説明

化合物半導体装置及びその製造方法

【課題】比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、所期のノーマリ・オフを実現する。
【解決手段】化合物半導体層が電子走行層2、中間層3、電子供給層4、及びキャップ層5を有して構成され、キャップ層5上にゲート絶縁膜9を介してゲート電極15が形成されており、ゲート絶縁膜9は、キャップ層5の表面に酸素プラズマが照射されて形成されたGa23を含む極性反転層6と、極性反転層6の存在でO極性のZnOとなった逆極性層7とが積層されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体層を備えた化合物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体デバイスは、高い飽和電子速度及びワイドバンドギャップ等の特徴を利用し、高耐圧及び高出力の半導体デバイスとしての開発が活発に行われている。窒化物半導体デバイスとしては、電界効果トランジスタ、特に高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)についての報告が数多くなされている。特に、GaNを電子走行層とし、AlGaNを電子供給層として用いたAlGaN/GaN・HEMTが注目されている。AlGaN/GaN・HEMTでは、GaNとAlGaNとの格子定数差に起因した歪みがAlGaNに生じる。これにより発生したピエゾ分極及びAlGaNの自発分極により、高濃度の2次元電子ガス(2DEG)が得られる。そのため、高耐圧及び高出力が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−19309号公報
【特許文献2】特開2009−76845号公報
【特許文献3】特開2004−335960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源装置等に用いられるスイッチング素子では、電圧のオフ時には電流が流れない、所謂ノーマリ・オフ動作が望まれる。しかしながら、AlGaN/GaN・HEMTでは、2次元電子ガスが高濃度であることから、チャネル領域における電子量も大きく、ノーマリ・オフの実現が困難であるという問題がある。
【0005】
AlGaN/GaN・HEMTにおけるノーマリ・オフを指向する技術が提案されている(特許文献1〜3を参照)。しかしながらこれらの技術では、完全な、或いは十分なノーマリ・オフを実現することができない。また、製造過程における熱処理等による電子の走行領域へのダメージに起因するシート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を回避することも困難である。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、所期のノーマリ・オフを実現することができる、信頼性の高い化合物半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
化合物半導体装置の一態様は、基板と、前記基板の上方に形成された化合物半導体層と、前記化合物半導体層の上方でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極とを備え、前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含む。
【0008】
化合物半導体装置の製造方法の一態様は、基板の上方に化合物半導体層を形成する工程と、前記化合物半導体層の上方にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記化合物半導体層の上方に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程とを含み、前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記の諸態様によれば、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、所期のノーマリ・オフを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図2】図1に引き続き、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図3】図2に引き続き、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図4】図3に引き続き、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図5】第1の実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTの機能及び効果を説明するための概略断面図である。
【図6】比較例のAlGaN/GaN・HEMTを示す概略断面図である。
【図7】本実施形態及びその比較例によるAlGaN/GaN・HEMTのバンドダイヤグラムを示す図である。
【図8】第2の実施形態による化合物半導体装置の製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【図9】第3の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。
