説明

動力伝達軸の製造方法および車両用操舵装置

【課題】摺動部分に樹脂被膜を設けた動力伝達軸の製造時に、樹脂の表面をより滑らかにする。
【解決手段】外スプライン37が設けられた内軸35と、内スプライン38が内周に設けられた筒状の外軸36と、外スプライン37に設けられた樹脂被膜139と、を含む中間軸5の製造方法において、加熱なじみ工程(図4(h))では、内軸製造用中間体147の中心軸線と、外軸製造用中間体46の中心軸線とを一致させつつ、各製造用中間体46,147を調芯可能に保持する。この状態で、各製造用中間体46,147を軸方向X1に相対摺動する。これにより、樹脂被膜139の表面を均す。加熱なじみ工程では、各製造用中間体46,147の間にグリース48を介在させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達軸の製造方法および車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操舵装置の中間軸等は、伸縮可能な動力伝達軸によって構成されている。この動力伝達軸は、例えば、雄軸と雌軸とをスプライン嵌合させた構成となっている。雄軸の雄スプライン歯には、樹脂コーティング層が形成されることがある(例えば、特許文献1〜4参照)。特許文献4では、樹脂コーティング層の表面にヒケと称する溝が設けられており、この溝に潤滑剤(グリース)を保持できるようになっている。
【0003】
上記樹脂コーティング層の表面は、動力伝達軸の製造時に擦られることで形状が整えられる場合がある(例えば、特許文献5〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2844489号明細書
【特許文献2】特公昭45−5081号公報
【特許文献3】特開平9−105419号公報
【特許文献4】特開昭64−55411号公報
【特許文献5】特許第4045112号公報
【特許文献6】特開昭63−176824号公報
【特許文献7】特開2009−168194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、鋭意研究の結果、樹脂コーティング層を有する動力伝達軸を、以下の方法によって製造することを想到した。具体的には、金属製の雄スプライン軸の表面に溶融した樹脂を塗布し、硬化させる。次に、雄スプライン軸を雌スプライン軸に挿入し、両軸を軸方向に相対移動させる。これにより、樹脂コーティング層の表面を、雌軸の表面にフィットする形状に整えることができる。
【0006】
しかしながら、雄軸の製造用中間体と雌軸の製造用中間体とを軸方向に相対摺動させているとき、雄軸の樹脂コーティング層の表面と雌軸の表面との間で摩擦が大きいと、これらの表面間の摩擦熱やせん断応力が大きくなる。その結果、樹脂が軟化し、ころ状の摩耗粉が発生してしまう。摩耗粉が、軸方向に相対摺動する両軸の間に介在していると、摩耗粉によって樹脂コーティング層の表面が荒らされてしまう。これにより、樹脂コーティング層の表面が粗くなると、動力伝達軸の使用時に、雄軸と雌軸との間でがたつきが生じてしまい、ラトル音の発生や操舵フィーリングの低下を招いてしまう。
【0007】
また、雄軸の製造用中間体と雌軸の製造用中間体とを軸方向に相対摺動させる動作は、例えば、油圧シリンダ等のアクチュエータを用いて行われる。この際、アクチュエータは、両軸の中心軸線に沿うスラスト力のみを両軸に付与することが理想である。しかしながら、アクチュエータには、動作時の反力等が作用する。このため、アクチュエータは、実際には、両軸の中心軸線に沿うスラスト力以外の力、例えば、雌軸のラジアル方向の力を雌軸に作用させることがある。このような力が作用すると、雌軸から樹脂コーティング層の表面に作用する荷重が均等にならず、その結果、樹脂コーティング層の表面を均等に均すことができなくなるおそれがある。
【0008】
また、上述したように、両軸の製造用中間体を摺動させたときの摩擦熱が問題となるので、両軸の製造用中間体を高速で摺動させることができず、樹脂コーティング層の表面を仕上げる仕上げ工程に時間がかかってしまう。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、摺動部分に樹脂被膜を設けた動力伝達軸の製造時に、樹脂の表面をより滑らかに仕上げることを目的とする。
【0009】
また、この発明の別の目的は、樹脂の表面の仕上げ加工にかかる時間をより短くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、外周に外スプライン(37)が設けられた内軸(35)と、前記外スプラインに摺動可能に噛み合う内スプライン(38)が内周に設けられた筒状の外軸(36)と、前記外スプラインおよび前記内スプラインの少なくとも一方に設けられた樹脂被膜(139)と、を含む動力伝達軸(5)の製造方法において、前記内軸の製造用中間体(147)の中心軸線(L2)と、前記外軸の製造用中間体(46)の中心軸線(L1)とを一致させつつ、各前記製造用中間体を調芯可能に保持した状態で、各前記製造用中間体を軸方向(X1)に相対摺動することにより、前記樹脂被膜の表面(139a)をなじみ加工するなじみ工程を備え、前記なじみ工程では、各前記製造用中間体の間に潤滑剤(48)を介在させていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、なじみ工程では、各軸の製造用中間体を調芯可能に保持している。すなわち、内軸の製造用中間体の中心軸線と外軸の製造用中間体の中心軸線とが一致している状態を変化させる力が各製造用中間体に作用することを抑制するように、各製造用中間体を、軸方向以外の方向に向けて変位可能に保持している。これにより、曲げ力などスラスト力以外の力としての意図しない力が各製造用中間体に作用することを抑制できる。この状態でなじみ工程を行うことで、樹脂被膜の表面のうち、相手側の部材と接触している部分の全面を、均等に相手側の部材の表面に摺接させる(なじませる)ことができる。しかも、各製造用中間体の間に潤滑剤を介在させている。これにより、なじみ工程において、樹脂被膜の表面に作用する摩擦抵抗が必要以上に大きくなることを抑制できる。したがって、摩擦熱による樹脂被膜の軟化や、樹脂被膜に生じるせん断応力に起因する、ころ状の摩耗分の発生を抑制でき、摩耗粉が樹脂被膜を荒らすことを抑制できる。上記した、調芯保持による効果と、潤滑剤を介在させる効果とが相俟って、樹脂被膜の表面を、極めて滑らかに仕上げることができる。
