説明

冷陰極素子の製造方法及びこれを用いた冷陰極素子

【課題】従来のものよりも簡便に制御性よく信頼性及び電子放出特性を改善することができる冷陰極素子の製造方法及びこれを用いた冷陰極素子を提供すること。
【解決手段】冷陰極素子10は、基板11と、基板11上に形成されたカソード電極12と、カソード電極12上に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に形成された電子引出電極14と、電子を放出する炭素系微細繊維15とを備え、炭素系微細繊維15は、酸素活性種によってトリミング処理が施された後、水素ガス中において活性化処理が施される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極素子の製造方法及びこれを用いた冷陰極素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ(以下「CNT」)やグラファイトナノファイバ(以下「GNF」)等の炭素系微細繊維は、冷陰極素子の電子源材料としての応用が期待されている。従来の冷陰極素子は、例えば図12に示すような構成となっている。
【0003】
図12に示すように、従来の冷陰極素子1は、ガラス基板2上に形成されたカソード電極3と、カソード電極3上に形成された絶縁層4と、絶縁層4上に形成された電子引出電極5と、CNTやGNF等で構成される炭素系微細繊維6とを備え、電子引出電極5に電圧が印加されることによって電子源である炭素系微細繊維6から電子が放出されるようになっている。なお、冷陰極素子1は、通常、ガラス基板2上に複数形成されるが、構成をわかりやすくするため、図12には1冷陰極素子分の構成が示されている。
【0004】
冷陰極素子を利用したデバイスとしては、例えば、放出された電子を蛍光体が形成されたアノード電極上に衝突させることによって蛍光体を発光させ、所望の画像を表示することができるフィールドエミッションディスプレイ(以下「FED」)が知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0005】
しかしながら、炭素系微細繊維を用いた冷陰極素子をFEDに応用して実用化するには、炭素系微細繊維を用いた冷陰極素子の信頼性及び電子放出特性において改善すべき課題があり、この課題を解決するために種々の提案がなされている。
【0006】
まず、信頼性における課題について説明する。図12に示された冷陰極素子1において、信頼性を低下させる原因の1つとして、カソード電極3と電子引出電極5との間における電気的な短絡が挙げられる。カソード電極3と電子引出電極5との間に設けられた絶縁層4の厚さは、通常数μm程度であり、カソード電極3上に形成された炭素系微細繊維6の長さも通常数μm程度なので、炭素系微細繊維6が電子引出電極5と接触することがあり、その結果、カソード電極3と電子引出電極5とが電気的に短絡して冷陰極素子1が動作不良を起こしてしまうという課題がある。
【0007】
この課題の解決を図るものとして、オゾンや水素化物プラズマを用いて炭素系微細繊維6の長さを短くするトリミングの方法が提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。なお、トリミングとは、炭素系微細繊維6の長さを形成後の長さよりも短くする処理をいい、炭素系微細繊維6を電子引出電極5から離隔させ、カソード電極3と電子引出電極5との間の電気的な短絡を防止するための処理である。
【0008】
次に、電子放出特性における課題について説明する。FEDは、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等と比較すると高速応答、低消費電力であるという特徴を有しているが、さらなる輝度の向上及び均一性を図るために電子放出特性の改善が要求されている。この電子放出特性の改善を図るものとして、レーザ光を炭素系微細繊維に照射することにより、炭素系微細繊維の表面を活性化させる方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【非特許文献1】S.Kang,et al.,SID'03 Digest,pp.802−805(2003)
【非特許文献2】M.Levis,et al.,Proc. IDW/AD'05,pp.1635−1638(2005)
【非特許文献3】W.Rochanachirapar,et al.J.Vac. Sci. Technol. B23,pp.765−768(2005)
【特許文献1】特開2005−317415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述のような信頼性を改善するためのトリミング工程や電子放出特性の改善工程は、従来別々の容器内で実施されるので、冷陰極素子の製造工程が煩雑となって製造コストが増大するという課題があった。
