内燃機関の燃焼制御装置
【課題】低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる内燃機関の燃焼制御装置を得る。
【解決手段】内燃機関の燃焼制御装置において、インジェクタ13は、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を調整可能で、第1の燃料20と第2の燃料21との混合により生成された混合燃料28を共通の噴射口43から燃焼室6内へ直接噴射するようになっている。コントローラ19は、エンジン1の運転状態を検出するセンサ装置18からの情報に基づいてインジェクタ13を制御することにより、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を調整する。
【解決手段】内燃機関の燃焼制御装置において、インジェクタ13は、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を調整可能で、第1の燃料20と第2の燃料21との混合により生成された混合燃料28を共通の噴射口43から燃焼室6内へ直接噴射するようになっている。コントローラ19は、エンジン1の運転状態を検出するセンサ装置18からの情報に基づいてインジェクタ13を制御することにより、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の燃焼室内における予混合圧縮着火燃焼を制御する内燃機関の燃焼制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の燃費を向上させるために、吸気行程で燃料を噴射して混合気を生成し、圧縮行程の高温高圧状態で混合気を自己着火させて予混合圧縮着火燃焼を行う内燃機関が知られている。このような従来の内燃機関では、燃料が吸気行程で噴射されるので、混合気の濃度の低いリーン状態で燃焼を行うときには、均質な混合気を形成するのに十分な時間が確保され、圧縮行程の後半には混合気中に過濃領域がほとんど存在しなくなる。このため、燃焼温度が低くなってサーマルNOxの生成を抑制することができ、NOx浄化触媒の装着を不要にすることができる。このことから、予混合圧縮着火燃焼の方式が次世代の燃焼方式として開発が進められている。
【0003】
予混合圧縮着火燃焼では、圧縮行程における混合気の温度が自己着火温度よりも低ければ混合気が着火されることはない。従って、従来、混合気の温度を上昇させるために、内燃機関の圧縮比を大きくする方法や、吸排気バルブの開閉タイミングを調整して高温の残留ガスを気筒内に残す方法、吸気を電気ヒータで加熱する方法等が用いられることがある。これにより、従来では、混合気の濃度の低い低負荷運転状態において、安定した予混合圧縮着火燃焼を実現している。
【0004】
しかし、混合気の濃度が高くなる高負荷運転状態では、自己着火温度が低く、着火すると燃焼速度が速くなるので、異常昇圧によるノッキングが発生し、予混合圧縮着火燃焼を継続することができなくなってしまう。高負荷運転状態で予混合圧縮着火燃焼を成立させるためには、過早着火の抑制と燃焼速度の低減とが必要になる。
【0005】
従来、高負荷運転状態でのノッキングの発生を抑制するために、通常の火花点火燃焼の状態から予混合圧縮着火燃焼の状態へ切り替えるときに、ガソリンと空気との混合気に水を噴射して予混合圧縮着火燃焼の過早着火を抑制する内燃機関の制御装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、従来、高負荷運転状態でのノッキングの発生を抑制するために、互いに異なる特性を持つ2種類の燃料を内燃機関の運転状態に応じて供給するバイフューエル技術も提案されている。従来、第1のインジェクタからガソリンを第1の燃料として噴射してガソリンと空気との混合気を形成した後、第2のインジェクタから水素ガス、ジエチルエーテル又は軽油を第2の燃料として燃焼室内に噴射する内燃機関も提案されている(例えば特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−17082号公報
【特許文献2】特開2004−100501号公報
【特許文献3】特開2008−286110号公報
【特許文献4】特開2009−68418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に示されている内燃機関では、ガソリンと空気との混合気が形成された後に水を噴射するので、混合気全体に水が行渡らないおそれがある。また、特許文献2〜4に示されている内燃機関では、第1の燃料を噴射する第1のインジェクタと、第2の燃料を噴射する第2のインジェクタとが互いに異なる位置に配置されているので、第1の燃料の混合気の形成と第2の燃料の混合気の形成とが個別に進んだ状態で混合されることとなる。このため、安定して均質な混合気を常に形成することが難しく、第1の燃料と第2の燃料とが成層化する部分が残ってしまう。従って、従来の内燃機関では、燃料の混合の効果を十分に引き出すことができず、高負荷運転状態になるとノッキングの発生を十分に抑制することができなくなってしまう。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる内燃機関の燃焼制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る内燃機関の燃焼制御装置は、内燃機関の燃焼室内での予混合圧縮着火燃焼を制御する内燃機関の燃焼制御装置であって、第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を調整可能で、第1の燃料と第2の燃料との混合により生成された混合燃料を共通の噴射口から燃焼室内へ直接噴射する燃料噴射装置、内燃機関の運転状態を検出する検出部、及び検出部からの情報に基づいて燃料噴射装置を制御することにより、第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を調整する制御部を備えている。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る内燃機関の燃焼制御装置では、第1の燃料と第2の燃料との混合により生成された混合燃料を共通の噴射口から燃焼室内へ直接噴射するので、第1の燃料と第2の燃料とが燃焼室内で成層化してしまうことを防止することができ、均質な混合気を燃焼室内に常に安定して形成することができる。また、互いに異なる着火性能及びアンチノック性能を持つ第1の燃料及び第2の燃料を混合して混合燃料を生成することにより、互いに異なる運転状態に対して安定した燃焼を継続することができる。従って、低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による内燃機関を示す構成図である。
【図2】図1の吸気流動調整装置を示す拡大図である。
【図3】図2の吸気流動調整装置を示す上面図である。
【図4】図1のインジェクタを示す断面図である。
【図5】図4のスワーラチップを示す斜視図である。
【図6】図4のスワーラチップを示す平面図である。
【図7】図4のバルブシート及びニードルを示す斜視図である。
【図8】図1の燃焼室内で第1の燃料、第2の燃料及び混合燃料のそれぞれを用いて予混合圧縮着火燃焼を行ったときの熱発生率の挙動を示すグラフである。
【図9】図1のエンジンが高負荷運転状態となっている場合に第1の燃料及び混合燃料のそれぞれを燃焼室内に噴射したときの燃焼室内の圧力(筒内圧力)の挙動を示すグラフ(指圧線図)である。
【図10】図1の燃焼室内に吸入ガスのタンブル流動を形成するエンジンの運転領域、吸入ガスのスワール流動を形成するエンジンの運転領域、吸入ガスのスワール流動及びタンブル流動のいずれも形成しないエンジンの運転領域を示すグラフである。
【図11】図1のインジェクタから噴射される混合燃料の第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を決めるためのエンジンの運転領域を示すグラフである。
【図12】図1のコントローラからインジェクタ本体及び燃料調整装置のそれぞれへの弁駆動信号の出力時間を示すグラフである。
【図13】図1のコントローラが燃料噴射の調整を行うときの動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による内燃機関を示す構成図である。図において、エンジン(内燃機関)1は、エンジン筒2と、エンジン筒2内を摺動しながら往復移動されるピストン3と、ピストン3の往復移動に応じて回転されるクランクシャフト4と、ピストン3とクランクシャフト4とを接続する接続ロッド5と、エンジン筒2の内面とピストン3とで囲まれる燃焼室6内に吸気口7aを介して連通され、燃焼室6内に吸入される空気(吸入ガス)を導く吸気管(吸気路)7と、燃焼室6内に排気口8aを介して連通され、燃焼室6内から排出される既燃ガス(排出ガス)を外部へ導く排気管(排気路)8と、燃焼室6内での燃焼を制御する燃焼制御装置9とを有している。
【0014】
エンジン筒2には、吸気口7aを開閉する吸気弁10と、排気口8aを開閉する排気弁11とが設けられている。吸気弁10は、吸気口7aを開くことにより燃焼室6内への吸気を可能とし、吸気口7aを閉じることにより燃焼室6内への吸気を阻止する。排気弁11は、排気口8aを開くことにより燃焼室6内からの排気を可能とし、排気口8aを閉じることにより燃焼室6内からの排気を阻止する。
【0015】
ピストン3は、エンジン筒2内で往復移動することにより、吸気管7から燃焼室6内への吸気と、燃焼室6内から排気管8への排気とを行う。燃焼室6内には、吸気口7aからの吸入ガスと燃焼制御装置9からの燃料とが導入されて可燃燃料予混合気が形成される。また、燃焼室6内では、ピストン3の圧縮によって可燃燃料予混合気が自己着火されることにより予混合圧縮着火燃焼が行われる。ピストン3は、燃焼室6内での燃焼による圧力を受けることにより移動されて、クランクシャフト4を回転させる。
【0016】
排気管8には、三元触媒12が設けられている。三元触媒12は、燃焼室6内での燃焼が完全燃焼である場合に、燃焼室6内からの排出ガスに含まれる有害なCO、HC、NOxの3成分を同時に酸化還元して浄化する。三元触媒12を通過した排出ガスは、大気中へ放出される。
【0017】
燃焼制御装置9は、エンジン筒2に設けられ燃焼室6内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)13と、第1の燃料20をインジェクタ13へ供給する第1の燃料供給装置14と、第2の燃料21をインジェクタ13へ供給する第2の燃料供給装置15と、燃焼室6内へ吸入される空気(吸入ガス)の量を調整する吸気量調整装置16と、燃焼室6内での吸入ガスの流動を調整する吸気流動調整装置17と、エンジン1の運転状態を検出するセンサ装置(検出部)18と、センサ装置18からの情報に基づいて、インジェクタ13、第1の燃料供給装置14、第2の燃料供給装置15、吸気量調整装置16及び吸気流動調整装置17のそれぞれを制御するコントローラ(制御部)19とを有している。
【0018】
第1の燃料20と第2の燃料21とは、互いに異なる特性を持つ燃料とされている。第2の燃料21は、第1の燃料20よりもアンチノック性の高い燃料とされている。第1の燃料20としては、例えばガソリン等が用いられる。第2の燃料21としては、例えば水素ガス、軽油、ジエチルエーテル又はアルコール燃料等が用いられる。
【0019】
