説明

加工装置

【課題】加工装置による加工精度を向上する。
【解決手段】被加工物としてのワークを凍結固定して加工を行う加工装置10において、所定の方向に移動可能なベッド1a,1bと、ベッド1bに固定され、ワークを載置するベース2と、ベース2を冷却する温度制御手段20と、ベッド1a,1bに対する位置を変動可能に制御され、ワーク2を加工する工具5と、を備え、温度制御手段20は、ベース2を冷却することにより、ワークを該ワークの材質、および/または該ワークの加工条件に応じた所定の温度に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置に関する。さらに詳述すると、工作機械、特に、フライス盤、研削盤などのベッド上に被加工物を積載、固定する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フライス盤、旋盤、研削盤などの加工装置を用いて、被加工物(以下、ワーク)に対して種々の加工を施す場合、ワークを加工装置のテーブル(以下、ベッドともいう)上にしっかりと固定することが重要である。
【0003】
このようなチャック装置としては、従来、マグネットチャック、真空チャック、バイスなどが用いられていたが、ワークの形状によっては、ワークを確実、安定的に固定することが困難であるという問題があった。
【0004】
この問題に対し、ワークを凍結結氷により固定する冷凍(凍結式)チャック装置が提案されている(特許文献1等)。冷凍チャック装置は、液体(水)を塗布したチャック面を冷却機構により結氷温度を下回る温度に冷却し、それを維持するものであり、その冷却機構として、正電流を通電したときに上面から熱を吸収して下面に放出し、負電流を通電したときに下面側から熱を吸収して上面側に放出する特性の熱電素子(ペルチェ素子)を使用した熱電素子タイプのものが知られている。
【0005】
しかしながら、このような冷凍チャック装置では、
(1)熱電素子のもつ冷凍能力に限界があるため、加工中ワ−クを固定している氷が刃物から発生する加工熱によって溶かされやすく、ワーク固定力が不安定となる。
(2)熱電素子は素子の寿命が短く、量産加工の用途で長時間使用すると、部品整備の頻度が高く、メンテナンスコストが高くなる。
(3)熱電素子は機械的強度が低く、チャックとして必要十分な剛性を得ることが困難であり、加工精度の向上が困難となる。
(4)チャック面の材質は冷却効率の点から銅またはアルミニウムが使用されるが、銅やアルミニウムは軟質で粘りがあるため、チャックを加工機械のテーブルに搭載して加工基準面の平坦度を確保すべく加工機械でチャック面をいわゆる「伴ずり」してゼロカットするのが困難となる、等の問題があった。
【0006】
一方、チャック面内に冷媒を循環させる冷媒循環タイプの冷凍チャック装置も提案されている。冷媒循環タイプは高価な熱電素子を使用しないため、安価なものとすることができ、また冷凍能力も高いという利点があるが、
(1)冷却効率の点からチャック面の材質に、銅またはアルミニウムを使用し、チャックを加工機械のテーブルに搭載して加工基準面の平坦度を確保する場合、加工機械でチャック面をいわゆる「伴ずり」してゼロカットするのは容易でなく、ワークの加工精度の向上を図ることが困難である。
(2)チャック面の下面全体にわたって断熱材が接合されているため、チャック面が冷却されるときにチャック面の構成材料と断熱部の構成材料の線膨張係数の相違によりチャック面の変形ひずみが大きくなり、これにより加工基準としての機能が阻害されるため、ワークの高精度の加工、例えば平坦度出し加工が困難である。
(3)断熱材の下の台座側からチャック面に伝熱しやすく、チャック面の温度が上昇しやすい。このため、ワークの接着固定強度や安定性が損なわれやすく、固定媒体の冷却温度をマイナス側に大きく取らなければならず、冷媒冷却装置として能力の高いものを要し、コスト高となり、また、断熱材の下の台座から加工機械のテーブルの熱が奪われるため機械本体の温度が下がり、熱変位によって加工機械の静的精度が狂いを生じ、結果として加工精度が損なわれる。
