説明

半導体用シール組成物、半導体装置および半導体装置の製造方法

【課題】薄い樹脂層を形成可能で、多孔質の層間絶縁層への金属成分の拡散を抑制することができ、配線材料の密着性に優れる半導体用シール組成物を提供する。
【解決手段】ナトリウムおよびカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10重量ppb以下である半導体用シール組成物に、2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000である樹脂を含有せしめ、動的光散乱法で測定された体積平均粒子径が10nm以下となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用シール組成物、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細化が進む半導体装置の分野において、半導体の層間絶縁層として多孔質構造を有する低誘電率の材料(以下、「low−k材料」ということがある)が種々検討されている。
このような多孔質構造を有する半導体層間絶縁層においては、誘電率をさらに低下させるために空隙率を大きくすると、配線材料として埋め込まれる銅などの金属成分が半導体層間絶縁層中の細孔に入り込みやすくなり、誘電率が上昇したり、リーク電流が発生したりする場合があった。
【0003】
一方、例えば、特許文献1には、多孔質低誘電率材料を用いた半導体装置の製造方法において、エッチング後の湿式洗浄にミセル状の界面活性剤を用いることで、エッチングによって形成された溝の側壁面の細孔をシールする技術が開示されている。
また例えば、特許文献2には、low−k材料が疎水性の表面を有する場合に、ポリビニルアルコール系両親媒性ポリマーをその表面に付与することで材料の親水性・疎水性を制御する技術が開示されている。
さらに例えば、特許文献3には、カチオン性ポリマーと界面活性剤を含む半導体研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−503879号公報
【特許文献2】国際公開第09/012184号パンフレット
【特許文献3】特開2006−352042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ミセル構造をとっていない界面活性剤が溝の側壁面の細孔に入り込んで比誘電率が上昇する場合があった。またミセルによって層間絶縁層と配線材料の密着性が低下する場合があった。
また、特許文献2に記載の技術では、ポリビニルアルコール系両親媒性ポリマー間の水素結合により、嵩高い層が形成されやすく、これによる比誘電率の上昇や、層間絶縁層と配線材料の密着性の低下が発生する場合があった。
【0006】
本発明は、薄い樹脂層を形成可能で、多孔質の層間絶縁層への金属成分の拡散を抑制することができ、配線材料との密着性に優れる半導体用シール組成物、ならびにこれを用いた半導体装置およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の樹脂を含む半導体用シール組成物が上記課題を解決することを見出し、発明を完成するに至った。
すなわち本発明の第1の態様は、2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂を含有し、ナトリウムおよびカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10重量ppb以下であって、動的光散乱法で測定された体積平均粒子径が10nm以下である半導体用シール組成物である。
前記樹脂は、カチオン性官能基当量が43〜430であることが好ましい。
また前記カチオン性官能基が1級アミノ基および2級アミノ基から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0008】
また本発明の第2の態様は、前記半導体用シール組成物を、基板上に形成された層間絶縁層に接触させるシール組成物付与工程を含む、半導体装置の製造方法である。
前記層間絶縁層は、多孔質シリカを含み、その表面に前記多孔質シリカに由来するシラノール残基を有することが好ましい。
前記層間絶縁層に10nm〜32nm幅の凹状の溝が形成される工程をさらに含み、前記シール組成物付与工程は、前記凹状の溝の側面の層間絶縁層に前記半導体用シール組成物を付与する工程であることがより好ましい。
【0009】
また本発明の第3の態様は、多孔質の層間絶縁層と、カチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂を含むとともに厚さが0.3nm〜5nmである樹脂層と、銅からなる層と、がこの順で配置された構造を備える半導体装置である。前記樹脂層と前記銅からなる層との間に、銅バリア層がさらに配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄い樹脂層を形成可能で、多孔質の層間絶縁層への金属成分の拡散を抑制することができ、配線材料との密着性に優れる半導体用シール組成物、ならびにこれを用いた半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<半導体用シール組成物>
本発明の半導体用シール組成物は、例えば、多孔質の層間絶縁層上に形成された細孔を被覆する樹脂層を形成するために用いられ、2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂の少なくとも1種を含有し、ナトリウムおよびカリウムの含有量が、それぞれ元素基準で10重量ppb以下であって、動的光散乱法で測定された体積平均粒子径が10nm以下である。
かかる構成の半導体用シール組成物を、多孔質構造を有する層間絶縁層に付与すると、例えば、前記樹脂が有する2以上のカチオン性官能基が前記層間絶縁層上に多点吸着して、前記層間絶縁層の表面に存在する細孔(ポア)が樹脂層によって被覆される。これにより多孔質の層間絶縁層への金属成分の拡散を抑制することができる。さらに、前記樹脂が形成する樹脂層は薄層(例えば、5nm以下)であるため、層間絶縁層と、樹脂層を介して層間絶縁層上に形成された配線材料との密着性に優れ、比誘電率の変化を抑制することができる。
【0012】
[樹脂]
本発明の半導体用シール組成物は、2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂の少なくとも1種を含む。
前記樹脂は、カチオン性官能基の少なくとも1種を2以上有するものであるが、必要に応じて、アニオン性官能基やノニオン性官能基をさらに有していてもよい。また前記樹脂は、カチオン性官能基を有する繰り返し単位構造を有するものであってもよく、また特定の繰り返し単位構造を持たず、樹脂を構成するモノマーが分岐的に重合して形成されるランダムな構造を有するものであってもよい。本発明においては、金属成分の拡散抑制の観点から、前記樹脂は特定の繰り返し単位構造を持たず、樹脂を構成するモノマーが分岐的に重合して形成されるランダムな構造を有するものであることが好ましい。
【0013】
前記カチオン性官能基は、正電荷を帯びることができる官能基であれば特に制限はない。例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等を挙げることができる。中でも金属成分の拡散抑制の観点から、1級アミノ基および2級アミノ基から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
また前記ノニオン性官能基は、水素結合受容基であっても、水素結合供与基であってもよい。例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、エーテル結合等を挙げることができる。
さらに前記アニオン性官能基は、負電荷を帯びることができる官能基であれば特に制限はない。例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基等を挙げることができる。
【0014】
前記樹脂は、1分子中にカチオン性官能基を2以上有するものであればよいが、金属成分の拡散抑制の観点から、カチオン密度が高いポリマーであることが好ましい。具体的には、カチオン性官能基当量が43〜430であることが好ましく、200〜400であることがより好ましい。
さらに多孔質の層間絶縁層の表面を公知の方法、例えば、国際公開第04/026765号パンフレット、国際公開第06/025501号パンフレットなどに記載の方法で疎水化処理した場合は、前記表面の極性基の密度が減少するので、200〜400であることもまた好ましい。
