説明

化合物結晶の製造方法

【課題】より安価に化合物結晶を製造することができる化合物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】種結晶5の表面の少なくとも一部と塊状の固形物からなる固体原料3の表面の少なくとも一部とが間隔を空けて互いに向かい合うように種結晶5と固体原料3とを配置する工程と、固体原料3を加熱する工程と、固体原料3の加熱により固体原料3が昇華して発生した昇華ガスを、互いに向かい合っている種結晶5の表面と固体原料3の表面との間の領域から実質的に外部に漏洩させずに種結晶5の表面上に化合物結晶を成長させる工程と、を含む、化合物結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物結晶の中でもGaN(窒化ガリウム)結晶は、種々の光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス材料に有用であることから、近年、特に注目されている。
【0003】
GaN結晶を用いた半導体デバイスは、たとえば、GaNとは異なる材料であるサファイア基板や炭化ケイ素基板などの異種基板上にGaN結晶を成長させることによって作製されている。
【0004】
しかしながら、異種基板上にGaN結晶を成長させて形成された半導体デバイスにおいては、異種基板との熱膨張係数差および格子定数差に起因するGaN結晶の結晶欠陥が多くなるために、半導体デバイスの特性が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題の発生を低減させるべく、高品質のGaN結晶からなる基板上にGaN結晶を成長させて半導体デバイスを作製することが考えられており、そのような高品質のGaN結晶を成長させるための種々の方法が提案されている。
【0006】
たとえば特許文献1(特表2003−527296号公報)には、GaNシード結晶の上にGaNボウルをハイドライド気相エピタキシ成長(HVPE)により成長させる方法が提案されている(たとえば特許文献1の段落[0092]等参照)。
【0007】
また、特許文献2(特許第4011828号公報)には、アジ化ナトリウムおよび金属ナトリウムからなるフラックスと、金属ガリウムと、を成長容器内に設置してこれらを加熱することにより、成長容器内でGaN結晶を成長させる方法が提案されている(たとえば特許文献2の段落[0053]等参照)。
【0008】
さらに、特許文献3(特開2004−307333号公報)には、坩堝の内部にGaN粉末を充填した後に、NH3とN2との混合ガスを導入して5気圧に加圧しながらGaN粉末を1000℃〜1090℃の温度範囲で加熱して昇華させることにより、坩堝の上方の基板上にGaN単結晶を成長させる方法が提案されている(たとえば特許文献3の段落[0038]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−527296号公報
【特許文献2】特許第4011828号公報
【特許文献3】特開2004−307333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に提案されている方法においては、HVPEプロセスにおいて、HClやNH3などの毒性の強いガスが用いられている(たとえば特許文献1の段落[0057]等参照)。
【0011】
また、特許文献2に提案されている方法においては、アジ化ナトリウムや金属ナトリウムなどの危険な物質が用いられている(たとえば特許文献2の段落[0053]等参照)。
【0012】
さらに、特許文献3に提案されている方法においては、NH3のような毒性の強いガスが5気圧といった高圧の条件下で用いられている(たとえば特許文献3の段落[0038]等参照)。
【0013】
したがって、上述した特許文献1〜3で提案されている方法は、いずれも危険性が高い方法であるため、安全対策のためのコストが高くなり、GaN結晶などの化合物結晶を安価に製造することができないという問題があった。
【0014】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、より安価に化合物結晶を製造することができる化合物結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、種結晶の表面の少なくとも一部と塊状の固形物からなる固体原料の表面の少なくとも一部とが間隔を空けて互いに向かい合うように種結晶と固体原料とを配置する工程と、固体原料を加熱する工程と、固体原料の加熱により固体原料が昇華して発生した昇華ガスを、互いに向かい合っている種結晶の表面と固体原料の表面との間の領域から実質的に外部に漏洩させずに種結晶の表面上に化合物結晶を成長させる工程と、を含む、化合物結晶の製造方法である。
