内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法
【課題】過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減すること。
【解決手段】燃焼室内の熱発生率の変化特性におけるピーク点が過渡運転状態においても目標点と一致するように、パイロット増量及びメイン進角量が適合される。この適合では、パイロット増量及びメイン進角量の組み合わせに対応する計測範囲内に複数の計測点が配置され、各計測点について特定の過渡運転状態での「計測点とピーク点との対応関係」が実測され、この複数の対応関係と目標点と周知の解析手法とから、ピーク点を目標点と一致させる計測点が同定されてパイロット増量及びメイン進角量が適合される。「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大してもピーク位置が必ず進角する」関係を利用して、対応するピーク範囲内に目標点が包含され且つ狭い計測範囲が効率的に特定される。
【解決手段】燃焼室内の熱発生率の変化特性におけるピーク点が過渡運転状態においても目標点と一致するように、パイロット増量及びメイン進角量が適合される。この適合では、パイロット増量及びメイン進角量の組み合わせに対応する計測範囲内に複数の計測点が配置され、各計測点について特定の過渡運転状態での「計測点とピーク点との対応関係」が実測され、この複数の対応関係と目標点と周知の解析手法とから、ピーク点を目標点と一致させる計測点が同定されてパイロット増量及びメイン進角量が適合される。「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大してもピーク位置が必ず進角する」関係を利用して、対応するピーク範囲内に目標点が包含され且つ狭い計測範囲が効率的に特定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法、及び、その適合方法を用いて適合された過渡補正パラメータを利用した内燃機関の燃料噴射パターン決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮して、燃料噴射パターン等の制御パラメータが決定される必要がある。このため、一般に、上記制御パラメータが、各定常運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対して上記観点等を考慮した最適な燃焼状態が得られるように予め実験等を通して適合されている。定常運転状態とは、例えば、噴射量及び運転速度が一定に維持される運転状態をいう。
【0003】
特許文献1では、各定常運転状態に対して、上記制御パラメータについての予め設定された複数の代表値(代表的な組み合わせ)について燃焼状態を表す特性値がそれぞれ計測される。この計測結果と所定の解析手法とに基づいて制御パラメータと特性値との関係を規定するモデル式が求められる。このモデル式を用いて制御パラメータが適合される。
【特許文献1】特開2004−263680号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、上記燃焼状態を表す特定値として、「内燃機関のクランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」におけるピークに対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度(ピーク高さ及びピーク位置)が挙げられる(後述する図5を参照)。このピーク高さ及びピーク位置は、失火発生、出力トルク、並びに燃焼騒音等と強い相関がある。加えて、このピーク高さ及びピーク位置は、燃料噴射パターン(噴射時期、噴射量等)により決定される。
【0005】
従って、各定常運転状態に対して、ピーク高さ及びピーク位置の組み合わせに対応する点(ピーク点)が上記最適な燃焼状態に対応する目標点(運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に応じて変動し得る)となるように燃料噴射パターンが適合され得る。以下、このように定常運転状態についてピーク点が目標点となるように適合された燃料噴射パターンを「定常適合噴射パターン」と称呼する。
【0006】
定常運転状態では、現時点での運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対応する上記定常適合噴射パターンをもって燃料を噴射することで、上述のように、ピーク点が現時点での運転状態に対応する目標点と一致し、上記観点を考慮した最適な燃焼状態が得られる。一方、噴射量及び運転速度が変化している運転状態(過渡運転状態)では、現時点での運転状態に対応する上記定常適合噴射パターンをもって燃料を噴射しても、ピーク点が現時点での運転状態に対応する目標点から偏移し、上記観点を考慮した最適な燃焼状態が得られない場合が発生し得る。これは、過渡運転状態では、吸気酸素濃度(従って、燃焼室内の酸素濃度)の応答遅れ等が発生することに基づく(詳細は後述する。)。
【0007】
従って、過渡運転状態においては、ピーク点が現時点での運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対応する目標点となるように、定常適合噴射パターンを複数のパラメータ(過渡補正パラメータ)を用いて補正して得られる燃料噴射パターンをもって燃料を噴射することが考えられる。この場合、各運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対して、過渡運転状態でのピーク点が現時点での運転状態に対応する目標点となるように、複数の過渡補正パラメータを適合する必要がある。
【0008】
本発明は、このように過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための複数の過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減できる、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法を提供することにある。
【0009】
本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法では、前記複数の過渡補正パラメータとして、前記ピーク高さ及びピーク位置に少なくとも相関し、且つ、複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側及び遅角側の一方側にのみ移動するという特定関係を有するものが採用される。
【0010】
例えば、前記定常適合噴射パターンとして、メイン噴射に先立ってパイロット噴射が行われるパターンが採用されている場合において、前記複数の過渡補正パラメータとして、前記メイン噴射の噴射時期を前記定常適合噴射パターンに対応する時期から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する時期からの進角量(メイン進角量)と、前記パイロット噴射の噴射量を前記定常適合噴射パターンに対応する量から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する量からの増大量(パイロット増量)と、の2つのパラメータが採用され得る。この場合、「メイン進角量及びパイロット増量の何れが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する」という特定関係が得られる。
【0011】
また、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法において、或る計測点(複数の過渡補正パラメータの組み合わせに対応する点)についての「計測処理」とは、その点に対応する複数の過渡補正パラメータの組み合わせに基づいて前記定常適合噴射パターンを補正して得られる燃料噴射パターンをもって特定過渡運転状態にて実際に燃料を噴射して得られた前記「熱発生率の変化特性」に基づいてピーク点を計測する処理である。
【0012】
ここで、「特定過渡運転状態」とは、過渡の程度が所定の基準程度となる過渡運転状態を指す。「特定過渡運転状態」としては、例えば、前記定常適合噴射パターンが適合された際の定常運転状態において既に得られている吸気酸素濃度(定常適合吸気酸素濃度)と、(センサ等を利用して)計測される現時点での吸気酸素濃度との相違量(以下、「吸気酸素濃度の相違量」と称呼する。)が所定の基準量となる過渡運転状態が採用され得る。これは、過渡の程度(噴射量及び運転速度の変化勾配等で表され得る)と前記吸気酸素濃度の相違量とが略比例関係にあることに基づく。
【0013】
このように、計測処理において「特定過渡運転状態」が使用されるのは、以下の理由に基づく。即ち、過渡の程度(噴射量及び運転速度の変化勾配等、具体的には、前記吸気酸素濃度の相違量等)が変動すると、計測処理により計測されるピーク点が変動し、この結果、適合される過渡補正パラメータも変動し得る。ここで、過渡の程度と適合される過渡補正パラメータの値とは略比例関係にあることが判っている。従って、特定過渡運転状態においてのみ過渡補正パラメータを適合しておけば、この適合結果に基づいて、特定過渡運転状態とは異なる過渡運転状態(過渡の程度が前記所定の基準程度とは異なる過渡運転状態(具体的は、例えば、前記吸気酸素濃度の相違量が前記所定の基準量とは異なる過渡運転状態))において適合されるべき過渡補正パラメータの値を推定することができる。換言すれば、特定過渡運転状態とは異なる過渡運転状態についての過渡補正パラメータの適合作業を省略することができる。
【0014】
また、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法において、複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される或る計測範囲(計測領域)の輪郭を構成する複数の計測点について前記計測処理をそれぞれ行って得られる複数のピーク点により輪郭が構成される領域を、その計測範囲(計測領域)に対応する「ピーク領域」と称呼する。
【0015】
本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法では、各運転状態(噴射量及び運転速度)に対して、以下の第1〜第6工程をそれぞれ実行して過渡補正パラメータが適合される。先ず、第1工程について説明する。
【0016】
この第1工程では、複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される第1計測範囲が決定される。この第1計測範囲は、各過渡補正パラメータについての許容される最小値から最大値までの範囲の組み合わせにより画定される範囲であることが好ましい。これは、第1計測範囲に対応するピーク領域内に前記目標点が包含され得るように第1計測範囲を出来る限り広い範囲とすることが好ましいとの考えに基づく。ここで、各過渡補正パラメータについての許容される最大値(最小値)は、各過渡補正パラメータについて適合されるべき値がその値を超える場合(その値を下回る場合)において前記定常適合噴射パターンそのものが適切でないと判定される値である。
【0017】
より好ましい態様では、第1工程では、更に、第1計測範囲に含まれる複数の計測点が決定される。前記複数の計測点は、第1計測範囲の輪郭を構成する点と、第1計測範囲の内部の点とを含む。更に、第1計測範囲を分割して得られる複数の計測領域が決定される。前記複数の計測領域の各々の輪郭は、前記複数の計測点の一部によりそれぞれ構成される。
【0018】
次に、第2工程について説明する。この第2工程では、前記第1計測範囲の内部の計測点の1つ(第1点)について前記計測処理が行われる。前記より好ましい態様では、前記第1点として、第1工程で決定された前記複数の計測点のうち前記第1計測範囲の内部の点の1つが選択され、この第1点について前記計測処理が行われる。
【0019】
次に、第3工程について説明する。この第3工程では、前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果と、前記特定関係とに基づいて、前記第1計測範囲のうちの一部の領域である除外領域が特定される。前記除外領域とは、対応するピーク領域内に前記目標点が包含され得ない領域である。前記より好ましい態様では、前記除外領域として、第1工程で決定された前記複数の計測領域のうちの1つ以上の領域が特定される。この1つ以上の領域の各々では、対応するピーク領域内に前記目標点が包含され得ない。
【0020】
以下、前記より好ましい態様における前記除外領域の具体的な特定方法について説明する。先ず、前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する関係である場合について説明する。この場合、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側(進角側)となるとき、前記除外領域として、その輪郭が第1工程で決定された前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下(以上)となる点のみにより構成される1つ以上の前記計測領域が特定される。これは、前記特定関係に起因して、複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下(以上)となる計測領域に対応するピーク領域は、目標点を包含し得ないことに基づく。
【0021】
次に、前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が遅角側にのみ移動する関係である場合について説明する。この場合も、上記と同様の考え方に基づき、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側(進角側)となるとき、前記除外領域として、その輪郭が第1工程で決定された前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以上(以下)となる点のみにより構成される前記計測領域が特定される。
【0022】
次に、第4工程について説明する。この第4工程では、前記第1計測範囲のうちで前記除外領域の内部を除いた領域に含まれる1つ計測点について前記計測処理を行って前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果を取得すること、が、前記計測処理の対象となる前記計測点を順次変更しながら少なくとも1回以上繰り返される。前記より好ましい態様では、前記計測処理の対象となる各計測点として第1工程で決定された前記複数の計測点のうち前記第1点及び前記除外領域のみの輪郭を構成する点を除いた点が選択される。
【0023】
次に、第5工程について説明する。この第5工程では、前記第4工程で取得された1つ以上の前記比較結果に基づいて、第1計測範囲のうちで前記除外領域を除いた領域に含まれる領域である第2計測範囲が特定される。前記第2計測範囲とは、対応するピーク領域内に前記目標点が包含される領域である。前記より好ましい態様では、第2計測範囲として、第1工程で決定された前記複数の計測領域のうち前記除外領域を除いた残りの計測領域のうちの1つが特定される。
【0024】
次に、第6工程について説明する。この第6工程では、前記第2計測範囲に含まれる複数の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との対応関係と、前記目標点と、所定の解析手法と、に基づいて、前記複数の過渡補正パラメータが適合される。この適合は、その点について前記計測処理を行って得られる前記ピーク点が前記目標点と一致する点を同定することにより行われる。
【0025】
前記より好ましい態様では、前記対応関係として、前記第2計測範囲に含まれる第1工程で決定された前記複数の計測点のうちで前記第2、第4工程において既に前記計測処理の対象となっている点についての前記計測点と前記ピーク点との第1対応関係のみが使用され得る。或いは、前記対応関係として、この第1対応関係に加えて、前記第2計測範囲の輪郭を構成する第1工程で決定された前記複数の計測点のうちで未だ前記計測処理の対象となっていない点を含む前記第2計測範囲に含まれる1以上の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との第2対応関係、が使用され得る。
【0026】
以上のように、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法では、対応するピーク領域内に目標点が包含される計測範囲として、第1計測範囲の一部である(従って、第1計測範囲よりも狭い)第2計測範囲が特定され、この第2計測範囲についての(第2計測範囲に含まれる複数の計測点についての)前記計測処理の結果に基づいて過渡補正パラメータの適合(従って、前記同定)が行われる(前記第6工程)。ここで、一般に、上記所定の解析手法を利用した同定が行われる場合、目標点を包含するピーク領域が狭いほど、従って、ピーク領域に対応する計測範囲が狭いほど、前記同定(即ち、ピーク点を目標点に一致させるための計測点を特定する処理)の精度が向上する。従って、第1計測範囲についての前記計測処理の結果に基づいて過渡補正パラメータの適合が行われる場合に比して、過渡補正パラメータを精度良く適合することができる。
【0027】
加えて、第2計測範囲を特定するにあたり、前記特定関係を利用して前記除外領域が特定され、この除外領域を第2計測範囲の候補から予め除外することができる(前記第3〜第5工程)。換言すれば、第2計測範囲の特定のために行われる前記計測処理の対象となる計測範囲をこの除外領域の分だけ狭くすることができる。この結果、第2計測範囲の特定に要する前記計測処理の繰り返し回数等を少なくすることができ、従って、第2計測範囲の特定に要する工数を低減できる。ひいては、過渡補正パラメータの適合に要する工数を低減できる。以上、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法によれば、(特定)過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減できる。
【0028】
次に、本発明に係る内燃機関の燃料噴射パターン決定装置について説明する。この装置では、「特定過渡運転状態」として「吸気酸素濃度の相違量」が所定の基準量となる過渡運転状態が採用される場合において上述した本発明に係る適合方法により適合された前記複数の過渡補正パラメータが利用される。この装置は、以下の手段を備える。
【0029】
運転状態パラメータ取得手段は、内燃機関の運転状態を表す所定の運転状態パラメータを取得する。この運転状態パラメータとしては、例えば、噴射量(メイン噴射とパイロット噴射が行われる場合、メイン噴射量とパイロット噴射量の和)、運転速度等が挙げられる。
【0030】
定常適合噴射パターン決定手段は、現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合噴射パターンとの予め定められた関係(テーブル、マップ等)と、に基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合噴射パターンを決定する。噴射パターンとしては、噴射量、噴射時期等が挙げられる。
【0031】
定常適合吸気酸素濃度決定手段は、現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合吸気酸素濃度との予め定められた関係(テーブル、マップ等)と、に基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合吸気酸素濃度を決定する。
【0032】
相違量算出手段は、上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合吸気酸素濃度」と、現時点で計測される吸気酸素濃度との相違量(即ち、前記「吸気酸素濃度の相違量」)を算出する。
【0033】
特定過渡補正パラメータ決定手段は、現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記適合方法を用いて予め適合された前記複数の過渡補正パラメータとの予め定められた関係と、に基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する、前記特定過渡運転状態における前記複数の過渡補正パラメータ(複数の特定過渡補正パラメータ)を決定する。