ここでカチオン性官能基当量とは、カチオン性官能基当たりの重量平均分子量を意味し、樹脂の重量平均分子量(Mw)を、1分子に相当する樹脂が含むカチオン性官能基数(n)で除して得られる値(Mw/n)である。このカチオン性官能基当量が大きいほどカチオン性官能基の密度が低く、一方、カチオン性官能基当量が小さいほどカチオン性官能基の密度が高い。
【0015】
本発明における樹脂が、カチオン性官能基を有する繰り返し単位構造(以下、「特定単位構造」ということがある)を有するものである場合、前記カチオン性官能基は、特定単位構造において、主鎖の少なくとも一部として含まれていても、側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよく、さらに、主鎖の少なくとも一部および側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよい。
さらに前記特定単位構造がカチオン性官能基を2以上含む場合、2以上のカチオン性官能基は同一であっても異なっていてもよい。
また前記カチオン性官能基は、多孔質層間絶縁層上に存在するカチオン性官能基の吸着点(例えば、シラノール残基)間の平均距離に対する、特定単位構造の主鎖長の比(以下、「カチオン性官能基間の相対距離」ということがある)が、0.08〜1.2となるように含まれていることが好ましく、0.08〜0.6となるように含まれていることがより好ましい。かかる態様であることで樹脂が多孔質の層間絶縁層上に、より効率的に多点吸着しやすくなる。
【0016】
本発明において前記特定単位構造は、層間絶縁層への吸着性の観点から、分子量が30〜500であることが好ましく、40〜200であることがより好ましい。尚、特定単位構造の分子量とは、特定単位構造を構成するモノマーの分子量を意味する。
本発明における特定単位構造は、層間絶縁層への吸着性の観点から、カチオン性官能基間の相対距離が0.08〜1.2であって、分子量が30〜500であることが好ましく、カチオン性官能基間の相対距離が0.08〜0.6であって、分子量が40〜200であることがより好ましい。
【0017】
本発明において、カチオン性官能基を含む特定単位構造として、具体的には、エチレンイミンに由来する単位構造、アリルアミンに由来する単位構造、ジアリルジメチルアンモニウム塩に由来する単位構造、ビニルピリジンに由来する単位構造、リジンに由来する単位構造、メチルビニルピリジンに由来する単位構造、p−ビニルピリジンに由来する単位構造等を挙げることができる。中でも、層間絶縁層への吸着性の観点から、エチレンイミンに由来する単位構造およびアリルアミンに由来する単位構造の少なくとも一方であることが好ましい。
【0018】
また前記樹脂は、ノニオン性官能基を含む単位構造およびアニオン性官能基を含む単位構造の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
前記ノニオン性官能基を含む単位構造として、具体的には、ビニルアルコールに由来する単位構造、アルキレンオキシドに由来する単位構造、ビニルピロリドンに由来する単位構造等を挙げることができる。
【0019】
さらにアニオン性官能基を含む単位構造として、具体的には、スチレンスルホン酸に由来する単位構造、ビニル硫酸に由来する単位構造、アクリル酸に由来する単位構造、メタクリル酸に由来する単位構造、マレイン酸に由来する単位構造、フマル酸に由来する単位構造等を挙げることができる。
【0020】
本発明において前記樹脂が特定単位構造を2種以上含む場合、それぞれの特定単位構造は、含有する極性基の種類または数、分子量等のいずれかが異なっていればよい。また前記2種以上の特定単位構造は、ブロックコポリマーとして含まれていても、ランダムコポリマーとして含まれていてもよい。
【0021】
また前記樹脂は前記特定単位構造以外の繰返し単位構造(以下、「第2の単位構造」ということがある)の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。前記樹脂が第2の単位構造を含む場合、特定単位構造と第2の単位構造とは、ブロックコポリマーとして含まれていても、ランダムコポリマーとして含まれていてもよい。
前記第2の単位構造としては、前記特定単位構造を構成するモノマーと重合可能なモノマーに由来する単位構造であれば特に制限はない。例えば、オレフィンに由来する単位構造等を挙げることができる。
【0022】
また本発明における樹脂が、特定の繰り返し単位構造を持たず、樹脂を構成するモノマーが分岐的に重合して形成されるランダムな構造を有するものである場合、前記カチオン性官能基は、主鎖の少なくとも一部として含まれていても、側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよく、さらに、主鎖の少なくとも一部および側鎖の少なくとも一部として含まれていてもよい。
かかる樹脂を構成し得るモノマーとしては、例えば、エチレンイミンおよびその誘導体を挙げることができる。
【0023】
本発明におけるカチオン性官能基を含む樹脂として具体的には、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン(PAA)、ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリメチルピリジルビニル(PMPyV)、プロトン化ポリ(p−ピリジルビニレン)(R-PHPyV)、およびこれらの誘導体を挙げることができる。中でも、ポリエチレンイミン(PEI)またはその誘導体、ポリアリルアミン(PAA)などが好ましく、より好ましくはポリエチレンイミン(PEI)またはその誘導体である。
【0024】
ポリエチレンイミン(PEI)は、一般にはエチレンイミンを通常用いられる方法で重合することにより製造することができる。重合触媒、重合条件なども、エチレンイミンの重合に一般的に用いられるものから適宜選択することができる。具体的には例えば、有効量の酸触媒、例えば塩酸の存在下に0〜200℃で反応させることができる。さらにポリエチレンイミンをベースにしてエチレンイミンを付加重合させてもよい。また本発明におけるポリエチレンイミンは、エチレンイミンの単独重合体であっても、エチレンイミンと共重合可能な化合物、例えばアミン類とエチレンイミンとの共重合体であってもよい。このようなポリエチレンイミンの製造方法については、例えば、特公昭43−8828号公報、特公昭49−33120号公報等を参照することができる。
また本発明におけるポリエチレンイミンは、モノエタノールアミンから得られる粗エチレンイミンを用いて得られたものであってもよい。具体的には例えば特開2001−2123958号公報等を参照することができる。
【0025】
上記のようにして製造されるポリエチレンイミンは、エチレンイミンが開環して直鎖状に結合した部分構造のみらなず、分岐状に結合した部分構造、直鎖状の部分構造同士が架橋連結された部分構造等を有する複雑な骨格を有している。かかる構造のカチオン性官能基を有する樹脂を用いることで、樹脂がより効率的に多点吸着される。さらに樹脂間の相互作用により、より効果的に被覆層が形成される。
【0026】
本発明における樹脂はポリエチレンイミン誘導体であることもまた好ましい。ポリエチレンイミン誘導体としては、上記ポリエチレンイミンを用いて製造可能な化合物であれば特に制限はない。具体的には、ポリエチレンイミンにアルキル基(好ましくは炭素数1〜10)やアリール基を導入したポリエチレンイミン誘導体、ポリエチレンイミンに水酸基等の架橋性基を導入して得られるポリエチレンイミン誘導体等を挙げることができる。
これらのポリエチレンイミン誘導体は、上記ポリエチレンイミンを用いて通常行われる方法により製造することができる。具体的には例えば、特開平6―016809号公報等に記載の方法に準拠して製造することができる。
【0027】
またさらに本発明におけるポリエチレンイミンおよびその誘導体は、市販のものであってもよい。例えば、(株)日本触媒、BASF社等から市販されているポリエチレンイミンおよびその誘導体から、適宜選択して用いることもできる。
【0028】
本発明における前記樹脂の重量平均分子量は、2000〜100000であるが、10000〜80000であることが好ましく、20000〜60000であることがより好ましい。
例えば、本発明の半導体用シール組成物を、配線間隔が32nm以下で層間絶縁層上の細孔直径が2nm程度である半導体装置の製造に適用する場合、前記樹脂の重量平均分子量が100000よりも大きいと、樹脂の大きさが配線間隔よりも大きくなり、樹脂が、配線材料が埋め込まれる凹状の溝に入り込めず、溝の側面の細孔が十分に被覆されない場合がある。また、重量平均分子量が2000未満であると、層間絶縁層上の細孔直径よりも樹脂分子の大きさが小さくなり、樹脂分子が層間絶縁層上の細孔に入り込んで層間絶縁層の誘電率が上昇する場合がある。また多点で吸着しない場合がある。
尚、重量平均分子量は、樹脂の分子量測定に通常用いられるGPC装置を用いて測定される。
【0029】
