説明

制御装置、及び、制御方法

【課題】アイドリングストップ制御の停止させる複数の理由を適切に判別するとともに適切に記録することができる制御装置を提供する。
【解決手段】第2制御手段は、一の通信線を介して、第1制御手段へ第1異常と第3異常とを示す信号を送信し、同時期に第3異常と他の異常が発生した場合は、第1制御手段へ第3異常を示す信号を優先送信する。第1制御手段は、受信信号が第1異常パターンでかつRAMが初期化されている場合は第1異常を判別し、信号が第1異常パターン以外でかつRAMが初期化されている場合は第2異常を判別し、信号が第3異常パターンの場合は第3異常を判別し、信号が第3異常パターンでかつRAMが初期化されている場合は第2異常の判別を禁止する。従って、同時期に第3異常と他の異常が発生していて、他の異常が第1異常か第2異常かを特定できない場合に、第2異常が発生していると判別することを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ制御が停止される要因を判別して記録する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジン搭載車両においては、エンジンを効率的に運転することで燃費を良好にし、地球温室効果ガスの削減や資源の有効活用を図る環境技術が開発されている。その環境技術には、例えば、アイドリングストップ制御技術やハイブリッド制御技術などがある。
【0003】
アイドリングストップ制御とは、燃費を抑制するエンジン制御であって、ユーザによるイグニッションスイッチやプッシュスタートスイッチなどのユーザスイッチの操作によってエンジンを始動させてから、ユーザによるユーザスイッチの操作によってエンジンを停止させるまでにおいて、車速が0になって車両が停車するなどの条件を満たすとエンジンを停止させ、その後にユーザのアクセル操作を検知するなどの条件を満たすとエンジンを始動させる制御をいう。
【0004】
このような、アイドリングストップ制御は、制御装置が備えるマイコンなどの演算部がROMなどの記憶部に記憶された制御プログラムを実行することにより実現している。
【0005】
また、制御装置が備える演算部は、種々の事情の発生によりアイドリングストップ制御を停止する場合があり、ユーザからはそのような停止が何故起こったのかを知りたいという要求がある。従って、制御装置は停止した要因を記憶部へ記録しておき、記録しておいたその要因を表示部へ表示させて、ユーザにその要因を知らせることができるようにしている。
【0006】
例えば、特許文献1に、アイドリングストップ制御が停止した理由をユーザへ知らせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−267266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アイドリングストップ制御を停止する理由は、同時期に多数発生する場合があり、演算部は発生した理由を適切に判別して、適切に記録することができない虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、アイドリングストップ制御を停止させる複数の理由を適切に判別するとともに適切に記録することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、車両のエンジンを制御してアイドリングストップ制御を実行する制御装置であって、前記アイドリングストップ制御を実行する第1制御手段と、第1制御手段の異常を判定した場合に、第1制御手段の動作を初期化させる第2制御手段と、前記アイドリングストップ制御の際に利用するデータを記憶する揮発性記憶部と、前記異常を示すデータを記憶する不揮発性記憶部と、前記第2制御手段において、前記第1制御手段を初期化すべき第1異常と第2異常とを判定するとともに、前記車両の所定要素の異常である第3異常を判定する異常判定手段と、前記第2制御手段において、一の通信線を介して、前記第1制御手段へ前記第1異常と前記第3異常との何れかを示す信号を送信するとともに、同時期に前記第3異常と他の異常が発生した場合は、前記第1制御手段へ前記第3異常を示す信号を優先して送信する通信手段と、前記第1制御手段において、前記一の通信線を介して、受信する信号が前記第1異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第1異常と判別し、前記受信する信号が前記第1異常を示すパターン以外でかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第2異常と判別し、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンの場合は前記第3異常と判別する異常判別手段と、前記判別した異常を示すデータを前記不揮発性記憶部へ記録する異常記録手段と、を備え、前記異常判別手段は、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は、前記第2異常の判別を禁止することを特徴とする制御装置。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の制御装置において、更に、前記異常判別手段により前記第3異常と判別する場合に、アイドリングストップ制御を禁止する第1フェールセーフ制御手段を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の何れかに記載の制御装置において、前記第1制御手段の動作の初期化は、前記揮発性記憶部のデータを初期化することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1または請求項3の何れかに記載の制御装置において、更に、アイドリングストップ制御が実行されているか否かを示すデータを前記不揮発性記憶部へ記憶する記憶手段と、前記異常判別手段により前記第1異常、または、前記第2異常と判別する場合で、前記不揮発性記憶部にアイドリングストップ制御が実行されていることを示すデータが記憶されている場合に、アイドリングストップ制御を禁止する第2フェールセーフ制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5の発明は、請求項2および請求項4に記載の制御装置において、更に、ユーザへ報知する報知手段を備え、前記報知手段は、前記アイドリングストップ制御が禁止される場合は、ユーザへ報知することを特徴とする。
【0015】
また、請求項6の発明は、車両のエンジンを制御してアイドリングストップ制御を実行する制御方法であって、
第1制御手段が、前記アイドリングストップ制御を実行する第1制御工程と、
第2制御手段が、第1制御手段の異常を判定した場合に、第1制御手段の動作を初期化させる第2制御工程と、
前記第2制御手段において、第1制御手段を初期化すべき異常である第1異常と第2異常とを判定するとともに、前記車両の所定要素の異常である第3異常を判定する異常判定工程と、前記第2制御手段において、一の通信線を介して、第1制御手段へ前記第1異常と前記第3異常との何れかを示す信号を送信するとともに、同時期に前記第3異常と他の異常が発生した場合は、前記第1制御手段へ前記第3異常を示す信号を優先して送信する通信工程と、前記第1制御手段において、前記一の通信線を介して、受信する信号が前記第1異常を示すパターンでかつ前記アイドリングストップ制御の際に利用するデータを記憶する揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第1異常と判別し、前記受信する信号が前記第1異常を示すパターン以外でかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第2異常と判別し、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンの場合は前記第3異常と判別する異常判別工程と、前記判別した異常を示すデータを前記異常を示すデータを記憶する不揮発性記憶部とへ記録する異常記録工程と、を備え、前記異常判別工程は、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は、前記第2異常の判別を禁止することを特徴とする制御方法。
【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし8の発明によれば、前記制御装置は、前記第2制御手段において、一の通信線を介して、第1制御手段へ第1異常と第3異常とを示す信号を送信するとともに、同時期に第3異常と他の異常が発生した場合は、第1制御手段へ第3異常を示す信号を優先して送信する。前記第1制御手段において、一の通信線を介して、受信する信号が前記第1異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第1異常を判別し、前記受信する信号が前記第1異常を示すパターン以外でかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第2異常を判別し、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンの場合は前記第3異常を判別するとともに、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は、前記第2異常の判別を禁止する。従って、同時期に第3異常と他の異常が発生していて、他の異常が第1異常か第2異常かを特定できない場合に、第2異常が発生していると判別することを防ぐことができる。
【0017】
また、請求項2の発明によれば、前記制御装置は、更に、前記異常判別手段により、第3異常を判別する場合に、アイドリングストップ制御を禁止するフェールセーフ制御手段を備えるため、車両制御における不測の事態を回避することができる。

