説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】パティキュレートフィルタの再生時におけるアンモニアスリップとNOx悪化とを同時に抑制する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に選択還元型NOx触媒が設けられ、その上流側に還元剤が供給される。また排気通路にはパティキュレートフィルタが設けられる。フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、還元剤の供給を停止すると同時にフィルタ昇温制御を開始し、昇温と昇温停止とを繰り返してフィルタを段階的に昇温させる。フィルタ昇温制御開始までの待ち時間が無くなりNOx悪化を抑制できる。またNOx触媒を段階的に昇温でき、1回の昇温当たりの吸着アンモニア排出量を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に係り、特に、排気通路に選択還元型NOx触媒とパティキュレートフィルタを設けた内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジンといった内燃機関の排気通路に、選択還元型NOx触媒を設け、このNOx触媒に上流側から還元剤としての尿素を供給し、尿素から発生するアンモニアで排気ガスに含まれるNOxを選択的に還元するようにした排気浄化装置が公知である。
【0003】
この選択還元型NOx触媒は、アンモニアを所定限度内において吸着するというアンモニア吸着能を有しており、このアンモニア吸着能は触媒温度が高温であるほど低いという特性を有する。一方、NOx触媒からアンモニアが排出される所謂アンモニアスリップが生じると、異臭等の原因となるため、これを極力防止する必要がある。
【0004】
ところで、内燃機関の排気通路に、排気ガスに含まれる煤等のパティキュレート(PM)を除去するパティキュレートフィルタが併せて設置される場合がある。この場合、フィルタに堆積したPMを燃焼除去し、フィルタを再生するため、フィルタを昇温させる場合がある。
【0005】
パティキュレートフィルタを昇温させたときにNOx触媒の温度も上昇する場合がある。NOx触媒の温度が急激に上昇すると、NOx触媒に吸着されていたアンモニアがNOx触媒から脱離して下流側に排出される虞がある。
【0006】
こうしたアンモニアスリップを抑制するため、特許文献1では、フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、選択還元型NOx触媒への尿素供給を停止すると共に、この停止時点から所定期間が経過してからフィルタ昇温制御を実行している。こうすると、尿素供給停止時点からフィルタ昇温制御開始時点までの所定期間の間に排気中のNOxでNOx触媒の吸着アンモニアを反応消費することができ、その後、吸着アンモニアの量が少なくなった時点でフィルタ昇温制御を開始するので、吸着アンモニアの脱離排出量を低減し、アンモニアスリップを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−255905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術のように、フィルタ昇温制御を開始するまでの待ち時間を設けると、この待ち時間の間、NOxが悪化する。すなわち、待ち時間の間は排気中のNOxでNOx触媒の吸着アンモニアを反応消費するが、吸着アンモニア量が減少するにつれ、NOx触媒のNOx浄化率は低下していく。よって、待ち時間の間は必ずしも排気中のNOxを十分に浄化しているとは言えず、この間に大気に放出されるNOxの量は増大してしまう。
【0009】
その一方で、待ち時間を設けずに直ちにフィルタ昇温制御を開始すると、前述したようなアンモニアスリップが発生する。このように、アンモニアスリップとNOx悪化とは互いに背反する問題となっている。
【0010】
そこで、本発明は上記事情に鑑みて創案され、その一の目的は、パティキュレートフィルタの再生時におけるアンモニアスリップとNOx悪化とを同時に抑制することができる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一の形態によれば、
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元型NOx触媒と、
前記NOx触媒の上流側に還元剤としての尿素またはアンモニアを供給する還元剤供給手段と、
