加工対象物切断方法
【課題】 切断対象となる加工対象物の材料に左右されず、その加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる加工対象物切断方法を提供する。
【解決手段】 シリコン基板12の主面が(100)面となっているため、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17は、シリコン基板12の劈開方向(シリコン基板12の主面と直交する方向)に伸展する。このとき、加工対象物1Aの裏面1bと分断用加工対象物10Aの表面10aとが陽極接合によって接合されているため、亀裂17は、連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、加工対象物1Aの表面1aに到達する。しかも、分断用加工対象物10Aに応力を生じさせる際には、亀裂17が分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達しているため、亀裂17は、加工対象物1A側に容易に伸展する。
【解決手段】 シリコン基板12の主面が(100)面となっているため、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17は、シリコン基板12の劈開方向(シリコン基板12の主面と直交する方向)に伸展する。このとき、加工対象物1Aの裏面1bと分断用加工対象物10Aの表面10aとが陽極接合によって接合されているため、亀裂17は、連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、加工対象物1Aの表面1aに到達する。しかも、分断用加工対象物10Aに応力を生じさせる際には、亀裂17が分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達しているため、亀裂17は、加工対象物1A側に容易に伸展する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するための加工対象物切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における上記技術分野の加工対象物切断方法として、基板とその基板の表面に設けられた積層部とを有する加工対象物にレーザ光を照射することにより、少なくとも基板の内部に改質領域を形成し、その改質領域を切断の起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を切断するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/076120号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような加工対象物切断方法においては、例えば、基板がLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)等からなり、レーザ光に対して散乱性を有していると、基板内にレーザ光が導光され難くなるため、切断の起点となる改質領域を基板の内部に形成することができない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、切断対象となる加工対象物の材料に左右されず、その加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる加工対象物切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る加工対象物切断方法は、主面が(100)面となっているシリコン基板を備える板状の第1の加工対象物の一方の端面に、主面と対向するように板状の第2の加工対象物の他方の端面を接合する工程と、第1の加工対象物にレーザ光を照射することにより、第2の加工対象物の切断予定ラインに沿ってシリコン基板の内部に溶融処理領域を形成し、溶融処理領域を起点として発生した亀裂を切断予定ラインに沿って第1の加工対象物の他方の端面に到達させる工程と、第1の加工対象物に応力を生じさせることにより、亀裂を切断予定ラインに沿って第2の加工対象物の一方の端面に到達させ、切断予定ラインに沿って第2の加工対象物を切断する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
この加工対象物切断方法では、シリコン基板の主面が(100)面であるため、溶融処理領域を起点として発生した亀裂は、第1の加工対象物において、シリコン基板の劈開方向(すなわち、シリコン基板の主面と直交する方向)に伸展する。このとき、第2の加工対象物の他方の端面が第1の加工対象物の一方の端面に接合されているため、第1の加工対象物においてシリコン基板の主面と直交する方向に伸展した亀裂は、その方向を殆ど変えることなく第2の加工対象物に伝わり、第2の加工対象物の一方の端面に到達する。しかも、第1の加工対象物に応力を生じさせる際には、溶融処理領域を起点として発生した亀裂が第1の加工対象物の他方の端面に到達しているため、その亀裂を第2の加工対象物側に容易に伸展させることができる。従って、第2の加工対象物の切断予定ラインに沿って第1の加工対象物のシリコン基板の内部に溶融処理領域を形成すれば、第2の加工対象物に切断の起点を何ら形成しなくても、第2の加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる。
【0008】
また、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面とは、陽極接合によって接合されることが好ましい。或いは、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面とは、表面活性化直接接合によって接合されることが好ましい。これらの接合方法によれば、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面とが強固に直接接合される。そのため、第1の加工対象物においてシリコン基板の主面と直交する方向に伸展した亀裂を、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面との界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、第2の加工対象物に確実に伸展させることができる。
【0009】
また、レーザ光は、第1の加工対象物の他方の端面をレーザ光入射面として第1の加工対象物に照射されることが好ましい。この場合、切断対象となる第2の加工対象物がレーザ光を導光し易いか導光し難いかにかかわらず、第1の加工対象物のシリコン基板の内部に溶融処理領域を確実に形成することができる。
【0010】
また、応力は、第1の加工対象物の他方の端面に取り付けられた拡張可能な保持部材が拡張させられることにより第1の加工対象物に生じさせられることが好ましい。この場合、溶融処理領域を起点として発生した亀裂が第1の加工対象物の他方の端面に到達しているので、第1の加工対象物の他方の端面に取り付けられた保持部材を拡張させるだけで、その亀裂を第2の加工対象物側に容易に伸展させることができる。
【0011】
また、シリコン基板の厚さは、第2の加工対象物の厚さよりも厚くなっていることが好ましい。この場合、第1の加工対象物においてシリコン基板の主面と直交する方向に伸展した亀裂の直進性がより一層強められる。そのため、その亀裂を、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面との界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、第2の加工対象物に確実に伸展させることができる。
【0012】
また、第2の加工対象物は、複数の機能素子を有し、切断予定ラインは、隣り合う機能素子の間を通るように設定されることが好ましい。この場合、機能素子を有するチップを歩留り良く得ることができる。
【0013】
また、第2の加工対象物は、ガラス基板を備える場合、LTCC基板を備える場合、サファイア基板を備える場合がある。これらの場合、ガラス基板、LTCC基板、サファイア基板に切断の起点を何ら形成しなくても、第2の加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、切断対象となる加工対象物の材料に左右されず、その加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる。また、加工対象物には直接加工を施すことなく、加工対象物を割れ(亀裂)のみで切断しているので、その切断面の品質は非常に高く(綺麗で)、且つそのチップの抗折強度も非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】レーザ加工後のシリコンウェハの切断面の写真を表した図である。
【図8】レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。
【図9】レーザ光のピークパワー密度とクラックスポットの大きさとの関係を示すグラフである。
【図10】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の平面図である。
【図11】図10の加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図12】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図13】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図14】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図15】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図16】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図17】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図18】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図19】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図20】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図21】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図22】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図23】分断用加工対象物に対する分離用溶融処理領域の形成の一例を説明するための加工対象物の断面図である。
【図24】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図25】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図26】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図27】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図28】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図29】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図30】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図31】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図32】第6の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図33】第6の実施形態に係る加工対象物切断方法によって切断された加工対象物の断面図である。
【図34】実施例によって溶融処理領域が形成されたシリコン基板及びガラス基板の断面の写真を表した図である。
【図35】実施例によって切断されたシリコン基板及びガラス基板の写真を表した図である。
【図36】実施例によって切断されたシリコン基板及びLTCC基板の写真を表した図である。
【図37】分離用溶融処理領域の形成例を示す加工対象物の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、板状の加工対象物に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、本実施形態に係る加工対象物切断方法における改質領域の形成について、図1〜9を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光(加工用レーザ光)Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107をX、Y、Z軸方向に移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0019】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。以下、この改質領域について詳細に説明する。
【0020】
図2に示すように、板状の加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0021】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0022】
ここでは、レーザ光Lが加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する(表面吸収型レーザ加工)。
【0023】
ところで、本実施形態に係る加工対象物切断方法にて形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。例えば、(1)溶融処理領域、(2)クラック領域、絶縁破壊領域、(3)屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。
【0024】
本実施形態に係る加工対象物切断方法における改質領域は、レーザ光の局所的な吸収や多光子吸収という現象により形成される。多光子吸収とは、材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となるため、材料に吸収が生じる条件はhν>EGであるが、光学的に透明でも、レーザ光Lの強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・)で材料に吸収が生じる現象をいう。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁〜第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
【0025】
また、D.Du,X.Liu,G.Korn,J.Squier,and G.Mourou,”Laser Induced Breakdown by Impact Ionization in SiO2 with Pulse Widths from 7ns to 150fs”,Appl Phys Lett64(23),Jun.6,1994に記載されているようにパルス幅が数ピコ秒からフェムト秒の超短パルスレーザ光を利用することにより形成される改質領域を利用してもよい。
(1)改質領域が溶融処理領域を含む場合
【0026】
加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lを照射する。これにより、集光点近傍にてレーザ光Lが吸収されて加工対象物の内部が局所的に加熱され、この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。
【0027】
溶融処理領域とは、一旦溶融後再固化した領域や、まさに溶融状態の領域や、溶融状態から再固化する状態の領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。
【0028】
図7は、レーザ光が照射されたシリコンウェハ(半導体基板)の一部における断面の写真を表した図である。図7に示すように、半導体基板11の内部に溶融処理領域13が形成されている。
【0029】
入射するレーザ光の波長に対して透過性の材料の内部に溶融処理領域13が形成されたことを説明する。図8は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示す線図である。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚さtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
【0030】
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚さが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光Lが80%以上透過することが分かる。図7に示す半導体基板11の厚さは350μmであるので、溶融処理領域13は半導体基板11の中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光Lが半導体基板11の内部で吸収されるのは僅かであり、殆どが透過する。しかし、1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lをシリコンウェハ内部に集光することで集光点とその近傍で局所的にレーザ光が吸収され溶融処理領域13が半導体基板11の内部に形成される。
【0031】
なお、シリコンウェハには、溶融処理領域を起点として亀裂が発生する場合がある。また、溶融処理領域に亀裂が内包されて形成される場合があり、この場合には、その亀裂が、溶融処理領域においての全面に渡って形成されていたり、一部分のみや複数部分に形成されていたりすることがある。更に、この亀裂は、自然に成長する場合もあるし、シリコンウェハに力が印加されることにより成長する場合もある。溶融処理領域から亀裂が自然に成長する場合には、溶融処理領域が溶融している状態から成長する場合と、溶融処理領域が溶融している状態から再固化する際に成長する場合とのいずれもある。ただし、どちらの場合も溶融処理領域はシリコンウェハの内部に形成され、切断面においては、図7に示すように、内部に溶融処理領域が形成されている。
(2)改質領域がクラック領域を含む場合
【0032】
加工対象物(例えばガラスやLiTaO3からなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lを照射する。このパルス幅の大きさは、加工対象物の内部にレーザ光Lが吸収されてクラック領域が形成される条件である。これにより、加工対象物の内部には光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部に、1つ又は複数のクラックを含むクラック領域が形成される。クラック領域は絶縁破壊領域とも言える。
