説明

加工装置、および加工装置で用いられる変調マスク

【課題】短い加工時間で精度良く被加工物に傾斜部を形成することができる加工装置を提供する。
【解決手段】加工装置10は、光を出射するマスク照明系11と、マスク照明系11からの光を変調して出射する変調マスク33と、変調された光を結像して被加工物18に照射し、被加工物18に傾斜部18bを形成する結像光学系17とを備えている。変調マスク33は、被加工物18の傾斜部18bに照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部24bと、変調マスク傾斜部24bに隣接し、被加工物18の非加工部18cに対応する変調マスク遮蔽部24cと、を有している。このうち変調マスク傾斜部24bは、複数の位相変調単位領域24eからなっている。一方変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源から出射された光を、非加工部を含む被加工物に照射することにより、被加工物に少なくとも1つの傾斜部を形成する加工装置に関する。また本発明は、光源から出射された光を被加工物に照射することにより、被加工物に貫通部若しくは底部分と、テーパ部とを有する少なくとも1つの先細状テーパ穴を形成する加工装置に関する。また本発明は、加工装置で用いられる変調マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器などで用いられる部品において、部品(被加工物)を様々な形状に高精度で加工することが求められている。要求される形状の一例として、被加工物に傾斜部を形成することが挙げられる。例えば、プリンタなどに使用されるインクジェットヘッドのノズルは、良好なインクの吐出性能を得るために、ノズルの先端部が基端部よりも細くなるよう傾斜(テーパ)がつけられた形状を有することが求められる。
【0003】
図20に、従来のインクジェットヘッドのノズル形成方法における加工装置100を示す。加工装置100のステージ109上には、ポリイミド等の樹脂プレートからなり、レーザ加工によりノズルが形成されるノズル形成用シート108が載置されている。レーザ光源102から出射されるパルス状のレーザ光は、光強度分布を均一化する照明光学系103を通過した後、マスク104に入射される。マスク104は、光を透過させる石英ガラス層105と、光を遮蔽する金属からなる光遮蔽層106とを積層することにより形成されており、また、光遮蔽層106はその中央部に円形の開口部106aを有している。このため、マスク104に入射したレーザ光のうち、光遮蔽層106の開口部106aに対応する領域に入射したレーザ光のみがマスク104を透過し、その他の光はマスク104の光遮蔽層106により遮蔽される。マスク104を透過したレーザ光は、結像光学系107によりノズル形成用シート108上に結像される。ノズル形成用シート108上に結像され照射された光は、光遮蔽層106の開口部106aに対応する円形パターンを有しており、このため、ノズル形成用シート108が円形に加工される。これによって、テーパがつけられた形状を有するノズル110が作製される。
【0004】
レーザ加工により作製されるノズル110のテーパ角と、照射されるレーザ光のエネルギー密度との間には、図21に示すように、照射エネルギー密度を小さくするとテーパ角が大きくなる関係があることが知られている。この関係を利用することにより、照射されるレーザ光のエネルギー密度を調整して所望角度のテーパ部110bを形成することが可能となる。例えば特許文献1において、所定の角度を有するテーパ部110bを形成するよう、照射されるレーザ光のエネルギー密度を調整してノズル110を形成する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−67333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなノズルの形成方法においては、大きなテーパ角を得るために照射エネルギー密度を小さくすることにより、アブレーションレート( 一回のパルス光照射で除去される被加工物の深さ) が低下する。このため、同じ深さのテーパ穴を加工する場合でも、大きなテーパ角を得るためには、レーザ光の照射回数を増やす必要があり、これによって、テーパ穴を形成するのに必要な加工時間が長くなるという問題が生じる。また、レーザ光源102の寿命はレーザ光を出射した回数により決まるため、被加工物へのレーザ光の照射回数を増やすと、レーザ光源102の寿命が短くなり、これによって、レーザ光源101の交換頻度が増加するという問題も生じる。さらに、大きなテーパ角を得るために照射エネルギー密度を小さくすると、作製されたノズル110の先端部110cにおける内径のばらつきが大きくなるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、短い加工時間で精度良く被加工物に傾斜部を形成することができる加工装置を提供することを目的とする。また本発明は、当該加工装置で用いられる変調マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明は、光源から出射された光を、非加工部を含む被加工物に照射することにより、被加工物に少なくとも1つの傾斜部を形成する加工装置において、光を出射する光源と、前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を変調して出射する変調マスクと、前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物に傾斜部を形成する結像光学系と、を備え、前記変調マスクは、前記被加工物の傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部に隣接し、前記被加工物の非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、を有し、前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から遠ざかるにつれて{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする加工装置である。
第1の本発明によれば、被加工物の非加工部に、被加工物を加工し得る強度を有する光が照射されるのを防ぐことができる。このことにより、非加工部が加工されるのを確実に防ぐことができる。
また第1の本発明によれば、被加工物の傾斜部に照射される光の強度を、被加工物の非加工部から遠ざかるにつれて連続的に大きくなるように調整することができる。このことにより、短い加工時間で精度良く被加工物に傾斜部を形成することができる。
【0009】
第1の本発明において、前記被加工物には、加工装置による加工によって、少なくとも1つの傾斜部と、当該傾斜部の底側に位置する最大加工部とが形成されてもよい。この場合、前記変調マスクは、前記傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の一側に隣接し、前記非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、各変調マスク傾斜部の他側に隣接し、前記最大加工部に対応する変調マスク透過部と、を有している。
【0010】
第1の本発明において、前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであってもよい。この場合、前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされている。
【0011】
第2の本発明は、光源から出射された光を被加工物に照射することにより、被加工物に貫通部若しくは底部分と、テーパ部とを有する少なくとも1つの先細状テーパ穴を形成する加工装置において、光を出射する光源と、前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を変調して出射する変調マスクと、前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物にテーパ穴を形成する結像光学系と、を備え、前記変調マスクは、前記テーパ穴の貫通部若しくは底部分に照射される光に対応する変調マスク透過部と、各変調マスク透過部の周縁に位置し、テーパ穴のテーパ部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の周縁に位置する変調マスク遮蔽部と、を有し、前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から前記変調マスク透過部に隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする加工装置である。
第2の本発明によれば、被加工物のうちテーパ穴が形成されない部分に、被加工物を加工し得る強度を有する光が照射されるのを防ぐことができる。このことにより、テーパ穴が形成されない部分が加工されるのを確実に防ぐことができる。
また第2の本発明によれば、被加工物の傾斜部に照射される光の強度を、被加工物の非加工部から貫通部若しくは底部分に向かうにつれて連続的に大きくなるように調整することができる。このことにより、短い加工時間で精度良く被加工物にテーパ穴を形成することができる。
【0012】
第2の本発明において、前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであってもよい。この場合、前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされている。
【0013】
第1および第2の本発明において、前記被加工物は、基本樹脂と、当該基本樹脂に添加されたフィラーとを有していてもよい。この場合、前記変調マスクを通って照射される光により、前記基本樹脂および前記フィラーが除去され、これによって被加工物が加工される。
【0014】
第1および第2の本発明において、前記第1位相変調単位領域の第1の位相変調量と、前記第2位相変調単位領域の第2の位相変調量とが180度の奇数倍だけ異なっていてもよい。
【0015】
第1および第2の本発明において、前記変調マスク遮蔽部は、光透過率が0である光遮蔽層からなっていてもよい。
【0016】
第3の本発明は、光源から出射された光を、非加工部を含む被加工物に照射することにより、被加工物に少なくとも1つの傾斜部を形成する加工装置に組み込まれた変調マスクにおいて、加工装置は、光を出射する光源と、前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を変調して出射する変調マスクと、前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物に傾斜部を形成する結像光学系と、を備え、前記変調マスクは、前記被加工物の傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部に隣接し、前記被加工物の非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、を有し、前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から遠ざかるにつれて{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする変調マスクである。
第3の本発明によれば、被加工物の非加工部に、被加工物を加工し得る強度を有する光が照射されるのを防ぐことができる。このことにより、非加工部が加工されるのを確実に防ぐことができる。
また第3の本発明によれば、被加工物の傾斜部に照射される光の強度を、被加工物の非加工部から遠ざかるにつれて連続的に大きくなるように調整することができる。このことにより、短い加工時間で精度良く被加工物に傾斜部を形成することができる。
【0017】
第3の本発明において、前記被加工物には、前記加工装置による加工によって、少なくとも1つの傾斜部と、当該傾斜部の底側に位置する最大加工部とが形成されてもよい。この場合、加工装置に組み込まれた前記変調マスクは、前記傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の一側に隣接し、前記非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、各変調マスク傾斜部の他側に隣接し、前記最大加工部に対応する変調マスク透過部と、を有している。
【0018】
第3の本発明において、前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであってもよい。この場合、前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされている。
【0019】
第4の本発明は、光源から出射された光を被加工物に照射することにより、被加工物に貫通部若しくは底部分と、テーパ部とを有する少なくとも1つの先細状テーパ穴を形成する加工装置に組み込まれた変調マスクにおいて、加工装置は、光を出射する光源と、前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を位相変調して出射する変調マスクと、前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物にテーパ穴を形成する結像光学系と、を備え、前記変調マスクは、前記テーパ穴の貫通部若しくは底部分に照射される光に対応する変調マスク透過部と、各変調マスク透過部の周縁に位置し、テーパ穴のテーパ部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の周縁に位置する変調マスク遮蔽部と、を有し、前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から前記変調マスク透過部に隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする変調マスクである。