【0010】
また、レーザ光による炭素系微細繊維の活性化処理を、例えば比較的大画面のFEDに適用しようとすると、冷陰極素子が形成された画面全体にわたってレーザ光を均一に照射することが困難となるので、炭素系微細繊維に安定した活性化処理が施せず、電子放出特性の改善が行えないという課題があった。
【0011】
また、例えば図12に示すような構造の冷陰極素子1に対して、レーザ光による炭素系微細繊維6の活性化処理を実施しようとする場合、炭素系微細繊維6の表面のみを活性化処理するようレーザ光を制御することは困難であり、電子引出電極5や炭素系微細繊維6全体が熱ダメージを受けて冷陰極素子1の特性が劣化してしまうので、電子放出特性の改善が行えないという課題があった。
【0012】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、従来のものよりも簡便に制御性よく信頼性及び電子放出特性を改善することができる冷陰極素子の製造方法及びこれを用いた冷陰極素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者は、炭素系微細繊維の製造に係る実験及び検討を重ねた結果、(1)波長185nm以下の光の照射により酸素活性種を発生させて炭素系微細繊維をトリミングすること、(2)トリミングした後に水素を含む雰囲気中で波長172nm以下の光を照射することにより炭素系微細繊維の活性化処理を行うこと、により前述の課題が解決されることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の冷陰極素子の製造方法は、炭素系微細繊維を形成する炭素系微細繊維形成工程と、形成された前記炭素系微細繊維をトリミングするトリミング工程と、トリミングされた前記炭素系微細繊維を活性化させる活性化処理工程とを含む構成を有している。
【0015】
この構成により、本発明の冷陰極素子の製造方法は、トリミング工程と活性化処理工程とを同一の容器内で化学的に行うことが可能となるので、従来のものよりも簡便に制御性よく炭素系微細繊維のトリミング処理を実施して信頼性を向上させることができ、電子放出特性を改善することができる。
【0016】
また、本発明の冷陰極素子の製造方法は、前記活性化処理工程は、水素を含むガスに光を照射することによって前記炭素系微細繊維を活性化させる構成を有している。
【0017】
この構成により、本発明の冷陰極素子の製造方法は、水素を含むガスに光を照射することによって炭素系微細繊維を活性化させるので、従来のものよりも電子放出特性を改善することができる。
【0018】
また、この構成により、本発明の冷陰極素子の製造方法は、光の照射領域内にある炭素系微細繊維のみを活性化させ、光の照射領域外にある炭素系微細繊維を活性化させないので、光の照射領域外にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流が、光の照射領域内にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流に比べて相対的に低下することとなり、電流の取り出し効率を向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明の冷陰極素子の製造方法は、前記光の波長は、172nm以下である構成を有している。
【0020】
この構成により、本発明の冷陰極素子の製造方法は、172nm以下の波長の光で炭素系微細繊維を活性化することによって、従来のものよりも電子放出特性を改善することができる。
【0021】
さらに、本発明の冷陰極素子の製造方法は、前記トリミング工程及び前記活性化処理工程は、同一の容器内で行われる構成を有している。
【0022】
この構成により、本発明の冷陰極素子の製造方法は、トリミング工程及び活性化処理工程を同一の容器内で行うことによって、これらの工程が別々の容器内で実施される従来のものよりも簡便に制御性よく炭素系微細繊維のトリミング処理を実施して信頼性を向上させることができ、電子放出特性を改善することができると共に、従来のものよりも製造コストを低減することができる。
【0023】
本発明の冷陰極素子は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷陰極素子の製造方法で製造される冷陰極素子であって、電子を放出する炭素系微細繊維が形成されるカソード電極と、このカソード電極に対向して設けられ、前記電子を通過させる貫通孔を有し、前記炭素系微細繊維から前記電子を引き出す電子引出電極とを備え、前記カソード電極に対して前記貫通孔を垂直方向に投影した投影領域内にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流の密度が、投影領域外にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流の密度よりも大きい構成を有している。
