説明

分注装置及び全反射減衰を利用した測定装置

【課題】 ノズルに挿し込まれたピペットチップの抜けを防止する。
【解決手段】 ヘッド本体70には、液体の吸引と吐出とを行うノズル71が設けられている。ノズル71には、ピペットチップ62が挿し込まれる。ヘッド本体70には、2枚の固定板72が軸着されている。また、ヘッド本体70には、ソレノイド90と、ソレノイド90の可動鉄心91に接続される連結部材92とからなる移動機構が設けられている。移動機構は、固定位置と解除位置との間で各固定板を移動させる。固定位置にある各固定板は、ピペットチップ62を挟持固定し、ノズル71から抜けることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の吸引と吐出とを行うノズルにピペットチップを挿し込んで液体の分注を行う分注装置と、この分注装置を備えた表面プラズモン共鳴などの全反射減衰を利用した測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。また、この減衰が発生する光の入射角度(共鳴角)は、金属膜上の屈折率に応じて変化する。すなわち、SPR測定装置は、金属膜からの反射光を捉えて共鳴角を検出することにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
ところで、タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純水、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられている。なお、この流路とプリズムは、装置本体に設けられた測定ステージに配置されており、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージに装着することで、前述の測定が行われる。
【0007】
特許文献1では、ポンプやバルブなどに接続された配管(チューブ)を介して、試料溶液を保管する容器から直接流路に試料溶液を送り込むようにしているが、この方法では、配管内に付着した試料が後に注入する試料溶液中に混入してしまう、いわゆるコンタミネーションが生じやすいという問題があった。
【0008】
この問題を解決するため、本出願人は、先端に小孔が形成された略円錐筒状のピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部とからなるピペットを用いて、容器に保管された試料溶液などの液体を流路に分注するSPR測定装置を提案している(例えば、特願2004−287615号明細書参照)。このSPR測定装置では、分注する液体毎にピペットチップを交換することで、流路に液体を送り込む際に生じるコンタミネーションを防止することができる。
【0009】
また、このSPR測定装置では、流路が形成された流路部材と、上面に金属膜が形成されたプリズムと、流路部材の底面とプリズムの上面とを接合させた状態(流路と金属膜とを対面させた状態)で保持する保持部材とからなるセンサユニットを用いている。流路は、流路部材を略U字状に刳り貫いて形成される送液管であり、その両端を流路部材の上面に露呈させている。ピペットで流路内に液体を送り込む際には、露呈した流路の端部にピペットの先端を挿し込み、吸引した液体を吐出することによって行われる。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ピペットチップは、ヘッド部に形成されたノズルに挿し込まれ、ノズルとの機械的な嵌め合わせによってヘッド部に保持される。ところが、ピペットチップのノズルへの挿し込み方向と流路への挿し込み方向とが一致しているため、流路からピペットチップを引き抜く際に、ノズルからピペットチップが抜けて流路に刺さったままになってしまうことがあった。流路に残ったピペットチップは、オペレータ自らが引き抜きに行かなくてはならず、手間がかかるとともに、気が付かずに工程が進んでしまうと、正常な測定を行うことができないばかりか、装置やセンサユニットなどを破損させる要因にもなる。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、ピペットチップのノズルからの抜けを防止した分注装置と、この分注装置を備えた全反射減衰を利用した測定装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するため、本発明の分注装置は、液体の吸引と吐出とを行うノズルが設けられた分注ヘッドに、前記ノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップの抜けを防止する抜け止め手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、前記抜け止め手段は、前記ピペットチップの前記ノズルへの挿し込み方向に略直交して配置される複数の固定板と、前記ノズルに挿し込まれた前記ピペットチップを挟持固定する固定位置と前記挟持固定を解除する解除位置との間で前記各固定板を移動させる移動機構とからなることが好ましい。
【0014】
また、前記各固定板は、前記固定位置にある際に、前記ピペットチップを挟持固定するとともに、前記ピペットチップが抜ける方向に対して前記ピペットチップの一部を係止することが好ましい。
【0015】
さらに、前記各固定板の前記ピペットチップを挟持固定する部位には、前記各固定板が前記固定位置にある際に、前記ピペットチップの外形形状に応じた開口となる切り欠きが形成されていることが好ましい。
【0016】
なお、前記抜け止め手段は、前記ノズル内に移動自在に収納される略筒状の可動部材と、この可動部材を移動させる移動機構と、前記ノズルに設けられ、前記ピペットチップの前記ノズルへの挿し込みを可能にする退避位置と、前記ノズルの先端に移動した前記可動部材によって前記ノズルの側面よりも外側に押し広げられた突出位置との間で変位する弾性部材とから構成し、前記突出位置にある前記弾性部材で前記ピペットチップの内面を押さえつけて前記ピペットチップの抜けを防止するようにしてもよい。
【0017】
また、前記突出位置にある前記弾性部材は、前記ピペットチップの内面を押さえつけるとともに、前記ピペットチップが抜ける方向に対して前記ピペットチップの一部を係止することが好ましい。
【0018】
さらに、前記分注ヘッドに複数の前記ノズルを形成し、前記抜け止め手段は、複数の前記ノズルのそれぞれに挿し込まれる複数の前記ピペットチップの抜けを防止することが好ましい。
【0019】