【0033】
図9は、電界強度とクラックの大きさとの関係の実験結果を示す線図である。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光Lがパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光Lにより加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち、最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm2)程度から加工対象物の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
(3)改質領域が屈折率変化領域を含む場合
【0034】
加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光Lを照射する。このように、パルス幅が極めて短い状態で加工対象物の内部にレーザ光Lが吸収されると、そのエネルギーが熱エネルギーに転化せず、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起され、屈折率変化領域が形成される。
【0035】
なお、改質領域とは、溶融処理領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等やそれらが混在した領域を含めて、その材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域であったり、格子欠陥が形成された領域であったりする。これらをまとめて高密転移領域と言うこともできる。
【0036】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更にそれら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
【0037】
ちなみに、加工対象物の結晶構造やその劈開性等を考慮して、改質領域を次のように形成すれば、精度よく加工対象物を切断することが可能になる。
【0038】
また、上述した改質領域を形成すべき方向(例えば、単結晶シリコン基板における(111)面に沿った方向)、或いは改質領域を形成すべき方向に直交する方向に沿って基板にオリエンテーションフラットを形成すれば、そのオリエンテーションフラットを基準とすることで、改質領域を容易且つ正確に基板に形成することが可能になる。
【0039】
次に、本実施形態に係る加工対象物切断方法について説明する。
[第1の実施形態]
【0040】
図10は、第1の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の平面図であり、図11は、図10の加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図10,11に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Aは、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2と、LTCC基板2の表面2aに形成されたデバイス層4と、LTCC基板2の裏面2bに形成されたガラス層6と、を備えている。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Aの表面(一方の端面)1aとなり、ガラス層6の裏面6bが加工対象物1Aの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0041】
デバイス層4は、シリコンを含む層であり、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有している。機能素子15は、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等である。加工対象物1Aを複数のチップに切断するための切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。
【0042】
ガラス層6は、#7740等、アルカリ金属を含有するガラスからなる層であり、例えば、スパッタ法によって厚さ400nm程度に成膜されている。ガラス層6は、加工対象物1Aの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。
【0043】
以上のように構成された加工対象物1Aに対して、以下のように、第1の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0044】
まず、図12(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Aを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Aがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Aの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Aの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0045】
続いて、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとを直接接合する。これにより、加工対象物1Aの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとは、陽極接合によって接合される。つまり、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとを接触させた状態で、300℃以上に加熱しながら、分断用加工対象物10Aに、加工対象物1Aに対して数百V〜数kVの正の電圧を印加する。これにより、分断用加工対象物10Aと加工対象物1Aとの間に静電引力が生じ、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとが共有結合によって接合される。
【0046】
より詳細には、加工対象物1Aのガラス層6中のアルカリ金属イオンが分断用加工対象物10A側に移動し、ガラス層6の裏面6bが負にチャージされる(分極)。このとき、分断用加工対象物10A側が正であるため、分断用加工対象物10Aと加工対象物1Aとの間に静電引力が生じ、原子レベルで接触するまで引き合うことになる。そして、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとに存在する余分な酸素原子を酸素ガスとして放出しながら、残った酸素原子をシリコン基板12のシリコン原子とガラス層6中のシリコン原子とが共有し、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとが強固に接合される。
【0047】
続いて、分断用加工対象物10Aの裏面10bを上側にして加工対象物1A,10Aをレーザ加工装置の支持台(図示せず)上に固定する。そして、図12(b)に示すように、分断用加工対象物10Aの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射し、支持台の移動によって、各切断予定ライン5に沿って集光点Pを相対的に移動させる。この各切断予定ライン5に沿った集光点Pの相対的な移動を1本の切断予定ライン5に対して複数回行うが、集光点Pを合わせる位置と裏面10bとの距離を各回で変えることにより、表面10a側から順に、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に1列ずつ形成する。
【0048】
このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Aの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達させる。なお、1本の切断予定ライン5に対して形成すべき溶融処理領域13の列数は、分断用加工対象物10Aの厚さ等に応じて変化するものである。例えば、分断用加工対象物10Aが比較的薄く、1本の切断予定ライン5に対して1列の溶融処理領域13を形成することで、亀裂17を分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達させることができれば、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13を形成する必要はない。
【0049】
続いて、図13(a)に示すように、分断用加工対象物10Aの裏面10bにエキスパンドテープ(保持部材)21を貼り付ける。そして、図13(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Aに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされたガラス層6を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Aの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Aを切断する。
【0050】
続いて、図14に示すように、切断された加工対象物1Aから、切断された分断用加工対象物10Aを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、エキスパンドテープ21が拡張させられて、切断された加工対象物1Aが互いに離間した状態において、全ての加工対象物1Aの機能素子15側を覆うように、切断された加工対象物1Aに保持テープを貼り付ける。その後、切断された分断用加工対象物10Aからエキスパンドテープ21を剥離する。つまり、切断された全ての加工対象物1A,10Aをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1A,10AをHF溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、ガラス層6が選択的にエッチングによって除去され、切断された加工対象物1Aから、切断された分断用加工対象物10Aが剥離する。なお、本実施形態では、接合用且つ剥離用のガラス層6を格子状にパターニングしたが、剥離が可能であれば、ガラス層6を全面に形成してもよい。ただし、パターニングすることでエッチングが容易となり、その処理時間が短縮化されるので、パターニングすることはメリットがある。
【0051】
以上説明したように、第1の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、シリコン基板12の主面が(100)面となっている。そのため、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17は、分断用加工対象物10Aにおいて、シリコン基板12の劈開方向(すなわち、シリコン基板12の主面と直交する方向)に伸展する。
【0052】
このとき、加工対象物1Aの裏面1bと分断用加工対象物10Aの表面10aとが陽極接合によって接合されている。そのため、分断用加工対象物10Aにおいてシリコン基板12の主面と直交する方向に伸展した亀裂17は、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとの界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、加工対象物1Aに確実に伝わり、加工対象物1Aの表面1aに到達する。
【0053】
しかも、分断用加工対象物10Aに応力を生じさせる際には、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17が分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達している。そのため、分断用加工対象物10Aの裏面10bに貼り付けられたエキスパンドテープ21を拡張させるだけで、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17は、加工対象物1A側に容易に伸展する。
【0054】
以上により、加工対象物1Aの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Aのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Aに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Aを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。そして、得られたチップ19の切断面には、溶融処理領域13が存在しないため、チップ19の抗折強度を向上させることができる。
【0055】
また、アルカリ金属を含有するガラス層6を形成することで、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2を加工対象物1Aに用いても、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとを陽極接合によって接合することができる。しかも、LTCC基板2の表面2aにデバイス層4を形成するに際し、デバイス層4がアルカリ金属によって汚染されるのを防止することができる。
【0056】
また、レーザ光Lは、分断用加工対象物10Aの裏面10bをレーザ光入射面として分断用加工対象物10Aに照射される。これにより、切断対象となる加工対象物1Aがレーザ光Lを導光し易いか導光し難いかにかかわらず、分断用加工対象物10Aのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を確実に形成することができる。
【0057】
なお、シリコン基板12の厚さを加工対象物1Aの厚さよりも厚くすれば、分断用加工対象物10Aにおいてシリコン基板12の主面と直交する方向に伸展した亀裂17の直進性をより一層強めることができる。この場合、分断用加工対象物10Aにおいてシリコン基板12の主面と直交する方向に伸展した亀裂17は、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとの界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、より確実に加工対象物1Aに伝わることになる。
[第2の実施形態]
【0058】
図15は、第2の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図15に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Bは、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2と、LTCC基板2の表面2aに形成されたデバイス層4と、を備えている。デバイス層4は、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有しており、切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Bの表面(他方の端面)1aとなり、LTCC基板2の裏面2bが加工対象物1Bの裏面(一方の端面)1bとなる。
【0059】
以上のように構成された加工対象物1Aに対して、以下のように、第2の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0060】
まず、図16(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12と、シリコン基板12の裏面12bに形成されたガラス層6と、を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Bを用意する。ここでは、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Bの表面(他方の端面)10aとなり、ガラス層6の裏面6bが分断用加工対象物10Bの裏面(一方の端面)10bとなる。
【0061】
なお、ガラス層6は、#7740等、アルカリ金属を含有するガラスからなる層であり、例えば、スパッタ法によって厚さ400nm程度に成膜されている。ガラス層6は、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Bの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。
【0062】
続いて、分断用加工対象物10Bの裏面10bと加工対象物1Bの表面1aとを陽極接合によって接合する。これにより、加工対象物1Bの表面1aがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0063】
続いて、図16(b)に示すように、分断用加工対象物10Bの表面10aをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Bの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Bの表面10aに到達させる。
【0064】
続いて、図17(a)に示すように、分断用加工対象物10Bの表面10aにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図17(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Bに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされたガラス層6を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Bの裏面1bに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Bを切断する。
【0065】
続いて、図18に示すように、切断された加工対象物1Bから、切断された分断用加工対象物10Bを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1B,10Bをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1B,10BをHF溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、ガラス層6が選択的にエッチングによって除去され、切断された加工対象物1Bから、切断された分断用加工対象物10Bが剥離する。
【0066】
