説明

化学物質センシング素子、ガス分析装置ならびに化学物質センシング素子を用いたエタノールの濃度を検出する方法

【課題】多成分系のガスから特定化学物質を高選択的および高感度に検出でき、さらに装置の小型化および測定時間の短縮化を達成できる化学物質センシング素子を提供する。
【解決手段】導電性基体の表面を化学式(1)または(2)で示される化学構造を含む化合物で表面修飾してなるセンシング部を備え、特定化学物質を検出するための化学物質センシング素子に関する(R1とR4とはH、CおよびNのうちいずれかを含む化学構造であり、R2とR5とはHおよびNのうちいずれかを含む化学構造であり、R3とR6とはHおよびNaのうちいずれかを含む化学構造である)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学物質を検知する化学物質センシング素子、ならびに化学物質センシング素子を備えたガス分析装置に関するものである。また、本発明は、該化学物質センシング素子を用いて検体、特に呼気中のエタノール濃度を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国は高齢化および少子化が進んでおり、近い将来に国民の3人に1人が65歳以上になるという超高齢化社会の到来が予測されている。このような状況下において急務とされているのが、国民医療費の抑制である。このため、予防医療の充実が注目されている。予防医療が充実することで病気になる人が減少すれば、医療費を軽減させることができるからである。
【0003】
予防医療を充実させるためには、身近な機器で測定した健康情報を活用して健康管理できるシステムが必要である。手軽に個人の健康状態を把握するための指標として、血液、尿、汗、唾液および呼気等の生体試料がある。このような生体試料中には、血液における血糖値のように、疾病又はその兆候に起因して数値が変化する物質(以下、「マーカ」と記す。)が複数含まれている。したがって、マーカの変化量を測定することによって個人の健康状態を把握できる可能性が高く、マーカの測定を常時行なうことで、健康管理および疾病の早期発見が可能になる。上述の生体試料の中でも、呼気は、複数種のマーカを含む点、迅速かつ簡便にサンプリングおよび測定ができる点、および、測定対象がガス状であり非侵襲で測定できるため肉体的なダメージが小さい点等から、測定に最適な生体試料であると言える。
【0004】
呼気中のマーカであるエタノールやアセトンは、非特許文献1に示すように、非糖尿病患者の呼気中よりも糖尿病患者の呼気中において高濃度で検出される。そのため、これらの濃度を検出することで疾病の予測および程度等を知ることが可能であり、高性能な呼気センサの実現が望まれている。
【0005】
呼気中のマーカの測定方法として、ガスクロマトグラフィーおよび化学発光法が知られているが、これらの測定方法においては測定機器が大型かつ高額であり、また操作方法の習熟も必要であるため実用的ではない。特許文献1には呼気エタノールを検出する接触燃焼式ガスセンサが提案されている。
【0006】
このような問題を解決するための一方法として、非特許文献2には、カーボンナノチューブ(以下、「CNT(Carbon Nano Tube)」と記す場合がある。)を利用したガスセンサが提案されている。CNTは直径がナノオーダーのチューブ状炭素材料であり、グラフェンシートを円筒状に丸めた構造によりなる。このグラフェンシートとは、6つの炭素原子が正六角形の板状構造を形成して結合したグラファイト構造が二次元に連続して形成されたものである。CNTは高い導電性を有し、かつナノオーダーの材料であるため、非特許文献2に開示されるガスセンサは、超小型化、低消費電力およびポータブルを実現可能であり、簡便で実用的な健康チェック手段として用いることができる。
【特許文献1】特開2008−107341号公報
【非特許文献1】ピエトロ・R・ガラセッティら、「血清グルコースレベルの指標としての呼気エタノールとアセトン:最初の報告」、ダイアベース テクノロジー アンド セラピクス、第7巻、p.115−p.123、2005年(PIETRO R. GALASSETTI et al.、“Breath Ethanol and Acetone as Indicators of Serum Glucose Levels : An Initial Report”、DIABATES TECHNOLOGY and THERAPEUTICS、vol. 7、p.115−p.123、2005)
【非特許文献2】齋藤理一郎、「カーボンナノチューブの概要と課題」、機能材料、vol.21、No.5、p.6−p.14、2001年5月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている接触燃焼式ガスセンサは、作動するためには300℃に加熱する必要があるため実用的ではない。
【0008】
さらに、非特許文献1の記載によると、一般的に、健康な人の呼気中におけるエタノール濃度は、10ppb程度であり、糖尿病患者の呼気中におけるエタノール濃度は、45ppb程度であるため、呼気中のエタノールを検出するためのエタノールセンサは、検出下限がppbレベルと高感度のものが要求されることとなる。特許文献1のようなこれまで開示されている方法では、上記の条件を満たすエタノールセンサの実現は困難であると考えられる。
【0009】
また、非特許文献2におけるカーボンナノチューブを利用したガスセンサは、センシング対象ガスに対する選択性が低いために、どのような分子が接近しても同じように抵抗変化を起こしてしまい、雰囲気中に存在する物質の定性分析ができないという問題がある。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定化学物質(特にエタノール)を高選択的および高感度に検出でき、さらに装置の小型化および測定時間の短縮化を達成でき、高い検出特異性を有し、多成分系のガスから特定化学物質を検出することができる化学物質センシング素子を提供することである。そして、該化学物質センシング素子を備えたガス分析装置および呼気分析装置、ならびに化学物質センシング素子を用いたエタノール濃度検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、導電性基体の表面を以下の化学式(1)または化学式(2)で示される化学構造を含む化合物で表面修飾してなるセンシング部を備え、特定化学物質を検出するための化学物質センシング素子に関する。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
