説明

制御要求調停装置

【課題】設計効率の高い制御要求調停装置を提供する。
【解決手段】制御プラットフォーム10では、位置制御要求調停部21が、位置を次元とする複数の制御要求を調停して出力し、位置制御要求変換部22が、位置制御要求調停部21からの制御要求を速度を次元とする制御要求に変換して出力する。そして、速度制御要求調停部31が、速度を次元とする複数の制御要求を調停して出力し、速度制御要求変換部32が、速度制御要求調停部31からの制御要求を加速度を次元とする制御要求に変換して出力する。さらに、加速度制御要求調停部41が、加速度を次元とする複数の制御要求を調停して出力し、加速度制御要求変換部42が、加速度制御要求調停部41からの制御要求を加速度制御を実現する制御装置に応じた次元(例えばトルク)の制御要求に変換して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御要求を調停する制御要求調停装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を所望の前後加速度(「加速度」には減速側の加速度(減速度)も含まれる。)で走行させるための要求である加速度制御要求を入力(受信)し、要求された加速度での走行を達成するための駆動要求や制動要求に変換して出力することで、要求された加速度での走行制御を実現する加速度制御要求変換装置(VLC:Vehicle Longitudinal Control)が提案されている(特許文献1,2)。
【0003】
こうした加速度制御要求変換装置を備える車両では、車両内外の状況や乗員の状態などに基づき車両の走行状態を目標状態に自動制御する運転支援を行うために、所望の加速度を加速度制御要求として加速度制御要求変換装置に入力する制御要求装置(運転支援装置)が設けられる。つまり、制御要求装置は、加速度制御要求変換装置に対して制御要求を行うことにより、所望の加速度での走行制御を実現する。また、複数の制御要求装置を備える車両においては、それら複数の制御要求装置により出力される複数の加速度制御要求を調停する制御要求調停装置が必要となる。なお、加速度制御要求変換装置を前提としたものではないが、特許文献3には、複数の制御要求を調停する構成が開示されている。ちなみに、特許文献3に記載の車両統合制御装置において、前述した制御要求調停装置は、DSS(ドライバ運転補佐・代行システム)の内部で用いられることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−528217号公報
【特許文献2】特表2006−506270号公報
【特許文献3】特開2006−297995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の走行状態を目標状態に自動制御する運転支援としては、加速度を制御目的とするものだけでなく、位置(距離)や速度などを制御目的とするものもある。例えば、車間制御であるACC(Adaptive Cruise Control)は位置を制御目的とするものであり、車速維持制御であるCC(Cruise Control)や車速制限制御であるASL(Auto Speed Limitation)は速度を制御目的とするものである。
【0006】
こうした加速度以外の次元を制御目的とする制御要求装置から加速度制御要求変換装置に対して制御要求を行うためには、制御要求の次元を位置や速度から加速度に変換する制御要求変換部を付属制御部として用意する必要がある。しかしながら、加速度以外の次元を制御目的とする制御要求装置の数に応じて制御要求変換部の数を変更しなければならないのでは設計効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、設計効率の高い制御要求調停装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の請求項1に記載の制御要求調停装置は、走行制御の制御要求として位置、速度又は加速度を次元とする制御要求を出力する複数の制御要求手段を備える車両において、これら複数の制御要求手段により出力される複数の制御要求を調停するものである。
【0009】
そして、この制御要求調停装置は、制御要求の次元(位置、速度及び加速度)ごとに制御要求調停手段及び制御要求変換手段を備えることを特徴としている。具体的には、この制御要求調停装置では、位置制御要求調停手段が、位置を次元とする複数の制御要求を入力し、そのうちの1つを選択して出力すると、位置制御要求変換手段が、位置制御要求調停手段により出力された制御要求を入力し、速度及び加速度のうち出力先に応じた次元の制御要求に変換して出力する。例えば、出力先が速度制御要求調停手段であれば速度を次元とする制御要求に変換し、出力先が加速度制御要求調停手段であれば加速度を次元とする制御要求に変換する。
【0010】
また同様に、速度制御要求調停手段が、速度を次元とする複数の制御要求を入力し、そのうちの1つを選択して出力すると、速度制御要求変換手段が、速度制御要求調停手段により出力された制御要求を入力し、位置及び加速度のうち出力先に応じた次元の制御要求に変換して出力する。例えば、出力先が位置制御要求調停手段であれば位置を次元とする制御要求に変換し、出力先が加速度制御要求調停手段であれば加速度を次元とする制御要求に変換する。
【0011】
そして、加速度制御要求調停手段が、加速度を次元とする複数の制御要求を入力し、そのうちの1つを選択して出力すると、加速度制御要求変換手段が、加速度制御要求調停手段により出力された制御要求を入力し、加速度制御を実現する制御装置に応じた次元(例えばトルク)の制御要求に変換して出力する。
【0012】
なお、位置制御要求調停手段が入力する「位置を次元とする複数の制御要求」としては、制御要求手段から出力される位置を次元とする制御要求だけでなく、速度制御要求変換手段が位置を次元とする制御要求を出力する場合にはその制御要求も含まれる。同様に、速度制御要求調停手段が入力する「速度を次元とする複数の制御要求」としては、制御要求手段から出力される速度を次元とする制御要求だけでなく、位置制御要求変換手段が速度を次元とする制御要求を出力する場合にはその制御要求も含まれる。そして、加速度制御要求調停手段が入力する「加速度を次元とする複数の制御要求」としては、制御要求手段から出力される加速度を次元とする制御要求だけでなく、位置制御要求変換手段又は速度制御要求変換手段が加速度を次元とする制御要求を出力する場合にはその制御要求も含まれる。
