説明

内燃機関の点火コイル故障検出装置

【課題】イオン電流に基づいて点火コイルの故障の有無を判定する際に、レアーショートのような点火コイルの故障と正常燃焼とを誤判定することを未然に防止する。
【解決手段】イオン電流検出回路35で検出したイオン電流の特性(例えばピーク電流とイオン電流発生時間幅)に基づいて実際のエンジン運転領域を判定すると共に、イオン電流以外の運転パラメータ(例えばエンジン回転速度や負荷等)に基づいて推定エンジン運転領域を判定し、イオン電流の特性に基づいて推定エンジン運転領域が高回転運転領域と判定される状態が所定サイクル以上(例えば10サイクル以上)続く場合に、イオン電流以外の運転パラメータに基づいて実際のエンジン運転領域が高回転運転領域以外の運転領域(低回転運転領域又は燃料カット)と判定されるか否かで点火コイル21の故障の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内で混合気の燃焼に伴って発生するイオン電流を点火プラグを介して検出する機能を備えた内燃機関の点火コイル故障検出装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の筒内で混合気が燃焼する際にイオンが発生する特性に着目して、点火毎に筒内で発生するイオン電流を点火プラグの電極を介して検出し、そのイオン電流検出値に基づいて着火/失火を検出する技術が開発されている。従来の着火/失火の判定方法は、着火時にイオン電流が増加し、失火発生時にイオン電流が減少する性質を利用し、検出したイオン電流ピーク値を所定の失火判定値と比較して、イオン電流ピーク値が失火判定値以上であれば、着火と判定し、そうでなければ、失火と判定するものである。
【0003】
このようなイオン電流を用いた失火検出装置では、イオン電流検出回路が断線やショート等によって故障すると、失火を誤検出することになる。
【0004】
この対策として、特許文献1(特許第2657012号公報)に示すように、イオン電流検出信号が所定時間だけ連続して同一レベルを示す場合に、イオン電流検出回路の故障と判定するようにしたものがある。
【特許文献1】特許第2657012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図3に示すように、点火コイルの一次側巻線間のレアーショートが発生すると、イオン電流検出期間中に1ms程度の時間幅のノイズ電流が発生し、二次側巻線間のレアーショートが発生すると、イオン電流検出期間中に1.5ms程度の時間幅のノイズ電流が発生する。従って、巻線間のレアーショートのような点火コイルの故障が発生した場合には、イオン電流検出信号(ノイズ電流)の出力レベルが1〜1.5ms程度の時間幅で変動するため、上記特許文献1の故障検出装置のように、イオン電流検出信号が連続して同一レベルに維持される場合に故障と判定するシステムでは、巻線間のレアーショートのような点火コイルの故障を検出できないばかりか、レアーショート発生時のイオン電流検出信号(ノイズ電流)の出力レベルが失火判定レベルを越えるため、レアーショートによる異常燃焼を正常燃焼と誤判定してしまうという問題があった。
【0006】
この対策として、イオン電流検出信号(ノイズ電流)の波形に基づいて点火コイルの故障を検出することが考えられるが、内燃機関の高回転運転領域では、正常燃焼時のイオン電流の発生区間(60℃A)の時間幅がレアーショートによるノイズ電流の時間幅に近付いて両者を区別しにくくなるため、正常燃焼を点火コイルの故障と誤判定する可能性がある。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、イオン電流に基づいて点火コイルの故障の有無を判定する際に、レアーショートのような点火コイルの故障と正常燃焼とを誤判定することを未然に防止できて、点火コイルの故障判定の精度・信頼性を向上できる内燃機関の点火コイル故障検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、イオン電流検出手段で検出したイオン電流の特性に基づいて内燃機関の運転領域を判定する第1の運転領域判定手段と、前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて内燃機関の運転領域を判定する第2の運転領域判定手段と、前記第1の運転領域判定手段で前記イオン電流の特性に基づいて高回転運転領域と判定される状態が続く場合に、前記第2の運転領域判定手段で前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて高回転運転領域以外の運転領域と判定されるときに点火コイルの故障と判定する故障検出手段を備えた構成としたものである。