以上説明したように、第2の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Bの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Bのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Bに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Bを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
[第3の実施形態]
【0067】
図19は、第3の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図19に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Cは、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2と、LTCC基板2の表面2aに形成されたデバイス層4と、を備えている。デバイス層4は、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有しており、切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Cの表面(一方の端面)1aとなり、LTCC基板2の裏面2bが加工対象物1Cの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0068】
以上のように構成された加工対象物1Cに対して、以下のように、第3の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0069】
まず、図20(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Cを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Cがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Cの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Cの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0070】
なお、分断用加工対象物10Cの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)には、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Cの厚さ方向から見たときに機能素子15と対向するように、マトリックス状に配列された凹部14が形成されている。これにより、隣り合う凹部14を仕切る残存部16は、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Cの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。残存部16には、分離用(剥離用)溶融処理領域18が面状に形成されている。
【0071】
続いて、分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとを直接接合する。これにより、加工対象物1Cの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとは、表面活性化直接接合によって接合される。
【0072】
より詳細には、真空中において、分断用加工対象物10Cの表面10a及び加工対象物1Cの裏面1bに不活性ガスのイオンビーム等を照射し、酸化物や吸着分子等を除去する。これにより、分断用加工対象物10Cの表面10a及び加工対象物1Cの裏面1bに露出した原子は、化学結合を形成する結合手の一部が結合相手を失い、他の原子に対する強い結合力を有する状態となる。この状態で、分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとを接触させると、表面10aと裏面1bとが強固に接合される。
【0073】
続いて、図20(b)に示すように、分断用加工対象物10Cの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Cの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Cの裏面10bに到達させる。
【0074】
続いて、図21(a)に示すように、分断用加工対象物10Cの裏面10bにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図21(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Cに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされた残存部16を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Cの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Cを切断する。
【0075】
続いて、図22に示すように、切断された加工対象物1Cから、切断された分断用加工対象物10Cを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1C,10Cをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1C,10CをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Cにおいて分離用溶融処理領域18が形成された残存部16が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Cから、切断された分断用加工対象物10Cが剥離する。なお、分離用溶融処理領域が選択的にエッチングされるのは、溶融処理領域には微細な亀裂が多数形成されていることや材料の変質等によりエッチングレートが非改質領域に比べて高くなっているからである。
【0076】
以上説明したように、第3の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Cの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Cのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Cに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Cを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
【0077】
なお、分断用加工対象物10Cに対する分離用溶融処理領域18の形成の一例は、次の通りである。すなわち、図23(a)に示すように、分断用加工対象物10Cをその中心軸線CL周りに回転させる。そして、図23(a)〜(d)に示すように、分断用加工対象物10Cの表面10aをレーザ光入射面としてシリコン基板12の表面12a近傍に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射しつつ、分断用加工対象物10Cの外縁部から中心部に向かって集光点Pを相対的に移動させる。これにより、分断用加工対象物10Cの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)近傍に、分離用溶融処理領域18が面状に形成される。
【0078】
勿論、分断用加工対象物10Cの裏面10bをレーザ光入射面としてもよいし、分断用加工対象物10Cの中心部から外縁部に向かって集光点Pを相対的に移動させてもよい。また、分断用加工対象物10Cに対する凹部14の形成は、分断用加工対象物10Cに対する分離用溶融処理領域18の形成の前でもよいし、後でもよい。更に、分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとを接合した後に、分断用加工対象物10Cに分離用溶融処理領域18を形成してもよい。
[第4の実施形態]
【0079】
図24は、第4の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図24に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Dは、上述した第3の実施形態の加工対象物1Cと同様の構成を有している。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Dの表面(他方の端面)1aとなり、LTCC基板2の裏面2bが加工対象物1Dの裏面(一方の端面)1bとなる。
【0080】
以上のように構成された加工対象物1Dに対して、以下のように、第4の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0081】
まず、図25(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Dを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Dがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Dの表面(他方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Dの裏面(一方の端面)10bとなる。
【0082】
なお、分断用加工対象物10Dの裏面10b(すなわち、シリコン基板12の裏面12b)には、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Dの厚さ方向から見たときに機能素子15と対向するように、マトリックス状に配列された凹部14が形成されている。これにより、隣り合う凹部14を仕切る残存部16は、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Dの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。残存部16には、分離用溶融処理領域18が面状に形成されている。
【0083】
続いて、分断用加工対象物10Dの裏面10bと加工対象物1Dの表面1aとを表面活性化直接接合によって接合する。これにより、加工対象物1Dの表面1aがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0084】
続いて、図25(b)に示すように、分断用加工対象物10Dの表面10aをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Dの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Dの表面10aに到達させる。
【0085】
続いて、図26(a)に示すように、分断用加工対象物10Dの表面10aにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図26(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Dに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされた残存部16を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Dの裏面1bに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Dを切断する。
【0086】
続いて、図27に示すように、切断された加工対象物1Dから、切断された分断用加工対象物10Dを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1D,10Dをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1D,10DをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Dにおいて分離用溶融処理領域18が形成された残存部16が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Dから、切断された分断用加工対象物10Dが剥離する。
【0087】
以上説明したように、第4の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Dの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Dのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Dに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Dを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
[第5の実施形態]
【0088】
図28は、第5の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される分断用加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。まず、図28に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Eを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Eがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Eの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Eの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0089】
なお、分断用加工対象物10Eの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)近傍には、分離用溶融処理領域18が面状に形成されている。分離用溶融処理領域18の形成位置は、少なくとも、シリコン基板12の厚さ方向における中心位置よりも表面12a側である。
【0090】
続いて、図29(a)に示すように、分断用加工対象物10Eの表面10aに、シールド層22を形成する。そして、シールド層22上に、複数の絶縁樹脂層23と複数の配線層24とを交互に積層し、最後に、接続端子層25を形成する。これにより、マトリックス状に配列された複数の回路モジュール26を有する加工対象物(第2の加工対象物)1Eが形成される。加工対象物1Eを複数のチップに切断するための切断予定ライン5は、隣り合う回路モジュール26の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、接続端子層25の表面25aが加工対象物1Eの表面(一方の端面)1aとなり、シールド層22の裏面22bが加工対象物1Eの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0091】
なお、このように分断用加工対象物10Eの表面10aに加工対象物1Eを直接形成する形態も、分断用加工対象物10Eの表面10aと加工対象物1Eの裏面1bとを接合するものに含まれる。そして、これにより、加工対象物1Eの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0092】
続いて、図29(b)に示すように、分断用加工対象物10Eの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Eの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Eの裏面10bに到達させる。
【0093】
続いて、図30(a)に示すように、分断用加工対象物10Eの裏面10bにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図30(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Eに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、亀裂17を切断予定ライン5に沿って加工対象物1Eの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Eを切断する。
【0094】
続いて、図31に示すように、切断された加工対象物1Eから、切断された分断用加工対象物10Eを取り除くことにより、1個の回路モジュール26に対応するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1E,10Eをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1E,10EをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Eにおいて分離用溶融処理領域18が形成された部分が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Eから、切断された分断用加工対象物10Eが剥離する。
【0095】
以上説明したように、第5の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Eの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Eのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Eに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Eを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
[第6の実施形態]
【0096】
図32は、第6の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図32に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Fは、サファイア基板31と、サファイア基板31の表面31aに形成された半導体層32と、を備えている。半導体層32は、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有しており、切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、半導体層32の表面32aが加工対象物1Fの表面(一方の端面)1aとなり、サファイア基板31の裏面31bが加工対象物1Fの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0097】