(4)チャック面外周と断熱材外周間の距離(張出し長さ)が大きいため、加工基準面出しの機械加工の際にチャック面の外周を仕上げるべくチャック面の外周を刃物が通過するときにチャック外周部分が工具の押圧力で湾曲し戻るためバウンドを起し、仕上げ加工が困難である、等の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような、凍結固定加工(冷凍チャック)では、磁性チャックの使えない非磁性金属材料、金属材料、樹脂、空孔のあるスポンジ状の樹脂、シート状のフィルムなどをチャックとして固定することができ、また、ワークを冷却し、所望の温度にすることで材料の特性を変化させ、所望の加工特性を得ることができる。
【0008】
しかしながら、従来の凍結固定加工を行う加工装置では、ワーク(特に、樹脂材料)を凍結固定させた後、ワークの材質、加工条件等によらず、ある一定温度まで冷却し、これ維持する(すなわち、凍結温度が一定)ので、十分な加工精度を得ることができず、サイクルタイムが低下するという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、ワークの材質、加工条件等に応じて最適な凍結温度制御を行うことにより加工精度を向上させることができる加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明に係る加工装置は、被加工物としてのワークを凍結固定して加工を行う加工装置において、所定の方向に移動可能なベッドと、ベッドに固定され、ワークを載置するベースと、ベースを冷却する温度制御手段と、ベッドに対する位置を変動可能に制御され、ワークを加工する工具と、を備え、温度制御手段は、ベースを冷却することにより、ワークを該ワークの材質、および/または該ワークの加工条件に応じた所定の温度に制御するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る加工装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】(A)温度(ガラス転移点)と硬さとの関係を示すグラフ、(B)温度(ガラス転移点)と加工性との関係を示すグラフ、の例である。
【図3】加工装置におけるベッド、ベース、ワークの構成例を示す模式図である。
【図4】位置取得手段を備えた加工装置の要部構成図である。
【図5】温度変化によるベースの変形を示す説明図であって、(A)変形前、(B)変形後の一例、(C)変形後の他の例、(D)変形後の他の例を示す。
【図6】ベース加工手段によるベースの平面加工を示す説明図であって、(A)加工前、(B)加工後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る構成を図1から図6に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
本発明に係る加工装置の一実施形態を示す概略断面図を図1に示す。加工装置10としては、フライス盤、旋盤、研削盤などが挙げられるが、本実施形態では、フライス盤を例に説明する。
【0015】
加工装置10には、高精度に移動可能なベッドが複数設けられており(第1ベッド1a,第2ベッド1b)、具体的には、Y軸、Z軸方向に移動可能なテーブルである第1ベッド1aの上にX軸方向に移動可能なテーブルである第2ベッド1bが設置されている。
【0016】
第1ベッド1a、第2ベッド1bは、高剛性で高精度な移動が可能な構成であり、また、通常は金属材料で作成される。また、サイズも大きく構成され、熱容量も大きい。
【0017】
また、第2ベッド1b上には、温度制御手段(冷却手段)20を有するベース2が固定される。ベース2の表面には液体(水を用いることが多い)を介在させて、ベース2にワーク3(図1では図示せず)を積載し、温度制御手段20で、液体の凍結点以下に冷やすことで、ベース2にワーク3を固定し、ワーク3の温度制御がなされる。
【0018】
温度制御手段20としては、公知または新規の温度制御手段を用いればよく、特に限られるものではないが、例えば、いわゆるチラーなどの熱交換装置を用いて、かつ、エチレングリコールなどの0度以下でも凍結しにくい液体(いわゆる不凍液)を冷媒として用い、ベース2もしくはベース2の近傍に設置した配管内を循環させて、ベース2を冷却させることができる。
【0019】
