説明

動力断続装置

【課題】アクチュエータをキャリヤ外に設けて標準品との互換性を高め、障害物との衝突などの恐れも抑制して信頼性を向上させ、且つ占有スペースも小さくすることを可能とする。
【解決手段】キャリヤ81に回転自在に支持されたデフ・ケース65に動力伝達用の第1の軸95を備えた動力断続装置であって、第1の軸95のデフ・ケース65から突出した端部に支持部101を延設し、この支持部101に、断続用のクラッチ・リング89を支持し、支持部101に隣接する第2の軸97に、クラッチ・リング89に軸方向に対向するフランジ部109を設け、クラッチ・リング89及びフランジ部109間に、クラッチ・リング89の移動により結合を断続するトルク断続クラッチ85を設け、クラッチ・リング89を断続移動させるソレノイド・アクチュエータ135を支持部101の外周に配置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに供される動力断続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の動力断続装置として、特許文献1に記載されたスプリット型車軸駆動機構がある。このスプリット型車軸駆動機構は、フロント・デファレンシャル装置の差動装置ケース外へ突出するスタブ軸と車輪側への延長シャフトとの間に断続部としてクラッチを設けたものである。
【0003】
クラッチを動作させるアクチュエータは、差動装置ケースを回転自在に支持するキャリヤ外に設けられ、ロッド及びフォークを介してクラッチを動作させる構成となっている。したがって、アクチュエータの動作によりクラッチ・リングが移動してクラッチを接続させ、スタブ軸と延長シャフとの間の動力伝達を行わせ、4WDでの走行を可能とする。
【0004】
アクチュエータの動作を停止させるとクラッチ・リングの戻り移動によりクラッチが遮断され、2WDでの走行を可能とする。
【0005】
しかし、アクチュエータをキャリヤ外に設けるため、キャリヤ等が専用の設計となり、クラッチを備えない標準品との互換性が阻止されるという問題があった。
【0006】
また、アクチュエータが外付けであると、障害物との衝突などの恐れもあって信頼性が低下し、且つキャリヤ外での占有スペースも増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−135320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、アクチュエータをキャリヤ外に設けるため、キャリヤ等が専用の設計となり、断続部を備えない標準品との互換性が阻止され、また、障害物との衝突などの恐れもあって信頼性が低下し、且つキャリヤ外での占有スペースも増大する点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アクチュエータをキャリヤ内に設けて標準品との互換性を高め、障害物との衝突などの恐れも抑制して信頼性を向上させ、且つ占有スペースも小さくすることを可能とするため、キャリヤに回転自在に支持された動力伝達装置の回転軸とこの回転軸に対する回転部材の結合を断続する動力断続装置であって、前記動力伝達装置から突出した前記回転軸の端部又は前記回転部材との一方に支持部を延設し、この支持部に、断続用の可動体を支持し、前記支持部に隣接する前記回転部材又は回転軸に、前記可動体に対し軸方向に対向する対向部を設け、前記可動体及び対向部間に、前記可動体の移動により結合を断続する断続部を設け、前記可動体を断続移動させるアクチュエータを前記支持部の外周に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記構成であるから、アクチュエータを支持部の外周側に配置し、キャリヤ等の変更を抑制してアクチュエータ及び断続部を備えない標準品との互換性を高めることができる。障害物との衝突などの恐れも抑制して信頼性を向上させ、且つアクチュエータを支持部の外周に配置したから占有スペースも小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両のスケルトン平面図である。(実施例1)
【図2】フロント・デファレンシャル装置周辺を示す拡大断面図である。(実施例1)
【図3】クラッチ筒体の断面図である。(実施例1)
【図4】クラッチ・リングの断面図である。(実施例1)
【図5】クラッチ筒体の突歯を歯溝と共に示す正面図である。(実施例1)
【図6】クラッチ・リングの突歯を歯溝と共に示す正面図である。(実施例1)
【図7】クラッチ筒体及びクラッチ・リングの離脱及び噛合いを示す側面図である。(実施例1)