第1の燃料供給装置14は、第1の燃料20を溜める第1の燃料タンク22と、第1の燃料20を昇圧搬送する動力を発生する第1の燃料ポンプ23と、第1の燃料ポンプ23の動力により昇圧搬送される第1の燃料20を第1の燃料タンク22からインジェクタ13へ導く第1の燃料管24とを有している。なお、第1の燃料供給装置14では、第1の燃料20をさらに昇圧するために、第1の燃料管24における第1の燃料ポンプ23からインジェクタ13までの間の中間位置に昇圧補助用の燃料ポンプを設けてもよい。
【0020】
第2の燃料供給装置15は、第2の燃料21を溜める第2の燃料タンク25と、第2の燃料21を昇圧搬送する動力を発生する第2の燃料ポンプ26と、第2の燃料ポンプ26の動力により昇圧搬送される第2の燃料21を第2の燃料タンク25からインジェクタ13へ導く第2の燃料管27とを有している。なお、第2の燃料供給装置15でも、第2の燃料21をさらに昇圧するために、第2の燃料管27における第2の燃料ポンプ26からインジェクタ13までの間の中間位置に昇圧補助用の燃料ポンプを設けてもよい。
【0021】
インジェクタ13は、第1の燃料供給装置14からの第1の燃料20と、第2の燃料供給装置15からの第2の燃料21とを混合し、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合により生成した混合燃料28を霧状にして燃焼室6内に直接噴射する。また、インジェクタ13は、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を調整可能になっている。インジェクタ13の調整可能な混合比率(第1の燃料20:第2の燃料21)の範囲は、1:0〜1:1の範囲とされている。燃焼室6内では、ピストン3の往復移動に応じたタイミングで混合燃料28がインジェクタ13から燃焼室6内に噴射されることにより予混合圧縮着火燃焼が行われる。
【0022】
吸気量調整装置16は、吸気管7内の流路の断面積を調整するスロットルバルブ(流量調整バルブ)29と、スロットルバルブ29の開閉量を制御するスロットルアクチュエータ30とを有している。燃焼室6内への吸入ガスの量は、スロットルバルブ29の開閉量の調整により調整される。スロットルアクチュエータ30には、スロットルバルブ29を変位させる動力を発生するDCモータやステッピングモータ等が含まれている。
【0023】
吸気流動調整装置17は、燃焼室6内に吸入ガスのスワール流動を形成するスワール流動制御バルブ31と、燃焼室6内に吸入ガスのタンブル流動を形成するタンブル流動制御バルブ32と、スワール流動制御バルブ31及びタンブル流動制御バルブ32を個別に動作させる図示しないアクチュエータとを有している。燃焼室6内には、スワール流動制御バルブ31及びタンブル流動制御バルブ32をエンジン1の運転状態に応じて個別に動作させることにより、吸入ガスのスワール流動及びタンブル流動が選択的に形成される。
【0024】
ここで、図2は、図1の吸気流動調整装置17を示す拡大図である。また、図3は、図2の吸気流動調整装置17を示す上面図である。吸気管7は、エンジン筒2にそれぞれ接続された一対の分岐管33を有している。各分岐管33は、エンジン筒2の周方向へ互いに離して設けられた2つの吸気口7aを介して燃焼室6内に個別に連通されている。従って、各分岐管33からの吸入ガスは、各吸気口7aを通って燃焼室6内へ個別に導かれる。各吸気口7aは、互いに異なる吸気弁10により開閉される。
【0025】
スワール流動制御バルブ31は、一方及び他方の分岐管33のうち、一方の分岐管33内にのみ設けられている。これにより、スワール流動制御バルブ31が開いているときには各分岐管33内のそれぞれを吸入ガスが流れ、スワール流動制御バルブ31が閉じているときには他方の分岐管33内にのみ吸入ガスが流れる。燃焼室6内には、他方の分岐管33内にのみ吸入ガスが流れることにより、図3の矢印Yで示すような吸入ガスのスワール流動が形成される。
【0026】
各分岐管33には、図2に示すように、分岐管33内を上下に分割して上流路35と下流路36とを形成する仕切り板34がそれぞれ設けられている。各仕切り板34は、分岐管33の長さ方向に沿って配置されている。また、一方の仕切り板34は、スワール流動制御バルブ31の位置よりも燃焼室6に近い位置(即ち、吸入ガスの流れの方向についてスワール流動制御バルブ31の位置よりも下流側の位置)に配置されている。
【0027】
タンブル流動制御バルブ32は、各分岐管33のそれぞれに設けられている。また、各タンブル流動制御バルブ32は、上流路35及び下流路36のうち、下流路36にのみ設けられている。これにより、各タンブル流動制御バルブ32が開いているときには上流路35内及び下流路36内のそれぞれを吸入ガスが流れ、タンブル流動制御バルブ32が閉じているときには上流路35内にのみ吸入ガスが流れる。燃焼室6内には、上流路35内にのみ吸入ガスが流れることにより、図2の矢印Xで示すような吸入ガスのタンブル流動が形成される。
【0028】
図4は、図1のインジェクタ13を示す断面図である。インジェクタ13は、第1の燃料管24が接続されたインジェクタ本体37と、第2の燃料管27が接続され、インジェクタ本体37に接続された燃料調整装置38とを有している。第1の燃料20は、第1の燃料管24からインジェクタ本体37へ直接供給される。第2の燃料20は、第2の燃料管27から燃料調整装置38を介してインジェクタ本体37へ供給される。
【0029】
インジェクタ本体37は、第1の燃料20が供給される第1の流路39及び第2の燃料21が供給される第2の流路40が設けられたインジェクタ胴部(燃料噴射装置胴部)41と、第1の燃料20及び第2の燃料21を混合して混合燃料28とする燃料混合部42と、燃料混合部42からの混合燃料28を噴射する噴射口43が設けられたバルブシート44と、バルブシート44に対して接離することにより噴射口43を開閉するニードル45と、バルブシート44に接触する方向へニードル45を付勢する付勢ばね(付勢体)46と、付勢ばね46の付勢力に逆らって、バルブシート44から離れる方向へニードル45を変位させる電磁コイル47とを有している。
【0030】
第1の流路39は、インジェクタ胴部41を貫通している。第1の流路39の一端部には、第1の燃料管24が接続されている。これにより、第1の流路39の一端部の開口部39aは、第1の燃料管24からの第1の燃料20の供給口とされている。第1の流路39の他端部の開口部39bは、バルブシート44で塞がれている。第1の流路39の断面形状は、円形とされている。
【0031】
第2の流路40の一端部は第1の流路39の内面に接続され、第2の流路40の他端部は燃料調整装置38に接続されている。第1の流路39の内面には、第2の流路40の一端部の開口部が設けられている。燃料調整装置38からの第2の燃料21は、第2の流路40を通して第1の流路39内へ導かれる。第2の流路40には、第1の流路39からの燃料の逆流を阻止する逆止弁48が設けられている。
【0032】
燃料混合部42は、第1の流路39内に配置されたスワーラチップ49を有している。スワーラチップ49は、その中心軸線を第1の流路39の長さ方向に一致させて配置されている。スワーラチップ49の中心軸線上には、ニードル45を通すガイド用貫通孔50が設けられている。ニードル45は、ガイド用貫通孔50の内面に案内されながら、バルブシート44に接離する方向へ変位される。スワーラチップ49は、バルブシート44に接触した状態で第1の流路39内に配置されている。バルブシート44には噴射口43に向けて傾斜する傾斜面が形成されている。従って、スワーラチップ49とバルブシート44との間には隙間が生じている。
【0033】
ここで、図5は、図4のスワーラチップ49を示す斜視図である。また、図6は、図4のスワーラチップ49を示す平面図である。スワーラチップ49の外周部には、第1の流路39の内面に対向する複数の対向面51が形成されている。各対向面51の境界には、スワーラチップ49の中心軸線と平行な稜線52がそれぞれ形成されている。これにより、スワーラチップ49の形状は多角柱とされている。この例では、スワーラチップ49の形状が正六角柱とされている。
【0034】
スワーラチップ49は、各稜線52を第1の流路39の内面に接触させた状態で第1の流路39内に配置されている。これにより、スワーラチップ49と第1の流路39の内面との間には、複数の分割流路53が設けられている。各分割流路53は、対向面51と第1の流路39の内面との間にそれぞれ形成されている。この例では、6本の分割流路53がスワーラチップ49と第1の流路39の内面との間に形成されている。第1の燃料20は、供給口39aから第1の流路39内を流れて、各分割流路53内に分かれて流入する。
【0035】
各対向面51のうち少なくともいずれかには、図4に示すように、第2の流路40の開口部が対向している。これにより、第2の燃料21は、分割流路53内の少なくともいずれかに第2の流路40から直接注入される。各分割流路53内から流出する燃料は、スワーラチップ49とバルブシート44との間の隙間で互いに混合される。
【0036】
この例では、第2の流路40が3つに分岐されて第1の流路39に接続されている。スワーラチップ49と第1の流路39の内面との間には、第2の燃料21が注入される分割流路53と、第2の燃料21が注入されない分割流路53とが交互に形成されている。
【0037】
スワーラチップ49のバルブシート44側の面には、図5及び図6に示すように、各分割流路53からの燃料を旋回させながら噴射口43へ導く複数(この例では、6本)の旋回用溝54が設けられている。各旋回用溝54は、スワーラチップ49の中心軸線に沿ってスワーラチップ49を見たときに、スワーラチップ49の中心軸線を中心とする円に接する方向へ各対向面51から延びて形成されている。即ち、各旋回用溝54は、スワーラチップ49の中心軸線に向けずにオフセットさせてスワーラチップ49に形成されている。これにより、各分割流路53から流出した燃料は、スワーラチップ49とバルブシート44との間の隙間でスワーラチップ49の中心軸線の周囲を旋回する方向へ導かれる。
【0038】
図7は、図4のバルブシート44及びニードル45を示す斜視図である。各分割流路53からの燃料は、矢印Zで示す方向へ旋回されることにより互いに混合されて混合燃料28とされる。混合燃料28は、バルブシート44の傾斜面に沿って旋回されながら噴射口43へ導かれる。噴射口43に達した混合燃料28は、共通の噴射口43を通って霧状となって燃焼室6内に噴射される。
【0039】
ニードル45は、図4に示すように、スワーラチップ49のガイド用貫通孔50に通された状態で第1の流路39内に設けられている。また、ニードル45は、バルブシート44に接触することにより噴射口43を閉じ、バルブシート44から離れることにより噴射口43を開く。
【0040】
付勢ばね46は、第1の流路39内に配置されている。また、付勢ばね46は、弾性反発力を発生することにより、バルブシート44に接触する方向へニードル45を付勢している。
【0041】
電磁コイル47は、通電されることにより、付勢ばね46の付勢力に逆らってニードル45を吸引する電磁吸引力を発生する。電磁コイル47への通電が行われると、ニードル45は電磁コイル47の電磁吸引力によりバルブシート44から離れる方向へ変位される。また、電磁コイル47への通電が停止されると、ニードル45は付勢ばね46の付勢力によりバルブシート44に接触する方向へ変位される。
【0042】
燃料調整装置38は、第2の燃料管27内からの第2の燃料21を第2の流路40内へ導く燃料導入路55が設けられた燃料制御装置胴部56と、燃料導入路55内と第2の燃料21とを連通するニードル用穴57が設けられた燃料制御用バルブシート58と、燃料制御用バルブシート58に対して接離することによりニードル用穴57を開閉する燃料制御用ニードル59と、燃料制御用バルブシート58に接触する方向へ燃料制御用ニードル59を付勢する付勢ばね(付勢体)60と、付勢ばね60の付勢力に逆らって、燃料制御用バルブシート58から離れる方向へ燃料制御用ニードル59を変位させる電磁コイル61とを有している。