【図10】第4の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、諸実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の諸実施形態では、化合物半導体装置の構成について、その製造方法と共に説明する。なお、以下の図面において、図示の便宜上、相対的に正確な大きさ及び厚みに示していない構成部材がある。諸実施形態において、素子分離は、所定の素子分離法、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)法、又は素子分離領域へのイオン注入等により行う。
【0012】
(第1の実施形態)
本実施形態では、化合物半導体装置としてAlGaN/GaN・HEMTを開示する。
図1〜図4は、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【0013】
先ず、図1(a)に示すように、成長用基板として例えば半絶縁性のSiC基板1上に、電子走行層2、中間層3、電子供給層4、及びキャップ層5を順次形成する。AlGaN/GaN・HEMTでは、電子走行層2の電子供給層4(直接的には中間層3)との界面近傍に2次元電子ガス(2DEG)が生成される。
【0014】
詳細には、SiC基板1上に、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法により、以下の各化合物半導体層を成長する。MBE法の代わりに、有機金属気相成長法であるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等を用いても良い。
SiC基板1上に、i−GaN、i−AlGaN、n−AlGaN、及びn+−GaNを順次堆積し、電子走行層2、中間層3、電子供給層4、及びキャップ層5を積層形成する。ここで、電子走行層2は膜厚2μm程度、中間層3は膜厚5nm程度で例えばAl比率0.2、電子供給層4は膜厚30nm程度で例えばAl比率0.2、キャップ層5は膜厚10nm程度に形成する。なお、電子供給層4をインテンショナリーアンドープAlGaN(i−AlGaN)層としても良い。
【0015】
上記のi−GaN、i−AlGaN、n−GaN、及びn−AlGaNの成長条件としては、原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガス、及びアンモニアガスの混合ガスを用いる。成長する化合物半導体層に応じて、Al源であるトリメチルアルミニウムガス、Ga源であるトリメチルガリウムガスの供給の有無及び流量を適宜設定する。共通原料であるアンモニアガスの流量は、100ccm〜10LM程度とする。また、成長圧力は50Torr〜300Torr程度、成長温度は1000℃〜1200℃程度とする。n−GaN及びn−AlGaNを成長する際には、n型不純物として例えばSiを含む例えばSiH4ガスを所定の流量で原料ガスに添加し、GaN及びAlGaNにSiをドーピングする。Siのドーピング濃度は、1×1018/cm3程度〜1×1020/cm3程度、例えば5×1018/cm3程度とする。
【0016】
電子走行層2、中間層3、電子供給層4、及びキャップ層5(i−GaN、i−AlGaN、n−AlGaN、及びn+−GaN)は、全てGa極性に形成される。即ち、これらの層では、SiC基板1と反対側の表面がGaで終端されており、SiC基板1を最下部として下部から上部へ向かう方向に自発分極の電界が生じることになる。
【0017】
続いて、図1(b)に示すように、キャップ層5の表層に極性反転層6を形成する。
詳細には、キャップ層5の表面に酸素(O)プラズマを照射する。これにより、キャップ層5の表層(GaN)が変質し、Ga23を含む極性反転層6が例えば1nm程度の厚みに形成される。極性反転層6は、その上に形成される例えば半導体層の極性を反転させる性質を有している。
極性反転層6は、キャップ層5の表面に酸素プラズマを照射する代わりに、例えばスパッタ法により、Ga23,Al23,In23,Cr23のうちの1種又は2種以上の混晶を堆積して形成しても良い。
【0018】
続いて、図1(c)に示すように、極性反転層6上に逆極性層7を形成する。
詳細には、例えばMBE法により、Znを供給し、極性反転層6上に例えば膜厚10nm程度にZnOを成長する。このときZnOは、極性反転層6の存在によりO極性となり、逆極性層7が形成される。逆極性層7では、SiC基板1と反対側の表面がOで終端されており、SiC基板1を最下部として上部から下部へ向かう方向、即ち例えばキャップ層5の自発分極とは反対の方向に自発分極の電界が生じることになる。
逆極性層7は、O極性のZnOの代わりに、O極性のMgO、又はO極性のZnO及びO極性のMgOの混晶を成長して形成しても良い。
【0019】
続いて、図2(a)に示すように、ゲート絶縁膜を形成するためのレジストマスク8を形成する。
詳細には、逆極性層7上にレジストを塗付し、リソグラフィーによりレジストを加工する。これにより、逆極性層7上のゲート電極形成部位にレジストマスク8が形成される。
【0020】
続いて、図2(b)に示すように、ゲート絶縁膜9を形成する。
詳細には、レジストマスク8を用いて、逆極性層7及び極性反転層6をドライエッチングする。これにより、キャップ層5上のゲート絶縁膜の形成部位に、極性反転層6及び逆極性層7の積層構造であるゲート絶縁膜9が形成される。
その後、レジストマスク8を灰化処理等により除去する。
【0021】
