説明

半導体基板洗浄液組成物

【課題】
本発明の課題は、半導体回路素子の製造工程において、銅配線を腐食することなく基板表面の金属不純物を除去することが可能な、半導体基板の洗浄液組成物を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、半導体基板を洗浄する洗浄液であって、脂肪族ポリカルボン酸類を1種または2種以上と、塩基性アミノ酸類を1種または2種以上を含む洗浄液組成物とすることにより、銅配線を有する半導体基板の洗浄工程、とくに化学的機械研磨(CMP)後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程において、銅配線を腐食することなく金属不純物を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の洗浄に用いられる洗浄液組成物に関する。さらに詳しくは、半導体製造工程における、銅配線を有する半導体基板の洗浄工程、とくに化学的機械研磨後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程において、基板表面に付着した金属不純物などを除去するための洗浄液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ICの高集積化に伴い、微量の不純物が、デバイスの性能および歩留まりに大きく影響を及ぼすため、厳しいコンタミネーションコントロールが要求されている。すなわち、基板の汚染を厳しくコントロールすることが要求されており、そのため半導体製造の各工程で各種洗浄液が使用されている。
【0003】
一般に、半導体用基板洗浄液として、粒子汚染除去のためにはアルカリ性洗浄液であるアンモニア−過酸化水素水−水(SC−1)が用いられ、金属汚染除去のためには酸性洗浄液である硫酸−過酸化水素水、塩酸−過酸化水素水−水(SC−2)、希フッ酸などが用いられ、目的に応じて各洗浄液が単独または組み合わせて使用されている。
【0004】
一方、デバイスの微細化および多層配線構造化が進むに伴い、各工程において基板表面のより緻密な平坦化が求められ、半導体製造工程に新たな技術として研磨粒子と化学薬品の混合物スラリーを供給しながらウェハをバフと呼ばれる研磨布に圧着し、回転させることにより化学的作用と物理的作用を併用させ、絶縁膜や金属材料を研磨、平坦化を行う化学的機械研磨(以下、「CMP」ともいう)技術が導入されてきた。また同時に、平坦化する基板表面やスラリーを構成する物質も変遷してきた。CMP後の基板表面は、スラリーに含まれるアルミナやシリカ、酸化セリウム粒子に代表される粒子や、研磨される表面の構成物質やスラリーに含まれる薬品由来の金属不純物により汚染される。
これらの汚染物は、パターン欠陥や密着性不良、電気特性の不良などを引き起こすことから、次工程に入る前に完全に除去する必要がある。これらの汚染物を除去するための一般的なCMP後洗浄としては、洗浄液の化学作用とポリビニルアルコール製のスポンジブラシなどによる物理的作用を併用したブラシ洗浄が行われる。洗浄液としては、従来、粒子の除去にはアンモニアのようなアルカリが用いられていた。また、金属汚染の除去には、有機酸と錯化剤を用いた技術が特許文献1や特許文献2に提案されている。さらに、金属汚染と粒子汚染を同時に除去する技術として、有機酸と界面活性剤を組み合わせた洗浄液が特許文献3に提案されている。
【0005】
CMPが層間絶縁膜や接続孔の平坦化に限定されているころは、基板表面に耐薬品性の劣る材料が露出することもなかったために、フッ化アンモニウムの水溶液や前述の有機酸の水溶液による洗浄で対応できた。しかし、さらなる半導体素子の高速応答化に必要な銅配線の形成技術としてダマシン配線技術が導入されると同時に、層間絶縁膜には、低誘電率の芳香族アリールポリマーのような有機膜、MSQ(Methyl Silsesquioxane)やHSQ(Hydrogen Silsesquioxane)などのシロキサン膜、多孔質シリカ膜などが用いられようとしている。これらの材料は化学的強度が十分ではないため、洗浄液として上述のアルカリ性のものやフッ化物は制限される。
【0006】
