説明

制振材塗布方法及び制振材塗布装置

【課題】制振材が被塗布面の一面に均一に塗布することができると共に、被塗布面に制振材が塗布されるパネル状部材のNV性能及び剛性を確保することが可能な制振材塗布方法及び制振材塗布装置を提供する。
【解決手段】ノズル1の吐出口5を8角形に形成して、この吐出口5から制振材を押し出すように吐出して塗布する。これにより、空気を含まない密な制振材を塗布することができ、パネル状部材のNV性能及び剛性を高めることができる。また、横断面形状が一定のばらつきがない表面が滑らかな制振材の膜をパネル状部材の被塗布面上に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材塗布方法及び制振材塗布装置に関するもので、特に、スロット形状の吐出口を有するノズルを被塗布面に沿って移動させることにより、制振材を被塗布面に塗布する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体の随所には、制振材が用いられている。例えば、フロアパネル(パネル状部材)の表面(被塗布面)には、高粘度の制振材が塗布される。このように高粘度の制振材を塗布する場合、ノズルに制振材を供給しながら、このノズルを、例えば、ロボットによってフロアパネルの表面に沿って操作する(図1参照)。この場合、まず、ノズルを縦方向(フロアパネル長手方向)へ移動させて、制振材をフロアパネルの一側に塗布する。次に、ノズルを横方向(フロアパネル幅方向)へ移動させた後、ノズルを縦方向、すなわち、フロアパネルの一側に帯状に塗布された制振材の端縁に沿って移動させることにより、制振材をフロアパネルの他側に塗布する。これにより、フロアパネルの一面に制振材が塗布される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来技術のノズルを用いて塗布された制振材は、その膜厚(横断面の高さ)がノズルの送り速度を制御することで調節されており、図13に示されるように、膜厚T0(例えば、T0 = 0.2 mm)の薄膜(制振材)が縦方向へ折り重なって、全体として、膜厚T1(例えば、T1 = 4.5 mm)の波形状の膜が形成される。このように、従来技術では、制振材4が波形状に形成されるため、折り重なった薄膜間に空気が含まれる。その結果、フロアパネルのNV性能(Nは Noise 、Vは Vibration ) 及び剛性の低下を招き、さらに、制振材の膜厚T1の管理が困難である(膜厚T1がばらつく)。さらに、従来技術では、隣接する帯状の制振材4間の間隙を0にするのが極めて難しく、この帯状の制振材4間の間隙をなくすため、すなわち、NV性能の低下を防ぐため、図14に示されるように、隣接する制振材4間の端縁が重ね合わされる。その結果、制振材4の合せ部の厚さが帯状の制振材4の厚さの2倍になり、この制振材4の合せ部が周囲の部品に干渉する虞がある。
【特許文献1】特開2002−273317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、制振材が被塗布面の一面に均一に塗布することができると共に、被塗布面に制振材が塗布されるパネル状部材のNV性能及び剛性を確保することが可能な制振材塗布方法及び制振材塗布装置を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の制振材塗布方法は、パネル状部材の被塗布面に高粘度の制振材を帯状に塗布する工程と、この帯状に塗布された制振材の端縁に沿って相互の端縁が合さるように被塗布面に次の制振材を帯状に塗布する工程と、を含む制振材塗布方法であって、制振材を塗布するためのノズルの吐出口を、幅及び開きを被塗布面に形成される帯状の制振材の横断面の幅及び高さに整合させたスロット形状に形成すると共に、吐出口の幅方向両側の各端部を、吐出口の両端部を横切る吐出口の中心線を対称軸として対称に、且つ、各端部の開きが幅方向外側へ向けて逓減されるように形成しておいて、ノズルをパネル状部材の被塗布面に沿って塗布方向へ移動させながら、制振材を吐出口から押し出すように吐出させて、被塗布面に制振材を塗布することを特徴とする。