続いて、図2(c)に示すように、ソース電極及びドレイン電極を形成するためのレジストマスク10を形成する。
詳細には、ゲート絶縁膜9を覆うようにキャップ層5上にレジストを塗付し、リソグラフィーによりレジストを加工する。これにより、開口10a,10bを有するレジストマスク10が形成される。開口10aは、キャップ層5の表面におけるソース電極の形成部位を露出するように形成される。開口10bは、キャップ層5の表面におけるドレイン電極の形成部位を露出するように形成される。
【0022】
続いて、図3(a)に示すように、ソース電極11及びドレイン電極12を形成する。
詳細には、電極材料として例えばTi/Alを用い、蒸着法等により、開口10a,10bを埋め込むようにレジストマスク10上にTi/Alを堆積する。リフトオフ法により、レジストマスク10及びその上に堆積したTi/Alを除去する。その後、SiC基板1を、例えば窒素雰囲気中において600℃程度で熱処理し、オーミックコンタクトを確立する。以上により、キャップ層5上には、ソース電極11及びドレイン電極12が形成される。
【0023】
続いて、図3(b)に示すように、パッシベーション膜13を形成する。
詳細には、例えばPECVD法により、SiC基板1上の全面を覆うように、絶縁膜、ここではSiN膜を例えば膜厚200nm程度に堆積する。これにより、パッシベーション膜13が形成される。
【0024】
続いて、図3(c)に示すように、レジストマスク14を形成する。
詳細には、パッシベーション膜13上にレジストを塗付し、リソグラフィーによりレジストを加工する。これにより、ゲート電極の形成部位に開口14aを有するレジストマスク14が形成される。
【0025】
続いて、図4(a)に示すように、パッシベーション膜13に開口13aを形成する。
詳細には、レジストマスク14をマスクとして、ドライエッチングによりパッシベーション膜13を加工し、パッシベーション膜13の開口14aから露出する部位を除去する。これにより、パッシベーション膜13に、ゲート絶縁膜9(逆極性層7)の表面の一部を露出する開口13aが形成される。
【0026】
続いて、図4(b)に示すように、ゲート電極15を形成する。
詳細には、電極材料として例えばNi/Auを用い、蒸着法等により、開口13aの全て及び開口14aの一部を埋め込むようにレジストマスク14上にNi/Auを堆積する。リフトオフ法により、レジストマスク14及びその上に堆積するNi/Auを除去する。以上により、開口13aをNi/Auで埋め込んでパッシベーション膜13の表面から上部が突出するように、キャップ層5上にゲート絶縁膜9を介したゲート電極15が形成される。
【0027】
しかる後、ゲート電極15を覆う層間絶縁膜の形成、ソース電極11、ドレイン電極12、及びゲート電極15と導通する配線の形成等の諸工程を経て、AlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0028】
本実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTについて、その機能及び効果を比較例との比較に基づいて説明する。
図5は、本実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTの機能及び効果を説明するための概略断面図であり、図4(b)に対応する図である。図6は、比較例のAlGaN/GaN・HEMTを示す概略断面図である。図7は、(a)が本実施形態の比較例によるAlGaN/GaN・HEMTのバンドダイヤグラムを示す図であり、(b)が本実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTのバンドダイヤグラムを示す図である。なお、図5〜図7では、図示及び説明の簡略化のため、図4(b)におけるSiC基板1、中間層3、及びキャップ層5の図示を省略し、ゲート絶縁膜9を単層構成として表示する。
【0029】
通常のAlGaN/GaN・HEMTでは、図6に示すように、GaNからなる電子走行層2とAlGaNからなる電子供給層4との格子定数差に起因した歪みが電子供給層4に生じ、ピエゾ分極が発生する。この場合、図7(a)に示すように、電子走行層2の電子供給層4との界面では、フェルミエネルギーEFが伝導帯ECよりも大きくなり、高濃度の2次元電子ガス(2DEG)が得られる。これにより、高出力が実現される。ところが、この高濃度の2次元電子ガスのため、ゲート電圧の閾値は負値となり、オフ時でもチャネル領域に多量の2次元電子ガスが存在する。そのため、ノーマリ・オフの実現が困難であるという問題がある。
【0030】
本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTでは、図5に示すように、電子供給層4(図4(b)ではキャップ層5)とゲート電極15との間に、ゲート絶縁膜9が配されている。電子供給層4のn−AlGaNはGa極性であり、矢印Aのように下部から上部へ向かって自発分極の電界が生じる。これに対してゲート絶縁膜9では、その逆極性層7のZnOはO極性であり、矢印Aと逆方向、即ち矢印Bのように上部から下部へ向かって自発分極の電界が生じる。
【0031】