また前記樹脂は、水溶媒中における臨界ミセル濃度が1重量%以上であるか、実質的にミセル構造を形成しない樹脂であることもまた好ましい。ここで実質的にミセル構造を形成しないとは、常温の水溶媒中等の通常の条件下ではミセルを形成しない、すなわち臨界ミセル濃度が測定できないことをいう。かかる樹脂であることにより、厚さが分子レベルの薄い樹脂層(例えば、5nm以下)を形成することができ、層間絶縁層の誘電率の上昇を効果的に抑制することができる。さらに層間絶縁層と配線材料との密着性がより効果的に向上する。
【0030】
さらに本発明における樹脂は、重量平均分子量が2000〜100000であって、カチオン性官能基当量が43〜430のポリエチレンイミンであることが好ましく、重量平均分子量が10000〜80000であって、カチオン性官能基当量が200〜400のポリエチレンイミンであることがより好ましい。かかる態様であることにより、層間絶縁層への金属成分の拡散がより効果的に抑制され、層間絶縁層と配線材料との密着性がより向上する。
【0031】
本発明の半導体用シール組成物における前記樹脂の含有量には、特に制限はなく、例えば0.01〜1.0重量%とすることができ、0.02〜0.3重量%であることが好ましい。また本発明の半導体用シール組成物を用いて樹脂層を形成する面の面積および細孔密度に基づいて、前記組成物における前記樹脂の含有量を調整することもできる。
【0032】
[その他の成分]
本発明の半導体用シール組成物は、ナトリウムおよびカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10重量ppb以下である。ナトリウムまたはカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10重量ppbを越えると、リーク電流が発生する場合がある。
【0033】
本発明の半導体用シール組成物は、前記樹脂に加えて必要に応じて溶媒を含むことができる。本発明における溶媒としては、前記樹脂が均一に溶解し、ミセルを形成しにくい溶媒であれば特に限定されない。例えば、水(好ましくは、超純水)、水溶性有機溶剤(例えば、アルコール類等)等を挙げることができる。本発明においては、ミセル形成性の観点から、水、または水と水溶性有機溶剤の混合物を溶媒として用いることが好ましい。
【0034】
また前記溶媒の沸点は特に制限されないが、210℃以下であることが好ましく、160℃以下がさらに好ましい。溶媒の沸点が前記範囲であることで、例えば、後述する本願発明の半導体用シール組成物を層間絶縁層に接触させる工程の後、洗浄工程や乾燥工程を設けた場合、層間絶縁層の絶縁性を大きく損なうことなく、また前記シール組成物を前記層間絶縁層から剥離させることがない低い温度で、前記溶媒を除去することができる。
【0035】
さらに本発明の半導体用シール組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてセシウムイオン等の陽イオンをさらに含んでいてもよい。セシウム等の陽イオンを含むことで、半導体用シール組成物中の樹脂がより均一に層間絶縁層上に拡がりやすくなる。
【0036】
さらに本発明の半導体用シール組成物は、層間絶縁層を腐食や溶解させる化合物を添加しないのが好ましい。具体的には例えば、特に層間絶縁層の主材がシリカなどの無機化合物である場合、フッ素化合物等が本発明の組成物中に含まれると、前記層間絶縁層が溶解して絶縁性が損なわれ、比誘電率が増加する場合がある。
【0037】
本発明の半導体用シール組成物は、210℃以下、好ましくは160℃以下の沸点を有する化合物か、250℃まで加熱しても分解性を有さない化合物のみを含むことが好ましい。
なお前記「250℃まで加熱しても分解性を有さない化合物」とは、25℃で測定した重量に対する、250℃、窒素下で1時間保持した後の重量の変化が50%未満の化合物のことをいう。
【0038】
本発明の半導体用シール組成物は、動的光散乱法で測定された体積平均粒子径が10nm以下である。体積平均粒子径が10nmを超える場合、配線材料との密着性が低下する場合や、層間絶縁層への金属成分の拡散を充分に抑制できない場合がある。
本発明において体積平均粒子径は、大塚電子社製ELSZ−2を用い、23−26℃において、動的光散乱法(動的光散乱法で観測された散乱光の時間的揺らぎを、光子相関法を用いて解析する方法、例えば、積算回数70回、繰り返し回数1回などの条件)で測定される。
【0039】
尚、本発明において体積平均粒子径が10nmを超える場合とは、具体的には、前記組成物中でミセル(平均粒子径が10nm以上)が形成されている場合や、前記組成物中に配線となる銅を研磨する際(ケミカルメカニカルポリッシング)に用いられる金属酸化物などの研粒などが含まれている場合等である。
半導体用シール組成物中に粒子径の大きいミセルが形成されていると、例えば、本発明の半導体用シール組成物を配線間隔が32nm以下である半導体装置の製造に適用する場合に、半導体用シール組成物を構成する樹脂が、配線材料が埋め込まれる凹状の溝に充分に入り込むことができず、溝の側面の細孔を充分に被覆できない場合がある。
【0040】
本発明の半導体用シール組成物のpHには特に制限はないが、樹脂の層間絶縁層への吸着性の観点から、pHが層間絶縁層の等電点以上であることが好ましい。また前記樹脂が、極性基としてカチオン性官能基を有する場合、前記半導体用シール組成物のpHは、前記カチオン性官能基がカチオンの状態であるpHの範囲であることが好ましい。前記半導体用シール組成物がかかるpHであることにより、層間絶縁層と樹脂との静電相互作用により、前記樹脂が層間絶縁層上により効率的に吸着する。
【0041】
前記層間絶縁層の等電点は、層間絶縁層を構成する化合物が示す等電点であり、例えば、層間絶縁層を構成する化合物が多孔質シリカの場合、等電点は、pH2付近(25℃)となる。
また、前記カチオン性官能基がカチオンの状態であるpHの範囲とは、半導体用シール組成物のpHが、カチオン性官能基を含む樹脂のpK以下であることをいう。例えば、カチオン性官能基を含む樹脂がポリアリルアミンである場合、pKは8〜9であり、ポリエチレンイミンである場合、pKは7〜11である。
すなわち、本発明において半導体用シール組成物のpHは、層間絶縁層を構成する化合物種類と、樹脂の種類とに応じて適宜選択することができ、例えば、pH2〜11であることが好ましく、pH7〜11であることがより好ましい。
尚、pH(25℃)は通常用いられるpH測定装置を用いて測定される。
【0042】
<半導体装置の製造方法>
本発明の半導体装置の製造方法は、基板上に層間絶縁層を有する半導体装置の製造方法であって、前記半導体用シール組成物を、前記層間絶縁層に接触させるシール組成物付与工程を含み、必要に応じて、その他の工程をさらに含んで構成される。
本発明における層間絶縁層は、低誘電率材料から構成され、多孔質性であれば特に制限はないが、多孔質シリカを含み、表面に多孔質シリカに由来するシラノール残基を有することが好ましい。前記シラノール残基が、前記樹脂に含まれるカチオン性官能基と相互作用することにより、前記樹脂が層間絶縁層上の細孔を被覆するように前記樹脂からなる薄層が形成される。
【0043】
[多孔質シリカ]
本発明における多孔質シリカとしては、半導体装置の層間絶縁層に通常用いられる多孔質シリカを特に制限なく用いることができる。例えば、WO91/11390パンフレットに記載されたシリカゲルと界面活性剤等とを用いて、密封した耐熱性容器内で水熱合成する有機化合物と無機化合物との自己組織化を利用した均一なメソ細孔を持つ酸化物や、Nature誌、1996年、379巻(703頁)またはSupramolecular Science誌、1998年、5巻(247頁等)に記載されたアルコキシシラン類の縮合物と界面活性剤とから製造される多孔質シリカ等を挙げることができる。
中でも、以下に示す特定のシロキサン化合物を含む多孔質シリカ形成用組成物を用いて形成される多孔質シリカを用いることが好ましい。
【0044】
−多孔質シリカ形成用組成物−
本発明における多孔質シリカ形成用組成物は、(A)アルコキシシラン化合物の加水分解物と、(B)下記一般式(1)で表されるシロキサン化合物の加水分解物と、
【0045】
【化1】

【0046】
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フェニル基、−C2a+1基、−(CH(CFCF基、又は−C2d−1基を表す。但し、R及びRが同時に水素原子であることはない。
及びRは、ケイ素原子と酸素原子とを相互に連結して環状シロキサン構造を形成する単結合を表すか、または、それぞれ独立に、水素原子、フェニル基、−C2a+1基、−(CH(CFCF基、もしくは−C2d−1基を表す。
aは1〜6の整数を、bは0〜4の整数を、cは0〜10の整数を、dは2〜4の整数を、nは3以上の整数をそれぞれ表わす。)
