説明

半導体結晶の製造方法

【課題】フラックス法において、半導体結晶の結晶性及びその均一性をより向上させると共に、その収率を従来よりも効果的に向上させること。
【解決手段】GaN単結晶層を有する種結晶10のc軸は水平方向(y軸方向)に配向され、種結晶10の1つのa軸は鉛直方向に配向され、1つのm軸はx軸方向に配向される。このため、挟持具T上の点p1,p2,p3は、何れも種結晶のm面と接する。即ち、この挟持具Tは、挟持部材T1,T2を有しており、両方とも鉛直方向に延びているが、挟持部材T1は、育成原料溶液の上面αに対して30°傾斜した端部T1aを有している。この様に、種結晶をm面で支持する理由は、m面がa面よりも結晶成長速度が遅いことと、所望のc面成長を阻害させないためである。なお、種結晶10及び挟持具Tは、それぞれy軸方向に複数周期的に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス法によって III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラックス法によって III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法としては、例えば下記の特許文献1に記載されている方法などが公知である。これらの従来の製造方法では、板状の種結晶を水平に坩堝の底面上に平置きして、結晶成長を実施している。また、坩堝内に用意される種結晶の枚数は、通常、1枚である。
また、下記の特許文献2に記載の結晶成長方法によれば、複数枚の種結晶を鉛直に保持して結晶成長を行い、この時の種基板の方位は(001)面である。ただし、この特許文献2には、複数枚の種結晶の詳細な把持方法については記載されていない。
【特許文献1】特開2005−194146号公報
【特許文献2】特開2005−187317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの従来の製造方法によると、坩堝の内部空間の利用効率が必ずしも十分に高いとは言えず、よって、従来の製造方法に従って十分に高い製造効率を確保することは容易ではない。また、板状の種結晶を坩堝の底面上に平置きすると、結晶成長面上の各部に、育成原料溶液が必ずしもムラなく均一に供給される訳ではないため、目的の半導体結晶の結晶品質を全体的に均一にすることは困難である。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、フラックス法において、半導体結晶の結晶性及びその均一性をより向上させると共に、その収率を従来よりも効果的に向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、結晶成長面がc面で構成された板状の種結晶を1つの坩堝の中に1枚以上配置し、挟持具を用いて各種結晶をそれぞれm面で支持することによって、各種結晶のc軸の方向をそれぞれ水平方向または水平方向から半直角以内の方向に維持することである。
【0006】
ただし、各種結晶のc軸の方向は、それぞれ水平方向から30°以内の方向に維持することがより望ましい。
また、1枚の種結晶の側壁部は、上記の挟持具を用いて2面以上6面以下のm面で支持することができる。
また、上記のc軸の方向は、水平に近い程望ましい。また、坩堝を揺動させる場合には、そのc軸の平均的な角度が、水平方向または水平方向から半直角以内の方向に維持されていればよい。
また、上記の III族窒化物系化合物半導体としては、2元、3元、又は4元の「Al1-x-y Gay Inx N;0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y≦1」成る一般式で表される任意の混晶比の半導体が含まれ、更に、p型またはn型の不純物が添加された半導体もこれらの半導体の範疇に含まれる。
【0007】
また、本発明の第2の手段は、アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)またはインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、案内部材または仕切り部材によって複数の小空間に内部が区分けされた1つの坩堝の中に、板状の種結晶を1枚以上配置し、上記の案内部材または仕切り部材で、各種結晶をそれぞれ倒れない様に支持することによって、各種結晶の結晶成長面の法線の方向をそれぞれ水平方向または水平方向から半直角以内の方向に維持することである。
