説明

半導体レーザおよび半導体レーザを作製する方法

【課題】ホールの注入を妨げる障壁の形成を回避可能であり量子細線の埋め込みを制御可能な構造を有する半導体レーザ及びこの半導体レーザを作製する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体レーザは、n型半導体からなる第1クラッド層13上に設けられた第1光閉じ込め層15と、周期的に配列された複数の量子細線17と、各量子細線17の側面及び第1光閉じ込め層15上に設けられた第1の部分と各量子細線の上面上に設けられた第2の部分とを有し、量子細線を埋め込む埋め込み半導体領域19と、p型GaInAsP半導体からなり埋め込み半導体領域19上に設けられた第2光閉じ込め層21とを備える。故に、埋め込み半導体領域19は量子細線17の上面上にも形成される。一方、埋め込み半導体領域19はAlInAs半導体からなるので、ホールの注入を妨げる障壁とはならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ及び半導体レーザの作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、多層量子細線レーザの作製方法が記載されている。この多層量子細線レーザは、以下のように作製される。電子ビーム露光法によりレジストパターンを描画してレジストマスクを形成し、このレジストマスクを用いて絶縁膜マスクをエッチングにより形成する。この絶縁膜マスクを用いたCH/H反応性イオンエッチングにより量子細線を形成する。有機金属気相成長法により、InP半導体を量子細線の側面上に埋め込み再成長して、多層量子細線構造を作製する。また、光閉じ込め層にはGaInAsP半導体が用いられる。
【0003】
非特許文献2には、DFBレーザが記載されている。このDFBレーザは、GaInAsP半導体を含む細線状活性層を有している。有機金属気相再成長法により、該細線状活性層の側面上にInP半導体が形成されて細線が埋め込まれている。また、細線状活性層上にGaInAsP半導体からなる光閉じ込め層が設けられている。
【非特許文献1】H. Yagi et al.: JJAP, 43 (2004) pp.3401-3409
【非特許文献2】N. Nunoya et al.: JSTQE, (2001) pp249
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び非特許文献2にそれぞれ記載される多重量子細線レーザ及びDFBレーザは共に、量子細線(あるいは細線)間に設けられInP半導体からなる埋め込み領域を有している。また、これらのレーザは、GaInAsPからなる光閉じ込め層を量子細線(あるいは細線)上に有している。
【0005】
このような構造をn型半導体基板上に設けた半導体レーザでは、GaInAsP半導体からなる光閉じ込め層に対するInP半導体の価電子帯側バンドオフセットは大きい。このため、量子細線を埋め込む際に量子細線の上面上にInP半導体が堆積されて作製された半導体レーザにおいては、このInP半導体がホールの移動に対する障壁となるので、活性領域に対するホールの注入が妨げられる。従って、良好な特性の半導体レーザを得るためには、量子細線の上面上にInP半導体を堆積させないように量子細線の埋め込みを精密に制御しなければならない。しかしながら、この制御は容易ではない。上記非特許文献1及び2に記載される半導体レーザでは、InP半導体がホールの移動に対する障壁とならぬよう、p型半導体基板が用いられている。p型半導体基板上に作製された半導体レーザにおいては、光閉じ込め層とInP半導体との価電子帯側バンドオフセットは、活性領域に対するホール注入の妨げとはならない。
【0006】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、ホールの注入を妨げる障壁の形成を回避可能であり量子細線の埋め込みを制御可能な構造を有する半導体レーザを提供することを目的とし、また、この半導体レーザを作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る半導体レーザは、n型クラッド領域上に設けられた第1光閉じ込め層と、第1光閉じ込め層上に設けられ、周期的に配列された複数の量子細線と、各量子細線の側面及び第1光閉じ込め層上に設けられた第1の部分と各量子細線の上面上に設けられた第2の部分とを有し、量子細線を埋め込む埋込半導体領域と、埋込半導体領域上に設けられた第2光閉じ込め層とを備え、埋込半導体領域は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含み、埋込半導体領域のバンドギャップは、第2光閉じ込め層のバンドギャップより大きく、かつ量子細線の内の最大のバンドギャップより大きいことを特徴とする。