【0018】
また、請求項3の発明によれば、前記第第1制御手段の動作の初期化は、前記揮発性記憶部のデータを初期化するものであるため、アイドリングストップ制御を適切に実行することができる。
【0019】
また、請求項4の発明によれば、前記制御装置は、更に、アイドリングストップ制御が実行されているか否かを示すデータを前記不揮発性記憶部へ記憶する記憶手段と、前記異常判別手段により第1異常、または、第2異常を判定する場合で、前記不揮発性記憶部にアイドリングストップ制御が実行されていることを示すデータが記憶されている場合に、アイドリングストップ制御を禁止する第2フェールセーフ制御手段とを備えるため、車両制御における不測の事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、車両の制御システムを示す図である。
【図2】図2は、アイドリングストップ制御装置のシステムブロック図である。
【図3】図3は、エンスト要因を説明する図である。
【図4】図4は、車両制御のタイミングチャート図である。
【図5】図5は、車両制御のタイミングチャート図である。
【図6】図6は、車両制御のタイミングチャート図である。
【図7】図7は、車両制御のタイミングチャート図である。
【図8】図8は、車両制御のタイミングチャート図である。
【図9】図9は、車両制御のタイミングチャート図である。
【図10】図10は、車両制御のタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
<代表の実施の形態>
(車両の制御システム)
図1は代表の実施の形態における、車両の制御システムを示す。車両の制御システムは、例えば、CAN(Control Area Network)と呼ばれる車載ネットワークLに、複数の制御装置が接続されている。複数の制御装置は、各制御装置が制御する制御対象と接続されている。これら制御装置は、例えば、ECU(Electronic control Unit)と呼ばれる。
【0023】
複数の制御装置のうちゲートウェイ制御装置6は、複数の車載ネットワークを中継するものであって、複数の車載ネットワーク間において伝送されるデータの交通制御を行うものである。複数の車載ネットワークには、車両の走行に関連する制御装置が接続されたパワー系ネットワークL1と、情報提供に関連する制御装置が接続された情報系ネットワークL2と、電装品に関連する制御装置が接続されたボディ系ネットワークL3などがある。なお、メータ制御装置5は単独でゲートウェイ制御装置6に接続される。
【0024】
パワー系ネットワークL1には、アイドリングストップ制御装置1、エンジン制御装置2、バッテリ制御装置3、及び、トランスミッション制御装置4などの制御装置が接続されている。
【0025】
アイドリングストップ制御装置1は、演算部が主にエンジン回転数センサ12などからの入力値に基づいて、車両のエンジンをクランキング制御する際にその回転力を補助させるための制御対象であるスタータモータ11を制御する。エンジン制御装置2は、演算部が主にアクセルセンサ16などからの入力値に基づいて、エンジントルクを制御するための制御対象であるスロットルモータ13、インジェクタ14、及び、点火プラグ15を制御する。バッテリ制御装置3は、演算部が主にバッテリの電圧センサ17などからの入力値に基づいて、電力を蓄放電させるための制御対象であるスイッチ18を制御する。トランスミッション制御装置4は、演算部が主に変速レバーに接続される変速段センサ19などからの入力値に基づいて、変速段を変速させるための制御対象であるソレノイド20などを制御する。
【0026】
情報系ネットワークL2には、ナビゲーション制御装置7などが接続されている。
【0027】
ナビゲーション制御装置7は、演算部が主にGPS衛星から受信した位置データと記憶部に記憶されている地図データを制御対象である表示部において表示制御する。
【0028】
ボディ系ネットワークL3には、エアコン制御装置8、ライト制御装置9、及び、ワイパ制御装置10などが接続されている。
【0029】
エアコン制御装置8は、演算部が主に温度センサなどからの入力値に基づいて、車室内の空気を調整するための制御対象であるモータ22を制御する。ライト制御装置9は、演算部が主にユーザ操作によりオンにされた信号に基づいて、制御対象であるヘッドライト23などを点灯制御する。ワイパ制御装置10は、演算部が主にユーザ操作によりオンにされた信号に基づいて、制御対象であるワイパモータ24を制御する。
【0030】
単独でゲートウェイ制御装置6に接続されているメータ制御装置5は、演算部が主に各制御装置からの伝送される入力値や、各センサからの入力値に基づいて、制御対象である車速メータやエンジン回転数メータなどを有するパネル21を制御する。
【0031】
また、外部装置Xは、例えば、パワー系ネットワークの車載ネットワーク側コネクタX2へ外部装置Xに備わるケーブルのコネクタX1を接続し、ユーザ操作を受け付けて、車載ネットワークL1に接続されている制御装置へその操作に応じた制御を実行させる。具体的には、外部装置Xは、車載ネットワークを介して、アイドリングストップ制御装置1などの記憶部に記録されている情報を読み出して、読み出したその情報を外部装置Xの表示部へ表示させる機能を備えている。
【0032】
(制御装置)
アイドリングストップ制御装置1を図2に基づいて説明する。
【0033】
アイドリングストップ制御装置1は、主にアイドリングストップ機能を発揮する演算装置30(例えば、マイコン)、異常データなどのデータの書き込みと読み出しが可能な不揮発性記憶部であるEEPROM50、要素51、要素52、及び、要素53などの異常を判定するとともに演算装置30へ異常を通知する監視装置40を備える。
【0034】
演算装置30は、アイドリングストップ機能を発揮するための制御プログラムが書き込まれている不揮発性記憶部であるROM34、演算部が演算する際のデータを書き込みや読み出しが可能な揮発性記憶部であるNRAM33、及び、EEPROM50などに書き込まれるデータのバックアップデータの書き込みや読み出しが可能で、電源60(例えば、バッテリー)から導かれる第2系統より電力の供給を直接受ける不揮発性記憶部であるSRAM(STANDBY RAM)32を備える。
【0035】
また、ROM34に書き込まれている制御プログラムと、センサ12や車載ネットワークLなどからの入力信号に基づいてスタータモータ11を駆動制御する演算部31(例えば、CPU)を備える。
【0036】
なお、アイドリングストップ制御装置1は、電源60から導かれる第1系統より電力の供給を受けて、前述するアイドリングストップ機能を発揮させる。この第1系統は、ユーザによりイグニッションスイッチ、及び、プッシュスタートスイッチなどのユーザスイッチSWが操作されたことによって、車両の制御システムが起動される際に、アイドリングストップ制御装置1などの制御装置へ電力の供給を行う。他方で、第2系統は、ユーザスイッチSWの操作に関係なくSRAMへ常に電力の供給を行う。
【0037】
(第1制御部・演算装置)
第1制御部である演算装置30が実行する制御について説明する。演算装置30の演算部31は、主にアイドリングストップ制御を実行する。また、演算部31はフェールセーフ制御、異常判別制御、及び、異常記録制御を実行する。
【0038】
(アイドリングストップ制御)
アイドリングストップ制御とは、燃費を抑制するエンジン制御であって、ユーザスイッチSWの操作によりエンジンを始動させてから、ユーザによるユーザスイッチSWの操作によりエンジンを停止させるまでにおいて、車速が0になって車両が停車するなどの条件を満たすとエンジンを停止し、その後にユーザのアクセル操作を検知するなどの条件を満たすとエンジンを始動する制御をいう。この制御は、アイドリングストップ制御装置1の演算部31が他の電子部品やエンジン制御装置2などの制御要素と協働することによって実行する。
【0039】
(フェールセーフ制御)
フェールセーフ制御とは、演算部31が何らかの不具合により暴走する場合があり、その第1異常である暴走異常が発生した場合の不都合を回避する制御をいう。また、演算部31が動作するために必要な所定の電圧値(例えば、5V)が保障できない電圧(第2異常である減電圧異常)になった場合の不都合を回避する制御をいい、更に、監視装置40が複数の要素(例えば、要素51、要素52、要素53)の異常(第3異常である要素異常)を判定する場合の不都合を回避する制御をいう。
【0040】
演算部31の暴走異常は、第2制御部である監視装置40によって監視される(判定される)。監視装置40によってその暴走異常が判定されると、演算部31は、監視装置から送信されるリセット(初期化)信号を受信して自らの動作を初期化する。
【0041】
暴走異常を判定してから初期化するまでの制御を具体的に説明する。演算装置30は、複数の通信線b、c、dによって監視装置40と電気的に接続される。演算装置30の演算部31は、通信線dを介して、ウォッチドッグタイマ信号を監視装置40へ送信する。監視装置40は、通信線dを介して受信したウォッチドッグタイマ信号が、所定周期からなるパルス信号ではない場合に、演算部31が暴走したと判定して、通信線bを介して初期化信号を演算装置30へ送信する。通信線bを介して初期化信号を受信した演算装置30の演算部31は、自らの動作状態を初期化する。つまり、演算部31は、アイドリングストップ制御を初期の状態から実行し、演算部31が演算する際に利用するNRAM33に書き込まれているパラメータを初期値に設定する。または、SRAM32やEEPROM50から読み出した初期値や学習値をNRAM33へ書き込む。
【0042】
演算部31を初期化すべき減電圧異常は、第2制御部である監視装置40によって監視される(判定される)。監視装置40によってその減電圧異常が判定されると、演算部31は、監視装置から送信される初期化信号を受信して自らの動作を初期化する。
