説明

半導体モジュール及びその製造方法

【課題】単純な構成で高い放熱特性をもった半導体モジュールを得る。
【解決手段】絶縁基板11の裏面全面には、放熱板17が接合されている。ここで、放熱板17は、第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172が積層された構造がDLC膜173でコーティングされた構造である。第1の黒鉛層171、第2の黒鉛層172は、共にグラファイトで構成される。第1の黒鉛層171において六角形環が広がる方向を水平方向とし、第2の黒鉛層172において六角形環が広がる方向を垂直方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体チップをヂードフレーム上に搭載する半導体モジュールの構造に関する。また、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大電流の動作を行うパワー半導体素子として、シリコンで構成されたダイオードやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等が用いられている。これらの素子が形成された半導体チップが用いられた半導体モジュールにおいては、半導体チップからの放熱が効率的に行われるような構成とされる。
【0003】
こうした半導体モジュールの断面構造を図7に模式的に示す。この半導体モジュール90においては、絶縁基板91の表面(図中上側の面)に、銅等で構成された回路パターン92が形成されている。回路パターン92は、絶縁基板91上の配線の一部をなすため、そのパターンは適宜設定される。回路パターン92のうちの一部の上に、はんだ層93を介して半導体チップ94が搭載される。半導体チップ94と回路パターン92との間の電気的接続は、半導体チップ94の下側のはんだ層93や、ボンディングワイヤ95により行われ、電気回路が構成される。この半導体モジュール90の入出力は、回路パターン92の一部とはんだ層93を介して接続されたリード96によって取り出される。絶縁基板91の裏面(図中下側の面)全面には、放熱板97が、プリプレグ等の接着層98を介して接合されている。なお、表面において、回路パターン92間、半導体チップ94間等には、これらの間の絶縁性の確保のために絶縁層99が形成されている。絶縁層99を構成する材料は任意であるが、最も簡易に得られる材料として、フォトレジスト等を用いることができる。
【0004】
これらの構造は樹脂等で構成されたモールド層100中に封止され、その側面からリード96が突出し、これによって外部からこの半導体モジュール90への電気的接続を行うことができる。
【0005】
また、図7における放熱板97の裏面がモールド層100の裏面に露出している。実際にこの半導体モジュール90が使用される際には、この面が金属板等と接触する形態となる。これにより、半導体チップ94が発した熱は、回路パターン92、絶縁基板91、放熱板97等を介して放熱される。
【0006】
この構造においては、放熱板97の熱伝導率が高いことが要求され、これを構成する材料としては、一般に銅や銅合金等が用いられている。また、例えば特許文献1には、更に高い熱伝導率をもつ材料としてグラファイト(黒鉛)を用いた構成が記載されている。グラファイトは銅等と比べて高い熱伝導率をもつため、これを用いて高い放熱特性をもつ半導体モジュールを得ることができた。これにより、高性能のパワー半導体モジュールを得ることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−181550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1にも記載されるように、グラファイトは極めて高い熱伝導率をもつが、銅等と異なり、その熱伝導率には異方性がある。特許文献1に記載の技術においては、その熱伝導率が高いのは放熱板の面内方向である。この方向におけるグラファイトの熱伝導率は1000〜2000W/m/K程度であり、この値は、銅、アルミニウム等の熱伝導率(高々300〜400W/m/K程度)と比べて、極めて高い。一方、放熱板の膜厚方向においては1〜5W/m/K程度であり、この値は銅等よりも低い。
【0009】
このため、図7の構造の放熱板97としてグラファイトを用いた場合には、横方向(絶縁基板91の主面と平行な方向)の熱伝導は良好となるものの、縦方向(絶縁基板91の主面と垂直な方向)の熱伝導は良好とはならない。ところが、前記の通り、熱は、最終的には半導体モジュール90から外部へ縦方向(絶縁基板91の主面と垂直方向)に流れる。このため、特許文献1に記載の構造においては、充分な放熱特性を得ることは困難である。特許文献1に記載の技術において、横方向から放熱されるような構成を採用すれば高い放熱特性を得ることも可能であるが、この場合には、半導体モジュールの構造やその取付方法が複雑になることは明らかである。
【0010】
すなわち、単純な構成で高い放熱特性をもった半導体モジュールを得ることは困難であった。