また、冷却効果を高めるため、熱交換装置を複数台設置することも好ましい。また、熱交換装置に用いる不凍液を更に他の熱交換装置で冷却することでベース2を循環する不凍液の温度を速やかに下げることも好ましい。なお、不凍液などの冷媒を循環させることによれば、配管レイアウトの自由度が得られるため、ワーク3の形状や、サイズによって広い面積のベースを凍結させることができ、また大型のワーク3でも保持することが可能となるという利点がある。
【0020】
また、熱交換装置には、ペルチェ素子などの電子的な冷却手段を用いることも好ましい。ペルチェ素子を用いることによりベース2の温度変化を高速に行うことができ、冷却時間を短縮させ、サイクルタイムを向上させることができる。また、この場合、加工装置全体を小型化することが可能であるという利点がある。また、液体を用いる必要がないため定期的な液交換等の必要がなく、液漏れなどのトラブルが生じにくいため、メンテナンスの手間を軽減することができる。
【0021】
加工装置10には、回転部4を介して、エンドミルや砥石などの工具5が接続されている。なお、回転部4として、Z軸方向に移動可能なものを用いても良い。
【0022】
ここで、ワーク3の材料、特に、樹脂材料は凍結させて、その温度を低くすればするほど、エンドミルや砥石などの工具5で良好な加工が可能となる。
【0023】
図2(A)に温度(ガラス転移点)と硬さとの関係の一例を示すグラフ、(B)に温度(ガラス転移点)と加工性との関係の一例を示すグラフを示す。図2(A)に示すように、いわゆるガラス転移点(Tg)あるいはガラス転移領域以下の温度では、一般に、樹脂などの材料は硬くなり加工しやすくなることが知られている。また、ガラス転移点(Tg)あるいはガラス転移領域と融点の間の温度範囲ではゴムのように変形しやすい状態である。
【0024】
このため、温度を冷やす、具体的には、ワーク3を液体で凍結固定させる温度が少なくともガラス転移点あるいはガラス転移領域以下であって、凍結後のワーク3の加工で生ずるワーク3の温度上昇が、ガラス転移点あるいはガラス転移領域を超えない温度となるように、温度制御手段20は、液体の凍結温度に制御することが好ましい。これにより、ワーク3を硬くさせて、精度良く加工を行うことが可能となる。
【0025】
一方、凍結温度を下げすぎると時間がかかるため、タクトが低下するという問題がある。また、ガラス転移点(Tg)およびガラス転移領域は材質によって異なるため、所望の加工特性を得るためのワーク3の冷却温度は、材質、形状、工具の熱容量、工具の温度によって変化するものであるが、最適な加工温度を維持することにより、良好な切断面や所望の面粗さに仕上げつつサイクルタイムを短くすることができる。
【0026】
なお、繰り返しの加工時には、ワーク3をベース2から外す際に室温まで温度を上昇させる必要はなく、凍結点付近まで温度を上昇させることでサイクルタイムを短縮することが可能であることは勿論である。
【0027】
凍結後の最適な温度についても、ワーク3の材料や厚さ、形状によって変化するが、工具3が接触することでワーク表面から熱を奪うため、ワーク3の温度が想定した以上に下がる場合が生じる。例えば、フライスの場合、φ4mmのエンドミルとφ10mmのエンドミルでは熱を奪う能力、熱容量が異なるため、例えば、φ10mmのエンドミルを使う場合には、加工中に熱を奪われ、良好な加工状態維持できなくなったり、部分的に凍結状態を維持できなくなったりするおそれがあるため、ワーク3の温度をより下げる必要がある。
【0028】
また、エンドミルの送り速度や、回転速度など、摩擦に起因する加工熱の発生によってもワーク3の温度は低下する。これに対し、例えば、加工前あるいは加工中にエンドミルあるいはエンドミルなどの工具5あるいは工具5を保持する部分を冷却するようにして、ワーク3からの吸熱を抑制することも好ましい。
【0029】
以上説明したように、ワーク3の材質や形状、使用する工具(工具の熱容量)、送り速度などの加工条件に応じ、最適な冷却温度が変化する。そのため、ワーク3に応じて加工時の温度を冷却温度(例えば、−5℃〜−70℃)の範囲で調整する必要があり、温度制御手段20によりベース2の温度を下げることによって、ワーク3を固定し、チャックとしての機能をはたすことに加えて、ワーク3の任意の温度まで下げることによって材料特性に起因する条件から、良好な加工性を確保することができる。したがって、ワーク3を凍結後、所望の温度で加工することが可能となり、ワーク3の材質や形状、工具の熱容量に応じた最適な加工条件を得つつ、サイクルタイムを短縮することが可能となる。
