説明

内燃機関の筒内温度測定システム及び内燃機関の筒内温度測定システムを用いた内燃機関の制御システム

【課題】内燃機関の筒内の温度を燐光観測に基づいて精度良く測定する技術及びこれによって測定した筒内の温度を用いて内燃機関を制御する技術を提供する。
【解決手段】燃料を溶媒として燐光体を分散させた燐光体溶液を収容するとともに、排気によって燐光体溶液を霧化させ、燃料を蒸発させて燐光体粒子を分離する機能を有する蒸発装置11を備え、蒸発装置11から供給される燐光体を吸気通路2に流入させることで気筒4内に燐光体を均一に分散供給し、点火プラグ4と一体に構成された紫外光発生装置によって点火プラグ4の気筒内の部分から筒内の燐光体に紫外光を照射し、筒内の燐光体から発せられる燐光を点火プラグ4に内蔵された光ファイバによって点火プラグ4の気筒内の部分から取り込んで燐光観測部に導き、燐光観測部において燐光の特定の2波長の強度を測定し、2波長の強度比に基づいて燐光体の温度を算出し、筒内温度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の筒内温度測定システム及びそれを用いた内燃機関の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の筒内温度を測定する技術として、圧力センサによって筒内の圧力を測定して熱力学に基づく計算によって筒内のガス温度を算出する技術や、熱電対を用いて筒内のガス温度を測定する技術や、シリンダやピストンの表面に燐光体を接着し、この燐光体に紫外光を照射し、その際に燐光体から発せられる燐光を観測して、燐光体が接着された表面の温度を算出する技術等が知られている。なお、関連する技術が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2004−325111号公報
【特許文献2】特開2004−325112号公報
【特許文献3】特開2002−340698号公報
【特許文献4】特公昭63−063845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の技術において、筒内の圧力から熱力学に基づく計算によって算出されるガス温度は、筒内のガスの平均的な温度であって、この技術によって筒内のガスの局所的な温度を得ることは難しかった。また、燃料性状の変化や、燃料噴射弁等の機器の経時的な特性変化やばらつき等に柔軟に対応することが難しかった。また、熱電対は測定対象の温度変化に対する応答性が悪く、急激な温度変化に追従できない場合があった。また、燐光を利用した温度測定では、シリンダやピストンの表面温度を測定することはできるものの、筒内ガス中に均一に分散した状態の燐光体粒子を供給することが難しく、燐光観測によって筒内のガス温度を測定することは難しかった。また、筒内の燐光を観測するためには、ガラスピストンやガラスシリンダライナ等を設けて紫外光導入用及び燐光計測用の窓を設ける必要があった。
【0004】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の筒内の温度を燐光観測に基づいて精度良く測定する技術及びこれによって測定した筒内の温度を用いて内燃機関を制御する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明は、
内燃機関の筒内ガス中に燐光体を供給する燐光体供給手段と、
前記筒内ガス中の燐光体に該燐光体を励起させる光を照射する照射手段と、
前記燐光体から発せられる燐光を観測する燐光観測手段と、
を備え、
前記燐光体供給手段によって供給される前記筒内ガス中の燐光体に前記照射手段によって光を照射した際に該燐光体から発せられる燐光の前記燐光観測手段による観測結果に基づいて前記筒内の温度を測定する内燃機関の筒内温度測定システムであって、
前記燐光体供給手段は、燐光体粒子を溶媒中に分散させたコロイド溶液の状態で収容する燐光体収容手段を有し、該コロイド溶液を霧化分散させることで該コロイド溶液中の燐光体粒子を溶媒から分離させるとともに、該分離させた燐光体粒子を前記内燃機関の吸気系に流入させることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、固体の燐光体粒子が溶媒中に分散したコロイド溶液状態で燐光体収容手段に収容されているため、燐光体粒子同士が凝集してしまうことを抑制できる。そして、このコロイド溶液を霧化分散させて燐光体粒子を分離し、このようにして得られた燐光体粒子を吸気系に流入させるので、内燃機関の筒内ガス中に均一に燐光体粒子が分散した状態を実現できる。これにより、筒内ガス中の燐光体の発する燐光の観測に基づいて筒内ガスの温度を測定することが可能となる。
【0007】
ここで、光は紫外光その他燐光体を励起可能な電磁波であればどのようなものであっても良い。
【0008】
本発明において、燐光体供給手段は、
前記燐光体収容手段に収容された前記コロイド溶液を噴出させる噴出手段と、
前記噴出手段により噴出される前記コロイド溶液を衝突させる壁部材と、
を有し、前記コロイド溶液を前記壁部材に衝突させることによって前記コロイド溶液を霧化分散させるように構成することができる。
【0009】
壁部材は、例えば、噴出手段からの燐光体コロイド溶液の噴出方向に対向するように設けられた平面状又は球面状の部材によって構成することができる。
【0010】
本発明において、燐光体粒子を分散させる溶媒(液体分散媒)としては、内燃機関の燃料を用いることができる。溶媒として燃料を用いることにより、燐光体供給手段によって燐光体を吸気系に流入させる際に、蒸発した溶媒が吸気系に流入した場合においても、内燃機関の燃焼に与える影響を少なくすることができる。
【0011】
上記燐光体供給手段の構成において、噴出手段は、高圧ガスによって燐光体コロイド溶液を噴出させるように構成することができる。ここで、高圧ガスとしては、ターボチャージャによって加圧された吸気や内燃機関からの排気を用いることもできる。この場合、ターボチャージャのコンプレッサより下流の吸気通路から吸気の一部を取り出して噴出手段に導く通路や、排気通路から排気の一部を取り出して噴出手段に導く通路を設け、これら吸気や排気のエネルギーによって燐光体コロイド溶液を噴出させる。
【0012】
上記燐光体供給手段の構成において、噴出手段によって噴出される燐光体コロイド溶液を加熱する加熱手段を有していても良い。これにより、溶媒の蒸発が促進されるので、燐光体粒子の分離を促進させることができる。
【0013】
本発明の筒内温度測定システムは、筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を気筒に備えたエンジン又は筒内ガスに点火する点火プラグを気筒に備えたエンジンに適用することができる。この場合、本発明における照射手段は、燃料噴射弁又は点火プラグの気筒内の部分から筒内に光を照射する手段とすることができる。また、本発明における燐光観測手段は、燃料噴射弁又は点火プラグの気筒内の部分から筒内の燐光体が発する燐光を取り込んで観測する手段とすることができる。
【0014】
ここで、燃料噴射弁の気筒内の部分とは、例えば、燃料噴射弁の燃料噴射口近傍の箇所である。また、点火プラグの気筒内の部分とは、例えば、点火プラグの電極部近傍の箇所である。このように、照射手段及び燐光観測手段を点火プラグ又は燃料噴射弁と一体に構成することによって、筒内の燐光体に照射すべき光を筒内に入れるためにガラスシリンダやガラスピストン等の装置を備えたり、筒内の燐光を観測するための窓をシリンダ等に設けたりする必要がなく、より簡易な構造によってシステムを構成することができる。
【0015】
本発明の筒内温度測定システムは、燐光観測手段によって燐光の所定の2波長の強度を測定し、当該2波長の強度比に基づいて筒内の温度を測定する構成とすることができる。これは、波長によって温度依存性が異なるという燐光のスペクトルの温度特性を利用したものである。例えば、ある波長λのスペクトル強度Iは燐光体の温度によらず略一定であるが、波長λのスペクトル強度Iは燐光体の温度によって大きく異なる、という温度特性を有する燐光体を用いる場合、波長λと波長λの強度比I/Iと燐光体の温度との間に対応関係が成り立つので、この2波長の強度比に基づいて燐光体の温度を測定することができる。
【0016】
その他、燐光観測による温度測定技術として、燐光の寿命が温度依存性を有する性質を利用し、燐光の寿命に基づいて温度を測定する方法を用いることもできるが、この測定方法の場合、内燃機関の筒内のような高圧環境下では圧力の影響によって燐光の寿命を精度良く測定することが難しいため、筒内温度の推定精度が制限される場合がある。
【0017】
燐光の2波長の強度比を測定するために、本発明の燐光観測手段は、
入射する燐光を2つに分割するスプリッタと、
前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の内部に設けられ前記筒内の燐光を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の前記気筒内の部分から取り込み前記スプリッタに導く燐光導波路と、
前記スプリッタによって分割された燐光の一方から前記所定の2波長のうち一方の波長(例えば上記のλ)を取り出す第1のフィルタと、
前記スプリッタによって分割された燐光の他方から前記所定の2波長のうち他方の波長(例えば上記のλ)を取り出す第2のフィルタと、
前記第1のフィルタを通過する燐光の強度を測定する第1の受光部と、
前記第2のフィルタを通過する燐光の強度を測定する第2の受光部と、
を有する構成とすることができる。
【0018】
燐光観測手段をこのように構成した場合、筒内の燐光体から発せられた燐光は、点火プラグ又は燃料噴射弁の気筒内の部分から燐光導波路に入射してスプリッタまで導かれ、スプリッタに入射して2つに分割される。分割された燐光の一方は第1のフィルタを通過して波長λの成分を取り出され、第1の受光部によってその強度Iが測定される。また、分割された燐光の他方は第2のフィルタを通過して波長λの成分を取り出され、第2の受光部によってその強度Iが測定される。これにより、2波長の強度比が得られるので、強度比と燐光体温度との対応関係に基づいて、燐光体の温度、すなわち筒内の温度を測定することができる。
【0019】
燐光の2波長の強度比を測定するために、本発明の燐光観測手段は、
回折格子と、
前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の内部に設けられ前記筒内の燐光を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の気筒内の部分から取り込み前記回折格子に導く燐光導波路と、
前記燐光導波路によって導かれる燐光の前記回折格子への入射角を、前記回折格子による反射光の波長が前記所定の2波長となるように変更する入射角変更手段と、
前記回折格子で反射された燐光の強度を測定する受光部と、
を有する構成とすることができる。
【0020】
燐光観測手段をこのように構成した場合、筒内の燐光体から発せられた燐光は、点火プラグ又は燃料噴射弁の気筒内の部分から燐光導波路に入射して回折格子まで導かれる。そして、入射角変更手段によって、燐光の回折格子への入射角を、回折格子による反射光の波長が例えば上記の波長λとなるような入射角θとし、その時の反射光の強度Iを受光部によって測定する。さらに、入射角変更手段によって、燐光の回折格子への入射角
