説明

出力軸機構および減速機付きモータ

【課題】出力軸と歯車部材との間の摩擦力を利用して出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている場合であっても、歯車部材の割れを防止することが可能な減速歯車機構の出力軸機構を提供する。
【解決手段】減速歯車列12を有する減速歯車機構3の出力軸機構32は、出力軸11と、出力軸11がその内周側へ挿通されるとともに径方向へ弾性変形可能な軸挿通部30aと減速歯車列12の最終段歯車24とが形成される歯車部材30と、軸挿通部30aの内周面と出力軸11の外周面とが所定の接触圧で接触するように軸挿通部30aを径方向の内側へ付勢する付勢部材31とを備えている。この出力軸機構32では、軸挿通部30aの内周面と出力軸11の外周面との摩擦力を利用して、出力軸11と歯車部材30との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速歯車列を有する減速歯車機構の出力軸機構に関する。また、本発明は、この出力軸機構を備える減速機付きモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、減速歯車列を有する減速機付きモータとして、出力軸にクラッチが設けられたクラッチ付きのモータが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のモータでは、出力軸は、軸部材と歯車部材とスプリングとを備えている。軸部材の一端側には、軸部と、軸部の外周側に配置される可撓部とが形成されており、径方向における軸部と可撓部との間の空間にスプリングが配置されている。歯車部材は、略円筒状に形成されており、その外周面に、平歯車が形成されている。特許文献1に記載のモータでは、スプリングによって可撓部を径方向の外側へ押し広げることで、可撓部の外周面と歯車部材の内周面とを所定の接触圧で接触させており、可撓部の外周面と歯車部材の内周面との摩擦力を利用してクラッチが構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−243606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のモータでは、可撓部を径方向の外側へ押し広げることで、可撓部の外周面と歯車部材の内周面とを所定の接触圧で接触させているため、歯車部材には径方向の外側へ向かって応力が作用している。したがって、このモータの場合、可撓部の外周面と歯車部材の内周面との接触圧が大きくなると、歯車部材の径方向外側への変形量が大きくなり、その結果、歯車部材が割れやすくなる。
【0005】
そこで、本発明の課題は、出力軸と歯車部材との間の摩擦力を利用して出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている場合であっても、歯車部材の割れを防止することが可能な減速歯車機構の出力軸機構を提供することにある。また、本発明の課題は、この出力軸機構を有する減速歯車機構を備える減速機付きモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の出力軸機構は、減速歯車列を有する減速歯車機構の出力軸機構であって、出力軸と、出力軸がその内周側へ挿通されるとともに出力軸の径方向へ弾性変形可能な軸挿通部と減速歯車列の最終段歯車とが形成される歯車部材と、軸挿通部の内周面と出力軸の外周面とが所定の接触圧で接触するように軸挿通部を径方向の内側へ付勢する付勢部材とを備え、軸挿通部の内周面と出力軸の外周面との摩擦力を利用して、出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の出力軸機構では、歯車部材を構成する軸挿通部の内周側に出力軸が挿通され、かつ、付勢部材によって、軸挿通部の内周面と出力軸の外周面とが所定の接触圧で接触するように軸挿通部が径方向の内側へ付勢されており、軸挿通部の内周面と出力軸の外周面との摩擦力を利用して、出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている。そのため、軸挿通部の内周面と出力軸の外周面との接触圧を高めても、出力軸によって、軸挿通部の径方向内側への変形量が抑制される。したがって、本発明では、軸挿通部の内周面と出力軸の外周面との接触圧を高めても、歯車部材の割れを防止することが可能になる。このように、本発明では、出力軸と歯車部材との間の摩擦力を利用して出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている場合であっても、歯車部材の割れを防止することが可能になる。
【0008】