【0030】
なお、加工装置10のベッド、ベースの構成については、図1に示す構成に限られるものではない。以下に他の好ましい構成例について説明する。
【0031】
図3(A)に示す基本構成例では、ベッド11の上にベース12を設置し、凍結用の液体を介して、ワーク13を固定している。しかしながら、図3(A)の構成によると、熱容量の大きなベッド11にベース12の熱が奪われるため、冷却効果が低下しやすい
【0032】
この熱特性を改善した構成を図3(B)に示す。図3(B)では、ベッド11の上に断熱材14を設置し、その上にベース12を設置し、凍結用の液体を介して、ワーク13を固定している。図3(B)の構成によれば、ベース12からベッド11への熱損失を最小限に防ぐことができる。併せて、または、これに替えて、ベース12の側面に断熱材14を設けることも好ましい。断熱材14を設けることにより、熱容量の大きなベッド11や大気との接触面積を低減することができるので、熱損失を最小限に抑え、サイクルタイムを短縮するとともに、効率よく温度制御を行うことが可能となる。
【0033】
また、図3(C)のように、ベッド11の一部をベース12として構成することも可能である。図3(C)の構成ではベッド11とベース12の高さを同水準にでき、位置決めが容易になるため、加工も容易に行うことが可能となる。また、この場合に、ベッド11とベース12との間に断熱材を設けることも好ましい。
【0034】
また、図3(D)のように、ベッド11の内部にベース12を組み込んだ構成としてもよい。これにより、剛性の低いベース12であっても、ベッド11の内部に配することでベッド11により剛性の向上を図ることができる。この構成によれば、樹脂以外のワーク、例えば、アルミなどの非磁性材料も十分な加工精度を維持することができる。また、この場合に、ベッド11とベース12との間に断熱材を設けることも好ましい。なお、図3(D)の構成では、ワーク13はベース12上に直接設置されるものではないが、この場合も「載置」と呼ぶものとする。
【0035】
[第2の実施形態]
また、加工装置においては、ベッド、ベース、またはワークと、工具との相対的な位置関係を正確に把握することが重要となる。本実施形態では、このための位置取得手段30を備えた加工装置について説明する。
【0036】
図4は、位置取得手段30を備えた加工装置の要部構成図である。図4に示す加工装置では、ベッド21上に断熱材24を介して温度制御手段20(図示せず)を有したベース22が固定されている。ベース22にはワーク23(図4では図示せず)が必要に応じて積載される。
【0037】
また、ベース22には配線22aが接続され、また、エンドミルなどの工具25にも、直接、または不図示の軸受けやスリップリングを介して配線25aが接続されている。各配線22a、25aは、位置取得手段30と接続されている。また、工具25は、導電性を有する材料で形成されている。
【0038】
図4に示す、加工装置において、室温から冷却を進めると、例えば、0℃近くで大気中の水分が結露し、0℃以下で凍結する。すなわち、図4(A)に示すように、そのまま大気中の水分が霜26として析出するため、時間の経過とともにベース22(ワーク23のある場合はワーク23上も)に霜26の層が厚く形成される。
【0039】
上述したように、加工装置においては、ベース22またはワーク23と、工具25との相対的な位置関係を正確に把握することが、加工精度の向上に不可欠であるため、例えば、工具25を交換した場合においても、基準位置との関係(位置変化)を把握することが重要である。
【0040】
しかしながら、上述のように、凍結後のベース22、またはワーク23の表面は霜26で覆われているため、ダイヤルゲージなどの接触式や、レーザなどの光学的な検出手段では、ベース22の表面、ワーク23の表面位置を正しく検出できない場合がある。
【0041】
そこで、本実施形態では、図4(B)から図4(C)に示すように、工具25をベース21(またはワーク23)に徐々に接近させ、工具25とベース22(またはワーク23)が接触したときに(図4(B))、位置取得手段30は、工具25とベース22(またはワーク23)との間の電圧、または電流を検出する。位置取得手段30は、検出した電圧、または電流に基づいて基準位置を算出するものである。なお、位置取得手段30は、工具25とベース22(またはワーク23)との間の電圧、または電流を検出可能な構成で有れば良く、特に限られるものではない。