また、本発明の全反射減衰を利用した測定装置は、一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、前記薄膜層に試料溶液を送液する流路が形成された流路部材とからなるセンサユニットに対して、全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記センサユニットからの反射光を受光して電気信号に光電変換する検出手段と、前記試料溶液の吸引と吐出とを行うノズルを有し、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップの先端を前記流路の注入口に嵌入させて前記試料溶液を注入する分注ヘッドと、この分注ヘッドに設けられ、前記ノズルに挿し込まれた前記ピペットチップの抜けを防止する抜け止め手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の分注装置、及び全反射減衰を利用した測定装置によれば、ノズルに挿し込まれるピペットチップの抜けを防止する抜け止め手段を分注ヘッドに設けたので、例えば、ピペットチップを流路に挿して流路内に液体を送り込む際に、ピペットチップが流路に嵌ってノズルから抜けてしまうことが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に示すように、SPRを利用した測定方法は、大きく分けて、固定工程と、測定処工程(データ読み取り工程)と、データ解析工程との3つの工程からなる。SPR測定装置は、固定工程を行う固定機10と、測定工程を行う測定機11と、測定機11によって得られたデータを解析するデータ解析機とからなる。
【0022】
測定は、SPRセンサであるセンサユニット12を用いて行われる。センサユニット12は、一方の面がSPRが発生するセンサ面13aとなる金属膜(薄膜層)13と、このセンサ面13aの裏面の光入射面13bと接合されるプリズム(誘電体ブロック)14と、前記センサ面13aと対向して配置され、リガンドやアナライトが送液される流路16が形成された流路部材41とを備えている。
【0023】
金属膜13としては、例えば、金や銀などが使用され、その膜厚は、例えば、50nmである。この膜厚は、金属膜の素材、照射される光の発光波長などに応じて適宜選択される。プリズム14は、その上面に前記金属膜13が形成される透明な誘電体であり、光入射面13bに向けて、全反射条件を満たすように照射された光を集光する。流路16は、略U字形に屈曲された送液管であり、液体を注入する注入口16aと、それを排出する排出口16bとを持っている。流路16の管径は、例えば、約1mm程度であり、注入口16aと排出口16bの間隔は、例えば、約10mm程度である。
【0024】
また、流路16の底部は、開放されており、この開放部位はセンサ面13aによって覆われて密閉される。これら流路16とセンサ面13aによってセンサセル17が構成される。後述するように、センサユニット12は、こうしたセンサセル17を複数個備えている(図3参照)。
【0025】
固定工程は、センサ面13aにリガンドを固定する工程である。固定工程は、センサユニット12を固定機10にセットして行われる。固定機10には、1対のピペット19a、19bからなるピペット対19が設けられている。ピペット対19は、各ピペット19a、19bが、注入口16aと排出口16bのそれぞれに挿入される。各ピペット19a、19bは、それぞれが流路16への液体の注入と、流路16からの吸い出しを行う機能を備えており、一方が注入動作を行っているときには、他方が吸い出し動作を行うというように、互いに連動する。このピペット対19を用いて、注入口16aから、リガンドを溶媒に溶かしたリガンド溶液21が注入される。
【0026】
センサ面13aのほぼ中央部には、リガンドと結合するリンカー膜22が形成されている。このリンカー膜22は、センサユニット12の製造段階において予め形成される。リンカー膜22は、リガンドを固定するための固定基となるので、固定するリガンドの種類に応じて適宜選択される。
【0027】
リガンド溶液21を注入するリガンド固定化処理を行う前には、まず、リンカー膜22に固定用バッファ液が送液され、リンカー膜22を湿らせてリガンドを結合しやすくするリンカー膜22の活性化処理が施される。例えば、アミンカップリング法では、リンカー膜22としてカルボキシメチルデキストランが使用され、リガンド内のアミノ基をこのデキストランに直接共有結合させる。この場合の活性化液としては、N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)との混合液が使用される。この活性化処理の後、固定用バッファ液によって流路16が洗浄される。
【0028】
固定用バッファ液や、リガンド溶液21の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、リガンドとして生体物質を使用する場合には、pHを中性付近に調整した生理的食塩水が使用される場合が多い。しかし、上記アミンカップリング法では、リンカー膜22は、カルボキシメチルデキストランにより負(マイナス)に帯電するので、このリンカー膜22と結合しやすいようにタンパク質を陽(プラス)に帯電させるため、生理的とはいえない高濃度のリン酸塩を含む緩衝作用の強いリン酸緩衝溶液(PBS:phosphatic−buffered,saline)などが使用される場合もある。
【0029】
こうした活性化処理及び洗浄が行われた後、センサセル17へリガンド溶液21が注入されてリガンド固定化処理が行われる。リガンド溶液21が流路16へ注入されると、溶液中で拡散しているリガンド21aが徐々にリンカー膜22へ近づいて、結合する。こうしてセンサ面13aにリガンド21aが固定される。固定化には、通常、約1時間程度かかり、この間、センサユニット12は、温度を含む環境条件が所定の条件に設定された状態で保管される。なお、固定化が進行している間、流路16内のリガンド溶液21を静置しておいてもよいが、流路16内のリガンド溶液21を攪拌して流動させることが好ましい。こうすることで、リガンドとリンカー膜22との結合が促進され、リガンドの固定量を増加させることができる。
【0030】
センサ面13aへのリガンド21aの固定化が完了すると、前記流路16からリガンド溶液21が排出される。リガンド溶液21は、ピペット19bによって吸い出されて排出される。固定化が完了したセンサ面13aは、流路16へ洗浄液が注入されて洗浄処理が行われる。この洗浄後、必要に応じて、ブロッキング液を流路16へ注入して、リンカー膜22のうち、リガンドが結合しなかった反応基を失活させるブロッキング処理が行われる。ブロッキング液としては、例えば、エタノールアミン−ヒドロクロライドが使用される。このブロッキング処理の後、再び流路16が洗浄される。この後、流路16には、乾燥防止液が注入される。こうして、センサユニット12は、センサ面13aが乾燥防止液に浸された状態で、測定までの間保管される。
