説明

半導体基板の製造方法

【課題】トレンチ内を結晶性の高いエピタキシャル膜で埋めることができ、特にpnコラムの形成に適する半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ドライエッチングにより半導体基板10aにトレンチT1を形成するトレンチ形成工程と、120℃以下の低温で行うケミカルドライエッチング(CDE)またはウエットエッチングによりトレンチT1の表層部をエッチングして、第1ダメージ層D1を除去する第1ダメージ層除去工程と、半導体基板10aを非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上の高温で熱処理を行い、第1ダメージ層D1の下層に存在する第2ダメージ層D2の結晶性を回復する第2ダメージ層回復工程と、トレンチT1内にエピタキシャル膜3を形成して、トレンチT1をエピタキシャル膜3で埋め込むトレンチ埋め込み工程とを有してなる半導体基板10の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板にトレンチを形成し、該トレンチ内をエピタキシャル膜で埋める、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板にトレンチを形成し、該トレンチ内を結晶性の高いエピタキシャル膜で埋める半導体基板の製造方法が、例えば、特開2002−124474号公報(特許文献1)と特開2006−19610号公報(特許文献2)に開示されている。これら2つの特許文献は、いずれも、pnコラムからなる所謂スーパージャンクション(SJ)構造部を持った半導体基板の製造を主な目的としており、高耐圧で低オン抵抗が可能な半導体装置の製造に利用される。
【0003】
特許文献1に開示されている半導体基板の製造方法では、シリコン基板にトレンチを形成し、トレンチ加工に用いたマスク酸化膜を除去した後、非酸化性または非窒化性の減圧雰囲気下にて、900〜1100℃の温度で数分〜数10分程度の熱処理を行う。この熱処理によってトレンチ加工で荒れたトレンチ内面の平滑化を行い、その後にトレンチ内をエピタキシャル膜で埋め込むことで、エピタキシャル膜が成長する際の結晶性を向上するものである。
【0004】
特許文献2に開示されている半導体基板の製造方法では、シリコン基板にトレンチを形成した後、1000℃前後のガス炉内においてHClやCl等のハロゲンを含むエッチングガスでトレンチ内を数nm〜1μm程度エッチングし、露出面を清浄表面とする。その後にエピタキシャル膜を成長させることで、トレンチ内に空洞を残すことなく、トレンチを結晶品質の高いエピタキシャル膜で埋めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−124474号公報
【特許文献2】特開2006−19610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記2つの特許文献が主な製造目的とする半導体基板のpnコラム(SJ構造部)は、例えばトレンチゲート用のトレンチに較べて一般的に高いアスペクト比のトレンチが必要であり、その分、pnコラム用のトレンチ形成時において異方性エッチングによる結晶欠陥の発生割合も大きくなる。一方、pnコラムを空乏化させて高い耐圧を確保するためには、リーク電流を誘起させないことが重要であり、トレンチゲート構造のように絶縁膜を形成しないため、pnコラム内においてリーク電流を誘起する欠陥が残留していないことが特に重要となる。しかしながら、上記アスペクト比の高いpnコラム用のトレンチにおいて、欠陥を残存させないという高度な要求を確実に満足するには、特許文献1,2に開示されている半導体基板の製造方法はいずれも不十分であり、リーク電流等の不具合を完全に排除することはできなかった。
【0007】
そこで本発明は、半導体基板に形成されるトレンチ内をエピタキシャル膜で埋める半導体基板の製造方法であって、トレンチ内を結晶性の高いエピタキシャル膜で埋めることができ、特にpnコラムの形成に適する半導体基板の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る半導体基板の製造方法は、ドライエッチングにより半導体基板にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、前記トレンチ形成工程の後、ケミカルエッチングにより前記トレンチの表層部を50nm以上エッチングして、熱処理では結晶性を回復できない第1ダメージ層を除去する第1ダメージ層除去工程と、前記第1ダメージ層除去工程の後、前記半導体基板を非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上で熱処理を行い、前記第1ダメージ層の下層に存在する第2ダメージ層の結晶性を回復する第2ダメージ層回復工程とを有してなることを特徴としている。
【0009】
上記半導体基板の製造方法は、半導体基板にトレンチを形成し、該トレンチ内をエピタキシャル膜で埋めて用いる半導体基板のための製造方法である。
【0010】
トレンチ内をエピタキシャル膜で埋めて用いる半導体基板の製造において、該エピタキシャル膜の結晶性は、結晶成長の起点となるトレンチ表面の結晶性に左右される。このため、最終的に製造される半導体基板において欠陥を残留させないために最も重要なことは、トレンチ内をエピタキシャル膜で埋め込む前に、ドライエッチングによって悪化したトレンチ周りの結晶性を十分に回復させておくことである。
【0011】
発明者らの予備的な検討によれば、ドライエッチングによるトレンチ形成直後の所謂ダメージ層は、高温で欠陥が伸展し、高温の熱処理では結晶性回復ができない高ダメージ欠陥層である表面側の第1ダメージ層、およびその下層で少なくとも1μm以上の深部に及ぶ低ダメージ欠陥層で、高温の熱処理で結晶性を回復可能な第2ダメージ層に大別できる。上記半導体基板の製造方法は、トレンチ内に形成するエピタキシャル膜の結晶性を高めるため、低温での上記第1ダメージ層除去工程と高温での上記第2ダメージ層回復工程を組合せた点に第1の特徴がある。また、第1の特徴である該組合せにおいて、トレンチ内をエピタキシャル膜で埋めたときに、リーク電流等の不具合を抑制するための境界条件を設定している点に第2の特徴がある。