【0042】
なお、工具25とワーク23の接触時を検出する場合、ワーク23が導電性を有する材質であることが必要であるが、非導電性の樹脂等の場合は、例えば、表層に導電性コートをするか材質に導電材料を添加して導電性を確保するようにすれば良い。
【0043】
また、ベース22をベッド21上に設けていない場合(上記図3(D)のような構成)では、位置取得手段30は、工具25とベッド21との接触時の電圧、電流の変化を検出して、基準位置を算出するものであればよい。
【0044】
以上説明したように、工具25と、ベッド21、ベース22、ワーク23のいずれかとの間に流れる電流または電圧を検出する位置検出手段30を備えた加工装置とすることで、ワーク23の変更、工具25の交換、ベッド21やベース22の熱変形、霜26により表面が隠れた場合等、Z軸方向の距離が不明になった場合においても、ベース22(ベッド21、ワーク23)の表面位置を検知して、工具25との間の相対的な基準位置を割り出すことができる。
【0045】
[第3の実施形態]
また、加工装置のベッド上に配置されたベースを冷却したとしても、ベッドは熱容量が大きいのでなかなか冷えない。そのため、ベッドとベースとの間で温度差が生じ、熱変形が発生し、ベッドに比べて剛性の低いベースが変形する場合がある(工具との相対距離が変化する)。また、ベース上に固定された樹脂などの柔らかい材料からなるワークの場合、ベースの変形とともにワークも変形する場合があり、加工精度の向上の妨げとなる。
【0046】
この熱変形について、図5を参照しつつ説明する。ベッド31に断熱材34を介して、温度制御手段20(図示せず)を備えたベース32が固定されている。また、ベース32にはワーク33(図5では図示せず)が必要に応じて積載される。なお、固定の際には、接着剤も使用できるがメンテナンスの困難性の観点から、ネジ等の使用が好ましい。ここでは、ネジを用いる場合について説明する。
【0047】
図5(A)は、ベース32を−30℃とした状態で断熱材34を介して、ベース32に固定させた状態(初期状態とする)を示している。この状態ではベース面は特に変形していない。
【0048】
また、図5(B)は、ベース32を冷やした状態、例えば、−20℃にした場合である。ベースを−30℃の状態でネジ固定しているため、材質の線膨張係数に違いによる熱変形量の差でベース32が変形する。
【0049】
また、図5(C)は、ベース32を少し冷やした状態、例えば、−10℃にした場合である。図5(B)の場合に比べて、さらに、熱変形量の差によるベース32の変形量が大きくなることを示している。
【0050】
上述したように、高い加工精度を得るためには、単にワーク33を固定するだけでなく、ワーク33の材質等に応じて、最適な冷却温度で加工しつつ、サイクルタイムを向上させるため冷却温度を変化させることが必要となる。
【0051】
一方で、冷却温度を変化させると、図5(A)〜(C)に示したように、ベース32の温度が大きく変化するのに対して、熱容量が大きく、かつ、断熱材34を介して接続されているベッド31は温度変化が少ないため、熱膨張差が生じ、ベッド31に比べて剛性の低いベース32が変形する場合がある。
【0052】
このように、ベース32が変形すると、工具とベース32との相対的な位置関係が変化するため、μmオーダの精密な加工に影響を与えたり、固定しているワーク33の形状が変化したりするために加工精度が悪化するという問題が生じる。
【0053】
これに対し、例えば、図5(D)に示すように、ネジでの締め付け位置を変えることで、全体として変異を均すことも考えられるが、変形量を0にすることはできない。また、所望の温度にてベース32をベッド31に組み付けることができれば変形量を少なくできるが、実際には、大気中の霜が短時間に析出するため、作業環境の湿度を低い状態にコントロールして短時間に組み付けを行う必要があり困難である。
【0054】
