説明

加熱炉用ハースロール

【課題】加熱炉に装入される鋼板等のシート材料を搬送する内部水冷型ハースロールの改良。特に、ロール表面の耐ビルドアップ性を高めると共に、冷却水による炉外系持ち出し熱量を抑制し炉の総合的熱効率を高める。
【解決手段】このハースロールは、耐熱鋼製ロール基体(1)のまわりに、断熱材からなる中間層(2)を設け、最外層部材(3)として耐熱性・耐ビルドアップ性を有するスリーブを装着した構造を有する。スリーブ(3)は、Al,Al−SiO,SiC,Si等からなる焼結体である。中間層(2)は、セラミックス繊維の低密度充填層(例えば0.2g/cm)として形成される。その熱伝導率は0.5W/m・K以下であることが好ましい。スリーブ(3)は、所望により、その外周面に、Al,Al−SiO,ZrSiO等からなる溶射被膜層(4)が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋼板等のシート状材料を連続的に熱処理する炉設備、例えば鋼板連続溶融めっきラインにおける焼鈍炉等、その他の加熱炉の炉内に配設される内部水冷構造を有するハースロールの改良に係り、詳しくは耐ビルドアップ性等を高めロール寿命の延長・長期安定操業の維持を図ると共に、ロールの強制冷却に付随する冷却熱交換量を可及的に抑制低減し、加熱炉全体の熱効率の改善を図るものである。
【0002】
【従来の技術】加熱炉に装入される鋼板等のシート被処理材を担持し案内走行させるための炉内ハースロールは、平滑なロール表面状態を安定に維持し得るものであること要する。肌荒れ・凹凸、その他の表面模様が生じると、製品表面に転写され、製品の品質を損なうことになる。このため、例えば鋼板連続溶融亜鉛めっきラインにおいて、めっき原板となる冷延鋼板を熱処理する焼鈍炉あるいは無酸化炉等では、ハースロールとして、ロール表面に金属系又はセラミックス系の溶射被膜層を形成し、あるいはロール最外層部材としてセラミックス焼結体からなるスリーブを嵌着固定した構造を有するもの等が使用されている。
【0003】ところで、雰囲気温度が1000℃を越えるような炉内部位に設置されるハースロールでは、ロール表面に通常の溶射被膜層を設けるだけでは、ビルドアップ(被処理材の表面スケールがロール表面に凝着堆積する現象)の防護効果は不十分である。このような高温雰囲気に対しては、内部水冷構造のロールを使用するのが一般的である。図2において、(11)はロール胴部材、(12)は胴部材を支持する軸部材であり、軸部材(1)には、スクリューシャフト(13)(円柱状支持体13とその周面に設けられた螺旋フィン13からなる)が支承されている。冷却水は、胴部材と支持体とで画成された冷却水流路(b)に供給され、螺旋フィン(13)に沿ってロール軸方向に流通する。セラミックススリーブを使用したロールの場合も、ロールの保護とビルドアップの抑制を目的として、このような内部水冷構造を採用するのが通常である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ハースロールを内部水冷構造とし、ロール最外層を伝導伝熱で強制冷却することにより、高温炉内雰囲気のロールに対する熱影響が低減緩和され、ロール表面の温度低下の効果として、表面の熱的損傷およびビルドアップ生成を抑制防止し、ロールの耐用寿命の向上を図ることができる。しかし、その反面、炉内及び被加熱材の熱が冷却水に奪われることにより、炉外に持ち出される熱量が増大し、炉内雰囲気温度の維持に要する加熱エネルギーの増大と炉全体の熱効率の大幅な低下を余儀なくされる。