を、回折格子による反射光の波長が上記の波長λとなるような入射角θとし、その時の反射光の強度Iを受光部によって測定する。これにより、2波長の強度比が得られるので、強度比と燐光体温度との対応関係に基づいて、燐光体の温度、すなわち筒内の温度を測定することができる。
【0021】
上記のような燐光観測手段の各構成において、燐光導波路は、例えば点火プラグ又は燃料噴射弁の内部に埋め込まれた光ファイバー等によって構成することができる。
【0022】
ところで、燃料の燃焼に伴う化学発光や蛍光等の寿命が10−20nsのオーダーであるのに対し、燐光の寿命は1μsec−1msecのオーダーであり、化学発光や蛍光の寿命と比較して著しく長い。この性質に鑑み、照射手段によって筒内に光を照射してから、化学発光や蛍光の寿命と同程度の期間として定められる所定期間、燐光観測手段は燐光を観測しないようにしても良い。例えば、受光部の直前に開閉可能なシャッターを設け、照射手段によって筒内に光を照射してから前記所定期間は当該シャッターと閉じて受光部への燐光その他の光の入射を遮断するようにしても良い。これにより、化学発光や蛍光等が燐光観測におけるノイズとなることを抑制することができる。これにより、燐光の観測を精度良く行うことが可能になる。
【0023】
本発明において、照射手段は、例えば、光を発するLEDやレーザ発生装置等の発光手段を点火プラグ又は燃料噴射弁の前記気筒内の部分に備えた構成とすることができる。
【0024】
あるいは、点火プラグ又は燃料噴射弁の前記気筒内の部分以外の場所に発光手段を備え、発光手段によって発せられた光を点火プラグ又は燃料噴射弁の気筒内の部分に導く光ファイバー等の光導波路を点火プラグ又は燃料噴射弁の内部に埋め込み、当該光導波路によって点火プラグ又は燃料噴射弁の気筒内の部分に導かれた光を当該気筒内の部分から筒内に照射するように構成することができる。この構成において、光導波路は、上記の燐光観測手段の構成における燐光導波路と共通の構成要素としても良い。
【0025】
ところで、燐光体に照射される光をレンズ等の集光手段によって集光させると、その集光された位置(焦点)における燐光体から発せられる燐光の強度が非常に強くなるので、この燐光を観測することによって当該焦点位置における局所的な温度を測定することができる。このような燐光観測による筒内の局所温度の測定を行うために、前記照射手段を、筒内の所定の位置を焦点とする集光手段を更に備え、前記光導波路によって導かれた光を前記集光手段によって前記焦点に集束させて照射する構成としても良い。
【0026】
さらに、この集光手段による焦点の位置を変更可能な焦点変更手段を備えることによって、筒内の様々な位置における局所的な温度を測定することが可能になる。
【0027】
焦点変更手段は、例えば、集光手段を点火プラグ又は燃料噴射弁の気筒内の部分に設け、該気筒内の部分における集光手段の位置及び/又は角度を変化させる構成とすることができる。例えば、点火プラグ又は燃料噴射弁の気筒内の部分に設けられるレンズを、モータ等の駆動手段によって移動させ、及び/又はその角度を変化させることで、筒内の所望の位置を焦点として光を集束させて照射することができる。
【0028】
焦点変更手段を備えた構成の本発明のシステムによれば、照射手段により気筒の中心軸からの径方向距離の異なる複数の位置を焦点として光を集束させて照射し、当該複数の位置における局所的な温度を測定することができる。このように本発明のシステムを構成した場合、筒内温度の径方向分布を測定することができる。
【0029】
ここで、気筒に燃料噴射弁を備えた構成の内燃機関の場合には、「気筒の中心軸からの
径方向距離の異なる複数の位置」として、特に「燃料噴射弁による燃料噴霧軸線上の異なる複数の位置」としても良い。このような構成とすれば、燃料噴霧軸線に沿った筒内温度分布を測定することができる。燃焼後のこの温度分布は、燃料噴霧の濃度分布を反映していると考えられるので、この温度分布に基づいて燃料噴霧の濃度分布を推定することができる。
【0030】
このような筒内温度の径方向分布の測定により、気筒の中心軸からの径方向距離が比較的遠い位置(すなわち燃焼室内の外側の領域)における温度が、比較的近い位置(すなわち燃焼室内の内側の領域)における温度より低い場合、燃焼室内の外側で十分に燃料が燃焼していないことが予想される。この場合、燃料噴射弁による燃料噴射圧を増加させる補正を行うと良い。これにより燃料噴霧の到達距離が伸び、燃焼室内における燃料噴霧の分布が均一になり、好適に希薄燃料が行われるようになるので、NOxやスモークの発生を抑制することができる。
【0031】
なお、この時、燃料噴射弁がパイロット噴射噴射を行うことが可能な構成の場合には、パイロット噴射量を増加させる補正を行っても良い。パイロット噴射の場合、噴射量を増加させることによって好適に噴霧到達距離を伸ばすことができる。また、燃料噴射圧の増加補正を行っても燃料噴霧軸線上の温度分布が均一にならない場合に、パイロット噴射量の増加補正を行うようにしても良い。
【0032】
同様に、筒内温度の径方向分布の測定により、気筒の中心軸からの径方向距離が比較的遠い位置(すなわち燃焼室内の外側の領域)における温度が、比較的近い位置(すなわち燃焼室内の内側の領域)における温度より高い場合は、燃料噴射圧を減少させる補正及び/又はパイロット噴射量を減少させる補正を行い、燃料噴霧の到達距離を短くして、燃料噴霧の分布が均一になるようにしても良い。
【0033】
なお、このような燃料噴射の補正は、燃料噴霧形成前(例えば、BTDC90−50deg)に筒内温度分布の測定を行い、当該測定結果に基づいてそのサイクルにおける燃料噴射を補正する構成とすることができる。或いは、燃焼直後に筒内温度分布の測定を行い、当該測定結果に基づいて次回以降のサイクルにおける燃料噴射を補正する構成としても良い。
【0034】
また、上記のような筒内温度の径方向分布の測定により、気筒の中心軸からの径方向距離の変化に対する筒内温度の変化の度合(例えば、気筒の中心軸からの径方向距離に対する筒内温度の測定値の関係を直線回帰した場合の回帰係数)が、所定の基準値より小さい場合に、燃料噴射弁による燃料噴射圧力を増加させる補正及び/又はパイロット噴射量を増加させる補正を行うようにしても良い。逆に、当該変化度合が所定の基準値より大きい場合には、燃料噴射弁による燃料噴射圧力を減少させる補正及び/又はパイロット噴射量を減少させる補正を行うようにしても良い。
【0035】
ここで、所定の基準値とは、内燃機関の運転状態に応じて最適な燃料噴霧の分布に基づいて定められる。例えば、内燃機関の通常運転時(温間運転時)には、燃料噴霧をなるべく筒内に均一に分布させ、均一な希薄燃焼を行うことによって、NOxやスモークの発生を抑制することができる。従って、内燃機関の通常運転時における前記基準値はゼロ近傍の値とすることができる。つまり、内燃機関の通常運転時には、気筒の中心軸からの径方向距離によらずに筒内の温度が略一様となるように燃料噴射を制御すると良い。
【0036】
一方、内燃機関の冷間運転時や始動時には、燃料噴霧が筒内に分散しすぎるとオーバーリーンとなってHCが発生し易くなるため、気筒中心軸からの径方向距離が比較的短い領域、すなわち燃焼室の内側の領域に燃料噴霧をある程度集中させることが好ましい。つま
り、内燃機関の冷間運転時や始動時における前記基準値は所定の負の値とすることができる。つまり、内燃機関の冷間運転時又は始動時には、燃焼室中央付近の温度が高く、燃焼室外側の領域ほど温度が低くなるように燃料噴射を制御すると良い。但し、燃焼室中央付近に燃料噴霧を集中させ過ぎると逆にスモークが発生し易くなるので、HC及びスモークの両方の発生が好適に抑制可能な燃料噴霧の分布を定めることができる。前記所定の負の値は、このような理想的な分布に基づいて定めることができる。
【0037】
また、上記のように気筒の中心軸からの径方向距離の異なる複数の位置における局所的な温度を測定し、さらに各位置における温度の時間推移を測定することによって、当該位置におけるスワール比を算出することができる。例えば、燃料噴霧軸線上のある位置における温度を一定時間測定すると、まず燃料噴射弁からの燃料噴霧の火炎が当該位置に到達した時点で温度が上昇し、その燃料噴霧の火炎が筒内のスワールによって流されると、当該位置における温度は低下する。そして、当該燃料噴霧の隣の燃料噴霧の火炎がスワールによって当該位置まで流れてくると再び温度が上昇する。このような温度の時間推移を観測し、この温度上昇のピークの時間間隔に基づいてスワール比を算出することができる。
【0038】
本発明のシステムにおいて、上記のように径方向温度分布の時間推移に基づいてスワール比を算出可能な構成とした場合には、スワール比のより高い位置における燃料噴霧がより濃くなるような燃料噴射制御を行うことができる。こうすることで、より確実に燃料噴霧を筒内に分散させることができるので、好適な均一希薄燃焼を実現することが可能になる。
【0039】
例えば、気筒の中心軸からの径方向距離が比較的遠い位置におけるスワール比が、比較的近い位置におけるスワール比より大きい場合、燃料噴霧到達距離を長くすることによってスワールの強い領域により多くの燃料噴霧を到達させることができる。燃料噴霧到達距離を長くする手段としては、上述の各場合と同様に、燃料噴射弁による燃料噴射圧力を増加させる補正や、パイロット噴射量を増加させる補正を行う手段を用いることができる。
【0040】
また、気筒の中心軸からの径方向距離が比較的近い位置におけるスワール比が、比較的遠い位置におけるスワール比より大きい場合、燃料噴霧到達距離を短くすることによってスワールの強い領域により多くの燃料噴霧を到達させることができる。燃料噴霧到達距離を短くする手段としては、上述の各場合と同様に、燃料噴射弁による燃料噴射圧力を減少させる補正や、パイロット噴射量を減少させる補正を行う手段を用いることができる。
【0041】
焦点変更手段を備えた構成の本発明のシステムによれば、照射手段により筒内の燃焼室内壁面上の異なる複数の位置を焦点として光を集光させて照射し、当該複数の位置における局所的な温度を測定することができる。このように本発明のシステムを構成した場合、燃焼室内壁面上の温度分布を測定することができる。これにより、燃焼室内壁面上の局所的な温度の情報に基づいて、燃料噴射を制御することが可能になる。
【0042】
例えば、このような温度分布の測定によって、燃焼後の燃焼室内壁面上に所定の許容上限温度を越える高温となっている箇所が存在する場合、当該箇所に溶損等の過度の熱劣化が生じる可能性がある。従って、このような場合は、燃料噴射弁による燃料噴射量を減少させる補正を行うと良い。これにより、燃焼温度を抑制することができるので、当該箇所における温度が許容上限温度を超えることを抑制できる。従って、当該個所の過度の熱劣化を抑制することができる。ここで、許容上限温度とは、燃焼室内壁に溶損等の過度な熱劣化が生じない上限温度に基づいてあらかじめ定められる温度である。ピストンやシリンダの材料の耐熱性能に基づいて定めても良い。
【0043】
また、上記のような温度分布の測定によって、燃料噴射弁の気筒内の部分からの気筒の