【0043】
減電圧異常を判定してから初期化するまでの制御を具体的に説明する。監視装置40は、電源60から供給される電力の電圧を制御・監視する電源IC41を備える。電源IC41は、電源60から供給される電力を演算部31が動作するために必要な所定の電圧値に変換するとともに、電源60から電源ICを中継して(電力線aを介して)演算部31へ供給する電力の電圧値が所定の電圧値以下となるか否かを判定する(減電圧異常を判定する)。監視装置40は、備える電源IC41が減電圧異常を判定すると、通信線bを介して初期化信号を演算装置30へ送信する。通信線bを介して初期化信号を受信した演算装置30の演算部31は、自らの動作状態を初期化する。
【0044】
複数の要素51、52、53の異常は、第2制御部である監視装置40によって監視される(判定される)。演算部31は、通信線cを介して、監視装置40から送信されるその要素異常の種類に応じたデューティ比からなるパルス信号に基づいて、要素異常を判別する。要素異常を判別した場合は、演算部31は、要素異常の種類に応じたフェールセーフ制御を実行する。かかる要素異常の判別の詳細については後述する。
【0045】
(異常判別制御)
異常判別制御とは、演算装置30の演算部31が、監視装置40が異常判定を行った場合に通信線cを介して送信する信号に基づいて異常の種類を判別する制御をいう。
【0046】
演算部31は、一の通信線cから受信するパルス信号のデューティ比に基づいて、監視装置40が判定した異常の種類を判別する。異常の種類は、前述したように、演算部31の暴走異常と演算部31を初期化すべき減電圧異常とがある。この他に、監視装置40が判定する、要素51、要素52、及び、要素53の異常がある。要素とは、アイドリングストップ制御装置1が、制御するハードウェアの電流センサや、アイドリングストップ制御装置1の演算部31がアイドリングストップ制御を実行する際に、協働する電子部品などをいう。
【0047】
監視装置40から演算部31へ異常の種類を伝達する通信線の数は、コストや制御負荷などの問題から極力少ないほうが良いため、一の通信線cのみにより構成されている。
【0048】
一の通信線cのみからの信号によって、演算部31が異常の種類を判別するために、送信するパルス信号のデューティ比を異常の種類に応じて異ならせている。例えば、正常時のデューティ比をパターンAとし、暴走異常のデューティ比をパターンBとし、減電圧異常のデューティ比をパターンAとパターンB以外のデューティ比としている。これによれば、演算部31は、通信線cから受信するパルス信号のデューティ比がパターンAの場合は正常と判別でき、受信するパルス信号のデューティ比がパターンBでかつNRAM33のパラメータが初期化されている場合は、演算部31を初期化すべき暴走異常と判別でき、受信するパルス信号のデューティ比がパターンAとパターンB以外でかつNRAM33のパラメータが初期化されている場合は、演算部31を初期化すべき減電圧異常と判別できる。
【0049】
つまり、演算部31が異常の場合は監視装置40からの初期化信号に基づいてNRAM33のパラメータを初期化するので、監視装置40により演算部31が初期化されたことで演算部31に初期化すべき異常が発生したことを判別でき、かつ、そのデューティ比に基づいて演算部31の異常の種類を判別できる。
【0050】
また、一の通信線cにおいて、要素異常の種類をデューティ比に基づいて判別するために、例えば、要素51異常のデューティ比をパターンCとし、要素52異常のデューティ比をパターンDとし、要素53異常のデューティ比をパターンEとして、予め設定しておく。これによれば、演算部31は、通信線cから受信するパルス信号のデューティ比がパターンCの場合は要素51異常と判別でき、パターンDの場合は、要素52異常と判別でき、パターンEの場合は、要素53異常と判別できる。
【0051】
つまり、演算部31が通信線cから受信するパルス信号のデューティ比に基づいて要素異常の種類が判別できる。
【0052】
(複数異常同時発生)
ここで、監視装置40は、同時期に複数の異常を判定した場合には、一の通信線cを介して、演算装置30へ通知する必要性が高い異常を優先して送信する。その優先レベルは、図3に示すように、最もその必要性が高い要素異常が優先レベル1、その次に高い減電圧異常が優先レベル2、その次に高い暴走異常が優先レベル3、最も必要性が低い正常が優先レベル4と設定する。
【0053】
監視装置40は、同時期に要素異常と減電圧異常とを判定する場合は、一の通信線cを介して、要素異常を示すデューティ比のパルス信号を演算装置30へ優先して送信する。これは、演算装置30へ通知しなければならない異常の必要性のレベルが高い異常を優先させている。
【0054】
なぜならば、演算部31の暴走異常並びに減電圧異常を監視装置40が発生した場合は、演算装置30は、監視装置40から、他の通信線bを介して、初期化信号を受信して初期化を実行する(フェールセーフ制御を実施する)ことができるが、要素異常が発生した場合に実行するフェールセーフ制御は、その異常を一の通信線cから受信するパルス信号により判別して実行するものであるため、要素異常は他の異常よりも通知する必要性は高い。
【0055】
しかし、同時期に、暴走異常若しくは減電圧異常、及び、要素異常が共に発生した場合には、不都合が生じる虞がある。つまり、そのような状況においては、演算部31は、一の通信線cから受信するパルス信号のデューティ比が要素異常(パターンC、パターンD、または、パターンEの何れか)を示すものであり、かつ、NRAM33のパラメータが初期化されているので、要素異常を判別するとともに、暴走異常か減電圧異常かを特定できないにもかかわらず、減電圧異常と判別してしまう。なぜならば、演算部31は、前述したように、通信線cから受信するパルス信号のデューティ比が、要素異常を示すものであるため要素異常を判別するが、パターンC、パターンD、及び、パターンEは、パターンA、及び、パターンB以外に該当し、かつ、NRAM33のパラメータが初期化されている場合に該当するため減電圧異常と判別するためである。すると、実際には、要素異常と同時に発生した異常が暴走異常であるのに減電圧異常と誤判別してしまい、後述する異常記録制御において、誤った記録がされてしまう虞がある。
【0056】
そこで、演算部31は、一の通信線cから受信するパルス信号のデューティ比が要素異常を示すパターン(パターンC、パターンD、または、パターンEの何れかのパターン)でかつNRAM33のパラメータが初期化されている場合は、演算部31の減電圧異常の判別を禁止する。これにより、誤判別に基づく誤った記録がされるという不都合を回避できる。
【0057】
(異常記録制御)
演算部31は、異常判別制御を実行して判別した異常の内容をEEPROM50へ書き込む。これにより、異常に伴って実行されたフェールセーフ制御、例えば、アイドリングストップ制御が禁止された要因を記録することができ、ユーザは、車両外部装置X(例えば、外部ツール)を使用して、EEOROM50に書き込まれている異常内容を読み出して、その異常内容を外部装置Xの表示部へ表示させることによって、アイドリングストップ制御が禁止された要因を知ることができる。なお、異常の内容が書き込まれる記憶部は不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32でも良い。
【0058】
異常内容を記録する方法は、暴走異常要因カウンタ、減電圧異常要因カウンタ、要素異常要因カウンタ、及び、ユーザ操作要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、夫々の異常を判別するたびに夫々の異常に応じたカウンタをカウントアップする。なお、要素異常要因カウンタは、要素51、要素52、要素53の夫々を設定しても良い。これにより、演算部31は、異常の要因と異常の発生頻度を記録することができる。
【0059】
また、演算部31がアイドリングストップ制御を禁止する要因は、監視装置40により判定される異常とは異なる要因がある。例えば、図3に示すように、次のような要因がある。車両事情に分類される、他の制御装置から禁止要求を受信する場合、車両事情に分類される、車両が外部の物体と衝突した場合に検知される衝突検知信号を受信する場合、ユーザ事情に分類される、ユーザスイッチSWのOFF信号を受信する場合、または、ユーザ事情に分類される、ボンネットフードスイッチのOFF信号を受信する場合。これらの要因が発生する場合にも、アイドリング制御を禁止して不測の事態を回避している。
【0060】
(第2制御部・監視装置)
第2制御部である監視装置40が実行する制御について説明する。監視装置40は、第1異常である暴走異常の判定制御を実行する。また、監視装置40は、第2異常である減電圧異常の判定制御、第3異常である所定要素の異常判定制御、及び、異常信号送信制御を実行する。
【0061】
(暴走異常判定制御)
暴走異常判定制御とは、前述した通り、監視装置40が演算装置30の異常を監視する(判定する)制御を言う。監視装置40がその暴走異常を判定すると、演算部31へ、演算部31の動作を初期化させる初期化信号を送信して、演算装置30の動作を初期化させる。
【0062】
暴走異常を判定してから初期化するまでの制御を具体的に説明する。監視装置40は、複数の通信線b、c、dによって演算装置30と電気的に接続される。監視装置40は、演算装置30の演算部31から、通信線dを介して、ウォッチドッグタイマ信号を受信する。監視装置40は、通信線dを介して受信したウォッチドッグタイマ信号が、所定周期からなるパルス信号ではない場合に、演算部31が暴走したと判定して、通信線bを介して、演算装置30へ初期化信号を送信する。通信線bを介して初期化信号を受信した演算装置30の演算部31は、自らの動作状態を初期化する。
【0063】
(減電圧異常判定制御)