【0009】
内燃機関の運転領域によっては、僅かな運転条件の違いや環境条件の違いによって燃焼不安定状態になって、イオン電流のばらつきが大きくなったり、イオン電流が小さくなることがある。また、内燃機関の暖機完了前は、吸気ポート周辺の付着燃料(ウェット)が多いため、燃料カットしても、吸気ポート周辺の付着燃料で暫く燃焼し続けることがある。従って、点火コイルの巻線間のレアーショートのような故障の検出は、イオン電流が安定して検出される運転状態で確認する必要がある。
【0010】
そこで、本発明は、イオン電流検出手段で検出したイオン電流の特性(例えばイオン電流ピーク値やイオン電流発生時間等)に基づいて内燃機関の運転領域を判定すると共に、イオン電流以外の運転パラメータ(例えば機関回転速度や負荷等)に基づいて内燃機関の運転領域を判定し、イオン電流の特性に基づいて高回転運転領域と判定される状態が続く場合に、イオン電流以外の運転パラメータに基づいて高回転運転領域以外の運転領域(低回転運転領域又は燃料カット)と判定されるか否かで点火コイルの故障の有無を判定するものである。
【0011】
要するに、レアーショートのような点火コイルの故障の場合も、イオン電流の特性に基づく運転領域の判定結果は高回転運転領域となるが、イオン電流の特性に基づく運転領域の判定結果とイオン電流以外の運転パラメータに基づく運転領域の判定結果とが共に高回転運転領域であれば、正常燃焼と判定し、イオン電流以外の運転パラメータに基づく運転領域の判定結果が高回転運転領域以外の運転領域(低回転運転領域又は燃料カット)であれば、点火コイルの故障と判定するものである。このようにすれば、レアーショートのような点火コイルの故障と正常燃焼とを誤判定することを未然に防止できて、点火コイルの故障判定の精度・信頼性を向上できる。
【0012】
また、請求項2のように、イオン電流検出手段で検出した各気筒のイオン電流の特性に基づいて内燃機関の運転領域を各気筒毎に判定する第1の運転領域判定手段と、前記第1の運転領域判定手段による各気筒の運転領域判定結果を比較していずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域以外の運転領域と判定される場合に前記1つの気筒が高回転運転領域と判定されるときに前記1つの気筒の点火コイルの故障と判定する故障検出手段を備えた構成としても良い。要するに、点火コイルの故障はいずれか1つの気筒についてのみ発生することがほとんどであるため、いずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域以外の運転領域と判定される場合(つまり実際の運転領域が低回転運転領域又は燃料カットと判定される場合)に当該1つの気筒が高回転運転領域と判定されるときに当該1つの気筒の点火コイルの故障と判定するものである。このようにしても、レアーショートのような点火コイルの故障と正常燃焼とを誤判定することを未然に防止できて、点火コイルの故障判定の精度・信頼性を向上できる。
【0013】
更に、この請求項2に係る発明において、請求項3のように、前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて内燃機関の運転領域を判定する第2の運転領域判定手段を備え、前記第1の運転領域判定手段による各気筒の運転領域判定結果を比較していずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域以外の運転領域と判定される場合に、前記第1の運転領域判定手段で前記1つの気筒が高回転運転領域と判定され且つ他の気筒の運転領域が前記第2の運転領域判定手段による運転領域判定結果と合致するときに前記1つの気筒の点火コイルの故障と判定するようにしても良い(要するに請求項1と請求項2とを組み合わせた構成としても良い)。このようにすれば、レアーショートのような点火コイルの故障と正常燃焼とを誤判定することをより確実に防止できて、点火コイルの故障判定の精度・信頼性を更に向上できる。
【0014】
また、請求項4のように、前記第1の運転領域判定手段は、各気筒毎に前記イオン電流の特性に基づいて内燃機関の運転領域を燃料カット領域、低回転運転領域、高回転運転領域といずれにも特定できない不特定運転領域に区分して判定し、前記故障検出手段は、前記第1の運転領域判定手段でいずれかの気筒の運転領域が不特定運転領域と判定されているときに前記点火コイルの故障判定を禁止するようにしても良い。このようにすれば、いずれかの気筒の運転領域が点火コイルの故障と正常燃焼とを誤判定する可能性のある不特定運転領域である場合に、点火コイルの故障判定が禁止されるため、誤判定をより確実に防止できる。
