説明

制震パネル

【課題】制震構造において制震材が限界変形に達したときも、制震構造として機能する制震材を用いた制震パネルを提供することを課題とする。
【解決手段】低降伏点鋼からなる部材間に粘弾性体が介装された制震材からなる制震構造であって、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられ、前記部材どうしの相対変形を規制することにより、前記低降伏点鋼よりなる部材が制震部材として機能し、粘弾性体による制震構造と低降伏点鋼による制震構造を併せ持つことを特徴とする制振材を用いた制震パネル。
【選択図】 図4

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物に地震などの外力が加わった場合に、建物が地震に耐えられるだけの頑丈な構造とする耐震構造に対して、建物の安全性をより図るため建物の中にエネルギーを吸収する制震材を配置し建物の震動を低減する制震構造が提案されている。
【0003】
制震構造では、オイルダンパーや部材間に粘弾性体を介装した制震材を建物に組み込んで制震構造物を建設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−207144号公報
【特許文献2】特開2003−286774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、制震構造においては、部材間に粘弾性体が介装された制震材が限界変形に達したときは、制震構造としての機能を発揮できない。
【0006】
特に、住宅など制震パネルを複数枚配置し建物全体として制震構造とする建物では、局所的に制震パネルに大きな力がかかることがあり、1枚の制震パネルが大きく変形し、制震パネルの限界変形に達してしまうことがある。
【0007】
本発明は以上のような問題に鑑み、制震構造において制震材が限界変形に達したときも、耐震構造もしくは制震構造として機能する制震構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、部材間に粘弾性体が介装された制震材を用いた制震構造であって、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられ、前記部材どうしの相対変形を規制することにより該制震構造の限界変形以降は耐震構造として機能することを特徴とする制震構造により解決される。
【0009】
この制震構造によれば、部材間に粘弾性体が介装された制震材を用いた制震構造で、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられているので、限界変形以上に部材どうしが相対変形することが規制され、粘弾性体の限界変形を超えて制震構造が変形することなく耐震構造として機能し、制震構造が限界変形を超えて機能しなくなる前に耐震構造として機能し大きな変形にも対応することができる。
【0010】
なお、限界変形とは制震材に介装された粘弾性体が機能する変形量の限界を意味する。また、制震構造が限界変形に達するときとは、制震構造が限界変形したときだけでなく限界変形に達する前の段階も含むものとする。
【0011】
また上記の課題は、低降伏点鋼からなる部材間に粘弾性体が介装された制震材からなる制震構造であって、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられ、前記部材どうしの相対変形を規制することにより、前記低降伏点鋼よりなる部材が制震部材として機能し、粘弾性体による制震構造と低降伏点鋼による制震構造を併せ持つことを特徴とする制震構造によっても解決される。
【0012】
この制震構造によれば、低降伏点鋼からなる部材間に粘弾性体が介装された制震材からなる制震構造で、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられているので、限界変形以上に部材どうしが相対変形することが規制され、前記部材どうしの相対変形を規制することにより、粘弾性体の限界変形を超えて制震構造が変形することなく低降伏点鋼よりなる部材が制震部材として機能し、粘弾性体による制震構造が限界変形を超えて機能しなくなる前に粘弾性体による制震構造と低降伏点鋼による制震構造を併せ持つ制震構造として機能し大きな変形にも対応することができる。
【0013】