そこで、本実施形態の加工装置は、ベッド31にネジ等で固定されたベース32をワーク33の除去加工を行う温度もしくはその近傍の温度に下げた状態で、予めベース32の表面を工具35で加工し、ベース表面の平面基準を確保するベース加工手段40を備えるものである。すなわち、図6(A)に示すように、ある温度で変形したベース32表面を工具35で加工して面だしを行い、図6(B)に示すように、ベース32表面の平面度を向上させるものである。なお、ベース加工手段40は、加工装置の図示しない制御手段により工具35を制御することで構成される。
【0055】
これにより、凍結温度の変化により、ベース32が熱変形した場合であっても、予めその温度下で表面を加工することで、任意の温度で平面を得ることができ、良好な平面度を得ることができ、加工精度を向上させることができる。
【0056】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0057】
1a 第1ベッド
1b 第2ベッド
11,21,31 ベッド
2,12,22,32 ベース
3,13,23,33 ワーク
4 回転部
5,25,35 工具
10 加工装置
14,24,34 断熱材
20 温度制御手段
26 霜
30 位置取得手段
40 ベース加工手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特開平8−215966号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物としてのワークを凍結固定して加工を行う加工装置において、
所定の方向に移動可能なベッドと、
前記ベッドに固定され、前記ワークを載置するベースと、
前記ベースを冷却する温度制御手段と、
前記ベッドに対する位置を変動可能に制御され、前記ワークを加工する工具と、を備え、
前記温度制御手段は、前記ベースを冷却することにより、前記ワークを該ワークの材質、および/または該ワークの加工条件に応じた所定の温度に制御することを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記温度制御手段は、
前記ワークを液体で凍結固定させる温度が少なくともガラス転移点あるいはガラス転移領域以下であって、凍結後の前記ワークの加工により生ずる前記ワークの温度上昇が、前記ガラス転移点あるいはガラス転移領域を超えない温度となるように、前記液体の凍結温度を制御することを特徴とする請求項1に記載の加工装置
【請求項3】
前記ベッドと前記ベースとの間に更に断熱材を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記温度制御手段は、不凍冷媒を循環させて前記ベースを冷却させることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の加工装置。
【請求項5】
前記温度制御手段は、ペルチェ素子を用いて前記ベースを冷却させることを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項6】
前記工具、および、前記ベッドと前記ベースと前記ワークのいずれか1つが、位置取得手段に接続されており、
前記位置取得手段は、前記工具が、前記ベッドと前記ベースと前記ワークのいずれか1つに近接して、前記ベッドと前記ベースと前記ワークのいずれか1つと接触した時の、前記工具と、前記ベッドと前記ベースと前記ワークのいずれか1つとの間に生じる電流または電圧を検出し、検出電流または検出電圧に基づいて、
前記工具と、前記ベッドと前記ベースと前記ワークのいずれか1つとの相対的な位置情報を取得することを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の加工装置。
【請求項7】
前記ベースを前記ワークの除去加工を行う温度、またはその近傍の温度にした状態で、変形が生じた前記ベースの表面を、前記工具により平面度を高める加工を行うベース加工手段を備えたことを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の加工装置。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−49117(P2013−49117A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188894(P2011−188894)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】