【0011】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体モジュールは、半導体チップが表面に搭載された基板の裏面に放熱板が接合された構成を具備する半導体モジュールであって、前記放熱板は、前記基板側に設けられ、前記基板の主面方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第1の黒鉛層と、前記基板と反対側に設けられ、前記基板の主面と垂直な方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第2の黒鉛層と、からなる積層構造を具備し、前記放熱板と前記基板とは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を介して接合されたことを特徴とする。
本発明の半導体モジュールにおいて、前記第2の黒鉛層は前記第1の黒鉛層よりも厚いことを特徴とする。
本発明の半導体モジュールにおいて、前記第1の黒鉛層中に、金属層が埋め込まれたことを特徴とする。
本発明の半導体モジュールにおいて、前記金属層は、前記第1の黒鉛層よりも薄く、前記第1の黒鉛層中における前記第2の黒鉛層側に形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体モジュールにおいて、前記金属層は、前記基板における前記半導体チップが搭載された箇所に対応する前記第1の黒鉛層中に埋め込まれていることを特徴とする。
本発明の半導体モジュールにおいて、前記金属層は、前記第1の黒鉛層中に周期的に配列され、配列方向における前記金属層の幅は前記金属層の間隔よりも短いことを特徴とする。
本発明の半導体モジュールにおいて、前記基板は絶縁基板であり、当該絶縁基板上に導電性の回路パターンが複数形成され、当該回路パターンの一部の上に前記半導体チップが搭載された構成を具備し、前記回路パターン間に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる絶縁層が形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体モジュールの製造方法は、前記半導体モジュールの製造方法であって、前記積層構造における少なくとも前記第1の黒鉛層表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を形成する放熱板側コーティング工程と、前記基板の裏面にDLC膜を形成する基板側コーティング工程と、前記第1の黒鉛層側のDLC膜及び前記基板側のDLC膜に対してプラズマ処理を施した後に、前記第1の黒鉛層側のDLC膜と前記基板側のDLC膜とを圧着して接合させ、前記基板と前記放熱板とを接合する接合工程と、を具備することを特徴とする。
本発明の半導体モジュールの製造方法は、前記放熱板側コーティング工程において、前記積層構造の全面にDLC膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されているので、単純な構成で高い放熱特性をもった半導体モジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体モジュールにおいて用いられる放熱板を構成する黒鉛層の配向性を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る半導体モジュールにおける熱伝導の様子を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態の第1の変形例となる半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の第2の変形例となる半導体モジュールにおいて用いられる放熱板の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態の第3の変形例となる半導体モジュールにおいて用いられる放熱板の構成を示す断面図である。
【図7】従来の半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態となる半導体モジュールの構造について説明する。この半導体モジュールにおいては、基板上に半導体チップが搭載され、その放熱が裏面の放熱板を介して行われる。ここで、配向性の異なる黒鉛層が2層積層された積層構造をもつ放熱板が用いられる。更に、この放熱板と基板とは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を介して接合されている。
【0016】
図1は、この半導体モジュール10の構造を示す断面図である。この半導体モジュール10においては、絶縁基板(基板)11の表面(図中上側の面)に、回路パターン12が形成されている。回路パターン12は、絶縁基板11上の配線の一部をなすため、そのパターンは適宜設定される。回路パターン12のうちの一部の上に、はんだ層13を介して半導体チップ14が搭載される。半導体チップ14と回路パターン12との間の電気的接続は、半導体チップ14の下側のはんだ層13や、ボンディングワイヤ15により行われ、電気回路が構成される。この半導体モジュール10の入出力は、回路パターン12の一部とはんだ層13を介して接続されたリード16によって取り出される。