ここで、化学式(1)および化学式(2)において、R1とR4とはH、CおよびNのうち少なくともいずれかを含む化学構造であり、R2とR5とはHおよびNのうち少なくともいずれかを含む化学構造であり、R3とR6とはHおよびNaのうち少なくともいずれかを含む化学構造である。
【0015】
また、本発明の化学物質センシング素子において、化学式(1)または化学式(2)で示される化学構造を含む化合物は、R1とR4とが
【0016】
【化3】

【0017】
で示される化学構造であり、R7はフェニル基あるいはナフチル基のいずれか、または、フェニル基あるいはナフチル基におけるHがC、NおよびSから選ばれる少なくともいずれかを含む官能基で置換された化学構造であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の化学物質センシング素子において、特定化学物質がエタノールであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の化学物質センシング素子において、導電性基体がナノ構造体からなることが好ましい。
【0020】
また、本発明の化学物質センシング素子において、ナノ構造体がカーボンナノチューブからなることが好ましい。
【0021】
また、本発明の化学物質センシング素子において、カーボンナノチューブの表面の化合物の厚みは20nm〜100nmであることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、上述の化学物質センシング素子と化学物質センシング素子の電気抵抗を検出する検出部を備えるガス分析装置に関する。
【0023】
また、本発明は、上述の化学物質センシング素子を用いて検体中のエタノールの濃度を検出する方法に関する。
【0024】
また、本発明は、上述のガス分析装置で検体中のエタノールの濃度を検出する方法に関する。
【0025】
また、本発明は、上述のガス分析装置で呼気中のエタノールの濃度を検出する方法に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、疾患に依存した生体情報を検出でき従来に無かった非侵襲、超小型、低消費電力、ポータブルな超高感度、高選択性のガスセンサの開発が可能となり、ユーザーに対して、使用時のストレスが少ない化学物質センシング素子、ならびにこれを備えたガス分析装置、ならびに化学物質センシング素子を用いたエタノールの濃度を検出する方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0028】
図1は、本発明における化学物質センシング素子の一形態を示す模式図である。図2は、図1の一部の拡大概念図である。
【0029】
<化学物質センシング素子の構造>
以下、図1および図2に基づいて本発明にかかる化学物質センシング素子の構造について説明する。図1に示すように、化学物質センシング素子10は、電極(正極および負極)に接続されたセンシング部1を備える。センシング部1に対して検体、たとえば呼気3を接触させることにより生じるセンシング部1の電気伝導度の変化、つまり電気抵抗変化を検出することによって、呼気3中の特定化学物質の有無および含有量を明らかにすることができる。
【0030】
図2に示すようにセンシング部1は、導電体基体4の表面を以下の化学式(1)または化学式(2)で示される化学構造を含む化合物2(以下、修飾化合物2ともいう)で表面修飾してなるものである。
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
ただし、R1とR4とはH、CおよびNのうち少なくともいずれかを含む化学構造であり、R2とR5とはH、Nのうち少なくともいずれかを含む化学構造であり、R3とR6とはHおよびNaのうち少なくともいずれかを含む化学構造である。なお、図2においては、化学式(2)で示される化学構造を含む修飾化合物2としてのコンゴーレッドを示す。R1とR4とは具体的にアゾ基のような構造を有するものを挙げることができ、R2とR5とは具体的にアミノ基のような官能基を挙げることができ、R3とR6とは具体的にナトリウム、水素のような分子を挙げることができる。
【0034】
また、化学式(1)または化学式(2)で示される化学構造を含む修飾化合物2は、R1とR4とが
【0035】
【化6】

【0036】
で示される化学構造であり、R7はで示される化学構造であり、R7はフェニル基あるいはナフチル基のいずれか、または、フェニル基あるいはナフチル基におけるHがC、NおよびSから選ばれる少なくともいずれかを含む官能基で置換された化学構造であることが好ましい。
【0037】
化学式(1)で示される化学構造を含む修飾化合物2の例としてはメチルオレンジを挙げることができる。また、化学式(2)で示される化学構造を含む修飾化合物2の例としてはコンゴーレッドを挙げることができる。また、メチルオレンジとコンゴーレッドとが共通する化学構造として、アゾ基と、スルホ基またはスルホン酸のナトリウム塩と、ベンゼン環とを含むことが特に好ましい。
【0038】
本発明においては、これらの化学構造を備える化合物は、非共有電子対を有し、また、電子の非局在化が分子全体に広がっているような特徴を有することから、化学物質センシング素子に用いられることが好ましい。
【0039】