【図8】クラッチ筒体及びクラッチ・リングの離脱及び噛合いを示す要部側面図である。(実施例1)
【図9】フロント・デファレンシャル装置周辺を示す拡大断面図である。(実施例2)
【図10】フロント・デファレンシャル装置周辺を示す拡大断面図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0012】
アクチュエータをキャリヤ内に設けて標準品との互換性を高め、障害物との衝突などの恐れも抑制して信頼性を向上させ、且つキャリヤ外での占有スペースも小さくすることを可能にするという目的を、キャリヤに回転自在に支持されたフロント・デファレンシャル装置から突出した回転軸とこの回転軸に対する回転部材の結合を断続する動力断続装置であって、前記フロント・デファレンシャル装置から突出した前記回転軸の端部に支持部を延設し、この支持部に、断続用の可動体を支持し、前記支持部に隣接する回転部材に、前記可動体に軸方向に対向する対向部を設け、前記可動体及び対向部間に、前記可動体の移動により結合を断続する断続部を設け、前記可動体を断続移動させるソレノイド・アクチュエータを前記支持部の外周に配置したことにより実現した。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る動力断続装置の配置を示し、縦置きフロントエンジン・リヤ・ドライブベース(FRベース)の四輪駆動車のスケルトン平面図である。
【0014】
図1のように、四輪駆動車1は、エンジン3、モーター・ジェネレーター4、トランスミッション5、トランスファ7、リヤ・デファレンシャル装置9、動力伝達装置としてのフロント・デファレンシャル装置11、動力断続装置としてのアクスル・ディス・コネクト機構13を備えている。
【0015】
トランスファ7は、出力駆動軸15がトランスミッション5の出力側部に結合され、この出力駆動軸15にスプロケット17が回転自在に支持されている。このスプロケット17及び出力駆動軸15間にフロント側断続機構18が設けられている。
【0016】
すなわち、スプロケット17には、クラッチ・ギヤ19が一体に設けられている。出力駆動軸15には、クラッチ・ギヤ21が固定され、カップリング・スリーブ23の移動によってクラッチ・ギヤ19,21間の結合の断続が行われる。カップリング・スリーブ23は、ソレノイドなどの電磁アクチュエータ25により駆動されるようになっている。
【0017】
トランスファ7には、出力駆動軸15と平行に伝動軸27が支持され、この伝動軸27にスプロケット29が固定されている。スプロケット29には、スプロケット17との間にチェーン31が掛け回されている。
【0018】
トランスファ7の出力駆動軸15は、プロペラ・シャフト33を介してドライブ・ピニオン・シャフト35に結合され、ドライブ・ピニオン・シャフト35のドライブ・ピニオン・ギヤ37がリヤ・デファレンシャル装置9のリング・ギヤ39に噛み合っている。
【0019】
リヤ・デファレンシャル装置9には、左右の車軸41,43を介して後輪45,47が連動連結されている。
【0020】
トランスファ7の伝動軸27は、プロペラ・シャフト49を介してドライブ・ピニオン・シャフト51側に結合されている。ドライブ・ピニオン・シャフト51のピニオン・ギヤ53は、フロント・デファレンシャル装置11のリング・ギヤ55に噛み合っている。
【0021】
フロント・デファレンシャル装置11には、一方において車軸57を介し前輪59が連動連結され、他方においてアクスル・ディス・コネクト機構13を介設した車軸61を介し前輪63が連動連結されている。このアクスル・ディス・コネクト機構13により、車軸61を分断・接続することができる。
【0022】
したがって、エンジン3又はエンジン3及びモーター・ジェネレーター4の出力が、トランスミッション5から、一方では、出力駆動軸15を介し直結状態でトルクが伝達される。すなわち、出力駆動軸15、プロペラ・シャフト33、ドライブ・ピニオン・シャフト35、ドライブ・ピニオン・ギヤ37、リング・ギヤ39を介してリヤ・デファレンシャル装置9へトルク伝達を行うことができる。
【0023】
リヤ・デファレンシャル装置9からは、左右の車軸41,43を介して左右の後輪45,47へ出力することができる。
【0024】
また、他方では、クラッチ・ギヤ19,21がカップリング・スリーブ23により結合され、アクスル・ディス・コネクト機構13が車軸57接続状態であると、出力駆動軸15からスプロケット17、チェーン31、スプロケット29、伝動軸27、プロペラ・シャフト49、ドライブ・ピニオン・シャフト51、ドライブ・ピニオン・ギヤ53、リング・ギヤ55を介してフロント・デファレンシャル装置11へトルクが伝達される。
