説明

半導体ウェハ運搬用収納具

【課題】 半導体レーザ用等の薄く割れやすい半導体ウェハを、一般貨物並みの取り扱いでも運搬できる収納具を開発する。
【解決手段】 ウェハ2が配置される平坦部3aを有する基部3と、基部3の上に配置したクッション材と、クッション材を覆い、基部3の外縁角部に密着して固定される外蓋5とを有する半導体ウェハ運搬用収納具1において、前記クッション材がガーゼ状のクリーンルーム用ワイパー等のようにクリーンな複数のクッション性シート4を重ねた構造をしており、クッション性シートの枚数の調節により、外蓋5が基部3に固定された時のウェハ2にかかる荷重をウェハ2が基部3に対して横滑りや浮き上がりが生じない程度の適切な荷重に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの運搬収納具に関し、特に、半導体レーザ(以降、LDと略称する)用のプロセス済みウェハのように、基板を研磨等で薄くしてから基板側の電極を形成した薄く割れやすい半導体ウェハの運搬収納具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェハの運搬に使用されているウェハトレイは、ウェハのエピタキシャル層側がその外周部以外は容器に接触しないように、球面状に凹んだ基部を有する。そしてウェハは、エピタキシャル層側を下にしてトレイの基部上に配置され、トレイと蓋との間に入れられた樹脂の弾力を利用して下方に軽く押し付けられて、トレイに固定される。
【0003】
一方、LD用のプロセス済みウェハにおいては、LDの分離と共振器両端の鏡面形成を目的とした劈開を行いやすくするために、また、LDを実装しやすくし、基板による電気抵抗を低減するために、ウェハの基板を研磨等で薄くしてから基板側の電極を形成する。化合物半導体を用いた高速デバイス用のプロセス済みウェハも、素子抵抗を下げて時定数を低減するために、基板を研磨等で薄くしてから基板側の電極を形成する場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のウェハトレイを用いたウェハの運搬に際しては、ウェハが厚い場合には問題はあまり生じないが、上述の電極プロセス済み半導体レーザ用ウェハのような基板の薄いウェハの場合は、ウェハが球面状に反って、ウェハが割れたり、ウェハに結晶欠陥が発生したりする問題があった。そのため、電極プロセス済みウェハを工場間で移送する場合等では、電極プロセス済みウェハを手持ちで運ぶなど運送コストが高くなっていた。また、手持ちの場合でもウェハが割れるリスクは完全には回避できず、歩留低下によるコストアップも問題になっていた。このため、薄く割れやすいプロセス済み半導体ウェハを安全かつ確実に運搬できる収納具が必要である。
【0005】
ウェハの割れや結晶欠陥を防止する方法として、平坦な台の上に半導体ウェハを乗せ、弾力性のあるスポンジのような材料を用いて台にウェハを押し付けて保持する方法もある。しかし、プロセス済み半導体ウェハは当然クリーンルームで取り扱うべきものであるから、収納具には塵埃を含まない又は放出しない材料しか使用できないという制約があり、そのような制約を満たしかつ適度な弾力性を備えた材料はないのが現状である。また、スポンジ状の材料の弾力性にはばらつきが大きく、故にその弾力性を利用して、半導体ウェハを適切な荷重で平坦な台に均一に押し付けることは困難である。従って運搬中に荷重不足でウェハが動いて割れたり、逆に荷重超過で半導体ウェハにストレスを与えて、そのウェハ内のLD等の特性や品質を低下させたりする場合があった。
【0006】
そこで本発明は、LD用等の薄く割れやすい半導体ウェハを、一般貨物並みの取り扱いでも割れず、かつウェハに過剰ストレスを与えることなく運送でき、同時に、半導体ウェハに塵埃が付着しないように、収納具内にはクリーンルーム内で使用できる材料のみを使用し、収納具内に塵埃が入らない構造を有し、更に、ウェハの収納・取り出し時の割れを防ぐため、収納・取り出しが簡単な半導体ウェハ運搬用収納具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ウェハを配置する平坦部を有する基部と、前記平坦部に配置された前記ウェハの上に配置されるクッション材と、前記クッション材を覆い、前記基部の上面外縁部に接して固定される外蓋とを有する半導体ウェハ運搬用収納具において、前記クッション材は複数のクッション性シートの積層体を有し、前記外蓋が前記基部に固定されたときの