【0012】
上記半導体基板の製造方法において、第1ダメージ層除去工程は、ドライエッチングによるトレンチ形成直後に存在している表面側の第1ダメージ層をエッチング除去するもので、ケミカルエッチングにより、トレンチの表層部を50nm以上エッチングする。
【0013】
尚、第1ダメージ層除去工程におけるトレンチの表層部のエッチング量は、欠陥除去のためには大きいほど好ましいが、あまり大きすぎると、エッチング時間が長くなる。このため、例えば後述するpnコラム用のトレンチの場合、トレンチ繰り返しパターンにおいて隣のトレンチとくっつかない範囲で、必要最小限のエッチング量が好ましい。
【0014】
次に、第1ダメージ層除去工程が終了した半導体基板に対して、再びダメージ(結晶欠陥)が発生する可能性のある工程を途中に入れることなく、第2ダメージ層回復工程を実施する。第2ダメージ層回復工程は、第1ダメージ層が除去されてトレンチの表層部に存在する第2ダメージ層の結晶性を回復するために、半導体基板を非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上の高温で熱処理(アニール)するものである。尚、第2ダメージ層回復工程は、第1ダメージ層除去工程と異なり、ダメージ層の除去を伴わないため、トレンチの寸法変化を無視することができる。
【0015】
以上の2工程によって、トレンチ内をエピタキシャル膜で埋め込む前にトレンチ周りの結晶性を十分に回復させた後、トレンチ内をエピタキシャル膜で埋め込めば、例えばpnコラム(SJ構造部)等を有した半導体基板を製造することができる。
【0016】
上記半導体基板の製造方法によれば、トレンチの表層部だけでなく、トレンチ内に埋め込まれるエピタキシャル膜についても、欠陥を排除して結晶性を高めることが可能である。従って、例えば上記製造方法によるpnコラムを有した半導体基板の場合には、リーク電流の発生を抑制してpnコラムを完全に空乏化することのできる、高耐圧の半導体装置の製造に供することができる。
【0017】
上記半導体基板の製造方法において、第1ダメージ層除去工程におけるトレンチの表層部のエッチング量と、第2ダメージ層回復工程の熱処理温度による第2ダメージ層の結晶性の回復状態には、相関がある。第1ダメージ層を確実に除去して第2ダメージ層の結晶性を十分に回復し、前述した電流リークによる不良率を0%とするためには、特に、前記第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量をE[nm]とし、前記第2ダメージ層回復工程における熱処理(アニール)温度をA[℃]としたとき、E≧100,A≧−0.3×E+1100であることが好ましい。
【0018】
上記半導体基板の製造方法において、前記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングは、例えば、ラジカルを主体としたエッチングとすることができる。また、前記ラジカルを主体としたエッチングとしては、例えば、120℃以下で行うケミカルドライエッチング(CDE)がある。該CDEは、新たに熱負荷や加速したイオン等によるダメージを付加することのない処理であり、該処理によって元からある欠陥が伸展したり新たな欠陥が発生したりすることなく、第1ダメージ層をエッチング除去することができる。
【0019】
また、前記CDEのエッチャントは、ハロゲン元素のラジカルであることが好ましい。特に、前記ハロゲン元素のラジカルとしては、四フッ化炭素(CF)と酸素(O)の混合ガスを放電で分解してできるフッ素(F)のラジカルが好適である。しかしながら、これに限らず、例えば塩化水素(HCl)や塩素ガス(Cl)を放電で分解してできる塩素(Cl)のラジカルであってもよい。
【0020】
CDEは、純粋な化学反応による等方的なエッチング処理であり、シリコンへのダメージが全くないエッチング方法である。また、上記フッ素(F)のラジカルによるエッチング処理は、例えば塩化水素(HCl)や塩素ガス(Cl)を用いた塩素(Cl)のラジカルによるエッチング処理と較べて、軽元素であるため、深いトレンチ内の表面を低温で均一にエッチング処理することができる。
【0021】
上記CDEを用いる場合には、前記CDEの処理温度が、60℃以上、100℃以下であることが、エッチング速度と熱負荷低減の兼ね合いで好ましい。また、前記CDEの雰囲気圧力が、0.01Torr以上、10Torr以下であることが好ましく、特に、0.1Torr以上、1Torr以下が好適である。
【0022】
上記半導体基板の製造方法において、前記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングは、例えば、等方性のウエットエッチングであってもよい。また、前記ウエットエッチングのエッチャントは、例えば請求項11に記載のように、フッ硝酸(フッ酸と硝酸の混合液)あるいは前記フッ硝酸と酢酸の混合液とすることができる。
【0023】
ウエットエッチングも、CDEと同様に、純粋な化学反応による等方的なエッチング処理であり、シリコンへのダメージが全くないエッチング方法である。また、上記フッ硝酸あるいはフッ硝酸と酢酸の混合液からなるエッチャントによるエッチング処理も、深いトレンチ内の表面を均一にエッチング処理することが可能である。
【0024】
さらに、上記半導体基板の製造方法において、前記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングは、ハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチングであってもよい。また、前記ハロゲン系ガスは、例えば、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、または塩素ガスとすることができる。
【0025】
フッ化水素ガス、塩化水素ガス、または塩素ガス等のハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチングも、純粋な化学反応による等方的なエッチング処理であり、シリコンへのダメージが全くないエッチング方法で、深いトレンチ内の表面を均一にエッチング処理することが可能である。