【0034】
最終過渡補正パラメータ算出手段は、上述した「吸気酸素濃度の相違量」と、上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する複数の特定過渡補正パラメータ」とに基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する、最終的な前記複数の過渡補正パラメータ(複数の最終過渡補正パラメータ)を算出する。
【0035】
そして、燃料噴射パターン決定手段は、上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合噴射パターン」を上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する複数の最終過渡補正パラメータ」で補正して、現時点での運転状態パラメータに対応する燃料噴射パターンを決定する。
【0036】
このように、「吸気酸素濃度の相違量」と「複数の特定過渡補正パラメータ」とに基づいて算出される「複数の最終過渡補正パラメータ」により定常適合噴射パターンが補正されて燃料噴射パターンが決定される。従って、現時点での運転状態が特定過渡運転状態とは異なる過渡運転状態にあっても、ピーク点を現時点での運転状態パラメータに対応する目標点に精度良く一致させることができる。この結果、過渡運転状態において、過渡の程度(噴射量及び運転速度の変化勾配等、具体的には、「吸気酸素濃度の相違量」等)にかかわらず、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した最適な燃焼状態を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、先ず、本発明による内燃機関(ディーゼル機関)の燃料噴射パターン決定装置について説明する。
【0038】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料噴射パターン決定装置を、4気筒ディーゼル機関10に適用したシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
【0039】
エンジン本体20の各気筒の上部には燃料噴射弁(噴射弁、インジェクタ)21が配設されている。各燃料噴射弁21は、図示しない燃料タンクと接続された燃料噴射用ポンプ22に燃料配管23を介して接続されている。燃料噴射用ポンプ22は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の圧力(レール圧)を調整できるようになっている。また、各燃料噴射弁21は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の量(燃料噴射量)を調整できるようになっている。
【0040】
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され同吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、電気制御装置60からの駆動信号に応答してスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34と過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36とを含んでいる。
【0041】
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装されたディーゼルパティキュレートフィルタ(DPNR)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。
【0042】
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR制御弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR制御弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量、EGR率)を変更し得るようになっている。なお、EGR率とは、本例では、燃焼室に流入する全ガス流量(新気流量+EGRガス流量)に対するEGRガス流量の割合をいう。
【0043】
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するプログラム、テーブル(マップ)、及び定数等を予め記憶したROM62、RAM63、バックアップRAM64、並びにADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。
【0044】
インターフェース65は、熱線式エアフローメータ71、スロットル弁開度センサ72、吸気酸素濃度センサ73、クランクポジションセンサ74、アクセル開度センサ75、EGR制御弁開度センサ76、及び水温センサ77と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU61に供給するようになっている。
【0045】
また、インターフェース65は、燃料噴射弁21、燃料噴射用ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPU61の指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
【0046】
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気(新気)量)を計測するようになっている。スロットル弁開度センサ72は、スロットル弁33の開度を検出するようになっている。吸気酸素濃度センサ73は、吸気マニホールド31と排気還流管51との合流地点よりも下流の吸気通路内のガス(従って、エンジン10の燃焼室に吸入されるガス)に含まれる酸素の濃度(吸気酸素濃度02)を検出するようになっている。
【0047】
クランクポジションセンサ74は、実クランク角度とともにエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度NEを検出するようになっている。アクセル開度センサ75は、アクセルペダルAPの操作量(アクセルペダル操作量Accp)を検出するようになっている。EGR制御弁開度センサ76は、EGR制御弁52の開度(EGR制御弁開度θegr)を検出するようになっている。水温センサ77は、冷却水の温度(冷却水温THW)を検出するようになっている。
【0048】
(燃料噴射パターンの決定)
次に、上記のように構成された燃料噴射パターン決定装置(以下、「本装置」という。)による燃料噴射パターンの決定方法について、機能ブロック図である図2を参照しながら説明する。図2に示すように、本装置は、手段B1〜B7を備えている。
【0049】
総噴射量決定手段B1では、エンジン回転速度NEと、アクセルペダル操作量Accpと、NE,Accpを引数とする総噴射量Qを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(運転状態パラメータNE,Accp)に対応する総噴射量Q(指令値)が決定される。本例では、圧縮上死点近傍でのメイン噴射に先立って圧縮行程にてパイロット噴射が実行される。従って、総噴射量Qは、メイン噴射の噴射量(メイン噴射量)とパイロット噴射の噴射量(パイロット噴射量)との和である。
【0050】
定常適合噴射パターン決定手段B2では、上記決定された総噴射量Qと、エンジン回転速度NEと、Q,NEを引数とする定常適合噴射パターンを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(運転状態パラメータQ,NE)に対応する定常適合噴射パターンが決定される。具体的には、定常適合噴射パターンとして、パイロット噴射についての噴射時期及び噴射量である、定常適合パイロット噴射時期Injstdp及び定常適合パイロット噴射量Qstdp、並びに、メイン噴射についての噴射時期及び噴射量である、定常適合メイン噴射時期Injstdm及び定常適合メイン噴射量Qstdmが決定される。ここで、Q=Qstdp+Qstdmが成立する。
【0051】
定常適合噴射パターンとは、定常運転状態(Q,NEが一定)において、「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」におけるピーク(ピーク点、後述する図5を参照)が、その運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターン及びEGR制御弁開度を適合して得られた噴射パターンである。以下、ピーク点に対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度をそれぞれ、「ピーク高さ」及び「ピーク位置」とも称呼する。なお、「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」は周知の手法の一つを利用して取得することができるから、この変化特性に基づいてピーク点(ピーク高さ及びピーク位置)を取得することができる。
【0052】
運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する上記目標点は、その運転状態(Q,NEの組み合わせ)において失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した上で最適な燃焼状態が得られている状態に対応するピーク点である。定常適合噴射パターンを決定する上記テーブルは、定常運転状態(Q,NEが一定)においてピーク点がその運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点に一致するように噴射パターン及びEGR制御弁開度を適合する実験を、Q,NEの組み合わせを種々変更しながら繰り返し実行することで作製され得る。
【0053】
定常適合吸気酸素濃度決定手段B3では、上記決定された総噴射量Qと、エンジン回転速度NEと、Q,NEを引数とする定常適合吸気酸素濃度O2stdを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(運転状態パラメータQ,NE)に対応する定常適合吸気酸素濃度O2stdが決定される。
【0054】
定常適合吸気酸素濃度O2stdとは、定常運転状態(Q,NEが一定)において、ピーク点がその運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターン及びEGR制御弁開度が適合された状態における吸気酸素濃度である。定常適合吸気酸素濃度O2stdを決定する上記テーブルは、上述した噴射パターン及びEGR制御弁開度が適合される実験中において定常運転状態(Q,NEが一定)にて噴射パターン及びEGR制御弁開度が適合された状態において吸気酸素濃度を検出する処理を、Q,NEの組み合わせが変更される毎に繰り返し実行することで作製され得る。
【0055】
吸気酸素濃度相違量算出手段B4では、上記決定された定常適合吸気酸素濃度O2stdから吸気酸素濃度センサ73により検出される現時点での吸気酸素濃度O2を減じることで、吸気酸素濃度相違量ΔO2(=(O2std−O2)/O2std、単位:%)が算出される。後述するように、この吸気酸素濃度相違量ΔO2は、過渡運転状態における過渡の程度(噴射量及びエンジン回転速度の変化勾配等で表され得る)を表す。
【0056】
特定過渡補正パラメータ決定手段B5では、上記決定された総噴射量Qと、エンジン回転速度NEと、Q,NEを引数とする特定過渡補正パラメータを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する特定過渡補正パラメータが決定される。具体的には、特定過渡補正パラメータとして、パイロット増量Δqpと、メイン進角量Δinjとが決定される。パイロット増量Δqpとは、パイロット噴射量を上記定常適合パイロット噴射量Qstdpから補正するためのQstdpからの増大量である。メイン進角量Δinjとは、メイン噴射の噴射時期を上記定常適合メイン噴射時期Injstdmから補正するためのInjstdmからの進角量である。
【0057】
特定過渡補正パラメータとは、吸気酸素濃度相違量ΔO2=1%となる過渡運転状態(以下、「特定過渡運転状態」と称呼する)においてピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターンを定常適合噴射パターンから補正するためのパラメータである。従って、特定過渡補正パラメータ(Δqp,Δinj)はピーク高さ及びピーク位置に相関する値である。各運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての特定過渡補正パラメータは、各運転状態(Q,NEの組み合わせ)について後に詳述するように適合されてそれぞれ決定される。特定過渡補正パラメータを決定する上記テーブルは、各運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての特定過渡補正パラメータの適合結果を集めることで作製され得る。
【0058】
最終過渡補正パラメータ算出手段B6では、上記決定された特定過渡補正パラメータ(Δqp,Δinj)に上記算出された吸気酸素濃度相違量ΔO2(単位:%)を乗じることで、最終過渡補正パラメータが算出される。具体的には、最終過渡補正パラメータとして、最終パイロット増量ΔQp(=Δqp・ΔO2)と、最終メイン進角量ΔInj(=Δinj・ΔO2)とが算出される。
【0059】
最終過渡補正パラメータとは、現時点での過渡運転状態においてピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターンを定常適合噴射パターンから補正するためのパラメータである。このように最終過渡補正パラメータを算出するのは、過渡運転状態における過渡の程度を表す吸気酸素濃度相違量ΔO2と、最終過渡補正パラメータの値とが略比例関係にあることが判っていることに基づく。
【0060】
最終噴射パターン決定手段B7では、上記決定された定常適合噴射パターンを上記算出された最終過渡補正パラメータで補正することで、最終噴射パターンが決定される。具体的な最終噴射パターンとして、最終パイロット噴射時期Injfinpが定常適合パイロット噴射時期Injstdpから最終メイン進角量ΔInjだけ進角した時期に決定され、最終パイロット噴射量Qfinpが定常適合パイロット噴射量Qstdpに最終パイロット増量ΔQpを加えた値(Qstdp+ΔQp)に決定される。最終メイン噴射時期Injfinmが定常適合メイン噴射時期Injstdmから最終メイン進角量ΔInjだけ進角した時期に決定され、最終メイン噴射量Qfinmが定常適合メイン噴射量Qstdmから最終パイロット増量ΔQpを減じた値(Qstdm−ΔQp)に決定される。これにより、定常適合噴射パターンと最終噴射パターンとの間で、総噴射量、及び、「パイロット噴射時期とメイン噴射時期との間隔」が変化しない。以上が、本装置による燃料噴射パターンの決定方法の概要である。
【0061】
最終噴射パターン決定手段B7で決定された最終噴射パターンは、CPU61により燃料噴射弁21に送信される。これにより、この最終噴射パターンをもって燃料噴射の対象となる気筒についての燃料噴射弁21から燃料が噴射される(即ち、パイロット噴射及びメイン噴射がなされる)。
【0062】
また、本装置では、定常運転状態であるか過渡運転状態であるかにかかわらず、EGR制御弁52の開度(EGR制御弁開度θegr)が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合EGR制御弁開度θegrstdと一致するようにフィードバック制御される。ここで、定常適合EGR制御弁開度θegrstdとは、定常運転状態(Q,NEが一定)において、ピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように上述のように噴射パターン及びEGR制御弁開度を適合して得られたEGR制御弁開度である。従って、定常適合EGR制御弁開度θegrstdは、運転状態(Q,NEの組み合わせ)に応じて変化する。
【0063】
定常運転状態(Q,NEが一定)では、吸気酸素濃度センサ73により検出される現時点での吸気酸素濃度O2が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合吸気酸素濃度O2stdと一致するから、吸気酸素濃度相違量ΔO2=0(単位:%)となる。従って、最終過渡補正パラメータがゼロ(ΔQp=0、ΔInj=0°)となって、最終噴射パターンが現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンと一致する。これにより、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンをもって燃料が噴射され、この結果、ピーク点が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致する。換言すれば、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した上で最適な燃焼状態が得られる。
【0064】
図5(a)に示した実線は、或る定常運転状態(Q,NEの組み合わせ)においてピーク点がその運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致している場合における「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」の一例を示している。
【0065】
一方、過渡運転状態(Q,NEが変化中)では、吸気酸素濃度センサ73により検出される現時点での吸気酸素濃度O2が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合吸気酸素濃度O2stdと一致せず、吸気酸素濃度相違量ΔO2≠0(単位:%)となる。以下、この点について付言する。
【0066】
図3に示すように、エンジン回転速度NEが或る値で一定の場合において、総噴射量Q=Qa,Qbのとき(Qa<Qb)、それぞれ、定常適合EGR制御弁開度θegrstd=a,bとなるものとする(a>b)。この場合、EGR制御弁開度が大きいほど吸気酸素濃度が小さくなることに起因して、Q=Qa,QBのとき、それぞれ、定常適合吸気酸素濃度O2std=c,dとなる(c<d)。
【0067】
図4に示すように、時刻t1以前において総噴射量Q=Qaで定常運転状態にある場合において時刻t1にてQがQaからQbにステップ的に増大する(従って、時刻t1以降、NEも増大していく)過渡運転状態が発生する場合を考える。この場合、図4に示すように、時刻t1において、定常適合EGR制御弁開度θegrstdがaからbへとステップ的に減少し、且つ、定常適合吸気酸素濃度O2stdがcからdへとステップ的に増大する。
【0068】
ここで、EGR制御弁52の開度を制御するアクチュエータの応答性が非常に高いものとすると、時刻t1において、定常適合EGR制御弁開度θegrstdがaからbへとステップ的に減少することに伴って実際のEGR制御弁開度θegrもaからbへとステップ的に減少し得る。即ち、常時、θegrはθegrstdと一致し得る。
【0069】
一方、時刻t1において、定常適合吸気酸素濃度O2stdがcからdへとステップ的に増大しても、実際の吸気酸素濃度O2は、時刻t1においてcからdへとステップ的に増大し得ず、時刻t1以降、或る遅れを伴って02stdに追従していく(cからdへと徐々に近づいていく。図4の破線を参照)。これは、EGR制御弁52を通過したガスが吸気酸素濃度センサ73の近傍に到達するまでには所定の時間を要することに起因して、θegrの変化が吸気酸素濃度センサ73により検出される吸気酸素濃度O2の変化として直ちに現れ得ないことに基づく。この結果、時刻t1以降、ΔO2>0となる期間が発生する。
【0070】
このように、過渡運転状態では、ΔO2≠0(単位:%)となり得る。ここで、燃焼速度は吸気酸素濃度に依存して変化し得るから、燃焼速度に影響を受けるピーク点も吸気酸素濃度に依存して移動し得る。従って、図5(a)に破線で示すように、過渡運転状態では、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンをもって燃料を噴射すると、ピーク点が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点(=実線のピーク点)から偏移し、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した最適な燃焼状態が得られない。