前記ウェハにかかる荷重が、前記クッション性シートの枚数の調節によって制御可能であるように、前記基部及び前記外蓋が構成される、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記クッション性シートの枚数を調節することにより、前記外蓋を前記基部に固定したときの前記ウェハへの単位面積当たりの荷重を0.1kPa〜1kPaの間で制御できる、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記クッション性シートはガーゼ状のクリーンルーム用ワイパーである、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記ウェハの少なくとも一方の面に無塵紙が配置される、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記基部の上に、収納される前記ウェハの外形より大きな穴が設けられた枠が設置され、前記ウェハ及び前記クッション性シートが前記枠の前記穴内に配置され、前記外蓋が前記枠を覆う構造を有する、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記基部の上面の形状は、前記ウェハを配置する前記平坦部が該平坦部を取り囲む前記上面外縁部よりも高さが高い凸形状になっており、前記枠が前記平坦部の外周に配置され、前記枠の上面は前記平坦部より高い位置にある、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記基部において、前記ウェハが配置された前記平坦部の外側に溝が設けられ、該溝に前記枠が嵌め込まれる、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項5〜7のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記枠の前記穴内に配置された前記クッション性シートの上に中蓋が配置され、前記外蓋が前記中蓋を覆う構造を有する、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記中蓋が前記枠の内側に配置される、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記外蓋が前記基部に固定されるときに、前記外蓋の下面外縁部と前記基部の前記上面外縁部とが密着する、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0017】
請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記外蓋を前記基部に固定するための皿ネジを有する、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0018】
請求項12に係る発明は、請求項8に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記基部、前記外蓋、前記枠及び前記中蓋のうち少なくとも1つが樹脂製である、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0019】
請求項13に係る発明は、請求項12に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記基部、前記外蓋、前記枠及び前記中蓋のうち少なくとも1つが、導電性を有する樹脂から作製されるか、または表面の少なくとも一部に帯電防止層が形成された樹脂から作製される、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【0020】
請求項14に係る発明は、請求項8に記載の半導体ウェハ運搬用収納具において、前記基部、前記外蓋、前記枠及び前記中蓋が実質的回転対称の形状を有する、半導体ウェハ運搬用収納具を提供する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1及び2に記載の発明によれば、薄層化され割れやすいプロセス済みの半導体ウェハを、基部の平坦部に配置し、ウェハ上にクッション材を配置した後、全体を覆う外蓋を基部に固定する構造を持った半導体ウェハ運搬用収納具において、クッション性を有するシートをクッション材として使用し、さらにその枚数を調節することにより、ウェハが基部に対して横滑りや浮き上がりが生じない程度の適切な荷重で、基部の平坦部に保持することが可能になる。