説明

医療用バッグの製造方法および医療用バッグ

【課題】シート材に印刷された表示パターンの剥離を防止することができる医療用バッグの製造方法および医療用バッグを提供すること。
【解決手段】本発明の医療用バッグの製造方法では、ポリプロピレンを主成分とする樹脂で構成され、ヤング率が100〜250MPa、水の接触角が70〜90°であるシート材21を用意し、シート材21の印刷を施す部位の表面にコロナ放電処理を行い、シート材21のコロナ放電処理された部位に紫外線硬化性のインクを用いて印刷し、印刷後のインクに紫外線を照射し、そのインクを硬化させる。そして、シート材21を1つのバッグ本体分毎にカットし、カットされたバック本体に排出口を融着し、第1の空間および第2の空間にそれぞれ液体を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用バッグの製造方法および医療用バッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用バッグとして、樹脂性のシート材を融着することによって、内部に輸液や腹膜透析液等の液体を密封したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。シート材の融着は、筒状のシート材の上下の開口端を一対のシール金型で挟み、加熱することにより行なわれる。
【0003】
また、融着後のシート材の表面には、液体が収納される前に、種々の表示パターンが印刷される。この印刷には、疎水性のインク、具体的には、紫外線硬化性のインクが用いられる。なお、内部に液体が密封された医療用バッグは、包装された後、高圧蒸気滅菌が施される。
【0004】
しかしながら、従来の医療用バッグの製造方法では、高圧蒸気滅菌の際、シート材に印刷された表示パターンが剥離するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−208883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シート材に印刷された表示パターンの剥離を防止することができる医療用バッグの製造方法および医療用バッグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(10)の本発明により達成される。
(1)シート材を用いて医療用バッグを製造する方法であって、
ポリプロピレンを主成分とする樹脂で構成され、ヤング率が100〜250MPa、水の接触角が70〜90°であるシート材を用意し、
前記シート材の印刷を施す部位の表面に放電処理を行い、
前記シート材の放電処理された部位に紫外線硬化性のインクを用いて印刷し、
印刷後の前記インクに紫外線を照射し、該インクを硬化させることを特徴とする医療用バッグの製造方法。
【0008】
(2)前記シート材の構成材料中の前記ポリプロピレンの含有率は、50wt%超である上記(1)に記載の医療用バッグの製造方法。
【0009】
(3)前記放電処理は、コロナ放電処理である上記(1)または(2)に記載の医療用バッグの製造方法。
【0010】
(4)前記放電処理において、放電を生じさせる電極間に印加する電圧の周波数は、20〜50kHzである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【0011】
(5)前記放電処理において、放電を生じさせる電極と、前記シート材との間の距離は、2〜10mmである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【0012】
(6)前記シート材と、放電を生じさせる電極とを、350〜450mm/秒の速度で相対的に移動させつつ、前記放電処理を行う上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【0013】
(7)前記紫外線の照射エネルギーは、4.8〜6.0kWである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【0014】
(8)前記シート材を350〜450mm/秒の速度で移動させつつ、前記紫外線の照射を行う上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【0015】
(9)前記印刷は、凸版印刷である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【0016】
(10)上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法により製造されたことを特徴とする医療用バッグ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シート材の印刷を施す部位の表面に放電処理を行うので、そのシート材の印刷を施す部位の表面の濡れ性が向上し、これにより、シート材に印刷された表示パターンの剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の医療用バッグの製造方法により製造された医療用バッグの構成例を示す正面図である。
【図2】本発明の医療用バッグの製造方法に用いられる装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の医療用バッグの製造方法および医療用バッグを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の医療用バッグの製造方法により製造された医療用バッグの構成例を示す正面図、図2は、本発明の医療用バッグの製造方法に用いられる装置の構成例を示す図である。なお、以下では、図1中の上側を「基端」、下側を「先端」として説明を行う。