中心軸方向距離が遠い位置における温度が、近い位置における温度より高くなっている温度分布が測定された場合、燃料噴霧の貫徹力が強過ぎることが予想される。このような燃料噴霧が形成されていると、燃焼室下部において局所的に過度な温度上昇が生じて燃焼室内壁面に熱劣化を生じさせる可能性がある。従って、このような場合は、燃焼噴射弁による燃料噴射圧力を減少させる補正を行うと良い。これにより、燃料噴射の貫徹力が適正となるので、燃焼室下部において局所的に燃焼噴霧の過剰に濃くなる個所が生じて過昇温することを抑制できる。
【0044】
燃料噴射弁の経時的な特性変化や製造時のばらつき、燃料の性状変化、排気系やEGR系におけるスートや排気添加燃料等の付着による過給特性やEGR量特性の変化といった、事前の適合作業によってカバーしきれない諸要因によって、目標の燃料噴射と実際の燃料噴射との間にずれが生じる場合がある。これに対し、本発明の筒内温度測定システムを備えた内燃機関においては、上述のように筒内のガス温度分布や燃焼室内壁面上の温度分布の測定に基づいて燃料噴射の補正を行うことにより、このようなずれが生じた場合においても、燃料噴射弁の現状の特性や現在使用中の燃料の性状等に応じて燃料噴射制御を補正し、これを学習してそれ以降の燃料噴射制御を適切に行うことが可能になる。
【0045】
本発明のシステムによる筒内温度の測定及び当該測定結果に基づく燃料噴射制御の補正は、例えば、給油直後に行うことが好ましい。こうすることで、給油によって性状の異なる燃料が供給された場合であっても、当該給油された燃料の性状に応じて燃料噴射制御を補正することができる。
【0046】
また、排気通路に燃料を添加する制御の実行後に上記補正を行うことが好ましい。排気燃料添加は、排気浄化装置として吸蔵還元型NOx触媒を備えた内燃機関において吸蔵還元型NOx触媒のNOx還元処理や硫黄被毒回復処理を行う場合や、パティキュレートフィルタ(以下、フィルタ)を備えた内燃機関において、フィルタの再生処理を行う場合等に実行される。排気燃料添加によって排気系に多量の燃料が添加された場合、例えばターボチャージャの可変ノズルやEGR弁等に添加燃料が付着して、過給特性やEGR量が変化する可能性がある。このような場合であっても、当該特性変化に応じて燃料噴射制御を補正することができる。
【0047】
また、車両が一定距離走行するごとに上記補正を行うことが好ましい。走行距離が伸びると、内燃機関におけるカーボンの付着や排気系におけるスートの堆積等による機関特性の経時変化が現れる。このような機関特性の変化が現れた場合であっても、上記補正を行うことにより、このような機関特性の経時変化に応じて燃料噴射制御を補正することができる。
【0048】
また、内燃機関のエンジン回転数の変動が所定の基準より大きい場合に上記補正を行うことが好ましい。エンジン回転数の変動が大きい場合、何らかの原因で燃料噴射が目標の燃料噴射からずれている可能性がある。このような場合においても、上記補正を行うことにより、燃料噴射を補正することができる。
【0049】
また、このような補正を行うために本発明の筒内温度測定システムによる筒内の温度の測定は、内燃機関の運転状態が定常運転状態の時に行うのが好ましい。これにより、安定した環境で燐光計測による筒内温度測定を行うことができ、より精度良く筒内の温度を測定することができる。定常運転状態としては、例えば、アイドル運転状態を例示できる。
【0050】
なお、上記説明では、本発明の筒内温度測定システムによって測定された筒内温度に基づいて燃料噴射制御を補正することについて説明したが、測定された温度に基づいて燃料噴射以外の機関制御の補正を行うこともできる。
【発明の効果】
【0051】
本発明により、内燃機関の筒内の温度を燐光観測に基づいて精度良く測定することが可能になる。また、このようにして測定された筒内温度に基づいて、燃料噴射その他の機関特性の変化やばらつきを補正及び学習し好適に内燃機関の制御を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0053】
図1は、本実施例に係る筒内温度測定システムを備えた内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す図である。内燃機関1は4つの気筒4を有するガソリンエンジンである。各気筒4には筒内の混合気に点火する点火プラグ5が備えられている。各気筒4には吸気通路2及び排気通路3が接続されている。排気通路3には排気を浄化する排気浄化触媒6が備えられている。
【0054】
本実施例の内燃機関1には、吸気通路2を流れる吸気中に燐光体を供給するシーディング装置10が備えられている。シーディング装置10は、燃料を溶媒として燐光体粒子を分散させた燐光体コロイド溶液を収容すると共に、排気のエネルギーによって燐光体コロイド溶液を霧化させ、燃料を蒸発させて燐光体粒子を分離する機能を有する複数個の蒸発装置11、蒸発装置11を設置すると共に蒸発装置11によって燃料から分離された燐光体粒子が一時的に存在する空間を内部に有するボックス22、ボックス22と吸気通路2とを接続しボックス22内の燐光体粒子を吸気通路2に導く燐光体導入通路9、排気通路3から排気の一部を取り出す排気導入通路8、排気導入通路8を開閉するシーディングバルブ21、排気導入通路8によって排気通路3から取り出された排気を各蒸発装置11に分配する分配通路23を有する。シーディングバルブ21はECU7と電気配線によって接続され、ECU7によって開閉制御される。ECU7は内燃機関1を制御する電子制御コンピュータである。ECU7には内燃機関1に備えられた各種センサ(図示省略)からの出力信号が入力され、その信号に基づいてECU7に接続されたシーディングバルブ21その他の各種機器の動作が制御される。
【0055】
図2は、蒸発装置11の構造を模式的に示す図である。容器14には燐光体コロイド溶液15が貯留されている。容器14の中には、容器14内の燐光体コロイド溶液15を容器14の上方に導く通路16を有するガイド18が設けられている。ガイド18は複数個の球状の脚部17によって容器14の底面に固定されており、各脚部17の間の隙間から燐光体コロイド溶液がガイド18の底部と容器14の底部との間の空間に流れ込む。また、ガイド18の通路16には分配通路23によって導かれる排気が導入される。シーディングバルブ21が開弁されると、排気が分配通路23を通ってガイド18の通路16に導入される。排気が通路16に導入されると、通路16下部は負圧状態となり、この負圧により矢印Cで示すように燐光体コロイド溶液が通路16内に引き込まれる。そして、通路16内の燐光体コロイド溶液は分配通路23によって導入される排気によって通路16から噴出される。ガイド18内部の通路16周囲には、電源20を電源とするヒータ19が備えられている。シーディングバルブ21が開弁されて蒸発装置11に排気が導入される時には、ヒータ19による通路16の加熱が同時に行われる。
【0056】
ガイド18の上方には、ガイド18の通路16の開口部に対向する球面を有する壁面12が設けられている。排気のエネルギーによって通路16からガイド18の上方に噴出する燐光体コロイド溶液は、この壁面12に衝突し、その衝突のエネルギーによって霧化し
、燐光体粒子が溶媒である燃料から分離する。この時、ヒータ19による加熱が行われるので、燃料の蒸発が促進され、燐光体粒子の分離が促進される。燃料から分離した燐光体粒子は、矢印Bに示すように、通路13を通ってボックス22の空間領域に浮遊していく。一方、十分小さな粒子に霧化せず、燐光体粒子が燃料から分離しなかったり、燃料が蒸発しなかったものは、重力によって矢印Aに示すように落下し、再び容器14に貯留している燐光体コロイド溶液15に戻る。こうして、燐光体粒子と蒸発した燃料の一部がボックス22の空間部分に供給され、燐光体導入通路9を通って吸気通路2に流入する。吸気通路2に流入した燐光体は、吸気とともに気筒4内に吸入される。
【0057】
このように、本実施例のシーディング装置10によって、筒内ガス中に均一に燐光体を供給することができる。本実施例におけるシーディング装置10が、本発明における燐光体供給手段に相当する。
【0058】
図3は、点火プラグ5の構造を模式的に示す図である。図3(A)は点火プラグ5を側面から見た図であり、図3(B)は点火プラグ5を下から見た図である。点火プラグ5の気筒内の部分には、筒内にスパークを発生する電極24が備えられている。また、点火プラグ5の上部には、紫外光を発する紫外光発生部と、筒内の燐光体から発せられる燐光を観測する燐光観測部と、から成るセンサ部40が備えられている。点火プラグ5には、センサ部40と点火プラグ5の端部に設けられた開口部26、27とを光学的に接続する光ファイバ28、25が埋め込まれている。図3(B)に示すように、点火プラグ5の端部において、開口部26、27は、それぞれ筒内への光の照射及び筒内の光の取り込みが電極24によって遮られない位置に設けられている。
【0059】
図4は、点火プラグ5の内部構造とセンサ部40の詳細な構成について模式的に示す図である。センサ部40の紫外光発生部42は、紫外レーザを発する紫外レーザ発生装置30を有する。紫外レーザ発生装置30と開口部26とは光ファイバ28によって接続されており、紫外レーザ発生装置30から発せられた紫外レーザ36は光ファイバ28を通って点火プラグ5の端部の開口部26に導かれる。開口部26には紫外レーザ36を筒内に散乱させるレンズ41が設けられており、光ファイバ28によって開口部26に導かれた紫外レーザは、レンズ41によって筒内の広範囲に散乱照射される。
【0060】
また、筒内の燐光体から発せられる燐光は点火プラグ5の端部の開口部27に入射し、光ファイバ25を通ってセンサ部40の燐光観測部43に導かれる。光ファイバ25によって燐光観測部43に導かれた燐光はミラー29で反射してハーフミラー31に入射する。ハーフミラー31は入射する燐光37を2つの燐光38、39に分割するビームスプリッタである。燐光観測部43は、ハーフミラー31によって分割された一方の燐光38の強度を測定する第1受光部35と、他方の燐光39の強度を測定する第2受光部34とを有する。そして、第1受光部35の直前には、燐光38から波長λ(455nm)の成分を取り出す第1フィルタ33が配置され、第2受光部34の直前には、燐光39から波長λ(493nm)の成分を取り出す第2フィルタ32が配置されている。また、第1受光部35と第1フィルタ33との間には第1シャッタ44が配置され、第2受光部34と第2フィルタ32との間には第2シャッタ45が配置されている。第1シャッタ44及び第2シャッタ45は、それぞれECU7によって開閉駆動される。第1シャッタ44が閉じられると、第1受光部35への光の入射が遮断され、第2シャッタ45が閉じられると、第2受光部34への光の入射が遮断される。
【0061】
図5は、本実施例で用いる燐光体に紫外光を照射した際に当該燐光体から発せられる燐光のスペクトルを示す図である。図5の横軸は燐光の波長を表し、縦軸は強度を表す。図5に示すように、燐光のスペクトルは燐光体の温度に依存して変化する。図5に示す燐光スペクトルから、波長λの成分の強度は温度によって大きく異なるのに対し、波長λ
の成分の強度は温度依存性が殆ど無いことが分かる。このことから、波長λの成分の強度Iと波長λの成分の強度Iとの強度比と、燐光体の温度と、の間には対応関係が成り立つ。
【0062】