減電圧異常判定制御とは、監視装置40が演算装置30の異常を監視する(判定する)制御を言う。監視装置40が減電圧異常を判定すると、演算装置30へ初期化信号を送信して演算装置30の動作を初期化させる。
【0064】
減電圧異常を判定してから初期化するまでの制御を具体的に説明する。監視装置40は、電源60から供給される電力の電圧を制御・監視する電源IC41を備える。電源IC41は、電源60から供給される電力を演算部31が動作するために必要な所定の電圧値に変換するとともに、電源60から電源ICを中継して(電力線aを介して)演算部31へ供給する電力の電圧値が所定の電圧値以下となるか否かを判定する(減電圧異常を判定する)。監視装置40は、備える電源IC41が減電圧異常を判定すると、通信線bを介して初期化信号を演算装置30へ送信する。通信線bを介して初期化信号を受信した演算装置30の演算部31は、自らの動作状態を初期化する。
【0065】
(所定要素異常判定制御)
所定要素異常判定制御とは、監視装置40が所定要素の異常を監視する(判定する)制御をいう。監視装置40がその要素異常を判定すると、要素異常に応じたデューティ比からなるパルス信号を、通信線cを介して、演算装置30へ送信して、前述した、フェールセーフ制御や異常記録制御を演算装置30に実行させる。
【0066】
(異常信号送信制御)
異常信号送信制御とは、監視装置40が、判定した異常を、異常の種類に応じたデューティ比からなるパルス信号を生成して、一の通信線cを介して、演算部31へ送信する制御をいう。また、同時期に複数の異常を判定した場合に、優先レベルの高い異常を示すデューティ比からなるパルス信号を生成して、一の通信線cを介して、演算装置30へ送信する際の制御を言う。その優先レベルは、図3に示すように、演算装置30へ通知する最も必要性が高い要素異常が優先レベル1、その次に高い電圧異常が優先レベル2、その次に高い暴走異常が優先レベル3、最も必要性が低い正常が優先レベル4とし、監視装置40は、同時期に要素異常と電圧異常とを判定する場合に、一の通信線cを介して、要素異常を示すデューティ比のパルス信号を他の信号よりも優先して演算装置30へ送信する。これは、演算装置30へ通知しなければならない異常の必要性に従って送信制御している。
【0067】
つまり、監視装置40が、演算部31の暴走異常並びに減電圧異常を判定した場合は、監視装置40が、他の通信線bを介して、演算装置30へ初期化信号を送信して初期化させる(フェールセーフ制御させる)ことができるが、要素異常を判定した場合に実行させるフェールセーフ制御は、その異常を一の通信線cから送信するパルス信号により判別させて実行させるものであるため、要素異常は他の異常よりも演算装置30へ通知する必要性は高い。
【0068】
(減電圧異常発生時シーケンス1)
アイドリングストップ制御装置1において、エンジン初回始動時に減電圧異常が発生した場合のシーケンス制御を図4に基づいて説明する。エンジン初回始動とは、ユーザがユーザスイッチSWを操作した後に、初めてエンジンが始動することを言う。
【0069】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算部31が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算装置30は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0070】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0071】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0072】
時間軸t3以降において、演算部31へ供給する電力の電圧に、減電圧異常が発生したため、監視装置40が備える電源IC41が減電圧異常を判定し、通信線bを介して、演算部31へ初期化信号を送信する。このタイミングで減電圧異常が発生する原因は、電源60(車両が備えるバッテリ)の蓄電容量が低下している状態で、エンジンを始動する際に駆動するスタータモータ11へ電力を供給したことが考えられる。つまり、そのような状態で、他の制御において電力が供給されると、演算部31へ供給する電力の電圧が減って、演算部31の動作が不安定になるので、初期化させる。
【0073】
時間軸t4において、監視装置40は減電圧異常を判定すると、通信線cを介して、減電圧異常を示すデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信する。
【0074】
時間軸t5において、演算部31は、監視装置40から、通信線bを介して、受信した初期化信号に基づいて、その動作を初期化させる。演算部31は動作を初期化することによってウォッチドッグタイマ信号を正常に出力する。
【0075】
時間軸t6において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードを1に変更する。ここで、アイドリングストップモードとは、アイドリングストップ機能が発揮される状態を言う。アイドリングストップモード1とは、アイドリングストップ機能が発揮される状態におけるエンジン回転状態を言う。アイドリングストップモード2とは、アイドリングストップ機能が発揮される状態におけるエンジン停止要求状態を言う。アイドリングストップモード3とは、アイドリングストップ機能が発揮される状態におけるエンジン停止状態を言う。アイドリングストップモード4とは、アイドリングストップ機能が発揮される状態においてエンジンを停止してからエンジンを始動した状態を言う。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0076】
時間軸t7において、演算部31は、EEPROM50の減電圧異常要因カウンタはカウントアップしない。減電圧異常要因カウンタは、アイドリングストップ機能が発揮される状態において、減電圧異常が発生した場合に、カウントアップするカウンタであって、アイドリングストップモードが2以上にならない限り、アイドリングストップ機能が発揮されているとは言えないため、この状況においてはカウントアップしない。
【0077】
(減電圧異常発生時シーケンス2)
アイドリングストップ機能を発揮しているアイドリングストップ制御装置1における、エンジン始動時に、減電圧異常が発生した場合のシーケンス制御を図5に基づいて説明する。
【0078】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算部31が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算装置30は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0079】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0080】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0081】
時間軸t4において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン回転状態であることを示す1に変更する。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0082】
時間軸t5において、演算部31は、車両の車速が0になるなどの条件を満たしたため、エンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力し、NARAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止要求状態であることを示す2に変更する。
【0083】
更に、時間軸t5において、演算装置30は、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグをオンにする。このフラグは、アイドリングストップ制御装置1において、アイドリングストップ機能が発揮されていることを判定するためのフラグであり、アイドリングストップモードを2にすると同時にオンにする。また、アイドリングストップモード1はエンジン回転状態を示すデータであって、通常のエンジン回転状態と区別がつかないため、そのタイミングではオンにせず、エンジン停止要求状態を示すアイドリングストップモードが2になって初めてオンにする。
【0084】
時間軸t6において、演算部31は、時間軸t5においてエンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力した後に、エンジン回転数センサ12からの受信信号に基づきエンジンの停止を判定して、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態であることを示す3に変更する。
【0085】
時間軸t7において、ユーザがギヤポジションをドライブモードの状態でブレーキをオフにしてアクセルを踏み込んだため、演算部31はそれらの操作状態を示す信号を受信する。演算部31は、それらの信号を受信したことにより、ユーザからエンジン始動要求があったと判断し、スタータ信号をオンにしてエンジンを始動させる。
【0086】
時間軸t8において、演算部31は、エンジンが始動させたと同時に、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態からエンジン始動状態になったことを示す4に変更する。
【0087】
時間軸t8以降において、演算部31へ供給する電力の電圧に、減電圧異常が発生したため、監視装置40が備える電源IC41が減電圧異常を判定し、通信線bを介して、演算装置30へ初期化信号を送信する。このタイミングで減電圧異常が発生する原因は、電源60(車両が備えるバッテリ)の蓄電容量が低下している状態で、エンジンを始動する際に駆動するスタータモータ11へ電力を供給したことが考えられる。つまり、そのような状態で、他の制御において電力が供給されると、演算部31へ供給する電力の電圧が減って、演算部31の動作が不安定になるので、初期化させる。