【0025】
フロント・デファレンシャル装置11からは、左右の車軸57,61を介して左右の前輪59,63へ出力することができる。
【0026】
アクスル・ディス・コネクト機構13により車軸57が分断されると、フロント・デファレンシャル装置11から左右の前輪59,63へのトルク伝達はなされない。
【0027】
このとき、電磁アクチュエータ25の駆動によりにカップリング・スリーブ23を移動させ、クラッチ・ギヤ19,21間の結合を遮断すると、トランスファ7及びフロント・デファレンシャル装置11間のスプロケット17、チェーン31、スプロケット29、伝動軸27、プロペラ・シャフト49、ドライブ・ピニオン・シャフト51、ドライブ・ピニオン・ギヤ53、リング・ギヤ55等の回転停止を行わせ、無駄な駆動を避けることができる。
【0028】
したがって、アクスル・ディス・コネクト機構13の断続制御により、二輪駆動(2WD)及び四輪駆動(4WD)を選択的に行うことができる。
【0029】
図2は、動力伝達装置であるフロント・デファレンシャル装置周辺を示す拡大断面図である。
【0030】
図2のように、フロント・デファレンシャル装置11は、デフ・ケース65外にリング・ギヤ55がボルト57により固定され、デフ・ケース65内にピニオン・シャフト67を介してピニオン・ギヤ69,71が回転自在に支持されている。ピニオン・ギヤ69,71には、左右のサイド・ギヤ73,75が噛合い、両サイド・ギヤ73,75に車軸57,61側の動力伝達用の中間軸77,79がスプライン嵌合している。
【0031】
デフ・ケース65は、キャリヤ81に軸受83(図2では一方のみ示す。)により回転自在に支持されている。キャリヤ81には、アクチュエータ収容部81aが形成されている。
【0032】
一方の中間軸79には、前記アクスル・ディス・コネクト機構13が介設され、このアクスル・ディス・コネクト機構13は、トルク断続クラッチ85の相対回転可能な一対の回転体としてクラッチ筒体87及び可動体としてクラッチ・リング89を備えている。トルク断続クラッチ85は、可動体であるクラッチ・リング89の移動により結合を断続する断続部を構成する。
【0033】
クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89の対向面相互には、周方向に所定間隔で突歯91,93を備えている。クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89の回転軸芯方向への相対移動により突歯91,93を係脱させ、クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89間の回転連動遮断を行う。
【0034】
さらに説明すると、中間軸79は、第1,第2の軸95,97とに分断され、第1の軸95にクラッチ・リング89が結合され、第2の軸97にクラッチ筒体87が結合されている。第1の軸95は、デフ・ケース65から突出した動力伝達装置の回転軸を構成し、第2の軸97は、回転軸である第1の軸95の支持部(後述)に隣接する回転部材を構成している。
【0035】
デフ・ケース65から突出した第1の軸95の端面には、径の細い連携軸部99が突設され、端部外周に支持部101が一体に形成されている。支持部101は、キャリヤ81のアクチュエータ収容部81a内に臨んでいる。
【0036】
支持部101には、クラッチ・リング89用のスライド噛合い受け部103が形成されている。スライド噛合い受け部103は、周方向所定間隔で複数形成されている。このスライド噛合い受け部103に隣接してアクチュエータ嵌合部105が形成されている。
【0037】
図3は、クラッチ筒体の断面図である。
【0038】
図2、図3のように、クラッチ筒体87は、中間壁107を挟んで一側にフランジ部109が設けられ、他側に筒部111が設けられている。フランジ部109は、可動体に軸方向に対向する対向部を構成している。フランジ部109の対向面に前記突歯91が形成されている。フランジ部109内周側及びフランジ部109隣接外周部には、軸受嵌合部112,113が形成されている。筒部111の内周には、インナー・スプライン115が形成されている。
【0039】
このクラッチ筒体87は、内周側の軸受嵌合部112に嵌合する軸受117により第1の軸95を連れ持ち支持し、外周側の軸受嵌合部113に嵌合する軸受119によりハウジング121に回転自在に支持されている。ハウジング121は、デフ・キャリヤ81のアクチュエータ収容部81aに取り付けられている。ハウジング121には、配線用の貫通部122が形成されている。