【0024】
この構成により、本発明の冷陰極素子は、投影領域内にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流の密度が、投影領域外にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流の密度よりも大きいので、貫通孔からの放出電子による電流の取り出し効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、従来のものよりも簡便に制御性よく信頼性及び電子放出特性を改善することができるという効果を有する冷陰極素子の製造方法及びこれを用いた冷陰極素子を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
まず、本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態の構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態における冷陰極素子10は、基板11と、基板11上に形成されたカソード電極12と、カソード電極12上に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に形成された電子引出電極14と、電子を放出する炭素系微細繊維15とを備えている。なお、冷陰極素子10は、通常、基板11上に複数形成されるが、構成をわかりやすくするため、図1には1冷陰極素子分の構成が示されている。
【0029】
基板11は、例えばガラス、セラミクス、シリコン等の絶縁性を有する材料や、表面を酸化させたシリコン基板のように表面を絶縁膜で覆った導電性を有する材料等で構成されている。
【0030】
カソード電極12は、例えばCr、Al、Au、Ag、Ti、Ta、Mo、Zr、W、Pt、Ir、Ni等の導電性を有する材料で構成され、炭素系微細繊維15と電気的に接続されている。
【0031】
絶縁層13は、例えばSiO、TEOS、Si、Ta、MgO、Al等により構成されている。
【0032】
電子引出電極14は、例えばCr、Al、Au、Ag、Ti、Ta、Mo、Zr、W、Pt、Ir、Ni等の導電性を有する材料で構成されている。
【0033】
炭素系微細繊維15は、CNTやGNF等で構成され、カソード電極12と電子引出電極14との間に印加される電圧によって電子を放出するようになっている。
【0034】
本実施の形態における冷陰極素子10は、前述のように構成されており、カソード電極12と電子引出電極14との間に電圧が印加されると、炭素系微細繊維15によって電子が放出される。この冷陰極素子10をFEDに応用する場合は、例えばガラス基板上に陽極電極及び蛍光体層が順次積層された陽極基板を用意し、冷陰極素子10の電子引出電極14と蛍光体層とを対向配置して真空封止する。この構成において、カソード電極12と電子引出電極14との間に電圧が印加されると、炭素系微細繊維15によって電子が放出され、放出された電子は、カソード電極12と陽極電極との間に印加される陽極電圧によって加速されて陽極電極の方向に進み、蛍光体層を通過して蛍光体層を発光させた後、陽極電極に達する動作を行うことにより所定の画像が表示される。
【0035】
次に、本実施の形態における冷陰極素子10の製造方法について説明する。なお、本実施の形態では、いわゆるリフトオフ法による冷陰極素子10の製造方法を例に挙げて説明する。ただし、以下に記載した製造上の手法、寸法、温度等は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
まず、例えばガラスで構成された基板11上にカソード電極12を形成する(図2(a))。具体的には、カソード電極12は、スパッタリング法や蒸着法により例えばCrの薄膜を10nm〜5μm程度の厚さに堆積させた後、フォトリソグラフィにより例えば帯状にパターニングして形成する。
【0037】
次いで、カソード電極12上に、絶縁層13、電子引出電極14及びレジスト16を順次形成する(図2(b))。具体的には、例えばSiOをカソード電極12上にスパッタリング法や蒸着法により100nm〜5μm程度の厚さに堆積して絶縁層13を形成し、絶縁層13上に例えばCrをスパッタリング法や蒸着法により10nm〜1000nm程度の厚さで堆積して電子引出電極14を形成し、電子引出電極14上にレジスト16を塗布する。
【0038】