【0005】その熱効率の改善策として、例えばロール外周を、アスベストやシリカ・アルミナ繊維の断熱材で被覆したロール構造とすることも提案されている(特開平1−290712号公報,特開平1−301818号公報等)。しかし、被覆する断熱材の耐摩耗性や耐ビルドアップ性が問題となる場合が多く、特に高品質を要求される表面処理鋼板の製造ラインの焼鈍炉等に適用することは困難である。本発明は上記に鑑み、内部水冷構造の最大の欠点である過大な熱交換量を抑制し、ロールの冷却を必要最小限にとどめて加熱炉の熱効率を改善すると共に、ロール表面の耐ビルドアップ性を高めることにより、長期間の安定な炉操業を維持し得るようにしたハースロールを提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、加熱炉内に配設され、炉内に連続的に装入されるシート状被加熱材を担持し搬送する内部水冷型ハースロールにおいて、冷却水流路を軸心に有するロール基体の胴部のまわりに、断熱材からなる層を設けて中間層とし、被加熱材と接触する最外層部材として耐熱性,耐ビルドアップ性にすぐれたセラミックス焼結体からなるスリーブを装着してなる積層構造を有している。
【0007】本発明のハースロールは、炉内高温雰囲気および被加熱材料と接触する最外層を、耐熱性,耐ビルドアップ性等にすぐれたセラミックス焼結体からなるスリーブで形成することにより、最外層に対する強制冷却を省略して健全な表面性状を維持せしめ、かつその最外層部材とロール基体との間を断熱性の中間層で隔絶し、冷却水の強制冷却作用をロール基体のみに局限することにより、冷却水による炉系外への持ち出し熱量を抑制すると共にロール基体の強度を保持せしめるようにしている。
【0008】
【発明の実施の形態】図1は、本発明のハースロールのロール構造を模式的に示している。(1)はロール基体、(2)は断熱材からなる中間層、(3)は最外層部材、(4)は溶射被膜である。ロール基体(1)は、冷却水流路(a)となる中空孔を有する耐熱鋼製胴部材とその両端に取り付けられた軸部材(1)とからなり、胴部材(1)のまわりに断熱材からなる中間層(2)が形成され、最外層部材(3)としてセラミックス焼結体からなるスリーブが嵌合装着されている。スリーブ(3)は、所望によりその外周面を溶射被膜(4)で被覆保護される。
【0009】最外層部材であるスリーブを構成するセラミックス成分は、酸化物系が好適である。酸化物は、標準生成自由エネルギーが負の側に偏っており、高温下での熱力学的安定性にすぐれる。代表例として、Al,ZrO,Y,SiO,TiO,MgO,Cr,CeO,CaO等が挙げられる。また、非酸化物系セラミックスを適用することもでき、例えばSiC,Siは、低酸素分圧高温環境下での熱力学的安定性にすぐれ、本発明のスリーブ材料として好適である。スリーブは、これらのセラミックスから任意に選択される1種の成分、あるいは2種以上の複合成分、例えばZrO−8mol%Y、Al-13wt%TiO、Al-MgO等からなる焼結体として製造される。
【0010】中間層は、スリーブとロール胴部との間の伝導伝熱を遮断する断熱層の役目を有する。この層は、セラミックス繊維を適用して充填密度を調整された繊維充填層として形成するとよい。使用する断熱材は1000℃以上の温度域で容易に変質劣化をきたすことのない耐熱性を有するものが好適である。例えばシリカアルミナが好ましく使用される。この中間層は、1000℃までの温度域における熱伝導率が0.5W/m・K以下であることが望ましい。この熱伝導率は、断熱材として使用するセラミックス繊維の材種の選択とその充填の粗密の調整により確保することができる。
【0011】本発明のハースロールは、所望により、最外層部材であるスリーブの外周面にセラミックスの溶射被膜が設けられる。セラミックスの溶射被膜は、鋼などの金属成分との接触角が小さくビルドアップ成分の付着を生じにくいうえ、その被膜構造(微細溶滴粒子の積層体である)の効果として、焼結体のセラミックスに比べて構成粒子間結合が小さく、このためビルドアップ成分等の外界物(異材)が付着した場合でも、被膜粒子の一部が外界物とともに持ち去られ、固着(堆積・成長)を生じにくい。この溶射の被膜特性の効果として、ロール表面の耐ビルドアップ性を一段と高めることができる。