各機能素子15は、LEDとして機能するものであり、バッファ層33、n型GaNクラッド層34、InGaN/GaN活性層35、p型GaNクラッド層36及びp型透光性電極層37がサファイア基板31側からこの順序で積層されて構成されている。p型透光性電極層37上の一部領域にはp型電極38が形成されており、n型GaNクラッド層34上の一部領域にはn型電極39が形成されている。
【0098】
以上のように構成された加工対象物1Fに対して、以下のように、第6の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0099】
まず、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Fを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Fがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Fの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Fの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0100】
なお、分断用加工対象物10Fの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)近傍には、分離用溶融処理領域18が面状に形成されている。分離用溶融処理領域18の形成位置は、少なくとも、シリコン基板12の厚さ方向における中心位置よりも表面12a側である。
【0101】
続いて、分断用加工対象物10Fの表面10aと加工対象物1Fの裏面1bとを表面活性化直接接合によって接合する。これにより、加工対象物1Fの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0102】
続いて、分断用加工対象物10Fの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Fの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Fの裏面10bに到達させる。
【0103】
続いて、分断用加工対象物10Fの裏面10bにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Fに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、亀裂17を切断予定ライン5に沿って加工対象物1Fの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Fを切断する。
【0104】
続いて、図33(a)に示すように、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fを取り除き、切断されたサファイア基板31の裏面31bにヒートシンク41を取り付けることにより、1個の機能素子15を有するLEDチップ42Aを得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1F,10Fをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1F,10FをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Fにおいて分離用溶融処理領域18が形成された部分が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fが剥離する。
【0105】
以上説明したように、第6の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Fの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Fのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Fに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Fを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。そして、得られたLEDチップ42Aの切断面には、溶融処理領域13等の凹凸が存在しないため、LEDチップ42Aの抗折強度を向上させることができると共に、LEDチップ42Aの端面からの光取出し効率を向上させることができる。
【0106】
また、半導体層32内のGaN層の影響によってサファイア基板31を反らせるような応力が生じるが、分断用加工対象物10Fの表面10aに加工対象物1Fの裏面1bを接合することで、サファイア基板31が反るのを防止することができる。
【0107】
また、LEDチップ42Aを得るに際しては、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fを取り除き、切断されたサファイア基板31の裏面31bにヒートシンク41を取り付ける。これにより、切断された分断用加工対象物10Fが取り除かれた分だけ、ヒートシンク41が活性層35に近付くことになるので、LEDチップ42Aの冷却効率を向上させることができる。
【0108】
なお、図33(b)に示すように、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fを取り除かずに、切断された分断用加工対象物10Fの裏面10bにヒートシンク41を取り付けることにより、1個の機能素子15を有するLEDチップ42Bを得てもよい。この場合、切断された分断用加工対象物10Fが、活性層35で発生した光の反射層となるので、LEDチップ42Bの発光強度を向上させることができる。
【0109】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0110】
図34(a)に示すように、厚さ1mmのシリコン基板12の表面12aに、厚さ0.5mmのガラス基板9の裏面9bを陽極接合によって接合した。そして、ガラス基板9を2mm×2mm角のチップに切断するように切断予定ライン5を設定し、1本の切断予定ライン5に対して18列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成した。図34(a)の写真においては、切断予定ライン5に沿って紙面に垂直な方向にも溶融処理領域13が形成されている。このとき、溶融処理領域13を起点としてシリコン基板12の厚さ方向に発生した亀裂17は、シリコン基板12の裏面12bには到達しているが、シリコン基板12の表面12aには到達していない。すなわち、割れ17の表面12a側の先端17aは、シリコン基板12の内部において表面12aから離れている。そして、切断予定ライン5に沿ったガラス基板9の裏面9b側の部分90bには引張応力が生じ、切断予定ライン5に沿ったガラス基板9の表面9a側の部分90aには圧縮応力が生じていた。
【0111】
この状態で、シリコン基板12の裏面12bに貼り付けられたエキスパンドテープを拡張させて、シリコン基板12に応力を生じさせた。これにより、亀裂17は、シリコン基板12の表面12aとガラス基板9の裏面9bとの界面を介してガラス基板9内に伸展して、ガラス基板9の表面9aに到達し、その結果、切断予定ライン5に沿ってガラス基板9が切断された。図34(b)は、亀裂17がガラス基板9内に進入した直後の写真であるが、このように、シリコン基板12において主面と直交する方向に伸展した亀裂17は、シリコン基板12の表面12aとガラス基板9の裏面9bとの界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、ガラス基板9に伝わった。
【0112】
図35は、上記実施例によって切断されたシリコン基板及びガラス基板の写真を表した図である。図35(a)に示すように、切断されたシリコン基板12及びガラス基板9をガラス基板9の表面9a側から見ても、また、図35(b)に示すように、切断されたシリコン基板12及びガラス基板9を側面側から見ても、ガラス基板9が切断予定ライン5に沿って精度良く切断されていることが分かる。シリコン基板12の切断面とガラス基板9の切断面とは、殆どずれることなく厚さ方向に平行に連続している。
【0113】
また、図36は、他の実施例によって切断されたシリコン基板及びLTCC基板の写真を表した図である。ここでは、25mm×25mm角で、厚さ1mmのシリコン基板12の表面12aに、20mm×20mm角で、厚さ0.3mmのLTCC基板2の裏面2bを陽極接合によって接合した。そして、LTCC基板2を2mm×2mm角のチップに切断するように切断予定ライン5を設定し、1本の切断予定ライン5に対して18列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成した。これにより、溶融処理領域13を起点としてシリコン基板12の厚さ方向に発生した亀裂をシリコン基板12の裏面12bに到達させた。
【0114】
この状態で、シリコン基板12の裏面12bに貼り付けられたエキスパンドテープを拡張させて、シリコン基板12に応力を生じさせた。これにより、図36(a)に示すように、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂を切断予定ライン5に沿ってLTCC基板2の表面2aに到達させ、切断予定ライン5に沿ってLTCC基板2を切断した。図36(a)の写真には、シリコン基板12の切断に追従してLTCC基板2が切断されている様子が示されている。
【0115】
そして、図36(b)に示すように、切断されたシリコン基板12及びLTCC基板2をLTCC基板2の表面2a側から見ても、また、図36(c)に示すように、切断されたシリコン基板12及びLTCC基板2を側面側から見ても、LTCC基板2が切断予定ライン5に沿って精度良く切断されていることが分かる。シリコン基板12の切断面とLTCC基板2の切断面とは、殆どずれることなく厚さ方向に平行に連続している。
【0116】
ところで、主面が(111)面となっているシリコン基板を分断用加工対象物に用いると、劈開方向は、主面に対して53.7°の方向となる。従って、シリコン基板において溶融処理領域を起点として発生した亀裂を主面に垂直な方向に伸展させるためには、主面が(100)面となっているシリコン基板を分断用加工対象物に用いる場合に比べ、1本の切断予定ラインに対して形成する溶融処理領域の列数を増やしたり、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物との界面のより近傍に溶融処理領域を形成したりする必要がある。
【0117】
しかしながら、溶融処理領域の列数を増やしたり、界面のより近傍に溶融処理領域を形成したりすると、溶融処理領域を形成した時点で、切断対象となる加工対象物内に多くの細かい亀裂が発生してしまうことが分かった。そして、そのような多くの細かい亀裂が発生すると、切断対象となる加工対象物の切断面が蛇行するなど、切断予定ラインに沿った加工対象物の切断精度が低下するおそれがある。このことから、分断用加工対象物には、主面が(100)面となっているシリコン基板を用いることが極めて有効であることが分かる。
【0118】
以上の加工対象物切断方法では、表面に構造物や回路やデバイス等の積層物を形成した加工対象物を切断するために、加工対象物の裏面(構造物や回路やデバイス等の積層物を形成した面と反対面)に分断用加工対象物を接合し、加工対象物には改質領域を形成せず、分断用加工対象物にレーザ光により改質領域を形成し、それを切断の起点として分断用加工対象物で発生した亀裂(割れ)を加工対象物にまで伸展させて加工対象物を切断している。そのため、加工対象物の切断面の品質は非常に高く(綺麗で)、且つそのチップの抗折強度も非常に高い。
【0119】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0120】
例えば、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物との接合は、陽極接合や表面活性化直接接合に限定されず、次のような接合であってもよい。すなわち、高温加熱による直接接合や、液晶ワックス、接着剤、半田等を用いた接合である。高温加熱による直接接合は、分断用加工対象物の接合面、及び切断対象となる加工対象物の接合面に、酸化性の薬品によって親水化処理を施し、水洗して乾燥させた後、分断用加工対象物の接合面と、切断対象となる加工対象物の接合面とを接触させ、その状態で、接合強度を高めるために熱処理を行う方法である。
【0121】
液晶ワックスを用いた接合は、例えば、特開2005−51055号公報に記載されているように、分断用加工対象物の接合面と、切断対象となる加工対象物の接合面との間に、所定の厚さとなるように液状の液晶ワックスを介在させ、その状態で、液晶ワックスを冷却して固化させる方法である。このように、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物とを液晶ワックスによって接合した場合、例えば、特開2008−153337号公報に記載されているように、液晶ワックスを加熱して溶融させることにより、切断された加工対象物から、切断された分断用加工対象物を取り除くことができる。
【0122】
また、分断用加工対象物のシリコン基板と切断対象となる加工対象物との間には、ガラス層6の他、液晶ワックス、接着剤、半田等が介在させられる場合もあるし、シリコン基板の酸化膜等、何らかの層が介在する場合もある。
【0123】
また、切断された加工対象物から、切断された分断用加工対象物を取り除く方法は、エッチングに限定されず、切断された分断用加工対象物の研磨等であってもよい。なお、エッチングによって取り除く場合には、エッチングによって除去する部分(ガラス層6やシリコン基板12残存部16)を、少なくとも切断予定ライン5を含むようにパターニングしておけば、切断された加工対象物から、切断された分断用加工対象物を効率良く取り除くことができる。また、分断用加工対象物に分離用溶融処理領域18を形成しておけば、分断用加工対象物において分離用溶融処理領域18が形成された部分を相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去することができる。なお、通常、ガラスのエッチングにはHF溶液が用いられ、シリコンのエッチングにはKOH溶液が用いられる。
【0124】
また、切断対象となる加工対象物は、ガラス基板、LTCC基板、シリコン基板を備えるものだけでなく、切断が難しいSiC基板やLiTaO3等の圧電材料基板やセラミックス基板にも適用が可能である。
【0125】
また、分断用加工対象物(シリコン基板)と切断対象となる加工対象物の大きさ(面積)はどちらが大きくても構わないが、少なくとも分断用加工対象物の最外周(外縁)が加工対象物の最外の(すなわち、最も外縁に近い)切断予定ラインより外側となる関係となるように貼り合わせる(この場合、単純に大きさの比較だけをすると、加工対象物の大きさは分断用加工対象物より大きいことになる)。
【0126】
なお、分断用加工対象物(シリコン基板)の大きさ(面積)を加工対象物の大きさ(面積)よりも大きくすることがよい。分断用加工対象物に貼り付けられたエキスパンドテープ等の保持部材を介して分断用加工対象物に力が加わり、加工対象物の全ての切断予定ラインに対して亀裂を形成、伸展させることで加工対象物を切断するので、分断用加工対象物の大きさが大きいほうが外縁に近い部分でも切断予定ラインに沿って力が加わり易くなる。これは特に保持部材のエキスパンドを利用して加工対象物を切断する場合に有効である。また、分断用加工対象物が加工対象物より大きいので加工対象物から分断用加工対象物を剥離(分離)する際に加工対象物の全てのチップの裏面が分断用加工対象物により保護される効果もある。
【0127】
また、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物との界面付近にレーザ光を照射して、若しくは分断用加工対象物に改質領域を形成することに伴って、その界面や、加工対象物における界面近傍に微小な改質領域が形成されることがあってもよい。ただし、切断面の品質、強度等の観点からは、切断対象となる加工対象物には、レーザ光の照射に伴う改質領域が形成されないことが望ましい。
【0128】
また、分断用加工対象物10に分離用溶融処理領域18を形成するに際しては、図37に示すように、残存部16において切断予定ライン5に対向する部分には、分離用溶融処理領域18を形成しないほうがよい。すなわち、切断予定ライン5に対向する部分を除いて残存部16に分離用溶融処理領域18を形成することが好ましい。これによれば、切断の起点となる溶融処理領域13を分断用加工対象物10に形成するに際し、分離用溶融処理領域18によってレーザ光Lの導光が妨げられるのを防止することができる。更に、分離用溶融処理領域18によって溶融処理領域13から伸展した亀裂17の進行が妨げられるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0129】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F…加工対象物(第2の加工対象物)、2…LTCC基板、5…切断予定ライン、7…改質領域、9…ガラス基板、10A,10B,10C,10D,10E,10F…分断用加工対象物(第1の加工対象物)、12…シリコン基板、13…溶融処理領域、15…機能素子、17…亀裂、19,42A,42B…チップ、21…エキスパンドテープ(保持部材)、L…レーザ光、P…集光点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するための加工対象物切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における上記技術分野の加工対象物切断方法として、基板とその基板の表面に設けられた積層部とを有する加工対象物にレーザ光を照射することにより、少なくとも基板の内部に改質領域を形成し、その改質領域を切断の起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を切断するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/076120号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような加工対象物切断方法においては、例えば、基板がLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)等からなり、レーザ光に対して散乱性を有していると、基板内にレーザ光が導光され難くなるため、切断の起点となる改質領域を基板の内部に形成することができない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、切断対象となる加工対象物の材料に左右されず、その加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる加工対象物切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る加工対象物切断方法は、主面が(100)面となっているシリコン基板を備える板状の第1の加工対象物の一方の端面に、主面と対向するように板状の第2の加工対象物の他方の端面を接合する工程と、第1の加工対象物にレーザ光を照射することにより、第2の加工対象物の切断予定ラインに沿ってシリコン基板の内部に溶融処理領域を形成し、溶融処理領域を起点として発生した亀裂を切断予定ラインに沿って第1の加工対象物の他方の端面に到達させる工程と、第1の加工対象物に応力を生じさせることにより、亀裂を切断予定ラインに沿って第2の加工対象物の一方の端面に到達させ、切断予定ラインに沿って第2の加工対象物を切断する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