【0026】
上記半導体基板の製造方法において、第2ダメージ層回復工程における前記熱処理の温度は、特に、1080℃以上、1200℃以下が好適である。また、前記熱処理の時間は、3分以上で、必要最小限の時間に設定することが好ましい。
【0027】
前述した電流リークによる不良率を安定的に0%とするためには、1080℃以上の熱処理温度が好適であり、熱処理温度が1200℃より高いと、トレンチ形状の変形が大きくなり、例えばトレンチが逆テーパ(深くなるほど、径が大きくなる)になってしまう。
また、第2ダメージ層の結晶性を回復するためには、1050℃以上で3分以上熱処理することが好ましい。尚、熱処理時間の上限は、トレンチの側壁形状が変形しない時間内で、適宜設定することができる。
【0028】
また、上記半導体基板の製造方法においては、第2ダメージ層回復工程における前記熱処理の雰囲気は、水素(H)雰囲気であることが、シリコン酸化物の残渣を除去する上で好ましい。
【0029】
上記半導体基板の製造方法においては、前記トレンチ形成工程におけるマスクとして、酸化膜または窒化膜が好適あり、前記第2ダメージ層回復工程の前に、ウエットエッチングにより、前記マスクを除去しておくことが好ましい。上記マスクにより、寸法精度の高いトレンチ形成が可能であると共に、第2ダメージ層回復工程の前に該マスクを除去しておくことで、第2ダメージ層回復工程後における該マスクの剥がれやトレンチの開口部付近における結晶性の低下を防止することができる。
【0030】
また、1050℃以上の高温で熱処理を行う上記半導体基板の製造方法においては、トレンチ形状が、逆テーパになり易い。このため、前記トレンチ形成工程で形成される前記トレンチが、順テーパ形状を有してなることが好ましい。これにより、後工程で1050℃以上の高温熱処理を行っても、トレンチ形状が逆テーパになるのを防止することができる。
【0031】
以上のようにして、上記半導体基板の製造方法は、半導体基板に形成されるトレンチ内をエピタキシャル膜で埋める半導体基板の製造方法であって、トレンチ内を結晶性の高いエピタキシャル膜で埋めることができる半導体基板の製造方法となっている。
【0032】
従って、上記半導体基板の製造方法は、前記第2ダメージ層回復工程の後、前記トレンチ内にエピタキシャル膜を形成して、トレンチをエピタキシャル膜で埋め込むトレンチ埋め込み工程を有してなる半導体基板の製造方法であってよい。
【0033】
また、上記半導体基板の製造方法においては、前記第2ダメージ層回復工程と前記トレンチ埋め込み工程を、同一炉内で連続実施することが好ましい。これによれば、第2ダメージ層回復工程により結晶性が回復したトレンチに対して直ちにエピタキシャル膜が形成されるため、両工程の間で酸化や異物付着による欠陥発生を防止することができる。
【0034】
以上のようにして、上記半導体基板の製造方法は、半導体基板に形成されるトレンチ内をエピタキシャル膜で埋める半導体基板の製造方法であって、トレンチ内を結晶性の高いエピタキシャル膜で埋めることができる半導体基板の製造方法となっている。
【0035】
従って、上記半導体基板の製造方法は、特に、前記半導体基板が、第1導電型のシリコン基板であり、前記トレンチ形成工程において、前記トレンチを、基板面において所定のピッチで繰り返し配置されてなる繰り返しパターンで形成し、前記トレンチ埋め込み工程において、第2導電型のシリコンからなるエピタキシャル膜を形成する、pnコラムの形成に適した半導体基板の製造方法となっている。
【0036】
また、この場合、例えば、前記繰り返しパターンのピッチ方向におけるトレンチの幅が、0.5μm以上、15μm以下であり、前記トレンチの深さが、20μm以上、100μm以下であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の製造対象である半導体基板の一例を示した図で、(a)は、半導体基板10の模式的な断面図であり、(b)は、(a)の半導体基板10を用いて製造される半導体装置100の模式的な断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、それぞれ、半導体基板10の製造方法を示した製造工程別の断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、それぞれ、半導体基板10の製造方法を示した製造工程別の断面図である。
【図4】トレンチT1の周りを拡大して示した図で、ドライエッチングによるトレンチT1の形成直後の所謂ダメージ層Dを模式的に示した図である。
【図5】(a)は、図3(a)の第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量Eとリーク不良率の関係の一例を示した図であり、(b)は、図3(b)の第2ダメージ層回復工程における熱処理の温度とリーク不良率の関係の一例を示した図である。
【図6】第1ダメージ層除去工程における各エッチング量Eと第2ダメージ層回復工程における熱処理の各温度について、製造されたpnコラムのリーク不良率の評価結果をまとめてプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、半導体基板にトレンチを形成し、該トレンチ内をエピタキシャル膜で埋める、半導体基板の製造方法に関するもので、ドライエッチングにより半導体基板にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、前記トレンチ形成工程の後、ケミカルエッチングにより前記トレンチの表層部を50nm以上エッチングして、熱処理では結晶性を回復できない第1ダメージ層を除去する第1ダメージ層除去工程と、前記第1ダメージ層除去工程の後、前記半導体基板を非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上で熱処理を行い、前記第1ダメージ層の下層に存在する第2ダメージ層の結晶性を回復する第2ダメージ層回復工程とを有してなることを特徴としている。
【0039】
以下、本発明を実施するための形態を、図に基づいて説明する。
【0040】
