説明

内燃機関用の排気ターボチャージャー及びその制御方法

本発明は、クラッチ(5)を介して排気ターボチャージャーに接続できるモータ(20)が追加された、コンプレッサ(2)と、タービン(3)と、コンプレッサ(2)及びタービン(3)を回転可能なように固定するシャフト(4)とを有する内燃機関用の排気ターボチャージャー(1)に関する。本発明によれば、ディスク状遠心質量体(10)によって排気ターボチャージャー(1)を少なくとも一時的に駆動できる。本発明は、排気ターボチャージャー(1)の応答挙動の改善に適しており、主に自動車において使用される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段による内燃機関用の排気ターボチャージャー、及び、請求項15の前段による排気ターボチャージャーの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ターボチャージャーは、火花点火式及び自己着火式内燃機関の双方に使用され、シリンダー充填量を増やす。シリンダー充填量の増量により、燃焼空気比が増大して出力が増加し、それゆえ、自己着火式内燃機関での低・中負荷、及び低・中回転速度範囲におけるすすの形成を減少するので、燃焼温度による窒素酸化物排出量の減少をもたらすことができる。
【0003】
排気ターボチャージャーは一般的に、内燃機関の排気ガス流が利用されるタービンと、固定シャフトを介してタービンによって駆動され吸気を圧縮するコンプレッサとの、固定シャフトによって結合される2つのターボ機械を含む。ターボ機械は内燃機関とは異なる運転挙動を有するので、排気ターボチャージャー及び/又はその周辺機器は、内燃機関の所望の運転制御のために、低・高負荷、及び低・高回転速度範囲の双方において十分な空気が排気ターボチャージャーによって給気可能となるように設計されなければならない。
【0004】
排気ターボチャージャーは、内燃機関の負荷及び/又は回転速度が急激に増加すると、その質量の慣性モーメントにより遅れて反応する。この応答挙動の遅れは、通称「ターボラグ」として知られ、内燃機関の排気ターボチャージャーが対応する動作点に対して利用できる空気が少なすぎる状態にある。この非定常状態の内燃機関の運転モードにおいて、応答挙動が悪いと加速力が不足し、燃料消費率が悪くなるが、これらは応答挙動の悪さを改善することにより減少できる。
【0005】
排気ターボチャージャーが内燃機関の最大出力点のために構成されるとすると、排気ターボチャージャーは一般的に低・中負荷、又は、低・中回転速度範囲における高応答には構成が大きくなりすぎ、その質量の慣性モーメントにより、エンジントルク、レスポンス及び燃料消費率の点で、内燃機関の運転挙動に関して不満足な結果を与える。上述の範囲における排気ターボチャージャーの応答挙動を改善するために様々な取り組みが試みられている。
【0006】
この取り組みの1つは、排気ターボチャージャーを電気式のモータに結合することである。モータは、排気ターボチャージャーに直接固定され、必要な場合に排気ターボチャージャーを加速する。モータの必要な出力レベルは、例えば4気筒エンジンで約1〜2kWである。現在の車両の電気系統は、ここで出力限界にぶつかる。供給されるエネルギーの大部分は、モータ自体を加速するために使用される。排気ターボチャージャーに固定されるモータの回転子が、前記回転子の質量の慣性モーメントにより、モータが作動していない作動範囲における排気ターボチャージャーの原動力を減少する。
【0007】
特許文献1には、内燃機関用の排気ターボチャージャーが開示されている。排気ターボチャージャーは、排気ガスタービン及びコンプレッサを有する。タービン及びコンプレッサは、シャフトを介して互いに回転可能なように固定される。排気ターボチャージャーには、クラッチを介して電気機械により駆動できる。さらに、排気ターボチャージャーは、クラッチを介して電気機械を駆動できる。
【0008】
排気ターボチャージャーは、発電機を含み、発電機と内燃機関との間に位置するクラッチを介して内燃機関によって作動される。この過程で得られた電気エネルギーはモータに供給され、次にそれは電動機として作動し、排気ターボチャージャーを駆動する。排気ターボチャージャーを駆動し、この駆動により排気ターボチャージャーの回転速度が増加することによって、コンプレッサは、動作点に適合した、十分な量の空気を内燃機関に供給する、特性ダイアグラム範囲(characteristic diagram range)において作動される。この過程において、発電機はクラッチを介して内燃機関のクランクシャフトに接続されるので、内燃機関のクランクシャフトでモーメントの増大が発生する。その結果、燃料消費率は増加するが、内燃機関の平均有効効率は同じままである。