【0043】
燃料制御用ニードル59は、電磁コイル61への通電が行われると燃料制御用バルブシート58から離れる方向へ変位され、電磁コイル61への通電が停止されると燃料制御用バルブシート58に接触する方向へ変位される。また、燃料制御用ニードル59は、燃料制御用バルブシート58に接触することによりニードル用穴57を閉じ、燃料制御用バルブシート58から離れることによりニードル用穴57を開く。燃料導入路55内から第2の流路40内への第2の燃料21の供給は、ニードル用穴57が開くことにより行われる。
【0044】
センサ装置18は、図1に示すように、運転者により操作されるアクセルペダル62の踏み込み位置に応じた信号(電気信号)を発生するアクセルポジションセンサ63と、クランクシャフト4の回転に応じた信号(パルス)を発生するエンジン回転数センサ64とを有している。
【0045】
エンジン回転数センサ64は、クランクシャフト4が一回転する間に、クランクシャフト4の回転角度に応じた特定数のパルスを発生する。また、エンジン回転数センサ64は、ピストン3の位置が上死点又は下死点となるクランクシャフト4の回転位置でもパルスを発生する。
【0046】
コントローラ19は、アクセルポジションセンサ63及びエンジン回転数センサ64のそれぞれからの情報をエンジン1の運転状態の情報として受け、受けた情報に基づいて、エンジン1の出力(負荷)及び回転数を求める。また、コントローラ19は、求めたエンジン1の出力及び回転数に応じた制御を、インジェクタ13、第1の燃料供給装置14、第2の燃料供給装置15、吸気量調整装置16及び吸気流動調整装置17のそれぞれに対して行う。
【0047】
図8は、図1の燃焼室6内で第1の燃料20、第2の燃料21及び混合燃料28のそれぞれを用いて予混合圧縮着火燃焼を行ったときの熱発生率(dQ/dθ)の挙動を示すグラフである。図8のグラフは、図1のクランクシャフト4の回転角度(クランク角度θ)と、燃焼室6内での熱発生率との関係を示している。なお、熱発生率は、クランク角度の単位角度当たりの発生熱量である。
【0048】
図8に示すように、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65は、クランク角度の比較的早いタイミングで燃焼が完了している。第2の燃料21を用いたときの熱発生率の挙動66は、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65に比べて、燃焼開始のタイミングが大きく遅れている。
【0049】
ここで、軽負荷運転状態では、予混合気の空燃比がリーン(希薄)であるので、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65に示される早期着火や高速燃焼が生じても、燃焼室6内の圧力の上昇はノッキングの発生限界よりも低く抑えられる。しかし、低負荷運転状態から高負荷運転状態に移行すると、第1の燃料20の噴射量の増加によって空燃比がリッチ化し、燃焼速度がノッキングの発生限界を超えてしまう。
【0050】
混合燃料28を用いたときの熱発生率の挙動67は、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65と、第2の燃料21を用いたときの熱発生率の挙動66とを合成した挙動となっている。即ち、混合燃料28を用いたときの熱発生率の挙動67の特性は、第1の燃料20と同様の着火性能を持ちながら、燃焼速度を遅くし燃焼期間も長くする第2の燃料21の特性を持っている。これにより、高負荷運転状態で混合燃料28を燃焼室6内に噴射しても、ノッキングは起こらず安定した燃焼が実現される。
【0051】
図9は、図1のエンジン1が高負荷運転状態となっている場合に第1の燃料20及び混合燃料28のそれぞれを燃焼室6内に噴射したときの燃焼室6内の圧力(筒内圧力)の挙動を示すグラフ(指圧線図)である。図9のグラフは、クランク角度θと筒内圧力との関係を示している。なお、図9における時点Pは、ピストン3の位置が上死点となるタイミングを示している。
【0052】
図9に示すように、第1の燃料20を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68では、着火直後の最高圧力が高く、膨張行程においてノッキング68aが発生している。これに対して、混合燃料28を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動69では、着火直後の筒内圧力の上昇が緩慢で、第1の燃料20を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68に比べて最高圧力が低くなっている。また、燃焼期間も、混合燃料28を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動69のほうが、第1の燃料20を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68よりも長くなっている。従って、筒内圧力の挙動68,69によるエンジン1の出力がほぼ同じでありながら、混合燃料28を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68はノッキングを起こさない安定した燃焼を実現していることが分かる。
【0053】
図10は、図1の燃焼室6内に吸入ガスのタンブル流動を形成するエンジン1の運転領域、吸入ガスのスワール流動を形成するエンジン1の運転領域、吸入ガスのスワール流動及びタンブル流動のいずれも形成しないエンジン1の運転領域を示すグラフである。図10では、エンジン1の回転数を横軸とし、エンジン1の出力を縦軸として示している。なお、図10では、エンジン1の最高出力とエンジン1の回転数との関係がライン73として示されている。
【0054】
エンジン1の低回転・低出力運転領域70では、燃焼室6内への吸気ガスの供給量が少ない。従って、低回転・低出力運転領域70では、燃焼室6内の空気の乱れを生じさせるために、吸気流動調整装置17の動作によって吸入ガスのタンブル流動が燃焼室6内に形成される。
【0055】
エンジン1の回転数及び出力がいずれも中程度の中間運転領域71では、燃焼室6内への吸入ガスの供給量が増加するので、吸入ガスの乱れを抑えて均質分布を促進するために、吸気流動調整装置17の動作によって吸入ガスのスワール流動が燃焼室6内に形成される。
【0056】
エンジン1の高回転・高出力運転領域72では、混合気形成及び均質分布の実現に対して燃焼室6内への吸入ガスの供給量が十分であるので、吸入ガスの抵抗増大による出力低下を抑制するために、吸気流動調整装置17の動作によって吸入ガスのタンブル流動及びスワール流動のいずれの形成も停止される。
【0057】
コントローラ19は、センサ装置18からの情報により求めたエンジン1の出力及び回転数に基づいて、エンジン1の運転状態の領域が低回転・低出力運転領域70、中間運転領域71及び高回転・高出力運転領域72のいずれであるかを特定し、特定した運転領域に応じて、吸気流動調整装置17の動作を制御する。
【0058】
図11は、図1のインジェクタ13から噴射される混合燃料28の第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を決めるためのエンジン1の運転領域を示すグラフである。図11では、エンジン1の回転数を横軸とし、エンジン1の出力を縦軸として示している。また、図11では、図10と同様に、エンジン1の最高出力とエンジン1の回転数との関係がライン73として示されている。
【0059】
エンジン1の低負荷運転領域74では、燃焼室6内に噴射される燃料が少ないので、燃焼室6内に形成される混合気はリーン状態となっている。従って、低負荷運転領域74では、燃焼室6内に噴射される燃料が第1の燃料20のみであっても、燃焼室6内での予混合圧縮着火燃焼が成立する。このことから、低負荷運転領域74では、第2の燃料21が第1の燃料20と混合されて混合燃料28とされることはなく、第1の燃料20のみが燃焼室6内に噴射される。
【0060】
エンジン1の全運転領域のうち、低負荷運転領域74を除く中高負荷運転領域75では、燃焼室6内に噴射される燃料が第1の燃料20のみであるとノッキングが発生する。従って、中高負荷運転領域75では、混合燃料28がインジェクタ13から燃焼室6内に噴射される。これにより、ノッキングの発生が抑制される。
【0061】
混合燃料28における第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率は、エンジン1の負荷の大きさに応じて調整される。即ち、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率は、エンジン1の負荷の大きさが大きくなるに従って、第1の燃料20に対する第2の燃料21の割合が大きくなるように調整される。この例では、中高負荷運転領域75を区分して、負荷の大きさが連続的に大きくなる第1〜第5の区分負荷領域76〜80を設定し、第1の区分負荷領域76で1:0.2、第2の区分負荷領域77で1:0.4、第3の区分負荷領域78で1:0.6、第4の区分負荷領域79で1:0.8、第5の区分負荷領域80で1:1となるように第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率(第1の燃料20:第2の燃料21)を調整している。
【0062】
第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率の調整は、コントローラ19によるインジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれの制御により行われる。即ち、コントローラ19は、混合燃料28を噴射する噴射口43の開時間(即ち、燃焼室6内への混合燃料28の噴射時間)と、第2の燃料21を第2の流路40へ流入させるニードル用穴57の開時間(即ち、第2の流路40への第2の燃料21の供給時間)とを調整することにより、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率を調整する。
【0063】
コントローラ19は、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力により噴射口43を開き、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力の停止により噴射口43を閉じる。また、コントローラ19は、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力によりニードル用穴57を開き、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力の停止によりニードル用穴57を閉じる。
【0064】
図12は、図1のコントローラ19からインジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれへの弁駆動信号の出力時間を示すグラフであり、図12(a)はインジェクタ本体37への弁駆動信号の出力時間を示すグラフ、図12(b)は燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間を示すグラフである。
【0065】