その結果、過剰な荷重でウェハに結晶欠陥を発生させることなく収納でき、半導体ウェハ運搬用収納具に衝撃や振動が加わってもウェハが割れたり、応力を受けたりすることがなくなるので、一般の荷物と混載で運搬できるようになり、ウェハ運搬工程歩留向上と運送コストの低減により、コストを下げることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、クッション性シートをガーゼ状のクリーンルーム用ワイパーにすることにより、収納具内のクリーン度を高く保つことができ、ウェハに塵埃等が付着するのを防ぐことができる。また、汎用のクリーンルーム用ワイパーの使用により、運搬用収納具のコストを低減できる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、基部とウェハとの間に無塵紙を敷くことにより、基部の平坦部に細かな傷があっても、それによってウェハに傷がつくことを防止できる。また、クッション性シートとウェハとの間に無塵紙を敷けば、クッション性シートの表面の凹凸からウェハを保護する効果が得られる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、基部の上に、収納するウェハの外形より大きな穴が設けられた枠を設置し、ウェハとクッション性シートを穴内に配置することにより、ウェハやクッション性シートが基部と外蓋との間に噛み込まれてウェハが破損したり、ウェハへの荷重が適切にかからなくなったりする危険を低減できる。また、従来の収納具のように、最初から枠が基部に固定されたような構造で、ウェハの配置場所が凹形状になっている場合に比べて、枠を外した状態でウェハの収納や取り出しができるので、ウェハの収納や取り出しが容易になり、ウェハの収納具への収納や取り出し時にウェハを破損する危険性を低減できる。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、基部上面の形状を、ウェハを配置する平坦部が外縁部より高い凸形状にし、枠をウェハが配置された平坦部の外側に配置して、枠の上面が基部の凸形状平坦部より高い位置にくるようにすることによって、基部に対して枠の位置がずれなくなり、収納具の組立が容易になる。外蓋が枠を覆うことにより、基部の外縁部に固定する際に基部に対して枠が動いたためにクッション性シートや無塵紙が捩れてウェハに不均一な荷重を与えるということが発生しにくくなる。また、ウェハを収納具から取り出す際に、枠を外し、ウェハの上に配置したクッション性シートと無塵紙を取り除いた後、ウェハの位置を基部の平坦部から少し移動すると、凸形状からウェハがはみ出し、ウェハを掬うようにして取り出すことが可能になるので、自重による反り等に起因するウェハの破損の危険性は更に低減できる。更に、基部と枠との間に、ウェハ、クッション性シート又は無塵紙が入り込む可能性を低減でき、ウェハを破損したり、ウェハへの荷重が適切にかからなくなったりする危険を低減できる。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、ウェハが配置された基部の平坦部の外側に溝を設け、その溝に枠が嵌め込まれる構造にすることによって、請求項6に記載の発明とほぼ同様の効果が得られる。請求項6の構造と比べ、収納具からのウェハの取り出しは若干難しくなるが、枠を外したときにウェハが滑り落ちるリスクを低減できる。
【0027】
請求項8及び9に記載の発明によれば、枠の穴の内側に配置されたクッション性シートの上に中蓋を配置し、外蓋が枠や中蓋を含めて覆う構造することにより、枠と外蓋との間にクッション性シートを噛み込むことを確実に防止して、外蓋を基部に固定することができるようになり、ウェハへの荷重が適切にかからなくなる危険を低減できる。更に、中蓋を枠の内側に配置するようにすれば、収納具の全体の厚さを薄くすることができ、収納具の保管・運搬コストを低減できる。
【0028】
請求項10及び11に記載の発明によれば、外蓋が基部に固定される時に、外蓋の下面外縁部と基部の上面外縁部が密着する構造にすることにより、収納具の内部に塵埃や湿気が侵入しなくなり、更に収納具の開閉をクリーンルーム内で行えば、運搬時の環境が良好でなくても、プロセス済み半導体ウェハをクリーンな状態で運搬できる。また外蓋を基部に固定するために皿ネジを使用すれば、収納具の上面に突起物が無くなり、収納具を積み重ねて運搬することが可能になり、運搬コストを低減できる。