本発明の制振材塗布方法によれば、制振材を吐出口から押し出すように吐出させることにより、横断面の幅及び高さが吐出口の幅及び開きに等しい帯状の制振材が被塗布面に塗布される。これにより、本発明の制振材塗布方法では、波形状の膜(制振材)を形成する従来技術のように、折り重なった薄い膜(制振材)の間に空気の層が形成されることがない。したがって、本発明の制振材塗布方法では、従来技術と比較して、制振材をより密に塗布することができることから、パネル状部材のNV性能及び剛性を高めることができる。また、スロット形状の吐出口の各端部を開きが外側へ向けて小さくなるように形成したので、制振材を並列に塗布した場合であっても、隣接する制振材間の合せ部の厚さが帯状の制振材の膜厚(横断面の高さ)よりも大きくなってしまうようなことがない。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の制振材塗布装置は、ノズルをパネル状部材の被塗布面に沿って移動させて、被塗布面に高粘度の制振材を帯状に塗布する制振材塗布装置であって、ノズルは、制振材が導入される導入口と、スロット形状に形成されて幅及び開きが被塗布面に形成される帯状の制振材の横断面の幅及び高さに整合される吐出口と、導入口から吐出口へ向けて幅が拡張されるように形成されて導入口から導入される制振材が供給される空間部と、を具備して、吐出口の幅方向両側の各端部は、吐出口の両端部を横切る吐出口の中心線を対称軸として対称に形成されると共に、それぞれの開きが幅方向外側へ向けて逓減されることを特徴とする。
本発明の制振材塗布装置によれば、吐出口の幅及び開きに等しい幅及び高さの横断面を有する帯状の制振材が被塗布面に塗布されるので、従来技術、すなわち、波形状の膜(制振材)を形成する従来技術のように、折り重なった薄い膜(制振材)の間に空気の層が形成されることがない。したがって、本発明の制振材塗布装置では、従来技術と比較して、制振材をより密に塗布することができることから、パネル状部材のNV性能及び剛性を高めることができる。また、スロット形状の吐出口の各端部を開きが外側へ向けて小さくなるように形成したので、制振材を並列に塗布した場合であっても、隣接する制振材間の合せ部の厚さが帯状の制振材の膜厚(横断面の高さ)よりも大きくなってしまうようなことがない。
【0007】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、請求可能発明と称する)の態様を例示し、例示された各態様について説明する。ここでは、各態様を、特許請求の範囲と同様に、項に区分すると共に各項に番号を付し、必要に応じて他の項の記載を引用する形式で記載する。これは、請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合せを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施形態の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
なお、以下の各項において、(1)〜(7)項の各々が、請求項1〜7の各々に相当する。
【0008】
(1)パネル状部材の被塗布面に高粘度の制振材を帯状に塗布する工程と、この帯状に塗布された制振材の端縁に沿って相互の端縁が合さるように被塗布面に次の制振材を帯状に塗布する工程と、を含む制振材塗布方法であって、制振材を塗布するためのノズルの吐出口を、幅及び開きを被塗布面に形成される帯状の制振材の横断面の幅及び高さに整合させたスロット形状に形成すると共に、吐出口の幅方向両側の各端部を、吐出口の両端部を横切る吐出口の中心線を対称軸として対称に、且つ、各端部のそれぞれの開きが幅方向外側へ向けて逓減されるように形成しておいて、ノズルをパネル状部材の被塗布面に沿って塗布方向へ移動させながら、制振材を吐出口から押し出すように吐出させて、被塗布面に制振材を塗布することを特徴とする制振材塗布方法。
本項に記載の制振材塗布方法によれば、制振材を吐出口から押し出すように吐出させることにより、横断面の幅及び高さが吐出口の幅及び開きに等しい帯状の制振材が被塗布面に塗布される。これにより、本項の態様では、波形状の膜(制振材)を形成する従来技術で問題となっていたように、折り重なった薄い膜(制振材)の間に空気の層が形成されることがない。したがって、本項の態様では、従来技術と比較して、制振材をより密に塗布することができることから、パネル状部材のNV性能及び剛性を高めることができる。また、スロット形状の吐出口の各端部を開きが外側へ向けて小さくなるように形成したので、制振材を並列に塗布した場合であっても、隣接する制振材間の合せ部の厚さが帯状制振材の膜厚よりも大きくなってしまうようなことがない。
本項の態様において、吐出口の形状を、例えば、幅方向へ長い8角形に形成する。