この場合、図7(b)に示すように、逆極性層7の自発分極によりゲート電極15のエネルギーバンドが押し上げられる。電子走行層2の電子供給層4との界面では、フェルミエネルギーEFが伝導帯ECよりも小さく、チャネル領域では2次元電子ガスが発生しない。本実施形態では、逆極性層7をゲート絶縁膜9(の一部)として用いることで、ゲート電圧の閾値が正の方向にシフトする(閾値が所定の正値となる。)。これにより、図5のように、ゲート電極15に電圧が印加されていない状態では、ゲート電極15の下方の部分(チャネル領域)では2次元電子ガスが消失し、完全なノーマリ・オフ型のトランジスタが実現する。
【0032】
ZnOの自発分極について、窒化物半導体と比較して説明する。
ZnO及び窒化物半導体(InN,GaN,AlN)の自発分極の大きさを以下の表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1のように、ZnOは、AlNに次いで自発分極が大きい。GaN上或いはAlGaN上にZnOを成長すると、自発分極を打ち消す方向にピエゾ分極が発生するが、自発分極の方がピエゾ分極よりも大きい。従って、分極全体として見れば、自発分極がピエゾ分極に勝るため、逆極性層7にはキャップ層5を最下部として上部から下部へ向かう自発分極が残る。これにより、ゲート電圧の閾値が所定の正値となる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTによれば、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0036】
−変形例−
以下、本実施形態の諸変形例について説明する。これらの変形例では、化合物半導体及びゲート絶縁膜の材料が本実施形態と異なるが、説明の便宜上、本実施形態の図4(b)を用いて同じ符号で説明する。
【0037】
(変形例1)
本例では、化合物半導体装置として、InAlN/GaN・HEMTを開示する。
InAlNとGaNは、組成によって格子定数が近くすることが可能な化合物半導体である。この場合、図4(b)において、電子走行層2がi−GaN、中間層3がi−InAlN、電子供給層4がn−InAlN、キャップ層5がn+−GaNで形成される。また、この場合のピエゾ分極がほとんど発生しないため、2次元電子ガスは主にInAlNの自発分極により発生する。
【0038】
極性反転層6は、キャップ層5の表面への酸素プラズマの照射により、例えばGa23を含む変質層として形成される。逆極性層7は、本実施形態と同様に、O極性のZnO(或いはO極性のMgO、又はO極性のZnO及びO極性のMgOの混晶)として形成される。
【0039】
本例のInAlN/GaN・HEMTによれば、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTと同様に、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0040】
(変形例2)
本例では、化合物半導体装置として、InAlGaN/GaN・HEMTを開示する。
GaNとInAlGaNは、後者の方が前者よりも格子定数が小さい化合物半導体である。この場合、図4(b)において、電子走行層2がi−GaN、中間層3がi−InAlGaN、電子供給層4がn−GaN、キャップ層5がn+−InAlGaNで形成される。
【0041】
極性反転層6は、キャップ層5の表面への酸素プラズマの照射により、例えばGa2Oを含む変質層として形成される。逆極性層7は、本実施形態と同様に、O極性のZnO(或いはO極性のMgO、又はO極性のZnO及びO極性のMgOの混晶)として形成される。
【0042】
本例のInAlGaN/GaN・HEMTによれば、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTと同様に、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0043】
(変形例3)
本例では、化合物半導体装置として、InAlGaN/InAlN・HEMTを開示する。
InAlNとInAlGaNとでは、そのIn,Al,Gaの組成比率を調節することで、格子定数の大小関係が変わる。組成比率の調節により、InAlNの格子定数をInAlGaNの格子定数よりも小さくしたり、逆にInAlGaNの格子定数をInAlNの格子定数よりも小さくすることができる。ここでは、InAlGaNの格子定数をInAlNの格子定数よりも小さくする場合を例示する。
【0044】
この場合、図4(b)において、電子走行層2がi−InAlN、中間層3がi−InAlGaN、電子供給層4がn−InAlGaN、キャップ層5がn+−InAlNで形成される。
【0045】
極性反転層6は、キャップ層5の表面への酸素プラズマの照射により、例えばAl23及びIn23の混晶を含む変質層として形成される。逆極性層7は、本実施形態と同様に、O極性のZnO(或いはO極性のMgO、又はO極性のZnO及びO極性のMgOの混晶)として形成される。
【0046】
本例のInAlGaN/InAlN・HEMTによれば、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTと同様に、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0047】
(変形例4)
本例では、化合物半導体装置として、Al0.5Ga0.5N/Al0.3Ga0.7N・HEMTを開示する。
同種の化合物半導体でも、その組成比率が異なれば格子定数も異なるものとなる。1種の化合物半導体で格子定数の異なるものとしては、例えば、AlGaNについて、Al0.3Ga0.7NとAl0.5Ga0.5Nとすることが考えられる。AlGaNでは、Alの組成比率が大きいほど格子定数が小さくなる。従って、Al0.5Ga0.5NはAl0.3Ga0.7Nよりも格子定数が小さい。