第4の本発明によれば、被加工物のうちテーパ穴が形成されない部分に、被加工物を加工し得る強度を有する光が照射されるのを防ぐことができる。このことにより、テーパ穴が形成されない部分が加工されるのを確実に防ぐことができる。
また第4の本発明によれば、被加工物の傾斜部に照射される光の強度を、被加工物の非加工部から貫通部若しくは底部分に向かうにつれて連続的に大きくなるように調整することができる。このことにより、短い加工時間で精度良く被加工物にテーパ穴を形成することができる。
【0020】
第4の本発明において、前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであってもよい。この場合、前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされている。
【0021】
第3および第4の本発明において、前記被加工物は、基本樹脂と、当該基本樹脂に添加されたフィラーとを有していてもよい。この場合、前記変調マスクを通って照射される光により、前記基本樹脂および前記フィラーが除去され、これによって被加工物が加工される。
【0022】
第3および第4の本発明において、前記第1位相変調単位領域の第1の位相変調量と、前記第2位相変調単位領域の第2の位相変調量とが180度の奇数倍だけ異なっていてもよい。
【0023】
第3および第4の本発明において、前記変調マスク遮蔽部は、光透過率が0である光遮蔽層からなっていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、短い加工時間で精度良く被加工物に傾斜部を形成する加工装置を提供することができる。また本発明によれば、当該加工装置で用いられる変調マスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明による加工装置を示す図。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態における変調マスクの出射側を示す平面図、図2(b)は、図2(a)の変調マスクをIIb−IIb方向から見た縦断面図。
【図3】図3(a)は、図2(a)に示す変調マスクのうち太枠で囲んだ領域を拡大して示す図、図3(b)は、図3(a)の各位相変調単位領域を示す縦断面図。
【図4】図4(a)は、結像光学系から出射された光の被加工物に対する結像面を示す図、図4(b)は、結像面における点像分布関数を示す図、図4(c)は、結像面における点像分布関数と変調マスク傾斜部および変調マスク透過部における位相変調単位領域との関係を示す図、図4(d)は、結像面の点像分布関数内における光強度の概念を示す図。
【図5】図5(a)は、結像光学系における瞳関数を示す図、図5(b)は、結像面における点像分布関数を示す図。
【図6】図6は、変調マスクの設計フローチャートを示す図。
【図7】図7(a)は、本発明の第1の実施の形態において、被加工物に形成されるテーパ穴を示す縦断面図、図7(b)は、被加工物に形成されるテーパ穴を示す平面図。
【図8】図8(a)は、第1の比較の形態において、被加工物に照射される光のエネルギー密度と、これによって加工される被加工物との関係を示す図、図8(b)は、本発明の第1の実施の形態において、被加工物に照射される光のエネルギー密度と、これによって加工される被加工物との関係を示す図。
【図9】図9は、第2の比較の形態における変調マスクの出射側を示す平面図。
【図10】図10(a)は、図9に示す変調マスクのうち太枠で囲んだ領域を拡大して示す図であり、図10(b)は、図10(a)の各振幅変調単位領域を示す縦断面図。
【図11】図11は、被加工物に形成されるテーパ穴の変形例を示す縦断面図。
【図12】図12(a)は、本発明の第2の実施の形態における変調マスクの出射側を示す平面図であり、図12(b)は、図12(a)の変調マスクをXIIb−XIIb方向から見た縦断面図。
【図13】図13(a)は、本発明の第2の実施の形態における被加工物を示す平面図であり、図13(b)は、図13(a)の被加工物をXIIIb−XIIIb方向から見た縦断面図。
【図14】図14(a)は、本発明の第2の実施の形態の変形例における変調マスクの出射側を示す平面図であり、図14(b)は、図14(a)の変調マスクをXIVb−XIVb方向から見た縦断面図。
【図15】図15(a)は、本発明の第2の実施の形態の変形例における被加工物を示す平面図であり、図15(b)は、図15(a)の被加工物をXVb−XVb方向から見た縦断面図。
【図16】図16(a)は、被加工物に形成されたテーパ穴の形状を示す縦断面図、図16(b)は、被加工物に照射されたレーザ光の強度分布Iを示す図、図16(c)は、被加工物に形成されたテーパ穴を示す平面図。
【図17】図17(a)は、実施例1における変調マスクを示す平面図、図17(b)は、図17(a)に示す変調マスクから出射された光の強度を示す図。
【図18】図18(a)は、位相変調単位領域の第2位相変調単位領域の形状を示す図、図18(b)は、第2位相変調単位領域の寸法誤差と、当該第2位相変調単位領域を含む位相変調単位領域により変調された光の強度との関係を示す図。
【図19】図19(a)は、比較例1における変調マスクを示す平面図、図19(b)は、図19(a)に示す変調マスクから出射された光の強度を示す図。
【図20】図20は、従来の加工装置を示す図。
【図21】図21は、テーパ穴の傾斜と角度と照射エネルギーの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1の実施の形態
以下、図1乃至図7を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0027】
(被加工物およびテーパ穴)
はじめに、図7を参照して、加工装置10により加工される被加工物18、および被加工物18に形成されるテーパ穴20について説明する。図7(a)は、被加工物18に形成されるテーパ穴20を示す縦断面図であり、図7(b)は、被加工物18に形成されるテーパ穴20を示す平面図である。
【0028】
図7(a)(b)に示すように、被加工物18は、平板状の形状を備えるとともに、基本樹脂18dと、当該基本樹脂18dに添加されたフィラー18eとを有している。また図7(a)(b)に示すように、被加工物18に形成されるテーパ穴20は、貫通部20aと、テーパ穴20の基端部20dから先端部20cに向って貫通部20aが先細となるよう傾斜した面からなるテーパ部20bとを有している。ここでテーパ部20bの傾斜角度は、図7(a)に示すように角度φとなっている。なお図7(a)においては、被加工物18の上面側にのみフィラー18eが添加されている例を示したが、これに限られることはなく、被加工物18の下面側にフィラー18eが添加されていてもよい。また、被加工物18全体にわたってフィラー18eが添加されていてもよい。
【0029】
被加工物18の基本樹脂18dの材料としては、加工性および物理的安定性の良い材料が用いられる。例えば被加工物18を加工してインクジェットヘッドのノズルを製造する場合、基本樹脂18dとしてポリイミドなどが用いられる。また、基本樹脂18dに添加されるフィラー18eとしては、被加工物18の易滑性を高めることができる材料が用いられ、例えばシリカや炭酸カルシウムの粒子などが用いられる。このようなフィラー18eを基本樹脂18dに添加することにより、被加工物18同士の滑りを良くすることができ、これによって、被加工物18にテーパ穴20を形成する際の作業性などを向上させることができる。
【0030】
なお本実施の形態において、被加工物18のうち、テーパ穴20の貫通部20aが形成される部分が最大加工部18aとなっており、テーパ穴のテーパ部20bが形成される部分が傾斜部18bとなっており、テーパ穴20が形成されない部分が非加工部18cとなっている(図7(b)参照)。なお、最大加工部18aとは、被加工物18のうち加工装置10によって最も深く加工される部分であり、非加工部18cとは、被加工物18のうち加工装置10によって加工されるのが好ましくない部分である。
【0031】
(加工装置)
次に図1を参照して、加工装置10全体について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態における加工装置10を示す図である。図1に示すように、加工装置10は、被加工物18を載置する加工台19と、光を出射するマスク照明系11と、マスク照明系11の出射側に設けられ、マスク照明系11からの光を変調して出射する変調マスク24と、変調マスク24の出射側に設けられ、変調マスク24により変調された光を結像して被加工物18に照射し、被加工物18に貫通部20aとテーパ部20bとを有する少なくとも1つのテーパ穴20を形成する結像光学系17と、を備えている。
【0032】
このうちマスク照明系11は、パルス状のレーザ光を出射するレーザ光源12と、レーザ光源12からのレーザ光の光強度分布を均一化する照明光学系13とを有している。具体的には、レーザ光源12は、アブレーションにより被加工物18を加工するための308nmの波長を有する光を供給するXeClエキシマレーザ光源12からなる。また照明光学系13は、レーザ光源12からの光の面内強度分布を均一化するとともに、照明光学系13から変調マスク24に入射される光の入射角度分布を均一化するものであり、フライアイレンズ(図示せず)と、コンデンサ光学系(図示せず)とを有している。
【0033】
変調マスク24は、前述のとおり、マスク照明系11の出射側に設けられ、マスク照明系11からの光を変調して出射するものである。詳細については後述する。
【0034】
変調マスク24において変調されたレーザ光は、変調マスク24の出射側に設けられた結像光学系17に入射される。結像光学系17は、変調マスク24により変調された光を結像して被加工物18に照射するものであり、図1に示すように、凸レンズ17aと、凸レンズ17bと、両レンズ17a、17bの間に設けられた開口絞り17cとを有している。なお開口絞り17cの開口部17kの大きさは、実質的に結像光学系17の像側開口数NAに対応している。後述するように、当該開口部17kの大きさは被加工物18において所要の光強度分布を発生させるように設定されている。
【0035】
結像光学系17により結像されたレーザ光は、被加工物18に照射される。この被加工物18は、308nmの波長を有するレーザ光によるアブレーションが発生しやすい物質から形成されており、例えばポリイミドなどの高分子材料から形成されている。なお被加工物18は、変調マスク24と光学的に共役な面、すなわち結像光学系17の後述する結像面17f上に配置されている。
【0036】
(変調マスク)
次に、図2(a)(b)および図3(a)(b)を参照して、本実施の形態における変調マスク24について説明する。図2(a)は、変調マスク24の出射側を示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)の変調マスク24をIIb−IIb方向から見た縦断面図である。なお本実施の形態において、変調マスク24は、平板状の形状を有し、その平面部とレーザ光の入射および出射方向とが直交するよう配置されている。また図3(a)は、図2(a)に示す変調マスク24のうち太枠で囲んだ領域を拡大して示す図であり、図3(b)は、図3(a)の各位相変調単位領域を示す縦断面図である。
【0037】
はじめに、図2(a)を参照して、変調マスク24の出射側から見た場合の変調マスク24の構造について説明する。図2(a)に示すように、変調マスク24は、テーパ穴20の貫通部20aに照射される光を位相変調する変調マスク透過部24aと、変調マスク透過部24aの周縁に位置し、テーパ穴20のテーパ部20bに照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部24bと、変調マスク傾斜部24bの周縁に位置し、被加工物18の非加工部18cに対応する変調マスク遮蔽部24cとからなる。また図2(b)に示すように、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bはそれぞれ、複数の位相変調単位領域24eからなる。一方、図2(b)に示すように、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。なお、変調マスク24には、被加工物18に形成されるテーパ穴20の数に対応する数の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bがそれぞれ設けられるが、本実施の形態においては、変調マスク24に変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bがそれぞれ1つ設けられている場合について説明する。
【0038】
次に、位相変調単位領域24eについて詳述する。変調マスク24のうち、例えば変調マスク傾斜部24bは、図3(a)に示すように、位相変調単位領域24e〜24eを有している。またこれらの位相変調単位領域24e〜24eを結像光学系17の後述する結像面17fに換算した振幅変調単位換算領域が結像光学系17の後述する点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さくなるよう、変調マスク24が設計されている。
【0039】
また図3(a)に示すように、変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24e〜24eはそれぞれ、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域25a〜25aと、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域25b〜25bとからなる。ここで図3(a)から明らかなように、変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24e〜24eにおいて、第1位相変調単位領域25a〜25aの占有率(各位相変調単位領域24e〜24eにおける第1位相変調単位領域25a〜25aの面積率)、および第2位相変調単位領域25b〜25bの占有率(各位相変調単位領域24e〜24eにおける第2位相変調単位領域25b〜25bの面積率)はそれぞれ異なっている。例えば位相変調単位領域24eにおける第1位相変調単位領域25aの占有率は0.90であり、第2位相変調単位領域25bの占有率は0.10である。また位相変調単位領域24eにおける第1位相変調単位領域25aの占有率は0.55であり、第2位相変調単位領域25bの占有率は0.45である。