【0013】
このように、本発明の制御要求調停装置は、位置を次元とする制御要求を調停する位置制御要求調停手段及び速度を次元とする制御要求を調停する速度制御要求調停手段を備えているため、位置や速度を次元とする複数の制御要求のそれぞれを他の次元の制御要求に変換する前に、位置及び速度の次元でそれぞれ調停して1つの制御要求を選択しておくことができる。このため、位置や速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段が複数存在する場合にも、位置制御要求変換手段及び速度制御要求変換手段を複数用意する必要がなく、それぞれ1つずつ用意すればよい。
【0014】
つまり、本発明の制御要求調停装置によれば、複数の制御要求手段により出力される位置、速度又は加速度を次元とする複数の制御要求から、加速度制御要求変換手段に入力すべき制御要求を調停するために必要な手段を、制御要求手段の数に関係なく一定とすることができる。したがって、設計効率を向上させることができる。
【0015】
ところで、制御要求手段により出力される制御要求としては、制御装置で実現可能な制御範囲外の制御を要求するものも存在し得る。このため、制御装置が、当該制御装置により実現可能な制御範囲を表す可能範囲情報を出力可能なものであれば、その可能範囲情報に基づき、制御装置に入力される前に制御要求をあらかじめ調整しておくことが好ましい。
【0016】
そこで、例えば請求項2に記載の制御要求調停装置では、位置制御要求調停手段、速度制御要求調停手段及び加速度制御要求調停手段のうち少なくとも1つは、入力した複数の制御要求から選択した制御要求が可能範囲情報の表す範囲外の制御を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力する。このような制御要求調停装置によれば、制御範囲外の制御を要求する制御要求が制御装置に入力されることを防ぐことができる。制御装置においては、制御範囲外の制御を要求する制御要求が入力されると、要求どおりに制御を実現できなかったことを次の制御タイミング以降で検出して修正するといった処理が必要になることが考えられるが、請求項2に記載の制御要求調停装置によれば、常に現タイミングで修正することが可能となるため、制御応答性が向上するという効果が期待できる。
【0017】
具体的には、例えば請求項3に記載の制御要求調停装置は、可能範囲情報を入力し、次元を変換して出力する範囲変換手段として、実現可能な加速度の範囲を表す可能範囲情報に変換して出力する加速度範囲変換手段と、実現可能な速度の範囲を表す可能範囲情報に変換して出力する速度範囲変換手段と、実現可能な位置の範囲を表す可能範囲情報に変換して出力する位置範囲変換手段とを備える。
【0018】
そして、位置制御要求調停手段は、位置範囲変換手段により出力された可能範囲情報(実現可能な位置の範囲を表す情報)を入力し、選択した制御要求がその可能範囲情報の表す範囲外の位置を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力する。また、速度制御要求調停手段は、速度範囲変換手段により出力された可能範囲情報(実現可能な速度の範囲を表す情報)を入力し、選択した制御要求がその可能範囲情報の表す範囲外の速度を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力する。同様に、加速度制御要求調停手段は、加速度範囲変換手段により出力された可能範囲情報(実現可能な加速度の範囲を表す情報)を入力し、選択した制御要求がその可能範囲情報の表す範囲外の加速度を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力する。
【0019】
このような制御要求調停装置によれば、各次元の制御要求の調停において、選択した制御要求を可能範囲情報の表す範囲内に調整することができる。
一方、複数の制御要求手段により出力される複数の制御要求から加速度制御要求変換手段に入力するための制御要求を調停するために必要な手段の数は、多いよりも少ない方が好ましい。
【0020】
そこで、例えば請求項4に記載の制御要求調停装置は、位置又は速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段を4つ以上含む複数の制御要求手段を備える車両において、それらにより出力される制御要求を調停する。
【0021】
このような制御要求調停装置によれば、加速度制御要求変換手段に入力するための制御要求を複数の制御要求手段により出力される複数の制御要求から調停するために必要な手段の数を、位置又は速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段ごとに制御要求変換手段を設けるように構成した場合よりも多くならないようにすることができる。
【0022】
例えば、位置又は速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段がN個(N≧4)存在する場合、制御要求の次元を変換するための位置制御要求変換手段又は速度制御要求変換手段を合計N個用意するとともに、加速度制御要求調停手段を1個用意する必要がある。つまり、N+1個(最低でも5個)の手段が必要であり、位置又は速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段の数Nが増えれば、必要な手段の数も増加する。
【0023】
これに対し、本発明の制御要求調停装置では、制御要求手段の数に関係なく、位置制御要求調停手段、位置制御要求変換手段、速度制御要求調停手段、速度制御要求変換手段及び加速度制御要求調停手段の5つの手段を用意すればよい。このため、N≧4であれば、必要な手段の数が上記構成を上回らないようにすることができる。
【0024】
一方、例えば請求項5に記載の制御要求調停装置では、位置制御要求調停手段、速度制御要求調停手段及び加速度制御要求調停手段が、入力した複数の制御要求のうちあらかじめ決められている優先度の高いものを選択する。このような制御要求調停装置によれば、調停対象の制御要求に安全性の面で重要なものが含まれている場合に、それを優先するといったことが可能となる。
【0025】
特に、請求項6に記載のように、優先度の高い制御要求のうち、車両を停止状態に近づけるのに最も寄与する要求のものを選択するようにすれば、安全性を一層向上させることができる。