コンゴーレッドは、ベンジジンジアゾビス−1−ナフチルアミン−4−スルホン酸のナトリウム塩で、第2世代のアゾ染料である。水に溶かすとコロイド溶液となり、エタノールなどの有機溶媒にはより溶けやすい特徴をもち、pH指示薬として広く知られている。
【0040】
メチルオレンジは、4−ジエチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホン酸ナトリウム塩と呼ばれ、コンゴーレッドと同様、pH指示薬として滴定によく使用されている。
【0041】
また、導電性基体4の表面の修飾化合物2の厚みTは、20nm〜100nmであることが特に好ましい。特に修飾化合物2がコンゴーレッドの場合には、該厚みは20nm〜100nmであることが好ましい。該厚みTは、化学物質センシング素子を透過型電子顕微鏡で断面方向から確認することができる。該厚みTが100nmを超えると導電性基体4の上に抵抗の高い有機材料が積層されることになり、修飾化合物2上で僅かに特定化学物質(たとえばエタノール)の吸脱着反応による電気抵抗変化が起こったとしても、それを電気特性として検知することが困難となる虞がある。一方、導電性基体4上の修飾化合物2の厚みTが20nm未満の場合には、特定化学物質を検知する起点が少ないことで、電気抵抗変化が見られない虞がある。さらに、微小領域塗布装置等を用いることで導電性基体4表面に修飾化合物2を均一に適当な厚さで修飾することが好ましい。これにより、選択性がほしいセンサ部分全体に修飾材料を均一に塗布することができ、より高感度に検出することができる。
【0042】
本発明においては、特定化学物質はアルコールであることが好ましい。本発明においては、特定化学物質3としての水酸基と、修飾化合物2との間で水素結合のような相互作用が生じるものと考えられる。本発明においては、特定化学物質3は、エタノールであることが特に好ましい。
【0043】
また、本発明においては、導電性基体4がナノ構造体からなることが好ましい。本発明において、ナノ構造体とは、ナノチューブ、ナノワイヤ、フラーレンなどのような構造体を示すものとし、該ナノ構造体における表面積は100〜3000cm2/cm3の範囲である。導電性基体4がナノ構造体であることによって、センシングデバイスを構築した際、従来の酸化物半導体センサ等では得られない超高感度のセンシングが室温で可能となるという利点が生じる。そして、導電性基体4は、カーボンナノチューブからなるナノ構造体であることが特に好ましい。カーボンナノチューブは、ナノメートルサイズでの電気導電性を示すだけでなく、そのカイラリティー(chirality)によっては半導体となり、制御電圧(ゲート電圧)による感度の増幅作用が得られる性質があることから、本発明において適当である。
【0044】
その形状がナノオーダーの微細構造であることから、応答性および検出下限が大幅に向上する。すなわち、化学物質がナノ構造体表面に付着してからナノ構造体の電気抵抗変化が発生するまでの時間は、ナノ構造体の導電性およびナノ構造に起因して非常に短くなる。また、ナノ構造体における、表面積が大きいという特徴点、および、全ての構成原子が表面を構成しているという特徴点に起因して、化学物質による付着の影響が電気抵抗に反映される際の電子散乱等による損失が非常に少なくなる。したがって、上述のグループから選択されるナノ構造体は、従来のセンシング素子では困難であった、たとえば10ppb〜45ppb程度の微量の特定物質、本実施形態ではエタノールの存在確認が可能になる。ナノ構造体がカーボンナノチューブからなる場合には、上述の効果がより顕著に発現する。このように、10ppb〜45ppb程度の微量のエタノールを検出できるようになることにより、呼気中のマーカの測定が可能な化学物質センシング素子を得ることができる。したがって、手軽に個人の健康状態を把握することができるようになる。また、〜100ppm程度のエタノールを検出できる、化学物質センシング素子も提供することができる。
【0045】
また、該カーボンナノチューブ中の不純物は、特に限定されないが、カーボン(炭素(C))に対して強度比で0.001〜0.05の範囲であることが好ましく、0.001〜0.01の範囲であることが特に好ましい。ここで、不純物とは、C以外のK、Mg、Ca、Na、Al、Si、S、Fe、Co、Ni等の元素の総称を示すものとし、強度比とは、たとえばエネルギー分散型X線分析器で検出されるカウント数の値を示すものとする。CNTの導電性が、CNTバルクの性質で左右されることで、化学物質センシング素子の表面で起こる特定化学物質(たとえばエタノール分子)とコンゴーレッドとの微弱な電気特性の変化を検出することが難しいため、検出感度が著しく低下する虞がある。CNTの主要構成元素である炭素に対する各不純物(Ca、Mg、SやSi等)の強度比を計算した場合、0.001未満である場合には、データの信頼性に問題がある虞があり、0.05超過である場合には、不純物による導電性がセンシング特性を左右してしまうといった虞がある。そして、CNTそれ自体ではたとえばエタノールに対して特異的に反応をしないが、コンゴーレッドで表面修飾した際、はじめてエタノールと反応する化学物質センシング素子10が得られる。
【0046】
なお、導電性基体4は、保持体に保持される形態であっても良い。この場合、保持体の導電性は絶縁体、もしくは高抵抗材料であるものが好ましい。
【0047】
≪化学物質センシング部の動作、用途≫
本実施形態の化学物質センシング素子10は、導電性基体4の表面を修飾化合物2で均一に適当な厚さで修飾したセンシング部1の両端に電極を取り付けることで、特定化学物質(たとえばエタノール)の吸着に起因して電気伝導度が低下することを確認できる。
【0048】
エタノールの付着による起電力の変化は、導電性基体4の両端に電圧を印加すれば特定化学物質の付着により導電性基体4に流れる電流が変化するため、負荷抵抗を介して、特定化学物質の付着の状況を検出できる。そして、電気抵抗変化を増幅器の出力電圧の変化として直流電圧計により検出する。このように電気抵抗変化を測定することによって、検体(たとえば測定対象ガス)中の特定化学物質の有無を確認することができる。センシング部1がたとえばカーボンナノチューブ単独であるとエタノールを検出できないが、修飾化合物2で表面修飾されていることによって、特に呼気3成分中のエタノールを特異的に検出することができる。