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0 345 991 B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、設置スペースをほとんど必要とせず、エネルギー消費が少ないモータを排気ターボチャージャーを取り付けて、排気ターボチャージャーの回転を補助することを目的とする。さらに排気ターボチャージャーの過渡応答挙動を改善し、排気ターボチャージャーの過剰エネルギーを利用する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、本発明によれば、請求項1の特徴を有する排気ターボチャージャーによって、又は請求項15の特徴を有する制御方法によって達成される。
【0012】
本発明によれば、排気ターボチャージャーは、ディスク状遠心質量体(mass)によって駆動され得る。排気ターボチャージャーを加速するための所要動力は、モータによって満たされる必要がない。なぜなら、排気ターボチャージャーを加速するために必要なエネルギーは、遠心質量体の回転エネルギーによって高出力密度で排気ターボチャージャーに伝達されるからである。必要に応じ、遠心質量体と排気ターボチャージャーとの間が、クラッチによって接続されたり、又は解放されたりする。
【0013】
請求項2に記載の実施形態において、クラッチは、排気ターボチャージャーのシャフトに回転可能なように固定されているディスクと、電極構造と、ヨークと、コイルとからなる。
【0014】
請求項3に記載の実施形態において、遠心質量体は、モータによって駆動される。モータは、遠心質量体で発生する摩擦損失を補償する。必要に応じ、モータは、遠心質量体を加速できるか又はエネルギーを生成できる。摩擦損失を補償するため又は遠心質量体を加速するために要する電力は低いので、車両の電気系統への負荷は無視できる程度である。
【0015】
請求項4に記載のさらなる実施形態において、遠心質量体は、遠心質量体の効果を増すための電極構造を含む。さらに、電極構造は、クラッチの一部を構成し、排気ターボチャージャーはそれを介して遠心質量体又はモータに結合できる。
【0016】
請求項5に記載のさらなる実施形態において、電極構造は、機能的に信頼できるクラッチのための少なくとも2つのディスクを有する。
【0017】
請求項6に記載のさらなる実施形態において、電極構造のディスクは、重量的な理由で円環型に構成されている。排気ターボチャージャーを遠心質量体によって加速する場合には、大きな遠心質量体が望ましい。しかしながら、排気ターボチャージャーを加速できるようになる前に、遠心質量体それ自体が加速されるべきである。この過程においては、対照的に、小さな質量体が望ましい。このため、この電極構造のような円環型が、重量の点で最も有利な形状である。
【0018】
請求項7に記載のさらなる実施形態において、クラッチの構成要素として、回転可能なように排気ターボチャージャーのシャフトに固定されているディスクが、電極構造のディスク間に配置されている。
【0019】
請求項8に記載のさらなる実施形態において、電極構造のディスクは、歯、及び歯間の間隙を備える歯付き構造であり、一方のディスクの歯は、他方のディスクの歯間の間隙に対向している。歯付き構造、特に歯と、歯間の間隙とを互いに対向するように位置決めすることは、機能的に信頼できるクラッチを設計するために必要である。なぜなら、この設計によって、電極構造の2つのディスク間に位置決めされているディスクにおいて、誘起された磁束を分けて、偏向し、その偏向によってディスクにトルクをかけることができるからである。
【0020】
請求項9に記載のさらなる実施形態において、電極構造の2つのディスクは、非磁化性ストラップによってまとめられている。回転運動中に発生する遠心力によって、2つのディスクは変形され得る。ストラップ無しでは機能的に信頼できるクラッチを保証することができない。非磁化性ストラップは、2つのディスクが互いに平行に間隔をあけているように、高速回転時でも2つのディスクをまとめている。これにより機能的に信頼できるクラッチを保証する。