【0048】
この場合、図4(b)において、電子走行層2がi−Al0.3Ga0.7N、中間層3がi−Al0.5Ga0.5N、電子供給層4がn−Al0.5Ga0.5N、キャップ層5がn+−Al0.3Ga0.7Nで形成される。
【0049】
極性反転層6は、キャップ層5の表面への酸素プラズマの照射により、例えばGa23,Al23の混晶を含む変質層として形成される。逆極性層7は、本実施形態と同様に、O極性のZnO(或いはO極性のMgO、又はO極性のZnO及びO極性のMgOの混晶)として形成される。
【0050】
本例のAl0.5Ga0.5N/Al0.3Ga0.7N・HEMTによれば、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTと同様に、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0051】
(変形例5)
本例では、化合物半導体装置として、ZnMgO/ZnO・HEMTを開示する。
この場合、図4(b)において、電子走行層2がi−ZnO、中間層3がi−ZnMgO、電子供給層4がn−ZnMgO、キャップ層5がn+−ZnOで形成される。
【0052】
極性反転層6は、例えばスパッタ法により、キャップ層5上に例えばGa23,Al23,In23,Cr23のうちの1種又は2種以上の混晶、例えばAl23が堆積されて形成される。逆極性層7は、本実施形態と同様に、O極性のZnO(或いはO極性のMgO、又はO極性のZnO及びO極性のMgOの混晶)として形成される。
【0053】
本例のZnMgO/ZnO・HEMTによれば、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTと同様に、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、AlGaN/GaN・HEMTを開示するが、ゲート絶縁膜の形成方法が異なる点で相違する。
図8は、第2の実施形態による化合物半導体装置の製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【0055】
先ず、第1の実施形態の図1(a)と同様の工程において、例えばMBE法により、電子走行層2、中間層3、電子供給層4、及びキャップ層5を順次成長して形成する。
【0056】
続いて、図8(a)に示すように、極性反転層21を形成する。
詳細には、p型不純物、例えばMgを含む例えばCp2Mgガスを所定の流量で原料ガスに添加し、GaNにMgをドーピングする。Mgのドーピング濃度は、1×1019/cm3程度〜1×1022/cm3程度の高値に、例えば5×1020/cm3程度とする。これにより、キャップ層5上にp+−GaNからなる極性反転層21が例えば3nm程度の厚みに形成される。Mg等のp型不純物が過剰にドーピングされたp+−GaNは極性が反転することが知られている。
【0057】
続いて、図8(b)に示すように、極性反転層21上に逆極性層22を形成する。
詳細には、例えばMBE法により、極性反転層21上に例えば膜厚10nm程度にGaNを成長する。このときGaNは、極性反転層21の存在によりN極性となり、逆極性層22が形成される。逆極性層22では、SiC基板1と反対側の表面がNで終端されており、SiC基板1を最下部として上部から下部へ向かう方向、即ち例えばキャップ層5の自発分極とは反対の方向に自発分極の電界が生じることになる。
【0058】
そして、第1の実施形態の図2(a)〜図4(b)と同様の諸工程を実行する。これにより、図8(c)に示すように、開口13aをNi/Auで埋め込んでパッシベーション膜13の表面から上部が突出するように、キャップ層5上にゲート絶縁膜23を介したゲート電極15が形成される。
【0059】
しかる後、ゲート電極15を覆う層間絶縁膜の形成、ソース電極11、ドレイン電極12、及びゲート電極15と導通する配線の形成等の諸工程を経て、AlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTによれば、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができる。
【0061】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態及びその諸変形例、並びに第2の実施形態のいずれかによるHEMTを備えた電源装置を開示する。
図9は、第3の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。
【0062】
本実施形態による電源装置は、高圧の一次側回路31及び低圧の二次側回路32と、一次側回路31と二次側回路32との間に配設されるトランス33とを備えて構成される。
一次側回路31は、交流電源34と、いわゆるブリッジ整流回路35と、複数(ここでは4つ)のスイッチング素子36a,36b,36c,36dとを備えて構成される。また、ブリッジ整流回路35は、スイッチング素子36eを有している。
二次側回路32は、複数(ここでは3つ)のスイッチング素子37a,37b,37cを備えて構成される。
【0063】
本実施形態では、一次側回路31のスイッチング素子36a,36b,36c,36d,36eが、第1の実施形態及びその諸変形例、並びに第2の実施形態のいずれかによるHEMTとされている。一方、二次側回路32のスイッチング素子37a,37b,37cは、シリコンを用いた一般的なMIS・FETとされている。