図1は、本発明の製造対象である半導体基板の一例を示した図で、図1(a)は、半導体基板10の模式的な断面図であり、図1(b)は、図1(a)の半導体基板10を用いて製造される半導体装置100の模式的な断面図である。
【0041】
図1(a)に示す半導体基板10においては、図1(b)の半導体装置100においてドレインとなるn導電型(n+)のシリコン基板1上に、n導電型(n)のエピタキシャル層2が形成されている。そして、エピタキシャル層2の上部においては、p導電型領域3pとn導電型領域2nが、紙面に対して垂直なストライプ状の繰り返しパターンとなっており、pnコラムが形成されている。該pnコラムは、後で詳述するように、n導電型(n)のエピタキシャル層2にトレンチT1を形成した後、トレンチT1をp導電型(p)のエピタキシャル層3で埋め込むことによって形成される。
【0042】
以上のように、図1(a)に示す半導体基板10は、pnコラムを有してなる半導体基板となっている点に特徴がある。尚、半導体基板にpnコラムを形成する場合、p導電型領域3pとn導電型領域2nの繰り返しパターンは、ストライプ状の繰り返しパターンに限らなくてもよい。例えば、p導電型領域3pもしくはn導電型領域2nのいずれか一方が、基板面内において、他方の中に対称的にドット状に配置された繰り返しパターンであってもよい。また、ドットの形状は、特に限定されない。
【0043】
図1(b)に示す半導体装置100は、図1(a)の半導体基板10を用いて製造される半導体装置の一例で、pnコラムからなる所謂スーパージャンクション(SJ)構造部を持ったNチャネルの縦型MOSFETである。
【0044】
図1(b)の半導体装置100において、半導体基板10のpnコラム上には、チャネル形成層であるp導電型(p)のボディ領域4が、エピタキシャルに形成されている。また、ゲート酸化膜6bと埋め込み多結晶シリコン6aからなるトレンチ構造のゲート電極6が、ボディ領域4を貫通してpnコラムのn導電型領域2nに達するように形成されている。さらに、n導電型(n+)のエミッタ領域5が、トレンチ構造のゲート電極6に隣接してボディ領域4の表層部に配置され、エミッタ電極7が、エミッタ領域5とボディ領域4に接続されている。
【0045】
pnコラムを有した縦型MOSFETの半導体装置100において、トランジスタのON時には、pnコラムのn導電型領域2nが、ボディ領域4を通過したキャリアのドリフト領域となる。また、トランジスタのOFF時には、pnコラムの全体が空乏化される。
pnコラムを有した上記縦型MOSFETの構造によって、図1(b)に示す半導体装置100は、高耐圧で低オン抵抗が可能な半導体装置となっている。尚、図1(b)の半導体装置100を例えば600V耐圧とする場合には、図1(a)に示す半導体基板10のトレンチT1のサイズ、すなわち、p導電型領域3pとn導電型領域2nの幅が5μmで、深さが50μm程度である。
【0046】
尚、図1においては、図1(a)にpnコラムを有した半導体基板10に対して、図1(b)のNチャネルの縦型MOSFETを形成した半導体装置100の例を示した。しかしながらこれに限らず、図1の導電型を全て逆にしたPチャネルの縦型MOSFETであっても同様の効果を得ることができる。また、pnコラムを有した半導体基板は、上記した縦型MOSFETの製造に適用されるだけでなく、IGBT、バイポーラトランジスタ、GTOサイリスタおよびダイオード等の製造にも適用可能である。
【0047】
また、本発明は、半導体基板(ウエハ)の製造方法に係るものであり、この半導体基板(ウエハ)に形成されるデバイスの構造やそれらの製造プロセス等については上記のように任意であり、以下の説明および添付図面では省略する。
【0048】
次に、図1(a)に示す半導体基板10の製造を例にして、本発明に係る半導体基板の製造方法を説明する。以下の説明では、半導体材料としてシリコンを用い、第1導電型をn型、第2導電型をp型として説明するが、その他の半導体材料を用いる場合や、導電型を逆にする場合も、以下と同様の製造方法を適用することができる。
【0049】
図2(a)〜(c)と図3(a)〜(c)は、それぞれ、半導体基板10の製造方法を示した製造工程別の断面図である。
【0050】
図1(a)に示した半導体基板10を製造するにあたっては、最初に、図2(a)に示すように、n導電型(n+)のシリコン基板1上にn導電型(n)のエピタキシャル層2が形成されてなる半導体基板10aを準備する。
【0051】
次に、エピタキシャル層2上に、熱酸化法またはCVD(化学気相成長)法などにより、酸化膜M2を形成する。酸化膜M2は、後の図2(c)に示したトレンチ形成工程におけるマスクとなるもので、マスク材としては、酸化膜以外にも、窒化膜などの絶縁膜を用いることもできる。
【0052】
次に、図2(b)に示すように、フォトリソグラフィとエッチングにより、酸化膜M2の窓開けを行い、所定の繰り返しパターンの形状に加工する。
【0053】
次に、図2(c)に示すトレンチ形成工程において、酸化膜M2をマスクとして、ドライエッチングにより、半導体基板10aのエピタキシャル層2に所定の深さのトレンチT1を形成する。
【0054】
該ドライエッチングには、例えば、異方性を有するプラズマエッチングやRIE(反応性イオンエッチング)を用いることができる。RIEやプラズマエッチングなどのドライエッチングは、イオンビームやプラズマの指向性によってエッチング方位を決定でき、化学的性質や結晶面方位による規定を受けないので、異方性ウエットエッチングに較べてデバイス設計の自由度が高くなる。
【0055】
また、図2(c)のトレンチ形成工程におけるマスクとしては、前述したように、酸化膜または窒化膜が好適ある。該マスクにより、寸法精度の高いトレンチT1の形成が可能である。
【0056】
尚、図2と図3に示す半導体基板10の製造方法においては、後述する図3(b)の第2ダメージ層回復工程において1050℃以上の高温熱処理を行うため、トレンチ形状が逆テーパになり易い。このため、図2(c)のトレンチ形成工程では、加工条件を適宜設定して、トレンチT1が順テーパ形状を有してなるように形成することが好ましい。これにより、図3(b)の第2ダメージ層回復工程で1050℃以上の高温熱処理を行っても、トレンチ形状が逆テーパになるのを防止することができる。
【0057】