【0016】
ここで、本発明の化合物結晶の製造方法においては、種結晶と固体原料とを近接に配置することが好ましい。
【0017】
また、本発明の化合物結晶の製造方法においては、種結晶の表面と固体原料の表面との間の間隔を昇華ガスの平均自由行程以下とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の化合物結晶の製造方法においては、固体原料の1つに対して種結晶を複数配置することもできる。
【0019】
また、本発明の化合物結晶の製造方法において、固体原料の1つに対して種結晶を複数配置する場合には、種結晶の複数を実質的に隙間なく配置することが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の化合物結晶の製造方法においては、化合物結晶が、III−V族化合物結晶、または炭化ケイ素結晶であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より安価に化合物結晶を製造することができる化合物結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態の化合物結晶の製造方法に用いられる製造装置の模式的な断面図である。
【図2】図1に示される化合物結晶製造装置の容器の内部の固体原料と種結晶の設置部分の模式的な拡大断面図である。
【図3】図1に示される化合物結晶製造装置の化合物結晶が製造された後の容器の内部の固体原料と種結晶の設置部分の模式的な拡大断面図である。
【図4】図1に示される化合物結晶製造装置の容器の内部に1つの固体原料に対して複数の種結晶を設置したときの設置部分の模式的な拡大断面図である。
【図5】図4に示される化合物結晶製造装置の化合物結晶が製造された後の容器の内部の固体原料と種結晶の設置部分の模式的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0024】
図1に、本実施の形態の化合物結晶の製造方法に用いられる化合物結晶製造装置の模式的な断面図を示す。図1に示される化合物結晶製造装置は、たとえばカーボンからなる容器1と、容器1を取り囲むようにして設けられた断熱材2と、容器1の上部に設けられた第1の熱電対6aと、容器1の下部に設けられた第2の熱電対6bと、を備えている。
【0025】
ここで、断熱材2は、容器1の上面の一部、容器1の側面および下面のそれぞれを覆うようにして設けられている。
【0026】
また、容器1の一部には図示しない貫通孔が設けられており、当該貫通孔から容器1の内部に雰囲気ガスを導入し、かつ容器1の内部の雰囲気ガスを排出することができるようにされている。
【0027】
以下、図1に示される化合物結晶製造装置を用いた本実施の形態の化合物結晶の製造方法について説明する。
【0028】
まず、容器1の内部の下部に化合物結晶の原料となる塊状の固形物からなる固体原料3を配置するとともに、容器1の内部の上部に化合物結晶を成長させるための種結晶5を配置する。
【0029】
ここで、固体原料3と種結晶5とは、スペーサ4を介して、固体原料3の表面の少なくとも一部と種結晶5の表面の少なくとも一部とが間隔を空けて互いに向かい合うようにして配置される。これにより、互いに向かい合っている固体原料3および種結晶5の各々の表面と、スペーサ4の側面と、で囲まれた領域7は実質的に閉じた空間とされる。このように領域7を実質的に閉じた空間とすることによって、後述する固体原料3の昇華ガスが領域7から外部に漏洩するのを実質的に防止することができる。
【0030】
たとえば、昇華ガスに変化することにより減少した固体原料3の質量の1質量%よりも多い量の昇華ガスを領域7の外部に漏洩させなかったときに、固体原料3の昇華ガスが領域7から外部に漏洩するのを実質的に防止することができると言うことができる。
【0031】
図2に、図1に示される化合物結晶製造装置の容器1の内部の固体原料3と種結晶5の設置部分の模式的な拡大断面図を示す。ここで、領域7においては、固体原料3の表面31のうちスペーサ4の側面4aの内側に対応する領域RSと、種結晶5の表面51のうちスペーサ4の側面4aの内側に対応する領域SSと、が間隔Dを空けて互いに向かい合っている。
【0032】
次に、容器1の内部(領域7を含む)に雰囲気ガスを導入して容器1の内部を所定の圧力にする。
【0033】
ここで、容器1の内部(領域7を含む)の圧力は、たとえば、0.1Pa以上1000Pa以下とすることができる。
【0034】
次に、図示しない加熱装置によって、容器1を介して、固体原料3および種結晶5をそれぞれ加熱する。これにより、固体原料3が昇華して昇華ガスが発生して、昇華ガスの分子が種結晶5の表面に付着することによって、図3の模式的断面図に示すように、種結晶5の表面51の領域SS上に化合物結晶10が成長する。