【0012】
その上、なじみ工程において、樹脂被膜の摩擦熱を低くできるので、ころ状の摩耗粉の発生を抑制しつつ、各製造用中間体をより高速で相対摺動できる。これにより、なじみ工程を短時間で完了できるので、動力伝達軸を、より効率よく製造できる。さらに、なじみ工程に先立ち、各製造用中間体を精度よく位置決めして保持する必要がない。よって、各製造用中間体の保持作業にかかる時間を短くできる。これにより、樹脂被膜の仕上げにかかる時間を短くでき、動力伝達軸を、より効率よく製造できる。
【0013】
また、本発明において、前記外軸の製造用中間体の一端部および前記内軸の製造用中間体の一端部には、それぞれ第1および第2継手(4,6)が取り付けられており、前記第1および第2継手は、各前記製造用中間体の傾き変位を許容する継手であり、前記なじみ工程では、前記第1および第2継手を介して各前記製造用中間体に相対摺動のための荷重を付与する場合がある(請求項2)。
【0014】
この場合、なじみ工程において、各軸の製造用中間体を相対摺動させるときに、各製造用中間体の中心軸線の軸方向と一致する向きのスラスト力以外の力(ラジアル荷重等の意図しない力)が各製造用中間体に作用しようとしたときに、製造用中間体が傾くようになっている。これにより、なじみ工程において、上記の意図しない力が各軸の製造用中間体に作用することを確実に抑制できる。
【0015】
また、本発明において、前記第1および第2継手は、それぞれ、自在継手を含む場合がある(請求項3)。
この場合、2つの自在継手を用いるという簡易な構成で、なじみ工程において、上記の意図しない力が各軸の製造用中間体に作用することを確実に抑制できる。また、車両用操舵装置の中間軸等、内軸の一端部および外軸の一端部のそれぞれに自在継手を備える動力伝達軸を製造する際には、この自在継手を用いて、各軸の製造用中間体を調芯可能に保持できる。これにより、なじみ工程において、各軸の製造用中間体を調芯可能に保持するための専用部品の数を少なくできる。また、各軸の製造用中間体を調芯可能に保持するための設備を小型にできる。
【0016】
また、本発明において、前記なじみ工程は、各前記製造用中間体の温度(TP)が所定温度(TP1)を超えた後で、且つ各前記製造用中間体の摺動荷重(F)が所定荷重(F1)を下回ったときに完了する場合がある(請求項4)。
なじみ工程では、製造用中間体の相対摺動を開始すると、まず、各製造用中間体の摺動摩擦によって製造用中間体の温度が上昇する。そして、上記相対摺動を継続することにより、樹脂被膜の表面が相手側部材の表面になじむ。これにより、各製造用中間体の摺動抵抗が低下する。また、各製造用中間体の摺動抵抗が低下することに伴い、各製造用中間体の温度も低下する。このように、各製造用中間体の温度が所定温度を超えた後で、且つ各製造用中間体の摺動荷重が所定荷重を下回ったタイミングでなじみ工程を完了することで、なじみ工程を適切なタイミングで完了できる。
【0017】
また、本発明において、前記潤滑剤は、グリース、またはグリースの基油を含む場合がある(請求項5)。
この場合、動力伝達軸の使用時に必要な潤滑剤を用いて、各軸の製造用中間体の摺動抵抗を低減できる。これにより、なじみ工程において、各軸の製造用中間体の摺動抵抗を低減するための潤滑剤を別途用意する必要がなく、動力伝達軸の製造コストを低減できる。
【0018】
また、本発明は、前記した動力伝達軸の製造方法によって形成された動力伝達軸(5)を備える車両用操舵装置(1)を提供する(請求項6)。
この発明によれば、操舵に必要なトルクを伝達する動力伝達軸の周方向のがたつきを少なくでき、且つ、この動力伝達軸の伸縮動作をスムーズに行える。これにより、静粛性に優れ、且つ、操舵フィーリングに優れる車両用操舵装置を実現できる。
【0019】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態の動力伝達軸としての中間軸を有する車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】中間軸の一部破断側面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】(a)〜(j)は、中間軸の製造工程を順次に示す概略図である。
【図5】加熱なじみ工程を行うための製造装置としてのスライド装置の主要部を示す斜視図である。
【図6】(A)は、第1保持機構の周辺の構成を示す側面図であり、一部を断面で示しており、(B)は、第1保持機構の一部を示す分解斜視図である。
【図7】(A)は、本発明のスライド装置による製造用中間体の加熱なじみ工程を説明するための主要部の模式図であり、(B)は、比較例のスライド装置による製造用中間体の加熱なじみ工程を説明するための主要部の模式図である。
