説明

内燃機関の自立回転を識別する方法および装置

【課題】内燃機関が負荷される場合(たとえば電気走行からハイブリッド走行への移行、または回生要求のあるハイブリッド走行)に対して、内燃機関の自立回転を確実に識別することである。
【解決手段】始動補助装置(3)により静止位置から引き掛けされる内燃機関の自立回転を識別する方法において、内燃機関(1)の自立回転を識別するために、燃焼プロセスを特徴付けるパラメータ、とりわけ圧力変化または振動が評価される、ことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、始動補助装置によりその静止位置から引き掛けされる内燃機関の自立回転を識別する方法、ならびにこの方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関は、自立的にアクティブな運転状態をとることができない。そのため従来の車両では、内燃機関が電気駆動されるスタータによって運動される。スタータの操作と同時に必要な過程、すなわち混合気形成、燃焼、内燃機関の回転検出または充填検出が開始される。内燃機関の自立回転は、内燃機関の回転数がスタータの回転数より高いとき、または内燃機関の回転数が所定の閾値を上回るときに識別される。内燃機関が自立運動をすると、スタータは再び内燃機関から分離される。
【0003】
内燃機関と電気モータという二つの形の駆動ユニットを有するハイブリッドシステムでは、内燃機関を電気モータまたはスタータによって始動することができる。このようなハイブリッドシステムにより、内燃機関を自動車の静止状態から始動することができる。しかし駆動部としての電気モータによる純粋な電気走行中にも、内燃機関の始動が可能である。ハイブリッド走行では、電気モータまたはスタータが内燃機関を始動し、車両が電気モータと内燃機関により駆動される。電気走行からハイブリッド走行への移行は次のように開始することができる。内燃機関と電気モータの間に配置された分離クラッチが閉鎖され、電気モータが内燃機関を、内燃機関が自立回転するまで引き掛けする。
【0004】
別の手段は、内燃機関と電気モータとの間の分離クラッチをまず開放することである。車両の走行中に、分離クラッチがプロポーショナルクラッチの形で引きずられるように、あるいは衝撃クラッチまたはプロポーショナルクラッチによって衝撃的に閉鎖される。前記の場合、内燃機関の回転数を分析しても、内燃機関が自立回転しているか否かを証言することができない。なぜなら内燃機関が電気モータによって引きずられることがあるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の基礎とする課題は、内燃機関が負荷される場合(たとえば電気走行からハイブリッド走行への移行、または回生要求のあるハイブリッド走行)に対して、内燃機関の自立回転を確実に識別することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このことの利点は、内燃機関の機能によって引き起こされる信号が使用されることである。ここでは電気モータによる影響は不可能である。なぜなら、内燃機関でそのアクティブな回転によって引き起こされる燃焼プロセスによる信号が、内燃機関の自立回転の識別のために使用されるからである。
【0007】
変形実施形態では、内燃機関に配置されたノッキングセンサの信号を評価される。内燃機関の自立回転を識別するために、燃焼プロセスに起因して内燃機関のハウジングに発生する固体伝搬音を検知するノッキングセンサを使用することは、内燃機関に取り付けられたセンサ自体に基づくものである。ノッキングセンサの信号のための相応の評価電子回路もすでに自動車に存在しており、したがって本方法を実施するために、追加のハードウエアコンポーネントを省略することができる。単にソフトウエアを変更することで、内燃機関の自立回転についてノッキングセンサの信号を評価することができる。
【0008】
有利には、ノッキングセンサの信号は所定の基準範囲と比較され、ノッキングセンサの信号が所定の基準範囲内に入ると内燃機関の自立回転が識別される。基準範囲を選択することにより、内燃機関内での燃焼の通常経過に対して典型的な値だけを信号がとることができる。とりわけ内燃機関内に高い圧力上昇を形成する燃焼によって生じ、点火プラグの点火火花によって生じるものではないノッキングセンサの過励振信号はここでは、考慮されない。
【0009】
一実施形態では、ノッキングセンサの信号の振幅および/または周波数が評価される。したがって振幅または周波数により、信号経過を典型的に特徴付ける振動の特性が考慮される。ここでは各振幅または各周波数について、ノッキングセンサの信号との比較のために固有の基準範囲が設定され、振幅が振幅基準範囲と、周波数が周波数基準範囲と比較される。
【0010】
変形実施形態では、機関制御部が内燃機関の始動のために信号を始動補助装置に出力し、内燃機関で調整される少なくとも一つの制御パラメータを内燃機関のために計算する。ここでは、始動される内燃機関の少なくとも一つの制御パラメータが測定され、測定された制御パラメータがゼロ超の値であるときに、ノッキングセンサの信号が評価される。制御パラメータを付加的に評価することにより、内燃機関に取り付けられたアクチュエータの機能が検査され、これにより、内燃機関が真に自立運動できるか否かが確定される。
【0011】
とりわけ、機関制御部によって調整され、測定される制御パラメータには、内燃機関の噴射および/または点火が該当する。これらの制御パラメータにより内燃機関内の燃焼プロセスが、燃料充填が調整されていれば十分に制御される。詳細にはこのような制御パラメータは、噴射時間、点火時期、または点火を行うべきクランクシャフト角とすることができる。このような制御パラメータを決定するための方法は機関制御部に格納されており、追加で開発する必要はなく、これにより開発時間が節約される。