【0017】
絶縁基板11は例えば窒化アルミニウム等で構成されたセラミック基板であり、回路パターン12は例えば銅等の導電性及び熱伝導率が高い金属で構成される。半導体チップ14には、例えばダイオードやIGBT等、大電流で動作するパワー半導体素子が形成されている。
【0018】
絶縁基板11の裏面(図中下側の面)全面には、放熱板17が接合されている。ここで、放熱板17は、第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172が積層された構造がDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜173でコーティングされた構造である。第1の黒鉛層171は、絶縁基板11側にある層であり、第2の黒鉛層172は、その反対側の層である。
【0019】
第1の黒鉛層171、第2の黒鉛層172は、共にグラファイトで構成される。周知のように、グラファイトは、六角形環(六方晶系における六角形の結晶が亀の甲上に2次元的に広がった構成)が積層された形態の結晶構造をもつ。グラファイトにおいては、この六角形環が広がる方向における熱伝導率が高く、その積層方向における熱伝導率が低くなっている。すなわち、こうした結晶構造に起因して熱伝導率の異方性が生じている。図2に模式的に示されるように、この放熱板17においては、第1の黒鉛層171において六角形環が広がる方向を水平方向(絶縁基板11の主面方向)とし、第2の黒鉛層172において六角形環が広がる方向を垂直方向(絶縁基板11の主面に対して垂直な方向)とする。この構成により、第1の黒鉛層171においては水平方向で高い熱伝導率が得られ、第2の黒鉛層172においては垂直方向で高い熱伝導率が得られる。
【0020】
第1の黒鉛層171、第2の黒鉛層172、共に六角形環が広がる方向において500W/m/K以上の高い熱伝導率をもつ。この値は、銅、アルミニウム等の熱伝導率(300〜400W/m/K程度)よりも高い。ただし、上記の方向とそれぞれ垂直な方向における熱伝導率は、銅、アルミニウム等よりも低い。
【0021】
DLC膜173を構成するダイヤモンドライクカーボンは、炭化水素等からなる非晶質の硬質膜である。また、絶縁基板11の裏面(半導体チップ14等が設けられた側と反対側の面)にも、DLC膜18が形成されている。この構成においては、DLC膜173とDLC膜18とが直接接合されることにより、放熱板17と絶縁基板11とが接合される。DLC膜173、18は、30W/m/K程度の熱伝導率をもち、グラファイトの六角形環が広がる方向におにける値と比べると低いものの、一般に接着層として使用されるプリプレグ等(1〜5W/m/K程度)と比べると高い熱伝導率をもつ。また、非晶質であるためにその熱伝導に異方性はなく、等方的である。また、その電気抵抗率は10〜1013Ω・cm程度と高く、絶縁体として使用することができる。
【0022】
また、絶縁基板11の表面上で、回路パターン12間、半導体チップ14間等には、これらの間の絶縁性の確保のために絶縁層19が形成されている。絶縁層19としても、DLCを使用することができる。
【0023】
上記の構造はモールド層100中に封止され、その側面からリード16が突出し、これによって外部からこの半導体モジュール10への電気的接続を行うことができる。図1における放熱板17の裏面がモールド層100の裏面に露出する。実際にこの半導体モジュール10が使用される際には、この面が金属板等と接触する形態となる。
【0024】
この構造の半導体チップ14において熱伝導の起こる状況を模式的に図3に示す。ここで、この半導体モジュール10は金属ブロック110上に搭載されているものとし、モールド層100の記載は省略されている。半導体チップ14で発生した熱は、その下のはんだ層13を介して回路パターン12に伝わり、絶縁基板11に伝わる。この際、絶縁基板11においては、半導体チップ14の直下に伝わる熱量が大きい。この熱はDLC膜18を介して直下の放熱板17に伝わる。なお、モールド層100を構成する樹脂材料の熱伝導率は金属等と比べて無視できる程度に低いため、モールド層100を介した熱伝導は無視できる程度である。
【0025】
放熱板17においては、まず第1の黒鉛層171においては、水平方向の熱伝導率が高いために、この熱が水平方向に伝わる。これにより、半導体チップ14の直下の箇所で集中的に発生した熱が水平方向に分散する。その後、この熱は第2の黒鉛層172に伝わる。第2の黒鉛層172においては、垂直方向の熱伝導率が高いために、この熱は下側に伝わり、DLC膜173を介して最終的に金属ブロック110に伝わる。このように、この半導体モジュール10においては、半導体チップ14が発した熱が絶縁基板11に伝わり、この熱が第1の黒鉛層171において水平方向に広がり、その後に第2の黒鉛層172において垂直方向に伝わる。これにより、絶縁基板11や放熱板17等における特定の箇所の温度を上昇させることなく、効率的に放熱をすることができる。