【0008】
この半導体レーザによれば、量子細線と第2光閉じ込め層との間には、埋込半導体領域の第2の部分が設けられる。この埋込半導体領域は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含んでいるので、第2の部分と第2光閉じ込め層との価電子帯側バンドオフセットは小さくできる。故に、埋込半導体領域がホールの注入を妨げる障壁とはならず、良好な特性の半導体レーザが得られる。また、量子細線の側面は、埋込半導体領域が有する第1の部分により埋め込まれている。この第1の部分を有する埋込半導体領域は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含んでいる。従って、量子細線の側面方向へのキャリヤの閉じ込めが可能となる。
【0009】
本発明に係る半導体レーザは、埋込半導体領域がAlInAs半導体からなることを特徴とする。この半導体レーザによれば、量子細線上の埋込半導体領域の第2の部分は、第1の部分と同じ材料のAlInAs半導体からなるので、第2の部分は量子細線からの電子に対してポテンシャル障壁となる。従って、キャリアオーバフローを抑制できるので、良好な温度特性を有する半導体レーザが得られる。
【0010】
本発明に係る半導体レーザは、第2の部分の厚みが20ナノメートル以上50ナノメートル以下であることを特徴とする。この半導体レーザによれば、第2の部分の厚みが20ナノメートル以上であるので、第2の部分は電子ブロック層として機能できる。また、第2の部分の厚みが50ナノメートルより厚い場合には、素子抵抗が高くなる。
【0011】
本発明に係る半導体レーザは、n型基板をさらに備え、埋込半導体領域はアンドープであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る半導体レーザを作製する方法は、第1光閉じ込め層をn型クラッド層上に成長する工程と、多重量子井戸層を前記光閉じ込め層上に成長する工程と、複数の量子細線のための周期的なパターンを有するマスクを用いて多重量子井戸層をエッチングし、周期的に配列された複数の量子細線を形成する工程と、マスクを除去する工程と、量子細線を埋め込むために、各量子細線の側面及び上面上並びに第1光閉じ込め層上に埋込半導体層を一体に成長する工程と、第2光閉じ込め層を埋込半導体層上に成長する工程と、埋込半導体層は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含み、埋込半導体層のバンドギャップは、第2光閉じ込め層を構成する半導体のバンドギャップより大きく、かつ量子細線の最大のバンドギャップより大きいことを特徴とする。
【0013】
この半導体レーザを作製する方法においては、量子細線の側面及び上面上並びに第1光閉じ込め層上に埋込半導体層を一体に成長して、量子細線を埋め込む。これ故に、埋込半導体層が量子細線の上面上にも形成される。一方、この埋込半導体層は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含んでいるので、埋込半導体層は、量子細線に向かって移動するホールへの実質的な障壁とはならない。従って、各量子細線の側面及び第1光閉じ込め層上に成長される埋込半導体層の厚さを量子細線の上面の高さに揃えるように厳格に制御して埋込半導体層を成長する必要はない。よって、埋込半導体層は、各量子細線の側面及び第1光閉じ込め層上だけではなく、各量子細線の上面上にも一体に成長することができ、上記のような精密な制御をすることなく量子細線57を埋め込むことができる。このような埋込半導体層の成長は、量子細線を埋め込む工程の制御を容易にする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ホールの注入を妨げる障壁の形成を回避可能である量子細線の埋め込みを制御可能な構造を有する半導体レーザが提供され、また、この半導体レーザを作製する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の半導体レーザ及び半導体レーザを作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る半導体レーザの構造を示す斜視図である。半導体レーザ10は、第1クラッド層13、第1光閉じ込め層15、複数の量子細線17、埋込半導体層19、第2光閉じ込め層21及び第2クラッド層25を備えている。第1クラッド層13は、半導体基板11の主面11a上に設けられている。半導体基板11及び第1クラッド層13は、n型半導体からなる。このn型半導体は、例えばn型InP半導体等であることができる。