前記排気通路に設けられたパティキュレートフィルタと、
該パティキュレートフィルタを昇温させるフィルタ昇温制御を実行するフィルタ昇温手段と、
を備え、
前記フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、前記還元剤供給手段による還元剤の供給を停止すると同時に前記フィルタ昇温手段による前記フィルタ昇温制御を開始し、該フィルタ昇温制御において、昇温と昇温停止とを繰り返し実行して前記パティキュレートフィルタを段階的に昇温させる
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【0012】
フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、尿素供給停止と同時にフィルタ昇温制御を開始するため、フィルタ昇温制御を開始するまでの待ち時間が無くなり、NOx悪化を抑制できる。
【0013】
また、昇温と昇温停止とを繰り返し実行してパティキュレートフィルタを段階的に昇温させるため、NOx触媒も同様に段階的に昇温される。こうすると、1回の昇温当たりの吸着アンモニアの排出量を許容量以下に制限でき、また昇温停止により全体としての昇温速度を緩やかにして吸着アンモニアの排出量を抑制できる。
【0014】
こうして、パティキュレートフィルタ再生時におけるアンモニアスリップとNOx悪化とを同時に抑制することが可能となる。
【0015】
好ましくは、前記フィルタ昇温手段は、前記NOx触媒が高温になるにつれ1回の昇温量を増大させる。これにより各回の昇温時におけるアンモニア排出量を均等化し、効率的なフィルタ昇温制御が可能になるほか、フィルタ再生に要する時間を短縮することができる。
【0016】
好ましくは、前記フィルタ昇温手段は、1回の昇温開始時点における前記NOx触媒の温度に基づいてNOx触媒温度に関する目標昇温量を設定し、この目標昇温量に実際のNOx触媒温度の昇温量が一致するよう、1回の昇温を実行する。
【0017】
好ましくは、前記フィルタ昇温手段は、前記NOx触媒が高温になるにつれ昇温速度を増大させる。これにより昇温速度をより積極的に律速することが可能となり、昇温速度を一定とする場合に比べ、フィルタ再生に要する時間をより短縮することができる。
【0018】
代替的に、前記フィルタ昇温手段は、前記NOx触媒の温度に拘わらず1回の昇温量を一定としてもよい。これによりシンプルな方法でフィルタ昇温制御を実行可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、パティキュレートフィルタの再生時におけるアンモニアスリップとNOx悪化とを同時に抑制することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関を概略的に示す図である。
【図2】NOx触媒のアンモニア吸着特性と比較例としてのフィルタ昇温制御を示すグラフである。
【図3】NOx触媒のアンモニア吸着特性と本実施形態のフィルタ昇温制御を示すグラフである。
【図4】フィルタ昇温制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
図1に、本発明の実施形態に係る内燃機関を概略的に示す。1は自動車用の圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであり、2は吸気ポートに連通されている吸気マニフォルド、3は排気ポートに連通されている排気マニフォルド、4は燃焼室である。本実施形態では、不図示の燃料タンクから高圧ポンプ5に供給された燃料が、高圧ポンプ5によりコモンレール6に圧送されて高圧状態で蓄圧され、このコモンレール6内の高圧燃料がインジェクタ7から燃焼室4内に直接噴射供給される。
【0023】
エンジン1からの排気ガスは、排気マニフォルド3からターボチャージャ8を経た後にその下流の排気通路9に流され、後述のように浄化処理された後、大気に排出される。なお、ディーゼルエンジンの形態としてはこのようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたものに限らない。またEGR装置などの他の排気浄化デバイスを含むことも任意である。
【0024】
他方、エアクリーナ10から吸気通路11内に導入された吸入空気は、エアフローメータ12、ターボチャージャ8、インタークーラ13、スロットルバルブ14を順に通過して吸気マニフォルド2に至る。エアフローメータ22は吸入空気量を検出するためのセンサであり、具体的には吸入空気の流量に応じた信号を出力する。スロットルバルブ14には電子制御式のものが採用されている。