【0049】
本発明の化学物質センシング素子は複数回使用でき、再生の方法としては、熱をかける、または窒素等のガスを短時間流す方法が挙げられる。
【0050】
そこで、本実施形態においては、半導体フォトプロセスを利用し、導電性基体、特にCNTを直接固体基板(たとえばシリコン基板)の上にパターニングし、該CNTが成長した領域だけに、別途、コンゴーレッドで表面修飾する方法を用いて、化学物質センシング素子を製造する方法を選択することができる。つまり、CNT作製プロセスにおいて、不純物管理を徹底することで、高感度、かつエタノールに高選択性に反応するセンサを開発することができる。CNT作製プロセスについては、後述する。
【0051】
<化学物質センシング素子の製造方法>
図3は、本発明における一実施形態の化学物質センシング素子の製造方法で用いられるフォトマスクを示す上面図である。図4は、図3の一部を拡大したものである。図5は、本発明における一実施形態の化学物質センシング素子の製造方法で用いられるフォトマスクを示す上面図である。図6は、本発明における一実施形態の化学物質センシング素子の製造方法で用いられる装置を示す模式図である。
【0052】
以下、図3〜図6に基づいて説明する。
≪電極パターンおよび導電性基体の調製≫
まず、酸化シリコン膜が表面に形成されたシリコン基板を準備し、該シリコン基板の表面をフォトレジストで被覆する。そして、該フォトレジストの上に図3に示すフォトマスク20を設置して、該シリコン基板に対して露光した。そして、パターン21と同じパターンで酸化シリコン膜が露出させる。フォトマスク20には、パターン21とアライメントマーカー29とが備えられ、アライメントマーカー29によって、化学物質センシング素子のパターンを適宜調製し、合わせることができる。
【0053】
次に、図3に示すパターン21およびアライメントマーカー29を備えるフォトマスク20を用いて、厚さ10〜500nmのパターン21状の電極を作製する。電極の材料は特に限定されないが、たとえばシリコン基板側にTiを製膜した後、Auを製膜してなる物質を用いることが好ましい。つまり、酸化シリコン膜上に電極パターンが形成される。ここで、図4は、図3における一部22の拡大図であるが、図4に示すように、櫛歯状のパターンの電極であることが好ましい。そして、櫛歯状の電極の幅は4μm以下に設定することが好ましい。また、櫛歯状の電極間のギャップ幅は、5μm以下に設定することが好ましい。電極ギャップ幅を3、4、5、6μmと変えて、同一条件で化学物質センシング素子を製造した場合に、その化学物質センシング素子の初期抵抗のばらつきを評価したところ、5μm超過のものはΩオーダーから数MΩオーダーまで特性のバラツキがあり、信頼性に欠ける虞があるためである。なお、寸法については、特に限定はされないが、たとえば図4においてL1およびL2を250μm、L3を520μm、L4を500μm、L5およびL6を10μmとすることができる。つまり、520μm四方の中に250μm×500μmの独立したパターンからなる化学物質センシング素子を形成することができる。
【0054】
図4に示すように、できるだけ小さな領域の中に、複数(図4においては2個示す)の化学物質センシング素子を作製することは、量産化された素子の初期特性のばらつきを抑える上でも有効である。したがって、図4における端子23および24からなる電極ペア、ならびに、端子25および26からなる電極ペアを備える2個のそろった化学物質センシング素子は、双方の一方をリファレンス素子として利用できるメリットと、万が一何かのトラブルで片側の素子が動作不良になった場合でも、リペアとしてもう片側の素子を利用できるメリットがある。
【0055】
次に、該シリコン基板の表面を再度フォトレジストで被覆する。そして、該フォトレジストの上に図5に示すフォトマスク30を、アライメントマーカー39と上述したアライメントマーカー29とが重なるように設置して、該シリコン基板に対して露光した。上記の操作で、櫛歯状のパターンの電極上のみのレジストが開口させる。次に、該シリコン基板に対して、アークプラズマ装置を用いて、導電性基体成長触媒(たとえばカーボンナノチューブ成長触媒)を蒸着する。本操作によって、図4におけるパターン27のように櫛歯状の電極の上に導電性基体成長触媒が蒸着する。なお、導電性基体成長触媒は、Co、Fe、Niなどを用いることができる。
【0056】
その後、アセトンにてシリコン基板上のフォトレジストを完全に除去し、マイクロ波プラズマCVD装置の真空チャンバ内へ該シリコン基板を導入する。そして、真空チャンバ内の圧力を適宜調整しながら、シリコン基板を加熱する温度を800〜1200℃に保持し、真空チャンバ内にH2ガスを50sccm導入し、その後、マイクロ波を該真空チャンバ内に導入することによってH2ガスをプラズマ化し、導電性基体成長触媒の表面を還元する前処理をする。
【0057】
そして、そのまま連続して、該真空チャンバ内において、原料ガスをプラズマ化することで、導電性基体成長触媒のパターンに応じた導電性基体が製造される。なお、上述した強度比は、電極パターンおよび導電性基体の調製工程で調整することができる。
【0058】
≪表面修飾≫
本実施形態においては、上述の導電性基体の表面に修飾化合物(コンゴーレッド)を塗布する。修飾化合物を塗布する際には、その塗布量が上述した修飾化合物の厚みと直結するため、塗布回数を検討する必要がある。
【0059】
以下、図6に基づいて修飾化合物としてコンゴーレッドを用いた形態について説明する。
【0060】