【0009】
(2)ノズルをパネル状部材の被塗布面に沿って移動させて、被塗布面に高粘度の制振材を帯状に塗布する制振材塗布装置であって、ノズルは、制振材が導入される導入口と、スロット形状に形成されて幅及び開きが被塗布面に形成される帯状の制振材の横断面の幅及び高さに整合される吐出口と、導入口から吐出口へ向けて幅が拡張されるように形成されて導入口から導入される制振材が供給される空間部と、を具備して、吐出口の幅方向両側の各端部は、吐出口の両端部を横切る吐出口の中心線を対称軸として対称に形成されると共に、それぞれの開きが幅方向外側へ向けて逓減されることを特徴とする制振材塗布装置。
本項に記載の制振材塗布装置によれば、吐出口の幅及び開きに等しい幅及び高さの横断面を有する帯状の制振材が被塗布面に塗布されるので、波形状の膜(制振材)を形成する従来技術のように、折り重なった薄い膜(制振材)の間に空気の層が形成されることがない。したがって、本項の態様では、従来技術と比較して、制振材をより密に塗布することができることから、パネル状部材のNV性能及び剛性を高めることができる。また、スロット形状の吐出口の各端部を開きが外側へ向けて小さくなるように形成したので、制振材を並列に塗布した場合であっても、隣接する制振材間の合せ部の厚さが帯状制振材の膜厚よりも大きくなってしまうようなことがない。
【0010】
(3)ノズルは、分割面に凹部が形成されるノズル本体と、ノズル本体の分割面に取付けられるノズル蓋体と、吐出口の開きに等しい板厚を有してノズル本体とノズル蓋体との間に介装されると共に、矩形に形成される切欠き部を有するスペーサと、に分割して構成されて、吐出口は、ノズル本体の一辺と、ノズル蓋体の一辺と、切欠き部の幅方向両側端面と、を含んで形成される(2)の制振材塗布装置。
本項に記載の制振材塗布装置によれば、ノズルの構造上、スペーサの板厚が吐出口の開きに一致するので、被塗布面に形成する制振材の膜厚が変更される場合であっても、その膜厚に応じた板厚のスペーサに交換するだけで迅速に且つ容易に対応が可能である。
【0011】
(4)ノズルは、切欠き部が空間部に配置されて、空間部には、最も下流の部分に、切欠き部に面して空間部に供給された制振材が蓄積される蓄積部が形成されており、制振材は、蓄積部に充填された後、吐出口から押し出されるように吐出される(3)の制振材塗布装置。
本項に記載の制振材塗布装置によれば、制振材は、ノズルの導入口から空間部へ供給されて、空間部を吐出口へ向けて流下して蓄積部に蓄積される。この制振材は、蓄積部に充填された後、押し出されるように吐出口から吐出される。これにより、本項の態様では、密な(空気を含まない)制振材が吐出口から吐出される。そして、この吐出口から押し出されるように吐出された制振材が、被塗布面上に貼り付けられるように塗布される。
【0012】
(5)ノズルは、ノズル本体の幅方向両側に配設されてそれぞれがスペーサの切欠き部の幅方向の各端面に当接される各本体側凸部と、各本体側凸部に相対してノズル蓋体に配設される各蓋体側凸部と、を有して、吐出口の幅方向両側の各端部は、各本体側凸部と各蓋体側凸部とによって、各端部のそれぞれの開きが幅方向外側へ向けて逓減される(3)又は(4)の制振材塗布装置。
本項に記載の制振材塗布装置によれば、ノズル本体とノズル蓋体とに凸部を配設して、各凸部を、スペーサの切欠き部の幅方向両側の端面間に突出させることで、吐出口の各端部の開きを逓減させることができる。本項の態様では、各凸部の形状、特に、吐出口の一部を形成する各凸部の一辺の形状によって、当該吐出口の形状が決まる。各辺は直線あるいは曲線によって構成される。
【0013】
(6)吐出口の幅方向両側の各端部は、スペーサの切欠きの幅方向両側端面に形成される各凹部によって、各端部のそれぞれの開きが吐出口の幅方向外側へ向けて逓減される(3)又は(4)の制振材塗布装置。
本項に記載の制振材塗布装置によれば、スペーサに形成される各凹部によって、吐出口の各端部の開きを逓減させることができる。本項の態様では、(5)の態様と比較して、切欠き部の幅が同一であれば、より幅が大きい吐出口が形成される。また、スペーサの追加工にて実施が可能である。
【0014】
(7)吐出口は、幅方向へ延びる8角形に形成される(2)〜(6)の制振材塗布装置。