【0025】
排気通路9には、上流側から順に、排気ガス中の未燃成分(特にHC)を酸化して浄化する酸化触媒20と、排気ガス中の煤等のパティキュレート(PM)を捕集するパティキュレートフィルタ(以下、DPFという)22と、排気ガス中のNOxを還元除去する選択還元型NOx触媒(SCR: Selective Catalytic Reduction)24とが直列に設けられている。
【0026】
NOx触媒24は、尿素またはアンモニアからなる還元剤が供給されているときに排気ガス中のNOxを連続的に還元除去するものである。本実施形態では取扱いの容易さから還元剤として尿素水を用いている。またNOx触媒24は、その触媒温度が所定の活性温度域(例えば200〜400℃)にあるときにNOxを還元可能である。
【0027】
NOx触媒24の上流側には、尿素水を供給するための尿素添加弁40が設けられている。尿素添加弁40は、不図示の尿素タンクからポンプを介して尿素水を供給されている。尿素添加弁40は電子制御ユニット(以下ECUと称す)100に接続され、制御される。
【0028】
NOx触媒24に尿素水が供給されると、尿素水が蒸発及び加水分解してアンモニアNHが生成され、このアンモニアNHがNOx触媒内でNOxと反応し、NOxが還元される。この反応を化学式で表すと次のようになる。
NO+NO+2NH→2N+3H
特に、NOx触媒24はアンモニア吸着能を有し、アンモニア吸着成分、例えばゼオライトを含む。NOx触媒24は、例えばゼオライトの基材表面にPtなどの貴金属を担持させて構成されている。
【0029】
他方、DPF22は表面に貴金属を有する。DPF22に対してHCを多く含むリッチな排気ガスが供給されると、このリッチガスが貴金属を介して酸化、燃焼し、同時にDPFに堆積されているPMが燃焼する。これによりDPF22は再生される。
【0030】
NOx触媒24および尿素添加弁40の上流側には、排気ガスの温度を検出するための排気温センサ34と、排気ガスのNOx濃度を検出するためのNOxセンサ36とが設けられている。
【0031】
またDPF22の上流側には、排気ガスの温度を検出するための排気温センサ30が設けられている。以下、排気温センサ30,34をそれぞれ上流排気温センサ30、下流排気温センサ34という。さらに、DPF22の前後の差圧を検出するための差圧センサ32が設けられている。この差圧センサ32はDPF22に捕集されたPM量の検出に用いられる。
【0032】
酸化触媒20の上流側には、排気通路9内に燃料を供給する燃料供給弁60が設けられている。
【0033】
ECU100は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含む。ECU100は、各種センサ類の検出値等に基づいて、所望のエンジン制御が実行されるように、インジェクタ7、高圧ポンプ5、スロットルバルブ14等を制御する。またECU100は、尿素添加量を制御すべく尿素添加弁40を制御し、燃料供給量を制御すべく燃料供給弁60を制御する。ECU100には、センサ類として、前述のエアフローメータ22、NOxセンサ36、上流排気温センサ30、下流排気温センサ34および差圧センサ32が接続される。
【0034】
またECU100には、クランク角センサ15およびアクセル開度センサ16が接続されている。クランク角センサ15はクランク角の回転時にクランクパルス信号をECU100に出力し、ECU100はそのクランクパルス信号に基づきエンジン1のクランク角を検出すると共に、エンジン1の回転速度を計算する。アクセル開度センサ16は、ユーザによって操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じた信号をECU100に出力する。
【0035】
NOx触媒24の温度は、触媒に埋設した温度センサにより直接検出することもできるが、本実施形態ではそれを推定することとしている。具体的には、ECU100が、下流排気温センサ34により検出された排気温度およびエンジン1の運転履歴等に基づき、触媒温度を推定する。なお推定方法はこのような例に限られない。
【0036】
同様に、DPF22の温度も、上流排気温センサ30および下流排気温センサ34によりそれぞれ検出された排気温度に基づき、ECU100により推定される。勿論、DPF22に埋設した温度センサによりその温度を直接検出することも可能である。
【0037】