【0026】
この際、この半導体モジュール10が設置される際には、最終的には放熱板17からその下側に向かって熱が伝わることによって放熱がなされる。このため、図1、3の構成においては、放熱板17の下側において垂直方向での熱伝導の効率を高くすることが好ましい。このため、逆に上側においては水平方向での熱伝導の効率を高くすることが好ましい。ここで、前記の通り黒鉛は特定の方向においてのみ極めて高い熱伝導率をもつため、第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172における配向を図2の通りとすることが好ましい。
【0027】
この際、最終的に重要となるのは垂直方向の熱伝導である。このため、第1の黒鉛層171よりも、第2の黒鉛層172を厚くすることが好ましい。第1の黒鉛層171の厚さは、例えば50μm〜1mm程度とすることができる。
【0028】
また、絶縁基板11の表面側にある絶縁層19の材料としてDLCを用いた場合には、他の絶縁材料(フォトレジスト等)を用いた場合よりも高い熱伝導率が得られ、モールド層100を構成する材料よりも高い熱伝導率が得られる。このため、絶縁層19の材料としてDLCを用いた場合、絶縁基板11上における水平方向での熱伝導の効率が向上する。この効果は放熱板17によらずに生じるが、前記の通り、放熱板17の下部において垂直方向の熱伝導効率を高く、上部において水平方向の熱伝導効率を高くするという観点から、上記の構成の放熱板17を用いた場合には、絶縁層19の材料としてDLCを用いることが特に好ましい。
【0029】
上記の半導体モジュール10の製造方法について説明する。
【0030】
絶縁基板11上に回路パターン12を形成し、回路パターン12の上にはんだ層13を用いて半導体チップ14、リード16を搭載する工程については、従来より周知の半導体モジュールと同様である。このため、これらについての詳細は省略する。
【0031】
放熱板17の製造方法について説明する。この放熱板17においては、図2に示されたように第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172とが積層されて構成される。異なる配向性をもつ第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172は、板状の状態で別途製造される。これは、黒鉛板を製造する周知の製造方法により行われる。これらを積層して熱処理を行うことにより、炭素同士の直接接合により、第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172とが貼り合わされた積層構造が得られる。
【0032】
次に、この積層構造の全面にDLC膜173を成膜する(放熱板側コーティング工程)。これは、周知のDLCコーティング法により行われる。例えば、メタン(CH)、C(ベンゼン)、H等を反応ガスとして用いたプラズマCVD法を用いることができる。この場合の成膜温度は35℃〜200℃とすることができ、低温で成膜が可能である。これによって、図2の構造の放熱板17が得られる。
【0033】
なお、一般に得られる黒鉛板の表面には凹凸が多いが、DLC膜173を形成することにより、その表面が平滑化される。このため、これによって放熱板17と絶縁基板11側との間の密着性や熱伝導を向上させることができる。また、黒鉛板は脆く、粉末として脱落しやすいことが一般に知られているが、表面にDLC膜173を形成することにより、表面を保護し、脱落を抑制することもできる。
【0034】
絶縁基板11の裏面側のDLC膜18も、上記と同様に成膜する(基板側コーティング工程)。更に、表側における絶縁層19としてもDLCを用いることができるが、これについても同様である。前記の通りDLCの成膜温度は低いため、半導体チップ14等が絶縁基板11上に搭載された後でこの成膜を行うことが可能である。DLC膜173、18はそれぞれ前記の積層構造、絶縁基板11の裏面の全面にわたり形成されているのに対し、絶縁層19はパターニングされている。このパターニングは、例えばリソグラフィ工程とウェットエッチング工程を行うことにより行うことができる。
【0035】
絶縁基板11側と放熱板17とを接合する工程(接合工程)について説明する。これらの接合は、DLC膜18とDLC膜173の接合によって行われる。このためには、まず、DLC膜18及びDLC膜173の表面に対して、大気中もしくは減圧雰囲気中でプラズマ処理を施す、すなわち、高電圧によって気体をプラズマ化させた雰囲気中にこれらの表面が曝される状態とする。これにより、DLC表面の炭素結合が活性化される。炭素結合が活性化された状態でDLC膜18とDLC膜173を圧着すれば、これらの直接接合が行われる。この接合は低温(室温)で行うことが可能である。
【0036】
