説明

半導体ウエハの研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置

【課題】作業負担を増加させることなく、上下の回転定盤によりキャリアに保持された半導体ウエハの両面を研磨する際の、研磨の進行状況を正確に推定できる半導体ウエハの研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置を提供する。
【解決手段】上下の回転定盤2、3によりキャリア6aに保持されたウエハWを挟持し、該上下の回転定盤2、3を回転動作させることにより、ウエハWの両面を同時研磨する研磨装置1を用いたウエハ研磨方法であって、ウエハWの両面を同時研磨している際の、研磨装置1の定盤負荷電流値をモニタし、そのモニタした定盤負荷電流値を用いて一定時間内における定盤負荷電流値の標準偏差を基準時間毎に算出し、該算出した標準偏差の変化からウエハWの研磨の進行度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハの研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置に関し、例えば、上下の定盤間でキャリアを用いて半導体ウエハの両面を同時研磨する半導体ウエハの研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化が進み、その素材である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」ともいう)に要求される平坦度が厳しくなってきている。また、製造コスト低減の観点から、ウエハの大口径化が進められ、その平坦度の向上が一層困難なものになっている。
また、ウエハの加工プロセスにおいては、エッチング後に研削工程を導入したプロセスの提案がなされ、研削に続く鏡面研磨工程においては、従来の片面研磨より優れた加工精度を有する両面研磨方式が注目されている。
【0003】
そして、特許文献1には、ウエハの両面研磨を行う遊星歯車方式の研磨装置が開示されている。
ここで、図6を参照しながら、特許文献1に記載された従来技術の遊星歯車方式の研磨装置の構成を説明する。
【0004】
図6に示すように、研磨装置100は、水平に支持された円板状の下定盤101と、下定盤101に相対向する円板状の上定盤102と、円板状の下定盤101の内側に配置された太陽歯車103とを備えている。
また、下定盤101は、モータにより回転駆動されるようになっている。また、上定盤102は、シリンダにジョイントを介して吊り下げられ、下定盤101を駆動するモータと別のモータにより逆方向に回転駆動されるようになっている。
【0005】
また、上定盤102は、下定盤101との間に研磨液を供給するためのタンクを含む研磨液供給系統が装備されている。
また、下定盤101及び上定盤102の対向面には、不織布にウレタン樹脂を含浸させた研磨布、或いは発泡ウレタン等からなる研磨布が貼付されている。
また、下定盤101上には、太陽歯車103を取り囲むようにキャリア104がセットされ、当該セットされたキャリア104の外側にリング状の内歯歯車(図示せず)が配置されている。この内歯歯車は、定盤(下定盤101、上定盤102)を駆動するモータとは別のモータにより独立に回転駆動されるようになっている。
【0006】
そして、ウエハの研磨作業は以下の手順で行われる。
先ず、上定盤102を上昇させて下定盤101から離し、この状態で、下定盤101上に複数のキャリア104を太陽歯車103を取り囲むようにセットする。
尚、セットされた各キャリア104は、内側の太陽歯車103及び図示されない内歯歯車にそれぞれ噛み合うようになっている。
【0007】
次に、下定盤101上に所定数のキャリア104をセットし、各キャリア104内にウエハ105をセットし終わると、上定盤102を下降させ、各ウエハ105に所定の加圧力を付加する。
次に、上記加圧力を付加した状態で、下定盤101と上定盤102の間に研磨液を供給しながら、下定盤101、上定盤102、内歯歯車(図示せず)を所定の方向に所定の速度で回転させる。
上記の回転動作により、下定盤101と上定盤102の間で複数のキャリア104が自転しながら太陽歯車103の周囲を公転するいわゆる遊星運動を行う。各キャリア104に保持されたウエハ105は、研磨液中で上下の研磨布と摺接し、上下両面が同時に研磨されるようになっている。
【0008】
ところで、上述したウエハの両面研磨工程では、ウエハの平坦度の改善だけでなく、両面研磨工程の前工程までに生じた加工歪みの除去及び表面粗さの矯正が行われており、研磨量の管理が重要管理項目になっている。