【図8】加熱なじみ工程における摺動荷重と時間との関係を示すグラフ、および製造用中間体の樹脂被膜の温度と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施形態の添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態の動力伝達軸が適用された中間軸を有する車両用操舵装置の概略構成図である。図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結された操舵軸3と、操舵軸3に自在継手4を介して連結された動力伝達軸(スプライン伸縮軸)としての中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有する転舵軸としてのラック軸8とを備えている。
【0022】
ピニオン軸7およびラック軸8を含むラックアンドピニオン機構によって、転舵機構A1が構成されている。ラック軸8は、車体側部材9に固定されたハウジング10によって、車両の左右方向に沿う軸方向(紙面とは直交する方向)に移動可能に、支持されている。ラック軸8の各端部は、図示していないが、対応するタイロッドおよび対応するナックルアームを介して対応する転舵輪に連結されている。
【0023】
操舵軸3は、同軸上に連結された第1操舵軸11と第2操舵軸12とを備えている。第1操舵軸11は、スプライン結合を用いて、同伴回転可能に且つ軸方向に相対摺動可能に嵌合されたアッパーシャフト13およびロアーシャフト14を有している。アッパーシャフト13およびロアーシャフト14の何れか一方が内軸を構成し、他方が筒状の外軸を構成している。
【0024】
また、第2操舵軸12は、ロアーシャフト14と同伴回転可能に連結された入力軸15と、自在継手4を介して中間軸5に連結された出力軸16と、入力軸15および出力軸16を相対回転可能に連結するトーションバー17とを有している。
操舵軸3は、車体側部材18,19に固定されたステアリングコラム20によって、図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。
【0025】
ステアリングコラム20は、軸方向に相対移動可能に嵌め合わされた筒状のアッパージャケット21および筒状のロアージャケット22と、ロアージャケット22の軸方向下端に連結されたハウジング23とを備えている。ハウジング23内には、操舵補助用の電動モータ24の動力を減速して出力軸16に伝達する減速機構25が収容されている。
減速機構25は、電動モータ24の回転軸(図示せず)と同行回転可能に連結された駆動ギヤ26と、駆動ギヤ26に噛み合い出力軸16と同伴回転する被動ギヤ27とを有している。駆動ギヤ26は例えばウォーム軸からなり、従動ギヤ27は例えばウォームホイールからなる。
【0026】
ステアリングコラム20は、車両後方側のアッパーブラケット28および車両前方側のロアーブラケット29を介して車体側部材18,19に固定されている。アッパーブラケット28は、車体側部材18から下方に突出する固定ボルト(スタッドボルト)30と、当該固定ボルト30に螺合するナット31と、アッパーブラケット28に離脱可能に保持されたカプセル32とを用いて、車体側部材18に固定されている。
【0027】
ロアーブラケット29は、ステアリングコラム20のハウジング23に固定されている。また、ロアーブラケット29は、車体側部材19から突出する固定ボルト(スタッドボルト)33と当該固定ボルト33に螺合するナット34とを用いて、車体側部材19に固定されている。
図1および図2を参照して、動力伝達軸としての中間軸5は、内軸35と筒状の外軸36とを中間軸5の軸方向X1に沿って摺動可能に且つトルク伝達可能にスプライン嵌合させてなる。内軸35および外軸36の何れか一方がアッパーシャフトを構成し、他方がロアーシャフトを構成する。本実施形態では、外軸36がアッパーシャフトとして自在継手4に連結されており、内軸35がロアーシャフトとして自在継手6に連結されている。
【0028】
本実施形態では、動力伝達軸を中間軸5に適用した場合に則して説明するが、本発明の動力伝達軸を第1操舵軸11に適用し、第1操舵軸11にテレスコピック調整機能や衝撃吸収機能を果たさせるようにしてもよい。また、本実施形態では、車両用操舵装置1が電動パワーステアリング装置である場合に則して説明するが、本発明の動力伝達軸をマニュアルステアリングの車両用操舵装置に適用するようにしてもよい。
【0029】
図2を参照して、自在継手4は、第1自在継手(第1継手)を構成している。自在継手4は、ステアリングシャフト3の出力軸16に設けられたヨーク61と、外軸36の一端部に設けられたヨーク62と、両ヨーク61,62間を連結する十字軸63と、を備えている。
ヨーク61はY字状をなし、筒状の基部61aと、基部61aから延びる一対のリム(limb)61b,61bと、を有している。基部61aには、嵌合孔が形成されており、この嵌合孔に出力軸16が嵌合固定されている。一対のリム61b,61bは、互いに平行に延びている。
【0030】
ヨーク62は、ヨーク61と同様の形状に形成されている。具体的には、ヨーク62はU字状をなし、基部62aと、基部62aから延びる一対のリム62b,62b(図2において、一方のリム62bは図示せず)と、を有している。基部62aには、外軸36の一端部が固定されている。一対のリム62b,62bは、互いに平行に延びている。
十字軸63は、一対のリム61b,61bと、一対のリム62b,62bとの間に配置されている。十字軸63の4つの先端部は、それぞれ、リム61b,61b,62b,62bに軸受(図示せず)を介して連結されている。これにより、ヨーク61およびヨーク62は、十字軸63の中心63aを中心に相対回転可能である。十字軸63の中心63aは、外軸36の中心軸線L1上に配置されている。