【0071】
これに対し、本装置では、過渡運転状態(ΔO2≠0)では、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンを上述した最終過渡補正パラメータ(ΔQp,ΔInj)で補正して得られる噴射パターンをもって燃料が噴射される。この結果、図5(b)に破線で示すように、過渡運転状態においても、ピーク点が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致し得る。
【0072】
また、この最終過渡補正パラメータ(ΔQp,ΔInj)が、ΔO2=1%となる特定過渡運転状態で適合された特定過渡補正パラメータ(Δqp,Δinj)に吸気酸素濃度相違量ΔO2(単位:%)を乗じることで算出される。これは、上述のように、過渡運転状態における過渡の程度を表す吸気酸素濃度相違量ΔO2と最終過渡補正パラメータ(ΔQp,ΔInj)の値とが略比例関係にあることが判っていることに基づく。この結果、現時点での運転状態が特定過渡運転状態と異なる過渡運転状態(ΔO2≠1%)にあっても、ピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致し得る。即ち、過渡の程度(即ち、ΔO2の大きさ)にかかわらず、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した最適な燃焼状態を安定して得ることができる。
【0073】
(特定過渡補正パラメータの適合)
次に、上述した特定過渡補正パラメータ決定手段B5で決定される特定過渡補正パラメータ(具体的には、パイロット増量Δqp、及びメイン進角量Δinj)の本発明に係る適合方法について説明する。
【0074】
以下、パイロット増量とメイン進角量との組み合わせに対応する点を「計測点」と称呼し、パイロット増量とメイン進角量との組み合わせにより表される範囲(領域)を「計測範囲(領域)」と称呼するものとする。
【0075】
また、或る計測点に対応するパイロット増量とメイン進角量との組み合わせに基づいて上述した最終噴射パターン決定手段B7と同様に定常適合噴射パターンを補正して計測用の噴射パターンを決定し、ディーゼル機関10を実際に運転して得られた上記特定過渡運転状態(ΔO2=1%)にて前記計測用の噴射パターンをもって実際に燃料を噴射して「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」を取得し、この取得された変化特性に基づいてピーク点を計測する処理を、その計測点についての「計測処理」と称呼する。従って、この「計測処理」は、「計測点とピーク点との対応関係」を得る処理ということもできる。
【0076】
加えて、或る計測範囲(領域)の輪郭を構成する複数の計測点について「計測処理」をそれぞれ行って得られる複数のピーク点により輪郭が構成される領域(ピーク位置とピーク高さとの組み合わせにより表される領域)を、その計測範囲(計測領域)に対応する「ピーク領域」と称呼する。
【0077】
本発明に係る適合方法では、周知の解析手法の一つである2次応答曲面解析法を利用して、複数の「計測点とピーク点との対応関係」と目標点とから、ピーク点を目標点と一致させるための計測点(同定点)が同定される。この同定点に対応するパイロット増量及びメイン進角量がそれぞれ、適合されたパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjとなる。
【0078】
この2次応答曲面解析法が用いられる場合、少なくとも6つの「計測点とピーク点との対応関係」が必要となる。ここで、「計測点とピーク点との対応関係」の個数が多いほど同定点の同定精度が向上する。一方、「計測点とピーク点との対応関係」の個数が多いことは、実行すべき「計測処理」の回数が多いこと、従って、特定過渡補正パラメータの適合に要する工数が大きいことを意味する。以上より、本例では、2次応答曲面解析法の利用に際し、9つの「計測点とピーク点との対応関係」が使用される。この9つの「計測点とピーク点との対応関係」は、9つの計測点についてそれぞれ「計測処理」を実行して9つのピーク点が計測されることで得られる。
【0079】
上述したように、特定過渡補正パラメータ(パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinj)は、運転状態(Q,NEの組み合わせ)毎に、上記特定過渡運転状態においてピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように適合される。
【0080】
図6は、或る運転状態(Q=Q1,NE=NE1)に対応する目標点を示している。以下、この運転状態(Q=Q1,NE=NE1)を例にとって、この運転状態(Q=Q1,NE=NE1)について特定過渡補正パラメータを適合する方法について説明する。
【0081】
図7は、計測範囲として、パイロット増量(mm3/st)の0〜3の範囲、及びメイン進角量(deg)の0〜3の範囲の組み合わせにより画定される範囲が使用され(斜線で示した領域を参照)、この計測範囲内に9つの計測点(計測点1〜9)が配置された一例を示す。この例では、計測点5を除く8つの計測点が計測範囲の輪郭を構成する点に対応し、計測点5が計測範囲の内部の点に対応する。
【0082】
図7に示した計測点1〜9の各々について運転状態(Q=Q1,NE=NE1)に対する「計測処理」が実行される。図8は、この結果得られた9つのピーク点(ピーク点1〜9)の分布の一例を示す。ここで、ピーク点nは計測点nに対応する(n:1,2,…,8,9)。図8において、ピーク点5を除く8つのピーク点により輪郭が構成される領域が、ピーク領域に対応する(微細なドットで示した領域を参照)。目標点(黒い三角を参照)はこのピーク領域内に包含されている。
【0083】
図7、図8に示すように、「計測点とピーク点との対応関係」において、ピーク高さは、パイロット増量が増大しても(1→4→7、2→5→8、3→6→9)、メイン進角量が増大しても(1→2→3、4→5→6、7→8→9)、増加・減少し得る。一方、ピーク位置は、パイロット増量が増大しても(1→4→7、2→5→8、3→6→9)、メイン進角量が増大しても(1→2→3、4→5→6、7→8→9)、必ず進角していく。以下、「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大してもピーク位置が必ず進角していく」という関係を、「特定関係」と称呼する。
【0084】
図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて、2次応答曲面解析法が適用されて、図9、図10に3次元的に表現され得る所定の実験式が作成される。この実験式の作成については周知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0085】
このようにして得られた実験式と、図6(図8)に示す目標点と、から、ピーク点をこの目標点と一致させるための計測点(=同定点)が同定される。この同定についても周知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。図11は、同定された同定点の一例を示す。この同定点に対応するパイロット増量及びメイン噴射量がそれぞれ、運転状態(Q=Q1,NE=NE1)に対して適合されたパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjとなる。
【0086】
本発明に係る適合方法では、以上の手順に従って特定過渡補正パラメータ(パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinj)を適合する作業が、運転状態(Q,NEの組み合わせ)を変更しながら繰り返し実行される。各運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての特定過渡補正パラメータの適合結果を集めることで、上述した特定過渡補正パラメータ決定手段B5が使用するテーブルが作製され得る。
【0087】
(計測範囲の設定)
次に、2次応答曲面解析法の利用に際して決定される計測範囲について述べる。上述した図7、図8に対応する図12、図13に示すように、計測範囲(斜線で示した領域を参照)が広いと、ピーク領域(微細なドットで示した領域を参照)が広くなってピーク領域が目標点を包含し易くなる。従って、計測範囲をできるだけ広い範囲とするため、計測範囲を、パイロット増量及びメイン進角量のそれぞれの最小値から最大値までの範囲の組み合わせにより画定される範囲に決定することも考えられる。以下、このような計測範囲を「第1計測範囲」とも称呼する。ここで、パイロット増量(メイン進角量)についての最大値(最小値)とは、パイロット増量(メイン進角量)について適合されるべき値がその値を超える場合(その値を下回る場合)において定常適合噴射パターンそのものが適切でないと判定される値である。
【0088】
しかしながら、一般に、目標点を包含するピーク領域が広いほど、従って、ピーク領域に対応する計測範囲が広いほど、同定点の同定の精度が低下する。加えて、ピーク領域が広いと、例えば、図13に示すように、ピーク領域の形状において突出する部分(図13では、ピーク点1を先端とする突出部分)が発生し易い。ピーク領域において係る突出部分が存在すると、このことによっても同定点の同定の精度が低下する。
【0089】
一方、図12、図13に対応する図14、図15に示すように、計測範囲を前記第1計測範囲よりも狭い範囲(以下、「第2計測範囲」とも称呼する。)に設定することで、目標点を包含し、且つ、上述した突出部分が存在しない狭いピーク領域が形成され得る。図12に示す9つの計測点1〜9と図13に示す9つのピーク点1〜9とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて同定点を同定する場合に比して、図14に示す9つの計測点1〜9と図15に示す9つのピーク点1〜9とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて同定点を同定する場合の方が、同定の精度が高い。
【0090】
図16は、このことを確認した実験の結果を示している。黒丸は、ディーゼル機関を実際に運転してピーク点を目標点と一致させるためのパイロット増量及びメイン進角量の組み合わせを計測・特定した結果を示している。白三角は、計測範囲を第1計測範囲に設定して上述した手順に従って同定点を同定した結果を示している。白四角は、計測範囲を第2計測範囲に設定して上述した手順に従って同定点を同定した結果を示している。図16では、3種類の運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての結果を示している。
【0091】
図16から理解できるように、3種類の運転状態(Q,NEの組み合わせ)の全てについて、白四角が白三角に比して黒丸に近い。このことは、計測範囲を、第1計測範囲よりも狭く且つ対応するピーク領域が目標点を包含する第2計測範囲に設定すると、計測範囲を第1計測範囲に設定する場合に比して、同定点の同定の精度(従って、特定過渡補正パラメータの適合の精度)が向上することを意味する。
【0092】
このような第2計測範囲(第1計測範囲より狭く且つ対応するピーク領域が目標点を包含する計測範囲)は、第1計測範囲内で網羅的に設定された多数の計測点について網羅的に「計測処理」を行うことで特定することができる。しかしながら、「計測処理」を網羅的に多数回に亘って繰り返し実行する必要が生じ、第2計測範囲の特定のために膨大な工数が必要となる。
【0093】
本発明に係る適合方法では、以下に述べる手法を採用することで、上記のように「計測処理」を網羅的に繰り返す場合に比して、少ない工数(具体的には、少ない「計測処理」の繰り返し回数)をもって第2計測範囲が特定され得る。以下、この手法について、図17に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0094】
図18に示すように、先ず、第2計測範囲の特定のために、第1計測範囲が設定され、この第1計測範囲内にて9つの計測点(計測点1〜9)が配置される。計測点5を除く8つの計測点が第1計測範囲の輪郭を構成する点に対応し、計測点5は第1計測範囲の内部の点に対応する。第1計測範囲は、計測点2,3,5,6により輪郭が構成される計測領域(a)と、計測点1,2,4,5により輪郭が構成される計測領域(b)と、計測点4,5,7,8により輪郭が構成される計測領域(c)と、計測点5,6,8,9により輪郭が構成される計測領域(d)と、の4つの計測領域からなる。この手法では、この4つの計測領域の何れか1つが第2計測範囲として特定される。
【0095】
説明の便宜上、計測点1〜9にそれぞれ対応するピーク点1〜9、並びに、計測領域(a)〜(d)にそれぞれ対応するピーク領域(a)〜(d)が、図19に示すように配置され且つピーク領域(d)内に目標点が包含される場合を例にとって説明する。ピーク点1〜9が図19に示すように配置される場合を例にとったのは、一般に、メイン進角量が増大すると、ピーク位置が進角することに加えてピーク高さが増大し(図18、図19中の実線の矢印を参照)、パイロット増量が増大すると、ピーク位置が進角することに加えてピーク高さが減少する(図18、図19中の破線の矢印を参照)傾向が強いことが判っていることに基づく。この例では、図17に示す太線で示される流れに従って処理が進行し、第2計測範囲として計測領域(d)(図18を参照)が特定されることになる。
【0096】
なお、図19において、目標点は既知である。一方、ピーク点1〜9(従って、ピーク領域(a)〜(d))の配置(従って、ピーク領域(d)内に目標点が包含されていること)は、実際には、計測点1〜9のいくつかについて「計測処理」を行わない限り知り得ない。また、図19に示す、x軸にピーク位置を、y軸にピーク高さをとるx−y直交座標系において、ピーク点nの位置を(xn,yn)で表す(n:1,2,…,8,9)。既知である目標点の位置は、(x0,y0)であるものとする。
【0097】
以下、図17に示す太線で示される処理の流れの詳細について順に説明していく。先ず、第1計測範囲の内部の点である計測点5(前記「第1点」に対応)について「計測処理」が行われて、計測点5に対応するピーク点5の位置(x5,y5)が計測される。次いで、目標点のピーク位置x0とピーク点5のピーク位置x5とが比較され、x5>x0が成立するか否かが判定される(図20を参照)。
【0098】
この例では、ピーク点5のピーク位置が目標点のピーク位置よりも遅角側にあって、x5>x0が成立している。従って、この判定では、「Yes」と判定される。このことは、上述した「特定関係」、即ち、「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず進角(遅角)していく」という関係を鑑みれば、パイロット増量及びメイン進角量が共に計測点5に対応する値以下となる計測領域(この例では、計測領域(b)に対応)が、「除外領域」として特定できることを意味する。「除外領域」とは、対応するピーク領域(この例では、ピーク領域(b))内に目標点が包含され得ない領域である。
【0099】
この判定により、この例では、「除外領域」である計測領域(b)が、第2計測範囲の候補から予め除外される(ピーク領域(b)は目標点を包含し得ない)。従って、現時点では、目標点を包含し得るピーク領域の候補は、ピーク領域(b)を除いたピーク領域(a)(c)(d)となり、第2計測範囲の候補は、計測領域(b)を除いた計測領域(a)(c)(d)となる。なお、この判定で「No」と判定される場合、上記「特定関係」を鑑みた同様の理由に基づいて、計測領域(d)が「除外領域」として特定されることになる。
【0100】
以降、ピーク領域(a)(c)(d)のうちで目標点を包含するピーク領域を特定するため、既に「計測処理」が実行されている計測点5及び除外領域(=計測領域(b))のみの輪郭を構成する計測点1を少なくとも除いた計測点の何れかについて「計測処理」を実行していく必要がある。その際、図18に示す計測領域(a)(c)(d)の位置関係、及び図19に示すピーク領域(a)(c)(d)の位置関係を考慮して、先ず、計測点6又は計測点8から「計測処理」を行うことを考える。このため、以下の処理が行われる。
【0101】
先ず、目標点のピーク高さy0とピーク点5のピーク高さy5とが比較され、y5>y0が成立するか否かが判定される(図21を参照)。この例では、ピーク点5のピーク高さが目標点のピーク高さよりも小さいから、y5>y0が成立していない。従って、この判定では、「No」と判定される。このことは、図19に示すピーク領域(a)(c)(d)の位置関係に鑑みれば、ピーク領域(a)と(c)ではピーク領域(a)の方が目標点を包含する可能性が高いと推測できることを意味する。従って、目標点が、ピーク領域(a)に包含されるか否か(即ち、目標点が、ピーク領域(a)に包含されるか又はピーク領域(c)(d)の何れかに包含されるか)を判定することを考える。なお、この判定(y5>y0)で「Yes」と判定される場合、目標点が、ピーク領域(c)に包含されるか否か(即ち、目標点が、ピーク領域(c)に包含されるか又はピーク領域(a)(d)の何れかに包含されるか)を判定することを考えることになる。
【0102】
この例では、目標点がピーク領域(a)に包含されるか否かを判定するため、次に、計測点6について「計測処理」が行われて、計測点6に対応するピーク点6の位置(x6,y6)が計測される。次いで、ピーク点6とピーク点5を結ぶ上記x−y直交座標系上の直線f65を表す式f65(x)が計算される(図22を参照)。次に、f65(x0)<y0が成立するか否かが判定される。この例では、図22に示すように、f65(x0)>y0が成立している。従って、この判定では、「No」と判定される。このことは、ピーク領域(a)は目標点を包含しないことを意味し得る。従って、現時点では、目標点を包含し得るピーク領域の候補は、ピーク領域(c)(d)となり、第2計測範囲の候補は、計測領域(c)(d)となる。よって、次に、目標点が、ピーク領域(c)に包含されるか又はピーク領域(d)に包含されるかを判定することを考える。なお、この判定(f65(x0)<y0)で「Yes」と判定される場合、ピーク領域(a)が目標点を包含することを意味し得るから、第2計測範囲として計測領域(a)が特定される。
【0103】
この例では、目標点がピーク領域(c)に包含されるか又はピーク領域(d)に包含されるかを判定するため、次に、計測点8について「計測処理」が行われて、計測点8に対応するピーク点8の位置(x8,y8)が計測される。次いで、ピーク点8とピーク点5を結ぶ上記x−y直交座標系上の直線f85を表す式f85(x)が計算される(図23を参照)。次に、f85(x0)>y0が成立するか否かが判定される。この例では、図23に示すように、f85(x0)<y0が成立している。従って、この判定では、「No」と判定される。このことは、ピーク領域(d)が目標点を包含することを意味し得る。従って、第2計測範囲として計測領域(d)が特定される。なお、この判定(f85(x0)>y0)で「Yes」と判定される場合、ピーク領域(c)が目標点を包含することを意味し得るから、第2計測範囲として計測領域(c)が特定される。
【0104】
以上の手順により、この例では、図24に示すように、第2計測範囲として計測領域(d)が特定される(斜線で示した領域を参照)。そして、この第2計測範囲内に含まれる9つの計測点が設定され、上述した手法により、この9つの計測点についての9つの「計測点とピーク点との対応関係」と、目標点(x0,y0)と、2次応答曲面解析法とを利用して、ピーク点を目標点と一致させるための計測点(同定点)が同定される。この同定点に対応するパイロット増量及びメイン進角量がそれぞれ、適合されたパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjとなる。
【0105】
図24に示す例では、この9つの計測点として、既に設定されている計測点5,6,8,9と、新たに設定された計測点A,B,C,D,Eとが使用されている。この9つの計測点のうちで、第2計測範囲の輪郭を構成する計測点5,6,8については既に「計測処理」が実行されているから再度「計測処理」を実行する必要がない(実行済みの計測結果が流用され得る)。一方、第2計測範囲の輪郭を構成する計測点9,B,C,D,E、並びに、第2計測範囲の内部の点である計測点Aについては未だ「計測処理」が実行されていないから「計測処理」を新たに実行する必要がある。