そして、ウエハの両面研磨工程における研磨量の管理は、一般的には、経験に基づく研磨時間の管理により行われていた。
【0009】
具体的には、上記経験に基づく研磨時間の管理では、経験測により所定時間研磨し、その後、ウエハの仕上がり厚さを測定し、その測定結果により、研磨時間を調整していた(必要であれば、さらに研磨が行われていた)。
また、上記の経験に基づく研磨時間の管理では、固定の研磨時間を定めておき、その定めた研磨時間だけ研磨する方式(研磨時間固定方式)も多く採用されている。
尚、特許文献1には、上記のような経験に基づく研磨時間の管理によらず、ウエハの両面研磨工程における定盤振動周波数の変化から研磨終了時点を推定することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−252000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した経験に基づく研磨時間の管理は、測定結果により研磨時間を調整しているため(必要であれば、さらに研磨を行う必要があるため)、その手間が面倒であると共に、加工終了から測定結果判定がなされるまでの間でウエハの加工ができないという技術的課題を有している。
また、上記の研磨時間固定方式では、研磨布の目立て(ドレス)や目詰まり解消のためのウォータジェットなどの作業をした後で、当該作業後の研磨レートが低下する現象が生じるため、所望の厚さ寸法に仕上げられないことがあるという技術的課題を有している。
具体的には、加工の間にダイヤモンドドレッサによる研磨布の目立て(ドレス)や、目詰まり解消のためのウォータジェットなどの作業をすると、研磨布の表面温度が低下し、研磨レートが低下する。その結果、ウエハの仕上がり厚さが目標値より厚くなっていた。
尚、特許文献1の定盤振動周波数の変化から研磨終了時点を推定する方式は、最適となる定盤振動周波数の選定が困難であり装置の初期設定作業が面倒であった。また、加工条件を変更する場合、定盤振動周波数が変化してしまい、変更の度に設定を変更する必要があった。
【0012】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、作業負担を増加させることなく、上下の回転定盤により半導体ウエハの両面を研磨する際の、研磨の進行状況を正確に推定できる半導体ウエハの研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明は、上下の回転定盤によりキャリアに保持された半導体ウエハを挟持し、該上下の回転定盤を回転動作させることにより、該半導体ウエハの両面を同時研磨する研磨装置を用いた半導体ウエハの研磨方法であって、前記半導体ウエハの両面を同時研磨している際の、前記研磨装置の定盤負荷電流値をモニタするステップと、前記モニタした定盤負荷電流値を用いて一定時間内における定盤負荷電流値の標準偏差を基準時間毎に算出し、該算出した標準偏差の変化から前記研磨の進行度を推定するステップとを有することを特徴としている。
【0014】
上記の構成を採用したのは、本願発明者が、半導体ウエハの両面研磨の進行に伴う研磨装置の経時的変化を詳細に調査した結果、ウエハやキャリアの研磨に伴う摩擦抵抗に起因して変化する装置検出値である定盤負荷電流値が、研磨の進行度を反映して変化する(バラツキが小さくなる)ことを見出したためである。すなわち、上記定盤負荷電流値の標準偏差を調べることにより、半導体ウエハの研磨の進行度を正確に推定できることを見出したためである。
したがって、本発明によれば、従来技術の「経験に基づく研磨時間の管理」による方法に比べ、作業負担をかけることなく(測定結果による研磨時間の調整作業が必要ないため)、半導体ウエハの仕上がり厚さを「目標厚」に近づけることができるようになる。
【0015】
また、前記標準偏差が所定の値に達すると、研磨の終了時点であると推定することが望ましい。
また、前記標準偏差の時間当たりの変化パターンが所定関係を満足したときに、研磨の終了時点であると推定することが望ましい。
このように構成するのは、上述したように、定盤負荷電流値が研磨の進行度を反映し変化する(バラツキが小さくなる)ためである。すなわち、定盤負荷電流値の標準偏差の値や変化パターンにより、研磨の終了時点を正確に推定することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するためになされた本発明は、上下の回転定盤によりキャリアに保持された半導体ウエハを挟持し、該上下の回転定盤を回転動作させることにより、該半導体ウエハの両面を同時研磨する半導体ウエハ研磨装置であって、前記半導体ウエハの両面を同時研磨している際の定盤負荷電流値をモニタする検知部と、前記モニタした定盤負荷電流値を用いて一定時間内における定盤負荷電流値の標準偏差を基準時間毎に算出し、該算出した標準偏差の変化から前記研磨の進行度を推定する研磨進行状況推定部とを有することを特徴としている。