【0031】
測定工程は、センサユニット12を測定機11にセットして行われる。測定機11にも、固定機10のピペット対19と同様のピペット対26が設けられている。このピペット対26によって、注入口16aから、流路16へ各種の液が注入される。測定工程では、まず、流路16へ測定用バッファ液が注入される。この後、アナライトを溶媒に溶かしたアナライト溶液27を注入し、その後、再び測定用バッファ液が注入される。なお、最初に測定用バッファ液を注入する前に、いったん流路16の洗浄を行ってもよい。データの読み取りは、基準となる信号レベルを検出するために、最初に測定用バッファを注入した直後から開始され、アナライト溶液27の注入後、再び測定用バッファが注入されるまでの間行われる。これにより、基準レベル(ベースライン)の検出、アナライトとリガンドの反応状況(結合状況)、測定用バッファ液の注入による結合したアナライトとリガンドとの脱離までのSPR信号を測定することができる。
【0032】
測定用バッファ液や、アナライト溶液27の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度等は、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、アナライトを溶けやすくするために、生理的食塩水にDMSO(ジメチル−スルホ−オキシド)を含ませてもよい。このDMSOは、信号レベルに大きく影響する。上述したとおり測定用バッファ液は基準レベルの検出に用いられるので、アナライトの溶媒中にDMSOが含まれる場合には、そのDMSO濃度と同程度のDMSO濃度を持つ測定用バッファ液を使用することが好ましい。
【0033】
なお、アナライト溶液27は、長期間(例えば、1年)保管されることも多く、そうした場合には、経時変化によって、初期のDMSO濃度と測定時のDMSO濃度との間に濃度差が生じてしまう場合がある。厳密な測定を行う必要がある場合には、こうした濃度差をアナライト溶液27を注入したときの参照信号(ref信号)のレベルから推定し、測定データに対して補正(DMSO濃度補正)が行われる。
【0034】
ここで、参照信号(ref信号)とは、後述するように、センサ面上に設けられリガンドが固定されない参照領域に対応するSPR信号であり、リガンドが固定されアナライトとの反応を生じる測定領域の測定信号(act信号)と比較参照される信号である。測定に際しては、前記測定信号と参照信号の2つの信号が検出され、データ解析に際しては、例えば、それら2つのSPR信号の差分を取り、これを測定データとして解析がなされる。こうすることで、例えば、複数のセンサセル間の個体差や、液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルすることが可能となり、S/N比の良好な信号が得られるようにしている。
【0035】
DMSO濃度補正のための補正データは、アナライト溶液27を注入する前に、DMSO濃度が異なる複数種類の測定用バッファ液をセンサセル17に注入して、このときのDMSO濃度変化に応じた、ref信号のレベルとact信号のレベルのそれぞれの変化量を調べることにより求められる。
【0036】
測定部31は、照明部32と検出器(検出手段)33からなる。上述したとおり、リガンドとアナライトの反応状況は、共鳴角(光入射面に対して照射された光の入射角)の変化として表れるので、照明部32は、全反射条件を満足する様々な入射角の光を光入射面13bに対して照射する。照明部32は、例えば、光源34と、集光レンズ、拡散板、偏光板を含む光学系36とからなり、配置位置および設置角度は、照明光の入射角が、上記全反射条件を満足するように調整される。
【0037】
光源34としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が使用される。こうした発光素子を1個使用し、この単一光源から1つのセンサセル17に向けて光が照射される。なお、複数のセンサセル17を同時に測定するような場合には、単一光源からの光を分光して複数のセンサセル17に照射してもよいし、各センサセル17に対して発光素子が1つずつ割り当てられるように複数の発光素子を並べて使用してもよい。拡散板は、光源34からの光を拡散して、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうち、SPRを生じさせるp偏光のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源が発する光線自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過することにより、偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きが揃えられる。こうして拡散および偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム14に照射される。これにより、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光線を光入射面13bに入射させることができる。
【0038】
検出器33は、光入射面13bで反射する光を受光して、その光強度に応じたレベルの電気信号を出力する。光入射面13bには、様々な角度で光線が入射するので、光入射面13bでは、それらの光線が、それぞれの入射角に応じて様々な反射角で反射する。検出器33は、これらの様々な反射角の光線を受光する。センサ面13a上の媒質に変化が生じると屈折率が変化して、反射光の光強度が減衰する光の入射角(SPRが発生する共鳴角)も変化する。センサ面13a上にアナライトを送液すると、アナライトとリガンドの反応状況に応じてセンサ面13a上の屈折率が変化するため、それに応じて共鳴角も変化する。
【0039】
検出器33は、例えば、CCDエリアセンサやフォトダイオードアレイが使用され、光入射面13bにおいて様々な反射角で反射する反射光を受光し、それらを光電変換してSPR信号として出力する。リガンドとアナライトの反応状況は、この受光面内における反射光の減衰位置の推移として表れる。例えば、アナライトがリガンドと接触する前後では、センサ面13a上の屈折率が異なり、SPRが発生する共鳴角が異なる。そして、アナライトがリガンドと接触して反応を開始すると、それに応じて共鳴角が変化を開始し、前記受光面内における反射光の減衰位置が移動し始める。こうして得た反応状況を表すSPR信号が、データ解析機に出力される。データ解析工程では、測定機11で得たSPR信号を解析して、アナライトの特性を分析する。