【0047】
(C)界面活性剤と、(D)電気陰性度が2.5以下の元素と、を含む。かかる態様の多孔質シリカ形成用組成物を用いることにより、低誘電率と高い機械強度とを併せ持つ多孔質シリカを形成することができる。
また本発明における多孔質シリカ形成用組成物は、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、触媒等をさらに含んで構成することができる。
【0048】
本発明における組成物は、(A)成分として、アルコキシシラン化合物(但し、前記一般式(1)で表されるシロキサン化合物であるアルコキシシラン化合物を除く)の加水分解物を含有する。前記アルコキシシラン化合物は、加水分解して(及び必要に応じ重縮合して)、加水分解物((A)成分)となる。
前記加水分解物は、得られる多孔質材料の主骨格を形成する成分であり、緻密な無機ポリマーであることが好ましい。
前記アルコキシシラン化合物は、アルコキシ基(ケイ素原子に結合したアルコキシ基)の加水分解により生じたシラノール基の部位で重縮合し、無機ポリマーを形成する。このため、緻密な無機ポリマーとして(A)成分を得るためには、使用するアルコキシシラン化合物1分子中に少なくともアルコキシ基が2つ以上含まれることが好ましい。ここで、アルコキシ基は、1つのケイ素原子に2つ以上結合してもよい。また、前記アルコキシシラン化合物は、1つのケイ素に1つのアルコキシ基が結合した結合単位が、同一分子内に2つ以上含まれる化合物であってもよい。
【0049】
そのようなアルコキシシラン化合物としては、下記一般式(i)で表される化合物、下記一般式(ii)で表される化合物、及び下記一般式(iii)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
Si(OR ・・・ (i)
〔式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、それぞれ−C2a+1基、またはフェニル基を示し、aは1〜6の整数である。〕
【0051】
Si(OR4−x ・・・ (ii)
〔式中、Rは、−C2a+1基、フェニル基、−(CH)(CF)CF基、水素原子、またはフッ素原子を示し、xが2以下の場合、2以上のRは互いに同一でも異なってもよく、それぞれ−C2a+1基、またはフェニル基を示し、xは0〜3の整数、aは1〜6の整数、bは0〜10の整数、cは0〜4の整数である。〕
【0052】
(OR3−ySi−A−Si(OR3−z ・・・ (iii)
〔式中、y、zは互いに同一でも異なってもよく、0〜2の整数、R及びRは互いに同一でも異なってもよく、それぞれ、−C2a+1基、フェニル基、−(CH)(CF)CF基、水素原子、又はフッ素原子を示す。R及びRは互いに同一でも異なってもよく、それぞれ−C2a+1基、又はフェニル基を示し、aは1〜6の整数、bは0〜10の整数、cは0〜4の整数を示す。Aは、酸素原子、−(CH−基、又はフェニレン基を示し、dは1〜6の整数である。〕
【0053】
本発明におけるアルコキシシラン化合物としては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の4級アルコキシシラン;トリメトキシフルオロシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリイソプロポキシフルオロシラン、トリブトキシフルオロシラン等の3級アルコキシフルオロシラン;
【0054】
CF(CF)CHCHSi(OCH)、CF(CF)CHCHSi(OCH)、CF(CF)CHCHSi(OCH)、CF(CF)CHCHSi(OCH)、(CF)CF(CF)CHCHSi(OCH)、(CF)CF(CF)CHCHSi(OCH)、(CF)CF(CF)CHCHSi(OCH)、CF(C)CHCHSi(OCH)、CF(CF)(C)CHCHSi(OCH)、CF(CF)(C)CHCHSi(OCH)、CF(CF)(C)CHCHSi(OCH)、CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、(CF)CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、(CF)CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、(CF)CF(CF)CHCHSiCH(OCH)、CF(C)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF)(C)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF(C)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF)(C)CHCHSiCH(OCH)、CF(CF)CHCHSi(OCHCH)、CF(CF)CHCHSi(OCHCH)、CF(CF)CHCHSi(OCHCH)、CF(CF)CHCHSi(OCHCH)等のフッ素含有アルコキシシラン;
【0055】
トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリエトキシプロピルシラン等の3級アルコキシアルキルシラン;
【0056】
トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリメトキシクロロフェニルシラン、トリエトキシクロロフェニルシラン等の3級アルコキシアリールシラン;
トリメトキシフェネチルシラン、トリエトキシフェネチルシラン等の3級アルコキシフェネチルシラン;
【0057】
ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン等の2級アルコキシアルキルシラン;
【0058】
1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ジメチルメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ジメチルエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジメチルメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジメチルエトキシシリル)ヘキサン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン等のビス−アルコキシシラン;等を挙げることができる。
【0059】
本発明では、上記アルコキシシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0060】
本発明における多孔質シリカ形成用組成物は、(B)前記一般式(1)で表されるシロキサン化合物の加水分解物の少なくとも1種を含有する。本発明においては、前記一般式(1)で表されるシロキサン化合物が、環状シロキサン化合物であることが好ましく、下記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物であることがより好ましい。
【0061】
【化2】

【0062】
一般式(2)中、R、R、R10、R11、R12、及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、フェニル基、−C2a+1基、−(CH(CFCF基、又は−C2d−1基を表す。但し、R及びRが同時に水素原子であることはなく、R10及びR11が同時に水素原子であることはなく、R12及びR13が同時に水素原子であることはない。
aは1〜6の整数を、bは0〜4の整数を、cは0〜10の整数を、dは2〜4の整数をそれぞれ表わす。
Lは0〜8の整数を、mは0〜8の整数を、nは0〜8の整数をそれぞれ表わし、かつ3≦L+m+n≦8である。
【0063】
前記環状シロキサン化合物としては、具体的に、トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、トリフェニルトリメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、1,2,3,4,5,6−ヘキサメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラエチル−2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,2,3−トリエチル−2,4,6−トリエチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラエチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルシクロペンタシロキサン等を挙げることができる。