なお、接合工程において接合されるのは、放熱板17の上面におけるDLC膜173とDLC膜18である。このため、DLC膜173を、積層構造の全面ではなく、積層構造における第1の黒鉛層171の表面のみに形成してもよい。すなわち、DLC膜173は、最低限第1の黒鉛層171の表面に形成されていればよい。
【0037】
その後、従来の半導体モジュールと同様にボンディングワイヤ15を接続し、モールド層100を形成すれば、半導体モジュール10が得られる。
【0038】
このように、この半導体モジュール10においては、接着層等を別途用いることなく、放熱板17と絶縁基板11側とが接合される。図7に記載の従来の半導体モジュール90においては、これらは接着層を用いて接合されていた。有機材料等で構成された接着層は絶縁基板を構成するセラミックや放熱板よりも一般に熱伝導率が低いため、放熱特性を劣化させる原因となる。これに対して、上記の構成においては、こうした熱伝導率の低い接着層を用いることなしに、熱伝導率の高いDLCのみを用いて接合を行うことができるため、高い放熱効率を得ることが可能である。
【0039】
また、放熱板17の構成は図2に示されたように単純であり、その製造も、前記の通り、容易である。特に、絶縁基板11よりも上側の構成は従来の半導体モジュールと同様であり、放熱板の構成とその接合方法のみが異なる。すなわち、単純な構造で高い放熱特性をもった半導体モジュール10を得ることができる。
【0040】
次に、上記の半導体モジュール10の変形例について説明する。上記の放熱板17の代わりに、以下に説明する構成の放熱板を使用することも可能である。これらの場合の放熱板には、第1の黒鉛層中に局所的に金属層が埋め込まれている。
【0041】
図4は、半導体モジュール10の場合とは異なる放熱板27が用いられた、第1の変形例となる半導体モジュール20の構成を示す断面図である。絶縁基板11、回路パターン12、はんだ層13、半導体チップ14、ボンディングワイヤ15、リード16、絶縁層19については前記と同様であるため説明を省略する。また、図におけるモールド層100の記載は省略している。
【0042】
ここで用いられる放熱板27においても、前記と同様の構成の第1の黒鉛層271と第2の黒鉛層272の積層構造が用いられており、これがDLC膜273でコーティングされている点でも前記の放熱板17と同様である。ただし、ここでは、第1の黒鉛層271における第2の黒鉛層272側に、第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275が埋め込まれて形成されている。第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275は、共に銅(Cu)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)等、あるいはこれらを含む合金で構成される。これらの金属層を構成する材料の熱伝導率は等方的であり、その値は、第1の黒鉛層271における水平方向の熱伝導率よりも低いが、その垂直方向の熱伝導率よりも高い。
【0043】
ここで、図示されるように、第1の黒鉛層271の厚さをA、第1の埋め込み金属層274の厚さをB、第2の埋め込み金属層275の厚さをCとする。また、第1の埋め込み金属層274は、半導体チップ14を搭載する回路パターン12の直下に形成され、その大きさ、形状はこの回路パターン12に対応している。また、第2の埋め込み金属層275は、第1の埋め込み金属層274の周囲に、配列されて設けられている。第2の埋め込み金属層275の幅をD、その間隔をEとする。
【0044】
前記の通り、第1の黒鉛層271においては、水平方向における熱伝導率が特に高く設定されており、垂直方向における熱伝導率は低くなっている。第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275は、垂直方向における熱伝導率と水平方向における熱伝導率を調整するために用いられる。これらの金属層が設けられた箇所においては、その垂直方向における熱伝導率は第1の黒鉛層271よりも高いため、垂直方向の熱伝導特性が向上する。前記の放熱板17においては、第1の黒鉛層171と第2の黒鉛層172の膜厚構成だけで放熱板17中の熱伝導の状態がほぼ決定されるのに対し、この放熱板27においては、第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275を適宜設けることによって、放熱板27中の上部における熱伝導特性を適宜制御することができる。
【0045】
図4の構成においては、最も熱の流入が大きな回路パターン12の直下に第1の埋め込み金属層274を設けることにより、第1の黒鉛層271によってこの熱を水平方向に拡散させると同時に、第2の黒鉛層272への放熱も効率的に行っている。この際、第1の黒鉛層271の本来の機能である水平方向への放熱を阻害しないためには、第1の埋め込み金属層274の厚さBは、第1の黒鉛層271の厚さAよりも小さくすることが好ましい。
【0046】
