説明

切込プリプレグ基材、複合切込プリプレグ基材、積層基材、繊維強化プラスチック、および切込プリプレグ基材の製造方法

【課題】良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現するプリプレグ基材、ならびに該プリプレグ基材の積層基材を提供する。
【解決手段】プリプレグ基材7は、一方向に引き揃えられた強化繊維3とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ基材であって、その全面に強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内の切り込み4を有し、実質的にすべての強化繊維の前記切り込みにより分断され、その繊維長さLが10〜100mmの範囲内であり、前記プリプレグ基材の厚みHが30〜300μmであり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現するプリプレグ基材、およびその製造方法ならびに該プリプレグ基材の積層基材に関する。に関する。さらに詳しくは、例えば自動車部材、スポーツ用具等に好適に用いられる繊維強化プラスチックの中間基材であるプリプレグ基材、およびその製造方法、ならびに該プリプレグ基材の積層基材に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
高機能特性を有する繊維強化プラスチックの成形方法としては、プリプレグと称される連続した強化繊維にマトリックス樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することによりマトリックス樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。また、近年では生産効率の向上を目的として、あらかじめ部材形状に賦形した連続繊維基材にマトリックス樹脂を含浸および硬化させるRTM(レジントランスファーモールディング)成形等も行われている。これらの成形法により得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維である所以優れた力学物性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のバラツキも小さい。しかしながら、一方で連続繊維である所以3次元形状等の複雑な形状を形成することは難しく、主として平面形状に近い部材に限られる。
【0004】
3次元形状等の複雑な形状に適した成形方法として、SMC(シートモールディングコンパウンド)成形等がある。SMC成形は、通常25mm程度に切断したチョップドストランドに熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を含浸せしめ半硬化状態としたSMCシートを、加熱型プレス機を用いて加熱加圧することにより成形を行う。多くの場合、加圧前にSMCシートを成形体の形状より小さく切断して成形型上に配置し、加圧により成形体の形状に引き伸ばして(流動させて)成形を行う。そのため、その流動により3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。しかしながら、SMCはそのシート化工程において、チョップドストランドの分布ムラ、配向ムラが必然的に生じてしまうため、力学物性が低下し、あるいはその値のバラツキが大きくなってしまう。さらには、そのチョップドストランドの分布ムラ、配向ムラにより、特に薄物の部材ではソリ、ヒケ等が発生しやすくなり、構造材としては不適な場合がある。
【0005】
上述のような材料の欠点を埋めるべく、連続繊維と熱可塑性樹脂からなるプリプレグに切り込みを入れることにより、流動可能で力学物性のバラツキも小さくなるとされる基材が開示されている(例えば、特許文献1,2)。しかしながら、SMCと比較すると力学特性が大きく向上し、バラツキが小さくなるものの、構造材として適用するには十分な強度とは言えない。連続繊維基材と比較すると切り込みという欠陥を内包した構成であるために、応力集中点である切り込みが破壊の起点となり、特に引張強度、引張疲労強度が低下する、という問題があった。
【特許文献1】特開昭63−247012号公報
【特許文献2】特開平9−254227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現するプリプレグ基材、およびその製造方法、ならびに該プリプレグ基材の積層基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ基材であって、該プリプレグ基材の全面に強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内の切り込みを有し、実質的にすべての強化繊維が前記切り込みにより分断され、前記切り込みにより分断された強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内であり、前記プリプレグ基材の厚みHが30〜300μmであり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内である切込プリプレグ基材。
【0008】
(2)前記切り込みが直線状に入っている(1)に記載の切込プリプレグ基材。
【0009】
(3)前記切り込みにより分断された強化繊維のすべてが実質的に一定の繊維長さLである(1)または(2)に記載の切込プリプレグ基材。
【0010】
(4)前記切り込みが連続して入れられている(1)〜(3)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【0011】
(5)前記切り込みが、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切り込みであり、前記切り込みと前記切り込みを繊維長手方向に隣接した切り込みの幾何形状が同一である(1)〜(3)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【0012】
(6)前記投影長さWsが30μm〜1.5mmの範囲内である(5)に記載の切込プリプレグ基材。
【0013】
(7)前記投影長さWsが1〜100mmの範囲内である(5)に記載の切込プリプレグ基材。
【0014】
(8)前記切込プリプレグ基材が炭素繊維と熱硬化性樹脂とから構成される(1)〜(7)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【0015】
(9)前記切り込みが、前記切込プリプレグ基材の厚み方向に斜めに設けられており、任意の切り込みにおいて、前記切込プリプレグ基材の上面における強化繊維の分断線と下面における分断線との繊維方向の距離をSとすると、前記切込プリプレグ基材厚みHとをもちいて、次の(式1)から導かれる角度θが1〜25°の範囲内にある、(1)〜(8)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【0016】
【数1】