この加工対象物切断方法では、シリコン基板の主面が(100)面であるため、溶融処理領域を起点として発生した亀裂は、第1の加工対象物において、シリコン基板の劈開方向(すなわち、シリコン基板の主面と直交する方向)に伸展する。このとき、第2の加工対象物の他方の端面が第1の加工対象物の一方の端面に接合されているため、第1の加工対象物においてシリコン基板の主面と直交する方向に伸展した亀裂は、その方向を殆ど変えることなく第2の加工対象物に伝わり、第2の加工対象物の一方の端面に到達する。しかも、第1の加工対象物に応力を生じさせる際には、溶融処理領域を起点として発生した亀裂が第1の加工対象物の他方の端面に到達しているため、その亀裂を第2の加工対象物側に容易に伸展させることができる。従って、第2の加工対象物の切断予定ラインに沿って第1の加工対象物のシリコン基板の内部に溶融処理領域を形成すれば、第2の加工対象物に切断の起点を何ら形成しなくても、第2の加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる。
【0008】
また、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面とは、陽極接合によって接合されることが好ましい。或いは、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面とは、表面活性化直接接合によって接合されることが好ましい。これらの接合方法によれば、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面とが強固に直接接合される。そのため、第1の加工対象物においてシリコン基板の主面と直交する方向に伸展した亀裂を、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面との界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、第2の加工対象物に確実に伸展させることができる。
【0009】
また、レーザ光は、第1の加工対象物の他方の端面をレーザ光入射面として第1の加工対象物に照射されることが好ましい。この場合、切断対象となる第2の加工対象物がレーザ光を導光し易いか導光し難いかにかかわらず、第1の加工対象物のシリコン基板の内部に溶融処理領域を確実に形成することができる。
【0010】
また、応力は、第1の加工対象物の他方の端面に取り付けられた拡張可能な保持部材が拡張させられることにより第1の加工対象物に生じさせられることが好ましい。この場合、溶融処理領域を起点として発生した亀裂が第1の加工対象物の他方の端面に到達しているので、第1の加工対象物の他方の端面に取り付けられた保持部材を拡張させるだけで、その亀裂を第2の加工対象物側に容易に伸展させることができる。
【0011】
また、シリコン基板の厚さは、第2の加工対象物の厚さよりも厚くなっていることが好ましい。この場合、第1の加工対象物においてシリコン基板の主面と直交する方向に伸展した亀裂の直進性がより一層強められる。そのため、その亀裂を、第1の加工対象物の一方の端面と第2の加工対象物の他方の端面との界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、第2の加工対象物に確実に伸展させることができる。
【0012】
また、第2の加工対象物は、複数の機能素子を有し、切断予定ラインは、隣り合う機能素子の間を通るように設定されることが好ましい。この場合、機能素子を有するチップを歩留り良く得ることができる。
【0013】
また、第2の加工対象物は、ガラス基板を備える場合、LTCC基板を備える場合、サファイア基板を備える場合がある。これらの場合、ガラス基板、LTCC基板、サファイア基板に切断の起点を何ら形成しなくても、第2の加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、切断対象となる加工対象物の材料に左右されず、その加工対象物を切断予定ラインに沿って精度良く切断することができる。また、加工対象物には直接加工を施すことなく、加工対象物を割れ(亀裂)のみで切断しているので、その切断面の品質は非常に高く(綺麗で)、且つそのチップの抗折強度も非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】レーザ加工後のシリコンウェハの切断面の写真を表した図である。
【図8】レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。
【図9】レーザ光のピークパワー密度とクラックスポットの大きさとの関係を示すグラフである。
【図10】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の平面図である。
【図11】図10の加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図12】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図13】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図14】第1の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図15】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図16】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図17】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図18】第2の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図19】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図20】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図21】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図22】第3の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図23】分断用加工対象物に対する分離用溶融処理領域の形成の一例を説明するための加工対象物の断面図である。
【図24】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図25】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図26】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図27】第4の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図28】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図29】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図30】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図31】第5の実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の一部断面図である。
【図32】第6の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。
【図33】第6の実施形態に係る加工対象物切断方法によって切断された加工対象物の断面図である。
【図34】実施例によって溶融処理領域が形成されたシリコン基板及びガラス基板の断面の写真を表した図である。
【図35】実施例によって切断されたシリコン基板及びガラス基板の写真を表した図である。
【図36】実施例によって切断されたシリコン基板及びLTCC基板の写真を表した図である。
【図37】分離用溶融処理領域の形成例を示す加工対象物の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、板状の加工対象物に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、本実施形態に係る加工対象物切断方法における改質領域の形成について、図1〜9を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光(加工用レーザ光)Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107をX、Y、Z軸方向に移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0019】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿って、切断の起点となる改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。以下、この改質領域について詳細に説明する。
【0020】
図2に示すように、板状の加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0021】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0022】
ここでは、レーザ光Lが加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する(表面吸収型レーザ加工)。
【0023】
ところで、本実施形態に係る加工対象物切断方法にて形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。例えば、(1)溶融処理領域、(2)クラック領域、絶縁破壊領域、(3)屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。
【0024】
本実施形態に係る加工対象物切断方法における改質領域は、レーザ光の局所的な吸収や多光子吸収という現象により形成される。多光子吸収とは、材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となるため、材料に吸収が生じる条件はhν>EGであるが、光学的に透明でも、レーザ光Lの強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・)で材料に吸収が生じる現象をいう。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁〜第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
【0025】
また、D.Du,X.Liu,G.Korn,J.Squier,and G.Mourou,”Laser Induced Breakdown by Impact Ionization in SiO2 with Pulse Widths from 7ns to 150fs”,Appl Phys Lett64(23),Jun.6,1994に記載されているようにパルス幅が数ピコ秒からフェムト秒の超短パルスレーザ光を利用することにより形成される改質領域を利用してもよい。
(1)改質領域が溶融処理領域を含む場合
【0026】
加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lを照射する。これにより、集光点近傍にてレーザ光Lが吸収されて加工対象物の内部が局所的に加熱され、この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。
【0027】
溶融処理領域とは、一旦溶融後再固化した領域や、まさに溶融状態の領域や、溶融状態から再固化する状態の領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。
【0028】
図7は、レーザ光が照射されたシリコンウェハ(半導体基板)の一部における断面の写真を表した図である。図7に示すように、半導体基板11の内部に溶融処理領域13が形成されている。
【0029】
入射するレーザ光の波長に対して透過性の材料の内部に溶融処理領域13が形成されたことを説明する。図8は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示す線図である。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚さtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
【0030】
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚さが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光Lが80%以上透過することが分かる。図7に示す半導体基板11の厚さは350μmであるので、溶融処理領域13は半導体基板11の中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光Lが半導体基板11の内部で吸収されるのは僅かであり、殆どが透過する。しかし、1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lをシリコンウェハ内部に集光することで集光点とその近傍で局所的にレーザ光が吸収され溶融処理領域13が半導体基板11の内部に形成される。
【0031】
なお、シリコンウェハには、溶融処理領域を起点として亀裂が発生する場合がある。また、溶融処理領域に亀裂が内包されて形成される場合があり、この場合には、その亀裂が、溶融処理領域においての全面に渡って形成されていたり、一部分のみや複数部分に形成されていたりすることがある。更に、この亀裂は、自然に成長する場合もあるし、シリコンウェハに力が印加されることにより成長する場合もある。溶融処理領域から亀裂が自然に成長する場合には、溶融処理領域が溶融している状態から成長する場合と、溶融処理領域が溶融している状態から再固化する際に成長する場合とのいずれもある。ただし、どちらの場合も溶融処理領域はシリコンウェハの内部に形成され、切断面においては、図7に示すように、内部に溶融処理領域が形成されている。
(2)改質領域がクラック領域を含む場合
【0032】
加工対象物(例えばガラスやLiTaO3からなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光Lを照射する。このパルス幅の大きさは、加工対象物の内部にレーザ光Lが吸収されてクラック領域が形成される条件である。これにより、加工対象物の内部には光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部に、1つ又は複数のクラックを含むクラック領域が形成される。クラック領域は絶縁破壊領域とも言える。
【0033】
図9は、電界強度とクラックの大きさとの関係の実験結果を示す線図である。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光Lがパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光Lにより加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち、最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が1011(W/cm2)程度から加工対象物の内部にクラックスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。
(3)改質領域が屈折率変化領域を含む場合
【0034】
加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上で且つパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光Lを照射する。このように、パルス幅が極めて短い状態で加工対象物の内部にレーザ光Lが吸収されると、そのエネルギーが熱エネルギーに転化せず、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起され、屈折率変化領域が形成される。
【0035】
なお、改質領域とは、溶融処理領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等やそれらが混在した領域を含めて、その材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域であったり、格子欠陥が形成された領域であったりする。これらをまとめて高密転移領域と言うこともできる。
【0036】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更にそれら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
【0037】
ちなみに、加工対象物の結晶構造やその劈開性等を考慮して、改質領域を次のように形成すれば、精度よく加工対象物を切断することが可能になる。
【0038】
また、上述した改質領域を形成すべき方向(例えば、単結晶シリコン基板における(111)面に沿った方向)、或いは改質領域を形成すべき方向に直交する方向に沿って基板にオリエンテーションフラットを形成すれば、そのオリエンテーションフラットを基準とすることで、改質領域を容易且つ正確に基板に形成することが可能になる。
【0039】
次に、本実施形態に係る加工対象物切断方法について説明する。
[第1の実施形態]
【0040】
図10は、第1の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の平面図であり、図11は、図10の加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図10,11に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Aは、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2と、LTCC基板2の表面2aに形成されたデバイス層4と、LTCC基板2の裏面2bに形成されたガラス層6と、を備えている。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Aの表面(一方の端面)1aとなり、ガラス層6の裏面6bが加工対象物1Aの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0041】