【0021】
これらの図に示すように、医療用バッグ1は、バッグ本体2と排出口6とを備え、バッグ本体2内に液体が充填されたものである。なお、医療用バッグ1としては、バッグ本体2の内部が複数の空間に画成された複室容器であってもよいし、1つの空間を有する単室容器であってもよい。本実施形態では、複室容器、すなわち、バッグ本体2が、内部に液体を収納する第1の空間3と第2の空間4とを有する場合を一例に挙げて説明する。
【0022】
バッグ本体2は、インフレーション成形法により筒状に成形され、可撓性を有する軟質材料からなる後述するシート材21を用いて製造されたものである。なお、後述するように、シート材21は、複数のバッグ本体分であり、1つのバッグ本体分毎にカットされて用いられるものであるが、以下では、そのシート材21をカットする前後のいずれについても「シート材21」と言う。
【0023】
バッグ本体2は、シート材21の両端部を熱融着、高周波融着等の融着または接着によりシールして袋状としたものである。バッグ本体2の基端側のシール部22および先端側のシール部23は、それぞれ、所望の形状に裁断されている。
【0024】
バッグ本体2の基端側のシール部22のほぼ中央部には、医療用バッグ1をハンガー等に吊り下げる際等に用いる孔24が設けられている。
【0025】
このバッグ本体2の図1中上下方向の途中には、仕切り部5が形成されており、バッグ本体2の内部は、この仕切り部5により第1の空間3と、第2の空間4とに仕切られている。第1の空間3、第2の空間4には、それぞれ、組成の異なる液体30、40が収納されている。この場合、液体30と液体40とは、例えばブドウ糖輸液製剤とアミノ酸輸液製剤のように、それらの成分同士が互いに反応し易いものとされる。
【0026】
使用されるまでは、液体30と液体40を混合せずに分けて保存し、使用に際し、仕切り部5を剥離して第1の空間3と第2の空間4とを連通させ、液体30と液体40を混合する。これにより、液体30、40の変質、劣化等を防止し、目的とする薬効をより確実に得ることができる。
【0027】
また、pH調整が必要な液体、例えば腹膜透析液とそれを中性にするpH調整剤とを別個に、すなわち第1の空間3および第2の空間4のそれぞれに収納しておくことで、かかる液体の変質、分解、劣化、着色、変色、沈殿物の発生等を防止することができる。
【0028】
なお、本発明において、液体30、40は、特に限定されず、例えば、腹膜透析液生理食塩水、電解質溶液、リンゲル液、高カロリー輸液、ブドウ糖液、注射用水、経口栄養剤等が挙げられる。
【0029】
仕切り部5は、バッグ本体2のシート材21を帯状に融着または接着して得られたものである。この仕切り部5は、例えばバッグ本体2の第1の空間3または第2の空間4側の部分を手で押圧し、その内圧を高めることにより剥離する程度の弱シール部で構成されている。これにより、特別の器具等を用いず、簡単な作業で仕切り部5による遮断を解除し、第1の空間3内と第2の空間4内の液体同士を混合することができる。
【0030】
なお、仕切り部5の全部が弱シール部で構成されている場合に限らず、仕切り部5の一部が弱シール部で構成されていてもよい。また、例えば仕切り部5の帯の幅に差異を設ける等の方法により剥離強度に差を持たせ、剥離し易い部分と剥離し難い部分とを設けてもよい。
【0031】
また、バッグ本体2の所定部位の表面には、例えば、目盛り、容量、薬剤濃度、品種、注意喚起文、成分一覧、使用期限等の所定の表示パターンが印刷されている。
【0032】
また、バッグ本体2の先端部には、排出口6が設けられている。この排出口6は、少なくとも液体30と液体40の混合液を排出する機能を有するものであり、弾性栓を備えた排出口本体61と、排出口本体61の外側に設置された外筒62とを備えている。
【0033】
外筒62は、バッグ本体2の先端部のシール部23において、シート材21、21間に挟持され、シール部23によって固定されている。外筒62とシート材21との接合性、密着性は高く、液漏れ等を確実に防止することができる。
【0034】
また、この排出口6は、液体40を注入する混注口として機能してもよい。なお、このような排出口は、複数個設置されていてもよい。
【0035】
また、シート材21は、前記インフレーション成形法に限らず、例えば、Tダイ法、ブロー成形法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、共押出インフレーション法、共押出Tダイ法、ホットプレス法等の種々の方法により製造されたものでもよい。
【0036】
また、液体30、40の変質や劣化を有効に防止するために、シート材21は、ガス透過性ができる限り低いもの、すなわち、ガスバリア性を有するものが好ましい。
【0037】
シート材21の構成材料としては、ポリオレフィン、特に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂を用いるのが好ましい。この構成材料は、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)に耐えられる耐熱性、耐水性を有しているためである。
【0038】
ポリプロピレンを主成分とする場合、シート材21の構成材料中のポリプロピレンの含有率は、50wt%超であることが好ましく、60〜95wt%程度であることがより好ましく、70〜80wt%程度であることがさらに好ましい。