このように本発明の半導体ウエハ研磨装置によれば、研磨の進行度を反映し変化する(バラツキが小さくなる)定盤負荷電流値をモニタし、そのモニタした定盤負荷電流値の標準偏差により研磨の進行度を推定するため、半導体ウエハの研磨の進行度を正確に推定できる。
【0017】
また、前記キャリアは、前記半導体ウエハより摩擦係数が小さい材質により形成されていることが望ましい。
また、前記キャリアは、基材の表面に前記半導体ウエハよりも摩擦係数が小さい材料で被覆を施して形成されたものであることが望ましい。
また、前記キャリアは、その厚さ寸法が前記半導体ウエハの仕上がり目標厚と同一寸法、若しくは該目標厚の中心値から±6μmの範囲内の厚さ寸法になされていることが望ましい。
上記構成により、半導体ウエハの研磨工程の進行状況を高精度に推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業負担を増加させることなく、上下の回転定盤により半導体ウエハの両面を研磨する際の、研磨の進行状況を正確に推定できる半導体ウエハ研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の研磨装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】半導体ウエハの両面を同時研磨する研磨装置がウエハを研磨している際の上定盤負荷電流値を研磨時間に対応付けて示したグラフである。
【図3】ウエハの両面を同時研磨する研磨装置がウエハを研磨している際の上定盤負荷電流値の一定時間内における標準偏差を基準時間毎に算出した値をウエハの研磨時間に対応付けて示したグラフである。
【図4】ウエハの仕上がり厚さと、その仕上がり厚さを特定する閾値である上定盤負荷電流値の標準偏差との相関関係を示した模式図である。
【図5】本実施形態の研磨装置が行うウエハ研磨工程の進行状況を推定する処理の手順を示したフローチャートである。
【図6】従来技術の遊星歯車方式の研磨装置の構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の半導体ウエハの研磨方法及び半導体ウエハ研磨装置(以下、「研磨装置」という)について、図面に基づいて説明する。
先ず、本実施形態の研磨装置の構成を図1に基づいて説明する。
尚、図1は、本発明の実施形態の研磨装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【0021】
図示するように、研磨装置1は、被処理基板である半導体ウエハW(以下、「ウエハW」という)の両面を同時に鏡面研磨する装置であり、複数の半導体ウエハWを同時に処理(バッチ処理)する装置構成となされている。
また、研磨装置1は、定盤負荷電流検知部12及び制御部20を備え、当該定盤負荷電流検知部12及び制御部20により、ウエハWの研磨時における装置検出値(研磨装置1の状態を示す値)をモニタし、そのモニタした装置検出値から一定時間内(例えば60秒間)にモニタされた装置検出値の標準偏差σを基準時間毎(例えば1秒毎)に算出し、その算出した標準偏差σからウエハWの研磨工程の進行状況を推定するようになされている。
尚、本実施形態の研磨装置1の構成のうち、ウエハWの研磨工程の進行状況を推定する構成(定盤負荷電流検知部12、制御部20)以外は周知技術と同じである。
そのため、以下では、研磨装置1の構成のうち「定盤負荷電流検知部12及び制御部20」以外の構成を簡略化して説明する。
【0022】
具体的には、研磨装置1は、上定盤(上回転定盤)2と下定盤(下回転定盤)3とを備え、それらの対向面には、ウエハWの両面を研磨するための研磨布4、5がそれぞれ貼付されている。
また、前記上定盤2と下定盤3との間には、それぞれ複数のウエハWを保持する複数のキャリア6aが配置される。また、各キャリア6aが保持するウエハWの上下面は、前記研磨布4、5に臨む状態になされている。
【0023】
また、上定盤2は、昇降駆動部7により昇降移動可能に設けられ、研磨加工の際には、前記昇降駆動部7が上定盤2を下降移動させ、各キャリア6aは、上下の定盤に挟まれて所定の圧力で押圧されるようになされている。一方、ウエハWの搬入出時、メンテナンスの際等には、上定盤2は昇降駆動部7により下定盤3に対して上昇移動される。
尚、この昇降駆動部7の駆動は、制御部20からの命令信号に基づき制御される。
【0024】