デバイス層4は、シリコンを含む層であり、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有している。機能素子15は、例えば、結晶成長により形成された半導体動作層、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等である。加工対象物1Aを複数のチップに切断するための切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。
【0042】
ガラス層6は、#7740等、アルカリ金属を含有するガラスからなる層であり、例えば、スパッタ法によって厚さ400nm程度に成膜されている。ガラス層6は、加工対象物1Aの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。
【0043】
以上のように構成された加工対象物1Aに対して、以下のように、第1の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0044】
まず、図12(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Aを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Aがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Aの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Aの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0045】
続いて、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとを直接接合する。これにより、加工対象物1Aの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとは、陽極接合によって接合される。つまり、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとを接触させた状態で、300℃以上に加熱しながら、分断用加工対象物10Aに、加工対象物1Aに対して数百V〜数kVの正の電圧を印加する。これにより、分断用加工対象物10Aと加工対象物1Aとの間に静電引力が生じ、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとが共有結合によって接合される。
【0046】
より詳細には、加工対象物1Aのガラス層6中のアルカリ金属イオンが分断用加工対象物10A側に移動し、ガラス層6の裏面6bが負にチャージされる(分極)。このとき、分断用加工対象物10A側が正であるため、分断用加工対象物10Aと加工対象物1Aとの間に静電引力が生じ、原子レベルで接触するまで引き合うことになる。そして、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとに存在する余分な酸素原子を酸素ガスとして放出しながら、残った酸素原子をシリコン基板12のシリコン原子とガラス層6中のシリコン原子とが共有し、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとが強固に接合される。
【0047】
続いて、分断用加工対象物10Aの裏面10bを上側にして加工対象物1A,10Aをレーザ加工装置の支持台(図示せず)上に固定する。そして、図12(b)に示すように、分断用加工対象物10Aの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射し、支持台の移動によって、各切断予定ライン5に沿って集光点Pを相対的に移動させる。この各切断予定ライン5に沿った集光点Pの相対的な移動を1本の切断予定ライン5に対して複数回行うが、集光点Pを合わせる位置と裏面10bとの距離を各回で変えることにより、表面10a側から順に、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に1列ずつ形成する。
【0048】
このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Aの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達させる。なお、1本の切断予定ライン5に対して形成すべき溶融処理領域13の列数は、分断用加工対象物10Aの厚さ等に応じて変化するものである。例えば、分断用加工対象物10Aが比較的薄く、1本の切断予定ライン5に対して1列の溶融処理領域13を形成することで、亀裂17を分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達させることができれば、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13を形成する必要はない。
【0049】
続いて、図13(a)に示すように、分断用加工対象物10Aの裏面10bにエキスパンドテープ(保持部材)21を貼り付ける。そして、図13(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Aに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされたガラス層6を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Aの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Aを切断する。
【0050】
続いて、図14に示すように、切断された加工対象物1Aから、切断された分断用加工対象物10Aを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、エキスパンドテープ21が拡張させられて、切断された加工対象物1Aが互いに離間した状態において、全ての加工対象物1Aの機能素子15側を覆うように、切断された加工対象物1Aに保持テープを貼り付ける。その後、切断された分断用加工対象物10Aからエキスパンドテープ21を剥離する。つまり、切断された全ての加工対象物1A,10Aをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1A,10AをHF溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、ガラス層6が選択的にエッチングによって除去され、切断された加工対象物1Aから、切断された分断用加工対象物10Aが剥離する。なお、本実施形態では、接合用且つ剥離用のガラス層6を格子状にパターニングしたが、剥離が可能であれば、ガラス層6を全面に形成してもよい。ただし、パターニングすることでエッチングが容易となり、その処理時間が短縮化されるので、パターニングすることはメリットがある。
【0051】
以上説明したように、第1の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、シリコン基板12の主面が(100)面となっている。そのため、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17は、分断用加工対象物10Aにおいて、シリコン基板12の劈開方向(すなわち、シリコン基板12の主面と直交する方向)に伸展する。
【0052】
このとき、加工対象物1Aの裏面1bと分断用加工対象物10Aの表面10aとが陽極接合によって接合されている。そのため、分断用加工対象物10Aにおいてシリコン基板12の主面と直交する方向に伸展した亀裂17は、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとの界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、加工対象物1Aに確実に伝わり、加工対象物1Aの表面1aに到達する。
【0053】
しかも、分断用加工対象物10Aに応力を生じさせる際には、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17が分断用加工対象物10Aの裏面10bに到達している。そのため、分断用加工対象物10Aの裏面10bに貼り付けられたエキスパンドテープ21を拡張させるだけで、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂17は、加工対象物1A側に容易に伸展する。
【0054】
以上により、加工対象物1Aの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Aのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Aに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Aを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。そして、得られたチップ19の切断面には、溶融処理領域13が存在しないため、チップ19の抗折強度を向上させることができる。
【0055】
また、アルカリ金属を含有するガラス層6を形成することで、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2を加工対象物1Aに用いても、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとを陽極接合によって接合することができる。しかも、LTCC基板2の表面2aにデバイス層4を形成するに際し、デバイス層4がアルカリ金属によって汚染されるのを防止することができる。
【0056】
また、レーザ光Lは、分断用加工対象物10Aの裏面10bをレーザ光入射面として分断用加工対象物10Aに照射される。これにより、切断対象となる加工対象物1Aがレーザ光Lを導光し易いか導光し難いかにかかわらず、分断用加工対象物10Aのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を確実に形成することができる。
【0057】
なお、シリコン基板12の厚さを加工対象物1Aの厚さよりも厚くすれば、分断用加工対象物10Aにおいてシリコン基板12の主面と直交する方向に伸展した亀裂17の直進性をより一層強めることができる。この場合、分断用加工対象物10Aにおいてシリコン基板12の主面と直交する方向に伸展した亀裂17は、分断用加工対象物10Aの表面10aと加工対象物1Aの裏面1bとの界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、より確実に加工対象物1Aに伝わることになる。
[第2の実施形態]
【0058】
図15は、第2の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図15に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Bは、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2と、LTCC基板2の表面2aに形成されたデバイス層4と、を備えている。デバイス層4は、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有しており、切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Bの表面(他方の端面)1aとなり、LTCC基板2の裏面2bが加工対象物1Bの裏面(一方の端面)1bとなる。
【0059】
以上のように構成された加工対象物1Aに対して、以下のように、第2の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0060】
まず、図16(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12と、シリコン基板12の裏面12bに形成されたガラス層6と、を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Bを用意する。ここでは、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Bの表面(他方の端面)10aとなり、ガラス層6の裏面6bが分断用加工対象物10Bの裏面(一方の端面)10bとなる。
【0061】
なお、ガラス層6は、#7740等、アルカリ金属を含有するガラスからなる層であり、例えば、スパッタ法によって厚さ400nm程度に成膜されている。ガラス層6は、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Bの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。
【0062】
続いて、分断用加工対象物10Bの裏面10bと加工対象物1Bの表面1aとを陽極接合によって接合する。これにより、加工対象物1Bの表面1aがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0063】
続いて、図16(b)に示すように、分断用加工対象物10Bの表面10aをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Bの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Bの表面10aに到達させる。
【0064】
続いて、図17(a)に示すように、分断用加工対象物10Bの表面10aにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図17(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Bに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされたガラス層6を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Bの裏面1bに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Bを切断する。
【0065】
続いて、図18に示すように、切断された加工対象物1Bから、切断された分断用加工対象物10Bを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1B,10Bをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1B,10BをHF溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、ガラス層6が選択的にエッチングによって除去され、切断された加工対象物1Bから、切断された分断用加工対象物10Bが剥離する。
【0066】
以上説明したように、第2の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Bの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Bのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Bに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Bを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
[第3の実施形態]
【0067】
図19は、第3の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図19に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Cは、アルカリ金属を含有していないLTCC基板2と、LTCC基板2の表面2aに形成されたデバイス層4と、を備えている。デバイス層4は、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有しており、切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Cの表面(一方の端面)1aとなり、LTCC基板2の裏面2bが加工対象物1Cの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0068】
以上のように構成された加工対象物1Cに対して、以下のように、第3の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0069】
まず、図20(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Cを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Cがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Cの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Cの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0070】
なお、分断用加工対象物10Cの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)には、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Cの厚さ方向から見たときに機能素子15と対向するように、マトリックス状に配列された凹部14が形成されている。これにより、隣り合う凹部14を仕切る残存部16は、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Cの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。残存部16には、分離用(剥離用)溶融処理領域18が面状に形成されている。
【0071】
続いて、分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとを直接接合する。これにより、加工対象物1Cの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとは、表面活性化直接接合によって接合される。
【0072】