【0040】
次に、図3(b)を参照して、変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24e〜24eの構造について詳述する。図3(b)は、各位相変調単位領域24e〜24eを示す縦断面図である。図3(b)に示すように、変調マスク24の各位相変調単位領域24e〜24eは、その表面に凹凸が設けられている透過性基板、例えば屈折率nの石英ガラス26から形成されている。ここで、各位相変調単位領域24e〜24eのうち第1位相変調単位領域25a〜25aに対応する領域における石英ガラス26の高さと、各位相変調単位領域24e〜24eのうち第2位相変調単位領域25b〜25bに対応する領域における石英ガラス26の高さとの差をΔhとする。この場合、空気の屈折率を1とすると、各位相変調単位領域24e〜24eにおいて、第1位相変調単位領域25a〜25aにおける変調マスク24の入射面から出射面24hまでの光学距離と、第2位相変調単位領域25b〜25bにおける変調マスク24の入射面から出射面24hまでの光学距離との差は、Δh×(n−1)になる。
【0041】
本実施の形態においては、前記の光学距離の差Δh×(n−1)が{λ/2}の奇数倍となるよう、すなわち、第1位相変調単位領域25a〜25aにおける位相変調量と第2位相変調単位領域25b〜25bにおける位相変調量の差が180度の奇数倍となるよう、Δhが設定されている。例えば、マスク照明系11から出射されるレーザ光の中心波長λが308nm、各位相変調単位領域24e〜24eを形成する石英ガラス26の屈折率nが1.49の場合、Δhが317nmとなるよう各位相変調単位領域24e〜24eが設計されている。
【0042】
なお、変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24e〜24eについて図3(a)(b)を参照して説明したが、変調マスク透過部24aにおいても同様に、各々の位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域が結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さくなるよう、変調マスク24が設計されている。また、変調マスク透過部24aにおける各位相変調単位領域24eも、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域25aと、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域25bとからなる。
【0043】
次に、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにおける第1位相変調単位領域25aの占有率、および第2位相変調単位領域25bの占有率について説明する。本実施の形態において、変調マスク透過部24aにおける第1位相変調単位領域25aの占有率をCp、第2位相変調単位領域25bの占有率をCpとする。同様に、変調マスク傾斜部24bにおける第1位相変調単位領域25aの占有率をTp、第2位相変調単位領域25bの占有率をTpとする。このとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされるよう変調マスク24が設計されている。さらに、変調マスク傾斜部24bにおけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部24bのうち変調マスク遮蔽部24cに隣接する領域から変調マスク透過部24aに隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布している。
【0044】
次に、変調マスク遮蔽部24cについて詳述する。上述のように、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。このため、マスク照明系11から変調マスク24に入射する光のうち変調マスク遮蔽部24cに入射する光は、その大半が変調マスク遮蔽部24cの光遮蔽層27により遮蔽される。これによって、マスク照明系11から変調マスク24に入射した光が、変調マスク遮蔽部24cを透過して被加工物18の非加工部18cに照射されるのを防ぐことができ、このことにより、被加工物18の非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができる。
【0045】
変調マスク遮蔽部24cの光遮蔽層27の光透過率は、変調マスク遮蔽部24cを透過して被加工物18の非加工部18cに照射される光の強度が被加工物18のアブレーション閾値を超えないよう適宜選択される。例えば、光遮蔽層27の光透過率は0.00001以下となっており、好ましくは0となっている。光遮蔽層27の材料としては、所望の光透過率を実現することができる材料を適宜用いることができ、例えば、クロム、アルミニウム、シリコン酸化物または誘電体多層膜など様々な遮光材料を用いることができる。
【0046】
(光強度分布の生成原理)
次に、図4および図5を参照して、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにより位相変調され出射された光が結像光学系17の結像面に位相変調単位領域24eに基づく光強度分布を生成する原理について説明する。ここで図4(a)は、結像光学系17を示す図であり、図4(b)は、結像面17fにおける点像分布関数を示す図である。図4(c)は、結像面17fにおける点像分布関数と、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにおける位相変調単位領域24eとの関係を示す図であり、図4(d)は、結像面17fの点像分布関数内における光強度の概念を示す図である。図5(a)は、結像光学系17における瞳関数を示す図であり、図5(b)は、結像面17fにおける点像分布関数を示す図である。
【0047】
はじめに、レーザ光の強度とアブレーション深さとの関係について説明する。被加工物18に照射されるレーザ光の強度と、被加工物18のうちアブレーションにより除去される部分の深さ(アブレーションレート)との間には、一般に〔数1〕の関係式が成り立つことが知られている。
【数1】

ここで、dはパルス状のレーザ光を被加工物18に一回照射したときのアブレーションレート、αは被加工物18の光吸収率、Iはレーザ光のエネルギー密度、Ithは被加工物18におけるアブレーション発生閾値を示す。
【0048】
〔数1〕により明らかなように、アブレーションレートdはレーザ光のエネルギー密度Iに依存する。また、レーザ光照射を複数回繰り返した場合、被加工物18のうちレーザ光照射によって除去される部分の深さの合計は、レーザ光の照射回数に比例することが知られている。従って、被加工物18に照射されるレーザ光のエネルギー密度Iを被加工物18の場所に応じて任意に設定することにより、被加工物18を任意の形状に加工することが可能となる。
【0049】
なお、レーザ光のエネルギー密度Iが所定の値、例えばIupperを超えると、アブレーションにより被加工物18の一部が除去された際に発生する飛散物によって、被加工物18に照射されるレーザ光が吸収・散乱されるという現象が発生する。この場合、被加工物18に照射されるレーザ光のエネルギーが、被加工物18のアブレーションと飛散物によるレーザ光の吸収・散乱とに使用されることになり、このため、レーザ光のエネルギー密度Iを大きくしても、アブレーションレートdがある値で飽和するようになる。すなわち、〔数1〕の関係式が成立しなくなる。従って、本実施の形態において、レーザ光のエネルギー密度IはIupperを超えないよう設定される。
【0050】
次に、結像光学系17における物体面(変調マスク24)と結像面17f(被加工物18)との関係について説明する。
【0051】
結像光学系17における物体面分布と結像面分布の関係は、一般にフーリエ結像論により扱うことができる。また、コヒーレンスファクタが0.5程度以下の場合は、コヒーレント結像として近似できる。この場合、結像面、すなわち被加工物18における複素振幅分布U(x,y)は、以下の〔数2〕に示すように、変調マスク24の複素振幅透過率分布T(x,y)と、結像光学系17の複素振幅点像分布関数ASF(x,y)の畳み込み積分で与えられる
【数2】

ここで、*はコンボリューション(たたみ込み積分)を表す。
【0052】
上記の点像分布関数ASF(x,y)は、結像光学系17の瞳関数のフーリエ変換で与えられる。この場合、瞳が円形で無収差の場合は、良く知られたエアリーパターンとなる(〔数3〕)。
【数3】

ここで、rは以下の〔数4〕により表される関数である。また、Jはベッセル関数、λは光の波長、NAは結像光学系17の結像側開口数を表す。
【数4】

【0053】
次に、結像光学系17の点像分布関数ASF(x,y)について説明する。図4(a)は、結像光学系17を示す図であり、図4(b)は、結像光学系17の点像分布関数ASF(x,y)を示す。なお図4(b)において、横軸は、結像面17fにおける位置に相当する。また図4(b)において破線で示されている直径2Rの円筒形17eは、結像光学系17の点像分布関数ASF(x,y)を円筒形で近似したものである。ここで、直径2Rの円筒形17eの内側にある領域を、点像分布範囲17lと呼ぶことにする。図4(c)は、変調マスク24上の位相変調単位領域24eと点像分布範囲17lとの関係を示している。
【0054】
結像面17f、すなわち被加工物18の複素振幅分布U(x,y)は、前述のとおり、変調マスク24の複素振幅透過率分布T(x,y)と、結像光学系17の点像分布関数ASF(x,y)との畳み込み積分により与えられる。ここで、前述のように点像分布関数ASF(x,y)を円筒形17eで近似して考えると、図4(c)に示す円形の点像分布範囲17lにおいて変調マスク24の複素振幅透過率を均一重みで積分した結果が、結像面17fにおける複素振幅になる。そして、結像面17fにおける複素振幅の絶対値の二乗が、被加工物18に照射されるレーザ光の強度となる。
【0055】
点像分布範囲17lでの変調マスク24の複素振幅透過率の積分は、図4(d)に示すように、単位円17g内における複素振幅透過率をあらわす複数のベクトル17hの和として考えることができる。これらの複数のベクトル17hの和の絶対値を二乗することにより、対応する被加工物18上の位置における光照射強度が算出される。
【0056】
図5(a)(b)に、結像光学系17における瞳関数と点像分布関数ASF(x,y)との関係を示す。一般に、図5(b)に示す点像分布関数ASF(x,y)は、図5(a)に示す瞳関数のフーリエ変換により与えられる。また、結像光学系17が均一円形瞳を有し、かつ収差がない場合は、上述のように、点像分布関数ASF(x,y)は〔数3〕により表される。しかしながら、結像光学系17に収差が存在する場合や、結像光学系17が均一円形瞳以外の瞳関数を有する場合はこの限りではない。
【0057】
結像光学系17における瞳関数が均一円形瞳であり、かつ結像光学系17に収差がない場合、点像分布関数ASF(x,y)が最初に0となるまでの中央領域(すなわちエアリーディスク)の半径Rは、以下の〔数5〕により与えられる。
【数5】

ここで前述の点像分布範囲17lは、図4(b)または図5(b)に示すように、点像分布関数ASF(x,y)が最初に0となるまでの円形状の中央領域、即ちエアリーディスク内側を意味することになる。なお本実施の形態において、例えばレーザ光の波長λ=308nm、結像光学系17の結像側の開口数NA=0.15とすると、R=1.25μmとなる。
【0058】
図4(a)〜(d)から明らかなように、結像光学系17の点像分布範囲17lに光学的に対応する円の中に複数の位相変調単位領域24eが含まれている場合、すなわち図5(d)に示す単位円17gの中に複数のベクトル17hが存在する場合、複数のベクトル17hの和により光の振幅が表される。従って、各位相変調単位領域24eにおける複素振幅透過率を調整することにより、光の強度分布を解析的にかつ簡単な計算に従って制御することが可能となる。
【0059】
上述の説明から明らかなように、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bを通過した光の強度分布を自由に制御するためには、図4(c)に示すように、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの位相変調単位領域24eが、結像光学系17の点像分布範囲17lの半径Rよりも光学的に小さいことが好ましい。すなわち、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域が、結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さいことが好ましい。
【0060】
ここで、例えば結像光学系17の変調マスク24側の面と結像面17fとの倍率が1/5である場合、位相変調単位領域24eを前述の結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域が、結像光学系17の点像分布範囲の半径R=1.25μmよりも少なくとも一方向に関して小さくなるよう、変調マスク24が設計される。本実施の形態においては、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの位相変調単位領域24eが5μm×5μmの正方形からなるよう、変調マスク24が設計されている。この場合、5μm×5μmの正方形からなる位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域は、(5μm×5μm)×1/5、すなわち1μm×1μmの正方形からなり、結像光学系17の点像分布範囲の半径R=1.25μmよりも小さい。
【0061】