【0040】
クラッチ筒体87の筒部111では、第2の軸97のスプライン123がインナー・スプライン115にスプライン係合し、止め輪125で抜け止めが行われている。クラッチ筒体87の筒部111及び第2の軸97の結合部周辺は、カバー127で覆われ、カバー127は、ハウジング121に結合されている。
【0041】
図4は、クラッチ・リングの断面図である。
【0042】
図2、図4のように、クラッチ・リング89は、対向面に前記突歯93が形成され、内周にスライド噛合い部129が突設されている。
【0043】
スライド噛合い部129は、第1の軸95のスライド噛合い受け部103に係合し、クラッチ筒体87側との間で軸方向移動可能となっている。
【0044】
クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89間には、ウェーブ・スプリング133が介設され、クラッチ・リング89が噛合い離脱方向へ付勢されている。
【0045】
図2のように、第1の軸95の支持部101の周囲の外周には、クラッチ・リング89を断続移動させるアクチュエータとしてソレノイド・アクチュエータ135が配置され、キャリヤ81のアクチュエータ収容部81a内に収容されている。
【0046】
ソレノイド・アクチュエータ135は、ソレノイド137とプランジャ139とを備え、クラッチ・リング89を軸方向に押圧移動させる構成となっている。
【0047】
ソレノイド137は、電流制御に応じた電磁力を発生するもので、ヨーク141とコイル143とからなっている。ヨーク141は、キャリヤ81のソレノイド固定部145に一体に形成されている。コイル143は、ヨーク141に固定支持されている。
【0048】
ヨーク141は、キャリヤ81と共に磁性体で構成され支持部101の軸芯周りに周回形状に形成配置された固定鉄心であり、支持部101と同心状に配置されている。このヨーク141には、吸引壁146が一体的に結合されて固定鉄心を構成している。この吸引壁146に、磁性体の吸引部147が形成されている。
【0049】
このソレノイド137は、コネクタ148からハーネスを介してコントローラ側に接続されている。コネクタ148は、ハウジング121の貫通部122からグロメット149を介してハウジング121外へ突出配置されている。
【0050】
プランジャ139は、クラッチ・リング89を断続移動させる動作部として周回形状に形成され、ヨーク141の内周側に配置され、クラッチ・リング89側に軸方向移動可能に支持された可動鉄心である。このプランジャ139は、磁性体の磁力作用部150と非磁性体の連係作用部151とから成っている。連係作用部151は、磁力作用部150に溶接、或いは圧入等によって一体、又は一体的に形成されている。
【0051】
連係作用部151は、支持部101のアクチュエータ嵌合部105外周に嵌合支持されている。したがって、アクチュエータの動作部であるプランジャ139が、支持部101の外周に直接支持された構成となっている。
【0052】
連係作用部151は、クラッチ・リング89側の先端が櫛歯凹凸形状に形成されている。この連係作用部151の先端が、支持部101のスライド噛合い受け部103の周方向間からクラッチ・リング89のスライド噛合い部129に当接し、クラッチ・リング89を押圧移動させるようになっている。このクラッチ・リング89は、ストッパー・リング152により反押圧移動側への移動が規制される。磁力作用部150の端部外周には、吸引部147に対向する緩斜面のテーパ部が形成されている。
【0053】
したがって、ソレノイド137に通電されると、ヨーク141、吸引壁147及びプランジャ139の磁力作用部150に渡って磁束が形成される。
【0054】
この磁束形成により、磁力作用部150が吸引部147に吸引され、プランジャ139が軸方向に移動する。
【0055】
このプランジャ139の移動によって、連係作用部150がクラッチ・リング89を押圧移動させる。この押圧移動によりクラッチ・リング89がウェーブ・スプリング133の付勢力に抗して移動する。
【0056】
クラッチ・リング89の移動によって、トルク断続クラッチ85の突歯91,93が噛み合い、第1,第2の軸95,97が一体回転可能に結合される。この結合によって、フロント・デフ11から第1の軸95へ分配出力された動力は、トルク断続クラッチ85を介して第2の軸97へ伝達される。
【0057】
この動力伝達により、前記のようにフロント・デフ11によって前輪59,63側へ動力が分配出力され、4WDでの走行が可能となる。
【0058】