【0012】
改善形態では、ノッキングセンサの信号が評価の前にフィルタリングされる。これにより信号からノイズが除去され、ノッキングセンサの信号の正確な評価が可能になる。
【0013】
有利には内燃機関の測定された二つの制御パラメータの値がゼロでないとき、かつ測定された少なくとも一つの信号の値が対応する基準範囲外にあるときに、内燃機関内にある制御パラメータを調整するアクチュエータの故障が推定される。この場合、内燃機関の非自立的回転が識別される。
【0014】
一実施形態では、内燃機関の非自立的回転が識別された場合、内燃機関および/またはシステム全体の所定の動作状態が制限されるか、または中止される。このような動作状態は負荷点のシフトであり、たとえば自動車のスタート/ストップ機能を遮断する。
【0015】
とくに簡単な変形実施形態では、内燃機関の自立回転に基づいて、内燃機関の始動または停止が識別される。
【0016】
本発明はさらに、内燃機関の自立回転を識別する装置に関するものであり、この装置は始動補助装置に、内燃機関を静止位置から引きずるための信号を出力する。内燃機関の始動後に、内燃機関の自立回転を確実に識別するために、内燃機関の自立回転を識別するために、内燃機関の燃焼プロセスを特徴付けるパラメータ、たとえば圧力変化または振動を評価する手段が設けられている。これにより、燃焼プロセス中に内燃機関によってのみ形成され、始動補助装置からは影響を受けない信号だけが内燃機関の始動を識別するために注目される。
【0017】
とりわけ内燃機関の始動が成功すると、ノッキングセンサからの信号が受信され、評価される。内燃機関にすでに存在しているセンサを使用することにより、コストが低減される。
【0018】
有利には始動補助装置は、スタータまたはハイブリッド車両の電気モータとして構成されている。したがって本発明の方法は、従来の自動車にもハイブリッド車両にも使用することができる。
【0019】
本発明には多数の実施形態がある。それらの一つを、図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ハイブリッドシステムの基本図。
【図2】内燃機関の自立回転を識別するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1には、自動車のハイブリッド駆動部のための基本図が示されている。内燃機関1は、駆動シャフト2を介して電気モータ3と接続されている。電気モータ3は、自動車のドライブトレーンの駆動シャフト2に配置されている。内燃機関1と電気モータ3との間には分離クラッチ4が配置されており、この分離クラッチは開放状態では、電気モータ3だけによる自動車の純粋な電気走行を可能にする。電気モータ3は、ディファレンシャル6につながるトランスミッション5に接続されている。このディファレンシャル6は、車両ホイール6を駆動するサイドシャフト7上に支承されている。
【0022】
電気モータ3とトランスミッション5との間には別のクラッチ9が配置されている。このクラッチは、自動車の発進に用いられ、自動車が静止から走行状態に移行するときに自動車の運転者によって操作される。さらに内燃機関1には、制御装置11と接続されたノッキングセンサ10が配置されており、制御装置はさらに電気モータ3をガイドする。
【0023】
ハイブリッド車両は通例、車両の静止時には電気モータ3によって発進する。したがってまず純粋に電気的に駆動される。ハイブリッド車両で調節すべき出力は、運転者によるアクセスペダルの操作によって設定される。電気モータ3が出力する出力が、運転者意思に対応するのに十分でなくなると、制御装置11は、それまで静止状態にあった内燃機関1を始動すべきことを決定する。このときに、同様に制御装置11と接続されており、内燃機関1と電気モータ3との間に配置された分離クラッチ4が閉じられる。このとき電気モータ3によって、閉じられた分離クラッチ4を介しこれまで静止状態にあった駆動シャフト2に、したがって内燃機関1に回転運動が伝達される。同時に電気モータ3の出力が制御装置11の要求によって高められ、これにより電気モータ3は内燃機関1の負荷も対応して引きずることができる。さらに制御装置11はこの時点で、たとえば噴射弁の噴射時間と点火時期、または内燃機関1の個々のシリンダで点火すべきクランクシャフトの角度に対する制御パラメータを計算する。
【0024】
内燃機関1が自立回転しているか否かを確定するために、制御装置11は図2に示したフロー制御を開始する。ブロック100の信号処理部で、ノッキングセンサ10の出力信号101が受信され、評価される。この出力信号101は、信号処理部(ブロック100)で適切なフィルタリングにより、出力信号101からノイズが除去されるように処理され、評価信号109と110の形で評価部に供給される。ノッキングセンサ10から送出された出力信号101は、振幅評価信号109(ブロック102)と周波数評価信号110(ブロック103)に区別される。評価の形に応じて、ブロック102の振幅評価信号109またはブロック103の周波数評価信号110、または両方の信号形式を、内燃機関1の自立回転の判定のために考察することができる。
【0025】
準備されたブロック102の振幅評価信号109またはブロック103の周波数評価信号110が、ブロック104の信号評価部に導かれる。ブロック104の信号評価部は入力信号105として、自立的に運動する内燃機関1で測定された噴射または点火についての情報を受け取る。このような入力信号105は、内燃機関1の状態を特徴付けるものであり、クランクシャフト角度、または点火時期、または噴射時間である。
【0026】