図12に示すように、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力時間をa(msec)、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間をb(msec)とすると、噴射口43から噴射される混合燃料28に含まれる第1の燃料20の量A(mg)は式(1)により表され、噴射口43から噴射される混合燃料28に含まれる第2の燃料21の量B(mg)は式(2)により表される。
【0066】
A=b×ri/2+(a−b)×ri=(a−b/2)×ri…(1)
B=b×ri/2…(2)
【0067】
ここで、riは、噴射口43から噴射される混合燃料28の燃料噴射率(mg/msec)である。また、混合燃料28の噴射量Tinj(mg)は、式(3)により表される。
【0068】
Tinj=A+B=a×ri…(3)
【0069】
この例では、第1の燃料20及び第2の燃料21のそれぞれの供給圧力は一定値に設定されている。従って、インジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれへの弁駆動信号の出力を同時に開始するタイミングでは、第1の燃料20及び第2の燃料21の各燃料噴射率は、それぞれri/2(mg/msec)となる。
【0070】
従って、式(2)及び式(3)から、混合燃料28に対する第2の燃料21の割合Cは、式(4)により表される。
【0071】
C=B/(A+B)=b/(2×a)…(4)
【0072】
式(4)より、混合燃料28における第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率は、燃焼室6内への混合燃料28の噴射時間に対して、インジェクタ本体37への第2の燃料21の供給時間を調整することにより、調整可能であることが分かる。
【0073】
コントローラ19は、センサ装置18からの情報により求めたエンジン1の出力及び回転数に基づいて、エンジン1の運転状態の領域が図11の運転領域のいずれに属するかを特定し、特定した領域に応じた混合燃料28の混合比率になるように、インジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれの動作を制御する。
【0074】
図13は、図1のコントローラ19が燃料噴射の調整を行うときの動作を説明するためのフローチャートである。コントローラ19は、センサ装置18からの情報を受けると、センサ装置18からの情報に基づいて、エンジン1の出力及び回転数を求め、求めたエンジン1の出力及び回転数に基づいて、エンジン1の運転領域を特定する(S1)。
【0075】
この後、コントローラ19は、特定した運転領域での運転を維持するための燃焼室6内への燃料噴射量Tinjと、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力時間(即ち、燃焼室6内への燃料噴射時間)aとを算出する(S2)。
【0076】
この後、コントローラ19は、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が図11の低負荷運転領域74及び中高負荷運転領域75のいずれの領域に属するかを判定する(S3)。
【0077】
ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が中高負荷運転領域75に属すると判定した場合には、コントローラ19は、エンジン1の運転領域が図11の第1〜第5の区分負荷領域76〜80のいずれの領域に属するかを特定し、特定した領域に応じて、混合燃料28に対する第2の燃料21の割合Cを求める(S4)。
【0078】
この後、コントローラ19は、求めた割合Cに基づいて、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間(即ち、第2の燃料21のインジェクタ本体37への供給時間)b(=C×2×a)を求める(S5)。
【0079】
一方、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が低負荷運転領域74に属すると判定した場合、コントローラ19は、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間bをゼロとし、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力の停止を維持する(S6)。
【0080】
この後、コントローラ19は、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が図10の低回転・低出力運転領域70に属するか否かを判定する(S7)。
【0081】
低回転・低出力運転領域70に属する場合には、コントローラ19は、タンブル流動制御バルブ32を閉じる制御を行う(S8)。これにより、燃焼室6内には、吸入ガスのタンブル流動が形成される。
【0082】
低回転・低出力運転領域70に属さない場合、コントローラ19は、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が図10の中間運転領域71に属するか否かを判定する(S9)。
【0083】
中間運転領域71に属する場合には、コントローラ19は、スワール流動制御バルブ31を閉じる制御を行う(S10)。これにより、燃焼室6内には、吸入ガスのスワール流動が形成される。
【0084】
中間運転領域71に属さない場合、コントローラ19は、スワール流動制御バルブ31及びタンブル流動制御バルブ32をいずれも開く制御を行う(S11)。
【0085】
このような内燃機関の燃焼制御装置9では、第1の燃料20と第2の燃料21との混合により生成された混合燃料28を共通の噴射口43から燃焼室6内へ直接噴射するので、第1の燃料20と第2の燃料21とが燃焼室6内で成層化してしまうことを防止することができ、均質な混合気を燃焼室6内に常に安定して形成することができる。また、互いに異なる着火性能及びアンチノック性能を持つ第1の燃料20及び第2の燃料21を混合して混合燃料28を生成することにより、互いに異なる運転状態に対して安定した燃焼を継続することができる。従って、低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる。
【0086】
また、スワール流動制御バルブ31の制御により吸入ガスのスワール流動を燃焼室6内に形成し、タンブル流動制御バルブ32の制御により吸入ガスのタンブル流動を燃焼室6内に形成するので、燃焼室6内における吸入ガスの流動の形成をエンジン1の運転状態に応じて調整することができ、エンジン1の運転状態に応じた混合気を燃焼室6内に形成することができる。従って、幅広い運転状態における予混合圧縮着火燃焼をさらに効率良く継続させることができる。
【0087】
また、インジェクタ13は、第1の燃料20が供給される第1の流路39及び第2の燃料21が供給される第2の流路40がインジェクタ胴部41に設けられ、第2の流路40への第2の燃料21の供給が燃料調整装置38により調整されるので、混合燃料28に含まれる第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率を簡単な構成で調整することができる。
【0088】
また、第1の燃料20と第2の燃料21とを混合する燃料混合部42は、第1の流路39内に配置された多角柱のスワーラチップ49を有し、スワーラチップ49には、スワーラチップ49と第1の流路39の内面との間に形成された複数の分割流路53からの燃料を旋回させながら混合する複数の旋回用溝54が設けられているので、第1の燃料20と第2の燃料21との混合をより確実にすることができ、より均質な混合燃料28をインジェクタ本体37内で生成することができる。
【0089】
また、コントローラ19は、第2の流路40への第2の燃料21の供給時間と噴射口43の開時間とを調整することにより、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率を調整するので、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率の調整を簡単な制御で行うことができる。
【0090】
なお、上記の例では、スワーラチップ49の形状が六角形となっているが、これに限定されず、スワーラチップ49の形状を例えば三角形や四角形、八角形等としてもよい。
【0091】
また、上記の例では、複数の分割流路53のうち、一部の分割流路53にのみ第2の燃料21が注入されるようになっているが、複数の分割流路53の少なくともいずれかに第2の燃料21が注入されるようになっていればよく、例えば1本の分割流路53のみに第2の燃料21を注入してもよいし、すべての分割流路53に第2の燃料21を注入するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 エンジン(内燃機関)、6 燃焼室、13 インジェクタ(燃料噴射装置)、18 センサ装置(検出部)、19 コントローラ(制御部)、20 第1の燃料、21 第2の燃料、28 混合燃料、31 スワール流動制御バルブ、32 タンブル流動制御バルブ、33 分岐管、34 仕切り板、35 上流路、36 下流路、39 第1の流路、40 第2の流路、41 インジェクタ胴部(燃料噴射装置胴部)、42 燃料混合部、43 噴射口、44 バルブシート、45 ニードル、49 スワーラチップ、51 対向面、52 稜線、53 分割流路、54 旋回用溝。
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の燃焼室内における予混合圧縮着火燃焼を制御する内燃機関の燃焼制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の燃費を向上させるために、吸気行程で燃料を噴射して混合気を生成し、圧縮行程の高温高圧状態で混合気を自己着火させて予混合圧縮着火燃焼を行う内燃機関が知られている。このような従来の内燃機関では、燃料が吸気行程で噴射されるので、混合気の濃度の低いリーン状態で燃焼を行うときには、均質な混合気を形成するのに十分な時間が確保され、圧縮行程の後半には混合気中に過濃領域がほとんど存在しなくなる。このため、燃焼温度が低くなってサーマルNOxの生成を抑制することができ、NOx浄化触媒の装着を不要にすることができる。このことから、予混合圧縮着火燃焼の方式が次世代の燃焼方式として開発が進められている。
【0003】
予混合圧縮着火燃焼では、圧縮行程における混合気の温度が自己着火温度よりも低ければ混合気が着火されることはない。従って、従来、混合気の温度を上昇させるために、内燃機関の圧縮比を大きくする方法や、吸排気バルブの開閉タイミングを調整して高温の残留ガスを気筒内に残す方法、吸気を電気ヒータで加熱する方法等が用いられることがある。これにより、従来では、混合気の濃度の低い低負荷運転状態において、安定した予混合圧縮着火燃焼を実現している。
【0004】
しかし、混合気の濃度が高くなる高負荷運転状態では、自己着火温度が低く、着火すると燃焼速度が速くなるので、異常昇圧によるノッキングが発生し、予混合圧縮着火燃焼を継続することができなくなってしまう。高負荷運転状態で予混合圧縮着火燃焼を成立させるためには、過早着火の抑制と燃焼速度の低減とが必要になる。
【0005】
従来、高負荷運転状態でのノッキングの発生を抑制するために、通常の火花点火燃焼の状態から予混合圧縮着火燃焼の状態へ切り替えるときに、ガソリンと空気との混合気に水を噴射して予混合圧縮着火燃焼の過早着火を抑制する内燃機関の制御装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、従来、高負荷運転状態でのノッキングの発生を抑制するために、互いに異なる特性を持つ2種類の燃料を内燃機関の運転状態に応じて供給するバイフューエル技術も提案されている。従来、第1のインジェクタからガソリンを第1の燃料として噴射してガソリンと空気との混合気を形成した後、第2のインジェクタから水素ガス、ジエチルエーテル又は軽油を第2の燃料として燃焼室内に噴射する内燃機関も提案されている(例えば特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−17082号公報