さらに上記の課題は、部材間に粘弾性体が介装された制震材を用いた制震構造であって、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられ、前記部材どうしの相対変形を規制することにより該制震構造の限界変形以降は耐震構造として機能することを特徴とする制震構造、若しくは、低降伏点鋼からなる部材間に粘弾性体が介装された制震材からなる制震構造であって、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられ、前記部材どうしの相対変形を規制することにより、前記低降伏点鋼よりなる部材が制震部材として機能し、粘弾性体による制震構造と低降伏点鋼による制震構造を併せ持つことを特徴とする制震構造を用いた制震パネルにより解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のとおりであるから、この制震構造によれば、部材間に粘弾性体が介装された制震材を用いた制震構造で、該制震構造が限界変形に達したときに前記部材どうしの相対変形を規制する手段が設けられているので、限界変形以上に部材どうしが相対変形することが規制され、粘弾性体の限界変形を超えて制震構造が変形することなく耐震構造若しくは粘弾性体と低降伏点鋼による制震構造として機能するため、粘弾性体による制震構造が限界変形を超えて機能しなくなる前に粘弾性体による制震構造と低降伏点鋼による制震構造を併せ持つ制震構造として機能し大きな変形にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の参考となる実施形態である制震構造を示す図であって、(イ)はその断面平面図、(ロ)は(イ)のA−A´線断面図、(ハ)〜(ホ)は変形したときの動作状況を表す断面平面図である。
【図2】本発明の参考となる実施形態である制震構造を示す斜視図である。
【図3】(イ)は本発明の参考となる実施形態である制震構造をブレースに適用したパネルを示す平面図であり、(ロ)及び(ハ)はそのパネルが変形した状況を示す平面図である。
【図4】本発明の施形態である制震構造を示す図であって、(イ)はその断面平面図、(ロ)は(イ)のA−A´線断面図、(ハ)〜(ホ)は変形したときの動作状況を表す断面平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の参考となる実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1及び図2に示す制震構造1において、2は第一構造体、3は第二構造体、4は粘弾性体である。第一構造体2は、本体部5、中央軸体部6、外周中空軸体部7、係止部8からなり、第二構造体3は、突起部10を有する鋼管からなる。
【0018】
制震構造は図3(イ)に示すように、フレームにより組まれた方形状のパネル11の対角に取り付けられるブレース12、13として使用され、一枚のパネルに対してそれぞれの対角に1本づつ合計2本取り付けられる。
【0019】
第一構造体2は密実の丸鋼からなる本体部5の一方の端部の中央に中央軸体部6が突出して形成されているとともにその周囲を中央軸体部6と間隔をあけて丸鋼からなる外周中空軸体部7が形成されており、外周中空軸体部7の先端は内側に突出した係止部8が形成されている。
【0020】
第二構造体3は中空の丸型鋼管からなり、第一構造体2の中央軸体部6が第二構造体3の中空部分に挿入され、中央軸体部6と第二構造体3の間に粘弾性体4が介装されている。制震構造1に外力が加わったときに第一構造体2と第二構造体3が軸芯方向に相対変形することにより粘弾性体4によりエネルギーを吸収するようになっている。
【0021】
第二構造体3の外周部には、第一構造体2と第二構造体3が相対変形をしたときに、粘弾性体が機能する変形量の限界を超えて相対変形しないように、第一構造体2と第二構造体3の相対変形を規制する突起部10が設けられており、第一構造体2の係止部8との協動により、第一構造体2と第二構造体3の相対変形を規制するようになされている。
【0022】
制震構造1を含むパネルに外力が加わった場合、図3(ロ)に示すようにパネル11には水平力が働き、パネル11の一方のブレース12は伸び、もう一方のブレース13は縮む。外力による制震構造1の許容範囲内であれば、2本のブレース12,13が交互の伸び縮みを繰り返すことで、制震構造1は図1(ハ)、(ニ)に示すように粘弾性体4がエネルギーを吸収し、外力からの建物の揺れを抑える。
【0023】
しかし、制震構造1を含むパネルに制震構造1で許容する以上の外力が加わった場合には、図3(ハ)に示すようにパネル11には大きな水平力が働き、パネル11の一方のブレース12は大きく伸び、もう一方のブレース13は大きく縮む。このとき、制震構造1は第一構造体1の係止部8と第二構造体3の突起部10の協動によりブレース12の伸び方向の変形が規制され、粘弾性体4の限界変形以上に変形せず長さが規制され、制震構造1は図1(ホ)に示すように制震構造ではなく、耐震構造として機能するようになる。
【0024】