本項に記載の制振材塗布装置によれば、(5)の態様において、吐出口を正面にノズルを見た場合、各凸部を直角3角形に形成することにより、吐出口を8角形に形成することができる。なお、吐出口の幅方向両側の各端部において、本体側凸部と蓋体側凸部との近接する各頂点をスペーサの切欠き部の幅方向両端面上で一致させることにより、吐出口を6角形に形成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
制振材が被塗布面の一面に均一に塗布することができると共に、被塗布面に制振材が塗布されるパネル状部材のNV性能及び剛性を確保することが可能な制振材塗布方法及び制振材塗布装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図1〜図11に基いて説明する。
本実施形態の制振材塗布装置は、ノズル1をパネル状部材2の被塗布面3に沿って相互の端縁が合さるように移動させて、パネル状部材2の一側の被塗布面3上に制振材4を帯状に塗布して、このノズル1を、被塗布面3上に帯状に塗布された制振材4の幅(制振材4の横断面の幅)に対応させた分だけパネル幅方向へ移動させた後、パネル状部材2の一側の被塗布面3上に帯状に塗布された制振材4の端縁に沿って移動させて、制振材4をパネル状部材2の他側の被塗布面3上に帯状に塗布することにより、高粘度の制振材4をパネル状部材1の被塗布面2上の一面に塗布するものである。そして、制振材塗布装置は、ノズル1の吐出口5の幅(W)及び開き(H)が、被塗布面3上に塗布された制振材4の横断面の幅及び高さに設定されており、この吐出口5から制振材4を押し出すように吐出しながら、この制振材4をパネル状部材2の被塗布面3上に貼り付けるように塗布するものである。
【0017】
ノズル1は、ノズル本体6、ノズル蓋体7、スペーサ8に分割して構成される。ノズル本体6は、図2に示される正面視において、下方へ向けて幅が拡張される左右対称の多角形(本実施形態では6角形)に形成される。また、ノズル本体6は、その分割面6aに、当該ノズル本体6がなす多角形に略相似する形状の凹部10が形成される。さらに、ノズル本体6は、その上面11に、凹部10に連通される導入口12が設けられて、該導入口12には、制振材供給管13(図1参照)が接続される。ノズル本体6は、凹部10の底面10aの略中央にボス14が立設される。また、ノズル本体6は、分割面6aの上部に、幅方向(図2における左右方向)へ延びてノズル蓋体7及びスペーサ8が当接される当接部15が形成される。ノズル蓋体7及びスペーサ8は、ノズル本体6の当接部15に当接されることにより、上下方向(図2における上下方向)へ位置決めされると共にボス14の軸回りに回り止めされる。
【0018】
ノズル蓋体7は、平板状に形成されており、図4に示されるように、その外形が、図2におけるノズル本体6の当接部15から下側の部分に略等しい多角形(本実施形態では6角形)に形成される。また、ノズル蓋体7には、ノズル本体6のボス14に螺設されたねじ孔16に整合されるボルト挿通孔17が形成される。図6及び図7に示されるように、スペーサ8は、曲げ部18で90°に曲げ加工された板金部品であり、曲げ部18から上側の部分の外形がノズル蓋体7に略等しい多角形(本実施形態では6角形)に形成される。また、スペーサ8には、その上辺から中央にかけて延びる長孔19が形成されており、ノズル本体6のボス14のねじ孔16にボルトを螺合させた状態であっても、当該長孔19を利用することにより、スペーサ8をノズル本体6とノズル蓋体7との間に抜き差しすることができる構造になっている。
【0019】
さらに、スペーサ8には、幅方向(図6における左右方向)に延びる矩形の切欠き部20が形成される。この切欠き部20は、幅(幅寸法及び幅方向の位置)が、ノズル本体6の凹部10の開口形状に整合される。また、切欠き部20は、上辺から開始位置までの距離L1が、少なくとも、図2におけるノズル本体6の当接部15から凹部10の壁面10bまでの距離L0よりも短く設定されており、この開始位置から曲げ部18に亘って形成される。そして、ノズル1は、ノズル本体6の当接部15にノズル蓋体7の上辺を突き当てるようにして、ノズル本体6の分割面6aにノズル蓋体7を重ね合せて、この状態で、ノズル蓋体7のボルト挿通孔17に挿通したボルトの先端部を、ノズル本体6のボス14に形成されるねじ孔16に螺合させる。さらに、スペーサ8の操作部21を操作して、ボルトでスペーサ8の長孔19を案内しながらノズル本体6とノズル蓋体7との間にスペーサ8を差し込み、スペーサ8の上辺をノズル本体6の当接部15に当接させて、この状態で、ボルトを締め付けることにより、図8及び図9に示されるように、ノズル1が形成される。
【0020】