【0026】
また、請求項7に記載の制御要求調停装置では、位置制御要求調停手段、速度制御要求調停手段及び加速度制御要求調停手段が、選択した制御要求と前回選択した制御要求との差が大きいと判定した場合には、出力する制御要求を、前回選択した制御要求から今回選択した制御要求へ徐々に変化させる。このような制御要求調停装置によれば、制御要求により要求される制御が急激に変化してしまうことを防ぐことができる。
【0027】
次に、請求項8に記載の制御要求調停装置は、請求項1に記載の制御要求調停装置と同様、走行制御の制御要求として位置、速度又は加速度を次元とする制御要求を出力する複数の制御要求手段を備える車両において、これら複数の制御要求手段により出力される複数の制御要求を調停するものである。
【0028】
この制御要求調停装置では、位置制御要求調停手段が、複数の制御要求手段のうち位置を次元とする制御要求手段からの複数の制御要求を受信可能であって、これらの制御要求を調停して出力すると、位置制御要求変換手段が、位置制御要求調停手段により出力された制御要求を受信し、速度を次元とする制御要求に変換して出力する。
【0029】
また、速度制御要求調停手段が、複数の制御要求手段のうち速度を次元とする制御要求手段からの制御要求を受信し、且つ位置制御要求変換手段からの出力を受信し、速度を次元とする制御要求と位置制御要求変換手段の出力である制御要求とを調停して出力すると、速度制御要求変換手段が、速度制御要求調停手段により出力された制御要求を受信し、加速度を次元とする制御要求に変換して出力する。
【0030】
そして、加速度制御要求調停手段が、複数の制御要求手段のうち加速度を次元とする制御要求手段からの制御要求を受信し、且つ速度制御要求変換手段からの出力を受信し、加速度を次元とする制御要求と速度制御要求変換手段の出力である制御要求とを調停して出力すると、加速度制御要求変換手段が、加速度制御要求調停手段により出力された制御要求を受信し、加速度制御を実現する制御装置に応じた次元(例えばトルク)の制御要求に変換して出力する。
【0031】
このように、この制御要求調停装置は、位置を次元とする制御要求を調停する位置制御要求調停手段及び速度を次元とする制御要求を調停する速度制御要求調停手段を備えているため、位置や速度を次元とする複数の制御要求のそれぞれを他の次元の制御要求に変換する前に、位置及び速度の次元でそれぞれ調停しておくことができる。このため、位置や速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段が複数存在する場合にも、位置制御要求変換手段及び速度制御要求変換手段を複数用意する必要がなく、それぞれ1つずつ用意すればよい。
【0032】
つまり、この制御要求調停装置によれば、複数の制御要求手段により出力される位置、速度又は加速度を次元とする複数の制御要求から、加速度制御要求変換手段で受信すべき制御要求を調停するために必要な手段を、制御要求手段の数に関係なく一定とすることができる。したがって、設計効率を向上させることができる。
【0033】
なお、本発明の制御要求調停装置は、請求項9に記載のように、制御装置に対する制御要求が、加速度制御要求変換手段からのみ出力されるように構成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態の制御プラットフォームの概略構成を表すブロック図である。
【図2】速度制御要求調停部で実行される処理を表すフローチャートである。
【図3】速度制御要求調停部に入力される要求速度及び可能速度範囲の時間的変化の一例を表すタイムチャートである。
【図4】速度制御要求変換部の内部動作を説明するためのブロック図である。
【図5】速度偏差と可変ゲインとの対応関係を表す説明図である。
【図6】従来の制御プラットフォームの概略構成を表すブロック図である。
【図7】従来構成の制御部の数と実施形態の構成の制御部の個数とを比較した説明図である。
【図8】変形例の制御プラットフォームの概略構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.全体構成]
図1は、実施形態の制御要求調停装置としての制御プラットフォーム10の概略構成を表すブロック図である。
【0036】
この制御プラットフォーム10は、走行中における車両の前後運動を制御するための制御要求を出力する複数の制御要求装置(運転支援装置)51〜55を備える車両において用いられるものであり、それら複数の制御要求装置51〜55により出力される複数の制御要求を入力(受信)し、それらを調停した上で、加速度制御を実現する駆動制御装置61及び制動制御装置62へ出力する。
【0037】
ここで、複数の制御要求装置51〜55は、「位置」を制御目的とする2つの位置制御要求装置51,52と、「速度」を制御目的とする2つの速度制御要求装置53,54と、「加速度」を制御目的とする1つの加速度制御要求装置55とに分類される。このうち、位置制御要求装置51,52は、要求位置、許容最大速度及び許容最小速度の情報が含まれた位置制御要求を出力する。同様に、速度制御要求装置53,54は、要求速度、許容最大加速度及び許容最小加速度の情報が含まれた速度制御要求を出力し、加速度制御要求装置55は、要求加速度、許容最大ジャーク及び許容最小ジャークの情報が含まれた加速度制御要求を出力する。
【0038】
なお、具体的には、2つの位置制御要求装置51,52とは車間制御要求装置(ACC)51及びその他の位置制御要求装置52のことであり、2つの速度制御要求装置53,54とは自動車速制限装置(ASL)53及び車速維持制御であるクルーズコントロール(CC)54のことであり、1つの加速度制御要求装置55とは衝突軽減制御要求装置(CM)55のことである。
【0039】
そして、本実施形態の制御プラットフォーム10は、位置制御プラットフォーム20と、速度制御プラットフォーム30と、加速度制御プラットフォーム40とに大別される。
位置制御プラットフォーム20は、位置制御要求調停部21と、位置制御要求変換部22と、可能位置範囲変換部23とを備えている。
【0040】