一方、上述の有機酸を用いたものは、低誘電率の絶縁膜に対して腐食性が小さく最も好ましいものと考えられ、これまでCMPの後洗浄液としては、シュウ酸やクエン酸のような有機酸を用いた酸系洗浄液が主流であった。しかしながら、銅の配線材料としての導入が本格化し、絶縁膜上に微細な溝を形成して、TaやTaNのようなバリアメタル膜を形成し、さらに銅膜をめっきなどにより形成して、溝を埋めた後、CMPにより絶縁膜上に形成された不要の銅を研磨、除去するダマシン配線技術において、銅配線幅の微細化、薄膜化に伴い、上述の有機酸を用いても、僅かながら銅表面の腐食(膜減りおよび表面荒れ)が起こることや、露出したCu配線に洗浄液が接触して、Ta、TaNのようなバリアメタルとCuの界面に沿って楔状のCuの微小な腐食等を起こしデバイスの信頼性を低下させる、いわゆるサイドスリットが起こることが問題となっている。
【0007】
このような問題を解決する方法として、洗浄液に腐食防止剤を添加し、銅表面の腐食を抑制する方法が挙げられる。腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールやその誘導体が広く一般的に知られている。これらは構造中のN原子が銅原子に配位し、不溶性の強固な疎水性被膜を表面に形成することにより腐食を防止すると考えられている。しかしこの被膜は強固であることから、洗浄後に除去する工程が必要となり好ましくない。また除去が不十分で銅表面上に残留すると、電気特性の低下を招く恐れがある。さらにこれらは生分解性が低く、変異原性の報告もあり、環境や人体に対する安全性に問題がある。
【0008】
また、本発明者らは、銅表面の腐食やサイドスリットを起こすことなく、基板表面の金属不純物等を除去することができる洗浄液として、脂肪族ポリカルボン酸類と、グリオキシル酸、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、ラクトースおよびマンノースなどの還元性物質とを含む洗浄液を提案した(特許文献4)。グリオキシル酸、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、ラクトースおよびマンノースは還元性であることから、自らが酸化されることにより、銅の酸化および腐食を防止すると考えられる。しかしながらその後の研究により、脂肪族ポリカルボン酸類と上記還元性物質の組み合わせであっても、配線形成におけるプロセス条件や洗浄の条件により、銅の腐食防止の効果が必ずしも十分でない場合があることが明らかとなった。
【0009】
さらに、例えば特許文献5には、分子内にチオール基を有するアミノ酸またはその誘導体を銅の腐食防止剤として含む洗浄剤が提案されている。しかしシステイン等のチオール基を有するアミノ酸は、銅の腐食防止効果は高いが、分子内のチオール基が銅と反応して析出して銅配線上に残留するため、洗浄剤としては好ましくない。
【0010】
また、例えば特許文献6には、非共有電子対を持つ窒素原子を分子内に有する特定の化合物を含む、銅配線を腐食しない半導体表面用洗浄剤が提案され、該化合物の一例として、非環状アミノ酸類である酸性アミノ酸、中性アミノ酸および塩基性アミノ酸などが記載されている。しかし、とくに塩基性アミノ酸を用いることの利点は示されておらず、また非環状アミノ酸自体の効果を示す実施例も何ら具体的に開示されていない。
【0011】
さらに、例えば特許文献7には、アミノカルボン酸を銅の防食剤として含む、銅の耐腐食性が高いレジスト除去用洗浄液が提案され、該アミノカルボン酸の一例として、酸性アミノ酸、中性アミノ酸および塩基性アミノ酸などが記載されている。しかし、実施例においてはpH6.0における中性アミノ酸であるグリシンの効果が開示されているものの、塩基性アミノ酸を用いることの利点は示されておらず、また強酸性側での銅の防食効果に関しては不明である。
【0012】
また、例えば特許文献8には、アミノ酸化合物をタングステンおよびアルミニウムの防食用キレート剤として含む、半導体基板洗浄用組成物が提案され、該アミノ酸化合物の一例として、酸性アミノ酸、中性アミノ酸および塩基性アミノ酸などが記載されている。しかし、実施例においては、酸性アミノ酸であるグルタミン酸の効果が開示されているものの、塩基性アミノ酸を用いることの利点は示されておらず、また銅に対する防食効果は不十分である。
【0013】
以上のように、従来の有機酸を用いた半導体基板の洗浄液では、銅配線表面の微細な腐食(膜減りおよび表面荒れ)や、銅と異種金属が接触した界面の微細な腐食(サイドスリット)などを十分に防止することができないのが現状である。また、防食剤としてアミノ酸などを含む洗浄剤が提案されているものの、それらは殆どが中性アミノ酸または酸性アミノ酸であり、しかも銅配線を腐食することなく基板表面の金属不純物を除去することを目的とした洗浄液において、有機酸とアミノ酸が共存した場合における銅の防食効果については十分に知られていなかったし、また検討もされてこなかった。