次に、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bとレーザ光の強度Iとの関係について説明する。点像分布関数ASF(x,y)を、エアリーディスク内側で定数値1、その外側で0となる関数で近似すると、〔数2〕はエアリーディスク内側での積分に近似される(〔数6〕)。
【数6】

〔数6〕中、Cは定数であり、積分は点(x,y)を中心とする半径Rの内側の積分を示している。
【0062】
ここで、位相変調単位領域24eの作用を再度考える。この位相変調単位領域24eは、同じ形状・大きさの領域が敷き詰められていてもよいし、また場所毎に変化してもよい。ここで、エアリーディスクの範囲内にある複数の位相変調単位領域24eの間で複素振幅透過率が大きく変化しない場合、〔数6〕の積分範囲を、エアリーディスク内側から、(x,y)を含む位相変調単位領域24eの内側に置き換えることができる。
【0063】
次に、図4、図5を参照しながら、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bを通過した光の光強度分布の導出方法について説明する。前述のとおり、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bは、その表面に凹凸が設けられている屈折率nの石英ガラス26から形成されている。この場合、レーザ光がこの凹部(凸部)を透過するとき、石英ガラス26の屈折率nと空気の屈折率1の差だけ波面にずれが生じて位相変調となる。このときの位相変調量θは、以下の〔数7〕により表される。
【数7】

ここで、Δhは変調マスク24に形成された凹部の深さ(凸部の高さ)を表している。
【0064】
ここで、凹部の深さ(凸部の高さ)Δhが離散的である、すなわち多段加工されているものとし、ある位相変調単位領域24e内でのk番目の位相変調領域の面積率と位相変調量をそれぞれD(p)、θと表すとする。この場合、前述の〔数6〕に基づき、当該位相変調単位領域24eに対応する結像光学系17の結像面17fにおける複素振幅透過率U、およびレーザ光の強度Iが以下のように求められる。
【数8】

【数9】

ここで、Σは当該位相変調単位領域24eにおけるすべての位相変調領域に関する和を表している。
【0065】
簡単のため、変調マスク24が図2(a)(b)および図3(a)(b)に示す変調マスク24からなる場合、すなわち、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにおける各位相変調単位領域24eが2種類の位相変調領域(第1位相変調単位領域25a、第2位相変調単位領域25b)からなる場合について考える。第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bにより変調されたレーザ光の位相をそれぞれθ(=0)、θ(=θ)と表す場合、レーザ光の強度Iは以下の〔数10〕により表される。
【数10】

ここでD(p)は、各位相変調単位領域24eにおける第2位相変調単位領域25bの面積率を表している。この式をD(p)に関して解くと、以下の〔数11〕が得られる。
【数11】

【0066】
上述のように、被加工物18に形成するテーパ穴20の大きさ、テーパ部20bの傾斜角度などに応じて、〔数1〕に基づき、被加工物18に照射されるレーザ光強度分布Iを設定することができる。さらに、所望のレーザ光強度分布Iが得られるよう、〔数11〕に従い、各位相変調単位領域24eにおける第2位相変調単位領域25bの面積率を設定することができる。すなわち、所定の変調マスク24を準備することにより、所望の大きさ、傾斜角度などを有するテーパ穴20を被加工物18に形成することが可能となる。
【0067】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0068】
(変調マスクの設計手順)
まず、変調マスク24の設計手順について説明する。はじめに図6を参照して、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの設計手順について説明する。図6は、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bを設計するためのフローチャートを示す図である。
【0069】
(イ)予め変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bを、位相変調単位領域24eを単位として区分けしておく。この位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域は、結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さい領域である。
(ロ)まず、被加工物18に形成するテーパ穴20の形状を入力する(S201)。例えば、被加工物18のうちレーザ光が入射される側の面における位置を(x,y)座標で表す場合の、位置(x,y)における加工深さS(x,y)を入力する。
(ハ)次に、レーザ光の照射回数mを入力する(S202)。
(ニ)次に、加工深さS(x,y)とレーザ光の照射回数mとに基づき、アブレーションレートd(x,y)が算出される(S203)。
(ホ)その後、アブレーションレートd(x,y)と〔数1〕とに基づき、所望形状を有するテーパ穴20を形成するために被加工物18に照射されるレーザ光の強度分布I(x,y)が算出される(S204)。
(ヘ)次に、レーザ光の強度分布I(x,y)と〔数11〕とに基づき、変調マスク24における第2位相変調単位領域25bの面積率D(p)が算出される(S205)。面積率D(p)は、位相変調単位領域24eを単位として区分けされた領域ごとに算出される。
(ト)最後に、面積率D(p)に基づいて、変調マスク24のパターンが決定される。例えば、位相変調単位領域24eが一辺1μmの正方形からなり、ある位相変調単位領域24eにおける面積率D(p)が0.57と算出されている場合、当該位相変調単位領域24e内には一辺0.75μm(=(0.57)1/2×1.0μm)の正方形からなる凸部が第2位相変調単位領域25bとして形成される。
【0070】
なおレーザ光を照射することにより被加工物18に図7(a)(b)に示すテーパ穴20を形成する場合、パルス状のレーザ光を照射するたびにアブレーションにより被加工物18の一部が除去される。このため、レーザ光が多数回照射された後、被加工面18が結像光学系17の焦点面から離れるという現象が発生し(デフォーカス)、これによって、被加工物18に照射されるレーザ光の強度分布が変化する。また、アブレーションの際に生じる飛散物の影響によっても、被加工物18に照射されるレーザ光の強度が低下する。このため、レーザ光を照射することにより被加工物18にテーパ穴20を実際に形成した場合、形成されたテーパ穴20の傾斜角度φは、前述のS201において入力したテーパ穴20の形状に対応する傾斜角度φ(図16参照)よりも大きくなる傾向がある。すなわち、背景技術の説明において既に述べたように、テーパ穴20を形成する部分に照射するレーザ光の強度が一定の場合でも、図18に示す関係に基づいて一定の傾斜角度φが形成される。このため、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの設計は、テーパ穴20の所望の傾斜角度φに基づいて行われるのではなく、実施例1にて後述するように、図21に示す関係に基づいて形成される一定の傾斜角度φを考慮した傾斜角度φ(=φ−φ)に基づいて行われる。
【0071】
次に、変調マスク24の変調マスク遮蔽部24cの設計手順について説明する。図2(b)に示すように、変調マスク遮蔽部24cは、石英ガラス26と、石英ガラス26上に積層された光遮蔽層27とを含んでいる。この場合、変調マスク遮蔽部24cの光透過率は、光遮蔽層27の光透過率により決定される。すなわち、変調マスク遮蔽部24cの光透過率は、光遮蔽層27の光透過率とほぼ等しくなっている。
【0072】
上述のように、変調マスク遮蔽部24cの光遮蔽層27の光透過率は、変調マスク遮蔽部24cを透過して被加工物18の非加工部18cに照射される光の強度が被加工物18のアブレーション閾値を超えないよう適宜選択される。例えば、変調マスク遮蔽部24cに光遮蔽層27が設けられていない場合の像面における光の強度が1000mJ/cmであり、被加工物18のアブレーション閾値が50mJ/cmである場合、光透過率が0.05よりも小さくなるよう光遮蔽層27が選択される。このため、後述するように、変調マスク遮蔽部24cから、被加工物18の非加工部18cを加工し得る強度を有する光が出射されるのを防ぐことができ、このことにより、被加工物18の非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができる。
【0073】
(テーパ穴の形成方法)
次に、本実施の形態における加工装置10を用いて、被加工物18にテーパ穴20を形成する方法について説明する。
【0074】
まず、加工台19上に被加工物18を予め載置しておく。次に、マスク照明系11から、面内強度分布が均一化されたレーザ光を出射させる。その後、マスク照明系11から出射された光を前述の変調マスク24に入射させる。変調マスク24に入射されたレーザ光は、前述の手順により決定された変調マスク24のパターンに応じて変調または遮蔽される。
【0075】
変調マスク24から出射されたレーザ光は、結合光学系17に入射される。前述のとおり、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにおける位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した変調単位換算領域は、結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さくなるよう設計されている。このため、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bを通った後に結像光学系17から出射され被加工物18上に結像されるレーザ光の光強度分布は、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24eにおける第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bの面積率に対応する強度分布を有している。
【0076】
上述のように、変調マスク透過部24aにおける第1位相変調単位領域25aの占有率がCp、第2位相変調単位領域25bの占有率がCpとなっており、変調マスク傾斜部24bにおける第1位相変調単位領域25aの占有率がTp、第2位相変調単位領域25bの占有率がTpとなっている。ここで、本実施の形態によれば、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされるよう変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bが設計されている。さらに、変調マスク傾斜部24bにおけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部24bのうち変調マスク遮蔽部24cに隣接する領域から変調マスク透過部24aに隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布している。このため、被加工物18のうちテーパ穴20の貫通部20aが形成される最大加工部18aには高い強度を有する光を照射し、被加工物18のうちテーパ穴20のテーパ部20bが形成される傾斜部18bにはそれよりも低い強度を有するレーザ光を照射することができる。さらに、テーパ穴20のテーパ部20bに、テーパ穴20の基端部20dから先端部20cに向って強度が増加する光を照射することができる。これによって、光強度を低下させることなく、任意の傾斜角度φを有するテーパ穴20を形成することが可能となる。このことにより、光エネルギーを低下させる従来技術の場合と比べ、形成されるテーパ穴20の先端部20cにおける内径のばらつきを小さくするとともに、加工に要する時間を短くすることが可能となる。
【0077】
なお、被加工物18を加工してテーパ穴20を形成する際、被加工物18の加工が全てアブレーションにより行われることが好ましいが、しかしながら、被加工物18の加工が部分的にレーザ光照射により生じた熱により行われても構わない。
【0078】
また本実施の形態によれば、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。このため、マスク照明系11から変調マスク24に入射する光のうち変調マスク遮蔽部24cに入射する光は、その大半が変調マスク遮蔽部24cの光遮蔽層27により遮蔽される。これによって、マスク照明系11から変調マスク24に入射した光が、変調マスク遮蔽部24cを透過して被加工物18の非加工部18cに照射されるのを防ぐことができ、このことにより、被加工物18の非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができる。
【0079】
(第1の比較の形態)
次に、図8(a)(b)を参照して、本実施の形態の効果を、第1の比較の形態と比較して説明する。図8(a)は、第1の比較の形態において、被加工物18に照射される光のエネルギー密度と、これによって加工される被加工物18との関係を示す図である。一方、図8(b)は、本発明の第1の実施の形態において、被加工物18に照射される光のエネルギー密度と、これによって加工される被加工物18との関係を示す図である。
【0080】
上述のように、被加工物18は、基本樹脂18dと、当該基本樹脂18dに添加されたフィラー18eとを有している。一般に、フィラー18eのアブレーション閾値は基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きくなっている。
【0081】
図8(a)に示すように、第1の比較の形態において、被加工物18の非加工部18cに照射される光の照射エネルギーは、基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きく、かつフィラー18eのアブレーション閾値よりも小さくなっている。このため、図8(a)に示すように、非加工部18cにおいて、基本樹脂18dはアブレーション加工されるが、一方、フィラー18eはアブレーション加工されない。これによって、図8(a)に示すように、非加工部18cの表面において、フィラー18eが添加されている位置に対応して凹凸が形成される。