位置制御要求調停部21は、複数の位置制御要求を入力(受信)可能であって、これらの位置制御要求を調停して出力する。具体的には、位置制御要求調停部21は、各位置制御要求装置51,52からの複数の位置制御要求を入力し、調停戦略要求に基づき選択した1つの位置制御要求を出力する。つまり、複数の位置制御要求を調停する。なお、調停戦略要求は、車両内外の状況や乗員の状態などに基づき調停戦略(1つの制御要求を選択する方法)を変更することを想定したものであるが、本実施形態では、後述するように、安全系の制御要求装置からの速度制御要求が存在する場合にはその中で要求速度の絶対値が最小のものを選択し、存在しない場合には要求速度の絶対値が最大のものを選択するようにしている。
【0041】
位置制御要求変換部22は、位置制御要求を次の制御次元である速度制御要求に変換する。具体的には、位置制御要求変換部22は、位置制御要求調停部21により調停された位置制御要求に基づきフィードフォワード(FF)制御とフィードバック(FB)制御とを行い、速度制御プラットフォーム30からの後述する可能速度範囲内に収まるような速度制御要求に変換して出力する。この速度制御要求には、要求速度、許容最大加速度及び許容最小加速度の情報が含まれる。
【0042】
可能位置範囲変換部23は、可能速度範囲を次の制御次元である可能位置範囲に変換する。具体的には、可能位置範囲変換部23は、後述するように、速度制御プラットフォーム30により出力された可能速度範囲、車両諸元(あらかじめ記憶されている情報)及び現在位置(センサにより検出された情報)から、実現可能な位置の範囲を算出し、これを可能位置範囲として出力する。
【0043】
速度制御プラットフォーム30は、速度制御要求調停部31と、速度制御要求変換部32と、可能速度範囲変換部33とを備えている。
速度制御要求調停部31は、複数の速度制御要求を入力(受信)可能であって、これらの速度制御要求を調停して出力する。具体的には、速度制御要求調停部31は、位置制御プラットフォーム20及び各速度制御要求装置53,54からの複数の速度制御要求を入力し、調停戦略要求に基づき選択した1つの速度制御要求を出力する。つまり、複数の速度制御要求を調停する。
【0044】
速度制御要求変換部32は、速度制御要求を次の制御次元である加速度制御要求に変換する。具体的には、速度制御要求変換部32は、速度制御要求調停部31により調停された速度制御要求に基づきFF制御とFB制御とを行い、加速度制御プラットフォーム40からの後述する可能加速度範囲内に収まるような加速度制御要求に変換して出力する。この加速度制御要求には、要求加速度、許容最大ジャーク及び許容最小ジャークの情報が含まれる。
【0045】
可能速度範囲変換部33は、可能加速度範囲を次の制御次元である可能速度範囲に変換する。具体的には、可能速度範囲変換部33は、後述するように、加速度制御プラットフォーム40により出力された可能加速度範囲、車両諸元(あらかじめ記憶されている情報)及び現在車速(センサにより検出された情報)から、実現可能な車速の範囲を算出し、これを可能速度範囲として出力する。
【0046】
加速度制御プラットフォーム40は、加速度制御要求調停部41と、加速度制御要求変換部(VLC)42と、可能加速度範囲変換部43とを備えている。
加速度制御要求調停部41は、複数の加速度制御要求を入力(受信)可能であって、これらの加速度制御要求を調停して出力する。具体的には、加速度制御要求調停部41は、速度制御プラットフォーム30及び加速度制御要求装置55からの複数の加速度制御要求を入力し、調停戦略要求に基づき選択した1つの加速度制御要求を出力する。つまり、複数の加速度制御要求を調停する。
【0047】
加速度制御要求変換部(VLC)42は、加速度制御要求を車軸トルク要求に変換するものであり、加速度制御要求調停部41により調停された加速度制御要求に基づきFF制御とFB制御とを行い、車軸トルク要求に変換して出力する。具体的には、駆動制御装置61及び制動制御装置62の状況に応じて、駆動車軸トルク要求を駆動制御装置61へ出力し、制動車軸トルク要求を制動制御装置62へ出力する。
【0048】
可能加速度範囲変換部43は、可能駆動車軸トルク範囲及び可能制動車軸トルク範囲を次の制御次元である可能加速度範囲に変換する。具体的には、可能加速度範囲変換部43は、後述するように、駆動制御装置61により出力された可能駆動車軸トルク範囲、制動制御装置62により出力された可能制動車軸トルク範囲、車両諸元(あらかじめ記憶されている情報)及び現在加速度(センサにより検出された情報)から、実現可能な加速度の範囲を算出し、これを可能加速度範囲として出力する。
【0049】
すなわち、駆動制御装置61は、加速度制御要求変換部42により定期的に(数msec周期で)出力される駆動車軸トルク要求に従い、要求された駆動車軸トルクが実現されるように駆動力を制御するが、制御可能な範囲を超える要求については実現することができない。そこで、駆動制御装置61は、実現可能な駆動車軸トルクの範囲(上限値及び下限値)を、可能駆動車軸トルク範囲として出力する。これと同様に、制動制御装置62も、実現可能な制動車軸トルクの範囲(上限値及び下限値)を、可能制動車軸トルク範囲として出力する。
【0050】
そして、可能加速度範囲変換部43は、駆動制御装置61により出力された可能駆動車軸トルク範囲、制動制御装置62により出力された可能制動車軸トルク範囲、車両諸元及び現在加速度を入力し、これらの情報に基づき実現可能な加速度の範囲を算出する。そして、算出した範囲を可能加速度範囲として、加速度制御要求調停部41、速度制御プラットフォーム30の速度制御要求変換部32及び可能速度範囲変換部33並びに加速度制御要求装置55へ出力する。これにより、加速度制御要求装置55では、可能加速度範囲変換部43からの可能加速度範囲に基づく要求加速度を算出することが可能となる。
【0051】
また、可能速度範囲変換部33は、加速度制御プラットフォーム40の可能加速度範囲変換部43により出力された可能加速度範囲、車両諸元及び現在車速を入力し、これらの情報に基づき実現可能な速度の範囲を算出する。そして、算出した範囲を可能速度範囲として、速度制御要求調停部31、位置制御プラットフォーム20の位置制御要求変換部22及び可能位置範囲変換部23並びに速度制御要求装置53,54へ出力する。これにより、速度制御要求装置53,54では、可能速度範囲変換部33からの可能速度範囲に基づく要求速度を算出することが可能となる。
【0052】
可能位置範囲変換部23は、速度制御プラットフォーム30の可能速度範囲変換部33により出力された可能速度範囲、車両諸元及び現在位置を入力し、これらの情報に基づき実現可能な位置の範囲を算出する。そして、算出した範囲を可能位置範囲として、位置制御要求調停部21及び位置制御要求装置51,52へ出力する。これにより、位置制御要求装置51,52では、可能位置範囲変換部23からの可能位置範囲内に基づく要求位置を算出することが可能となる。