【0015】
また、請求項5のように、前記第1の運転領域判定手段は、所定サイクル以上連続して運転領域判定結果が同じである場合に当該運転領域判定結果を有効とし、それ以外の場合は不特定運転領域と判定するようにしても良い。このようにすれば、点火コイルの故障判定の精度・信頼性を更に向上できる。
【0016】
また、請求項6のように、前記故障検出手段は、前記イオン電流検出手段のイオン電流出力波形が異常波形の場合に前記点火コイルの故障判定を禁止するようにしても良い。要するに、イオン電流検出手段のイオン電流出力波形が異常波形の場合は、失火、点火プラグのくすぶり汚損、イオン電流検出手段の故障等が考えられるため、点火コイルの故障判定を禁止することで、誤判定を未然に防止することができる。
【0017】
また、点火コイルが故障すると、失火が発生することを考慮して、請求項7のように、前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて各気筒毎に失火を検出する失火検出手段を備え、前記故障検出手段は、前記失火検出手段により失火が検出された気筒に関しては当該気筒の点火コイルの故障判定を許可し、前記失火検出手段により失火が検出されていない気筒に関しては当該気筒の点火コイルの故障判定を禁止する手段を備えた構成としても良い。このようにすれば、失火の発生原因が点火コイルの故障であるか否かを確認できるので、故障部位を特定できて、整備工場での修理作業性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいて点火制御系の回路構成を説明する。
エンジンの各気筒毎に点火コイル21が設けられ、各気筒の点火コイル21の一次側巻線22の一端はバッテリ23に接続され、該一次側巻線22の他端は、イグナイタ24に内蔵されたパワートランジスタ25のコレクタに接続されている。二次側巻線26の一端は点火プラグ27に接続され、該二次側巻線26の他端は、2つのツェナーダイオード28,29を介してグランドに接続されている。
【0019】
2つのツェナーダイオード28,29は互いに逆向きに直列接続され、一方のツェナーダイオード28にコンデンサ30が並列に接続され、他方のツェナーダイオード29にイオン電流検出抵抗31が並列に接続されている。コンデンサ30とイオン電流検出抵抗31との間の電位Vinが抵抗32を介して反転増幅回路33の反転入力端子(−)に入力されて反転増幅され、この反転増幅回路33の出力電圧Vがイオン電流信号としてエンジン制御回路34に入力される。イオン電流検出回路35(イオン電流検出手段)は、ツェナーダイオード28,29、コンデンサ30、イオン電流検出抵抗31、反転増幅回路33等から構成されている。イオン電流検出回路35は各気筒毎に設けられ、各気筒毎にイオン電流が検出される。
【0020】
エンジン運転中は、エンジン制御回路34からイグナイタ24に送信される点火指令信号の立ち上がり/立ち下がりでパワートランジスタ25がオン/オフする。パワートランジスタ25がオンすると、バッテリ23から一次側巻線22に一次電流が流れ、その後、パワートランジスタ25がオフすると、一次側巻線22の一次電流が遮断されて、二次側巻線26に高電圧が電磁誘導され、この高電圧によって点火プラグ27の電極36,37間に火花放電が発生する。この火花放電電流は、点火プラグ27の接地電極37から中心電極36へ流れ、二次側巻線26を経てコンデンサ30に充電されると共に、ツェナーダイオード28,29を経てグランド側に流れる。コンデンサ30の充電後は、ツェナーダイオード28のツェナー電圧によって規制されるコンデンサ30の充電電圧を電源としてイオン電流検出回路35が駆動され、後述するようにしてイオン電流が検出される。
【0021】
これに対して、イオン電流は、火花放電電流とは反対方向に流れる。つまり、点火終了後は、コンデンサ30の充電電圧によって点火プラグ27の電極36,37間に電圧が印加されるため、気筒内で混合気が燃焼する際に発生するイオンによって電極36,37間にイオン電流が流れるが、このイオン電流は、中心電極36から接地電極37へ流れ、更に、グランド側からイオン電流検出抵抗31を通ってコンデンサ30に流れる。この際、イオン電流検出抵抗31に流れるイオン電流の変化に応じて反転増幅回路33の入力電位Vinが変化し、反転増幅回路33の出力端子からイオン電流に応じた電圧Vがエンジン制御回路34に出力される。この反転増幅回路33の出力電圧Vからイオン電流が検出され、このイオン電流から失火、プレイグニッション、ノッキング等が検出される。