【0031】
自在継手6は、第2自在継手(第2継手)を構成している。自在継手6は、ピニオン軸7の一端部に設けられたヨーク61と、内軸35の一端部に設けられたヨーク62と、両ヨーク61,62間を連結する十字軸63とを備えている。自在継手6の十字軸63の中心63aは、内軸35の中心軸線L1上に配置されている。
自在継手4,6の構成は同様である。したがって、以下では自在継手6については、自在継手4の対応構成要素と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0032】
図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。図2および図3を参照して、内軸35の外周35aに設けられた外スプライン37と、外軸36の内周36aに設けられた内スプライン38とが互いに嵌合している。本実施の形態では、図3に示すように、外スプライン37の少なくとも歯面37aに、外軸36に対する加熱なじみ処理〔図4(h)参照〕が施された表面139aを有する樹脂被膜139が形成されている。具体的には、内軸35の芯金350の周囲に被覆された樹脂被膜139の少なくとも一部によって、外スプライン37の少なくとも歯面37aが形成されている。
【0033】
上記の中間軸5を製造する工程について、概略図である図4に基づいて説明する。
まず、図4(a)に示す鍛造工程では、素材を鍛造することにより、外スプライン40が形成された内軸製造用中間体41を得る。
次いで、図4(b)に示す前処理工程では、図4(a)の内軸製造用中間体41の外スプライン40の少なくとも歯面に、コーティングのための前処理を施す。具体的には、図4(c)の被覆工程において樹脂層44を形成する場合の前段階の処理として、上記外スプライン40の歯面を平滑化するため、例えば上記ショットブラスト、プライマー塗布等の下地処理を行う。これにより、図4(b)に示すような、歯面に前処理が施された外スプライン42を有する、内軸製造用中間体43(内軸35の芯金350に相当)を得る。
【0034】
次いで、図4(c)に示す被覆工程(コーティング工程)では、図4(b)の内軸製造用中間体43の外スプライン42の少なくとも歯面に樹脂層44を形成し、図4(c)に示すような、樹脂層44が形成された内軸製造用中間体45を得る。具体的には、前処理が施された内軸製造用中間体43を加熱した後、樹脂粉末が流動状態にされた流動浸漬槽内に製造用中間体43を所定時間浸漬する。これにより、内軸製造用中間体43に付着した樹脂粉末が熱で溶融し、樹脂層44が形成される。樹脂層44の外周の断面は、円形または略円形をなしている。上記樹脂層44を形成する樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタールなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。樹脂層44を射出成形してもよい。
【0035】
次いで、図4(d)に示すジョイント接合工程では、内軸製造用中間体45の端部に自在継手6を連結する。
次いで、図4(e)に示すブローチ工程では、外軸製造用中間体46を用意する、外軸製造用中間体46は、素材を筒状に鍛造してなり、内周に内スプライン38が形成されている。外軸製造用中間体46の一端部には、自在継手4が取り付けられている。この外軸製造用中間体46内に、上記樹脂層44が形成された内軸製造用中間体45を挿入することで、ブローチ加工を行う。これにより、外軸製造用中間体46の内スプライン38の歯面によって、図4(f)に示すように、成形された樹脂被膜39を有する内軸製造用中間体47を得る。
【0036】
ブローチ工程では、ブローチ加工に際して、図4(e)に示すように、樹脂層44の余剰部分44aが削り取られ、かんな屑のようにして、相手方の軸としての外軸製造用中間体46外に排出される。
次いで、図4(f)の溝形成工程では、樹脂被膜39の表面39aに、レーザ照射ユニット50から軸方向X1とは交差する方向にレーザ51(例えばYVO4 レーザやCO2 レーザ)を照射する。これにより、樹脂の一部を熱分解させて除去する。これにより、図4(g)に示すようならせん状の溝52が形成された樹脂被膜139を有する内軸製造用中間体147を得る。
【0037】
溝52は、樹脂被膜139の表面139aから所定深さで形成されている。溝52は、内軸製造用中間体147の各外スプライン37を横切るように、溝52が延びている。
なお、レーザ51による加工に代えて、ウォータジェットまたは硬質の微粒子を含んだ圧縮エアーによる微細溝加工を用いて溝52を形成してもよい。
図4(g)を参照して、溝52が形成された内軸製造用中間体147には、潤滑剤としてのグリース48が塗布される。グリース48は、中間軸5の出荷時に塗布されるグリースと同一である。グリース48は、例えば、内軸製造用中間体147の先端に塗布される。なお、潤滑剤として、上記グリース48の基油と同一成分の基油のみを内軸製造用中間体147の外周面に塗布してもよい。
【0038】
次いで、図4(h)に示す加熱なじみ工程では、相手方の軸としての外軸製造用中間体46内に内軸製造用中間体147を挿入する。このとき、外軸製造用中間体46と内軸製造用中間体147の樹脂被膜139との間の締め代は、数十μm程度とされており、しまりばめとされている。そして、内軸製造用中間体147を外軸製造用中間体46に対して、グリース48を介して軸方向X1に強制的に摺動させる。これにより、外軸製造用中間体46の内スプライン38の歯面にフィットした表面139aを有する樹脂被膜139が被覆された内軸35と、外軸36と、が完成する。
【0039】