【0017】
図2は、図1に示すA部分の断面を拡大して示す模式図である。第1光閉じ込め層15は、第1クラッド層13上に設けられている。第1光閉じ込め層15は、例えばn型GaInAsP半導体であることができる。第1光閉じ込め層15の厚さは、例えば150nmである。好ましくは、この第1光閉じ込め層15の厚さは、100nm以上であることができる。また、第1光閉じ込め層15の厚さは、170nm以下であることができる。
【0018】
第1光閉じ込め層15上には、複数の量子細線17が周期的に配列されて設けられている。量子細線17は、所定の軸Aの方向に規定される幅Wを有し、所定の軸A方向に周期Λで配置されている。量子細線17の幅Wは、DFBレーザとして低電流動作させるためには、90nm以下とすることが好ましい。また、量子細線17の横方向量子閉じ込め効果に基づく高微分利得を得るためには、量子細線17の幅Wは、30nm以下とすることが好ましい。量子細線17の幅Wは、15nm以上であることが必要である。また、量子細線17の周期Λは、レーザ発振の波長に対応したブラッグ周期である。例えば発振波長1550nmを得るためには、周期Λは240nmである。例えば発振波長1300nmを得るためには、周期Λは200nmである。また、量子細線17は、量子井戸構造を有している。この量子井戸構造は、交互に配列された障壁層17a及び井戸層17bを含むことができる。量子井戸構造の最上層は、第3光閉じ込め層17cであることができる。障壁層17aは、例えばアンドープGaInAsP半導体からなる。井戸層17bは、例えばアンドープGaInAsP半導体からなる。第3光閉じ込め層17cは、例えばアンドープGaInAsP半導体からなる。
【0019】
第1光閉じ込め層15の表面15aの第1のエリア15b上には、各量子細線17が位置している。各量子細線17の側面及び第1光閉じ込め層15上の第2のエリア15c上と各量子細線の上面上には、一体として成長された埋込半導体層19が設けられている。埋込半導体層19は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含む半導体から成り、この半導体は、アンドープであることが好ましい。この半導体は、例えばAlInAs半導体であることができる。量子細線17の側面を埋込半導体層19で埋め込まれるので、量子細線17の側面方向へのキャリアの閉じ込めが可能となる。
【0020】
埋込半導体層19上に第2光閉じ込め層21が設けられている。第2光閉じ込め層21は、例えばp型GaInAsP半導体からなる。第2光閉じ込め層21の厚さは、例えば110nmである。好ましくは、この第2光閉じ込め層21の厚さは、60nm以上であることができる。また、第2光閉じ込め層21の厚さは、130nm以下であることができる。
【0021】
図3は、図1及び図2に示した半導体レーザ10におけるバンド構造を示す図である。図3において、参照符号BG0,BG1は井戸層17b及び障壁層17aからなる部分のバンドギャップを示し、参照符号BG2は量子細線17の上面上の埋込半導体層19のバンドギャップを示し、参照符号BG3は第2光閉じ込め層21のバンドギャップを示し、参照符号BG4は量子細線17の第3光閉じ込め層17cのバンドギャップを示し、参照符号BG5は第1光閉じ込め層15のバンドギャップを示す。図3に示されるように、埋込半導体層19がAlInAs半導体からなり、第2光閉じ込め層21及び第3光閉じ込め層17cがGaInAsP半導体からなる場合、埋込半導体層19と第2光閉じ込め層21及び第3光閉じ込め層17cとの価電子帯のバンドオフセットΔEV1、ΔEV2は、約10meVであり、伝導帯のバンドオフセットΔEC1、ΔEC2は、約200meV程度ある。従って、埋込半導体層19と第2光閉じ込め層21及び第3光閉じ込め層17cとの価電子帯のバンドオフセットΔEV1、ΔEV2は、伝導帯のバンドオフセットΔEC1、ΔEC2よりも1桁以上小さいので、埋込半導体層19は、p型クラッドから量子細線17に向かって移動するホールHLの障壁とはなりにくい。また、埋込半導体層19と第2光閉じ込め層21及び第3光閉じ込め層17cとの伝導帯のバンドオフセットΔEC1、ΔEC2は価電子帯のバンドオフセットΔEV1、ΔEV2より1桁以上大きいので、埋込半導体層19は、量子細線17からの電子ELに対する電子ブロック層として機能する。従って、電子のオーバフローを低減可能となるので、良好な温度特性を有する半導体レーザが得られる。埋込半導体層19を電子ブロック層として良好に機能するように、量子細線17の上面上における埋込半導体層19の厚さHは、20nm以上とすることが好ましい。また、量子細線17の上面上における埋込半導体層19による素子抵抗の増加を小さくするために、厚さHは50nm以下であることが好ましい。