【0039】
また、用いるポリプロピレンの平均分子量Mwは、特に限定されないが、80万〜300万程度であることが好ましい。
【0040】
具体的には、シート材21の構成材料としては、例えば、ポリプロピレンのみ、ポリプロピレンと1種または2種以上の他のポリマーとの共重合体、ポリプロピレンと1種または2種以上の他のポリマーとのポリマーアロイ、ポリプロピレンと1種または2種以上の他のポリマーとの混合物等が挙げられる。
【0041】
前記他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、EVA、ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、後述する熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
また、シート材21の構成材料として特に好ましいものに、ポリプロピレンに、例えば、スチレン系、ポリアミド系、ポリエステル系等の熱可塑性エラストマーをブレンドし、柔軟化した軟質樹脂を挙げることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマー等が好ましい。この材料は、高強度で柔軟性に富み、耐熱性、特に滅菌時の耐熱性が高く、耐水性が高い他、加工性が特に優れ、製造コストの低減を図れるからである。
【0043】
なお、シート材21の構成材料中の熱可塑性エラストマーの含有率は、0〜49wt%程度であることが好ましく、10〜40wt%程度であることがより好ましい。
【0044】
次に、医療用バッグ1の製造方法を説明する。
[1]
インフレーション成形法により筒状に成形され、また、所定部位がシールされたシート材21を用意する。このシート材21は、複数のバッグ本体分であり、後述する工程で、1つのバッグ本体分毎にカットされて用いられる。
【0045】
このシート材21は、前述したように、ポリプロピレンを主成分とする樹脂で構成されている。なお、シート材21の構成材料については、説明済みであるので、その説明は省略する。
【0046】
また、シート材21の室温(20〜30℃)におけるヤング率は、100〜250MPa程度であり、170〜240MPa程度であることが好ましい。前記ヤング率が前記上限値を超えると、シート材21の柔軟性が低下し、また、前記下限未満であると、シート材21に印刷された表示パターンが剥離し易くなる。
【0047】
また、シート材21の室温(20〜30℃)における水の接触角は、70〜90°程度であり、80〜90°程度であることが好ましい。前記接触角が前記上限値を超えると、シート材21に印刷された表示パターンが剥離し易くなる。
【0048】
また、シート材21は、延伸処理をしたものでもよく、また、延伸処理をしないものでもよいが、延伸処理をしないものの方が好ましい。
【0049】
図2に示すように、シート材21は、図示しない搬送装置により、図2中、左側から右側に向って搬送されつつ、後述するコロナ放電装置100によるコロナ放電処理、印刷装置200による印刷、紫外線照射によるインクの硬化等が行われる。本実施形態では、シート材21のみが移動し、コロナ放電装置100、印刷装置200、図示しない紫外線照射装置は、いずれも移動しないように構成されている。
【0050】
シート材21の移動速度は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定されるが、350〜450mm/秒程度であることが好ましく、380〜420mm/秒程度であることがより好ましい。
【0051】
[2]
シート材21の印刷を施す部位の表面に放電処理を行なう。これにより、シート材21の印刷を施す部位の表面の濡れ性が向上し、シート材21に印刷された表示パターンの剥離を防止することができる。
【0052】
この放電処理としては、放電を利用した処理であれば特に限定されず、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等が挙げられるが、これらのうち、コロナ放電処理が好ましい。本実施形態では、コロナ放電処理を行う場合について説明する。なお、以下では、コロナ放電処理を単に、「放電処理」とも言う。
【0053】
コロナ放電装置100は、図示しない1対の電極を有し、その電極間に、高周波電圧を印加することにより、コロナ放電を生じる装置である。シート材21は、このコロナ放電装置100の1対の電極間を移動し、その際、シート材21の印刷を施す部位の表面がコロナ放電に曝され、コロナ放電処理が施される。
【0054】
ここで、コロナ放電装置100の電極とシート材21とは、所定距離、離間している。シート材21のコロナ放電処理が施される面と、そのコロナ放電処理が施される面側の電極との間の距離は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定されるが、2〜10mm程度であることが好ましく、3〜6mm程度であることがより好ましい。これにより、シート材21に印刷された表示パターンの剥離をより確実に防止することができる。
【0055】
また、放電処理において、コロナ放電装置100の電極間に印加する電圧の周波数は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定されるが、20〜50kHz程度であることが好ましく、30〜40kHz程度であることがより好ましい。これにより、シート材21に印刷された表示パターンの剥離をより確実に防止することができる。