図2(c)のトレンチ形成工程において、エピタキシャル層2に形成したトレンチT1の表面及びその近くは、ドライエッチングによるトレンチ加工の処理に伴って結晶性が著しく低下し、所謂ダメージ層Dが形成されている。
【0058】
図4は、トレンチT1の周りを拡大して示した図で、発明者らの予備的な検討によって得られた、ドライエッチングによるトレンチT1の形成直後の所謂ダメージ層Dを模式的に示した図である。尚、図4では、酸化膜M2の図示を省略している。
【0059】
図4に示すように、ダメージ層Dは、トレンチT1の表面側の第1ダメージ層D1と、その下層にある第2ダメージ層D2に大別できる。第1ダメージ層D1は、高ダメージ欠陥層で、高温になると内部応力の増加により容易に欠陥の成長が起きるため、欠陥が伸展して結晶性がさらに悪化し、高温の熱処理では結晶性回復ができない層ある。第2ダメージ層D2は、微小な欠陥からなる低ダメージ欠陥層で、トレンチT1の表面から少なくとも1μm以上の深部に及ぶが、高温の熱処理で結晶性を回復可能な層である。
【0060】
図1(a)に示したトレンチT1内をエピタキシャル膜3で埋める半導体基板10の製造において、エピタキシャル膜3の結晶性は、結晶成長の起点となるトレンチT1表面の結晶性に左右される。このため、最終的に製造される半導体基板10において欠陥を残留させないために最も重要なことは、トレンチT1内をエピタキシャル膜3で埋め込む前に、ドライエッチングによって悪化したトレンチT1周りの結晶性を十分に回復させておくことである。
【0061】
そこで、再び図2の製造工程に戻って、図2(c)のトレンチ形成工程の後、図3(a)に示す第1ダメージ層除去工程において、ケミカルエッチングにより、トレンチの表層部を50nm以上エッチングする。
【0062】
上記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングは、例えば、ラジカルを主体としたエッチングとすることができる。また、前記ラジカルを主体としたエッチングとして、例えば、120℃以下で行うケミカルドライエッチング(CDE)がある。
【0063】
前記CDEのエッチャントは、ハロゲン元素のラジカルであることが好ましい。特に、前記ハロゲン元素のラジカルとしては、四フッ化炭素(CF)と酸素(O)の混合ガスを放電で分解してできるフッ素(F)のラジカルが好適である。しかしながらこれに限らず、例えば、塩化水素(HCl)や塩素ガス(Cl)を放電で分解してできる塩素(Cl)のラジカルであってもよい。
【0064】
また、上記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングは、例えば、等方性のウエットエッチングであってもよい。また、前記ウエットエッチングのエッチャントは、例えば、フッ硝酸(フッ酸と硝酸の混合液)あるいは前記フッ硝酸と酢酸の混合液とすることができる。
【0065】
さらに、上記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングは、ハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチングであってもよい。また、前記ハロゲン系ガスは、例えば、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、または塩素ガスとすることができる。
【0066】
以下では、主として、120℃以下の低温で行うケミカルドライエッチング(CDE)によりトレンチT1の表層部をエッチングして、図4に示した第1ダメージ層D1を除去する例を示す。
【0067】
図4には、図3(a)の第1ダメージ層除去工程でCDEにより行うエッチングについて、トレンチT1周りにおけるエピタキシャル層2のシリコン(Si)の除去部分を、エッチング量Eの破線で示してある。
【0068】
図3(a)の第1ダメージ層除去工程をCDEで行う場合には、前述したように、四フッ化炭素(CF)と酸素(O)の混合ガスを放電で分解してできるフッ素(F)のラジカルにより、図4に示した第1ダメージ層D1をエッチングすることが好ましい。
【0069】
CDEは、純粋な化学反応による等方的なエッチング処理であり、シリコンへのダメージが全くないエッチング方法である。また、上記フッ素(F)のラジカルによるエッチング処理は、例えば塩化水素(HCl)や塩素ガス(Cl)を用いた塩素(Cl)のラジカルによるエッチング処理と較べて、軽元素であるため、深いトレンチT1内の表面を低温で均一にエッチング処理することができる。
【0070】
上記CDEを用いる場合には、特に、CDEの処理温度が60℃以上、100℃以下であることが、エッチング速度と熱負荷低減の兼ね合いで好ましい。また、CDEの雰囲気圧力は、0.01Torr以上、10Torr以下であることが好ましく、特に、0.1Torr以上、1Torr以下が好適である。
【0071】
図3(a)の第1ダメージ層除去工程をウエットエッチングで行う場合には、フッ硝酸(フッ酸と硝酸の混合液)あるいは前記フッ硝酸と酢酸の混合液からなるエッチャントにより、図4に示した第1ダメージ層D1をエッチングすることが好ましい。
【0072】
ウエットエッチングも、CDEと同様に、純粋な化学反応による等方的なエッチング処理であり、シリコンへのダメージが全くないエッチング方法である。また、上記フッ硝酸あるいはフッ硝酸と酢酸の混合液からなるエッチャントによるエッチング処理も、深いトレンチT1内の表面を均一にエッチング処理することが可能である。
【0073】
さらに、図3(a)の第1ダメージ層除去工程をハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチングで行う場合には、前記ハロゲン系ガスとして、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、または塩素ガス等を用いることができる。フッ化水素ガス、塩化水素ガス、または塩素ガス等のハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチングも、純粋な化学反応による等方的なエッチング処理であり、シリコンへのダメージが全くないエッチング方法で、深いトレンチ内の表面を均一にエッチング処理することが可能である。
【0074】