一方、図2〜図5に示されるように、ノズル本体6の分割面6aの下部には、幅方向両側に凸部22,23が配設される。また、ノズル蓋体7の合せ面7aの下部には、幅方向両側に凸部24,25が凸部22,23に相対して配置される。これら凸部22〜25は、3角錐形に形成されており、図8及び図9に示されるように、ノズル蓋体7及びスペーサ8を組合せてノズル1を形成すると、それぞれの凸部22〜25の幅方向外側を向いた各側面22a〜25aが、スペーサ8の切欠き部20の端面20aに当接(対面)されると共に、凸部22〜25の下方を向いた各底面22b〜25bが、ノズル本体6の下端面6b及びノズル蓋体7の下端面7bに対して面一に(同一平面上に)配置される。そして、図8に示されるように、ノズル1の吐出口5は、ノズル本体6の分割面6aと下端面6bとの稜線、ノズル蓋体7の合せ面7aと下端面7bとの稜線、及び各凸部22〜25の各底面22b〜25bの各斜辺22c〜25cによって、幅方向(図8における左右方向)へ長い8角形に形成される。
これにより、図8に示されるように、吐出口5は、当該吐出口5の幅方向両側(図8における左右方向両側)の各端部5a,5bが、各端部5a,5bを横切る中心線Cを対称軸(C)として上下対称に、且つ、各端部5a,5bのそれぞれの開きが先細り、すなわち、幅方向外側へ向けて開きが逓減されるように形成される。
【0021】
図9に示されるように、ノズル1は、その内部に空間部9が形成されて、この空間部9の最も下流部分には、切欠き部20に面して空間部9に供給された制振材4が蓄積される蓄積部26が形成される。そして、制振材塗布装置では、制振材4が導入口12からノズル1の空間部9に供給されて、この制振材4は、空間部9を流下して蓄積部26に蓄積される。制振材4は、蓄積部26に充填されて圧力が高められると、図9においてPで示される断面形状が矩形(長方形)で吐出口5からノズル本体6の壁体の壁厚分だけ奥まった位置から吐出口5へ向かって絞られながら、最終的に断面形状が8角形の吐出口5から押し出されるように吐出される構造になっている。そして、吐出された制振材4は、横断面が略そのままの形状で、パネル状部材2の被塗布面3上に、貼り付けられるように帯状に塗布される。
【0022】
次に、本実施形態の制振材塗布装置を用いた制振材塗布方法を説明する。
まず、図1に示されるように、ノズル1の吐出口5から制振材4を押し出すように吐出させながら、ノズル1をパネル状部材2の被塗布面3に沿って移動させて、制振材4をパネル状部材2の一側の被塗布面3上に帯状に塗布する。次に、このノズル1を、予め設定された距離、すなわち、被塗布面3上に帯状に塗布された制振材4の帯幅に応じた距離だけ、パネル幅方向へ移動させた後(ここではノズル1の移動のみであって吐出口5から制振材4は吐出されていない)、ノズル1の吐出口5から制振材4を押し出すように吐出させながら、ノズル1をパネル状部材2の一側の被塗布面3上に帯状に塗布された制振材4の端縁に沿って移動させて、制振材4をパネル状部材2の他側の被塗布面3上に帯状に塗布する。これにより、図10に示されるように、パネル状部材1の被塗布面2上の一面に制振材4が塗布される。
【0023】
そして、本実施形態では、ノズル1の吐出口5を8角形に形成して、且つ、制振材4をノズル1の吐出口5から押し出すように吐出してパネル状部材2の被塗布面3上にあたかも貼り付けるように塗布することにより、パネル状部材2の一側に塗布された帯状の制振材4と他側に塗布された帯状の制振材4との境界における相互の端縁が接触して、相互間に隙間を生じさせない。ここで、図11に示されるのは、(1)本実施形態の制振材塗布方法を用いて制振材4を塗布したパネル状部材2と、(2)従来技術、すなわち、薄膜(制振材4)が縦方向(塗布方向)へ折り重なって、全体として波形状の膜が形成される従来の制振材塗布方法を用いて制振材4を塗布したパネル状部材2と、(3)制振材4を塗布していないパネル状部材2と、の単点加振試験結果である。この図に示されるように、(1)のパネル状部材2では、ピーク時のイナータンスが78.2 (db)、(2)のパネル状部材2では、ピーク時のイナータンスが79.6 (db)、(3)のパネル状部材2では、ピーク時のイナータンスが91.3 (db)であった。
【0024】