【0022】
ここで再び図1を参照する。第1クラッド層13、第1光閉じ込め層15、複数の量子細線17、埋込半導体層19及び第2光閉じ込め層21は、所定の軸Aに沿って延びる半導体メサを構成する。また、半導体メサは、ストライプ状であり埋め込み領域23によってその側面が埋め込まれている。
【0023】
埋め込み領域23は、例えば第1のp型電流狭窄層23a、n型電流狭窄層23b、及び第2のp型電流狭窄層23cによって構成される。第1のp型電流狭窄層23aは、半導体メサの側面及び第1クラッド層13の表面に設けられ、第1クラッド層13の表面及び半導体メサの側面を覆っている。n型電流狭窄層23bは、第1のp型電流狭窄層23a上に設けられている。第2のp型電流狭窄層23cは、n型電流狭窄層23bと、第2クラッド層25との間に設けられている。これらの電流狭窄層23a〜23cは、例えばn型またはp型InPからなる。この積層には、p−n−p−n構造が形成される。
【0024】
半導体メサ及び埋め込み領域23上には、第2クラッド層25が設けられている。第2クラッド層25はp型半導体からなり、例えばp型InP半導体とすることができる。第2クラッド層25上には、コンタクト層27が設けられている。コンタクト層27は、例えばp型GaInAs半導体とすることができる。コンタクト層27上には、絶縁膜29が形成されている。絶縁膜29は半導体メサの上面に対応する開口を有する。次いで、第1の電極膜31が形成される。コンタクト層27が電極膜31と該開口を介してオーミック接触を成している。半導体基板11の主面11aとは反対側の裏面11bには第2の電極膜33が設けられており、第2の電極膜33と半導体基板11とがオーミック接触を成している。
【0025】
以上に述べた半導体レーザの各層の材料、ドーパント元素、ドーパント濃度及び厚さの一例は、以下に示される。
第1クラッド層13:n型InP,Si,1×1018cm−3,厚さ 500nm
第1光閉じ込め層15:n型GaInAsP,Si,5×1017cm−3,厚さ 150nm
障壁層17a:アンドープGaInAsP,厚さ 11nm
井戸層17b:アンドープGaInAsP,厚さ 7nm
第3光閉じ込め層17c:アンドープGaInAsP,厚さ 40nm
埋込半導体層19:アンドープAlInAs
第2光閉じ込め層21:p型GaInAsP,Zn,5×1017cm−3,厚さ 110nm
第2クラッド層25:p型InP,Zn,1×1018cm−3,厚さ 2000nm
コンタクト層27:p型GaInAs,Zn,1×1019cm−3,厚さ 500nm
【0026】
以上に述べたように本実施形態においては、量子細線17の上面と第2光閉じ込め層21との間には、AlInAs埋込半導体層19が設けられる。AlInAs埋込半導体層19によれば、p型GaInAsP半導体からなる第2光閉じ込め層21との価電子帯バンドオフセットは伝導帯バンドオフセットより小さくなる。従って、この埋込半導体層19は、ホールの注入を妨げる障壁とはならない。このため、良好な特性の半導体レーザが得られる。また、量子細線17の側面は、埋込半導体層19により埋め込まれている。この埋込半導体層19は、量子細線17の側面方向へのキャリヤの閉じ込めを可能にしている。さらに、量子細線17の側面と共に量子細線17の上面上にも一体として埋込半導体層19が設けられているので、量子細線17の上面上に位置する埋込半導体層19は電子ブロック層としての機能を有する。従って、第1クラッド層13から量子細線17に向かって移動する電子オーバフローを低減できるので、良好な温度特性を有する半導体レーザが得られる。
【0027】
次に図4及び図5を参照しながら、本発明の実施の形態に係る半導体レーザを作製する方法の工程を説明する。
【0028】