【0017】
(10)前記切り込みが、前記切込プリプレグ基材の上面と下面とのそれぞれから層を厚み方向に貫かずに設けられ、切り込みの深さHsが前記切込プリプレグ基材厚みHに対して0.4H〜0.6Hの範囲内であり、上面の切り込みと下面の切り込みとがそれぞれ0.01H〜0.1Hの範囲内で互いに切り込んでおり、上面の任意の切り込みAと繊維方向のなす角度Θaに対して、該切り込みAと交わる下面の切り込みBの繊維方向とのなす角度Θbが−Θa−5°〜−Θa+5°である(1)〜(8)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【0018】
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材の少なくとも一方の表面に層状の追加樹脂層を有し、該追加樹脂層の厚みが強化繊維の短繊維直径以上であり、かつ、切込プリプレグ基材の厚みの0.5倍以下の範囲内であり、該追加樹脂層が前記マトリックス樹脂より引張伸度が高く、形態がフィルム状または不織布状である、複合切込プリプレグ基材。
【0019】
(12)(1)〜(10)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材の少なくとも一方の表面に、前記マトリックス樹脂より引張伸度が高い追加樹脂が、前記切込プリプレグ基材厚みHに対して前記切り込みから繊維方向の両方向にH〜100Hの範囲内に、強化繊維により形成される層内に入りこまずに前記切込プリプレグ基材表面上に層状に配置されており、前記追加樹脂の形態がフィルム状または不織布状である、複合切込プリプレグ基材。
【0020】
(13)(1)〜(9)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材を2層積層し、該2層基材の上層の任意の切り込みCと交わる下層の切り込みDの交差角度が4〜90°の範囲内である積層基材。
【0021】
(14)(1)〜(12)にいずれか記載の切込プリプレグ基材を少なくとも一部に有してなる積層基材であって含む、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材が複数枚積層され、前記強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材が該プリプレグ基材の繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化されている積層基材。
【0022】
(15)前記積層基材が(1)〜(12)にいずれか記載の切込プリプレグ基材のみからなり、前記切込プリプレグ基材が擬似等方に積層されてなる積層基材。
【0023】
(16)(14)または(15)の積層基材を成形して得られた、繊維強化プラスチック。
(17)強化繊維が実質的に一方向に引き揃えられた層が、強化繊維の配向が異なる方向に少なくとも2層以上積層されてなる繊維強化プラスチックであって、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内であり、前記繊維強化プラスチックを構成する層として、層の全面に複数の、強化繊維が存在せずにマトリックス樹脂または隣接層の強化繊維のみで形成される切り込み開口部を有し、該切り込み開口部によって強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内に分断され、前記切り込み開口部の層表面における表面積が層の表面積の0.1〜10%の範囲内であり、平均厚みHcが15〜300μmの範囲内である短繊維層が少なくとも1層以上積層されている、繊維強化プラスチック。
【0024】
(18)前記繊維強化プラスチックの最外層の面積が実質的に0である、(16)または(17)に記載の繊維強化プラスチック。
【0025】
(19)(1)〜(10)のいずれかに記載の切込プリプレグ基材の製造方法であって、強化繊維を一方向に引き揃えてマトリックス樹脂を含浸して予備プリプレグ基材を準備し、予備プリプレグ基材に、螺旋状に刃をローラー上に配置した回転刃ローラーを押し当てて切り込みを入れる、切込プリプレグ基材の製造方法。
【0026】
(20)(9)に記載の切込プリプレグ基材の製造方法であって、強化繊維を一方向に引き揃えてマトリックス樹脂を含浸して予備プリプレグ基材を準備し、予備プリプレグ基材に、螺旋状に刃をローラー上に配置した回転刃ローラーを上面または下面のいずれか一方から押し当てて切込プリプレグ基材の層の厚み方向に貫かない切り込みを入れ、しかる後に、前記回転刃ローラーを下面または上面のいずれか一方から押し当てて切込プリプレグ基材の厚み方向に層の厚み方向に貫かない切り込みを入れる、切込プリプレグ基材の製造方法。
【0027】
(21)強化繊維とマトリックス樹脂とから構成される複数層の積層構造を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、(14)または(15)の積層基材をチャージ率が50〜95%の範囲内で加圧成形し、最外層において、前記切り込み開口部の面積を実質的に0とする、繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現するプリプレグ基材、およびその製造方法、ならびに該プリプレグ基材の積層基材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明者らは、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現するプリプレグ基材を得るため、鋭意検討し、プリプレグ基材として、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂から構成されるプリプレグ基材という特定の基材に特定な切り込みパターンを挿入し、該プリプレグ基材を積層し、加圧成形することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したのである。なお、本発明で用いられるプリプレグ基材には、一方向に引き揃えられた強化繊維や強化繊維基材に樹脂が完全に含浸した基材に加え、樹脂シートが繊維内に完全に含浸していない状態で一体化した樹脂半含浸基材(セミプレグ:以下、半含浸プリプレグを称することもある。)を含むものとする。
【0030】
本発明に係るプリプレグ基材は、強化繊維が一方向に引き揃えられているので、繊維方向の配向制御により任意の力学物性を有する成形体の設計が可能となる。なお、本明細書では、特に断らない限り、繊維あるいは繊維を含む用語(例えば“繊維方向”等)において、繊維とは強化繊維を表すものとする。
【0031】
さらに、本発明のプリプレグ基材は、全面に強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内の切り込みが設けられており、実質的にすべての強化繊維が切り込みにより分断され、切り込みにより分断された繊維長さLが10〜100mmの範囲内であり、プリプレグ基材の厚みHが30〜300μmであり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内である。なお、本発明において“実質的にすべての強化繊維が切り込みにより分断され”とは、本発明の切り込みにより分断されていない連続繊維が引き揃えられている面積が、プリプレグ基材面積に占める割合の5%より小さいことを示す。
【0032】
本発明において、繊維長さLとは、任意の切り込みと、任意の切り込みと同等の切り込みが、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを有する繊維方向に最近接の切り込み(対になる切り込み)とにより分断される繊維の長さを指している。ここで、“切り込みが、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図2に示すとおり、切り込みを強化繊維の垂直方向(繊維直交方向2)を投影面として、切り込みから該投影面に垂直(繊維長手方向1)に投影した際の長さを指す。プリプレグ基材の全面に切り込みが挿入され、基材中の強化繊維の繊維長さLをすべて100mm以下とすることにより、成形時に繊維は流動可能、特に繊維長手方向にも流動可能となり、複雑な形状の成形追従性にも優れる。該切り込みがない場合、すなわち連続繊維のみの場合、繊維長手方向には流動しないため、複雑形状を形成することは出来ない。繊維長さLを10mm未満にすると、さらに流動性が向上するが、他の用件を満たしても構造材として必要な高力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは20〜60mmの範囲内である。対になる切り込み以外に切り込まれて分断される繊維長さLより短い繊維も存在するが、10mm以下の繊維は少なければ少ないほどよい。さらに好ましくは、10mm以下の繊維が引き揃えられている面積が、プリプレグ基材面積に占める割合の5%より小さいのがよい。
【0033】
プリプレグ基材の厚みHは300μmより大きくても変わらず良い流動性を得ることが出来るが、本発明は切り込みを有するため、分断される層厚みが大きければ大きいほど強度が低下する傾向があり、構造材に適用することを前提とするならば、300μm以下とする必要がある。一方、Hは30μmより小さくても流動性を保ち、高強度を得ることが出来るが、極めて薄いプリプレグ基材を安定的に製造するのは非常に困難であるため、低コストに本発明の効果を得るには30μm以上である必要がある。力学特性とコストとの関係を鑑みると、好ましくは50〜150μmである。
【0034】
繊維体積含有率Vfは65%以下で十分な流動性を得ることができる。Vfが低いほど流動性は向上するが、Vfが45%より小さくなると、構造材に必要な高力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは55〜60%の範囲内である。
【0035】
また、切り込みは強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内であることが本発明の大きな特徴である。Θの絶対値が25°より大きくても流動性は得ることができ、従来のSMC等と比較して高い力学特性は得ることができるが、特にΘの絶対値が25°以下であることで力学特性の向上が著しい。一方、Θの絶対値は2°より小さいと流動性も力学特性も十分得ることが出来るが、切り込みを安定して入れることが難しくなる。すなわち、繊維に対して切り込みが寝てくると、切り込みを入れる際、繊維が刃から逃げやすく、また、繊維長さLを100mm以下とするためには、Θの絶対値が2°より小さいと少なくとも切り込み同士の最短距離が0.9mmより小さくなるなど、生産安定性に欠ける。また、このように切り込み同士の距離が小さいと積層時の取り扱い性が難しくなるという問題がある。切り込みの制御のしやすさと力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは5〜15°の範囲内である。以降、断らない限り、本発明の全面に切り込みを有するプリプレグ基材を切込プリプレグ基材と記す。
【0036】
以下、好ましい切り込みパターンの一例を図1〜4を用いて説明する。
【0037】
強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材上に制御されて整列した切り込み4を複数入れる。繊維長手方向の対になる切り込み4同士で繊維が分断され、その間隔6を10〜100mmとすることで、実質的にプリプレグ基材上の強化繊維すべてを繊維長さLが10〜100mmにすることができる。なお、“実質的に強化繊維のすべてが前記切り込みにより分断され”ているとは、プリプレグ基材に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることを言う。また、図1、2に示すように、切り込みと強化繊維となす角度5をΘとするとΘの絶対値は全面で2〜25°の範囲内である。図3a)ではΘの絶対値が90°、b)では25°より大きい例を示しているが、これらの例では本発明により得られうる高強度を発現することは出来ない。
【0038】
図4には、5つの異なる切り込みパターンを有するプリプレグ基材が示されている。図4a)のプリプレグ基材7は、等間隔をもって配列された斜行した連続、直線状の切り込み4を有する。図4b)のプリプレグ基材7は、2種類の間隔をもって配列された斜行した連続、直線状の切り込みを有する。図4c)のプリプレグ基材7は、等間隔をもって配列された連続、曲線(蛇行線)の切り込み4を有する。図4d)のプリプレグ基材7は、等間隔をもって配列され、かつ、2種類の異なる方向に斜行した断続的な直線状の切り込み4を有する。図4e)のプリプレグ基材7は、等間隔をもって配列された斜行した断続的な直線状の切り込み4を有する。切り込みは図4c)のように曲線でも構わないが図4a)、b)、d)、e)のように直線状である方が流動性をコントロールしやすく好ましい。また、切り込みにより分断される強化繊維の長さLは、図3b)のように一定でなくてもよいが、繊維長さLが全面で一定であると流動性をコントロールしやすく、強度ばらつきをさらに押さえることができるため好ましい。なお、ここで規定の直線状とは、幾何学上の直線の一部をなしている状態を意味するが、前記流動性のコントロールを容易にするという効果を損なわない限り、前記幾何学上の直線の一部をなしていない箇所があっても差支えが無く、その結果、繊維長さLが全面で一定とはならない箇所があっても(この場合、繊維長さLが実質的に全面で一定であると言えるので)差支えが無い。
【0039】
さらに好ましい例[1]としては、図1や図4a)〜c)のように、切り込み4aが連続して入れられているのがよい。例[1]のパターンでは、切り込み4aが断続的でないため、切り込み端部付近での流動乱れが起きず、切り込み4aを入れた領域では、すべての繊維長さLを一定とすることができ、流動が安定している。切り込み4aが連続的に入れられているため、切込プリプレグ基材7がばらばらになってしまうのを防ぐ目的で、切込プリプレグ基材の周辺部に切り込みがつながっていない領域を設けたり、切り込みの入っていないシート状の離型紙やフィルムなどの支持体で把持することで、取り扱い性を向上させることができる。
【0040】
また、他の好ましい例[2]としては、図2のように、強化繊維の垂直方向に投影した長さ9をWsとするとWsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切り込み4bが切込プリプレグ基材7全面に設けられており、切り込み4bと前記切り込み4bを繊維長手方向に隣接した切り込み4bの幾何形状が同一であるとよい。Wsが30μm以下となると、切り込みの制御が難しく、切込プリプレグ基材全面に渡ってLが10〜100mmとなるよう、保障することが難しい。すなわち、切り込みにより切断されていない繊維が存在すると基材の流動性は著しく低下するが、多めに切り込みを入れるとLが10mmを下回る部位が出てきてしまう、という問題点がある。逆にWsが10mmより大きいときにはほぼ強度が一定に落ち着く。すなわち、繊維束端部がある一定以上に大きくなると、破壊が始まる荷重がほぼ同等となる。図2では、LとWsがいずれも一種類である例を示している。いずれの切り込み4b(例えば4b)も繊維方向に平行移動することで重なる他の切り込み4b(例えば4b)がある。前記繊維方向の対になる切り込み4b同士により分断される繊維長さLよりさらに短い繊維長さで隣接する切り込みにより分断され繊維が分断される幅8が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材7を製造できる。例[2]のパターンでは、得られた切込プリプレグ基材7を積層する際、切り込みが断続的なため取り扱い性に優れる。図2d)、e)にはその他のパターンも例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。
【0041】
好ましい例[2]において、力学特性の観点から好ましくは、強化繊維の垂直方向に投影した長さWsが30μm〜1.5mmの範囲内であるのがよい。切り込み角度Θの絶対値が2〜25°であることにより、切り込み長さに対して、投影長さWsを小さくすることができるため、1.5mm以下という極小の切り込みを工業的に安定して設けることができる。Wsを小さくすることにより、一つ一つの切り込みにより分断される繊維量が減り、強度向上が見込まれる。特に、Wsが1.5mm以下とすることで、大きな強度向上が見込まれる。また、プロセス性の観点から好ましくは、Wsを1mm〜100mmの範囲内とすることにより、簡易な装置で切り込みを挿入することができる。
【0042】
このようにして得られた切込プリプレグ基材を少なくとも含む、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材が複数枚積層され、繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化して積層し、成形した繊維強化プラスチックは、切込プリプレグ基材を適用した部位が次のような特徴を有する。強化繊維が実質的に一方向に引き揃えられた層が、強化繊維の配向が異なる方向に少なくとも2層以上積層されてなる繊維強化プラスチックであって、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内であり、前記繊維強化プラスチックを構成する層として、層の全面に複数の、強化繊維が存在せずにマトリックス樹脂または隣接層の強化繊維のみで形成される切り込み開口部を有し、該切り込み開口部によって強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内に分断され、前記切り込み開口部の層表面における表面積が層の表面積の0.1〜10%の範囲内であり、平均厚みHcが15〜300μmの範囲内である短繊維層が少なくとも1層以上積層されている。すなわち、切込プリプレグ基材で入れられた切り込みによる繊維束端部が成形により開口しない点が本発明の最大の特徴である。なお、本発明において“実質的に一方向に引き揃えられ”ているとは、任意の繊維のある一部に注目した際、半径5mm以内に存在する繊維群の90%以上が該任意の繊維のある一部の繊維角度から±10°以内に配向していることをさす。
【0043】
