説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置

【課題】無機充填剤を高充填してもワイヤースイープ性を考慮して溶融粘度を低下させることができるエポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および無機充填剤を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、ポリプロピレングリコールの特定の位置に側鎖として下式


で表される基または水酸基を有するポリリシノレートを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、IC、LSI等の半導体チップの封止材としてセラミックや熱硬化性樹脂組成物が一般に用いられている。中でも、エポキシ樹脂組成物は経済性と性能のバランスの点で優れた封止材である。エポキシ樹脂組成物は、例えば、近年の電子機器の小型化、薄型化にともない主流になりつつある表面実装型パッケージの封止材として広く用いられている(特許文献1、2参照)。そして近年では、表面実装型パッケージの中でも、より実装密度の高いエリア実装タイプのBGAが多くなりつつある。
【0003】
近年、表面実装型パッケージ向けエポキシ樹脂組成物は環境対応の観点から従来の臭素/アンチモン系に変わる手法がとられてきているが、難燃剤フリー系、金属水酸化物による代替難燃剤系のいずれも無機充填剤を高充填していく傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−249424号公報
【特許文献2】特開2007−231159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのうち片面封止タイプのBGAパッケージ等においては、近年におけるワイヤー(金線)の細線化や配線ピッチの縮小化によりワイヤースイープ(成形工程時の金線変形)が起こり易くなっている。
【0006】
このワイヤースイープを低減させるためには、封止材に用いる樹脂の高流動化が不可欠である。そして高流動化の実現には、無機充填剤の配合量を少なく抑えること、および低粘度樹脂を用いることが必要である。ところが、上述したような環境対応の観点からの制約もあり無機充填剤の配合量を低減することが困難な状況にある。
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、無機充填剤を高充填してもワイヤースイープ性を考慮して溶融粘度を低下させることができる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および無機充填剤を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、次式(I)

【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは次式(II):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、mは0〜10の整数を示す。)で表される基または水酸基を示す。nは0〜10の整数を示す。)で表されるポリリシノレートを含有することを特徴とする。
【0013】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ポリリシノレートを硬化剤のフェノールノボラック樹脂と予め溶融混合して調製したものであることが好ましい。
【0014】
本発明の半導体装置は、前記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体チップが封止されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機充填剤を高充填してもワイヤースイープ性を考慮して溶融粘度を低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明において、エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
エポキシ樹脂の配合量は、封止樹脂の流動性や成形品の物性等を考慮すると、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して好ましくは7〜35質量%である。
【0019】
本発明において、硬化剤としては、フェノール性水酸基を有する硬化剤が好ましく用いられる。フェノール性水酸基を有する硬化剤としては、例えば、多価フェノール化合物の樹脂、多価ナフトール化合物の樹脂等が挙げられる。多価フェノール化合物の樹脂として
は、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等が挙げられる。多価ナフトール化合物の樹脂としては、例えば、ナフトールアラルキル樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
フェノール性水酸基を有する硬化剤の配合量は、好ましくは、フェノール性水酸基とエポキシ基との当量比(OH基当量/エポキシ基当量)が0.5〜1.5となる量であり、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量である。当量比が小さ過ぎると半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化特性が低下する場合があり、当量比が大き過ぎると耐湿信頼性が不十分になる等の不具合が生じる場合がある。
【0021】
本発明において、硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2−ジエチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の有機ホスフィン類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン等の第三級アミン類等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に対して0.1〜5質量%が好ましい。硬化促進剤の配合量が少な過ぎると、硬化促進作用が不十分となる場合があり、硬化促進剤の配合量が多過ぎると、硬化特性が低下する場合がある。
【0023】
本発明において、無機充填剤は、特に限定されないが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
無機充填剤の配合量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して70〜90質量%である。無機充填剤の配合量が少な過ぎると、難燃化等の環境対応が不十分になる場合や、あるいは、線膨張が大きくなるため収縮率が大きくなり、パッケージの反りが大きくなってしまう場合がある。無機充填剤の配合量が多過ぎると、十分な流動性が確保されず、ワイヤースイープが大きくなってしまう場合がある。
【0025】
無機充填剤としては、例えば、従来より半導体封止用エポキシ樹脂組成物に用いられているものを用いることができる。その粒径も特に限定されるものではないが、例えば、無機充填剤の溶融シリカとして平均粒子径5〜40μmのものや、これに平均粒子径5μm未満のシリカを組み合わせたもの等を用いることができる。
【0026】
本発明において、ポリリシノレートとしては上述の式(I)で表されるものが用いられ
る。ポリリシノレートの分子量は、好ましくは3000〜10000、より好ましくは3000〜5000である。分子量が小さ過ぎたり、大き過ぎたりすると低粘度化が十分にできなくなる場合がある。
【0027】
ポリリシノレートの配合量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して好ましくは0.05〜2.0質量%である。ポリリシノレートの配合量が少な過ぎると、低粘度化が十分にできなくなる場合がある。ポリリシノレートの配合量が多過ぎると、密着性を阻害する場合がある。
【0028】
本発明では、ポリリシノレートを硬化剤のフェノールノボラック樹脂と予め溶融混合しておき、この溶融混合物を微細粉末に粉砕したものを用いることが好ましい。これにより
、分散効果が向上し、低粘度化にさらに有効である。
【0029】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、難燃剤、離型剤、シランカップリング剤、着色剤、シリコーン可とう剤等が挙げられる。
【0030】
難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物や、従来の臭素/アンチモン系難燃剤等を用いることができる。
【0031】
離型剤としては、例えば、カルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン等を用いることができる。
【0032】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。
【0033】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック等を用いることができる。
【0034】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を調製する際には、例えば、上述のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤、ポリリシノレート、および必要に応じて他の成分を配合し、ミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一になるまで混合する。その後、熱ロールやニーダー等の混練機により加熱状態で溶融混合し、これを室温に冷却した後、公知の手段により粉砕することにより半導体封止用エポキシ樹脂組成物を調製することができる。なお、半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、取り扱いを容易にするために、成形条件に合うような寸法と質量を有するタブレットとしてもよい。
【0035】
本発明の半導体装置は、上述のようにして得られた半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いてICチップ、LSIチップ等の半導体チップを封止することにより製造することができる。この封止には、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形等の従来より用いられている成形方法を適用することができる。
【0036】
トランスファー成形を適用する場合、例えば、金型温度170〜180℃、成形時間30〜120秒に設定することができるが、金型温度、成形時間およびその他の成形条件は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の配合組成等に応じて適宜に変更すればよい。
【0037】
本発明の半導体装置のパッケージ形態としては、例えば、半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体チップを封止したBGA、CSP等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
表1に示す配合成分として、以下のものを用いた。
(エポキシ樹脂)
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC(株)製「N663EXP」
(硬化剤)
フェノールノボラック樹脂、明和化成(株)製「H−1M」
(硬化促進剤)
トリフェニルホスフィン、北興化学工業(株)製「TPP」
(無機充填剤)
溶融シリカ、マイクロン社製「S430」、平均粒子径16μm
(シランカップリング剤)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製「KBM403」(ポリリシノレート)
ポリリシノレート(1)、下記式の化合物、太陽化学(株)製
ポリリシノレート(2)、下記式の化合物、太陽化学(株)製
ポリリシノレート(3)、下記式の化合物、太陽化学(株)製
【0040】
【化3】