【0022】
次に、イオン電流検出回路35のイオン電流出力パターンが、失火時、軽度のくすぶり汚損時、イオン電流検出回路35の故障時(イオン電流検出不能時)に、点火コイル21のレアーショート時にどの様に変化するかを図2を用いて説明する。ここで、点火コイル21のレアーショートは、図3に示すように、一次側巻線22の線間(又は二次側巻線26の線間)がショートする故障モードである。
【0023】
点火系が正常であれば、点火コイル21の一次側巻線22への通電開始直後(点火信号OFF→ON切換直後)に、短い時間幅のパルス状のノイズ電流が誘起され、点火直後(点火信号ON→OFF切換直後)に、点火コイル21の二次側の残留磁気エネルギによってLC共振が発生し、その後、燃焼により発生したイオン電流の波形が現れる。
【0024】
くすぶり汚損が発生しても、くすぶり汚損の程度が軽度であれば、混合気に着火されるため、一次側巻線22への通電開始直後に誘起されるノイズ電流の時間幅が長くなるものの、点火後には、通常の着火時と同じようにLC共振ノイズと燃焼によるイオン電流の波形が現れる。
【0025】
一方、失火時には、一次側巻線22への通電開始直後のパルス状のノイズ電流と点火後のLC共振ノイズが現れるが、燃焼によるイオン電流の波形は現れない。
【0026】
また、イオン電流検出回路35の故障(信号線の断線等)によりイオン電流が検出不能になった場合(又は点火コイル21の一次側巻線22の断線等により通電不能になった場合)には、イオン電流検出回路35のイオン電流信号が全く出力されない状態となり、燃焼によるイオン電流のみならず、点火信号ON切換直後のノイズやLC共振ノイズも検出されない状態となる。
【0027】
この点に着目して、本実施例では、点火コイル21の通電期間中(点火信号ON期間中)のイオン電流出力(ノイズ電流)の有無を、コイル通電判定レベルVth1 を越えるイオン電流出力の時間幅によって判定し、このイオン電流出力時間幅が所定時間以下であるか否かで、イオン電流検出回路35の故障(又は点火コイル21が通電不能な状態)であるか否かを判定する。また、イオン電流検出回路35の故障時(又は点火コイル21の通電不能時)には、LC共振ノイズも発生しなくなるため、点火後のLC共振ノイズによるイオン電流出力の有無を判定することで、イオン電流検出回路35の故障(又は点火コイル21が通電不能な状態)であるか否かを判定するようにしても良い。
【0028】
また、点火コイル21の一次側巻線22のレアーショートが発生した時には、イオン電流検出期間中に1ms程度の時間幅Tiのノイズ電流が発生し、二次側巻線26のレアーショートが発生した時には、イオン電流検出期間中に1.5ms程度の時間幅Tiのノイズ電流が発生する。このノイズ電流は、失火判定レベルVth2 よりも大きいため、従来は、このノイズ電流を燃焼によるイオン電流と誤判定する可能性があった。
【0029】
以上のような点火コイル21の故障モードに対して、エンジン制御回路34は、後述する図4及び図5の点火コイル故障診断ルーチンを実行することで、次のような方法で点火コイル21の故障の有無を判定する。
【0030】
イオン電流検出信号(ノイズ電流)の波形に基づいて点火コイル21の故障を検出することが考えられるが、エンジンの高回転運転領域では、正常燃焼時のイオン電流の発生区間(60℃A)の時間幅が点火コイル21の故障時のノイズ電流の時間幅Tiに近付いて両者を区別しにくくなるため、正常燃焼を点火コイル21の故障と誤判定する可能性がある。また、エンジンの運転領域によっては、僅かな運転条件の違いや環境条件の違いによって燃焼不安定状態になって、イオン電流のばらつきが大きくなったり、イオン電流が小さくなることがある。また、エンジンの暖機完了前は、吸気ポート周辺の付着燃料(ウェット)が多いため、燃料カットしても、吸気ポート周辺の付着燃料で暫く燃焼し続けることがある。従って、点火コイル21の故障の検出は、イオン電流が安定して検出される運転状態で確認する必要がある。
【0031】
そこで、本実施例では、イオン電流検出回路35で検出したイオン電流の特性(例えばピーク電流Ipとイオン電流発生時間幅Ti)に基づいて実際のエンジン運転領域を判定すると共に、イオン電流以外の運転パラメータ(例えばエンジン回転速度や負荷等)に基づいて推定エンジン運転領域を判定し、イオン電流の特性に基づいて推定エンジン運転領域が高回転運転領域と判定される状態が所定サイクル以上(例えば10サイクル以上)続く場合に、イオン電流以外の運転パラメータに基づいて実際のエンジン運転領域が高回転運転領域以外の運転領域(低回転運転領域又は燃料カット)と判定されるか否かで点火コイル21の故障の有無を判定するようにしている。