図6は、燐光体の温度と、燐光の波長λの成分の強度I及び波長λの成分の強度Iの比と、の対応関係を示す図である。図6の横軸は燐光体の温度を表し、縦軸は強度比I/Iを表す。上記のように、本実施例の燐光観測部43によれば、燐光の波長λの成分の強度Iは第1受光部35によって測定され、波長λの成分の強度Iは第2受光部34によって測定されるので、強度比I/Iを算出することができる。従って、図6に示す対応関係に基づいて、この強度比I/Iの測定値から、燐光体の温度を推定することができる。
【0063】
筒内においては、燐光体から発せられる燐光の他にも、燃料の燃焼に伴う化学発光や、紫外光の照射によって発せられる蛍光等が存在する。これらの光も開口部27から入射して燐光観測部43に導かれ、燐光観測におけるノイズの原因となる。ところで、燐光と、蛍光や化学発光とは、その寿命が大きく異なる。図7は、燐光の寿命と化学発光や蛍光の寿命とを示す図である。図7に示すように、化学発光や蛍光の寿命が10−20nsecのオーダーであるのに対し、燐光の寿命は1μsec−1msecのオーダーであり、燐光の寿命は極めて長い。この特性を利用して、本実施例では、筒内の燐光体に紫外光を照射してから、化学発光や蛍光の寿命程度の期間は、第1シャッタ44及び第2シャッタ45を閉じて、第1受光部35及び第2受光部34への光の入射を遮断するようにした。これにより、蛍光や化学発光がノイズとして観測にかかってしまうことを抑制でき、燐光観測の精度を高めることができる。
【0064】
次に、以上のように構成された本実施例の筒内温度測定システムによって筒内温度の測定を行う手順について図8に基づいて説明する。図8は、ECU7によって行われる筒内温度測定ルーチンを示すフローチャートである。
【0065】
ステップS101において、燐光体を筒内に供給する。具体的には、ECU7は、シーディングバルブ21を開弁するとともに、ヒータ19の電源を入れる。これにより、排気通路3を流れる排気の一部が排気導入通路8及び分配通路23を介して蒸発装置11に供給され、蒸発装置11に収容された燐光体コロイド溶液がこの排気によって噴射され、またヒータ19によって加熱される。噴射された燐光体コロイド溶液は壁面12に衝突し、霧化分散し、燐光体粒子が溶媒である燃料から分離し、ボックス22及び燐光体導入通路9を介して吸気通路2に流入する。吸気通路2に流入した燐光体粒子は、吸気の流れに乗って気筒4に吸入される。こうして、筒内ガス中に均一に燐光体が供給される。
【0066】
ステップS102において、筒内に紫外光を照射する。具体的には、ECU7は、紫外レーザ発生装置30から紫外レーザを発生させる。これにより、紫外レーザが光ファイバ28によってレンズ41に導かれ、点火プラグ5の端部の開口部26から筒内に照射される。こうして、筒内の燐光体に紫外光が照射され、燐光体から燐光が発せられる。この燐光は点火プラグ5の端部の開口部27に入射して光ファイバ25によって燐光観測部43に導かれる。燐光観測部43に導かれた燐光は、第1受光部によって波長λの強度が測定されるとともに、第2受光部によって波長λの強度が測定される。
【0067】
ステップS103において、燐光の2波長強度比を算出する。具体的には、ECU7は、ステップS102において燐光観測部43によって測定された波長λの強度Iと波長λの強度Iとから、強度比I/Iを計算する。
【0068】
ステップS104において、筒内温度を算出する。具体的には、ECU7は、ステップ
S103において算出した2波長強度比I/Iから、図6に示した2波長強度比と燐光体温度との対応関係に基づいて、燐光体の温度を算出し、これを以て筒内のガス温度の測定値とする。
【0069】
以上説明したように、本実施例の構成によれば、燐光体粒子の凝集を抑制して筒内ガス中に均一に分散供給することができるので、燐光観測に基づいて筒内のガス温度を測定することが可能となる。また、点火プラグ5に紫外光発生部42と燐光観測部43とが内蔵されて一体型の構成となっているので、筒内への紫外光の照射や筒内の燐光の観測のためにガラスピストンやガラスシリンダライナ等の装置を設ける必要が無く、簡易な構成によって燐光観測を行うことが可能となる。また、燐光の特定の2波長の強度比に基づいて燐光体の温度を推定するので、燐光の寿命に基づく温度推定と比較して、エンジン筒内のような高圧環境下でも十分な推定精度を確保することが可能となる。このように、本実施例の構成によれば、燐光観測に基づいて筒内のガス温度測定を十分な精度を以て行うことができるので、例えば熱電対を利用したガス温度測定と比較して極めて応答性の良い測定を行うことができる。
【実施例2】
【0070】
次に、実施例1で概略構成を説明した燐光観測による筒内温度測定システムによって測定された筒内温度に基づいて内燃機関の制御を行う実施例について説明する。本実施例は、筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を気筒に備えたエンジンに本発明の筒内温度測定システムを適用した例である。本実施例では、さらにこの筒内温度測定システムによって測定される筒内温度に基づいて機関制御を行う例について説明する。なお、実施例1の構成と実質的に同一の構成要素には同一の名称及び符号を付して詳細な説明を省略する。
【0071】
図9は、本実施例に係る筒内温度測定システムを備えた内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す図である。内燃機関50は4つの気筒4を有するディーゼルエンジンである。各気筒4には筒内に直接燃料を噴射供給する燃料噴射弁47が備えられている。各気筒4には吸気通路2及び排気通路3が接続されている。排気通路3には排気を浄化する排気浄化触媒6が備えられている。内燃機関50にはターボチャージャ51が備えられている。ターボチャージャ51は、排気浄化触媒6より下流の排気通路3に設けられたタービン49と、吸気通路2の途中に設けられたコンプレッサ48と、を有して構成される。
【0072】
本実施例のシーディング装置100は、蒸発装置11に供給する高圧ガスとしてターボチャージャ51によって加圧された吸気を利用する点が実施例1におけるシーディング装置10と異なる。このため、本実施例のシーディング装置100は、コンプレッサ48より下流の吸気通路2から吸気の一部を取り出す吸気導入通路46、吸気導入通路46を開閉するシーディングバルブ52を、実施例1のシーディング装置10における排気導入通路8及びシーディングバルブ21の代わりに有する構成とされる。その他の構成は実施例1のシーディング装置10と同様である。シーディングバルブ52はECU53と電気配線によって接続され、ECU53によって開閉制御される。
【0073】
図10は、燃料噴射弁47の構造を模式的に示す図である。燃料噴射弁47の気筒内の部分には、筒内に燃料を噴射する燃料噴射ノズル54が配置されている。燃料噴射ノズル54から燃料が噴射されると、筒内に燃料噴霧55が形成される。また、燃料噴射弁47の上部には、紫外光発生部と燐光観測部とを有するセンサ部57が備えられている。燃料噴射弁47には、センサ部57と燃料噴射弁47の端部に設けられた開口部71とを光学的に接続する光通路56が埋め込まれている。
【0074】
図11は、燃料噴射弁47の内部構造とセンサ部57の詳細な構成について模式的に示
す図である。センサ部57の紫外光発生部42は紫外レーザ発生装置30を有する。紫外レーザ発生装置30から発せられた紫外レーザ69は、燃料噴射弁47の内部に埋め込まれた光ファイバ62によって燃料噴射弁47の端部に配置されたミラー61に導かれる。ミラー61によって紫外レーザ69は進行方向を変更し、光ファイバ72によって開口部71に導かれる。すなわち、光通路56は光ファイバ62、72、ミラー61を有して構成されている。光ファイバ72の光路の途中には紫外レーザ69を筒内の焦点59に集束させるレンズ60が配置されている。レンズ60は、その位置及び角度が矢印B、矢印Aで示されるように変更可能に構成されている。レンズ60の位置及び角度を変更するための駆動装置(図示省略)はECU53によって制御される。レンズ60の位置及び角度を変更することによって、筒内における焦点59の位置を変更することができる。例えば、図11では燃料噴霧55の噴霧軸線上中央付近に焦点59が設定されているが、レンズ60の位置及び角度を変更することによって、燃料噴霧軸線上の他の点(例えば点59A、点59B等)や、燃料噴霧軸線から外れた筒内の所定の点(例えば点59C、点59D)を焦点として紫外レーザ69を集束させて照射することができる。
【0075】
このように筒内の所定の位置に紫外光を集束させて照射すると、当該位置における燐光体から発せられる燐光の強度が非常に強くなる。従って、この燐光を観測することによって、当該焦点位置における局所的な温度を測定することができる。焦点位置の燐光体から発せられた燐光は、開口部71に入射して、紫外レーザ69と同一の光路を逆にたどり、ハーフミラー63によって反射されて燐光観測部58に導かれる。燐光観測部58に導かれた燐光70は、回折格子65に入射し、その際の入射角θに応じて定まる波長の燐光73として反射される。回折格子65で反射された燐光73は受光部68によってその強度が測定される。
【0076】
回折格子65は、図示しないモータによって回転駆動される台座64に設置されており、台座64を回転させることで燐光70の回折格子65への入射角θを変更することができる。本実施例では、燐光70の回折格子65への入射角が、反射光の波長がλ(455nm)となる入射角θとなるように台座64を回転駆動することで、燐光70の波長λの成分の強度Iを測定する。さらに、燐光70の回折格子65への入射角が、反射光の波長がλ(493nm)となる入射角θとなるように台座64を回転駆動することで、燐光70の波長λの成分の強度Iを測定する。これにより、2波長の強度比I/Iを算出することができる。本実施例では、この2波長の強度比に基づいて、焦点59における局所的な温度を推定する。その際、強度比と温度との対応関係として、実施例1と同様に図6に示した対応関係を用いる。
【0077】
なお、実施例1と同様に、受光部68の直前にはECU53によって開閉駆動されるシャッタ67が配置されている。シャッタ67が閉じられると、受光部68への光の入射が遮断される。実施例1と同様に、紫外光発生部42によって筒内に紫外光を照射してから、筒内の化学発光や蛍光の寿命程度の所定期間が経過するまでは、シャッタ67が閉じられ、その後シャッタ67が開かれ、燐光強度の測定が行われる。これにより、化学発光や蛍光が燐光観測においてノイズとなることを抑制でき、燐光観測の精度を高めることができる。
【0078】
以上のように構成された本実施例の筒内温度測定システムによって筒内温度の測定を行う手順について、図12に基づいて説明する。図12は、ECU53によって行われる筒内温度測定ルーチンを示すフローチャートである。
【0079】
ステップS201において、燐光体を筒内に供給する。具体的には、ECU53は、シーディングバルブ52を開弁するとともに、ヒータ19の電源を入れる。これにより、コンプレッサ48によって加圧された吸気の一部が吸気導入通路46及び分配通路23を介