【0056】
また、放電処理は、搬送されているシート材21に対して放電処理することにより行われることが好ましい。シート材21の搬送速度は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定されるが、350〜450mm/秒程度であることが好ましく、380〜420mm/秒程度であることがより好ましい。これにより、シート材21に印刷された表示パターンの剥離をより確実に防止することができる。
【0057】
また、放電処理は、減圧下、加圧下、大気圧下のいずれで行ってもよいが、大気圧下で行うことが好ましい。
【0058】
また、放電処理における雰囲気ガス、すなわち処理ガスとしては、特に限定されず、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素、空気等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、これらのうちでは、空気または酸素が好ましく、特に、空気が好ましい。
【0059】
[3]
シート材21の放電処理された部位に、紫外線硬化性のインクを用いて所定の表示パターンを印刷する。
【0060】
この印刷方法としては、特に限定されず、例えば、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷等が挙げられるが、これらのうち、凸版印刷またはオフセット印刷が好ましい。
【0061】
印刷装置200は、回転可能に設置された1対のローラ210を有している。シート材21は、この印刷装置200のローラ210間をそのローラ210に密着しつつ移動し、その際、ローラ210からシート材21にインクが転写され、所定の表示パターンが印刷される。
用いるインクは、紫外線硬化性のインクであれば特に限定されない。
【0062】
本実施形態の製造方法では、このような疎水性のインクを用いても、前述した条件で放電処理を行い、後述する条件でインクを硬化させるので、シート材21からの表示パターンの剥離を確実に防止することができる。
【0063】
なお、印刷は、単色印刷でもよく、また、多色印刷でもよい。多色印刷の場合は、その印刷を同時に行ってもよく、また、色毎に行ってもよい。
【0064】
[4]
図示しない紫外線照射装置により、シート材21の表面の印刷後のインクに紫外線を照射し、インクを硬化させる。
【0065】
また、紫外線の照射エネルギーは、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定されるが、4.8〜6.0kW程度であることが好ましく、5.0〜5.8kW程度であることがより好ましい。これにより、シート材21に印刷された表示パターンの剥離をより確実に防止することができる。
【0066】
また、紫外線の照射は、搬送されているシート材21に対して紫外線を放射することにより行われることが好ましい。シート材21の搬送速度は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定されるが、350〜450mm/秒程度であることが好ましく、380〜420mm/秒程度であることがより好ましい。これにより、シート材21に印刷された表示パターンの剥離をより確実に防止することができる。
【0067】
また、前記印刷後のインクに照射する光は、本実施形態では、紫外線であるが、これに限らず、紫外線の他に、紫外線とは異なる波長帯の光を含んでいてもよい。すなわち、紫外線を含む光であればよい。
【0068】
なお、前記印刷の前に、シート材21の印刷を施す部位の表面に、所定の下地処理を行ってもよい。この下地処理は、放電処理の前後のいずれに行ってもよいが、放電処理の後に行う方が好ましい。
【0069】
また、インクを硬化させた後に、シート材21の印刷を施した部位の表面を覆うように、所定のコート層を形成してもよい。
【0070】
[5]
シート材21を1つのバッグ本体分毎にカットし、カットされたバック本体2に排出口6を融着し、第1の空間3に液体30を充填し、第2の空間4に液体40を充填する。第2の空間4への液体40の充填は、排出口6を介して行う。また、第1の空間3への液体30の充填は、直接、液体充填用のノズルを第1の空間3に挿入して行い、液体30の充填後、そのノズルが挿入された孔をシールして封鎖する。
【0071】
[6]
内部に液体30、40が密封された医療用バッグ1を、仕切り部5において2つに折り曲げた状態で図示しない包材で包装し、その包材内に医療用バッグ1が収納されたバッグ個包装体を得る。医療用バッグ1を仕切り部5で折り曲げた状態で包装することにより、バッグ包装体を輸送する際等、医療用バッグ1に圧力がかかったときに、その仕切り部5が剥離してしまうことを防止することができる。また、後述する高圧蒸気滅菌の後に医療用バッグ1を折り曲げる場合に比べて、手間がかからないという利点を有する。
【0072】
[7]
前記バッグ個包装体に対し、高圧蒸気滅菌を施す。
この際、医療用バッグ1は、高圧、高温下に置かれるが、前述した条件で放電処理およびインクの硬化がなされているので、シート材21に印刷された表示パターンの剥離を防止することができる。
【0073】
以上説明したように、この医療用バッグ1の製造方法によれば、シート材21の印刷を施す部位の表面にコロナ放電処理を行うので、そのシート材21の印刷を施す部位の表面の濡れ性が向上し、これにより、シート材21に印刷された表示パターンの剥離を防止することができる。