続いて、フォトリソグラフィ及びエッチングによって、絶縁層13、電子引出電極14及びレジスト16をパターニングし、電子引出電極14及びホール14aを形成する(図2(c))。ホール14aのエッチングは、カソード電極12を露出させるように行う。
【0039】
さらに、スパッタリング法や蒸着法により、例えばFe、Ni、Coのうち少なくとも1つを含む金属からなる触媒17をカソード電極12及びレジスト16上に1nm〜50nm程度の厚さに堆積させる(図3(d))。
【0040】
次いで、リフトオフ法により、電子引出電極14上に堆積されたレジスト16を剥離液によって除去することによって、カソード電極12上にのみ触媒17を残す(図3(e))。
【0041】
そして、熱CVD法やプラズマCVD法等の化学気相成長法によって、CNTやGNF等で構成される炭素系微細繊維15を触媒17上に形成することにより冷陰極素子31が得られる(図3(f))。このとき、図3(f)に示すように、電子引出電極14と炭素系微細繊維15とが接触する場合があり、この場合は電子引出電極14と炭素系微細繊維15とが電気的に短絡してしまい、動作不良が起こることとなる。
【0042】
引き続き、185nm以下の波長、好ましくは後述の活性化処理を考慮して172nm以下の波長(以下この波長とする。)の光を発する光源42を有する容器41を用意し、容器41に冷陰極素子31を導入した後に酸素を含むガスを注入し、172nm以下の波長の光を炭素系微細繊維15に照射する。その結果、172nm以下の波長の光により、酸素分子からオゾンや励起酸素原子という化学的に活性な種(以下「酸素活性種」という。)が生成され、この酸素活性種によって炭素系微細繊維15がトリミングされる(図4(g):トリミング工程)。トリミング工程を経た結果、カソード電極12と電子引出電極14との間の電気的な短絡が解消された冷陰極素子32が得られる(図4(h))。
【0043】
ここで、トリミングとは、炭素系微細繊維15の長さを短くする処理をいう。トリミング工程によって、炭素系微細繊維15は電子引出電極14から離隔され、カソード電極12と電子引出電極14との間の電気的な短絡が解消される。このトリミングは、酸素を含むガスに185nm以下の波長の光を照射することにより発生したオゾンや励起酸素原子が、炭素系微細繊維15の表面と酸化分解反応等の化学反応を起こすことによって行われるものと考えられる。なお、光源42の波長を172nmとしたのは、同じ光源42で後述の活性化処理も行うことを想定したためであり、実験によればトリミング工程において用いる光の波長は185nm以下であればよいことがわかっている。
【0044】
なお、トリミング工程は、大気中で行うこともできるが、図4(g)に示すような容器41内で行うことによりトリミングの速度を任意に制御することができて好ましい。例えば、容器41内にO、CO、CO等のような酸素を含むガスや、N、Ar等のように酸素を含まないガスを導入することによって、容器41内の酸素の量を増減させ、トリミングの速度を任意に制御することができる。
【0045】
また、トリミングの速度は、図4(g)において光源42から冷陰極素子31までの距離を、例えば1mm〜30cmの範囲で変化させて光の照度を変えることによっても増減することができ、また、基板11の温度を例えば20〜300℃に変えることによっても増減することができる。なお、前述した光源42と冷陰極素子31との間の距離や基板11の温度は一例であって、本発明はこれらに限定されるものではなく、酸素活性種を発生させることができるだけのエネルギを持った波長の光により、炭素系微細繊維15がトリミングされる条件であればよい。
【0046】
引き続き、容器41に冷陰極素子32を導入した後に水素を含むガスを注入し、光源42によって172nm以下の波長の光を炭素系微細繊維15に照射することにより(図5(i):活性化処理工程)、炭素系微細繊維15からの電子放出特性が活性化、安定化した冷陰極素子10(図1参照)が得られる。なお、光源42としては、トリミング工程(図4(g)参照)で用いたものと必ずしも同一のものとする必要はなく、炭素系微細繊維15を活性化できるエネルギを持ったものであればよい。
【0047】
この活性化処理おいて、光化学反応によって炭素系微細繊維15の表面の炭素の結合手が水素で終端されることにより、炭素系微細繊維15からの電子放出特性が活性化、安定化するものと考えられる。また、前述のトリミング工程(図4(g)参照)と同様に、光源42から冷陰極素子32までの距離や、基板11の温度を変化させることにより、活性化処理の速度を任意に制御することができる。
【0048】
次に、本実施の形態のおけるトリミング処理及び活性化処理の効果について確認した実験について説明する。
【0049】