【0008】
ただし、上記の小空間はそれぞれを個々に壁面などで完全に分離するのではなく、それぞれの小空間の間をフラックス(育成原料溶液)が十分に行き来できる様に、互いに繋げておくことが望ましい。したがって、上記の仕切り部材としては、例えば、棒状、格子状、網状、環状、または渦巻き状のものなどを用いることができる。また、上記の案内部材は、種結晶を坩堝内の各小空間に配置する時に、その板状の種結晶を所定の位置まで案内するものであり、例えば坩堝の内壁面から突き出した凸部などとして形成することができる。或いは、棒状や格子状などの上記の仕切り部材でこの案内部材を兼ねてもよい。
また、上記の法線の方向は、水平に近い程望ましい。また、坩堝を揺動させる場合には、結晶成長面の法線の平均的な方向が、水平方向または水平方向から半直角以内の方向に維持されていればよい。
【0009】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1または第2の手段において、種結晶を同時に2枚以上用いて、少なくとも1組以上の種結晶の対を構成し、その対を成す種結晶の結晶成長が期待されない面同士を互いに対峙接近または密着させて保持することである。
例えば、c面を主面とする種結晶を用いる場合には、N面(窒素面)同士を互いに対峙接近または密着させて保持するとよい。これにより、外側に向くGa面(ガリウム面)の結晶成長が良好に促進されると共に、良好な結晶成長が期待できないN面の結晶成長が効果的に抑制される。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1または第2の手段によれば、板状の各種結晶の結晶成長面が縦または斜め方向に配置されるので、坩堝内における種結晶の収容効率が効果的に向上する。また、この配置方法によれば、坩堝内の育成原料溶液の熱対流や強制対流による流れが各結晶成長面に沿って生じるため、各結晶成長面の各部に育成原料溶液が十分かつ均等に供給される。
このため、本発明によれば、結晶成長速度が向上すると共に、半導体結晶の結晶性及びその均一性を従来よりも効果的に向上させることができる。
したがって、本発明によれば、半導体結晶の品質、収率及び製造効率を従来よりも格段に向上させることができる。
【0011】
また、板状の種結晶の結晶成長面(主面)をc面とする場合、その側壁部はa面またはm面から構成されることになるが、本発明の第1の手段によれば、c面成長条件下においてa面よりも格段に結晶成長速度が遅いm面で当該種結晶の側壁部が支持され、かつ、挟持具によってc面が支持されることはない。このため、当該種結晶の被支持部の結晶成長に起因して、目的の板状の半導体結晶が割れてしまう恐れがなくなると共に、c面のc軸方向の結晶成長が阻害される恐れもなくなる。
【0012】
また、本発明の第2の手段によれば、種結晶に強い支持圧を与えなくても、種結晶を坩堝内に縦または斜め方向に配置して、その方向を維持することができるので、当該種結晶の被支持部の支持圧方向への結晶成長に起因して目的の板状の半導体結晶が割れてしまう恐れがなくなると共に、結晶成長面の結晶成長が阻害される恐れもなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
なお、種結晶のa面及びc面は、坩堝の内壁面などから強い支持圧を受けない様に維持しておくことが望ましく、更に望ましくは、坩堝の内壁面などから常時離して保持しておくと良い。
また、上記の第2の手段を採用する場合には、1つの小空間に配置する種結晶の枚数は、1枚または2枚とすることが望ましく、その枚数が2枚の場合には、結晶成長を期待しない面同士を互いに対峙させてその小空間に収納するとよい。したがって、例えば、板状のサファイア基板の主面からなる結晶成長面上にMOVPE法などで低温バッファ層とGaN単結晶膜を順次成膜し、これを種結晶として、更にその上に上記の方法に従って半導体結晶を成長させる場合には、サファイア基板の各裏面同士を互いに対峙させて、それぞれの小空間に収納するとよい。また、上記の第2の手段において、各種結晶をバルク状の自立GaN基板から構成する場合には、各自立GaN基板の各窒素面同士を互いに対峙させてその小空間に収納するとよい。
【0014】