【0021】
請求項10に記載のさらなる実施形態において、重量及び設置スペースの理由で、遠心質量体は、モータの回転子と、ディスクと、管状要素と、電極構造とからなる。
【0022】
請求項11に記載のさらなる実施形態において、電極構造は、遠心質量体の効果を増すため及び遠心質量体の回転速度を増すために、ディスク及び管状要素を介してモータの回転子に回転可能なように固定されている。
【0023】
請求項12に記載のさらなる実施形態において、クラッチは、高温からモータを保護するとともに、油の侵入からコンプレッサを保護するために、排気ターボチャージャーのコンプレッサとタービンとの間に配置されている。
【0024】
請求項13に記載のさらなる実施形態において、クラッチは、渦電流クラッチ又はヒステリシスクラッチである。これにより、磨耗のない作動及び良好な電気的特性が得られるという利益がもたらされる。
【0025】
請求項14に記載の実施形態において、遠心質量体は、排気ターボチャージャーが加速する時に遠心質量体の回転エネルギーを十分に利用できるようにするために、モータによって、又は排気ターボチャージャーによって、定格回転速度に対応する最低回転速度にできる限り保たれる。
【0026】
請求項15に記載の排気ターボチャージャーを作動するための本発明による方法において、排気ターボチャージャーの回転速度が遠心質量体の定格回転速度よりも高い場合、モータは、遠心質量体を駆動するために活動状態にあるのではなく、むしろ前記モータは、発電機としてのその運転モードにおいて排気ターボチャージャーでの過剰エネルギーを吸収し、獲得したエネルギーを、例えば、自動車の電気系統に供給し、遠心質量体の駆動は排気ターボチャージャーによって維持される。
【0027】
請求項16に記載の本発明による方法のさらなる実施形態において、排気ターボチャージャーの回転速度が遠心質量体の定格回転速度よりも低い作動範囲において排気ターボチャージャーを加速するために、遠心質量体の回転速度が定格回転速度よりも低くなった場合にのみ、モータを使用して遠心質量体を加速して、その後の遠心質量体の回転エネルギーが十分であることを保証する。
【0028】
請求項17に記載の本発明による方法の一発展形態において、排気ターボチャージャーの回転速度が遠心質量体の少なくとも定格回転速度に一致する作動範囲において、遠心質量体は、クラッチが閉じられている時に排気ターボチャージャーによって加速されるので、省エネ対策としてモータの電源を切ることができる。
【0029】
請求項18に記載の本発明による方法のさらなる実施形態において、排気ターボチャージャーは、排気ターボチャージャーの回転速度が遠心質量体の回転速度よりも低い作動範囲において、遠心質量体によって駆動される。
【0030】
本発明のさらなる実施形態は、特許請求の範囲、詳細な説明及び図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、内燃機関(詳細は図示せず)、例えば火花点火機関又はディーゼル機関、の排気ターボチャージャー1を示す。自動車に使用される内燃機関は、内燃機関の燃焼室(詳細は図示せず)に空気を供給する、例えば、吸気弁を備える吸気セクション(詳細は図示せず)を有する。空気は燃焼に使用され、燃焼室外又は燃焼室内で燃料油が加えられる。そして燃焼室内の混合気が燃焼する。混合気の燃焼によって、燃焼室から、例えば排気弁(詳細は図示せず)を介して排気システム(詳細は図示せず)へ排出される排気ガスが生成される。その結果、内燃機関の吸排気回路に排気ターボチャージャー1を設置することによって、排気エネルギーをいくらか使用して、燃焼室への空気供給量を増加できる。
【0032】
内燃機関の排気システムの排気弁の下流には、排気ターボチャージャー1のタービン3を設け、内燃機関の吸気セクションの吸気弁より前の下流には、排気ターボチャージャー1のコンプレッサ2を収容している。タービン3は、内燃機関の排気ガスによって駆動され、シャフト4を介してコンプレッサ2を駆動するので、コンプレッサ2は空気を吸い込み、圧縮できる。シャフト4は回転軸40を有する。排気ターボチャージャー1の回転構成部品、例えばコンプレッサ2、タービン3及びシャフト4などは、軸受(詳細は図示せず)によって排気ターボチャージャー1のハウジング(詳細は図示せず)に支持される。
【0033】