まず、図6(a)に示すような冷陰極素子を集積させた基板をリフトオフ法により製作した。すなわち、実験で用いた冷陰極素子は、冷陰極基板を備え、冷陰極基板は、ガラス基板と、ガラス基板上にスパッタリング法によって形成した200nm程度の厚さのCrを用いたカソード電極と、カソード電極上にスパッタリング法によって形成した2.5μm程度の厚さのSiOと、スパッタリング法によってSiO上に形成した200nm程度の厚さのCrを用いた電子引出電極と、エッチング法によってホールを形成し、露出させたカソード電極上に、Fe、Cr及びNiを蒸着法によって形成した5nm程度の厚さの合金触媒と、GNFとを備えている。
【0050】
GNFは、合金触媒を形成した後、水素と一酸化炭素とを約1:1の割合にて大気圧(101kPa)相当の圧力になるまで導入した容器中において、容器中に設置した赤外線ランプによって約600℃まで加熱することによって、合金触媒に炭素系微細繊維としてGNFを成長させたものである。また、カソード電極と電子引出電極は、基板を上面から見たときに直交するような配置で帯状にパターニングされており、電極の本数は、カソード電極が192本、電子引出電極が64本である。基板を上面から見たときに、カソード電極と電子引出電極とが交差する部分にホール及びGNFが形成されており、所望のカソード電極と電子引出電極とに電圧を印加することにより、所望の位置の冷陰極素子から電子を放出させることができるようになっている。また、カソード電極と電子引出電極とが交差する部分毎に、55個の冷陰極素子が集積されている。
【0051】
次いで、主波長が160.8nmの真空紫外線光源を有する容器中で約30分間真空紫外線光を照射して、GNFのトリミング処理を実施した。このとき、真空紫外線光源の入力パワーは150W、容器内には空気が101kPaの圧力で導入されていた。また、真空紫外線光源から冷陰極基板までの距離は約10cmで、冷陰極基板の温度は23℃であった。真空紫外光を照射した後、容器内の圧力が1Pa未満になるまで排気し、容器内に水素ガスを導入した。容器内の圧力が大気圧相当の圧力になるまで水素ガスを導入した後、真空紫外光を約6時間照射して活性化処理を行った。このとき、真空紫外線光源の入力パワーは150W、容器内の圧力は大気圧であった。また、真空紫外線光源と冷陰極基板との間の距離は約10cmで、冷陰極基板の温度は23℃であった。
【0052】
さらに、本実施形態におけるトリミング処理及び活性化処理の効果を確認するため、図6(a)に示すような陽極基板を冷陰極基板に対向配置した。ここで、陽極基板は、ガラス基板と、陽極としての透明電極と、蛍光体とを備えたものである。また、冷陰極基板から陽極基板までの距離は7mmとし、5×10−5Paの真空下において、カソード電極と電子引出電極との間に電子引出電圧を、透明電極と電子引出電極との間に300Vの陽極電圧をそれぞれ印加することにより、3520個の冷陰極素子から放出された電子を陽極電流として測定した。その結果、本実施形態におけるトリミング処理の効果として図6(b)に示すような実験結果が得られた。
【0053】
図6(b)において、本実施形態におけるトリミング処理を施すことによって、同じ電子引出電圧の場合に電子引出電極に流れる電流が減少していることが示されている。これは、本実施形態のトリミング処理により、GNFの長さが短くなり、カソード電極と電子引出電極との短絡が減少したためと考えられる。また、図6(b)に示された実験結果は、本実施形態におけるトリミング処理によって、GNFが実際にトリミングされたことを示している。
【0054】
一方、本実施形態における活性化処理の効果としては、図7に示す結果が得られた。冷陰極基板から陽極基板までの距離は約7mmとし、5×10−5Paの真空下において、カソード電極と電子引出電極との間に電子引出電圧を、透明電極と電子引出電極との間に300Vの陽極電圧をそれぞれ印加することにより、3520個の冷陰極素子から放出された電子を陽極電流として測定した。活性化処理を施すことによって、同じ電子引出電極の場合の陽極電流が増加していることが示されている。これは、本実施形態の活性化処理によって、GNFが実際に活性化されたことを示している。
【0055】
以上のように、本実施の形態における冷陰極素子10によれば、酸素活性種によってトリミング処理が施された後、水素ガス中において活性化処理が施された炭素系微細繊維15を備える構成としたので、従来のものよりも信頼性及び電子放出特性を改善することができる。
【0056】
したがって、本実施の形態における冷陰極素子10を例えばFEDに適用した場合、全画素を動作させることができ、発光面全域にわたって均一な表示特性を有するディスプレイが得られることとなり、特に大画面化及び高画質化において著しい効果が得られる。
【0057】