本特徴を図5、6、7を用いて説明する。本発明の比較として図5には、切り込み4が繊維3となす角度Θの絶対値が90°である切込プリプレグ基材7を積層した積層体10をa)、その積層体10を成形した繊維強化プラスチック11をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材7由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材7は、繊維に垂直な切り込みを全面に設けられており、切り込み4は層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体10より面積が伸長した繊維強化プラスチック11を得ることができる(ただし、厚みは減る)。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック11を得た際、切込プリプレグ基材7由来の短繊維層12は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維が存在しない領域(切り込み開口部)13が生成される。これは一般的に強化繊維が成形程度の圧力では伸長しないためであり、図5のケースでは、伸張した長さ分だけ切り込み開口部13が生成され、例えば250×250mmの積層基材10から300×300mmの繊維強化プラスチック11を得た際には、300×300mmの繊維強化プラスチック11の表面積に対して、切り込み開口部13の総面積は50×300mm、すなわち1/6(約16.7%)が切り込み開口部となる計算である。この領域13は断面図に示すとおり、隣接層14が侵入してきて、略三角形の樹脂リッチ部16と隣接層が侵入している領域とで占められる。従って、切込プリプレグ基材7を用いた積層体10を伸長して成形した場合、繊維束端部15では層のうねり17や樹脂リッチ部16が発生し、これが力学特性の低下や表面品位の低下に影響を与える。また、繊維がある部位とない部位で剛性が異なるため、面内異方性の繊維強化プラスチック11となり、ソリなどの問題から設計が難しい。また、強度の面では、荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維が大部分の荷重を伝達しているが、その繊維束端部15では隣接層14に荷重を再分配しなければならない。その際、図5b)のように、繊維束端部15が荷重方向に垂直となっていると、応力集中が起きやすく、剥離も起こりやすい。そのため、強度向上はあまり期待できない。
【0044】
一方で図6には、本発明の好ましい例[1]の切込プリプレグ基材7を積層した積層体10をa)、その積層体10を成形した繊維強化プラスチック11をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材7由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材7は、繊維3となす角度Θの絶対値が25°以下の連続した切り込み4aが全面に設けられており、切り込み4aは層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体7より面積が伸長した繊維強化プラスチック11を得ることが出来る。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック11を得た際、切込プリプレグ基材7由来の短繊維層12は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維3自体が回転18して伸長領域の面積を稼ぐため、図5のように繊維が存在しない領域(切り込み開口部)13が実質的に生成せず、切り込み開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内である。従って、断面図を見ても分かるとおり、隣接層14が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高強度で品位の高い繊維強化プラスチック11を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この繊維が回転して伸長し、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るという画期的効果は、切り込みと強化繊維とのなす角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ、切り込みが連続して入れられていることで初めて得ることができる。また、強度の面では、前述と同様に荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維に注目すると、図6b)のように、繊維束端部15が荷重方向に対して寝てきている様子がわかる。繊維束端部15が層厚み方向に斜めとなっているため、荷重の伝達がスムーズであり、繊維束端部15からの剥離も起こりにくい。従って、図5に比べ格段の強度向上が見込まれる。この繊維束端部15が層厚み方向に斜めとなるのは上述の繊維が回転する際、上面と下面の摩擦により上面から下面で繊維3の回転18になだらかな分布があるためで、そのため、層厚み方向に繊維3の存在分布が発生し、繊維束端部15が層厚み方向に斜めとなったと考えられる。このような繊維強化プラスチック11の層内で層厚み方向に斜めの繊維束端部を形成し、強度を著しく向上する画期的効果は切り込み4aの繊維3となす角度Θの絶対値が25°以下であることで初めて得ることができる。
【0045】
図7には、本発明の好ましい例[2]の切込プリプレグ基材7を積層した積層体10をa)、その積層体10を成形した繊維強化プラスチック11をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材7由来の層をクローズアップした平面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材7は、繊維3となす角度Θの絶対値が25°以下の断続的な切り込み4bが全面に設けられており、切り込み4bは層の厚み方向を貫いている。切り込み4bにより繊維長さLを切込プリプレグ基材7の全面で100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体7より面積が伸長した繊維強化プラスチック11を得ることができる。切り込み長さ、切り込み角度を小さくすることにより、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることができる。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック11を得た際、切込プリプレグ基材7由来の短繊維層12は、繊維垂直方向に伸長する際、繊維方向に繊維が伸張しないため、繊維が存在しない領域(切り込み開口部)13が生成されるが、隣接する短繊維群が繊維垂直方向に流動することで、切り込み開口部13を埋め、切り込み開口部13の面積が小さくなる。この傾向は特に、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで顕著となり、実質的に切り込み開口部13が生成せず、切り込み開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内とすることができる。従って、厚み方向に隣接層が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高強度で品位の高い繊維強化プラスチック11を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この切り込み開口部を繊維垂直方向の流動により埋め、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るという画期的効果は切り込み角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで初めて得ることができる。さらに好ましくはWsが1mm以下であることにより、より高強度、高品位とすることができる。
【0046】
さらに好ましくは、繊維強化プラスチックの最外層において、前記切り込み開口部の面積が実質的に0であるのがよい。なお、切り込み開口部の面積が“実質的に0”とは、開口部は存在しないことが望ましいが、最外層において切り込み開口部の面積が繊維強化プラスチックの表面積と比較して1%以下であれば差支えが無いことを意味する。Θの絶対値が25°よりも大きければ、樹脂リッチ部やその層における繊維がない領域、すなわち隣接層の強化繊維がのぞいている領域が最外層に生成されるため、外板部材としては適用が難しい。一方で本発明では、樹脂リッチ部や繊維がない領域が生成されにくいため、外板部材としての適用も可能となる。
【0047】
本発明の切込プリプレグ基材に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。
【0048】
本発明の切込プリプレグ基材に用いられるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。その中でも特に熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることにより、切込プリプレグ基材は室温においてタック性を有しているため、該基材を積層した際に上下の該基材と粘着により一体化され、意図したとおりの積層構成を保ったままで成形することができる。一方、室温においてタック性のない熱可塑性樹脂プリプレグ基材では、プリプレグ基材を積層した際に該基材同士が滑るため、成形時に積層構成がずれてしまい、結果として繊維の配向ムラの大きい繊維強化プラスチックとなる。特に、凹凸部を有する型で成形する際は、その差異が顕著に現れる。
【0049】
さらに、熱硬化性樹脂から構成される本発明の切込プリプレグ基材は、室温において優れたドレープ性を有するため、例えば、凹凸部を有する型を用いて成形する場合、予めその凹凸に沿わした予備賦形を容易に行うことが出来る。この予備賦形により成形性は向上し、流動の制御も容易になる。
【0050】
また、本発明の切込プリプレグ基材はテープ状支持体に密着されていてもよい。切り込みが挿入された基材は、全ての繊維が切り込みにより切断されてもその形態を保持することが可能となり、賦形時に繊維が脱落してバラバラになってしまうという問題はない。マトリックス樹脂がタック性を有する熱硬化性樹脂であるとさらに好ましい。ここで、テープ状支持体とは、クラフト紙などの紙類やポリエチレン・ポリプロピレンなどのポリマーフィルム類、アルミなどの金属箔類などが挙げられ、さらに樹脂との離型性を得るために、シリコーン系や“テフロン(登録商標)”系の離型剤や金属蒸着等を表面に付与しても構わない。
【0051】
さらに好ましくは熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等や、それらの混合樹脂がよい。これらの樹脂の常温(25℃)における樹脂粘度としては、1×106Pa・s以下であることが好ましく、この範囲内であれば本発明を満たすタック性およびドレープ性を有するプリプレグ基材を得ることができる。中でもエポキシ樹脂は炭素繊維と組み合わせて得られる強化繊維複合材料としての力学特性に最も優れている。
【0052】
かかるマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂のDSCに拠る発熱ピーク温度をTpとしたとき、前記熱硬化性樹脂が10分以内で硬化し得る温度Tが(Tp−60)〜(Tp+20)の範囲内にあることが好ましい。ここで、硬化し得るとは、熱硬化性樹脂を含む成形前駆体をある温度下で一定時間保持した後に成形前駆体の形状を保持した状態で取り出すことが可能であることをいい、具体的な評価法としては、加熱したプレス上に置いた内径31.7mm、厚さ3.3mmのポリテトラフルオロエチレン製Oリング中に熱硬化性樹脂を1.5ml注入し、10分間加熱加圧し架橋反応を進めた後に、樹脂試験片を変形させることなく取り出せることをいう。前記熱硬化性樹脂が10分以内で硬化し得る温度Tが、(Tp−60)℃より低い場合、成形時に昇温に時間を要することから、成形条件に制約が加わり、(Tp+20)℃より高い場合、樹脂の急激な反応により樹脂内部でのボイドの生成、硬化不良を引き起こすおそれがあるため、上記範囲であることが好ましい。なお、本発明におけるDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは、昇温速度10℃/分の条件にて測定した値とする。
【0053】
以上の硬化特性を発現する熱硬化性樹脂としては、少なくともエポキシ樹脂であり、硬化剤がアミン系硬化剤であり、硬化促進剤が1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物が挙げられる。硬化促進剤としては、具体的に、2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)または4,4−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)が好ましい。
【0054】
本発明の切込プリプレグ基材を得るためにプリプレグ基材に切り込みを入れる方法としては、まず一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材を作製し、その後カッターを用いての手作業や裁断機により切り込みを入れる方法、あるいは一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ製造工程において所定の位置に刃を配置した回転ローラーを連続的に押し当てたり、多層にプリプレグ基材を重ねて所定の位置に刃を配置した型で押し切りする等の方法がある。簡易にプリプレグ基材に切り込みを入れる場合には前者が、生産効率を考慮し大量に作製する場合には後者が適している。本発明においては、切り込み角度が小さいことから、刃の単位長さあたり裁断する繊維量が減少し、小さな力で繊維を裁断できるため、繊維の切り残りを少なくするとともに、刃の耐久性を向上できる。回転ローラーを用いる場合には、直接ローラーを削りだして所定の刃を設けてもよいが、マグネットローラーなどに平板を削りだして所定の位置に刃を配置したシート状の型を巻きつけることにより、刃の取りかえが容易で好ましい。このような回転ローラーを用いることで、Wsの小さな(具体的には1mm以下であっても)切込プリプレグ基材でも良好に切り込みを挿入することができる。
【0055】
特に、図8に示すように螺旋状の刃20を配した回転刃ローラー19を押し当てて切り込みを入れる製造法が生産安定性に優れている。ここで、螺旋状の刃は連続的な刃であっても、断続的な刃でもよく、それぞれ図1のような連続した切り込み、図2のような断続的な切り込みを挿入することが出来る。その他、図9に示すように、斜めに繊維を引き揃えた後、プリプレグ基材の長手方向33もしくは幅方向34に切り込みを挿入してもよい。例えば図9a)のように、プリプレグ基材の長手方向33から2〜25°傾けた方向が繊維方向となるようにプリプレグ基材、テープ状プリプレグ基材(もしくは繊維束)を、移動ヘッド31を用いて引き揃え(繊維束の場合は含浸工程を経た後)、プリプレグ基材長手方向の切り込みを挿入する押し切り刃29を押し当ててもよい。押し切り刃29の変わりに回転ローラーを用いて、裁断してもよい。また、例えば図9b)のように、プリプレグ基材の幅方向34から2〜25°傾けた方向が繊維方向となるようにプリプレグ基材、テープ状プリプレグ基材(もしくは繊維束)を、移動ヘッド31を用いて引き揃え(繊維束の場合は含浸工程を経た後)、プリプレグ基材幅方向へ連続的、もしくは断続的な切り込みを挿入する回転刃32を押し当ててもよい。また、切り込みを入れた後、さらに、切込プリプレグ基材をローラー等で熱圧着することで、切り込み部に樹脂が充填、融着することにより、取り扱い性を向上させてもよい。
【0056】
さらに好ましくは図10のように本発明の切込プリプレグ基材7を2層積層し、上層の任意の切り込みC(4c)と交わる下層の切り込みD(4d)の交差角度(絶対値)が4〜90°の範囲内である2層基材を用いるのがよい。本発明の切込プリプレグ基材は繊維に対する切り込みの角度Θの絶対値が25°以下であり、繊維長さLが100mm以下でなくてはならないので、幾何的に単位面積あたりの切り込み量が多くなる。したがって、切込プリプレグ基材は繊維が至る所で分断しているため、取り扱い性に劣る。特に、切り込みが連続して入れられている場合には取り扱い性の低下は顕著である。したがって、切り込み角度が同一ではない切込プリプレグ基材を2層あらかじめ機械等で積層しておくことで、多層積層時に取り扱い性が格段に向上する。3層以上積層しておいてもよいが、厚みが大きくなることでドレープ性が低下するため、好ましくは2層の積層基材をひとつのユニットとして扱うのがよい。2層基材の上層と下層の組み合わせとしては切り込み同士の角度が4〜90°であればどのような繊維配向の切込プリプレグ基材の組み合わせでもよく、例えば、45°と−45°、0°と90°、0°と0°などがよい。
【0057】
本発明の切込プリプレグ基材は、図11に示すように、さらに好ましくは切り込み4eが、切込プリプレグ基材の上面と下面とのそれぞれから層の厚み方向に貫かずに設けられ、切り込み4eの深さHsが切込プリプレグ基材厚みH(22)に対して0.4H〜0.6Hの範囲内であり、上面の切り込みと下面の切り込みとがそれぞれ0.01H〜0.1Hの範囲内(23)で互いに切り込んでおり、上面の任意の切り込みAと繊維方向のなす角度Θaに対して、該切り込みAと交わる下面の切り込みBの繊維方向とのなす角度Θbが−Θaである、切込プリプレグ基材7がよい。切り込みの深さが深いほど強度が下がる傾向があるが、低コストにプリプレグ化できる薄さには限界があるため、切り込みを入れる段階でプリプレグ基材厚みの略半分の深さの切り込みを上下面から入れることで、大きく強度を向上させるとともに流動性を確保することができることがわかった。また、薄い切込プリプレグ基材を作成し、張り合わせてもよいが、張り合わせる工程のコスト向上分を考慮すると、両面から切り込みを入れる本手法の方が好ましい。なお、角度Θbが−Θaであることが好ましいことは上述のとおりであるが、大きく強度を向上させるとともに流動性を確保することができるという効果を損なわない、Θb=−Θa−5°〜−Θa+5°の範囲内であれば差し支えは無い。なお、図11には、切込プリプレグ基材上面に入った切り込みUの深さと、下面に入った切り込みDの深さが同じである場合を記載しているが、Uの切り込みの深さHs,uと、Dの切り込みの深さHs,dが異なる値であったとしても、いずれもが0.4H〜0.6Hの範囲内にあればよい。
【0058】
切込プリプレグ基材の上面の切り込みAと下面の切り込みBの繊維方向となす角度ΘaとΘbは好ましくはΘa=−Θbの関係にあるのがよい。切り込みの角度により強度向上の程度が異なるため、Θの絶対値は同じであることで安定した性能の切込プリプレグ基材とすることができる。また、切り込みの角度の符号により、成形時に繊維が回転する方向が決まるため、繊維の回転方向を逆とすることにより、繊維配向の平均が積層時の繊維方向とすることができ、ロバスト性に優れた基材となる。
【0059】
切り込み深さHsは理想的には0.5Hとすることで、欠陥の大きさを均等にすることで、含有する欠陥サイズを最小化することで破壊開始荷重を最低とすることができるが、上面からの切り込みにも下面からの切り込みにも分断されない繊維が存在すると著しく流動性が低下するため、0.5H+0.05H程度の切り込みを上下面から入れることにより、流動性を低下させるような品質欠陥なく、生産安定性を確保できる。
【0060】
上記のような切り込みを実現する手段としては、例えば、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材を準備し、上面または下面のいずれか一方から層の厚み方向に貫かない切り込みを押し切りする判子を押しつけた後、もう一方にも同様に判子を押しつける方法がある。特に螺旋状に刃をローラー上に配置した回転刃ローラーを片面から押しつけ層の厚み方向を貫かない切り込みを入れた後、もう一方の面から螺旋状のローラーを押し当てるのが生産安定性に優れている。
【0061】
さらに好ましくは、図12に示すように、切り込み4fが切込プリプレグ基材厚み方向に斜めに設けられており、任意の切り込みにおいて、切込プリプレグ基材の上面における強化繊維の分断線と下面における分断線との繊維方向の距離24をせん断距離Sとすると、切込プリプレグ基材厚みH(22)とをもちいて、次の式1から導かれる角度θ(26)が1〜25°の範囲内にある切込プリプレグ基材7がよい。
【0062】
【数2】