【0088】
時間軸t9において、演算部31は、監視装置40から、通信線bを介して、受信した初期化信号に基づいて、その動作を初期化させる。演算部31は動作を初期化することによってウォッチドッグタイマ信号を正常に出力する。また、演算部31はその動作を初期化するに伴って、NRAM33に書き込まれているパラメータも初期化する。従って、演算部31は、NRAM33に書き込まれているアイドリングストップモードを初期値である0に変更する。
【0089】
更に、時間軸t9において、監視装置40は減電圧異常を判定すると、通信線cを介して、減電圧異常を示すデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信する。
【0090】
時間軸t10において、減電圧異常が解消されたため、演算部31はウォッチドッグ信号を出力する。
【0091】
時間軸t10において、演算部31は減電圧異常が解消された時間軸t10から所定時間(例えば、10ms)経過した後に、異常判別処理を実行する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0092】
時間軸t11において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、受信したパルス信号がパターンA及びパターンB以外で、かつ、NRAM33のアイドリングストップモードが初期値の0を示し、更に、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグがオンであるため、演算部31がアイドリングストップ機能を発揮中に減電圧異常が発生したと判定し、EEPROM50に設定されている減電圧異常要因カウンタをカウントアップする。なお、減電圧異常要因カウンタを設定する記憶部は、不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32であっても良い。
【0093】
これにより、車両がアイドリングストップモード状態においてエンストになった要因を不揮発性記憶部へ記録することができる。
【0094】
(暴走異常発生時シーケンス3)
アイドリングストップ機能を発揮しているアイドリングストップ制御装置1における、エンジン始動時に、暴走異常が発生した場合のシーケンス制御を図6に基づいて説明する。
【0095】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算部31が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0096】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0097】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0098】
時間軸t4において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン回転状態であることを示す1に変更する。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0099】
時間軸t5において、演算部31は、車両の車速が0になるなどの条件を満たしたため、エンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力し、NARAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止要求状態であることを示す2に変更する。
【0100】
更に、時間軸t5において、演算装置30は、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグをオンにする。このフラグは、アイドリングストップ制御装置1において、アイドリングストップ機能が発揮されていることを判定するためのフラグであり、アイドリングストップモードを2にすると同時にオンにする。また、アイドリングストップモード1はエンジン回転状態を示すデータであって、通常のエンジン回転状態と区別がつかないため、そのタイミングではオンにせず、エンジン停止要求状態を示すアイドリングストップモードが2になって初めてオンにする。
【0101】
時間軸t6において、演算部31は、時間軸t5においてエンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力した後に、エンジン回転数センサ12からの受信信号に基づきエンジンの停止を判定して、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態であることを示す3に変更する。
【0102】
時間軸t7において、監視装置40は、通信線dを介して、演算部31から受信したウォッチドッグタイマ信号が、所定周期からなるパルス信号ではないため、演算部31に暴走異常が発生したと判定する。監視装置40は、演算部31の暴走異常を判定すると、通信線bを介して初期化信号を演算部31へ送信する。通信線bを介して初期化信号を受信した演算部31は、自らの動作状態を初期化する。演算部31は動作を初期化することによってウォッチドッグタイマ信号を正常に出力する。また、演算部31はその動作を初期化するに伴って、NRAM33に書き込まれているパラメータも初期化する。従って、演算部31は、NRAM33に書き込まれているアイドリングストップモードを初期値である0に変更する。
【0103】
更に、時間軸t8において、監視装置40は暴走異常を判定すると、通信線cを介して、暴走異常に応じたデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信する。また、暴走異常が解消されたため、演算部31はウォッチドッグ信号を出力する。
【0104】
時間軸t9において、演算部31は暴走異常が解消された時間軸t8から所定時間(例えば、10ms)経過した後に、異常判別処理を実行する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0105】
時間軸t9において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別制御を実施し、受信したパルス信号がパターンBで、かつ、NRAM33のアイドリングストップモードが初期値の0を示し、更に、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグがオンであるため、演算部31がアイドリングストップ機能を発揮中に暴走異常が発生したと判定し、EEPROM50に設定されている暴走異常要因カウンタをカウントアップする。なお、減電圧異常要因カウンタを設定する記憶部は、不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32であっても良い。
【0106】
これにより、車両がアイドリングストップモード状態においてエンストになった要因を不揮発性記憶部へ記録することができる。
【0107】
(減電圧異常・要因異常発生時シーケンス4)
アイドリングストップ機能を発揮しているアイドリングストップ制御装置1における、エンジン始動の際に、同時期に減電圧異常と要素異常とが発生した場合のシーケンス制御を図7に基づいて説明する。なお、同時期に異常が発生するとは、複数の異常のうち何れか一の異常の発生を判定してから所定時間(例えば、5ms)以内に、複数のいじょうのうち他の異常の発生を判定する場合をいう。
【0108】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算部31が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0109】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0110】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0111】
時間軸t4において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン回転状態であることを示す1に変更する。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0112】
時間軸t5において、演算部31は、車両の車速が0になるなどの条件を満たしたため、エンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力し、NARAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止要求状態であることを示す2に変更する。
【0113】
更に、時間軸t5において、演算装置30は、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグをオンにする。このフラグは、アイドリングストップ制御装置1において、アイドリングストップ機能が発揮されていることを判定するためのフラグであり、アイドリングストップモードを2にすると同時にオンにする。また、アイドリングストップモード1はエンジン回転状態を示すデータであって、通常のエンジン回転状態と区別がつかないため、そのタイミングではオンにせず、エンジン停止要求状態を示すアイドリングストップモードが2になって初めてオンにする。
【0114】