尚、図3(a)の第1ダメージ層除去工程における図4に示したトレンチT1の表層部のエッチング量Eは、欠陥除去のためには大きいほど好ましいが、あまり大きすぎると、エッチング時間が長くなる。このため、例えばpnコラム用のトレンチの場合、トレンチ繰り返しパターンにおいて隣のトレンチとくっつかない範囲で、必要最小限のエッチング量が好ましい。
【0075】
次に、図3(a)の第1ダメージ層除去工程の後、酸化膜M2をウエットエッチングにより除去し、図3(b)に示す第2ダメージ層回復工程において、半導体基板10aを非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上の高温で熱処理を行い、図4の第1ダメージ層D1の下層に存在する第2ダメージ層D2の結晶性を回復する。上記非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下における高温での熱処理は、例えば水素(H)雰囲気中やアルゴン(Ar)雰囲気中での高温アニールであり、特に水素雰囲気であることが、シリコン酸化物の残渣を除去する上で好ましい。また、熱処理の時間は、3分以上で、必要最小限の時間に設定することが好ましい。
【0076】
上記した製造方法において、図3(a)と図4に示した第1ダメージ層除去工程におけるトレンチT1の表層部のエッチング量Eと、図3(b)と図4に示す第2ダメージ層回復工程の熱処理温度による第2ダメージ層D2の結晶性の回復状態には、後述する相関がある。第1ダメージ層D1を確実に除去して第2ダメージ層D2の結晶性を十分に回復し、前述した電流リークによる不良率を0%とするためには、特に、前記第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量をE[nm]とし、前記第2ダメージ層回復工程における熱処理温度をA[℃]としたとき、E≧100,A≧−0.3×E+1100であることが好ましい。
【0077】
図3(b)の第2ダメージ層回復工程を実施する前には、上記したように、ウエットエッチングによりマスクとして使用していた酸化膜M2を除去しておくことが好ましい。第2ダメージ層回復工程の前に該マスクを除去しておくことで、第2ダメージ層回復工程後における該マスクの剥がれやトレンチT1の開口部付近における結晶性の低下を防止することができる。また、特に水素(H)雰囲気でアニールする場合は、マスク材がエッチングされて一部がトレンチT1内に再付着する不具合も防止することができる。
【0078】
次に、図3(b)の第2ダメージ層回復工程の後、図3(c)に示すトレンチ埋め込み工程において、トレンチT1内にエピタキシャル膜3を形成して、トレンチT1をエピタキシャル膜3で埋め込む。エピタキシャル膜3の形成には、例えば、成長ガスとしてジクロロシラン(SiHCl)やトリクロロシラン(SiHCl)などのシラン系ガス、ドーピングガスとしてジボラン等を用いた、CVD法を用いる。
【0079】
尚、図3(b)の第2ダメージ層回復工程と図3(c)のトレンチ埋め込み工程は、同一炉内で連続実施することが好ましい。これによれば、図3(b)の第2ダメージ層回復工程により結晶性が回復したトレンチT1に対して直ちにエピタキシャル膜3が形成されるため、両工程の間で酸化や異物付着による欠陥発生を防止することができる。
【0080】
最後に、図3(c)の半導体基板10aをCMP(Chemical Mechanical Polishing)やエッチバック等で表面を平坦化して、p導電型領域3pとn導電型領域2nが基板面において繰り返しパターンとなる、pnコラムを形成する。
【0081】
以上で、図1(a)のpnコラムを有した半導体基板10が製造される。
【0082】
図2と図3で例示した本発明に係る半導体基板の製造方法は、トレンチT1内に形成するエピタキシャル膜3の結晶性を高めるため、図3(a)に示した低温での第1ダメージ層除去工程と図3(b)に示した高温での第2ダメージ層回復工程を組合せた点に第1の特徴がある。また、後で詳述するが、第1の特徴である上記組合せにおいて、トレンチT1内をエピタキシャル膜3で埋めたときに、リーク電流等の不具合を抑制するための境界条件を設定している点に第2の特徴がある。
【0083】
図3(a)に示した第1ダメージ層除去工程は、図2(c)のドライエッチングによるトレンチT1の形成直後に存在している図4に示した表面側の第1ダメージ層D1をエッチング除去するもので、前述したように、120℃以下の低温で行うCDEによる。該CDEやその他のラジカルを主体としたエッチングおよび等方性のウエットエッチングやハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチング等のケミカルエッチングは、新たに熱負荷や加速したイオン等によるダメージを付加することのない処理であり、該処理によって元からある欠陥が伸展したり新たな欠陥が発生したりすることなく、第1ダメージ層D1をエッチング除去することができる。
【0084】
次に、図3(a)の第1ダメージ層除去工程が終了した半導体基板10aに対して、再びダメージ(結晶欠陥)が発生する可能性のある工程を途中に入れることなく、図3(b)の第2ダメージ層回復工程を実施する。第2ダメージ層回復工程は、第1ダメージ層D1が除去されてトレンチT1の表層部に存在する第2ダメージ層D2の結晶性を回復するために、半導体基板10aを非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上の高温で熱処理するものである。尚、第2ダメージ層回復工程は、第1ダメージ層除去工程と異なり、ダメージ層の除去を伴わないため、トレンチT1の寸法変化を無視することができる。
【0085】
以上の図3(a)と図3(b)の2工程によって、トレンチT1内をエピタキシャル膜3で埋め込む前にトレンチT1周りの結晶性を十分に回復させた後、トレンチT1内をエピタキシャル膜3で埋め込んで、pnコラムを有した半導体基板10を製造する。
【0086】
上記した図2と図3に示す半導体基板10の製造方法によれば、トレンチT1の表層部だけでなく、トレンチT1内に埋め込まれたエピタキシャル膜3についても、欠陥を排除して結晶性を高めることが可能である。従って、上記製造方法による図1(a)のpnコラムを有した半導体基板10は、リーク電流の発生を抑制してpnコラムを完全に空乏化することのできる、図1(b)の高耐圧の半導体装置100の製造に供することができる。