【0106】
ここで、上述の例で注目すべきことは、既に設定されていた計測点1〜9のうちで「計測処理」が実行された計測点5,6,8についての「計測処理」の結果が全てパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjの適合に流用できることである。即ち、この場合、結果的に無駄な「計測処理」が1回も実行されなかったといえる。これに対し、例えば、上述した判定(f85(x0)>y0)にて「Yes」と判定される場合、即ち、第2計測範囲として計測領域(c)が特定される場合、計測点6についての「計測処理」の結果がパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjの適合に流用できない。しかしながら、この場合でも、結果的に無駄な「計測処理」を1回のみとすることができる。
【0107】
そして、図24に示す9つの計測点と、この9つの計測点にそれぞれ対応する図25に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて、2次応答曲面解析法が適用されて、パイロット増量Δqp及びメイン進角量が適合される。ここにおいて、計測点5,6,8についての「計測点とピーク点との対応関係」が前記「第1対応関係」に対応し、計測点9,A,B,C,D,Eについての「計測点とピーク点との対応関係」が前記「第2対応関係」に対応する。
【0108】
以上、図17に示す太線で示される流れに従って処理が進行する場合について説明した。これと異なる流れに従う場合も同様の考え方により、計測領域(a)〜(d)の何れか1つが第2計測範囲として特定され、特定された第2計測範囲についての9つの「計測処理」の結果に基づいて、パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjが適合される。
【0109】
以上、説明したように、本発明に係る適合方法によれば、対応するピーク領域内に目標点が包含される計測範囲として、第1計測範囲の一部であって第1計測範囲よりも狭い第2計測範囲が特定され、この第2計測範囲についての複数の「計測処理」の結果に基づいて特定過渡補正パラメータ(パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinj)の適合が行われる。従って、第1計測範囲についての複数の「計測処理」の結果に基づいて過渡補正パラメータの適合が行われる場合に比して、過渡補正パラメータを精度良く適合することができる。
【0110】
更には、第2計測範囲を特定するにあたり、「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず進角(遅角)していく」という「特定関係」を利用して「除外領域」が特定され、この「除外領域」が第2計測範囲の候補から予め除外される。従って、第2計測範囲の特定のために行われる「計測処理」の対象となる計測範囲を「除外領域」の分だけ狭くできる。この結果、第2計測範囲の特定に要する「計測処理」の繰り返し回数等を少なくでき、従って、第2計測範囲の特定に要する工数を低減できる。ひいては、過渡補正パラメータの適合に要する工数を低減できる。以上のことから、(特定)過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減できる。
【0111】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「過渡補正パラメータ」としてパイロット増量及びメイン進角量が採用され、「特定関係」として「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず進角(遅角)していく」という関係が利用されているが、「過渡補正パラメータ」としてその他のパラメータが採用され、「特定関係」として「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず遅角(進角)していく」という関係が利用されてもよい。また、「過渡補正パラメータ」として、例えば、燃料の噴射圧力(レール圧力)が採用されてもよい。
【0112】
また、上記実施形態においては、前記「所定の解析手法」として2次応答曲面解析法が採用されているが、その他の周知の解析手法が採用されてもよい。この場合、必要となる「計測点とピーク点との対応関係」が6つ未満となる場合もあり得る。
【0113】
加えて、上記実施形態においては、内燃機関としてディーゼル機関が採用されているが、火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)が採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射パターン決定装置を4気筒ディーゼル機関に適用したシステム全体の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射パターン決定装置により燃料噴射パターンが決定される際の機能ブロック図である。
【図3】総噴射量と、定常適合吸気酸素濃度及び定常適合EGR制御弁開度と、の関係を示したグラフである。
【図4】過渡運転状態において定常適合吸気酸素濃度と実際の吸気酸素濃度との間に差が生じることを説明するための図である。
【図5】過渡運転状態において、定常適合噴射パターンを過渡補正パラメータで補正して得られる噴射パターンをもって燃料を噴射することで、過渡運転状態においてもピーク点が目標点に一致することを説明するための図である。
【図6】ピーク位置とピーク高さの組み合わせで表される目標点の一例を示した図である。
【図7】パイロット増量とメイン進角量の組み合わせで表される計測範囲、及び計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図8】図7に示した複数の計測点及び計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図9】図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて2次応答曲面解析法を適用して作成される、ピーク位置についての実験式を3次元的に表現した図である。
【図10】図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて2次応答曲面解析法を適用して作成される、ピーク高さについての実験式を3次元的に表現した図である。
【図11】図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」と、図6に示した目標点と、から2次応答曲面解析法を適用して同定された同定点の一例を示した図である。
【図12】パイロット増量とメイン進角量の組み合わせで表される第1計測範囲、及び第1計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図13】図12に示した複数の計測点及び第1計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図14】パイロット増量とメイン進角量の組み合わせで表される第2計測範囲、及び第2計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図15】図14に示した複数の計測点及び第2計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図16】計測範囲を、第1計測範囲よりも狭く且つ対応するピーク領域が目標点を包含する第2計測範囲に設定すると、同定点の同定の精度(特定過渡補正パラメータの適合の精度)が向上することを説明するための図である。
【図17】本発明の実施形態に係る過渡補正パラメータの適合方法による、第2計測範囲を特定するためのフローチャートである。
【図18】第1計測範囲、及び第1計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図19】図18に示した複数の計測点及び計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図20】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第1の判定の様子を説明するための図である。
【図21】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第2の判定の様子を説明するための図である。
【図22】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第3の判定の様子を説明するための図である。
【図23】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第4の判定の様子を説明するための図である。
【図24】第1計測範囲よりも狭い第2計測範囲内にて複数の計測点が配置される様子を示した図である。
【図25】図24に示した複数の計測点及び計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0115】
21…燃料噴射弁、60…電気制御装置、61…CPU、73…吸気酸素濃度センサ、74…クランクポジションセンサ、75…アクセル開度センサ、76…EGR制御弁開度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法、及び、その適合方法を用いて適合された過渡補正パラメータを利用した内燃機関の燃料噴射パターン決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮して、燃料噴射パターン等の制御パラメータが決定される必要がある。このため、一般に、上記制御パラメータが、各定常運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対して上記観点等を考慮した最適な燃焼状態が得られるように予め実験等を通して適合されている。定常運転状態とは、例えば、噴射量及び運転速度が一定に維持される運転状態をいう。
【0003】
特許文献1では、各定常運転状態に対して、上記制御パラメータについての予め設定された複数の代表値(代表的な組み合わせ)について燃焼状態を表す特性値がそれぞれ計測される。この計測結果と所定の解析手法とに基づいて制御パラメータと特性値との関係を規定するモデル式が求められる。このモデル式を用いて制御パラメータが適合される。
【特許文献1】特開2004−263680号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、上記燃焼状態を表す特定値として、「内燃機関のクランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」におけるピークに対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度(ピーク高さ及びピーク位置)が挙げられる(後述する図5を参照)。このピーク高さ及びピーク位置は、失火発生、出力トルク、並びに燃焼騒音等と強い相関がある。加えて、このピーク高さ及びピーク位置は、燃料噴射パターン(噴射時期、噴射量等)により決定される。
【0005】
従って、各定常運転状態に対して、ピーク高さ及びピーク位置の組み合わせに対応する点(ピーク点)が上記最適な燃焼状態に対応する目標点(運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に応じて変動し得る)となるように燃料噴射パターンが適合され得る。以下、このように定常運転状態についてピーク点が目標点となるように適合された燃料噴射パターンを「定常適合噴射パターン」と称呼する。
【0006】
定常運転状態では、現時点での運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対応する上記定常適合噴射パターンをもって燃料を噴射することで、上述のように、ピーク点が現時点での運転状態に対応する目標点と一致し、上記観点を考慮した最適な燃焼状態が得られる。一方、噴射量及び運転速度が変化している運転状態(過渡運転状態)では、現時点での運転状態に対応する上記定常適合噴射パターンをもって燃料を噴射しても、ピーク点が現時点での運転状態に対応する目標点から偏移し、上記観点を考慮した最適な燃焼状態が得られない場合が発生し得る。これは、過渡運転状態では、吸気酸素濃度(従って、燃焼室内の酸素濃度)の応答遅れ等が発生することに基づく(詳細は後述する。)。
【0007】
従って、過渡運転状態においては、ピーク点が現時点での運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対応する目標点となるように、定常適合噴射パターンを複数のパラメータ(過渡補正パラメータ)を用いて補正して得られる燃料噴射パターンをもって燃料を噴射することが考えられる。この場合、各運転状態(噴射量及び運転速度の組み合わせ)に対して、過渡運転状態でのピーク点が現時点での運転状態に対応する目標点となるように、複数の過渡補正パラメータを適合する必要がある。
【0008】
本発明は、このように過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための複数の過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減できる、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法を提供することにある。
【0009】
本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法では、前記複数の過渡補正パラメータとして、前記ピーク高さ及びピーク位置に少なくとも相関し、且つ、複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側及び遅角側の一方側にのみ移動するという特定関係を有するものが採用される。
【0010】
例えば、前記定常適合噴射パターンとして、メイン噴射に先立ってパイロット噴射が行われるパターンが採用されている場合において、前記複数の過渡補正パラメータとして、前記メイン噴射の噴射時期を前記定常適合噴射パターンに対応する時期から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する時期からの進角量(メイン進角量)と、前記パイロット噴射の噴射量を前記定常適合噴射パターンに対応する量から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する量からの増大量(パイロット増量)と、の2つのパラメータが採用され得る。この場合、「メイン進角量及びパイロット増量の何れが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する」という特定関係が得られる。
【0011】
また、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法において、或る計測点(複数の過渡補正パラメータの組み合わせに対応する点)についての「計測処理」とは、その点に対応する複数の過渡補正パラメータの組み合わせに基づいて前記定常適合噴射パターンを補正して得られる燃料噴射パターンをもって特定過渡運転状態にて実際に燃料を噴射して得られた前記「熱発生率の変化特性」に基づいてピーク点を計測する処理である。
【0012】
ここで、「特定過渡運転状態」とは、過渡の程度が所定の基準程度となる過渡運転状態を指す。「特定過渡運転状態」としては、例えば、前記定常適合噴射パターンが適合された際の定常運転状態において既に得られている吸気酸素濃度(定常適合吸気酸素濃度)と、(センサ等を利用して)計測される現時点での吸気酸素濃度との相違量(以下、「吸気酸素濃度の相違量」と称呼する。)が所定の基準量となる過渡運転状態が採用され得る。これは、過渡の程度(噴射量及び運転速度の変化勾配等で表され得る)と前記吸気酸素濃度の相違量とが略比例関係にあることに基づく。
【0013】
このように、計測処理において「特定過渡運転状態」が使用されるのは、以下の理由に基づく。即ち、過渡の程度(噴射量及び運転速度の変化勾配等、具体的には、前記吸気酸素濃度の相違量等)が変動すると、計測処理により計測されるピーク点が変動し、この結果、適合される過渡補正パラメータも変動し得る。ここで、過渡の程度と適合される過渡補正パラメータの値とは略比例関係にあることが判っている。従って、特定過渡運転状態においてのみ過渡補正パラメータを適合しておけば、この適合結果に基づいて、特定過渡運転状態とは異なる過渡運転状態(過渡の程度が前記所定の基準程度とは異なる過渡運転状態(具体的は、例えば、前記吸気酸素濃度の相違量が前記所定の基準量とは異なる過渡運転状態))において適合されるべき過渡補正パラメータの値を推定することができる。換言すれば、特定過渡運転状態とは異なる過渡運転状態についての過渡補正パラメータの適合作業を省略することができる。
【0014】
また、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法において、複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される或る計測範囲(計測領域)の輪郭を構成する複数の計測点について前記計測処理をそれぞれ行って得られる複数のピーク点により輪郭が構成される領域を、その計測範囲(計測領域)に対応する「ピーク領域」と称呼する。
【0015】
本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法では、各運転状態(噴射量及び運転速度)に対して、以下の第1〜第6工程をそれぞれ実行して過渡補正パラメータが適合される。先ず、第1工程について説明する。
【0016】
この第1工程では、複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される第1計測範囲が決定される。この第1計測範囲は、各過渡補正パラメータについての許容される最小値から最大値までの範囲の組み合わせにより画定される範囲であることが好ましい。これは、第1計測範囲に対応するピーク領域内に前記目標点が包含され得るように第1計測範囲を出来る限り広い範囲とすることが好ましいとの考えに基づく。ここで、各過渡補正パラメータについての許容される最大値(最小値)は、各過渡補正パラメータについて適合されるべき値がその値を超える場合(その値を下回る場合)において前記定常適合噴射パターンそのものが適切でないと判定される値である。
【0017】
より好ましい態様では、第1工程では、更に、第1計測範囲に含まれる複数の計測点が決定される。前記複数の計測点は、第1計測範囲の輪郭を構成する点と、第1計測範囲の内部の点とを含む。更に、第1計測範囲を分割して得られる複数の計測領域が決定される。前記複数の計測領域の各々の輪郭は、前記複数の計測点の一部によりそれぞれ構成される。
【0018】
次に、第2工程について説明する。この第2工程では、前記第1計測範囲の内部の計測点の1つ(第1点)について前記計測処理が行われる。前記より好ましい態様では、前記第1点として、第1工程で決定された前記複数の計測点のうち前記第1計測範囲の内部の点の1つが選択され、この第1点について前記計測処理が行われる。
【0019】
次に、第3工程について説明する。この第3工程では、前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果と、前記特定関係とに基づいて、前記第1計測範囲のうちの一部の領域である除外領域が特定される。前記除外領域とは、対応するピーク領域内に前記目標点が包含され得ない領域である。前記より好ましい態様では、前記除外領域として、第1工程で決定された前記複数の計測領域のうちの1つ以上の領域が特定される。この1つ以上の領域の各々では、対応するピーク領域内に前記目標点が包含され得ない。
【0020】