【0035】
ここで、容器1の上面の一部のみが断熱材2によって覆われておらず、その他の部分が断熱材2によって覆われていることにより、上記の加熱時における種結晶5の温度を固体原料3の温度よりも低くすることができる。
【0036】
また、上記の加熱時における固体原料3の温度はたとえば500℃以上1200℃以下とすることができ、上記の加熱時における種結晶5の温度はたとえば500℃以上1200℃以下とすることができる。
【0037】
本実施の形態の化合物結晶の製造方法においては、固体原料3の昇華ガスが領域7から外部に漏洩するのを実質的に防止して、種結晶5の表面51の領域SS上に化合物結晶10を成長させる。
【0038】
そのため、固体原料3の昇華ガスを実質的に領域7の外部に漏洩させることなく、種結晶5の表面51の領域SS上に化合物結晶10を成長させることができるため、固体原料3の無駄を低減して所望とする大きさの化合物結晶10を製造することができる。
【0039】
また、本実施の形態の化合物結晶の製造方法においては、特許文献1〜3に提案されている方法と比べて、毒性の強いガスの使用量を大幅に低減することが可能であるとともに、必ずしも高圧を必要としないことから、安全対策のためにかけるコストも低減することができる。
【0040】
以上により、本実施の形態の化合物結晶の製造方法においては、所望とする大きさの化合物結晶をより安価に製造することができる。
【0041】
なお、本実施の形態の化合物結晶の製造方法において、上記の間隔Dは、固体原料3と種結晶5とを近接に配置することができる間隔であることが好ましい。固体原料3と種結晶5とを近接に配置した場合には、固体原料3の昇華ガスの分子が種結晶5の表面51の領域SSに付着する確率を高くすることができることから、固体原料3の昇華ガスが領域7から外部に漏洩するのをより確実に防止することができる。また、上記の間隔Dを狭くすることができることから、固体原料3の昇華ガスの分子が固体原料3の表面31の領域RSから種結晶5の表面51の領域SSに到達するまでの時間を短縮することができ、化合物結晶の成長速度を大きくすることができる。
【0042】
固体原料3と種結晶5とを近接に配置するためには、上記の間隔Dはたとえば1mm以下とすることができる。また、固体原料3と種結晶5とを近接に配置するための上記の間隔Dはたとえば0.001mm以上とすることができる。
【0043】
また、上記の間隔Dは、固体原料3の昇華ガスの平均自由行程以下とすることが好ましい。この場合には、固体原料3の昇華ガスの分子が他の分子に衝突することなく種結晶5の表面51の領域SSに到達して化合物結晶10の製造に寄与する確率を高くすることができるため、固体原料3の昇華ガスが領域7から外部に漏洩するのを確実に防止することができる。また、固体原料3の昇華ガスの分子が他の分子に衝突することなく種結晶5の表面51の領域SSに到達させることができるため、固体原料3の昇華ガスの分子が固体原料3の表面31の領域RSから種結晶5の表面51の領域SSに到達するまでの時間を短縮することができ、化合物結晶10の成長速度を大きくすることができる傾向にある。
【0044】
上記の間隔Dが固体原料3の昇華ガスの平均自由行程以下であるか否かについては、たとえば、上記の間隔Dを変化させたときに化合物結晶10の成長速度が特異的に大きくなったとき、若しくは領域7の圧力を変化させたときに化合物結晶10の成長速度が特異的に大きくなったときに上記の間隔Dが固体原料3の昇華ガスの平均自由行程以下であると判断することができる。
【0045】
また、固体原料3の表面31および/または種結晶5の表面51の凹凸によって、固体原料3の表面31の少なくとも一部と種結晶5の表面51の少なくとも一部とを接触させた場合に固体原料3の表面31と種結晶5の表面51との間に隙間が形成されることがある。この場合には、スペーサ4を用いずに、固体原料3の表面31の少なくとも一部と種結晶5の表面51の少なくとも一部とを接触させて、その間に形成された隙間を領域7としてもよい。
【0046】
本実施の形態の化合物結晶の製造方法によって製造することができる化合物結晶としては、たとえば、GaN単結晶およびGaAs単結晶などのIII−V族化合物単結晶、またはSiC(炭化ケイ素)単結晶などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
III−V族化合物単結晶としては、たとえば、III族元素であるIn(インジウム)、Ga(ガリウム)およびAl(アルミニウム)からなる群から選択された少なくとも1種と、V族元素であるN(窒素)、P(リン)、As(ヒ素)およびSb(アンチモン)からなる群から選択された少なくとも1種との化合物の単結晶を成長させることができる。
【0048】