【0040】
なお、測定部31の構成が明確になるように、便宜的に、図1では、光入射面13bへの入射光線およびそこで反射する反射光線の向きが、流路16内の液体の流れ方向と平行になるように、照明部32および検出器33を配置した形態で示しているが、図2に示すように、実際には、入射光線および反射光線の向きが、前記流れ方向と直交する方向に照射されるように、照明部32および検出器33が配置される。もちろん、測定部31をこの図1に示しているように配置して測定してもよい。
【0041】
図2に示すように、リンカー膜22上には、リガンドが固定されアナライトとリガンドとの反応が生じる測定領域(act領域)22aと、リガンドが固定されず、前記測定領域の信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域(ref領域)22bとが形成される。このref領域22bは、上述したリンカー膜22を製膜する際に形成される。形成方法としては、例えば、リンカー膜22に対して表面処理を施して、リンカー膜22の半分程度の領域について、リガンドと結合する結合基を失活させる。これにより、リンカー膜22の半分がact領域22aとなり、残りの半分がref領域22bとなる。
【0042】
検出器33は、act領域22aに対応するSPR信号をact信号として出力し、ref領域22bに対応するSPR信号をref信号として出力する。これらact信号とref信号は、基準レベルの検出から結合反応を経て脱離に至るまで、ほぼ同時に計測される。データ解析は、こうして得られたact信号とref信号の差や比を求めて行われる。データ解析機は、例えば、act信号とref信号との差分データを求め、この差分データを測定データとし、これに基づいて解析を行う。こうすることで、上述したとおり、センサユニットや各センサセルの個体差や、装置の機械的な変動や、液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルすることができるので、精度の高い測定が可能になる。
【0043】
照明部32及び検出器33は、これら各act信号及びref信号の2チャンネルの計測を行うことができるように構成されている。例えば、照明部32を、1個の発光素子を反射ミラーなどを用いて、act領域22aとref領域22bのそれぞれに向けて入射する複数の光線に分光する。そして、各チャンネル用の複数のフォトダイオードアレイで構成した検出器33により、各光線をそれぞれ受光する。
【0044】
また、検出器33として、CCDエリアセンサを用いた場合には、同時に受光した各チャンネルの反射光を画像処理によってact信号とref信号として認識することもできる。しかし、こうした画像処理による方法が難しい場合には、act領域22aとref領域22bに対して入射させるタイミングを微小時間ずらして、各チャンネルの信号を受光するようにしてもよい。入射タイミングをずらす方法としては、例えば、光路上に、配置角度が180度ずれた位置に2つの孔が形成された円板を配置し、この円板を回転させることにより、各チャンネルの入射タイミングがずらされる。各孔は、中心からの距離が各領域22a、22bの間隔だけ異なる位置に配置されており、これにより、一方の孔が光路内に進入したときには、act領域22aに光線が入射し、他方の孔が光路内に進入したときには、ref領域22bに光線が入射する。
【0045】
図3は、センサユニット12の分解斜視図である。センサユニット12は、流路16が形成される流路部材41と、上面に金属膜13が形成されたプリズム14と、流路部材41の底面とプリズム14の上面とを接合させた状態で保持する保持部材42と、保持部材42の上方に配置される蓋部材43とからなる。
【0046】
流路部材41には、例えば、3つの流路16が形成されている。流路部材41は、長尺状に形成されており、3つの流路16は、その長手方向に沿って配列されている。この流路16は、その底面に接合される金属膜13とともにセンサセル17(図1参照)を構成する。そのため、流路部材41は、金属膜13との密着性を高めるために、例えば、ゴムやPDMS(ポリジメチルシロキサン)などといった弾性材料で成形されている。これにより、流路部材41の底面をプリズム14の上面に圧接すると、流路部材41が弾性変形して金属膜13との接合面の隙間を埋め、各流路16の開放された底部がプリズム14の上面によって水密に覆われる。なお、本例では、流路16の数が3つの例で説明したが、もちろん、流路16の数は、3つに限らず、1つまたは2つであってもよいし、4つ以上でもよい。
【0047】
プリズム14には、その上面に、蒸着によって金属膜13が形成されている。この金属膜13は、流路部材41に形成された複数の流路16と対向するように短冊状に形成される。さらに、この金属膜13の上面(センサ面13a)には、各流路16に対応する部位に、リンカー膜22が形成される。また、プリズム14の長手方向の両側面には、保持部材42の係合部42aと係合する係合爪14aが設けられている。これらの係合により、流路部材41が保持部材42とプリズム14とによって挟み込まれ、その底面とプリズム14の上面とが圧接した状態で保持される。こうして、流路部材41、金属膜13およびプリズム14が一体化される。
【0048】
また、プリズム14の短辺方向の両端部には、突部14bが設けられている。後述するように、センサユニット12は、ホルダ52(図4参照)に収納された状態で、固定が行われる。突部14bは、ホルダ52のスリットと嵌合することにより、センサユニット12をホルダ内の所定の収納位置に位置決めするためのものである。
【0049】
なお、プリズム14には、例えば、ホウケイクラウン(BK7)やバリウムクラウン(Bak4)などに代表される光学ガラスや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、非晶性ポリオレフィン(APO)などに代表される光学プラスチックなどを用いることができる。
【0050】
保持部材42の上面には、各流路16の注入口16aおよび排出口16bに対応する位置に、ピペット(19a、19b、26a、26b)の先端が進入する受け入れ口42bが形成されている。受け入れ口42bは、ピペットから吐出される液体が各注入口16aへ導かれるように、漏斗形状をしている。保持部材42が流路部材41を挟み込んでプリズム14と係合すると、受け入れ口42bの下面は、注入口16aおよび排出口16bと接合して、受け入れ口42bと流路16とが連結される。
【0051】