まず、コンゴーレッドをメタノール溶媒に溶解した0.025〜0.25mMのコンゴーレッド溶液を作製し、上述のパターンで形成されたカーボンナノチューブの上にコンゴーレッド溶液を塗布する。塗布に用いる装置は、ディスペンサ16、X,Y,Z軸可動のステージ14、CCDカメラ15a、および、ステージ14を水平方向から60°程度の可動を可能とした位置に設置したCCDカメラ15bとを備えるものとすることができる。CCDカメラ15aは、コンゴーレッド溶液の塗布位置を正確に決定する。一方、CCDカメラ15bでは、ディスペンサ16先端から塗布される液滴を確認する。塗布圧力、塗布時間で、ディスペンサ16におけるチップ先端の直径等から適宜塗布条件を決定し、最終的に導電性基体を表面修飾するコンゴーレッドの厚みが20nm〜100nmとなるようにすることが好ましい。
【0061】
また、たとえば、不純物濃度の低いCNTと修飾化合物とを混合した液体を電極パターンの上に塗布することで化学物質センシング素子を製造することもできる。また、未修飾の導電性基体の表面に、修飾化合物の溶液をスプレーで均一に塗布することもできる。
【0062】
<ガス分析装置>
本実施形態においては、上述した化学物質センシング素子と、化学物質センシング素子の電気抵抗変化を検出する検出部とを備えるガス分析装置を提供することができる。ガス分析装置によると、該化学物質センシング素子における電気抵抗変化を検出して、即座に確認することができるために、上述したような、ポータブルセンサーとして有効な構成である。また、該ガス分析装置は、たとえば、呼気中の特定化学物質を検出するために用いることもできるが、それ以外に大気や室内環境における空気の清浄化の様子を確認するためのエタノールの検出のような用途に応用できる。
【0063】
<呼気分析装置>
図14は本実施形態における呼気分析装置を示す模式的な斜視図である。図15は、本実施形態における呼気分析装置を示す模式的な断面図である。以下、図14および図15に基づいて説明する。
【0064】
図14および図15に示すように、本実施形態においては、センシングチャンバ43と、センシングチャンバ43に接続される呼気導入口42および排出口46と、水分除去体41とを備える呼気分析装置40を製造することもできる。センシングチャンバ43は、上述の化学物質センシング素子10を内部に設置したモジュールであり、呼気導入口42と水分除去体41とが接続されている。つまり、本実施形態における呼気分析装置40は、センシングチャンバ43と呼気導入口42との間に水分除去体41が配置された構造である。また、センシングチャンバ43には、液晶画面50を設けてもよい。液晶画面50は、呼気中の特定化学物質(たとえばエタノール)の濃度に合わせて適宜色が変化するように設定することができる。
【0065】
呼気中には80%もの水分が含まれており、水分中からppm〜ppbレベルのエタノールを検知するには、前処理技術が必須である。さらに圧力損失を限りなく低下する必要もあることから水分除去体41として、中空糸フィルタを搭載することが好ましい。
【0066】
実際の呼気分析においては、水分の存在が最大の問題となることが予想される。そのため、呼気中の目的のマーカーガスである特定化学物質(エタノール)は除去せず、かつ、呼気中の水分だけを取り除く分離膜を備えることが好ましい。水分はシリカゲルなどの吸着剤で除去することも可能である。ただし、シリカゲルは目的のマーカーガスも吸着されてしまう点、再生が必要な点、圧力損失の点等を考慮すると、上述した中空糸フィルタを用いることが好ましい。中空糸フィルタとは、たとえば、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルの共重合体のような材料からなるものを挙げることができる。
【0067】
また、センシングチャンバから排出されるガスは、速やかに排出されるように該排出口46に逆止弁45を設置することで、所定の流速での評価をすることが好ましい。さらに、実際の呼気分析において、一旦テドラーバックのような呼気採取機構で呼気を採取したり、直接マウスピースのような物を使って呼気をセンシングチャンバ43側に吹き込む場合、中空糸フィルタのような水分除去体41で水分を除去された呼気が、所定の流速で導入されるよう、センシングチャンバ43に接続する部分に逆止弁44を、排出口46は逆止弁45を設置することが好ましい。この場合、呼気導入口42から入ったガスがセンシングチャンバ43内から逆流することも無く、また外気からのセンシングチャンバ43内へのガスの導入も無く、一定の圧力で、一定の流速で呼気ガスを分析することが可能である。
【0068】
また、本発明においては、上述の化学物質センシング素子およびガス分析装置を利用することで、検体、特に呼気中のエタノール濃度を検出することができる。なお、該エタノール濃度は、ガスクロマトグラフィー装置を検討することで測定することができる。
【0069】
本発明によると従来には無かった疾患に依存した生体情報を検出でき、従来に無かった非侵襲、超小型、低消費電力、ポータブルな超高感度、高選択性のガスセンサの開発が可能となり、ユーザーに対して、使用時のストレスが少ない化学物質センシング素子(ガスセンサ)が開発され、予防医療社会の実現に向けた着実な進歩が確認され、特に呼気中に含まれるエタノールを高感度、且つ高選択性で検出することができる。
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
[実施例1]
<電極パターンおよびカーボンナノチューブの調製>
以下、図3〜図5に基づいて説明する。なお、図3および図5における説明は、上述したものであり、自明であることは繰り返さない。
【0072】
まず、加熱により生じた厚さ300nmの酸化シリコン膜が表面に形成されたシリコン基板を準備した。そして、該シリコン基板の表面をフォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)で被覆した。そして、該フォトレジストの上に図3に示すフォトマスク20を設置して、該シリコン基板に対して露光した。そして、パターン21と同じパターンで酸化シリコン膜が露出した。
【0073】