一般に、昇華法による化合物結晶の成長においては、固体原料の一部の成分のみが優先的に昇華する場合には、化合物結晶の成長が困難となる。
【0049】
たとえば、固体原料としてGaN結晶やGaAs結晶を用いた場合には、固体原料の昇華時にNやAsが優先的に昇華し、固体原料の表面にGaのドロップレットが形成される。これは、Gaの蒸気圧がNやAsの蒸気圧に比べて極端に低いため、NやAsの昇華に追いつかないためである。なお、固体原料としてSiC結晶を用いた場合には、Gaのドロップレットが形成される代わりに固体原料の表面が炭化されて、固体原料の炭化された表面からの昇華が阻害される。
【0050】
ここで、固体原料としてGaN結晶やGaAs結晶を用いたときに雰囲気のNやAsの圧力を十分に高くした場合には、固体原料の表面にGaのドロップレットは形成されなくなるが、Gaの平衡蒸気圧が低下するため、Gaの輸送が化合物結晶の成長を律速することにより、化合物結晶の成長速度が極端に遅くなる。
【0051】
一方、本実施の形態の化合物結晶の製造方法において、固体原料3としてGaN結晶やGaAs結晶を用いた場合には、固体原料3の昇華ガスが領域7から外部に漏洩するのを実質的に防止して種結晶5の表面51の領域SS上に化合物結晶10を成長させることができるため、領域7におけるNやAsの圧力を実質的に高く維持して固体原料3の表面31におけるGaのドロップレットの形成を抑えた状態で、GaN単結晶やGaAs単結晶などの化合物結晶10を成長させることができる。
【0052】
固体原料3としてGaN結晶やGaAs結晶を用いた場合に、さらに固体原料3と種結晶5とを近接に配置したときには、上記の間隔Dは非常に狭くなっていることから、上述したように固体原料3の表面31におけるGaのドロップレットの形成を抑えつつ、GaN単結晶やGaAs単結晶などの化合物結晶10をより大きな成長速度で成長させることができる。
【0053】
また、固体原料3としてGaN結晶やGaAs結晶を用いた場合に、上記の間隔Dを固体原料3の昇華ガスの平均自由行程以下としたときには、固体原料3の昇華ガスの分子を他の分子に衝突することなく種結晶5の表面51の領域SSに到達させることができるため、化合物結晶10の成長速度をさらに大きくすることができる。
【0054】
したがって、本実施の形態の化合物結晶の製造方法は、たとえばGaN結晶やGaAs結晶などの一部の成分のみが優先的に昇華する固体原料3を用いた化合物結晶の製造に好適である。
【0055】
ただし、固体原料3としてGaN結晶やGaAs結晶を用いた場合には、固体原料3の昇華ガスには蒸気圧の高いNやAsが含まれるが、これらが領域7から外部に漏洩するのを防止するために、領域7の外部に適切な圧力のN含有ガスやAs含有ガスを流してもよい。ここで、N含有ガスとしては、たとえば、N2(窒素)ガス、NH3(アンモニア)ガスおよびN24(ヒドラジン)ガスからなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。また、As含有ガスとしては、たとえば、AsH3(アルシン)を用いることができる。
【0056】
塊状の固形物からなる固体原料3は、化合物結晶10の原料であって、体積および形状がそれぞれある程度の大きさを有するものであればよく、たとえば、塊状のGaN結晶、塊状のGaAs結晶、または塊状のSiC結晶などを用いることができる。
【0057】
種結晶5は、固体原料3の昇華ガスの接触によって化合物結晶10が成長する表面を有するものであれば特に限定されず、たとえば、成長させる化合物結晶10と同一の化合物の単結晶の表面を有するものなどを用いることができる。
【0058】
なお、上記においては、固体原料3の1つに対して種結晶5を1つ配置して種結晶5の表面上に化合物結晶を成長させる場合について説明したが、たとえば図4の模式的断面図に示すように、固体原料3の1つに対して複数の種結晶5a,5b,5cを配置して化合物結晶を成長させてもよい。この場合には、たとえば図5の模式的断面図に示すように、複数の小さな種結晶5a,5b,5cの表面上に1つの大口径の化合物結晶10を成長させることができる。
【0059】
また、たとえば図4に示すように、固体原料3の1つに対して複数の種結晶5を配置する場合には、複数の種結晶5a,5b,5cを実質的に隙間なく配置することが好ましい。この場合には、複数の種結晶5a,5b,5cの表面上に成長する化合物結晶10の結晶欠陥を低減して高品質の化合物結晶10を製造することができる傾向にある。なお、複数の種結晶5を実質的に隙間なく配置するためには、隣り合う種結晶5の間隔を0.1mm以下とすることが好ましい。
【0060】
種結晶5,5a,5b,5cの表面31の面方位は特に限定されず、たとえば種結晶5,5a,5b,5cがGaN単結晶などの六方晶からなる場合には、種結晶5,5a,5b,5cの表面31の面方位としては、(0001)面、(11−22)面、(10−11)面、(11−20)面、(10−10)面、(20−21)面、(22−42)面、(20−2−1)面、または(22−4−2)面などを用いることができる。