して蒸発装置11に供給され、蒸発装置11に収容された燐光体コロイド溶液がこの吸気によって噴射され、また、ヒータ19によって加熱される。噴射された燐光体コロイド溶液は壁面12に衝突し、霧化分散し、燐光体粒子が溶媒である燃料から分離し、ボックス22及び燐光体導入通路9を介して吸気通路2に流入する。吸気通路2に流入した燐光体粒子は、吸気の流れに乗って気筒4に吸入される。こうして、筒内ガス中に均一に燐光体が供給される。
【0080】
ステップS202において、紫外光を集光させる焦点位置を設定する。具体的には、ECU53は、所定の位置が焦点となるようにレンズ60の位置及び/又は角度を変化させる。所定の位置とは、この温度測定ルーチンによって取得しようとしている筒内温度分布に応じて定められる。
【0081】
ステップS203において、筒内に紫外光を照射する。具体的には、ECU53は、紫外レーザ発生装置30から紫外レーザを発せさせる。これにより、紫外レーザが光ファイバ62、72によって開口部71に導かれ、ステップS202で設定された焦点に集束し、当該焦点に照射される。こうして、筒内の燐光体に紫外光が照射され、燐光体から燐光が発せられる。特に当該焦点の位置の燐光体からは強い燐光が発せられる。この燐光は燃料噴射弁47の端部の開口部71に入射して光ファイバ62、72によって燐光観測部58に導かれる。ここで、燐光の回折格子65への入射角がθとなるように台座64が駆動され、燐光観測部58に導かれた燐光は波長λの燐光として回折格子65によって反射され、受光部68によって波長λの強度Iが測定される。続いて、燐光の回折格子65への入射角がθとなるように台座64が駆動され、燐光観測部58に導かれた燐光は波長λの燐光として回折格子65によって反射され、受光部68によって波長λの強度Iが測定される。
【0082】
ステップS204において、燐光の2波長強度比を算出する。具体的には、ECU53は、ステップS203において燐光観測部58によって測定された波長λの強度Iと波長λの強度Iとから、強度比I/Iを計算する。
【0083】
ステップS205において、筒内局所温度を算出する。具体的には、ECU53は、ステップS204において算出した2波長強度比I/Iから、図6に示した2波長強度比と燐光体温度との対応関係に基づいて、燐光体の温度を算出し、これを以て筒内の前記焦点位置における局所温度の測定値とする。
【0084】
ステップS206において、この温度測定ルーチンによって測定すべき全ての位置における局所温度が測定されたか否かを判定する。ステップS206で肯定判定された場合、ECU53は本ルーチンの実行を終了する。ステップS206で否定判定された場合、ECU53は、温度未測定の位置に関してステップS202以降の処理を繰り返し実行する。
【0085】
以上説明したように、本実施例の構成によれば、燐光体粒子の凝集を抑制して筒内ガス中に均一に分散供給することができるので、燐光観測に基づいて筒内の局所温度を測定することが可能となる。また、燃料噴射弁47に紫外光発生部42と燐光観測部58とが内蔵されて一体型の構成となっているので、筒内への紫外光の照射や筒内の燐光の観測のためにガラスピストンやガラスシリンダライナ等の装置を設ける必要が無く、簡易な構成によって燐光観測を行うことが可能となる。レンズ60によって紫外光を集束照射可能な任意の位置における筒内局所温度を測定することができる。従って、複数の異なる位置における局所温度を測定することで、筒内温度分布を測定することができる。その他、燐光観測による温度測定が可能になることによる実施例1と同様の種々のメリットを享受することができる。
【0086】
<燃料噴射制御1>
次に、この温度分布の測定結果に基づいた内燃機関の制御について説明する。まず、筒内の径方向温度分布の測定結果に基づいて燃料噴射を補正する制御について説明する。図13は、気筒4内に挿入されたピストン74の断面図を示している。ピストン74の上部には燃焼室75が形成されている。本制御では、レンズ60の位置を変化させて、気筒4の中心軸76からの径方向距離rが異なる5つの点r、r、r、r、rを焦点として紫外光を集光照射し、前記各点における局所温度T、T、T、T、Tを測定する。これにより、筒内の燃焼室付近の径方向温度分布を測定することができる。
【0087】
このような径方向温度分布の測定結果から、径方向距離が小さい点における温度(T又はT)が、径方向距離が大きい点における温度(T又はT)より低いことが判明した場合、筒内の外側の領域で燃料の燃焼が十分でないと考えられる。すなわち、燃料噴霧の貫徹力が不十分で噴霧到達距離が十分でない可能性がある。ディーゼルエンジンの通常運転時(温間運転時)には、なるべく筒内に均一に燃料を分散させて希薄燃焼を行わせることが、NOxやPMのエミッションを低減する観点から好ましい。従って、このような径方向温度分布が測定された場合、本実施例では、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力を増加させる補正を行う。例えば、コモンレール圧力を増加させる。これにより、筒内の外側の領域まで燃料噴霧が到達するようになるので、筒内の外側の領域における燃焼が促進され、好適に均質希薄燃焼を行うことができる。
【0088】
なお、燃料噴射圧力の増加補正を行っても筒内の外側の領域における温度が低い傾向の径方向温度分布が測定される場合には、パイロット噴射量を増加させる補正を行う。パイロット噴射による噴霧は、噴射量を増加させることによって好適に噴霧到達距離を伸ばすことができる。
【0089】
図14は、上記の径方向温度分布の測定結果に基づく燃料噴射制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0090】
ステップS301において、ECU53は、径方向温度分布を測定する。具体的には、レンズ60によって紫外光を集光させるべき点として上記r、r、r、r、rを設定し、上記図12で説明した温度測定ルーチンを実行し、筒内温度T,T,T,T,Tを測定する。
【0091】
ステップS302において、ECU53は、筒内外側の領域における温度が筒内内側の領域における温度より低いか否か判定する。具体的には、T,TがT,Tより低いか否か判定する。ステップS302で肯定判定された場合、ECU53は、ステップS303に進む。一方、ステップS302で否定判定された場合、ECU53は本ルーチンを終了する。
【0092】
ステップS303において、ECU53は、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力を増加する補正を行う。
【0093】
ステップS304において、ECU53は、再度径方向温度分布を測定する。
【0094】
ステップS305において、ECU53は、ステップS302と同様に筒内外側の領域における温度が筒内内側の領域における温度より低いか否か判定する。具体的には、T,TがT,Tより低いか否か判定する。ステップS305で肯定判定された場合、ECU53は、ステップS306に進む。一方、ステップS305で否定判定された場合、ECU53は本ルーチンを終了する。
【0095】
ステップS306において、ECU53は、燃料噴射弁47によるパイロット噴射量を増加する補正を行う。
【0096】
なお、ここでは、筒内外側の領域の温度が低い場合に燃料噴射圧力(及びパイロット噴射量)を増加させる補正を行う制御について説明したが、筒内外側の領域の温度が高い場合に燃料噴射圧力(及びパイロット噴射量)を減少させる補正を行っても良い。こうすることで、筒内により均一の燃料噴霧を供給することができ、より好適に希薄燃焼を行わせることができる。また、ここでは、気筒4の中心軸から径方向距離が異なる複数の点における温度分布を測定する場合について説明したが、燃料噴霧軸線上の異なる複数の点における温度分布を測定するようにしても良い。これにより、燃料噴霧濃度(燃料噴霧到達距離、貫徹力)をより直接的に反映した筒内温度分布を測定することができる。また、以上説明した燃料噴射補正は、燃料噴霧形成前(例えばBTDC90−50deg)に筒内温度分布の測定を実行し、当該測定が行われたサイクルにおける燃料噴射にその測定結果を反映させて補正を行っても良いし、或いは、燃焼後に筒内温度分布の測定を実行し、当該測定が行われたサイクルの次以降のサイクルにおける燃料噴射にその測定結果を反映させて補正を行っても良い。
【0097】
<燃料噴射制御2>
次に、筒内の径方向温度分布の測定結果に基づいて燃料噴射を補正する制御の別の例について説明する。本制御では、径方向距離rに対する温度変化の傾きに基づいて燃料噴射を補正する。図15は、上記の気筒4の中心軸76からの径方向距離が異なる5つの点r、r、r、r、rにおける局所温度T,T,T,T,Tの測定値をプロットしたグラフである。図15の横軸は径方向距離rを表し、縦軸は筒内温度Tを表す。図15に示す例では、径方向距離rに対する温度Tの変化の傾き、すなわちこれら5点の測定結果から回帰直線Rを求めた場合の回帰係数は、ある負の値になっている。これは、筒内の中央付近の温度が高く、筒内の外側の領域になるほど温度が低くなっていることを表す。この測定結果から、燃料噴霧が筒内中央付近において比較的濃く、筒内外側の領域では比較的薄くなっていると考えられる。
【0098】
このように、本制御では、径方向距離の異なる点における局所温度の測定結果に基づいて径方向の温度変化の傾きを算出し、この傾きの値に応じて燃料噴射を補正する。すなわち、内燃機関の運転状態に応じて定まる理想的な傾き(目標傾き)に対して、測定された傾き(回帰係数)が大きい場合は、理想的な燃料噴霧分布に対して外側の燃料噴霧が濃くなっていると考えられるので、燃料噴射圧力及び/又はパイロット噴射量を減少させる補正を行う。一方、目標傾きに対して測定された傾きが小さい場合は、理想的な燃料噴霧分布に対して内側の燃料噴霧が濃くなっていると考えられるので、燃料噴射圧力及び/又はパイロット噴射量を増加させる補正を行う。
【0099】
上記燃料噴射制御1で説明したように、ディーゼルエンジンの温間運転時は、なるべく均質な燃料噴射が行われることが好ましい。従って、温間運転時の目標傾きは略ゼロの値に設定する。すなわち、図15の直線Aで示すような径方向温度変化となることが好ましい。例えば、図15の例では、測定された径方向温度変化の傾き(回帰直線Rの傾き)は直線Aの傾きより小さいため、燃料噴射圧力及び/又はパイロット噴射量を増加させる補正を行う。
【0100】
また、ディーゼルエンジンの冷間運転時又は始動時は、筒内の燃料分布が均一になると噴霧がオーバーリーンとなってHCが発生し易くなるので、ある程度筒内中央付近に噴霧を集中させることが好ましい。従って、冷間運転時又は始動時の目標傾きは所定の負の値に設定する。すなわち、図15の直線Bで示すような径方向温度変化となることが好まし
い。例えば、図15の例では、測定された径方向温度変化の傾き(回帰直線Rの傾き)は直線Bの傾きより大きいため、燃料噴射圧力及び/又はパイロット噴射量を減少させる補正を行う。但し、直線Bで示される目標傾きよりさらに径方向温度変化の傾きが小さくなると、逆に筒内中央付近に噴霧が集中し過ぎてスモークが発生し易くなる。冷間運転時又は始動時における目標傾きは、HC及びスモークの両方のエミッションを好適に抑制可能な燃料噴霧の分布に基づいて定められる。
【0101】
図16は、上記の径方向温度変化の傾き(回帰係数)の算出結果に基づく燃料噴射制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0102】