【0082】
図8(a)に示すような凹凸の表面を有する加工済みの被加工物18を、インクジェットヘッドのノズルとして使用する場合、凹凸部分がインク室と接触することになる。この場合、インク中に存在する異物が凹凸部分に付着しやすくなり、これによってインクの流れが妨げられるという問題が生じることが考えられる。さらに、インクの流れが凹凸部分の近傍において滞流しやすくなり、このため凹凸部分の近傍においてインクが固形化しやすくなることが考えられる。凹凸部分の近傍においてインクが固形化すると、これによってインクの流れが妨げられる。
このように、被加工物18の非加工部18cに照射される光の照射エネルギーが、基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きくなっている場合、被加工物18の非加工部18cの表面に凹凸が形成され、これによって、インクの流れが妨げられるという問題が生じることが考えられる。
【0083】
また、被加工物18の非加工部18cに照射される光の照射エネルギーが、基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きくなっている場合、以下の問題がさらに生じることも考えられる。1つは、非加工部18cの基本樹脂18dがアブレーション加工されることにより、被加工物18の厚さが想定よりも低くなってしまうという問題である。その他にも、アブレーション加工により発生するデブリ(破片)が増えるという問題が生じることが考えられる。さらに、加工前に被加工物18に保護材料や撥水材料を成膜している場合、これらの材料が非加工部18cに照射される光によりアブレーションされ、このため被加工物18表面の保護機能および撥水機能が失われてしまうという問題が生じることも考えられる。
【0084】
これに対して本実施の形態によれば、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。このため、マスク照明系11から変調マスク24に入射する光のうち変調マスク遮蔽部24cに入射する光は、その大半が変調マスク遮蔽部24cの光遮蔽層27により遮蔽される。これによって、図8(b)に示すように、フィラー18eおよび基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きな照射エネルギー密度を有する光が被加工物18の非加工部18cに照射されるのを防ぐことができる。
【0085】
このため本実施の形態によれば、図8(b)に示すように、非加工部18cの表面において、フィラー18eが添加されている位置に対応して凹凸が形成されるのを防ぐことができる。従って、加工済みの被加工物18をインクジェットヘッドのノズルとして使用する場合に、インク中に存在する異物が被加工物18の非加工部18cに付着するのを抑制することができる。このため、インクの流れをスムーズにすることができるとともに、被加工物18の非加工部18cにおいてインクが固形化するのを防ぐことができる。
【0086】
また本実施の形態によれば、フィラー18eおよび基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きな照射エネルギー密度を有する光が被加工物18の非加工部18cに照射されるのを防ぐことにより、以下の利点がさらにもたらされる。1つの利点は、非加工部18cの基本樹脂18dがアブレーション加工されるのを防ぐことにより、被加工物18の厚さを想定どおりに保つことができるという利点である。その他の利点は、アブレーション加工により発生するデブリを最小限にすることができるという利点である。さらなる利点は、加工前に被加工物18に保護材料や撥水材料を成膜している場合に、これらの材料が非加工部18cに照射される光によりアブレーションされるのを防ぐことができ、これによって、被加工物18表面の保護機能および撥水機能を保つことができるという利点である。
【0087】
(第2の比較の形態)
次に、図9および図10(a)(b)を参照して、本実施の形態の効果を、第2の比較の形態と比較して説明する。図9は、第2の比較の形態における変調マスクの出射側を示す平面図である。図10(a)は、図9に示す変調マスクのうち太枠で囲んだ領域を拡大して示す図であり、図10(b)は、図10(a)の各振幅変調単位領域を示す縦断面図である。
【0088】
図9および図10(a)(b)に示す第2の比較の形態においては、変調マスク透過部および変調マスク傾斜部がそれぞれ、複数の振幅変調単位領域からなっている。図9および図10(a)(b)に示す第2の比較の形態において、図1乃至図7および図8(b)に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0089】
図9に示すように、第2の比較の形態における変調マスク114は、テーパ穴20の貫通部20aに照射される光を振幅変調する変調マスク透過部114aと、変調マスク透過部114aの周縁に位置し、テーパ穴20のテーパ部20bに照射される光を振幅変調する変調マスク傾斜部114bと、変調マスク傾斜部114bの周縁に位置し、被加工物18の非加工部18cに対応する変調マスク遮蔽部114cとからなる。このうち変調マスク透過部114aおよび変調マスク傾斜部114bはそれぞれ、複数の振幅変調単位領域114eからなる。一方、変調マスク遮蔽部114cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。
【0090】
次に、振幅変調単位領域114eについて詳述する。変調マスク114のうち、例えば変調マスクテーパ傾斜部114bは、図10(a)(b)に示すように、振幅変調単位領域114e〜114eを有している。また図10(a)(b)に示すように、変調マスク傾斜部114bの各振幅変調単位領域114e〜114eはそれぞれ、第1の光透過率を有する第1振幅変調単位領域115a〜15aと、第1の光透過率よりも小さい第2の光透過率を有する第2振幅変調単位領域115b〜115bとからなる。ここで図10(a)から明らかなように、変調マスク傾斜部114bの各振幅変調単位領域114e〜114eにおいて、第1振幅変調単位領域115a〜115aの占有率(各振幅変調単位領域114e〜114eにおける第1振幅変調単位領域115a〜115aの面積率)はそれぞれ異なっている。例えば振幅変調単位領域114eにおける第1振幅変調単位領域115aの占有率は0.80であり、振幅変調単位領域114eにおける第1振幅変調単位領域15aの占有率は0.10である。
【0091】
第2の比較の形態においては、振幅変調単位領域114e〜114eを結像光学系17の結像面17fに換算した振幅変調単位換算領域が結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さくなるよう、変調マスク114が設計されている。このため、前述の数1〜数6に示す第1の実施の形態における加工の原理から明らかなように、変調マスク傾斜部114bを通った後に結像光学系17から出射され被加工物18上に結像されるレーザ光の光強度分布は、変調マスク傾斜部114bの各振幅変調単位領域114eにおける第1振幅変調単位領域115aおよび第1振幅変調単位領域115bの面積率に対応する強度分布を有している。同様に、変調マスク透過部114aを通った後に結像光学系17から出射され被加工物18上に結像されるレーザ光の光強度分布は、変調マスク透過部114aの各振幅変調単位領域114eにおける第1振幅変調単位領域115aおよび第1振幅変調単位領域115bの面積率に対応する強度分布を有している。
【0092】
なお図10(b)に示すように、第1の光透過率よりも小さい第2の光透過率を有する第2振幅変調単位領域115b〜115bは、それぞれ光遮蔽層27を含んでいる。すなわち、各第2振幅変調単位領域115b〜115bにおいては、光遮蔽層27が光を吸収および反射することにより、第1の光透過率よりも小さい第2の光透過率が実現されている。
【0093】
第2の比較の形態において、変調マスク透過部114aにおける第1振幅変調単位領域115aの占有率をCa、変調マスク傾斜部114bにおける第1振幅変調単位領域115aの占有率をTaとするとき、Ca>Taの関係が満たされるよう変調マスク114が設計されている。さらに、変調マスク傾斜部114bにおけるTaの分布は、変調マスク傾斜部114bのうち変調マスク透過部114aに隣接する領域から変調マスク遮蔽114cに隣接する領域に向かってTaが減少するよう分布している。このため、被加工物18のうちテーパ穴20の貫通部20aが形成される最大加工部18aには高い強度を有する光を照射し、被加工物18のうちテーパ穴20のテーパ部20bが形成される傾斜部18bにはそれよりも低い強度を有するレーザ光を照射することができる。さらに、テーパ穴20のテーパ部20bに、テーパ穴20の基端部20dから先端部20cに向って強度が増加する光を照射することができる。
【0094】
しかしながら、図9および図10(a)(b)に示す第2の比較の形態においては、以下のような問題が生じることが考えられる。変調マスク114を用いたレーザ加工においては、変調マスク114に高い強度を有する光、例えば1000mJ/cmの強度を有する光が照射される。また図10(b)に示すように、変調マスク114の変調マスク透過部114aおよび変調マスク傾斜部114bにおいて、光遮蔽層27の側端部27aが照射光に対して露出されている。また上述のように、光遮蔽層27は、照射される光を吸収および反射するものである。このため、光遮蔽層27においては、光の吸収に起因して熱が発生することが考えられる。この場合、レーザの照射を繰り返すごとに、光遮蔽層27の側端部27aが熱により劣化して次第に除去されることが考えられる。
【0095】
レーザの照射を繰り返すごとに光遮蔽層27の側端部27aが次第に除去されることは、レーザの照射を繰り返すごとに第1振幅変調単位領域115aおよび第2振幅変調単位領域115bの占有率が変化することを意味する。このため、変調マスク傾斜部114bから出射される光の強度の分布が次第に変化することが考えられる。このことにより、変調マスク114を備えた加工装置によって被加工物18にテーパ穴20を形成する場合、テーパ穴20のテーパ部20bの傾斜角度が次第に変化することが考えられる。
【0096】
これに対して本実施の形態によれば、変調マスク24において、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bはそれぞれ、複数の位相変調単位領域24eからなる。各位相変調単位領域24eは、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域25aと、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域25bとからなっており、第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bはそれぞれ、石英ガラス26における光学距離に差をつけることにより構成されている。このため、レーザの照射を繰り返した場合であっても、第1位相変調単位領域25aまたは第2位相変調単位領域25bのどちらか一方が熱により劣化して除去されることはなく、従って、第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bの占有率が経時的に変化することはない。このことにより、変調マスク24を備えた加工装置10によって被加工物18にテーパ穴20を形成する際、常に一定の傾斜角度を有するテーパ穴20を形成することができる。また本実施の形態によれば、変調マスク遮蔽部24cは、ベタパターンからなる光遮蔽層27を含んでいる。すなわち、変調マスク遮蔽部24cの内側において、照射光に対して露出している光遮蔽層27の端部は存在しない。このため、変調マスク遮蔽部24cの内側において、光遮蔽層27が熱により劣化して除去されることはなく、このことにより、アブレーション閾値よりも大きな照射エネルギー密度を有する光が被加工物18の非加工部18cに照射されるのを常に確実に防ぐことができる。
【0097】
なお本実施の形態において、レーザ光のエネルギー密度IはIupperを超えないよう設定される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、レーザ光のエネルギー密度Iを、Iupperを超える値に設定してもよい。この場合、レーザ光のエネルギー密度Iは、被加工物18の一部が除去された際に発生する飛散物に起因するレーザ光の吸収・散乱を考慮して設定される。
【0098】
また本実施の形態において、レーザ光源12は、308nmの波長を有する光を供給するXeClエキシマレーザ光源12からなる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、レーザ光源12として308nm以外の波長を有する光を供給するレーザ光源12を用いても良い。この場合、レーザ光源12の波長は、被加工物18の材料、結像光学系17の変調マスク24側の面と結像面との倍率、および結像光学系17の開口率NAなどを考慮して決定される。
【0099】
また本実施の形態において、被加工物18の基本樹脂18dにフィラー18eが添加されている例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、被加工物18がフィラー18eを有していなくてもよい。
【0100】
また本実施の形態において、加工装置10により被加工物18に貫通部20aとテーパ部20bとを有するテーパ穴20が形成される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、加工装置10により被加工物18に非貫通のテーパ穴20、すなわち底部分とテーパ部20bとを有するテーパ穴20を形成してもよい。または、図11に示すように、先端部20cからレーザ光の照射方向に平行に延びる円柱状のストレート部20eと、基端部20dからストレート部20eに向って先細になるとともにストレート部eとなめらかにつなげられたテーパ部20bとを有するテーパ穴20を形成してもよい。