より詳細には、真空中において、分断用加工対象物10Cの表面10a及び加工対象物1Cの裏面1bに不活性ガスのイオンビーム等を照射し、酸化物や吸着分子等を除去する。これにより、分断用加工対象物10Cの表面10a及び加工対象物1Cの裏面1bに露出した原子は、化学結合を形成する結合手の一部が結合相手を失い、他の原子に対する強い結合力を有する状態となる。この状態で、分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとを接触させると、表面10aと裏面1bとが強固に接合される。
【0073】
続いて、図20(b)に示すように、分断用加工対象物10Cの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Cの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Cの裏面10bに到達させる。
【0074】
続いて、図21(a)に示すように、分断用加工対象物10Cの裏面10bにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図21(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Cに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされた残存部16を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Cの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Cを切断する。
【0075】
続いて、図22に示すように、切断された加工対象物1Cから、切断された分断用加工対象物10Cを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1C,10Cをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1C,10CをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Cにおいて分離用溶融処理領域18が形成された残存部16が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Cから、切断された分断用加工対象物10Cが剥離する。なお、分離用溶融処理領域が選択的にエッチングされるのは、溶融処理領域には微細な亀裂が多数形成されていることや材料の変質等によりエッチングレートが非改質領域に比べて高くなっているからである。
【0076】
以上説明したように、第3の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Cの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Cのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Cに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Cを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
【0077】
なお、分断用加工対象物10Cに対する分離用溶融処理領域18の形成の一例は、次の通りである。すなわち、図23(a)に示すように、分断用加工対象物10Cをその中心軸線CL周りに回転させる。そして、図23(a)〜(d)に示すように、分断用加工対象物10Cの表面10aをレーザ光入射面としてシリコン基板12の表面12a近傍に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射しつつ、分断用加工対象物10Cの外縁部から中心部に向かって集光点Pを相対的に移動させる。これにより、分断用加工対象物10Cの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)近傍に、分離用溶融処理領域18が面状に形成される。
【0078】
勿論、分断用加工対象物10Cの裏面10bをレーザ光入射面としてもよいし、分断用加工対象物10Cの中心部から外縁部に向かって集光点Pを相対的に移動させてもよい。また、分断用加工対象物10Cに対する凹部14の形成は、分断用加工対象物10Cに対する分離用溶融処理領域18の形成の前でもよいし、後でもよい。更に、分断用加工対象物10Cの表面10aと加工対象物1Cの裏面1bとを接合した後に、分断用加工対象物10Cに分離用溶融処理領域18を形成してもよい。
[第4の実施形態]
【0079】
図24は、第4の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図24に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Dは、上述した第3の実施形態の加工対象物1Cと同様の構成を有している。ここでは、デバイス層4の表面4aが加工対象物1Dの表面(他方の端面)1aとなり、LTCC基板2の裏面2bが加工対象物1Dの裏面(一方の端面)1bとなる。
【0080】
以上のように構成された加工対象物1Dに対して、以下のように、第4の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0081】
まず、図25(a)に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Dを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Dがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Dの表面(他方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Dの裏面(一方の端面)10bとなる。
【0082】
なお、分断用加工対象物10Dの裏面10b(すなわち、シリコン基板12の裏面12b)には、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Dの厚さ方向から見たときに機能素子15と対向するように、マトリックス状に配列された凹部14が形成されている。これにより、隣り合う凹部14を仕切る残存部16は、後述する直接接合が行われた場合において分断用加工対象物10Dの厚さ方向から見たときに切断予定ライン5を含むように、格子状にパターニングされている。残存部16には、分離用溶融処理領域18が面状に形成されている。
【0083】
続いて、分断用加工対象物10Dの裏面10bと加工対象物1Dの表面1aとを表面活性化直接接合によって接合する。これにより、加工対象物1Dの表面1aがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0084】
続いて、図25(b)に示すように、分断用加工対象物10Dの表面10aをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Dの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Dの表面10aに到達させる。
【0085】
続いて、図26(a)に示すように、分断用加工対象物10Dの表面10aにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図26(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Dに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、格子状にパターニングされた残存部16を介して、切断予定ライン5に沿って亀裂17を加工対象物1Dの裏面1bに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Dを切断する。
【0086】
続いて、図27に示すように、切断された加工対象物1Dから、切断された分断用加工対象物10Dを取り除くことにより、1個の機能素子15を有するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1D,10Dをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1D,10DをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Dにおいて分離用溶融処理領域18が形成された残存部16が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Dから、切断された分断用加工対象物10Dが剥離する。
【0087】
以上説明したように、第4の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Dの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Dのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Dに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Dを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
[第5の実施形態]
【0088】
図28は、第5の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される分断用加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。まず、図28に示すように、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Eを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Eがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Eの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Eの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0089】
なお、分断用加工対象物10Eの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)近傍には、分離用溶融処理領域18が面状に形成されている。分離用溶融処理領域18の形成位置は、少なくとも、シリコン基板12の厚さ方向における中心位置よりも表面12a側である。
【0090】
続いて、図29(a)に示すように、分断用加工対象物10Eの表面10aに、シールド層22を形成する。そして、シールド層22上に、複数の絶縁樹脂層23と複数の配線層24とを交互に積層し、最後に、接続端子層25を形成する。これにより、マトリックス状に配列された複数の回路モジュール26を有する加工対象物(第2の加工対象物)1Eが形成される。加工対象物1Eを複数のチップに切断するための切断予定ライン5は、隣り合う回路モジュール26の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、接続端子層25の表面25aが加工対象物1Eの表面(一方の端面)1aとなり、シールド層22の裏面22bが加工対象物1Eの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0091】
なお、このように分断用加工対象物10Eの表面10aに加工対象物1Eを直接形成する形態も、分断用加工対象物10Eの表面10aと加工対象物1Eの裏面1bとを接合するものに含まれる。そして、これにより、加工対象物1Eの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0092】
続いて、図29(b)に示すように、分断用加工対象物10Eの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Eの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Eの裏面10bに到達させる。
【0093】
続いて、図30(a)に示すように、分断用加工対象物10Eの裏面10bにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、図30(b)に示すように、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Eに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、亀裂17を切断予定ライン5に沿って加工対象物1Eの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Eを切断する。
【0094】
続いて、図31に示すように、切断された加工対象物1Eから、切断された分断用加工対象物10Eを取り除くことにより、1個の回路モジュール26に対応するチップ19を得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1E,10Eをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1E,10EをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Eにおいて分離用溶融処理領域18が形成された部分が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Eから、切断された分断用加工対象物10Eが剥離する。
【0095】
以上説明したように、第5の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Eの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Eのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Eに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Eを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。
[第6の実施形態]
【0096】
図32は、第6の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の切断予定ラインに沿っての一部断面図である。図32に示すように、板状の加工対象物(第2の加工対象物)1Fは、サファイア基板31と、サファイア基板31の表面31aに形成された半導体層32と、を備えている。半導体層32は、マトリックス状に配列された複数の機能素子15を有しており、切断予定ライン5は、隣り合う機能素子15の間を通るように格子状に設定されている。ここでは、半導体層32の表面32aが加工対象物1Fの表面(一方の端面)1aとなり、サファイア基板31の裏面31bが加工対象物1Fの裏面(他方の端面)1bとなる。
【0097】
各機能素子15は、LEDとして機能するものであり、バッファ層33、n型GaNクラッド層34、InGaN/GaN活性層35、p型GaNクラッド層36及びp型透光性電極層37がサファイア基板31側からこの順序で積層されて構成されている。p型透光性電極層37上の一部領域にはp型電極38が形成されており、n型GaNクラッド層34上の一部領域にはn型電極39が形成されている。
【0098】
以上のように構成された加工対象物1Fに対して、以下のように、第6の実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される。
【0099】
まず、主面(すなわち、表面12a及び裏面12b)が(100)面となっているシリコン基板12を備える板状の分断用加工対象物(第1の加工対象物)10Fを用意する。ここでは、分断用加工対象物10Fがシリコン基板12のみからなるため、シリコン基板12の表面12aが分断用加工対象物10Fの表面(一方の端面)10aとなり、シリコン基板12の裏面12bが分断用加工対象物10Fの裏面(他方の端面)10bとなる。
【0100】
なお、分断用加工対象物10Fの表面10a(すなわち、シリコン基板12の表面12a)近傍には、分離用溶融処理領域18が面状に形成されている。分離用溶融処理領域18の形成位置は、少なくとも、シリコン基板12の厚さ方向における中心位置よりも表面12a側である。
【0101】
続いて、分断用加工対象物10Fの表面10aと加工対象物1Fの裏面1bとを表面活性化直接接合によって接合する。これにより、加工対象物1Fの裏面1bがシリコン基板12の主面と対向することになる。
【0102】
続いて、分断用加工対象物10Fの裏面10bをレーザ光入射面としてシリコン基板12の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射することにより、1本の切断予定ライン5に対して複数列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成する。このとき、溶融処理領域13を起点として分断用加工対象物10Fの厚さ方向に発生した亀裂17を切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Fの裏面10bに到達させる。
【0103】
続いて、分断用加工対象物10Fの裏面10bにエキスパンドテープ21を貼り付ける。そして、エキスパンドテープ21を拡張させて、分断用加工対象物10Fに応力を生じさせる。すなわち、エキスパンドテープ(保持部材)を介して分断用加工対象物に力を印加する。これにより、亀裂17を切断予定ライン5に沿って加工対象物1Fの表面1aに到達させ、切断予定ライン5に沿って加工対象物1Fを切断する。
【0104】
続いて、図33(a)に示すように、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fを取り除き、切断されたサファイア基板31の裏面31bにヒートシンク41を取り付けることにより、1個の機能素子15を有するLEDチップ42Aを得る。より詳細には、切断された全ての加工対象物1F,10Fをエキスパンドテープ21から保持テープに転写する。そして、保持テープに貼り付けられた状態で、切断された加工対象物1F,10FをKOH溶液等のエッチング液に浸漬させる。これにより、分断用加工対象物10Fにおいて分離用溶融処理領域18が形成された部分が相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去され、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fが剥離する。
【0105】