さて、本実施形態の構成において、NOx触媒24はアンモニアを吸着可能である。そしてNOx触媒24のアンモニア吸着能即ちアンモニア吸着可能量は、図2に線Lで示すようにNOx触媒24の触媒温度に応じて変化し、触媒温度が高温であるほど低下する傾向を呈する。NOx触媒24は、この吸着アンモニアをも利用して排ガス中のNOxを還元する。
【0038】
他方、NOx触媒24における実際のアンモニア吸着量が、吸着可能量Lに対し所定のマージンだけ少ない目標吸着量Tに一致するよう、ECU100により尿素添加量が次の如く制御される。
【0039】
まず、推定触媒温度に基づいて、NOx触媒24のNOx浄化率と目標吸着量とが算出される。次いでNOxセンサ36によって検出されたNOx濃度と、エアフローメータ12により検出された吸入空気量(排ガス流量の代用値)とに基づいて、NOx触媒24に供給される供給NOx量(或いは燃焼室4から排出された排出NOx量)が算出される。その後NOx浄化率と供給NOx量に基づいて、NOx浄化に使用されるアンモニア消費量が算出される。
【0040】
この後、目標吸着量とアンモニア消費量とに基づき、アンモニア添加量が算出される。以上の算出は所定の演算周期毎に逐次的に行われる。目標吸着量をT、アンモニア消費量をA、アンモニア添加量をB、今回値および前回値をそれぞれn,n−1で表すと、アンモニア添加量Bは式:B=T−Tn−1+Aにより算出される。アンモニア添加量Bに相当する量の尿素水が尿素添加弁40から添加される。
【0041】
ここでT−Tn−1は今回吸着されるアンモニアの量を表す。そこでT−Tn−1が逐次的に積算され、その積算値が、今回までに吸着されるアンモニアの量すなわちアンモニア吸着量として求められる。
【0042】
一方、DPF22に関して、DPF22に捕集、堆積されたPMを定期的に燃焼除去し、DPF22を再生する必要がある。このため、DPF22を昇温させるフィルタ昇温制御がECU100により実行される。ここでは比較例としてのフィルタ昇温制御を説明し、本実施形態のフィルタ昇温制御は後に説明する。
【0043】
まず、差圧センサ32の検出値が所定値と比較される。その検出値が所定値未満のときは、PM堆積量が少なくフィルタ昇温制御は不要(すなわち、DPF再生要求無し)と判定され、フィルタ昇温制御は実行されない。他方、その検出値が所定値以上になったときは、PM堆積量が多くフィルタ昇温制御が必要(すなわち、DPF再生要求有り)と判定され、フィルタ昇温制御が実行される。
【0044】
フィルタ昇温制御の実行に際しては、燃料供給弁60から排気通路9に燃料が供給される。するとまず酸化触媒20に、HCを多く含むリッチな排気ガスが供給され、酸化触媒20においてHCが酸化、燃焼され、高温且つリッチな排気ガスが生成される。この高温且つリッチな排気ガスは、次いでDPF22に供給される。するとDPF22に担持された貴金属の作用により、排気ガス中のHCが燃焼してPMが同時に燃焼され、除去される。こうして、フィルタ昇温制御が実行されるとDPF22は昇温されることとなる。
【0045】
なお酸化触媒20を省略し、燃料を直接DPF22で燃焼させてPMを同時に燃焼させるようにしても良い。また燃料供給弁60から別途燃料を供給する方法の他、エンジンの膨張行程や排気行程でインジェクタ7から燃料を噴射する所謂ポスト噴射を行う方法も可能である。
【0046】
ところで、図2を参照して、NOx触媒24に供給される排気ガスの温度は通常は低く、そのためNOx触媒24の温度も通常は図中T1〜T2で示されるような低温域内にある。この低温域は例えば200〜300℃である。
【0047】
他方、前述の比較例としてのフィルタ昇温制御が実行されると、DPF22の温度が急激に上昇する結果、DPF22から排出されNOx触媒24に供給される排気ガスの温度が急激に上昇し、NOx触媒24自身の温度も急激に上昇する。そのため、NOx触媒24の温度は、図中T3以上の高温域に達することがある。この高温域は例えば600℃以上である。
【0048】
一方、前述したように、NOx触媒24のアンモニア吸着量は目標吸着量Tとなるように制御されている。そしてNOx触媒24の温度が通常の低温域T1〜T2内にある状態で、比較例としてのフィルタ昇温制御が実行されると、図中aで示すようにNOx触媒24の温度が急激に高温域まで上昇するため、実際のアンモニア吸着量と吸着可能量Lとの差bに等しい、許容量を超えるアンモニアがNOx触媒24から脱離排出されてしまう。
【0049】
一方、前述したように、特許文献1の如くフィルタ昇温制御を開始するまでの待ち時間を設けると、この待ち時間の間、NOx触媒24のNOx浄化率が低下するため、NOxが悪化する。このようにアンモニアスリップとNOx悪化とは互いに背反する問題である。