以下、前記より好ましい態様における前記除外領域の具体的な特定方法について説明する。先ず、前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する関係である場合について説明する。この場合、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側(進角側)となるとき、前記除外領域として、その輪郭が第1工程で決定された前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下(以上)となる点のみにより構成される1つ以上の前記計測領域が特定される。これは、前記特定関係に起因して、複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下(以上)となる計測領域に対応するピーク領域は、目標点を包含し得ないことに基づく。
【0021】
次に、前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が遅角側にのみ移動する関係である場合について説明する。この場合も、上記と同様の考え方に基づき、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側(進角側)となるとき、前記除外領域として、その輪郭が第1工程で決定された前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以上(以下)となる点のみにより構成される前記計測領域が特定される。
【0022】
次に、第4工程について説明する。この第4工程では、前記第1計測範囲のうちで前記除外領域の内部を除いた領域に含まれる1つ計測点について前記計測処理を行って前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果を取得すること、が、前記計測処理の対象となる前記計測点を順次変更しながら少なくとも1回以上繰り返される。前記より好ましい態様では、前記計測処理の対象となる各計測点として第1工程で決定された前記複数の計測点のうち前記第1点及び前記除外領域のみの輪郭を構成する点を除いた点が選択される。
【0023】
次に、第5工程について説明する。この第5工程では、前記第4工程で取得された1つ以上の前記比較結果に基づいて、第1計測範囲のうちで前記除外領域を除いた領域に含まれる領域である第2計測範囲が特定される。前記第2計測範囲とは、対応するピーク領域内に前記目標点が包含される領域である。前記より好ましい態様では、第2計測範囲として、第1工程で決定された前記複数の計測領域のうち前記除外領域を除いた残りの計測領域のうちの1つが特定される。
【0024】
次に、第6工程について説明する。この第6工程では、前記第2計測範囲に含まれる複数の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との対応関係と、前記目標点と、所定の解析手法と、に基づいて、前記複数の過渡補正パラメータが適合される。この適合は、その点について前記計測処理を行って得られる前記ピーク点が前記目標点と一致する点を同定することにより行われる。
【0025】
前記より好ましい態様では、前記対応関係として、前記第2計測範囲に含まれる第1工程で決定された前記複数の計測点のうちで前記第2、第4工程において既に前記計測処理の対象となっている点についての前記計測点と前記ピーク点との第1対応関係のみが使用され得る。或いは、前記対応関係として、この第1対応関係に加えて、前記第2計測範囲の輪郭を構成する第1工程で決定された前記複数の計測点のうちで未だ前記計測処理の対象となっていない点を含む前記第2計測範囲に含まれる1以上の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との第2対応関係、が使用され得る。
【0026】
以上のように、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法では、対応するピーク領域内に目標点が包含される計測範囲として、第1計測範囲の一部である(従って、第1計測範囲よりも狭い)第2計測範囲が特定され、この第2計測範囲についての(第2計測範囲に含まれる複数の計測点についての)前記計測処理の結果に基づいて過渡補正パラメータの適合(従って、前記同定)が行われる(前記第6工程)。ここで、一般に、上記所定の解析手法を利用した同定が行われる場合、目標点を包含するピーク領域が狭いほど、従って、ピーク領域に対応する計測範囲が狭いほど、前記同定(即ち、ピーク点を目標点に一致させるための計測点を特定する処理)の精度が向上する。従って、第1計測範囲についての前記計測処理の結果に基づいて過渡補正パラメータの適合が行われる場合に比して、過渡補正パラメータを精度良く適合することができる。
【0027】
加えて、第2計測範囲を特定するにあたり、前記特定関係を利用して前記除外領域が特定され、この除外領域を第2計測範囲の候補から予め除外することができる(前記第3〜第5工程)。換言すれば、第2計測範囲の特定のために行われる前記計測処理の対象となる計測範囲をこの除外領域の分だけ狭くすることができる。この結果、第2計測範囲の特定に要する前記計測処理の繰り返し回数等を少なくすることができ、従って、第2計測範囲の特定に要する工数を低減できる。ひいては、過渡補正パラメータの適合に要する工数を低減できる。以上、本発明に係る過渡補正パラメータの適合方法によれば、(特定)過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減できる。
【0028】
次に、本発明に係る内燃機関の燃料噴射パターン決定装置について説明する。この装置では、「特定過渡運転状態」として「吸気酸素濃度の相違量」が所定の基準量となる過渡運転状態が採用される場合において上述した本発明に係る適合方法により適合された前記複数の過渡補正パラメータが利用される。この装置は、以下の手段を備える。
【0029】
運転状態パラメータ取得手段は、内燃機関の運転状態を表す所定の運転状態パラメータを取得する。この運転状態パラメータとしては、例えば、噴射量(メイン噴射とパイロット噴射が行われる場合、メイン噴射量とパイロット噴射量の和)、運転速度等が挙げられる。
【0030】
定常適合噴射パターン決定手段は、現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合噴射パターンとの予め定められた関係(テーブル、マップ等)と、に基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合噴射パターンを決定する。噴射パターンとしては、噴射量、噴射時期等が挙げられる。
【0031】
定常適合吸気酸素濃度決定手段は、現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合吸気酸素濃度との予め定められた関係(テーブル、マップ等)と、に基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合吸気酸素濃度を決定する。
【0032】
相違量算出手段は、上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合吸気酸素濃度」と、現時点で計測される吸気酸素濃度との相違量(即ち、前記「吸気酸素濃度の相違量」)を算出する。
【0033】
特定過渡補正パラメータ決定手段は、現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記適合方法を用いて予め適合された前記複数の過渡補正パラメータとの予め定められた関係と、に基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する、前記特定過渡運転状態における前記複数の過渡補正パラメータ(複数の特定過渡補正パラメータ)を決定する。
【0034】
最終過渡補正パラメータ算出手段は、上述した「吸気酸素濃度の相違量」と、上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する複数の特定過渡補正パラメータ」とに基づいて、現時点での運転状態パラメータに対応する、最終的な前記複数の過渡補正パラメータ(複数の最終過渡補正パラメータ)を算出する。
【0035】
そして、燃料噴射パターン決定手段は、上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する定常適合噴射パターン」を上述した「現時点での運転状態パラメータに対応する複数の最終過渡補正パラメータ」で補正して、現時点での運転状態パラメータに対応する燃料噴射パターンを決定する。
【0036】
このように、「吸気酸素濃度の相違量」と「複数の特定過渡補正パラメータ」とに基づいて算出される「複数の最終過渡補正パラメータ」により定常適合噴射パターンが補正されて燃料噴射パターンが決定される。従って、現時点での運転状態が特定過渡運転状態とは異なる過渡運転状態にあっても、ピーク点を現時点での運転状態パラメータに対応する目標点に精度良く一致させることができる。この結果、過渡運転状態において、過渡の程度(噴射量及び運転速度の変化勾配等、具体的には、「吸気酸素濃度の相違量」等)にかかわらず、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した最適な燃焼状態を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、先ず、本発明による内燃機関(ディーゼル機関)の燃料噴射パターン決定装置について説明する。
【0038】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料噴射パターン決定装置を、4気筒ディーゼル機関10に適用したシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
【0039】
エンジン本体20の各気筒の上部には燃料噴射弁(噴射弁、インジェクタ)21が配設されている。各燃料噴射弁21は、図示しない燃料タンクと接続された燃料噴射用ポンプ22に燃料配管23を介して接続されている。燃料噴射用ポンプ22は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の圧力(レール圧)を調整できるようになっている。また、各燃料噴射弁21は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号により各燃料噴射弁21から噴射される燃料の量(燃料噴射量)を調整できるようになっている。
【0040】
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され同吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、電気制御装置60からの駆動信号に応答してスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34と過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36とを含んでいる。
【0041】
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装されたディーゼルパティキュレートフィルタ(DPNR)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。
【0042】
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR制御弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR制御弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量、EGR率)を変更し得るようになっている。なお、EGR率とは、本例では、燃焼室に流入する全ガス流量(新気流量+EGRガス流量)に対するEGRガス流量の割合をいう。
【0043】
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するプログラム、テーブル(マップ)、及び定数等を予め記憶したROM62、RAM63、バックアップRAM64、並びにADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。
【0044】
インターフェース65は、熱線式エアフローメータ71、スロットル弁開度センサ72、吸気酸素濃度センサ73、クランクポジションセンサ74、アクセル開度センサ75、EGR制御弁開度センサ76、及び水温センサ77と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU61に供給するようになっている。
【0045】
また、インターフェース65は、燃料噴射弁21、燃料噴射用ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPU61の指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
【0046】
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気(新気)量)を計測するようになっている。スロットル弁開度センサ72は、スロットル弁33の開度を検出するようになっている。吸気酸素濃度センサ73は、吸気マニホールド31と排気還流管51との合流地点よりも下流の吸気通路内のガス(従って、エンジン10の燃焼室に吸入されるガス)に含まれる酸素の濃度(吸気酸素濃度02)を検出するようになっている。
【0047】
クランクポジションセンサ74は、実クランク角度とともにエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度NEを検出するようになっている。アクセル開度センサ75は、アクセルペダルAPの操作量(アクセルペダル操作量Accp)を検出するようになっている。EGR制御弁開度センサ76は、EGR制御弁52の開度(EGR制御弁開度θegr)を検出するようになっている。水温センサ77は、冷却水の温度(冷却水温THW)を検出するようになっている。
【0048】
(燃料噴射パターンの決定)
次に、上記のように構成された燃料噴射パターン決定装置(以下、「本装置」という。)による燃料噴射パターンの決定方法について、機能ブロック図である図2を参照しながら説明する。図2に示すように、本装置は、手段B1〜B7を備えている。
【0049】
総噴射量決定手段B1では、エンジン回転速度NEと、アクセルペダル操作量Accpと、NE,Accpを引数とする総噴射量Qを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(運転状態パラメータNE,Accp)に対応する総噴射量Q(指令値)が決定される。本例では、圧縮上死点近傍でのメイン噴射に先立って圧縮行程にてパイロット噴射が実行される。従って、総噴射量Qは、メイン噴射の噴射量(メイン噴射量)とパイロット噴射の噴射量(パイロット噴射量)との和である。
【0050】
定常適合噴射パターン決定手段B2では、上記決定された総噴射量Qと、エンジン回転速度NEと、Q,NEを引数とする定常適合噴射パターンを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(運転状態パラメータQ,NE)に対応する定常適合噴射パターンが決定される。具体的には、定常適合噴射パターンとして、パイロット噴射についての噴射時期及び噴射量である、定常適合パイロット噴射時期Injstdp及び定常適合パイロット噴射量Qstdp、並びに、メイン噴射についての噴射時期及び噴射量である、定常適合メイン噴射時期Injstdm及び定常適合メイン噴射量Qstdmが決定される。ここで、Q=Qstdp+Qstdmが成立する。
【0051】
定常適合噴射パターンとは、定常運転状態(Q,NEが一定)において、「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」におけるピーク(ピーク点、後述する図5を参照)が、その運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターン及びEGR制御弁開度を適合して得られた噴射パターンである。以下、ピーク点に対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度をそれぞれ、「ピーク高さ」及び「ピーク位置」とも称呼する。なお、「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」は周知の手法の一つを利用して取得することができるから、この変化特性に基づいてピーク点(ピーク高さ及びピーク位置)を取得することができる。
【0052】
運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する上記目標点は、その運転状態(Q,NEの組み合わせ)において失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した上で最適な燃焼状態が得られている状態に対応するピーク点である。定常適合噴射パターンを決定する上記テーブルは、定常運転状態(Q,NEが一定)においてピーク点がその運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点に一致するように噴射パターン及びEGR制御弁開度を適合する実験を、Q,NEの組み合わせを種々変更しながら繰り返し実行することで作製され得る。
【0053】
定常適合吸気酸素濃度決定手段B3では、上記決定された総噴射量Qと、エンジン回転速度NEと、Q,NEを引数とする定常適合吸気酸素濃度O2stdを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(運転状態パラメータQ,NE)に対応する定常適合吸気酸素濃度O2stdが決定される。
【0054】
定常適合吸気酸素濃度O2stdとは、定常運転状態(Q,NEが一定)において、ピーク点がその運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターン及びEGR制御弁開度が適合された状態における吸気酸素濃度である。定常適合吸気酸素濃度O2stdを決定する上記テーブルは、上述した噴射パターン及びEGR制御弁開度が適合される実験中において定常運転状態(Q,NEが一定)にて噴射パターン及びEGR制御弁開度が適合された状態において吸気酸素濃度を検出する処理を、Q,NEの組み合わせが変更される毎に繰り返し実行することで作製され得る。
【0055】
吸気酸素濃度相違量算出手段B4では、上記決定された定常適合吸気酸素濃度O2stdから吸気酸素濃度センサ73により検出される現時点での吸気酸素濃度O2を減じることで、吸気酸素濃度相違量ΔO2(=(O2std−O2)/O2std、単位:%)が算出される。後述するように、この吸気酸素濃度相違量ΔO2は、過渡運転状態における過渡の程度(噴射量及びエンジン回転速度の変化勾配等で表され得る)を表す。
【0056】
特定過渡補正パラメータ決定手段B5では、上記決定された総噴射量Qと、エンジン回転速度NEと、Q,NEを引数とする特定過渡補正パラメータを決定する予め作製されたテーブルとに基づいて、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する特定過渡補正パラメータが決定される。具体的には、特定過渡補正パラメータとして、パイロット増量Δqpと、メイン進角量Δinjとが決定される。パイロット増量Δqpとは、パイロット噴射量を上記定常適合パイロット噴射量Qstdpから補正するためのQstdpからの増大量である。メイン進角量Δinjとは、メイン噴射の噴射時期を上記定常適合メイン噴射時期Injstdmから補正するためのInjstdmからの進角量である。
【0057】
特定過渡補正パラメータとは、吸気酸素濃度相違量ΔO2=1%となる過渡運転状態(以下、「特定過渡運転状態」と称呼する)においてピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターンを定常適合噴射パターンから補正するためのパラメータである。従って、特定過渡補正パラメータ(Δqp,Δinj)はピーク高さ及びピーク位置に相関する値である。各運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての特定過渡補正パラメータは、各運転状態(Q,NEの組み合わせ)について後に詳述するように適合されてそれぞれ決定される。特定過渡補正パラメータを決定する上記テーブルは、各運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての特定過渡補正パラメータの適合結果を集めることで作製され得る。