上記加熱なじみ工程では、製造用中間体46,147の強制摺動による摩擦熱を用いる。これにより、外軸製造用中間体46に接触する樹脂被膜139の表層部を、樹脂被膜139の樹脂の融点以上の温度に加熱し、融解させる。この加熱状態で樹脂の軟化を促進させつつ、樹脂被膜139の表層部を外軸製造用中間体46の内スプライン38になじませる。その後、樹脂被膜139を、ノズル53から噴射される空気等によって冷却する。これにより、樹脂被膜139の表面139aを外軸36の内スプライン38の歯面に、面粗さレベル(数十μm程度の面粗さのレベル)でフィットさせることができる。これにより、内軸35が完成する。
【0040】
次いで、図4(i)に示すグリース塗布工程では、内軸35の樹脂被膜139の表面にグリース48を塗布する。グリース48が塗布された内軸35を外軸36に組み入れ、図4(j)に示すように、スプライン伸縮軸としての中間軸5が完成する。
上記した中間軸5の製造工程のうち、加熱なじみ工程について、より詳細に説明する。
図5は、加熱なじみ工程を行うための製造装置としてのスライド装置90の主要部を示す斜視図である。
【0041】
スライド装置90は、外軸製造用中間体46の中心軸線L1と、内軸製造用中間体147の中心軸線L2とを一致させつつ、これらの製造用中間体46,147を調芯可能に保持するように構成されている。また、スライド装置90は、製造用中間体46,147を軸方向X1に相対摺動させることにより、樹脂被膜139の表面を加熱なじみ加工(仕上げ加工)するように構成されている。
【0042】
スライド装置90は、駆動機構93と、一対の保持機構としての第1保持機構91および第2保持機構92と、を含んでいる。
駆動機構93は、第1保持機構91を介して製造用中間体46,147を軸方向X1に相対摺動させるために設けられている。駆動機構93は、例えば、アクチュエータとしての油圧シリンダによって構成されている。油圧シリンダは、ロッド94を含んでいる。ロッド94は、第1および第2保持機構91,92が互いに向かい合う方向(軸方向X1)に直線往復運動可能に構成されている。
【0043】
スライド装置90は、縦向きに配置されており、ロッド94の変位方向は、鉛直方向と一致している。これにより、スライド装置90に保持された製造用中間体46,147の自重に起因する曲げ力が製造用中間体46,147間に作用することを抑制できる。なお、スライド装置90を、横向きに配置することにより、ロッド94の変位方向を、水平方向としてもよい。
【0044】
ロッド94の先端には、円板状の連結プレート95が固定されている。連結プレート95には、複数のねじ孔95aが形成されている。
第1および第2保持機構91,92は、互いに嵌め合わされた状態の製造用中間体46,147を保持するために設けられている。
第1保持機構91は、連結プレート95に結合されており、ロッド94とともに、直線往復運動可能である。第1保持機構91は、外軸製造用中間体46に設けられた自在継手4を保持するように構成されている。
【0045】
図6(A)は、第1保持機構91の周辺の構成を示す側面図であり、一部を断面で示している。図6(B)は、第1保持機構91の一部を示す分解斜視図である。図6(A)および図6(B)に示すように、第1保持機構91は、第1プレート101と、第2プレート102と、第3プレート103と、固定ねじ104と、を含んでいる。
第1プレート101は、円板状に形成されている。第1プレート101には、ねじ挿通孔101aが形成されている。このねじ挿通孔101aを挿通し、ねじ孔95aにねじ結合する固定ねじ105によって、第1プレート101は、連結プレート95に固定されている。
【0046】
第1プレート101には、ねじ挿通孔101aに加え、凸部101bと、ねじ孔101cとが形成されている。凸部101bは、第1プレート101の上面101dの中央に形成されており、上向きに突出している。この凸部101bは、自在継手4のヨーク61に形成された嵌合孔に嵌合している。これにより、ヨーク61(自在継手4の中心63a)が、ロッド94の中心軸線L3を通るように、ヨーク61の位置決めを行うことができる。第1プレート101の上面101dは、ヨーク61の基部61aの一端面に面接触している。
【0047】
ねじ孔101cは、第1プレート101の外周部に複数設けられており、この外周部の周方向に等間隔に配置されている。ねじ挿通孔101aとねじ孔101cとは、第1プレート101の周方向に交互に配置されている。
第2プレート102は、U字形形状に形成されており、一対の対向部102a,102aを含んでいる。対向部102a,102aは、互いに平行に延びている。第2プレート102の対向部102a,102aには、複数(例えば、4つ)のねじ挿通孔102bが形成されている。対向部102a,102aは、自在継手4のヨーク62のリム62b,62bを挟むように配置されている。対向部102a,102aの内側面102c,102cは、リム62b,62bの外側面に隣接しており、これらのリム62b,62bに接触可能である。この構成により、ヨーク62がヨーク61に対して、過度に揺動すること(一対のリム61b,61b間を通る直線L4回りのヨーク62の過度の揺動)を規制可能となっている。
【0048】
第3プレート103は、ヨーク61の基部61aを押圧するために設けられている。第3プレート103は、棒状に形成されている。第3プレート103の断面形状は、略矩形形状とされている。第3プレート103の中間部は、ヨーク61の基部61aに接触しており、第3プレート103と第1プレート101とによって、ヨーク61が軸方向X1に挟持されている。第3プレート103の長手方向の両端部は、第2プレート102の対向部102a,102aによって下方に押圧されている。また、第3プレート103の両端部には、ねじ挿通孔103a,103aが形成されている。