第2の埋め込み金属層275も同様の目的で設けられるが、これが設けられた箇所(第1の埋め込み金属層274の周囲)においては、第1の埋め込み金属層274が設けられた箇所よりは熱の流入が少ないため、垂直方向の熱伝導よりも、水平方向の熱伝導を優先することが好ましい。このため、第2の埋め込み金属層275の厚さCは、第1の埋め込み金属層274の厚さBよりも小さくすることが好ましい。すなわち、A>B>Cとすることが好ましい。ただし、第1の黒鉛層271における水平方向の熱伝導を有効に生じさせるためには、第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275共に、第2の黒鉛層272との界面側に設けることが好ましい。
【0047】
また、第1の埋め込み金属層274が、半導体チップ14を搭載する回路パターン12に対応する大きさ、形状であったのに対し、第2の埋め込み金属層275は、その大きさを小さくし、これを間隔を空けて配列させた構成とすることが、水平方向の熱伝導効率を確保する上では好ましい。このため、第2の埋め込み金属層275の幅Dは、その間隔Eよりも小さくすることが好ましい。なお、図4は断面を示しているが、第2の埋め込み金属層275の平面形状は、各々が図4の紙面に垂直な方向に平行に延びるストライプ状、これらが交差するメッシュ状、あるいは個々の第2の埋め込み金属層275がドット状とされて2次元的に配列された構成、等とすることができる。これらの構成は適宜設定することができる。
【0048】
この放熱板27を製造するに際しては、まず、第1の黒鉛層271中に、第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275に対応する溝を形成し、この溝の中に金属を埋め込んで第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275を形成する。その後、第2の黒鉛層272をこれに接合する工程については前記の放熱板17の場合と同様である。ただし、この場合の熱処理温度は、金属の融点以下(例えば500〜1000℃)とする。DLC膜273を形成する以降の工程は、前記の放熱板17の場合と同様である。
【0049】
第2の変形例に用いられる放熱板として、放熱板27の構成をより単純化した構成をもつ放熱板37の断面図を図5に示す。この構造においては、図4における2種類の金属層(第1の埋め込み金属層274、第2の埋め込み金属層275)を同一仕様の埋め込み金属層371とし、これを等間隔に配置している。埋め込み金属層371は、第1の黒鉛層271の膜厚方向全面にわたり形成されている。埋め込み金属層371の平面形状は、前記と同様に、ストライプ状、メッシュ状、ドット状とすることができる。この場合、埋め込み金属層371において垂直方向の熱伝導効率が高く、埋め込み金属層371の間の第1の黒鉛層271において水平方向の熱伝導効率が高くなる。このため、水平方向の熱伝導効率は前記の放熱板17、27と比べると劣るものの、放熱板37の上部の全面にわたり、水平方向と垂直方向の熱伝導効率を共に高く保つことができる。また、埋め込み金属層371が規則性をもって配列されるため、前記の放熱板27よりもこれを容易に製造することができる。また、この構成の放熱板37は、絶縁基板11上の回路パターン12の構成や半導体チップ14の配置によらずに設計され、汎用品とすることができるので、これをより安価に製造することができる。
【0050】
なお、放熱板37の上部における水平方向の熱伝導効率を高めるという目的より、前記の放熱板27と同様に、埋め込み金属層371の幅Fは、その間隔Gよりも小さくすることが好ましい。
【0051】
なお、この場合においても、最終的には熱は垂直方向(下側)に伝わるため、垂直方向で特に高い熱伝導効率をもつ第2の黒鉛層272が同様に用いられる。
【0052】
第3の変形例に用いられる放熱板である放熱板47の断面図を図6に示す。この場合には、埋め込み金属層371を第1の黒鉛層271よりも薄く(I<H)している。すなわち、埋め込み金属層371の厚さIを調整することによって、垂直方向の熱伝導効率と水平方向の熱伝導効率を調整している。ただし、この場合においても、放熱板47の上部における水平方向の熱伝導効率を高めるという目的より、前記の放熱板27と同様に、埋め込み金属層371の幅Jは、その間隔Kよりも小さくすることが好ましい。
【0053】
このように、水平方向に六角形環が広がるように配向された第1の黒鉛層と、垂直方向に六角形環が広がるように配向された第2の黒鉛層を使用する限りにおいて、その内部の構成は適宜設定することができる。特に、第1の黒鉛層中における垂直方向の熱伝導効率を向上させるために、この内部に適宜金属層を配置することができる。この構成は、搭載する半導体チップ14の構成や発熱量、回路パターン12の構成、半導体モジュールの形状、サイズ等に応じて適宜設定することができる。
【0054】
なお、上記の例では、第1の黒鉛層が水平方向に六角形環が広がるように配向され、第2の黒鉛層が垂直方向に六角形環が広がるように配向されているものとしたが、上記の効果を奏する限りにおいて、これらの配向方向がそれぞれ厳密にこれらの方向となっている必要はない。