図4(a)に示されるように、n型半導体からなる半導体基板41上に、n型InP半導体からなる第1クラッド層43及びn型GaInAsP半導体からなる第1光閉じ込め層45を順に成長する。この半導体基板41は、例えばInPとすることができる。第1光閉じ込め層45上に複数のアンドープGaInAsP半導体層を成長して、多重量子井戸層47を形成する。多重量子井戸層47は、障壁層47a及び井戸層47b並びに第3光閉じ込め層47cを含む。これらの成長は、例えば有機金属気相成長法により行われる。
【0029】
図4(b)に示されるように、多重量子井戸層47上に、絶縁膜59を形成する。この形成は、例えば、シラン系ガス及び酸素系ガスをプロセスガスとして用いて、プラズマCVD法で行われる。シラン系ガスの一例としては、モノシランが用いられる。酸素系ガスの一例としては、酸素ガスが用いられる。絶縁膜59は、例えばSiOといった酸化シリコンからなる。絶縁膜59の膜厚は、レジストマスク63とのエッチング選択比を確保するために、20nm程度であることが好ましい。
【0030】
次いで、絶縁膜59上にレジスト膜61を形成する。この形成は、電子ビーム露光用レジストの塗布により行なわれる。
【0031】
図4(c)に示されるように、絶縁膜59上にレジストマスク63を形成する。この形成は、レジスト膜61を電子ビーム露光法により露光して、現像することによって行なわれる。レジストマスク63は、周期的に配列された複数の細線を絶縁膜59に形成するために周期的に配列された複数の細線パターンを有する。DFBレーザ素子を作製するための細線パターンの周期Λはブラッグ周期とする。例えば発振波長1550nmとするための周期Λは240nmであり、例えば発振波長1300nmとするための周期Λは200nmである。
【0032】
図4(d)に示されるように、レジストマスク63を用いて絶縁膜59をエッチングし、絶縁体マスク65を多重量子井戸層47上に形成する。このエッチングは、例えば、CFガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。このレジストマスク63の形状が絶縁体マスク65に転写される。エッチングの後にレジストマスク63を除去して周期的に配列された複数の量子細線57を形成するための絶縁体マスク65を形成する。このレジストマスク63の除去は、例えばOアッシングにより行なわれる。
【0033】
図5(a)に示されるように、絶縁体マスク65を用いて多重量子井戸層47をエッチングし、複数の量子細線57を形成する。このエッチングの一例では、CH/Hを用いた反応性イオンエッチング(RIE)が用いられる。多重量子井戸層47をエッチングする工程において、例えば、CH/Hを用いたRIEとこのエッチング中に半導体表面に堆積する炭素重合物を除去するためのOアッシングとを繰り返し行うことが好ましい。このように繰り返すことにより、垂直性に優れた量子細線の配列が得られる。
【0034】
図5(b)に示されるように、ドライエッチングによる損傷層を除去するために、ドライエッチングが終了した後にウェットエッチングを行う。このエッチングは、例えば硫酸系の溶液を用いる。ウェットエッチングの後、絶縁体マスク65を除去する。例えば、シリコン酸化物からなるマスクはバッファードフッ酸によるエッチングで除去される。
【0035】
図5(c)に示されるように、各量子細線57の側面及び上面上並びに第1光閉じ込め層45上に埋込半導体層49を一体に成長して、量子細線57を埋め込む。これ故に、埋込半導体層49が量子細線57の上面上にも形成される。一方、この埋込半導体層49は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含んでいる。例えば、埋込半導体層49はAlInAs半導体からなる。故に、埋込半導体層49は、量子細線57に向かって移動するホールへの実質的な障壁とはならない。
従って、各量子細線57の側面及び第1光閉じ込め層45上に成長される埋込半導体層49の厚さを量子細線57の上面の高さに揃えるように厳格に制御して埋込半導体層49を成長する必要はない。よって、埋込半導体層49は、各量子細線57の側面及び第1光閉じ込め層45上だけではなく、各量子細線57の上面上にも一体に成長することができ、量子細線57を埋め込むことができる。上記のような精密な制御をすることなく、このような埋込半導体層49の成長は、量子細線57を埋め込む工程の制御を容易にする。なお、埋込半導体層49の成長速度は、500nm/h以下の低速であることが好ましい。この成長速度であれば、平坦な成長界面を得ることができる。
【0036】