【0087】
次に、図3(a)の第1ダメージ層除去工程における図4に示したエッチング量Eと図3(b)の第2ダメージ層回復工程における熱処理温度の詳細について、図1(b)の半導体装置100を製造してpnコラムのリーク不良率を評価した結果を説明する。
【0088】
図5(a)は、図3(a)の第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量Eとリーク不良率の関係の一例を示した図であり、図5(b)は、図3(b)の第2ダメージ層回復工程における熱処理(アニール)温度とリーク不良率の関係の一例を示した図である。尚、図5(a)の各サンプルについては、CDEによるエッチングを行い、第2ダメージ層回復工程における熱処理を、1170℃、3分のHアニールとしている。また、図5(b)の各サンプルについては、第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量EをCDEによる100nmのエッチングとし、水素(H)雰囲気中で熱処理(アニール)している。尚、図5(b)において、各温度での熱処理時間は、いずれも3分である。
【0089】
また、図6は、第1ダメージ層除去工程における各エッチング量Eと第2ダメージ層回復工程における熱処理の各温度について、製造されたpnコラムのリーク不良率の評価結果をまとめてプロットした図である。
【0090】
第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量Eとリーク不良率の関係については、図5(a)と図6に示すように、エッチング量Eが30nmまではリーク不良率が10%以上あって改善が見られず、図4に示した第1ダメージ層D1が除去しきれていない。エッチング量Eが50nmになると、リーク不良率が急激に低下して2%程度となる。また、エッチング量Eが100nmになると、0%のリーク不良率が得られるようになる。
【0091】
以上の結果から、図4に示した第1ダメージ層D1の厚さは、50nmから100nmであると考えられる。従って、図3(a)の第1ダメージ層除去工程における図4に示したエッチング量Eは、縦の一点鎖線で示した境界より右側で、50nm以上であることが好ましい。特に、第1ダメージ層D1を確実に除去し、前述した電流リークによる不良率を0%とするためには、前記第1ダエッチング量Eは、縦の二点鎖線で示した境界より右側で、100nm以上とする必要がある。尚、図3(a)の第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量Eは、欠陥除去のためには大きいほど好ましいが、あまり大きすぎると、エッチング時間が長くなるため、pnコラム用のトレンチ繰り返しパターンにおいて隣のトレンチとくっつかない範囲で、必要最小限のエッチング量Eが好ましい。
【0092】
第2ダメージ層回復工程における熱処理の温度とリーク不良率の関係については、図5(b)と図6に示すように、熱処理の温度が1000℃まではリーク不良率が20%で、CDEによる100nmのエッチングを行って第1ダメージ層D1を除去しても、改善が見られない。熱処理の温度が1050℃になると、リーク不良率が急激に低下して0−7%程度となり、熱処理の温度が1080℃になると、0%のリーク不良率が安定的に得られるようになる。
【0093】
以上の結果から、図4に示した第2ダメージ層D2は、1050℃から1080℃の温度での熱処理によって結晶性が回復されると考えられる。特に、図6において、第1ダエッチング量Eが縦の二点鎖線で示した境界より右側の100nm以上で、第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量をE[nm]とし、第2ダメージ層回復工程における熱処理(アニール)温度をA[℃]としたとき、斜め二点鎖線で示した境界よりA=−0.3×E+1100より上側では、確実に0%のリーク不良率が得られるようになる。
【0094】
また、非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下における1050℃以上での高温熱処理によって、トレンチT1の開口部付近を丸めることができ、図3(c)に示したトレンチ埋め込み工程において、トレンチT1内をエピタキシャル膜3で埋め込み易くなる。一方、熱処理温度が1200℃より高いと、トレンチ形状の変形が大きくなり、例えばトレンチが逆テーパ(深くなるほど、径が大きくなる)になってしまう。従って、図3(b)の第2ダメージ層回復工程における熱処理の温度は、特に、1080℃以上、1200℃以下が好適である。これによって、電流リークによる不良率を安定的に0%とすることができる。
【0095】
以上のようにして、上記半導体基板の製造方法は、半導体基板に形成されるトレンチ内をエピタキシャル膜で埋める半導体基板の製造方法であって、トレンチ内を結晶性の高いエピタキシャル膜で埋めることができる半導体基板の製造方法となっている。
【0096】
従って、上記半導体基板の製造方法は、特に、前記半導体基板が、第1導電型のシリコン基板であり、前記トレンチ形成工程において、前記トレンチを、基板面において所定のピッチで繰り返し配置されてなる繰り返しパターンで形成し、前記トレンチ埋め込み工程において、第2導電型のシリコンからなるエピタキシャル膜を形成する、pnコラムの形成に適した半導体基板の製造方法となっている。
【0097】
pnコラムを形成する場合、例えば、前記繰り返しパターンのピッチ方向におけるトレンチの幅が、0.5μm以上、15μm以下であり、前記トレンチの深さが、20μm以上、100μm以下であってよい。
【符号の説明】
【0098】
10,10a 半導体基板
2 エピタキシャル層
3 エピタキシャル層
T1 トレンチ
M2 酸化膜
D1 第1ダメージ層
D2 第2ダメージ層
2n n導電型領域
3p p導電型領域
100 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライエッチングにより半導体基板にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、