本発明において、歯車部材には、径方向の内側へ突出する凸部が形成され、出力軸の外周面には、凸部が係合する係合凹部が径方向の内側へ窪むように形成されていることが好ましい。このように構成すると、凸部と係合凹部とによって、歯車部材からの出力軸の抜けを防止することが可能になる。また、凸部と係合凹部とによって、軸方向における出力軸と歯車部材との位置決めを行うことが可能になる。
【0009】
本発明において、凸部は、軸挿通部に形成され、軸挿通部は、付勢部材の付勢力によって、係合凹部の底面に凸部の先端が接触するように弾性変形することが好ましい。このように構成すると、付勢部材の付勢力によって、凸部と係合凹部とが確実に係合する。したがって、凸部と係合凹部とによって、歯車部材からの出力軸の抜けを確実に防止することが可能になる。
【0010】
また、この場合には、たとえば、軸挿通部は、出力軸の軸方向における軸挿通部の一端側を支点にして径方向へ撓むように形成され、凸部は、軸方向における軸挿通部の他端に形成され、付勢部材は、略円筒状に形成されるとともに、付勢部材の内周側に、軸挿通部が挿通され、付勢部材は、径方向の内側へ縮んで軸挿通部を付勢する。
【0011】
本発明において、たとえば、出力軸は、所定の外径で形成される第1軸部と、第1軸部よりも外径の小さな第2軸部と、第2軸部よりも外径の大きな第3軸部とを備え、第1軸部と第2軸部と第3軸部とは、出力軸の軸方向においてこの順番で配置され、軸方向における第1軸部と第3軸部との間に係合凹部が形成されている。
【0012】
本発明において、軸挿通部は、出力軸の軸方向における軸挿通部の一端側を支点にして径方向へ撓むように形成され、付勢部材は、略円筒状に形成されるとともに、付勢部材の内周側に、軸挿通部が挿通され、付勢部材は、軸挿通部の、付勢部材が配置される部分の外径が軸方向における軸挿通部の他端側の外径よりも小さくなるように径方向の内側へ縮んで軸挿通部を付勢することが好ましい。このように構成すると、軸挿通部からの付勢部材の抜けを防止することが可能になる。
【0013】
本発明において、歯車部材は、径方向における軸挿通部の外側に配置されるとともに最終段歯車がその外周面に形成される略円筒状の外側筒部と、出力軸の軸方向における軸挿通部の一端側と外側筒部の一端側とがまとまるように形成された略円筒状の基端部とを備え、径方向における軸挿通部と外側筒部との間に、付勢部材が配置される配置空間が形成されていることが好ましい。このように構成すると、径方向における軸挿通部の外側に外側筒部が配置され、かつ、径方向における軸挿通部と外側筒部との間に付勢部材が配置されているため、軸方向において歯車部材を小型化することが可能になる。
【0014】
本発明において、付勢部材は、たとえば、略円筒状に巻回されて形成されたコイルバネ、または、略円筒状に曲げられて形成された板バネである。
【0015】
本発明において、歯車部材は、樹脂で形成されていることが好ましい。このように構成すると、歯車部材が金属で形成されている場合と比較して、歯車部材のコストを低減することが可能になる。一方で、歯車部材が金属で形成されている場合と比較して、歯車部材が樹脂で形成されている場合には、歯車部材の強度が低下する。しかし、本発明では、付勢部材の付勢力で径方向の内側へ変形する軸挿通部の径方向内側への変形量が出力軸によって抑制されるため、歯車部材の強度が低下しても、歯車部材の割れを防止することが可能になる。
【0016】
本発明の出力軸機構は、この出力軸機構を有する減速歯車機構と、モータ本体部とを備える減速機付きモータに用いることができる。この減速機付きモータでは、出力軸と歯車部材との間の摩擦力を利用してクラッチが構成されている場合であっても、歯車部材の割れを防止することが可能になる。また、この減速機付きモータでは、出力軸と歯車部材との間の摩擦力を利用して、出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されているため、減速歯車列の途中にクラッチが配置されている場合と比較して、クラッチで伝達可能なトルクの設定が容易になる。すなわち、減速歯車列の途中にクラッチが配置されている場合には、出力軸側から伝達されるトルクと、モータ本体部側から伝達されるトルクとを考慮して、クラッチで伝達可能なトルクを設定する必要があるが、本発明の減速機付きモータでは、出力軸側から伝達されるトルクを考慮して、クラッチで伝達可能なトルクを設定すれば良い。したがって、本発明の減速機付きモータでは、クラッチで伝達可能なトルクの設定が容易になる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の出力軸機構および減速機付きモータでは、出力軸と歯車部材との間の摩擦力を利用して出力軸と歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている場合であっても、歯車部材の割れを防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態にかかる減速機付きモータの断面図である。