時間軸t6において、演算部31は、時間軸t5においてエンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力した後に、エンジン回転数センサ12からの受信信号に基づきエンジンの停止を判定して、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態であることを示す3に変更する。
【0115】
時間軸t7において、ユーザがギヤポジションをドライブモードの状態でブレーキをオフにしてアクセルを踏み込んだため、演算部31はそれらの操作状態を示す信号を受信する。演算部31は、それらの信号を受信したことにより、ユーザからエンジン始動要求があったと判断し、スタータ信号をオンにしてエンジンを始動させる。
【0116】
時間軸t8において、演算部31は、エンジンを始動させたと同時に、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止からエンジンが始動する状態になったことを示す4に変更する。
【0117】
時間軸t8以降において、演算部31の演算部31へ供給する電力の電圧に、減電圧異常が発生したため、監視装置40は、備える電源IC41が減電圧異常を判定し、通信線bを介して、演算部31へ初期化信号を送信する。このタイミングで減電圧異常が発生する原因は、電源60(車両が備えるバッテリ)の蓄電容量が低下している状態で、エンジンを始動する際に駆動するスタータモータ11へ電力を供給したことが考えられる。つまり、そのような状態で、他の制御において電力が供給されると、演算部31へ供給する電力の電圧が減って、演算部31の動作が不安定になるので、初期化させる必要がある。
【0118】
更に、時間軸t8において、要素異常が発生したため、監視装置40は要素異常を判定し、通信線cを介して、演算部31へ要素異常を示すデューティ比のパルス信号を送信する。
【0119】
時間軸t9において、演算部31は、監視装置40から、通信線bを介して、受信した初期化信号に基づいて、その動作を初期化させる。演算部31は動作を初期化することによってウォッチドッグタイマ信号を正常に出力する。また、演算部31はその動作を初期化するに伴って、NRAM33に書き込まれているパラメータも初期化する。従って、演算部31は、NRAM33に書き込まれているアイドリングストップモードを初期値である0に変更する。
【0120】
更に、時間軸t9において、監視装置40は、同時期に減電圧異常と要素異常とを判定すると、通信線cを介して、要素異常に応じたデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信する。つまり、監視装置40は、減電圧異常よりも優先レベルが高い要素異常を優先して演算部31へ通知する。
【0121】
時間軸t9において、減電圧異常が解消されたため、演算部31はウォッチドッグ信号を出力する。
【0122】
時間軸t10において、演算部31は減電圧異常が解消された時間軸t10から所定時間(例えば、10ms)経過した後に、異常判別処理を実行する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0123】
更に、時間軸t10において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別制御を実施し、受信したパルス信号が要素異常を示すパターンC、パターンD、または、パターンEで、かつ、NRAM33のアイドリングストップモードが初期値の0を示し、更に、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグがオンであるため、通常は、演算部31がアイドリングストップ機能を発揮中に減電圧異常が発生したと判定するとともに、パターンC、パターンD、または、パターンEの何れかのデューティ比のパルス信号を示す要素異常が発生したと判定するが、この場合は、監視装置40が、優先して要素異常を示すデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信しているため、発生する異常が暴走異常の場合は、暴走異常を示すパターンAを示すデューティ比のパルス信号が犠牲にされていることになる。つまり、このような条件では、演算部31の初期化の要因を暴走異常と特定することも、減電圧異常と特定することもできない。
【0124】
従って、演算部31は、演算部31の減電圧異常判定を禁止して、誤判別となることを防いでいる。
【0125】
また、演算部31は、EEPROM50に設定されている要素異常要因カウンタをカウントアップし、暴走異常要因カウンタ及び減電圧異常要因カウンタはカウントアップしない。なお、減電圧異常要因カウンタを設定する記憶部は、不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32であっても良い。
【0126】
これにより、車両がアイドリングストップモード状態においてエンストになった要因を不揮発性記憶部へ記録することができるとともに、誤判別による記録を防ぐことができる。
【0127】
(暴走異常・要因異常発生時シーケンス5)
アイドリングストップ機能を発揮しているアイドリングストップ制御装置1における、エンジン始動の際に、同時期に暴走異常と要素異常とが発生した場合のシーケンス制御を図8に基づいて説明する。
【0128】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算部31が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0129】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0130】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0131】
時間軸t4において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン回転状態であることを示す1に変更する。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0132】
時間軸t5において、演算部31は、車両の車速が0になるなどの条件を満たしたため、エンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力し、NARAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止要求状態であることを示す2に変更する。
【0133】
更に、時間軸t5において、演算装置30は、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグをオンにする。このフラグは、アイドリングストップ制御装置1において、アイドリングストップ機能が発揮されていることを判定するためのフラグであり、アイドリングストップモードを2にすると同時にオンにする。また、アイドリングストップモード1はエンジン回転状態を示すデータであって、通常のエンジン回転状態と区別がつかないため、そのタイミングではオンにせず、エンジン停止要求状態を示すアイドリングストップモードが2になって初めてオンにする。
【0134】
時間軸t6において、演算部31は、時間軸t5においてエンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力した後に、エンジン回転数センサ12からの受信信号に基づきエンジンの停止を判定して、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態であることを示す3に変更する。
【0135】
時間軸t7において、監視装置40は、通信線dを介して、演算部31から受信したウォッチドッグタイマ信号が、所定周期からなるパルス信号ではないため、演算部31に暴走異常が発生したと判定する。監視装置40は、演算部31の暴走異常を判定すると、通信線bを介して初期化信号を演算部31へ送信する。通信線bを介して初期化信号を受信した演算部31の演算部31は、自らの動作状態を初期化する。演算部31は動作を初期化することによってウォッチドッグタイマ信号を正常に出力する。また、演算部31はその動作を初期化するに伴って、NRAM33に書き込まれているパラメータも初期化する。従って、演算部31は、NRAM33に書き込まれているアイドリングストップモードを初期値である0に変更する。
【0136】
時間軸t8において、監視装置40は暴走異常を判定すると、通常は、通信線cを介して、暴走異常に応じたデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信するが、暴走異常が発生したと同時期に、要素異常を判定したため、通信線cを介して、要素異常に応じたデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信する。つまり、監視装置40は、暴走異常よりも優先レベルが高い要素異常を優先して演算部31へ通知する。
【0137】
時間軸t9において、暴走異常が解消されたため、演算部31はウォッチドッグ信号を出力する。
【0138】
時間軸t10において、演算部31は暴走異常が解消された時間軸t9から所定時間(例えば、10ms)経過した後に、異常判別処理を実行する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0139】
更に、時間軸t10において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別制御を実施し、受信したパルス信号が要素異常を示すパターンC、パターンD、または、パターンEの何れかで、かつ、NRAM33のアイドリングストップモードが初期値の0を示し、更に、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグがオンであるため、通常は、演算部31がアイドリングストップ機能を発揮中に暴走異常が発生したと判定するとともに、パターンC、パターンD、または、パターンEの何れかのデューティ比のパルス信号を示す要素異常が発生したと判定するが、この場合は、監視装置40が、優先して要素異常を示すデューティ比のパルス信号を演算部31へ送信しているため、暴走異常を示すパターンBを示すデューティ比のパルス信号が犠牲にされている。つまり、このような条件では、演算部31の初期化の要因を暴走異常と特定することも、減電圧異常と特定することもできない。