【0061】
なお、結晶面および方向を表わす場合に、本来であれば所要の数字の上にバーを付した表現をするべきであるが、表現手段に制約があるため、本明細書においては、所要の数字の上にバーを付す表現の代わりに、所要の数字の前に「−」を付して表現している。
【実験例】
【0062】
<実験例1>
まず、図1に示される化合物結晶製造装置のカーボン製の容器1の内部に、円盤状のGaN多結晶(外径:75mm、厚み:10mm)からなる固体原料3上にMoワイヤからなるスペーサ4を介してGaN単結晶(外径:50mm、厚み:400μm、面方位:(0001)、転位密度:5×106/cm2、表面の外形状の反り:5μm未満)からなる種結晶5を設置した。種結晶5は、種結晶5のGa面が固体原料3側を向くようにして設置され、互いに向かい合う固体原料3の表面と種結晶5の表面との間の間隔Dは20μmに設定した。
【0063】
また、容器1の上面の一部のみを断熱材2で覆わず、その他の部分を断熱材2で覆うことによって、後述する加熱時に種結晶5の温度が固体原料3の温度よりも低くなるようにした。
【0064】
また、容器1の一部に貫通孔を設け、当該貫通孔から容器1の内部に雰囲気ガスを導入することができるとともに、容器1の内部の雰囲気ガスを排出することができるようにした。
【0065】
次に、上記のように固体原料3、スペーサ4および種結晶5が設置された容器1を加熱炉中に設置した後、容器1の内部の圧力(互いに向かい合っている固体原料3および種結晶5の各々の表面とスペーサ4の側面とで囲まれた領域7の圧力)が100Paに保たれるように、容器1の貫通孔から容器1の内部に雰囲気ガスとしてNH3ガスを導入した。
【0066】
次に、容器1の内部の圧力を100Paに保持した状態で、加熱炉に設けられた加熱装置によって、固体原料3および種結晶5を加熱して、固体原料3を昇華させて昇華ガスを10時間発生させて、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0067】
その際に、固体原料3を昇華時の容器1の上部の温度を熱電対6aで測定するとともに、容器1の下部の温度を熱電対6bで測定し、熱電対6aと熱電対6bとの間の距離を4cmとして、熱電対6aと熱電対6bとの間の温度勾配を算出できるようにした。
【0068】
その結果、固体原料3を昇華時の容器1の上部の温度が840℃であり、容器1の下部の温度が860℃であって、熱電対6aと熱電対6bとの間の温度勾配は5℃/cmであった。
【0069】
しかしながら、実験例1においては、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることができなかった。
【0070】
<実験例2>
容器1の内部の圧力を10Paに保持した状態で固体原料3および種結晶5を加熱して固体原料3を昇華させて昇華ガスを発生させたこと以外は実験例1と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0071】
しかしながら、実験例2においても、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることができなかった。
【0072】
<実験例3>
容器1の内部の圧力を5Paに保持した状態で固体原料3および種結晶5を加熱して固体原料3を昇華させて昇華ガスを発生させたこと以外は実験例1と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0073】
その結果、実験例3においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に30μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例3におけるGaN単結晶の成長速度は3(μm/hour)であった。
【0074】
<実験例4>
容器1の内部の圧力を2Paに保持した状態で固体原料3および種結晶5を加熱して固体原料3を昇華させて昇華ガスを発生させたこと以外は実験例1と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0075】
その結果、実験例4においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に230μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例4におけるGaN単結晶の成長速度は23(μm/hour)であった。
【0076】
<実験例5>