【0029】
請求項12〜14に記載の発明によれば、基部、外蓋、枠及び中蓋の少なくとも1つを樹脂製にすることにより、収納具を軽くすることができて運搬しやすくなる。更に、導電性を有する樹脂か、表面に帯電防止層が形成された樹脂を使用すると、半導体ウェハ内に形成された半導体デバイスが静電気によって損傷を受けることを防止できる。また、基部、外蓋、枠及び中蓋を、ネジ穴等を除いてすなわち実質的に回転対称の形状にすれば、これらの各部品作製のための加工が簡単になり、収納具のコストを低減できる。半導体ウェハは通常円形なので、収納具も円形とすることで、収納に役立たない無駄なスペースが少なくなり、収納具が小型化できるメリットもある。小型化できれば、収納具のコストを低減できると共に運搬コストも低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下において、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一符号は、同一又は相当部分を示している。
図1は、本発明に係る第1の実施形態を説明するための図であり、更に(a)は本発明の半導体ウェハ運搬用収納具1の上面図、(b)は収納具1を構成する部品に分解した断面図、(c)は部品を組合せて半導体ウェハ2を収納した状態の収納具1の断面図である。ウェハ2を配置する平坦部3aを有する基部3にウェハ2を配置し、ウェハ2の上に荷重を緩衝するクッション性を備えたシートすなわちクッション性シート4を複数枚重ねてクッション材として配置し、基部3の外縁部に接して外蓋5を基部3にネジ6等で固定する。基部3及び外蓋5は、これらのクッション性シート4の枚数を調節することによって、ウェハ2にかかる荷重を調節することができるような寸法及び形状を備える。即ち、ウェハ2が基部3に対して位置ずれしないために必要な荷重をやや上回る程度の荷重に制御することが可能になり、運搬中の衝撃等による位置ずれに起因するウェハ2の割れ等を防止しながら、過度の荷重がウェハ2に結晶欠陥等の発生や増加を引き起こして結果としてウェハ2に作製された半導体デバイスの特性や品質が低下することを防止できる。
【0031】
ウェハ2が基部3に対して位置ずれしないために必要な荷重をやや上回り、ウェハ2に結晶欠陥の発生原因になるストレスを与えない荷重として、クッション性シート4の枚数の調節により、外蓋5を基部3に固定した時のウェハ2への単位面積当たりの荷重が0.1kPa〜1kPaの間の値になるようにすることが望ましい。
【0032】
また、クッション性シート4として、ガーゼ状のクリーンルーム用ワイパーを採用すれば、上記の荷重が容易に得られ、更に、クリーンルーム用であることからも分かるように繊維等の塵埃を実質的に放出せず、故にプロセス済みの半導体ウェハ2に塵埃が付着する心配もない。
【0033】
更に、基部3とクッション性シート4との間に配置されるウェハ2のいずれか一方あるいは両方の面に、クリーンルームで使用される無塵紙7を敷いておくと、基部3とウェハ2との間にある無塵紙7は、基部3の平坦部に細かな傷があっても、それによってウェハ2に傷がつくことを防止する役割を果たし、クッション性シート4とウェハ2との間にある無塵紙7は、クッション性シートの表面の凹凸からウェハ2を保護する役割を果たす。
【0034】
図2は、本発明の第2の実施形態であり、部品を組合せて半導体ウェハ2を収納した状態の収納具1の断面図を示している。図2のように、外蓋5を基部3に対して、位置ずれなく被せ易いように、外蓋5を基部3の上面外縁部3bに接して固定する構造にしても良い。
【0035】
図3は、本発明の第3の実施形態を説明するための収納具1の断面図である。本実施形態は、基部3の上に、収納するウェハ2の外形より大きな穴8aが設けられた枠8が設置され、ウェハ2とクッション性シート4が枠8の内側すなわち穴8a内に配置され、外蓋5が枠8を含めて覆う構造を有する。これによって基部3に外蓋5を被せて、外蓋5を固定する時に、ウェハ2やクッション性シート4を基部3と外蓋5との間に噛み込む危険を低減できる。ウェハ2を噛み込むとウェハ2が破損し、クッション性シート4を噛み込むとクッション性シート4の枚数の調節することによって制御しようとしている荷重がウェハ2に適正にかからなくなる。また、従来の収納具のように、最初から枠8が基部3に固定され、ウェハ2の配置場所が凹形状になっていると、薄くて割れやすく取り扱いに細心の注意を要するウェハ2の基部3への収納や取り出しが難しくなるが、本実施形態では、枠8を外した状態で、ウェハ2の収納や取り出しができるので、ウェハ2の収納や取り出しが容易で、ウェハ2の収納具1への収納や取り出し時にウェハ2を破損する危険性を低減できる。