【0050】
そこで、DPF再生時におけるアンモニアスリップとNOx悪化とを同時に抑制するため、本実施形態では、フィルタ昇温制御実行時にDPF温度を一度に昇温させるのではなく、DPF温度を段階的に昇温させる。より詳細には、フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、尿素添加弁40による尿素の供給を停止すると同時にフィルタ昇温制御を開始する。そしてフィルタ昇温制御において、昇温と昇温停止とを繰り返し実行してDPF22を段階的に昇温させる。
【0051】
フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、尿素供給停止と同時にフィルタ昇温制御を開始するため、フィルタ昇温制御を開始するまでの待ち時間が無くなり、NOx悪化が抑制される。
【0052】
また、昇温と昇温停止とを繰り返し実行してDPF22を段階的に昇温させるため、DPF22の下流側のNOx触媒24も同様に段階的に昇温される。
【0053】
例えば図3に示すように、NOx触媒24の温度が通常の低温域T1〜T2内にある状態で、本実施形態に係るフィルタ昇温制御が実行されると、まず図中cで示すように1回目の昇温によりNOx触媒24の温度が少しだけ上昇する。この結果、実際のアンモニア吸着量と吸着可能量Lとの差dに等しい、許容量のアンモニアがNOx触媒24から脱離排出される。
【0054】
この後、1回目の昇温停止が実行される。これによりNOx触媒24の温度が概ね保持され、全体として昇温速度が緩やかになり、NOx触媒24からのアンモニア排出量が抑制される。なおこの間、排気ガス中のNOxによりNOx触媒24の吸着アンモニアを反応消費することもできる。よって2回目の昇温開始時点におけるNOx触媒24の吸着アンモニア量は、1回目の昇温終了時点における吸着アンモニア量よりも少なくなるとも考えられる。但し図3では便宜上、これらは同一量として表示されている。
【0055】
次いで2回目の昇温が実行されると、図中eで示すようにNOx触媒24の温度が再度少しだけ上昇する。この結果、実際のアンモニア吸着量と吸着可能量Lとの差fに等しい、許容量のアンモニアがNOx触媒24から脱離排出される。この後、2回目の昇温停止が実行され、昇温速度が緩やかとされる。
【0056】
同様に3回目の昇温により図中gの如くNOx触媒24が昇温され、この結果実際のアンモニア吸着量と吸着可能量Lとの差hに等しい、許容量のアンモニアがNOx触媒24から脱離排出される。図示例ではこの3回目の昇温によりNOx触媒24がT3以上の高温域に達しており、すなわち、DPF22は最終的な目標再生温度にまで達している。よってこの後直ちに、或いは必要に応じて所定時間経過後、フィルタ昇温制御が終了される。
【0057】
以上の説明で分かるように、各回の昇温毎の吸着アンモニアの排出量は、比較例としてのフィルタ昇温制御を実行した場合に比べ、非常に少ない。全て許容量以内である。よって、比較例としてのフィルタ昇温制御を実行した場合よりもアンモニアスリップを抑制することができる。なおこの結果、NOx触媒の下流側にアンモニア酸化触媒を設ける必要もなくなる。
【0058】
こうして、DPF再生時におけるアンモニアスリップとNOx悪化とを同時に抑制することが可能となる。
【0059】
上記のような少量ずつのNOx触媒24の昇温は、当然ながら、DPF22の少量ずつの昇温により実現されるものである。NOx触媒24の温度はDPF22の温度に相関ないし連動しているからである。そして比較例のフィルタ昇温制御は、DPF22が最終的な目標再生温度に達するまで燃料を供給し続けるものである。これに対し、本実施形態のフィルタ昇温制御は、各回毎に少量ずつの燃料を間欠的に供給するものである。DPF22を段階的に昇温させても、各回毎に少しずつ、DPF22の堆積PMは燃焼される。よってDPF22が最終的な目標再生温度にまで達した時には、既に必要十分な量の堆積PMが燃焼除去されていると想定される。よって本実施形態は、特許文献1記載のものよりも、フィルタ再生に要するトータル時間を短縮することができると考えられる。
【0060】