また、これら各受け入れ口42bの両脇には、円筒形のボス42cが設けられている。これらのボス42cは、蓋部材43に形成された穴43aと嵌合して、蓋部材43を位置決めするためのものである。蓋部材43は、受け入れ口42bおよびボス42cに対応する位置に穴が空けられた両面テープ44によって、保持部材42の上面に貼り付けられる。
【0052】
蓋部材43は、流路16に通じる受け入れ口42bを覆うことで、流路16内の液体の蒸発を防止する。蓋部材43は、例えば、ゴムやプラスチックなどの弾性材料で成形されており、各受け入れ口42bに対応する位置に、十字形のスリット43bが形成されている。蓋部材43は、流路16内の液体の蒸発を防止するためのものであるから、受け入れ口42bを覆う必要があるが、完全に覆ってしまっては、ピペットを受け入れ口42bに挿入することができない。そこで、スリット43bを形成することで、ピペットの挿入を可能とするとともに、ピペットを挿入していない状態では、受け入れ口42bが塞がれるようにしている。スリット43bは、ピペットが押し込まれると、スリット43bの周辺が弾性変形(図1参照)して、スリット43bの口が大きく開いて、ピペットを受け入れる。そして、ピペットを抜くと、弾性力によってスリット43bが初期状態に復帰して、受け入れ口42bを塞ぐ。
【0053】
なお、センサユニット12のプリズム14や保持部材42などに、例えば、非接触式のICメモリであるRFID(Radio Frequency IDentification)タグなどを取り付けるようにしてもよい。例えば、読み込み専用のRFIDタグにセンサユニット12毎の固有のID番号を書き込んでおき、各工程を行う前にこのID番号を読み込むことで、センサユニット12の識別を行うことができる。これにより、複数のセンサユニット12に対して同時に固定や測定を行う場合にも、間違ったアナライトの注入や、測定結果の取り違えなどといった問題の発生を防止することができる。さらには、読み書き可能なRFIDタグを用いて、例えば、固定したリガンドの種類やリガンドを固定させた日時、及び反応させたアナライトの種類などを、各工程毎に書き込んでいくようにしてもよい。
【0054】
図4に示すように、固定機10は、筐体のベースとなる筐体ベース50上に、複数のセンサユニット12を載置する載置スペース51が確保されている。センサユニット12は、この載置スペース51に載置された状態で固定工程のすべての処理が施される。したがって、この載置スペース51は、センサユニット12に対して固定工程を実行する固定ステージとなる。
【0055】
センサユニット12は、ホルダ52に収納された状態で固定機10にセットされる。ホルダ52は、センサユニット12を複数個(例えば、8個)収納できるようになっている。ホルダ52には、センサユニット12の突部14bと嵌合して、センサユニット12を位置決めするスリットが設けられている。また、ホルダ52の底部は、センサユニット12の両端部を支持する支持部を除いて、開口になっている。測定工程において、センサユニット12をホルダ52から取り出す場合には、この開口から押し上げ部材を挿入してセンサユニット12を下方から押し上げる。
【0056】
載置スペース51には、ホルダ52を、例えば、10個並べて配置することができるようになっており、その数に応じた台座53が設けられている。各台座53上には、ホルダ52を位置決めする位置決め用のボスが設けられている。
【0057】
固定機10には、ピペット対19を3組連装したピペットヘッド(分注ヘッド)54が設けられている。ピペットヘッド54は、載置スペース51に配列された各センサユニット12にアクセスして、液体の注入や排出を行う。ピペットヘッド54には、ピペット対19が3組設けられているので、1つのセンサユニット12に含まれる3つのセンサセル17に対して同時に液体を注入(および排出)することができる。固定機10には、固定機10の各部を統括的に制御するコントローラ60が設けられており、このコントローラ60によって、各ピペット対19の吸い込みや吐き出しのタイミング、及び吸い込み量や吐き出し量などが制御される。
【0058】
筐体ベース50には、このピペットヘッド54をX、Y、Zの3方向に移動させるヘッド移動機構56が設けられている。ヘッド移動機構56は、例えば、搬送ベルト、プーリ、キャリッジ、モータなどから構成される周知の移動機構であり、ピペットヘッド54を上下させる昇降機構と、この昇降機構ごとピペットヘッド54をY方向へ移動自在に保持するガイドレール58を含むY方向移動機構と、前記ガイドレール58を両端で保持し、ガイドレール58ごとピペットヘッド54をX方向へ移動させるX方向移動機構とからなる。ヘッド移動機構56は、コントローラ60によって制御されており、コントローラ60は、このヘッド移動機構56を駆動して、ピペットヘッド54の上下左右前後の位置を制御する。
【0059】
筐体ベース50の上には、流路16へ注入する種々の液体(リガンド溶液、洗浄液、固定用バッファ液、乾燥防止液、活性化液、ブロッキング液など)を保管する複数の液保管部61が設けられている。液保管部61の数は、使用する液体の種類に応じて決定される。各液保管部61には、挿入口が6個並べて設けられている。この挿入口の数および配列ピッチは、ピペットヘッド54のピペットの数と配列ピッチに応じて決められる。ピペットヘッド54は、センサセル17へ液体を注入する場合には、各液保管部61へアクセスして、所望の液体を吸い込み、その後、載置スペース51へ移動して、センサユニット12へ注入する。
【0060】
また、筐体ベース50の上には、複数ののピペットチップ62を保管するピペットチップ保管部63と、複数のウエル状の升がマトリックス配列されたウエルプレート64とが設けられている。略円錐筒状に成形されたピペットチップ62は、ピペットヘッド54に着脱自在に取り付けられる。すなわち、各ピペット19a、19bは、ピペットヘッド54にピペットチップ62を取り付けることで構成される。ピペットチップ62は、液体と直接接触するので、このピペットチップ62を介して異種の液体の混液が生じないように、使用する液体毎に交換される。ウエルプレート65は、各ピペット19a、19bで吸い上げた液体を一時的に保管したり、複数種類の液体を混合して混合液を調整する際に用いられる。
【0061】