【0101】
また本実施の形態において、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの位相変調単位領域24eが5μm×5μmの正方形からなるよう、変調マスク24が設計される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域が、結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さくなる限りは、変調マスク24を任意に設計することが可能である。
【0102】
また本実施の形態において、第1位相変調単位領域25aの第1の位相変調量と、第2位相変調単位領域25bの第2の位相変調量とが180度の奇数倍だけ異なるよう変調マスク24が設計される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、〔数11〕に示すように、位相変調量の差を任意に設定することが可能である。
【0103】
また本実施の形態において、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24eが2種類の位相変調領域(第1位相変調単位領域25a、第2位相変調単位領域25b)からなる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、各位相変調単位領域24eを3種類またはそれ以上の位相変調領域から形成してもよい。
【0104】
また本実施の形態において、変調マスク24の変調マスク透過部24aが、複数の位相変調単位領域24eからなり、変調マスク透過部24aにより位相変調され出射された光が、結像光学系17の結像面17fに、位相変調単位領域24eに基づく光強度分布を生成する例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、変調マスク透過部24aに入射された光が位相変調されることなく変調マスク透過部24aから出射されるよう、変調マスク透過部24aを形成してもよい。例えば、変調マスク透過部24a全域にわたって、変調マスク透過部24aを構成する石英ガラス26の高さを単一の高さにしてもよい。この場合、変調マスク透過部24aに入射された光は、入射時とほぼ等しい強度で、変調マスク透過部24aから出射される。このため、被加工物18の最大加工部18aに、より高い強度を有する光を照射することができ、これによって、形成されるテーパ穴20の先端部20cにおける内径のばらつきを小さくするとともに、加工に要する時間を短くすることができる。また、変調マスク透過部24aを構成する石英ガラス26の高さが単一の高さとなっているため、変調マスク24の変調マスク透過部24aをより容易に製造することができる。
【0105】
また本実施の形態において、円形状を有するテーパ穴20が被加工物18に形成される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、楕円形状、矩形形状、その他様々な形状を有するテーパ穴20を被加工物18に形成してもよい。
【0106】
第2の実施の形態
次に、図12および図13を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図12および図13に示す第2の実施の形態においては、光源から出射された光を、非加工部を含む被加工物に照射することにより、被加工物に、少なくとも1つの傾斜部と、当該傾斜部の底側に位置する最大加工部とが形成される。また変調マスクは、被加工物の傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の一側に隣接し、被加工物の非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、各変調マスク傾斜部の他側に隣接し、被加工物の最大加工部に対応する変調マスク透過部と、を有している。図12および図13に示す第2の実施の形態において、図1乃至図7および図8(b)に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0107】
(被加工物)
はじめに図13(a)(b)を参照して、被加工物18に形成される傾斜部18bについて説明する。図13(a)は、本実施の形態における被加工物18を示す平面図であり、図13(b)は、図13(a)の被加工物18をXIIIb−XIIIb方向から見た縦断面図である。
【0108】
図13(a)(b)に示すように、被加工物18に形成される傾斜部18bは、被加工物18の最上面である非加工部18cから下方に向って傾斜した部分となっている。また図13(a)(b)に示すように、傾斜部18bの底側(下側)には最大加工部18aが形成されている。なお、最大加工部18aとは、被加工物18のうち加工装置10によって最も深く加工される部分であり、非加工部18cとは、被加工物18のうち加工装置10によって加工されるのが好ましくない部分である。
【0109】
(変調マスク)
次に、図12(a)(b)を参照して、本実施の形態における変調マスク31について説明する。図12(a)は、変調マスク31の出射側から見た場合の変調マスク31を示す平面図であり、図12(b)は、図12(a)の変調マスク31をXIIb−XIIb方向から見た縦断面図である。
【0110】
図12(a)に示すように、変調マスク31は、被加工物18の傾斜部18bに照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部24bと、変調マスク傾斜部24bの一側24fに隣接し、被加工物18の非加工部18cに対応する変調マスク遮蔽部24cと、変調マスク傾斜部24bの他側24gに隣接し、被加工物18の最大加工部18aに照射される光を位相変調する変調マスク透過部24aと、を有している。また図1乃至図7および図8(b)に示す第1の実施の形態の場合と同様に、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bはそれぞれ、複数の位相変調単位領域24eからなる(図12(a)(b)参照)。一方、図12(b)に示すように、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。なお、変調マスク31には、被加工物18に形成される傾斜部18bの数に対応する数の変調マスク傾斜部24bが設けられるが、本実施の形態においては、変調マスク31に変調マスク傾斜部24bが1つ設けられている場合について説明する。
【0111】
図1乃至図7および図8(b)に示す第1の実施の形態の場合と同様に、変調マスク31の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにより位相変調され出射された光は、結像光学系17の結像面(被加工物18)に、各位相変調単位領域24eに基づく光強度分布を生成する。また各位相変調単位領域24eはそれぞれ、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域25aと、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域25bとからなる。本実施の形態における位相変調単位領域24eは、図1乃至図7および図8(b)に示す第1の実施の形態における位相変調単位領域24eと同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0112】
次に、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bにおける第1位相変調単位領域25aの占有率、および第2位相変調単位領域25bの占有率について説明する。本実施の形態において、変調マスク透過部24aにおける第1位相変調単位領域25aの占有率をCp、第2位相変調単位領域25bの占有率をCpとする。同様に、変調マスク傾斜部24bにおける第1位相変調単位領域25aの占有率をTp、第2位相変調単位領域25bの占有率をTpとする。このとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係が満たされるよう変調マスク31が設計されている。さらに、変調マスク傾斜部24bにおけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部24bのうち変調マスク遮蔽部24cに隣接する領域から変調マスク透過部24aに隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布している。
【0113】
次に、変調マスク遮蔽部24cについて詳述する。上述のように、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。このため、マスク照明系11から変調マスク31に入射する光のうち変調マスク遮蔽部24cに入射する光は、その大半が変調マスク遮蔽部24cの光遮蔽層27により遮蔽される。これによって、マスク照明系11から変調マスク31に入射した光が、変調マスク遮蔽部24cを透過して被加工物18の非加工部18cに照射されるのを防ぐことができ、このことにより、被加工物18の非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができる。
【0114】
このように本実施の形態によれば、変調マスク31は、被加工物18の傾斜部18bに照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部24bと、変調マスク傾斜部24bの一側24fに隣接し、被加工物18の非加工部18cに対応する変調マスク遮蔽部24cと、変調マスク傾斜部24bの他側24gに隣接し、被加工物18の最大加工部18aに照射される光を位相変調する変調マスク透過部24aと、を有している。このうち変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。このため、被加工物18の非加工部18cに、被加工物18を加工し得る強度を有する光が照射されるのを防ぐことができ、このことにより、非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができる。
【0115】
また本実施の形態によれば、変調マスク傾斜部24bは、複数の位相変調単位領域24eからなっており、変調マスク傾斜部24bにより位相変調され出射された光は、結像光学系17の結像面17fに、位相変調単位領域24eに基づく光強度分布を生成する。また、位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域は、結像光学系17の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さくなっており、また、位相変調単位領域24eは、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域25aと、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域25bと、からなっている。このため、変調マスク傾斜部24bにおけるTpおよびTpの分布を、変調マスク傾斜部24bのうち変調マスク遮蔽部24cに隣接する領域から変調マスク透過部24aに隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布させることにより、被加工物18の傾斜部18bに照射される光の強度を、被加工物18の非加工部18cから最大加工部18aに向って連続的に大きくなるように調整することができる。このことにより、短い加工時間で精度良く被加工物18に、所望の傾斜角度を有する傾斜部18bを形成することができる。
【0116】
変形例
次に、図14および図15を参照して、本発明の第2の実施の形態の変形例について説明する。図14および図15に示す本変形例においては、非加工部を含む被加工物に最大加工部が形成されない点が異なるのみであり、他の構成は、図12および図13に示す第2の実施の形態と略同一である。図14および図15に示す第2の実施の形態の変形例において、図12および図13に示す第2の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0117】
(被加工物)
図15(a)(b)を参照して、本変形例における被加工物18について説明する。図15(a)は、本変形例における被加工物18を示す平面図であり、図15(b)は、図15(a)の被加工物をXVb−XVb方向から見た縦断面図である。
【0118】
図15(a)(b)に示すように、本変形例においては、加工装置10による加工によって、非加工部18cを含む被加工物18に傾斜部18bが形成される。
【0119】
(変調マスク)
次に、図14(a)(b)を参照して、本実施の形態における変調マスク33について説明する。図14(a)は、変調マスク33の出射側から見た場合の変調マスク33を示す平面図であり、図14(b)は、図14(a)の変調マスク33をXIVb−XIVb方向から見た縦断面図である。
【0120】
図14(a)に示すように、変調マスク33は、被加工物18の傾斜部18bに照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部24bと、変調マスク傾斜部24bに隣接し、被加工物18の非加工部18cに対応する変調マスク遮蔽部24cと、を有している。また図12および図13に示す第2の実施の形態の場合と同様に、変調マスク傾斜部24bは複数の位相変調単位領域24eからなっている(図14(a)(b)参照)。一方、図14(b)に示すように、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。本変形例における位相変調単位領域24eは、図1乃至図7および図8(b)に示す第1の実施の形態における位相変調単位領域24eと同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0121】