【図2】図1に示す減速機付きモータの概略構成を説明するための概略平面図である。
【図3】図2に示す減速歯車列の構成を説明するための展開図である。
【図4】図1に示す出力軸機構の要部の拡大断面図である。
【図5】図4に示す歯車部材を示す図であり、(A)は断面図、(B)は底面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態にかかる出力軸機構の要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
(減速機付きモータの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる減速機付きモータ1の断面図である。図2は、図1に示す減速機付きモータ1の概略構成を説明するための概略平面図である。図3は、図2に示す減速歯車列12の構成を説明するための展開図である。なお、図1では、図2のE−E断面に相当する断面が図示されている。
【0021】
本形態の減速機付きモータ1(以下、「モータ1」とする。)は、モータ本体部2と、減速歯車機構3とを備えている。モータ本体部2は、いわゆるPM型のステッピングモータである。このモータ本体部2は、回転軸5と、回転軸5に固定される駆動用磁石6と、駆動用磁石6の径方向の外側に対向配置される極歯7と、極歯7が一部に形成されるステータコア8と、ボビン9を介してステータコア8に巻回される駆動用コイル10とを備えている。
【0022】
減速歯車機構3は、モータ1の出力軸11と、減速歯車列12とを備えている。減速歯車列12は、図3に示すように、回転軸5の出力端側に配置され回転軸5と一緒に回転する小歯車15と、小歯車15と噛み合う大歯車16と、大歯車16と一体で形成される小歯車17と、小歯車17と噛み合う大歯車18と、大歯車18と一体で形成される小歯車19と、小歯車19と噛み合う大歯車20と、大歯車20と一体で形成される小歯車21と、小歯車21と噛み合う大歯車22と、大歯車22と一体で形成される小歯車23と、小歯車23と噛み合う最終段歯車24とによって構成されている。なお、本形態では、回転軸5と小歯車15とが一体で形成されている。
【0023】
大歯車16および小歯車17が形成される歯車部材の中心には、固定軸25が挿通され、大歯車18および小歯車19が形成される歯車部材の中心には、固定軸26が挿通され、大歯車20および小歯車21が形成される歯車部材の中心には、固定軸27が挿通され、大歯車22および小歯車23が形成される歯車部材の中心には、固定軸28が挿通されている。固定軸25〜28は、モータ1のフレームに固定されている。
【0024】
最終段歯車24は、歯車部材30に形成されている。歯車部材30は、出力軸11に取り付けられている。本形態では、出力軸11の外周面の一部と歯車部材30の内周面の一部とを所定の接触圧で接触させるための付勢部材としてのコイルバネ31、出力軸11および歯車部材30等によって、減速歯車機構3の出力軸機構32が構成されている。以下、この出力軸機構32の構成を説明する。
【0025】
(出力軸機構の構成)
図4は、図1に示す出力軸機構32の要部の拡大断面図である。図5は、図4に示す歯車部材30を示す図であり、(A)は断面図、(B)は底面図である。なお、図5(A)では、図5(B)のF−F断面が図示されている。また、以下の説明では、図4の上側を「上」側、図4の下側を「下」側とする。
【0026】
出力軸11は、樹脂で形成されている。たとえば、出力軸11は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)で形成されている。また、出力軸11は、図1に示すように、段付きの円柱状に形成されており、上下方向を軸方向として、配置されている。この出力軸11は、モータ1のフレームの上面から上側へ突出する突出部11aを備えている。突出部11aには、モータ1によって駆動される駆動対象物へモータ1の動力を伝達するための平面状の動力伝達面11bが形成されている。なお、出力軸11は、ポリアセタール(POM)等の他の樹脂で形成されても良い。
【0027】
突出部11aの下側には、歯車部材30が取り付けられる歯車取付部11cが形成されている。歯車取付部11cは、突出部11aよりも外径の小さな第1軸部11dと、第1軸部11dよりも外径の小さな第2軸部11eと、第2軸部11eよりも外径の大きな第3軸部11fとを備えている。第1軸部11dと第2軸部11eと第3軸部11fとは、上側からこの順番で配置されており、出力軸11の軸方向における第1軸部11dと第3軸部11fとの間には、歯車部材30に形成される後述の凸部30fが係合する係合凹部11gが形成されている。すなわち、歯車取付部11cの外周面には、径方向の内側へ窪む係合凹部11gが全周に亘って形成されている。