固定を開始する際には、固定機10の筐体がカバー(図示は省略)によって覆われ、載置スペース51を含む固定機10の内部が、外部から遮蔽される。固定機10内の温度は、温度調節器(図示は省略)によって調節が可能になっている。センサセル17にリガンド21aを注入後、センサ面13aへのリガンド21aの固定化が完了するまでの間、センサユニット12は、載置スペース51上で所定時間保管される。この保管中に、必要に応じて流路16内のリガンド溶液21が攪拌される。この間の固定化の進行度合いは、センサユニット12の環境条件(温度など)によって左右される。そのため、温度調節器によって固定機10の内部温度が所定の温度に保たれる。設定される温度や静置時間などは、リガンド21aの種類などに応じて適宜決められる。
【0062】
固定が完了すると、センサセル17に対して、バッファ(洗浄液)が注入される。バッファは、センサセル17をリガンド溶液21で満たしたままの状態で、バッファを吸い込んだピペット19aをスリット43bへ挿入して、センサセル17へ注入される。バッファが注入口16aから流路へ吐き出されると、流路16に注入済みのリガンド溶液21が排出口16bに向けて押し出されて、排出される。そして、ピペット19aの注入動作に連動して吸い込み動作を行うピペット19bによって、排出されるバッファが吸い込まれる。これにより、センサセル17内の液の置換(入れ替え)が行われる。
【0063】
洗浄が終了した後には、上記と同様の手順によって、センサセル17に対して、リガンド21aの乾燥を防止する乾燥防止液を注入してもよい。こうしておくことで、測定が開始されるまでの間、リガンドの乾燥が防止される。
【0064】
図5は、ピペットヘッド54の構成を示す外観斜視図である。ピペットヘッド54は、液体の吸引と吐出とを行うノズル71が設けられたヘッド本体70と、ノズル71に挿し込まれるピペットチップ62を挟持固定する2枚の固定板72と、ピペットチップ62を固定する固定位置と固定を解除してピペットチップ62の抜き挿しを可能にする解除位置との間で各固定板72を移動させる移動機構73とからなる。
【0065】
ノズル71は、ヘッド本体70の底面から略円筒状に突出するように形成されており、その外径とピペットチップ62の内径とがほぼ一致するようにされている。ピペットチップ62は、このノズル71に挿し込まれた際に、ノズル71との機械的な嵌め合いによってヘッド本体70に取り付けられる。ノズル71は、X方向に6つ形成されており、それぞれにピペットチップ62が挿し込まれることによって、3組のピペット対19が構成される。また、ノズル71は、ヘッド本体70を介して図示を省略したポンプに接続されている。ノズル71は、ポンプからの圧力変動をピペットチップ62に伝え、ピペットチップ62に液体の吸引と吐出とを行わせる。
【0066】
略L字状に屈曲した各固定板72は、固定位置(図5に示す位置)にある際に、ヘッド本体70の側面と平行になる第1板部75と、この第1板部75の一端から垂直に形成され、ピペットチップ62のノズル71への挿し込み方向と略直交するようにヘッド本体70の底面側に入り込む第2板部76と、第1板部75の他端に所定の角度傾けて形成される第3板部77とから構成される。第1板部75には、貫通孔が形成されたヒンジ部80が設けられている。また、第3板部77には、長穴81aが形成された板状のリンク部81が垂直に突出するように設けられている。
【0067】
ヘッド本体70の四隅には、Y方向に突出した略長板状の保持部82が形成されている。各保持部82の端部には、丸棒状の軸83が突設されている。各軸83は、各ヒンジ部80の貫通孔に入り込んでいる。これにより、ヘッド本体70は、各保持部82、各軸83、及び各固定板72の各ヒンジ部80を介して各固定板72を回動自在に保持する。
【0068】
ヘッド本体70のX方向の両側面に設けられた移動機構73は、ヘッド本体70に取り付けられるソレノイド90と、ソレノイド90の可動鉄心91に取り付けられる長板状の連結部材92とから構成されている。ソレノイド90は、例えば、固定機10のコントローラ60に電気的に接続され、コントローラ60からの駆動信号に基づいて、可動鉄心91を本体内に収納した収納位置と本体から突出させた突出位置との間で移動させる。なお、本例では、駆動信号が印加されている間、可動鉄心91を突出させる、いわゆるプッシュ型のソレノイド90を用いることとする。また、可動鉄心91の各位置の制御(駆動信号のON/OFF)は、両側面に設けられた2つのソレノイド90が連動するように行われる。
【0069】
連結部材92の両端には、丸棒状の軸93が突設されている。各軸93は、リンク部81の長穴81aに入り込んでいる。連結部材92は、可動鉄心91の伸縮に応じてZ方向に移動し、各軸93を各長穴81a内で摺動させながら、各ヒンジ部80を介してヘッド本体70に軸着された各固定板72を回転させる。これにより、可動鉄心91が収納位置にある際に、図6(a)に示すように各固定板72が固定位置になり、可動鉄心91が突出位置にある際に、図6(b)に示すように各固定板72が解除位置になる。
【0070】
各固定板72は、固定位置にある際に、ノズル71に挿し込まれたピペットチップ62を挟み込む。図5に示すように、各固定板72の各ピペットチップ62を挟み込む部位には、半円形の切り欠き84が形成されている。各切り欠き84は、各固定板72が固定位置にあって互いに対面した際に、ピペットチップ62の胴部62aの外径とほぼ一致するようにされている。ピペットチップ62には、胴部62aよりも一回り径が大きくされた段差部62bが形成されている。図6(a)に示すように、固定位置にある各固定板72は、切り欠き84でピペットチップ62の胴部62aを挟持固定するとともに、切り欠き84で形成される円形の開口よりも大きい径を有する段差部62bを第2板部76で係止する。これにより、各固定板72が固定位置にある際には、ノズル71に挿し込まれたピペットチップ62の抜けが確実に防止される。
【0071】
一方、図6(b)に示すように、解除位置にある各固定板72は、連結部材92の移動に応じて回転し、切り欠き84による挟持固定と第2板部76による係止とを解除してピペットチップ62の着脱を可能にする。なお、ヘッド本体70には、図示せぬリリース機構が設けられている。リリース機構は、各ノズル71に挿し込まれた各ピペットチップ62を押し下げて、各ピペットチップ62をヘッド本体70から取り外す。
【0072】
次に、図7に示すフローチャートを参照しながら、上記構成による固定機10の作用について説明する。センサユニット12に固定工程を施す際には、まず、センサユニット12をホルダ52に収納し、そのホルダ52を載置スペース51にセットする。センサユニット12がセットされた後、オペレータからの固定開始指示が入力されると、固定機10が固定工程を開始する。
【0073】