【0053】
なお、可能加速度範囲、可能速度範囲及び可能位置範囲の具体的な算出方法は次のとおりである。ちなみに、MAX(A,B)とは、A及びBのうち大きい方の値を意味する。
・最小可能加速度≦可能加速度範囲≦最大可能加速度
最小可能加速度=−MAX(最大可能制動トルク,|最小可能駆動トルク|)/(車両重量×車輪半径)
最大可能加速度=最大可能駆動トルク/(車両重量×車輪半径)
・最小可能速度≦可能速度範囲≦最大可能速度
最小可能速度=現在速度+最小可能加速度×制御周期
最大可能速度=現在速度+最大可能加速度×制御周期
・最小可能位置≦可能位置範囲≦最大可能位置
最小可能位置=現在位置+最小可能速度×制御周期
最大可能位置=現在位置+最大可能速度×制御周期
また、本実施形態の制御プラットフォーム10は、マイクロコンピュータ(具体的には、車両に搭載される電子制御装置(ECU))によって構成されている。そして、位置制御プラットフォーム20、速度制御プラットフォーム30及び加速度制御プラットフォーム40は、マイクロコンピュータがプログラムを実行することにより発揮する機能(モジュール)として実現される。このため、具体的なハードウェア構成は特に限定されない。例えば、位置制御プラットフォーム20、速度制御プラットフォーム30及び加速度制御プラットフォーム40を共通の(1つの)ECUで構成することも可能であり、また、それぞれ別々のECUの機能で構成することも可能である。ちなみに、制御要求装置51〜55も、マイクロコンピュータがプログラム(アプリケーション)を実行することにより発揮する機能として実現されるものであり、具体的なハードウェア構成は特に限定されない。
【0054】
[2.制御要求調停部の内部動作]
次に、各制御プラットフォーム20,30,40における制御要求調停部21,31,41の内部動作について説明する。なお、ここでは速度制御プラットフォーム30の速度制御要求調停部31を例に挙げて説明するが、他の制御要求調停部21,41も同様に構成されているため説明を省略する。
【0055】
図2は、速度制御要求調停部31で実行される処理を表すフローチャートである。
速度制御要求調停部31は、位置制御プラットフォーム20及び各速度制御要求装置53,54からの複数の速度制御要求を入力したことを契機に(調停を行うべきタイミングで)この処理を開始する。
【0056】
具体的には、まずS101で、入力した複数の速度制御要求の中に安全系の制御要求装置からの速度制御要求が存在するか否かを判定する。なお、安全系のものであるか否かといった制御要求装置の種別は、制御要求装置の性質(制御要求装置により実現される運転支援が安全性に与える影響など)に基づきあらかじめ決められている。
【0057】
そして、S101で、安全系の制御要求装置からの速度制御要求が存在すると判定した場合には、S102へ移行し、入力した速度制御要求のうち優先度の高い制御要求装置からのものを選択する。本実施形態では、優先度が「高」又は「低」の2段階に設定されており、安全系の制御要求装置が優先度「高」、安全系以外の制御要求装置が優先度「低」にあらかじめ決められている。なお、優先度はこれに限定されるものではなく、例えば3段階以上に設定してもよい。
【0058】
続いて、S103では、S102で選択した速度制御要求のうち、要求速度(前進時の速度を正の値、後退時の速度を負の値で表したもの。)の絶対値が最小のものを選択する。その後、S105へ移行する。つまり、優先度の高い制御要求のうち、車両を停止状態に近づけるのに最も寄与する要求のものを選択するようにしている。
【0059】
一方、S101で、安全系の制御要求装置からの速度制御要求が存在しないと判定した場合には、S104へ移行し、入力した速度制御要求のうち、要求速度の絶対値が最大のものを選択する。その後、S105へ移行する。
【0060】
S105では、S103又はS104で選択(調停)された速度制御要求の要求速度と、前回の要求速度との差分の絶対値が、判定基準値としてあらかじめ定められている設定値よりも大きいか否かを判定する。
【0061】
そして、S105で、調停された要求速度と前回の要求速度との差分の絶対値が設定値よりも大きいと判定した場合には、S106へ移行し、調停された要求速度をなまし処理する(急激な変化を防ぐためにフィルタ処理を行い、前回の要求速度から今回の要求速度へ徐々に変化させる)。その後、S107へ移行する。
【0062】
一方、S105で、調停された要求速度と前回の要求速度との差分の絶対値が設定値よりも大きくない(設定値以下である)と判定した場合には、S106をスキップして(なまし処理せずに)S107へ移行する。
【0063】
S107では、調停された要求速度(なまし処理した場合にはなまし処理後の要求速度)が、可能速度範囲変換部33からの可能速度範囲の上限値よりも大きいか否かを判定する。
【0064】
そして、S107で、要求速度が可能速度範囲の上限値よりも大きいと判定した場合には、S108へ移行し、その可能速度範囲の上限値を要求速度に設定して、図2の処理を終了する。つまり、要求速度の上限値を可能速度範囲内に収まるように調整する。
【0065】
一方、S107で、要求速度が可能速度範囲の上限値よりも大きくない(上限値以下である)と判定した場合には、S109へ移行し、調停された要求速度(なまし処理した場合にはなまし処理後の要求速度)が、可能速度範囲変換部33からの可能速度範囲の下限値よりも小さいか否かを判定する。
【0066】
そして、S109で、要求速度が可能速度範囲の下限値よりも小さいと判定した場合には、S110へ移行し、その可能速度範囲の下限値を要求速度に設定して、図2の処理を終了する。つまり、要求速度の下限値についても可能速度範囲内に収まるように調整する。
【0067】
一方、S109で、要求速度が可能速度範囲の下限値よりも小さい(下限値以上である)と判定した場合には、そのまま図2の処理を終了する。
図3(a)は、速度制御要求調停部31に入力される要求速度及び可能速度範囲の時間的変化の一例を表すタイムチャートである(横軸は時間、縦軸は速度を表す)。このタイムチャートにおいて、実線及び一点鎖線で示すラインは、安全系の制御要求装置からの速度制御要求の要求速度であり、二点鎖線で示すラインは、安全系以外の制御要求装置からの速度制御要求の要求速度である。また、破線で示す2本のラインは、可能速度範囲の上限値及び下限値である。なお、この例では、一点鎖線で示す速度制御要求が途中で終了する。