【0032】
要するに、レアーショートのような点火コイル21の故障の場合も、イオン電流の特性に基づく運転領域の判定結果(推定エンジン運転領域)は高回転運転領域となるが、イオン電流の特性に基づく運転領域の判定結果とイオン電流以外の運転パラメータに基づく運転領域の判定結果(実際のエンジン運転領域)とが共に高回転運転領域であれば、正常燃焼と判定し、イオン電流以外の運転パラメータに基づく運転領域の判定結果が高回転運転領域以外の運転領域(低回転運転領域又は燃料カット)であれば、点火コイル21の故障と判定するものである。このようにすれば、レアーショートのような点火コイル21の故障と正常燃焼とを誤判定することを未然に防止できて、点火コイル21の故障判定の精度・信頼性を向上できる。
【0033】
更に、本実施例では、イオン電流検出回路35で検出した各気筒のイオン電流の特性に基づいて推定エンジン運転領域を各気筒毎に判定し、各気筒の推定エンジン運転領域を比較していずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域以外の運転領域と判定される場合に、当該1つの気筒が高回転運転領域と判定され且つ他の気筒の推定エンジン運転領域がイオン電流以外の運転パラメータから判定された実際のエンジン運転領域と合致するときに当該1つの気筒の点火コイル21の故障と判定するようにしている。
【0034】
また、本実施例では、点火コイル21が故障すると、失火が発生することを考慮して、イオン電流以外の運転パラメータ(例えばエンジン回転変動)に基づいて各気筒毎に失火を検出し、失火が検出された気筒に関しては当該気筒の点火コイル21の故障判定を許可し、失火が検出されていない気筒に関しては当該気筒の点火コイル21の故障判定を禁止する。このようにすれば、失火の発生原因が点火コイル21の故障であるか否かを確認できるので、故障部位を特定できて、整備工場での修理作業性を向上できる。
【0035】
以上説明した点火コイル21の故障診断は、エンジン制御回路34によって図4及び図5の点火コイル故障診断ルーチンに従って実行される。以下、この点火コイル故障診断ルーチンの処理内容を説明する。図4及び図5の点火コイル故障診断ルーチンは、各気筒の点火毎(各気筒のイオン電流検出期間が終了する毎)に起動され、特許請求の範囲でいう故障検出手段としての役割を果たす。
【0036】
本ルーチンが起動されると、まずステップ101で、エンジン回転変動に基づく失火判定ルーチン(図示せず)を実行して、エンジン回転変動に基づいて各気筒#n毎に失火を検出する。尚、エンジン回転変動に代えて、例えば筒内圧(燃焼圧)に基づいて各気筒#n毎に失火を検出するようにしても良く、要は、イオン電流以外の運転パラメータに基づいて各気筒#n毎に失火を検出するようにすれば良い。このステップ101の処理が特許請求の範囲でいう失火検出手段としての役割を果たす。
【0037】
この後、ステップ102に進み、各気筒#nのイオン電流検出回路35のイオン電流出力を読み込み、次のステップ103で、各気筒#nのイオン電流ピーク値Ipを失火判定値Vth2 と比較して失火/燃焼を判定すると共に、イオン電流検出期間以外の期間に流れる漏洩電流(イオン電流検出回路35の出力電流)に基づいて点火プラグ27の絶縁抵抗値を算出してくすぶり汚損の有無を判定する。
【0038】
そして、次のステップ104で、図6の実エンジン運転領域判定マップを参照して、イオン電流以外の運転パラメータ(例えばエンジン回転速度と負荷率)に基づいて実際のエンジン運転領域Mexが、燃料カット領域Me1、低回転運転領域Mex2、それ以外の運転領域Mex0のいずれに該当するかを判定する。このステップ104の処理が特許請求の範囲でいう第2の運転領域判定手段としての役割を果たす。
【0039】
この後、ステップ105で、点火コイル21の故障診断が許可されているか否かを判定する。ここで、点火コイル21の故障診断が許可される条件は、例えば、点火プラグ27のくすぶり汚損が発生していないこと、点火コイル21の故障診断に関係するシステムが正常に作動していること(異常が検出されていないこと)等である。
【0040】
点火コイル21の故障診断が許可されている場合は、ステップ106に進み、図7の推定エンジン運転領域判定マップを参照して、各気筒#nのイオン電流の特性(例えばゲイン調整前のイオン電流ピーク値Ipやイオン電流発生時間Ti等)に基づいて推定エンジン運転領域Mix[#n]が、燃料カット領域Mi1、低回転運転領域Mix2、高回転運転領域Mix3、いずれにも特定できない不特定運転領域Mi0のいずれに該当するかを各気筒#n毎に判定して、エンジン制御回路34のメモリに記憶する。このステップ106の処理が特許請求の範囲でいう第1の運転領域判定手段としての役割を果たす。