【特許文献2】特開2004−100501号公報
【特許文献3】特開2008−286110号公報
【特許文献4】特開2009−68418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に示されている内燃機関では、ガソリンと空気との混合気が形成された後に水を噴射するので、混合気全体に水が行渡らないおそれがある。また、特許文献2〜4に示されている内燃機関では、第1の燃料を噴射する第1のインジェクタと、第2の燃料を噴射する第2のインジェクタとが互いに異なる位置に配置されているので、第1の燃料の混合気の形成と第2の燃料の混合気の形成とが個別に進んだ状態で混合されることとなる。このため、安定して均質な混合気を常に形成することが難しく、第1の燃料と第2の燃料とが成層化する部分が残ってしまう。従って、従来の内燃機関では、燃料の混合の効果を十分に引き出すことができず、高負荷運転状態になるとノッキングの発生を十分に抑制することができなくなってしまう。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる内燃機関の燃焼制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る内燃機関の燃焼制御装置は、内燃機関の燃焼室内での予混合圧縮着火燃焼を制御する内燃機関の燃焼制御装置であって、第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を調整可能で、第1の燃料と第2の燃料との混合により生成された混合燃料を共通の噴射口から燃焼室内へ直接噴射する燃料噴射装置、内燃機関の運転状態を検出する検出部、及び検出部からの情報に基づいて燃料噴射装置を制御することにより、第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を調整する制御部を備えている。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る内燃機関の燃焼制御装置では、第1の燃料と第2の燃料との混合により生成された混合燃料を共通の噴射口から燃焼室内へ直接噴射するので、第1の燃料と第2の燃料とが燃焼室内で成層化してしまうことを防止することができ、均質な混合気を燃焼室内に常に安定して形成することができる。また、互いに異なる着火性能及びアンチノック性能を持つ第1の燃料及び第2の燃料を混合して混合燃料を生成することにより、互いに異なる運転状態に対して安定した燃焼を継続することができる。従って、低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による内燃機関を示す構成図である。
【図2】図1の吸気流動調整装置を示す拡大図である。
【図3】図2の吸気流動調整装置を示す上面図である。
【図4】図1のインジェクタを示す断面図である。
【図5】図4のスワーラチップを示す斜視図である。
【図6】図4のスワーラチップを示す平面図である。
【図7】図4のバルブシート及びニードルを示す斜視図である。
【図8】図1の燃焼室内で第1の燃料、第2の燃料及び混合燃料のそれぞれを用いて予混合圧縮着火燃焼を行ったときの熱発生率の挙動を示すグラフである。
【図9】図1のエンジンが高負荷運転状態となっている場合に第1の燃料及び混合燃料のそれぞれを燃焼室内に噴射したときの燃焼室内の圧力(筒内圧力)の挙動を示すグラフ(指圧線図)である。
【図10】図1の燃焼室内に吸入ガスのタンブル流動を形成するエンジンの運転領域、吸入ガスのスワール流動を形成するエンジンの運転領域、吸入ガスのスワール流動及びタンブル流動のいずれも形成しないエンジンの運転領域を示すグラフである。
【図11】図1のインジェクタから噴射される混合燃料の第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を決めるためのエンジンの運転領域を示すグラフである。
【図12】図1のコントローラからインジェクタ本体及び燃料調整装置のそれぞれへの弁駆動信号の出力時間を示すグラフである。
【図13】図1のコントローラが燃料噴射の調整を行うときの動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による内燃機関を示す構成図である。図において、エンジン(内燃機関)1は、エンジン筒2と、エンジン筒2内を摺動しながら往復移動されるピストン3と、ピストン3の往復移動に応じて回転されるクランクシャフト4と、ピストン3とクランクシャフト4とを接続する接続ロッド5と、エンジン筒2の内面とピストン3とで囲まれる燃焼室6内に吸気口7aを介して連通され、燃焼室6内に吸入される空気(吸入ガス)を導く吸気管(吸気路)7と、燃焼室6内に排気口8aを介して連通され、燃焼室6内から排出される既燃ガス(排出ガス)を外部へ導く排気管(排気路)8と、燃焼室6内での燃焼を制御する燃焼制御装置9とを有している。
【0014】
エンジン筒2には、吸気口7aを開閉する吸気弁10と、排気口8aを開閉する排気弁11とが設けられている。吸気弁10は、吸気口7aを開くことにより燃焼室6内への吸気を可能とし、吸気口7aを閉じることにより燃焼室6内への吸気を阻止する。排気弁11は、排気口8aを開くことにより燃焼室6内からの排気を可能とし、排気口8aを閉じることにより燃焼室6内からの排気を阻止する。
【0015】
ピストン3は、エンジン筒2内で往復移動することにより、吸気管7から燃焼室6内への吸気と、燃焼室6内から排気管8への排気とを行う。燃焼室6内には、吸気口7aからの吸入ガスと燃焼制御装置9からの燃料とが導入されて可燃燃料予混合気が形成される。また、燃焼室6内では、ピストン3の圧縮によって可燃燃料予混合気が自己着火されることにより予混合圧縮着火燃焼が行われる。ピストン3は、燃焼室6内での燃焼による圧力を受けることにより移動されて、クランクシャフト4を回転させる。
【0016】
排気管8には、三元触媒12が設けられている。三元触媒12は、燃焼室6内での燃焼が完全燃焼である場合に、燃焼室6内からの排出ガスに含まれる有害なCO、HC、NOxの3成分を同時に酸化還元して浄化する。三元触媒12を通過した排出ガスは、大気中へ放出される。
【0017】
燃焼制御装置9は、エンジン筒2に設けられ燃焼室6内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)13と、第1の燃料20をインジェクタ13へ供給する第1の燃料供給装置14と、第2の燃料21をインジェクタ13へ供給する第2の燃料供給装置15と、燃焼室6内へ吸入される空気(吸入ガス)の量を調整する吸気量調整装置16と、燃焼室6内での吸入ガスの流動を調整する吸気流動調整装置17と、エンジン1の運転状態を検出するセンサ装置(検出部)18と、センサ装置18からの情報に基づいて、インジェクタ13、第1の燃料供給装置14、第2の燃料供給装置15、吸気量調整装置16及び吸気流動調整装置17のそれぞれを制御するコントローラ(制御部)19とを有している。
【0018】
第1の燃料20と第2の燃料21とは、互いに異なる特性を持つ燃料とされている。第2の燃料21は、第1の燃料20よりもアンチノック性の高い燃料とされている。第1の燃料20としては、例えばガソリン等が用いられる。第2の燃料21としては、例えば水素ガス、軽油、ジエチルエーテル又はアルコール燃料等が用いられる。
【0019】
第1の燃料供給装置14は、第1の燃料20を溜める第1の燃料タンク22と、第1の燃料20を昇圧搬送する動力を発生する第1の燃料ポンプ23と、第1の燃料ポンプ23の動力により昇圧搬送される第1の燃料20を第1の燃料タンク22からインジェクタ13へ導く第1の燃料管24とを有している。なお、第1の燃料供給装置14では、第1の燃料20をさらに昇圧するために、第1の燃料管24における第1の燃料ポンプ23からインジェクタ13までの間の中間位置に昇圧補助用の燃料ポンプを設けてもよい。
【0020】
第2の燃料供給装置15は、第2の燃料21を溜める第2の燃料タンク25と、第2の燃料21を昇圧搬送する動力を発生する第2の燃料ポンプ26と、第2の燃料ポンプ26の動力により昇圧搬送される第2の燃料21を第2の燃料タンク25からインジェクタ13へ導く第2の燃料管27とを有している。なお、第2の燃料供給装置15でも、第2の燃料21をさらに昇圧するために、第2の燃料管27における第2の燃料ポンプ26からインジェクタ13までの間の中間位置に昇圧補助用の燃料ポンプを設けてもよい。
【0021】
インジェクタ13は、第1の燃料供給装置14からの第1の燃料20と、第2の燃料供給装置15からの第2の燃料21とを混合し、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合により生成した混合燃料28を霧状にして燃焼室6内に直接噴射する。また、インジェクタ13は、第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を調整可能になっている。インジェクタ13の調整可能な混合比率(第1の燃料20:第2の燃料21)の範囲は、1:0〜1:1の範囲とされている。燃焼室6内では、ピストン3の往復移動に応じたタイミングで混合燃料28がインジェクタ13から燃焼室6内に噴射されることにより予混合圧縮着火燃焼が行われる。
【0022】
吸気量調整装置16は、吸気管7内の流路の断面積を調整するスロットルバルブ(流量調整バルブ)29と、スロットルバルブ29の開閉量を制御するスロットルアクチュエータ30とを有している。燃焼室6内への吸入ガスの量は、スロットルバルブ29の開閉量の調整により調整される。スロットルアクチュエータ30には、スロットルバルブ29を変位させる動力を発生するDCモータやステッピングモータ等が含まれている。
【0023】
吸気流動調整装置17は、燃焼室6内に吸入ガスのスワール流動を形成するスワール流動制御バルブ31と、燃焼室6内に吸入ガスのタンブル流動を形成するタンブル流動制御バルブ32と、スワール流動制御バルブ31及びタンブル流動制御バルブ32を個別に動作させる図示しないアクチュエータとを有している。燃焼室6内には、スワール流動制御バルブ31及びタンブル流動制御バルブ32をエンジン1の運転状態に応じて個別に動作させることにより、吸入ガスのスワール流動及びタンブル流動が選択的に形成される。
【0024】
ここで、図2は、図1の吸気流動調整装置17を示す拡大図である。また、図3は、図2の吸気流動調整装置17を示す上面図である。吸気管7は、エンジン筒2にそれぞれ接続された一対の分岐管33を有している。各分岐管33は、エンジン筒2の周方向へ互いに離して設けられた2つの吸気口7aを介して燃焼室6内に個別に連通されている。従って、各分岐管33からの吸入ガスは、各吸気口7aを通って燃焼室6内へ個別に導かれる。各吸気口7aは、互いに異なる吸気弁10により開閉される。
【0025】
スワール流動制御バルブ31は、一方及び他方の分岐管33のうち、一方の分岐管33内にのみ設けられている。これにより、スワール流動制御バルブ31が開いているときには各分岐管33内のそれぞれを吸入ガスが流れ、スワール流動制御バルブ31が閉じているときには他方の分岐管33内にのみ吸入ガスが流れる。燃焼室6内には、他方の分岐管33内にのみ吸入ガスが流れることにより、図3の矢印Yで示すような吸入ガスのスワール流動が形成される。
【0026】