【0049】
固定ねじ104は、複数設けられており、第2プレート102および第3プレート103の各ねじ挿通孔102a,103aに挿通され、且つ、第1プレート101のねじ孔101cにねじ結合している。これにより、第2プレート102および第3プレート103は、第1プレート101に取り外し可能に固定されている。
図5を参照して、第2保持機構92は、スライド装置90に設けられた固定部材106に固定されている。第2保持機構92は、内軸製造用中間体147に設けられた自在継手6を保持するように構成されている。第2保持機構92は、第1保持機構91と同一の構成を有している。したがって、第2保持機構92の各構成要素については、第1保持機構91の対応構成要素と同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。第2保持機構92の第1プレート101および第3プレート103によって、自在継手6のヨーク61のリム61bが挟持されている。
【0050】
上記の構成により、自在継手4,6は、スライド装置90に保持された製造用中間体46,147の傾き変位を許容している。また、スライド装置90は、自在継手4,6を介して、製造用中間体46,147を調芯可能に保持しており、自在継手4,6を介して、製造用中間体46,147に両者の相対摺動のためのスラスト力を付与する。
また、スライド装置90には、製造用中間体46,147を軸方向X1にスライドさせているときの摺動荷重を検出するための荷重検出装置としてのロードセル107が設けられている。ロードセル107は、例えば、ロッド94に取り付けられている。
【0051】
また、スライド装置90には、製造用中間体46,147の温度としての樹脂被膜139の温度を検出するための温度センサ108が設けられている。温度センサ108は、例えば、非接触式の温度センサである。
ロードセル107の荷重検出信号、および温度センサ108の温度検出信号は、制御装置109に入力される。制御装置109は、入力された検出信号に基づいて、駆動機構93を制御する。
【0052】
次に、加熱なじみ工程におけるスライド装置90の動作について説明する。
加熱なじみ工程では、制御装置109は、駆動機構93を駆動することにより、製造用中間体46,147を軸方向X1に相対摺動させ、樹脂被膜139に摩擦熱を付与する。内軸製造用中間体147を外軸製造用中間体46に押し込む動作の際には、駆動機構93のロッド94を、軸方向X1の一方X2(上方)に変位させる。これにより、第1保持機構91の第1プレート101、自在継手4および外軸製造用中間体46は、ロッド94とともに軸方向X1の一方X2側に変位する。このとき、第1保持機構91のうちの第1プレート101が、自在継手4のヨーク61に上向きの力を与えることで、自在継手4が上方に変位する。一方、自在継手6は、第2保持機構92の第1プレート101に受けられる。これにより、内軸製造用中間体147の軸方向X1の一方X2への変位が規制される。
【0053】
また、内軸製造用中間体147に対して外軸製造用中間体46を引っ張る動作の際には、駆動機構93のロッド94を、軸方向X1の他方X3(下方)に変位させる。このとき、第1保持機構91のうちの第3プレート103が、自在継手4のヨーク61の基部61aを軸方向X1の他方X3に押圧する。これにより、外軸製造用中間体46は、ロッド94とともに軸方向X1の他方X3側に変位する。このとき、一方、自在継手6の基部61aが第2保持機構92の第3プレート103に受けられることにより、内軸製造用中間体147は、軸方向X1の他方X3への変位が規制される。
【0054】
上記の動作により、製造用中間体46,147は、繰り返し伸縮動作される。すると、前述したように、外軸および内軸製造用中間体46,147の強制摺動による摩擦熱が生じる。これにより、外軸製造用中間体46に接触する樹脂被膜139の表層部を、樹脂被膜139の樹脂の融点以上の温度に加熱し、融解させる。この加熱状態で樹脂の軟化を促進させつつ樹脂被膜139を、外軸製造用中間体46の内スプライン38になじませる。
【0055】
この加熱なじみ工程の際には、ロッド94には、実際上、静止時の製造用中間体46,147の軸方向X1と異なる方向の力としての意図しない力(例えば、ラジアル力P1)が作用することがある。このような力P1が生じると、図7(A)の模式図に示すように、自在継手4,6が取り付けられた製造用中間体46,147は、駆動機構93でスライドが開始される前の静止状態のときから傾く。その結果、常時、製造用中間体46,147間には、軸方向X1に沿うスラスト力以外の力(意図しない力)が作用することを抑制できる。これにより、樹脂被膜139に、局所的な力が作用することを抑制できる。
【0056】
例えば、図7(B)に示すように、製造用中間体46,147を、自在継手4,6を介することなく直接保持しつつ、製造用中間体46,147をスライドさせるスライド装置90’を考える。このスライド装置90’においては、駆動時の反力等に起因して、製造用中間体46,147間に、軸方向X1に沿うスラスト力以外の力としての意図しないラジアル力P1が作用することがある。このとき、製造用中間体46,147間には、曲げ力が作用し、樹脂被膜139の一部に局所的に大きな力が作用し、樹脂被膜139を平滑にし難い。
【0057】
図8は、加熱なじみ工程における摺動荷重Fと時間TMとの関係を示すグラフ、および内軸製造用中間体147の樹脂被膜139の温度TPと時間TMとの関係を示すグラフである。図8に示すように、スライド装置90を用いた加熱なじみ工程では、時間TM0からのスライド装置90の駆動の開始に伴い、製造用中間体46,147が相対摺動する。これにより、樹脂被膜139の温度TPは、所定時間TM1までは、時間の経過と共に上昇する。このとき、樹脂被膜139は、外軸製造用中間体46との摺動により、熱を帯びながら、表面が均されていく。これにより、摺動抵抗、すなわち摺動荷重Fは、次第に低下していく。