ステップS401において、ECU53は、径方向温度分布を測定する。具体的には、レンズ60によって紫外光を集光させるべき点として上記r、r、r、r、rを設定し、上記図12で説明した温度測定ルーチンを実行し、筒内温度T,T,T,T,Tを測定する。
【0103】
ステップS402において、ECU53は、ステップS401における測定結果から算出した径方向温度変化の傾きaと目標傾きaTRGとを比較する。a=aTRGの場合には、ECU53は本ルーチンの実行を終了する。a<aTRGの場合には、ECU53はステップS403に進む。a>aTRGの場合には、ECU53はステップS404に進む。
【0104】
ステップS403において、ECU53は、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力を増加させる補正を行う。
【0105】
ステップS404において、ECU53は、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力を減少させる補正を行う。
【0106】
なお、本制御においても、上記燃料噴射制御1と同様に、燃料噴射圧力の補正によって目標傾きを実現できない場合には、パイロット噴射量の補正を行っても良い。
【0107】
<燃料噴射制御3>
次に、燃焼室内壁面上の局所温度分布の測定結果に基づいて燃料噴射を補正する制御について説明する。本制御では、図17に示すように、レンズ60の位置及び角度を変化させて、燃焼室75の内壁面上の点であってピストン頂部77からの気筒4の中心軸76方向の距離が異なる複数の点z、z、zを焦点として紫外光を集光照射し、前記各点における局所温度T,T,Tを測定する。これにより、燃焼室内壁面の局所表面温度分布を測定することができる。
【0108】
このような燃焼室壁面温度分布の測定結果から、中心軸方向の距離が大きい点における温度(T)が、中心軸方向の距離が小さい点における温度(T)より高いことが判明した場合、燃焼室の下部で過剰に燃焼が起こっていることが考えられる。すなわち、燃料噴霧の貫徹力が強過ぎて燃焼室下部に燃料噴霧が集中している可能性がある。このような場合、燃料噴霧の濃い場所で過昇温してピストンの耐溶損限界を超えてしまう可能性がある。従って、このような燃焼室壁面温度分布が測定された場合、本実施例では、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力を減少させる補正を行う。これにより、貫徹力が適正となり、燃焼室下部における燃焼が過昇温を招来することを抑制できる。
【0109】
その他、燃焼室壁面温度分布の測定結果に基づく燃料噴射補正としては、次のような制御を行うことができる。すなわち、測定された複数の点における局所温度のうち、所定の許容上限温度を超える温度が測定された点が存在する場合、その点においてピストンの溶
損や過度の熱劣化が起こる可能性がある。従って、このような場合には、燃料噴射量を減少させる補正を行うことができる。この場合、目標のトルクに対してトルクが不足する可能性があるが、エンジンの損傷を確実に抑制することができる。従来知られているような筒内圧から筒内平均温度を算出する温度測定技術では、このような局所的な温度を取得することは難しかったため、このような局所的な過剰高温状態を見逃してしまう虞があったが、本実施例の温度測定システムによれば、燃焼室内壁面上の局所的な過剰高温状態を検知することができる。
【0110】
上記の燃焼室壁面温度分布の測定結果に基づく燃料噴射制御は、図14で説明したものと同様のルーチンに従って実行することができるので、本制御ルーチンについての詳細な説明は省略する。また、上記説明した燃料噴射補正についても、燃料噴霧形成前(例えばBTDC90−50deg)に筒内温度分布の測定を実行し、当該測定が行われたサイクルにおける燃料噴射にその測定結果を反映させて補正を行っても良いし、或いは、燃焼後に筒内温度分布の測定を実行し、当該測定が行われたサイクルの次以降のサイクルにおける燃料噴射にその測定結果を反映させて補正を行っても良い。
【0111】
<燃料噴射制御4>
次に、筒内の径方向温度分布の時間推移を測定し、その測定結果に基づいて筒内のスワール比の分布を算出し、当該径方向スワール比分布に基づいて燃料噴射を補正する制御について説明する。本制御では、レンズ60の位置を変化させて、図18に示すように、燃料噴射弁47の燃料噴霧軸線上の異なる5つの点r、r、r、r、rを焦点として紫外光を集光照射し、前記各点における局所温度T,T,T,T,Tを測定する。これにより、燃料噴霧軸線上の温度分布を測定することができる。さらに、本制御では、この燃料噴霧軸線上の温度分布の時間推移を測定する。燃料噴射弁47による燃料噴霧が筒内に形成された後、筒内ガスのスワールによって当該燃料噴霧は筒内を流れていく。例えば、図18に示すように、燃料噴射弁47のある燃料噴射ノズルAから燃料が噴射された時点(t=t)で、燃料噴霧Aが形成される。この時、燃料噴射ノズルAの隣の燃料噴射ノズルBからの燃料噴霧Bも同時に形成される。そして、時間が経過して時刻t=tになると、燃料噴霧Aは筒内のスワールによって流されて燃料噴霧Aとなり、燃料噴霧Bは燃料噴霧Bに変化する。さらに時間が経過して時刻t=tになると、燃料噴霧Aはさらにスワールによって流されて燃料噴霧Aに変化し、同様に燃料噴霧Bは燃料噴霧Bに変化する。
【0112】
このような筒内の燃料噴霧の時間変化に伴って、測定点r、r、r、r、rにおける温度も変化する。例えば、点rにおける局所温度Tは、燃料噴射弁47からの燃料噴霧Aの火炎が点rに到達した時点tで上昇する。そして、時刻tになってこの燃料噴霧Aの火炎が流されると、点rにおける局所温度Tは低下する。さらに、時刻tになると、隣の燃料噴霧Bの火炎が点rに到達するので、点rにおける局所温度Tは再び上昇する。このような点rにおける局所温度Tの時間推移を図19に示す。図19の横軸は時刻を表し、縦軸は温度を表す。図19に示すように、点rにおける局所温度Tの時間推移を測定すると、筒内のスワールによる火炎の位置の変化に伴って複数の温度ピークが現れる。この温度ピークの間の時間間隔Δt(=t−t)と、内燃機関50のエンジン回転数と、に基づいて、スワール比を算出することができる。
【0113】
このように、燃料噴霧軸線上の各点rにおける局所温度Tの時間推移を測定することによって、各点rにおけるスワール比Sを算出することができ、従って当該燃料噴霧軸線上のスワール比分布を得ることができる。本制御では、このようにして得られたスワール比分布に基づいて、スワール比のより高い位置により多くの燃料噴霧を到達させるように燃料噴射制御を行う。こうすることで、より好適に燃料噴霧を筒内に拡散させるこ
とができ、好適な均一希薄燃焼を実現することができる。
【0114】
例えば、図20の直線Aでのように、燃料噴射ノズルからの噴霧軸線方向距離が遠い位置(r、r)におけるスワール比(S,S)が、近い位置(r、r)におけるスワール比(S,S)より大きい傾向を示すスワール比分布が測定された場合、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力及び/又はパイロット噴射を増加させる。これにより、燃料噴霧到達距離が伸びるので、スワールの強い領域により多くの燃料噴霧を到達させることができる。
【0115】
また、図20の直線Bのように、燃料噴射ノズルからの噴霧軸線方向距離が近い位置(r、r)におけるスワール比(S,S)が、遠い位置(r、r)におけるスワール比(S,S)より大きい傾向を示すスワール比分布が測定された場合、燃料噴射弁47による燃料噴射圧力及び/又はパイロット噴射を減少させる。これにより、燃料噴霧到達距離が短くなるので、スワールの強い領域により多くの燃料噴霧を到達させることができる。
【0116】
図21は、上記の燃料噴霧軸線上スワール比分布の測定結果に基づく燃料噴射制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0117】
ステップS501において、ECU53は、燃料噴霧軸線上温度分布を測定する。具体的には、レンズ60によって紫外光を集光させるべき点として上記r、r、r、r、rを設定し、上記図12で説明した温度測定ルーチンを実行し、筒内温度T,T,T,T,Tを測定する。
【0118】
ステップS502において、ECU53は、次の温度分布測定時刻である時刻tになったか否かを判定する。ステップS502で肯定判定された場合、ステップS503に進む。ステップS502は肯定判定されるまで繰り返す。
【0119】
ステップS503において、ECU53は、再びステップS501と同様に燃料噴霧軸線上温度分布を測定する。
【0120】
ステップS504において、ECU53は、次の温度分布測定時刻である時刻tになったか否かを判定する。ステップS503で肯定判定された場合、ステップS505に進む。ステップS504は肯定判定されるまで繰り返す。
【0121】
ステップS505において、ECU53は、再びステップS501と同様に燃料噴霧軸線上温度分布を測定する。
【0122】
ステップS506において、ECU53は、ステップS501、ステップS503、及びステップS505における温度分布測定結果に基づいて燃料噴霧軸線上スワール比分布を算出する。
【0123】
ステップS507において、ECU53は、ステップS506で算出したスワール比分布に基づいて、燃料噴射ノズルからの噴霧軸線方向距離が遠い位置におけるスワール比(S,S)が、近い位置におけるスワール比(S,S)より大きいか否かを判定する。ステップS507で肯定判定された場合、ECU53はステップS508に進む。ステップS507で否定判定された場合、ECU53はステップS509に進む。
【0124】
ステップS508において、ECU53は、燃料噴射弁47からの燃料噴射圧力を増加させる。
【0125】
ステップS509において、ECU53は、燃料噴射弁47からの燃料噴射圧力を減少させる。
【0126】
なお、燃料噴射圧力の補正とともに、パイロット噴射量の補正を行っても良いことは既に説明した各制御の場合と同様である。
【0127】
以上説明したように、本実施例の筒内温度測定システムによる筒内温度測定及びその測定結果に基づく燃料噴射の補正を行うことによって、燃料噴射弁47の経時的な特性変化や製造時のばらつき、燃料の性状変化、排気系やEGR系におけるスートや排気添加燃料等の付着によるターボチャージャ51の過給特性やEGR量特性の変化といった、事前の適合作業によってカバーし切れない諸要因によって、目標の燃料噴射と実際の燃料噴射との間にずれが生じた場合であっても、燃料噴射弁47の現状の特性や現在使用中の燃料の性状等に応じて最適な燃料噴射特性が得られるように燃料噴射制御を補正し、これを学習してそれ以降の燃料噴射制御を適切に行うことが可能になる。
【0128】
従って、本実施例では、上記説明した各種の筒内温度測定及び燃料噴射の補正を、例えば、給油直後に行う。これにより、給油によって性状の異なる燃料が供給された場合であっても、当該給油された燃料の性状に応じて燃料噴射を補正し、最適な燃料噴射を行うことができる。
【0129】