つまり、粘弾性体が機能を発揮する変形量までは粘弾性体の作用で制震構造として機能するが、それ以上の粘弾性体が機能は発揮できない変形量ではブレースの変形を抑制する耐震構造として機能し、粘弾性体の破断を防止し、大きな変形にも対応することができる。
【0025】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図4に示す制震構造15において、第一構造体2の外周中空軸体部7の一部が低降伏点鋼13により形成されている。その他の構成については、第一の実施形態と同じであり、記号の説明は省略する。
【0027】
第二構造体3の外周部には、第一構造体2と第二構造体3が相対変形をしたときに、粘弾性体が機能する変形量の限界を超えて相対変形しないように、第一構造体2と第二構造体3の相対変形を規制する突起部10が設けられており、第一構造体2の係止部8との協動により、第一構造体2と第二構造体3の相対変形を規制するようになされている。
【0028】
制震構造15を含むパネルに外力が加わった場合、図3(ロ)に示すようにパネル11には水平力が働き、パネル11の一方のブレース12は伸び、もう一方のブレース13は縮む。外力による制震構造1の許容範囲内であれば、2本のブレースが交互の伸び縮みを繰り返すことで、制震構造15は図4(ハ)、(ニ)に示すように粘弾性体4がエネルギーを吸収し、外力からの建物の揺れを抑える。
【0029】
しかし、制震構造15を含むパネルに制震構造1で許容する以上の外力が加わった場合には、図3(ハ)に示すようにパネル11には大きな水平力が働き、パネル11の一方のブレース12は大きく伸び、もう一方のブレース13は大きく縮む。このとき、制震構造1は第一構造体1の係止部8と第二構造体3の突起部10の協動によりブレース12の伸び方向の変形が規制され、粘弾性体4の限界変形以上に変形せず長さが規制され、制震構造15は図4(ホ)に示すように、粘弾性体4と第一構造体2の低降伏点刻鋼13との複合による制震構造として機能することになる。
【0030】
つまり、粘弾性体が機能を発揮する変形量までは粘弾性体の作用で制震構造として機能するが、それ以上の粘弾性体が機能を発揮できない変形量ではブレースの変形を抑制し粘弾性体と低降伏点鋼の複合による制震構造として機能し、粘弾性体の破断を防止し、大きな変形にも対応することができる。
【0031】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では第一構造体の一部に低降伏点鋼が形成されている場合について示したが、第一構造体のすべてが低降伏点鋼で形成されていてもよいし、第二構造体が低降伏点鋼で形成されていてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0032】
1・・・制震構造
2・・・第一構造体
3・・・第二構造体
4・・・粘弾性体
5・・・本体部
6・・・中央軸体部
7・・・外周中空軸体部
8・・・係止部
10・・・突起部
11・・・パネル
12・・・ブレース
13・・・低降伏点鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一構造体と第二構造体と粘弾性体からなる制震材において、
第一構造体は、
密実の丸鋼からなる本体部と、
本体部の一方の端部の中央から突出する中央軸体部と、
中央軸体部の周囲に間隔をあけ、丸鋼でその先端部に内側に突出した係止部が形成された一部が低降伏点鋼からなる外周中空軸体部とからなり、
第二構造体は、外周部に突起部が設けられた中空の丸型鋼管からなり、
第一構造体の中央軸体部と第二構造体の間には粘弾性体が介装され、
制震材に外力が加わったときに第一構造体と第二構造体が軸芯方向に相対変形することにより粘弾性体によりエネルギーを吸収するようになされるとともに、粘弾性体が機能する変形量の限界を超えて相対変形しないように、第一構造体の突起部と第二構造体の係止部との協働により、第一構造体と第二構造体の相対変形を規制することにより、前記低降伏点鋼よりなる第1構造体が制震部材として機能し、粘弾性体による制震構造と低降伏点鋼による制震構造を併せ持つ制震構造として機能することを特徴とする制震材を用いた建物の制震パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112240(P2012−112240A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−41746(P2012−41746)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【分割の表示】特願2006−314382(P2006−314382)の分割
【原出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】