本発明において用いられ得る環状シロキサン化合物は、これらの中から1種又は2種以上を用いることができる。上記環状シロキサンのうち、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0064】
本発明における多孔質シリカ形成用組成物は、(C)界面活性剤の少なくとも1種を含有する。
前記界面活性剤としては特に制限はないが、例えば、分子量200〜5000の界面活性剤が好ましい。分子量が小さい場合には、十分な空孔が形成されないため多孔質シリカの低誘電率化ができない場合があり、また、分子量が大きい場合には、形成される空孔が大きくなりすぎ、得られる多孔質シリカの機械強度が低下する場合がある。
好ましくは、例えば、以下の界面活性剤を挙げることができる。
【0065】
(I)長鎖アルキル基及び親水基を有する化合物。
ここで、長鎖アルキル基としては、好ましくは炭素原子数8〜24のもの、さらに好ましくは炭素原子数12〜18のものである。また、親水基としては、例えば、4級アンモニウム塩、アミノ基、ニトロソ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基等が挙げられ、なかでも4級アンモニウム塩、又はヒドロキシ基であることが好ましい。
前記界面活性剤として具体的には、次の一般式(x)で示されるアルキルアンモニウム塩が好ましい。
【0066】
2n+1(N(CH)(CH))(CH)N(CH)2L+1(1+a) ・・・ 一般式(x)
〔上記一般式(x)中、aは0〜2の整数であり、bは0〜4の整数であり、nは8〜24の整数であり、mは0〜12の整数であり、Lは1〜24の整数であり、Xは水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン、HSO又は1価の有機アニオンを表す。〕
【0067】
a、b、n、m、Lが前記範囲内であり、Xが前記イオンであれば、形成される空孔がより適当な大きさとなり、空孔形成後の気相反応において対象化合物が十分に空孔内へ浸透し、目的とする重合反応が生じ易い。
【0068】
(II)ポリアルキレンオキサイド構造を有する化合物。
ここで、ポリアルキレンオキシド構造としてはポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、ポリテトラメチレンオキシド構造、ポリブチレンオキシド構造等を挙げることができる。
前記ポリアルキレンオキサイド構造を有する化合物としては、具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンブロックコポリマー;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型化合物;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエーテルエステル型化合物;等を挙げることができる。
【0069】
本発明においては、上記界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を用いることできる。
【0070】
((D)電気陰性度が2.5以下の元素)
本発明における組成物は、(D)電気陰性度が2.5以下の元素((D)元素)の少なくとも1種を含有する。
本発明で用いる(D)元素は、例えば、前記(A)成分と前記(B)成分との反応性を高め、最終的に得られる多孔質材料の疎水性、及び、機械強度を高める効果がある。
【0071】
この効果についての詳細な機構は明らかでないが、(D)元素によって前記(B)成分の持つ有機官能基が引き抜かれることで反応活性点となり、結果として、前記(B)成分が効率よく前記(A)成分と結合し、緻密な無機ポリマーが形成されると推定される。
【0072】
このような効果をもたらすためには、(D)元素が、Si、O、Cなどの組成物中の元素に対し、可逆的な結合状態を持つ元素であることが重要であると考えられる。そのような適切な相互作用を持つためには、Si、O、Cとは異なるポーリングの電気陰性度を持つ元素が好ましい。具体的には、Oの電気陰性度3.5より低い電気陰性度を持つ元素が好ましく、Cの電気陰性度2.5より低い電気陰性度を持つ元素がより好ましく、Siの電気陰性度1.8よりも小さい電気陰性度を持つ元素がさらに好ましい。
【0073】
また、このとき、多孔質材料中に含有される金属元素には、どのような応力、特に電気的応力が印加されても多孔質材料中に安定に存在する、といった性質が求められる。また、該金属元素には、その多孔質材料が適用される対象物において、例えば半導体装置において、多孔質材料(多孔質膜)以外の要素に悪影響を与えない、といった性質が求められる。このとき含まれる元素が通常の金属元素の場合、半導体の性能そのものに悪影響を与えてしまうため、好ましくない。
【0074】
しかしながら、半導体に悪影響を与えない元素、例えば金属ではあっても、両性元素であるAl、Zn、Sn、Pb等であれば、既に半導体装置でも使用例があり、この限りではない。
【0075】
また、(D)元素としては、多孔質膜に多少の電気的応力が加わっても移動しにくいイオン半径1.6Å以上の大きな元素が好ましい。
また、(D)元素としては、原子量では130以上、具体的には周期律表における第6周期に分類される重い元素(原子番号55以上の元素)が好ましい。
【0076】
上記した条件を満たし、本発明で使用できる代表的な(D)元素としては、例えば、B、Al、P、Zn、Ga、Ge、As、Se、In、Sn、Sb、Te、Rb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、At、及びランタノイド等を挙げることができる。また好ましくは、Cs、Ba、ランタノイド、Hf、P、Pb、Bi、Po、Se、Te、As、Rb、Al、及びSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。さらに好ましくはCs、Ba、La、Hf、Ta、Wおよびランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。また、これらの元素は、本発明における組成物中に少なくとも1種存在していればよい。
【0077】
上記の(D)元素を導入する方法については、(D)元素そのものを導入する方法であっても、(D)元素を含む化合物を導入する方法であってもよく、その添加方法は特に制限されるものではない。
【0078】
前記(D)元素を含む化合物としては、特に制限はなく、例えば、硝酸塩化合物、酸化物化合物、有機金属化合物、塩基性化合物が挙げられる。その他、本発明における(D)元素を含む公知の化合物であってもよい。
これらの化合物を用いて、(D)元素を導入することができる。この際、これらの化合物と、水やアルコール等の有機溶媒と、の混合物として導入することが好ましい。
【0079】
さらに本発明における多孔質シリカ形成用組成物は、(E)下記一般式(3)で表されるジシリル化合物の加水分解物を含むことが好ましい。これにより多孔質シリカの疎水性と強度が向上し、組成物の保存安定性が向上する。
【0080】
【化3】

【0081】
一般式(3)中、R14〜R19は、それぞれ独立に、水素原子、フェニル基、−C2a+1基、又は−(CH(CFCF基を表す。aは1〜6の整数を、bは0〜4の整数を、cは0〜10の整数をそれぞれ表わす。
Xは、酸素原子、または>NR20基を表し、R20は水素原子または−C2e+1基を表し、eは1〜3の整数を表わす。
【0082】
このような上記一般式(3)で示されるジシリル化合物としては、具体的には、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサン、等を挙げることができる。本発明において用いられ得るジシリル化合物は、これらの中から1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ジシリル化合物のうち、ヘキサメチルジシロキサンが好ましい。
また、一般式(3)で表されるジシリル化合物は、その他のシリル化合物と併用してもよい。その他のシリル化合物としては、塩化トリメチルシリル、塩化トリエチルシリル、トリメチルシリルジメチルアミン、トリメチルシリルジエチルアミン、トリメチルシリルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0083】
本発明における層間絶縁層は、例えば、基板上に前記多孔質シリカ形成用組成物を塗布して組成物層を形成し、形成された組成物層を加熱処理し、加熱処理された組成物層に紫外線を照射することにより形成することができる。
前記基板としては、特に制限されず、例えば、ガラス、石英、シリコンウエハ、ステンレス、プラスチック等を挙げることができる。またその形状も、特に制限されず、板状、皿状等のいずれであってもよい。
【0084】