【0058】
摺動荷重Fが低下していくと、製造用中間体46,147間のスライド動作がスムーズになり、発熱量が低下する。すると、樹脂被膜139の温度TPは、所定時間TM1で所定温度としての最高温度TP1まで上昇した後、低下していく。樹脂被膜139の温度TPが最高温度TP1を超えた後で、摺動荷重Fが所定荷重F1を下回ったとき(時間TM2のとき)、樹脂被膜139の表面は、十分に平滑になった状態となっている。このとき、加熱なじみ工程を完了する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、加熱なじみ工程では、スライド装置90によって、製造用中間体46,147を調芯可能に保持している。すなわち、製造用中間体46,147の中心軸線L1,L2が一致している状態を変化させる力が各製造用中間体46,147に作用することを抑制するように、各製造用中間体46,147を、軸方向X1以外の方向に向けて変位可能に保持している。これにより、曲げ力など、スラスト力以外の力としての意図しない力(例えば、ラジアル力P1)が各製造用中間体46,147に作用することを抑制できる。
【0060】
この状態で、なじみ工程を行うことで、樹脂被膜139の表面139aのうち、相手側の外軸製造用中間体46と接触している部分の全面を、均等に外軸製造用中間体46の表面に摺接させる(なじませる)ことができる。しかも、加熱なじみ工程では、各製造用中間体46,147の間にグリース48を介在させている。これにより、加熱なじみ工程において、樹脂被膜139の表面に作用する摩擦抵抗が必要以上に大きくなることを抑制できる。
【0061】
したがって、摩擦熱による樹脂被膜139の軟化や、樹脂被膜139に生じるせん断応力に起因する、ころ状の摩耗分の発生を抑制でき、摩耗粉が樹脂被膜139を荒らすことを抑制できる。加熱なじみ工程における、製造用中間体46,147の調芯保持による効果と、グリース48を介在させる効果とが相俟って、樹脂被膜139の表面139aを、極めて滑らかに仕上げることができる。
【0062】
その上、加熱なじみ工程において、樹脂被膜139の摩擦熱を低くできるので、ころ状の摩耗粉の発生を抑制しつつ、各製造用中間体46,147をより高速で相対摺動できる。これにより、加熱なじみ工程を短時間で完了できるので、中間軸5を、より効率よく製造できる。
さらに、加熱なじみ工程に先立ち、調芯機能を有する第1および第2保持機構91,92に製造用中間体46,147を取り付けるので、各製造用中間体46,147を精度よく位置決めして保持する必要がない。よって、スライド装置90に各製造用中間体46,147を取り付ける時間を短くできる。これにより、樹脂被膜139の仕上げにかかる時間を短くでき、中間軸5を、より効率よく製造できる。
【0063】
また、加熱なじみ工程では、自在継手4,6を介して製造用中間体46,147を調芯可能に保持している。これにより、加熱なじみ工程において、各軸の製造用中間体46,147を相対摺動させるときに、軸方向X1のスラスト力以外の力(ラジアル力F1等の意図しない力)が各製造用中間体46,147に作用しようとしたときに、製造用中間体46,147が傾くようになっている。これにより、加熱なじみ工程において、上記の意図しない力が各軸の製造用中間体46,147に作用することを確実に抑制できる。
【0064】
このように、2つの自在継手4,6を用いるという簡易な構成で、加熱なじみ工程において、上記の意図しない力が製造用中間体46,147に作用することを確実に抑制できる。また、車両用操舵装置1の中間軸5のように、内軸35の一端部および外軸36の一端部のそれぞれに自在継手4,6を備える動力伝達軸を製造する際には、この自在継手4,6を用いて、製造用中間体46,147を調芯可能に保持できる。これにより、加熱なじみ工程において、製造用中間体46,147を調芯可能に保持するための専用部品の数を少なくできる。また、製造用中間体46,147を調芯可能に保持するための設備を小型にできる。
【0065】
さらに加熱なじみ工程は、各製造用中間体46,147の温度TPが最高温度TP1を超えた後で、且つ各製造用中間体46,147の摺動荷重Fが所定荷重F1を下回ったときに完了する。
加熱なじみ工程では、製造用中間体46,147の相対摺動を開始すると、まず、各製造用中間体46,147の摺動摩擦によって製造用中間体46,147の温度が上昇する。そして、上記相対摺動を継続することにより、樹脂被膜139の表面が内軸製造用中間体147の内表面になじむ。これにより、各製造用中間体46,147の摺動抵抗が低下する。また、各製造用中間体46,147の摺動抵抗が低下することに伴い、各製造用中間体46,147の温度TPも低下する。このように、各製造用中間体46,147の温度TPが最高温度TP1を超えた後で、且つ各製造用中間体46,147の摺動荷重Fが所定荷重F1を下回ったタイミングで加熱なじみ工程を完了することで、加熱なじみ工程を適切なタイミングで完了できる。
【0066】
また、加熱なじみ工程において、グリース48を塗布している。これにより、中間軸5の使用時に必要なグリース48を用いて、製造用中間体46,147の摺動抵抗を低減できる。これにより、加熱なじみ工程において、各軸の製造用中間体46,147の摺動抵抗を低減するための潤滑剤を別途用意する必要がなく、中間軸5の製造コストを低減できる。
【0067】