【0028】
第1軸部11dと第2軸部11eとの間には、下側に向かうにしたがって外径が次第に小さくなるテーパ部11hが形成されている。第3軸部11fの外径は、第1軸部11dの外径よりも小さくなっている。また、第3軸部11fの外周面は、ドーナツの表面のように縦方向の曲率と横方向の曲率とが異なる(具体的には、出力軸11の径方向の曲率と上下方向の曲率とが異なる)円環面(トロイダル面)となっている。
【0029】
歯車取付部11cの下側には、第3軸部11fよりも外径の小さな第4軸部11jが形成されている。第4軸部11jの外径は、第2軸部11eの外径とほぼ等しくなっている。第4軸部11jの下側には、第4軸部11jよりも外径の小さな第5軸部11kが形成されている。第5軸部11kは、図1に示すように、モータ1のフレームに形成される軸受34に回転可能に支持されている。
【0030】
歯車部材30は、樹脂で形成されている。たとえば、歯車部材30は、ポリアセタールで形成されている。また、歯車部材30は、全体として段付きの略円筒状に形成されている。この歯車部材30は、出力軸11の下端側が挿通される軸挿通部30aを備えている。また、歯車部材30は、径方向における軸挿通部30aの外側に配置される略円筒状の外側筒部30bと、軸挿通部30aの上端側と外側筒部30bの上端側とがまとまるように形成された略円筒状の基端部30cとを備えている。
【0031】
なお、歯車部材30は、ポリアセタール以外の樹脂で形成されても良い。ただし、後述のように、本形態では、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面との摩擦力を利用して、出力軸11と歯車部材30との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されているため、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面とが張り付かないように、出力軸11と歯車部材30とは、異なる樹脂で形成されることが好ましい。
【0032】
軸挿通部30aは、スリット30dを有する略円筒状に形成されており、軸方向(上下方向)から見たときの形状が略円弧状となる2個の曲面部30eを備えている。スリット30dは、軸挿通部30aの下端から上側に向かって所定の範囲に形成されている。また、スリット30dは、180°ピッチで2箇所に形成されている。軸挿通部30aは、径方向に弾性変形可能となっている。具体的には、軸挿通部30aは、その上端側を支点にして径方向へ撓むことが可能となっている。すなわち、曲面部30eは、その上端を支点にして径方向へ撓むことが可能となっている。また、径方向へ変形していないときの軸挿通部30aの内径は、出力軸11の第1軸部11dの外径よりも若干小さくなっている。
【0033】
軸挿通部30aの下端(すなわち、曲面部30eの下端)には、径方向の内側へ突出する凸部30fが形成されている。すなわち、軸挿通部30aの下端部分の内径は、軸挿通部30aの他の部分の内径よりも小さくなっている。また、凸部30fは、略円弧状に形成されている。軸挿通部30aが径方向へ変形していないときの凸部30fの先端(すなわち、曲面部30eの下端部分の内周面)30jの内径は、第2軸部11eの外径と略等しくなっている。軸挿通部30aの下端部分の外周面は、下側に向かうにしたがって外径が小さくなるテーパ面30gとなっている。
【0034】
外側筒部30bの外周面には、最終段歯車24が形成されている。外側筒部30bの内径は、軸挿通部30aの外径よりも大きくなっており、径方向における軸挿通部30aと外側筒部30bとの間には、コイルバネ31が配置される配置空間30hが形成されている。
【0035】
基端部30cの外径は、外側筒部30bの外径よりも小さくなっている。また、基端部30cの外径は、出力軸11の突出部11aの外径と略等しくなっている。基端部30cの下端側の内径は、出力軸11の第1軸部11dの外径よりも大きくなっている。また、基端部30cの上端側の内径は、上側に向かうにしたがって次第に大きくなっている。
【0036】
コイルバネ31は、略円筒状に巻回されて形成されている。このコイルバネ31は、配置空間30hに配置されている。すなわち、軸挿通部30aは、コイルバネ31の内周側に挿通されている。配置空間30hに配置されたコイルバネ31は、軸挿通部30aを径方向の内側へ付勢している。具体的には、配置空間30hに配置されていないときのコイルバネ31の内径は軸挿通部30aの外径よりも小さくなっており、配置空間30hに配置されたコイルバネ31は、その径方向の内側に縮むことで、軸挿通部30aを径方向の内側へ付勢している。また、コイルバネ31の軸方向の長さは、配置空間30hの軸方向の長さよりも短くなっており、コイルバネ31の下端は、軸挿通部30aのテーパ面30gよりも上側に配置されている。