また、種結晶の少なくとも一部にサファイア基板を用いる場合、結晶成長の条件設定によっては、そのサファイア基板の少なくとも一部が、結晶成長処理中にフラックス中で融解、溶解、腐食または剥離するケースが考えられる。この様な場合に、フラックスの対流がサファイアによく接触する様な配置を取れば、サファイアがフラックス中で融解、溶解、腐食または剥離し易くなるので、これによって、自立したバルク状の単結晶が得られる。
【0015】
なお、サファイア基板の結晶成長面上にバッファ層を形成する方法や、そのバッファ層の上にGaN層などを種結晶として積層する方法としては、通常はMOVPE法などを用いることが多いが、一般にこの成膜方法は任意でよい。また、種結晶や下地基板の製造方法としては、その他にも例えばフラックス法、HVPE法、MBE法などが有効である。また、上記のバッファ層は、低温成長させることが望ましく、また、その膜厚は、10〜200nm程度が望ましい。また、これらのバッファ層は、多層構造または複層構造などに形成してもよい。また、高温状態におけるスパッタリングによってバッファ層を形成してもよい。
【0016】
また、フラックス中における III族元素と窒素との反応温度は、500℃以上1100℃以下がより望ましく、更に望ましくは、850℃〜900℃程度がよい。また、窒素含有ガスの雰囲気圧力は、0.1MPa以上6MPa以下が望ましく、更に望ましくは、4.0MPa〜5.0MPa程度がよい。また、アンモニアガス(NH3 )を使用すると、雰囲気圧力を低減できる場合がある。また、用いる窒素ガスは、プラズマ状態のものでも良い。
【0017】
また、所望の III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加する不純物として、当該混合フラックス中に、ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al2 3 )、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si3 4 )、酸化珪素(SiO2 )、酸化インジウム(In2 3 )、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはゲルマニウム(Ge)などを含有させてもよい。これらの不純物は、1種類だけを含有させても良いし、同時に複数種類を含有させても良いし、また、必ずしも含有させなくてもよい。即ち、これらの選択や組み合わせは任意で良い。これらの不純物の添加によって、目的の半導体結晶のバンドギャップや電気伝導性や格子定数などを所望の特性値に調整することができる。
【0018】
また、フラックス法に基づく目的の結晶成長の開始以前に、下地基板の一部である種結晶( III族窒化物系化合物半導体結晶)が、フラックス中に溶融することを緩和したり防止したりするために、例えばCa3 2 ,Li3 N,NaN3 ,BN,Si3 4 ,InNなどの窒化物を予めフラックス中に含有させておいてもよい。これらの窒化物をフラックス中に含有させておくことによって、フラックス中の窒素濃度が上昇するため、目的の結晶成長開始以前の種結晶のフラックス中への融解を未然に防止したり緩和したりすることが可能となる。
【0019】
また、用いる結晶成長装置としては、フラックス法が実施可能なものであれば任意でよく、例えば、上記の特許文献に記載されているもの等を適用又は応用することができる。ただし、フラックス法に従って結晶成長を実施する際の結晶成長装置の反応室の温度は、1000℃程度にまで任意に昇降温制御できることが望ましい。また、反応室の気圧は、約100気圧(約1.0×107 Pa)程度にまで任意に昇降圧制御できることが望ましい。また、これらの結晶成長装置の電気炉、ステンレス容器(反応容器)、原料ガスタンク、及び配管などは、例えば、ステンレス系(SUS系)材料やアルミナ系材料等の耐熱性及び耐圧性の高い材料によって形成することが望ましい。
また、略同様の理由から、坩堝は、W、Mo、アルミナ、またはPBNなどの金属、窒化物、または酸化物から形成することが望ましい。
【0020】
また、用いる結晶成長装置としては、育成原料溶液及び種結晶を揺動させる手段を有するものを用いてもよい。この様な揺動手段によって、育成原料溶液に対する攪拌作用が得られるので、結晶成長面上に育成原料溶液をより均一に供給できる場合もある。また、その揺動回数は、例えば10回/分程度で十分である。