【特許文献1】特開平10−72594号公報
【特許文献2】特開平11−131093号公報
【特許文献3】特開2001−7071号公報
【特許文献4】特開2003−332290号公報
【特許文献5】特開2003−13266号公報
【特許文献6】国際公開2001−071789号公報
【特許文献7】特開2004−94203号公報
【特許文献8】特開2006−49881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、表面に銅配線を有する半導体基板の洗浄、とくにCMP後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄において、銅配線を腐食せず、かつ基板表面に付着した金属不純物の除去性に優れた洗浄液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、シュウ酸などの脂肪族ポリカルボン酸類とアルギニンなどの塩基性アミノ酸類との特定の組み合わせからなる洗浄液組成物が、銅配線の腐食を効果的に抑制し、かつ基板表面の金属不純物の除去能力にも優れることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、半導体基板を洗浄する洗浄液組成物であって、脂肪族ポリカルボン酸類を1種または2種以上と、塩基性アミノ酸類を1種または2種以上とを含む、前記洗浄液組成物に関する。
また本発明は、pHが、4.0未満である、前記洗浄液組成物に関する。
さらに本発明は、前記脂肪族ポリカルボン酸類が、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸である、前記洗浄液組成物に関する。
また本発明は、前記塩基性アミノ酸類が、アルギニン、ヒスチジンまたはリシンである、前記洗浄液組成物に関する。
さらに本発明は、脂肪族ポリカルボン酸類の濃度が、0.01〜30重量%である、前記洗浄液組成物に関する。
また本発明は、塩基性アミノ酸類の濃度が、0.001〜10重量%である、前記洗浄液組成物に関する。
さらに本発明は、さらにアニオン型またはノニオン型界面活性剤を1種または2種以上含む、前記洗浄液組成物に関する。
また本発明は、化学的機械研磨後の銅配線を有する半導体基板に用いる、前記洗浄液組成物に関する。
さらに本発明は、前記洗浄液組成物を用いる、化学的機械研磨後の銅配線を有する半導体基板の洗浄方法に関する。
【0017】
本発明の洗浄液組成物が、塩基性アミノ酸類を含むことにより、中性アミノ酸または酸性アミノ酸を腐食防止剤として含む洗浄液に比べて、銅配線に対する腐食防止効果が高い理由は必ずしも明らかではないが、塩基性アミノ酸類は、中性アミノ酸および酸性アミノ酸と比べて側鎖により多くのアミノ基等の含窒素構造を有することから、中性アミノ酸および酸性アミノ酸に比べて銅に対してより強固に配位し、防食効果を高めるためと考えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の洗浄液組成物により、半導体製造工程における銅配線を有する半導体基板の洗浄工程、とくにCMP後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程において、銅配線にダメージを与えることなく、基板表面に付着した金属不純物を効果的に除去することが可能となった。また、本発明の洗浄液組成物は、銅表面に残留して基板を汚染することもない。したがって、デバイスの微細化が進んでも、本発明の洗浄液組成物を用いて基板を洗浄することにより、電気特性の性能に影響を与えることなく、優れた基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の洗浄液組成物とは、脂肪族ポリカルボン酸類を1種または2種以上と、塩基性アミノ酸類を1種または2種以上とを含む、半導体およびその他の電子デバイスの製造において、銅配線を有する基板の表面に付着した金属不純物や微粒子を除去するために用いられる洗浄液組成物であり、とくにCMP後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程に用いられる洗浄液組成物である。また、本発明の洗浄液組成物は、上記CMP後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程のみならず、ダマシン配線形成において発生したドライエッチング残渣を除去する工程にも応用できる。