コンプレッサ2とタービン3との間のシャフト4には、モータ20と、排気ターボチャージャー1のシャフト4にモータ20を接続するクラッチ5と、排気ターボチャージャー1を駆動する遠心質量体10とを配置している。モータ20は、クラッチ5を回転させるように固定される。
【0034】
モータ20は、円筒形の回転子21と、回転子21を取り囲む固定子23とからなる。シャフト4の回転軸40は、回転子21の回転軸41に対応する。回転子21とシャフト4との間に、軸受50、例えば滑り軸受を設け、シャフト4の回転速度とは無関係に回転子21を回転させる。回転子の回転速度は、シャフト4の回転速度とは異なる。モータ20を内燃機関を有する車両の電気系統100に接続する。
【0035】
コンプレッサの端部に配置されているクラッチ5は、排気ターボチャージャー1のシャフト4に回転の点で固定して接続されている第1のディスク11と、第1のディスク11の周辺と分岐した形態で境界を接する電極構造31と、電極構造31を取り囲むヨーク15と、ヨーク15に収容されているコイル30とからなる。電極構造31は、共に回転するクラッチ5の要素とみなすこともできる。クラッチ5の回転部品はディスク状に設計してあるので、遠心力により、材料に排他的に引張応力を生じさせることができる。シャフト4、クラッチ5及び回転子21は、同じ回転軸40を有する。
【0036】
図2は、さらに明瞭にするために排気ターボチャージャー1の分解図を示す。電極構造31を取り囲むヨーク15は、2つの円形ディスク状カバー、第1のカバー151及び第2のカバー152からなり、カバー151、152は、各々、カバー面に垂直に配置された第1のカラー155又は第2のカラー156を有している。カバー151、152の中央には、シャフト4を収容するための第1の円形開口153又は第2の円形開口154が形成されている。カバー151、152は、互いに鏡反転の位置にあるので、第1のカラー155の第1の端面157は、第2のカラー156の第2の端面158に隣り合う。互いの対面する端面157、158は、例えば溶接又はハンダ付けによる取り付け後、互いに永久に接続される。
【0037】
ヨーク15は、取り付けのために2つの部品で供される。摩擦なしにシャフト4を収容するために、カバー151、152の2つの開口153及び154の直径を、シャフト4の直径の大きさとなるよう構成される。同様に、ヨーク15の開口153、154にシャフト4の軸受を組み込むこともできる。
【0038】
ヨーク15は電極構造31を収容する。電極構造31は3つの部品で設計されている。電極構造31の第1の部品は、歯付き構造44、外径DR1を有する第1の環状ディスク32と、直径DI1の中空部37(詳細は図1に示す)とを形成する。電極構造31の第2の部品(図2に示す)は、歯付き構造44を同じく有する外径DR2の第2の環状ディスク36を形成する。シャフト4と共に回転可能に固定されている第1のディスク11は、第1の環状ディスク32と第2の環状ディスク36との間に配置される。
【0039】
第1の環状ディスク32及び第2の環状ディスク36は、電極構造31の第3の部品、非磁化性ストラップ38によって、ディスク面を互いに平行に向き合って配置するように、外周でまとめられている。ストラップ38が存在しなかったら、クラッチ5の作動中に発生する遠心力によって2つの環状ディスク32、36が変形し、もはやクラッチ5の連結機能を保証できなくなる。第1のディスク11とストラップ38との間の摩擦を回避するために、第1のディスク11に対向したストラップ38に、放射状に凹部13が設けられている。
【0040】
第1の環状ディスク32の外径DR1及び第2の環状ディスク36の外径DR2は、第1のディスク11の外径Dと一致する。ヨーク15の内径DJochは電極構造31の外径DPolより大きいので、ヨーク15には環状隙間18が残る。この環状隙間18の存在は、コイル30を収容するために設けられている。ヨーク15に収容されているコイル30は、磁界を生成する働きをする。このために、コイル30には、自動車の電気系統100から電流が供給される。
【0041】
回転電極構造31とヨーク15との間のほか、電極構造31と共に回転するストラップ38とコイル30との間にも、空隙52(図1に詳細を示す)がある。空隙52によって、電極構造31とヨーク15との間の摩擦、又はストラップ38とコイル30との間の摩擦を回避できる。
【0042】