【0063】
前述のとおり、面内において切り込みと繊維方向とのなす角Θの絶対値が25°以下である切込プリプレグ基材を積層、成形して得た繊維強化プラスチックの繊維束端部は層厚み方向に斜めとなっており、そのことが強度向上に大きく寄与している。そこで、切込プリプレグ基材の段階で深さ方向に斜めの切り込みを入れることで、上記効果をさらにアシストし、繊維強化プラスチックとした際の繊維束端部の角度をより小さくして強度向上に寄与することができた。特に切り込みの角度θが25°以下であるとき、力学特性向上の効果が著しい。一方、θが1°より小さい場合、斜めの切り込みを設けることが非常に困難となる。
【0064】
上記のような切り込みを実現する手段としては、直接斜めに切り込みを入れる方法もあるが、例えば、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材を準備し、層の厚み方向を貫く切り込みを入れた後、切込プリプレグ基材を加熱・軟化させた状態で上面と下面とで回転速度の異なるニップローラーを押し当て、せん断力によって、強化繊維の分断面を厚み方向に斜めにする、などの方法もある。後者の場合、強化繊維の側面部が見られるような切込プリプレグ基材面外方向に垂直に切り出した断面において、切り込みによる繊維分断線は直線状ではなく、がたがたになるが、便宜的に切込プリプレグ基材上面の切り込みと切込プリプレグ基材下面の切り込みとの繊維方向の距離24をせん断距離Sとして用いる。切込プリプレグ基材全面の各切り込み4fのせん断距離24の平均をSとして式1に代入して切り込み角度θがもとまる。
【0065】
さらに前述の切込プリプレグ基材の少なくとも一方の表面に、切込プリプレグ基材中のマトリックス樹脂より引張伸度が高い、強化繊維の短繊維直径以上であり、かつ、切込プリプレグ基材の厚みの0.5倍以下の範囲内の厚みを有する、形態がフィルム状または不織布状である、層状の追加樹脂層を設けた複合切込プリプレグ基材を用いてもよい。本発明の切込プリプレグ基材を積層、成形して得た繊維強化プラスチックは、層内から発生したクラックが層間剥離によりつながると最終破壊が起こるため、伸度の高い追加樹脂層を層間に設けることにより層間剥離が劇的に抑えられ、強度が向上する。
【0066】
さらに好ましくは、図13のように、前述の切込プリプレグ基材7の少なくとも一方の表面に、切込プリプレグ基材中のマトリックス樹脂より引張強度が高い、切込プリプレグ基材厚みH(22)に対して切り込みから繊維方向の両方向にH〜100Hの範囲内に、強化繊維が形成する層内に入り込まずに切込プリプレグ基材表面上に層状に配置されている、フィルム状または不織布状の追加樹脂28を設けた複合切込プリプレグ基材がよい。ここで言う“繊維方向の両方向”とは、例えば図13に示すように、切り込み4を境として繊維方向1に沿った左方向と右方向を意味する。上述のようにマトリックス樹脂より追加樹脂の引張伸度が大きいことにより、層間剥離が起こりにくくなる一方、追加樹脂が多くなりすぎると繊維強化プラスチックの繊維体積含有率Vfが小さくなり、弾性率が低下する傾向が低下してしまう。そこで、好ましくは追加樹脂の付与量はマトリックス樹脂の10%未満であるのが好ましい。応力集中の起こりやすい繊維束端部に集中して追加樹脂を配することで、高い効率で強度向上が見込まれる。また、追加樹脂の配置の仕方については、強化繊維が形成する層内に入り込まず切込プリプレグ基材表面上に層状に配置されているのがよい。強化繊維が形成する層内とは、あらかじめマトリックス樹脂を一方向に引き揃えた強化繊維中に含浸して得た切込プリプレグ基材を示す。追加樹脂は切込プリプレグ基材から大きく盛り上がって配されると積層時に嵩高となるため好ましくない。追加樹脂をあらかじめフィルム状、不織布状に加工しておき、切り込みを覆うように層状に配するのがよい。この際、追加樹脂の厚みは強化繊維単糸より大きく層厚みHの半分より小さいのが好ましい。ここで、追加樹脂が強化繊維により形成される層内に入りこまずに層状に配置されているとは、追加樹脂が強化繊維により形成される層中にアンカー効果が得られるような態様で配置されていないことを意味するが、少量の追加樹脂(例えば、全追加樹脂の20体積%以下)が溶融等により強化繊維により形成される層内に入り込んでいても(つまり、一部の強化繊維の周りにマトリックス樹脂ではなく、全追加樹脂の20体積%以下の追加樹脂が存在していても)よいことを意味する。
【0067】
追加樹脂の引張伸度としてはマトリックス樹脂よりも大きければ何でもよいが、好ましくは2〜10倍であり、2〜50%の範囲内がよい。さらに好ましくは8〜20%の範囲内がよい。追加樹脂より引張伸度が大きいことにより、層間剥離が起こりにくくなり、強度向上が見込まれる。さらに追加樹脂の引張強度がマトリックス樹脂よりも大きい方が好ましい。すなわち、引張強度が高い方が樹脂割れであるクラックが発生しにくいため、追加樹脂はマトリックス樹脂よりも強度が高いほどよい。さらに好ましくは1.5倍以上の強度を有することが好ましい。なお、樹脂の引張伸度と引張強度とは、JIS K7113(1995)、あるいは、ASTM D638(1997)に従い測定される。さらに好ましくは、追加樹脂の破壊靱性値がマトリックス樹脂より大きい方がよい。樹脂の破壊靱性値は例えばASTM E399(1983)(コンパクト試験規格)で測定されるが、測定法により大きく値が異なるため、同一試験で比較した際の破壊靱性値が、例えばマトリックス樹脂が100J/mに対して追加樹脂が500J/m、などのように、マトリックス樹脂と比較して大きければ大きいほどよい。さらに好ましくはマトリックス樹脂の破壊靱性値の3倍以上がよい。
【0068】
追加樹脂としては、前述のマトリックス樹脂に適用される樹脂群の中から、マトリックス樹脂として用いる樹脂より引張伸度の高いものなら何でもよいが、特に熱可塑性樹脂を用いるのがよい。樹脂伸度や破壊靱性値が一般的な熱硬化性樹脂に比べ高いことが知られており、効果的に本発明の強度向上効果を奏する。さらに、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフォンが樹脂特性とコストとのバランス、樹脂粘度の設計自由度の点で好ましい。追加樹脂はマトリックス樹脂との相溶性が高いほど、本発明の効果を奏するため、成形温度と同等以下の融点を持つものがよい。とりわけ、共重合等により100〜200°程度に低融点化したポリアミドは熱硬化性樹脂との相溶性に優れており、かつ、伸引張度、引張強度、破壊靱性値も高く、好ましい。強化繊維として炭素繊維を用い、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂、追加樹脂としてポリアミド樹脂を用いた際、最も軽量で高強度、高剛性な繊維強化プラスチックを得ることが出来る。
【0069】
本発明の積層基材としては、前記切込プリプレグ基材を少なくとも一部に有してなる積層基材であって、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材が複数枚積層され、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材がその繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化されている積層基材であるのがよい。例えば、切込プリプレグ基材と切り込みのない一方向基材や織物基材であるプリプレグ基材を用いてハイブリッド積層してもよい。また、全面が切込プリプレグ基材で構成されていてもよい。
【0070】
本発明の切込プリプレグ基材は1層だけでは、繊維垂直方向にしか流動しない。すなわち、90°方向への樹脂の流動が繊維を動かす原動力であるため、2層以上異なる繊維方向に積層されていることではじめて、流動性が発現する。好ましくは、本発明の切込プリプレグ基材に隣接する層は一方向に強化繊維が配向したプリプレグ基材(本発明の切込プリプレグ基材を含む)であり、切込プリプレグ基材とは異なる繊維方向に積層されているのがよい。やむを得ず同一繊維方向の切込プリプレグ基材を隣接して積層する際には、切り込みが重ならないように積層するのがよい。またこれら切込プリプレグ基材の層間に樹脂フィルム等を積層し、流動性を向上させてもよい。また流動しなくてもよい部位には連続繊維基材を配し、さらにその部位の力学特性を向上させることもできる。形状によっては切り込みのない一方向プリプレグ基材と本発明の切込プリプレグ基材を積層して用いることもできる。例えば、一様断面形状の筒状体ならば、形状変化のない方向に連続繊維を配しても、流動性に問題はない。
【0071】
層同士で繊維方向が異なると、層ごとの流動方向、距離に違いが生じるが、層間が滑ることで変位差を吸収できる。すなわち、繊維体積含有率Vfが45〜65%と高くても、本発明の積層基材は層間に樹脂を偏在させることができる構成のため、高い流動性を発現することができる。SMCの場合、ランダムに分散したチョップドストランド同士で流動性が異なり、互いに違う方向に流動しようとするが、繊維同士が干渉して流動しにくく、最大でVfが40%程度までしか流動性を確保することができない。すなわち、本発明の積層基材は力学特性を向上することが出来る高Vfの構成であっても高い流動性を発現できる、という特徴を有する。なお、成形時の樹脂粘度は1×10Pa・s以下であると、流動性に優れてよいが、0.01Pa・sより小さいと、樹脂により繊維に効率的に力を伝達できないため、適さないことがある。
【0072】
さらに好ましくは本発明の切込プリプレグ基材のみからなり、擬似等方に積層されている積層基材である。本発明の切込プリプレグ基材のみを用いることで、積層時にトラップされた空気が厚み方向に切り込みを通じて脱気しやすく、ボイドが発生しにくく、高力学特性が期待できる。なかでも、[+45/0/−45/90]、[0/±60]といった等方積層が、均等な物性とし、ソリの発生を抑制する場合には好ましい。また前述のとおり90°方向への樹脂の流動が繊維を動かす原動力であるため、隣接層の繊維配向によって繊維の流れ具合が異なるが、擬似等方積層とすることで流動性が等方となり、流動性のバラツキが少なくロバスト性に優れた成形材料となる。
【0073】
本発明の繊維強化プラスチックは、前記積層基材を硬化せしめることにより得ることが好ましい。硬化せしめる方法、すなわち繊維強化プラスチックを成形する方法としては、プレス成形、オートクレーブ成形、シートワインディング成形等が挙げられる。なかでも、生産効率を考慮するとプレス成形が好ましい。さらに好ましくは本発明の積層基材をチャージ率が50〜95%の範囲内で加圧成形し、最外層の切り込み部において、最外層の強化繊維が存在せずにマトリックス樹脂または隣接層の強化繊維のみで形成される切り込み開口部の面積を実質的に0とし、外観品位のよい繊維強化プラスチックを得る製造方法がよい。
【0074】
前記積層基材において、本発明の切込プリプレグ基材のみが積層された部位に回転部などの機構を備えるために金属インサートを埋め込み、硬化、一体化させることにより、アセンブリコストが低減できる。その際、金属インサートの周囲に複数の凹部設けることにより、流動した繊維が凹部に進入し、容易に隙間を充填することができるとともに、成形温度から低下することで、金属と繊維の熱膨張差でかしめられ、強固に一体化させることができる。
【0075】
また、本発明の切込プリプレグ基材およびこれを用いた繊維強化プラスチックの用途としては、強度、剛性、軽量性が要求される、自転車用品、ゴルフ等のスポーツ部材のシャフトやヘッド、ドアやシートフレームなどの自動車部材、ロボットアームなどの機械部品がある。中でも、強度、軽量に加え、複雑な形状の成形追従性が要求されるシートパネルやシートフレーム等の自動車部品に好ましく適用できる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるというものではない。
【0077】
<平板成形方法>
所定の基材を、300×300mmの金型上に配置した後、加熱型プレス成型機により、6MPaの加圧下、150℃の温度雰囲気で所定の時間で流動・成形せしめ、300×300mmの平板状の成形体を得た。
【0078】
<機械特性評価方法>
得られた平板状の成形体より、長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。JIS K−7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。さらに、測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値(%))を算出した。
【0079】
<成形性評価>
得られた平板状の成形体の性状より、流動性とソリを評価した。
流動性に関しては、基材を伸長して成形するにあたり、金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、最表層に配された基材も金型端部付近まで伸長している場合には流動性○、金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されているものの、最表層に配された基材がほとんど伸長していない場合には流動性△、金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されていない部位がある場合には流動性×、として評価した。
ソリに関しては、成形体を平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台と全面で接触している場合にはソリ○、成形体を平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台とが全面で接触しておらず、指で成形体上面から試験台に成形体を押し付けた際、成形体が試験台と全面で接触する場合にはソリ△、指で成形体上面から試験台に成形体を押し付けた際、成形体が試験台と接触していない部分がある場合にはソリ×と評価して、表1〜9にまとめた。
【0080】
<基材の形態の比較(表1)>
(実施例1)