また、本実施の形態における冷陰極素子10の製造方法によれば、炭素系微細繊維15の形成後の長さを酸素活性種によって短くするトリミング工程と、炭素系微細繊維15を活性化させる活性化処理工程とを含むので、従来のものよりも簡便に制御性よく炭素系微細繊維15のトリミング処理を実施して信頼性を向上させることができ、電子放出特性を改善することができる。
【0058】
また、本実施の形態における冷陰極素子10の製造方法によれば、トリミング工程及び活性化処理工程を同一の容器内で行う構成としたので、これらの工程が別々の容器内で実施される従来のものよりも簡便に制御性よく炭素系微細繊維のトリミング処理を実施して信頼性を向上させることができ、電子放出特性を改善することができると共に、従来のものよりも製造コストを低減することができる。
【0059】
なお、前述の実施の形態において、炭素系微細繊維15を化学気相成長法によって形成する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の製造方法を用いて炭素系微細繊維15を形成する構成としても同様の効果が得られる。
【0060】
また、前述の実施の形態において、冷陰極素子10をリフトオフ法で製造する方法を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
(第2の実施の形態)
まず、本発明に係る冷陰極素子の第2の実施の形態の構成について説明する。
【0062】
図8に示すように、本実施の形態における冷陰極素子20は、基板21と、基板21上に形成されたカソード電極22と、カソード電極22上に形成された触媒層23と、触媒層23上に形成された絶縁層24と、絶縁層24上に形成された電子引出電極25と、電子を放出する炭素系微細繊維26とを備えている。
【0063】
なお、本実施の形態における冷陰極素子20は、いわゆる積層型と呼ばれるものであり、第1の実施の形態における冷陰極素子10(図1参照)に対して触媒層23を追加した構成であるので、触媒層23以外の構成については説明を省略する。また、冷陰極素子20は、通常、基板21上に複数形成されるが、構成をわかりやすくするため、図8には1冷陰極素子分の構成が示されている。
【0064】
触媒層23は、例えばFe、Ni、Coのうち少なくとも1つを含む金属から構成されている。
【0065】
本実施の形態における冷陰極素子20は、前述のように構成されており、カソード電極22と電子引出電極25との間に電圧が印加されると、炭素系微細繊維26によって電子が放出される。この冷陰極素子20をFEDに応用する場合は、例えばガラス基板上に陽極電極及び蛍光体層が順次積層された陽極基板を用意し、冷陰極素子20の電子引出電極25と蛍光体層とを対向配置して真空封止する。この構成において、カソード電極22と電子引出電極25との間に電圧が印加されると、炭素系微細繊維26によって電子が放出され、放出された電子は、カソード電極22と陽極電極との間に印加される陽極電圧によって加速されて陽極電極の方向に進み、蛍光体層を通過して蛍光体層を発光させた後、陽極電極に達する動作を行うことにより所定の画像が表示される。
【0066】
次に、本実施の形態における冷陰極素子20の製造方法について説明する。なお、以下に記載した製造上の手法、寸法、温度等は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
まず、例えばガラスで構成された基板21上にカソード電極22及び触媒層23を順次形成する(図9(a))。具体的には、カソード電極22は、スパッタリング法や蒸着法により例えばCrの薄膜を10nm〜5μm程度の厚さに堆積させた後、フォトリソグラフィにより例えば帯状の形状にパターニングして形成する。また、スパッタリング法や蒸着法により、Fe、Ni、Coのうち少なくとも1つを含む金属からなる触媒層23をカソード電極22上に形成した後、エッチングやリフトオフ法により触媒層23をカソード電極22上にパターニングする。
【0068】
次いで、触媒層23上に、絶縁層24、電子引出電極25及びレジスト27を順次形成する(図9(b))。具体的には、例えばSiOを触媒層23上にスパッタリング法や蒸着法により100nm〜5μm程度の厚さに堆積して絶縁層24を形成し、絶縁層24上に例えばCrをスパッタリング法や蒸着法により10nm〜1000nm程度の厚さで堆積して電子引出電極25を形成し、電子引出電極25上にレジスト27を塗布する。
【0069】
続いて、フォトリソグラフィ及びエッチングによって、絶縁層24、電子引出電極25及びレジスト27をパターニングし、電子引出電極25及びホール25aを形成する(図9(c))。ホール25aのエッチングは、触媒層23を露出させるように行う。なお、以下の説明において、図9(c)に示すように、露出した触媒層23の領域のうち、ホール25aを投影した領域を「ホール内」、ホール内の外側の領域を「ホール外」という。ここで、ホール25a、ホール内の領域及びホール外の領域は、それぞれ、特許請求の範囲に記載の貫通孔、投影領域内及び投影領域外に対応するものである。