コントローラ60は、固定開始指示に応答して各ソレノイド90に駆動信号を印加し、可動鉄心91を突出位置にして各固定板72を解除位置(図6(b)参照)に移動させる。各固定板72が解除位置にされたピペットヘッド54は、ピペットチップ保管部63に向けて移動を開始する。ピペットチップ保管部63に移動したピペットヘッド54は、各ノズル71を保管されたピペットチップ62に挿し込み、ピペットチップ62の取り付けを行う。ピペットヘッド54にピペットチップ62を取り付けさせたコントローラ60は、各ソレノイド90への駆動信号の印加を停止し、可動鉄心91を収納位置に移動させる。可動鉄心91が収納位置に移動すると、連結部材92とリンク部83とを介して各固定板72が固定位置(図5、及び図6(a)参照)に移動する。固定位置に移動した各固定板72は、各ノズル71に挿し込まれた各ピペットチップ62を固定する。
【0074】
各ピペットチップ62を固定したピペットヘッド54は、リンカー膜22の活性化液を保管する液保管部61に移動し、各ピペット19aに活性化液を吸引させる。活性化液を吸引したピペットヘッド54は、載置スペース51にセットされたセンサユニット12に向けて移動する。センサユニット12に移動したピペットヘッド54は、各流路16の注入口16a、及び排出口16bに各ピペットチップ62の先端を嵌入させ、各流路16内に活性化液を注入して、各リンカー膜22に活性化処理を施す。この際、各ピペットチップ62を各固定板72で固定したので、ピペットチップ62を流路16から引き抜く際に、ピペットチップ62が各切り欠き84で抑えられるとともに、各第2板部76で係止され、ノズル71からピペットチップ62が抜けて流路16に刺さったままになってしまうことが防止される。
【0075】
活性化液を注入したピペットヘッド54は、図示を省略した廃却部に移動する。ピペットヘッド54を廃却部に移動させたコントローラ60は、前述と同様の手順で各固定板72を解除位置にし、各ピペットチップ62の固定を解除させて活性化液に浸された各ピペットチップ62を廃却部にリリースさせる。各ピペットチップ62をリリースしたピペットヘッド54は、再びピペットチップ保管部63に移動してノズル71にピペットチップ62を挿し込み、次に注入するリガンド溶液21のためにピペットチップ62を交換する。この後、前述と同様の手順で再び各固定板72を固定位置にし、各ピペットチップ62を固定する。なお、各ピペットチップ62をリリースする際に、各ピペットチップ62をピペットチップ保管部63に戻し、注入する液体毎に専用のピペットチップ62を設けるようにしてもよい。
【0076】
ピペットチップ62の交換を行ったピペットヘッド54は、リガンド溶液21を保管する液保管部61に移動して、各ピペット19aにリガンド溶液21を吸引させる。リガンド溶液21を吸引したピペットヘッド54は、載置スペース51にセットされたセンサユニット12に向けて移動する。センサユニット12に移動したピペットヘッド54は、各流路16の注入口16a、及び排出口16bに各ピペットチップ62の先端を嵌入させ、各流路16内にリガンド溶液21を注入して、各リンカー膜22にリガンド21aを固定させる固定化処理を施す。
【0077】
なお、上記実施形態では、ソレノイド90と連結部材92とによって移動機構73を構成しているが、これに限らず、例えば、モータなどを用いて各固定板72を直接回転させるようにしてもよいし、各固定板72をY方向にスライド移動させて固定位置と解除位置とを切り替えるようにしてもよい。また、各固定板72の形状も、L字状に限ることなく、例えば、スライド移動で各位置を切り替える際には、第2板部76の部分のみでよい。
【0078】
また、上記実施形態では、ピペットチップ62に段差部62bを形成し、胴部62aとの径の違いを利用して第2板部76に係止させるようにしているが、これに限ることなく、例えば、ピペットチップのテーパ状の部分を切り欠き84で挟み込むことにより、第2板部76に係止させるようにしてもよい。また、切り欠き84で胴部62aを挟持固定した際に生じる摩擦力が、流路16からピペットチップ62を引き抜く際に、流路16とピペットチップ62の先端部との間に生じる摩擦力に十分対抗し得るものであれば、ピペットチップ62に段差部62bなどを形成しなくてもよい。
【0079】
なお、上記実施形態では、各固定板72でピペットチップ62を挟み込んで抜けを防止する例を示したが、図8に示すように、ピペットチップ62を内側から押さえつけて抜けを防止するようにしてもよい。図8(a)、(b)に示すように、ノズル71の先端には、接続部材101を介してリング部材100が取り付けられている。このリング部材100の外径、及び肉厚は、ノズル71に合わせられている。接続部材101によって形成されるノズル71とリング部材100との間の隙間には、ゴムリング(弾性部材)102が嵌め込まれる。このゴムリング102の内径は、ノズル71やリング部材100よりもわずかに小さくされている。また、接続部材101には、隙間に合わせた切り欠きが形成されている。これにより、隙間に嵌め込まれたゴムリング102は、ノズル71やリング部材100の内面よりも内側に入り込むとともに、内側に収縮して接続部材101に圧接した位置(請求項記載の退避位置に相当)で保持される。
【0080】
ノズル71の内部には、移動機構103によって上下動する略筒状の可動部材104が納められる。可動部材104の外径は、ノズル71の内径に合わせられている。また、可動部材104の側面には、接続部材101を入れ込むためのスリット104aが形成されている。すなわち、接続部材101は、ノズル71とリング部材100とをつなぐとともに、可動部材104のガイドとしても機能する。移動機構103は、ノズル71内にある可動部材104を接続部材101にガイドさせながら所定の距離上下動させる。この移動機構103には、例えば、ソレノイドやラックアンドピニオンなどといった公知の機構を用いればよい。
【0081】
図8(c)に示すように、移動機構103によってノズル71の先端に移動した可動部材104は、ノズル71の内面よりも内側に入り込んだゴムリング102を押し広げる。このため、可動部材104には、ゴムリング102を広げやすいように、底面に向かって径が小さくなるテーパが形成されている。可動部材104によって押し広げられたゴムリング102は、その側面がノズル71やリング部材100の側面よりも外側に突出した位置(請求項記載の突出位置に相当)まで伸びる。突出したゴムリング102の側面は、ノズル71に挿し込まれるピペットチップ105の内面を圧接する。これにより、ピペットチップ105は、内側から押さえつけられ、ノズル71からの抜けが防止される。
【0082】
この際、ピペットチップ105の挿し込み口付近には、押し広げられたゴムリング102の上面に係止されるように、内側に向けて突出した張出部105aが形成されていることが好ましい。また、本例では、弾性部材に断面が矩形状のゴムリング102を用いているが、これに限ることなく、例えば、断面が円形や楕円形状のゴムリングなどを用いてもよい。さらには、可撓性のある金属や樹脂材料などによって形成される板状の部材を用いてもよい。