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:30重量部、“エピコート(登録商標)”1001:35重量部、“エピコート(登録商標)”154:35重量部)に、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K)5重量部をニーダーで加熱混練してポリビニルホルマールを均一に溶解させた後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5重量部と、硬化促進剤3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土谷化学工業(株)製DCMU99)4重量部を、ニーダーで混練して未硬化のエポキシ樹脂組成物を調整した。このエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターを用いてシリコーンコーティング処理された厚さ100μmの離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、一方向に配列させた炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa)の両面に樹脂フィルムをそれぞれ重ね、加熱・加圧することによって樹脂を含浸させ、単位面積あたりの炭素繊維重さ125g/m、繊維体積含有率Vf55%、厚み0.125mmのプリプレグ基材を作製した。
【0081】
このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図4a)に示すような繊維から10°の方向の直線的な切り込みを連続的に挿入した後、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ300×300mmの大きさに切り出し、等間隔で規則的な切り込みを有するプリプレグ基材を得た。うち、300×300mmの周囲5mmずつは切り込みを入れず、連続的な切り込みによりばらばらとならないようにした切り込みを繊維から10°の方向に入れ、プリプレグ基材の端部近傍からもう一方の端部近傍まで入れられており、290×290mmの範囲に切り込みが入れられた。切り込みにより分断された繊維長さLは30mmである。エポキシ樹脂の25℃雰囲気下における粘度は2×104Pa・sであり、該基材はタック性を有していた。
【0082】
上記切り出した切込プリプレグ基材を、16層疑似等方([−45/0/+45/90]2S)に積層した後、周囲25mmずつ切り落として全面に切り込みを有する250×250mmの積層基材を得た。
【0083】
更に、上記の積層基材を用いて、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部に配置した後、加熱型プレス成形機により、6MPaの加圧のもと、150℃×30分間の条件により硬化せしめ、300×300mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。金型を上から見たときの金型面積に対する基材の面積の割合をチャージ率と定義すると、チャージ率は70%に相当する。
【0084】
得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。全体的にソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は46GPaとほぼ理論値通り発現し、また、引張強度に関しても590MPaと高い値が発現し、そのCV値も5%ときわめてバラツキの小さい結果となった。これらの結果から構造材としての適用、外板部材への適用が可能な力学特性と品位が得られたことがわかった。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面が0°である層に注目すると、図6b)のように、層うねりや繊維が存在しない部位がなく、樹脂リッチ部もほとんど存在しなかった。また、繊維束端部も厚み方向に斜めとなっており(繊維方向から5°以下程度)、応力伝達効率が高いと考えられた。
【0085】
(実施例2)
切り込みの入れ方以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1と同様にして得たプリプレグ基材を、自動裁断機を用いて図4d)に示すような繊維から±10°の方向の直線的な切り込みを全面に断続的に挿入した後、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ300×300mmの大きさに切り出し、等間隔で規則的な切り込みを有する切込プリプレグ基材を得た。切り込みの繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが10mm(実際の切り込み長さは57.6mm)で、図2のように隣接する切り込みによって繊維長さL以下(本実施例では15mm程度)に分断される部位があった。
【0086】
得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。全体的にソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は46GPaとほぼ理論値通り発現し、また、引張強度に関しても550MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面が0°である層に注目すると、図6b)のように、層うねりや繊維が存在しない部位がなく、樹脂リッチ部もほとんど存在しなかった。また、繊維束端部も厚み方向に斜めとなっており(繊維方向から5°以下程度)、応力伝達効率が高いと考えられた。
【0087】
(実施例3)
切り込みの入れ方以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1と同様にして得たプリプレグ基材を、自動裁断機を用いて図4e)に示すような繊維から10°の方向の直線的な切り込みを全面に断続的に挿入した後、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ300×300mmの大きさに切り出し、等間隔で規則的な切り込みを有する切込プリプレグ基材を得た。切り込みの繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが10mm(実際の切り込み長さは57.6mm)で、図2のように隣接する切り込みによって繊維長さL以下(今回は15mm程度)に分断される部位があった。
【0088】
得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。全体的にソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は46GPaとほぼ理論値通り発現し、また、引張強度に関しても580MPaと高い値が発現し、そのCV値も5%ときわめてバラツキの小さい結果となった。また、得られた繊維強化プラスチックを切り出し、切り出し面が0°である層に注目すると、図6b)のように、層うねりや繊維が存在しない部位がなく、樹脂リッチ部もほとんど存在しなかった。また、繊維束端部も厚み方向に斜めとなっており(繊維方向から5°以下程度)、応力伝達効率が高いと考えられた。
【0089】
<強化繊維、マトリックス樹脂の比較(表2)>
(実施例4)
硬化促進剤を2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)(ピイ・ティ・アイジャパン(株)製“オミキュア(登録商標)”24)5重量部に替えた以外は実施例1と同様に、切込プリプレグ基材、それを用いた積層基材を作製した。かかる積層基材を、加熱型プレス成形機の加圧時間(硬化時間)だけを3分に替えた以外は実施例1と同様の方法で繊維強化プラスチックを得た。加圧時間が実施例1の1/10であるにもかかわらず、ほぼ同等のガラス転移温度を示し、該エポキシ樹脂組成物は、速硬化性に優れることがわかった。
【0090】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率47GPa、引張強度580MPaと高い値であり、引張強度のCV値は4%とバラツキの小さい結果であった。これら値は実施例1と遜色ないものであった。
【0091】
(実施例5)
硬化促進剤を4,4−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)(ピイ・ティ・アイジャパン(株)製“オミキュア(登録商標)”52)7重量部に替えた以外は実施例4と同様の方法で繊維強化プラスチックを得た。加圧時間が実施例1の1/10であるにもかかわらず、ほぼ同等のガラス転移温度を示し、未硬化のエポキシ樹脂組成物は、速硬化性に優れることがわかった。
【0092】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率47GPa、引張強度580MPaと高い値であり、引張強度のCV値は5%とバラツキの小さい結果であった。これら値は実施例1と遜色ないものであった。
【0093】
(実施例6)
共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM4000、ポリアミド6/66/610共重合体、融点155℃)のペレットを、200℃で加熱したプレスで34μm厚みのフィルム状に加工した。離型紙を用いなかった他は実施例1と同様にして、切込プリプレグ基材を作成した。ポリアミド樹脂の25℃雰囲気下における粘度は固体であるため測定不可能であり、該基材はタック性がなかった。実施例1と同様に裁断後、タック性がないので単に16層を疑似等方([−45/0/+45/90]2S)に重ね、そのまま、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部に配置した。加熱型プレス成形機により、6MPaの加圧のもと、200℃×1分間の条件で流動せしめ、型を開けることなく、冷却した後、脱型して、300×300mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。
【0094】
得られた繊維強化プラスチックは若干の繊維のうねりはあるものの、その端部まで繊維が流動していた。若干の繊維分布の粗密から、わずかながらソリが発生したが、最外層の切り込み部においては、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、おおむね良好な外観品位、平滑性を保っていた。
【0095】
(実施例7)
ランダム共重合PP樹脂(プライムポリマー(株)製J229E,融点155℃)55重量%と酸変性PP系樹脂(三洋化成(株)製ユーメックス1010、酸価約52、融点142℃、重量平均分子量30,000)45重量%とを、日本製鋼所(株)製2軸押出機(TEX−30α2)を用い、200℃で溶融混練したペレットを、200℃で加熱したプレスで34μm厚みのフィルム状に加工した。以降、実施例6と同様にして、繊維強化プラスチックを得た。
【0096】
得られた繊維強化プラスチックは若干の繊維のうねりはあるものの、その端部まで繊維が流動していた。若干の繊維分布の粗密から、わずかながらソリが発生したが、最外層の切り込み部においては、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、おおむね良好な外観品位、平滑性を保っていた。
【0097】
(実施例8)
実施例1と同様に樹脂フィルムを作成した。次に、一方向に配列させたガラス繊維(引張強度1,500MPa、引張弾性率74GPa)の両面に樹脂フィルムをそれぞれ重ね、加熱・加圧することによって樹脂を含浸させ、ガラス繊維重さ175g/m、繊維体積含有率Vf55%、厚み0.125mmの切込プリプレグ基材を作製した。以後、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。
【0098】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率29GPa、引張強度430MPaと、実施例1と比較すると強化繊維の性能差分低くなっているが、引張弾性率は理論値近く発現しており、また引張強度のCV値は3%とバラツキの小さい結果となった。
【0099】
<切り込み角度の比較(表3)>
(実施例9〜12)
切り込みの角度を変えた他は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例9は繊維からの角度が2°、実施例10は5°、実施例11は15°、実施例12は25°の方向に連続的な切り込みを設けた。
【0100】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は46〜47GPa、引張強度は460〜660MPaと高い値であり、引張強度のCV値は3〜6%とバラツキの小さい結果であった。特に切り込み角度の小さな実施例9、10では600MPa以上の引張強度を発現した一方、実施例9では切り込み角度が小さいため、切り込み同士の間隔は1mm程度と小さく、積層時の取り扱い性に若干難があった。
【0101】
<チャージ率の比較(表4)>
(実施例13〜15)
切り出す切込プリプレグ基材の大きさが異なる以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。切り出す切込プリプレグ基材の大きさは、実施例13では212×212mm、実施例14では285×285mm、実施例15では300×300mm、とした。それぞれ実施例13がチャージ率50%、実施例14が90%、実施例15が100%に相当する。
【0102】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりなく、その端部まで繊維が充分に流動していた(ただし、実施例15は100%チャージのため、流動していない)。実施例13は長距離流動させたため、若干の繊維分布の粗密から、わずかながらソリが発生したが、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、おおむね良好な外観品位、平滑性を保っていた。実施例14、15はいずれもソリがなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率46〜47GPa、引張強度は510〜690MPaと高い値であり、引張強度のCV値も3〜7%とバラツキの小さい結果であった。特に、チャージ率が小さい実施例13では、切込プリプレグ基材が薄く引き延ばされるため得られた繊維強化プラスチックの層厚みが極めて薄く、繊維束端部からの層間剥離が起こりにくくなる効果か、引張強度が690MPaと非常に高い値を発現した。
【0103】
<繊維長さの比較(表5)>
(実施例16〜18)
実施例1の切り込みパターンにおいて、切り込みの間隔を変えることにより繊維長さLを変えた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれLは、実施例16では10mm、実施例17では60mm、実施例13では100mmとした。
【0104】
