す)等の汚染物質が含まれる。これらの物質による大気汚染を抑制するため、排気ガス還流(以下単にEGRと称す)及びコモンレール式高圧燃料噴射などの燃焼技術、又はディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst:以下単にDOCと称す)、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter:以下単にDPFと称す)、NOx吸蔵触媒(LNT:Lean NOx Trap:以下単にLNTと称す)等による後処理技術が開発されている。
【0003】
しかし、DPFは、パティキュレートの捕集に伴って目詰まりが進行し、排ガス圧力(排圧)が上昇するので、捕集・堆積したパティキュレートを定期的に除去する、所謂強制再生処理が必要である。また、LNTは、燃料中に含まれるS(サルファ,硫黄分)が触媒に付着して触媒へのNOx付着を阻害する等で触媒機能が低下するので、付着・堆積したSを定期的に脱離させる、所謂Sパージが必要である。
【0004】
DPFの再生やLNTのSパージには、高温度場が要求されるので、従来は、燃料噴射時期を遅角させることによるエンジン排気温度の昇温や燃料をポスト又は排気行程噴射することに起因したDOC(DPFの前段に設けられる)へのHC供給による発熱等により、DPFやLNTを昇温していた。
【0005】
【特許文献1】特開2002−4838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した昇温手法にあっては、昇温中に車両減速等でエンジンが通常の制御に戻る(昇温制御が中断される)と、スロットルバルブが全開に制御されるなどで吸入空気量が増えエンジンから排出される排気ガス流量が増えることから、熱の持ち去り量が増えてDOCやLNTの温度が低下するという不具合があった(図6の昇温中の減速によるDOC出口温度の低下を示すグラフ参照)。
【0007】
上述したように、触媒温度が低下すると、触媒の活性が低下し再度HCを供給しても触媒温度は上がらずHCのまま触媒下流に排出されるので排気エミッションが悪化すると共に、低下した温度を再度昇温させるために余分に燃料を消費しなければならないことから燃費面でも不利である。
【0008】
ところで、特許文献1には、エンジンの全運転領域においてDPFに捕集されたパティキュレートを確実に燃焼させられるために、排気ガス温度を所定の温度範囲になるように、ディーゼルエンジンの吸気通路に配設した空気量調節機構を制御する技術が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1においては、車両減速中に関する記載がなく、一般的に減速中は空気量調節機構が全開となるため、上述したように排気ガス流量が増え、熱の持ち去り量が増えてDOCやLNTの温度が低下するという不具合を残存している。また、DOCやLNTの温度低下を防止するためにDOCやLNTをバイパスするバイパス通路を設けることが考えられる。しかしながら、バイパス通路を設けた場合、排気ガス流量の増加をバイパス通路で逃がすものであり、逃がされた排気ガスを改めて浄化させる必要が有る。
【0010】
そこで、本発明の目的は、排気浄化手段の昇温制御が中断された際の排気浄化手段の温度低下を抑制して再度昇温する際に短時間で昇温できる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は以下のように構成される。
(1)内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化手段と、上記内燃機関から排出される排気ガス流量を調整する排気ガス流量調整手段と、上記排気浄化手段を昇温させる昇温制御手段と、上記内燃機関の運転状態に応じて上記排気ガス流量調整手段を制御する第1排気ガス流量制御手段と、上記昇温制御手段の作動中に昇温制御を中断する際に、上記第1排気ガス流量制御手段より排気ガス流量が減少する方向に上記排気ガス流量調整手段を制御する第2排気ガス流量制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
(2)上記昇温制御手段の作動中に上記第1排気ガス流量制御手段より排気ガス流量が減少する方向に上記排気ガス流量調整手段を制御する第3排気ガス流量制御手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
(3)上記第2排気ガス流量制御手段は、上記第3排気ガス流量制御手段より排気ガス流量が減少する方向に上記排気ガス流量調整手段を制御することを特徴とする。
【0014】
(4)上記第2排気ガス流量制御手段にて制御中に、ポストあるいは排気行程噴射を行うことを特徴とする。
【0015】
(5)上記排気ガス流量制御手段は上記内燃機関への吸入空気量を調整するスロットル制御手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
(1)の発明によれば、排気浄化手段の昇温制御が中断された際の排気浄化手段の温度低下を抑制して再度昇温する際に短時間で昇温できる。
【0017】
(2)の発明によれば、昇温中に排気ガス流量を絞ることにより排気浄化手段の昇温を促進させることができる。
【0018】
(3)の発明によれば、昇温中より更に排気ガス流量を絞ることにより排気浄化手段の保温効果が高まる。
【0019】
(4)の発明によれば、トルクが発生しないポストあるいは排気行程噴射を行うことにより、温度の低いガスが排気浄化手段に流入せず排気浄化手段の保温効果が更に高まる。
【0020】