【0021】
なお、種結晶や下地基板の大きさや厚さは任意で良いが、工業的な実用性を考慮すると、直径20〜100mm程度の円形のものや角形などがより望ましい。また、種結晶や下地基板の結晶成長面の曲率半径は大きいほど望ましい。
【0022】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
以下、フラックス法に基づいた結晶成長に係わる本実施例1の製造工程について説明する。
1.下地基板の作成
図1は、本実施例1で用いる下地基板(テンプレート10)の作成工程における断面図である。この工程では、まず、MOVPE法に従う結晶成長によって、c面を主面とする、直径約50mm、厚さ約450μmのサファイア基板11の上にAlNから成るバッファ層12を20nm積層し、更にその上に単結晶のGaN層13を約10μm積層する。このGaN層13は、所望の半導体結晶のフラックス法による成長が開始されるまでの間に、幾らかはフラックスに溶け出す場合があるので、その際に消失されない厚さに積層しておく。その結果、GaN層13の結晶成長面、即ちバッファ層12に接していない側の面はGa面となった。
なお、この様な消失(種結晶の溶解)を防止または緩和するためのその他の方法としては、例えば後述の結晶成長処理ではその実施前に、混合フラックスの中にCa3 2 ,Li3 N,NaN3 ,BN,Si3 4 またはInNなどの窒化物を予め添加しておいてもよい。
【0024】
2.結晶成長装置の構成
図2、図3に、本実施例1で用いる結晶成長装置20の構成を示す。この結晶成長装置20は、フラックス法に基づく結晶成長処理を実行するためのものであり、高温、高圧の窒素ガス(N2 )を供給するための給気管21と、窒素ガスを排気するための排気管22とを有する圧力容器25の中には、ヒーターHと、断熱材23と、ステンレス容器24が具備されている。圧力容器25、給気管21、排気管22等は、耐熱性、耐圧性、反応性などを考慮し、ステンレス系(SUS系)またはアルミナ系の材料から形成されている。
【0025】
そして、ステンレス容器24の中には、坩堝26(反応容器)がセットされている。この坩堝26は、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、窒化ボロン(BN)、熱分解窒化ボロン(PBN)、またはアルミナ(Al2 3 )などから形成することができる。
また、圧力容器25内の温度は、1000℃以下の範囲内で任意に昇降温制御することができる。また、ステンレス容器24の中の結晶雰囲気圧力は、1.0×107 Pa以下の範囲内で任意に昇降圧制御することができる。
【0026】
図3に坩堝26の断面図を示す。水平面αは、充填すべきフラックスの上面位置を示しており、中央に示した点線の円は、図1のテンプレート10の配置位置を示している。即ち、種結晶は、全体がフラックスの中に没入され、所望の結晶成長方向に一致するGaN層13のc軸は、水平方向、即ち図示するy軸方向に配向される。また、本図3のテンプレート10については、種結晶(GaN層13)の1つのa軸は鉛直方向(z軸方向)に配向され、1つのm軸はc軸に垂直な水平方向(x軸方向)に配向される。このため、挟持具Tと種結晶との接触点p1,p3は、何れも種結晶のm面上の点となる。ただし、ここで言うm軸とは、m面の法線方向の軸のことである。また、m面とは(10−10)面、及びこれと等価な面のことである。また、a面((11−20)面など)やc面((0001)面など)についても、以下、同様の用語(a軸、c軸)を用いるものとする。
【0027】
上記の挟持具Tは、挟持部材T1,T2を有しており、両方とも鉛直方向に延びているが、挟持部材T1は、鉛直線との成す角θが60°になる様に途中で屈曲されることによって、水平面αに対して30°傾斜した端部T1aを有している。このため、この端部T1aと種結晶との接触点p2は、種結晶のm面上の点となる。この様に、種結晶をm面で支持する理由は、m面がa面よりも結晶成長速度が遅いために、種結晶をm面で挟持しても目的の半導体結晶に作用する応力が小さくなるためである。このため、この様な挟持方法によれば、目的の半導体結晶には、自身に生じる応力に基づいてクラックが生じることはない。