また、NOx触媒24は、通常の低温域T1〜T2よりも若干高温側にシフトした温度域(例えば250〜400℃)になるとNOx浄化率が向上するという特性を有する。特許文献1記載のものでは、通常の低温域T1〜T2において吸着アンモニアのNOxとの反応消費を待つため、長い待ち時間が必要である。これに対し、本実施形態の場合だと、かかるNOx浄化率が向上する温度域を時間をかけて通過するため、特に昇温停止時において吸着アンモニアの消費を促進でき、昇温と昇温停止の各ステップを迅速に進めることができる。よってこの点においても、本実施形態は特許文献1記載のものよりもフィルタ再生に要するトータル時間を短縮できると考えられる。
【0061】
ところで、本実施形態のフィルタ昇温制御においては、NOx触媒24が高温になるにつれ1回の昇温量を増大させるのが好ましい。図3はこの好ましい態様を示し、NOx触媒24が高温になるにつれDPF22の各回の昇温量が次第に増大され、その結果NOx触媒24の各回の昇温量c,e,gも次第に増大されている。図示するように、NOx触媒24の温度上昇に対する吸着可能量Lの減少率(線Lの傾き)は、NOx触媒24が高温になるにつれ少なくなるという特性がある。よってこの特性に鑑み、NOx触媒24が高温になるにつれ1回の昇温量を増大させれば、各回のアンモニア排出量d,f,hを均等化し、効率的なフィルタ昇温制御が可能になるほか、目標再生温度に到達するまでの時間ひいてはフィルタ再生に要する時間を短縮することができる。
【0062】
また、本実施形態のフィルタ昇温制御においては、1回の昇温開始時点におけるNOx触媒24の温度に基づいて触媒温度に関する目標昇温量を設定し、この目標昇温量に実際のNOx触媒温度昇温量が一致するように、1回の昇温を実行するのが好ましい。図3に示すアンモニア吸着特性によれば、各回のアンモニア排出量d,f,hを均等化しようとした場合、必要な昇温量は、1回の昇温開始時点におけるNOx触媒24の温度によって変化する。よって1回の昇温開始時点におけるNOx触媒24の温度に基づいて目標昇温量を設定し、この目標昇温量に実際の昇温量が一致するように1回の昇温を実行することで、各回のアンモニア排出量d,f,hを好適に均等化することが可能である。
【0063】
さらに、図3に示したアンモニア吸着特性に鑑み、1回の昇温時における昇温速度をNOx触媒24が高温になるにつれ増大させるのも好ましい。これにより昇温速度を一定とする場合に比べ、フィルタを目標再生温度までより早く到達させられ、フィルタ再生時間をより短縮することができる。また当該アンモニア吸着特性によればNOx触媒24が高温であるほど一定昇温量当たりのアンモニア排出量が少なくなるので、こうしてもアンモニア排出速度を許容値以下に制限できる。このようにして昇温速度をより積極的に律速することが可能である。
【0064】
代替的に、フィルタ昇温制御における1回の昇温量を、NOx触媒24の温度に拘わらず一定としてもよい。これによりシンプルな方法でフィルタ昇温制御を実行可能である。このとき昇温速度をNOx触媒温度が高温になるにつれ増大してもよい。
【0065】
次に、図4を参照しつつ、ECU100が実行するフィルタ昇温制御の一例を説明する。
【0066】
まずステップS101において、ECU100は、DPF再生要求の有無を判定する。すなわち前述したようにECU100は、差圧センサ32の検出値を所定値と比較し、検出値が所定値未満のときにはDPF再生要求無しと判定し、検出値が所定値以上のときにはDPF再生要求有りと判定する。
【0067】
DPF再生要求無しと判定した場合、ECU100は、フィルタ昇温制御の実行条件が成立していないとして、待機状態となる。他方、DPF再生要求有りと判定した場合、ECU100は、フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとして、ステップS102に進む。
【0068】
ステップS102において、ECU100は、尿素添加弁40を停止状態(オフ)とし、尿素添加弁40からの尿素添加を停止する。
【0069】
次いでECU100は、ステップS103において、NOx触媒24の推定触媒温度に基づいてNOx触媒温度に関する目標昇温量を設定する。この目標昇温量の設定は、NOx触媒温度と目標昇温量との関係を予め規定したマップまたは関数(以下、マップ等という)に従って行われる。目標昇温量は、NOx触媒温度が高いほど増大される。
【0070】
なお、昇温速度の制御も併せて行う場合には、ECU100は、NOx触媒24の推定触媒温度に基づいてNOx触媒温度に関する目標昇温速度も設定する。この目標昇温速度の設定も、NOx触媒温度と目標昇温速度との関係を予め規定したマップ等に従って行われる。目標昇温速度は、NOx触媒温度が高いほど大である。
【0071】