ソレノイド137への通電制御が停止されると、吸引部147による磁力作用部150の吸引がなくなり、ウェーブ・スプリング133の付勢力によってクラッチ・リング89が元の位置へ付勢され、トルク断続クラッチ85の噛み合いが解除される。
【0059】
この噛合い解除により、第1,第2の軸95,97が切り離され、フロント・デフ11から前輪59,63側へ動力伝達は行われず、上記のように2WDでの走行が可能となる。
【0060】
図5は、クラッチ筒体の突歯を歯溝と共に示す正面図、図6は、クラッチ・リングの突歯を歯溝と共に示す正面図、図7は、クラッチ筒体及びクラッチ・リングの離脱及び噛合いを示す側面図である。
【0061】
図5、図7のように、回転体の一方であるクラッチ筒体87に、回転軸芯方向の突出高さが他の突歯91よりも低く突出する突状の突当て部153を突歯91に対し回転方向の位相をずらして設けている。
【0062】
すなわち、2枚分の隣接する突歯を切除し、その中央である元の歯溝の部分に突当て部153を形成する。切除する突歯は、少なくとも2枚であり、切除する突歯を増やして突当て部153を形成することもできる。
【0063】
このため、突当て部153と両側の突歯91との間隔155は、歯溝157よりも広くなっている。間隔155の底部側には、自然アールR1が形成され、歯溝157には、自然アールR2が形成されている。
【0064】
この突当て部153は、周方向3箇所に等間隔で設定されている。この突当て部153は、少なくとも3箇所に設定されれば良く、伝達トルクに応じて設定箇所を増やすこともできる。また、突き当て部153は、クラッチ・リング89側に形成することもできる。
【0065】
突歯91及び突当て部153の先端は、平坦に形成されている。
【0066】
図6、図7のように、クラッチ・リング89の突歯93は、相手側の突歯91に噛合うように一定間隔で形成されている。歯溝163には、自然アールR3が形成されている。
【0067】
突歯93の先端も、平坦に形成されている
なお、突当て部153は、突歯91に対し、回転方向の位相をずらした位置に設ければよいので、突状に形成することなく、突歯91間全体の面として形成することもできる。
【0068】
また、突当て部153は、位相をずらさずに、従来のドグ・クラッチにおいて、同じ回転体の一部の歯溝を除き、他の歯溝の歯底を深く形成することで、相対的に浅くなった歯底を突当て部とすることも可能である。
【0069】
そして、図7の下段図(4WD)のように、クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89相互の突歯91,93の噛合い係合位置で、突当て部153を他方の突歯93先端の何れかに突き当ててクラッチ筒体87及びクラッチ・リング89相互の回転軸芯方向での突き当てを行わせる。
【0070】
このとき、突歯91,93相互は、歯の側面で回転方向に係合する。
【0071】
したがって、電磁石129に通電すると前記のようにクラッチ・リング89が移動してクラッチ筒体87に図7下段のように噛合い、通電が解除されるとウェーブ・スプリング133の付勢力でクラッチ・リング89の移動が戻され、図7上段(2WD)のように離脱する。
【0072】
クラッチ・リング89がクラッチ筒体87に対して相対回転しながら噛合い移動するときでも、クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89の突歯91,93の歯丈は、均一であり、突当て部153の丈は、突歯91の歯丈よりも低いため、突当て部153等が欠けるようなこともない。
【0073】
また、クラッチ・リング89は、歯丈均一の突歯93が等間隔で形成されているため、クラッチ筒体87に対する任意の噛合い位置でと突当て部153に何れかの突歯93を突き当てることができる。
【0074】
図8は、実施例に係るクラッチ筒体及びクラッチ・リングの離脱及び噛合いを示す要部側面図である。
【0075】
本発明実施例の図8では、2WDから4WDヘ移行すると、突当て部153が突歯93の何れかに突き当りながら両突歯91,93の噛合いが行われる。
【0076】
このため、クラッチ筒体87及びクラッチ・リング89相互間の突き当て箇所を減少させることができ、寸法精度を確保する箇所を減少させることができる。
【0077】
また、突歯91,93相互の歯丈方向の噛合い高さが調整され、突歯91,93と歯溝163,157との間に自然アールR3,R2による隙間が形成される。このため、歯溝163,157から潤滑オイルが排除され易く、且つ結合離脱の際に歯先と歯溝の底との間で潤滑オイルによる粘性抵抗を受け難くすることができる。