上記において、基板に組成物を塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、キャスティング法、ディップ法等の一般的な方法を挙げることができる。例えば、スピンコート法の場合、スピナー上に基板を載置して、この基板上に塗布液を滴下し、100〜10000rpmの回転速度で行なう。塗布により、基板上に(A)成分、(B)成分、(C)界面活性剤及び(D)元素を含むシリカゾルである前駆体材料(組成物層)が得られる。
【0085】
得られた組成物層は次の工程で加熱処理される。
該感熱処理における加熱温度は、80〜400℃が好ましい。
ここでいう加熱処理とは、有機溶媒、水などの揮発成分を除去することを目的とした200℃未満での加熱処理(低温加熱処理)と、空孔形成のため添加した界面活性剤を熱分解除去することを目的とした200℃以上での加熱処理(高温加熱処理)のいずれの加熱処理についても含まれる。
塗布直後の前駆体材料は、有機溶媒や水が前駆体材料中に吸着した状態であるので、低温加熱処理により、揮発成分を除去することが好ましい。
前記低温加熱処理の温度は、80〜200℃、好ましくは100〜150℃である。この温度であれば、有機溶媒、水のような揮発成分が除去され、しかも、急激な加熱による組成物層の膨れ、剥がれ等の不都合は生じない。低温加熱処理に要する時間は、1分以上あればよいが、ある時間を超えると硬化速度は極端に遅くなるので、効率を考えれば1〜60分が好ましい。
シリカゾルを加熱させる方法としては特に制限されず、ゾルを加熱させるための公知の方法をいずれも採用できる。
【0086】
次いで、高温加熱処理を実施する。
前記高温加熱処理における加熱温度は、高温ほど界面活性剤の分解が容易となるが、半導体プロセス上の問題を考慮すれば、400℃以下好ましくは、350℃以下の温度であることがより好ましい。少なくとも200℃以上、好ましくは300℃以上の温度がプロセス時間も考慮すると好ましい。また、高温加熱は、窒素、酸素、水素、空気など、加熱雰囲気に特に制限はなく公知の方法によって実施できるが、半導体プロセスで実施する場合では、Cu配線の酸化により配線抵抗が上昇するため、非酸素雰囲気下で実施することが好ましい。ここでいう非酸化性雰囲気とは、焼成(高温加熱処理)時の酸素濃度が50ppm以下であることを示す。
【0087】
以上の観点より、本発明における加熱処理の形態としては、前述の組成物層を、まず80℃〜200℃で加熱処理し、次に300℃〜400℃で加熱処理する形態が特に好ましい。
【0088】
本発明によれば、前記加熱処理された組成物層に対し、紫外線を照射することが、低誘電率、且つ、高機械強度である多孔質材料を形成するために重要であり、好ましい紫外線処理の条件としては以下の条件が挙げられる。
例えば、紫外線の波長は、好ましくは10nm〜400nm、さらに好ましくは150nm〜250nmである。この範囲であれば、上述の(B)成分中の官能基をケイ素原子から切断するだけの十分なエネルギーを持つ。紫外線強度は、官能基の切断時間などに影響を及ぼし、紫外線強度が高いほど、時間が短縮されるので、好ましくは1mW/cm〜50mW/cm、さらに好ましくは5mW/cm〜20mW/cmである。
【0089】
紫外線照射温度は、好ましくは10〜400℃、さらに好ましくは150〜350℃、特に好ましくは200〜350℃である。高温にすれば、紫外線照射による官能基とケイ素原子との切断、及び、官能基が切れた部位とシラノールとの反応において、反応速度が向上するため好ましい。紫外線照射時間については特に制限はないが、経済性を考慮すれば、照射時間20分以内、好ましくは10分以内で実施することが好ましい。また、紫外線照射時の圧力は0.01kPa〜101.3kPaの範囲で好ましく実施できる。また、紫外線照射は非酸化性雰囲気で実施することが好ましい。紫外線照射時に酸素が存在すると、紫外線によりオゾンが発生し、多孔質シリカ中の疎水性基が酸化され疎水性基が減少するため、酸素濃度は10ppm以下に制御することが好ましい。
【0090】
前記層間絶縁層に、本発明の半導体用シール組成物を接触させる方法としては特に制限はなく、通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ディッピング法(例えば、米国特許第5208111号明細書参照)、スプレー法(例えば、Schlenoffら、Langmuir, 16(26), 9968, 2000や、Izquierdoら、Langmuir, 21(16), 7558, 2005参照)、および、スピンコート法(例えば、Leeら、Langmuir, 19(18), 7592, 2003や、J. Polymer Science, part B, polymer physics, 42, 3654, 2004参照)などを用いることができる。
【0091】
本発明の半導体装置の製造方法においては、前記樹脂を含む半導体用シール組成物を用いることで、前記樹脂からなる樹脂層を層間絶縁層上に薄層状に形成することができる。前記樹脂層の厚さには特に制限はないが、例えば、0.3nm〜5nmであり、好ましく0.5nm〜2nmである。
【0092】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記半導体用シール組成物は、カチオン性官能基等量が43〜430である樹脂を含み、前記半導体用シール組成物のpHが、前記層間絶縁層の等電点以上であり、かつ前記カチオン性官能基がカチオンの状態であるpHの範囲であることが好ましく、pHが2〜11であることがより好ましく、pHが7〜11であることがさらに好ましい。かかる半導体用シール組成物を前記層間絶縁層に接触させることで、前記樹脂が層間絶縁層上により効率的に吸着する。
前記層間絶縁層の等電点、および前記カチオン性官能基がカチオンの状態であるpHの範囲については、既述の通りである。
【0093】
さらに本発明のシール組成物付与工程に用いる半導体用シール組成物に含まれる前記樹脂の濃度は、前記樹脂の臨界ミセル濃度未満であることが好ましい。これにより、前記樹脂を薄層状(例えば、5nm以下、好ましくは2nm以下)に層間絶縁層に付与することができ、誘電率の上昇を抑制することができる。
【0094】
本発明の半導体装置の製造方法は、前記層間絶縁層に10nm〜32nm幅の凹状の溝が形成される工程をさらに含み、前記シール組成物付与工程は、少なくとも前記凹状の溝の側面の層間絶縁層に、前記半導体用シール組成物を接触させる工程であることが好ましい。
かかる態様であることで、層間絶縁層に形成された凹状の溝の側面を構成する層間絶縁層上に存在する細孔を効果的に被覆することができ、前記凹状の溝に配線材料を埋め込む場合に、配線材料を構成する金属成分が層間絶縁層中に拡散することを抑制することができる。
尚、凹状の溝の側面とは、基板と平行な面に対してほぼ直交するように形成された面を意味する。
【0095】
前記層間絶縁層に10nm〜32nm幅の凹状の溝を形成する工程は、通常用いられる半導体装置の製造プロセス条件に従って行うことができる。例えば、層間絶縁層上に、ハードマスクとフォトレジストとを形成し、フォトレジストのパターン通りにエッチングすることで、所望のパターンを有する溝を形成することができる。
【0096】
また前記凹状の溝の側面の層間絶縁層に、前記半導体用シール組成物を接触させる方法としては、上記したディッピング法、スプレー法、スピンコート法を用いることができる。
本発明においては、前記半導体用シール組成物を層間絶縁層に接触させた後、必要に応じて洗浄工程や乾燥工程をさらに設けてもよい。
【0097】
本発明の半導体装置の製造方法においては、前記シール組成物付与工程の後、必要に応じて配線形成工程等の通常行われる工程をさらに含んでいてもよい。
配線形成工程は、公知のプロセス条件に従って行うことができる。例えば、メタルCVD法、スパッタリング法または電解メッキ法により銅配線を形成し、CMPにより膜を平滑化する。次いでその膜の表面にキャップ膜を形成する。さらに必要であれば、ハードマスクを形成し、上記の工程を繰り返すことで多層化することができ、本発明の半導体装置を製造することができる。
【0098】
さらに本発明の半導体装置の製造方法においては、前記シール組成物付与工程後であって、配線形成工程前にバリア膜(銅バリア層)形成工程をさらに設けることができる。バリア膜を形成することで層間絶縁層への金属成分の拡散をより効果的に抑制することができる。
前記バリア膜形成工程は、通常用いられるプロセス条件に従って行うことができる。前記シール組成物付工程後に、例えば、気相成長法(CVD)により、窒化チタン等のチタン化合物や窒化タンタル等のタンタル化合物からなるバリア膜を形成することができる。本発明においては、タンタル化合物からなるバリア膜を形成することが好ましい。
【0099】
<半導体装置>