【0041】
この後、ステップ107に進み、各気筒#nのイオン電流の特性に基づく推定エンジン運転領域Mix[#n]の今回の判定結果が前回と同じであるか否かを各気筒#n毎に判定し、前回と同じであれば、ステップ108に進み、各気筒#nの連続判定回数カウンタN[#n]を1つカウントアップして、次のステップ110で、各気筒#nの連続判定回数カウンタN[#n]のカウント値が所定値(例えば10)を越えたか否かを判定する。一方、推定エンジン運転領域Mix[#n]の今回の判定結果が前回と異なる気筒があれば、ステップ109に進み、当該気筒の連続判定回数カウンタN[#n]を0にリセットする。
【0042】
各気筒#nの連続判定回数カウンタN[#n]のカウント値が所定値(例えば10)を越えるまでは、ステップ112に進み、各気筒#nの推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定結果を不特定運転領域Mi0とする。その後、各気筒#nの連続判定回数カウンタN[#n]のカウント値が所定値(例えば10)を越えた時点で、ステップ111に進み、前記ステップ106で判定した各気筒#nの推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定結果をそのまま最終的な判定結果として確定する。
【0043】
尚、前記ステップ105で、点火コイル21の故障診断が禁止されていると判定されれば、ステップ109に進み、当該気筒の連続判定回数カウンタN[#n]を0にリセットした後、ステップ112に進み、各気筒#nの推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定結果を不特定運転領域Mi0とする。
【0044】
一方、ステップ111で、各気筒#nの推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定結果が確定すると、図5のステップ113に進み、全気筒で推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定が終了したか否かを判定し、まだ推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定が終了していない気筒があれば、そのまま本ルーチンを終了する。
【0045】
全気筒で推定エンジン運転領域Mix[#n]の判定が終了していれば、ステップ114に進み、いずれか1つの気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が他の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]と不一致であるか否かを判定し、不一致の気筒がなければ、点火コイル21のレアーショート等の故障が発生していないと判断して、そのままそのまま本ルーチンを終了する。
【0046】
これに対して、いずれか1つの気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が他の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]と不一致であれば、ステップ115に進み、不一致の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が高回転運転領域Mix3であるか否かを判定し、高回転運転領域Mix3でなければ、点火コイル21のレアーショート等の故障が発生していないと判断して、そのまま本ルーチンを終了する。
【0047】
不一致の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が高回転運転領域Mix3であれば、ステップ116に進み、他の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が、前記ステップ104で判定した実際のエンジン運転領域Mexと一致するか否かを判定し、他の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が実際のエンジン運転領域Mexと一致していなければ、正確な故障診断を行うのが困難な不安定運転状態であると判断して、そのまま本ルーチンを終了する。
【0048】