得られた繊維強化プラスチックは実施例18を除いて繊維のうねりなく、その端部まで繊維が充分に流動していた。実施例13は若干の繊維のうねりと金型との摩擦を受ける表面部で端部まで繊維が十分流動してない部位があった。その他、いずれの繊維強化プラスチックもソリがなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率46〜47GPa、引張強度は510〜650MPaと高い値であり、引張強度のCV値も3〜6%とバラツキの小さい結果であった。
【0105】
<切り込み長さの比較(表6)>
(実施例19〜21)
実施例3の切り込みパターンにおいて、自動裁断機の代わりに、円柱状の金属を削りだし円周上に複数の刃を設けて回転ローラーとし、プリプレグ基材に押し当てて繊維から10°の方向の直線的な切り込みを入れることで、切り込みの長さを変えた以外は実施例3と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれ切り込みの繊維の垂直方向に投影した投影長さWsは実施例19では17μm、実施例20では30μm、実施例21では170μmとした。実際の切り込みの長さはそれぞれ、実施例19では0.1mm、実施例20では0.17mm、実施例21では1mmとなった。
【0106】
得られた繊維強化プラスチックは実施例19を除いて繊維のうねりがなかった。実施例19では、切り込み端部が多く存在するためか局所的な流動の乱れが発生し、若干の繊維うねりが観察された。その他、いずれの繊維強化プラスチックもその端部まで繊維が充分に流動しており、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率47GPa、引張強度は690〜7130MPaと高い値であった。引張強度のCV値は実施例19で9%と若干高いものの、その他は4〜5%とバラツキの小さい結果であった。
【0107】
(実施例22〜25)
実施例3の切り込みパターンにおいて、切り込みの長さが異なる以外は実施例3と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれ切り込みの繊維の垂直方向に投影した投影長さWsは実施例22では1mm、実施例23では1.5mm、実施例24では100mm、実施例225では120mmとした。実際の切り込みの長さはそれぞれ、実施例22では5.8mm、実施例23では8.6mm、実施例24、25では実質的に用意した300×300mmの切込プリプレグ基材に収まらない大きな切り込みであり、切り込みの一方の端部が内在するほとんど連続の切り込み状となった。
【0108】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が充分に流動しており、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率45〜47GPa、引張強度は580〜640MPaと高い値であった。引張強度のCV値は3〜6%とバラツキの小さい結果であった。一方で、実施例24、25はほとんど連続的な切り込みとなっていたため、積層時に切込プリプレグ基材の端部がばらばらであり、取り扱い性が悪かった。
【0109】
<層厚みの比較(表7)>
(実施例26、27)
実施例1のプリプレグ基材の単位面積あたりの炭素繊維重さを変えることにより切込プリプレグ基材厚みを変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれ実施例26が単位面積あたりの炭素繊維重さが50g/m、切込プリプレグ基材厚みが0.05mm、実施例27が300g/m、0.3mmとした。
【0110】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりなく、その端部まで繊維が充分に流動しており、ソリもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率46〜47GPa、引張強度は実施例26は750MPaと高く、一方実施例27は370MPaと若干低いものの、いずれも引張強度のCV値は4〜5%とバラツキの小さい結果であった。特に、切込プリプレグ基材厚みを薄くすることで引張強度が向上することがわかった。
【0111】
<繊維含有率の比較(表8)>
(実施例28、29)
実施例1のプリプレグ基材の単位面積あたりの炭素繊維重さを変えることにより炭素繊維の体積含有率Vfを変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれ実施例28が単位面積あたりの炭素繊維重さが146g/m、Vfが65%、実施例29が101g/m、Vfが45%とした。
【0112】
実施例28では得られた繊維強化プラスチックは若干の繊維のうねりと金型との摩擦を受ける表面部で端部まで繊維が十分流動してない部位があった。一方、実施例29では得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりなく、その端部まで繊維が充分に流動していた。その他、どちらの繊維強化プラスチックもソリがなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率39〜52GPa、引張強度は490〜630MPaと高い値であり、引張強度のCV値も4〜8%とバラツキの小さい結果であった。Vfが大きくなるほど、引張弾性率も強度も向上するという結果となったが、あまりVfが大きいと流動性が落ちるという難点があった。
【0113】
<積層構成の比較(表9)>
(実施例30、31)
実施例30は実施例1の積層構成を変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材を16層クロスプライに積層した、[0/90]4sの積層基材を用いた。実施例31は実施例1のプリプレグ基材と、切り込みを入れた後の切込プリプレグ基材を取り合わせて積層した以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。切り込みのない連続繊維のみで構成されたプリプレグ基材8層と切り込みを入れた切込プリプレグ基材8層とを交互にクロスプライに積層した、[0/C90]4s(Cは連続繊維のみで構成されたプリプレグ基材をさす)の積層基材を用いた。
【0114】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりなく、その端部まで繊維が十分に流動していた。実施例30では若干のソリは発生したものの、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率63〜64GPa、引張強度は680〜690MPaと高い値であり、引張強度のCV値も4〜5%とバラツキの小さい結果であった。ただし、引張試験の方向は0°方向であるため非常に高い力学特性を示しているが、±45°の方向には繊維が配向していないため、汎用的ではない、という問題点がある。
【0115】
(実施例32〜34)
実施例32は実施例1の積層構成を変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材を12層擬似等方に積層した、[60/0/−60]2sの積層基材を用いた。実施例33は実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材に加え、その層間に実施例1のエポキシ樹脂フィルムを転写させた樹脂層を挿入した以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材を16層擬似等方に積層する際、樹脂層を設け、[45/R/0/R/-45/R/90/R]2s(Rは樹脂層をさす)の積層基材を用いた。最終的にVfは49%となった。実施例34は実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材に加え、最表層に実施例1と同様のエポキシ樹脂を含浸したVf55%の層厚み250μmの平織プリプレグ基材を配した以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材を16層擬似等方に積層し、さらに最表層に繊維方向が0°と90°に配向した前記平織プリプレグ基材を積層した、[WF0/45/0/-45/90]2s(WFは平織プリプレグ基材をさす)の積層基材を用いた。
【0116】
実施例32、33で得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりなく、その端部まで繊維が十分に流動していた。特に実施例33は流動性に優れ、極めて均一に繊維が広がっていた。いずれもソリはなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。それぞれ引張弾性率46GPaと42GPa、引張強度は5980MPaと510MPaとVf相応の高い値であり、引張強度のCV値も6%と4%でありバラツキの小さい結果であった。実施例34で得られた繊維強化プラスチックは最表層の平織部がまったく流動していないものの、平織部にはさまれた部位は端部まで繊維が十分に流動していた。端部で特に繊維のうねりや、繊維束端部において樹脂リッチや隣接層の強化繊維がのぞいている部位が見られたものの、全体的にはソリもなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率54GPa、引張強度670MPaとハイブリッド化により高い力学特性を示した。
【0117】
(実施例35)
実施例1と同様に樹脂フィルムを作製し、実施例1と同様に一方向に配列させた炭素繊維の両面に樹脂フィルムをそれぞれ重ね、加熱・加圧する際、樹脂が完全に炭素繊維内に含浸していない状態で単位面積あたりの炭素繊維重さ125g/m、繊維体積含有率Vf55%の半含浸プリプレグ基材を作製した。この半含浸プリプレグ基材に実施例1と同様に図1に示すような切り込みを挿入した。得られた切込プリプレグ基材は、厚み方向中央部には樹脂の含浸していない領域があるものの、切り込みにより毛羽立ったり、分離したりすることなく、実施例1と同様に十分な取り扱い性を保っていた。さらに実施例1と同様に、積層、成形して繊維強化プラスチックを得た。
【0118】
得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は46GPa、引張強度も550MPaと高い値が発現し、そのCV値も7%とバラツキの小さい結果となった。
【0119】
<両面から切り込まれた切込プリプレグ基材の比較(表10)>
(実施例36〜38)
実施例1のプリプレグ基材に切り込みを入れる工程において、プリプレグ基材の上面と下面とのそれぞれから層の厚み方向に貫かない切り込みを入れる以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。図78に示した、所定の長さ露出した螺旋状の刃が設けられた回転ローラーを、プリプレグ基材の上面、下面の順で押し当ててプリプレグ基材の層の厚み方向に貫かない切り込みを入れた。切込プリプレグ基材上面に入った切り込みをU、下面をDとすると、実施例36におけるUの切り込みの深さHs,uは35μm(0.28H、ただしHは切込プリプレグ基材厚み)、Dの切り込みの深さHs,dが100μm(0.8H)、実施例37におけるUの切り込みの深さHs,uは55μm(0.44H)、Dの切り込みの深さHs,dが75μm(0.6H)、実施例38はU、Dともに切り込みの深さHs(=Hs,d、Hs,u)が67μm(0.54H)の深さとした。上面の切り込み角度は10°、下面の切り込み角度は−10°であった。切込プリプレグ基材の繊維は上下の切り込みによって分断されすべて繊維長が30mm以下となっていた。
【0120】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりはなく、その端部まで繊維が十分に流動していた。実施例36は若干のソリが発生したものの、いずれも、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は45〜46GPaとほぼ理論値通り発現しており、引張強度は650〜750MPaと実施例1と比較しても高かった。特に、上面と下面の切り込み量が近いほど高い引張強度を得た。これは、上面と下面の切り込み量が同等であることで、繊維束端部の厚みを最小化することが出来る効果によるものと考えられた。
【0121】
(実施例39)
実施例1の切込プリプレグ基材を用いて、上面と下面で切り込み角度が繊維方向に対して10°と−10°となるように積層して2層積層基材を得た。こうして得た2層積層基材を1層分の切込プリプレグ基材として、実施例1と同様に積層、成形して繊維強化プラスチックを得た。2層積層基材を1層の切込プリプレグ基材としてみると、U、DのHsはともに125μm(0.5H)の深さである。
【0122】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりはなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は47GPaとほぼ理論値通り発現しており、引張強度は690MPaと実施例1や実施例36〜38と比較して1層当たりの厚みが2倍でありながら高い値を発現しており、その引張強度のCV値は4とバラツキの小さい結果であった。切り込みの隣に切り込みの開口を止める方向に繊維が配されている構造となっているため、高い強度が発現したものと思われる。
【0123】
<厚み方向に斜めに切り込まれた切込プリプレグ基材の比較(表11)>
(実施例40〜44)
実施例1のプリプレグ基材に切り込みを入れた後、切込プリプレグ基材の厚み方向にせん断力を加え、切り込みを斜めにする以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。実施例1のように層の厚み方向を貫く切込プリプレグ基材に鉛直な切り込みを入れた後、切込プリプレグ基材を60℃で加熱・軟化させた状態で、上面と下面とで回転速度の異なるニップローラーを押し当て、せん断力によって、強化繊維の分断面を厚み方向に斜めにした。図12のように、切込プリプレグ基材の上面における強化繊維の分断線と下面における分断線との繊維方向の距離24をせん断距離Sとすると、250×250mmに切り出した切込プリプレグ基材上で5ヶ所の切り込み部においてせん断距離Sを測定し、平均したものを(式1)に代入して切り込みのなす角26、すなわち切り込みの傾き角度θを算出した。実施例40はせん断距離Sが12.5mm、切り込みの傾き角度θが0.6°、実施例41はSが6.25mm、θが1.1°、実施例42はSが1mm、θが7.1°、実施例43はSが0.5mm、θが1.4mm、実施例44はSが0.25mm、θが27°とした。
【0124】
【数3】