容器1の内部の圧力を1Paに保持した状態で固体原料3および種結晶5を加熱して固体原料3を昇華させて昇華ガスを発生させたこと以外は実験例1と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0077】
その結果、実験例5においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に310μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例5におけるGaN単結晶の成長速度は31(μm/hour)であった。
【0078】
<実験例6>
容器1の内部の圧力を0.5Paに保持した状態で固体原料3および種結晶5を加熱して固体原料3を昇華させて昇華ガスを発生させたこと以外は実験例1と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0079】
その結果、実験例6においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に290μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例6におけるGaN単結晶の成長速度は29(μm/hour)であった。
【0080】
<実験例7>
容器1の内部の圧力を0.2Paに保持した状態で固体原料3および種結晶5を加熱して固体原料3を昇華させて昇華ガスを発生させたこと以外は実験例1と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0081】
しかしながら、実験例7においては、固体原料3の表面にGaのドロップレットが形成されて、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることができなかった。
【0082】
<実験例1〜7の評価>
上記の実験例1〜7の製造条件とGaN単結晶の成長速度とを下記の表1にまとめる。
【0083】
なお、実験例4〜6においては、GaN単結晶の成長が進行しすぎて種結晶5のGa面からなる表面上に成長したGaN単結晶と固体原料3を構成するGaN多結晶とが一体化していたため、そのGaN単結晶とGaN多結晶との一体化物をスライスして、その断面から、成長したGaN単結晶の厚さを測定して、GaN単結晶の成長速度を算出した。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、実験例1〜7においては、容器1の内部の圧力を2Paにまで低減させたときに急速にGaN単結晶の成長速度が増大し、容器1の内部の圧力を2Paよりも低減させてもGaN単結晶の成長速度はあまり変化しなかったことから、GaN単結晶の成長速度は容器1の内部の圧力に反比例していなかった。
【0086】
したがって、実験例1〜7においては、GaN単結晶の成長が固体原料3の昇華ガスで律速されていないため、通常の昇華法とは全く異なるメカニズムでGaN単結晶が成長しているものと考えられる。
【0087】
また、実験例3と、実験例4〜6とを比較すれば明らかなように、実験例4〜6のGaN単結晶の成長速度は実験例3のGaN単結晶の成長速度よりも飛躍的に大きくなっていることから、実験例4〜6における上記の間隔Dは固体原料3の昇華ガスの平均自由行程以下になっているものと考えられる。
【0088】
さらに、実験例3〜6で得られたGaN単結晶の転位密度を測定してGaN単結晶の結晶性を評価したところ、種結晶5を構成するGaN単結晶以上の結晶性を有する(種結晶5を構成するGaN単結晶の転位密度以下の転位密度を有する)ことが確認された。
【0089】
<実験例8>
上記の間隔Dを1000μmとしたこと以外は実験例5と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0090】
しかしながら、実験例8においては、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることができなかった。
【0091】
<実験例9>
上記の間隔Dを100μmとしたこと以外は実験例8と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0092】
その結果、実験例9においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に30μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例9におけるGaN単結晶の成長速度は3(μm/hour)であった。
【0093】
<実験例10>
上記の間隔Dを50μmとしたこと以外は実験例8と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0094】