なお、坩堝26は、x軸方向よりもy軸方向(結晶成長方向)に長く形成されており、テンプレート10及び挟持具Tは、それぞれy軸方向に複数周期的に配列されている。その配列周期は、3mm乃至1cm程度でよい。
【0028】
3.結晶成長工程
以下、上記の結晶成長装置を用いた本実施例1の結晶成長工程について説明する。
(1)まず、反応容器(坩堝26)の中に、90gのナトリウム(Na)と105gのガリウム(Ga)を入れ、その反応容器(坩堝26)を結晶成長装置の反応室(ステンレス容器24)の中に配置してから、該反応室の中のガスを排気する。
ただし、これらの作業を空気中で行うとNaがすぐに酸化してしまうため、基板や原材料を反応容器にセットする作業は、Arガスなどの不活性ガスで満たされたグローブボックス内で実施する。また、この坩堝中には必要に応じて、例えばアルカリ土類金属等の前述の任意の添加物を予め投入しておいても良い。
【0029】
(2)次に、この坩堝の温度を約880℃に調整しつつ、この温度調整工程と並行して、結晶成長装置の反応室には、新たに窒素ガス(N2 )を送り込み、これによって、この反応室の窒素ガス(N2 )のガス圧を約4.5MPaに維持する。この時、上記のテンプレート10を構成するサファイア基板11は、上記の昇温の結果生成される融液(混合フラックス)中に浸し、図3に図示する様に、c軸方向を水平にし、a軸方向を鉛直に保った状態で、挟持具Tで種結晶(テンプレート10のGaN単結晶13)のm面を水平方向に挟持して、これらの各種結晶を坩堝26内でそれぞれ保持する。
【0030】
この時、結晶成長面(GaN単結晶13)は、混合フラックスに常時浸されていることが望ましく、また、その融液は、例えばヒータHの加熱作用に基づく熱対流などの対流によって、雰囲気中の窒素成分(N2 またはN)が常時十分に取り込まれていることが望ましい。混合フラックスの対流により、所望の半導体結晶の成長速度を向上させることができる。また、この対流により、サファイア基板のフラックス中への溶解速度をも向上させることができる場合がある。
【0031】
(3)その後、混合フラックスの対流を継続的に発生させ、これによって混合フラックスを攪拌混合しつつ、上記(2)の結晶成長条件を約200時間維持して、結晶成長を継続させた。
【0032】
以上の様な条件設定により、種結晶の結晶成長面付近は、継続的に III族窒化物系化合物半導体の材料原子(GaとN)の過飽和状態となるので、所望の半導体結晶(GaN単結晶)をテンプレート10(図1)の結晶成長面から順調に成長させることができる。
【0033】
4.フラックスの除去
次に、結晶成長装置の反応室を30℃以下にまで降温してから、成長したGaN単結晶(所望の半導体結晶)を取り出し、その周辺も30℃以下に維持して、そのGaN単結晶の周りに付着したフラックス(Na)をエタノールを用いて除去する。
以上の各工程を順次実行することによって、高品質の半導体単結晶(成長したGaN単結晶)を1つの坩堝で複数枚同時に従来よりも格段に低コストで製造することができる。この半導体単結晶は、図1の最初のサファイア基板11と略同等の面積で、c軸方向の厚さがは約2mmであり、割れ、クラックは発生しなかった。
【実施例2】
【0034】
図4−A,−Bに本実施例2で用いる坩堝260の断面図を示す。図4−Aの坩堝260の断面βにおける断面図が図4−Bに示されており、他方、図4−Bの坩堝260の断面γにおける断面図が図4−Aに示されている。
この坩堝260は、アルミナから形成されており、図4−Aの中央に点線で示した円は、先の実施例1のテンプレート10の配置位置を示している。この坩堝260の特徴は、板状の案内部材26aが坩堝260の内壁面26dから内部に向って垂直に突き出している点と、坩堝260の底面26bが傾斜面で構成されている点にある。平行に対峙する2面の内壁面26dは、何れも鉛直面で構成されており、案内部材26aの法線は水平で、結晶成長方向(=c軸方向=y軸方向)に対して平行になっている。また、底面26bの法線が鉛直線に対してなす角φは30°に設定されている。
なお、この坩堝260は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、窒化ボロン(BN)、熱分解窒化ボロン(PBN)などから形成することもできる。
【0035】