【0012】溶射被膜のセラミックス材種は、ハースロールが供用される高温環境での実用上十分な熱的安定性が確保されるように、前記スリーブと同じ観点から、酸化物系が好適に使用される。例えば、Al,ZrO,Y,SiO,TiO,MgO,Cr,CeO,CaO等が挙げられる。溶射被膜は、これらの各種成分から任意に選択される単一組成、または2種以上の複合組成、例えばZrO−8mol%Y、Al-13wt%TiO、Al-MgO等からなるセラミックスを溶射材料として形成される。なお、スリーブを構成する非酸化物系セラミックスの例として前掲したSiCおよびSiは、液相温度域が狭く、溶射施工時に大部分が固相からの昇華現象を呈するので、溶射には適用しがたい。
【0013】溶射被膜の膜厚は、0.1〜0.3mm程度(研磨加工後)が適当である。これより薄いと、十分な耐久性を得がたく、他方これを越える膜厚を与えても、耐ビルドアップ性の増強および耐久性の向上効果は少なく、経済性を損なうだけである。溶射施工は、プラズマ炎,ガス炎,爆発炎(デトネーション)等の各種手法を適用して行われる。溶射施工に際しては、スリーブと溶射被膜との界面の密着強度を高めるための前処理として、スリーブ外周面の粗面化処理(ショットブラスト等)が行われ、また溶射施工後は、溶射被膜表面をロール表面として必要な平滑面(例えば、算術平均粗さRa≦0.5μm)に仕上げるための、ダイヤモンド砥石等による研磨加工が適宜施される。
【0014】
【実施例】[実施例1]連続溶融亜鉛めっきラインのめっき鋼帯前処理設備である無酸化熱処理炉に設置されるハースロールとして、図1のロール構造を有する供試ロール(但し、スリーブ表面の溶射被膜施工は省略)を作製し、実機使用試験に供した。
【0015】(1)ロールの製作ロール基体の胴部材(耐熱鋼製中空パイプ)に対して中間層材を充填し、スリーブを嵌合装着した。ついで、スリーブの外径を砥石研削して形状精度を調整し、供試ロールを得る。ロール構成の詳細は次のとおりである。
【0016】
ロール基体胴部: 材 種 SUS 304ステンレス鋼 外 径 60mm(肉厚5mm) 胴 長 2343mm
【0017】
中 間 層: 断熱材 SiO-Al質セラミックスファイバー 充填密度 0.2g/cm 熱伝導率 0.40W/m・K(at.1000℃)
層 厚 20mm
【0018】
スリーブ(セラミックス焼結体): 材 種 ムライト質セラミックス(SiO-Al
外 径 120 mm 肉 厚 10mm 表面粗度 Ra 0.5μm(研削加工後)
【0019】(2)実機使用試験および試験結果炉内温度(ロール設置部):1150℃被加熱材処理量 :1,425kg/minロール内部の冷却水流量 :31l/min
【0020】上記実炉試験において、発明例の供試ロールは、いずれも優れた耐ビルドアップ性を発揮すると共に、真円度・円筒度等の形状精度の長期維持性を有することが観察された。また、発明例の各供試ロールと、図2R>2の全体冷却構造を有する従来型ハースロール(但し,胴部11の外径:120mm,胴長:2400mm)とについて、冷却水による炉系外持ち出し熱量を比較すると、発明例のハースロールは、従来型ハースロールの持ち出し熱量の20%相当レベルにまで低減することが測定された。
【0021】[実施例2]前記実施例と同じ無酸化熱処理炉に設置されるハースロールとして、図1のロール構造を有する供試ロールを作製し、実機使用試験に供した。
【0022】(1)ロールの製作ロール基体の胴部材(耐熱鋼製中空パイプ)に対して中間層材を充填し、スリーブを嵌合装着した。ついで、スリーブの外径を砥石研削して形状精度を調整し、更にスリーブ外周面に溶射前処理として粗面化処理を施した。その後、プラズマ溶射装置によりスリーブ外周面に被膜(溶射膜厚0.35〜0.45mm)を形成し、更に人造ダイヤモンド砥石により被膜表面を研削仕上げして供試ロールを得た。ロール構成は次のとおりである。