【0074】
以上、本発明の医療用バッグの製造方法および医療用バッグを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。
【実施例】
【0075】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
シート材として、ポリプロピレンと水素添加スチレン−ブタジエン共重合体とを6:4の重量比で配合し、混合してなる樹脂をインフレーション成形により肉厚300μmの円筒状(折れ径220mm)に成形し、所定箇所をシールし、また、仕切り部を形成したものを用意した。
【0076】
そして、このシート材を用い、前述した工程[2]のコロナ放電処理、工程[3]の表示パターンを印刷、工程[4]の紫外線照によるインクの硬化、工程[5]のシート材のカット、排出口の融着、第1の空間および第2の空間への液体の充填、工程[6]の包装、工程[7]の高圧蒸気滅菌を行って、図1に示す医療用バッグを包材内に収納してなるバッグ個包装体を製造した。なお、医療用バッグの寸法は、そのバッグ本体において、25cm×12.5cmであった。また、各条件、方法、物性等は、下記の通りである。
【0077】
シート材の室温(20〜30℃)におけるヤング率:平均198MPa
シート材の室温(20〜30℃)における水の接触角:80〜90°
コロナ放電処理、印刷、紫外線照射時のシート材の搬送速度:400mm/秒
コロナ放電処理時のシート材のコロナ放電処理が施される面と、そのコロナ放電処理が施される面側の電極との間の距離:4mm
コロナ放電処理において電極間に印加する電圧の周波数:35±5kHz
印刷方法:凸版印刷
印刷に用いたインク:UV硬化型インク
インクを硬化させる際の紫外線の照射エネルギー:5.4kW(最大6.0kW)
インクを硬化させる際の紫外線の照射時間:400秒
高圧蒸気滅菌:115℃×15分
【0078】
(比較例1)
コロナ放電処理を行わない以外は、前記実施例1と同様にして、医療用バッグを包材内に収納してなるバッグ個包装体を製造した。
【0079】
[評価]
高圧蒸気滅菌後に、印刷された表示パターンの状態を観察したところ、実施例1では、表示パターンの剥離が確認されなかったが、比較例1では、表示パターンの剥離が確認された。
【符号の説明】
【0080】
1 医療用バッグ
2 バッグ本体
21 シート材
22、23 シール部
24 孔
3 第1の空間
4 第2の空間
30、40 液体
5 仕切り部
6 排出口
61 排出口本体
62 外筒
100 コロナ放電装置
200 印刷装置
210 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を用いて医療用バッグを製造する方法であって、
ポリプロピレンを主成分とする樹脂で構成され、ヤング率が100〜250MPa、水の接触角が70〜90°であるシート材を用意し、
前記シート材の印刷を施す部位の表面に放電処理を行い、
前記シート材の放電処理された部位に紫外線硬化性のインクを用いて印刷し、
印刷後の前記インクに紫外線を照射し、該インクを硬化させることを特徴とする医療用バッグの製造方法。
【請求項2】
前記シート材の構成材料中の前記ポリプロピレンの含有率は、50wt%超である請求項1に記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項3】
前記放電処理は、コロナ放電処理である請求項1または2に記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項4】
前記放電処理において、放電を生じさせる電極間に印加する電圧の周波数は、20〜50kHzである請求項1ないし3のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項5】
前記放電処理において、放電を生じさせる電極と、前記シート材との間の距離は、2〜10mmである請求項1ないし4のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項6】
前記シート材と、放電を生じさせる電極とを、350〜450mm/秒の速度で相対的に移動させつつ、前記放電処理を行う請求項1ないし5のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項7】
前記紫外線の照射エネルギーは、4.8〜6.0kWである請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項8】
前記シート材を350〜450mm/秒の速度で移動させつつ、前記紫外線の照射を行う請求項1ないし7のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項9】
前記印刷は、凸版印刷である請求項1ないし8のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の医療用バッグの製造方法により製造されたことを特徴とする医療用バッグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131076(P2012−131076A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283614(P2010−283614)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】