また、上定盤2には、上部回転駆動部8aにより軸回りに回転する回転軸2aが設けられている。そして、上定盤2は、上部回転駆動部8aにより駆動(回転)する回転軸2aと共に回転するようになっている。
また、下定盤3には、下部回転駆動部8bにより軸回りに回転する回転軸3aが設けられている。そして、下定盤3は、下部回転駆動部8bにより駆動(回転)する回転軸3aと共に回転(上定盤2と逆方向に回転)するようになっている。
尚、上部回転駆動部8a及び下部回転駆動部8bの動作は、制御部20からの命令信号に基づき制御される。
【0025】
また、複数のキャリアプレート6aは、上記した回転軸2a及び回転軸3bと同軸に配置された回転軸(図示せず)を中心とする一円周上に配置され、それぞれの側部が、前記回転軸(図示せず)の周囲に設けられたサンギア(図示せず)に噛合するようになされている。
また、前記回転軸(図示せず)を中心として、前記複数のキャリアプレート6aの外側には、それら全体を取り囲むように環状のインターナルギア6cが設けられ、各キャリアプレート6aの側部に噛合するようになされている。このインターナルギア6cは、定盤(上定盤2、下定盤3)を駆動する機構(上回転駆動部8a、下回転駆動部8b)と別のモータにより独立に回転駆動されるようになっている。
【0026】
また、上定盤2には、キャリアプレート6aの研磨面に研磨液を供給する研磨液供給管10が設けられ、この研磨液供給管10には、研磨液貯留タンクやポンプ等からなる研磨液供給部11により研磨液が供給されるようになされている。
尚、研磨液供給部11の動作は、制御部20からの命令信号に基づき制御される。
【0027】
また、本実施形態の研磨装置1は、上定盤2を回転駆動させる上部回転駆動部8aに接続された(電気的に接続された)定盤負荷電流検知部12が設けられている。
この定盤負荷電流検知部12は、上部回転駆動部8aが上定盤2を回転させている最中の「上定盤負荷電流値」をモニタ(検出)し、制御部20の定盤負荷電流取得部22に、そのモニタした「上定盤負荷電流値」を送信するように構成されている。
【0028】
また、本実施形態の研磨装置1は、装置全体の動作を制御すると共に、ウエハWの研磨工程の進行状況を推定する制御部20を備えている。
この制御部20は、装置全体の動作を制御する駆動制御部21と、定盤負荷電流検知部12が送信する「上定盤負荷電流値」を受信する定盤負荷電流取得部22と、定盤負荷電流取得部22が受信した「上定盤負荷電流値」を用いてウエハWの研磨の進行状況(進行度)を推定する研磨進行状況推定部23とを有している。
【0029】
また、制御部20のハードウエア構成は特に限定されるものではないが、例えば、制御部20は、CPU及びメモリを有するコンピュータにより構成することができる。この場合、前記メモリには、「駆動制御部21、定盤負荷電流取得部22及び研磨進行状況推定部23」の機能を実現するためのプログラムが格納されている。
そして、「駆動制御部21、定盤負荷電流取得部22及び研磨進行状況推定部23」の機能は、前記CPUが前記メモリに格納された前記プログラムを実行することにより実現される。
以下、制御部20の各部の機能を詳細に説明する。
【0030】
具体的には、駆動制御部21は、研磨装置1の各部(昇降駆動部7、上部回転駆動部8a、下部回転駆動部8b、研磨液供給部11等)に各種命令信号(制御信号)を送信し、前記各部の動作を制御する。
また、定盤負荷電流取得部22は、定盤負荷電流検知部12から送信される「上定盤負荷電流値」受信し、制御部20の前記メモリの所定領域に格納する。
【0031】
また、研磨進行状況推定部23は、前記メモリに格納された上定盤負荷電流値を用いて、所定時間内(例えば60秒間)にモニタされた上定盤負荷電流値の標準偏差σを基準時間毎(例えば1秒毎)に算出し、その算出した標準偏差σからウエハWの研磨工程の進行状況を推定する。
尚、ウエハWの研磨工程の進行状況を高精度に推定できるようにするため、本実施形態では、研磨装置1のキャリア6aの厚み(厚さ寸法)が、ウエハWの仕上がり目標厚(ウエハWの仕上がり厚さ寸法)と同一寸法、若しくは微少差の範囲の厚さ寸法(好ましくは、ウエハWの仕上がり厚さ寸法の中心値から±6μmの範囲内の厚さ寸法)になされている。
【0032】
また、ウエハWの研磨工程の進行状況を高精度に推定できるようにするため、キャリア6aは、その表面の摩擦係数がウエハWの表面の摩擦係数よりも小さい材質により形成されていることが望ましい。例えば、キャリア6aは、ステンレス鋼、チタン、樹脂等を基材として、当該基材表面に摩擦係数の低いDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を被覆して形成されたものであってもよい。