【0125】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりはなく、実施例40は若干のソリが発生したものの、いずれも最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は46〜47GPaとほぼ理論値通り発現しており、引張強度は実施例40が580MPa、実施例41が620MPa、実施例42が620MP、実施例43が610MPa、実施例44が590MPaと実施例1と比較しても同等程度もしくはそれ以上であった。ただし、繊維束端部の傾き角度が1°以下となった実施例40では、せん断距離Sが非常に長くなっており、切り込み部ごとのSのバラツキが大きくなり、工程安定性に欠けた。
【0126】
<追加樹脂の付与面積の比較(表12)>
(実施例45)
追加樹脂として、共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM4000、ポリアミド6/66/610共重合体、融点155℃)のペレットを、メルトブローにより単位面積あたりの樹脂重量30g/mとなる不織布を作成した。ポリアミド樹脂の25℃雰囲気下における粘度は固体であるため測定不可能であり、該不織布基材はタック性がなかった。得られた不織布基材を0.2mm幅の帯状に裁断した後、実施例1と同様の切込プリプレグ基材の両面にすべての連続的な切り込みを覆うように、切り込みが帯状の不織布基材の幅中心になるよう(繊維方向に±0.1mm)、配置した。エポキシ樹脂のタックにより、押圧するだけで、不織布基材が切込プリプレグ基材に付着した。こうして得られた複合切込プリプレグ基材全体の繊維体積含有率Vfは53%相当となった。この複合切込プリプレグ基材を積層、成形して、繊維強化プラスチックを得た。
なお、この複合切込プリプレグ基材を1層のみ、そのまま圧力も加えずオーブン内で130℃×2時間で硬化させ、断面を切り出したところ、追加樹脂層がない部位の層厚みは平均125μmに対して、追加樹脂層が両面に存在する部位の層厚みは、追加樹脂層が不織布であることから均一な厚みではないものの、平均175μmであった。追加樹脂層が両面に存在する部位を繊維方向に垂直な面で切り出し、光学顕微鏡により観察すると、切込プリプレグ基材の層表面から10μm程度の深さに追加樹脂層が強化繊維周りに存在することが確認されたが、断面図における追加樹脂層の占める面積全体から比較すると10%を越えることなく、実質的に追加樹脂層は切込プリプレグ基材の層内に入り込んでおらず、また、追加樹脂層の厚みは平均25μm程度であることがわかった。
【0127】
得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりもなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は45GPa、引張強度は580MPaと、実施例1と同等レベルであった。追加樹脂の帯状不織布の幅が非常に狭かったために、切り込みのすべてを覆えていなかった可能性がある。
【0128】
(実施例46、47)
追加樹脂である不織布基材の付与面積が異なる他は実施例45と同様にして繊維強化プラスチックを得た。テープ状の不織布基材を裁断する際、実施例46が3mm幅、実施例47が20mm幅とし、切り込みが不織布テープで覆われるように切込プリプレグ基材上に、切り込みがテープ状の不織布基材の幅中心になるよう配置した。具体的には切り込みから不織布基材の幅端部までの距離が、実施例46が繊維方向に±1.5mm、実施例47が繊維方向に±10mmとなるよう、配置した。実施例45と同様に、追加樹脂層は層状に配置されており、切込プリプレグ基材の層内に入り込んでいないことが確認され、平均で25μm程度の厚みであった。
【0129】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりはなく、いずれも最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は37〜44GPaと若干低めながら、引張強度は590〜680MPaと実施例1同等以上の高い物性を発現した。実施例47では、追加樹脂の覆う面積が大きくなるにつれ、弾性率や引張強度が若干低下する傾向が見られた。
【0130】
(実施例48)
実施例45と同様にして得た追加樹脂である不織布基材を、実施例1の切込プリプレグ基材の両面の全面に付与した以外は実施例1と同様にして、繊維強化プラスチックを得た。実施例45と同様に、追加樹脂層は層状に配置されており、切込プリプレグ基材の層内に入り込んでいないことが確認され、平均で25μm程度の厚みであった。
【0131】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりはなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張強度は590MPaと実施例1同等であったが、引張弾性率は34GPaとVfが低下したため大幅に下がってしまったが、層間全面に引張伸度の高い追加樹脂が配されたことで、面外荷重に対しての耐久性が向上する効果を得た。
【0132】
<積層構成の比較(表9)>
(参考例1、2)
実施例1の積層構成を変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。参考例1では実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材を8層同方向に積層した[0]の積層基材を用いた。参考例2では実施例1の切り込みを入れた切込プリプレグ基材を16層積層した[0/45]4sの積層基材を用いた。
【0133】
参考例1で得られた繊維強化プラスチックは、90°方向にのみ流動し、0°方向にはところどころヒゲのように繊維が飛び出している部分はあるが、基本的に流動していなかった。0°方向のキャビティの空隙には搾り出された樹脂が溜まり、外観品位も悪かった。参考例2で得られた繊維強化プラスチックは、キャビティ全体に流動はしているが、積層構成と同様に繊維の流れが異方性であり、繊維のうねりが大きかった。また、得られた繊維強化プラスチックはソリが大きかった。その他、いずれの繊維強化プラスチックも最外層の切り込み部においても、樹脂リッチ部や隣接層の強化繊維がのぞいている部位が多く見られた。
【0134】
以下、比較例を示す。
【0135】
<基材の形態の比較(表1)>
(比較例1)
プリプレグ基材に切り込みを入れなかった他は、実施例1と同様とした。
【0136】
得られた繊維強化プラスチックは積層基材の段階からほとんど流動することなく、ほぼ250×250mmの大きさであり、マトリックス樹脂が搾り出されて金型との隙間に樹脂バリが出来ていた。樹脂が搾り出されているため、表面ががさがさしており、製品には適用できなさそうだった。
【0137】
(比較例2)
実施例1と同様のエポキシ樹脂組成物を厚めに塗布した樹脂フィルムを作成した。次に、長さ25mmにカットされた炭素繊維束(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、12,000本)を単位面積あたりの重量が125g/mになるよう均一に樹脂フィルム上に落下、散布した。さらにもう一枚の樹脂フィルムを被せて、カットされた炭素繊維を挟んだ後、カレンダーロールを通過させ、繊維体積含有率Vf55%のSMCシートを作製した。このSMCシートを250×250mmに切り出し、16層積層して、積層基材を得た後、実施例1と同様に成形し、繊維強化プラスチックを得た。
【0138】
得られた繊維強化プラスチックはその端部まで繊維が充分に流動していた。わずかながらソリが発生した一方、繊維分布の粗密から樹脂リッチ部でヒケが発生し、平滑性に劣った。引張弾性率は33GPaと繊維が真直でないためか理論値よりかなり低く、引張強度も220MPa、そのCV値は12%とバラツキが大きく、構造材には適用できそうになかった。
【0139】
(比較例3)
マトリックス樹脂としてビニルエステル樹脂(ダウ・ケミカル(株)製、デラケン790)を100重量部、硬化剤としてtert−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、パーブチルZ)を1重量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製、SZ−2000)を2重量部、増粘剤として酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、MgO#40)を4重量部用いて、それらを十分に混合撹拌し、樹脂ペーストを得た。樹脂ペーストをドクターブレードを用いて、ポリプロピレン製の離型フィルム上に塗布した。その上から、比較例2と同様の長さ25mmにカットされた炭素繊維束を単位面積あたりの重量が500g/mになるよう均一に落下、散布した。さらに、樹脂ペーストを塗布したもう一方のポリプロピレンフィルムとで樹脂ペースト側を内にして挟んだ。炭素繊維のSMCシートに対する体積含有量は40%とした。得られたシートを40℃にて24時間静置することにより、樹脂ペーストを十分に増粘化させて、SMCシートを得た。このSMCシートを250×250mmに切り出し、4層積層して、積層基材を得た後、実施例1と同様に成形し、繊維強化プラスチックを得た。
【0140】
得られた繊維強化プラスチックはその端部まで繊維が十分に流動していた。わずかながらソリが発生した一方、樹脂含有成分が多い分平滑性は比較例2よりは優れていたが、若干のヒケが発生した。引張弾性率は30GPa、引張強度は160MPaと全体的に低く、引張強度のCV値は16%とバラツキが大きいため、構造材には適用できそうになかった。
【0141】
(比較例4)
比較例3と同様に樹脂ペーストを作成してポリプロピレンフィルム上に樹脂ペーストを塗布した後、長さ25mmにカットされたガラス繊維束(引張強度1,500MPa、引張弾性率74GPa、800本)を単位面積あたりの重量が700g/mになるよう均一に落下、散布した。以後、比較例3と同様に、繊維強化プラスチックを得た。
【0142】
得られた繊維強化プラスチックはその端部まで繊維が十分に流動していた。わずかながらソリが発生した一方、樹脂含有成分が多い分平滑性は比較例2よりは優れていたが、若干のヒケが発生した。引張弾性率は15GPa、引張強度は180MPaと全体的に低く、引張強度のCV値は14%とバラツキが大きいため、構造材には適用できそうになかった。
【0143】
<切り込み角度の比較(表3)>
(比較例5、6)
切り込みの角度を変えたほかは実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。比較例5は繊維からの角度が1°、比較例6は45°の方向に連続的な切り込みを設けた。
【0144】
比較例5については、切り込み角度が小さいため、切り込み同士の間隔が0.5mm程度と小さく、裁断や積層に難があった。得られた繊維強化プラスチックは、100mm以下に裁断しきれていない繊維が残っていたためか、若干繊維がうねっていたが、端部まで繊維が流動していた。ソリはなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。引張弾性率は45GPa、引張強度は650MPaと高かったが、引張強度のCV値が10%と高く、生産安定性に欠けていた。一方、比較例6は繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなかったが、最外層の切り込み部において、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている領域が多く見受けられ、若干それらの部位でヒケが見られた。引張弾性率は45GPaであったが引張強度は330MPaと実施例1や実施例9〜12と比較して大きく下がった。
【0145】
(比較例7)
切り込みの角度を90°としたほかは実施例3と同様にして繊維強化プラスチックを得た。切り込みのパターンは図3のa)のとおりであり、切り込みの長さは10mmであり、繊維長さLは30mmである。隣り合う切り込みの列は繊維直交方向に10mmずれている。すなわち、切り込みの列のパターンは2パターンである。さらに、隣り合う列の切り込みが互いに切り込んでいる。
【0146】
得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、ソリもなかったが、最外層の切り込み部において、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている領域が多く見受けられ、若干それらの部位でヒケが見られた。引張弾性率は43GPa、引張強度は430MPaと実施例1や実施例9〜12と比較して大きく下がった。
【0147】
<繊維長さの比較(表5)>
(比較例8、9)
実施例1の切り込みパターンにおいて、切り込みの間隔を変えることにより繊維長さLを変えた以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれLは、比較例8では7.5mm、比較例9では120mmとした。
【0148】
比較例8においては、得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりなく、その端部まで繊維が十分に流動していた。ソリもなく、良好な外観品位、平滑性を保っていたが、引張強度が4400MPaと実施例1や実施例16〜18と比較して低い値となった。比較例9については、得られた繊維強化プラスチックは、金型のキャビティ全面に繊維が流動しきっておらず、端部に樹脂リッチ部が見られた。繊維はうねり、ソリも発生した。
【0149】
<層厚みの比較(表7)>
(比較例10、11)
実施例1のプリプレグ基材の単位面積あたりの炭素繊維重さを変えることにより切込プリプレグ基材厚みを変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれ比較例10が単位面積あたりの炭素繊維重さが25g/m、切込プリプレグ基材厚みが0.025mm、比較例11が400g/m、0.4mmとした。
【0150】
得られた繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりなく、その端部まで繊維が充分に流動しており、ソリもなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。しかしながら、比較例10は切込プリプレグ基材厚みが極めて薄いため、製造コストが非常に高くなる、という問題点があった。また、比較例11の引張強度は320MPaと実施例1や実施例26、27と比較してかなり低くなることがわかった。
【0151】
<繊維含有率の比較(表8)>
(比較例12、13)
実施例1の切込プリプレグ基材の単位面積あたりの炭素繊維重さを変えることにより炭素繊維の体積含有率Vfを変えた以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチックを得た。それぞれ比較例12が単位面積あたりの炭素繊維重さが158g/m、Vfが70%、比較例13が90g/m、Vfが40%とした。
【0152】
比較例12で得られた繊維強化プラスチックは繊維がうねり、金型との摩擦を受ける表面部で端部まで繊維が流動していなかった。表面部には樹脂欠けがあり、外観品位は悪く、ソリも発生した。比較例13で得られた繊維強化プラスチックはソリがなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。しかしながら、引張弾性率36GPa、引張強度440MPaと実施例1や実施例28、29と比較してかなり低い値であった。
【0153】
【表1】