[実施例の効果]
本発明の実施例では、キャリヤ81に回転自在に支持されたデフ・ケース65に動力伝達用の第1の軸95を備えたアクスル・ディス・コネクト機構13であって、第1の軸95のデフ・ケース65から突出した端部に支持部101を延設し、この支持部101に、断続用のクラッチ・リング89を支持し、支持部101に隣接する第2の軸97に、クラッチ・リング89に軸方向に対向するフランジ部109を設け、クラッチ・リング89及びフランジ部109間に、クラッチ・リング89の移動により結合を断続するトルク断続クラッチ85を設け、クラッチ・リング89を断続移動させるソレノイド・アクチュエータ135を支持部101の外周に配置した。
【0078】
このため、ソレノイド・アクチュエータ135をキャリヤ81内に配置し、ソレノイド・アクチュエータ135及びトルク断続クラッチ85を備えない標準品との互換性を高めることができる。ソレノイド・アクチュエータ135の障害物との衝突などの恐れも抑制して信頼性を向上させ、且つソレノイド・アクチュエータ135を支持部101の外周に配置したから占有スペースも小さくすることが可能となる。
【0079】
ソレノイド・アクチュエータ135は、クラッチ・リング89を断続移動させるプランジャ139を有し、このプランジャ139の内周側を、支持部101のアクチュエータ嵌合部105外周に直接支持させた。
【0080】
このため、第1の軸95とプランジャ139との軸振れが抑制され、プランジャ139によるクラッチ・リング89の押圧動作を迅速且つ的確に行わせることができる。
【実施例2】
【0081】
図9は、実施例2に係るフロント・デファレンシャル装置周辺を示す拡大断面図である。なお、基本的な構成は、実施例1と同様であり、同一構成部分には同符号を付し、対応する構成部分には、同符号にAを付して説明し、重複した説明は省略する。
【0082】
図9のように、本実施例のアクスル・ディス・コネクト機構13Aでは、ソレノイド・アクチュエータ135Aのヨーク141Aをキャリヤ81Aと別体に形成した。
【0083】
ヨーク141Aは、キャリヤ81Aの嵌合部145Aに圧入配置されている。嵌合部145Aには、ストッパー部145Aaが内周側に突設され、ヨーク141Aを軸方向に位置決めている。
【0084】
この配置により、ソレノイド・アクチュエータ135Aを支持部101の周囲に配置した構成となっている。
【0085】
本実施例では、クラッチ筒体87を支持するハウジングが設けられず、アクチュエータ収容部81Aaにカバー127Aが直接結合されている。クラッチ筒体87は、カバー127Aに支持されている。
【0086】
こうして、本実施例においても、実施例1同様の作用効果を奏することができる。
【0087】
また、本実施例では、キャリヤ81Aを非磁性体のアルミ合金などにより形成することが可能となる。
【実施例3】
【0088】
図10は、実施例3に係るフロント・デファレンシャル装置周辺を示す拡大断面図である。なお、基本的な構成は、実施例1と同様であり、同一構成部分には同符号を付し、対応する構成部分には、同符号にBを付して説明し、重複した説明は省略する。
【0089】
図9のように、本実施例のアクスル・ディス・コネクト機構13Bでは、ソレノイド・アクチュエータに代えてアクチュエータをダイヤフラム式アクチュエータ135Bとした。
【0090】
ダイヤフラム式アクチュエータ135Bは、クラッチ・リング89の背後でアクチュエータ嵌合部105に遊嵌配置されている。
【0091】
ダイヤフラム式アクチュエータ135Bは、ダイヤフラム・ケース164内に、動作部としてダイヤフラム165及びこのダイヤフラム165に取り付けられた当接部167を備えて構成されている。
【0092】
ダイヤフラム・ケース164は、周方向2か所程度に設けられたブラケット169がボルト171によりキャリヤ81B側に締結されてその固定が行われている。
【0093】
この固定によりアクチュエータであるダイヤフラム式アクチュエータ135Bを、支持部101のアクチュエータ嵌合部105外周に配置した構成となっている。
【0094】
ダイヤフラム式アクチュエータ135Bの配管173は、カバー127Bの通部122Bを介して外部へ配索され、エア供給源に給排制御可能に接続されている。
【0095】
本実施例では、クラッチ筒体87を支持するハウジングが設けられず、アクチュエータ収容部81Baにカバー127Bが直接結合されている。クラッチ筒体87は、カバー127Bに支持されている。
【0096】