このように、モニタした上定盤負荷電流値を用いて、ウエハWの研磨工程の進行状況を推定する構成を採用したのは以下の理由による。
【0033】
具体的には、本願発明者が、ウエハWの研磨の進行に伴う研磨装置1の経時的変化を詳細に調査した結果、ウエハWやキャリア6aの研磨に伴う摩擦抵抗に起因して変化する装置検出値(例えば、上定盤負荷電流値)が、研磨の進行度に反映して変化することを見出したことによる。
また、本願発明者は、研磨装置1のキャリア6aの厚みをウエハWの仕上がり目標厚と同一かこれより僅かに薄く(若しくは僅かに厚く)してウエハWの研磨を行うと、研磨の進行に伴うウエハWの厚さ寸法の減少により、研磨装置1の装置検出値(上定盤負荷電流値等)のバラツキが小さくなることを見出したことによる。
【0034】
具体的には、本願発明者は、一般的な両面研磨装置において、両面研磨加工を1回(1バッチ)行いウエハWの研磨時の上定盤負荷電流値を1秒毎にモニタした。そして、X軸に「研磨の経過時間」をとり、Y軸に「上定盤負荷電流値」をとった2次元座標を作成し、その2次元座標上に前記モニタした値をプロットしてみると、図2に示す結果が得られた。
図2を参照すると、上定盤負荷電流のバラツキが研磨時間の経過と共に小さくなっていることが判る。
【0035】
また、上記のモニタした上定盤負荷電流値を用いて、60秒間の上定盤負荷電流値の標準偏差σを1秒毎に算出し、X軸に「研磨の経過時間」をとり、Y軸に「60秒間の上定盤負荷電流値の標準偏差σ」をとった2次元座標を作成し、その2次元座標上に前記算出した値をプロットすると、図3に示す結果が得られた。
図3を参照すると、上定盤負荷電流値の標準偏差σが研磨時間の経過と共に小さくなっていき最小値(図中のX軸が21分の時点)となった後、上昇に転じていることが判る。
【0036】
これは、研磨対象となる主体が研磨進行と共に変化する(研磨対象が「ウエハW」→「ウエハW及びキャリア6a」→「キャリア6a」と移行する)ことにより生じる現象と考えられる。
すなわち、上記のようになるのは、ウエハWの厚さが、キャリア6aより厚いときには、研磨布4、5による研磨の付加がウエハWに掛かり、その後、ウエハWの厚さと、キャリア6aの厚さとが同じになると、前記付加がウエハW及びキャリア6aの両方に分散され、さらにその後、ウエハWの厚さがキャリア6aの厚さより薄くなったとき、前記付加がキャリア6aへ移行することにより生じるものと考えられる。
したがって、図3に示す標準偏差σの最小値が、ウエハWの厚さ寸法とキャリア6aの厚さ寸法とが同一になった時点と考えられる。
【0037】
そのため、本実施形態では、図3に示す現象を利用し、所定経過時間内でモニタした上定盤負荷電流値の標準偏差σ(一定時間内の定盤負荷電流値の標準偏差σ)を基準時間毎(a秒毎)に算出し、その標準偏差σが所定の閾値(最小値)に達した時点を研磨終了時と推定するようにした。
【0038】
さらに、本願発明者は、閾値となる標準偏差σの値と、仕上がりウエハWの厚さとの関係を検証した。
具体的には、ウエハWの研磨時の60秒間の上定盤負荷電流値の標準偏差σを1秒毎に算出し、標準偏差σが設定された閾値になった時点を研磨終了とし、「仕上がりウエハWの厚さ」と、「閾値(ウエハWの研磨時の60秒間の上定盤負荷電流値の標準偏差σ)」との相関関係を最小二乗法により検証した。さらに具体的には、前記標準偏差とその際に加工されたウエハ(1バッチあたり1枚)の中心厚さの相関を20バッチ分調査し、近似式は、プロットした結果について、最小二乗法により算出した。
上記検証によると、図4に示す結果(近似式(y=0.1393x−107.67)、決定係数(R2=0.9336))が得られた。
【0039】
そして、図4に示す結果より、仕上がりウエハWの厚さと閾値とは強い相関があることが判り、上記の閾値を調整することにより、仕上がりウエハWの厚さを所望の目標値に近づけることができることを見出した。
尚、本実施形態では、上記標準偏差σが所定の値(閾値)に達した時点を研磨終了時と推定しているが、特にこれに限定されるものではない。
例えば、上述した標準偏差σの時間当たりの変化パターンが所定の関係を満たした場合(例えば上定盤負荷電流標準偏差の一定区間の傾きが0になるような場合等)に、研磨終了であると推定してもよい。
また、キャリア6aの厚さ寸法よりもウエハWの仕上がり目標厚を薄くしたい場合には、上記の標準偏差σが所定の値(最小値)に達した時点から所定時間研磨した時点を研磨終了時点とすることもできる。
【0040】
次に、研磨装置1の動作を説明する。