また、排気通路3に燃料を添加する制御の実行後に上記補正を行う。排気燃料添加は、排気浄化触媒6として吸蔵還元型NOx触媒を備えた構成において、吸蔵還元型NOx触媒のNOx還元処理や硫黄被毒回復処理を行う場合や、排気浄化触媒6としてパティキュレートフィルタ(以下フィルタ)を含む触媒を備えた構成において、フィルタの再生処理を行う場合などに実行される。排気燃料添加によって排気通路3に多量の燃料が添加された場合、ターボチャージャ51のタービン49が可変容量型の場合にはVNノズルや、EGRシステムを備えた構成においてEGR弁等に添加燃料が付着し、過給特性やEGR量制御特性が変化する可能性がある。このような場合であっても、当該特性変化に応じて燃料噴射を補正することができる。
【0130】
また、車両が一定距離走行するごとに上記補正を行う。車両の走行距離が伸びると、内燃機関50におけるカーボンの付着や排気通路3におけるスートの体積等による機関特性の経時変化が現れる。このような機関特性の変化が現れた場合であっても、上記補正を行うことにより、このような機関特性の変化に応じて燃料噴射を補正することができる。
【0131】
また、内燃機関50のエンジン回転数の変動が所定の基準よりも大きい場合に上記補正を行う。エンジン回転数の変動が大きい場合、何らかの原因によって燃料噴射が目標の燃料噴射からずれている可能性がある。このような場合においても、上記補正を行うことにより、燃料噴射を補正することができる。
【0132】
また、本実施例では、このような燃料噴射の補正を行うために筒内温度測定システムによって燐光観測による筒内温度測定は、内燃機関の運転状態が定常運転状態の時に行う。特にアイドル運転状態の時に筒内温度測定を行う。これにより、吸入空気量等の環境条件が安定した状態で燐光観測を行うことができるので、筒内温度の測定精度を高めることができる。
【0133】
なお、以上述べた実施例は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記の実施例には種々の変更を加え得る。例えば、上記実施例では、燐光観測による筒内温度測定システムによって測定された筒内温度に基づいて燃料噴射
制御を補正する例について説明したが、その他の機関制御であっても、筒内温度に相関する制御であれば本実施例のシステムによる筒内温度の測定結果に基づいて補正することができる。また、上記実施例では、紫外レーザ発生装置によって発生させた紫外レーザを点火プラグや燃料噴射弁の端部まで光ファイバによって導く構成について説明したが、点火プラグや燃料噴射弁の端部に紫外光を発するLEDを取り付けて、筒内に紫外光を照射するようにしても良い。この場合、紫外光を点火プラグや燃料噴射弁の端部まで導くための光ファイバを点火プラグや燃料噴射弁の内部に埋め込む必要がないので、より簡易な構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】実施例1における内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を表す図である。
【図2】実施例における蒸発装置の概略構成を表す図である。
【図3】実施例1における点火プラグの概略構成を表す図である。
【図4】実施例1における点火プラグの内部構造と紫外光発生部及び燐光観測部の構成を表す図である。
【図5】実施例における燐光体の温度毎の燐光のスペクトルを示す図である。
【図6】実施例における燐光体の温度と燐光の2波長強度比との対応関係を示す図である。
【図7】実施例における燐光の寿命と化学発光や蛍光の寿命を示す図である。
【図8】実施例1における筒内温度測定システムによる筒内温度測定ルーチンを表すフローチャートである。
【図9】実施例2における内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を表す図である。
【図10】実施例2における燃料噴射弁の概略構成を表す図である。
【図11】実施例2における燃料噴射弁の内部構造と紫外光発生部及び燐光観測部の構成を表す図である。
【図12】実施例2における筒内温度測定システムによる筒内温度測定ルーチンを表すフローチャートである。
【図13】実施例2における径方向温度分布を測定する場合の測定点の位置を表す図である。
【図14】実施例2における径方向温度分布の測定結果に基づく燃料噴射補正制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図15】実施例2における径方向温度変化の傾きの測定結果の例を示す図である。
【図16】実施例2における径方向温度変化の傾きの測定結果に基づく燃料噴射補正制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図17】実施例2における燃焼室内壁面上の温度分布を測定する場合の測定点の位置を表す図である。
【図18】実施例2における燃料噴霧がスワールによって移動する様子を表す図である。
【図19】実施例2における燃料噴霧軸線上の特定の点における測定温度の時間推移を表す図である。
【図20】実施例2における燃料噴霧軸線上のスワール比分布の測定結果の例を示す図である。
【図21】実施例2における燃料噴霧軸線上のスワール比分布の測定結果に基づく燃料噴射補正制御ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0135】
1 内燃機関
2 吸気通路
3 排気通路
4 気筒
5 点火プラグ
6 排気浄化触媒
7 ECU
8 排気導入通路
9 燐光体導入通路
10 シーディング装置
11 蒸発装置
12 壁面
13 通路
14 容器
15 燐光体コロイド溶液
16 通路
17 脚部
18 ガイド
19 ヒータ
20 電源
21 シーディングバルブ
22 ボックス
23 分配通路
24 電極
25 光ファイバ
26 開口部
27 開口部
28 光ファイバ
29 ミラー
30 紫外レーザ発生装置
31 ハーフミラー
32 第2フィルタ
33 第1フィルタ
34 第2受光部
35 第1受光部
36 紫外レーザ
37 燐光
38 燐光
39 燐光
40 センサ部
41 レンズ
42 紫外光発生部
43 燐光観測部
44 第1シャッタ
45 第2シャッタ
46 吸気導入通路
47 燃料噴射弁
48 コンプレッサ
49 タービン
50 内燃機関
51 ターボチャージャ
52 シーディングバルブ
53 ECU
54 燃料噴射ノズル
55 燃料噴霧
56 光通路
57 センサ部
58 燐光観測部
59 焦点
60 レンズ
61 ミラー
62 光ファイバ
63 ハーフミラー
64 台座
65 回折格子
67 シャッタ
68 受光部
69 紫外レーザ
70 燐光
71 開口部
72 光ファイバ
73 燐光
74 ピストン
75 燃焼室
76 気筒中心軸
77 ピストン頂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の筒内ガス中に燐光体を供給する燐光体供給手段と、
前記筒内ガス中の燐光体に該燐光体を励起させる光を照射する照射手段と、
前記燐光体から発せられる燐光を観測する燐光観測手段と、
を備え、
前記燐光体供給手段によって供給される前記筒内ガス中の燐光体に前記照射手段によって光を照射した際に該燐光体から発せられる燐光の前記燐光観測手段による観測結果に基づいて前記筒内の温度を測定する内燃機関の筒内温度測定システムであって、
前記燐光体供給手段は、燐光体粒子を溶媒中に分散させたコロイド溶液の状態で収容する燐光体収容手段を有し、該コロイド溶液を霧化分散させることで該コロイド溶液中の燐光体粒子を溶媒から分離させるとともに、該分離させた燐光体粒子を前記内燃機関の吸気系に流入させることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記燐光体供給手段は、
前記燐光体収容手段に収容された前記コロイド溶液を噴出させる噴出手段と、
前記噴出手段により噴出される前記コロイド溶液を衝突させる壁部材と、
を有し、前記コロイド溶液を前記壁部材に衝突させることによって前記コロイド溶液を霧化分散させることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記溶媒は、前記内燃機関の燃料であることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項4】
請求項1−3のいずれか1項において、
前記噴出手段は、高圧ガスによって前記コロイド溶液を噴出させることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項5】
請求項4において、
前記高圧ガスとして、前記内燃機関のターボチャージャによって加圧された吸気又は前記内燃機関からの排気を用いることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項6】
請求項1−5のいずれか1項において、
前記燐光体供給手段は、前記噴出手段によって噴出される前記コロイド溶液を加熱する加熱手段を有することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項7】
請求項1−6のいずれか1項において、
前記内燃機関は前記筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を気筒に備え、
前記照射手段は、前記燃料噴射弁の気筒内の部分から前記筒内に光を照射する手段であり、
前記燐光観測手段は、前記燃料噴射弁の気筒内の部分から前記筒内の燐光体が発する燐光を取り込んで観測する手段であることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項8】
請求項1−7のいずれか1項において、
前記内燃機関は前記筒内の混合気に点火する点火プラグを気筒に備え、
前記照射手段は、前記点火プラグの気筒内の部分から前記筒内に光を照射する手段であり、
前記燐光観測手段は、前記点火プラグの気筒内の部分から前記筒内の燐光体が発する燐光を取り込んで観測する手段であることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項9】
請求項1−8のいずれか1項において、
前記燐光観測手段は、前記燐光の所定の2波長の成分の強度を測定する手段であり、
前記燐光観測手段によって測定される前記2波長の成分の強度比に基づいて前記筒内の温度を測定することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項10】
請求項9において、
前記燐光観測手段は、
入射する燐光を2つに分割するスプリッタと、
前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の内部に設けられ前記筒内の燐光を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の気筒内の部分から取り込み前記スプリッタに導く燐光導波路と、
前記スプリッタによって分割された燐光の一方から前記所定の2波長のうち一方の波長を取り出す第1のフィルタと、
前記スプリッタによって分割された燐光の他方から前記所定の2波長のうち他方の波長を取り出す第2のフィルタと、
前記第1のフィルタを通過した燐光の強度を測定する第1の受光部と、
前記第2のフィルタを通過した燐光の強度を測定する第2の受光部と、