【0058】
最終過渡補正パラメータ算出手段B6では、上記決定された特定過渡補正パラメータ(Δqp,Δinj)に上記算出された吸気酸素濃度相違量ΔO2(単位:%)を乗じることで、最終過渡補正パラメータが算出される。具体的には、最終過渡補正パラメータとして、最終パイロット増量ΔQp(=Δqp・ΔO2)と、最終メイン進角量ΔInj(=Δinj・ΔO2)とが算出される。
【0059】
最終過渡補正パラメータとは、現時点での過渡運転状態においてピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように噴射パターンを定常適合噴射パターンから補正するためのパラメータである。このように最終過渡補正パラメータを算出するのは、過渡運転状態における過渡の程度を表す吸気酸素濃度相違量ΔO2と、最終過渡補正パラメータの値とが略比例関係にあることが判っていることに基づく。
【0060】
最終噴射パターン決定手段B7では、上記決定された定常適合噴射パターンを上記算出された最終過渡補正パラメータで補正することで、最終噴射パターンが決定される。具体的な最終噴射パターンとして、最終パイロット噴射時期Injfinpが定常適合パイロット噴射時期Injstdpから最終メイン進角量ΔInjだけ進角した時期に決定され、最終パイロット噴射量Qfinpが定常適合パイロット噴射量Qstdpに最終パイロット増量ΔQpを加えた値(Qstdp+ΔQp)に決定される。最終メイン噴射時期Injfinmが定常適合メイン噴射時期Injstdmから最終メイン進角量ΔInjだけ進角した時期に決定され、最終メイン噴射量Qfinmが定常適合メイン噴射量Qstdmから最終パイロット増量ΔQpを減じた値(Qstdm−ΔQp)に決定される。これにより、定常適合噴射パターンと最終噴射パターンとの間で、総噴射量、及び、「パイロット噴射時期とメイン噴射時期との間隔」が変化しない。以上が、本装置による燃料噴射パターンの決定方法の概要である。
【0061】
最終噴射パターン決定手段B7で決定された最終噴射パターンは、CPU61により燃料噴射弁21に送信される。これにより、この最終噴射パターンをもって燃料噴射の対象となる気筒についての燃料噴射弁21から燃料が噴射される(即ち、パイロット噴射及びメイン噴射がなされる)。
【0062】
また、本装置では、定常運転状態であるか過渡運転状態であるかにかかわらず、EGR制御弁52の開度(EGR制御弁開度θegr)が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合EGR制御弁開度θegrstdと一致するようにフィードバック制御される。ここで、定常適合EGR制御弁開度θegrstdとは、定常運転状態(Q,NEが一定)において、ピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように上述のように噴射パターン及びEGR制御弁開度を適合して得られたEGR制御弁開度である。従って、定常適合EGR制御弁開度θegrstdは、運転状態(Q,NEの組み合わせ)に応じて変化する。
【0063】
定常運転状態(Q,NEが一定)では、吸気酸素濃度センサ73により検出される現時点での吸気酸素濃度O2が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合吸気酸素濃度O2stdと一致するから、吸気酸素濃度相違量ΔO2=0(単位:%)となる。従って、最終過渡補正パラメータがゼロ(ΔQp=0、ΔInj=0°)となって、最終噴射パターンが現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンと一致する。これにより、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンをもって燃料が噴射され、この結果、ピーク点が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致する。換言すれば、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した上で最適な燃焼状態が得られる。
【0064】
図5(a)に示した実線は、或る定常運転状態(Q,NEの組み合わせ)においてピーク点がその運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致している場合における「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」の一例を示している。
【0065】
一方、過渡運転状態(Q,NEが変化中)では、吸気酸素濃度センサ73により検出される現時点での吸気酸素濃度O2が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合吸気酸素濃度O2stdと一致せず、吸気酸素濃度相違量ΔO2≠0(単位:%)となる。以下、この点について付言する。
【0066】
図3に示すように、エンジン回転速度NEが或る値で一定の場合において、総噴射量Q=Qa,Qbのとき(Qa<Qb)、それぞれ、定常適合EGR制御弁開度θegrstd=a,bとなるものとする(a>b)。この場合、EGR制御弁開度が大きいほど吸気酸素濃度が小さくなることに起因して、Q=Qa,QBのとき、それぞれ、定常適合吸気酸素濃度O2std=c,dとなる(c<d)。
【0067】
図4に示すように、時刻t1以前において総噴射量Q=Qaで定常運転状態にある場合において時刻t1にてQがQaからQbにステップ的に増大する(従って、時刻t1以降、NEも増大していく)過渡運転状態が発生する場合を考える。この場合、図4に示すように、時刻t1において、定常適合EGR制御弁開度θegrstdがaからbへとステップ的に減少し、且つ、定常適合吸気酸素濃度O2stdがcからdへとステップ的に増大する。
【0068】
ここで、EGR制御弁52の開度を制御するアクチュエータの応答性が非常に高いものとすると、時刻t1において、定常適合EGR制御弁開度θegrstdがaからbへとステップ的に減少することに伴って実際のEGR制御弁開度θegrもaからbへとステップ的に減少し得る。即ち、常時、θegrはθegrstdと一致し得る。
【0069】
一方、時刻t1において、定常適合吸気酸素濃度O2stdがcからdへとステップ的に増大しても、実際の吸気酸素濃度O2は、時刻t1においてcからdへとステップ的に増大し得ず、時刻t1以降、或る遅れを伴って02stdに追従していく(cからdへと徐々に近づいていく。図4の破線を参照)。これは、EGR制御弁52を通過したガスが吸気酸素濃度センサ73の近傍に到達するまでには所定の時間を要することに起因して、θegrの変化が吸気酸素濃度センサ73により検出される吸気酸素濃度O2の変化として直ちに現れ得ないことに基づく。この結果、時刻t1以降、ΔO2>0となる期間が発生する。
【0070】
このように、過渡運転状態では、ΔO2≠0(単位:%)となり得る。ここで、燃焼速度は吸気酸素濃度に依存して変化し得るから、燃焼速度に影響を受けるピーク点も吸気酸素濃度に依存して移動し得る。従って、図5(a)に破線で示すように、過渡運転状態では、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンをもって燃料を噴射すると、ピーク点が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点(=実線のピーク点)から偏移し、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した最適な燃焼状態が得られない。
【0071】
これに対し、本装置では、過渡運転状態(ΔO2≠0)では、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する定常適合噴射パターンを上述した最終過渡補正パラメータ(ΔQp,ΔInj)で補正して得られる噴射パターンをもって燃料が噴射される。この結果、図5(b)に破線で示すように、過渡運転状態においても、ピーク点が、現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致し得る。
【0072】
また、この最終過渡補正パラメータ(ΔQp,ΔInj)が、ΔO2=1%となる特定過渡運転状態で適合された特定過渡補正パラメータ(Δqp,Δinj)に吸気酸素濃度相違量ΔO2(単位:%)を乗じることで算出される。これは、上述のように、過渡運転状態における過渡の程度を表す吸気酸素濃度相違量ΔO2と最終過渡補正パラメータ(ΔQp,ΔInj)の値とが略比例関係にあることが判っていることに基づく。この結果、現時点での運転状態が特定過渡運転状態と異なる過渡運転状態(ΔO2≠1%)にあっても、ピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致し得る。即ち、過渡の程度(即ち、ΔO2の大きさ)にかかわらず、失火抑制、十分な出力トルクの確保、並びに燃焼騒音の増大抑制等の観点を考慮した最適な燃焼状態を安定して得ることができる。
【0073】
(特定過渡補正パラメータの適合)
次に、上述した特定過渡補正パラメータ決定手段B5で決定される特定過渡補正パラメータ(具体的には、パイロット増量Δqp、及びメイン進角量Δinj)の本発明に係る適合方法について説明する。
【0074】
以下、パイロット増量とメイン進角量との組み合わせに対応する点を「計測点」と称呼し、パイロット増量とメイン進角量との組み合わせにより表される範囲(領域)を「計測範囲(領域)」と称呼するものとする。
【0075】
また、或る計測点に対応するパイロット増量とメイン進角量との組み合わせに基づいて上述した最終噴射パターン決定手段B7と同様に定常適合噴射パターンを補正して計測用の噴射パターンを決定し、ディーゼル機関10を実際に運転して得られた上記特定過渡運転状態(ΔO2=1%)にて前記計測用の噴射パターンをもって実際に燃料を噴射して「クランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性」を取得し、この取得された変化特性に基づいてピーク点を計測する処理を、その計測点についての「計測処理」と称呼する。従って、この「計測処理」は、「計測点とピーク点との対応関係」を得る処理ということもできる。
【0076】
加えて、或る計測範囲(領域)の輪郭を構成する複数の計測点について「計測処理」をそれぞれ行って得られる複数のピーク点により輪郭が構成される領域(ピーク位置とピーク高さとの組み合わせにより表される領域)を、その計測範囲(計測領域)に対応する「ピーク領域」と称呼する。
【0077】
本発明に係る適合方法では、周知の解析手法の一つである2次応答曲面解析法を利用して、複数の「計測点とピーク点との対応関係」と目標点とから、ピーク点を目標点と一致させるための計測点(同定点)が同定される。この同定点に対応するパイロット増量及びメイン進角量がそれぞれ、適合されたパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjとなる。
【0078】
この2次応答曲面解析法が用いられる場合、少なくとも6つの「計測点とピーク点との対応関係」が必要となる。ここで、「計測点とピーク点との対応関係」の個数が多いほど同定点の同定精度が向上する。一方、「計測点とピーク点との対応関係」の個数が多いことは、実行すべき「計測処理」の回数が多いこと、従って、特定過渡補正パラメータの適合に要する工数が大きいことを意味する。以上より、本例では、2次応答曲面解析法の利用に際し、9つの「計測点とピーク点との対応関係」が使用される。この9つの「計測点とピーク点との対応関係」は、9つの計測点についてそれぞれ「計測処理」を実行して9つのピーク点が計測されることで得られる。
【0079】
上述したように、特定過渡補正パラメータ(パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinj)は、運転状態(Q,NEの組み合わせ)毎に、上記特定過渡運転状態においてピーク点が現時点での運転状態(Q,NEの組み合わせ)に対応する目標点と一致するように適合される。
【0080】
図6は、或る運転状態(Q=Q1,NE=NE1)に対応する目標点を示している。以下、この運転状態(Q=Q1,NE=NE1)を例にとって、この運転状態(Q=Q1,NE=NE1)について特定過渡補正パラメータを適合する方法について説明する。
【0081】
図7は、計測範囲として、パイロット増量(mm3/st)の0〜3の範囲、及びメイン進角量(deg)の0〜3の範囲の組み合わせにより画定される範囲が使用され(斜線で示した領域を参照)、この計測範囲内に9つの計測点(計測点1〜9)が配置された一例を示す。この例では、計測点5を除く8つの計測点が計測範囲の輪郭を構成する点に対応し、計測点5が計測範囲の内部の点に対応する。
【0082】
図7に示した計測点1〜9の各々について運転状態(Q=Q1,NE=NE1)に対する「計測処理」が実行される。図8は、この結果得られた9つのピーク点(ピーク点1〜9)の分布の一例を示す。ここで、ピーク点nは計測点nに対応する(n:1,2,…,8,9)。図8において、ピーク点5を除く8つのピーク点により輪郭が構成される領域が、ピーク領域に対応する(微細なドットで示した領域を参照)。目標点(黒い三角を参照)はこのピーク領域内に包含されている。
【0083】
図7、図8に示すように、「計測点とピーク点との対応関係」において、ピーク高さは、パイロット増量が増大しても(1→4→7、2→5→8、3→6→9)、メイン進角量が増大しても(1→2→3、4→5→6、7→8→9)、増加・減少し得る。一方、ピーク位置は、パイロット増量が増大しても(1→4→7、2→5→8、3→6→9)、メイン進角量が増大しても(1→2→3、4→5→6、7→8→9)、必ず進角していく。以下、「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大してもピーク位置が必ず進角していく」という関係を、「特定関係」と称呼する。
【0084】
図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて、2次応答曲面解析法が適用されて、図9、図10に3次元的に表現され得る所定の実験式が作成される。この実験式の作成については周知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0085】
このようにして得られた実験式と、図6(図8)に示す目標点と、から、ピーク点をこの目標点と一致させるための計測点(=同定点)が同定される。この同定についても周知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。図11は、同定された同定点の一例を示す。この同定点に対応するパイロット増量及びメイン噴射量がそれぞれ、運転状態(Q=Q1,NE=NE1)に対して適合されたパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjとなる。
【0086】
本発明に係る適合方法では、以上の手順に従って特定過渡補正パラメータ(パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinj)を適合する作業が、運転状態(Q,NEの組み合わせ)を変更しながら繰り返し実行される。各運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての特定過渡補正パラメータの適合結果を集めることで、上述した特定過渡補正パラメータ決定手段B5が使用するテーブルが作製され得る。
【0087】
(計測範囲の設定)
次に、2次応答曲面解析法の利用に際して決定される計測範囲について述べる。上述した図7、図8に対応する図12、図13に示すように、計測範囲(斜線で示した領域を参照)が広いと、ピーク領域(微細なドットで示した領域を参照)が広くなってピーク領域が目標点を包含し易くなる。従って、計測範囲をできるだけ広い範囲とするため、計測範囲を、パイロット増量及びメイン進角量のそれぞれの最小値から最大値までの範囲の組み合わせにより画定される範囲に決定することも考えられる。以下、このような計測範囲を「第1計測範囲」とも称呼する。ここで、パイロット増量(メイン進角量)についての最大値(最小値)とは、パイロット増量(メイン進角量)について適合されるべき値がその値を超える場合(その値を下回る場合)において定常適合噴射パターンそのものが適切でないと判定される値である。
【0088】
しかしながら、一般に、目標点を包含するピーク領域が広いほど、従って、ピーク領域に対応する計測範囲が広いほど、同定点の同定の精度が低下する。加えて、ピーク領域が広いと、例えば、図13に示すように、ピーク領域の形状において突出する部分(図13では、ピーク点1を先端とする突出部分)が発生し易い。ピーク領域において係る突出部分が存在すると、このことによっても同定点の同定の精度が低下する。
【0089】
一方、図12、図13に対応する図14、図15に示すように、計測範囲を前記第1計測範囲よりも狭い範囲(以下、「第2計測範囲」とも称呼する。)に設定することで、目標点を包含し、且つ、上述した突出部分が存在しない狭いピーク領域が形成され得る。図12に示す9つの計測点1〜9と図13に示す9つのピーク点1〜9とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて同定点を同定する場合に比して、図14に示す9つの計測点1〜9と図15に示す9つのピーク点1〜9とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて同定点を同定する場合の方が、同定の精度が高い。
【0090】
図16は、このことを確認した実験の結果を示している。黒丸は、ディーゼル機関を実際に運転してピーク点を目標点と一致させるためのパイロット増量及びメイン進角量の組み合わせを計測・特定した結果を示している。白三角は、計測範囲を第1計測範囲に設定して上述した手順に従って同定点を同定した結果を示している。白四角は、計測範囲を第2計測範囲に設定して上述した手順に従って同定点を同定した結果を示している。図16では、3種類の運転状態(Q,NEの組み合わせ)についての結果を示している。
【0091】
図16から理解できるように、3種類の運転状態(Q,NEの組み合わせ)の全てについて、白四角が白三角に比して黒丸に近い。このことは、計測範囲を、第1計測範囲よりも狭く且つ対応するピーク領域が目標点を包含する第2計測範囲に設定すると、計測範囲を第1計測範囲に設定する場合に比して、同定点の同定の精度(従って、特定過渡補正パラメータの適合の精度)が向上することを意味する。
【0092】
このような第2計測範囲(第1計測範囲より狭く且つ対応するピーク領域が目標点を包含する計測範囲)は、第1計測範囲内で網羅的に設定された多数の計測点について網羅的に「計測処理」を行うことで特定することができる。しかしながら、「計測処理」を網羅的に多数回に亘って繰り返し実行する必要が生じ、第2計測範囲の特定のために膨大な工数が必要となる。
【0093】
本発明に係る適合方法では、以下に述べる手法を採用することで、上記のように「計測処理」を網羅的に繰り返す場合に比して、少ない工数(具体的には、少ない「計測処理」の繰り返し回数)をもって第2計測範囲が特定され得る。以下、この手法について、図17に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0094】
図18に示すように、先ず、第2計測範囲の特定のために、第1計測範囲が設定され、この第1計測範囲内にて9つの計測点(計測点1〜9)が配置される。計測点5を除く8つの計測点が第1計測範囲の輪郭を構成する点に対応し、計測点5は第1計測範囲の内部の点に対応する。第1計測範囲は、計測点2,3,5,6により輪郭が構成される計測領域(a)と、計測点1,2,4,5により輪郭が構成される計測領域(b)と、計測点4,5,7,8により輪郭が構成される計測領域(c)と、計測点5,6,8,9により輪郭が構成される計測領域(d)と、の4つの計測領域からなる。この手法では、この4つの計測領域の何れか1つが第2計測範囲として特定される。
【0095】