上記のように構成された研磨装置1においては、各キャリア6aに研磨前のウエハWが設置されると、制御部20の制御により、上定盤2が下降移動される。そして、キャリア6aに保持されたウエハWが上定盤2及び下定盤3により挟まれ、所定の荷重で押圧された状態となされる。
次いで、回転軸2a、3aが回転駆動され、研磨液供給管10から研磨液が供給されつつ各キャリア6aが自転しながら回転軸(図示せず)の周りを回転する。これにより、半ウエハWの両面が研磨布4、5によって同時に研磨される。
【0041】
また、制御部20は、ウエハWの研磨工程が開始されると、定盤付加電流検知部12を介して上定盤付加電流値をモニタすると共に、図5の処理ステップを実行し、ウエハWの研磨終了時点を推定し、研磨装置1によるウエハWの研磨工程を終了させる。
【0042】
次に、本実施形態の研磨装置1により行われるウエハWの研磨工程の進行状況を推定する処理を図5に基づいて説明する。
ここで、図5は、本実施形態の研磨装置が行うウエハ研磨工程の進行状況を推定する処理の手順を示したフローチャートであり、制御部20を構成する研磨進行状況推定部23により行われる処理を示したものである。
尚、図5の処理ステップに並行し、定盤負荷電流検知部12及び定盤負荷電流取得部22が「上定盤負荷電流値」をモニタし、制御部20のメモリの所定領域に格納する処理を行っている。
【0043】
具体的には、研磨進行状況推定部23は、ウエハWの研磨工程が開始されると、研磨開始からの経過時間Tが「A(例えば、60秒)」になるまで待機し、経過時間Tが「A秒」になると、S2の処理に移行する(S1)。
【0044】
次に、研磨進行状況推定部23は、前記メモリに格納された「上定盤負荷電流値」を用いて、「研磨開始からの経過時間T」を基準にして「A秒前」までの間(一定時間)にモニタした「上定盤負荷電流値」の標準偏差σを算出する(S2)。
【0045】
次に、研磨進行状況推定部23は、S2で算出した標準偏差σと、所定の閾値とを比較し、「上定盤負荷電流値」の標準偏差σが閾値以下(標準偏差σ≦閾値)であればS5の処理に進み、標準偏差σが閾値より大きければ(標準偏差σ>閾値)S4の処理に進む(S3)。
【0046】
具体的には、研磨進行状況推定部23は、本ステップ(S3)において、標準偏差σが閾値以下(すなわち、「上定盤負荷電流値」のバラツキが所定レベル以下)になると、ウエハWが仕上がり目標厚まで研磨されたと推定し、S5に進む。
一方、研磨進行状況推定部23は、本ステップ(S3)において、標準偏差σが閾値より大きければ(すなわち、「上定盤負荷電流値」のバラツキが所定レベルより大きければ)、ウエハWが仕上がり目標厚まで研磨されていないと推定し、S4に進む。
【0047】
そして、S5では、研磨進行状況推定部23は、研磨終了時点であると推定し、駆動制御部21を介して、ウエハWの研磨工程を終了させる。
具体的には、研磨進行状況推定部23は、標準偏差σが閾値以下(すなわち、「上定盤負荷電流値」のバラツキが所定レベルまで小さくなると)、駆動制御部21に、研磨終了時点である旨を示す信号を送信する。
また、駆動制御部21は、研磨終了時点である旨を示す信号を受信すると、研磨装置1の各部(昇降駆動部7、上部回転駆動部8a、部回転駆動部8b、研磨液供給部11等)に各種命令信号(制御信号)を送信し、研磨工程を終了させる。
【0048】
一方、S4では、研磨進行状況推定部23は、経過時間が「T(秒)」から「a(例えば、1)(秒)」経過するまで待機し、その後、「T」に「a」をインクリメントしてから(T←T+a)、上述したS2に進み、S3で「標準偏差σ≦閾値」になるまで、S2、S3、S4の処理を繰り返す。
【0049】
このように、「S2、S3、S4」の処理を繰り返すことにより、直近のA秒間(一定時間A)でモニタした「上定盤負荷電流値」の標準偏差を基準時間(a秒)毎に算出することができる。
例えば、上記Aを「60秒」とし、上記aを「1秒」とすると、研磨進行状況推定部23は、S1の処理の直後に行われる1回目のS2の処理では、ウエハWの研磨開始から60秒間にモニタされた「上定盤負荷電流値」の標準偏差σを算出する。
また、研磨進行状況推定部23は、1回目のS4の処理の直後に行われる2回目のS2の処理では、ウエハWの研磨開始の1秒経過後から61秒経過するまでの60秒間にモニタされた「上定盤負荷電流値」の標準偏差σを算出する。
また、研磨進行状況推定部23は、2回目のS4の処理の直後に行われる3回目のS2の処理では、ウエハWの研磨開始から2秒経過後からから62秒経過するまでの60秒間にモニタされた「上定盤負荷電流値」の標準偏差σを算出する。
【0050】