【0037】
本形態では、コイルバネ31が配置空間30hに配置されていない状態の歯車部材30の上側から出力軸11の下端側が歯車部材30の内周側に挿通され、その後、コイルバネ31が配置空間30hに配置されることで、歯車部材30が出力軸11に取り付けられる。あるいは、コイルバネ31が配置空間30hに配置された状態の歯車部材30の上側から出力軸11の下端側が歯車部材30の内周側に挿通されることで、歯車部材30が出力軸11に取り付けられる。出力軸11に歯車部材30が取り付けられた状態では、出力軸11の歯車取付部11cは、歯車部材30の内周側に配置されている。具体的には、軸挿通部30aおよび基端部30cの内周側に第1軸部11dが配置され、歯車部材30の凸部30fが出力軸11の係合凹部11gに係合している。
【0038】
また、出力軸11に歯車部材30が取り付けられた状態では、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面とが所定の接触圧で接触するように、コイルバネ31の付勢力で、軸挿通部30aが径方向の内側へ付勢されている。本形態では、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面との摩擦力を利用して、出力軸11と歯車部材30との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている。なお、本形態では、上述のように、径方向へ変形していないときの軸挿通部30aの内径は、出力軸11の第1軸部11dの外径よりも若干小さくなっており、第1軸部11dは、軸挿通部30aに圧入されている。また、第1軸部11dが軸挿通部30aに圧入されることで、出力軸11と歯車部材30とが連結されている。
【0039】
また、出力軸11に歯車部材30が取り付けられた状態では、係合凹部11gの底面(すなわち、第2軸部11eの外周面)11mに、凸部30fの先端30jが所定の接触圧で接触するように、コイルバネ31の付勢力で、軸挿通部30aが径方向の内側へ付勢されている。さらに、出力軸11に歯車部材30が取り付けられた状態では、軸挿通部30aのコイルバネ31が配置される部分の外径が軸挿通部30aの下端側の外径よりも小さくなるように、コイルバネ31の付勢力で、軸挿通部30aが径方向の内側へ付勢されている。
【0040】
また、出力軸11に歯車部材30が取り付けられた状態では、出力軸11の突出部11aと歯車取付部11cとの間の段差面と、歯車部材30の基端部30cの上端面とは、当接するか、あるいは、わずかな隙間を介して互いに対向している。突出部11aの下端側の外周面と基端部30cの上端側の外周面とは、モータ1のフレームに形成される軸受35の内周面に接触している。すなわち、突出部11aの下端側の外周面と基端部30cの上端側の外周面とは、軸受35に直接、支持されている。軸受35が形成されるフレームは金属で形成されている。
【0041】
なお、出力軸11の下端側を歯車部材30に挿通する際には、凸部30fの先端30jの内径よりも外径の大きな第3軸部11fが凸部30fの内周側を通過するが、本形態では、第3軸部11fの外周面が円環面となっているため、第3軸部11fは凸部30fの内周側をスムーズに通過する。また、コイルバネ31を配置空間30hに配置する際には、配置空間30hに配置されていないときの内径が軸挿通部30aの外径より小さいコイルバネ31の内周側に軸挿通部30aを挿通するが、本形態では、軸挿通部30aの下端部分の外周面がテーパ面30gとなっているため、コイルバネ31の内周側に軸挿通部30aをスムーズに挿通することができる。
【0042】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、歯車部材30の軸挿通部30aの内周側に出力軸11の第1軸部11dが配置されており、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面とが所定の接触圧で接触するように、コイルバネ31の付勢力で、軸挿通部30aが径方向の内側へ付勢されている。そのため、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面との接触圧を高めても、第1軸部11dによって、軸挿通部30aの径方向内側への変形量が抑制される。したがって、本形態では、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面との接触圧を高めても、歯車部材30の割れを防止することが可能になる。
【0043】
また、本形態では、軸挿通部30aの内周面と第1軸部11dの外周面との接触圧を高めても、第1軸部11dによって、軸挿通部30aの径方向内側への変形量が抑制されるため、比較的安価ではあるが強度が低下しやすい樹脂で歯車部材30が形成されていても、歯車部材30の割れを防止することが可能になる。