モータ20のクラッチ5への接続は、シャフト4を収容する第2のディスク35と、シャフト4を収容し、第2のディスク35に回転可能なように固定されている管状要素34とによって実現される。管状要素34の、モータ20に面している一端は、回転子21と回転可能なように固定されている。管状要素34の、クラッチ5に面している他端は、第2のディスク35に回転可能なように固定されている。第2のディスク35は、第1の環状ディスク32が第2のディスク35をその中空部37に収容するように、第1の環状ディスク32に回転可能なように固定されている。第2のディスク35は、シャフト4を収容するための開口49を有する。
【0043】
第2のディスク35の、第1の環状ディスク32の中空部37へ収容して固定する方法は、例えば、ハメ締めによって行うことができる。さらに、第1の環状ディスク32と第2のディスク35を一体的に形成することもでき、その場合第2のディスク35は、第1の環状ディスク32と対応する歯付き構造44を有することもできる。第2のディスク35に対向している第2の環状ディスク36の部分は歯付き構造でないので、第2のディスク35の歯付き構造は意味がないであろうが、これは、歯付き構造を有するクラウンギヤや、クラウンギヤに取り囲まれた歯付き構造のない面を備えるディスクよりも製作技術の点で容易であるからである。
【0044】
第1のディスク11と電極構造31との間には、空隙51が形成されている。空隙51は、まず第1に環状ディスク32、36と第1のディスク11との間の摩擦、又はストラップ38と第1のディスク11との間の摩擦を回避し、第2に、コイル30によって誘起される磁束54のための担体として働く。電極構造31もまた、単一部品であっても2部品設計であってもよい。これに関連して、環状ディスク32と36との間に配置されている第1のディスク11の取り付けの可能性について、説明する。
【0045】
図3は、排気ターボチャージャー1の電極構造31の詳細を示す。第1及び第2の環状ディスク32、36は、歯45、及び歯45に隣接する歯間の間隙46を備え、その面が各自第1のディスク11に面する歯付き構造44を構成する。歯45は、軸方向に歯の高さH、円周方向に歯の長さLを有する。第1及び第2の環状ディスク32、36の歯付き構造44は、第1の環状ディスク32の歯45が第2の環状ディスク36の歯間の間隙46に対向するように供される。
【0046】
図4は、電流がコイル30に流れて作動中に、磁極53に発生する磁束54を示す電極構造31の断面図を示す。磁束54は、電流が流れるコイル30(図示せず)によって誘起される。第1の環状ディスク32及び第2の環状ディスク36の歯45が磁極53となる。磁束54の磁束の方向によって、磁極53は、図4にそれぞれN及びSと示されるように、N極とS極に分かれる。コイル30を流れる電流がないと、磁束54は誘起されない。
【0047】
図4において、N極は第1の環状ディスク32に、S極は第2の環状ディスク36に形成される。磁束54は、2つの環状ディスク32、36間に位置決めされている第1のディスク11を透過する。この透過、及び環状ディスク32、36に互いにずれて配置されている歯によって、電極構造31の環状ディスク32、36の回転速度と異なる回転速度で第1のディスク11の回転運動がある時、第1のディスク11の磁化(再磁化)に変化が発生する。
【0048】
クラッチ5のヒステリシス現象又は渦電流現象を利用することが可能である。電極構造31の回転運動又は回転速度が一致するかしないかは、クラッチ5に利用されるその現象による。
【0049】
ヒステリシス現象が使用されると、第1のディスク11は、略してB−H線図と称される磁束密度B−磁界の強さHの線図において、顕著なヒステリシスループを有する半硬質材料からなる。電極構造31は、軟磁性材料、例えば、鉄でできている。互いにずれている、電極構造31の歯45によって、各極53を透過する磁束54を2つの部分に分け、部分的に第1のディスク11を接線方向に通過する。この状況において、磁気的に半硬質材料でできている第1のディスク11は磁化される。理想的な場合には、極53から生じる2つの部分的な磁束の方向が、互いに対して180度ずれているであろう。
【0050】
電極構造31が、例えば、1つの歯の長さLにわたって回転すると、第1のディスク11のちょうど磁化された場所に、磁束54が他方向に透過する。第1のディスク11は、反対方向に磁化する。ヒステリシスループの領域に対応する再磁化によって行われる作業は、再磁化作業と称される。