【0023】
ロール基体胴部:実施例1と同じ中 間 層 :実施例1と同じスリーブ :実施例1と同じ溶射被膜:材 種 ジルコン(ZrSiO
膜 厚 0.25±0.05mm(研磨仕上げ後)
(表面粗度 Ra≦0.5μm)
【0024】上記ロールのほかに、溶射被膜材料として、Al、Y2〜8mol%(部分安定化ジルコニア)、Al-13wt%TiO、Al-MgOなどを使用した以外は、上記と同一のロール構成を有する供試ロールを用意した。
【0025】(2)実機使用試験および試験結果各供試ロールのそれぞれを、実施例1と同一条件の実機使用試験に供した。発明例の供試ロールは、いずれも優れた耐ビルドアップ性を発揮すると共に、真円度・円筒度等の形状精度の長期維持性を有することが観察された。また、冷却水による炉系外持ち出し熱量は、図2の従来型ロール(ロールサイズは実施例1に記載の全体型冷却構造ロールと同一)の持ち出し熱量の20%相当レベルにまで激減することが測定された。
【0026】
【発明の効果】本発明のハースロールは、炉内雰囲気及び被加熱材が接触する最外層を、耐熱性,耐ビルドアップ性等を有するセラミックス焼結体のスリーブで形成した構造であることにより、健全なロール表面を安定に維持することを可能にすると共に、スリーブとロール基体とを断熱性中間層で隔絶した構造を有することにより、冷却水による炉内熱量の炉外系への持ち出しを効果的に抑制することができ、ロールの耐久性・メンテナンスの向上,および加熱エネルギーの節減・総合的熱効率の向上に顕著な効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のハースロールのロール構造を模式的に示す正面断面図である。
【図2】従来の全体冷却型ハースロールのロール構造を模式的に示す正面断面図である。
【符号の説明】
1 :ロール基体
:胴部材
:軸部材
2 :中間層(断熱材層)
3 :スリーブ(セラミックス焼結体)
4 :溶射被膜
a :中空孔(冷却水流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱炉内に配設され、炉内に連続的に装入されるシート状被加熱材を担持し搬送する内部水冷型ハースロールにおいて、冷却水流路を軸心に有するロール基体の胴部のまわりに、断熱材からなる層を設けて中間層とし、被加熱材と接触する最外層部材として耐熱性,耐ビルドアップ性にすぐれたセラミックス焼結体からなるスリーブを装着してなる積層構造を有する加熱炉用ハースロール。
【請求項2】 スリーブは、Al,ZrO,Y,SiO,TiO,MgO,Cr,CeO,CaO,SiC,Siの群から選ばれる1種ないし2種以上の成分からなるセラミックスの焼結体である請求項1に記載の加熱炉用ハースロール。
【請求項3】 中間層は、セラミックスファイバーの低密度充填層である請求項1又は2に記載の加熱炉用ハースロール。
【請求項4】 中間層は、1000℃までの温度域において、0.5W/m・Kを越えない低熱伝導率を有する請求項3に記載の加熱炉用ハースロール。
【請求項5】 スリーブの外周面に、Al,ZrO,Y,SiO,TiO,MgO,Cr,CeO,CaOの群から選ばれる1種ないし2種以上の成分からなるセラミックスの溶射被膜が設けられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の加熱炉用ハースロール。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開2001−73028(P2001−73028A)
【公開日】平成13年3月21日(2001.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−245888
【出願日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】