本変形例において、変調マスク傾斜部24bにおける第1位相変調単位領域25aの占有率をTp、第2位相変調単位領域25bの占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部24bにおけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部24bのうち変調マスク遮蔽部24cに隣接する領域から遠ざかるにつれて{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布している。このため、被加工物18の傾斜部18bに照射される光の強度を、被加工物18の非加工部18cから遠ざかるにつれて連続的に大きくなるように調整することができる。このことにより、短い加工時間で精度良く被加工物18に、所望の傾斜角度を有する傾斜部18bを形成することができる。
【0122】
また本変形例によれば、変調マスク遮蔽部24cは、光を遮蔽する光遮蔽層27を含んでいる。このため、被加工物18の非加工部18cに、被加工物18を加工し得る強度を有する光が照射されるのを防ぐことができ、このことにより、非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができる。
【実施例】
【0123】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。はじめに、本発明の第1の実施の形態における変調マスク24を備えた加工装置10を用いて、被加工物18にテーパ穴20を形成した例(実施例1)について、図16乃至図18を参照して説明する。
【0124】
図16(a)は、実施例1において、被加工物18に形成されたテーパ穴20の形状を示す縦断面図であり、図16(b)は、図16(a)に示すテーパ穴20を形成するために被加工物18に照射されたレーザ光の強度分布Iを示す図であり、図16(c)は、実施例1において、被加工物18に形成されたテーパ穴20を示す平面図である。図17(a)は、実施例1における変調マスク24を示す平面図であり、図17(b)は、図17(a)に示す変調マスク24から出射された光の強度を示す図である。図18(a)は、位相変調単位領域の第2位相変調単位領域の形状を示す図であり、図18(b)は、第2位相変調単位領域の寸法誤差と、当該第2位相変調単位領域を含む位相変調単位領域により変調された光の強度との関係を示す図である。
【0125】
本発明における変調マスク24を用いて、被加工物18に、基端部20dの直径が50μm、テーパ部20bの傾斜角度φが12度であるテーパ穴20を作製した(図16(a))。被加工物18としては、厚さが50μm、吸収係数αが1.43μm−1、アブレーション閾値Ithが50mJ/cmであるポリミドフィルムからなる基本樹脂18dと、アブレーション閾値Ithが200mJ/cmであるフィラー18eとを有する被加工物18を用いた。
【0126】
実施例1において用いた加工装置10の光学特性の詳細は以下のとおりである。
(1) 光源 レーザ光源:XeClエキシマレーザ、波長:308nm、光強度:結像面上で1000mJ/cm(変調マスク面上で40mJ/cm
(2) 位相変調量 第1位相変調単位領域の位相変調量と第2位相変調単位領域の変調量の差:180度
(3) 結像光学系 結像光学系倍率:1/5、結像側開口数(NA):0.15
(4) コヒーレントファクタ 0.5
この場合、結像光学系17の点像分布範囲の半径R=1.25μmとなる。従って、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの位相変調単位領域24eを結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域が、結像光学系17の点像分布範囲の半径Rよりも少なくとも一方向に関して小さくなるよう、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの位相変調単位領域24eを一辺5μmの正方形(結像光学系17の結像面17fに換算した位相変調単位換算領域は一辺1μmの正方形)に設定した。
【0127】
まず、図6に示すフローチャートに基づき、実施例1において用いられる変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの設計を行った。はじめに、被加工物18に形成するテーパ穴20の形状を入力した(S201)。なお、アブレーションの際に生じる飛散物の影響などにより生じる傾斜角度φとして6度が見積もられるため、S201において入力する傾斜角度φ(=φ−φ)は6度とした。次に、レーザ光の照射回数mを入力した(S202)。本実施例1において、レーザ光の照射回数mは150回とした。これによって、アブレーションレートdが算出される(S203)。このアブレーションレートdと〔数1〕とに基づき、所望形状を有するテーパ穴20を形成するために被加工物18に照射されるレーザ光の強度分布Iを算出した。
【0128】
次に、算出したレーザ光の強度分布Iと〔数11〕とに基づき、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24eにおける第2位相変調単位領域25bの面積率D(p)を算出した(S205)。面積率D(p)は、位相変調単位領域24eを単位として区分けされた領域ごとに算出された。その後、算出された面積率D(p)に基づいて、変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bのパターンを決定した(S206)。次に、決定されたパターンを有する変調マスク24を作製した。得られた変調マスク24のうち、その右上部分を図17(a)に示す。なお本実施例1において、変調マスク遮蔽部24cにおける光透過率が0となるよう、変調マスク遮蔽部24cに設けられる光遮蔽層27(光透過率0の光遮蔽層)を選択した。
【0129】
ここで、変調マスク24から出射される光の強度と、変調マスク24の作製誤差との関係について説明する。図18(a)に、占有率が0.5の第1位相変調単位領域25aと、占有率が0.5の第2位相変調単位領域25bとを有する位相変調単位領域24eの平面図および断面図を示す。ここで、sが、第2位相変調単位領域25bの一辺の寸法となっており、sが、第1位相変調単位領域25aと第2位相変調単位領域25bとの高さの差となっている。
【0130】
図18(b)は、変調マスク24の作製誤差により、図18(a)に示す寸法s、sが設計値からずれた場合に、図18(a)に示す位相変調単位領域24eにより変調された光の結像面上における規格化された強度が、設計値である0からどれだけずれるかを示すグラフである。なお規格化においては、第1位相変調単位領域の占有率=1(若しくは、第2位相変調単位領域の占有率=1)である変調マスクにより変調された光の結像面上における強度を1としている。
図18(b)に示すグラフにおいて、横軸は、180度を基準とした場合の、第1位相変調単位領域25aの位相変調量と第2位相変調単位領域25bの位相変調量との差の作製誤差を示している。例えば、位相変調量θの差の5%の誤差は、位相変調量θの差が、設計値である180度から9度ずれていることを意味している。なお、上述の第1の実施の形態における説明から明らかなように、位相変調量の差の作製誤差は、寸法sの作製誤差に対応している。
図18(b)に示すグラフにおいて、縦軸は、第2位相変調単位領域25bの寸法sの作製誤差(設計値からのずれ)を示している。
図18(b)に示すグラフにおいて、点線35aは、作製誤差が点線35a上の値となっている場合に、位相変調単位領域24eにより変調された光の規格化された強度が0.025となることを意味している。例えば点線35a上の点Aは、位相変調量の差の作製誤差が10%、寸法sの作製誤差が0%である場合に、結像面上の規格化された強度が0.025になることを意味している。同様に、一点鎖線35bは、作製誤差が一点鎖線31b上の値となっている場合に、位相変調単位領域24eにより変調された光の規格化された強度が設計値から0.05になることを意味している。また、二点鎖線35cは、作製誤差が二点鎖線35c上の値となっている場合に、位相変調単位領域24eにより変調された光の規格化された強度が0.075になることを意味している。
【0131】
次に、本実施例において作成した変調マスク24から出射される光の強度について説明する。図17(b)は、図17(a)に示す本実施例の変調マスク24から出射される光の強度を示すグラフである。このうち線32aは、本実施例の変調マスク24から出射される光の強度の設計値を示す線であり、線32bは、本実施例の変調マスク24から実際に出射された光の強度を示す線である。
【0132】
本実施例において、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bの各位相変調単位領域24eは、例えばレジスト(図示せず)にレーザや電子線などの露光でパターニングした後、RIE(ReactIve Ion EtchIng)などのドライエッチングにより作製される。この加工深さはエッチング時間で制御することとなる。ところが、エッチングレート(一定時間でエッチングされる量)に多少のばらつきは避けられず、その結果、各位相変調単位領域24eの第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bの位相変調量θに作製誤差が生じる。
また、第2位相変調単位領域25bの一辺寸法は、露光条件、現像条件、エッチング条件で制御される。ところがこれらの条件に多少のばらつきは避けられず、その結果、第2位相変調単位領域25bの一辺寸法に作製誤差が生じる。また、たとえ基本的な寸法に作製誤差が生じなくとも、正方形等のパターンの角はこれらの工程の解像度の限界により丸まってしまう。これらの理由により、第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bの占有率が設計値からずれる。
このため、図17(b)に示すように、本実施例において、変調マスク24の変調マスク透過部24aおよび変調マスク傾斜部24bから実際に出射された光の強度を示す線32bは、設計値32aからずれている。
【0133】
一方、本実施例において、変調マスク遮蔽部24cは、光遮蔽層27を含んでいる。また図17(a)に示すように、光遮蔽層27はベタパターンを有しており、このため、変調マスク遮蔽部24cにおける光透過率は、作製誤差の影響を殆ど受けない。このため、変調マスク遮蔽部24cにおける光透過率を、変調マスク遮蔽部24c全域にわたって確実にゼロとすることができる。このことにより、図17(b)に示すように、変調マスク遮蔽部24cから実際に出射される光の強度をゼロとすることができた。これによって、被加工物18の非加工部18cが加工されるのを確実に防ぐことができた。
【0134】
(比較例1)
次に、図19(a)に示す変調マスク124を備えた加工装置10を用いて、被加工物18にテーパ穴20を形成した例について、図19(a)(b)を参照して説明する。ここで図19(a)は、比較例1における変調マスク124を示す平面図であり、図19(b)は、図19(a)に示す変調マスク124から出射された光の強度を示す図である。
【0135】
図19(a)に示す変調マスク124は、変調マスク124の変調マスク遮蔽部124cが、複数の位相変調単位領域24eからなる点が異なるのみであり、他の構成は、実施例1における変調マスク24と略同一である。図19(a)に示す変調マスク124において、実施例1における変調マスク24と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0136】
図19(a)に示すように、変調マスク124の変調マスク遮蔽部124cは、複数の位相変調単位領域24eからなっている。また変調マスク遮蔽部124cの各位相変調単位領域24eはそれぞれ、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域25aと、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域25bとからなっている。第1位相変調単位領域25aの位相変調量と第2位相変調単位領域25bの位相変調量の差は180度となっている。また、変調マスク遮蔽部124cにおいて、各位相変調単位領域24eにおける第1位相変調単位領域25aの占有率は0.5となっており、第2位相変調単位領域25bの占有率も0.5となっている。
【0137】
次に、本比較例において作成した変調マスク124から出射される光の強度について説明する。図19(b)は、図19(a)に示す本比較例の変調マスク124から出射される光の強度を示すグラフである。このうち線132aは、本比較例の変調マスク124から出射される光の強度の設計値を示す線であり、線132bは、本比較例の変調マスク124から実際に出射された光の強度を示す線である。
【0138】
上述のように、変調マスク遮蔽部124cにおいて、各位相変調単位領域24eにおける第1位相変調単位領域25aの占有率は0.5となっており、第2位相変調単位領域25bの占有率も0.5となっている。このため、図19(b)に示すように、変調マスク124の変調マスク遮蔽部124cから出射される光の強度の設計値はゼロとなっている(線132a参照)。
【0139】
しかしながら、実施例1の場合と同様に、変調マスク124の変調マスク遮蔽部124cの各位相変調単位領域24eは、例えばレジスト(図示せず)にレーザや電子線などの露光でパターニングした後、RIE(ReactIve Ion EtchIng)などのドライエッチングにより作製される。この加工深さはエッチング時間で制御することとなる。ところが、エッチングレート(一定時間でエッチングされる量)に多少のばらつきは避けられず、その結果、各位相変調単位領域24eの第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bの位相変調量θに作製誤差が生じる。
また、第2位相変調単位領域25bの一辺寸法は、露光条件、現像条件、エッチング条件で制御される。ところがこれらの条件に多少のばらつきは避けられず、その結果、第2位相変調単位領域25bの一辺寸法に作製誤差が生じる。また、たとえ基本的な寸法に作製誤差が生じなくとも、正方形等のパターンの角はこれらの工程の解像度の限界により丸まってしまう。これらの理由により、第1位相変調単位領域25aおよび第2位相変調単位領域25bの占有率が設計値からずれる。