このように、本実施形態では、直近の所定経過時間内(一定時間A秒)でモニタした「上定盤負荷電流値」の標準偏差を基準時間毎(a秒毎)に算出し、直近の標準偏差により、ウエハWの研磨の進行を判断するため、リアルタイムに研磨の進行を推定することができる。
【0051】
以上、説明したように、本実施形態のウエハ研磨方法(図5参照)及び研磨装置1によれば、従来技術の「経験に基づく研磨時間の管理」による方法と比べ、作業者の手間を増加させることなく、ウエハWの仕上がり厚さを「目標厚」に近づけることができ、研磨の過不足によるウエハWの平坦度悪化を抑制することができる。
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、ウエハWの研磨工程の進行状況を推定するために「上定盤負荷電流値」をモニタしているが特にこれに限定されるものではない。
「上定盤負荷電流値」は、ウエハWやキャリア6aの研磨に伴う摩擦抵抗に起因して変化する信号の一例に過ぎない。前記摩擦抵抗に起因して変化する装置検出値であれば、ウエハWの研磨工程の進行状況を推定に利用することができる。
具体的には、「上定盤負荷電流値」ではなく、「下定盤負荷電流値」をモニタし、そのモニタされた「下定盤負荷電流値」の標準偏差σを基準時間毎に算出し、その算出した標準偏差σからウエハWの研磨工程の進行状況を推定するようにしてもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、所定経過時間内(一定時間A秒)でモニタした「上定盤負荷電流値」の標準偏差を基準時間(a秒)毎に算出しているが、この所定経過時間内(一定時間A秒)や基準時間(a秒)は、対象となるウエハWの大きさ等に応じて適宜設定されるものとする。
例えば、所定経過時間内(一定時間A秒)が「10〜300秒」になされ、基準時間(a秒)が「0.1秒〜10秒」になされていることが望ましい。
前記所定経過時間Aが10秒以下では標準偏差のバラツキが大きく、終点を誤検出してしまうなど精度が低下する虞がある。一方前記所定経過時間Aが300秒以上では終点検知に遅れが生じる虞がある。また前記基準時間aはリアルタイムに終点を検知するため、より小さい方が好ましいが、基準時間aが0.1秒以下では制御部の高い処理能力が要求され、前記基準時間aが10秒以上では、終点検知に遅れが生じる虞がある。
【0054】
また、上述した実施形態では、モニタした装置検出値(上定盤負荷電流値等)の標準偏差により研磨工程の進行状況を推定していたが、特にこれに限定されるものではない。標準偏差以外であっても、モニタした装置検出値のバラツキを表す指標(例えば、「最大値−最小値」)であれば、本発明に適用することができる。
【0055】
次に、本発明に係る研磨方法(及び研磨装置)について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施形態に従いウエハWの両面研磨加工を行い、本発明の効果を検証した。
【0056】
〔実施例〕
本実施例では、上述した研磨装置1を用いて、φ300mmのシリコンウエハWの両面研磨を以下の条件により20サイクル行った。
また、本実施例では、仕上がりウエハW厚さ目標値を「776μm」とした。また、キャリア6aは、ステンレス鋼を基材として、基材表面にDLC膜を被覆したもので、厚さが「775μm」のものを用いた。
【0057】
また、研磨終了時点を推定するための装置検出値には、上述した実施形態と同様、「上定盤負荷電流値」を用いて、1秒毎に60秒間の標準偏差を算出し、算出した標準偏差が「0.3(閾値)」以下となった時点を研磨終了時点と推定した。
また、研磨装置1は、上定盤2と下定盤3との間で5枚のウエハW(キャリア6aが1枚に対して1枚のウエハW)を同時研磨するタイプのものを用いた。また、研磨布4、5は、硬質ポリウレタン製のものを用いた。また、研磨剤は、コロイダルシリカ水溶液を使用し、供給量管理、供給温度管理、pH管理を行った。また、加工圧は、「150g/cm2」とした。尚、研磨時間は、20サイクルの結果で平均値:24.9分、最大値:25.8分、最小値:24.0分、標準偏差が0.42分であった。
【0058】
そして、上述した条件により研磨された100枚のウエハWの「中心厚さ」と、「GBIR(GlobalBackside Ideal-reference-plane Range)」のそれぞれについて、「平均値」、「標準偏差」、「最大値」、「最小値」を計測すると、以下の表1に示す結果が得られた。
【表1】

【0059】
〔比較例〕
本比較例では、研磨時間を一定とした両面研磨により、上述した実施例と同様、φ300mmのシリコンウエハWの両面研磨を以下の条件により20サイクル行った。