【0044】
本形態では、軸挿通部30aの下端に径方向の内側へ突出する凸部30fが形成され、出力軸11には、凸部30fが係合する係合凹部11gが径方向の内側へ窪むように形成されている。そのため、凸部30fと係合凹部11gとによって、歯車部材30からの出力軸11の抜け(上方向への抜け)を防止することが可能になる。特に本形態では、係合凹部11gの底面11mに、凸部30fの先端30jが所定の接触圧で接触するように、コイルバネ31の付勢力で、軸挿通部30aが径方向の内側へ付勢されているため、凸部30fと係合凹部11gとが確実に係合する。したがって、本形態では、歯車部材30からの出力軸11の抜けを確実に防止することが可能になる。
【0045】
また、本形態では、軸挿通部30aのコイルバネ31が配置される部分の外径が軸挿通部30aの下端側の外径よりも小さくなるように、コイルバネ31の付勢力で、軸挿通部30aが径方向の内側へ付勢されているため、軸挿通部30aからのコイルバネ31の抜けを防止することが可能になる。
【0046】
本形態では、凸部30fが係合凹部11gに係合しており、かつ、出力軸11の突出部11aと歯車取付部11cとの間の段差面と、歯車部材30の基端部30cの上端面とが、当接するか、あるいは、わずかな隙間を介して互いに対向している。そのため、本形態では、凸部30fおよび係合凹部11g等によって、軸方向における出力軸11と歯車部材30との位置決めを行うことが可能になる。
【0047】
本形態では、径方向における軸挿通部30aの外側に外側筒部30bが配置され、かつ、径方向における軸挿通部30aと外側筒部30bとの間にコイルバネ31が配置される配置空間30hが形成されている。そのため、軸方向において歯車部材30を小型化することが可能になる。
【0048】
本形態では、歯車部材30の基端部30cの上端側の外周面が軸受35の内周面に接触しており、歯車部材30が軸受35に直接、支持されている。そのため、歯車部材30に形成される最終段歯車24をスムーズに回転させることが可能になる。したがって、本形態では、減速歯車列12をスムーズに回転させることが可能になる。また、本形態では、基端部30cの下端側の内径が、出力軸11の第1軸部11dの外径よりも大きくなっているため、歯車部材30の内周側に第1軸部11dが配置されても、基端部30cの外径が径方向の外側へ膨らむことはない。したがって、本形態では、歯車部材30が適切に回転するように、軸受35によって、歯車部材30を支持することができる。
【0049】
本形態では、出力軸11と歯車部材30との間の摩擦力を利用して、出力軸11と歯車部材30との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されている。そのため、減速歯車列12の途中にクラッチが配置されている場合と比較して、クラッチで伝達可能なトルクの設定が容易になる。すなわち、減速歯車列12の途中にクラッチが配置されている場合には、出力軸11側から伝達されるトルクと、モータ本体部2側から伝達されるトルクとを考慮して、クラッチで伝達可能なトルクを設定する必要があるが、本形態では、出力軸11側から伝達されるトルクを考慮して、クラッチで伝達可能なトルクを設定すれば良いため、クラッチで伝達可能なトルクの設定が容易になる。
【0050】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0051】
上述した形態では、軸挿通部30aを径方向の内側へ付勢する付勢部材は、コイルバネ31である。この他にもたとえば、軸挿通部30aを径方向の内側へ付勢する付勢部材は、図6に示すように、ステンレス鋼板等の金属製の薄板が略円筒状に曲げられて形成された板バネ(ロールバネ)51であっても良い。この場合には、配置空間30hに配置されていないときの板バネ51の内径は、軸挿通部30aの外径よりも小さく形成されている。なお、付勢部材がコイルバネ31である場合と比較して、付勢部材が板バネ51である場合には、軸挿通部30aの軸方向において、軸挿通部30aに対する径方向内側への付勢力を均等に作用させやすくなる。
【0052】
上述した形態では、出力軸11の突出部11aの下端側の外周面と、歯車部材30の基端部30cの上端側の外周面とが軸受35の内周面に接触している。この他にもたとえば、出力軸11の突出部11aの下端側の外周面のみが軸受35の内周面に接触するように、出力軸11および歯車部材30が形成されても良い。
【0053】
上述した形態では、歯車部材30は、樹脂で形成されているが、歯車部材30は、金属で形成されても良い。また、上述した形態では、モータ本体部2は、ステッピングモータであるが、モータ本体部2は、ステッピングモータ以外のモータであっても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 モータ(減速機付きモータ)