次に、図3に示すパターン21およびアライメントマーカー29を備えるフォトマスク20を用いて、厚さ25nmのチタン(Ti)膜を形成し、該チタン膜上に同じく該フォトマスクを用いて厚さ36nmの金(Au)膜を形成した。つまり、酸化シリコン膜上にTi/Au膜が形成されたこととなった。これにより、図3に示すパターン21と同じ電極のパターンを作製することができ、パターン21における一部22は、図4に示すようなギャップ幅3μm、ライン幅5μmからなる櫛歯状のパターンの電極であった。具体的な寸法については、L1およびL2を250μm、L3を520μm、L4を500μm、L5およびL6を10μmとした。
【0074】
次に、該シリコン基板の表面を再度フォトレジストで被覆した。そして、該フォトレジストの上に図5に示すフォトマスク30を、アライメントマーカー39と上述したアライメントマーカー29とが重なるように設置して、該シリコン基板に対して露光した。上記の操作で、櫛歯状のパターンの電極上のみのレジストが開口した。次に、該シリコン基板に対して、アークプラズマ装置(以下APG装置:ULVAC社製/放電電圧60V、アノード―基板間90mm)を用いて厚さ0.05nmのCo膜、厚さ0.2nmのTi膜の順番で蒸着した。Co膜およびTi膜は、カーボンナノチューブ成長触媒として蒸着した。
【0075】
その後、アセトンにてシリコン基板上のフォトレジストを完全に除去し、マイクロ波プラズマCVD装置の真空チャンバ内へ該シリコン基板を導入した。そして、真空チャンバ内の圧力を15Torr(1.99983×103Pa)程度になるように圧力コントロールバルブにて調整しながら、シリコン基板を加熱する温度を800℃に保持し、マスフローコントローラを通じて真空チャンバ内にH2ガスを50sccm導入した。その後、2.45GHzのマイクロ波(250W)を該真空チャンバ内に導入することによってH2ガスをプラズマ化し、5分間、シリコン基板上に設置されたカーボンナノチューブ成長触媒の表面をクリーニングする前処理をした。
【0076】
そして、そのまま連続して、該真空チャンバ内において、原料ガス(H2で希釈したCH4ガス(H2:CH4=80sccm:20sccm))を15分間プラズマ化することで、カーボンナノチューブ成長触媒のパターンに応じた不純物濃度の極めて少ない、純度の高いカーボンナノチューブが作製された。カーボンナノチューブ中の不純物はカーボンに対して強度比で0.05以下であった。
【0077】
本実施例においては該カーボンナノチューブを導電性基体として用いた。
<表面修飾>
本実施例においては、上述したカーボンナノチューブの表面を、コンゴーレッド(和光純薬株式会社製、型番:032−03922)で表面修飾してなるセンシング部を備える化学物質センシング素子を作製した。以下、図6を用いて説明する。
【0078】
まず、コンゴーレッドをメタノール溶媒に溶解した2.5×10-4Mのコンゴーレッド溶液を作製し、上述のパターンで形成されたカーボンナノチューブの上にコンゴーレッド溶液を塗布した。塗布に用いた装置は、武蔵野エンジニアリング製(ML−808 FX com)ディスペンサ16、X,Y,Z軸可動のステージ14、CCDカメラ15a(島津製作所製)、および、ステージ14を水平方向から60°程度の可動を可能とした位置に設置したCCDカメラ15bとを備えるものとした。CCDカメラ15aは、コンゴーレッド溶液の塗布位置を正確に決定するために利用した。一方、CCDカメラ15bでは、ディスペンサ16先端から塗布される液滴を確認するために利用した。塗布条件として塗布圧力20kPa、塗布時間0.02秒の条件で、ディスペンサ16における40μmφのチップ先端からコンゴーレッド溶液を塗布した。本実施例においては、コンゴーレッド溶液を50回塗布した。このとき、透過型電子顕微鏡で断面方向から確認したカーボンナノチューブ上を表面修飾するコンゴーレッドの厚みは23nmであった。
【0079】
[実施例2〜6]
実施例1におけるカーボンナノチューブ上を表面修飾するコンゴーレッド溶液をそれぞれ10回、20回、30回、80回、100回塗布した以外は、すべて実施例1と同様にして化学物質センシング素子を作製した。このとき、透過型電子顕微鏡で断面方向から確認したカーボンナノチューブ上を表面修飾するコンゴーレッドの厚みは、10回塗布の場合には10nm、80回塗布の場合には100nm、100回塗布の場合には230nmであった。
【0080】
[実施例7]
実施例1においてコンゴーレッド溶液の代わりにメチルオレンジ(4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2’−ベンゼンカルボン酸)(和光純薬株式会社製、型番:131−02862)溶液をカーボンナノチューブの表面に20回塗布して表面修飾した。この際、メチルオレンジをメタノール溶媒に溶解した2.5×10-4Mのメチルオレンジ溶液を用いた。
【0081】
[比較例1]
実施例1において、カーボンナノチューブの表面にコンゴーレッドで表面修飾しなかった以外は全て実施例1と同様にして化学物質センシング素子を作製した。
【0082】
[比較例2]
実施例1においてコンゴーレッド溶液の代わりにメチルレッド(4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2’−ベンゼンカルボン酸)(和光純薬株式会社製、型番:138−03031)溶液をカーボンナノチューブの表面に20回塗布して表面修飾した。この際、メチルレッドをメタノール溶媒に溶解した2.5×10-4Mのメチルレッド溶液を用いた。
【0083】
以上の各実施例の条件について、表1に示す。なお、表1中のセンシング効率における◎は特に顕著に電気抵抗変化を確認できたことを示し、○は顕著に電気抵抗変化を確認できたことを示し、△は微量ながら電気抵抗変化を確認できたことを示し、×は電気抵抗変化を確認できなかったことを示す。
【0084】
【表1】

【0085】
〈検討1:コンゴーレッドによる表面修飾とエタノール検出との関係について〉
実施例1における化学物質センシング素子および比較例1における化学物質センシング素子を用いて、カーボンナノチューブにおけるコンゴーレッドの修飾の有無とエタノールの特異的検出とについて検討した。