具体的には、上述した実施例と同様、仕上がりウエハW厚さ目標値を「776μm」とした。また、キャリア6aは、ステンレス鋼を基材として、基材表面にDLC膜を被覆したもので、厚さが「775μm」のものを用いた。
【0060】
また、研磨装置は、上記実施例と同様、上定盤2と下定盤3との間で5枚のウエハW(キャリア6aが1枚に対して1枚のウエハW)を同時研磨するタイプのものを用いた。
また、研磨布4、5は、上記実施例と同様、硬質ポリウレタン製のものを用いた。また、研磨剤は、上記実施例と同様、コロイダルシリカ水溶液を使用し、供給量管理、供給温度管理、pH管理を行った。また、加工圧は、「150g/cm2」とした。
また、研磨時間は、「25分間」とした。
【0061】
そして、上述した条件により研磨された100枚のウエハWの「中心厚さ」と、「GBIR(GlobalBackside Ideal-reference-plane Range)」のそれぞれについて、「平均値」、「標準偏差」、「最大値」、「最小値」を計測し、以下に示す表2の結果が得られた。
【表2】

【0062】
上記の実施例及び比較例により、本発明に係る研磨方法によれば、研磨時間を一定にして両面研磨する方法に比べて、仕上がりウエハ厚及び平坦度のバラツキが低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
W 半導体ウエハ(ウエハ)
1 研磨装置
2 上定盤
2a 回転軸
3 下定盤
3a 回転軸
4 研磨布
5 研磨布
6a キャリアプレート(キャリア)
6c インターナルギア
7 昇降駆動部
8a 上部回転駆動部
8b 下部回転駆動部
10 研磨液供給管
11 研磨液供給部
12 定盤負荷電流検知部
20 制御部
21 駆動制御部
22 定盤負荷電流取得部
23 研磨進行状況推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下の回転定盤によりキャリアに保持された半導体ウエハを挟持し、該上下の回転定盤を回転動作させることにより、該半導体ウエハの両面を同時研磨する研磨装置を用いた半導体ウエハの研磨方法であって、
前記半導体ウエハの両面を同時研磨している際の前記研磨装置の定盤負荷電流値をモニタするステップと、
前記モニタした定盤負荷電流値を用いて一定時間内における定盤負荷電流値の標準偏差を基準時間毎に算出し、該算出した標準偏差の変化から前記研磨の進行度を推定するステップとを有することを特徴とする半導体ウエハの研磨方法。
【請求項2】
前記標準偏差が所定の値に達すると、研磨の終了時点であると推定することを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハの研磨方法。
【請求項3】
前記標準偏差の時間当たりの変化パターンが所定関係を満足したときに、研磨の終了時点であると推定することを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハの研磨方法。
【請求項4】
上下の回転定盤によりキャリアに保持された半導体ウエハを挟持し、該上下の回転定盤を回転動作させることにより、該半導体ウエハの両面を同時研磨する半導体ウエハ研磨装置であって、
前記半導体ウエハの両面を同時研磨している際の定盤負荷電流値をモニタする検知部と、
前記モニタした定盤負荷電流値を用いて一定時間内における定盤負荷電流値の標準偏差を基準時間毎に算出し、該算出した標準偏差の変化から前記研磨の進行度を推定する研磨進行状況推定部とを有することを特徴とする半導体ウエハ研磨装置。
【請求項5】
前記キャリアは、前記半導体ウエハより摩擦係数が小さい材質により形成されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体ウエハ研磨装置。
【請求項6】
前記キャリアは、基材の表面に前記半導体ウエハよりも摩擦係数が小さい材料で被覆を施して形成されたものであることを特徴とする請求項4に記載の半導体ウエハ研磨装置。
【請求項7】
前記キャリアは、その厚さ寸法が前記半導体ウエハの仕上がり目標厚と同一寸法、若しくは該目標厚の中心値から±6μmの範囲内の厚さ寸法になされていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の半導体ウエハ研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−69897(P2012−69897A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236107(P2010−236107)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】