各分岐管33には、図2に示すように、分岐管33内を上下に分割して上流路35と下流路36とを形成する仕切り板34がそれぞれ設けられている。各仕切り板34は、分岐管33の長さ方向に沿って配置されている。また、一方の仕切り板34は、スワール流動制御バルブ31の位置よりも燃焼室6に近い位置(即ち、吸入ガスの流れの方向についてスワール流動制御バルブ31の位置よりも下流側の位置)に配置されている。
【0027】
タンブル流動制御バルブ32は、各分岐管33のそれぞれに設けられている。また、各タンブル流動制御バルブ32は、上流路35及び下流路36のうち、下流路36にのみ設けられている。これにより、各タンブル流動制御バルブ32が開いているときには上流路35内及び下流路36内のそれぞれを吸入ガスが流れ、タンブル流動制御バルブ32が閉じているときには上流路35内にのみ吸入ガスが流れる。燃焼室6内には、上流路35内にのみ吸入ガスが流れることにより、図2の矢印Xで示すような吸入ガスのタンブル流動が形成される。
【0028】
図4は、図1のインジェクタ13を示す断面図である。インジェクタ13は、第1の燃料管24が接続されたインジェクタ本体37と、第2の燃料管27が接続され、インジェクタ本体37に接続された燃料調整装置38とを有している。第1の燃料20は、第1の燃料管24からインジェクタ本体37へ直接供給される。第2の燃料20は、第2の燃料管27から燃料調整装置38を介してインジェクタ本体37へ供給される。
【0029】
インジェクタ本体37は、第1の燃料20が供給される第1の流路39及び第2の燃料21が供給される第2の流路40が設けられたインジェクタ胴部(燃料噴射装置胴部)41と、第1の燃料20及び第2の燃料21を混合して混合燃料28とする燃料混合部42と、燃料混合部42からの混合燃料28を噴射する噴射口43が設けられたバルブシート44と、バルブシート44に対して接離することにより噴射口43を開閉するニードル45と、バルブシート44に接触する方向へニードル45を付勢する付勢ばね(付勢体)46と、付勢ばね46の付勢力に逆らって、バルブシート44から離れる方向へニードル45を変位させる電磁コイル47とを有している。
【0030】
第1の流路39は、インジェクタ胴部41を貫通している。第1の流路39の一端部には、第1の燃料管24が接続されている。これにより、第1の流路39の一端部の開口部39aは、第1の燃料管24からの第1の燃料20の供給口とされている。第1の流路39の他端部の開口部39bは、バルブシート44で塞がれている。第1の流路39の断面形状は、円形とされている。
【0031】
第2の流路40の一端部は第1の流路39の内面に接続され、第2の流路40の他端部は燃料調整装置38に接続されている。第1の流路39の内面には、第2の流路40の一端部の開口部が設けられている。燃料調整装置38からの第2の燃料21は、第2の流路40を通して第1の流路39内へ導かれる。第2の流路40には、第1の流路39からの燃料の逆流を阻止する逆止弁48が設けられている。
【0032】
燃料混合部42は、第1の流路39内に配置されたスワーラチップ49を有している。スワーラチップ49は、その中心軸線を第1の流路39の長さ方向に一致させて配置されている。スワーラチップ49の中心軸線上には、ニードル45を通すガイド用貫通孔50が設けられている。ニードル45は、ガイド用貫通孔50の内面に案内されながら、バルブシート44に接離する方向へ変位される。スワーラチップ49は、バルブシート44に接触した状態で第1の流路39内に配置されている。バルブシート44には噴射口43に向けて傾斜する傾斜面が形成されている。従って、スワーラチップ49とバルブシート44との間には隙間が生じている。
【0033】
ここで、図5は、図4のスワーラチップ49を示す斜視図である。また、図6は、図4のスワーラチップ49を示す平面図である。スワーラチップ49の外周部には、第1の流路39の内面に対向する複数の対向面51が形成されている。各対向面51の境界には、スワーラチップ49の中心軸線と平行な稜線52がそれぞれ形成されている。これにより、スワーラチップ49の形状は多角柱とされている。この例では、スワーラチップ49の形状が正六角柱とされている。
【0034】
スワーラチップ49は、各稜線52を第1の流路39の内面に接触させた状態で第1の流路39内に配置されている。これにより、スワーラチップ49と第1の流路39の内面との間には、複数の分割流路53が設けられている。各分割流路53は、対向面51と第1の流路39の内面との間にそれぞれ形成されている。この例では、6本の分割流路53がスワーラチップ49と第1の流路39の内面との間に形成されている。第1の燃料20は、供給口39aから第1の流路39内を流れて、各分割流路53内に分かれて流入する。
【0035】
各対向面51のうち少なくともいずれかには、図4に示すように、第2の流路40の開口部が対向している。これにより、第2の燃料21は、分割流路53内の少なくともいずれかに第2の流路40から直接注入される。各分割流路53内から流出する燃料は、スワーラチップ49とバルブシート44との間の隙間で互いに混合される。
【0036】
この例では、第2の流路40が3つに分岐されて第1の流路39に接続されている。スワーラチップ49と第1の流路39の内面との間には、第2の燃料21が注入される分割流路53と、第2の燃料21が注入されない分割流路53とが交互に形成されている。
【0037】
スワーラチップ49のバルブシート44側の面には、図5及び図6に示すように、各分割流路53からの燃料を旋回させながら噴射口43へ導く複数(この例では、6本)の旋回用溝54が設けられている。各旋回用溝54は、スワーラチップ49の中心軸線に沿ってスワーラチップ49を見たときに、スワーラチップ49の中心軸線を中心とする円に接する方向へ各対向面51から延びて形成されている。即ち、各旋回用溝54は、スワーラチップ49の中心軸線に向けずにオフセットさせてスワーラチップ49に形成されている。これにより、各分割流路53から流出した燃料は、スワーラチップ49とバルブシート44との間の隙間でスワーラチップ49の中心軸線の周囲を旋回する方向へ導かれる。
【0038】
図7は、図4のバルブシート44及びニードル45を示す斜視図である。各分割流路53からの燃料は、矢印Zで示す方向へ旋回されることにより互いに混合されて混合燃料28とされる。混合燃料28は、バルブシート44の傾斜面に沿って旋回されながら噴射口43へ導かれる。噴射口43に達した混合燃料28は、共通の噴射口43を通って霧状となって燃焼室6内に噴射される。
【0039】
ニードル45は、図4に示すように、スワーラチップ49のガイド用貫通孔50に通された状態で第1の流路39内に設けられている。また、ニードル45は、バルブシート44に接触することにより噴射口43を閉じ、バルブシート44から離れることにより噴射口43を開く。
【0040】
付勢ばね46は、第1の流路39内に配置されている。また、付勢ばね46は、弾性反発力を発生することにより、バルブシート44に接触する方向へニードル45を付勢している。
【0041】
電磁コイル47は、通電されることにより、付勢ばね46の付勢力に逆らってニードル45を吸引する電磁吸引力を発生する。電磁コイル47への通電が行われると、ニードル45は電磁コイル47の電磁吸引力によりバルブシート44から離れる方向へ変位される。また、電磁コイル47への通電が停止されると、ニードル45は付勢ばね46の付勢力によりバルブシート44に接触する方向へ変位される。
【0042】
燃料調整装置38は、第2の燃料管27内からの第2の燃料21を第2の流路40内へ導く燃料導入路55が設けられた燃料制御装置胴部56と、燃料導入路55内と第2の燃料21とを連通するニードル用穴57が設けられた燃料制御用バルブシート58と、燃料制御用バルブシート58に対して接離することによりニードル用穴57を開閉する燃料制御用ニードル59と、燃料制御用バルブシート58に接触する方向へ燃料制御用ニードル59を付勢する付勢ばね(付勢体)60と、付勢ばね60の付勢力に逆らって、燃料制御用バルブシート58から離れる方向へ燃料制御用ニードル59を変位させる電磁コイル61とを有している。
【0043】
燃料制御用ニードル59は、電磁コイル61への通電が行われると燃料制御用バルブシート58から離れる方向へ変位され、電磁コイル61への通電が停止されると燃料制御用バルブシート58に接触する方向へ変位される。また、燃料制御用ニードル59は、燃料制御用バルブシート58に接触することによりニードル用穴57を閉じ、燃料制御用バルブシート58から離れることによりニードル用穴57を開く。燃料導入路55内から第2の流路40内への第2の燃料21の供給は、ニードル用穴57が開くことにより行われる。
【0044】
センサ装置18は、図1に示すように、運転者により操作されるアクセルペダル62の踏み込み位置に応じた信号(電気信号)を発生するアクセルポジションセンサ63と、クランクシャフト4の回転に応じた信号(パルス)を発生するエンジン回転数センサ64とを有している。
【0045】
エンジン回転数センサ64は、クランクシャフト4が一回転する間に、クランクシャフト4の回転角度に応じた特定数のパルスを発生する。また、エンジン回転数センサ64は、ピストン3の位置が上死点又は下死点となるクランクシャフト4の回転位置でもパルスを発生する。
【0046】
コントローラ19は、アクセルポジションセンサ63及びエンジン回転数センサ64のそれぞれからの情報をエンジン1の運転状態の情報として受け、受けた情報に基づいて、エンジン1の出力(負荷)及び回転数を求める。また、コントローラ19は、求めたエンジン1の出力及び回転数に応じた制御を、インジェクタ13、第1の燃料供給装置14、第2の燃料供給装置15、吸気量調整装置16及び吸気流動調整装置17のそれぞれに対して行う。
【0047】
図8は、図1の燃焼室6内で第1の燃料20、第2の燃料21及び混合燃料28のそれぞれを用いて予混合圧縮着火燃焼を行ったときの熱発生率(dQ/dθ)の挙動を示すグラフである。図8のグラフは、図1のクランクシャフト4の回転角度(クランク角度θ)と、燃焼室6内での熱発生率との関係を示している。なお、熱発生率は、クランク角度の単位角度当たりの発生熱量である。
【0048】
図8に示すように、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65は、クランク角度の比較的早いタイミングで燃焼が完了している。第2の燃料21を用いたときの熱発生率の挙動66は、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65に比べて、燃焼開始のタイミングが大きく遅れている。
【0049】
ここで、軽負荷運転状態では、予混合気の空燃比がリーン(希薄)であるので、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65に示される早期着火や高速燃焼が生じても、燃焼室6内の圧力の上昇はノッキングの発生限界よりも低く抑えられる。しかし、低負荷運転状態から高負荷運転状態に移行すると、第1の燃料20の噴射量の増加によって空燃比がリッチ化し、燃焼速度がノッキングの発生限界を超えてしまう。
【0050】
混合燃料28を用いたときの熱発生率の挙動67は、第1の燃料20を用いたときの熱発生率の挙動65と、第2の燃料21を用いたときの熱発生率の挙動66とを合成した挙動となっている。即ち、混合燃料28を用いたときの熱発生率の挙動67の特性は、第1の燃料20と同様の着火性能を持ちながら、燃焼速度を遅くし燃焼期間も長くする第2の燃料21の特性を持っている。これにより、高負荷運転状態で混合燃料28を燃焼室6内に噴射しても、ノッキングは起こらず安定した燃焼が実現される。
【0051】