2 モータ本体部
3 減速歯車機構
11 出力軸
11d 第1軸部
11e 第2軸部
11f 第3軸部
11g 係合凹部
11m 係合凹部の底面
12 減速歯車列
24 最終段歯車
30 歯車部材
30a 軸挿通部
30b 外側筒部
30c 基端部
30f 凸部
30h 配置空間
30j 凸部の先端
31 コイルバネ(付勢部材)
32 出力軸機構
35 軸受
51 板バネ(付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速歯車列を有する減速歯車機構の出力軸機構であって、
出力軸と、前記出力軸がその内周側へ挿通されるとともに前記出力軸の径方向へ弾性変形可能な軸挿通部と前記減速歯車列の最終段歯車とが形成される歯車部材と、前記軸挿通部の内周面と前記出力軸の外周面とが所定の接触圧で接触するように前記軸挿通部を前記径方向の内側へ付勢する付勢部材とを備え、
前記軸挿通部の内周面と前記出力軸の外周面との摩擦力を利用して、前記出力軸と前記歯車部材との間の動力伝達を断続するクラッチが構成されていることを特徴とする出力軸機構。
【請求項2】
前記歯車部材には、前記径方向の内側へ突出する凸部が形成され、
前記出力軸の外周面には、前記凸部が係合する係合凹部が前記径方向の内側へ窪むように形成されていることを特徴とする請求項1記載の出力軸機構。
【請求項3】
前記凸部は、前記軸挿通部に形成され、
前記軸挿通部は、前記付勢部材の付勢力によって、前記係合凹部の底面に前記凸部の先端が接触するように弾性変形することを特徴とする請求項2記載の出力軸機構。
【請求項4】
前記軸挿通部は、前記出力軸の軸方向における前記軸挿通部の一端側を支点にして前記径方向へ撓むように形成され、
前記凸部は、前記軸方向における前記軸挿通部の他端に形成され、
前記付勢部材は、略円筒状に形成されるとともに、前記付勢部材の内周側に、前記軸挿通部が挿通され、
前記付勢部材は、前記径方向の内側へ縮んで前記軸挿通部を付勢することを特徴とする請求項3記載の出力軸機構。
【請求項5】
前記出力軸は、所定の外径で形成される第1軸部と、前記第1軸部よりも外径の小さな第2軸部と、前記第2軸部よりも外径の大きな第3軸部とを備え、
前記第1軸部と前記第2軸部と前記第3軸部とは、前記出力軸の軸方向においてこの順番で配置され、
前記軸方向における前記第1軸部と前記第3軸部との間に前記係合凹部が形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の出力軸機構。
【請求項6】
前記軸挿通部は、前記出力軸の軸方向における前記軸挿通部の一端側を支点にして前記径方向へ撓むように形成され、
前記付勢部材は、略円筒状に形成されるとともに、前記付勢部材の内周側に、前記軸挿通部が挿通され、
前記付勢部材は、前記軸挿通部の、前記付勢部材が配置される部分の外径が前記軸方向における前記軸挿通部の他端側の外径よりも小さくなるように前記径方向の内側へ縮んで前記軸挿通部を付勢することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の出力軸機構。
【請求項7】
前記歯車部材は、前記径方向における前記軸挿通部の外側に配置されるとともに前記最終段歯車がその外周面に形成される略円筒状の外側筒部と、前記出力軸の軸方向における前記軸挿通部の一端側と前記外側筒部の一端側とがまとまるように形成された略円筒状の基端部とを備え、
前記径方向における前記軸挿通部と前記外側筒部との間に、前記付勢部材が配置される配置空間が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の出力軸機構。
【請求項8】
前記付勢部材は、略円筒状に巻回されて形成されたコイルバネ、または、略円筒状に曲げられて形成された板バネであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の出力軸機構。
【請求項9】
前記歯車部材は、樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の出力軸機構。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の出力軸機構を有する減速歯車機構と、モータ本体部とを備えることを特徴とする減速機付きモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−62963(P2012−62963A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207461(P2010−207461)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】