この単点加振試験結果から、(2)の従来技術の制振材塗布方法を用いたパネル状部材2は、(3)の制振材4を塗布していないパネル状部材2に対して、イナータンスが11.7 (db)減少、すなわち、NV性能が向上されていることが解る。さらに、(1)の本実施形態の制振材塗布方法を用いたパネル状部材2は、(2)の従来技術の制振材塗布方法を用いたパネル状部材2に対して、イナータンスが1.4 (db)減少、すなわち、NV性能がより向上していることが解る。
【0025】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、ノズル1の吐出口5の幅(W)及び開き(H)を、被塗布面3上に塗布される帯状の制振材4の横断面の幅(帯幅)及び高さに設定しておいて、ノズル1の吐出口5から制振材4を押し出すように吐出して、この制振材4をパネル状部材2の被塗布面3上に貼り付けるように塗布するので、従来技術と比較すると、制振材4が波形状の膜を形成して空気の層が形成されることがなく、制振材4をより密に塗布することができることから、パネル状部材2のNV性能を高めることができる。また、横断面形状が一定のばらつきがない表面が滑らかな制振材4の膜をパネル状部材2の被塗布面3上に形成することができる。さらに、制振材4をより密に塗布することができることから、パネル状部材2の剛性を高めることもできる。言い換えると、従来技術に対して、NV性能及び剛性を確保しながら、塗布する制振材4の膜厚を減少させることができる。
また、ノズル1は、スロット形状の吐出口5を8角形に形成して、吐出口5の各端部5a,5bの開きが外側へ向けて小さくなるように形成したので、隣接する制振材4間の合せ部に隙間を生じさせないように制振材4を並列に塗布した場合であっても、当該制振材4の合せ部が帯状制振材の膜厚よりも大きくなってしまうようなことがなく、周辺部品との干渉を防ぐことができる。
また、ノズル1は、吐出口5の幅方向両側の各端部5a,5bが、各端部5a,5bを横切る中心線Cを対称軸(C)として対称に形成されて、その塗布方向に方向性がない、すなわち、ノズル1を前進させながら塗布した時の制振材4の横断面形状と、ノズル1を後退させながら塗布した時の制振材4の横断面形状とが同一であるので、制振材4を被塗布面3に並列に塗布する場合、ノズル1を効率的に移動させて工数の増大を抑制することができる。
また、ノズル1は、スペーサ8の板厚を吐出口5の開きに一致させたので、被塗布面3に形成する制振材4の膜厚が変更される場合であっても、その膜厚に応じた板厚のスペーサ8に交換するだけで迅速に且つ容易に対応することができる。
また、ノズル1は、制振材を蓄積部に充填させた後、押し出すように吐出口5から吐出するので、密な(空気を含まない)制振材4を吐出口5から帯状に吐出することができ、さらに、この制振材4を、被塗布面3に貼り付けるように塗布することができる。
【0026】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
本実施形態では、吐出口5を8角形に形成したが、各端部5a,5bの開きが幅方向外側へ向けて逓減されて、且つ、各端部5a,5bが、各端部5a,5bを横切る中心線Cを対称軸(C)として対称に形成されていれば、例えば、図12に示されるように、各端部5a,5bを曲線で形成してもよい。
また、本実施形態では、ノズル本体6及びノズル蓋体7に凸部22〜25を配設して吐出口5を8角形に形成したが、スペーサ8の切欠き部20の幅方向両側端面に形成される各凹部によって、吐出口5の各端部5a,5bの開きを幅方向外側へ向けて逓減するように構成してもよい。この場合、従来技術と比較して、スペーサ8の切欠き部20の幅が同一であれば、より幅が大きい吐出口5が形成されると共に、スペーサ8の追加工にて実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ノズルを移動させてパネル状部材の被塗布面に制振材を塗布している様子を示す図である。
【図2】本実施形態のノズル本体の正面図である。
【図3】図2におけるB−B断面図である。
【図4】本実施形態のノズル蓋体の正面図でる。
【図5】図4のノズル蓋体の左側面図である。
【図6】本実施形態のスペーサの正面図である。
【図7】図6におけるD−D矢視図である。
【図8】本実施形態のノズルの底面図である。
【図9】図8におけるA−A矢視図である。
【図10】本実施形態のノズルによってパネル状部材の被塗布面上に並列に塗布された制振材を示す図である。
【図11】(1)本実施形態のノズルを用いて制振材を塗布したパネル状部材と、(2)従来技術を用いて制振材を塗布したパネル状部材と、(3)制振材を塗布していないパネル状部材と、の単点加振試験結果である。