【0064】
本実施形態では、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができるHEMTを高圧回路に適用する。これにより、信頼性の高い大電力の電源回路が実現する。
【0065】
(第4の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態及びその諸変形例、並びに第2の実施形態のいずれかによるHEMTを備えた高周波増幅器を開示する。
図10は、第4の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。
【0066】
本実施形態による高周波増幅器は、例えば携帯電話の基地局用パワーアンプに適用されるものである。この高周波増幅器は、ディジタル・プレディストーション回路41と、ミキサー42a,42bと、パワーアンプ43とを備えて構成される。
ディジタル・プレディストーション回路41は、入力信号の非線形歪みを補償するものである。ミキサー42aは、非線形歪みが補償された入力信号と交流信号をミキシングするものである。パワーアンプ43は、交流信号とミキシングされた入力信号を増幅するものであり、第1の実施形態及びその諸変形例、並びに第2の実施形態のいずれかによるHEMTを有している。なお図10では、例えばスイッチの切り替えにより、出力側の信号をミキサー42bで交流信号とミキシングしてディジタル・プレディストーション回路41に送出できる構成とされている。
【0067】
本実施形態では、比較的簡素な構成で、シート抵抗及びゲートリーク電流の増加、出力の低下等の不都合を生ぜしめることなく、完全なノーマリ・オフを実現することができるHEMTを高周波増幅器に適用する。これにより、信頼性の高い高耐圧の高周波増幅器が実現する。
【0068】
以下、化合物半導体装置の製造方法及び化合物半導体装置の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0069】
(付記1)基板と、
前記基板の上方に形成された化合物半導体層と、
前記化合物半導体層の上方でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含むことを特徴とする化合物半導体装置。
【0070】
(付記2)前記ゲート絶縁膜は、自発分極の向きを反転させる第2の層を更に含み、前記第2の層上に前記第1の層が配されてなることを特徴とする付記1に記載の化合物半導体装置。
【0071】
(付記3)前記第1の層は、O極性のZnO,O極性のMgOのうちの一方又は双方の混晶を含むことを特徴とする付記1又は2に記載の化合物半導体装置。
【0072】
(付記4)前記第2の層は、Ga23,Al23,In23,Cr23のうちの1種又は2種以上の混晶を含むことを特徴とする付記2又は3に記載の化合物半導体装置。
【0073】
(付記5)前記第1の層は、N極性のGaNであることを特徴とする付記2に記載の化合物半導体装置。
【0074】
(付記6)前記第2の層は、p型不純物が添加されたGaNを含むことを特徴とする付記5に記載の化合物半導体装置。
【0075】
(付記7)前記化合物半導体層は、InAlNとGaN、InAlGaNとGaN、InAlNとInAlGaN、組成の相異なる2種のAlGaN、及びZnOとZnMgOからなる群から選ばれた1種を含むことを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0076】
(付記8)基板の上方に化合物半導体層を形成する工程と、
前記化合物半導体層の上方にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記化合物半導体層の上方に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含むことを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【0077】
(付記9)前記ゲート絶縁膜は、自発分極の向きを反転させる第2の層を更に含み、前記第2の層上に前記第1の層が配されてなることを特徴とする付記8に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0078】
(付記10)前記第1の層は、O極性のZnO,O極性のMgOのうちの1種又は双方の混晶を含むことを特徴とする付記8又は9に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0079】
(付記11)前記第2の層は、Ga23,Al23,In23,Cr23のうちの1種又は2種以上の混晶を含むことを特徴とする付記9又は10に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0080】
(付記12)前記第1の層は、N極性のGaNであることを特徴とする付記9に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0081】
(付記13)前記第2の層は、GaNにp型不純物を添加して形成することを特徴とする付記12に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0082】