本発明の半導体装置は、多孔質の層間絶縁層と、2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂を含み、厚さが0.3nm〜5nmである樹脂層と、銅からなる層と、がこの順で配置された構造を備え、必要に応じてその他の層を含んで構成される。層間絶縁層と配線材料との間に、特定の樹脂を含む樹脂層が配置されていることで32nm以下の微細な回路構成であってもリーク電流等の発生が抑制され、良好な特性を示すことができる。
本発明においては、前記樹脂層と前記銅を含む配線材料との間に、銅バリア層(好ましくは、タンタル化合物からなる層)がさらに配置されていることが好ましい。
尚、本発明の半導体装置は、前記半導体装置の製造方法によって製造することができる。
【0100】
日本出願2009−130251号の開示はその全体を本明細書に援用する。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
【0102】
−(A)アルコキシシラン化合物−
テトラエトキシシラン(山中セミコンダクター製、電子工業グレード、Si(OC)。
【0103】
−(B)一般式(1)で表されるシロキサン化合物−
1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(トリケミカル社製の環状シロキサン化合物、電子工業グレード、(CHSi(H)O))。
【0104】
−(C)界面活性剤−
ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(シグマケミカル社製、商品名:Brij78、C1837(CHCHO)OH)を、電子工業用エタノールに溶解した後、イオン交換樹脂を用いて10ppb以下まで脱金属処理を施したものである。
【0105】
−(D)元素−
硝酸セシウム水溶液(和光純薬、特級、CsNO)中のセシウム(Cs)。
【0106】
−ジシリル化合物−
ヘキサメチルジシロキサン(アルドリッチ製、((CHSi)O)を蒸留精製したものである。
【0107】
−水−
脱金属処理された抵抗値18MΩ以上の純水。
【0108】
−有機溶媒−
エタノール(和光純薬製、電子工業グレード、COH)
1−プロピルアルコール(関東化学製、電子工業グレード、CHCHCHOH)
2−ブチルアルコール(関東化学製、電子工業グレード、CH(C)CHOH)。
【0109】
−シリル化剤−
1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(トリケミカル社製、電子工業グレード、(CHSi(H)O))。
【0110】
(前駆体溶液の調製)
90.9gのテトラエトキシシランと70.9gのエタノールを室温下で混合攪拌した後、1mol/Lの硝酸80mLを添加し、50℃で1時間撹拌した。次に、20.9gのポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルを280gのエタノールで溶解した溶液を滴下混合した。混合後、30℃で4時間撹拌した。得られた溶液を25℃、30hPaの減圧下、90gになるまで濃縮した。濃縮後、1−プロピルアルコールと2−ブチルアルコールを体積で1:1に混合した溶液を添加し、前駆体溶液1885gを得た。
【0111】
(多孔質シリカ形成用組成物の調製)
前駆体溶液300gに硝酸セシウム水溶液をCs濃度が15ppmとなるまで添加した。次いで、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン1.7gを添加し、25℃で1時間撹拌し、多孔質シリカ形成用組成物を得た。この時の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの添加量は、テトラエトキシシランに対して10モル%であった。
【0112】
(層間絶縁層の形成)
多孔質シリカ形成用組成物1.0mLをシリコンウエハ表面上に滴下し、2000rpmで60秒間回転させて、シリコンウエハ表面に塗布した後、窒素雰囲気下150℃で1分間、次いで、350℃で10分間加熱処理した。その後、172nmエキシマランプを装備したチャンバー内で350℃まで加熱し、圧力1Paで出力14mW/cmにより、紫外線を10分間照射することにより、層間絶縁層(多孔質シリカ膜)を得た。
得られた層間絶縁層の密度は、0.887g/cmであった。
また、得られた層間絶縁層の、比誘電率kは2.0、弾性率Eは6.60GPaであった。
【0113】
尚、密度は、XRD装置(リガク社、TPR−In−Plane)を用い、X線電源50kV、300mA、波長1.5418Åの条件で、0〜1.5°の走査範囲で、常法にて測定した。
また比誘電率は、水銀プローブ装置(SSM5130)を用い、25℃、相対湿度30%の雰囲気下、周波数1MHzにて常法により比誘電率を測定した。
また弾性率は、ナノインデンテーター(Hysitron社、Triboscope)により、膜厚の1/10以下の押し込み深さで常法により弾性率を測定した。
【0114】
<実施例1>
上記で得られた層間絶縁層(以下「low−k」ということがある)に、ポリエチレンイミン水溶液1(PEI、BASF社製、重量平均分子量25,000、250mg/100mL、pH10.52、カチオン性官能基当量309)を、市販のスプレーボトル”AIR−BOY”(Carl Roth GmbH社製)を用いて、スプレー法(溶液の接触時間20秒、スプレー距離10センチメートル)で接触させた。次いで水を、上記と同様のスプレーボトルを用いて、スプレー法(超純水の接触時間10秒、スプレー距離10センチメートル)により接触させた。エアブローにより乾燥させて、層間絶縁層上に樹脂層を形成した。その後、23℃55%の恒温恒湿環境に15時間以上保管した試料(low−k/PEI)について以下の評価を行なった。
尚、「水」、には、超純水(Millipore社製Milli−Q水、抵抗18MΩ・cm(25℃)以下)を使用した。
【0115】
[水接触角の測定]
得られた試料(以下、「low−k/PEI」ということがある)について、FACE固体表面エナジー解析装置(CA−XE型)を用いて、水の接触角を23℃55%RHの環境下で常法により測定したところ、13.2°であった。
【0116】
また、樹脂層を形成する前と樹脂層を形成した後との接触角の差を求め、下記評価基準に従って評価したところ、評価は「A」であった。
〜評価基準〜
A:接触角の差が30°を超えていた。
B:接触角の差が20°以上30以下であった。
C:接触角の差が20°未満であった。
【0117】
[樹脂層の組成および形態]
得られた試料(low−k/PEI)について、XPS装置としてESCALAB220iXL(VG社製)を用い、X線源AlKα、分析領域φ1mmの条件で、形成された樹脂層の元素組成を測定したところ、上記で得られた層間絶縁層(low−k)と比較して増加した組成は、C/N=2.34であった。これにより、ポリエチレンイミンの層が形成されたことが確認できた。
また原子間力顕微鏡により樹脂層表面の形態観察を行ったところ、RMSが0.369nm(層間絶縁層のみで0.403nm)であり、均一な厚みの層が形成されていた。
【0118】
−金属膜の形成−
得られた試料(low−k/PEI)の樹脂層上にスパッタリングにより金属銅膜を形成して試料1(以下、「low−k/PEI/Cu」ということがある)を作製した。
得られた試料1(low−k/PEI/Cu)を目視により観察したところ、樹脂層上に金属銅色の金属膜が形成されていることが確認できた。
尚、スパッタリングは、装置としてHSM-521(島津製作所製)を用い、設定電流0.4A、設定電圧440V、Ar雰囲気下、スパッタ時間2分10秒の条件で行なった。
【0119】
[金属膜の膜厚測定]
上記で得られた試料1(low−k/PEI/Cu)について、表面形状測定装置として、DEKTAK3(Veeco Metrology Group社製、version 3.22b FP/J)を用いて形成された金属膜の膜厚を測定したところ、50nm〜100nmであった。
【0120】
[金属成分の拡散評価]
上記で得られた試料1(low−k/PEI/Cu)について、FIB加工装置としてSMI2050(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、断面試料を作製した。透過型電子顕微鏡としてJEM−2200FS(日本電子社製、加速電圧220kV)を用いて樹脂層上に金属銅膜が形成された試料の断面を観察して、金属成分の拡散深度を測定したところ、金属成分の拡散深度は0nmであった。
【0121】
[得られた樹脂層の膜厚]
上記で得られた試料1(low−k/PEI/Cu)の断面を上記と同様にして観察し、元素マッピングを行った。ポリエチレンイミンに由来する窒素原子の分布状態から、形成された樹脂層の厚さを見積もったところ、5nm以下であった。
【0122】
[密着性評価1]