一方、他の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]が実際のエンジン運転領域Mexと一致していれば、ステップ117に進み、前記ステップ114で不一致と判定された気筒に関して、前記ステップ101でエンジン回転変動から失火が検出されているか否かを判定し、失火が検出されていなければ、点火コイル21のレアーショート等の故障が発生していないと判断して、そのまま本ルーチンを終了する。
【0049】
上記ステップ117で、不一致の気筒に関してエンジン回転変動から失火が検出されていると判定されれば、ステップ118に進み、不一致の気筒の点火コイル21が故障していると判定して本ルーチンを終了する。
【0050】
以上説明した本実施例によれば、イオン電流検出回路35で検出した各気筒#nのイオン電流の特性に基づいて推定エンジン運転領域Mix[#n]を各気筒#n毎に判定し、各気筒#nの推定エンジン運転領域Mix[#n]を比較していずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域Mix3以外の運転領域と判定される場合に、当該1つの気筒が高回転運転領域Mix3と判定され且つ他の気筒の推定エンジン運転領域Mix[#n]がイオン電流以外の運転パラメータから判定された実際のエンジン運転領域Mexと合致するときに当該1つの気筒の点火コイル21の故障と判定するようにしたので、レアーショートのような点火コイル21の故障と正常燃焼とを誤判定することを防止できて、点火コイル21の故障判定の精度・信頼性を向上できる。
【0051】
しかも、本実施例では、点火コイル21が故障すると、失火が発生することを考慮して、イオン電流以外の運転パラメータ(例えばエンジン回転変動)に基づいて各気筒毎に失火を検出し、失火が検出された気筒に関してのみ当該気筒の点火コイル21の故障判定を許可するようにしたので、失火の発生原因が点火コイル21の故障であるか否かを確認でき、整備工場での修理作業性を向上できる利点がある。
【0052】
尚、本発明は、イオン電流以外の運転パラメータに基づいて各気筒毎に失火を検出する機能を省略しても良い。
【0053】
また、本実施例では、各気筒毎に点火コイル21を設けたS−DLI点火方式の構成を採用したが、1つの点火コイルで2気筒に点火を行うD−DLI点火方式の構成を採用するようにしても良い。この場合、イオン電流の特性(例えばイオン電流ピーク値やイオン電流発生時間等)に基づいて推定エンジン運転領域を判定すると共に、イオン電流以外の運転パラメータ(例えばエンジン回転速度や負荷等)に基づいて実際のエンジン運転領域を判定し、イオン電流の特性に基づいて推定エンジン運転領域が高回転運転領域と判定される状態が続く場合に、イオン電流以外の運転パラメータに基づいて実際のエンジン運転領域が高回転運転領域以外の運転領域(低回転運転領域又は燃料カット)と判定されるか否かで点火コイルの故障の有無を判定するようにすれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例における点火制御系とイオン電流検出回路の構成を示す回路図である。
【図2】イオン電流検出回路のイオン電流出力パターンが、失火時、くすぶり汚損時、点火コイルのレアーショート時にどの様に変化するかを説明するタイムチャートである。
【図3】点火コイルの一次側巻線間のレアーショートを説明する等価回路図である。
【図4】点火コイル故障診断ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである(その1)。
【図5】点火コイル故障診断ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである(その2)。
【図6】エンジン回転速度と負荷率に基づいて実際のエンジン運転領域を判定する際に用いる実エンジン運転領域判定マップの一例を概念的に示す図である。
【図7】イオン電流の特性に基づいて推定エンジン運転領域を判定する際に用いる推定エンジン運転領域判定マップの一例を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0055】
21…点火コイル、22…一次コイル、23…バッテリ、24…イグナイタ、25…パワートランジスタ、26…二次コイル、27…点火プラグ、31…イオン電流検出抵抗、33…反転増幅回路、34…エンジン制御回路(故障検出手段,第1の運転領域判定手段,第2の運転領域判定手段,失火検出手段)、35…イオン電流検出回路(イオン電流検出手段)、36…中心電極、37…接地電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内で混合気の燃焼に伴って発生するイオン電流を点火プラグを介して検出するイオン電流検出手段を備えた内燃機関の点火コイル故障検出装置において、