【0070】
次いで、電子引出電極25上に堆積されたレジスト27を剥離液によって除去した後、熱CVD法やプラズマCVD法等の化学気相成長法によって、CNTやGNF等で構成される炭素系微細繊維26を触媒層23上に形成することにより冷陰極素子33が得られる(図10(d))。このとき、図10(d)に示すように、電子引出電極25と炭素系微細繊維26とが接触する場合があり、この場合は電子引出電極25と炭素系微細繊維26とが電気的に短絡してしまい、動作不良が起こることとなる。なお、図10(d)において破線で示されたホール外においても電気的な短絡が発生している。
【0071】
引き続き、185nm以下の波長、好ましくは後述の活性化処理を考慮して172nm以下の波長(以下この波長とする。)の光を発する光源43を有する容器(図示省略)を用意し、容器内に冷陰極素子33を導入した後に酸素を含むガスを注入し、172nm以下の波長の光を炭素系微細繊維26に照射する。その結果、172nm以下の波長の光により酸素活性種が生成され、この酸素活性種によって炭素系微細繊維26がトリミングされる(図10(e):トリミング工程)。トリミング工程を経た結果、カソード電極22と電子引出電極25との間の電気的な短絡が解消された冷陰極素子34が得られる。
【0072】
ここで、酸素活性種が炭素系微細繊維26の表面で反応することによりトリミングが進むと考えられるため、形成された炭素系微細繊維26は等方的にトリミングされる。このトリミングの等方性により、ホール内に存在している炭素系微細繊維26だけでなく、ホール外に存在している炭素系微細繊維26(図10(d)の破線部内)も均一にトリミングされることとなる。その結果、ホール内だけでなく、ホール外においてもカソード電極22と電子引出電極25との電気的な短絡を解消することができ、信頼性を向上することができる。
【0073】
なお、光源43の波長を172nmとしたのは、同じ光源43で後述の活性化処理も行うことを想定したためであり、実験によればトリミング工程において用いる光の波長は185nm以下であればよいことがわかっている。また、トリミング工程を大気中で行うこともできる。
【0074】
また、トリミング工程において、光源43から冷陰極素子33までの距離を変更することによりトリミングの速度を任意に制御することができる。
【0075】
引き続き、容器(図示省略)内に冷陰極素子34を導入した後に水素を含むガスを注入し、光源43によって172nm以下の波長の光を炭素系微細繊維26に照射することにより(図11(f):活性化処理工程)、炭素系微細繊維26からの電子放出特性が活性化、安定化した冷陰極素子20(図8参照)が得られる。
【0076】
なお、光源43としては、トリミング工程(図10(e)参照)で用いたものと必ずしも同一のものとする必要はなく、炭素系微細繊維26を活性化できるエネルギを持ったものであればよい。また、光源43から冷陰極素子34までの距離や、基板21の温度を変化させることにより、活性化処理の速度を任意に制御することができる。
【0077】
本実施の形態における活性化処理では、図11(f)に示すように、ホール外には光が照射されないので、ホール内に存在している炭素系微細繊維26のみを活性化することができる。その結果、ホール外に存在する炭素系微細繊維26からの放出電子による電流の密度が、ホール内に存在する炭素系微細繊維26からの放出電子による電流の密度に比べて相対的に低下することとなり、炭素系微細繊維26からの全放出電子による電流が電子引出電極25に流入する割合、すなわちホール25aからの放出電子による電流の取り出し効率を向上させることができる。
【0078】
したがって、本実施の形態におけるトリミング工程及び活性化処理工程を設けることにより、図8に示すような電子引出電極25と炭素系微細繊維26との電気的な短絡が無く、すなわち信頼性が向上し、なおかつ活性化処理により電子放出特性が改善された冷陰極素子20を簡便な工程により制御性よく製造することができる。
【0079】
以上のように、本実施の形態における冷陰極素子20によれば、酸素活性種によってトリミング処理が施された後、水素ガス中において活性化処理が施された炭素系微細繊維26を備える構成としたので、従来のものよりも信頼性及び電子放出特性を改善することができる。
【0080】
また、本実施の形態における冷陰極素子20の製造方法によれば、炭素系微細繊維26の活性化工程において、光の照射領域内にある炭素系微細繊維26のみを活性化させ、光の照射領域外にある炭素系微細繊維26を活性化させないので、光の照射領域外にある炭素系微細繊維26からの放出電子による電流が、光の照射領域内にある炭素系微細繊維26からの放出電子による電流に比べて相対的に低下することとなり、電流の取り出し効率を向上させることができる。