【0020】
また、本発明の洗浄液組成物を用いて洗浄をする基板とは、半導体およびその他の電子デバイスの製造において用いられる、表面に銅配線を有する基板であり、とくにCMP後の銅配線が露出した半導体基板や、ダマシン配線形成において絶縁膜をドライエッチングした際に銅配線が露出した半導体基板などである。
【0021】
本発明の洗浄液組成物に用いる脂肪族ポリカルボン酸類としては、具体的には、シュウ酸およびマロン酸等のジカルボン酸類や、酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸等のオキシカルボン酸類等が挙げられ、より好ましくは、シュウ酸およびマロン酸である。なかでもシュウ酸は、金属不純物の除去能力が高く、本発明に用いる脂肪族ポリカルボン酸類としてとくに好ましい。また、これらの脂肪族ポリカルボン酸類は、用途に応じて1種または2種以上含んでもよい。
洗浄液中の脂肪族ポリカルボン酸類の濃度は、溶解度、金属不純物の除去効果および結晶析出等を考慮して適宜決定するが、好ましくは0.01〜30重量%であり、より好ましくは0.02〜20重量%であり、とくに好ましくは0.03〜10重量%である。
【0022】
また、本発明に使用する塩基性アミノ酸類としては、具体的には、アルギニン、ヒスチジンおよびリシン等が挙げられ、より好ましくは、アルギニンおよびヒスチジンである。また、これらの塩基性アミノ酸類は、用途に応じて1種または2種以上含んでもよい。
洗浄液中の塩基性アミノ酸類の濃度は、溶解度、銅配線に対する腐食抑制効果、およびサイドスリットの抑制効果等を考慮して適宜決定するが、好ましくは0.001〜10重量%であり、より好ましくは0.005〜5重量%であり、とくに好ましくは0.01〜1重量%である。
【0023】
本発明の洗浄液組成物のpHは、銅配線を腐食することなく、ウェハ表面に付着した金属不純物に対して除去能力が優れていることなどの観点から、好ましくは4.0未満であり、とくに好ましくは1.0〜3.0である。
【0024】
また、本発明の洗浄液組成物は、前記の効果を妨げない範囲で、微粒子の除去能力を付与し、Low−k膜のような疎水性の膜に対して親和性を持たせるための界面活性剤を含有させることができる。このような目的で用いられる界面活性剤としては、アニオン型やノニオン型の界面活性剤が好ましい。アニオン型界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸型およびその塩、アルキルリン酸エステル型、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸およびその塩、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドの縮合物およびその塩等が挙げられる。またノニオン型界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル型およびポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル型等が挙げられる。
本発明の洗浄液組成物において十分な粒子除去効果を得るための界面活性剤の濃度は、好ましくは0.0001〜10重量%であり、とくに好ましくは0.001〜0.1重量%である。またこれらの界面活性剤は、用途に応じて1種または2種以上含有しても良い。
【0025】
さらに、本発明の洗浄液組成物は、前記の効果を妨げない範囲で、銅配線の腐食防止、あるいは銅のサイドスリットの発生を防止するためのさらなる成分を含有させることができる。このような目的で用いられる成分としては、グリオキシル酸、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、ラクトースおよびマンノース等の還元性物質が好ましい。これらは銅表面のエッチングを抑制するだけでなく、サイドスリットの抑制にも効果がある。このメカニズムは明確ではないが、これらの化合物は還元性物質であるため、自らが酸化されることにより、銅の酸化および腐食を防止するためと考えられる。ただし、還元性物質としては他にもヒドラジンやヒドロキシルアミンの様なアミン類などもあるが、これらはサイドスリットを増長する傾向があり、還元性物質の全てが本発明の洗浄液組成物に使用できるわけではない。