【図12】他の実施形態のノズルの吐出口形状を示す図である。
【図13】従来技術を用いて塗布された制振材の縦断面形状を示す図である。
【図14】従来技術のノズルによってパネル状部材の被塗布面上に並列に塗布された制振材を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ノズル、2 パネル状部材、3 被塗布面、4 制振材、5 吐出口、6 ノズル本体、7 ノズル蓋体、8 スペーサ、9 空間部、10 凹部、20 切欠き部、22〜25 凸部、26 蓄積部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル状部材の被塗布面に高粘度の制振材を帯状に塗布する工程と、この帯状に塗布された制振材の端縁に沿って相互の端縁が合さるように前記被塗布面に次の制振材を帯状に塗布する工程と、を含む制振材塗布方法であって、
制振材を塗布するためのノズルの吐出口を、幅及び開きを前記被塗布面に形成される帯状の制振材の横断面の幅及び高さに整合させたスロット形状に形成すると共に、前記吐出口の幅方向両側の各端部を、前記吐出口の両端部を横切る前記吐出口の中心線を対称軸として対称に、且つ、各端部の開きが幅方向外側へ向けて逓減されるように形成しておいて、
前記ノズルを前記パネル状部材の被塗布面に沿って塗布方向へ移動させながら、制振材を前記吐出口から押し出すように吐出させて、前記被塗布面に制振材を塗布することを特徴とする制振材塗布方法。
【請求項2】
ノズルをパネル状部材の被塗布面に沿って移動させて、前記被塗布面に高粘度の制振材を帯状に塗布する制振材塗布装置であって、
前記ノズルは、制振材が導入される導入口と、スロット形状に形成されて幅及び開きが前記被塗布面に形成される帯状の制振材の横断面の幅及び高さに整合される吐出口と、前記導入口から前記吐出口へ向けて幅が拡張されるように形成されて前記導入口から導入される制振材が供給される空間部と、を具備して、
前記吐出口の幅方向両側の各端部は、前記吐出口の両端部を横切る前記吐出口の中心線を対称軸として対称に形成されると共に、それぞれの開きが前記吐出口の幅方向外側へ向けて逓減されることを特徴とする制振材塗布装置。
【請求項3】
前記ノズルは、分割面に凹部が形成されるノズル本体と、前記ノズル本体の分割面に取付けられるノズル蓋体と、前記吐出口の開きに等しい板厚を有して前記ノズル本体と前記ノズル蓋体との間に介装されると共に、矩形に形成される切欠き部を有するスペーサと、に分割して構成されて、
前記吐出口は、前記ノズル本体の一辺と、前記ノズル蓋体の一辺と、前記切欠き部の幅方向両側端面と、を含んで形成されることを特徴とする請求項2に記載の制振材塗布装置。
【請求項4】
前記ノズルは、前記切欠き部が前記空間部に配置されて、
前記空間部には、最も下流の部分に、前記切欠き部に面して前記空間部に供給された制振材が蓄積される蓄積部が形成されており、
前記制振材は、前記蓄積部に充填された後、前記吐出口から押し出されるように吐出されることを特徴とする請求項3に記載の制振材塗布装置。
【請求項5】
前記ノズルは、前記ノズル本体の幅方向両側に配設されてそれぞれが前記スペーサの前記切欠き部の幅方向の各端面に当接される各本体側凸部と、各本体側凸部に相対して前記ノズル蓋体に配設される各蓋体側凸部と、を有して、
前記吐出口の幅方向両側の各端部は、各本体側凸部と各蓋体側凸部とによって、各端部のそれぞれの開きが前記吐出口の幅方向外側へ向けて逓減されることを特徴とする請求項3又は4に記載の制振材塗布装置。
【請求項6】
前記吐出口の幅方向両側の各端部は、前記スペーサの前記切欠きの幅方向両側端面に形成される各凹部によって、各端部のそれぞれの開きが前記吐出口の幅方向外側へ向けて逓減されることを特徴とする請求項3又は4に記載の制振材塗布装置。
【請求項7】
前記吐出口は、幅方向へ延びる8角形に形成されることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の制振材塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−6302(P2009−6302A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172204(P2007−172204)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】