上記と同様にして、シリコンウエハ上に樹脂層を形成した試料(Si/PEI)を作製した。これを用いた以外は上記と同様にして樹脂層上に金属銅膜を形成し、試料(Si/PEI/Cu)を作製した。得られた試料(Si/PEI/Cu)について金属銅膜の密着性を以下のようにして評価したところ、評価は「A」レベルであった。
【0123】
−密着性の評価方法−
測定試料を窒素・水素雰囲気下、350℃で30分加熱処理した後、23℃55%の恒温恒湿環境に15時間以上保管した。その後、JIS K5600に準じた碁盤目試験(ただしテープとして、ニチバン社製のセロハンテープ(CT405AP-18 幅18mm)を使用した)を行い、下記評価基準に従って密着性を評価した。
【0124】
〜評価基準〜
A:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがなかった。
B:カットの交差点における小さなはがれがあった。クロスカット部分で影響を受けたのは5%以下だった。
C:カットの縁に沿ってまたは交差点においてはがれがあった。クロスカット部分で影響を受けたのは5%を越えて15%以下だった。
D:カットの縁に沿って部分的または大はがれが生じ、格子の目において部分的または全面的なはがれがあった。クロスカット部分で影響を受けたのは15%を越えて35%以下だった。
E:カットの縁に沿って部分的または大はがれが生じ、数箇所の格子の目において部分的または全面的なはがれがあった。クロスカット部分で影響を受けたのは15%を越えて35%以下だった。
F:カットの縁に沿って部分的または大はがれが生じ、多数箇所の格子の目において部分的または全面的なはがれがあった。クロスカット部分で影響を受けたのは35%を越えていた。
【0125】
[密着性評価2]
上記と同様にして、層間絶縁層(low−k)上に樹脂層を形成した試料(low−k/PEI)を作製した。これを用いた以外は上記と同様にして樹脂層上に金属銅膜を形成し、試料(low−k/PEI/Cu)を作製した。得られた試料(low−k/PEI/Cu)について金属銅膜の密着性を以下のようにして評価したところ、評価は「B」であった。
【0126】
−密着性の評価方法−
測定試料を、23℃、55%の恒温恒湿環境に15時間以上保管した。その後、JIS K5600に準じた碁盤目試験(ただしテープとして、ニチバン社製のセロハンテープ(CT405AP-18 幅18mm)を使用した)を行った。露出した面を光学顕微鏡(株式会社ハイロックス製デジタルマイクロスコープKH−7700)、電界放出型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−6701F)、表面形状測定装置(DEKTAK3(Veeco Metrology Group社製、version 3.22b FP/J))により形態を観察した。さらに各露出面はJEOL製エネルギー分散形X線分析装置(EX−37001)を用いて元素分析を実施して同定した。下記評価基準に従って密着性を評価した。
【0127】
〜評価基準〜
A:low−k材料の残存面積が、10%未満(Si露出面積が90%以上)
B:low−k材料の残存面積が、10%以上30%未満(Si露出面積が70%以上90%未満)
C:low−k材料の残存面積が、30%以上90%未満(Si露出面積が10%以上70%未満)
D:low−k材料の残存面積が、90%以上(Si露出面積が10%未満)
【0128】
[ミセル形成性]
実施例1におけるポリエチレンイミン水溶液1について、大塚電子製ELSZ−2を用いて動的光散乱法により体積平均粒子径を測定したところ、検出限界以下(<10nm)であった。
尚、測定条件は、積算回数70回、繰り返し回数1回、解析条件は、ヒストグラム解析、キュムラント解析を用いた。
【0129】
<比較例1>
実施例1において、ポリエチレンイミン水溶液の代わりに、超純水を用いた以外は実施例1と同様にして、試料C1を作製した。
上記で得られた試料C1について、実施例1と同様にして金属成分の拡散評価を行なったところ、金属成分の拡散深度は20nmであり、実用上問題のあるレベルだった。
また、金属膜の密着性を実施例1の密着性評価1と同様にして評価したところ、評価は「A」レベルであり、実施例1の密着性評価2と同様にして評価したところ、層間絶縁層の上に樹脂層が形成されていないため、評価は「A」レベルであり、水の接触角の差の評価結果は「C」であった。
尚、動的光散乱法による体積平均粒子径は、検出限界以下であった。
【0130】
<比較例2>
実施例1において、ポリエチレンイミン水溶液の代わりに、ポリエチレングリコール水溶液(PEG、和光純薬社製、100mg/100mL、重量平均分子量10000)を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂層を形成した試料C2を作製した。
実施例1と同様にして形成された樹脂層の厚さを見積もったところ、5nm以下であった。
さらに上記密着性評価2と同様にして、密着性を評価したところ評価は「D」であり、密着性に劣っていた。水の接触角の差の評価結果は「B」であった。
尚、動的光散乱法による体積平均粒子径は、検出限界以下(<10nm)であった。
【0131】
<比較例3>
国際公開2009/087961号パンフレットの段落番号[0283]合成例A6に準拠して、エチレン重合体の末端にポリエチレングリコール鎖が結合したポリマー(数平均分子量6115、以下「AB3」と称する)を調製し、これを超純水に溶解して、AB3水溶液(100mg/mL、pH7.64)を得た。
上記で得られたAB3水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、層間絶縁層(low−k)上に樹脂層を形成した試料C3を作製した。水の接触角の差の評価結果は「B」であった。
原子間力顕微鏡により樹脂層表面の形態観察を行ったところ、RMSが約50nmであり、薄い均一な層を形成することができなかった。
尚、動的光散乱法による体積平均粒子径は、ヒストグラム解析の結果、99.5nmであった。
【0132】
以上から、本発明の半導体用シール組成物を多孔質の層間絶縁層に接触させて、樹脂層を形成することで、薄い樹脂層を形成可能であり、また多孔質の層間絶縁層への金属成分の拡散を抑制することができ、配線材料の密着性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂を含有し、ナトリウムおよびカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10重量ppb以下であって、動的光散乱法で測定された体積平均粒子径が10nm以下である、半導体用シール組成物。
【請求項2】
前記樹脂は、カチオン性官能基当量が43〜430である、請求項1に記載の半導体用シール組成物。
【請求項3】
前記カチオン性官能基は、1級アミノ基および2級アミノ基から選択された少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載の半導体用シール組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の半導体用シール組成物を、基板上に形成された層間絶縁層に付与するシール組成物付与工程を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記層間絶縁層は、多孔質シリカを含み、その表面に前記多孔質シリカに由来するシラノール残基を有する、請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記層間絶縁層に10nm〜32nm幅の凹状の溝が形成される工程をさらに含み、
前記シール組成物付与工程は、少なくとも前記凹状の溝の側面の層間絶縁層に、前記半導体用シール組成物を接触させる、請求項4または請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
多孔質の層間絶縁層と;
2以上のカチオン性官能基を有する重量平均分子量が2000〜100000の樹脂を含み、厚さが0.3nm〜5nmである樹脂層と;
銅からなる層と;
がこの順で配置された構造を備える、半導体装置。
【請求項8】
前記樹脂層と前記銅からなる層との間に、銅バリア層がさらに配置された、請求項7に記載の半導体装置。

【公開番号】特開2011−103490(P2011−103490A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18670(P2011−18670)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【分割の表示】特願2010−532360(P2010−532360)の分割
【原出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】