本発明の洗浄液組成物において十分な腐食防止効果を得るための還元性物質の濃度は、好ましくは0.0005〜10重量%であり、とくに好ましくは0.03〜5重量%である。またこれらの還元性物質は、用途に応じて1種または2種以上含有しても良い。
【0026】
また、本発明の洗浄液組成物は、通常溶媒として水を用いるが、前記の効果を妨げない範囲で、ベアシリコンやLow−k膜のような疎水性の膜に対して親和性を持たせるための有機溶剤を含有させることができる。このような目的で用いられる有機溶剤としては、水酸基および/またはエーテル基を有する有機溶剤が好ましい。
本発明の洗浄液組成物においてベアシリコンやLow−k膜のような疎水性の膜に対して親和性を持たせるための有機溶剤の濃度は、好ましくは0.01〜50重量%であり、とくに好ましくは0.1〜30重量%である。またこれらの有機溶剤は、用途に応じて1種または2種以上含有しても良い。
【0027】
本発明の洗浄液組成物を用いた、化学的機械研磨後の銅配線を有する半導体基板の洗浄方法としては、基板を洗浄液に直接浸漬するバッチ式洗浄、基板をスピン回転させながらノズルより洗浄液を基板表面に供給する枚葉式洗浄などが挙げられる。また、ポリビニルアルコール製のスポンジブラシなどによるブラシスクラブ洗浄や高周波を用いるメガソニック洗浄などの物理的洗浄を、上記の洗浄方法と併用する方法などが挙げられる。
【0028】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0029】
(銅の溶解速度測定)
溶媒として水を用いて、表1に示す脂肪族ポリカルボン酸およびアミノ酸を含有する洗浄液を調製した。銅めっき膜(膜厚16000Å)を成膜した、表面積既知のシリコンウェハを酸洗浄し、清浄な銅表面を露出させ、各洗浄液に25℃で300分間無撹拌浸漬処理後、ウェハを取り出して、洗浄液中の銅濃度をICP質量分析装置(ICP−MS)で分析し、測定した銅濃度から溶解速度を算出した。銅めっき膜の膜厚の単位時間当たりの減少率を、銅の溶解速度として単位「Å/分」で表す。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、比較例1〜2のシュウ酸のみを含有する洗浄液、ならびに比較例3〜12のシュウ酸および中性アミノ酸または酸性アミノ酸を含有する洗浄液では、溶解速度はいずれも1Å/分以上を示すが、実施例1〜3のシュウ酸および塩基性アミノ酸を含有する洗浄液では、溶解速度は1Å/分以下を示し、塩基性アミノ酸が銅の腐食防止に極めて有効であることがわかる。実際の半導体製造工程におけるCMP後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程においては、銅配線のÅオーダーの腐食も大きな問題となり得るため、本発明の洗浄液組成物が銅配線の腐食防止に極めて有効であることがわかる。
【0032】
(銅の表面粗さ測定および表面状態評価)
溶媒として水を用いて、表2に示す脂肪族ポリカルボン酸およびアミノ酸を含有する洗浄液を調製した。銅スパッタ膜(膜厚2000Å)を成膜したシリコンウェハを酸洗浄し、清浄な銅表面を露出させ、各洗浄液に25℃で30分間無撹拌浸漬処理後、ウェハを取り出して超純水にて流水リンス処理し、窒素ブロー乾燥を行い、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて銅の表面粗さ(平均面粗さRa)測定と、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて表面汚染性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示すように、比較例1〜2および比較例15の脂肪族ポリカルボン酸のみを含有する洗浄液、ならびに比較例7、8、13および14のシュウ酸および中性アミノ酸または酸性アミノ酸を含有する洗浄液での銅の表面粗さは、洗浄液浸漬処理をしない銅の表面粗さに比べてRa値が増加しており、表面荒れが生じていることがわかる。また、比較例14の洗浄液では、Ra値の増加に加え、表面にシステイン由来の付着物が認められた。これに対して実施例1〜4の脂肪族ポリカルボン酸および塩基性アミノ酸を含有する洗浄液では、Ra値の変化が極めて小さいことから、塩基性アミノ酸が銅の腐食防止に極めて有効であることがわかる。