【0081】
なお、前述の実施の形態において、炭素系微細繊維26を化学気相成長法によって形成する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の製造方法を用いて炭素系微細繊維26を形成する構成としても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明に係る冷陰極素子の製造方法及びこれを用いた冷陰極素子は、従来のものよりも簡便に制御性よく信頼性及び電子放出特性を改善することができるという効果を有し、炭素系微細繊維を備えた冷陰極素子、ディスプレイ、撮像装置、照明装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態を示す概略断面図
【図2】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図3】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図4】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図5】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図6】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態における実験結果の説明図 (a)実験で用いた冷陰極素子の構成図 (b)トリミング処理の実験結果を示すグラフ
【図7】本発明に係る冷陰極素子の第1の実施の形態における活性化処理の実験結果を表すグラフ
【図8】本発明に係る冷陰極素子の第2の実施の形態を示す概略断面図
【図9】本発明に係る冷陰極素子の第2の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図10】本発明に係る冷陰極素子の第2の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図11】本発明に係る冷陰極素子の第2の実施の形態の製造工程を示す概略断面図
【図12】従来の冷陰極素子の概略断面図
【符号の説明】
【0084】
10、20 冷陰極素子
11、21 基板
12、22 カソード電極
13、24 絶縁層
14a、25a ホール
14、25 電子引出電極
15、26 炭素系微細繊維
16、27 レジスト
17 触媒
23 触媒層
31〜34 冷陰極素子
41 容器
42、43 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系微細繊維を形成する炭素系微細繊維形成工程と、形成された前記炭素系微細繊維をトリミングするトリミング工程と、トリミングされた前記炭素系微細繊維を活性化させる活性化処理工程とを含むことを特徴とする冷陰極素子の製造方法。
【請求項2】
前記活性化処理工程は、水素を含むガスに光を照射することによって前記炭素系微細繊維を活性化させることを特徴とする請求項1に記載の冷陰極素子の製造方法。
【請求項3】
前記光の波長は、172nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の冷陰極素子の製造方法。
【請求項4】
前記トリミング工程及び前記活性化処理工程は、同一の容器内で行われることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の冷陰極素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷陰極素子の製造方法で製造される冷陰極素子であって、電子を放出する炭素系微細繊維が形成されるカソード電極と、このカソード電極に対向して設けられ、前記電子を通過させる貫通孔を有し、前記炭素系微細繊維から前記電子を引き出す電子引出電極とを備え、
前記カソード電極に対して前記貫通孔を垂直方向に投影した投影領域内にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流の密度が、投影領域外にある炭素系微細繊維からの放出電子による電流の密度よりも大きいことを特徴とする冷陰極素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−41272(P2008−41272A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209928(P2006−209928)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】