これらの入力信号105がゼロより大きな値を有していれば、信号評価が実施される。信号評価の際には、振幅評価信号109が振幅基準範囲と、周波数評価信号110が周波数基準範囲と比較される。ノッキングセンサ10から送出された振幅値106aまたは周波数値106bがそれぞれ振幅基準範囲または周波数基準範囲内にあれば、内燃機関が自立的に動作しているだけではなく、正しい動作状態で動作していることが前提とされる。
【0027】
しかしブロック104の信号評価部で、噴射または点火の入力量として送出された入力信号105の少なくとも一つがゼロであることが確定されると、ブロック107で診断が実施され、またはエラー処理に移行する。入力信号105がゼロでなければ、振幅評価信号109および/または周波数評価信号110が、自立回転する内燃機関1の診断のために考慮される。振幅評価信号109および/または周波数評価信号110が、対応する基準範囲の外にあれば、ブロック107で診断が実施され、またはエラー処理に移行する。診断の結果に応じて、負荷点シフトおよび/または自動車のスタート/ストップ機能のような動作状態は実施されなくなる。
【0028】
本発明の方法に基づいて、内燃機関の始動が確実に調査されるだけでなく、内燃機関1の停止も決定することができる。ここでは、電気モータ3によって内燃機関1を始動するための種々のモジュール、または純粋な電気走行からハイブリッド走行に移行するための種々のモジュールを、さらに明示的に考慮する必要はない。その結果、評価ロジックを簡単にすることができる。ノッキングセンサ10の信号に基づいて、内燃機関1の自立回転および停止について正確に指示することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動補助装置(3)により静止位置から引き掛けされる内燃機関の自立回転を識別する方法において、
内燃機関(1)の自立回転を識別するために、燃焼プロセスを特徴付けるパラメータ、とりわけ圧力変化または振動が評価される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
自立回転を識別するために、内燃機関(1)に配置されたノッキングセンサ(10)の信号(109,110)が評価される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ノッキングセンサ(10)の信号(109,110)が所定の基準範囲と比較され、ノッキングセン(10)の信号(109,110)が所定の基準範囲内に入ると内燃機関(1)の自立回転が識別される、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ノッキングセンサ(10)の信号(109,110)の振幅(102)および/または周波数(103)が評価される、ことを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
機関制御部(11)は、内燃機関(1)を始動するために信号を始動補助装置(3)に出力し、内燃機関(1)で調節される、内燃機関(1)のための少なくとも一つの制御パラメータを計算し、
始動された内燃機関(1)の少なくとも一つの別の制御パラメータ(105)が測定され、該測定された制御パラメータ(105)がゼロより大きな値を有していれば、ノッキングセンサ(10)の信号が評価される、ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記制御パラメータ(105)は、内燃機関(1)の噴射および/または点火に該当する、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ノッキングセンサ(10)の信号は、評価の前にフィルタリングされる、ことを特徴とする請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
内燃機関(1)の二つの制御パラメータ(1005)の値がゼロでないとき、かつ測定された信号(109,110)の少なくとも一つの値が対応する基準範囲外にあるときに、内燃機関(1)内にあって制御パラメータを調整するアクチュエータの故障が推定される、ことを特徴とする請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
内燃機関(1)の非自立的回転が識別された場合、内燃機関(1)および/またはシステム全体の所定の動作状態が制限されるか、または中止される、ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
内燃機関(1)の自立回転に基づいて、内燃機関(1)の始動または停止が識別される、ことを特徴とする請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
内燃機関(1)を静止位置から引き掛けするための信号を始動補助装置(3)に出力する、内燃機関の自立回転を識別する装置において、
内燃機関(1)の自立回転を識別するために、燃焼プロセスを特徴付けるパラメータ、とりわけ圧力変化または振動を評価する手段が設けられている、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
内燃機関(1)が始動される際に、前記手段はノッキングセンサ(10)からの信号を受信する、ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
始動補助装置は、スタータまたはハイブリッド車両の電気モータ(3)として構成されている、ことを特徴とする請求項12に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−47178(P2012−47178A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184524(P2011−184524)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】