を有することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項11】
請求項9において、
前記燐光観測手段は、
回折格子と、
前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の内部に設けられ前記筒内の燐光を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の気筒内の部分から取り込み前記回折格子に導く燐光導波路と、
前記燐光導波路によって導かれる燐光の前記回折格子への入射角を、前記回折格子による反射光の波長が前記所定の2波長となるように変更する入射角変更手段と、
前記回折格子で反射された燐光の強度を測定する受光部と、
を有することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項12】
請求項1−11のいずれか1項において、
前記燐光観測手段は、前記照射手段によって前記筒内に光を照射してから所定期間は燐光を観測しないことを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項13】
請求項7−12のいずれか1項において、
前記照射手段は、前記筒内に光を発する発光手段を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の気筒内の部分に備えることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項14】
請求項7−13のいずれか1項において、
前記照射手段は、
光を発する発光手段と、
前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の内部に設けられ、前記発光手段によって発せられた光を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の気筒内の部分に導く光導波路と、
を有し、前記光導波路によって導かれた光を前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の気筒内の部分から筒内に照射することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項15】
請求項14において、
前記照射手段は、筒内の所定の位置を焦点とする集光手段を更に有し、前記光導波路によって導かれた光を前記集光手段によって前記焦点に集束させて照射する手段であって、
前記筒内ガス中の燐光体に前記照射手段によって光を前記焦点に集束させて照射した際に該燐光体から発せられる燐光の前記燐光観測手段による観測結果に基づいて該焦点の位
置における温度を測定することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項16】
請求項15において、
前記集光手段による焦点の位置を変更可能な焦点変更手段を更に備えることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項17】
請求項16において、
前記焦点変更手段は、前記点火プラグ又は前記燃料噴射弁の前記気筒内の部分における前記集光手段の位置及び/又は角度を変化させることによって、前記焦点の位置を変更することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項18】
請求項16又は17において、
前記照射手段は、前記焦点変更手段によって前記焦点の位置を変更させて、気筒の中心軸からの径方向距離が異なる複数の位置を焦点として前記光を集束させて照射し、当該複数の位置における温度を測定することを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項19】
請求項18において、
前記複数の位置は、前記燃料噴射弁の燃料噴霧軸線上の異なる複数の位置であることを特徴とする内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項20】
請求項18又は19の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記内燃機関の温間運転時の前記複数の位置における温度を測定し、
前記気筒の中心軸からの径方向距離が比較的遠い位置における温度が、比較的近い位置における温度より低い場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力を増加させる補正及び/又は前記燃料噴射弁によるパイロット噴射量を増加させる補正を行うことを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項21】
請求項18又は19の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記内燃機関の温間運転時の前記複数の位置における温度を測定し、
前記気筒の中心軸からの径方向距離が比較的遠い位置における温度が、比較的近い位置における温度より高い場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力を減少させる補正及び/又は前記燃料噴射弁によるパイロット噴射量を減少させる補正を行うことを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項22】
請求項18又は19の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記複数の位置における温度を測定し、
前記気筒の中心軸からの径方向距離に対する温度の変化度合が所定の基準値より小さい場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力を増加させる補正及び/又は前記燃料噴射弁によるパイロット噴射量を増加させる補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項23】
請求項18又は19の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記複数の位置における温度を測定し、
前記気筒の中心軸からの径方向距離に対する温度の変化度合が所定の基準値より大きい場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力を減少させる補正及び/又は前記燃料噴射弁によるパイロット噴射量を減少させる補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項24】
請求項22又は23において、
前記基準値は、前記内燃機関の温間運転時においてはゼロ近傍の値に設定される内燃機関の制御システム。
【請求項25】
請求項22又は23において、
前記基準値は、前記内燃機関の冷間運転時又は始動時においては所定の負の値に設定される内燃機関の制御システム。
【請求項26】
請求項18又は19の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記複数の位置における温度を測定し、
当該温度の時間推移を測定し、当該時間推移に基づいて当該位置におけるスワール比を算出し、スワール比のより高い位置に前記燃料噴射弁による燃料噴霧がより多く到達するように燃料噴射弁を制御する内燃機関の制御システム。
【請求項27】
請求項26において、
前記気筒の中心軸からの径方向距離が比較的遠い位置におけるスワール比が、比較的近い位置におけるスワール比より大きい場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力を増加させる補正及び/又は前記燃料噴射弁によるパイロット噴射量を増加させる補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項28】
請求項26において、
前記気筒の中心軸からの径方向距離が比較的近い位置におけるスワール比が、比較的遠い位置におけるスワール比より大きい場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧力を減少させる補正及び/又は前記燃料噴射弁によるパイロット噴射量を減少させる補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項29】
請求項16又は17において、
前記照射手段は、前記焦点変更手段によって前記焦点の位置を変更させて、前記筒内の燃焼室内壁面上の異なる複数の位置を焦点として前記光を集束させて照射し、当該複数の位置における温度を測定する内燃機関の筒内温度測定システム。
【請求項30】
請求項29の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記複数の位置における温度を測定し、
所定の許容上限温度より高い温度が測定された位置がある場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射量を減少させる補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項31】
請求項29の内燃機関の筒内温度測定システムによって前記複数の位置における温度を測定し、
前記燃料噴射弁の気筒内の部分からの気筒の中心軸方向距離が比較的遠い位置における温度が、比較的近い位置における温度より高い場合、前記燃料噴射弁による燃料噴射圧を減少させる補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項32】
請求項20−28、30、31のいずれか1項において、
前記内燃機関が定常運転状態の時に、前記内燃機関の筒内温度測定システムによって前記温度を測定し、前記補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項33】
請求項20−28、30、31のいずれか1項において、
前記内燃機関用の燃料タンクに新たな燃料が給油された後に、前記内燃機関の筒内温度測定システムによって前記温度を測定し、前記補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項34】
請求項20−28、30、31のいずれか1項において、
前記内燃機関の排気通路に燃料を添加する制御の実行後に、前記内燃機関の筒内温度測定システムによって前記温度を測定し、前記補正を行う内燃機関の制御システム。
【請求項35】
請求項20−28、30、31のいずれか1項において、
前記内燃機関のエンジン回転数の変動が所定の基準より大きい場合に、前記内燃機関の筒内温度測定システムによって前記温度を測定し、前記補正を行う内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−97970(P2009−97970A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269338(P2007−269338)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】