以上より、中間軸5の周方向のがたつきを少なくでき、且つ、この中間軸5の伸縮動作をスムーズに行える。これにより、静粛性に優れ、且つ、操舵フィーリングに優れる車両用操舵装置1を実現できる。
また、自在継手4を第1保持機構91に取り付け、自在継手6を第2保持機構92に取り付ける簡易な作業で、製造用中間体46,147をスライド装置90に容易にセットできる。
【0068】
また、樹脂被膜139の表面139aに溝52を設けておくことより、前述の摩耗粉を溝52内に取り込むことができる。したがって、摩耗粉の巨大化によって樹脂被膜139の表面139aに異常摩耗が生じることがない。すなわち表面139aを荒らすことがないので、樹脂被膜139の表面139aを比較的平滑な状態で相手方にフィットさせることができる。
【0069】
したがって、外スプライン37および内スプライン38の歯面37a,38a間の実質的な接触面積を増加させることができ、その結果、摺動性に優れ且つ耐久性に優れたスプライン伸縮軸としての中間軸5を実現できる。また、中間軸5の使用時には、溝52が潤滑剤溜まりとして機能するので、良好な潤滑状態を長期に維持することができる。
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態では、スライド装置90に自在継手4,6を介して製造用中間体46,147を取り付けたけれども、これに限定されない。製造用中間体46,147は、傾き変位、または軸方向X1と直交する方向の変位が可能なようにスライド装置90に取り付けられているのがよい。例えば、ロッド94の中間部に自在継手を設けてもよい。また、加熱なじみ工程において、自在継手4,6に代えて、球面継手やオルダム継手を用いてもよい。
【0071】
また、スライド装置90の第1保持機構91に代えて、第2保持機構92を軸方向X1に駆動してもよいし、第1および第2保持機構91,92の双方を軸方向X1に駆動してもよい
上記実施形態では、内軸の外スプラインに樹脂被膜を形成する例に則して説明したが、これに限らない。外軸の内スプラインの少なくとも歯面に樹脂被膜を形成するようにしてもよい。この場合、外軸の製造用中間体の内スプラインに形成された樹脂層を削って樹脂被膜を成形するときに、内軸の製造用中間体を用いて上記樹脂層を加熱なじみ処理を行うことになる。
【0072】
また、上記の実施形態では、動力伝達軸として、車両用操舵装置1の中間軸5を例に説明したけれども、他の装置の動力伝達軸に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…車両用操舵装置、4…自在継手(第1継手)、5…中間軸(動力伝達軸)、6…自在継手(第2継手)、35…内軸、36…外軸、37…外スプライン、38…内スプライン、46…外軸製造用中間体、48…グリース(潤滑剤)、139…樹脂被膜、139a…樹脂被膜の表面、147…内軸製造用中間体、F…摺動荷重、F1…所定荷重、L1…(外軸の製造用中間体の)中心軸線、L2…(内軸の製造用中間体の)中心軸線、TP…製造用中間体の温度、TP1…最高温度(所定温度)、X1…軸方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に外スプラインが設けられた内軸と、前記外スプラインに摺動可能に噛み合う内スプラインが内周に設けられた筒状の外軸と、前記外スプラインおよび前記内スプラインの少なくとも一方に設けられた樹脂被膜と、を含む動力伝達軸の製造方法において、
前記内軸の製造用中間体の中心軸線と、前記外軸の製造用中間体の中心軸線とを一致させつつ、各前記製造用中間体を調芯可能に保持した状態で、各前記製造用中間体を軸方向に相対摺動することにより、前記樹脂被膜の表面をなじみ加工するなじみ工程を備え、
前記なじみ工程では、各前記製造用中間体の間に潤滑剤を介在させていることを特徴とする動力伝達軸の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記外軸の製造用中間体の一端部および前記内外軸の製造用中間体の一端部には、それぞれ第1および第2継手が取り付けられており、
前記第1および第2継手は、各前記製造用中間体の傾き変位を許容する継手であり、
前記なじみ工程では、前記第1および第2継手を介して各前記製造用中間体に相対摺動のための荷重を付与することを特徴とする動力伝達軸の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記第1および第2継手は、それぞれ、自在継手を含むことを特徴とする動力伝達軸の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項において、前記なじみ工程は、各前記製造用中間体の温度が所定温度を超えた後で、且つ各前記製造用中間体の摺動荷重が所定荷重を下回ったときに完了することを特徴とする動力伝達軸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、前記潤滑剤は、グリース、またはグリースの基油を含むことを特徴とする動力伝達軸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の動力伝達軸の製造方法によって形成された動力伝達軸を備えることを特徴とする車両用操舵装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−197838(P2012−197838A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61470(P2011−61470)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】