【0036】
図4は、本発明の第4の実施形態を説明するための収納具1の断面図であり、基部3上面の形状は、ウェハ2を配置する平坦部3aが平坦部3aを取り囲む基部3の上面外縁部3bよりも高い凸形状になっている。更に枠8は、基部3の外縁部上であって基部3の平坦部外周に隣接するように配置され、枠8の上面は基部3の平坦部より高い位置に位置する。このような構成によって、基部3に対する枠8の位置ずれがなくなり、収納具1の組立が容易になる。また外蓋5が枠8を覆って基部3の外縁部に固定されるときに、基部3に対して枠8が動いたためにクッション性シート4や無塵紙7が捩れてウェハ2に不均一な荷重を与えるということが発生しにくくなる。また、ウェハ2を収納具1から取り出す際に、枠8を外し、ウェハ2の上に配置したクッション性シート4及び無塵紙7を取り除いた後、ウェハ2の位置を基部3の平坦部から少し移動させれば、凸形状からウェハ2がはみ出し、ウェハ2を掬うようにして取り出すことが可能になるので、ウェハ2が破損する危険性は更に低減する。基部3と枠8との間にウェハ2が入り込むとウェハ2が破損し、基部3と枠8との間にクッション性シート4や無塵紙7が入り込むとクッション性シート4の枚数の調節することによって制御しようとしている荷重がウェハ2に適正にかからなくなるが、本実施形態は、図3の実施形態と比べて更に、それらの不具合の可能性を低減することができる。
【0037】
枠8と外蓋5との間にクッション性シート4が噛み込まれた場合も、クッション性シート4の枚数の調節することによって制御しようとしている荷重がウェハ2に適正にかからなくなる。そこで、図4に示したように、枠8の穴の内側に配置されたクッション性シート4の上に中蓋9を配置することができる。中蓋9は、外蓋5が中蓋9を含めて覆う構造にすることによって、枠8と外蓋5との間にクッション性シート4を噛み込むことを確実に防止しつつ、外蓋5を基部3に固定することができるような寸法及び形状を有する。
【0038】
図5は、本発明の第5の実施形態を説明するための図であり、更に(a)は上面図、(b)は収納具1を構成する部品に分解した断面図、(c)は部品を組合せて半導体ウェハ2を収納した状態の収納具1の断面図である。中蓋9は枠8の内側に配置されている。このような構成によって、図4の実施形態に比較して、収納具1の全体の厚さを薄くすることができるので、収納具の保管・運搬コストを低減できる。また、他の実施形態においても同様であるが、外蓋5が基部3に固定される時に、外蓋5の下面外縁部と基部3の上面外縁部が密着する構造にして、収納具1の内部に塵埃や湿気が侵入しないようにしており、故に収納具1の開閉をクリーンルーム内で行えば、運搬時の環境が良好でなくても、プロセス済み半導体ウェハ2をクリーンな状態で運搬できる。また、外蓋5を基部3に固定するために皿ネジ6を使用すれば、収納具1の上面に突起物が無くなり、収納具1を積み重ねて運搬することが容易になる。
【0039】
次に図5を参照して、収納具1への半導体ウェハ2の収納、取り出しの手順を説明する。まず、半導体ウェハ2の収納については、基部1の凸形状の平坦部に無塵紙7を敷き、その上に半導体ウェハ2を配置する。配置場所の周辺にウェハ2の横滑りを防止する囲いのようなものが存在しないので半導体ウェハ2を配置しやすく、薄層化されて割れやすい半導体ウェハを配置する時に破損する可能性は低くなる。次に、凸形状の外周部に枠8を配置した後、ウェハ2の上に、もう1枚の無塵紙7を配置した後、その上に、ウェハ2に適切な荷重をかけるために枚数を調節したクッション性シート4を枠8の穴の内側に入るように配置する。更に、そのクッション性シート4の上に、中蓋9を枠8の穴の内側に入るように配置する。クッション性シート4を配置した段階で、枠8の上面は、クッション性シート4の最上面よりも高くなるようにしておけば、枠8の上面と中蓋9との間にクッション性シート4を噛み込んで、ウェハ2に対して適切な荷重がかからないという問題は発生しない。次に、枠8及び中蓋9を覆うように外蓋5を基部3の上に被せて、皿ネジを締めて、基部3の上面外縁部に外蓋5の下面外縁部が密着するように基部3に外蓋5を固定する。