【0035】
(金属不純物除去能力の評価)
溶媒として水を用いて、表3に示す脂肪族ポリカルボン酸およびアミノ酸を含有する洗浄液を調製した。シリコンウェハをアンモニア水(29重量%)−過酸化水素水(30重量%)−水混合液(体積比1:1:6)で洗浄後、回転塗布法にて、鉄、ニッケル、銅および亜鉛を1013atoms/cmの表面濃度になるように汚染した。汚染したウェハを各洗浄液に25℃で3分間無撹拌浸漬後、ウェハを取り出して超純水にて3分間流水リンス処理し、乾燥して、全反射蛍光X線分析装置でウェハ表面の金属濃度を測定し、金属不純物除去能力を評価した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示すように、比較例16の塩基性アミノ酸のみを含有する洗浄液では、各金属が1011atoms/cmオーダー以上で残留するのに対し、実施例2および5のシュウ酸および塩基性アミノ酸を含有する洗浄液では、比較例2のシュウ酸のみを含有する洗浄液と同等の金属不純物除去能力を有することがわかる。
上記表1〜3の結果より、本発明の洗浄液組成物は、銅配線の腐食を効果的に防止し、ウェハ表面に付着した金属不純物に対して優れた除去能力を持つことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、脂肪族ポリカルボン酸類を1種または2種以上と、塩基性アミノ酸類を1種または2種以上とを含む洗浄液組成物を用いて、銅配線を有する半導体基板を洗浄することにより、銅配線を腐食することなく金属不純物を除去することが可能となり、電気特性の性能に影響を与えることなく優れた基板を得ることができるため、微細化が進む半導体の製造技術分野における銅配線を有する基板の洗浄工程、とくに化学的機械研磨(CMP)後の銅配線が露出した半導体基板の洗浄工程において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板を洗浄する洗浄液組成物であって、脂肪族ポリカルボン酸類を1種または2種以上と、塩基性アミノ酸類を1種または2種以上とを含む、前記洗浄液組成物。
【請求項2】
pHが、4.0未満である、請求項1に記載の洗浄液組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリカルボン酸類が、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸である、請求項1または2に記載の洗浄液組成物。
【請求項4】
塩基性アミノ酸類が、アルギニン、ヒスチジンまたはリシンである、請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄液組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリカルボン酸類の濃度が、0.01〜30重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄液組成物。
【請求項6】
塩基性アミノ酸類の濃度が、0.001〜10重量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄液組成物。
【請求項7】
さらにアニオン型またはノニオン型界面活性剤を1種または2種以上含む、請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄液組成物。
【請求項8】
化学的機械研磨後の銅配線を有する半導体基板に用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の洗浄液組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の洗浄液組成物を用いる、化学的機械研磨後の銅配線を有する半導体基板の洗浄方法。

【公開番号】特開2009−278018(P2009−278018A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130153(P2008−130153)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】