【0140】
従って、演算部31は、演算部31の減電圧異常判定を禁止して、誤判別となることを防いでいる。
【0141】
なお、演算部31は、EEPROM50に設定されている要素異常要因カウンタをカウントアップし、暴走以上要因カウンタ及び減電圧異常要因カウンタはカウントアップしない。なお、減電圧異常要因カウンタを設定する記憶部は、不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32であっても良い。
【0142】
これにより、車両がアイドリングストップモード状態においてエンストになった要因を不揮発性記憶部へ記録することができるとともに、誤判別による記録を防ぐことができる。
(ユーザ操作発生時シーケンス6)
アイドリングストップ機能を発揮しているアイドリングストップ制御装置1における、エンジン始動の際に、所定のユーザ操作が発生した場合のシーケンス制御を図9に基づいて説明する。
【0143】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算部31が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0144】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0145】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0146】
時間軸t4において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン回転状態であることを示す1に変更する。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0147】
時間軸t5において、演算部31は、車両の車速が0になるなどの条件を満たしたため、エンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力し、NARAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止要求状態であることを示す2に変更する。
【0148】
更に、時間軸t5において、演算装置30は、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグをオンにする。このフラグは、アイドリングストップ制御装置1において、アイドリングストップ機能が発揮されていることを判定するためのフラグであり、アイドリングストップモードを2にすると同時にオンにする。また、アイドリングストップモード1はエンジン回転状態を示すデータであって、通常のエンジン回転状態と区別がつかないため、そのタイミングではオンにせず、エンジン停止要求状態を示すアイドリングストップモードが2になって初めてオンにする。
【0149】
時間軸t6において、演算部31は、時間軸t5においてエンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力した後に、エンジン回転数センサ12からの受信信号に基づきエンジンの停止を判定して、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態であることを示す3に変更する。
【0150】
時間軸t7において、演算部31は、車載ネットワークLを介して、ボンネットフードのオフ信号を受信したため、アイドリングストップ機能を停止させる制御を実行する。つまり、演算部31はNRAM33のアイドリングストップモードを0に変更して、エンジンを停止させる要求信号をエンジン制御装置2へ送信する。
【0151】
時間軸t8において、演算部31は、通信線cを介して、監視装置40から受信するパルス信号のデューティ比がパターンAであるため正常であると判定する。他方、演算部31は、SRAM32のアイドリングストップ履歴がオンで、かつ、ボンネットフードのオフ信号を受信したため、ユーザ事情により車両がアイドリングストップ機能を発揮中にユーザ事情によりエンストが発生したと判定する。
【0152】
更に、時間軸t8において、演算部31は、EEPROM50に設定されているユーザ操作要因カウンタをカウントアップする。なお、ユーザ事情要因カウンタを設定する記憶部は、不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32であっても良い。
【0153】
これにより、車両がアイドリングストップモード状態においてエンストになった要因を不揮発性記憶部へ記録することができる。
(ユーザ操作・要素異常発生時シーケンス7)
アイドリングストップ機能を発揮しているアイドリングストップ制御装置1における、エンジン始動の際に、同時期にユーザ操作と要素異常とが発生した場合のシーケンス制御を図10に基づいて説明する。
【0154】
時間軸t1において、ユーザによりユーザスイッチSWが操作され、ユーザスイッチ信号がオンになると、車両制御システムへ電源60から電力が供給されアイドリングストップ制御装置1に備わる演算装置30が起動するとともに、演算部31はウォッチドッグ信号を発信する。その電力供給に伴って監視装置40も機能する。演算部31は起動してから所定期間(例えば、100ms)が経過しないと種々の機能を発揮できる状態ではないため、その期間は、演算部31は通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を禁止する(マスクする)。
【0155】
時間軸t2において、演算部31は所定期間が経過したため、通信線cを介して受信するパルス信号に基づいた異常判別を実施し、信号パターンがAであるため、正常であることを判別する。
【0156】
時間軸t3において、演算部31はスタータモータ11を駆動する信号を、エンジン回転数センサ12から受信する信号に基づいてエンジンが完爆したと判定するまで、オンにする。つまり、演算部31はエンジンをクランキング制御する。
【0157】
時間軸t4において、エンジンが始動したため、演算部31は、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン回転状態であることを示す1に変更する。なお、アイドリングストップモードの初期値は0である。
【0158】
時間軸t5において、演算部31は、車両の車速が0になるなどの条件を満たしたため、エンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力し、NARAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止要求状態であることを示す2に変更する。
【0159】
更に、時間軸t5において、演算装置30は、SRAM32のアイドリングストップ履歴フラグをオンにする。このフラグは、アイドリングストップ制御装置1において、アイドリングストップ機能が発揮されていることを判定するためのフラグであり、アイドリングストップモードを2にすると同時にオンにする。また、アイドリングストップモード1はエンジン回転状態を示すデータであって、通常のエンジン回転状態と区別がつかないため、そのタイミングではオンにせず、エンジン停止要求状態を示すアイドリングストップモードが2になって初めてオンにする。
【0160】
時間軸t6において、演算部31は、時間軸t5においてエンジン制御装置2へエンジン停止要求信号を出力した後に、エンジン回転数センサ12からの受信信号に基づきエンジンの停止を判定して、NRAM33のアイドリングストップモードをエンジン停止状態であることを示す3に変更する。
【0161】
時間軸t7において、演算部31は、車載ネットワークLを介して、ボンネットフードのオフ信号を受信したため、アイドリングストップ機能を停止させる制御を実行する。つまり、エンジンを停止させる要求信号をエンジン制御装置2へ送信する。また、演算部31はNRAM33のアイドリングストップモードを0に変更する。
【0162】
時間軸t8において、演算部31は、通信線cを介して、監視装置40から受信するパルス信号のデューティ比が要素異常を示すデューティ比(パターンC、パターンD、または、パターンE)であるため要素異常であると判定する。他方、演算部31は、SRAM32のアイドリングストップ履歴がオンで、かつ、ボンネットフードのオフ信号を受信したため、車両がアイドリングストップ機能を発揮中にユーザ事情によりエンストが発生したと判定する。
【0163】
時間軸t9において、演算部31は、EEPROM50に設定されているユーザ操作要因カウンタ及び要素要因カウンタをカウントアップする。なお、ユーザ事情要因カウンタを設定する記憶部は、不揮発性記憶部が適しており、例えば、SRAM32であっても良い。
【0164】
これにより、車両がアイドリングストップモード状態においてエンストになった要因を不揮発性記憶部へ記録することができる。
【0165】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。もちろん、それら変形を適宜組み合わせても良い。
【0166】
<変形例1>