その結果、実験例10においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に190μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例10におけるGaN単結晶の成長速度は19(μm/hour)であった。
【0095】
<実験例11>
上記の間隔Dを20μmとしたこと以外は実験例8と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0096】
その結果、実験例11においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に300μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例11におけるGaN単結晶の成長速度は30(μm/hour)であった。
【0097】
<実験例12>
上記の間隔Dを10μmとしたこと以外は実験例8と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0098】
その結果、実験例12においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に310μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例12におけるGaN単結晶の成長速度は31(μm/hour)であった。
【0099】
<実験例13>
スペーサ4を介さずにGaN多結晶からなる固体原料3とGaN単結晶からなる種結晶5とを接触させて上記の間隔Dを10μm未満としたこと以外は実験例8と同様にして、種結晶5のGa面からなる表面上にGaN単結晶を成長させることを試みた。
【0100】
その結果、実験例13においては、10時間の成長時間で、種結晶5のGa面からなる表面上に270μmの厚みのGaN単結晶を成長させることができた。したがって、実験例13におけるGaN単結晶の成長速度は27(μm/hour)であった。
【0101】
<実験例8〜13の評価>
上記の実験例8〜13の製造条件とGaN単結晶の成長速度とを下記の表2にまとめる。
【0102】
なお、実験例10〜13においては、GaN単結晶の成長が進行しすぎて種結晶5のGa面からなる表面上に成長したGaN単結晶と固体原料3を構成するGaN多結晶とが一体化していたため、そのGaN単結晶とGaN多結晶との一体化物をスライスして、その断面から、成長したGaN単結晶の厚さを測定して、GaN単結晶の成長速度を算出した。
【0103】
【表2】

【0104】
表2に示すように、実験例8〜13においては、上記の間隔Dを50μmまで狭めたときに急速にGaN単結晶の成長速度が増大し、上記の間隔Dを50μmよりも狭めてもGaN単結晶の成長速度はあまり変化しなかったことから、GaN単結晶の成長速度は上記の間隔Dに反比例していなかった。
【0105】
したがって、実験例8〜13においては、GaN単結晶の成長が固体原料3の昇華ガスで律速されていないため、通常の昇華法とは全く異なるメカニズムでGaN単結晶が成長しているものと考えられる。
【0106】
また、実験例9と、実験例10〜13とを比較すれば明らかなように、実験例10〜13のGaN単結晶の成長速度は実験例9のGaN単結晶の成長速度よりも特異的に大きくなっていることから、実験例10〜13における上記の間隔Dは固体原料3の昇華ガスの平均自由行程以下になっているものと考えられる。
【0107】
さらに、実験例10〜13で得られたGaN単結晶の転位密度を測定してGaN単結晶の結晶性を評価したところ、種結晶5を構成するGaN単結晶以上の結晶性を有する(種結晶5を構成するGaN単結晶の転位密度以下の転位密度を有する)ことが確認された。
【0108】
<好ましい成長条件>
表1および表2より、実験例1〜13におけるGaN単結晶の成長においては、領域7の雰囲気の温度Tが850℃のとき(すなわち、容器1の上部の温度が840℃で、容器1の下部の温度が860℃であるため、その間の領域7の雰囲気の温度Tは850℃と考えられる)に、領域7の圧力(Pa)と上記の間隔D(μm)との積(単位:Pa・μm)が10以上100以下であることが好ましく、10以上50以下であることがより好ましく、10以上40以下であることがさらに好ましいことがわかる。
【0109】
また、単位を換算すると、領域7の圧力(Pa)と上記の間隔D(m)との積(単位:Pa・m)は、1×10-2以上1×10-1以下であることが好ましく、1×10-2以上5×10-2以下であることがより好ましく、1×10-2以上4×10-2以下であることがさらに好ましい。
【0110】