【0068】
図3(b)は、図3(a)に示した例における調停結果を太線で示したものであり、次の(A)〜(C)の特徴が表れている。
(A)入力した複数の速度制御要求の中に安全系の制御要求装置からの速度制御要求が存在する場合には、安全系の制御要求装置からのものであって要求速度の絶対値が最小のものを選択する。図に示す例では、最初は実線で示す速度制御要求が選択されるが、一点鎖線で示す速度制御要求の要求速度が低下することにより実線で示す速度制御要求の要求速度を下回った時点で、一点鎖線で示す速度制御要求が選択される。なお、この内容は、前述したS101〜S104の処理に対応する。
【0069】
(B)調停された要求速度と前回の要求速度との差分の絶対値が設定値よりも大きくなった場合には、調停された要求速度をなまし処理する。図に示す例では、一点鎖線で示す速度制御要求が終了することにより実線で示す速度制御要求が選択されるが、差分が大きく変化が急激になってしまうため、なまし処理により変化を和らげる。なお、この内容は、前述したS105,S106の処理に対応する。
【0070】
(C)調停された要求速度が可能速度範囲を超えた場合には飽和処理を行い、要求速度を可能速度範囲内に収める。図に示す例では、可能速度範囲の上限値が低下することにより実線で示す速度制御要求の要求速度がこれを上回るが、要求速度は可能速度範囲の上限値に調整される。なお、この内容は、前述したS107〜S110の処理に対応する。
【0071】
[3.制御要求変換部の内部動作]
次に、位置制御プラットフォーム20及び速度制御プラットフォーム30における位置制御要求変換部22及び速度制御要求変換部32の内部動作について説明する。なお、ここでは速度制御プラットフォーム30の速度制御要求変換部32を例に挙げて説明するが、位置制御プラットフォーム20の位置制御要求変換部22も同様に構成されており、速度を位置、加速度を速度と置き換えればよいため説明を省略する。
【0072】
図4は、速度制御要求変換部32の内部動作を説明するためのブロック図である。
車両参照モデル部71では、速度制御要求調停部31から入力された速度制御要求(要求速度、許容最大加速度及び許容最小加速度)のうち要求速度を、加速度制御プラットフォーム40の周波数応答特性と同等程度にフィルタ処理を施す。
【0073】
ノイズフィルタ部72では、車速センサから入力される実車速から、外乱ノイズを除去するフィルタ処理を施す。
可変ゲイン決定器73では、加速度制御の分解能(制御周期)以上に細かく加速度制御要求することにより制御が収束しなくなることを防ぐ目的で、車両参照モデル部71からの要求速度とノイズフィルタ部72からの実車速との速度偏差に応じた可変ゲインを決定する。具体的には、例えば図5に示すように、速度偏差がしきい値ΔV1未満の場合には可変ゲインをαに決定し、しきい値ΔV2(>ΔV1)以上の場合にはβに決定し、しきい値ΔV1以上ΔV2未満の場合にはαとβとの間で直線補間される値に決定する。
【0074】
速度フィードフォワード(FF)制御器74では、車両参照モデル部71からの要求速度を比例ゲイン倍し、FF要求加速度として出力する。
速度フィードバック(FB)制御器75では、車両参照モデル部71からの要求速度とノイズフィルタ部72からの実車速との速度偏差を、可変ゲイン決定器73で決定された可変ゲイン倍する。そして、この値にFB制御(例えばPID制御)を実施する。この結果をFB要求加速度として出力する。
【0075】
ただし、次の(1),(2)の場合には、PID制御の積分処理に対して下記の例外処理を実施する。
(1)後述の加速度制限器76の制限処理状態がオン状態の場合、積分処理を停止して直前の積分値を保持する。その後、再びオフ状態になったら、その保持値を初期値として積分処理を再開する。
【0076】
(2)可変ゲインがαの場合、積分処理を停止して積分値を0にする。その後、再び可変ゲインがα以外の値になったら、0を初期値として積分処理を再開する。なお、αの値を0に設定してもよい。
【0077】
加速度制限器76では、FF要求加速度とFB要求加速度との和(以下「制限前要求加速度」という。)が、速度制御要求調停部31から入力された速度制御要求のうちの許容最小加速度と許容最大加速度との間の範囲内に収まるように制限を加える。具体的には、次のような処理を施す。
【0078】
制限前要求加速度<MAX(許容最小加速度,最小可能加速度)の場合には、要求加速度=MAX(許容最小加速度,最小可能加速度)とし、制限処理状態=オン状態とする。
MAX(許容最小加速度,最小可能加速度)≦制限前要求加速度≦MIN(許容最大加速度,最大可能加速度)の場合には、要求加速度=制限前要求加速度とし、制限処理状態=オフ状態とする。
【0079】
制限前要求加速度>MIN(許容最大加速度,最大可能加速度)の場合には、要求加速度=MIN(許容最大加速度,最大可能加速度)とし、制限処理状態=オン状態とする。
このようにして算出した要求加速度と、車両内外の状況や乗員の状態などに基づき算出される許容最大ジャーク及び許容最小ジャークとを、加速度制御要求として加速度制御プラットフォーム40に出力する。
【0080】
[4.効果]
以上説明したように、本実施形態の制御プラットフォーム10は、複数の制御要求装置51〜55からの制御要求を制御目的別に調停する「制御要求調停部」と、調停されて1つになった制御要求を要求先(出力先)の制御目的に合った次元に変換する「制御要求変換部」と、要求先が実行可能な範囲を要求元の制御目的に合った次元に変換する「可能範囲変換部」とを備えることを特徴とする。このように、制御プラットフォーム10が一括して制御目的別の「制御要求変換部」と「可能範囲変換部」とを備えることによって、制御要求装置以外に用意する必要のある制御部(制御ブロック)を、制御要求装置の数によらず一定にすることができる。この結果、設計効率を向上させることができる。
【0081】