図9は、図1のエンジン1が高負荷運転状態となっている場合に第1の燃料20及び混合燃料28のそれぞれを燃焼室6内に噴射したときの燃焼室6内の圧力(筒内圧力)の挙動を示すグラフ(指圧線図)である。図9のグラフは、クランク角度θと筒内圧力との関係を示している。なお、図9における時点Pは、ピストン3の位置が上死点となるタイミングを示している。
【0052】
図9に示すように、第1の燃料20を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68では、着火直後の最高圧力が高く、膨張行程においてノッキング68aが発生している。これに対して、混合燃料28を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動69では、着火直後の筒内圧力の上昇が緩慢で、第1の燃料20を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68に比べて最高圧力が低くなっている。また、燃焼期間も、混合燃料28を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動69のほうが、第1の燃料20を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68よりも長くなっている。従って、筒内圧力の挙動68,69によるエンジン1の出力がほぼ同じでありながら、混合燃料28を燃焼室6内に噴射したときの筒内圧力の挙動68はノッキングを起こさない安定した燃焼を実現していることが分かる。
【0053】
図10は、図1の燃焼室6内に吸入ガスのタンブル流動を形成するエンジン1の運転領域、吸入ガスのスワール流動を形成するエンジン1の運転領域、吸入ガスのスワール流動及びタンブル流動のいずれも形成しないエンジン1の運転領域を示すグラフである。図10では、エンジン1の回転数を横軸とし、エンジン1の出力を縦軸として示している。なお、図10では、エンジン1の最高出力とエンジン1の回転数との関係がライン73として示されている。
【0054】
エンジン1の低回転・低出力運転領域70では、燃焼室6内への吸気ガスの供給量が少ない。従って、低回転・低出力運転領域70では、燃焼室6内の空気の乱れを生じさせるために、吸気流動調整装置17の動作によって吸入ガスのタンブル流動が燃焼室6内に形成される。
【0055】
エンジン1の回転数及び出力がいずれも中程度の中間運転領域71では、燃焼室6内への吸入ガスの供給量が増加するので、吸入ガスの乱れを抑えて均質分布を促進するために、吸気流動調整装置17の動作によって吸入ガスのスワール流動が燃焼室6内に形成される。
【0056】
エンジン1の高回転・高出力運転領域72では、混合気形成及び均質分布の実現に対して燃焼室6内への吸入ガスの供給量が十分であるので、吸入ガスの抵抗増大による出力低下を抑制するために、吸気流動調整装置17の動作によって吸入ガスのタンブル流動及びスワール流動のいずれの形成も停止される。
【0057】
コントローラ19は、センサ装置18からの情報により求めたエンジン1の出力及び回転数に基づいて、エンジン1の運転状態の領域が低回転・低出力運転領域70、中間運転領域71及び高回転・高出力運転領域72のいずれであるかを特定し、特定した運転領域に応じて、吸気流動調整装置17の動作を制御する。
【0058】
図11は、図1のインジェクタ13から噴射される混合燃料28の第1の燃料20及び第2の燃料21の混合比率を決めるためのエンジン1の運転領域を示すグラフである。図11では、エンジン1の回転数を横軸とし、エンジン1の出力を縦軸として示している。また、図11では、図10と同様に、エンジン1の最高出力とエンジン1の回転数との関係がライン73として示されている。
【0059】
エンジン1の低負荷運転領域74では、燃焼室6内に噴射される燃料が少ないので、燃焼室6内に形成される混合気はリーン状態となっている。従って、低負荷運転領域74では、燃焼室6内に噴射される燃料が第1の燃料20のみであっても、燃焼室6内での予混合圧縮着火燃焼が成立する。このことから、低負荷運転領域74では、第2の燃料21が第1の燃料20と混合されて混合燃料28とされることはなく、第1の燃料20のみが燃焼室6内に噴射される。
【0060】
エンジン1の全運転領域のうち、低負荷運転領域74を除く中高負荷運転領域75では、燃焼室6内に噴射される燃料が第1の燃料20のみであるとノッキングが発生する。従って、中高負荷運転領域75では、混合燃料28がインジェクタ13から燃焼室6内に噴射される。これにより、ノッキングの発生が抑制される。
【0061】
混合燃料28における第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率は、エンジン1の負荷の大きさに応じて調整される。即ち、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率は、エンジン1の負荷の大きさが大きくなるに従って、第1の燃料20に対する第2の燃料21の割合が大きくなるように調整される。この例では、中高負荷運転領域75を区分して、負荷の大きさが連続的に大きくなる第1〜第5の区分負荷領域76〜80を設定し、第1の区分負荷領域76で1:0.2、第2の区分負荷領域77で1:0.4、第3の区分負荷領域78で1:0.6、第4の区分負荷領域79で1:0.8、第5の区分負荷領域80で1:1となるように第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率(第1の燃料20:第2の燃料21)を調整している。
【0062】
第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率の調整は、コントローラ19によるインジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれの制御により行われる。即ち、コントローラ19は、混合燃料28を噴射する噴射口43の開時間(即ち、燃焼室6内への混合燃料28の噴射時間)と、第2の燃料21を第2の流路40へ流入させるニードル用穴57の開時間(即ち、第2の流路40への第2の燃料21の供給時間)とを調整することにより、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率を調整する。
【0063】
コントローラ19は、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力により噴射口43を開き、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力の停止により噴射口43を閉じる。また、コントローラ19は、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力によりニードル用穴57を開き、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力の停止によりニードル用穴57を閉じる。
【0064】
図12は、図1のコントローラ19からインジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれへの弁駆動信号の出力時間を示すグラフであり、図12(a)はインジェクタ本体37への弁駆動信号の出力時間を示すグラフ、図12(b)は燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間を示すグラフである。
【0065】
図12に示すように、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力時間をa(msec)、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間をb(msec)とすると、噴射口43から噴射される混合燃料28に含まれる第1の燃料20の量A(mg)は式(1)により表され、噴射口43から噴射される混合燃料28に含まれる第2の燃料21の量B(mg)は式(2)により表される。
【0066】
A=b×ri/2+(a−b)×ri=(a−b/2)×ri…(1)
B=b×ri/2…(2)
【0067】
ここで、riは、噴射口43から噴射される混合燃料28の燃料噴射率(mg/msec)である。また、混合燃料28の噴射量Tinj(mg)は、式(3)により表される。
【0068】
Tinj=A+B=a×ri…(3)
【0069】
この例では、第1の燃料20及び第2の燃料21のそれぞれの供給圧力は一定値に設定されている。従って、インジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれへの弁駆動信号の出力を同時に開始するタイミングでは、第1の燃料20及び第2の燃料21の各燃料噴射率は、それぞれri/2(mg/msec)となる。
【0070】
従って、式(2)及び式(3)から、混合燃料28に対する第2の燃料21の割合Cは、式(4)により表される。
【0071】
C=B/(A+B)=b/(2×a)…(4)
【0072】
式(4)より、混合燃料28における第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率は、燃焼室6内への混合燃料28の噴射時間に対して、インジェクタ本体37への第2の燃料21の供給時間を調整することにより、調整可能であることが分かる。
【0073】
コントローラ19は、センサ装置18からの情報により求めたエンジン1の出力及び回転数に基づいて、エンジン1の運転状態の領域が図11の運転領域のいずれに属するかを特定し、特定した領域に応じた混合燃料28の混合比率になるように、インジェクタ本体37及び燃料調整装置38のそれぞれの動作を制御する。
【0074】
図13は、図1のコントローラ19が燃料噴射の調整を行うときの動作を説明するためのフローチャートである。コントローラ19は、センサ装置18からの情報を受けると、センサ装置18からの情報に基づいて、エンジン1の出力及び回転数を求め、求めたエンジン1の出力及び回転数に基づいて、エンジン1の運転領域を特定する(S1)。
【0075】
この後、コントローラ19は、特定した運転領域での運転を維持するための燃焼室6内への燃料噴射量Tinjと、インジェクタ本体37への弁駆動信号の出力時間(即ち、燃焼室6内への燃料噴射時間)aとを算出する(S2)。
【0076】
この後、コントローラ19は、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が図11の低負荷運転領域74及び中高負荷運転領域75のいずれの領域に属するかを判定する(S3)。
【0077】
ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が中高負荷運転領域75に属すると判定した場合には、コントローラ19は、エンジン1の運転領域が図11の第1〜第5の区分負荷領域76〜80のいずれの領域に属するかを特定し、特定した領域に応じて、混合燃料28に対する第2の燃料21の割合Cを求める(S4)。
【0078】
この後、コントローラ19は、求めた割合Cに基づいて、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間(即ち、第2の燃料21のインジェクタ本体37への供給時間)b(=C×2×a)を求める(S5)。
【0079】
一方、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が低負荷運転領域74に属すると判定した場合、コントローラ19は、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力時間bをゼロとし、燃料調整装置38への弁駆動信号の出力の停止を維持する(S6)。