【0051】
再磁化作業は、第1のディスク11にトルクを生成し、電極構造31と第1のディスク11との間には電磁的な接続を生じ、その結果、排気ターボチャージャー1は、クラッチ5、及びシャフト4へ回転可能なように固定している第1のディスク11を介して、最終的にモータ20に連結される。その場合は、クラッチ5は閉じられたことになる。ヒステリシス現象を利用したクラッチ5の場合、第1のディスク11及び電極構造31は、同じ回転速度になると推定される。
【0052】
渦電流現象が利用されると、第1のディスク11には、導電性材料、例えば鉄、銅又はアルミニウムなどが使用される。第1のディスク11が回転する時、磁束54の局所的に誘起された磁界が、その強度及びその方向に関して変化する。磁界の変化によって局所的に誘起される、磁界に垂直な渦電流によって、順次磁界が生成され、生成される磁界は、適用された磁界とは反対方向に向いている。このことにより、電極構造31と第1のディスク11との間に電磁接続を生じるトルクを生み、その結果、最終的に、排気ターボチャージャー1のモータ20への接続が、クラッチ5、及びシャフトへ回転可能なように固定している第1のディスク11を介して形成される。その場合は、クラッチ5は閉じられたことになる。
【0053】
渦電流のクラッチの場合、発生するトルクは、第1のディスク11と電極構造31の相対的回転速度に依存する、すなわち、第1のディスク11の回転速度と電極構造31の回転速度が近似することない。渦電流のクラッチに使用される材料は、好ましくは、ヒステリシスのクラッチの材料よりもバースト抵抗性があるものである。
【0054】
双方の現象を利用したものでは、電流がコイル30を流れないと、電極構造31に磁束54は生まれず、モータ20と排気ターボチャージャー1との間に接続は形成されない。その場合は、クラッチ5は開放されたことになる。
【0055】
両方のタイプのクラッチのために、コイル30及び固定子23は固定式に配置され、磁束54は、空隙52を介して電極構造31に伝わる。管状要素34及び第2のディスク35を介して回転子21に接続される第1の環状ディスク32は、ストラップ38によって、第2の環状ディスク36とまとめられ、前記環状ディスク32、36は、回転の結果作用する遠心力による純粋な引張応力を受ける。
【0056】
モータ20によって持続的な回転運動を励起される回転性の回転子21、回転電極構造31、回転子21と電極構造31との間の回転固定式接続を構成する部品(管状要素34)、及び管状要素34に回転可能なように固定されている第2のディスク35は、遠心質量体10を構成する。排気ターボチャージャー1の回転速度を増すために、遠心質量体10は、必要な場合には、クラッチ5を介して排気ターボチャージャー1に接続される。
【0057】
例えば、100000r/minの回転速度nkontSの、遠心質量体10の回転運動を生むためには、モータ20によって約100Wの電力を印加しなければならず、その結果、先行技術とは対照的に、排気ターボチャージャー1を加速するために必要な電気出力を著しく削減することができる。電力需要は、例えば、軸受(詳細は図示せず)における摩擦損失の低減及び/又は遠心質量体10の空気抵抗の低減により、さらに減少することができる。遠心質量体10の空気抵抗の低減は、例えば電極構造31の歯付間隙46を非化性材料で充てんすることにより達成できる。また、歯付間隙46を非磁性材料で充てんすることにより、騒音を低く抑えることができる。
【0058】
本発明による、回転子21及びディスク状電極構造31の遠心質量体10としての使用は、モータ20の駆動力が少なくてよく、その結果、本発明による排気ターボチャージャー1に必要な設置スペースが、これまでの設計に比べて著しく削減される。
【0059】
内燃機関がアイドリング範囲Lleerで、又は低部分負荷範囲LTeilnで、又は低回転速度nkleinでのエンジンブレーキ状態LSchubで作動している間、クラッチ5は開放され、排気ターボチャージャー1はモータ20に結合しない。低摩擦損失及び遠心質量体10に貯蔵された大量の回転エネルギーのおかげで、遠心質量体10は、遠心質量体10の定格回転速度nKontSよりも高い回転速度で回転する。ここで、遠心質量体10はモータ20に結合していない、すなわちモータ20によるエネルギー供給を受けずに回転する。
【0060】