この効果について具体的に説明する。複数の制御要求装置のうち、加速度を制御目的とする加速度制御要求装置がM個、加速度以外を制御目的とする非加速度制御要求装置がN個存在するとする。従来のように、すべての制御要求装置からの制御要求を加速度制御要求に統一した上で調停を行う構成の場合、図6に示すように、「制御要求調停部」については加速度制御要求調停部41を1個設ければよいが、「制御要求変換部」については位置制御要求変換部22又は速度制御要求変換部32をN個の非加速度制御要求装置のそれぞれについて用意しなければならない。また、「可能範囲変換部」については、可能位置範囲変換部23、可能速度範囲変換部33又は可能加速度範囲変換部43をすべて(M+N個)の制御要求装置のそれぞれについて用意しなければならない。つまり、図6において斜線部で示す制御部(加速度制御要求変換部42に入力するための制御要求を、複数の制御要求装置により出力される複数の制御要求から調停するために必要なモジュール)を、2N+M+1個用意する必要がある。
【0082】
これに対し、本実施形態の制御プラットフォーム10では、位置制御プラットフォーム20として位置制御要求調停部21、位置制御要求変換部22及び可能位置範囲変換部23の3個の制御部と、速度制御プラットフォーム30として速度制御要求調停部31、速度制御要求変換部32及び可能速度範囲変換部33の3個の制御部と、加速度制御プラットフォーム40として加速度制御要求調停部41及び可能加速度範囲変換部43の2個の制御部とを設ければよい。つまり、図1において斜線部で示す制御部を、制御要求装置の数(M,N)によらず、計8個用意すればよい。
【0083】
このため、図7に示すように、M,Nが「2N+M+1≧8」を満たす値であれば、従来の構成に比べて制御部の数が上回らないようにすることができる。例えば、M=1の場合、N=3で制御部の数が従来の構成と同等になり、Nが3を上回るほど制御部の数を抑える効果が高くなる。つまり、この効果は、制御要求装置の数(特に非加速度制御要求装置の数)が多いほど顕著となる。制御要求装置の数は、近年の運転支援の種類の多様化に伴い今後ますます増加する傾向にあると考えられることから、本実施形態のように構成することの技術的意義は高いといえる。
【0084】
また、この制御プラットフォーム10では、「制御要求調停部」が、入力した複数の制御要求の中に安全系の制御要求装置からの制御要求が存在する場合には、安全系の制御要求装置からのものであって車両を停止状態に近づけるのに最も寄与する要求のものを選択する。このため、安全性を損なわない調停を実現することができる。
【0085】
加えて、この制御プラットフォーム10では、「制御要求調停部」が、調停された制御要求と前回の制御要求との差分の絶対値が設定値よりも大きくなった場合には、調停された制御要求をなまし処理するようにしているため、制御要求により要求される制御が急激に変化してしまうことを防ぐことができる。
【0086】
[5.特許請求の範囲との対応]
なお、本実施形態では、制御要求装置51〜55が制御要求手段に相当する。また、位置制御要求調停部21が位置制御要求調停手段に相当し、位置制御要求変換部22が位置制御要求変換手段に相当し、可能位置範囲変換部23が位置範囲変換手段に相当する。また、速度制御要求調停部31が速度制御要求調停手段に相当し、速度制御要求変換部32が速度制御要求変換手段に相当し、可能速度範囲変換部33が速度範囲変換手段に相当する。また、加速度制御要求調停部41が加速度制御要求調停手段に相当し、加速度制御要求変換部42が加速度制御要求変換手段に相当し、可能加速度範囲変換部43が加速度範囲変換手段に相当する。また、駆動制御装置61及び制動制御装置62が制御装置に相当する。
【0087】
[6.他の形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0088】
例えば、上記実施形態では、可能位置範囲変換部23、可能速度範囲変換部33及び可能加速度範囲変換部43を備える制御プラットフォーム10を例示したが、これらは省略することも可能である。この場合、前述したように、加速度制御要求装置M個、非加速度制御要求装置N個とすると、従来のようにすべての制御要求装置からの制御要求を加速度制御要求に統一した上で調停を行う構成の場合には、制御部をN+1個用意する必要があるのに対し、本実施形態の制御プラットフォーム10では、制御要求装置の数(M,N)によらず、計5個用意すればよい。このため、N≧4であれば、従来の構成に比べて制御部の数が上回らないようにすることができ、Nが4を上回るほど制御部の数を抑える効果が高くなる。
【0089】
また、上記実施形態では、複数の制御要求から1つを選択するという調停方法を例示したが、調停方法はこれに限定されるものではなく、例えば、すべての制御要求の平均値を調停値として出力するといった方法も可能である。
【0090】
さらに、上記実施形態では、位置制御プラットフォーム20の出力が速度制御プラットフォーム30に入力され、速度制御プラットフォーム30の出力が加速度制御プラットフォーム40に入力される構成の制御プラットフォーム10(図1)を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、図1における位置制御プラットフォーム20と速度制御プラットフォーム30との順序を逆にした構成とすることも可能である。また、例えば図8に示すように、位置制御プラットフォーム20の出力と、速度制御プラットフォーム30の出力と、加速度制御要求装置55の出力とが、加速度制御プラットフォーム40に並列に入力される構成とすることも可能である。
【0091】
一方、上記実施形態では、車両の前後運動を制御するための制御要求を調停する制御プラットフォーム10について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、車両の横運動や上下運動についても同様に、位置、速度、加速度の各制御プラットフォームを設けることによって同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0092】
10…制御プラットフォーム、20…位置制御プラットフォーム、21…位置制御要求調停部、22…位置制御要求変換部、23…可能位置範囲変換部、30…速度制御プラットフォーム、31…速度制御要求調停部、32…速度制御要求変換部、33…可能速度範囲変換部、40…加速度制御プラットフォーム、41…加速度制御要求調停部、42…加速度制御要求変換部、43…可能加速度範囲変換部、51…車間制御要求装置(ACC)、52…その他の位置制御要求装置、53…自動車速制限装置(ASL)、54…クルーズコントロール(CC)、55…衝突軽減制御要求装置(CM)、61…駆動制御装置、62…制動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行制御の制御要求として位置、速度又は加速度を次元とする制御要求を出力する複数の制御要求手段を備える車両において、前記複数の制御要求手段により出力される複数の制御要求を調停する制御要求調停装置であって、