説明の便宜上、計測点1〜9にそれぞれ対応するピーク点1〜9、並びに、計測領域(a)〜(d)にそれぞれ対応するピーク領域(a)〜(d)が、図19に示すように配置され且つピーク領域(d)内に目標点が包含される場合を例にとって説明する。ピーク点1〜9が図19に示すように配置される場合を例にとったのは、一般に、メイン進角量が増大すると、ピーク位置が進角することに加えてピーク高さが増大し(図18、図19中の実線の矢印を参照)、パイロット増量が増大すると、ピーク位置が進角することに加えてピーク高さが減少する(図18、図19中の破線の矢印を参照)傾向が強いことが判っていることに基づく。この例では、図17に示す太線で示される流れに従って処理が進行し、第2計測範囲として計測領域(d)(図18を参照)が特定されることになる。
【0096】
なお、図19において、目標点は既知である。一方、ピーク点1〜9(従って、ピーク領域(a)〜(d))の配置(従って、ピーク領域(d)内に目標点が包含されていること)は、実際には、計測点1〜9のいくつかについて「計測処理」を行わない限り知り得ない。また、図19に示す、x軸にピーク位置を、y軸にピーク高さをとるx−y直交座標系において、ピーク点nの位置を(xn,yn)で表す(n:1,2,…,8,9)。既知である目標点の位置は、(x0,y0)であるものとする。
【0097】
以下、図17に示す太線で示される処理の流れの詳細について順に説明していく。先ず、第1計測範囲の内部の点である計測点5(前記「第1点」に対応)について「計測処理」が行われて、計測点5に対応するピーク点5の位置(x5,y5)が計測される。次いで、目標点のピーク位置x0とピーク点5のピーク位置x5とが比較され、x5>x0が成立するか否かが判定される(図20を参照)。
【0098】
この例では、ピーク点5のピーク位置が目標点のピーク位置よりも遅角側にあって、x5>x0が成立している。従って、この判定では、「Yes」と判定される。このことは、上述した「特定関係」、即ち、「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず進角(遅角)していく」という関係を鑑みれば、パイロット増量及びメイン進角量が共に計測点5に対応する値以下となる計測領域(この例では、計測領域(b)に対応)が、「除外領域」として特定できることを意味する。「除外領域」とは、対応するピーク領域(この例では、ピーク領域(b))内に目標点が包含され得ない領域である。
【0099】
この判定により、この例では、「除外領域」である計測領域(b)が、第2計測範囲の候補から予め除外される(ピーク領域(b)は目標点を包含し得ない)。従って、現時点では、目標点を包含し得るピーク領域の候補は、ピーク領域(b)を除いたピーク領域(a)(c)(d)となり、第2計測範囲の候補は、計測領域(b)を除いた計測領域(a)(c)(d)となる。なお、この判定で「No」と判定される場合、上記「特定関係」を鑑みた同様の理由に基づいて、計測領域(d)が「除外領域」として特定されることになる。
【0100】
以降、ピーク領域(a)(c)(d)のうちで目標点を包含するピーク領域を特定するため、既に「計測処理」が実行されている計測点5及び除外領域(=計測領域(b))のみの輪郭を構成する計測点1を少なくとも除いた計測点の何れかについて「計測処理」を実行していく必要がある。その際、図18に示す計測領域(a)(c)(d)の位置関係、及び図19に示すピーク領域(a)(c)(d)の位置関係を考慮して、先ず、計測点6又は計測点8から「計測処理」を行うことを考える。このため、以下の処理が行われる。
【0101】
先ず、目標点のピーク高さy0とピーク点5のピーク高さy5とが比較され、y5>y0が成立するか否かが判定される(図21を参照)。この例では、ピーク点5のピーク高さが目標点のピーク高さよりも小さいから、y5>y0が成立していない。従って、この判定では、「No」と判定される。このことは、図19に示すピーク領域(a)(c)(d)の位置関係に鑑みれば、ピーク領域(a)と(c)ではピーク領域(a)の方が目標点を包含する可能性が高いと推測できることを意味する。従って、目標点が、ピーク領域(a)に包含されるか否か(即ち、目標点が、ピーク領域(a)に包含されるか又はピーク領域(c)(d)の何れかに包含されるか)を判定することを考える。なお、この判定(y5>y0)で「Yes」と判定される場合、目標点が、ピーク領域(c)に包含されるか否か(即ち、目標点が、ピーク領域(c)に包含されるか又はピーク領域(a)(d)の何れかに包含されるか)を判定することを考えることになる。
【0102】
この例では、目標点がピーク領域(a)に包含されるか否かを判定するため、次に、計測点6について「計測処理」が行われて、計測点6に対応するピーク点6の位置(x6,y6)が計測される。次いで、ピーク点6とピーク点5を結ぶ上記x−y直交座標系上の直線f65を表す式f65(x)が計算される(図22を参照)。次に、f65(x0)<y0が成立するか否かが判定される。この例では、図22に示すように、f65(x0)>y0が成立している。従って、この判定では、「No」と判定される。このことは、ピーク領域(a)は目標点を包含しないことを意味し得る。従って、現時点では、目標点を包含し得るピーク領域の候補は、ピーク領域(c)(d)となり、第2計測範囲の候補は、計測領域(c)(d)となる。よって、次に、目標点が、ピーク領域(c)に包含されるか又はピーク領域(d)に包含されるかを判定することを考える。なお、この判定(f65(x0)<y0)で「Yes」と判定される場合、ピーク領域(a)が目標点を包含することを意味し得るから、第2計測範囲として計測領域(a)が特定される。
【0103】
この例では、目標点がピーク領域(c)に包含されるか又はピーク領域(d)に包含されるかを判定するため、次に、計測点8について「計測処理」が行われて、計測点8に対応するピーク点8の位置(x8,y8)が計測される。次いで、ピーク点8とピーク点5を結ぶ上記x−y直交座標系上の直線f85を表す式f85(x)が計算される(図23を参照)。次に、f85(x0)>y0が成立するか否かが判定される。この例では、図23に示すように、f85(x0)<y0が成立している。従って、この判定では、「No」と判定される。このことは、ピーク領域(d)が目標点を包含することを意味し得る。従って、第2計測範囲として計測領域(d)が特定される。なお、この判定(f85(x0)>y0)で「Yes」と判定される場合、ピーク領域(c)が目標点を包含することを意味し得るから、第2計測範囲として計測領域(c)が特定される。
【0104】
以上の手順により、この例では、図24に示すように、第2計測範囲として計測領域(d)が特定される(斜線で示した領域を参照)。そして、この第2計測範囲内に含まれる9つの計測点が設定され、上述した手法により、この9つの計測点についての9つの「計測点とピーク点との対応関係」と、目標点(x0,y0)と、2次応答曲面解析法とを利用して、ピーク点を目標点と一致させるための計測点(同定点)が同定される。この同定点に対応するパイロット増量及びメイン進角量がそれぞれ、適合されたパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjとなる。
【0105】
図24に示す例では、この9つの計測点として、既に設定されている計測点5,6,8,9と、新たに設定された計測点A,B,C,D,Eとが使用されている。この9つの計測点のうちで、第2計測範囲の輪郭を構成する計測点5,6,8については既に「計測処理」が実行されているから再度「計測処理」を実行する必要がない(実行済みの計測結果が流用され得る)。一方、第2計測範囲の輪郭を構成する計測点9,B,C,D,E、並びに、第2計測範囲の内部の点である計測点Aについては未だ「計測処理」が実行されていないから「計測処理」を新たに実行する必要がある。
【0106】
ここで、上述の例で注目すべきことは、既に設定されていた計測点1〜9のうちで「計測処理」が実行された計測点5,6,8についての「計測処理」の結果が全てパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjの適合に流用できることである。即ち、この場合、結果的に無駄な「計測処理」が1回も実行されなかったといえる。これに対し、例えば、上述した判定(f85(x0)>y0)にて「Yes」と判定される場合、即ち、第2計測範囲として計測領域(c)が特定される場合、計測点6についての「計測処理」の結果がパイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjの適合に流用できない。しかしながら、この場合でも、結果的に無駄な「計測処理」を1回のみとすることができる。
【0107】
そして、図24に示す9つの計測点と、この9つの計測点にそれぞれ対応する図25に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて、2次応答曲面解析法が適用されて、パイロット増量Δqp及びメイン進角量が適合される。ここにおいて、計測点5,6,8についての「計測点とピーク点との対応関係」が前記「第1対応関係」に対応し、計測点9,A,B,C,D,Eについての「計測点とピーク点との対応関係」が前記「第2対応関係」に対応する。
【0108】
以上、図17に示す太線で示される流れに従って処理が進行する場合について説明した。これと異なる流れに従う場合も同様の考え方により、計測領域(a)〜(d)の何れか1つが第2計測範囲として特定され、特定された第2計測範囲についての9つの「計測処理」の結果に基づいて、パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinjが適合される。
【0109】
以上、説明したように、本発明に係る適合方法によれば、対応するピーク領域内に目標点が包含される計測範囲として、第1計測範囲の一部であって第1計測範囲よりも狭い第2計測範囲が特定され、この第2計測範囲についての複数の「計測処理」の結果に基づいて特定過渡補正パラメータ(パイロット増量Δqp及びメイン進角量Δinj)の適合が行われる。従って、第1計測範囲についての複数の「計測処理」の結果に基づいて過渡補正パラメータの適合が行われる場合に比して、過渡補正パラメータを精度良く適合することができる。
【0110】
更には、第2計測範囲を特定するにあたり、「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず進角(遅角)していく」という「特定関係」を利用して「除外領域」が特定され、この「除外領域」が第2計測範囲の候補から予め除外される。従って、第2計測範囲の特定のために行われる「計測処理」の対象となる計測範囲を「除外領域」の分だけ狭くできる。この結果、第2計測範囲の特定に要する「計測処理」の繰り返し回数等を少なくでき、従って、第2計測範囲の特定に要する工数を低減できる。ひいては、過渡補正パラメータの適合に要する工数を低減できる。以上のことから、(特定)過渡運転状態にて定常適合噴射パターンを補正するための過渡補正パラメータを精度良く適合し且つその適合に要する工数を低減できる。
【0111】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「過渡補正パラメータ」としてパイロット増量及びメイン進角量が採用され、「特定関係」として「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず進角(遅角)していく」という関係が利用されているが、「過渡補正パラメータ」としてその他のパラメータが採用され、「特定関係」として「パイロット増量及びメイン進角量の何れが増大(減少)してもピーク位置が必ず遅角(進角)していく」という関係が利用されてもよい。また、「過渡補正パラメータ」として、例えば、燃料の噴射圧力(レール圧力)が採用されてもよい。
【0112】
また、上記実施形態においては、前記「所定の解析手法」として2次応答曲面解析法が採用されているが、その他の周知の解析手法が採用されてもよい。この場合、必要となる「計測点とピーク点との対応関係」が6つ未満となる場合もあり得る。
【0113】
加えて、上記実施形態においては、内燃機関としてディーゼル機関が採用されているが、火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)が採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射パターン決定装置を4気筒ディーゼル機関に適用したシステム全体の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射パターン決定装置により燃料噴射パターンが決定される際の機能ブロック図である。
【図3】総噴射量と、定常適合吸気酸素濃度及び定常適合EGR制御弁開度と、の関係を示したグラフである。
【図4】過渡運転状態において定常適合吸気酸素濃度と実際の吸気酸素濃度との間に差が生じることを説明するための図である。
【図5】過渡運転状態において、定常適合噴射パターンを過渡補正パラメータで補正して得られる噴射パターンをもって燃料を噴射することで、過渡運転状態においてもピーク点が目標点に一致することを説明するための図である。
【図6】ピーク位置とピーク高さの組み合わせで表される目標点の一例を示した図である。
【図7】パイロット増量とメイン進角量の組み合わせで表される計測範囲、及び計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図8】図7に示した複数の計測点及び計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図9】図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて2次応答曲面解析法を適用して作成される、ピーク位置についての実験式を3次元的に表現した図である。
【図10】図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」に基づいて2次応答曲面解析法を適用して作成される、ピーク高さについての実験式を3次元的に表現した図である。
【図11】図7に示す9つの計測点と図8に示す9つのピーク点とから得られる9つの「計測点とピーク点との対応関係」と、図6に示した目標点と、から2次応答曲面解析法を適用して同定された同定点の一例を示した図である。
【図12】パイロット増量とメイン進角量の組み合わせで表される第1計測範囲、及び第1計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図13】図12に示した複数の計測点及び第1計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図14】パイロット増量とメイン進角量の組み合わせで表される第2計測範囲、及び第2計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図15】図14に示した複数の計測点及び第2計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図16】計測範囲を、第1計測範囲よりも狭く且つ対応するピーク領域が目標点を包含する第2計測範囲に設定すると、同定点の同定の精度(特定過渡補正パラメータの適合の精度)が向上することを説明するための図である。
【図17】本発明の実施形態に係る過渡補正パラメータの適合方法による、第2計測範囲を特定するためのフローチャートである。
【図18】第1計測範囲、及び第1計測範囲内に配置される複数の計測点の一例を示した図である。
【図19】図18に示した複数の計測点及び計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【図20】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第1の判定の様子を説明するための図である。
【図21】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第2の判定の様子を説明するための図である。
【図22】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第3の判定の様子を説明するための図である。
【図23】図17にて太線で示した処理の過程において実行される第4の判定の様子を説明するための図である。
【図24】第1計測範囲よりも狭い第2計測範囲内にて複数の計測点が配置される様子を示した図である。
【図25】図24に示した複数の計測点及び計測範囲に対応する、複数のピーク点及びピーク領域の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0115】
21…燃料噴射弁、60…電気制御装置、61…CPU、73…吸気酸素濃度センサ、74…クランクポジションセンサ、75…アクセル開度センサ、76…EGR制御弁開度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性におけるピークに対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度であるピーク高さ及びピーク位置に少なくとも相関する複数の過渡補正パラメータであって、定常運転状態について前記ピーク高さ及びピーク位置の組み合わせに対応する点であるピーク点が目標点となるように予め適合された燃料噴射パターンである定常適合噴射パターンを過渡運転状態においても前記ピーク点が前記目標点となるように過渡運転状態にて補正するための複数の過渡補正パラメータであり、複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側及び遅角側の一方側にのみ移動するという特定関係を有する複数の過渡補正パラメータ、を適合する、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法であって、
前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される第1計測範囲を決定する第1工程と、
前記第1計測範囲の内部の計測点の1つである第1点について、その点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせに基づいて前記定常適合噴射パターンを補正して得られる燃料噴射パターンをもって過渡の程度が所定の基準程度となる特定過渡運転状態にて実際に燃料を噴射して得られた前記熱発生率の変化特性に基づいて前記ピーク点を計測する処理である計測処理を行う第2工程と、
前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果、並びに、前記特定関係に基づいて、前記第1計測範囲のうちの一部の領域であって、その領域の輪郭を構成する複数の計測点についての前記計測処理によりそれぞれ計測される複数の前記ピーク点により輪郭が構成されるピーク領域内に前記目標点が包含され得ない領域を、除外領域として特定する第3工程と、
前記第1計測範囲のうちで前記除外領域の内部を除いた領域に含まれる1つ計測点について前記計測処理を行って前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果を取得すること、を前記計測処理の対象となる前記計測点を順次変更しながら少なくとも1回以上繰り返す第4工程と、
前記第4工程で取得された1つ以上の前記比較結果に基づいて、前記第1計測範囲のうちで前記除外領域を除いた領域に含まれる領域であって対応する前記ピーク領域内に前記目標点が包含される領域を第2計測範囲として特定する第5工程と、
前記第2計測範囲に含まれる複数の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との対応関係と、前記目標点と、所定の解析手法と、に基づいて、その点についての前記計測処理により計測される前記ピーク点が前記目標点と一致する点を同定することで、前記複数の過渡補正パラメータを適合する第6工程と、
を含む、
内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項2】
内燃機関のクランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性におけるピークに対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度であるピーク高さ及びピーク位置に少なくとも相関する複数の過渡補正パラメータであって、定常運転状態について前記ピーク高さ及びピーク位置の組み合わせに対応する点であるピーク点が目標点となるように予め適合された燃料噴射パターンである定常適合噴射パターンを過渡運転状態においても前記ピーク点が前記目標点となるように過渡運転状態にて補正するための複数の過渡補正パラメータであり、複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側及び遅角側の一方側にのみ移動するという特定関係を有する複数の過渡補正パラメータ、を適合する、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法であって、