遠心質量体10がその定格回転速度nKontSよりも低くなるとすぐに、モータ20は遠心質量体10を駆動する。モータ20によって印加される電力は、軸受摩擦損失及び空気抵抗をちょうど克服するのに十分な程度であるべきである。
【0061】
内燃機関が高部分負荷LTeilh及び低回転速度nkleinで作動している間、遠心質量体10は、その結果閉じられたクラッチ5を介して排気ターボチャージャー1に接続され、排気ターボチャージャー1の対応する回転速度nATLで駆動される。モータ20はこの場合、電源が入っていない。
【0062】
内燃機関が高回転速度ngrossにおいて高部分負荷LTeilhで、又は全負荷LVollで作動していると、遠心質量体10は、排気ターボチャージャー1に接続され、排気ターボチャージャー1の対応する回転速度nATLで作動する。排気ターボチャージャー1の回転速度nATLは、遠心質量体10の連続的な定格回転速度nKontSよりも高いので、モータ20を利用して発電エネルギーが得られ、例えば、それを自動車車両の電気系統100に供給できる。
【0063】
内燃機関が高出力を要求される場合、クラッチ5は閉じられ、遠心質量体10は排気ターボチャージャー1を加速する。この状況において、遠心質量体10の定格回転速度nKontSを、加速過程中にモータ20が遠心質量体10を再び駆動するまで減少することができるので、遠心質量体10の定格回転速度nKontSに再び到達する。排気ターボチャージャーの必要な回転速度nATLに到達すると、遠心質量体10は排気ターボチャージャー1から切り離される。
【0064】
高回転速度での内燃機関のエンジンブレーキ状態においては、はじめに遠心質量体10は、エンジンと共に自由に回転し、その回転速度nが定格回転速度nKontS未満になるとすぐにモータ20により駆動されて、遠心質量体10は定格回転速度nKontSとなる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による排気ターボチャージャーの概略断面図である。
【図2】本発明による排気ターボチャージャーの分解図である。
【図3】排気ターボチャージャーの電極構造の詳細な斜視図である。
【図4】電流がコイルを流れる時、作動中に発生する磁束線及び磁極を示す電極構造の展開図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサと、タービンと、前記コンプレッサを前記タービンに回転可能に固定するシャフトと、クラッチを介して排気ターボチャージャーに接続できるモータを有する内燃機関用の排気ターボチャージャーにおいて、
ディスク状遠心質量体(10)によって前記排気ターボチャージャー(1)を少なくとも一時的に駆動でき、前記クラッチを介して前記ディスク状遠心質量体(10)を前記排気ターボチャージャー(1)に接続できることを特徴とする排気ターボチャージャー。
【請求項2】
前記クラッチ(5)は、前記排気ターボチャージャー(1)の前記シャフト(4)に回転可能なように固定されている第1のディスク(11)と、電極構造(31)と、ヨーク(15)と、コイル(30)を有することを特徴とする請求項1に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項3】
前記モータ(20)によって前記ディスク状遠心質量体(10)を駆動されることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項4】
前記遠心質量体(10)は電極構造(31)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項5】
前記電極構造(31)は、少なくとも2つのディスク(32、36)で構成されることを特徴とする請求項4に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項6】
前記電極構造(31)の前記ディスク(32、36)は、環状構成であることを特徴とする請求項5に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項7】
前記排気ターボチャージャー(1)の前記シャフト(4)に回転可能なように固定される前記ディスク(11)は、前記電極構造(31)の前記ディスク(32、36)間に配置されることを特徴とする請求項5あるいは6に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項8】