【0083】
さらには、上記2つの例の他に、図9に示すように、雄ネジ120aが形成されたノズル120と、雄ネジ120aに嵌合する雌ネジ122aが形成されたピペットチップ122とを用い、ネジ込みによってピペットチップ122をノズル120に固定して、ノズル120からの抜けを防止するようにしてもよい。
【0084】
なお、上記実施形態では、誘電体ブロックとしてプリズム14を示しているが、誘電体ブロックには、この他に、光学ガラスや光学プラスチックなどを板状にしたものや、これらの板状のものとプリズムとを光学面平滑剤(例えば、光学マッチングオイル)で一体化させたものなどを含めるものとする。
【0085】
また、上記実施形態では、固定機10の各ピペット対19を構成するピペットチップ62、105、122の抜けを防止する例を示したが、もちろん測定機11のピペット対26を構成するピペットチップの抜けを防止するようにしてもよい。さらには、ピペットチップを用いる他の分注装置に本発明を適用してもよい。
【0086】
さらに、上記実施形態では、全反射減衰を利用した測定装置の一例として、SPR測定装置を示したが、全反射減衰を利用した測定装置としては、この他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】SPR測定方法の説明図である。
【図2】1つのセンサセルを抜き出して説明する説明図である。
【図3】センサユニットの概略構成を示す分解斜視図である。
【図4】固定機の構成を概略的に示す斜視図である。
【図5】ピペットヘッドの構成を示す外観斜視図である。
【図6】固定板の固定位置と解除位置とを示す説明図である。
【図7】固定工程の手順を示すフローチャートである。
【図8】ピペットチップを内側から押さえる例を示す説明図である。
【図9】ピペットチップをねじ込み式で固定する例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
10 固定機
11 測定機
12 センサユニット
13 金属膜(薄膜層)
14 プリズム(誘電体ブロック)
32 照明部
33 検出器(検出手段)
34 光源
54 ピペットヘッド(分注ヘッド)
62、105、122 ピペットチップ
62b 段差部
71、120 ノズル
72 固定板
73 移動機構
84 切り欠き
102 ゴムリング(弾性部材)
103 移動機構
104 可動部材
105a 張出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の吸引と吐出とを行うノズルが設けられた分注ヘッドを備えた分注装置において、
前記分注ヘッドは、前記ノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップの抜けを防止する抜け止め手段を有することを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記抜け止め手段は、前記ピペットチップの前記ノズルへの挿し込み方向に略直交して配置される複数の固定板と、前記ノズルに挿し込まれた前記ピペットチップを挟持固定する固定位置と前記挟持固定を解除する解除位置との間で前記各固定板を移動させる移動機構とからなることを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項3】
前記各固定板は、前記固定位置にある際に、前記ピペットチップを挟持固定するとともに、前記ピペットチップが抜ける方向に対して前記ピペットチップの一部を係止することを特徴とする請求項2記載の分注装置。
【請求項4】
前記各固定板の前記ピペットチップを挟持固定する部位には、前記各固定板が前記固定位置にある際に、前記ピペットチップの外形形状に応じた開口となる切り欠きが形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の分注装置。
【請求項5】
前記抜け止め手段は、前記ノズル内に移動自在に収納される略筒状の可動部材と、この可動部材を移動させる移動機構と、前記ノズルに設けられ、前記ピペットチップの前記ノズルへの挿し込みを可能にする退避位置と、前記ノズルの先端に移動した前記可動部材によって前記ノズルの側面よりも外側に押し広げられた突出位置との間で変位する弾性部材とからなり、前記突出位置にある前記弾性部材で前記ピペットチップの内面を押さえつけて前記ピペットチップの抜けを防止することを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項6】
前記突出位置にある前記弾性部材は、前記ピペットチップの内面を押さえつけるとともに、前記ピペットチップが抜ける方向に対して前記ピペットチップの一部を係止することを特徴とする請求項5記載の分注装置。
【請求項7】
前記分注ヘッドには、複数の前記ノズルが形成されており、
前記抜け止め手段は、複数の前記ノズルのそれぞれに挿し込まれる複数の前記ピペットチップの抜けを防止することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項8】
一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、前記薄膜層に試料溶液を送液する流路が形成された流路部材とからなるセンサユニットに対して、全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記センサユニットからの反射光を受光して電気信号に光電変換する検出手段とを備えた全反射減衰を利用した測定装置において、
前記試料溶液の吸引と吐出とを行うノズルを有し、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップの先端を前記流路の注入口に嵌入させて前記試料溶液を注入する分注ヘッドと、
この分注ヘッドに設けられ、前記ノズルに挿し込まれた前記ピペットチップの抜けを防止する抜け止め手段とを有することを特徴とする全反射減衰を利用した測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−292592(P2006−292592A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114959(P2005−114959)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】