前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される第1計測範囲、前記第1計測範囲に含まれる複数の計測点であって前記第1計測範囲の輪郭を構成する点と前記第1計測範囲の内部の点とを含む複数の計測点、並びに、前記第1計測範囲を分割して得られる複数の計測領域であって各計測領域の輪郭が前記複数の計測点の一部によりそれぞれ構成される複数の計測領域を決定する第1工程と、
前記複数の計測点のうち前記第1計測範囲の内部の点の1つである第1点について、その点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせに基づいて前記定常適合噴射パターンを補正して得られる燃料噴射パターンをもって過渡の程度が所定の基準程度となる特定過渡運転状態にて実際に燃料を噴射して得られた前記熱発生率の変化特性に基づいて前記ピーク点を計測する処理である計測処理を行う第2工程と、
前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果、並びに、前記特定関係に基づいて、前記複数の計測領域のうちで、その計測領域の輪郭を構成する前記複数の計測点の全てについての前記計測処理によりそれぞれ計測される前記ピーク点の全てにより輪郭が構成されるピーク領域内に前記目標点が包含され得ない1つ以上の領域を除外領域として特定する第3工程と、
前記複数の計測点のうち前記第1点及び前記除外領域のみの輪郭を構成する点を除いた点の1つについて前記計測処理を行って前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果を取得すること、を前記計測処理の対象となる前記計測点を順次変更しながら少なくとも1回以上繰り返す第4工程と、
前記第4工程で取得された1つ以上の前記比較結果に基づいて、前記複数の計測領域のうち前記除外領域を除いた残りの計測領域のうちで対応する前記ピーク領域内に前記目標点が包含される計測領域を第2計測範囲として特定する第5工程と、
前記第2計測範囲に含まれる前記複数の計測点のうちで前記第2、第4工程において既に前記計測処理の対象となっている点についての前記計測点と前記ピーク点との第1対応関係、或いは、前記第2計測範囲に含まれる1以上の計測点であって前記第2計測範囲の輪郭を構成する前記複数の計測点のうちで未だ前記計測処理の対象となっていない点を含む1以上の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との第2対応関係及び前記第1対応関係と、前記目標点と、所定の解析手法と、に基づいて、その点についての前記計測処理により計測される前記ピーク点が前記目標点と一致する点を同定することで、前記複数の過渡補正パラメータを適合する第6工程と、
を含む、
内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法において、
前記第3工程において、
前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する関係である場合、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下となる点のみにより構成される前記計測領域が特定され、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも進角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以上となる点のみにより構成される前記計測領域が特定され、
前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が遅角側にのみ移動する関係である場合、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以上となる点のみにより構成される前記計測領域が特定され、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも進角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下となる点のみにより構成される前記計測領域が特定される、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法において、
前記定常適合噴射パターンとして、メイン噴射に先立ってパイロット噴射が行われるパターンが採用されていて、
前記複数の過渡補正パラメータとして、前記メイン噴射の噴射時期を前記定常適合噴射パターンに対応する時期から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する時期からの進角量と、前記パイロット噴射の噴射量を前記定常適合噴射パターンに対応する量から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する量からの増大量と、の2つのパラメータが採用され、
前記特定関係が、前記メイン噴射の噴射時期の進角量及び前記パイロット噴射の噴射量の増大量の何れが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する関係となる、
内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法において、
前記計測処理における前記特定過渡運転状態として、
前記定常適合噴射パターンが適合された際の定常運転状態において既に得られている吸気酸素濃度である定常適合吸気酸素濃度と、計測される現時点での吸気酸素濃度との相違量が所定の基準量となる過渡運転状態が採用される、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法を用いて適合された前記複数の過渡補正パラメータを利用して燃料噴射パターンを決定する、内燃機関の燃料噴射パターン決定装置であって、
前記内燃機関の運転状態を表す所定の運転状態パラメータを取得する運転状態パラメータ取得手段と、
前記取得された現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合噴射パターンとの予め定められた関係と、に基づいて前記定常適合噴射パターンを決定する定常適合噴射パターン決定手段と、
前記取得された現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合吸気酸素濃度との予め定められた関係と、に基づいて前記定常適合吸気酸素濃度を決定する定常適合吸気酸素濃度決定手段と、
前記決定された定常適合吸気酸素濃度と、現時点で計測される吸気酸素濃度との相違量を算出する相違量算出手段と、
前記取得された現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記適合方法を用いて予め適合された前記複数の過渡補正パラメータとの予め定められた関係と、に基づいて、前記特定過渡運転状態における前記複数の過渡補正パラメータである複数の特定過渡補正パラメータを決定する特定過渡補正パラメータ決定手段と、
前記算出された相違量と、前記決定された複数の特定過渡補正パラメータとに基づいて、最終的な前記複数の過渡補正パラメータである複数の最終過渡補正パラメータを算出する最終過渡補正パラメータ算出手段と、
前記決定された前記定常適合噴射パターンを前記算出された複数の最終過渡補正パラメータで補正して燃料噴射パターンを決定する燃料噴射パターン決定手段と、
を備えた、内燃機関の燃料噴射パターン決定装置。
【請求項1】
内燃機関のクランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性におけるピークに対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度であるピーク高さ及びピーク位置に少なくとも相関する複数の過渡補正パラメータであって、定常運転状態について前記ピーク高さ及びピーク位置の組み合わせに対応する点であるピーク点が目標点となるように予め適合された燃料噴射パターンである定常適合噴射パターンを過渡運転状態においても前記ピーク点が前記目標点となるように過渡運転状態にて補正するための複数の過渡補正パラメータであり、複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側及び遅角側の一方側にのみ移動するという特定関係を有する複数の過渡補正パラメータ、を適合する、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法であって、
前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される第1計測範囲を決定する第1工程と、
前記第1計測範囲の内部の計測点の1つである第1点について、その点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせに基づいて前記定常適合噴射パターンを補正して得られる燃料噴射パターンをもって過渡の程度が所定の基準程度となる特定過渡運転状態にて実際に燃料を噴射して得られた前記熱発生率の変化特性に基づいて前記ピーク点を計測する処理である計測処理を行う第2工程と、
前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果、並びに、前記特定関係に基づいて、前記第1計測範囲のうちの一部の領域であって、その領域の輪郭を構成する複数の計測点についての前記計測処理によりそれぞれ計測される複数の前記ピーク点により輪郭が構成されるピーク領域内に前記目標点が包含され得ない領域を、除外領域として特定する第3工程と、
前記第1計測範囲のうちで前記除外領域の内部を除いた領域に含まれる1つ計測点について前記計測処理を行って前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果を取得すること、を前記計測処理の対象となる前記計測点を順次変更しながら少なくとも1回以上繰り返す第4工程と、
前記第4工程で取得された1つ以上の前記比較結果に基づいて、前記第1計測範囲のうちで前記除外領域を除いた領域に含まれる領域であって対応する前記ピーク領域内に前記目標点が包含される領域を第2計測範囲として特定する第5工程と、
前記第2計測範囲に含まれる複数の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との対応関係と、前記目標点と、所定の解析手法と、に基づいて、その点についての前記計測処理により計測される前記ピーク点が前記目標点と一致する点を同定することで、前記複数の過渡補正パラメータを適合する第6工程と、
を含む、
内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項2】
内燃機関のクランク角度の進行に対する燃焼室内の熱発生率の変化特性におけるピークに対応する熱発生率の大きさ及びクランク角度であるピーク高さ及びピーク位置に少なくとも相関する複数の過渡補正パラメータであって、定常運転状態について前記ピーク高さ及びピーク位置の組み合わせに対応する点であるピーク点が目標点となるように予め適合された燃料噴射パターンである定常適合噴射パターンを過渡運転状態においても前記ピーク点が前記目標点となるように過渡運転状態にて補正するための複数の過渡補正パラメータであり、複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側及び遅角側の一方側にのみ移動するという特定関係を有する複数の過渡補正パラメータ、を適合する、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法であって、
前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせにより表される第1計測範囲、前記第1計測範囲に含まれる複数の計測点であって前記第1計測範囲の輪郭を構成する点と前記第1計測範囲の内部の点とを含む複数の計測点、並びに、前記第1計測範囲を分割して得られる複数の計測領域であって各計測領域の輪郭が前記複数の計測点の一部によりそれぞれ構成される複数の計測領域を決定する第1工程と、
前記複数の計測点のうち前記第1計測範囲の内部の点の1つである第1点について、その点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの組み合わせに基づいて前記定常適合噴射パターンを補正して得られる燃料噴射パターンをもって過渡の程度が所定の基準程度となる特定過渡運転状態にて実際に燃料を噴射して得られた前記熱発生率の変化特性に基づいて前記ピーク点を計測する処理である計測処理を行う第2工程と、
前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果、並びに、前記特定関係に基づいて、前記複数の計測領域のうちで、その計測領域の輪郭を構成する前記複数の計測点の全てについての前記計測処理によりそれぞれ計測される前記ピーク点の全てにより輪郭が構成されるピーク領域内に前記目標点が包含され得ない1つ以上の領域を除外領域として特定する第3工程と、
前記複数の計測点のうち前記第1点及び前記除外領域のみの輪郭を構成する点を除いた点の1つについて前記計測処理を行って前記計測処理により計測された前記ピーク点と前記目標点との比較結果を取得すること、を前記計測処理の対象となる前記計測点を順次変更しながら少なくとも1回以上繰り返す第4工程と、
前記第4工程で取得された1つ以上の前記比較結果に基づいて、前記複数の計測領域のうち前記除外領域を除いた残りの計測領域のうちで対応する前記ピーク領域内に前記目標点が包含される計測領域を第2計測範囲として特定する第5工程と、
前記第2計測範囲に含まれる前記複数の計測点のうちで前記第2、第4工程において既に前記計測処理の対象となっている点についての前記計測点と前記ピーク点との第1対応関係、或いは、前記第2計測範囲に含まれる1以上の計測点であって前記第2計測範囲の輪郭を構成する前記複数の計測点のうちで未だ前記計測処理の対象となっていない点を含む1以上の計測点の各々について前記計測処理を行って得られる前記計測点と前記ピーク点との第2対応関係及び前記第1対応関係と、前記目標点と、所定の解析手法と、に基づいて、その点についての前記計測処理により計測される前記ピーク点が前記目標点と一致する点を同定することで、前記複数の過渡補正パラメータを適合する第6工程と、
を含む、
内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法において、
前記第3工程において、
前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する関係である場合、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下となる点のみにより構成される前記計測領域が特定され、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも進角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以上となる点のみにより構成される前記計測領域が特定され、
前記特定関係が、前記複数の過渡補正パラメータのうちのどれが増大しても前記ピーク位置が遅角側にのみ移動する関係である場合、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも遅角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以上となる点のみにより構成される前記計測領域が特定され、前記第2工程で前記第1点についての前記計測処理により計測された前記ピーク点に対応する前記ピーク位置が前記目標点に対応する前記ピーク位置よりも進角側となるときは前記除外領域として、その輪郭が前記複数の計測点のうちでその点に対応する前記複数の過渡補正パラメータの全てが前記第1点に対応する値以下となる点のみにより構成される前記計測領域が特定される、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法において、
前記定常適合噴射パターンとして、メイン噴射に先立ってパイロット噴射が行われるパターンが採用されていて、
前記複数の過渡補正パラメータとして、前記メイン噴射の噴射時期を前記定常適合噴射パターンに対応する時期から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する時期からの進角量と、前記パイロット噴射の噴射量を前記定常適合噴射パターンに対応する量から補正するための前記定常適合噴射パターンに対応する量からの増大量と、の2つのパラメータが採用され、
前記特定関係が、前記メイン噴射の噴射時期の進角量及び前記パイロット噴射の噴射量の増大量の何れが増大しても前記ピーク位置が進角側にのみ移動する関係となる、
内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法において、
前記計測処理における前記特定過渡運転状態として、
前記定常適合噴射パターンが適合された際の定常運転状態において既に得られている吸気酸素濃度である定常適合吸気酸素濃度と、計測される現時点での吸気酸素濃度との相違量が所定の基準量となる過渡運転状態が採用される、内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の燃料噴射パターンの過渡補正パラメータの適合方法を用いて適合された前記複数の過渡補正パラメータを利用して燃料噴射パターンを決定する、内燃機関の燃料噴射パターン決定装置であって、
前記内燃機関の運転状態を表す所定の運転状態パラメータを取得する運転状態パラメータ取得手段と、
前記取得された現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合噴射パターンとの予め定められた関係と、に基づいて前記定常適合噴射パターンを決定する定常適合噴射パターン決定手段と、
前記取得された現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記定常適合吸気酸素濃度との予め定められた関係と、に基づいて前記定常適合吸気酸素濃度を決定する定常適合吸気酸素濃度決定手段と、
前記決定された定常適合吸気酸素濃度と、現時点で計測される吸気酸素濃度との相違量を算出する相違量算出手段と、
前記取得された現時点での運転状態パラメータと、前記運転状態パラメータと前記適合方法を用いて予め適合された前記複数の過渡補正パラメータとの予め定められた関係と、に基づいて、前記特定過渡運転状態における前記複数の過渡補正パラメータである複数の特定過渡補正パラメータを決定する特定過渡補正パラメータ決定手段と、
前記算出された相違量と、前記決定された複数の特定過渡補正パラメータとに基づいて、最終的な前記複数の過渡補正パラメータである複数の最終過渡補正パラメータを算出する最終過渡補正パラメータ算出手段と、
前記決定された前記定常適合噴射パターンを前記算出された複数の最終過渡補正パラメータで補正して燃料噴射パターンを決定する燃料噴射パターン決定手段と、
を備えた、内燃機関の燃料噴射パターン決定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
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【図11】
【図12】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−53820(P2010−53820A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221591(P2008−221591)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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