この状態で、枚数を調節したクッション性シート4が圧縮されることによって、半導体ウェハ2に適切な荷重が均一にかかるようになり、収納具の内部環境は外部と遮断される。この状態で収納具1に収納された半導体ウェハ2を運搬すると、ウェハに適切な荷重がかかっているため、運搬中に外部から衝撃が加わっても、ウェハ2が基部3に対して横滑りしたり浮き上がったりして破損することはない。ウェハに過剰な荷重がかかっていないので、荷重によって半導体ウェハに結晶欠陥が発生することもない。更に運搬中の外気中の湿度や塵埃の収納具内への侵入が防止されるので、運搬中の外気環境の影響を受けない。即ち、この収納具1を収納具自身の破損を防ぐ程度のクッション材で囲んで、通常のダンボール箱に入れて、一般の荷物と混載で運搬しても、ウェハが破損したり、汚染されたりすることはないので、運搬コストを低減できる。
【0040】
運搬後のウェハ2の取り出しについては、まず、皿ネジ6を緩めて外蓋5を基部3から外す。次に、枠8を上に抜き取り、残った中蓋9、複数枚のクッション性シート4、ウェハ2の上の無塵紙7をピンセット等で除去する。これらの除去は、枠8を先に外しているので容易であり、ウェハ2に応力をかけるような作業は不要である。次のウェハ2の取り出しは、ウェハ2が凸形状の上に配置されかつその周りに障害物がないことから、ウェハ2の一部が凸形状の外側にくるようにウェハ2を横にずらしてウェハ2を掬うようにして行うことができ、故にウェハを破損したりウェハにストレスを与えたりすることなく、収納具1から取り出すことができる。ウェハ2を取り出した収納具は、まず枠8を基部3の凸形状の外周部に配置するように戻し、無塵紙7、クッション性シート4、中蓋9の順で、枠8の穴の内側に戻して、外蓋5を基部3のネジ止めしておくことにより、再利用可能である。
【0041】
図6は、本発明の第6の実施形態を説明するための収納具1の断面図である。外蓋5を、枠8を含めて覆い、基部3の外縁部に固定する際に基部3に対して枠8が動いたために、クッション性シート4や無塵紙7が捩れてウェハ2に不均一な荷重を与えるということが発生しないようにするためには、図5のように凸形状を設ける代わりに、基部1のウェハ2を配置する平坦部の外周に溝10を設け、枠8が溝10に嵌め込まれる構造にしても良い。枠8を外したときにウェハ2が凸形状の上から滑り落ちることが懸念される場合は、ウェハの取り出しが若干難しくなるが、図6の構造の方が安全である。但し、ウェハの滑りは無塵紙の選択によっても防止することができる。
【0042】
なお、基部3、外蓋5、枠8及び中蓋9の少なくとも1つを樹脂で製作することにより、収納具を軽くして運搬しやすくすることができる。また、基部3を透明又は半透明の樹脂で形成すれば、外蓋5が基部3に固定された状態のままで、基部3の底側から、収納具1にウェハ2が収納されているか否かが判別できるようになる。更に、導電性を有する樹脂か、あるいは表面に帯電防止層が形成された樹脂を使用すると、半導体ウェハ2内に形成された半導体デバイスが静電気によって損傷又は悪影響を受けることを防止できる。
【0043】
また、基部3、外蓋5、枠8及び中蓋9を、垂直な中心線に対して、ネジ穴を除いてすなわち実質的に回転対称の形状(例えば円柱又は正多角柱)にすれば、これらの各部品作製のための加工が簡単になり、収納具1のコストを低減できる。半導体ウェハは通常円形なので、収納具1も円形とすることで、収納に役立たない無駄なスペースが少なくなり、収納具1が小型化できるメリットもある。小型化により、収納具1のコストを低減できると共に運搬コストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)本発明の半導体ウェハ運搬用収納具の第1の実施形態の上面図であり、(b)分解断面図であり、(c)組立断面図である。
【図2】本発明の半導体ウェハ運搬用収納具の第2の実施形態の組立断面図である。
【図3】本発明の半導体ウェハ運搬用収納具の第3の実施形態の組立断面図である。
【図4】本発明の半導体ウェハ運搬用収納具の第4の実施形態の組立断面図である。
【図5】(a)本発明の半導体ウェハ運搬用収納具の第5の実施形態の上面図であり、(b)分解断面図であり、(c)組立断面図である。
【図6】本発明の半導体ウェハ運搬用収納具の第6の実施形態の組立断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 収納具
2 ウェハ
3 基部
3a 平坦部
3b 上面外縁部
4 クッション性シート
5 外蓋
6 ネジ