前記電極構造(31)の前記ディスク(32、36)は、歯(45)及び歯間の間隙(46)を備える歯付き構造(44)であり、一方のディスク(32;36)の歯(45)は、他方のディスク(36;32)上の歯間の間隙(46)に対向して配置されることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項9】
前記電極構造(31)の前記ディスク(32、36)は、非磁化性ストラップ(38)によってまとめられることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項10】
前記遠心質量体(10)は、前記モータ(20)の回転子(21)と、前記電極構造(31)内に保持されるディスク(35)と、管状要素(34)と、前記電極構造(31)を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項11】
前記電極構造(31)は、前記ディスク(35)及び前記管状要素(34)を介して前記モータ(20)の回転子(21)に回転可能なように固定されることを特徴とする請求項10に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項12】
前記クラッチ(5)は、前記排気ターボチャージャー(1)の前記コンプレッサ(2)と前記タービン(3)の間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項13】
前記クラッチ(5)は、渦電流クラッチ又はヒステリシスクラッチであることを特徴とする請求項1に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項14】
前記遠心質量体(10)は、前記排気ターボチャージャー(1)によって、又は前記モータ(20)によって、定格回転速度(nkontS)に対応する最低回転速度に保たれることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の排気ターボチャージャー。
【請求項15】
コンプレッサと、タービンと、前記コンプレッサを前記タービンに回転可能に固定するシャフトと、クラッチを介して排気ターボチャージャーに接続できるモータを有する請求項1〜14のいずれか1項に記載の排気ターボチャージャーの制御方法において、
排気ターボチャージャーの回転速度nATLが、前記遠心質量体(10)の定格回転速度nkontSよりも高い場合、前記遠心質量体(10)を駆動するためのモータ(20)は前記排気ターボチャージャー(1)に存在する過剰なエネルギーを吸収する発電機としての運転モードで動作し、発生した電気エネルギーを車両の電気系統に供給し、前記遠心質量体(10)の駆動は前記排気ターボチャージャー(1)によって維持されることを特徴とする排気ターボチャージャーの制御方法。
【請求項16】
前記定格回転速度nkontSよりも低い前記排気ターボチャージャーの回転速度nATLにおいて、前記遠心質量体の回転速度nが前記定格回転速度nkontSより低くなった場合に前記モータ(20)を使用して前記遠心質量体(10)を加速させることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記定格回転速度nkontSに一致する前記排気ターボチャージャーの回転速度nATLにおいて、前記遠心質量体(10)は、前記クラッチ(5)が閉じられる時に前記排気ターボチャージャー(1)によって加速されることを特徴とする請求項15あるいは16に記載の方法。
【請求項18】
前記遠心質量体の回転速度nよりも低い前記排気ターボチャージャーの回転速度nATLにおいて、前記排気ターボチャージャー(1)は前記遠心質量体(10)によって駆動されることを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−501882(P2008−501882A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513704(P2007−513704)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003097
【国際公開番号】WO2005/119882
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】