そして、平均自由行程は領域7の雰囲気の温度T(K)の0.2乗(T(K)0.2)に比例する(領域7の雰囲気の温度Tの上昇とともに緩やかに平均自由行程が長くなる)。
【0111】
以上を考慮すると、実験例1〜13におけるGaN単結晶の好ましい成長条件としては、領域7の圧力(Pa)と上記の間隔D(m)と領域7の雰囲気の温度T(K)-0.2との積(単位:Pa・m・T(K)-0.2)が2.5×10-3以上2.5×10-2以下であることが好ましく、2.5×10-3以上1.25×10-2以下であることがより好ましく、2.5×10-3以上1×10-2以下であることがさらに好ましい。
【0112】
<実験例14>
GaN単結晶の成長時間を480時間に延長したこと以外は実験例13と同様にしてGaN単結晶の成長を行なった。
【0113】
その結果、実験例14においては、GaN多結晶からなる固体原料3がすべて種結晶5の表面の面方位を引き継いだGaN単結晶の成長に寄与しており、外径が50mm(2インチ)の種結晶5の表面上に外径が3インチのGaN単結晶インゴットが得られた。
【0114】
また、実験例14で得られたGaN単結晶インゴットの転位密度を測定してGaN単結晶インゴットの結晶性を評価したところ、種結晶5を構成するGaN単結晶以上の結晶性を有する(種結晶5を構成するGaN単結晶の転位密度以下の転位密度を有する)ことが確認された。
【0115】
<実験例15>
実験例14で得られたGaN単結晶インゴットから1辺が10mmの略正方形状の表面(面方位:(20−21)面)を有するGaN単結晶ウエハを切り出した。このGaN単結晶ウエハを隙間なく19枚並べたものを種結晶5として実験例14と同一の製造条件でGaN単結晶の成長を行なった。
【0116】
その結果、19枚のGaN単結晶ウエハからなる種結晶5とその上に成長したGaN単結晶とが一体化したGaN単結晶が得られ、成長したGaN単結晶の転位密度を測定してGaN単結晶の結晶性を評価したところ、種結晶5を構成するGaN単結晶ウエハ以上の結晶性を有する(種結晶5を構成するGaN単結晶ウエハの転位密度以下の転位密度を有する)ことが確認された。
【0117】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、化合物結晶の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 容器、2 断熱材、3 固体原料、4 スペーサ、4a 側面、5,5a,5b,5c 種結晶、6a,6b 熱電対、7 領域、10 化合物結晶、31,51 表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶の表面の少なくとも一部と塊状の固形物からなる固体原料の表面の少なくとも一部とが間隔を空けて互いに向かい合うように前記種結晶と前記固体原料とを配置する工程と、
前記固体原料を加熱する工程と、
前記固体原料の加熱により前記固体原料が昇華して発生した昇華ガスを、互いに向かい合っている前記種結晶の表面と前記固体原料の表面との間の領域から実質的に外部に漏洩させずに前記種結晶の表面上に化合物結晶を成長させる工程と、を含む、化合物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶と前記固体原料とを近接に配置することを特徴とする、請求項1に記載の化合物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶の表面と前記固体原料の表面との間の間隔を前記昇華ガスの平均自由行程以下とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記固体原料の1つに対して前記種結晶を複数配置することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の化合物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記種結晶の複数を実質的に隙間なく配置することを特徴とする、請求項4に記載の化合物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記化合物結晶が、III−V族化合物結晶、または炭化ケイ素結晶であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の化合物結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105574(P2011−105574A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265086(P2009−265086)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】