【0140】
このため、変調マスク遮蔽部124cにおいて、各位相変調単位領域24eにおける第1位相変調単位領域25aの占有率は0.5から一方にずれており、第2位相変調単位領域25bの占有率も0.5から他方にずれていた。このため、図19(b)に示すように、変調マスク124の変調マスク遮蔽部124cから実際に出射された光の強度はゼロにはなっておらず、基本樹脂18dのアブレーション閾値よりも大きく、かつフィラー18eのアブレーション閾値よりも小さい強度となっていた。従って、変調マスク124を備えた加工装置10を用いて被加工物18にテーパ穴20を形成する場合、非加工部18cにおいて、基本樹脂18dはアブレーション加工されるが、一方、フィラー18eはアブレーション加工されない。このため、非加工部18cの表面において、フィラー18eが添加されている位置に対応して凹凸が形成された。
【符号の説明】
【0141】
10 加工装置
11 マスク照明系
12 レーザ光源
13 照明光学系
17 結像光学系
17a 凸レンズ
17b 凸レンズ
17c 開口絞り
17e 円筒形
17f 結像面
17g 単位円
17h ベクトル
17k 開口部
17l 点像分布範囲
18 被加工物
18a 最大加工部
18b 傾斜部
18c 非加工部
18d 基本樹脂
18e フィラー
19 加工台
20 テーパ穴
20a テーパ穴の貫通部
20b テーパ穴のテーパ部
20c テーパ穴の先端部
20d テーパ穴の基端部
20e テーパ穴のストレート部
24 変調マスク
24a 変調マスク透過部
24b 変調マスク傾斜部
24c 変調マスク遮蔽部
24e 位相変調単位領域
24f 変調マスク傾斜部の一側
24g 変調マスク傾斜部の他側
25a 第1位相変調単位領域
25b 第2位相変調単位領域
26 石英ガラス
27 光遮蔽層
27a 側端部
31 変調マスク
32a 光の強度を示す線(設計値)
32b 光の強度を示す線(実測値)
33 変調マスク
100 従来の加工装置
101 光源
102 レーザ光源
103 照明光学系
104 マスク
105 石英ガラス層
106 光遮蔽層
106a 開口部
107 結像光学系
108 ノズル形成用シート
109 ステージ
110 ノズル
110b ノズルのテーパ部
110c ノズルの先端部
114 変調マスク
114a 変調マスク透過部
114b 変調マスク傾斜部
114c 変調マスク遮蔽部
114e 振幅変調単位領域
115a 第1振幅変調単位領域
115b 第2振幅変調単位領域
124 変調マスク
124c 変調マスク遮蔽部
132a 光の強度を示す線(設計値)
132b 光の強度を示す線(実測値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射された光を、非加工部を含む被加工物に照射することにより、被加工物に少なくとも1つの傾斜部を形成する加工装置において、
光を出射する光源と、
前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を変調して出射する変調マスクと、
前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物に傾斜部を形成する結像光学系と、を備え、
前記変調マスクは、前記被加工物の傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部に隣接し、前記被加工物の非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、を有し、
前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、
前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、
前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、
前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、
前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、
前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から遠ざかるにつれて{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記被加工物には、加工装置による加工によって、少なくとも1つの傾斜部と、前記傾斜部の底側に位置する最大加工部とが形成され、
前記変調マスクは、前記傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の一側に隣接し、前記非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、各変調マスク傾斜部の他側に隣接し、前記最大加工部に対応する変調マスク透過部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであり、
前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
光源から出射された光を被加工物に照射することにより、被加工物に貫通部若しくは底部分と、テーパ部とを有する少なくとも1つの先細状テーパ穴を形成する加工装置において、
光を出射する光源と、
前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を変調して出射する変調マスクと、
前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物にテーパ穴を形成する結像光学系と、を備え、
前記変調マスクは、前記テーパ穴の貫通部若しくは底部分に照射される光に対応する変調マスク透過部と、各変調マスク透過部の周縁に位置し、テーパ穴のテーパ部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の周縁に位置する変調マスク遮蔽部と、を有し、
前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、
前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、
前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、
前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、
前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、
前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から前記変調マスク透過部に隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする加工装置。
【請求項5】
前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであり、
前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係を満たすことを特徴とする請求項4に記載の加工装置。
【請求項6】
前記被加工物は、基本樹脂と、前記基本樹脂に添加されたフィラーとを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の加工装置。
【請求項7】
前記第1位相変調単位領域の第1の位相変調量と、前記第2位相変調単位領域の第2の位相変調量とが180度の奇数倍だけ異なることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の加工装置。
【請求項8】
光源から出射された光を、非加工部を含む被加工物に照射することにより、被加工物に少なくとも1つの傾斜部を形成する加工装置に組み込まれた変調マスクにおいて、
加工装置は、
光を出射する光源と、
前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を位相変調して出射する変調マスクと、
前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物に傾斜部を形成する結像光学系と、を備え、
前記変調マスクは、前記被加工物の傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部に隣接し、前記被加工物の非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、を有し、
前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、
前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、
前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、
前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、
前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、
前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から遠ざかるにつれて{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする変調マスク。
【請求項9】
前記被加工物には、前記加工装置による加工によって、少なくとも1つの傾斜部と、前記傾斜部の底側に位置する最大加工部とが形成され、
加工装置に組み込まれた前記変調マスクは、前記傾斜部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の一側に隣接し、前記非加工部に対応する変調マスク遮蔽部と、各変調マスク傾斜部の他側に隣接し、前記最大加工部に対応する変調マスク透過部と、を有することを特徴とする請求項8に記載の変調マスク。
【請求項10】
前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであり、
前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係を満たすことを特徴とする請求項9に記載の変調マスク。
【請求項11】
光源から出射された光を被加工物に照射することにより、被加工物に貫通部若しくは底部分と、テーパ部とを有する少なくとも1つの先細状テーパ穴を形成する加工装置に組み込まれた変調マスクにおいて、
加工装置は、
光を出射する光源と、
前記光源の出射側に設けられ、光源からの光を位相変調して出射する変調マスクと、
前記変調マスクの出射側に設けられ、変調マスクにより変調された光を結像して被加工物に照射し、被加工物に傾斜部を形成する結像光学系と、を備え、
前記変調マスクは、前記テーパ穴の貫通部若しくは底部分に照射される光に対応する変調マスク透過部と、各変調マスク透過部の周縁に位置し、テーパ穴のテーパ部に照射される光を位相変調する変調マスク傾斜部と、各変調マスク傾斜部の周縁に位置する変調マスク遮蔽部と、を有し、
前記変調マスク傾斜部は、複数の位相変調単位領域からなり、変調マスク傾斜部により位相変調され出射された光は、前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成し、
前記変調マスク遮蔽部は、光を遮蔽する光遮蔽層を含み、
前記位相変調単位領域を前記結像光学系の結像面に換算した位相変調単位換算領域は、前記結像光学系の点像分布範囲の半径よりも少なくとも一方向に関して小さく、
前記結像光学系の点像分布範囲の半径Rは、光の中心波長をλとし、結像光学系の出射側の開口数をNAとするとき、R=0.61λ/NAで定義され、
前記位相変調単位領域は、第1の位相変調量を有する第1位相変調単位領域と、第2の位相変調量を有する第2位相変調単位領域と、からなり、
前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、変調マスク傾斜部におけるTpおよびTpの分布は、変調マスク傾斜部のうち前記変調マスク遮蔽部に隣接する領域から前記変調マスク透過部に隣接する領域に向かって{(Tp−Tp)の絶対値}が増加するよう分布していることを特徴とする変調マスク。
【請求項12】
前記変調マスク透過部は、複数の位相変調単位領域からなるとともに、変調マスク透過部により位相変調され出射された光が前記結像光学系の結像面に前記位相変調単位領域に基づく光強度分布を生成するものであり、
前記変調マスク透過部における第1位相変調単位領域の占有率をCp、第2位相変調単位領域の占有率をCpとし、前記変調マスク傾斜部における第1位相変調単位領域の占有率をTp、第2位相変調単位領域の占有率をTpとするとき、{(Cp−Cp)の絶対値}>{(Tp−Tp)の絶対値}の関係を満たすことを特徴とする請求項11に記載の変調マスク。
【請求項13】
前記被加工物は、基本樹脂と、前記基本樹脂に添加されたフィラーとを有することを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載の変調マスク。
【請求項14】
前記第1位相変調単位領域の第1の位相変調量と、前記第2位相変調単位領域の第2の位相変調量とが180度の奇数倍だけ異なることを特徴とする請求項8乃至13のいずれかに記載の変調マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−125900(P2011−125900A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286371(P2009−286371)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】