前記イオン電流検出手段で検出したイオン電流の特性に基づいて内燃機関の運転領域を判定する第1の運転領域判定手段と、
前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて内燃機関の運転領域を判定する第2の運転領域判定手段と、
前記第1の運転領域判定手段で前記イオン電流の特性に基づいて高回転運転領域と判定される状態が続く場合に、前記第2の運転領域判定手段で前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて高回転運転領域以外の運転領域と判定されるときに点火コイルの故障と判定する故障検出手段を備えていることを特徴とする内燃機関の点火コイル故障検出装置。
【請求項2】
内燃機関の複数の気筒の燃焼室内で混合気の燃焼に伴って発生するイオン電流を各気筒毎に点火プラグを介して検出するイオン電流検出手段を備えた内燃機関の点火コイル故障検出装置において、
前記イオン電流検出手段で検出した各気筒のイオン電流の特性に基づいて内燃機関の運転領域を各気筒毎に判定する第1の運転領域判定手段と、
前記第1の運転領域判定手段による各気筒の運転領域判定結果を比較していずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域以外の運転領域と判定される場合に前記1つの気筒が高回転運転領域と判定されるときに前記1つの気筒の点火コイルの故障と判定する故障検出手段を備えていることを特徴とする内燃機関の点火コイル故障検出装置。
【請求項3】
前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて内燃機関の運転領域を判定する第2の運転領域判定手段を備え、
前記故障検出手段は、前記第1の運転領域判定手段による各気筒の運転領域判定結果を比較していずれか1つの気筒を除く他の気筒が全て高回転運転領域以外の運転領域と判定される場合に、前記第1の運転領域判定手段で前記1つの気筒が高回転運転領域と判定され且つ他の気筒の運転領域が前記第2の運転領域判定手段による運転領域判定結果と合致するときに前記1つの気筒の点火コイルの故障と判定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の点火コイル故障検出装置。
【請求項4】
前記第1の運転領域判定手段は、各気筒毎に前記イオン電流の特性に基づいて内燃機関の運転領域を燃料カット領域、低回転運転領域、高回転運転領域といずれにも特定できない不特定運転領域に区分して判定し、
前記故障検出手段は、前記第1の運転領域判定手段でいずれかの気筒の運転領域が不特定運転領域と判定されているときに前記点火コイルの故障判定を禁止する手段を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の内燃機関の点火コイル故障検出装置。
【請求項5】
前記第1の運転領域判定手段は、所定サイクル以上連続して運転領域判定結果が同じである場合に当該運転領域判定結果を有効とし、それ以外の場合は不特定運転領域と判定することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の点火コイル故障検出装置。
【請求項6】
前記故障検出手段は、前記イオン電流検出手段のイオン電流出力波形が異常波形の場合に前記点火コイルの故障判定を禁止する手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関の点火コイル故障検出装置。
【請求項7】
前記イオン電流以外の運転パラメータに基づいて各気筒毎に失火を検出する失火検出手段を備え、
前記故障検出手段は、前記失火検出手段により失火が検出された気筒に関しては当該気筒の点火コイルの故障判定を許可し、前記失火検出手段により失火が検出されていない気筒に関しては当該気筒の点火コイルの故障判定を禁止する手段を備えていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の内燃機関の点火コイル故障検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−169718(P2008−169718A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1995(P2007−1995)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】