【0041】
(離型剤)
カルナバワックス、大日化学工業(株)製「F1−100」
(着色剤)
カーボンブラック、三菱化学(株)製「MA600」
表1に示す各配合成分を、表1に示す割合(質量部)で配合し、ブレンダーで30分間混合し均一化した後、80℃に加熱したニーダーで混練溶融させて押し出し、冷却後、粉砕機で所定粒度に粉砕して粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。なお、ポリリシノレートは硬化剤のフェノールノボラック樹脂と予め溶融混合しておき、この溶融混合物を微細粉末に粉砕したものを用いた。
【0042】
このようにして得た実施例1〜3および比較例1の半導体封止用エポキシ樹脂組成物について次の測定を行った。
[スパイラルフロー]
ASTMD3123に準じたスパイラルフロー測定金型を用いて成形し(金型表面温度170℃、硬化時間80s、ポット内圧力70kgf/cm2)、流動距離(cm)を測
定した。
[ゲルタイム]
キュラストメータ((株)JSR製)を用い、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の17
0℃でのゲルタイム(トルクが0.1kgfになるまでの時間s(秒))を測定した。
[スリット粘度]
矩形粘度測定機(パナソニック電工(株)製)を用いてスリット粘度を測定した。幅W、厚さDの長尺スリットの上流側と下流側にそれぞれ圧力センサS1、S2を設け(センサ間距離L)、金型温度を175℃として注入圧:10MPa、注入速度Q:1.3mm/s、ポット保持時間:10sの条件にて圧力センサS1上流から0.8mmtのスリット
内へ半導体封止用エポキシ樹脂組成物を注入してスリット内を通過させ、圧力センサS1
、S2により圧力損失ΔPを測定し、下記式からスリット粘度ηを求めた。
ΔP=(12η/WD3)QL
その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、実施例1〜3の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および無機充填剤を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物として、上述の式(I)で表されるポリリシノレートを含有するものを用いた。その結果、無
機充填剤を高充填しても、ポリリシノレートを配合しなかった比較例1に比べて、ワイヤースイープを十分に抑制できる程度に溶融粘度を低下させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および無機充填剤を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、次式(I):
【化1】

(式中、Rは次式(II):
【化2】

(式中、mは0〜10の整数を示す。)で表される基または水酸基を示す。nは0〜10の整数を示す。)で表されるポリリシノレートを含有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリリシノレートを硬化剤のフェノールノボラック樹脂と予め溶融混合して調製したものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体チップが封止されていることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2012−25906(P2012−25906A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168497(P2010−168497)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】