位置を次元とする複数の制御要求を入力し、そのうちの1つを選択して出力する位置制御要求調停手段と、
前記位置制御要求調停手段により出力された制御要求を入力し、速度及び加速度のうち出力先に応じた次元の制御要求に変換して出力する位置制御要求変換手段と、
速度を次元とする複数の制御要求を入力し、そのうちの1つを選択して出力する速度制御要求調停手段と、
前記速度制御要求調停手段により出力された制御要求を入力し、位置及び加速度のうち出力先に応じた次元の制御要求に変換して出力する速度制御要求変換手段と、
加速度を次元とする複数の制御要求を入力し、そのうちの1つを選択して出力する加速度制御要求調停手段と、
前記加速度制御要求調停手段により出力された制御要求を入力し、加速度制御を実現する制御装置に応じた次元の制御要求に変換して出力する加速度制御要求変換手段と、
を備えることを特徴とする制御要求調停装置。
【請求項2】
前記制御装置は、当該制御装置により実現可能な制御範囲を表す可能範囲情報を出力するものであり、
前記位置制御要求調停手段、前記速度制御要求調停手段及び前記加速度制御要求調停手段のうち少なくとも1つは、前記選択した制御要求が前記可能範囲情報の表す範囲外の制御を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力すること
を特徴とする請求項1に記載の制御要求調停装置。
【請求項3】
前記可能範囲情報を入力し、実現可能な加速度の範囲を表す可能範囲情報に変換して出力する加速度範囲変換手段と、
前記可能範囲情報を入力し、実現可能な速度の範囲を表す可能範囲情報に変換して出力する速度範囲変換手段と、
前記可能範囲情報を入力し、実現可能な位置の範囲を表す可能範囲情報に変換して出力する位置範囲変換手段と、
を備え、
前記位置制御要求調停手段は、前記位置範囲変換手段により出力された可能範囲情報を入力し、前記選択した制御要求がその可能範囲情報の表す範囲外の位置を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力し、
前記速度制御要求調停手段は、前記速度範囲変換手段により出力された可能範囲情報を入力し、前記選択した制御要求がその可能範囲情報の表す範囲外の速度を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力し、
前記加速度制御要求調停手段は、前記加速度範囲変換手段により出力された可能範囲情報を入力し、前記選択した制御要求がその可能範囲情報の表す範囲外の加速度を要求するものである場合には、その範囲内に収まるように調整して出力すること
を特徴とする請求項2に記載の制御要求調停装置。
【請求項4】
位置又は速度を次元とする制御要求を出力する制御要求手段を4つ以上含む複数の制御要求手段を備える車両において、それらにより出力される制御要求を調停すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制御要求調停装置。
【請求項5】
前記位置制御要求調停手段、前記速度制御要求調停手段及び前記加速度制御要求調停手段は、入力した複数の制御要求のうちあらかじめ決められている優先度の高いものを選択すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の制御要求調停装置。
【請求項6】
前記位置制御要求調停手段、前記速度制御要求調停手段及び前記加速度制御要求調停手段は、前記優先度の高い制御要求のうち、車両を停止状態に近づけるのに最も寄与する要求のものを選択すること
を特徴とする請求項5に記載の制御要求調停装置。
【請求項7】
前記位置制御要求調停手段、前記速度制御要求調停手段及び前記加速度制御要求調停手段は、選択した制御要求と前回選択した制御要求との差が大きいと判定した場合には、出力する制御要求を、前回選択した制御要求から今回選択した制御要求へ徐々に変化させること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の制御要求調停装置。
【請求項8】
走行制御の制御要求として位置、速度又は加速度を次元とする制御要求を出力する複数の制御要求手段を備える車両において、前記複数の制御要求手段により出力される複数の制御要求を調停する制御要求調停装置であって、
前記複数の制御要求手段のうち位置を次元とする制御要求手段からの複数の制御要求を受信可能であって、これらの制御要求を調停して出力する位置制御要求調停手段と、
前記位置制御要求調停手段により出力された制御要求を受信し、速度を次元とする制御要求に変換して出力する位置制御要求変換手段と、
前記複数の制御要求手段のうち速度を次元とする制御要求手段からの制御要求を受信し、且つ前記位置制御要求変換手段からの出力を受信し、速度を次元とする制御要求と前記位置制御要求変換手段の出力である制御要求とを調停して出力する速度制御要求調停手段と、
前記速度制御要求調停手段により出力された制御要求を受信し、加速度を次元とする制御要求に変換して出力する速度制御要求変換手段と、
前記複数の制御要求手段のうち加速度を次元とする制御要求手段からの制御要求を受信し、且つ前記速度制御要求変換手段からの出力を受信し、加速度を次元とする制御要求と前記速度制御要求変換手段の出力である制御要求とを調停して出力する加速度制御要求調停手段と、
前記加速度制御要求調停手段により出力された制御要求を受信し、加速度制御を実現する制御装置に応じた次元の制御要求に変換して出力する加速度制御要求変換手段と、
を備えることを特徴とする制御要求調停装置。
【請求項9】
前記制御装置に対する制御要求は、前記加速度制御要求変換手段からのみ出力されること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の制御要求調停装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−63098(P2011−63098A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214722(P2009−214722)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】