(ユーザ操作発生時シーケンス6)や(ユーザ操作・要素異常発生時シーケンス7)において、ユーザがボンネットフードを開くという操作をした場合に、オフになるボンネットフードスイッチ信号を、演算部31が受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行すると説明したが、ユーザ操作は図3に示すように、ユーザがユーザスイッチSWを操作して車両制御システムを終了した場合に、オフになるユーザスイッチ信号を、演算部31が受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行するとしても良い。
【0167】
また、異常内容を記録する方法を、暴走異常要因カウンタ、減電圧異常要因カウンタ、要素異常要因カウンタ、及び、ユーザ操作要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、夫々の異常を判別するたびに夫々の異常に応じたカウンタをカウントアップすると説明したが、更に、ユーザスイッチ操作要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、ユーザスイッチ信号を受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行するたびにこのカウンタをカウントアップするようにしても良い。
【0168】
<変形例2>
(ユーザ操作発生時シーケンス6)や(ユーザ操作・要素異常発生時シーケンス7)において、ユーザがボンネットフードを開くという操作をした場合に、オフになるボンネットフードスイッチ信号を、演算部31が受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行すると説明したが、ユーザによる操作ではなく、車両事情、つまり、他の制御装置(例えば、バッテリ制御装置3、トランスミッション制御装置4など)からの、アイドリングストップ機能停止要求を、演算部31が受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行するとしても良い。
【0169】
また、異常内容を記録する方法を、暴走異常要因カウンタ、減電圧異常要因カウンタ、要素異常要因カウンタ、及び、ユーザ操作要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、夫々の異常を判別するたびに夫々の異常に応じたカウンタをカウントアップすると説明したが、更に、停止要求要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、停止要求を受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行するたびにこのカウンタをカウントアップするようにしても良い。
【0170】
<変形例3>
(ユーザ操作発生時シーケンス6)や(ユーザ操作・要素異常発生時シーケンス7)において、ユーザがボンネットフードを開くという操作をした場合に、オフになるボンネットフードスイッチ信号を、演算部31が受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行すると説明したが、ユーザによる操作ではなく、車両事情、つまり、車両が外部の物体と衝突した場合に検知される衝突検知信号を演算部31が受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行するとしても良い。
【0171】
また、異常内容を記録する方法を、暴走異常要因カウンタ、減電圧異常要因カウンタ、要素異常要因カウンタ、及び、ユーザ操作要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、夫々の異常を判別するたびに夫々の異常に応じたカウンタをカウントアップすると説明したが、更に、衝突要因カウンタをEEPROM50へ設定し、演算部31が、衝突検知信号を受信したことにより、アイドリングストップ機能を停止する制御を実行するたびにこのカウンタをカウントアップするようにしても良い。
【0172】
上記実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されても良い。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されても良い。
【符号の説明】
【0173】
1 アイドリングストップ制御装置
2 エンジン制御装置
30 演算装置
31 演算部
32 SRAM
33 NRAM
34 ROM
40 監視装置
41 電源IC
50 EEPROM
51 要素
52 要素
53 要素
60 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンを制御してアイドリングストップ制御を実行する制御装置であって、
前記アイドリングストップ制御を実行する第1制御手段と、
第1制御手段の異常を判定した場合に、第1制御手段の動作を初期化させる第2制御手段と、
前記アイドリングストップ制御の際に利用するデータを記憶する揮発性記憶部と、
前記異常を示すデータを記憶する不揮発性記憶部と、
前記第2制御手段において、前記第1制御手段を初期化すべき第1異常と第2異常とを判定するとともに、前記車両の所定要素の異常である第3異常を判定する異常判定手段と、
前記第2制御手段において、一の通信線を介して、前記第1制御手段へ前記第1異常と前記第3異常との何れかを示す信号を送信するとともに、同時期に前記第3異常と他の異常が発生した場合は、前記第1制御手段へ前記第3異常を示す信号を優先して送信する通信手段と、
前記第1制御手段において、前記一の通信線を介して、受信する信号が前記第1異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第1異常と判別し、前記受信する信号が前記第1異常を示すパターン以外でかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第2異常と判別し、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンの場合は前記第3異常と判別する異常判別手段と、
前記判別した異常を示すデータを前記不揮発性記憶部へ記録する異常記録手段と、
を備え、
前記異常判別手段は、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は、前記第2異常の判別を禁止することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
更に、前記異常判別手段により前記第3異常と判別する場合に、アイドリングストップ制御を禁止する第1フェールセーフ制御手段を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れかに記載の制御装置において、
前記第1制御手段の動作の初期化は、前記揮発性記憶部のデータを初期化することを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項3の何れかに記載の制御装置において、
更に、アイドリングストップ制御が実行されているか否かを示すデータを前記不揮発性記憶部へ記憶する記憶手段と、
前記異常判別手段により前記第1異常、または、前記第2異常と判別する場合で、前記不揮発性記憶部にアイドリングストップ制御が実行されていることを示すデータが記憶されている場合に、アイドリングストップ制御を禁止する第2フェールセーフ制御手段と
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求項2および請求項4に記載の制御装置において、
更に、ユーザへ報知する報知手段を備え、
前記報知手段は、前記アイドリングストップ制御が禁止される場合は、ユーザへ報知することを特徴とする制御装置。
【請求項6】
車両のエンジンを制御してアイドリングストップ制御を実行する制御方法であって、
第1制御手段が、前記アイドリングストップ制御を実行する第1制御工程と、
第2制御手段が、第1制御手段の異常を判定した場合に、第1制御手段の動作を初期化させる第2制御工程と、
前記第2制御手段において、第1制御手段を初期化すべき異常である第1異常と第2異常とを判定するとともに、前記車両の所定要素の異常である第3異常を判定する異常判定工程と、
前記第2制御手段において、一の通信線を介して、第1制御手段へ前記第1異常と前記第3異常との何れかを示す信号を送信するとともに、同時期に前記第3異常と他の異常が発生した場合は、前記第1制御手段へ前記第3異常を示す信号を優先して送信する通信工程と、
前記第1制御手段において、前記一の通信線を介して、受信する信号が前記第1異常を示すパターンでかつ前記アイドリングストップ制御の際に利用するデータを記憶する揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第1異常と判別し、前記受信する信号が前記第1異常を示すパターン以外でかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は前記第2異常と判別し、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンの場合は前記第3異常と判別する異常判別工程と、
前記判別した異常を示すデータを前記異常を示すデータを記憶する不揮発性記憶部とへ記録する異常記録工程と、
を備え、
前記異常判別工程は、前記受信する信号が前記第3異常を示すパターンでかつ前記揮発性記憶部が初期化されている場合は、前記第2異常の判別を禁止することを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−132896(P2011−132896A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293403(P2009−293403)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】