この坩堝260は、その重心を通るy軸を含む鉛直面に対して面対称形に形成されており、その容器本体は、裏面に水平面を有する足部26cの上に立脚している。また、上記の板状の案内部材26aは、結晶成長方向(=c軸方向=y軸方向)に周期的に設けられている。その配設周期Dは、3mm〜1cm程度でよく、坩堝260のy軸方向の全長は任意でよい。上記の案内部材26aによって、この坩堝260の内部空間は、多数の小空間ρに区分けされており、その小空間ρは、y軸方向に周期Dで配列されている。このため、各小空間ρには、図示する様にテンプレート10を縦置きにすることができる。この時、周期Dの長さに応じて、1つの小空間ρには、1枚乃至2枚のテンプレート10を配置する。ただし、2枚を1つの小空間ρに縦置きする場合には、c面成長を促進するためにサファイア基板11を互いに対峙させて配置することが望ましい。
【0036】
なお、本実施例2においても、先の実施例1の図3の場合と同様に、c軸は水平方向(y軸方向)に配向し、1つのa軸は鉛直方向(z軸方向)に配向する。これにより、種結晶が有する計6方面のm面の内の4面は、底面26b、底面26b、内壁面26d、及び内壁面26dにそれぞれ平行に配置され、かつ、底面26b、底面26bは、それぞれ各m面と接触する。このため、各種結晶のm面が各底面26bと少なくとも2点で接する位置関係となり、かつ、a面は何れの内壁面にも接しない。したがって、目的の半導体結晶に作用する応力が小さくなる。その理由も、先の実施例1と同様に、m面がa面よりも結晶成長速度が遅いためであり、この様な坩堝260を用いれば、目的の半導体結晶には、自身に生じる応力に基づいてクラックが生じることはない。
【0037】
また、各小空間ρは、y軸方向に互いに繋がっているので、この坩堝260を用いれば、何れの方向においてもフラックスの状態が均一となり、その結果、この坩堝260を用いれば、複数同時に得られる各半導体結晶の間においても、結晶品質を極めて高くかつ均一にすることができる。
【実施例3】
【0038】
本実施例3においては、自立したバルク状のGaN単結晶からなる図5の円板状の2枚一組の結晶成長基板30を複数組用いて、結晶成長処理を実施する。そして、本実施例3における特徴は、各組の2枚の結晶成長基板30を互いにN面(窒素面)で重ね合わせて、それらをそれぞれ1つの挟持具Tで保持する点にある。
【0039】
図5に、本実施例3における挟持具T(図3)の用法を例示する。本図5の挟持部材T1は、図3の挟持具Tを構成するものであり、もう一方の挟持部材T2については図示していないが、これらの挟持部材は、実施例1と同様にして使用する。この結晶成長基板30についても、実施例1と同様の配向が採用されている。即ち、1つのa軸は、鉛直方向(z軸方向)に配向されており、y軸と方向が一致するc軸と、x軸と方向が一致する1つのm軸は、それぞれ水平方向に配向されている。
また、この様な挟持具Tは、実施例1の場合と同様に、結晶成長方向(=c軸方向=y軸方向)に複数配列される。
【0040】
したがって、実施例1の場合と全く同様の理由によって、これらの種結晶(結晶成長基板30)は、結晶成長した際に、その生産物として得られる目的の半導体結晶が、前述の応力で割れる恐れはない。
また、両結晶成長基板30の各N面を対峙させて重ね合わせているので、その結果、個々のGa面がそれぞれ外側を向く。このため、良好に成長するGa面に十分にフラックスが供給されて、Ga面の結晶成長が良好に促進されると共に、良好な結晶成長が期待できないN面の側では、十分にフラックスが供給されないので、その結晶成長が効果的に抑制される。
この結果、本実施例3の種結晶の保持方法に従えば、良好なc面成長を実施することができる。
【0041】
また、実施例2の坩堝260(図4−A,−B)を用いる場合においても、本実施例3と全く同様の配向方法にしたがって、坩堝260の各小空間ρに2枚ずつの結晶成長基板30をそれぞれ挿入配置すれば、この場合においても上記と同様に、良好に成長するGa面に十分にフラックスが供給されて、そのGa面の結晶成長が良好に促進されると共に、良好な結晶成長が期待できないN面の側では、その結晶成長が効果的に抑制される。
【0042】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
【0043】
(変形例1)
例えば、上記の実施例2では、坩堝260の底を120°開いたV字形にしたが、本発明の第2の手段に基づいて、坩堝をカセット収納型に形成する場合においても、坩堝の底の形状は、例えば図3の坩堝26の様な平面形状にしてもよい。ただし、この場合には、種結晶のa面よりもm面を坩堝の底面と接触させることが望ましい。