前記トレンチ形成工程の後、ケミカルエッチングにより前記トレンチの表層部を50nm以上エッチングして、熱処理では結晶性を回復できない第1ダメージ層を除去する第1ダメージ層除去工程と、
前記第1ダメージ層除去工程の後、前記半導体基板を非酸化性かつ非窒化性の雰囲気下において1050℃以上で熱処理を行い、前記第1ダメージ層の下層に存在する第2ダメージ層の結晶性を回復する第2ダメージ層回復工程とを有してなることを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1ダメージ層除去工程におけるエッチング量をE[nm]とし、前記第2ダメージ層回復工程における熱処理温度をA[℃]としたとき、
E≧100, A≧−0.3×E+1100
であることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングが、ラジカルを主体としたエッチングであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカルを主体としたエッチングが、120℃以下で行うケミカルドライエッチング(CDE)であることを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記CDEのエッチャントが、ハロゲン元素のラジカルであることを特徴とする請求項4に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン元素が、四フッ化炭素(CF)と酸素(O)の混合ガスを放電で分解してできるフッ素(F)のラジカルであることを特徴とする請求項5に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記CDEの処理温度が、60℃以上、100℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記CDEの雰囲気圧力が、0.01Torr以上、10Torr以下であることを特徴とする請求項6または7
に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記CDEの雰囲気圧力が、0.1Torr以上、1Torr以下であることを特徴とする請求項8に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングが、等方性のウエットエッチングであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記ウエットエッチングのエッチャントが、フッ硝酸(フッ酸と硝酸の混合液)あるいは前記フッ硝酸と酢酸の混合液であることを特徴とする請求項10に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1ダメージ層除去工程におけるケミカルエッチングが、ハロゲン系ガスを用いたベーパ処理によるエッチングであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記ハロゲン系ガスが、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、または塩素ガスであることを特徴とする請求項12に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理の温度が、1080℃以上、1200℃以下であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理の時間が、3分以上であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理の雰囲気が、水素(H)雰囲気であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記トレンチ形成工程におけるマスクが、酸化膜または窒化膜であり、
前記第2ダメージ層回復工程の前に、ウエットエッチングにより、前記マスクを除去しておくことを特徴とする請求項1乃至16のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項18】
前記トレンチ形成工程で形成される前記トレンチが、順テーパ形状を有してなることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項19】
前記第2ダメージ層回復工程の後、前記トレンチ内にエピタキシャル膜を形成して、トレンチをエピタキシャル膜で埋め込むトレンチ埋め込み工程を有してなることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項20】
前記第2ダメージ層回復工程と前記トレンチ埋め込み工程を、同一炉内で連続実施することを特徴とする請求項19に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項21】
前記半導体基板が、第1導電型のシリコン基板であり、
前記トレンチ形成工程において、前記トレンチを、基板面において所定のピッチで繰り返し配置されてなる繰り返しパターンで形成し、
前記トレンチ埋め込み工程において、第2導電型のシリコンからなるエピタキシャル膜を形成することを特徴とする請求項19または20に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項22】
前記繰り返しパターンのピッチ方向におけるトレンチの幅が、0.5μm以上、15μm以下であり、
前記トレンチの深さが、20μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項21に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−38388(P2013−38388A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116822(P2012−116822)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】