7 無塵紙
8 枠
8a 穴
9 中蓋
10 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハを配置する平坦部を有する基部と、前記平坦部に配置された前記ウェハの上に配置されるクッション材と、前記クッション材を覆い、前記基部の上面外縁部に接して固定される外蓋とを有する半導体ウェハ運搬用収納具において、
前記クッション材は複数のクッション性シートの積層体を有し、
前記外蓋が前記基部に固定されたときの前記ウェハにかかる荷重が、前記クッション性シートの枚数の調節によって制御可能であるように、前記基部及び前記外蓋が構成される、半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項2】
前記クッション性シートの枚数を調節することにより、前記外蓋を前記基部に固定したときの前記ウェハへの単位面積当たりの荷重を0.1kPa〜1kPaの間で制御できる、請求項1に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項3】
前記クッション性シートはガーゼ状のクリーンルーム用ワイパーである、請求項1または2に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項4】
前記ウェハの少なくとも一方の面に無塵紙が配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項5】
前記基部の上に、収納される前記ウェハの外形より大きな穴が設けられた枠が設置され、前記ウェハ及び前記クッション性シートが前記枠の前記穴内に配置され、前記外蓋が前記枠を覆う構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項6】
前記基部の上面の形状は、前記ウェハを配置する前記平坦部が該平坦部を取り囲む前記上面外縁部よりも高さが高い凸形状になっており、前記枠が前記平坦部の外周に配置され、前記枠の上面は前記平坦部より高い位置にある、請求項5に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項7】
前記基部において、前記ウェハが配置された前記平坦部の外側に溝が設けられ、該溝に前記枠が嵌め込まれる、請求項5に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項8】
前記枠の前記穴内に配置された前記クッション性シートの上に中蓋が配置され、前記外蓋が前記中蓋を覆う構造を有する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項9】
前記中蓋が前記枠の内側に配置される、請求項8に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項10】
前記外蓋が前記基部に固定されるときに、前記外蓋の下面外縁部と前記基部の前記上面外縁部とが密着する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項11】
前記外蓋を前記基部に固定するための皿ネジを有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項12】
前記基部、前記外蓋、前記枠及び前記中蓋のうち少なくとも1つが樹脂製である、請求項8に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項13】
前記基部、前記外蓋、前記枠及び前記中蓋のうち少なくとも1つが、導電性を有する樹脂から作製されるか、または表面の少なくとも一部に帯電防止層が形成された樹脂から作製される、請求項12に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。
【請求項14】
前記基部、前記外蓋、前記枠及び前記中蓋が実質的回転対称の形状を有する、請求項8に記載の半導体ウェハ運搬用収納具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−54306(P2006−54306A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234600(P2004−234600)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】