【0044】
(変形例2)
また、上記の各実施例においては、坩堝を揺動させなかったが、必ずしも十分な熱対流が得られない結晶成長装置をもちいる場合には、例えば坩堝や反応室(ステンレス容器24)を周期的に揺動させる様なフラックス攪拌手段を用いてもよい。これによって、その様な場合においても、結晶成長面の各部に対するフラックス供給の均一性を十分に確保できる場合がある。
【0045】
(変形例3)
また、所望の半導体結晶を構成する III族窒化物系化合物半導体の組成式においては、 III族元素(Al,Ga,In)の内の少なくとも一部をボロン(B)またはタリウム(Tl)等で置換したり、或いは、窒素(N)の少なくとも一部をリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などで置換したりすることもできる。
【0046】
(変形例4)
また、p形の不純物(アクセプター)としては、例えばアルカリ土類金属(例:マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)等)などを添加することができる。また、n形の不純物(ドナー)としては、例えば、シリコン(Si)や、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、或いはゲルマニウム(Ge)等のn形不純物を添加することができる。また、これらの不純物(アクセプター又はドナー)は、同時に2元素以上を添加しても良いし、同時に両形(p形とn形)を添加しても良い。即ち、これらの不純物は、例えばフラックス中に予め溶融させておくこと等により、所望の半導体結晶中に添加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶を用いた半導体デバイスの製造になど有用である。また、これらの半導体デバイスとしては、例えばLEDやLDなどの発光素子や受光素子等以外にも、例えばFETなどのその他一般の半導体デバイスを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1のテンプレート10の作成工程における断面図
【図2】実施例1で用いる結晶成長装置20の断面図
【図3】実施例1で用いる坩堝26の断面図
【図4−A】実施例2で用いる坩堝260の断面図
【図4−B】実施例2で用いる坩堝260の断面図
【図5】挟持具Tのその他の用法を例示する斜視図
【符号の説明】
【0049】
100 : 結晶成長装置
26 : 坩堝(実施例1)
T : 挟持具
260 : 坩堝(実施例2)
26a : 案内部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、
結晶成長面がc面で構成された板状の種結晶を1つの坩堝の中に1枚以上配置し、
挟持具を用いて各前記種結晶をそれぞれm面で支持することによって、各前記種結晶のc軸の方向をそれぞれ水平方向または水平方向から半直角以内の方向に維持する
ことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる半導体結晶の製造方法において、
案内部材または仕切り部材によって複数の小空間に内部が区分けされた1つの坩堝の中に、板状の種結晶を1枚以上配置し、
前記案内部材または前記仕切り部材で、各前記種結晶をそれぞれ倒れない様に支持することによって、各前記種結晶の結晶成長面の法線の方向をそれぞれ水平方向または水平方向から半直角以内の方向に維持する
ことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶を同時に2枚以上用いて、少なくとも1組以上の前記種結晶の対を構成し、その対を成す前記種結晶の結晶成長が期待されない面同士を互いに対峙接近または密着させて保持することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−214126(P2008−214126A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53321(P2007−53321)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】