【0055】
また、上記においては、絶縁基板上に回路パターンが形成され、この上に半導体チップが搭載された構成において、絶縁基板の裏側に放熱板を接合させた形態の半導体モジュールについて記載した。しかしながら、上記の放熱板を用いた構成は、任意の基板上に半導体チップを搭載し、この基板の裏面側に放熱板を接合させた構成を具備する半導体モジュールであれば有効であることは明らかである。
【符号の説明】
【0056】
10、20、90 半導体モジュール
11、91 絶縁基板(基板)
12、92 回路パターン
13、93 はんだ層
14、94 半導体チップ
15、95 ボンディングワイヤ
16、96 リード
17、27、37、47、97 放熱板
18、173、273 DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層
19、99 絶縁層
98 接着層
100 モールド層
110 金属ブロック
171、271 第1の黒鉛層
172、272 第2の黒鉛層
274 第1の埋め込み金属層
275 第2の埋め込み金属層
371 埋め込み金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップが表面に搭載された基板の裏面に放熱板が接合された構成を具備する半導体モジュールであって、
前記放熱板は、
前記基板側に設けられ、前記基板の主面方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第1の黒鉛層と、
前記基板と反対側に設けられ、前記基板の主面と垂直な方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第2の黒鉛層と、
からなる積層構造を具備し、
前記放熱板と前記基板とは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を介して接合されたことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記第2の黒鉛層は前記第1の黒鉛層よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記第1の黒鉛層中に、金属層が埋め込まれたことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記金属層は、前記第1の黒鉛層よりも薄く、前記第1の黒鉛層中における前記第2の黒鉛層側に形成されたことを特徴とする請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記金属層は、前記基板における前記半導体チップが搭載された箇所に対応する前記第1の黒鉛層中に埋め込まれていることを特徴とする請求項3又は4に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記金属層は、前記第1の黒鉛層中に周期的に配列され、配列方向における前記金属層の幅は前記金属層の間隔よりも短いことを特徴とする請求項3又は4に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記基板は絶縁基板であり、当該絶縁基板上に導電性の回路パターンが複数形成され、当該回路パターンの一部の上に前記半導体チップが搭載された構成を具備し、
前記回路パターン間に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる絶縁層が形成されたことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法であって、
前記積層構造における少なくとも前記第1の黒鉛層表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を形成する放熱板側コーティング工程と、
前記基板の裏面にDLC膜を形成する基板側コーティング工程と、
前記第1の黒鉛層側のDLC膜及び前記基板側のDLC膜に対してプラズマ処理を施した後に、前記第1の黒鉛層側のDLC膜と前記基板側のDLC膜とを圧着して接合させ、前記基板と前記放熱板とを接合する接合工程と、
を具備することを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記放熱板側コーティング工程において、前記積層構造の全面にDLC膜を形成することを特徴とする請求項8に記載の半導体モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−69670(P2012−69670A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212371(P2010−212371)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】