【0154】
【表2】

【0155】
【表3】

【0156】
【表4】

【0157】
【表5】

【0158】
【表6】

【0159】
【表7】

【0160】
【表8】

【0161】
【表9】

【0162】
【表10】

【0163】
【表11】

【0164】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の切込プリプレグ基材の切り込みパターンの一例を示す拡大平面図である。
【図2】本発明の切込プリプレグ基材の切り込みパターンの一例を示す拡大平面図である。
【図3】比較用の切込プリプレグ基材の切り込みパターンの数例を示す平面図である。
【図4】本発明の切込プリプレグ基材の切り込みパターンの数例を示す平面図である。
【図5】比較用の積層体、繊維強化プラスチックの一例を示す平面図および断面図である。
【図6】本発明の積層体、繊維強化プラスチックの一例を示す平面図および断面図である。
【図7】本発明の積層体、繊維強化プラスチックの一例を示す平面図および断面図である。
【図8】本発明の切込プリプレグ基材の製造方法の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の切込プリプレグ基材の製造方法の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の2層積層基材の一例を示す平面図である。
【図11】本発明の切込プリプレグ基材の一例を示す断面図である。
【図12】本発明の切込プリプレグ基材の一例を示す断面図である。
【図13】本発明の切込プリプレグ基材の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0166】
1:繊維長手方向
2:繊維直交方向
3:強化繊維
4:強化繊維の不連続端(切り込み)
4a:連続的な切り込み
4b(4b,4b):断続的な切り込み
4c:上層の切り込み
4d:下層の切り込み
4e:層の厚み方向に貫かない切り込み
4f:厚み方向に斜めの切り込み
5:切り込みと繊維方向のなす角度Θ
6:繊維方向に対になる切り込みで分断された繊維長さL
7:切込プリプレグ基材
8:切り込み同士で互いに切り込んだ幅
9:切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs
10:積層基材
11:繊維強化プラスチック
12:短繊維層
13:強化繊維の存在しない領域(切り込み開口部)
14:隣接層
15:繊維束端部
16:樹脂リッチ部
17:層うねり
18:強化繊維の回転
19:回転ローラー
20:螺旋状の刃
21:2層基材
22:切込プリプレグ基材厚み
23:上面下面の切り込み同士で互いに切り込んだ厚み方向の幅
24:せん断距離S
25:平均繊維分断線
26:切り込みの傾き角度θ
27:複合切込プリプレグ基材
28:追加樹脂
29:切り込みを挿入する押し切り刃
30:端部処理用の回転刃
31:プリプレグ基材(もしくは繊維束)を配置する移動ヘッド
32:切り込みを挿入する回転刃
33:プリプレグ基材長手方向
34:プリプレグ基材幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ基材であって、該プリプレグ基材の全面に強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内の切り込みを有し、実質的にすべての強化繊維が前記切り込みにより分断され、前記切り込みにより分断された強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内であり、前記プリプレグ基材の厚みHが30〜300μmであり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内である切込プリプレグ基材。
【請求項2】
前記切り込みが直線状に入っている請求項1に記載の切込プリプレグ基材。
【請求項3】
前記切り込みにより分断された強化繊維のすべてが実質的に一定の繊維長さLである請求項1または2に記載の切込プリプレグ基材。
【請求項4】
前記切り込みが連続して入れられている請求項1〜3のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【請求項5】
前記切り込みが、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切り込みであり、前記切り込みと前記切り込みを繊維長手方向に隣接した切り込みの幾何形状が同一である請求項1〜3のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【請求項6】
前記投影長さWsが30μm〜1.5mmの範囲内である請求項5に記載の切込プリプレグ基材。
【請求項7】
前記投影長さWsが1〜100mmの範囲内である請求項5に記載の切込プリプレグ基材。
【請求項8】
前記切込プリプレグ基材が炭素繊維と熱硬化性樹脂とから構成される請求項1〜7のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【請求項9】
前記切り込みが、前記切込プリプレグ基材の厚み方向に斜めに設けられており、任意の切り込みにおいて、前記切込プリプレグ基材の上面における強化繊維の分断線と下面における分断線との繊維方向の距離をSとすると、前記切込プリプレグ基材厚みHとをもちいて、次の(式1)から導かれる角度θが1〜25°の範囲内にある、請求項1〜8のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【数1】

【請求項10】
前記切り込みが、前記切込プリプレグ基材の上面と下面とのそれぞれから層を厚み方向に貫かずに設けられ、切り込みの深さHsが前記切込プリプレグ基材厚みHに対して0.4H〜0.6Hの範囲内であり、上面の切り込みと下面の切り込みとがそれぞれ0.01H〜0.1Hの範囲内で互いに切り込んでおり、上面の任意の切り込みAと繊維方向のなす角度Θaに対して、該切り込みAと交わる下面の切り込みBの繊維方向とのなす角度Θbが−Θa−5°〜−Θa+5°である請求項1〜8のいずれかに記載の切込プリプレグ基材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の切込プリプレグ基材の少なくとも一方の表面に層状の追加樹脂層を有し、該追加樹脂層の厚みが強化繊維の短繊維直径以上であり、かつ、切込プリプレグ基材の厚みの0.5倍以下の範囲内であり、該追加樹脂層が前記マトリックス樹脂より引張伸度が高く、形態がフィルム状または不織布状である、複合切込プリプレグ基材。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の切込プリプレグ基材の少なくとも一方の表面に、前記マトリックス樹脂より引張伸度が高い追加樹脂が、前記切込プリプレグ基材厚みHに対して前記切り込みから繊維方向の両方向にH〜100Hの範囲内に、強化繊維により形成される層内に入りこまずに前記切込プリプレグ基材表面上に層状に配置されており、前記追加樹脂の形態がフィルム状または不織布状である、複合切込プリプレグ基材。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の切込プリプレグ基材を2層積層し、該2層基材の上層の任意の切り込みCと交わる下層の切り込みDの交差角度が4〜90°の範囲内である積層基材。
【請求項14】
請求項1〜12にいずれか記載の切込プリプレグ基材を少なくとも一部に有してなる積層基材であって含む、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材が複数枚積層され、前記強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材が該プリプレグ基材の繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化されている積層基材。
【請求項15】
前記積層基材が請求項1〜12にいずれか記載の切込プリプレグ基材のみからなり、前記切込プリプレグ基材が擬似等方に積層されてなる積層基材。
【請求項16】
請求項14または15の積層基材を成形して得られた、繊維強化プラスチック。
【請求項17】
強化繊維が実質的に一方向に引き揃えられた層が、強化繊維の配向が異なる方向に少なくとも2層以上積層されてなる繊維強化プラスチックであって、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内であり、前記繊維強化プラスチックを構成する層として、層の全面に複数の、強化繊維が存在せずにマトリックス樹脂または隣接層の強化繊維のみで形成される切り込み開口部を有し、該切り込み開口部によって強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内に分断され、前記切り込み開口部の層表面における表面積が層の表面積の0.1〜10%の範囲内であり、平均厚みHcが15〜300μmの範囲内である短繊維層が少なくとも1層以上積層されている、繊維強化プラスチック。
【請求項18】
前記繊維強化プラスチックの最外層の面積が実質的に0である、請求項16または17に記載の繊維強化プラスチック。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれかに記載の切込プリプレグ基材の製造方法であって、強化繊維を一方向に引き揃えてマトリックス樹脂を含浸して予備プリプレグ基材を準備し、予備プリプレグ基材に、螺旋状に刃をローラー上に配置した回転刃ローラーを押し当てて切り込みを入れる、切込プリプレグ基材の製造方法。
【請求項20】
請求項9に記載の切込プリプレグ基材の製造方法であって、強化繊維を一方向に引き揃えてマトリックス樹脂を含浸して予備プリプレグ基材を準備し、予備プリプレグ基材に、螺旋状に刃をローラー上に配置した回転刃ローラーを上面または下面のいずれか一方から押し当てて切込プリプレグ基材の層の厚み方向に貫かない切り込みを入れ、しかる後に、前記回転刃ローラーを下面または上面のいずれか一方から押し当てて切込プリプレグ基材の厚み方向に層の厚み方向に貫かない切り込みを入れる、切込プリプレグ基材の製造方法。
【請求項21】
強化繊維とマトリックス樹脂とから構成される複数層の積層構造を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、請求項14または15の積層基材をチャージ率が50〜95%の範囲内で加圧成形し、最外層において、前記切り込み開口部の面積を実質的に0とする、繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−207545(P2008−207545A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13483(P2008−13483)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】