【0086】
各化学物質センシング素子を別々にアクリル製測定のチャンバに入れて、500mL/分のガス流量で様々な組成比のモデルガスに連続的に接触させた。モデルガスは、最初の1分間は窒素ガス、その後の1分間はエタノール45ppb含む窒素ガス(以下、エタノールを含むガスという)、その後の1分間は窒素ガス、その後の1分間はアセトン500ppm、酸素18%、二酸化炭素0.04%含む窒素ガス(以下、アセトンを含むガスともいう)、その後の1分間は窒素ガスとした。このとき同時に各化学物質センシング素子における電気抵抗変化を確認した。電気抵抗変化については、アジレント製デジタルマルチメータ、定電圧電源装置で測定した。
【0087】
図7は、実施例1および比較例1の各化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示すグラフである。横軸は、時間(秒)を、縦軸は化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示す。以下、図7を参照しながら説明する。
【0088】
比較例1における化学物質センシング素子は、カーボンナノチューブにおいてコンゴーレッドによる表面修飾がないため、チッ素ガス、エタノールを含むガス、およびアセトンを含むガスのいずれに接触させた場合においても電気抵抗変化は見られなかった。一方、実施例1における化学物質センシング素子は、エタノールを含むガスに接触させた場合においてのみ大きな電気抵抗変化が観測された。
【0089】
また、図7には示さないが、実施例3、4における各化学物質センシング素子においても同様にエタノールを含むガスに接触させたときのみ電気抵抗変化が観測された。実施例2、5における各化学物質センシング素子においてはエタノールを含むガスに接触させたときのみ小さいながら電気抵抗変化が観測された。
【0090】
以上から、本発明の化学物質センシング素子は、エタノールを特異的に検出する特性値が高いことが分かった。
【0091】
〈検討2:コンゴーレッド溶液の塗布回数とコンゴーレッドの厚みとの相関関係について〉
実施例1、2および4における各化学物質センシング素子についてカーボンナノチューブ上に形成されたコンゴーレッドの厚みを測定して、コンゴーレッド溶液を塗布した回数と、コンゴーレッドの厚みとの相関関係について検討した。コンゴーレッドの厚みは、透過型電子顕微鏡を用いて断面を撮影することで測定した。
【0092】
図8は、実施例2における化学物質センシング素子の表面を拡大した写真であり、図9は、実施例1における化学物質センシング素子の表面を拡大した写真であり、図10は、実施例6における化学物質センシング素子の表面を拡大した写真である。図11は、コンゴーレッド溶液の塗布回数とコンゴーレッドの厚みとの相関関係を示すグラフである。図11における横軸はコンゴーレッド溶液の塗布回数を示し、縦軸はコンゴーレッドの膜厚(厚み)(nm)を示す。
【0093】
以下、図8〜図11に基づいて説明する。図8〜図10に示すように、本実施例においては、カーボンフィルム(Carbon film)状のカーボンナノチューブ上にほぼ均一の厚みでコンゴーレッドの層が形成されていることが確認できた。そして、図11から、コンゴーレッド溶液の塗布回数とコンゴーレッドの厚みとの間には相関関係があることが示された。ただし、20nm〜230nmまで、リニアな特性劣化に繋がっていなかった。また、本検討によって、化合物厚みは20nm〜100nmのときに特にセンシング効率が高いことが分かった。なお、上述の結果と図11との結果から、実施例6の化学物質センシング素子は、実施例1の化学物質センシング素子と比較すると特性が劣化してしまうことが分かった。
【0094】
〈検討3:メチルオレンジによる表面修飾とエタノール検出との関係について〉
実施例7における化学物質センシング素子および比較例2における化学物質センシング素子を用いて、カーボンナノチューブにおけるメチルオレンジの修飾の有無とエタノールの特異的検出とについて検討した。
【0095】
各化学物質センシング素子を別々にアクリル製測定のチャンバに入れて、500mL/分のガス流量で様々な組成比のモデルガスに連続的に接触させた。モデルガスは、最初の1分間は窒素ガス、その後の1分間はエタノール100ppm含む窒素ガス(以下、エタノールを含むガスともいう)、その後の1分間は窒素ガス、その後の1分間はアセトン500ppm、酸素18%、二酸化炭素0.04%含む窒素ガス(以下、アセトンを含むガスともいう)、その後の1分間は窒素ガスとした。このとき同時に各化学物質センシング素子における電気抵抗変化を確認した。電気抵抗変化については、アジレント製デジタルマルチメータ、定電圧電源装置で測定した。
【0096】
図12は、実施例7の化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示すグラフである。図13は、比較例2の化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示すグラフである。横軸は、時間(秒)を、縦軸は化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示す。以下、図12および図13を参照しながら説明する。
【0097】
比較例2における化学物質センシング素子は、カーボンナノチューブの表面をメチルレッドで修飾したためチッ素ガス、エタノールを含むガス、およびアセトンを含むガスのいずれに接触させた場合においても電気抵抗変化は見られなかった。一方、実施例7における化学物質センシング素子は、エタノールを含むガスに接触させた場合においてのみ大きな電気抵抗変化が観測された。なお、図13においては、図12と比較して縦軸のオーダーが小さく、このような表記においても電気抵抗変化が観測されなかった。
【0098】