図5(d)に示されるように、埋込半導体層49上にp型GaInAsP半導体からなる第2光閉じ込め層51を成長する。埋込半導体層49による大きな電子バリアにより、量子細線57からの電子が第2光閉じ込め層51に到達することはない。一方、p型クラッドからのホールは、埋込半導体層49を通過して量子細線57に到達する。
【0037】
次いで、第2光閉じ込め層51上にp型InP半導体からなる第2クラッド層55を成長する。
【0038】
この後に、第2クラッド層55上にコンタクト層67を成長する。さらに、単一横モードを得るために、ストライプ幅を1μm程度としたBH型ストライプ構造といった屈折率導波構造を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる半導体レーザ素子の構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示した半導体レーザ素子のバンド構造を示す図である。
【図4】図4(a)、図4(b)、図4(c)及び図4(d)は、半導体レーザを作製する方法における半導体レーザの作製工程を示す図である。
【図5】図5(a)、図5(b)、図5(c)及び図5(d)は、半導体レーザを作製する方法における半導体レーザの作製工程を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10…半導体レーザ、11,41…半導体基板、13,43…第1クラッド層、15,45…第1光閉じ込め層、17,57…量子細線、17a,47a…障壁層、17b,47b…井戸層、17c,47c…第3光閉じ込め層、19,49…埋込半導体層、21,51…第2光閉じ込め層、23…埋め込み領域、25,55…第2クラッド層、27,…コンタクト層、29…絶縁膜、31,33…電極膜、47…多重量子井戸層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型クラッド領域上に設けられた第1光閉じ込め層と、
前記第1光閉じ込め層上に設けられ、周期的に配列された複数の量子細線と、
各量子細線の側面及び前記第1光閉じ込め層上に設けられた第1の部分と各量子細線の上面上に設けられた第2の部分とを有し、前記量子細線を埋め込む埋込半導体領域と、
前記埋込半導体領域上に設けられた第2光閉じ込め層とを備え、
前記埋込半導体領域は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含み、
前記埋込半導体領域のバンドギャップは、前記第2光閉じ込め層のバンドギャップより大きく、かつ前記量子細線の内の最大のバンドギャップより大きいことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項2】
前記埋込半導体領域は、AlInAs半導体からなること
を特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記第2の部分の厚みは、20ナノメートル以上50ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
n型基板をさらに備え、
前記埋込半導体領域はアンドープであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項5】
半導体レーザを作製する方法であって、
第1光閉じ込め層をn型クラッド層上に成長する工程と、
多重量子井戸層を前記光閉じ込め層上に成長する工程と、
複数の量子細線のための周期的なパターンを有するマスクを用いて前記多重量子井戸層をエッチングし、周期的に配列された複数の量子細線を形成する工程と、
前記マスクを除去する工程と、
前記量子細線を埋め込むために、各量子細線の側面及び上面上並びに前記第1光閉じ込め層上に埋込半導体層を一体に成長する工程と、
第2光閉じ込め層を前記埋込半導体層上に成長する工程と、
前記埋込半導体層は、III族元素としてアルミニウム及びインジウムを含むと共にV族元素としてヒ素を含み、
前記埋込半導体層のバンドギャップは、前記第2光閉じ込め層を構成する半導体のバンドギャップより大きく、かつ前記量子細線の最大のバンドギャップより大きいことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−206181(P2009−206181A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44810(P2008−44810)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】