(付記14)前記化合物半導体層は、InAlNとGaN、InAlGaNとGaN、InAlNとInAlGaN、組成の相異なる2種のAlGaN、及びZnOとZnMgOからなる群から選ばれた1種を含むことを特徴とする付記8〜13のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0083】
(付記15)変圧器と、前記変圧器を挟んで高圧回路及び低圧回路とを備え、
前記高圧回路はトランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
基板と、
前記基板の上方に形成された化合物半導体層と、
前記化合物半導体層の上方でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含むことを特徴とする電源回路。
【0084】
(付記16)前記ゲート絶縁膜は、自発分極の向きを反転させる第2の層を更に含み、前記第2の層上に前記第1の層が配されてなることを特徴とする付記15に記載の電源回路。
【0085】
(付記17)入力した高周波電圧を増幅して出力する高周波増幅器であって、
トランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
基板と、
前記基板の上方に形成された化合物半導体層と、
前記化合物半導体層の上方でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含むことを特徴とする高周波増幅器。
【0086】
(付記18)前記ゲート絶縁膜は、自発分極の向きを反転させる第2の層を更に含み、前記第2の層上に前記第1の層が配されてなることを特徴とする付記17に記載の高周波増幅器。
【符号の説明】
【0087】
1 SiC基板
2 電子走行層
3 中間層
4 電子供給層
5 キャップ層
6,21 極性反転層
7,22 逆極性層
8,10,14 レジストマスク
9,23 ゲート絶縁膜
10a,10b,13a,14a 開口
11 ソース電極
12 ドレイン電極
13 パッシベーション膜
15 ゲート電極
31 一次側回路
32 二次側回路
33 トランス
34 交流電源
35 ブリッジ整流回路
36a,36b,36c,36d,36e,37a,37b,37c スイッチング素子
41 ディジタル・プレディストーション回路
42a,42b ミキサー
43 パワーアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に形成された化合物半導体層と、
前記化合物半導体層の上方でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含むことを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜は、自発分極の向きを反転させる第2の層を更に含み、前記第2の層上に前記第1の層が配されてなることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体装置。
【請求項3】
前記第1の層は、O極性のZnO,O極性のMgOのうちの一方又は双方の混晶を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物半導体装置。
【請求項4】
前記第2の層は、Ga23,Al23,In23,Cr23のうちの1種又は2種以上の混晶を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の化合物半導体装置。
【請求項5】
前記第1の層は、N極性のGaNであることを特徴とする請求項2に記載の化合物半導体装置。
【請求項6】
前記第2の層は、p型不純物が添加されたGaNを含むことを特徴とする請求項5に記載の化合物半導体装置。
【請求項7】
基板の上方に化合物半導体層を形成する工程と、
前記化合物半導体層の上方にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記化合物半導体層の上方に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、分極方向が前記化合物半導体層と逆方向である反転した自発分極を有する第1の層を含むことを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜は、自発分極の向きを反転させる第2の層を更に含み、前記第2の層上に前記第1の層が配されてなることを特徴とする請求項7に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1の層は、O極性のZnO,O極性のMgOのうちの1種又は双方の混晶を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2の層は、Ga23,Al23,In23,Cr23のうちの1種又は2種以上の混晶を含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の化合物半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−54352(P2012−54352A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194820(P2010−194820)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】