以上説明したように、第6の実施形態に係る加工対象物切断方法においては、上述した第1の実施形態に係る加工対象物切断方法と同様に、加工対象物1Fの切断予定ライン5に沿って分断用加工対象物10Fのシリコン基板12の内部に溶融処理領域13を形成すれば、加工対象物1Fに切断の起点を何ら形成しなくても、加工対象物1Fを切断予定ライン5に沿って精度良く切断することができる。そして、得られたLEDチップ42Aの切断面には、溶融処理領域13等の凹凸が存在しないため、LEDチップ42Aの抗折強度を向上させることができると共に、LEDチップ42Aの端面からの光取出し効率を向上させることができる。
【0106】
また、半導体層32内のGaN層の影響によってサファイア基板31を反らせるような応力が生じるが、分断用加工対象物10Fの表面10aに加工対象物1Fの裏面1bを接合することで、サファイア基板31が反るのを防止することができる。
【0107】
また、LEDチップ42Aを得るに際しては、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fを取り除き、切断されたサファイア基板31の裏面31bにヒートシンク41を取り付ける。これにより、切断された分断用加工対象物10Fが取り除かれた分だけ、ヒートシンク41が活性層35に近付くことになるので、LEDチップ42Aの冷却効率を向上させることができる。
【0108】
なお、図33(b)に示すように、切断された加工対象物1Fから、切断された分断用加工対象物10Fを取り除かずに、切断された分断用加工対象物10Fの裏面10bにヒートシンク41を取り付けることにより、1個の機能素子15を有するLEDチップ42Bを得てもよい。この場合、切断された分断用加工対象物10Fが、活性層35で発生した光の反射層となるので、LEDチップ42Bの発光強度を向上させることができる。
【0109】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0110】
図34(a)に示すように、厚さ1mmのシリコン基板12の表面12aに、厚さ0.5mmのガラス基板9の裏面9bを陽極接合によって接合した。そして、ガラス基板9を2mm×2mm角のチップに切断するように切断予定ライン5を設定し、1本の切断予定ライン5に対して18列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成した。図34(a)の写真においては、切断予定ライン5に沿って紙面に垂直な方向にも溶融処理領域13が形成されている。このとき、溶融処理領域13を起点としてシリコン基板12の厚さ方向に発生した亀裂17は、シリコン基板12の裏面12bには到達しているが、シリコン基板12の表面12aには到達していない。すなわち、割れ17の表面12a側の先端17aは、シリコン基板12の内部において表面12aから離れている。そして、切断予定ライン5に沿ったガラス基板9の裏面9b側の部分90bには引張応力が生じ、切断予定ライン5に沿ったガラス基板9の表面9a側の部分90aには圧縮応力が生じていた。
【0111】
この状態で、シリコン基板12の裏面12bに貼り付けられたエキスパンドテープを拡張させて、シリコン基板12に応力を生じさせた。これにより、亀裂17は、シリコン基板12の表面12aとガラス基板9の裏面9bとの界面を介してガラス基板9内に伸展して、ガラス基板9の表面9aに到達し、その結果、切断予定ライン5に沿ってガラス基板9が切断された。図34(b)は、亀裂17がガラス基板9内に進入した直後の写真であるが、このように、シリコン基板12において主面と直交する方向に伸展した亀裂17は、シリコン基板12の表面12aとガラス基板9の裏面9bとの界面において連続的に且つその方向を殆ど変えることなく、ガラス基板9に伝わった。
【0112】
図35は、上記実施例によって切断されたシリコン基板及びガラス基板の写真を表した図である。図35(a)に示すように、切断されたシリコン基板12及びガラス基板9をガラス基板9の表面9a側から見ても、また、図35(b)に示すように、切断されたシリコン基板12及びガラス基板9を側面側から見ても、ガラス基板9が切断予定ライン5に沿って精度良く切断されていることが分かる。シリコン基板12の切断面とガラス基板9の切断面とは、殆どずれることなく厚さ方向に平行に連続している。
【0113】
また、図36は、他の実施例によって切断されたシリコン基板及びLTCC基板の写真を表した図である。ここでは、25mm×25mm角で、厚さ1mmのシリコン基板12の表面12aに、20mm×20mm角で、厚さ0.3mmのLTCC基板2の裏面2bを陽極接合によって接合した。そして、LTCC基板2を2mm×2mm角のチップに切断するように切断予定ライン5を設定し、1本の切断予定ライン5に対して18列の溶融処理領域13をシリコン基板12の内部に形成した。これにより、溶融処理領域13を起点としてシリコン基板12の厚さ方向に発生した亀裂をシリコン基板12の裏面12bに到達させた。
【0114】
この状態で、シリコン基板12の裏面12bに貼り付けられたエキスパンドテープを拡張させて、シリコン基板12に応力を生じさせた。これにより、図36(a)に示すように、溶融処理領域13を起点として発生した亀裂を切断予定ライン5に沿ってLTCC基板2の表面2aに到達させ、切断予定ライン5に沿ってLTCC基板2を切断した。図36(a)の写真には、シリコン基板12の切断に追従してLTCC基板2が切断されている様子が示されている。
【0115】
そして、図36(b)に示すように、切断されたシリコン基板12及びLTCC基板2をLTCC基板2の表面2a側から見ても、また、図36(c)に示すように、切断されたシリコン基板12及びLTCC基板2を側面側から見ても、LTCC基板2が切断予定ライン5に沿って精度良く切断されていることが分かる。シリコン基板12の切断面とLTCC基板2の切断面とは、殆どずれることなく厚さ方向に平行に連続している。
【0116】
ところで、主面が(111)面となっているシリコン基板を分断用加工対象物に用いると、劈開方向は、主面に対して53.7°の方向となる。従って、シリコン基板において溶融処理領域を起点として発生した亀裂を主面に垂直な方向に伸展させるためには、主面が(100)面となっているシリコン基板を分断用加工対象物に用いる場合に比べ、1本の切断予定ラインに対して形成する溶融処理領域の列数を増やしたり、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物との界面のより近傍に溶融処理領域を形成したりする必要がある。
【0117】
しかしながら、溶融処理領域の列数を増やしたり、界面のより近傍に溶融処理領域を形成したりすると、溶融処理領域を形成した時点で、切断対象となる加工対象物内に多くの細かい亀裂が発生してしまうことが分かった。そして、そのような多くの細かい亀裂が発生すると、切断対象となる加工対象物の切断面が蛇行するなど、切断予定ラインに沿った加工対象物の切断精度が低下するおそれがある。このことから、分断用加工対象物には、主面が(100)面となっているシリコン基板を用いることが極めて有効であることが分かる。
【0118】
以上の加工対象物切断方法では、表面に構造物や回路やデバイス等の積層物を形成した加工対象物を切断するために、加工対象物の裏面(構造物や回路やデバイス等の積層物を形成した面と反対面)に分断用加工対象物を接合し、加工対象物には改質領域を形成せず、分断用加工対象物にレーザ光により改質領域を形成し、それを切断の起点として分断用加工対象物で発生した亀裂(割れ)を加工対象物にまで伸展させて加工対象物を切断している。そのため、加工対象物の切断面の品質は非常に高く(綺麗で)、且つそのチップの抗折強度も非常に高い。
【0119】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0120】
例えば、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物との接合は、陽極接合や表面活性化直接接合に限定されず、次のような接合であってもよい。すなわち、高温加熱による直接接合や、液晶ワックス、接着剤、半田等を用いた接合である。高温加熱による直接接合は、分断用加工対象物の接合面、及び切断対象となる加工対象物の接合面に、酸化性の薬品によって親水化処理を施し、水洗して乾燥させた後、分断用加工対象物の接合面と、切断対象となる加工対象物の接合面とを接触させ、その状態で、接合強度を高めるために熱処理を行う方法である。
【0121】
液晶ワックスを用いた接合は、例えば、特開2005−51055号公報に記載されているように、分断用加工対象物の接合面と、切断対象となる加工対象物の接合面との間に、所定の厚さとなるように液状の液晶ワックスを介在させ、その状態で、液晶ワックスを冷却して固化させる方法である。このように、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物とを液晶ワックスによって接合した場合、例えば、特開2008−153337号公報に記載されているように、液晶ワックスを加熱して溶融させることにより、切断された加工対象物から、切断された分断用加工対象物を取り除くことができる。
【0122】
また、分断用加工対象物のシリコン基板と切断対象となる加工対象物との間には、ガラス層6の他、液晶ワックス、接着剤、半田等が介在させられる場合もあるし、シリコン基板の酸化膜等、何らかの層が介在する場合もある。
【0123】
また、切断された加工対象物から、切断された分断用加工対象物を取り除く方法は、エッチングに限定されず、切断された分断用加工対象物の研磨等であってもよい。なお、エッチングによって取り除く場合には、エッチングによって除去する部分(ガラス層6やシリコン基板12残存部16)を、少なくとも切断予定ライン5を含むようにパターニングしておけば、切断された加工対象物から、切断された分断用加工対象物を効率良く取り除くことができる。また、分断用加工対象物に分離用溶融処理領域18を形成しておけば、分断用加工対象物において分離用溶融処理領域18が形成された部分を相対的に素早く(選択的に)エッチングによって除去することができる。なお、通常、ガラスのエッチングにはHF溶液が用いられ、シリコンのエッチングにはKOH溶液が用いられる。
【0124】
また、切断対象となる加工対象物は、ガラス基板、LTCC基板、シリコン基板を備えるものだけでなく、切断が難しいSiC基板やLiTaO3等の圧電材料基板やセラミックス基板にも適用が可能である。
【0125】
また、分断用加工対象物(シリコン基板)と切断対象となる加工対象物の大きさ(面積)はどちらが大きくても構わないが、少なくとも分断用加工対象物の最外周(外縁)が加工対象物の最外の(すなわち、最も外縁に近い)切断予定ラインより外側となる関係となるように貼り合わせる(この場合、単純に大きさの比較だけをすると、加工対象物の大きさは分断用加工対象物より大きいことになる)。
【0126】
なお、分断用加工対象物(シリコン基板)の大きさ(面積)を加工対象物の大きさ(面積)よりも大きくすることがよい。分断用加工対象物に貼り付けられたエキスパンドテープ等の保持部材を介して分断用加工対象物に力が加わり、加工対象物の全ての切断予定ラインに対して亀裂を形成、伸展させることで加工対象物を切断するので、分断用加工対象物の大きさが大きいほうが外縁に近い部分でも切断予定ラインに沿って力が加わり易くなる。これは特に保持部材のエキスパンドを利用して加工対象物を切断する場合に有効である。また、分断用加工対象物が加工対象物より大きいので加工対象物から分断用加工対象物を剥離(分離)する際に加工対象物の全てのチップの裏面が分断用加工対象物により保護される効果もある。
【0127】
また、分断用加工対象物と切断対象となる加工対象物との界面付近にレーザ光を照射して、若しくは分断用加工対象物に改質領域を形成することに伴って、その界面や、加工対象物における界面近傍に微小な改質領域が形成されることがあってもよい。ただし、切断面の品質、強度等の観点からは、切断対象となる加工対象物には、レーザ光の照射に伴う改質領域が形成されないことが望ましい。
【0128】
また、分断用加工対象物10に分離用溶融処理領域18を形成するに際しては、図37に示すように、残存部16において切断予定ライン5に対向する部分には、分離用溶融処理領域18を形成しないほうがよい。すなわち、切断予定ライン5に対向する部分を除いて残存部16に分離用溶融処理領域18を形成することが好ましい。これによれば、切断の起点となる溶融処理領域13を分断用加工対象物10に形成するに際し、分離用溶融処理領域18によってレーザ光Lの導光が妨げられるのを防止することができる。更に、分離用溶融処理領域18によって溶融処理領域13から伸展した亀裂17の進行が妨げられるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0129】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F…加工対象物(第2の加工対象物)、2…LTCC基板、5…切断予定ライン、7…改質領域、9…ガラス基板、10A,10B,10C,10D,10E,10F…分断用加工対象物(第1の加工対象物)、12…シリコン基板、13…溶融処理領域、15…機能素子、17…亀裂、19,42A,42B…チップ、21…エキスパンドテープ(保持部材)、L…レーザ光、P…集光点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が(100)面となっているシリコン基板を備える板状の第1の加工対象物の一方の端面に、前記主面と対向するように板状の第2の加工対象物の他方の端面を接合する工程と、
前記第1の加工対象物にレーザ光を照射することにより、前記第2の加工対象物の切断予定ラインに沿って前記シリコン基板の内部に溶融処理領域を形成し、前記溶融処理領域を起点として発生した亀裂を前記切断予定ラインに沿って前記第1の加工対象物の他方の端面に到達させる工程と、
前記第1の加工対象物に応力を生じさせることにより、前記亀裂を前記切断予定ラインに沿って前記第2の加工対象物の一方の端面に到達させ、前記切断予定ラインに沿って前記第2の加工対象物を切断する工程と、を含むことを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項2】
前記第1の加工対象物の前記一方の端面と前記第2の加工対象物の前記他方の端面とは、陽極接合によって接合されることを特徴とする請求項1記載の加工対象物切断方法。
【請求項3】
前記第1の加工対象物の前記一方の端面と前記第2の加工対象物の前記他方の端面とは、表面活性化直接接合によって接合されることを特徴とする請求項1記載の加工対象物切断方法。
【請求項4】
前記レーザ光は、前記第1の加工対象物の前記他方の端面をレーザ光入射面として前記第1の加工対象物に照射されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項5】
前記応力は、前記第1の加工対象物の前記他方の端面に取り付けられた拡張可能な保持部材が拡張させられることにより前記第1の加工対象物に生じさせられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】
前記シリコン基板の厚さは、前記第2の加工対象物の厚さよりも厚くなっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項7】
前記第2の加工対象物は、複数の機能素子を有し、前記切断予定ラインは、隣り合う機能素子の間を通るように設定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項8】
前記第2の加工対象物は、ガラス基板を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項9】
前記第2の加工対象物は、LTCC基板を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項10】
前記第2の加工対象物は、サファイア基板を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項1】
主面が(100)面となっているシリコン基板を備える板状の第1の加工対象物の一方の端面に、前記主面と対向するように板状の第2の加工対象物の他方の端面を接合する工程と、
前記第1の加工対象物にレーザ光を照射することにより、前記第2の加工対象物の切断予定ラインに沿って前記シリコン基板の内部に溶融処理領域を形成し、前記溶融処理領域を起点として発生した亀裂を前記切断予定ラインに沿って前記第1の加工対象物の他方の端面に到達させる工程と、
前記第1の加工対象物に応力を生じさせることにより、前記亀裂を前記切断予定ラインに沿って前記第2の加工対象物の一方の端面に到達させ、前記切断予定ラインに沿って前記第2の加工対象物を切断する工程と、を含むことを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項2】
前記第1の加工対象物の前記一方の端面と前記第2の加工対象物の前記他方の端面とは、陽極接合によって接合されることを特徴とする請求項1記載の加工対象物切断方法。
【請求項3】
前記第1の加工対象物の前記一方の端面と前記第2の加工対象物の前記他方の端面とは、表面活性化直接接合によって接合されることを特徴とする請求項1記載の加工対象物切断方法。
【請求項4】
前記レーザ光は、前記第1の加工対象物の前記他方の端面をレーザ光入射面として前記第1の加工対象物に照射されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項5】
前記応力は、前記第1の加工対象物の前記他方の端面に取り付けられた拡張可能な保持部材が拡張させられることにより前記第1の加工対象物に生じさせられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】
前記シリコン基板の厚さは、前記第2の加工対象物の厚さよりも厚くなっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項7】
前記第2の加工対象物は、複数の機能素子を有し、前記切断予定ラインは、隣り合う機能素子の間を通るように設定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項8】
前記第2の加工対象物は、ガラス基板を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項9】
前記第2の加工対象物は、LTCC基板を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【請求項10】
前記第2の加工対象物は、サファイア基板を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の加工対象物切断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【公開番号】特開2011−25611(P2011−25611A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175836(P2009−175836)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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