(5)の発明によれば、内燃機関への吸入空気量を絞ることにより排気ガス流量を容易に絞ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
図1は本発明の一実施例を示すディーゼルエンジンの排気浄化装置の概略構成図、図2はポスト噴射制御のフローチャート、図3はスロットルバルブ制御のフローチャート、図4はDPF温度,エンジン回転数,スロットル開度,アクセル開度,保温制御フラグ及び再生制御フラグの関係を示すタイムチャート、図5は保温制御の効果を示すグラフである。
【0023】
図1に示すように、多気筒ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)1はシリンダヘッド2とシリンダブロック3とを有し、シリンダブロック3の各シリンダボア内にはピストン4が往復動自在に収装される。このピストン頂面とシリンダボア壁面とシリンダヘッド下面とで燃焼室5が形成される。
【0024】
シリンダヘッド2には、吸気弁6で開閉される吸気ポート7が形成され、この吸気ポート7には吸気マニホールドを含む吸気通路8が接続される。また、シリンダヘッド2には、排気弁9で開閉される排気ポート10が形成され、この排気ポート10には排気マニホールドを含む排気通路11が接続される。
【0025】
吸気通路8と排気通路11との間には可変容量式ターボチャージャ(以下単にVGTと称す)12が介装され、その加圧された吸気がインタークーラ13で冷却されて燃焼室5に供給されるようになっている。また、インタークーラ13下流の吸気通路8とVGT12上流の排気通路11がEGR通路14で接続され、該EGR通路14に介装したEGRバルブ15によりEGR量が制御されるようになっている。さらに、VGT12下流の排気通路11には、排気ガス流れの上流側から順にDOC(排気浄化手段)16とDPF(排気浄化手段)17とが介装される。
【0026】
また、シリンダヘッド2には、各気筒の燃焼室5内に燃料を直接噴射する電子制御式の燃料噴射弁19が設けられ、この燃料噴射弁19にはコモンレール20から所定の燃圧に制御された高圧燃料が供給されるようになっている。図中21はコモンレール20に図示しない燃料タンクからの燃料を供給する燃料供給ポンプでエンジン1に連動して回転駆動される。
【0027】
上記燃料噴射弁19は電子制御ユニット(以下単にECUと称す)30により駆動制御される。即ち、ECU30には、アクセル開度を検出するセンサからのアクセル開度信号とエンジン回転数(及びクランク角度)を検出するセンサからのエンジン回転数信号が入力し、これらアクセル開度とエンジン回転数に基づいて目標燃料噴射量、目標噴射時期を検索し、これら目標とする燃料噴射量、噴射時期となるように、燃料噴射弁19における電磁弁の開閉時期を決定している。
【0028】
また、上記ECU30には、DPF17の温度を検出するためにDPF17の入口に取り付けた温度センサ22の検出信号が入力される。また、図中25は、上述したEGRバルブ15及びVGT12(ベーン開度)と同様に、ECU30により駆動制御される電子制御式のスロットルバルブ(排気ガス流量調整手段)である。ここでは、排気ガス流量を減少させる方法として吸入空気量を調整するスロットルバルブを用いる。
【0029】
そして、上記ECU30は、車両走行中に、通常モードからDPF17の強制再生を行う強制再生モードへの切り替えを適切なインターバルをとって定期的に行うと共に、強制再生モード下では燃料のポスト噴射(又は排気行程噴射)によってDPF17を昇温させるようになっている(昇温制御手段)。
【0030】
即ち、強制再生モードでは、ピストン4の圧縮上死点(クランク角0°)付近で行われる燃料の主噴射に続いて圧縮上死点より遅く着火しないタイミングでポスト噴射を行うように燃料噴射弁19が駆動制御されるのである。このポスト噴射により排気ガス中に未燃の燃料(HC)が添加されることになり、この未燃の燃料がDPF17前段のDOC16で酸化反応し、その反応熱により触媒床温度が上昇してDPF17内に捕集・堆積したパティキュレートが燃焼、除去されることになる。
【0031】
また、ECU30は、図2のポスト噴射制御のフローチャートと図4のDPF温度,エンジン回転数,スロットル開度,アクセル開度,保温制御フラグ及び再生制御フラグの関係を示すタイムチャートに示すように、昇温(再生)制御時の噴射量と保温制御時の噴射量と通常運転時の噴射量をそれぞれ制御し得るようになっており、昇温(再生)制御時の噴射量でポスト噴射をし(図2のステップP1及びステップP2参照)、車両減速等で昇温(再生)制御を中断した際には保温制御時の噴射量でポスト噴射を行う(図2のステップP3及びステップP4参照)ようになっている。
【0032】
また、ECU30は、図3のスロットルバルブ制御のフローチャートと図4のDPF温度,エンジン回転数,スロットル開度,アクセル開度,保温制御フラグ及び再生制御フラグの関係を示すタイムチャートに示すように、昇温(再生)制御時のスロットルバルブ位置(第3排気ガス流量制御手段)と保温制御時のスロットルバルブ位置(第2排気ガス流量制御手段)と通常運転時のスロットルバルブ位置(第1排気ガス流量制御手段)をそれぞれ制御し得るようになっており、昇温(再生)制御時のスロットルバルブ位置で吸気絞りをして排気ガス流量を減少させ(図3のステップP1及びステップP2参照)、車両減速等で昇温(再生)制御を中断した際には保温制御時のスロットルバルブ位置で吸気絞りを行い更に排気ガス流量を減少させる(図3のステップP3及びステップP4参照)ようになっている。
【0033】