以上から、本発明においては、表面修飾する化合物が少なくともコンゴーレッドまたはメチルオレンジである場合には、低濃度のエタノールであったとしても特異的に検知することができる化学物質センシング素子を提供できることが分かった。さらに、コンゴーレッドとメチルオレンジとの共通する化学構造としてアゾ基と、スルホ基またはスルホン酸のナトリウム塩と、ベンゼン環とを含むことが修飾化学物質として特に好ましいことが分かった。
【0099】
また、本発明にかかる化学物質センシング素子を呼気分析に用いる場合においては、水分の存在が最大の問題になることが予想されるが、呼気からエタノールは除去せず、水分だけを取り除く中空糸を組み合わせて用いることにより、実際の呼気においても、エタノールのみの抵抗変化だけを検出することができると考えられた。
【0100】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により、従来には無かった疾患に依存した生体情報を検出でき、従来に無かった非侵襲、超小型、低消費電力、ポータブルな超高感度、高選択性のガスセンサの開発が可能となり、ユーザーに対して、使用時のストレスが少ないガスセンサが開発され、予防医療社会の実現に向けた着実な進歩が確認され、特に呼気中に含まれるエタノールを高感度、かつ高選択性でセンシング可能な技術が開発された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明における化学物質センシング素子の一形態を示す模式図である。
【図2】図1の一部の拡大概念図である。
【図3】本発明における一実施形態の化学物質センシング素子の製造方法で用いられるフォトマスクを示す上面図である。
【図4】図3の一部の拡大図である。
【図5】本発明における一実施形態の化学物質センシング素子の製造方法で用いられるフォトマスクを示す上面図である。
【図6】本発明における一実施形態の化学物質センシング素子の製造方法で用いられる装置を示す模式図である。
【図7】実施例1および比較例1の各化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示すグラフである。
【図8】実施例2における化学物質センシング素子の表面を拡大した写真である。
【図9】実施例1における化学物質センシング素子の表面を拡大した写真である。
【図10】実施例6における化学物質センシング素子の表面を拡大した写真である。
【図11】コンゴーレッド溶液の塗布回数とコンゴーレッドの厚みとの相関関係を示すグラフである。
【図12】実施例7の化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示すグラフである。
【図13】比較例2の化学物質センシング素子における電気抵抗変化を示すグラフである。
【図14】本実施形態における呼気分析装置を示す模式的な斜視図である。
【図15】本実施形態における呼気分析装置を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1 センシング部、2 修飾化合物、3 呼気、4 導電性基体、5,22 一部、10 化学物質センシング素子、14 ステージ、15a,15b CCDカメラ、16 ディスペンサ、20,30 フォトマスク、21,27 パターン、23,24,25,26 端子、29,39 アライメントマーカー、40 呼気分析装置、41 水分除去体、42 呼気導入口、43 センシングチャンバ、44,45 逆止弁、46 排出口、50 液晶画面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体の表面を以下の化学式(1)または化学式(2)で示される化学構造を含む化合物で表面修飾してなるセンシング部を備え、
特定化学物質を検出するための化学物質センシング素子。
【化1】

【化2】

(ここで、化学式(1)および化学式(2)において、R1とR4とはH、CおよびNのうち少なくともいずれかを含む化学構造であり、R2とR5とはHおよびNのうち少なくともいずれかを含む化学構造であり、R3とR6とはHおよびNaのうち少なくともいずれかを含む化学構造である。)
【請求項2】
化学式(1)または化学式(2)で示される化学構造を含む前記化合物は、R1とR4とが
【化3】

で示される化学構造であり、R7はフェニル基あるいはナフチル基のいずれか、または、フェニル基あるいはナフチル基におけるHがC、NおよびSから選ばれる少なくともいずれかを含む官能基で置換された化学構造である請求項1に記載の化学物質センシング素子。
【請求項3】
前記特定化学物質がエタノールである請求項1または2に記載の化学物質センシング素子。
【請求項4】
前記導電性基体がナノ構造体からなる請求項1または2に記載の化学物質センシング素子。
【請求項5】
前記ナノ構造体がカーボンナノチューブからなる請求項4に記載の化学物質センシング素子。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブの表面の前記化合物の厚みは20nm〜100nmである請求項5に記載の化学物質センシング素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化学物質センシング素子と前記化学物質センシング素子の電気抵抗を検出する検出部を備えるガス分析装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の化学物質センシング素子を用いて検体中のエタノールの濃度を検出する方法。
【請求項9】
請求項7に記載のガス分析装置で検体中のエタノールの濃度を検出する方法。
【請求項10】
請求項7に記載のガス分析装置で呼気中のエタノールの濃度を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−139269(P2010−139269A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313599(P2008−313599)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】