そして、ダイヤフラム式アクチュエータ135Bへのエアの供給制御により、ダイヤフラム165の撓み動作を介して当接部167がクラッチ・リング89を押圧移動させる。このクラッチ・リング89の移動により、上記同様に2WDから4WDへの切り替えを行わせることができる。ダイヤフラム式アクチュエータ135Bへのエアの排出制御により、ラッチ・リング89の移動が戻され、4WDから2WDへの切り替えを行わせることができる。
【0097】
こうして、本実施例においても、実施例1同様の作用効果を奏することができる。
【0098】
なお、図10では、ダイヤフラム・ケース164の内周とアクチュエータ嵌合部105との間に隙間を形成しているが、ダイヤフラム・ケース164の内周をアクチュエータ嵌合部105の外周に相対回転可能に嵌合支持させることで、動作部であるダイヤフラム165及び当接部167を支持部101の外周に間接に支持させる構成にすることもできる。
【0099】
この支持により、第1の軸95とダイヤフラム165及び当接部167との間の軸振れを抑制し、クラッチ・リング89の押圧動作を迅速且つ的確に行わせることができる。
【0100】
また、本実施例では、キャリヤ81Bを磁性体、非磁性体の何れでも形成することができる。
[その他]
なお、支持部101をクラッチ筒体87側に形成し、ソレノイド・アクチュエータ135,135Aのソレノイド137をハウジング121側に固定支持させ、プランジャ139をクラッチ筒体87外周の支持部に嵌合支持させることもできる。同様に、ダイヤフラム式アクチュエータ135Bをカバー127Bに固定し、ダイヤフラム・ケース164をクラッチ筒体87外周に配置する構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0101】
11 フロント・デファレンシャル装置(動力伝達装置)
13,13A,13B アクスル・ディス・コネクト機構(動力断続装置)
65 デフ・ケース
81,81A,81B キャリヤ
87 クラッチ筒体
89 クラッチ・リング(可動体)
95 第1の軸(回転軸)
97 第2の軸(回転部材)
101 支持部
109 フランジ部(対向部)
135,135A ソレノイド・アクチュエータ(アクチュエータ)
135B ダイヤフラム式アクチュエータ(アクチュエータ)
139 プランジャ(動作部)
165 ダイヤフラム(動作部)
167 当接部(動作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリヤに回転自在に支持された動力伝達装置の回転軸とこの回転軸に対する回転部材の結合を断続する動力断続装置であって、
前記動力伝達装置から突出した前記回転軸の端部又は前記回転部材との一方に支持部を延設し、
この支持部に、断続用の可動体を支持し、
前記支持部に隣接する前記回転部材又は回転軸に、前記可動体に対し軸方向に対向する対向部を設け、
前記可動体及び対向部間に、前記可動体の移動により結合を断続する断続部を設け、
前記可動体を断続移動させるアクチュエータを前記支持部の外周に配置した、
ことを特徴とする動力断続装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力断続装置であって、
前記アクチュエータは、前記可動体を断続移動させる動作部を有し、
この動作部の内周側を、前記支持部の外周に直接又は間接に支持させた、
ことを特徴とする動力断続装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力断続装置であって、
前記動力伝達装置は、デフ・ケース内部にデファレンシャル・ギヤを備えたデファレンシャル装置であり、
前記回転軸は、前記デファレンシャル・ギヤに結合されている、
ことを特徴とする動力断続装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の動力断続装置であって、
前記アクチュエータは、ソレノイド・アクチュエータ又はダイヤフラム式アクチュエータである、
ことを特徴とする動力断続装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の動力断続装置であって、
前記断続部は、ドグ・クラッチである、
ことを特徴とする動力断続装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−193780(P2012−193780A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57043(P2011−57043)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】