そして、上記各スロットルバルブ位置(開度)には、通常運転時のスロットルバルブ位置(第1排気ガス流量制御手段)>昇温(再生)制御時のスロットルバルブ位置(第3排気ガス流量制御手段)>保温制御時のスロットルバルブ位置(第2排気ガス流量制御手段)の関係が成立している。即ち、排気ガス流量は、第1排気ガス流量制御手段>第3排気ガス流量制御手段>第2排気ガス流量制御手段となる。
【0034】
このようにして本実施例では、DPF17の昇温中に昇温制御を中断する際には、通常運転時より排気ガス流量が減少する方向にスロットルバルブ25の開度が制御されるので、昇温制御時と同様に、保温制御時には吸気絞りによる排気ガス流量の低減が図れ(熱の持ち去り量が低減され)、DPF17の昇温制御が中断された際のDPF17の温度低下を抑制してDPF17の活性温度を良好に保持することができると共に、再度昇温する際に短時間で昇温でき、燃費が向上する(図5の保温制御の効果を示すグラフ参照)。
【0035】
また、上記昇温制御時においても、通常運転時より排気ガス流量が減少する方向にスロットルバルブ25の開度が制御されるので、昇温中の吸気絞りによりDPF17の昇温を促進させることができる。
【0036】
また、上記保温制御時には、昇温制御時より排気ガス流量が減少する方向にスロットルバルブ25の開度が制御されるので、昇温中より更に排気ガス流量を絞ることによりDPF17の保温効果が高まる。
【0037】
また、上記保温制御時には、同保温制御時の噴射量でポストあるいは排気行程噴射が行われるので、トルクが発生しないポストあるいは排気行程噴射を行うことにより、温度の低いガスがDPF17に流入せずDPF17の保温効果が更に高まる。
【0038】
尚、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能であることは言うまでもない。例えば、DOC16をDPF17に一体的に担持させても良い。また、ECU30における通常モードから強制再生モードへの切り替えは、適切なインターバルをとって定期的に行うようにしたが、DPF17の捕集状態を前後の差圧から判断したり、運転履歴から捕集量を推定したりしてモード切り替えを行っても良い。また、保温制御時に吸気絞りとポストあるいは排気行程噴射を併用したが、吸気絞りだけでも良い。また、排気ガス流量調整手段としてスロットルバルブ25を用いて吸入空気量を調整することにより排気ガス流量を調製したが、EGRバルブを用いて排気ガス流量を調製しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例を示すディーゼルエンジンの排気浄化装置の概略構成図である。
【図2】ポスト噴射制御のフローチャートである。
【図3】スロットルバルブ制御のフローチャートである。
【図4】DPF温度,エンジン回転数,スロットル開度,アクセル開度,保温制御フラグ及び再生制御フラグの関係を示すタイムチャートである。
【図5】保温制御の効果を示すグラフである。
【図6】昇温中の減速によるDOC出口温度の低下を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 多気筒ディーゼルエンジン(エンジン)、2 シリンダヘッド、3 シリンダブロック、4 ピストン、5 燃焼室、6 吸気弁、7 吸気ポート、8 吸気通路、9 排気弁、10 排気ポート、11 排気通路、12 可変容量式ターボチャージャ(VGT)、13 インタークーラ、14 EGR通路、15 EGRバルブ、16 ディーゼル酸化触媒(DOC)、17 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、19 燃料噴射弁、20 コモンレール、21 燃料供給ポンプ、22 温度センサ、24 エアーフローセンサ、25 電子制御式のスロットルバルブ、30 電子制御ユニット(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化手段と、
上記内燃機関から排出される排気ガス流量を調整する排気ガス流量調整手段と、
上記排気浄化手段を昇温させる昇温制御手段と、
上記内燃機関の運転状態に応じて上記排気ガス流量調整手段を制御する第1排気ガス流量制御手段と、
上記昇温制御手段の作動中に昇温制御を中断する際に、上記第1排気ガス流量制御手段より排気ガス流量が減少する方向に上記排気ガス流量調整手段を制御する第2排気ガス流量制御手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
上記昇温制御手段の作動中に上記第1排気ガス流量制御手段より排気ガス流量が減少する方向に上記排気ガス流量調整手段を制御する第3排気ガス流量制御手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
上記第2排気ガス流量制御手段は、上記第3排気ガス流量制御手段より排気ガス流量が減少する方向に上記排気ガス流量調整手段を制御することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
上記第2排気ガス流量制御手段にて制御中に、ポストあるいは排気行程噴射を行うことを特徴とする請求項1又は3記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
上記排気ガス流量制御手段は上記内燃機関への吸入空気量を調整するスロットル制御手段であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−152841(P2006−152841A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341439(P2004−341439)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】