【0080】
この後、コントローラ19は、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が図10の低回転・低出力運転領域70に属するか否かを判定する(S7)。
【0081】
低回転・低出力運転領域70に属する場合には、コントローラ19は、タンブル流動制御バルブ32を閉じる制御を行う(S8)。これにより、燃焼室6内には、吸入ガスのタンブル流動が形成される。
【0082】
低回転・低出力運転領域70に属さない場合、コントローラ19は、ステップS1で特定したエンジン1の運転領域が図10の中間運転領域71に属するか否かを判定する(S9)。
【0083】
中間運転領域71に属する場合には、コントローラ19は、スワール流動制御バルブ31を閉じる制御を行う(S10)。これにより、燃焼室6内には、吸入ガスのスワール流動が形成される。
【0084】
中間運転領域71に属さない場合、コントローラ19は、スワール流動制御バルブ31及びタンブル流動制御バルブ32をいずれも開く制御を行う(S11)。
【0085】
このような内燃機関の燃焼制御装置9では、第1の燃料20と第2の燃料21との混合により生成された混合燃料28を共通の噴射口43から燃焼室6内へ直接噴射するので、第1の燃料20と第2の燃料21とが燃焼室6内で成層化してしまうことを防止することができ、均質な混合気を燃焼室6内に常に安定して形成することができる。また、互いに異なる着火性能及びアンチノック性能を持つ第1の燃料20及び第2の燃料21を混合して混合燃料28を生成することにより、互いに異なる運転状態に対して安定した燃焼を継続することができる。従って、低負荷運転状態から高負荷運転状態までの幅広い運転状態において予混合圧縮着火燃焼を効率良くかつ安定して継続させることができる。
【0086】
また、スワール流動制御バルブ31の制御により吸入ガスのスワール流動を燃焼室6内に形成し、タンブル流動制御バルブ32の制御により吸入ガスのタンブル流動を燃焼室6内に形成するので、燃焼室6内における吸入ガスの流動の形成をエンジン1の運転状態に応じて調整することができ、エンジン1の運転状態に応じた混合気を燃焼室6内に形成することができる。従って、幅広い運転状態における予混合圧縮着火燃焼をさらに効率良く継続させることができる。
【0087】
また、インジェクタ13は、第1の燃料20が供給される第1の流路39及び第2の燃料21が供給される第2の流路40がインジェクタ胴部41に設けられ、第2の流路40への第2の燃料21の供給が燃料調整装置38により調整されるので、混合燃料28に含まれる第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率を簡単な構成で調整することができる。
【0088】
また、第1の燃料20と第2の燃料21とを混合する燃料混合部42は、第1の流路39内に配置された多角柱のスワーラチップ49を有し、スワーラチップ49には、スワーラチップ49と第1の流路39の内面との間に形成された複数の分割流路53からの燃料を旋回させながら混合する複数の旋回用溝54が設けられているので、第1の燃料20と第2の燃料21との混合をより確実にすることができ、より均質な混合燃料28をインジェクタ本体37内で生成することができる。
【0089】
また、コントローラ19は、第2の流路40への第2の燃料21の供給時間と噴射口43の開時間とを調整することにより、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率を調整するので、第1の燃料20と第2の燃料21との混合比率の調整を簡単な制御で行うことができる。
【0090】
なお、上記の例では、スワーラチップ49の形状が六角形となっているが、これに限定されず、スワーラチップ49の形状を例えば三角形や四角形、八角形等としてもよい。
【0091】
また、上記の例では、複数の分割流路53のうち、一部の分割流路53にのみ第2の燃料21が注入されるようになっているが、複数の分割流路53の少なくともいずれかに第2の燃料21が注入されるようになっていればよく、例えば1本の分割流路53のみに第2の燃料21を注入してもよいし、すべての分割流路53に第2の燃料21を注入するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 エンジン(内燃機関)、6 燃焼室、13 インジェクタ(燃料噴射装置)、18 センサ装置(検出部)、19 コントローラ(制御部)、20 第1の燃料、21 第2の燃料、28 混合燃料、31 スワール流動制御バルブ、32 タンブル流動制御バルブ、33 分岐管、34 仕切り板、35 上流路、36 下流路、39 第1の流路、40 第2の流路、41 インジェクタ胴部(燃料噴射装置胴部)、42 燃料混合部、43 噴射口、44 バルブシート、45 ニードル、49 スワーラチップ、51 対向面、52 稜線、53 分割流路、54 旋回用溝。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内での予混合圧縮着火燃焼を制御する内燃機関の燃焼制御装置であって、
第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を調整可能で、上記第1の燃料と上記第2の燃料との混合により生成された混合燃料を共通の噴射口から上記燃焼室内へ直接噴射する燃料噴射装置、
上記内燃機関の運転状態を検出する検出部、及び
上記検出部からの情報に基づいて上記燃料噴射装置を制御することにより、上記第1の燃料及び上記第2の燃料の混合比率を調整する制御部
を備えていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項2】
吸入ガスを上記燃焼室内へそれぞれ導く一対の分岐管内のいずれかに設けられ、一方の上記分岐管のみを閉じることにより上記燃焼室内において上記吸入ガスのスワール流動を形成するスワール流動制御バルブ、及び
仕切り板により上下に分割されて各上記分岐管内に形成された上流路及び下流路のうち、上記下流路に設けられ、上記下流路のみを閉じることにより上記燃焼室内において上記吸入ガスのタンブル流動を形成するタンブル流動制御バルブ
をさらに備え、
上記制御部は、上記検出部からの情報により求めた上記内燃機関の負荷に応じて、上記スワール流動制御バルブ及び上記タンブル流動制御バルブのそれぞれを制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項3】
上記燃料噴射装置は、
上記第1の燃料が供給される第1の流路及び上記第2の燃料が供給される第2の流路が設けられた燃料噴射装置胴部と、
上記第2の流路への上記第2の燃料の供給を調整する燃料調整装置と、
上記第1の流路内を流れる上記第1の燃料と上記第2の流路内を流れる上記第2の燃料とを混合して上記混合燃料とする燃料混合部と、
上記混合燃料が上記燃料混合部から導かれ、上記噴射口が設けられたバルブシートと、
上記バルブシートに対して接離することにより上記噴射口を開閉するニードルと
を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項4】
上記燃料混合部は、
上記第1の流路の内面に対向する複数の対向面を持ち、各上記対向面の境界に形成された複数の稜線を上記第1の流路の内面にそれぞれ接触させた状態で上記第1の流路内に配置され、上記第1の燃料を流す分割流路を上記第1の流路の内面と上記対向面との間に個別に形成する多角柱のスワーラチップ
を有し、
各上記分割流路の少なくともいずれかには、上記第2の燃料が上記第2の流路から注入されるようになっており、
上記スワーラチップには、各上記分割流路からの燃料を旋回させながら互いに混合して上記混合燃料とする複数の旋回用溝が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項5】
上記制御部は、上記第2の流路への上記第2の燃料の供給時間と上記噴射口の開時間とを調整することにより、上記混合比率を調整することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内での予混合圧縮着火燃焼を制御する内燃機関の燃焼制御装置であって、
第1の燃料及び第2の燃料の混合比率を調整可能で、上記第1の燃料と上記第2の燃料との混合により生成された混合燃料を共通の噴射口から上記燃焼室内へ直接噴射する燃料噴射装置、
上記内燃機関の運転状態を検出する検出部、及び
上記検出部からの情報に基づいて上記燃料噴射装置を制御することにより、上記第1の燃料及び上記第2の燃料の混合比率を調整する制御部
を備えていることを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項2】
吸入ガスを上記燃焼室内へそれぞれ導く一対の分岐管内のいずれかに設けられ、一方の上記分岐管のみを閉じることにより上記燃焼室内において上記吸入ガスのスワール流動を形成するスワール流動制御バルブ、及び
仕切り板により上下に分割されて各上記分岐管内に形成された上流路及び下流路のうち、上記下流路に設けられ、上記下流路のみを閉じることにより上記燃焼室内において上記吸入ガスのタンブル流動を形成するタンブル流動制御バルブ
をさらに備え、
上記制御部は、上記検出部からの情報により求めた上記内燃機関の負荷に応じて、上記スワール流動制御バルブ及び上記タンブル流動制御バルブのそれぞれを制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項3】
上記燃料噴射装置は、
上記第1の燃料が供給される第1の流路及び上記第2の燃料が供給される第2の流路が設けられた燃料噴射装置胴部と、
上記第2の流路への上記第2の燃料の供給を調整する燃料調整装置と、
上記第1の流路内を流れる上記第1の燃料と上記第2の流路内を流れる上記第2の燃料とを混合して上記混合燃料とする燃料混合部と、
上記混合燃料が上記燃料混合部から導かれ、上記噴射口が設けられたバルブシートと、
上記バルブシートに対して接離することにより上記噴射口を開閉するニードルと
を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項4】
上記燃料混合部は、
上記第1の流路の内面に対向する複数の対向面を持ち、各上記対向面の境界に形成された複数の稜線を上記第1の流路の内面にそれぞれ接触させた状態で上記第1の流路内に配置され、上記第1の燃料を流す分割流路を上記第1の流路の内面と上記対向面との間に個別に形成する多角柱のスワーラチップ
を有し、
各上記分割流路の少なくともいずれかには、上記第2の燃料が上記第2の流路から注入されるようになっており、
上記スワーラチップには、各上記分割流路からの燃料を旋回させながら互いに混合して上記混合燃料とする複数の旋回用溝が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項5】
上記制御部は、上記第2の流路への上記第2の燃料の供給時間と上記噴射口の開時間とを調整することにより、上記混合比率を調整することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−107564(P2012−107564A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256814(P2010−256814)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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