この後ECU100は、ステップS104において、1回の昇温制御を実行する。この昇温制御は、NOx触媒24の実際の昇温量が、ステップS103で設定された目標昇温量に一致するよう、燃料を燃料供給弁60から供給することで行う。NOx触媒24の実際の昇温量が目標昇温量に一致したか否かは、ECU100がNOx触媒24の推定触媒温度をモニタすることにより判断する。また燃料供給制御はNOx触媒温度についてのフィードフォワード制御およびフィードバック制御の併用で行う。
【0072】
なお、昇温速度の制御も併せて行う場合には、ECU100は、NOx触媒24の実際の昇温速度が、ステップS103で設定された目標昇温速度に一致するよう、燃料を燃料供給弁60から供給することで行う。DPF22の実際の昇温速度が目標昇温速度に一致しているか否かは、ECU100がNOx触媒24の推定触媒温度をモニタすることにより判断する。
【0073】
こうして1回の昇温制御が終了したら、ECU100は、ステップS105において、1回の昇温制御終了時点から所定時間が経過したか否かを判断する。この昇温停止時間中は燃料供給弁60が停止状態とされ、燃料供給が停止される。所定時間は、主にNOx触媒24からのアンモニア排出量等を考慮して試験的に定められる。所定時間が経過していない場合、待機状態となり、所定時間が経過した場合にはステップS106に進む。
【0074】
ステップS106において、ECU100は、推定DPF温度Tfが所定の目標再生温度Tft以上に達したか否かを判断する。Tf<TftのときにはステップS103に戻り、再度、1回ずつの昇温制御と昇温停止制御とが繰り返し実行される。他方、Tf≧Tftのときにはフィルタ昇温制御が終了される。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、本発明はディーゼルエンジン即ち圧縮着火式内燃機関以外の内燃機関にも適用可能であり、例えば火花点火式内燃機関、特に直噴リーンバーンガソリンエンジンにも適用可能である。また、前記実施形態では、NOx触媒24に供給される排気ガスのNOx濃度をNOxセンサ36により検出したが、これに代わって、エンジン運転状態を表すパラメータ(例えばエンジン回転速度とアクセル開度)に基づいて推定してもよい。DPFおよびNOx触媒の昇温方法は、前述の燃料供給弁60から燃料を供給する方法およびポスト噴射を行う方法のほか、例えばスロットルバルブ開度を減少する吸気絞りやEGR増量などの方法も可能である。
【0076】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元型NOx触媒と、
前記NOx触媒の上流側に還元剤としての尿素またはアンモニアを供給する還元剤供給手段と、
前記排気通路に設けられたパティキュレートフィルタと、
該パティキュレートフィルタを昇温させるフィルタ昇温制御を実行するフィルタ昇温手段と、
を備え、
前記フィルタ昇温制御の実行条件が成立したとき、前記還元剤供給手段による還元剤の供給を停止すると同時に前記フィルタ昇温手段による前記フィルタ昇温制御を開始し、該フィルタ昇温制御において、昇温と昇温停止とを繰り返し実行して前記パティキュレートフィルタを段階的に昇温させる
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記フィルタ昇温手段は、前記NOx触媒が高温になるにつれ1回の昇温量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記フィルタ昇温手段は、1回の昇温開始時点における前記NOx触媒の温度に基づいてNOx触媒温度に関する目標昇温量を設定し、この目標昇温量に実際のNOx触媒温度の昇温量が一致するよう、1回の昇温を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記フィルタ昇温手段は、前記NOx触媒が高温になるにつれ昇温速度を増大させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記フィルタ昇温手段は、前記NOx触媒の温度に拘わらず1回の昇温量を一定とすることを特徴とする請求項1または4に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−261320(P2010−261320A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110601(P2009−110601)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】